説明

研磨方法及び研磨装置

【課題】ワークの大型大寸法化に伴いますます難しくなって来ている研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨を持続可能とする研磨方法及び研磨装置を提供する。
【解決手段】水平面を有する支持台11に配置された矩形大型ワーク1の表面を、そのワーク1の大きさより小さい研磨定盤20にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えて平面上を移動させ、かつ研磨定盤20へ研磨液をスラリー制御部から供給しつつ平面研磨する研磨装置において、予め設定されたモータ回転数、エア圧及び目標電源の設定値に基づき、エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御するか、または回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を記録した研磨パターンデータ記憶部を有し、エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の矩形ワークの平面研磨において、研磨の再現性精度を高めることができる研磨方式およびその方法を使用した研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶用基板ガラス、カラーフィルターガラスあるいはフォトマスク用ガラス基板等あらゆるガラス系基板の大型化が押し進められている。これと同時に、これら大型ガラス基板を効率良く平面研磨する加工機の要求が急速に高まっている。
【0003】
従来の大型大寸法ワーク用研磨機は、マイクロチップやハードディスク基板を高精度に平面研磨するのに適した研磨機として提供されているものをスケールアップしたものである。例えば、ワークの片面ずつを研磨するオスカー方式やラツプマスター方式の研磨が知られている。ホップマン方式で知られる研磨機では、遊星キャリアテーブルでワークを挟んで両面同時に研磨する機構となっている。
【0004】
市場に提供されている研磨機は、小型小寸法に適した研磨方式を大型大寸法に拡大利用する方式であるため、平面を出す基準となる研磨定盤は、ワークサイズ以上で非常に大きくなってきている。このため機械の規模は極めて大きくなり取り扱いも難しくなってきている。
【0005】
現在市場に提供されている研磨機において、研磨可能ワーク寸法の内、小寸法ワークと大寸法ワークを研磨する場合を考えると、小寸法ワークではワーク表面内の研磨ムラが小さく、大寸法ワークでは研磨ムラが大きくなることが容易に推測される。
【0006】
研磨機の研磨定盤は、ワーク表面に押し当てられ、所定の一定速度で回転され、この研磨定盤がワーク表面上をある軌跡で移動させることになる。このときワーク表面に対する研磨定盤の相対移動速度は、研磨定盤の外側ほど大きくなり、半径に比例した研磨量となる。
【0007】
すなわち、半径に比例した研磨量に対し、ワークを移動させ、回転させることにより、研磨定盤上の研磨量を重畳させワーク表面では、均一な研磨となるよう軌跡を設定することになる。
【0008】
ワークが小寸法である場合、ワークの移動、回転は比較的自由に選択できるが、ワーク寸法が大きくなるに従い移動範囲、回転数は制限されてくる。制限されると研磨定盤上の研磨量の重畳が制限され、結果としてワーク表面は均一な研磨量が得られなくなる問題点があった。
【0009】
そのため、オスカー方式の研磨機において、例えば、縦横のワーク寸法が850mmの場合には、研磨定盤は直径が1700mmと大きな寸法が設定されることになる。すなわち、ワーク寸法に対し研磨定盤は、それなりの大きさがなければ均一な研磨が行えないことから選択される結果でもある。
【0010】
ワーク寸法が大きくなってきている現状において、例えば、液晶用ガラス基板G6では1500mm×1800mm、G7では1870mm×2200mm、G8では2200mm×2400mmであり、さらにG9,G10と大きくなると言われている。
【0011】
しかし、ワーク寸法が大きくなるとともに研磨定盤も大きくなる傾向は変わっていないのが現状でもある。均一な研磨量を得るワークの移動軌跡、あるいはワークの回転は長年の経験で選択さるのが普通である。この点でも小寸法ワークのままの思想を引き継いでいる。
【0012】
経験と長年培われた熟練度合いで決定した研磨条件もある面、不安定要素を持っており、一度選択した研磨条件を維持管理しているつもりでも、研磨液の供給量、温度あるいは水素イオン指数であるペーハー、研磨定盤の目詰まり状態により、研磨量が変わり再現性がなかなか図れていないのが実情である。
【0013】
