説明

硫化物固体電解質材料の製造方法、硫化物固体電解質材料およびリチウム電池

【課題】本発明は、Li結晶相を有し、かつ、Liイオン伝導性が優れた硫化物固体電解質材料を得ることができる硫化物固体電解質材料の製造方法を提供することを主目的とする
【解決手段】本発明は、Li結晶相を形成可能な組成を有する原料組成物を調製する調製工程と、上記原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する合成工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料の製造方法に関し、より詳しくは、Liイオン伝導性が優れた硫化物固体電解質材料を得ることができる硫化物固体電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。さらに、このような固体電解質層に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。
【0004】
硫化物固体電解質材料の一つとして、Li結晶である硫化物固体電解質材料が挙げられる。Li結晶は層状構造を有し、その層状構造がLiイオン伝導に好影響を与えるものと考えられるにも関わらず、実際のLiイオン伝導性は極めて低いという問題があった。このような問題に対して、特許文献1においては、Li結晶のLiサイトにあるLiの一部を、Mgに置換したチオリン酸リチウムマグネシウム化合物が開示されている(特許文献1の請求項1)。この技術は、LiをMgに置換することで、Liイオン伝導性の向上を図ったものである。また、特許文献1では、LiS、MgS、PおよびPを原料として含むペレットを、石英管中に真空封入し高温で加熱することにより、Li結晶を合成している。これは、いわゆる固相法による合成である。
【0005】
また、特許文献2においては、LiSおよびPをメカニカルミリング法によりガラス化することで、硫化物ガラスを合成し、その硫化物ガラスに熱処理を加えることで、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成することが開示されている(特許文献2の図1)。なお、硫化物ガラスを高温で加熱するという観点からは、特許文献2の合成方法は固相法の一種であると考えることもできる。また、非特許文献1においては、Li結晶の結晶構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−206110号公報
【特許文献2】特開2002−109955号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Mercier et al., Journal of Solid State Chemistry, 43, 2, (1982) 151-162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導性が低いという問題がある。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、Li結晶相を有し、かつ、Liイオン伝導性が優れた硫化物固体電解質材料を得ることができる硫化物固体電解質材料の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究した結果、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導性を向上させるためには、上述した特許文献等に記載されているように、固相法により結晶性の高い硫化物固体電解質材料を合成するのではなく、逆に、アモルファスライクな硫化物固体電解質材料を合成することが重要であり、これにより、Liイオン伝導度を顕著に(例えば10倍に)向上させることができるという知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明においては、Li結晶相を形成可能な組成を有する原料組成物を調製する調製工程と、上記原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する合成工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、上記組成を有する原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行うことにより、Li結晶を有し、かつLiイオン伝導性が優れた硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0012】
上記発明においては、上記原料組成物が、硫化リチウム(LiS)、リン(P)および硫黄(S)を含有し、上記LiS、PおよびSの割合が、モル基準で、LiS:P:S=2:1.6〜2.4:3.2〜4.8であることが好ましい。Liの組成またはその近傍組成を得ることができるからである。
【0013】
上記発明においては、上記原料組成物が、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)および三硫化二リン(P)を含有し、上記LiS、PおよびPの割合が、モル基準で、LiS:P:P=2:0.4〜0.6:0.4〜0.6であることが好ましい。Liの組成またはその近傍組成を得ることができるからである。
【0014】
上記発明においては、上記合成工程において、上記メカニカルミリング法を行うことが好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0015】
また、本発明においては、上述した硫化物固体電解質材料の製造方法により得られたことを特徴とする硫化物固体電解質材料を提供する。
【0016】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料の製造方法を行うことにより、Liイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0017】
また、本発明においては、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料であって、X線回折測定において2θ=32.5°付近に上記Li結晶相のメインピークを有し、上記メインピークの半値幅が0.5°以上であることを特徴とする硫化物固体電解質材料を提供する。
【0018】
本発明によれば、メインピークの半値幅が上記の値以上であることから、Liイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0019】
上記発明においては、室温でのLiイオン伝導度が、1.0×10−5S/cm以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有するリチウム電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするリチウム電池を提供する。
【0021】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることで、出力特性が良好なリチウム電池とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、Li結晶相を有し、かつ、Liイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明のリチウム電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。
【図3】実施例および比較例で得られた硫化物固体電解質材料のX線回折の測定結果である。
【図4】実施例および比較例で得られた硫化物固体電解質材料のX線回折の測定結果である。
【図5】実施例で得られた硫化物固体電解質材料の交流インピーダンスプロットである。
【図6】比較例で得られた硫化物固体電解質材料の交流インピーダンスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法、硫化物固体電解質材料およびリチウム電池について詳細に説明する。
