説明

研磨装置及び方法

【課題】研磨面に溝加工が施されていない場合又は研磨面の溝加工の深さや数が充分でない場合においても、研磨面に半導体ウエハ等の基板を接地させた時に研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、研磨圧力を掛けても基板の変形を抑制することができる研磨装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の研磨装置は、研磨面を有した研磨テーブル100と、圧力流体が供給される複数の圧力室5Aを形成する弾性膜4を有し、複数の圧力室5Aに圧力流体を供給することで流体圧により基板Wを研磨面101aに押圧する研磨ヘッドと、複数の圧力室5Aへの圧力流体の供給を制御する制御装置33とを備え、制御装置33は、基板を研磨面101aに接地する際に、基板Wの中心部に位置する圧力室5Aに圧力流体を供給し、その後、基板Wの中心部より外周側に位置する圧力室5Aに圧力流体を供給するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置及び方法に係り、特に半導体ウエハなどの研磨対象物(基板)を研磨して平坦化する研磨装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
従って、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド等の研磨面上に供給しつつ半導体ウエハなどの基板を研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
この種の研磨装置は、研磨パッドからなる研磨面を有する研磨テーブルと、半導体ウエハを保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いて半導体ウエハの研磨を行う場合には、基板保持装置により半導体ウエハを保持しつつ、この半導体ウエハを研磨面に対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることにより半導体ウエハが研磨面に摺接し、半導体ウエハの表面が平坦かつ鏡面に研磨される。
【0005】
このような研磨装置において、研磨中の半導体ウエハと研磨パッドの研磨面との間の相対的な押圧力が半導体ウエハの全面に亘って均一でない場合には、半導体ウエハの各部分に与えられる押圧力に応じて研磨不足や過研磨が生じてしまう。半導体ウエハに対する押圧力を均一化するために、基板保持装置の下部に弾性膜から形成される圧力室を設け、この圧力室に圧縮空気などの圧力流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを押圧することが行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−255851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、基板保持装置の下部に弾性膜から形成される圧力室を設け、この圧力室に圧縮空気などの圧力流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを押圧するタイプの研磨装置においては、以下の問題点があることが判明した。
すなわち、半導体ウエハを研磨パッドの研磨面に接地(接触)した後に、圧力室に圧縮空気などの圧力流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを研磨面に押圧して研磨を開始するが、研磨開始して直ぐに半導体ウエハが割れたり破損したりする現象が生ずることがある。
【0008】
本発明者らは、種々の実験を繰り返し行うとともに実験結果の解析を進めた結果、研磨開始時に起こる半導体ウエハの破損の一部は、研磨パッドの表面状態によるものであることを究明した。すなわち、研磨パッド表面には特別な溝や穴形状の加工を施すことが一般的になっている。たとえば、1〜2mm直径の小さい穴を表面に多数あけてスラリーの保持性向上を図るタイプ、格子状、同心円状あるいは螺旋状の溝をつけてパッド表面でのスラリーの流動性やウエハ面内の平坦性・均一性の向上とウエハの吸い付き防止を図るタイプなどがある。この場合、小さい穴をあけたタイプの研磨パッドなどのように溝加工が施されていないタイプあるいは溝加工が十分に施されていないタイプの研磨パッドにおいては、半導体ウエハを研磨パッドの表面(研磨面)に接地した後の研磨開始時に半導体ウエハが割れたり破損したりする場合があることが判明した。
【0009】
この原因について、実験結果の解析から、本発明者らは、研磨面に溝加工が施されていない場合又は研磨面の溝加工の深さや数が充分でない場合、研磨面に半導体ウエハを接地させた時に研磨面と半導体ウエハ間にエアやスラリーが封入され、そのまま研磨圧力を掛けると半導体ウエハに通常より大きな変形を生じさせ、半導体ウエハに割れや破損を引き起こすことがあることを究明した。
【0010】
また、上述したように、基板保持装置の下部に弾性膜から形成される圧力室を設け、この圧力室に圧縮空気などの圧力流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを押圧するタイプの研磨装置には、圧力室を複数設け、各圧力室に供給される圧力流体の圧力をそれぞれ制御することにより、半導体ウエハの半径方向に沿った各領域毎(エリア毎)に異なった圧力で半導体ウエハを押圧することが可能な研磨装置がある。この種の研磨装置においては、半導体ウエハの面内の研磨速度を領域毎に制御可能であるが、半導体ウエハの保持・加圧面がゴムなどの軟質弾性膜であるため、隣り合う二つの領域(エリア)に供給される圧力流体に圧力差がある場合、領域間で研磨圧力にも階段状の段差が生じ、その結果、研磨形状(研磨プロファイル)にも階段状の段差が生じるという問題点がある。この場合、隣り合う二つの領域(エリア)に供給される圧力流体の圧力差が大きいと、研磨形状(研磨プロファイル)の階段状の段差も隣り合う二つの領域(エリア)に供給される圧力流体の圧力差に応じて大きくなるという問題点がある。
【0011】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、研磨面に溝加工が施されていない場合又は研磨面の溝加工の深さや数が充分でない場合においても、研磨面に半導体ウエハ等の基板を接地させた時に研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、研磨圧力を掛けた際の基板の過度な変形を抑制することができる研磨装置及び方法を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、基板の領域毎に異なった圧力で加圧することが可能な研磨ヘッドにおいて隣り合う領域の間で異なった圧力で基板を加圧する場合に、領域間で研磨圧力に階段状の段差を生じさせることなく、研磨圧力をなだらかに変化させることができる研磨装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の研磨装置の一態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される複数の圧力室を形成する弾性膜を有し、前記複数の圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドと、前記複数の圧力室への圧力流体の供給を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給するように制御することを特徴とする。
本発明によれば、まず基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、基板の中心部を研磨面に接地させて押圧する。そして、わずかな時間の後に、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給し、基板の外周部を研磨面に押圧する。このように、基板の中心部を先に接地させて押圧することにより、研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても基板が通常より大きな変形を生じることはない。したがって、基板を研磨面に接地した後の研磨開始時に基板に通常より大きな変形が生じることにより発生する基板の割れや破損を防止することができる。
【0013】
本発明の研磨装置の一態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜を有し、前記圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドと、前記圧力室への圧力流体の供給を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給するように制御することを特徴とする。
本発明によれば、まず基板の中心部に対応した位置にある供給孔から圧力室の中心部に圧力流体を供給し、基板の中心部を研磨面に接地させて押圧する。そして、わずかな時間の後に、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から圧力室の外周部に圧力流体を供給し、基板の外周部を研磨面に押圧する。このように、基板の中心部を先に接地させて押圧することにより、研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても基板が通常より大きな変形を生じることはない。したがって、基板を研磨面に接地した後の研磨開始時に基板に通常より大きな変形が生じることにより発生する基板の割れや破損を防止することができる。
【0014】