研磨の再現性を向上させるため、一般に研磨液では、供給量管理、供給温度の管理、ペーハー管理、濃度管理等が必要となる。研磨定盤では、出来るだけ初期状態を維持するため、ある一定サイクル毎に研磨定盤の表面にブラシを当てたり、更に高圧水洗浄を行ったりする必要があるが、再現性が思うように出来ていないのが現状である。
【0014】
研磨量は一般的に、研磨圧、研磨時間、研磨定盤とワークの相対速度に比例すると言われている。これら因子を個別制御した結果として、研磨終了後に研磨量不足や研磨量過多が分かったとしても、次のワークに対しては有効なる情報が得られても、そのもの自体には役に立たない。有効な情報の処理もまた長年の経験と勘により調整することになる。
【0015】
研磨圧、研磨時間、研磨定盤とワークの相対速度が再現されている限り手の打ちようがないのが実情である。詳細に見ると、机上では研磨条件の微細な違いにより研磨の仕事量が変わり研磨定盤の駆動電流値が変化として把握されることが期待できる。
【0016】
しかし、研磨定盤径が2メートルあるいは3メートルになると、その慣性能率が大きくなり刻々と変わる研磨条件を把握することができないのが実情であり、結果として研磨は生き物と言われる所以で終わっている。
【0017】
なお、大型化の不都合を解決する手段として、片面平面研磨機を大型化させずに片面研磨を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術においては、単一の研磨定盤寸法は、ワーク寸法より小を採用し、同径一対の研磨定盤を自転および公転をさせ、公転最大外径の研磨定盤での研磨に等しい効果を挙げようとしているものである。また、ワーク寸法に対する研磨定盤の寸法設定は、概略述べられているが、ハード的に規制が掛かり任意寸法とはならない。研磨定盤寸法は、単体で矩形短辺の半径程度以上となるが、これをさらに大きくし過ぎると、固定距離に設置された研磨定盤同士が干渉し、小さくし過ぎると研磨ムラの発生を見ることになる。
【特許文献1】特開2004−114240号公報(第5〜13ページ、図1〜27)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ワークの大型大寸法化に伴いますます難しくなって来ている研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨を持続可能とする研磨方法及び研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明にあっては、矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、前記回転駆動モータの駆動電力を前記エアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持することを特徴とするものである。回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【0020】
請求項2に記載の発明にあっては、矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、前記回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を前記エアシリンダの加圧圧力を制御することで保持することを特徴とするものである。回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を過去データの基づいて制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【0021】
請求項3に記載の発明にあっては、水平面を有する支持台に配置された矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液をスラリー制御部から供給して平面研磨する研磨装置において、予め設定されたモータ回転数、エア圧及び目標電源の設定値に基づき、前記エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御することで、前記回転駆動モータの駆動電力をモータ駆動部を介して一定に保持する制御を行う制御装置を有することを特徴とするものである。回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【0022】
