説明

研磨用スラリーの再生方法

【課題】使用済みの研磨用スラリーを再利用する際に、その研磨性能が未使用のものと比べても遜色なく、安定した研磨を行うことができる研磨用スラリーの再生方法を提供する。
【解決手段】使用済みの研磨用スラリーから不純物を除去して、補正液を添加することにより再生する研磨用スラリーの再生方法において、補正液として、触媒、有機酸、硝酸及び殺菌剤を添加し、研磨用スラリー中の砥粒のゼータ電位を制御する研磨用スラリーの再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨工程で用いられる研磨用スラリー(以下、研磨用スラリーと略称する)の再生方法に関し、特に、半導体の製造プロセスにおける回収した使用済みの研磨用スラリーに所定の補正液を添加するスラリーの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記半導体の製造プロセスには、ウェーハや液晶・マスク向けのガラスなどの基本素材・製造装置部材を作る工程やこれらの素材を加工して素子やパターンを作るデバイス製造工程が含まれる。
【0003】
近年、コンピューターの高速化に伴って、コンピューターに用いられる半導体集積回路(IC)には、一段と高い集積度が求められるようになってきている。このようなICの高集積化に適合していくには、配線パターンの微細化と共に多層積層構造の採用が不可欠となってくる。
【0004】
多層積層構造を採用するには、基材となるウェーハそのものや多層積層構造の各層の凹凸をこれまで以上に小さくして、膜形成時の段差部での被覆性(ステップカバレッジ)の悪化やリソグラフィ工程におけるフォトレジストの塗布膜厚変動などの不具合を避ける必要がある。
【0005】
このような多層積層構造の各層の凹凸をなくするため、基材であるウェーハやこのウェーハ上に形成される各層表面に対し研磨用スラリーを用いて研磨することが行なわれている。
【0006】
また、タングステンWを用いてCVD法(化学蒸着法)によりコンタクトホールやビアホールを形成する際や、ダマシン構造にメッキ法により銅Cuを埋め込む際には、表面に形成されるタングステン被膜や銅被膜を、ホール部分やダマシン構造部分のみ残して表面に形成されたタングステン被膜や銅被膜を周りの絶縁膜と同一平面となるまで研磨されるが、この場合にも研磨用スラリーを用いた研磨が行われる。
【0007】
一般に、半導体製造プロセスにおける研磨工程では、スピンドルに貼り付けたウェーハの表面を、回転テーブル表面の研磨パッドに接触させ、接触部に研磨用スラリーを供給しながら回転テーブルを回転させることによって行なわれる。
【0008】
半導体製造プロセスにおける研磨工程で用いられる研磨用スラリーは、煙霧質シリカのような研磨材を超純水に分散させ、目的によって、過酸化水素のような酸化剤、鉄塩、有機酸等の成分を溶解させた特殊な組成のものが用いられる。
【0009】
研磨工程を終えたウェーハは、超純水で洗浄され、使用済みの研磨用スラリーは、この洗浄液とともに、回収タンクに収容される。
【0010】
回収タンクに集められた使用済みの研磨用スラリーは、過剰の水をセラミックフィルターで除いて濃度が調整され、イオン成分がイオン交換樹脂等により除去され、元の組成に対して不足した成分が補充され、さらに粒度調整用フィルターを通して除去研磨屑等の過大な粒子が除去されて研磨用スラリーとして再使用される(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−010540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の研磨用スラリーの再生方法において、研磨に使用された後の研磨用スラリーは、貯留槽に回収されて再生工程に付され、研磨パッド上に残った研磨用スラリーは、洗浄水により除去され、これを廃液槽に貯留し、その後廃棄される。
【0012】
しかしながら、従来は再生する研磨用スラリーのpH条件等によっては、研磨用スラリーを再利用して研磨する際に、ウェーハ等の研磨対象物の表面にスクラッチ等の傷が生じてしまい歩留が低下する問題があった。
【0013】