本発明の研磨装置の好ましい態様は、前記研磨ヘッドは、予め設定した研磨ヘッドの研磨時設定位置まで下降し、該研磨時設定位置は、前記圧力室に圧力流体が供給される前に前記研磨ヘッドに保持された基板の下面と前記研磨面との間に間隙が形成される位置であることを特徴とする。
本発明によれば、圧力室に圧力流体が供給される前で、弾性膜が膨らむ前の状態では、基板が研磨面に接触することなく、わずかな間隙がある。
【0015】
本発明の研磨方法の一態様は、弾性膜により形成される複数の圧力室を有した研磨ヘッドに圧力流体を供給し、基板を研磨テーブルの研磨面に押圧して研磨する研磨方法において、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給することを特徴とする。
本発明によれば、まず基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、基板の中心部を研磨面に接地させて押圧する。そして、わずかな時間の後に、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給し、基板の外周部を研磨面に押圧する。このように、基板の中心部を先に接地させて押圧することにより、研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても基板が通常より大きな変形を生じることはない。したがって、基板を研磨面に接地した後の研磨開始時に基板に通常より大きな変形が生じることにより発生する基板の割れや破損を防止することができる。
【0016】
本発明の研磨方法の一態様は、弾性膜により形成される圧力室を有した研磨ヘッドに基板の異なる半径方向に対応する位置に設けられた複数の供給孔から圧力流体を供給し、基板を研磨テーブルの研磨面に押圧して研磨する研磨方法において、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給することを特徴とする。
本発明によれば、まず基板の中心部に対応した位置にある供給孔から圧力室の中心部に圧力流体を供給し、基板の中心部を研磨面に接地させて押圧する。そして、わずかな時間の後に、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から圧力室の外周部に圧力流体を供給し、基板の外周部を研磨面に押圧する。このように、基板の中心部を先に接地させて押圧することにより、研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても基板が通常より大きな変形を生じることはない。したがって、基板を研磨面に接地した後の研磨開始時に基板に通常より大きな変形が生じることにより発生する基板の割れや破損を防止することができる。
【0017】
本発明の研磨装置の一態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される複数の圧力室を形成する弾性膜を有し、前記複数の圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドとを備え、隣接する二つの圧力室に跨るように、前記弾性膜より剛性の高い材料からなるダイヤフラムを設け、前記ダイヤフラムは、前記二つの圧力室の境界から内周側および外周側に10mm以上の範囲を有することを特徴とする。
本発明によれば、隣接する二つの室内の圧力に圧力差がある場合に、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界において、研磨圧力、ひいては研磨速度が一方の室側(圧力が高い室側)から他方の室側(圧力が低い室側)に向かってなだらかに下がっていく。すなわち、ダイヤフラムを設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界において研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。通常、圧力室を形成するためにメンブレンとして使用している弾性膜は、剛性が低い(縦弾性係数/ヤング率が小さい。厚さが小さい)ため、隣り合う領域に比較的大きな圧力差がある場合、領域境界付近で研磨圧力分布に階段状の段差(急激な変化)が生じてしまう。それに対して、本発明では、弾性膜よりも剛性の高い材料のダイヤフラム(弾性変形しにくい。縦弾性係数が大きい。)を用いているため、圧力差によるダイヤフラムの局所的な変形量が小さくなり、変形する領域が拡大し、隣り合う領域境界付近の圧力勾配がなだらかになる。従って、ダイヤフラムとして挿入する材料に求められるものは、弾性体であるが、弾性膜よりも縦弾性係数が大きく、変形しにくいものである。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記ダイヤフラムは、前記弾性膜に固定されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記ダイヤフラムは、PEEK又はPPS又はポリイミドからなる樹脂、ステンレス鋼又はアルミニウムからなる金属、およびアルミナ又はジルコニア又は炭化ケイ素又は窒化ケイ素からなるセラミックのいずれか1つからなることを特徴とする。前記ダイヤフラムの材料は、上記材料以外にも、PET、POM、ポリカーボネートなど、一般的なエンジニアリングプラスチックでもよい。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記ダイヤフラムは、前記複数の圧力室を形成する前記弾性膜の略全面を覆っていることを特徴とする。
本発明によれば、隣接する二つの室内の圧力に圧力差がある場合に、隣り合う二つの領域(エリア)間の全ての境界において、研磨圧力、ひいては研磨速度が一方の室側(圧力が高い室側)から他方の室側(圧力が低い室側)に向かってなだらかに下がっていく。すなわち、ダイヤフラムを設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界の全てにおいて研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記ダイヤフラムを覆うとともに、基板と接触して基板を保持するための基板保持面を構成する弾性膜を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、ダイヤフラムは、弾性膜で覆われており、ダイヤフラムが直接に基板に接触しないようになっている。弾性膜は、基板を保持する保持面を構成するため、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、研磨テーブルの研磨面に溝加工が施されていない場合又は研磨面の溝加工の深さや数が充分でない場合においても、研磨面に半導体ウエハ等の基板を接地させた時に研磨面と基板との間にエアやスラリーが封入されることがなく、研磨圧力を掛けた際の基板の過度な変形を抑制することができる。したがって、研磨開始時に、通常より大きな変形が生じることにより発生する基板の割れや破損を防止することができる。
【0022】
また、本発明によれば、基板の領域毎に異なった圧力で加圧することが可能な研磨ヘッドにおいて、隣り合う領域の間で異なった圧力で基板を加圧する場合に、領域間で研磨圧力に階段状の段差を生じさせることなく、研磨圧力ひいては研磨速度をなだらかに変化させることができる。したがって、最適な研磨形状(研磨プロファイル)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る研磨装置及び研磨方法の実施形態について図1乃至図19を参照して詳細に説明する。なお、図1乃至図19において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル100と、研磨対象物である半導体ウエハ等の基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1とを備えている。
研磨テーブル100は、テーブル軸100aを介してその下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸100a周りに回転可能になっている。研磨テーブル100の上面には研磨パッド101が貼付されており、研磨パッド101の表面101aが半導体ウエハWを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル102が設置されており、この研磨液供給ノズル102によって研磨テーブル100上の研磨パッド101上に研磨液Qが供給されるようになっている。
【0025】
トップリング1は、トップリングシャフト111に接続されており、このトップリングシャフト111は、上下動機構124によりトップリングヘッド110に対して上下動するようになっている。このトップリングシャフト111の上下動により、トップリングヘッド110に対してトップリング1の全体を昇降させ位置決めするようになっている。なお、トップリングシャフト111の上端にはロータリージョイント125が取り付けられている。
【0026】
トップリングシャフト111およびトップリング1を上下動させる上下動機構124は、軸受126を介してトップリングシャフト111を回転可能に支持するブリッジ128と、ブリッジ128に取り付けられたボールねじ132と、支柱130により支持された支持台129と、支持台129上に設けられたACサーボモータ138とを備えている。サーボモータ138を支持する支持台129は、支柱130を介してトップリングヘッド110に固定されている。
【0027】