請求項4に記載の発明にあっては、水平面を有する支持台に配置された矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液をスラリー制御部から供給して平面研磨する研磨装置において、前記回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を記録した研磨パターンデータ記憶部を有し、前記エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御することで、前記回転駆動モータの駆動電力を前記研磨パターンデータ記憶部に記憶したデータに基づきモータ駆動部を介して保持する制御を行う制御装置を有することを特徴とするものである。回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を過去データに基づいて制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【0023】
請求項5に記載の発明にあっては、前記ワーク近傍の前記支持台上には、前記研磨定盤の研磨面を清掃するための洗浄部が設けられていることを特徴とするものである。研磨面を清掃するための洗浄部を支持台に設けることで、一定の研磨サイクル毎に研磨面を清掃することで研磨の再現性を高めることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明にあっては、前記スラリー制御部は、研磨液の濃度、ペーハー、供給量あるいは温度を一定の値に維持する部分を有することを特徴とするものである。スラリー制御部により研磨液の状態が管理されるため研磨の再現性を高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持するか、または回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる
【0026】
水平面を有する支持台に配置された矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ研磨定盤へ研磨液をスラリー制御部から供給しつつ平面研磨する研磨装置において、予め設定されたモータ回転数、エア圧及び目標電源の設定値に基づき、エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御するか、または回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を記録した研磨パターンデータ記憶部を有し、エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明実施形態による研磨方法を中心として説明する。図5〜図9は本発明の研磨方法を説明する図であり、図5は研磨条件の組み合わせを説明する図、図6は第1の因子分析を説明する図、図7は第2の因子分析を説明する図、図8はオープンループ制御を行った場合の1回目の研磨量と2回目の研磨量の関係を示した図、図9は本発明実施形態によるクローズドループ制御を行った場合の1回目の研磨量と2回目の研磨量の関係を示した図である。
【0028】
まず、オスカータイプの研磨機の延長上にある研磨機では、研磨定盤が大きくなり、研磨抵抗負荷変動が発生していたとしても研磨定盤の慣性能率が大きく駆動源のモータ負荷変動としては現れにくい。すなわち、日々の変化のトレンドを月毎の移動平均で感知するようなものになり応答性に欠けることになる。
【0029】
ワークに対し研磨定盤小を採用することによって、はじめて負荷変動を敏感に検知できる。理由として、研磨定盤駆動、慣性負荷が従来の加工機と比較し非常に小さいため、研磨定盤とガラスワークとの間に発生する研磨抵抗、摩擦力の違いが明確に現れるためである。
【0030】
モータ負荷に明確に現れる駆動系では駆動系に捻り応力を感知するロードセルを配し、ロードセルの負荷を検知する方法は考えられる。
【0031】
現在採用されているオープループ的制御の考えでは、研磨条件を一定とすることが行われている。例えば、研磨定盤回転数をある一定速度に設定するとこれを維持する制御が行われる。同時に研磨圧も一定、移動速度も一定、その他研磨液の諸条件も一定となるよう制御される。
【0032】
ここで、1つの仮定として研磨定盤が目詰まり傾向となり研磨抵抗が大きくなってきたとすると、モータ負荷は大きくなり減速する方向に作用する。
【0033】
制御としては研磨定盤を一定速度に制御するようになっているためモータの回転速度を上げ回転数を元に戻そうとする制御が行われる。仕事量として増加することになり、電流値が上昇する。
【0034】
制御的には正しく行われているが、結果として摩擦仕事の増加、すなわち研磨量の増加として現れる。研磨量の増加によって研磨の再現性が図れないことになる。
【0035】
また、逆の事象も考えられ、研磨抵抗が下がり、負荷が前回より減少すると駆動モータ負荷も下がり、電流値が下がっても設定回転数が維持され、結果として入力仕事の減少、研磨量の減少となる。そのため、共に研磨量の再現が図れないことになる。
【0036】
これらの前提として入力条件全てを整え、例えば、前回研磨時と同じとする思想にあるが、ポリッシングに見るように摩擦仕事が研磨仕事と考えられる場合、摩擦抵抗そのものを管理することは非常に難しい。