【0025】
A.硫化物固体電解質材料の製造方法
まず、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法は、Li結晶相を形成可能な組成を有する原料組成物を調製する調製工程と、上記原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する合成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
本発明によれば、上記組成を有する原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行うことにより、Li結晶を有し、かつLiイオン伝導性が優れた硫化物固体電解質材料を得ることができる。上述したように、Li結晶は、Liイオン伝導性が極めて悪いという問題があった。Liイオン伝導性が極めて悪い理由は、結晶間の粒界抵抗が大きいためであると考えられる。これに対して、本発明においては、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行うことにより、アモルファスライクなLi結晶を形成することができ、結晶間の粒界抵抗を小さくすることができる。その結果、硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導性を顕著に向上させることができるのである。また、本発明においては、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行った後に加熱処理を行わなくても、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる。そのため、製造工程が簡略化できるという利点がある。
【0027】
なお、上述した特許文献2では、LiSおよびPを含有する原料組成物に、メカニカルミリング法を行っているが、この場合、後述する比較例に記載するように、メカニカルミリング法のみでは、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成することはできない。
【0028】
図1は、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。図1においては、まず、不活性ガス雰囲気下で、硫化リチウム(LiS)、リン(P)および硫黄(S)を準備し、これらをLiS:P:S=2:2:4(モル基準)で混合し、原料組成物を得る(調製工程)。次に、その原料組成物に、所望の台盤回転数および時間でメカニカルミリング法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する(合成工程)。
【0029】
本発明の製造方法により得られる硫化物固体電解質材料は、少なくともLi結晶相を有するものである。硫化物固体電解質材料がLi結晶相を有するか否かは、X線回線測定により、Li結晶相のメインピークである2θ=32.5°付近のピークが確認されるか否かにより判断することができる。また、硫化物固体電解質材料は、Li結晶相以外の結晶相を有するものであっても良いが、Li結晶相を主体とするものであることが好ましい。「Li結晶相を主体とする」とは、Li結晶相のメインピークの強度が、その他の結晶相のピークの強度よりも大きいことをいう。さらに、硫化物固体電解質材料は、Li結晶相のみを有し、他の結晶相のピークを有しないものであっても良い。また、本発明により得られる硫化物固体電解質材料は、通常、アモルファスライクになる。本発明においては、後述する「B.硫化物固体電解質材料 2.第二実施態様」に記載するように、Li結晶相のメインピークの半値幅が所定の角度以上であるものであることが好ましい。
【0030】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について、工程ごとに説明する。なお、本発明においては、後述する各工程を、通常、不活性ガス雰囲気下(例えばArガス雰囲気下)で行う。
【0031】
1.調製工程
まず、本発明における調製工程について説明する。本発明における調製工程は、Li結晶相を形成可能な組成を有する原料組成物を調製する工程である。「Li結晶相を形成可能な組成」とは、本発明の製造方法により得られた硫化物固体電解質材料に対して、X線回線測定を行った場合に、Li結晶相のメインピークである2θ=32.5°付近のピークを確認できる組成をいう。
【0032】
本発明における原料組成物は、少なくともLi元素、P元素およびS元素を含有する。原料組成物の組成は、Li結晶相を形成可能な組成であれば特に限定されるものではない。原料組成物の一例としては、硫化リチウム(LiS)、リン(P)および硫黄(S)を含有するものを挙げることができる。この場合、例えばLiS:P:S=2:2:4のモル比で混合することで、Liの組成を得ることができる。また、LiSは不純物が少ないことが好ましい。副反応を抑制することができるからである。LiSの合成方法としては、例えば特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。原料組成物に用いられるリンとしては、例えば、赤リン、黄リン、黒リン等を挙げることができ、中でも赤リンが好ましい。原料組成物に用いられる硫黄としては、例えば、斜方硫黄、ゴム状硫黄、単斜硫黄等を挙げることができ、中でも斜方硫黄が好ましい。
【0033】
原料組成物がLiS、PおよびSを含有する場合、これらの割合は、Li結晶相を形成可能な割合であれば特に限定されるものではないが、Liの組成またはその近傍組成を得られる割合であることが好ましい。具体的には、LiS、PおよびSの割合が、モル基準で、LiS:P:S=2:1.6〜2.4:3.2〜4.8であることが好ましく、2:1.8〜2.2:3.6〜4.4であることがより好ましく、2:1.9〜2.1:3.8〜4.2であることがさらに好ましい。
【0034】
また、原料組成物の他の例としては、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)および三硫化二リン(P)を含有するものを挙げることができる。この場合、例えばLiS:P:P=2:0.5:0.5のモル比で混合することで、Liの組成を得ることができる。原料組成物がLiS、PおよびPを含有する場合、これらの割合は、Li結晶相を形成可能な割合であれば特に限定されるものではないが、Liの組成またはその近傍組成を得られる割合であることが好ましい。具体的には、LiS、PおよびPの割合が、モル基準で、LiS:P:P=2:0.4〜0.6:0.4〜0.6であることが好ましく、2:0.45〜0.55:0.45〜0.55であることがより好ましく、2:0.48〜0.52:0.48〜0.52であることがさらに好ましい。
【0035】
2.合成工程
次に、本発明における合成工程について説明する。本発明における合成工程は、上記原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する工程である。
【0036】
本発明においては、溶融急冷法およびメカニカルミリング法のいずれを用いた場合であっても、Li結晶相を有し、アモルファスライクな硫化物固体電解質材料を合成することができるが、中でも、メカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0037】
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質材料を効率良く得ることができるからである。また、本発明においては、メカニカルミリングを行うことのみで、その後の加熱処理を行うことなく、結晶性がある程度高い(アモルファスライクな)硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0038】