ボールねじ132は、サーボモータ138に連結されたねじ軸132aと、このねじ軸132aが螺合するナット132bとを備えている。トップリングシャフト111は、ブリッジ128と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ138を駆動すると、ボールねじ132を介してブリッジ128が上下動し、これによりトップリングシャフト111およびトップリング1が上下動する。
【0028】
また、トップリングシャフト111はキー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。この回転筒112はその外周部にタイミングプーリ113を備えている。トップリングヘッド110にはトップリング用モータ114が固定されており、上記タイミングプーリ113は、タイミングベルト115を介してトップリング用モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。したがって、トップリング用モータ114を回転駆動することによってタイミングプーリ116、タイミングベルト115、およびタイミングプーリ113を介して回転筒112およびトップリングシャフト111が一体に回転し、トップリング1が回転する。なお、トップリングヘッド110は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたトップリングヘッドシャフト117によって支持されている。
【0029】
図1に示すように構成された研磨装置において、トップリング1は、その下面に半導体ウエハWなどの基板を保持できるようになっている。トップリングヘッド110はトップリングシャフト117を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウエハWを保持したトップリング1は、トップリングヘッド110の旋回により半導体ウエハWの受取位置から研磨テーブル100の上方に移動される。そして、トップリング1を下降させて半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このとき、トップリング1および研磨テーブル100をそれぞれ回転させ、研磨テーブル100の上方に設けられた研磨液供給ノズル102から研磨パッド101上に研磨液を供給する。このように、半導体ウエハWを研磨パッド101の研磨面101aに摺接させて半導体ウエハWの表面を研磨する。
【0030】
次に、本発明の研磨装置における研磨ヘッドの第1の態様について説明する。図2は、研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1の模式的な断面図である。図2においては、トップリング1を構成する主要構成要素だけを図示している。
図2に示すように、トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は、概略円盤状の部材からなり、リテーナリング3はトップリング本体2の外周部に取り付けられている。トップリング本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。トップリング本体2の下面には、半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜4が取り付けられている。弾性膜4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0031】
前記弾性膜4は、円形状の隔壁4aを有し、この隔壁4aによって、弾性膜4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状のセンター室5と環状のアウター室7とが形成されるようになっている。トップリング本体2内には、センター室5に連通する流路11とアウター室7に連通する流路13とが形成されている。そして、流路11はチューブやコネクタ等からなる流路21を介して流体供給源30に接続されており、流路13はチューブやコネクタ等からなる流路23を介して流体供給源30に接続されている。流路21には開閉バルブV1と圧力レギュレータR1が設置されており、流路23には開閉バルブV3と圧力レギュレータR3が設置されている。流体供給源30は、圧縮空気等の圧力流体を供給するようになっている。
【0032】
また、リテーナリング3の直上にもリテーナ室9が形成されており、リテーナ室9は、トップリング本体2内に形成された流路15およびチューブやコネクタ等からなる流路25を介して流体供給源30に接続されている。流路25には開閉バルブV5と圧力レギュレータR5が設置されている。圧力レギュレータR1,R3,R5は流体供給源30からセンター室5、アウター室7およびリテーナ室9に供給する圧力流体の圧力を調整する圧力調整機能を有している。そして、圧力レギュレータR1,R3およびR5および開閉バルブV1,V3およびV5は、制御装置33に接続されていて、それらの作動が制御されるようになっている。
【0033】
図2に示すように構成されたトップリング1においては、弾性膜4とトップリング本体2との間に圧力室、すなわち、センター室5およびアウター室7が形成され、リテーナリング3の直上に圧力室、すなわち、リテーナ室9が形成され、これらセンター室5、アウター室7およびリテーナ室9に供給する流体の圧力を圧力レギュレータR1,R3,R5によってそれぞれ独立に調整することができる。このような構造により、半導体ウエハWを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの領域毎に調整でき、かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整できる。
すなわち、センター室5の直下にある半導体ウエハの円形領域(円形エリア)、アウター室7の直下にある半導体ウエハの環状領域(リング状エリア)ごとに研磨パッド101に押圧する押圧力を独立に調整でき、リテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を独立に調整できる。
【0034】
次に、図2に示すように構成されたトップリング1によって半導体ウエハの研磨を行う場合を図3を参照して説明する。図3においては、トップリング1は主要構成要素のみを模式化して図示している。
トップリング1は基板受渡し装置から半導体ウエハWを受け取り真空吸着により保持する。なお、図2および図3では図示していないが、弾性膜4には半導体ウエハWを真空吸着するための複数の孔が設けられており、これらの孔は真空ポンプ等の真空源に連通されている。半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1は、予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降する。この研磨時設定位置では、リテーナリング3は研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地しているが、研磨前は、トップリング1で半導体ウエハWを吸着保持しているので、半導体ウエハWの下面(被研磨面)と研磨パッド101の表面(研磨面)101aとの間には、わずかな間隙(例えば、約1mm)がある。このとき、研磨テーブル100およびトップリング1は、ともに回転駆動されている。この状態で、開閉バルブV1および開閉バルブV3を同時に開き、流体供給源30からセンター室5およびアウター室7に圧力流体を供給し、半導体ウエハWの裏面側にある弾性膜4を膨らませ、半導体ウエハWの下面(被研磨面)を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させる。このとき、研磨パッド101に溝加工が施されていないか又は溝加工が充分に施されていない場合、図3(a)に示すように、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入され、そのまま研磨圧力を掛けると半導体ウエハWに通常より大きな変形を生じさせ、半導体ウエハWに割れや破損を引き起こす。
【0035】
これに対して、半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1を予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降させた後に、弾性膜4を膨らませる際に、制御装置33は、まず開閉バルブV1を開き、流体供給源30からセンター室5に圧力流体を供給し、弾性膜4の中心部のみを膨らませ、半導体ウエハWの下面中心部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させて押圧する。そして、制御装置33は、開閉バルブV1を開いてから、わずかな時間、例えば、1秒〜3秒以内に、開閉バルブV3を開き、流体供給源30からアウター室7に圧力流体を供給し、弾性膜4の外周部も膨らませ、半導体ウエハWの下面外周部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このように、半導体ウエハWの中心部を先に接地させて押圧することにより、図3(b)に示すように、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても半導体ウエハWが通常より大きな変形を生じることはない。したがって、半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地した後の研磨開始時に通常より大きな変形が生じることにより発生する半導体ウエハWの割れや破損を防止することができる。
【0036】
図4は、研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1の変形例を示す模式的な断面図である。図4においては、トップリング1は主要構成要素のみを模式化して図示している。