【0037】
摩擦抵抗変動の原因となる研磨定盤の表面状態維持のためには、一定サイクル研磨後にブラシ掛けや高圧水洗浄が必要である。また、供給される研磨液の管理は、濃度、ペーハー、供給量等を一定とする管理が行われるが、従来では完全とは言えず結果としての研磨量の再現性精度が悪くなる。
【0038】
研磨の再現性の考え方として、研磨量=研磨仕事量=摩擦による仕事量=研磨定盤への入力仕事量=駆動モータの仕事量、と近似として捉えることができ、研磨量の再現性を精度良くするには、回転駆動モータの仕事量を再現すれば良いと推測される。
【0039】
ここで、研磨量は、研磨圧、研磨速度、研磨時間により決まる関数として把握することができる。ここで、研磨定盤その他の影響で摩擦抵抗が変わった場合、研磨量を再現するため研磨圧、研磨速度あるいは研磨時間を調整するのか3通りの方法が考えられる。
【0040】
この中で研磨時間を調整することは、作業や工程の安定性の上では好ましいことではなく避けられる。残りとしは研磨圧を調整するか、研磨速度を調整するかになる。
【0041】
ここで、研磨の諸条件は一定とし、制御因子を研磨圧力、研磨定盤回転数、研磨時間を次のような水準で振った場合に、どのような傾向が見られるか実験計画法で分析した実験結果を示す。
【0042】
研磨時間を、5分、10分として、研磨条件を図5のように組合わせて研磨を行い、研磨前と研磨後の肉厚を測定し、その差を研磨量として評価を行った。測定結果を次のようにまとめて分析すると、図6に示すように、研磨圧力が大きくなると研磨量の増加が見られる。研磨定盤(パッド)回転数が大きくなると研磨量の増加が見られる。研磨時間も同様な傾向が見られる。
【0043】
次に、圧力範囲を変えて因子の影響を見ると、図7に示すように、研磨圧力は大きくなることによって研磨量の増加が見られ、また研磨時間も同様に因子分析1と同じ傾向を示す。しかし研磨定盤(パッド)回転数は大きくなると研磨量の減少が見られる。
【0044】
研磨定盤のこの挙動は、研磨定盤中央から供給される研磨液は、通常研磨定盤に刻まれている溝を流れると同時に回転により研磨面に引き込まれ、研磨仕事を行う事になるが、研磨定盤の押し圧と回転数の関係により研磨定盤の回転数が上がると研磨液の引き込み量が大きくなり研磨液によって摩擦力が失われるハイドロプレーン現象と同様の現象が起こっていると想像される。
【0045】
このハイドロプレーン現象のようなことはホップマン方式等では起こりにくいと考えられる。通常、ホップマン方式では、例えば、下定盤を40rpmで駆動すると、上定盤は13.3rpm、遊星キャリアの公転は10rpm、自転5rpm程度で駆動され、回転数として低速域であることから判断される。
【0046】
現象として常に正だけあるいは負方向の関係が有る場合には、安心して制御因子として使用できるが、条件により正であったり負であったりする場合には、制御因子としては使えない。安心して制御因子として使えるのは圧力制御であり、研磨定盤回転数は、不適当であることが分かる。
【0047】
これらの条件から分かるように、研磨の再現性を上げるためには、今まで取り入れていた研磨条件の再現性を、オープンループ的考えと共に更に研磨圧圧力制御を行うことにより駆動モータの電流値を再現するクローズドループ制御を加えることが更に有効であることが分かる。
【0048】
すなわち、研磨制御部により、これら制御を掛けた場合と掛けなかった場合を次に示す。
【0049】
研磨は、板ガラス1000×1200×0.7tを所定の研磨パターンで研磨を行い、後日同じ条件で研磨を行い、板ガラスの121箇所、同一箇所の研磨量を測定しx軸に1回目の研磨量、y軸に2回目の研磨量を取りプロットを行った。
【0050】
従来通りのオープンループ制御では、図8に示すような結果が得られた。また、本願発明の方法によるクローズドループ制御、電流値を再現するために研磨圧力を制御した場合には、図9に示すような結果が得られた。
【0051】
研磨の再現性として、相関係数は1に近ければ相関が高くなる。また、回帰直線y=ax+bは再現性が確実に出来ていれば傾きaは1、y軸切片もb=0となり式としてはy=xとなる。これは完璧に再現された場合で基本的に研磨対象物の初期状態の違いで1近辺であれば良と判断される。
【0052】
この視点で2つの結果を見ると、前者のオープンループ制御による研磨量の相関係数は、0.911514であり、後者のクローズドループ制御による研磨量の相関係数は、0.972529であり、後者の制御が相関係数が1に近くなり研磨の再現性として相関が高くなる。また、回帰式を求めてみると、オープンループ制御では、y=0.632X+0.000であるのに対し、クローズドループ制御では、y=1.047X+0.001とまり、傾きaが改善されている。前者では傾きaが0.632であることから2回目の研磨で研磨量が6割方減少したことを示している。