本願発明は、上記のような問題点に鑑み、使用済みの研磨用スラリーを再利用する際に、その研磨性能が未使用のものと比べても遜色なく、安定した研磨を行うことができる研磨用スラリーの再生方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、かかる問題点を解消すべく鋭意研究を進めた結果、使用済みの研磨用スラリーに、再調製のための補正液を添加する際に、所定の成分を含んだものを用いることで砥粒のゼータ電位を制御することができ、それによって研磨性能に優れ、安定した研磨を行うことができる研磨用スラリーとして再生することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本願発明の研磨用スラリーの再生方法は、使用済みの研磨用スラリーから不純物を除去して、補正液を添加することにより再生する研磨用スラリーの再生方法において、補正液として、触媒、有機酸、硝酸及び殺菌剤を添加し、研磨用スラリー中の砥粒のゼータ電位を制御することを特徴とするものである。
【0016】
本発明において、再生の対象となる研磨用スラリーは、例えば、特開平10−265766号公報、特開平11−116948号公報に開示されたようなもので、具体的には、0.02μm以上の粒度分布(メジアン径)体積基準が約0.15μmの煙霧質シリカ微粒子と、過酸化水素のような酸化剤、硝酸第二鉄、有機酸等の成分を水に分散又は溶解させたものである。
【0017】
以下に、未使用の研磨用スラリーについて、その組成の一例を示した。
比重 1.03
pH 2.0〜2.3
平均粒子径[μm] <0.2
Fe濃度[ppm] <75
Ti濃度[ppm] <1
B濃度[ppm] <1
Na濃度[ppm] <1
Mg濃度[ppm] <1
Al濃度[ppm] <2
K 濃度[ppm] <2.5
Ca濃度[ppm] <2
Mn濃度[ppm] <1
Cr濃度[ppm] <2
Mn濃度[ppm] <1
Ni濃度[ppm] <2
Cu濃度[ppm] <1
Zn濃度[ppm] <1
Pb濃度[ppm] <1
Co濃度[ppm] <1
Zr濃度[ppm] <1
Cl濃度[ppm] <10
【0018】
上記のような組成を有する研磨用スラリーは、半導体研磨工程で使用されることにより、被研磨体の組成に応じて特定の金属イオンが含有されることとなるが、研磨用スラリーとしての組成はそのまま有して廃液を受ける収容タンクに収容される。また、研磨工程が終わったところで、洗浄工程により、研磨パッド上に残った研磨用スラリーや研磨クズ等が超純水からなる洗浄液で洗浄され、これも収容タンクに収容して再生工程に回される場合もある。
【0019】
以下、本願発明の研磨用スラリーの再生方法を説明するが、これは上記のように収容タンクに収容されて回収された使用済みの研磨用スラリーを、ろ過、キレート形成反応、イオン交換反応等から選ばれる処理のいずれか、又はこれらを組み合わせて行って不純物を除去し、さらに、所定の薬液を含有する補正液を添加、必要であればpHを調整するという工程に順次付することにより達成されるものである。
【0020】
ここで回収される研磨用スラリーは、半導体を研磨する研磨工程で使用されると、被研磨体の組成に応じて特定の金属イオンが含有され、イオン濃度が高くなる。したがって、まず、これらの金属イオンの除去及び研磨クズを除去するために、ろ過膜装置、イオン交換装置、キレート形成処理装置等の不純物除去手段と接触させる。
【0021】
本発明の再生に用いるろ過膜装置は、従来、純水又は超純水の製造に用いられていたものであれば特に限定されずに用いることができ、研磨クズ等のろ過膜の孔径以上の所定の粒子径、例えば、0.5〜10μm程度、を有する粒子状不純物の除去に用いられるものであって、回収された使用済みの研磨スラリーにまず接触させるプレフィルターである。このろ過膜装置としては、例えば、限外ろ過膜又は精密ろ過膜を備えた装置等が挙げられる。
【0022】
また、本発明の再生に用いるイオン交換装置としては、こちらも従来、純水又は超純水の製造に用いられていたものであれば特に限定されずに用いることができ、例えば、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂が挙げられ、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を組み合わせることも可能である。
【0023】
また、本発明の再生に用いられるキレート形成処理装置は、基材に、金属キレート形成能を有する官能基を固定化させたものからなり、従来公知のキレート樹脂又はキレート繊維を用いたキレート形成処理装置を用いることができる。
【0024】