図4に示す実施形態においては、弾性膜4の上面とトップリング本体2の下面との間に形成される圧力室は、単一の圧力室5Aからなる。トップリング本体2の中央部に形成された流路(供給孔)11は、流路21を介して流体供給源30に接続されており、トップリング本体2の外周部に形成された流路(供給孔)13は、流路23を介して流体供給源30に接続されている。流路21には開閉バルブV1と圧力レギュレータR1が設置されており、流路23には開閉バルブV3と圧力レギュレータR3が設置されている。リテーナリング3の直上のリテーナ室9は流路25を介して流体供給源30に接続されている。流路25には開閉バルブV5と圧力レギュレータR5が設置されている。圧力レギュレータR1,R3およびR5および開閉バルブV1,V3およびV5は、制御装置33に接続されていて、それらの作動が制御されるようになっている。
【0037】
図5は、図4に示すように構成されたトップリング1によって半導体ウエハWの研磨を行う場合を示す模式的な断面図である。
半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1を予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降させた後に、開閉バルブV1および開閉バルブV3を同時に開き、流路(供給孔)11および流路(供給孔)13から圧力室5Aの中心部および外周部に同時に圧力流体を供給し、半導体ウエハWの裏面側にある弾性膜4を膨らませ、半導体ウエハWの下面を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させる。このとき、研磨パッド101に溝加工が施されていないか又は溝加工が充分に施されていない場合、図5(a)に示すように、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入され、そのまま研磨圧力を掛けると半導体ウエハWに通常より大きな変形を生じさせ、半導体ウエハWに割れや破損を引き起こす。
【0038】
これに対して、半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1を予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降させた後に、弾性膜4を膨らませる際に、制御装置33は、まず開閉バルブV1を開き、流路(供給孔)11から圧力室5Aの中心部に圧力流体を供給し、弾性膜4の中心部のみを膨らませ、半導体ウエハWの下面中心部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させて押圧する。そして、制御装置33は、開閉バルブV1を開いてから、わずかな時間、例えば、1秒〜3秒以内に、開閉バルブV3を開き、流路(供給孔)13から圧力室5Aの外周部に圧力流体を供給し、弾性膜4の外周部も膨らませ、半導体ウエハWの下面外周部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このように、半導体ウエハWの中心部を先に接地させて押圧することにより、図5(b)に示すように、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても半導体ウエハWが通常より大きな変形を生じることはない。したがって、半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地した後の研磨開始時に通常より大きな変形が生じることにより発生する半導体ウエハWの割れや破損を防止することができる。
【0039】
図6は、研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1の別の変形例を示す模式的な断面図である。
図6に示す実施形態においては、弾性膜4の上面とトップリング本体2の下面との間に形成される圧力室は、単一の圧力室5Aからなる。本実施形態においては、トップリング本体2の中央部にのみ流路(供給孔)11が形成されている。流路11は、流路21を介して流体供給源30に接続されており、流路21には開閉バルブV1と圧力レギュレータR1が設置されている。
【0040】
図6に示す実施形態においては、弾性膜4を膨らませる際に、開閉バルブV1を開き、流路(供給孔)11から圧力室5Aの中心部に圧力流体を供給し、弾性膜4の中心部を先に膨らませ、半導体ウエハWの下面中心部を先に研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させ、次に、圧力流体が外周部に流れて、わずかに遅れて半導体ウエハWの外周部を研磨面101aに接地させる。このように、半導体ウエハWの中心部を先に接地させて押圧することにより、図6に示すように、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても半導体ウエハWが通常より大きな変形を生じることはない。したがって、半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地した後の研磨開始時に通常より大きな変形が生じることにより発生する半導体ウエハWの割れや破損を防止することができる。
【0041】
図2乃至図6においては、圧力レギュレータR1〜R5と開閉バルブV1〜V5とを個別に設置したが、圧力レギュレータR1〜R5のそれぞれに圧力値をゼロまで調整できる開閉バルブの機能をもたせることにより、開閉バルブを省略することもできる。
【0042】
次に、本発明の研磨装置における研磨ヘッドの第2の態様について説明する。図7は、研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1の模式的な断面図である。図7に示すトップリング1は、図2に示すトップリング1と同様に、トップリング本体2と、リテーナリング3と、トップリング本体2の下面に設けられた弾性膜4とを備えている。弾性膜4は同心状の複数の隔壁4aを有し、これら隔壁4aによって、弾性膜4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状のセンター室5、環状のリプル室6、環状のアウター室7、環状のエッジ室8が形成されている。すなわち、トップリング本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、アウター室7、エッジ室8が形成されている。トップリング本体2内には、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、アウター室7に連通する流路13、エッジ室8に連通する流路14がそれぞれ形成されている。そして、各流路11,12,13,14は、それぞれ流路21,22,23,24を介して流体供給源30に接続されている。また、流路21,22,23,24には、それぞれ開閉バルブV1,V2,V3,V4と圧力レギュレータR1,R2,R3,R4が設置されている。
【0043】
また、リテーナリング3の直上にもリテーナ室9が形成されており、リテーナ室9は、トップリング本体2内に形成された流路15およびチューブやコネクタ等からなる流路25を介して流体供給源30に接続されている。流路25には開閉バルブV5と圧力レギュレータR5が設置されている。圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5は、それぞれ流体供給源30からセンター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8およびリテーナ室9に供給する圧力流体の圧力を調整する圧力調整機能を有している。圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5および開閉バルブV1,V2,V3,V4,V5は、制御装置33に接続されていて、それらの作動が制御されるようになっている。
【0044】
図7に示すトップリング1は、弾性膜4の下面(ウエハ保持面側)に、リプル室6とアウター室7の境界20から内周側および外周側の所定範囲にわたって、ダイヤフラム10が接着剤等によって固定されている。ダイヤフラム10は、厚さ10mm以下、望ましくは0.5mm〜2mm程度の薄板であり、PEEK,PPS,ポリイミド等の樹脂、ステンレス鋼,アルミニウム等の金属、アルミナ,ジルコニア,炭化ケイ素,窒化ケイ素等のセラミックスのいずれか1つから構成されている。すなわち、ダイヤフラム10は、弾性膜4より剛性の高い材料からなり、リプル室6とアウター室7の境界20から内周側および外周側に幅(L)=10mm以上の範囲にわたって弾性膜4を覆っている。これによって、リプル室6内の圧力とアウター室7内の圧力がダイヤフラム10に充分にかかるように、受圧面積を確保している。すなわち、ダイヤフラム10は、隣り合う二つの領域(エリア)に供給される圧力流体の圧力がそれぞれかかるような受圧面積を確保している。ここで、剛性とは、材料の外力に対する変形抵抗を表し、こわさともいう。弾性膜4より剛性の高い材料とは、弾性膜4より弾性変形しにくい材料であり、弾性膜4より縦弾性係数が大きい材料であることを意味する。
【0045】
弾性膜4に使用されるゴム材の縦弾性係数は、一般的に1〜10MPaであり、これに対して、ダイヤフラム10の縦弾性係数は、1GPa以上であることが好ましい。
前記ダイヤフラム10は、弾性膜26で覆われており、ダイヤフラム10の下面(ウエハ保持面側)が直接に半導体ウエハWに接触しないようになっている。弾性膜26は、ダイヤフラム10の下面を覆うとともに弾性膜4の下面の全体を覆うようになっている。弾性膜26とダイヤフラム10の接触面および弾性膜26と弾性膜4の接触面は、接着剤等によって固着されている。弾性膜26の下面は半導体ウエハWを保持する保持面を構成するため、弾性膜26は、弾性膜26の下面の全体が同一平面になるように、ダイヤフラム10がある部分は薄く、ダイヤフラム10がない部分は厚く設定されている。また弾性膜26はエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0046】
