説明

研磨用ブラシ毛材とその製造方法および研磨ブラシ

【課題】圧延ロールなどの被研磨物表面の洗浄および研磨に使用するに際し、砥材粒子が毛材から脱落しにくいばかりか毛材の折損が少なくて、被研磨物の表面を傷つけることなく効率よく洗浄および研磨することができると共に、ブラシに植毛した毛材の根元部分における屈曲疲労性が優れて持続的な研磨性能を発揮する研磨用ブラシ毛材、その製造方法および研磨ブラシを提供する。
【解決手段】砥材粒子含有熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなるモノフィラメントの表面に、ポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層を形成してなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の製造工程の一つである金属圧延工程において、圧延ロールなどの被研磨物表面を洗浄および研磨するために使用する研磨用ブラシ毛材の改良に関し、さらに詳しくは、被研磨物の表面を傷つけることなく効率よく洗浄および研磨することができると共に、耐久性に優れ持続的な研磨性能を発揮する研磨用ブラシ毛材、その製造方法および研磨ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板の製造工程における圧延ロールなどの被研磨物表面の洗浄および研磨には、ディスクロールブラシ、チャンネルロールブラシ、カップ状ブラシなどの研磨ブラシが使用されており、さらにこれらの研磨ブラシの毛材としては、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントが使用されている。
【0003】
これらの研磨ブラシは、回転しながら被研磨物の表面に押圧され、この被研磨物上に付着したスラッジや錆を除去するために使用されるが、研磨中に毛材同士が擦れ合うために毛材表面から砥材粒子が脱落したり、毛材が折損したりするなどの問題があり、その対策としては、毛材表面に露出している砥粒粒子を予め落とすなどの面倒な手段が採られている。
【0004】
特に、被研磨物がジュース缶などの食品分野で数多く使用されるアルミニウム板の場合には、その表面に傷が付いていたり、折損した毛材や脱落した砥材粒子が付着していたりすると、製品安全上の大きな問題となることから、その取り扱いが特に厳しくなっている。
【0005】
こうした問題に対処するための従来技術としては、砥材粒子と熱可塑性樹脂との接着力を向上させるために、砥材粒子表面にシランカップリング処理を施した研磨用ブラシ毛材(例えば、特許文献1参照)や、砥材粒子の脱落を防止するために、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントにマルチ繊維をカバーリングした研磨用ブラシ毛材(例えば、特許文献2参照)が既に提案されている。
【0006】
しかしながら、シランカップリング処理を施した研磨用ブラシ毛材は、シランカップリング処理を施していない研磨用ブラシ毛材に比べてある程度の改善はされるものの、洗浄や研磨時に毛材同志が強く擦れ合うために、やはり砥材粒子の脱落防止には十分な効果を発揮せず、また植毛した毛材の根元部分の屈曲疲労性が低いため、毛材の折損が発生しやすいという問題があった。
【0007】
また、マルチ繊維でカバーリングした研磨用ブラシ毛材についても、やはり毛材同志が強く擦れ合うために、マルチ繊維が解れてしまうばかりか、マルチ繊維が切れて被研磨物に付着したり、被研磨物の冷却工程において、切れたマルチ繊維が冷却配管内に詰まったりするなどの支障をきたすため、研磨用ブラシ毛材の更なる改善が強く要望されていた。
【0008】
さらに、従来の研磨用ブラシ毛材を使用した研磨ブラシは、研磨用ブラシ毛材から砥材粒子が脱落しやすいことから、洗浄や研磨を繰り返していくうちに研磨力が低下する傾向にあり、優れた研磨性能を持続的に発揮する研磨用ブラシ毛材の実現が強く求められていた。
【特許文献1】特開昭55−51813号公報
【特許文献2】特開2001−32756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、圧延ロールなどの被研磨物表面の洗浄および研磨に使用するに際し、砥材粒子が毛材から脱落しにくいばかりか毛材の折損が少なくて、被研磨物の表面を傷つけることなく効率よく洗浄および研磨することができると共に、ブラシに植毛した毛材の根元部分における屈曲疲労性が優れて持続的な研磨性能を発揮する研磨用ブラシ毛材、その製造方法および研磨ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明によれば、砥材粒子含有熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなるモノフィラメントの表面に、ポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層を形成してなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提供される。
【0011】
なお、本発明の研磨用ブラシ毛材においては、
前記モノフィラメントがポリアミド系樹脂からなり、前記熱可塑性ホットメルト接着剤が共重合ポリアミド系水系懸濁液であること、
前記モノフィラメントがポリエステル系樹脂からなり、前記熱可塑性ホットメルト接着剤が共重合ポリエステル系水系懸濁液であること、および