本発明において基材に固定化される金属キレート形成能を有する官能基としては、例えばアミノカルボン酸類(アミノポリカルボン酸類を含む)、アミン類、ヒドロキシルアミン類、リン酸類、チオ化合物類を含む基が好ましい。ここで、アミノカルボン酸類のうちアミノモノカルボン酸類としてはイミノ酢酸、アミノ酢酸が挙げられ、アミノポリカルボン酸類としてはニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、イミノ二酢酸が挙げられる。アミン類としてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ピロール、ポリビニルアミン、シッフ塩基が挙げられる。ヒドロキシルアミン類としてはオキシム、アミドオキシム、オキシン(8−オキシキノリン)、グルカミン、ジヒドロキシエチルアミン、ヒドロキサム酸が挙げられる。リン酸類としてはアミノリン酸、リン酸が挙げられる。チオ化合物類としては、チオール、チオカルボン酸、ジチオカルバミン酸、チオ尿素が挙げられる。
【0025】
本願発明で使用する上記イオン交換装置及びキレート形成処理装置の基材となる高分子の種類は特に制限されず、樹脂又は繊維であって、イオン交換基又は金属キレート形成能を有する官能基を導入可能な素材を単独又は混合して使用することができ、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0026】
上記基材に用いるものとしては繊維とすることがスラリーとの接触効率が優れる点で好ましく、長繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維の紡績糸又はこれらを織物状や編物状に製織若しくは製編した布帛、さらには不織布が例示され、また2種以上の繊維を複合又は混紡した繊維や織・編物を使用することもできる。前記したような金属イオンとの接触効率および捕捉速度を考慮すると、使用される繊維、特に長繊維としての単繊維径は好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜200μmであり、長さは10mmより長いものが適している。
【0027】
長繊維型の素材はシート状又はフェルト状に加工し易い特徴を有しており、一方、短繊維型は長繊維型よりも研磨用スラリーとの接触効率が高いという特徴を有している。これらの特徴を勘案した場合、ウェーハ製造のポリッシング工程のように、研磨用スラリー中の極低濃度金属イオンの除去を目的とする場合には短繊維型の使用が好ましい。また、デバイス製造のCMP工程のようなウェーハ製造のポリッシング工程では、それほど低い濃度まで金属イオンを除去する必要がなく(研磨用スラリー中の金属イオン濃度は一般的に100倍以上)、また、キレート形成性繊維への金属イオンの負荷量が多く、交換頻度が比較的高いような要求に対しては、取扱いが容易なように加工し易い長繊維型の方が好ましい。
【0028】
いずれにしても、細い繊維分子の表面に導入されたイオン交換基又はキレート形成性官能基の実質的に全てが金属イオンの捕捉に有効に作用するので、樹脂を用いた場合と比較して卓越した金属イオン捕捉能を発揮する。
【0029】
また、処理する研磨用スラリーのpHに応じて、酸型官能基の少なくとも一部をアルカリ金属塩またはアンモニウム塩としたものを用いることも可能である。
【0030】
このように、本願発明に用いる不純物除去手段は複数のタイプのものがあり、これらをそれぞれ単独で用いても良いし、複数を組みあわせて用いても良い。特に不純物の除去効果を高めるためには、粒子状不純物を除去するろ過膜装置とイオン成分を除去するイオン交換装置及び/又はキレート形成処理装置を組み合わせて用いることが好ましい。
【0031】
この研磨用スラリーの精製に適用する具体的な形態としては、前記した研磨用スラリー精製用樹脂又は繊維を容器内に固定的に充填したモジュールが挙げられる。この場合、研磨用スラリー精製用樹脂又は繊維をシート状又はフェルト状に成形して、半導体研磨用スラリーの流路に配置し、このシート状又はフェルト状に成形した素材に研磨用スラリーを通液させるようにしてもよい。
【0032】
また、他の形態としては、例えば樹脂又は繊維を研磨用スラリーの流入口および流出口を備えた容器内に流動可能なように充填しフィルターもしくはストレーナで容器外へ流出しないようにさせたものが挙げられる。
【0033】
いずれの方法も、被処理研磨用スラリー中に存在する金属イオンを除去しながら、処理した研磨用スラリー全てを半導体研磨工程に供給したり、又は少なくとも一部若しくは全部を、もとの被処理研磨用スラリーに再度導入し循環を行い金属イオンの除去レベルをさらに高めた後に、半導体研磨工程に供給したりすることができる。
【0034】