次に、図7に示すようにダイヤフラム10を設けた場合の作用を図8を参照して説明する。
図8(a)はダイヤフラム10を設けない場合のトップリング1の作用を示す模式図である。図8(a)に示すように、境界20を境として、リプル室6内の圧力とアウター室7内の圧力には圧力差(アウター室7内の圧力>リプル室6内の圧力)があり、その結果、図8(a)の下側部分に示すように、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界20で研磨圧力、ひいては研磨速度に階段状の段差が生じる。
図8(b)はダイヤフラム10を設けた場合のトップリング1の作用を示す模式図である。図8(b)に示すように、境界20を境として、リプル室6内の圧力とアウター室7内の圧力には圧力差(アウター室7内の圧力>リプル室6内の圧力)があるが、図8(b)の下側部分に示すように、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界20で研磨圧力、ひいては研磨速度は、アウター室7側からリプル室6側に向かってなだらかに下がっていく。すなわち、ダイヤフラム10を設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界20で研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。
【0047】
次に、ダイヤフラム10を設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界20で研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる理由を図9を参照して説明する。図9(a)および図9(b)は、ダイヤフラム10がない場合の圧力の分布状態及び半導体ウエハWの変形の状態を示し、図9(c)は、ダイヤフラム10がある場合の圧力の分布状態及び半導体ウエハWの変形の状態を示す。図9(a)乃至図9(c)の全ての場合で、背面からの研磨圧力と研磨圧力による研磨パッド101の変形によって生じた反発圧力が釣り合う。
(1)均一な圧力の場合
図9(a)に示すように、半導体ウエハWに均一な圧力(背面圧)がかかっている場合には、研磨パッド101の変形による反発圧力も均一になる。
(2)圧力分布がある場合
図9(b)に示すように、半導体ウエハWにかかる圧力に分布がある場合には、背面圧が低い場所は研磨パッド101の変形量が小さく、背面圧が高い場所は変形量が大きくなる。半導体ウエハWの剛性が低い場合、変形しやすいので、変形は局所的に起こり、狭い領域で研磨パッド101の変形量も変化する。このため、研磨圧力分布も圧力境界部付近で急峻に変化する。
(3)圧力分布があり、ダイヤフラム10がある場合
背面圧は(2)と同じである。(3)の場合も(2)の場合と同様に、背面圧と研磨パッド101の変形による反発力は釣り合う。(3)の場合、半導体ウエハWの表面の研磨圧力分布は、(2)の場合と異なるが、積分値である反発力は同じになる。圧力境界部付近から充分に離れた場所では研磨圧力は(2)の場合と同じになる。よって、研磨パッド101の変形量も同じになる。半導体ウエハWの上面にダイヤフラム10があることにより、半導体ウエハWの剛性が高くなったような効果があり、半導体ウエハWの局所的な変形量が小さくなり、変形する領域は拡大する。
圧力境界部付近の研磨パッド101の変形量は(2)の場合に比べなだらかな勾配を持つ。そして、研磨圧力の分布もなだらかに変化する。
【0048】
また、ダイヤフラム10の幅(L)を隣り合う二つの領域間の境界20から内周側および外周側の10mm以上とした理由は、通常、圧力境界付近に生じる研磨圧力分布の段差の幅は10mm程度であるため、ダイヤフラムの幅(L)は隣り合う二つの領域間の境界20から内周側および外周側の10mm以上であることが望ましい。
【0049】
図7においては、弾性膜4の下面に、リプル室6とアウター室7の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたって、ダイヤフラム10を固定した例を示したが、弾性膜4の下面に、センター室5とリプル室6の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたってダイヤフラム10を固定するようにしてもよいし、またアウター室7とエッジ室8の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたってダイヤフラム10を固定するようにしてもよい。さらに、弾性膜4の下面の全体にわたってダイヤフラム10を固定してもよく、その場合には、隣接する二つの室、すなわち、隣り合う二つの領域(エリア)間の全ての境界20において研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。
【0050】
図10は、本発明の第2の態様に係るトップリングのより具体的な形態を示す断面図である。図10に示す例においては、弾性膜4を詳細に示すために、トップリング本体2やリテーナリング3は図示を省略している。
図10に示す弾性膜4においては、弾性膜4を膨張させる際に均一に膨張させる必要があることや弾性膜4をトップリング本体2に固定するための部分を確保する必要があることから、隣接する領域(二つの圧力室)を画成するための同心状の複数の隔壁4aは、複雑な形状をしているが、これら隔壁4aによって、弾性膜4の上面とトップリング本体(図示せず)の下面との間に円形状のセンター室5、環状のリプル室6、環状のアウター室7、環状のエッジ室8が形成されている。すなわち、トップリング本体の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、アウター室7、エッジ室8が形成されている。トップリング本体内には、図7に示す実施形態と同様に、各室に連通する流路がそれぞれ形成されている。図10では図示しないが、センター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8は、図7に示す実施形態と同様に、開閉バルブV1〜V5および圧力レギュレータR1〜R5を介して流体供給源30に接続されている。
【0051】
図10に示すトップリング1においては、弾性膜4の下面に、全面にわたってダイヤフラム10が固定されている。ダイヤフラム10は、PEEK,PPS,ポリイミド等の樹脂、ステンレス鋼,アルミニウム等の金属、アルミナ,ジルコニア,炭化ケイ素,窒化ケイ素等のセラミックスのいずれか1つから構成されている。ダイヤフラム10は、弾性膜26で覆われており、ダイヤフラム10の下面(ウエハ保持面側)が直接に半導体ウエハWに接触しないようになっている。弾性膜26はダイヤフラム10の下面に接着剤等によって固着されており、ダイヤフラム10の下面の全体を覆うようになっている。弾性膜26は、半導体ウエハWを保持する保持面を構成するため、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0052】
図10に示すように、ダイヤフラム10を弾性膜4の下面の全面にわたって設けた場合には、隣接する二つの室内の圧力に圧力差がある場合に、隣り合う二つの領域(エリア)間の全ての境界20において、研磨圧力、ひいては研磨速度が一方の室側(圧力が高い室側)から他方の室側(圧力が低い室側)に向かってなだらかに下がっていく。すなわち、ダイヤフラム10を設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界20の全てにおいて研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。
図10においては、半導体ウエハWを真空吸着するための弾性膜26に形成された複数の孔26hが図示されており、また孔26hに連通するダイヤフラム10に形成された複数の孔10hおよび弾性膜4に形成された複数の孔4hが図示されている。
【0053】
次に、上述した本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリング1についてより詳細に説明する。図11乃至図15は、トップリング1を示す図であり、複数の半径方向に沿って切断した断面図である。
図11から図15に示すように、トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は、円盤状の上部材300と、上部材300の下面に取り付けられた中間部材304と、中間部材304の下面に取り付けられた下部材306とを備えている。リテーナリング3は、トップリング本体2の上部材300の外周部に取り付けられている。上部材300は、図12に示すように、ボルト308によりトップリングシャフト111に連結されている。また、中間部材304は、ボルト309を介して上部材300に固定されており、下部材306はボルト310を介して上部材300に固定されている。上部材300、中間部材304、および下部材306から構成されるトップリング本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。
【0054】
図11に示すように、下部材306の下面には、半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜4が取り付けられている。この弾性膜4は、外周側に配置された環状のエッジホルダ316と、エッジホルダ316の内方に配置された環状のリプルホルダ318,319とによって下部材306の下面に取り付けられている。弾性膜4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0055】