【0053】
次に、上記の説明に基づく研磨方法を実現するための研磨装置を具体的に説明する。図1〜図4は本発明実施形態の研磨方法を実現する研磨装置を説明する図であり、図1は本発明実施形態の研磨装置の平面図、図2は本発明実施形態の研磨装置の正面図、図3は本発明実施形態の研磨装置の駆動制御を説明するブロック図、図4は本発明実施形態の研磨装置のスラリー制御を説明するブロック図である。
【0054】
本実施形態の研磨装置10は、1つの矩形ガラス板からなる平面上(XY面上)に配置された大型のワーク1の片面(上面)を、垂直軸(Z軸)に沿って設けられたワーク1より十分に小さい研磨定盤20により平面研磨する装置であり、ワーク1を水平に保持する支持台11と、研磨定盤20をY軸方向へ駆動するY軸駆動部13と、研磨定盤20をX軸方向へ駆動させるX軸駆動部30と、研磨定盤20をZ軸方向へ駆動させるZ軸駆動部40と、ワーク1近傍の支持台11上面に設けられた研磨定盤20の洗浄部50と、研磨制御部60と、研磨中に研磨定盤20へ供給される研磨液の管理を行うスラリー制御部70等との部分から構成されている。
【0055】
研磨定盤20は、後に詳細に説明するZ軸駆動部40により押圧力及び回転力が与えられるZ軸に設けられた駆動軸23の下端部に取り付けられるものであり、下面に研磨パッドが貼り付けられた定盤本体21と、この定盤本体21を駆動軸23に取り付けるフローティング機構22等とから構成されている。定盤本体21は、回転駆動による慣性力を小さくできるように、軽量なアルミ系材料を使用するとともに、外形寸法も小さいものが採用される。この外形寸法が小さい研磨定盤20を採用することに伴う研磨量の不足は、高速回転で駆動することにより補うようにする。なお、この定盤本体21は、中心部に孔が形成され、研磨中においてこの孔に後に説明するスラリー制御部70からの研磨液が供給されるようになっている。
【0056】
支持台11は、上面の平面精度が優れた矩形箱型に形成されたテーブルが使用され、そのテーブル上面の大きさはワーク1を載せるに十分な大きさを有するとともに、後に詳細に説明する洗浄部50を配置できる大きさのものが使用される。この支持台11の上面には、ワーク保持用のゴムシート12が貼り付けられる。研磨するときには、ゴムシート12の上面にワーク1を載せて固定される。
【0057】
Y軸駆動部13は、支持台11を挟んだ両側に配置された一対のY軸用支持台14と、これらY軸用支持台14の上面にそれぞれY軸方向に沿って設けられた一対のガイドレール15,16と、それぞれのY軸用支持台14に設けられたY軸駆動モータ17と、このY軸駆動モータ17にそれぞれ駆動されるボールネジ18等とから構成されている。
【0058】
X軸駆動部30は、支持台11の上部をX軸方向に横切り両端部側がY軸用支持台14,14の上部において、ボールネジ18により駆動可能に取り付けられた移動用支持台31と、この移動用支持台31のX軸方向に沿って設けられた一対のガイドレール32,33と、移動用支持台31の一方の端部側に設けられたX軸駆動モータ34と、このX軸駆動モータ34に駆動されるボールネジ35等とから構成されている。
【0059】
Z軸駆動部40は、X軸駆動部30のボールネジ35により駆動可能に取り付けられたベース板36と、このベース板36に取り付けられた軸受け用のハウジング37と、Z軸方向に研磨定盤20へ押圧力を与えるエアシリンダ45と、研磨定盤20へ回転力を与える回転駆動モータ41と、この回転駆動モータ41の駆動力を伝達するプーリ42,43と、プーリ42,43間に掛けられているタイミングベルト44等とから構成され、エアシリンダ45により押圧力が駆動軸45を介して加えられるとともに、回転駆動モータ41により回転力が加えられる駆動軸45が、ハウジング37内において軸受機構により支持され、その下端部側に駆動軸23を介して研磨定盤20が取り付けられている。
【0060】
洗浄部50は、ワーク1表面を一定サイクルの研磨終了後に、研磨パッドが貼り付けられた研磨定盤20の下面を洗浄する部分であり、ワーク1が配置された近傍の支持台11の上部に設けられている。この洗浄部50は、研磨パッド面の汚れを落とすためのブラシ部51と、高圧で洗浄液を噴出させる洗浄液吐出部52等とから構成されている。一定サイクルの研磨終了後に、研磨定盤20を洗浄部50の上部に移動させ、X軸方向あるいはY軸方向にわずかに移動させ、あるいは回転させることでブラシ部51により研磨パッドの表面に付着した汚れを機械的に落とすとともに、洗浄液吐出部52から洗浄液を研磨パッドの表面に吐出させることで研磨パッドの表面に付着した汚れを洗浄できるようになっている。
【0061】