前記熱可塑性ホットメルト接着剤が含有する共重合ポリアミドおよび共重合ポリエステルの融点が、前記モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂の融点より5℃以上低いこと
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0012】
また、本発明の研磨用ブラシ毛材の製造方法は、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントを、共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液に浸漬した後、定長または弛緩条件下180〜200℃の温度で熱処理することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の研磨ブラシは、上記の研磨ブラシ毛材を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧延ロールなどの被研磨物表面の洗浄および研磨に使用するに際し、砥材粒子が毛材から脱落しにくいばかりか毛材の折損が少なくて、被研磨物の表面を傷つけることなく効率よく洗浄および研磨することができると共に、ブラシに植毛した毛材の根元部分における屈曲疲労性が優れて持続的な研磨性能を発揮する研磨用ブラシ毛材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の研磨用ブラシ毛材は、砥材粒子含有熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなるモノフィラメントの表面に、ポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層を形成してなることを特徴とするものである。
【0017】
つまり、本発明の研磨用ブラシ毛材は、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面に、ポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層を形成してなるため、毛材表面に砥材粒子が露出せずこの砥材粒子の脱落が極めて少なくなると共に、コーティング層の存在により毛材の根元部分の屈曲疲労性が向上するばかりか、洗浄や研磨時に毛材同士の擦れ合いによる折損が少なくなり、その結果優れた研磨性を保持したまま、持続的な研磨性能を発揮して耐久性にも優れたものとなるのである。
【0018】
ここで、本発明の研磨用ブラシ毛材の砥材粒子含有モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂素材としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610(以下、N610という)、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、低密度および高密度ポリエチレン、シンジオタクチックまたはアタクチックまたはイソタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン・ポリブタジエン・ポリスチレンブロックコポリマー、ポリスチレン・ポリイソプレン・ポリスチレンブロックコポリマーなどのスチレン系エラストマー、エチレン・プロピレン・ジエチレンコポリマーなどのオレフィン系ゴムとポリプロピレンまたはエチレンなどのポリオレフィンとのブレンドなどのポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、フッ素ゴム系エラストマー、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリカボネート、ポリアリレート、エチレンテトラフロロエチレン、ポリビニリデンフロライドなどのフッ素系樹脂などが挙げられるが、後述するように、熱可塑性ホットメルト接着剤として共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液を使用する場合には、これらと同系の樹脂を使用することによって接着力が向上できるとの理由から、ポリアミド系樹脂およびポリエステル系樹脂の使用が特に好ましい。
【0019】
また、本発明で使用するポリアミド系樹脂は、その相対粘度が低いと溶融紡糸が不安定となる場合があるため、相対粘度が3.0以上であるものが好ましく、ポリエステル系樹脂の場合は、その固有粘度が低いと同じく溶融紡糸が不安定となる場合があるため、固有粘度が0.6以上であるものが好ましい。
【0020】
なお、ポリアミド系樹脂の相対粘度は、濃度98%の硫酸25ccの中にポリアミド系樹脂0.25gを溶解し、この溶液を25℃の温度条件下でオストワルド粘度管を使用して測定したものであり、ポリエステル系樹脂の固有粘度は、濃度98.5%のオルトクロロフェノール25ml中にポリエステル系樹脂2.0gを溶解し、この溶液を25℃の温度条件下でオストワルド粘度管を使用して測定したものである。
【0021】
また、本発明の研磨用ブラシ毛材を構成するモノフィラメントに含有される砥材粒子としては、炭化ケイ素、緑色炭化ケイ素、酸化アルミナ、および人工ダイヤモンドなどを使用することができ、その番手については#36〜#3000、特に#60〜#1500のものを好ましく使用することができる。
【0022】