エッジホルダ316はリプルホルダ318により保持され、リプルホルダ318は複数のストッパ320により下部材306の下面に取り付けられている。リプルホルダ319は、図12に示すように、複数のストッパ322により下部材306の下面に取り付けられている。ストッパ320およびストッパ322はトップリング1の円周方向に均等に設けられている。
【0056】
図11に示すように、弾性膜4の中央部にはセンター室5が形成されている。リプルホルダ319には、このセンター室5に連通する流路324が形成されており、下部材306には、この流路324に連通する流路325が形成されている。リプルホルダ319の流路324および下部材306の流路325は、図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体が流路325および流路324を通ってセンター室5に供給されるようになっている。
【0057】
リプルホルダ318は、弾性膜4のリプル314bおよびエッジ314cをそれぞれ爪部318b,318cで下部材306の下面に押さえつけるようになっており、リプルホルダ319は、弾性膜4のリプル314aを爪部319aで下部材306の下面に押さえつけるようになっている。
【0058】
図13に示すように、弾性膜4のリプル314aとリプル314bとの間には環状のリプル室6が形成されている。弾性膜4のリプルホルダ318とリプルホルダ319との間には隙間314fが形成されており、下部材306にはこの隙間314fに連通する流路342が形成されている。また、図11に示すように、中間部材304には、下部材306の流路342に連通する流路344が形成されている。下部材306の流路342と中間部材304の流路344との接続部分には、環状溝347が形成されている。この下部材306の流路342は、環状溝347および中間部材304の流路344を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってリプル室6に供給されるようになっている。また、この流路342は、図示しない真空ポンプにも切替可能に接続されており、真空ポンプの作動により弾性膜4の下面に半導体ウエハを吸着できるようになっている。
【0059】
図14に示すように、リプルホルダ318には、弾性膜4のリプル314bおよびエッジ314cによって形成される環状のアウター室7に連通する流路326が形成されている。また、下部材306には、リプルホルダ318の流路326にコネクタ327を介して連通する流路328が、中間部材304には、下部材306の流路328に連通する流路329がそれぞれ形成されている。このリプルホルダ318の流路326は、下部材306の流路328および中間部材304の流路329を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってアウター室7に供給されるようになっている。
【0060】
図15に示すように、エッジホルダ316は、弾性膜4のエッジ314dを押さえて下部材306の下面に保持するようになっている。このエッジホルダ316には、弾性膜4のエッジ314cおよびエッジ314dによって形成される環状のエッジ室8に連通する流路334が形成されている。また、下部材306には、エッジホルダ316の流路334に連通する流路336が、中間部材304には、下部材306の流路336に連通する流路338がそれぞれ形成されている。このエッジホルダ316の流路334は、下部材306の流路336および中間部材304の流路338を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってエッジ室8に供給されるようになっている。センター室5,リプル室6,アウター室7,エッジ室8,リテーナ室9は、図7に示す実施形態と同様に、レギュレータR1〜R5(図示せず)および開閉バルブV1〜V5(図示せず)を介して流体供給源に接続されている。
【0061】
このように、本実施形態におけるトップリング1においては、弾性膜4と下部材306との間に形成される圧力室、すなわち、センター室5、リプル室6、アウター室7、およびエッジ室8に供給する流体の圧力を調整することにより、半導体ウエハを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの部分ごとに調整できるようになっている。
【0062】
図16は、図13に示すリテーナリングのA部拡大図である。リテーナリング3は半導体ウエハの外周縁を保持するものであり、図16に示すように、上部が閉塞された円筒状のシリンダ400と、シリンダ400の上部に取り付けられた保持部材402と、保持部材402によりシリンダ400内に保持される弾性膜404と、弾性膜404の下端部に接続されたピストン406と、ピストン406により下方に押圧されるリング部材408とを備えている。
【0063】
リング部材408は、ピストン406に連結される上リング部材408aと、研磨面101に接触する下リング部材408bとから構成されており、上リング部材408aと下リング部材408bとは、複数のボルト409によって結合されている。上リング部材408aはSUSなどの金属材料やセラミックス等の材料からなり、下リング部材408bはPEEKやPPS等の樹脂材料からなる。
【0064】
図16に示すように、保持部材402には、弾性膜404によって形成されるリテーナ室9に連通する流路412が形成されている。また、上部材300には、保持部材402の流路412に連通する流路414が形成されている。この保持部材402の流路412は、上部材300の流路414を介して図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がこれらの流路を通ってリテーナ室9に供給されるようになっている。したがって、リテーナ室9に供給する流体の圧力を調整することにより、弾性膜404を伸縮させてピストン406を上下動させ、リテーナリング3のリング部材408を所望の圧力で研磨パッド101に押圧することができる。
【0065】
図示した例では、弾性膜404としてローリングダイヤフラムを用いている。ローリングダイヤフラムは、屈曲した部分をもつ弾性膜からなるもので、ローリングダイヤフラムで仕切る室の内部圧力の変化等により、その屈曲部が転動することにより室の空間を広げることができるものである。室が広がる際にダイヤフラムが外側の部材と摺動せず、ほとんど伸縮しないため、摺動摩擦が極めて少なくてすみ、ダイヤフラムを長寿命化することができ、また、リテーナリング3が研磨パッド101に与える押圧力を精度よく調整することができるという利点がある。
【0066】
このような構成により、リテーナリング3のリング部材408だけを下降させることができる。したがって、リテーナリング3のリング部材408が摩耗しても、下部材306と研磨パッド101との距離を一定に維持することが可能となる。また、研磨パッド101に接触するリング部材408とシリンダ400とは変形自在な弾性膜404で接続されているため、荷重点のオフセットによる曲げモーメントが発生しない。このため、リテーナリング3による面圧を均一にすることができ、研磨パッド101に対する追従性も向上する。
【0067】
また、図16に示すように、リテーナリング3は、リング部材408の上下動を案内するためのリング状のリテーナリングガイド410を備えている。リング状のリテーナリングガイド410は、リング部材408の上部側全周を囲むようにリング部材408の外周側に位置する外周側部410aと、リング部材408の内周側に位置する内周側部410bと、外周側部410aと内周側部410bとを接続している中間部410cとから構成されている。リテーナリングガイド410の内周側部410bは、ボルト411により、下部材306に固定されている。外周側部410aと内周側部410bとを接続する中間部410cには、円周方向に所定間隔毎に複数の開口410hが形成されている。
【0068】
図17は、リテーナリングガイド410とリング部材408との関係を示す図である。図17に示すように、中間部410cは、円周方向に全周つながっているが、前述したように中間部410cには、円周方向に所定間隔毎に複数の円弧状開口410hが形成されている。円弧状開口410hは、図17では、破線で示している。
一方、リング部材408の上リング部材408aは、円周方向にリング状に全周つながっている下部リング状部408a1と、下部リング状部408a1から円周方向に所定間隔毎に上方に突出した複数の上部円弧状部408a2とから構成されている。そして、各上部円弧状部408a2が各円弧状開口410hを貫通してピストン406に連結されている(図16参照)。
【0069】
図17に示すように、下リング部材408bには、SUS等からなる薄肉の金属性リング430が嵌合されている。そして、金属性リング430の外周面には、四フッ化エチレン(PTFE)やPTFEなどの充填剤を充填したPEEK・PPSなどの樹脂材料をコーティングしたコーティング層430cが形成されている。PTFEやPEEK・PPSなどの樹脂材料は、摩擦係数が低い低摩擦材料であるため、摺動性に優れている。ここで、低摩擦材料とは、摩擦係数が0.35以下である低い摩擦係数の材料を云い、0.25以下であることが望ましい。
一方、リテーナリングガイド410における外周側部410aの内周面は前記コーティング層430cに摺接するガイド面410gを構成しており、このガイド面410gは鏡面処理により面粗度が向上するようにしている。ここで、鏡面処理とは、例えば、研磨加工、ラップ加工、バフ加工等の処理を云う。
【0070】
