説明

硫化物ターゲット及びその製造方法

【課題】 Al、BaS、EuSからなり、結晶性の良い硫化物蛍光体膜をスパッタリング法で形成するための硫化物ターゲット、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 Al、BaS、EuSの各硫化物粉末を真空若しくは不活性ガス雰囲気中で調整し、得られた混合粉末を0.1Paより良い真空雰囲気中において50〜150℃で30分以上保持した後、不活性ガス雰囲気中にて900〜1100℃の温度で焼結する。得られる硫化物ターゲットは、含有酸素濃度が2重量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングに用いるターゲット、特にPDP(プラズマディスプレイパネル)や無機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の蛍光体膜を形成するための硫化物ターゲット、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型テレビなどのディスプレイパネルとして、PDPが広く使用されている。また、コンピュータのモニターや携帯機器の表示素子として、無機EL素子の開発が盛んに行われている。特に高輝度の青色蛍光体を用いてフルカラー表示を行う方法が提案され(特開平07−122364号公報)、その実用化が進展している。
【0003】
これらのPDPや無機EL素子に用いる蛍光体膜の形成は、最近のディスプレイ画面の大型化に伴って、大面積への形成が容易なスパッタリング法を用いることが求められている。そのため、希土類元素を添加したアルカリ土類金属硫化物からなる蛍光体膜などにおいて、組成の安定した蛍光体膜を形成することが可能なスパッタリングターゲットについても研究がなされている(特開平07−122363号公報)。
【0004】
【特許文献1】特開平07−122364号公報
【特許文献2】特開平07−122363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記PDPや無機EL素子用の蛍光体膜を作製する方法として、例えば、BaAlにBaに対して5%程度のEuSを添加した材料を真空蒸着することが行われていた。このAl、BaS、EuSからなる蛍光体膜の蒸着においては、蒸着時の硫化物とAlの蒸気圧差を利用することで、蒸着によって形成される膜中にAlを含まれないようにすることが可能である。
【0006】
しかし、同じ硫化物の蛍光体膜をスパッタリング法で成膜する場合には、ターゲット中にAlが8重量%程度又はそれ以上含まれるため、酸化物がスパッタされたり、分解して発生した酸素によって膜中にもAlが形成されたりして、蛍光強度が低下するという問題があった。そのため、スパッタリング法で用いる焼結体ターゲットには、Alの含有量を極力少なくする必要がある。
【0007】
ところが、ターゲットの製造にはAl、BaS、EuSの各硫化物粉末を用いるが、硫化アルミニウム(Al)は空気中の水蒸気と反応してAlになりやすく、その際に有毒な硫化水素が発生する。また、このようにして生成したAlを含むAlをBaS及びEuSと混合、焼成すると、目的とする硫化物蛍光体膜の結晶性が悪くなり、蛍光体として利用し難くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、Al、BaS、EuSからなり結晶性の良い蛍光体膜をスパッタリング法で形成するための硫化物ターゲット、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、スパッタリングによる蛍光体膜の形成に用いる硫化物ターゲットであって、Al、BaS、EuSからなり、含有酸素濃度が2重量%未満であることを特徴とする硫化物ターゲットを提供するものである。この本発明による硫化物ターゲットは、EuがBaに対して3〜10重量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明、スパッタリングによる蛍光体の形成に用いる硫化物ターゲットの製造方法であって、Al、BaS、EuSの各硫化物粉末からなる混合粉末を0.1Paより良い真空雰囲気中において50〜150℃で30分以上保持した後、不活性ガス雰囲気中にて900〜1100℃の温度で焼結することを特徴とする硫化物ターゲットの製造方法を提供する。更には、Al、BaS、EuSの各硫化物粉末からなる混合粉末の調整を、真空若しくは不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Al、BaS、EuSからなり、Alの含有量が極めて少ないスパッタリング用の硫化物ターゲットを製造することができる。