なお、研磨用ブラシ毛材を構成する砥材粒子含有モノフィラメントにおける砥材粒子の含有量は、その量が少ない場合は、研磨能力が不十分になる傾向にあり、逆に多い場合は、研磨用ブラシ毛材の強度が低下するばかりか、折損耐久性も低下する傾向にあることから、熱可塑性樹脂に対して5〜40重量%の範囲にあることが好ましく、さらには10〜30重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0023】
本発明の研磨用ブラシ毛材を構成する砥材粒子含有モノフィラメントは、砥材粒子含有熱可塑性樹脂組成物を通常の溶融紡糸に供することにより製造されるが、紡糸後のモノフィラメントには、必要に応じて延伸や熱処理などの処理を施すこともできる。
【0024】
かくして得られた砥材粒子含有モノフィラメントの表面には、次いでポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層が形成される。
ここでいう熱可塑性ホットメルト接着剤とは、低融点でモノフィラメントの基材樹脂よりも低い温度で溶融する熱可塑性樹脂を、水溶液中に数ミクロンの大きさで懸濁させたものであり、取扱いの容易さと形成したコーティング層の性能面からは、共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液の使用が特に好ましい。
【0025】
ここで、共重合ポリアミド系水系懸濁液としては、エムスケミー・ジャパン製Griltex 2A Suspension、Griltex D1500A Suspensionなどが、また共重合ポリエステル系水系懸濁液としては、エムスケミー・ジャパン製Griltex D1377E Suspension、Griltex 9E Suspensionなどがそれぞれ市販されており、これらを入手して使用することができる。
【0026】
なお、これらの共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液を使用する場合には、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂として同系の樹脂を選択するのが望ましく、例えば共重合ポリアミド系水系懸濁液では砥材粒子含有ポリアミド系樹脂モノフィラメントを、また共重合ポリエステル系水系懸濁液では砥材粒子含有ポリエステル系樹脂モノフィラメントを、それぞれ組み合わせることが好ましい。
【0027】
このように、砥材粒子含有モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂と、熱可塑性ホットメルト接着剤を構成する樹脂とを同系の樹脂素材にすることにより、砥材粒子含有モノフィラメントとコーティング層間の接着力が向上して、コーティング層が剥離しにくくなるばかりか、砥材粒子が研磨用ブラシ毛材から一層脱落しにくくなると共に、洗浄や研磨時に毛材の折損がなく、且つ植毛した毛材の根元部分における屈曲疲労性にも優れることになるため、より一層の耐久性改善を期待することができる。
【0028】
また、本発明で使用するホットメルト接着剤、特に共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液に含有される樹脂成分の融点は、砥材粒子含有モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂の融点より5℃以上低いことが好ましい。
【0029】
つまり、共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液に含有される共重合ポリアミドおよび/または共重合ポリエステルの粒子は数ミクロンの大きさで分散されており、これに砥材粒子含有モノフィラメントを浸漬してモノフィラメント表面に塗布してから、水分を取り除くため乾燥した後、加熱処理により共重合ポリアミドおよび/または共重合ポリエステル粒子を溶融して、モノフィラメント表面にコーティング層が形成されるが、この加熱処理時に砥材粒子含有モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂の融点より5℃以上低くない場合には、熱可塑性樹脂の融点以上にまで温度を加えなければならなくなり、溶融被覆が困難となるという好ましくない傾向が招かれるからである。
【0030】
本発明の研磨用ブラシ毛材の製造方法は、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントを、共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液に浸漬した後、定長または弛緩条件下180〜200℃の温度で熱処理することからなる。
【0031】
ここでは、熱処理を定長または弛緩条件下180〜200℃の温度で行うことにより、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントに塗布された共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液の水分が除かれ、懸濁液中の共重合ポリアミドおよび/または共重合ポリエステル樹脂の微粒子が、均一に砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面に付着し溶融被覆が均一に行われることとなる。
【0032】
また、こうして得られた砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントは、分子構造が安定し、ブラシ用毛材として欠かせない直線性と耐へたり性が得られるため、研磨ブラシ毛材として好適に使用ができる。
【0033】