図17に示すように、下リング部材408bには、SUS等の金属性リング430が嵌合されているため、下リング部材408bの剛性を高めることができ、リング部材408が研磨面101aと摺接してリング部材408の温度が上昇しても下リング部材408bの熱変形を抑制することができる。したがって、下リング部材408bおよび金属性リング430の外周面と、リテーナリングガイド410の外周側部410aの内周面とのクリアランスを狭くすることができ、研磨中に、リング部材408がクリアランス内を移動してリテーナリングガイド410と衝接する際に生ずる異音や振動を抑制することができる。また、金属性リング430の外周面のコーティング層430cが低摩擦材料から構成されており、リテーナリングガイド410のガイド面410gは鏡面処理により面粗度を向上させているため、下リング部材408bとリテーナリングガイド410との摺動性を改善することができる。したがって、リング部材408の研磨面に対する追従性を飛躍的に高めることができ、所望のリテーナリング面圧を研磨面に与えることができる。
【0071】
図17に示す実施形態においては、PTFEやPEEK・PPSなどの低摩擦材料を金属性リング430にコーティングしたが、金属性リングを設けないで、下リング部材408bの外周面に直接にPTFEやPEEK・PPSなどの低摩擦材料をコーティングや接着剤により設けてもよい。また、下リング部材408bの外周面に、両面テープにより、リング状の低摩擦材料を接着してもよい。さらに、リテーナリングガイド410に低摩擦材料を設け、下リング部材408bに鏡面処理を施すようにしてもよい。
【0072】
また、リテーナリングガイド410および下リング部材408bの摺接面のいずれにも鏡面処理を施すことにより、下リング部材408bとリテーナリングガイド410との摺動性を向上させるようにしてもよい。このように、リテーナリングガイド410および下リング部材408bの摺接面の両方に鏡面処理を施すことにより、リング部材408の研磨面に対する追従性を飛躍的に高めることができ、所望のリテーナリング面圧を研磨面に与えることができる。
【0073】
図18は、図13に示すリテーナリングのB部拡大図であり、図19は図18のXIX−XIX線矢視図である。
図18および図19に示すように、リテーナリング3のリング部材408の上リング部材408aの外周面には縦方向に延びる概略長円形状溝418が形成されている。長円形状溝418は上リング部材408aの外周面に所定間隔毎に複数個形成されている。また、リテーナリングガイド410の外周側部410aには、半径方向内方に突出する複数の駆動ピン349が設けられており、この駆動ピン349がリング部材408の長円形状溝418に係合するようになっている。長円形状溝418内でリング部材408と駆動ピン349が相対的に上下方向にスライド可能になっているとともに、この駆動ピン349により上部材300およびリテーナリングガイド410を介してトップリング本体2の回転がリテーナリング3に伝達され、トップリング本体2とリテーナリング3は一体となって回転する。駆動ピン349の外周面には、ゴムクッション350が設けられ、ゴムクッション350の外側にPTFEやPEEK・PPSなどの低摩擦材料からなるカラー351が設けられている。一方、前記長円形状溝418の内面には鏡面処理が施され、低摩擦材料のカラー351が接触する長円形状溝418の内面の面粗度を向上させるようにしている。
【0074】
このように、本実施形態においては、駆動ピン349には低摩擦材料からなるカラー351を設け、カラー351が摺接する長円形状溝418の内面には鏡面処理を施すことにより、駆動ピン349とリング部材408との摺動性を改善することができる。したがって、リング部材408の研磨面に対する追従性を飛躍的に高めることができ、所望のリテーナリング面圧を研磨面に与えることができる。なお、駆動ピン349に鏡面処理を施し、駆動ピン349が係合するリング部材408の長円形状溝418にコーティング等により低摩擦材料を設けることもできる。
【0075】
図11乃至図18に示すように、リング部材408の外周面とリテーナリングガイド410の下端との間には上下方向に伸縮自在な接続シート420が設けられている。この接続シート420は、リング部材408とリテーナリングガイド410との間の隙間を埋めることで研磨液(スラリー)の浸入を防止する役割を持っている。また、シリンダ400の外周面とリテーナリングガイド410の外周面には、帯状の可撓性部材からなるバンド421が設けられている。このバンド421は、シリンダ400とリテーナリングガイド410との間をカバーすることで研磨液(スラリー)の浸入を防止する役割を持っている。
【0076】
弾性膜4のエッジ(外周縁)314dには、弾性膜4とリテーナリング3とを接続する、上方に屈曲した形状のシール部材422が形成されている。このシール部材422は弾性膜4とリング部材408との隙間を埋めるように配置されており、変形しやすい材料から形成されている。シール部材422は、トップリング本体2とリテーナリング3との相対移動を許容しつつ、弾性膜4とリテーナリング3との隙間に研磨液が浸入してしまうことを防止するために設けられている。本実施形態では、シール部材422は弾性膜4のエッジ314dに一体的に形成されており、断面U字型の形状を有している。
【0077】
ここで、接続シート420、バンド421およびシール部材422を設けない場合は、研磨液がトップリング1内に浸入してしまい、トップリング1を構成するトップリング本体2やリテーナリング3の正常な動作を阻害してしまう。本実施形態によれば、接続シート420、バンド421およびシール部材422によって研磨液のトップリング1への浸入を防止することができ、これにより、トップリング1を正常に動作させることができる。なお、弾性膜404、接続シート420、およびシール部材422は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0078】
本実施形態のトップリング1においては、弾性膜4のセンター室5、リプル室6、アウター室7、およびエッジ室8に供給する圧力により半導体ウエハに対する押圧力を制御するので、研磨中には下部材306は研磨パッド101から上方に離れた位置にする必要がある。しかしながら、リテーナリング3が摩耗すると、半導体ウエハと下部材306との間の距離が変化し、弾性膜4の変形の仕方も変わるため、半導体ウエハに対する面圧分布も変化することになる。このような面圧分布の変化は、プロファイルが不安定になる要因となっていた。
【0079】
本実施形態では、リテーナリング3を下部材306とは独立して上下動させることができるので、リテーナリング3のリング部材408が摩耗しても、半導体ウエハと下部材306との間の距離を一定に維持することができる。したがって、研磨後の半導体ウエハのプロファイルを安定化させることができる。
【0080】
図11乃至図19に示すトップリング1において、本発明の第1の態様を適用する場合には、図7に示す実施形態と同様に、センター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8、リテーナ室9を開閉バルブV1〜V5(図示せず)および圧力レギュレータR1〜R5(図示せず)を介して流体供給源30(図示せず)に接続し、開閉バルブV1〜V5および圧力レギュレータR1〜R5の作動を制御する制御装置33を設ければよい。そして、制御装置33により、まず開閉バルブV1を開き、流体供給源30からセンター室5に圧力流体を供給し、弾性膜4の中心部のみを膨らませ、半導体ウエハWの下面中心部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地させて押圧する。そして、開閉バルブV1を開いてから、わずかな時間の後に、順次、開閉バルブV2、開閉バルブV3、開閉バルブV4を開き、中心部から外周方向に向かって順次、リプル室6、アウター室7、エッジ室8に圧力流体を供給し、弾性膜4の外周部も膨らませ、半導体ウエハWの下面外周部を研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このように、半導体ウエハWの中心部を先に接地させて押圧することにより、研磨パッド101の表面(研磨面)101aと半導体ウエハWとの間にエアやスラリーが封入されることがなく、そのまま研磨圧力を掛けても半導体ウエハWが通常より大きな変形を生じることはない。したがって、半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地した後の研磨開始時に半導体ウエハWが割れたり破損したりすることはない。
【0081】
また、図11乃至図19に示すトップリング1において、本発明の第2の態様を適用する場合には、図10に示す実施形態と同様に、弾性膜4の下面に、全面にわたってダイヤフラム10を固定し、ダイヤフラム10の下面(ウエハ保持面側)に弾性膜26を設ければよい。ダイヤフラム10は、PEEK,PPS,ポリイミド等の樹脂、ステンレス鋼,アルミニウム等の金属、アルミナ,ジルコニア,炭化ケイ素,窒化ケイ素等のセラミックスのいずれか1つから構成されている。このように、ダイヤフラム10を弾性膜4の下面の全面にわたって設けることにより、隣接する二つの室内の圧力に圧力差がある場合に、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界の全てにおいて研磨圧力、ひいては研磨速度が、一方の室側(圧力が高い室側)から他方の室側(圧力が低い室側)に向かってなだらかに下がっていく。すなわち、ダイヤフラム10を設けることにより、隣り合う二つの領域(エリア)間の境界の全てにおいて研磨圧力(研磨速度)の勾配をなだらかにすることができる。
【0082】