従って、この硫化物ターゲットを用いてスパッタリング法で成膜することにより、組成がBaEuAlからなり、結晶性が良く、蛍光強度の高い、PDPや無機EL素子に用いる蛍光体膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の硫化物ターゲットは、Al、BaS及びEuSからなり、組成がBaEuAlであって、Alの1に対してBaSとEuSを合わせたものが1になる。この組成比がずれると、特にBaSとEuSが多くなると、蛍光発光に寄与しない硫化物相が生成するため好ましくない。
【0013】
EuSは蛍光体の蛍光を発する元素であって、母結晶BaAlのBaの格子位置を置換する。EuがBaに対して3重量%未満では蛍光強度が低くなり、また10重量%を超えると母結晶であるBaAlの結晶性が悪くなる。従って、上記本発明の硫化物ターゲットでは、EuがBaに対して3〜10重量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の硫化物ターゲットにおいては、酸素含有量が2重量%未満であることを特徴とし、出来るだけ少ないことが好ましく、特に1重量%以下であれば非発光が少なく特に好ましい。硫化物ターゲット中に存在する酸化物は、スパッタリング時に硫化物と反応せずに膜中に酸化物として残る。そのため、母結晶相であるBaAlの組成がずれ、非発光遷移金属元素が多くなるため好ましくなく、特にAlの酸化物の影響が大きい。しかし、ターゲット中の酸素含有量を2重量%未満とすることで、これらの問題を解決することができる。
【0015】
上記した本発明の硫化物ターゲットを製造するには、まず、原料であるAl、BaS、EuSの各硫化物粉末を秤量、混合、粉砕し、得られた混合粉末から吸着水分を除去する。この吸着水分除去工程では、0.1Paより良い真空雰囲気中において、50〜150℃、好ましくは80〜120℃で、30分以上保持する。このときの真空度が0.1Paより悪い場合や、処理温度が50℃未満の場合には、水分の除去に時間がかかるため好ましくない。また、150℃を超える処理温度では、吸着水分がAlと反応するため好ましくない。処理時間が長くなると水分の除去が進むが、30分より短いと全体の水分除去が不十分となりやすく、より望ましくは1時間程度である。
【0016】
上記吸着水分除去工程を終えた混合粉末は、不活性ガス雰囲気中において900〜1100℃の温度で焼結することによりターゲットとする。焼結温度が900℃未満では焼結密度が低く、焼結体ターゲットの強度が低くなるため、スパッタリング中に割れたり、欠けたりするので好ましくない。逆に焼結温度が1100℃を越えるとAlの融点に近くなり、Alが融け出して組成が変化し、焼結体ターゲットの組成変動が大きくなるため好ましくない。また、焼結時の雰囲気を窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気とするのは、硫化物の分解を抑制するためであり、真空中では硫化物が分解ないし昇華し易くなるので好ましくない。
【0017】
更に、焼結時の不活性ガス雰囲気について、TG-MSを用いた反応性の試験では、雰囲気ガス中に酸素や水分を含むと150℃以上でSOxやHSの発生が確認された。これらのSOxやHSは、酸素濃度0.01重量%未満且つ水分濃度0.01重量%未満のArガス中では発生しなかった。また、グローブボックス中の放置試験では、酸素濃度0.02重量%且つ水分濃度0.03重量%のArガス雰囲気に長時間放置すると、放置時間が増えるにつれて重量の増加が見られた。これは水分の吸着や、酸化して硫酸塩が形成されたためと考えられる。この原料粉の重量増加は、酸素濃度0.01重量%未満且つ水分濃度0.01重量%未満のArガス中では起こらない。そのため、酸素濃度が0.01重量%未満、水分濃度が0.01重量%未満である不活性ガス雰囲気の使用が好ましい。
【0018】
上記の吸着水分除去工程及び焼結工程を経ることによって、含有酸素濃度が2重量%未満の硫化物ターゲットを得ることができる。更に好ましくは、上記吸着水分除去工程の前工程、即ち、Al、BaS、EuSの各硫化物粉末を秤量し、混合粉砕する混合粉末の調整工程を、真空若しくは不活性ガス雰囲気中で行い、硫化物粉末が酸素に接しないようにする。具体的には、粉末の秤量とボールミル容器への粉末の出し入れを不活性ガスで置換した酸素濃度0.1重量%以下の真空グローブボックス中で行い、ボールミル容器内は不活性雰囲気が維持できるように密閉可能な構造とすることが好ましい。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