研磨制御部60は、本発明の研磨方法を実現するためのものであり、研磨定盤20を回転駆動させる回転駆動モータ41のモータ回転数を所定の値に設定するためのモータ回転数設定部61と、研磨定盤20にZ軸方向に押し圧力を与えるエアシリンダ45の空気圧を設定する空気圧設定部62と、研磨定盤20の駆動電力を目標の値に設定するための電流値設定部63と、回転駆動モータ41の駆動を制御するモータ駆動部66と、エアシリンダ45へ供給するエア圧を制御する圧力制御部67と、モータ駆動部66から検出される電流値及び電流値設定部63において設定される電流値を比較し偏差値を検出する比較部64と、モータ回転数設定部61で設定された回転数、空気圧設定部62で設定された空気圧、及び比較部64で比較された偏差値に基づいてモータ駆動部66及び圧力制御部67へ制御信号を出力する制御装置65等とから構成されている。この制御装置65では、モータ回転数設定部61及び空気圧設定部62で設定した設定値を基準とし、モータ駆動部66により回転駆動モータ41を駆動するとともに、圧力制御部67によりエアシリンダ45へエア圧を供給することで研磨定盤20を駆動し、モータ駆動部66から検出される電流値と電流値設定部63で設定される設定値とを比較部64で比較した偏差値に基づいて、回転駆動モータ41の駆動電力が一定の値になるようにモータ駆動部66へ制御信号を送信するとともに、駆動電力が一定の値を維持できるように空気圧制御部67へ制御信号を送信する部分である。すなわち、研磨制御部60は、研磨定盤20の駆動電力が一定の値に維持できるようエアシリンダ45のエア圧を制御することで、研磨定盤20による研磨量が一定の値になるようクローズドループ制御をしている。また、この制御装置65は、上記の通り設定部61,62,63に基づいて回転駆動モータ41の駆動電力をエアシリンダ45へ供給するエア圧を制御するクローズドループ制御を行うよう選択できるとともに、過去に測定してある駆動電力と空気圧との関係データが研磨パターンデータ記憶部68に記憶されており、この研磨パターン記憶部68のデータに基づいて回転駆動モータ41の駆動電力が生じるよう空気圧を制御するクローズドループ制御を行うことを選択できようになっている。
【0062】
スラリー制御部70は、研磨液の濃度、ペーハー、供給量あるいは温度を一定の値に維持するための部分であり、貯留タンク74に貯められた研磨液は、ポンプ71により一定量が供給され、供給側フィルタ72を介して研磨装置10の研磨定盤20へ供給され、さらに研磨に使用された後の研磨液は、排出側フィルタ73から貯留タンク74へ戻され、この貯留タンク74の研磨液は、摩擦により昇温傾向にあるため温度制御部75において、例えば、32℃程度の一定温度に制御されるようになっている。
【0063】
以上説明したように、本発明の研磨方法では、矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えて平面上を移動させ、かつ研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、回転駆動モータの駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持するか、または回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力をエアシリンダの加圧圧力を制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる
【0064】
また、本発明の研磨装置では、水平面を有する支持台11に配置された矩形大型ワーク1の表面を、そのワーク1の大きさより小さい研磨定盤20にエアシリンダ45により加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータ41で回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ研磨定盤20へ研磨液をスラリー制御部70から供給しつつ平面研磨する研磨装置において、予め設定されたモータ回転数、エア圧及び目標電源の設定値に基づき、エアシリンダ45のエア圧を圧力制御部を介して制御するか、または回転駆動モータ41に対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を記録した研磨パターンデータ記憶部68を有し、エアシリンダ45のエア圧を圧力制御部67を介して制御することで、研磨の再現性精度を高め、高精度の平面研磨が持続可能となる。
【0065】
さらに、ワーク1近傍の支持台11上には、研磨定盤20の研磨面を清掃するための洗浄部50を設けていることで、一定の研磨サイクル毎に研磨面を清掃することで研磨の再現性を高めることができる。また、スラリー制御部70を設けることで研磨液の状態が管理させるため研磨の再現性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