一方、熱処理を延伸条件下で行った場合には、砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントに塗布された共重合ポリアミドおよび/または共重合ポリエステル樹脂の微粒子が途切れてしまい、均一に溶融被覆がされないことから好ましくない。
【0034】
なお、本発明においては、砥材粒子の脱落をより効果的に低減させるために、使用する砥材粒子の表面に予めシランカップリング処理を施すことも可能である。
【0035】
こうして得られた本発明の研磨用ブラシ毛材は、ディスクロールブラシ、チャンネルロールブラシ、カップ状ブラシなどの研磨ブラシの少なくとも一部に使用され、得られた研磨ブラシは、砥材粒子の脱落が極めて少なく、洗浄や研磨時の毛材の折損がないなどの効果に加え、持続的な研磨性能を遺憾なく発揮する。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げ本発明の構成および効果をさらに説明する。
【0037】
なお、以下の実施例における砥粒粒子の脱落評価、折損耐久性評価および研磨性評価は下記の方法により行ったものである。
【0038】
[砥材粒子の脱落性評価]
50mmにカットした複合モノフィラメントを20本束ね、まずこの束の質量A(g)を測定した。次に、この束を上下2枚の金属板に挟み、1kgの荷重で押圧しながら、上側の金属板を複合モノフィラメント束が転がる方向に往復距離5cm、且つ5分間往復運動させた。その後複合モノフィラメント束の質量Bを再び測定し、次式100×(A−B)/Aから砥材粒子脱落率(%)を算出した。砥材粒子脱落率(%)が低いほど砥材粒子の脱落が少ないことを示す。
【0039】
[折損耐久性]
JIS P8115に記載する屈曲揉み疲労(MIT)試験機を使用し、荷重15.7N(1.5kgf)、折り曲げ角度270°(左右135°)、且つ毎分175±10回の速度で、得られた複合モノフィラメントを繰り返し折り曲げ、複合モノフィラメントが切断するまでの往復折り曲げ回数を5回測定した。この5回の測定値の平均が大きいほど折損耐久性に優れていることを示す。
【0040】
[研磨性]
得られたモノフィラメントを使用し、内径45mm、外径70mm、毛丈30mmのカップ状ブラシを作製した。そして、このカップ状ブラシをハンドグラインダーに取り付け、圧力50N、回転数12000rpmで真鍮金属板の表面を30分間研磨し、削り取られた真鍮金属の質量を測定した。この質量が大きいほど研磨性に優れていることを示す。
【0041】
また、上記研磨作業を引き続き5回繰り返し行い、最後の5回目に削り取られた真鍮金属の質量についても測定した。5回目の質量が1回目の質量と比べて少ない場合は、研磨用ブラシ毛材の研磨性能が低下していることを示す。
【0042】
[実施例1]
相対粘度が3.8のN610樹脂(東レ(株)製M2041)77重量%と、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製SH6020)を0.2重量%被覆処理した粒度番手#100の炭化ケイ素砥材粒子(昭和電工社製)23重量%との混合物をエクストルダー型紡糸機に供給し、260℃の温度で溶融混練した後、口金孔から押出した。次に、押出された糸条を20℃の冷却浴で冷却固化した後、引き続き180℃の熱風雰囲気中で3.2倍に延伸することにより、直径1.0mmのモノフィラメントを得た。
【0043】
次いで、得られたモノフィラメントを水系・共重合ポリアミドサスペンジョン(エムスケミー・ジャパン製Griltex 2A Suspension)に浸漬した後、180℃の温度で定長熱処理した。
【0044】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、N610樹脂77重量%と炭化ケイ素砥材粒子23重量%の混合比をN610樹脂70重量%と炭化ケイ素砥材粒子30重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0046】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0047】
[実施例3]
実施例1において、N610樹脂を固有粘度が1.5のPBT樹脂(東レ(株)製1500S)に、また水系・共重合ポリアミドサスペンジョンを共重合ポリエステルサスペンジョン(エムスケミー・ジャパン製Griltex D1377E Suspension)に、それぞれ変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0048】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0049】
[実施例4]
実施例1において、水系・共重合ポリアミドサスペンジョンを水系・共重合ポリエステルサスペンジョンに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0050】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0051】
[実施例5]
実施例3において、水系・共重合ポリエステルサスペンジョンを、水系・共重合ポリアミドサスペンジョンに変更したこと以外は、実施例3と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0052】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、水系・共重合ポリアミドサスペンジョンをディップしないこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0054】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0055】