このようにして、濃度調整とイオン成分の除去が行われた使用済みの研磨用スラリーには、研磨工程での消耗やイオン成分が除去されたりして添加成分が不足しているため、組成調整をする必要がある。このような不足した成分の添加は、個別に添加することもできるが、再生工程において、多くの添加剤補充用の配管やノズルを配置することは、装置をコンパクトにする上で好ましくない。
【0035】
そこで、使用済みの研磨用スラリーをイオン交換又はキレート形成処理を行った後、この使用済みの研磨用スラリーが未使用の研磨用スラリーとほぼ同一組成となるように、予め組成調整を行った補正液を所定量添加することにより補正を行うことが好ましい。
【0036】
補正液の組成を決めるにあたっては、イオン交換又はキレート形成処理を行った後の使用済み研磨用スラリーの組成を知る必要があるが、この組成は、センサー等により連続的又は断続的に測定することもできる。
【0037】
このとき、この補正液には、未使用の研磨用スラリーと同一組成となるような成分として触媒、有機酸、硝酸等の薬液成分を含有するものであり、本願発明においては、それらに加えてさらに、スラリー中の砥粒のゼータ電位を制御するものとして殺菌剤を添加しておくことを特徴とするものである。
【0038】
ここで、触媒は、研磨工程において酸化される金属から電子を酸化剤に移送すること(又は同様に電気化学的電流を酸化剤から金属へ移送すること)を可能とするものである。選択された1又は複数の触媒は、金属、非金属、又はこれらの混合物であり得、この触媒は電子を酸化剤と金属基体表面の間で効率的に、及び迅速に動かすことができなければならない。好ましくは、この触媒は、多酸化状態を有する金属、例えばAg、Co、Cr、Cu、Fe、Mo、Mn、Nb、Ni、Os、Pd、Ru、Sn、Ti及びV(但しこれらに限られる訳ではない)の化合物から選ばれる。ここで「多酸化状態」との用語は、1又はそれ以上の負の電荷を電子の形で失う結果、増加することのできる原子価数を有する原子及び/又は化合物を言う。最も好ましい金属触媒は、Ag、Cu及びFeの化合物並びにこれらの混合物である。特に好ましいものは、例えば鉄の無機塩、ハロゲン化鉄、有機鉄(II又はIII)化合物等の鉄触媒であり、鉄の無機塩としては、例えば、硝酸鉄(II又はIII)、硫酸鉄(II又はIII)等が挙げられ、ハロゲン化鉄としては、例えば、鉄のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩等が、有機鉄(II又はIII)化合物としては、例えば、酢酸塩、アセチルアセトネート、クエン酸塩、グルコン酸塩、シュウ酸塩、フタール酸塩、コハク酸塩等が挙げられ、これらの触媒を複数種混合した混合物であってもよい。
【0039】
また、有機酸は、前記触媒が、研磨用スラリーの研磨前に添加する酸化剤と反応することを抑制する安定化剤であり、例えば、マロン酸、アジピン酸、クエン酸、オルトフタル酸、EDTA等が挙げられ、好ましい有機酸としてはマロン酸が挙げられる。
【0040】
また、硝酸は、再生する研磨用スラリーのpHを調整するために用いられ、このとき従来pH2.0〜2.3程度に調整していたものを、本願発明においては、pHの上限を 2.3程度にすることができ、これによりタングステンCMPの研磨に及ぼす不具合を生じさせないようにすることができる。
【0041】
そして、スラリー中の砥粒のゼータ電位を制御することができる殺菌剤としては、(定義)生菌の増殖を抑制することができ殺菌効果及び滅菌効果が優れているイソチアゾン又はイソチアゾロンを用いることができ、具体的には、SE100(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、RO、EDIスケール防止殺菌剤)等が挙げられる。
【0042】
このとき、添加する補正液中の薬液成分は、補正液を添加して再生した研磨用スラリーが、硝酸鉄の鉄濃度で50〜2000ppm、有機酸が300〜1000ppm、殺菌剤が1〜1000ppmの濃度範囲で添加されることが好ましい。このとき、硝酸は、再生したスラリーのpHが2.0〜2.3に調整できる量添加することが好ましい。
【0043】
そして、この殺菌剤を添加することによりスラリー中の砥粒のゼータ電位が0mVよりも大きくなるように電位値をプラスに制御するものであり、+0.1mV〜+1.0mVの範囲にすることが好ましく、+0.1mV〜+0.5mVであることが特に好ましい。
【0044】
このようにして、スラリー中の砥粒のゼータ電位をプラスにすることが好ましい理由は、研磨対象であるウェーハ等の表面電位がプラスであることによるものであり、仮にゼータ電位がマイナスの場合には、砥粒とウェーハが引き付けあってウェーハ表面に留まり、研磨工程において、ウェーハ表面にスクラッチ等による傷を生じさせる原因となるためである。