板状の矩形ワークの研磨において、研磨の再現性精度を高めることができる研磨方式およびその方法を使用した研磨装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明実施形態の研磨装置の平面図である。
【図2】本発明実施形態の研磨装置の側面図である。
【図3】本発明実施形態の研磨装置の駆動制御を説明するブロック図である。
【図4】本発明実施形態の研磨装置のスラリー制御を説明するブロック図である。
【図5】研磨条件の組み合わせを説明する図である。
【図6】第1の因子分析を説明する図である。
【図7】第2の因子分析を説明する図である。
【図8】オープンループ制御を行った場合の1回目の研磨量と2回目の研磨量の関係を示した図である。
【図9】本発明実施形態によるクローズドループ制御を行った場合の1回目の研磨量と2回目の研磨量の関係を示した図である。
【0068】
1 ワーク
10 研磨装置
11 支持台
12 ゴムシート
13 Y軸駆動部
14 Y軸用支持台
15 ガイドレール
16 ガイドレール
17 Y軸駆動モータ
18 ボールネジ
20 研磨定盤
21 定盤本体
22 フローティング機構
23 駆動軸
30 X軸駆動部
31 移動用支持台
32 ガイドレール
33 ガイドレール
34 X軸駆動モータ
35 ボールネジ
36 ベース板
37 ハウジング
40 Z軸駆動部
41 回転駆動モータ
42,43 プーリ
44 タイミングベルト
45 エアシリンダ
45 駆動軸
50 洗浄部
51 ブラシ部
52 洗浄液吐出部
60 研磨制御部
61 モータ回転数設定部
62 空気圧設定部
63 電流値設定部
64 比較部
65 制御装置
66 モータ駆動部
67 圧力制御部
70 スラリー制御部
71 ポンプ
72 供給側フィルタ
73 排出側フィルタ
74 貯留タンク
75 温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、前記回転駆動モータの駆動電力を前記エアシリンダの加圧圧力を制御することで一定に保持することを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液を供給して平面研磨する研磨方法において、前記回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を前記エアシリンダの加圧圧力を制御することで保持することを特徴とする研磨方法。
【請求項3】
水平面を有する支持台に配置された矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液をスラリー制御部から供給して平面研磨する研磨装置において、予め設定されたモータ回転数、エア圧及び目標電源の設定値に基づき、前記エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御することで、前記回転駆動モータの駆動電力をモータ駆動部を介して一定に保持する制御を行う制御装置を有することを特徴とする研磨装置。
【請求項4】
水平面を有する支持台に配置された矩形大型ワークの表面を、そのワークの大きさより小さい研磨定盤にエアシリンダにより加圧圧力を加えるとともに回転駆動モータで回転力を与えつつ平面上を移動させ、かつ前記研磨定盤へ研磨液をスラリー制御部から供給して平面研磨する研磨装置において、前記回転駆動モータに対する過去データとして持つ研磨パターンに対応する駆動電力を記録した研磨パターンデータ記憶部を有し、前記エアシリンダのエア圧を圧力制御部を介して制御することで、前記回転駆動モータの駆動電力を前記研磨パターンデータ記憶部に記憶したデータに基づきモータ駆動部を介して保持する制御を行う制御装置を有することを特徴とする研磨装置。
【請求項5】
前記ワーク近傍の前記支持台上には、前記研磨定盤の研磨面を清掃するための洗浄部が設けられていることを特徴とする請求項3または4記載の研磨装置。
【請求項6】
前記スラリー制御部は、研磨液の濃度、ペーハー、供給量あるいは温度を一定の値に維持する部分を有することを特徴とする請求項3または4記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−36738(P2008−36738A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211752(P2006−211752)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(591274303)株式会社芝技研 (10)
【Fターム(参考)】