[比較例2]
比較例1において、N610樹脂77重量%と炭化ケイ素砥材粒子23重量%の混合比を、N610樹脂70重量%と炭化ケイ素砥材粒子30重量%に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0056】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0057】
[比較例3]
実施例3において、水系・共重合ポリエステルサスペンジョンをディップしないこと以外は、実施例3と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0058】
そして、得られた複合モノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。複合モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0059】
[比較例4]
比較例3において、PBT樹脂77重量%と炭化ケイ素砥材粒子23重量%の混合比を、PBT樹脂70重量%と炭化ケイ素砥材粒子30重量%に変更したこと以外は、比較例3と同じ条件でモノフィラメントを得た。
【0060】
そして、得られたモノフィラメントをカットし、これを研磨用ブラシ毛材としてカップ状ブラシの作製に使用した。モノフィラメントおよびカップ状ブラシの各評価結果を表1に併せて示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たす研磨用ブラシ毛材(実施例1〜5)は、砥材粒子の脱落がなく、折損耐久性に優れ、持続的な研磨性能を持った毛材であることが分かる。
【0063】
特に、モノフィラメントの基材樹脂と熱可塑性ホットメルト接着剤の基材樹脂とが同じ種類の樹脂の場合(実施例1〜3)は、砥材粒子の脱落が極めて少なく、折損耐久性に優れ、持続的な研磨性能を持った毛材であることが分かる。
【0064】
これに対し、本発明の条件を満たさない研磨ブラシ毛材は、上記効果を十分には発揮せず、例えば、コーティング層がない従来の研磨用ブラシ毛材(比較例1〜3)は、砥材粒子の脱落が多いばかりか折損耐久性にも欠け、砥材粒子の脱落が多いばかりか、研磨性が低下するなどの問題が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の研磨用ブラシ毛材および研磨ブラシは、圧延ロールなどの被研磨物表面の洗浄および研磨に使用するに際し、砥材粒子が毛材から脱落しにくいばかりか毛材の折損が少なくて、被研磨物の表面を傷つけることなく効率よく洗浄および研磨することができると共に、ブラシに植毛した毛材の根元部分における屈曲疲労性が優れて持続的な研磨性能を発揮するものであることから、特に金属板表面に傷が付いていたり、折損した毛材や脱落した砥材粒子が付着していたりすると製品安全上の問題となりやすいアルミニウム板の洗浄および研磨に使用するディスクロールブラシ、チャンネルロールブラシ、カップ状ブラシに利用した場合は、これらの効果を遺憾なく発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥材粒子含有熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸してなるモノフィラメントの表面に、ポリアミド系および/またはポリエステル系の熱可塑性ホットメルト接着剤のコーティング層を形成してなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記モノフィラメントがポリアミド系樹脂からなり、前記熱可塑性ホットメルト接着剤が共重合ポリアミド系水系懸濁液であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記モノフィラメントがポリエステル系樹脂からなり、前記熱可塑性ホットメルト接着剤が共重合ポリエステル系水系懸濁液であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項4】
前記熱可塑性ホットメルト接着剤が含有する共重合ポリアミドおよび共重合ポリエステルの融点が、前記モノフィラメントを構成する熱可塑性樹脂の融点より5℃以上低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨ブラシ毛材。
【請求項5】
砥材粒子含有熱可塑性樹脂モノフィラメントを、共重合ポリアミド系水系懸濁液および/または共重合ポリエステル系水系懸濁液に浸漬した後、定長または弛緩条件下180〜200℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨ブラシ毛材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨ブラシ毛材を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする研磨ブラシ。

【公開番号】特開2009−202298(P2009−202298A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48058(P2008−48058)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】