内部を窒素で置換した真空グローブボックス内で、原料の硫化物粉末である硫化アルミニウム、硫化バリウム、硫化ユーロピウム(高純度化学(株)製)を所定量秤量し、ボールミルに入れた。乾式ボールミルで1時間混合粉砕した後、真空グローブボックス中で原料混合粉末を取り出し、カーボン型に詰めた。このカーボン型をホットプレスに入れ、5×10−4Paまで真空に引きして、80℃にて1時間保持することにより、吸着水分の除去処理を行った。その後、Arガスを流してホットプレス内部をArガス雰囲気にし、そのまま1050℃まで加熱して1時間焼結した。
【0020】
得られた焼結体をICPで化学分析した結果、組成は(Ba0.95Eu0.05)Al2.13.8であった。化学分析でAl、Ba、Eu、Sの分析値を合計すると98.7重量%であった。XPSでの分析ではAl、Ba、Eu、Sと酸素が検出されたため、残りの1.3重量%は酸素と考えられる。
【0021】
[実施例2]
真空グローブボックスを使用せずに原料混合粉末の調整を行った以外、上記実施例1と同じ方法で焼結体を作製した。この焼結体を上記実施例1と同様に化学分析した結果、酸素量は1.8重量%であった。
【0022】
[比較例]
ホットプレス中での80℃で1時間の水分除去処理を行わない以外、上記実施例1と同じ方法で焼結体を作製した。この焼結体を上記実施例1と同様に化学分析した結果、酸素量は2.5重量%であった。
【0023】
[従来例]
また、真空グローブボックスを使用せずに原料混合粉末の調整を行い、且つホットプレス中での80℃で1時間の水分除去処理を行わない以外、上記実施例1と同じ方法で焼結体を作製した。この焼結体を上記実施例1と同様に化学分析した結果、酸素量は8.5重量%であった。
【0024】
[蛍光体膜の成膜と性能確認]
上記の実施例1〜2、比較例、従来例で作製した各焼結体の表面を200μm研磨し、直径3インチ、厚さ5mmのターゲットを作製した。これらのターゲットをマグネトロンRFスパッタリング装置(アネルバ製:SPF210H)に取り付け、内部をロータリーポンプで2Paまで排気した後、クライオポンプで8×10−4Paまで真空に引いた。その後、装置内にArガスを導入し、スパッタリング圧力0.12Pa、RF100Wで放電させ、約20分間のプリスパッタを行って表面層を除去した。次に、基板としてスライドガラス(MATUNAMI製S−1111)を用い、上記と同じ条件でスパッタリングによる成膜を行い、それぞれ膜厚が約300nmの硫化物膜を形成した。
【0025】
得られた実施例1〜2、比較例、従来例の各硫化物膜について、直ちに分光蛍光強度測定器(日本分光(株)製:FP−6500)を用い、励起用の光源波長を353.5nmとして蛍光強度を測定した。その結果、波長475nmをピークとする発光が見られ、その蛍光強度は実施例1が最も強く、実施例2は実施例1の4/5、比較例は実施例1の2/3、従来例は実施例1の1/6であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングによる蛍光体膜の形成に用いる硫化物ターゲットであって、Al、BaS、EuSからなり、含有酸素濃度が2重量%未満であることを特徴とする硫化物ターゲット。
【請求項2】
EuがBaに対して3〜10重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の硫化物ターゲット。
【請求項3】
スパッタリングによる蛍光体の形成に用いる硫化物ターゲットの製造方法であって、Al、BaS、EuSの各硫化物粉末からなる混合粉末を0.1Paより良い真空雰囲気中において50〜150℃で30分以上保持した後、不活性ガス雰囲気中にて900〜1100℃の温度で焼結することを特徴とする硫化物ターゲットの製造方法。
【請求項4】
Al、BaS、EuSの各硫化物粉末からなる混合粉末の調整を、真空若しくは不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする、請求項3に記載の硫化物ターゲットの製造方法。



【公開番号】特開2006−219720(P2006−219720A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33738(P2005−33738)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】