【0045】
一方、スラリー中の砥粒のゼータ電位をプラスにしておけば、研磨対象であるウェーハ等の表面において互いに反発し、安定して研磨を行うことができ、製品の歩留まりを低下させることがない。
【0046】
また、ゼータ電位に関しては、従来からpHで制御することができることもわかっているが、pH制御においては強酸性下という極めて限定的な条件にしなければならなかった。しかしながら、本発明においては、殺菌剤の添加によりゼータ電位を制御することを見出したため、pHについてはより制限を緩和することができ、これによりpH2.3程度でもゼータ電位をプラス値に安定して維持させることができる。
【0047】
また、補正液の添加において、同一の研磨作業が長期にわたって継続して行われる場合には、予めこの研磨用スラリーの組成を分析的な手法によって詳しく測定し、この測定結果に基づいて、添加により未使用の研磨用スラリーと同一組成となる補正液の組成を決定して予め必要量を調整しておくようにしてもよい。
【0048】
この方法によれば、補正液の添加を一つの配管、一つのバルブで行うことができるので、設備が簡単になり小型にすることができる上に、保守や制御も容易になる。
【0049】
調整の済んだ再生研磨用スラリーは、粒度調整フィルターを通して粗大な研磨材や削り屑等を除いて再使用される。
【0050】
また、半導体の製造プロセスにおいて、特にタングステンプラグを有する半導体の研磨工程のように、硬質の金属表面を研磨する工程では、研磨用スラリー中に過酸化水素のような酸化剤を溶解させてタングステン表面を酸化させつつ研磨することが行われる。
【0051】
このような研磨工程で用いられた研磨用スラリーを再生使用するためイオン交換基又はキレート形成性繊維のキレート形成能を有する官能基と接触させること、これらの官能基が酸化されて金属イオン除去性能が劣化することがある。
【0052】
これを防ぐために、使用済み研磨用スラリーを酸化剤分解触媒と接触させたり、紫外線を照射したりしてから、イオン交換又はキレート形成させるようにすることで、イオン交換基及びキレート形成能を有する官能基が酸化剤の作用により劣化させないようにして金属イオンを除去することが好ましい。
【0053】
また、ろ過、キレート形成反応及びイオン交換反応から選ばれる少なくとも一つの処理を行って不純物を除去した後であって、補正液を添加して成分調整する前の研磨用スラリーについて、導電率又はpHを測定して、不純物が十分に除去されていることを確認することもできる。
【0054】
そして、この再生した研磨用スラリーを用いて研磨する前には、必要に応じて酸化剤の添加も行うが、このとき用いられる酸化剤としては、触媒を酸化するものであり、無機又は有機の過酸化物が挙げられ、具体的には、過酸化水素、オゾン、活性酸素、各種ラジカル(OHラジカル等)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0055】
本願発明の研磨用スラリーの再生方法によれば、効率良く回収された研磨用スラリーを補正液の添加による組成調整の際に、研磨用スラリー中の砥粒のゼータ電位を制御することができ、これにより再生した研磨用スラリーにおいて安定した研磨性能を有するものとし、研磨工程において製品の歩留まりを低下させることなく再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
次に、本願発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本願発明の研磨用スラリーの再生方法を説明するための再生システムの構成を示した図である。
【0057】
この実施形態における研磨用スラリーの再生システム1は、研磨用スラリーの回収方法を行う回収システム2により得られた再生用の研磨用スラリーを、プレフィルター3、キレート形成処理装置4、組成調整タンク5及び粒度調整フィルター6を、流路に沿って、順に通液するように設置して構成されている。
【0058】
この実施形態では、回収システム2により回収された再生用の研磨用スラリー等は、まず、プレフィルター3に送られ、ここを通過する過程で研磨クズ等の粒子状不純物が除去される。
【0059】
次に、この研磨用スラリーは、キレート形成処理装置4に送られ、ここで金属イオンと有機イオンが除去され、さらに組成調整タンク5で未使用の研磨用スラリーと同組成、砥粒のゼータ電位をプラスとする量の補正液が添加され、最後に、粒度調整フィルター6で過大な粒径の挟雑物が除去されて、再生研磨用スラリーとして再び研磨装置に供給される。