また図7に示す実施形態と同様に、弾性膜4の下面に、リプル室6とアウター室7の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたって、ダイヤフラム10を固定してもよいし、弾性膜4の下面に、センター室5とリプル室6の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたってダイヤフラム10を固定するようにしてもよいし、またアウター室7とエッジ室8の境界20から内周側および外周側の10mm以上にわたってダイヤフラム10を固定するようにしてもよい。
【0083】
これまで本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図2は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリングの模式的な断面図である。
【図3】図3は、図2に示すように構成されたトップリングによって半導体ウエハの研磨を行う場合を示す模式的な断面図である。
【図4】図4は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリングの変形例を示す模式的な断面図である。
【図5】図5は、図4に示すように構成されたトップリングによって半導体ウエハの研磨を行う場合を示す模式的な断面図である。
【図6】図6は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリングの別の変形例を示す模式的な断面図である。
【図7】図7は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリングの模式的な断面図である。
【図8】図8(a)は、ダイヤフラムを設けない場合のトップリングの作用を示す模式図である。図8(b)は、ダイヤフラムを設けた場合のトップリングの作用を示す模式図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、ダイヤフラムがない場合の圧力の分布状態及び半導体ウエハの変形の状態を示し、図9(c)は、ダイヤフラムがある場合の圧力の分布状態及び半導体ウエハの変形の状態を示す。
【図10】図10は、本発明の第2の態様に係るトップリングのより具体的な形態を示す断面図である。
【図11】図11は、本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリングの構成例を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリングの構成例を示す断面図である。
【図13】図13は、本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリングの構成例を示す断面図である。
【図14】図14は、本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリングの構成例を示す断面図である。
【図15】図15は、本発明の第1の態様および第2の態様において好適に使用できるトップリングの構成例を示す断面図である。
【図16】図16は、図13に示すリテーナリングのA部拡大図である。
【図17】図17は、リテーナリングガイドとリング部材との関係を示す図である。
【図18】図18は、図13に示すリテーナリングのB部拡大図である。
【図19】図19は、図18のXIX−XIX線矢視図である。
【符号の説明】
【0085】
1 トップリング
2 トップリング本体
3 リテーナリング
4,26 弾性膜
4a 隔壁
5 センター室
5A 圧力室
6 リプル室
7 アウター室
8 エッジ室
9 リテーナ室
10 ダイヤフラム
11,12,13,14,15,21,22,23,24,25 流路
20 境界
30 流体供給源
32,40 真空源
33 制御装置
100 研磨テーブル
100a テーブル軸
101 研磨パッド
101a 表面(研磨面)
102 研磨液供給ノズル
110 トップリングヘッド
111 トップリングシャフト
112 回転筒
113 タイミングプーリ
114 トップリング用モータ
115 タイミングベルト
116 タイミングプーリ
117 トップリングシャフト
124 上下動機構
125 ロータリージョイント
126 軸受
128 ブリッジ
129 支持台
130 支柱
132 ボールねじ
132a ねじ軸
132b ナット
138 サーボモータ
300 上部材
304 中間部材
306 下部材
308 ボルト
314a,314b リプル
314c エッジ
314d エッジ(外周縁)
314f 隙間
316 エッジホルダ
318,319 リプルホルダ
318b,318c 爪部
320,322 ストッパ
324,325,326,328,334,336,338 流路
327 コネクタ
342,344 流路
347 環状溝
349 駆動ピン
350 ゴムクッション
351 カラー
400 シリンダ
402 保持部材
404 弾性膜
406 ピストン
408 リング部材
408a 上リング部材
408b 下リング部材
408a1 下部リング状部
408a2 上部円弧状部
409 ボルト
410 リテーナリングガイド
410a 外周側部
410b 内周側部
410c 中間部
410h 複数の開口
410g ガイド面
411 ボルト
412,414 流路
418 長円形状溝
420 接続シート
421 バンド
422 シール部材
430 金属性リング
430c コーティング層
Q 研磨液
R1,R2,R3,R4,R5 圧力レギュレータ
V1,V2,V3,V4,V5 開閉バルブ
W 半導体ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される複数の圧力室を形成する弾性膜を有し、前記複数の圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドと、
前記複数の圧力室への圧力流体の供給を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給するように制御することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜を有し、前記圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドと、
前記圧力室への圧力流体の供給を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給するように制御することを特徴とする研磨装置。
【請求項3】
前記研磨ヘッドは、予め設定した研磨ヘッドの研磨時設定位置まで下降し、該研磨時設定位置は、前記圧力室に圧力流体が供給される前に前記研磨ヘッドに保持された基板の下面と前記研磨面との間に間隙が形成される位置であることを特徴とする請求項1又は2記載の研磨装置。
【請求項4】
弾性膜により形成される複数の圧力室を有した研磨ヘッドに圧力流体を供給し、基板を研磨テーブルの研磨面に押圧して研磨する研磨方法において、
基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に位置する圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の中心部より外周側に位置する圧力室に圧力流体を供給することを特徴とする研磨方法。
【請求項5】
弾性膜により形成される圧力室を有した研磨ヘッドに基板の異なる半径方向に対応する位置に設けられた複数の供給孔から圧力流体を供給し、基板を研磨テーブルの研磨面に押圧して研磨する研磨方法において、
基板を前記研磨面に接地する際に、基板の中心部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給し、その後、基板の外周部に対応した位置にある供給孔から前記圧力室に圧力流体を供給することを特徴とする研磨方法。
【請求項6】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される複数の圧力室を形成する弾性膜を有し、前記複数の圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を前記研磨面に押圧する研磨ヘッドとを備え、
隣接する二つの圧力室に跨るように、前記弾性膜より剛性の高い材料からなるダイヤフラムを設け、
前記ダイヤフラムは、前記二つの圧力室の境界から内周側および外周側に10mm以上の範囲を有することを特徴とする研磨装置。
【請求項7】
前記ダイヤフラムは、前記弾性膜に固定されていることを特徴とする請求項6記載の研磨装置。
【請求項8】
前記ダイヤフラムは、PEEK又はPPS又はポリイミドからなる樹脂、ステンレス鋼又はアルミニウムからなる金属、およびアルミナ又はジルコニア又は炭化ケイ素又は窒化ケイ素からなるセラミックのいずれか1つからなることを特徴とする請求項6又は7記載の研磨装置。
【請求項9】
前記ダイヤフラムは、前記複数の圧力室を形成する前記弾性膜の略全面を覆っていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の研磨装置。
【請求項10】
前記ダイヤフラムを覆うとともに、基板と接触して基板を保持するための基板保持面を構成する弾性膜を設けたことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−131920(P2009−131920A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308642(P2007−308642)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】