【0060】
このとき、補正液が添加された後の研磨用スラリー中の砥粒のゼータ電位は、予めpHと殺菌剤の添加量とにより求めたデータに基づいて制御するようにしてもよいし、実際に補正液を添加した後に、ゼータ電位測定装置により、研磨用スラリー中のゼータ電位を測定して制御するようにしてもよい。
【0061】
以上は、使用済みの研磨用スラリーを、粗大粒子除去後に、金属イオンを除去するように構成した例であるが、本発明は、かかる構成例に限定されるものではない。例えば、プレフィルター3の前に紫外線照射装置7を設けて、紫外線照射により過酸化水素を分解するようにすることもできるし、次のように、回収システム2 → 紫外線照射装置7 → キレート形成処理装置4 → プレフィルター3 → 組成調整タンク5 → 粒度調整フィルター6と構成することもできる。また、キレート形成処理装置5の代わりにイオン交換装置を用いるようにしたり、キレート形成処理装置とイオン交換装置を併用したりすることもできる。
【0062】
紫外線照射装置7を設けた場合は、処理中の研磨用スラリーに含まれる酸化剤が分解除去され、後段のろ過膜等が酸化剤により劣化するのを抑制することができる。また、このとき、紫外線照射装置の後段に特定口径のフィルターを設けると、紫外線照射と過酸化水素によりコロイド粒子化したタングステンをフィルターで除去することができ、キレート形成処理装置及びイオン交換装置の負荷を軽減することもできる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を具体化した実施例及び比較例について説明する。
【0064】
(実施例)
平坦化加工する工程に使用された研磨用スラリーを回収システムにより回収し、次いで、図1に示した再生システムにより再生操作を以下のように施した。
【0065】
まず、回転テーブル上に研磨用スラリーを200mL/分で供給しながら、その5秒後にプラテン、ヘッド回転を開始し、半導体ウェーハのCMP研磨を研磨用スラリー供給から160秒経過するまで行った。これらの操作を全て停止した後、次いで、回転テーブル上に超純水を1L/分で30秒間供給して回転テーブルを洗浄し、ドレッシングを20秒間行った。
【0066】
この半導体研磨を行うと同時に、使用済みの研磨用スラリーは廃液として収容タンクに収容され、収容タンクの下部に設けたスラリー貯留部に貯留する研磨用スラリーの導電率を導電率計ES−51(堀場製作所製、商品名)で測定しながら、口径が30Aの配管中を重力供給により通液させながら回収・廃棄タンク側へ配管中を通液させた。
【0067】
空気作動バルブは、導電率計により測定された導電率が200mS/mで切り替わるように設定されており、200mS/m未満のとき、廃棄タンク側の空気作動バルブが開き、200mS/m以上のとき、回収タンク側の空気作動バルブが開くようにし、この空気作動バルブはいずれか片方が開くようになっており、両方が同時に開くことがないようにした。
【0068】
以上の操作を行った結果、回収タンクには200mS/m以上の導電率を有する使用済みの研磨用スラリーを効率よく回収し、廃棄タンク側には200mS/m未満の導電率を有する使用済みの研磨用スラリーを収容した。
【0069】
そして、回収タンクに収容された研磨用スラリーを、まず、孔径が5μmのプレフィルターに通液してろ過することにより、研磨用スラリー中に含まれる研磨クズ等の粒子状不純物を除去した。プレフィルターは、10μm、5μm、3μm、1μmと順に使用することも可能である。
【0070】
次に、研磨用スラリー排液中に含有するタングステン (以下、Wと称する。) 不純物の除去は、キレート形成性繊維を用いて行った。ここでキレート形成性繊維としては、キレスト株式会社製、商品名:CG−50を使用した。研磨用スラリー排液のW不純物濃度は、約100〜1000ppmである。キレート形成性繊維CG−50 5kgを直径150mm、長さ850 mmの円柱状の容器に詰めた。この製品(メトレート)に、流量0.3 L/分で通液してW不純物を<10ppm まで除去した。W濃度の分析は、UF膜によりシリカ砥粒を除去した後、試料を誘導結合プラズマに送りイオン化させて放出されるオージェ電子のスペクトルを測定している (ICP−AES)。
【0071】
その後、硝酸第二鉄、有機酸、殺菌剤(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:SE100)をメトレート処理液に添加した。さらに、pH調整のために硝酸を添加し、pHを2.3とした。薬品を添加した後、デプスフィルターを用いて粒度調整を行った。流量7L/分により循環し、100L研磨用スラリーを50回液が入れ替わる分処理を行った。
【0072】
研磨用スラリーの再生後、液をサンプリングし、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LB−550)により粒度分布を測定し、Accusizer−780(ParticleSizingSystem社製、商品名)により0.5,1.0μm以上の粒子数を測定した。
【0073】
金属不純物濃度は、UF膜でシリカ砥粒を除去した後ろ液をICP−AES により分析を行った結果、粒度分布は、新品研磨用スラリーと一致し金属不純物量も同じであった。この再生した研磨用スラリー中のシリカ砥粒のゼータ電位を調べたところ+0.5mVであった。ゼータ電位は、超音波式コロイド振動電流(CVI)法によりゼータ電位計(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:NMS−CMP06)を用いて測定した。
【0074】
そして、この再生した研磨用スラリーを再利用して同様の半導体ウェーハの研磨を行ったところ、表面にスクラッチによる傷等を従来よりも大幅に低減させて研磨することができた。その結果を図2に示した。
なお、図2には、ゼータ電位を変化させることによるスクラッチ数の変化を併せて記載したが、ゼータ電位がプラス側になるにつれてスクラッチ数が減少し、特に、+0.2mV付近を超えて電位が大きくなることで急激にスクラッチ数が減少することがわかった。
【0075】
(比較例)
殺菌剤を添加しないこと以外は実施例と同様の薬液添加、操作により研磨用スラリーを再生した。このとき、表面にスクラッチによる傷が生じた。実施例のようにゼータ電位をプラスに制御した場合に比べ約6倍のスクラッチ数であった。その結果を図2に示した。
【0076】
(試験例)
実施例及び比較例における操作により、それぞれ研磨用スラリーを再生した。このとき、再生した直後のシリカ砥粒のゼータ電位は共に+0.2mVであった。各研磨用スラリーを室温(25℃)で保管したときの、ゼータ電位の経時変化を調べ、その結果を図3に示した。
この結果、殺菌剤を添加した本願発明により再生した研磨用スラリーが、安定してゼータ電位をプラス側に保持することができ、経時変化によらず研磨を安定に行うことに寄与できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の研磨用スラリーの再生システムの概略構成を示す図である。
【図2】砥粒のゼータ電位と研磨後のスクラッチ数との関係を示した図である。
【図3】実施例1及び比較例1の再生した研磨用スラリーにおける砥粒のゼータ電位の経時変化を示したグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1…研磨用スラリーの再生システム、2…回収システム、3…プレフィルター、4…キレート形成処理装置、5…組成調整タンク、6…粒度調整フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの研磨用スラリーから不純物を除去して、補正液を添加することにより再生する研磨用スラリーの再生方法において、
前記補正液として、触媒、有機酸、硝酸及び殺菌剤を添加し、前記研磨用スラリー中の砥粒のゼータ電位を0mVより大きいプラスの電位値となるように制御することを特徴とする研磨用スラリーの再生方法。
【請求項2】
前記触媒が硝酸鉄、前記有機酸がマロン酸、前記殺菌剤がイソチアゾリン又はイソチアゾロンであることを特徴とする請求項1記載の研磨用スラリーの再生方法。
【請求項3】
前記硝酸鉄が鉄濃度で50〜200ppm、前記マロン酸が300〜1000ppm、前記殺菌剤が1〜1000ppmの濃度範囲で添加されることを特徴とする請求項2記載の研磨用スラリーの再生方法。
【請求項4】
前記ゼータ電位が+0.1〜1.0mVであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の研磨用スラリーの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−255203(P2009−255203A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104495(P2008−104495)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】