メカニカルミリングの各種条件は、Li結晶相を有し、アモルファスライクな硫化物固体電解質材料を得ることができるように設定する。例えば、遊星型ボールミルにより硫化物固体電解質材料を作製する場合、ポット内に、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物固体電解質材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物から硫化物固体電解質材料への転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の回転数としては、例えば200rpm〜500rpmの範囲内、中でも250rpm〜400rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば10時間〜500時間の範囲内、中でも20時間〜100時間の範囲内であることが好ましい。
【0039】
3.硫化物固体電解質材料
本発明の製造方法により得られる硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導度の値が高いことが好ましい。室温でのLiイオン伝導度は、例えば10−6S/cm以上であることが好ましく、10−5S/cm以上であることがより好ましい。また、硫化物固体電解質材料は、通常粉末状であり、その平均径は例えば0.1μm〜50μmの範囲内である。また、硫化物固体電解質材料の用途としては、例えば、リチウム電池用途を挙げることができる。
【0040】
B.硫化物固体電解質材料
次に、本発明の硫化物固体電解質材料について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料は、2つの実施態様に大別することができる。以下、本発明の硫化物固体電解質材料について、第一実施態様および第二実施態様に分けて説明する。
【0041】
1.第一実施態様
まず、本発明の硫化物固体電解質材料の第一実施態様について説明する。第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、上述した硫化物固体電解質材料の製造方法により得られたことを特徴とするものである。
【0042】
第一実施態様によれば、上述した硫化物固体電解質材料の製造方法を行うことにより、Liイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料とすることができる。そのため、例えばリチウム電池用途に有用な硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0043】
なお、第一実施態様における硫化物固体電解質材料の製造方法、硫化物固体電解質材料の特性、およびその他の事項については、上記「A.硫化物固体電解質材料の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0044】
2.第二実施態様
次に、本発明の硫化物固体電解質材料の第二実施態様について説明する。第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料であって、X線回折測定において2θ=32.5°付近に上記Li結晶相のメインピークを有し、上記メインピークの半値幅が0.5°以上であることを特徴とするものである。
【0045】
第二実施態様によれば、メインピークの半値幅が上記の値以上であることから、Liイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料とすることができる。そのため、例えばリチウム電池用途に有用な硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0046】
第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、X線回折測定において2θ=32.5°付近にLi結晶相のメインピークを有する。ここで、2θ=32.5°は、XRDデータベースによるメインピークの理論値を意味する。そのため、硫化物固体電解質材料の組成や結晶性によっては、2θ=32.5°から角度が多少前後する場合がある。第二実施態様におけるLi結晶相のメインピークは、例えば、2θ=32.5°±0.5°に現れる。
【0047】
第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、少なくとも上記メインピークを有していれば良い。一方、第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、Li結晶相を有するため、ある程度結晶性が高い場合には、上記メインピーク以外にも、特徴的なピークが現れる。このようなピークとしては、ピーク強度が大きい順に、2θ=27.1°、52.2°、16.9°のピーク等を挙げることができる。なお、これらの角度もXRDデータベースによる理論値を意味し、上記メインピークと同様に、角度が前後する場合がある。また、第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、メインピークのみを有するものであっても良く、2〜4番目までの強度のピークを有するものであっても良い。通常、硫化物固体電解質材料の結晶性が高くなる程、ピークの数は増えるので、ピークの数で結晶性を規定することもできる。
【0048】
また、第二実施態様において、上記メインピークの半値幅は、通常0.5°以上であり、0.55°以上であることが好ましく、0.60°以上であることがより好ましい。Liイオン伝導性がさらに向上するからである。一方、上記メインピークの半値幅の上限は特に限定されるものではない。硫化物固体電解質材料の結晶性が低くなれば上記半値幅は大きくなるが、同時にピーク強度は小さくなるため、半値幅の測定が困難になる場合がある。第二実施態様においては、少なくとも上記メインピークが確認できる結晶性を有していれば良く、上記メインピークの半値幅の上限は特に限定されるものではない。
【0049】
なお、第二実施態様における硫化物固体電解質材料の特性、およびその他の事項については、上記「A.硫化物固体電解質材料の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0050】
C.リチウム電池
次に、本発明のリチウム電池について説明する。本発明のリチウム電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有するリチウム電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするものである。
【0051】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることで、出力特性が良好なリチウム電池とすることができる。
【0052】
図2は、本発明のリチウム電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。図2に示される発電要素10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、を有するものである。さらに、本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および電解質層3の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを大きな特徴とする。
以下、本発明のリチウム電池について、構成ごとに説明する。
【0053】
1.電解質層
まず、本発明における電解質層について説明する。本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層は、Liイオンの伝導を行うことができる層であれば特に限定されるものではないが、固体電解質材料から構成される固体電解質層であることが好ましい。安全性の高いリチウム電池(全固体電池)を得ることができるからである。さらに、本発明においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%〜100体積%の範囲内、中でも50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質材料のみから構成されていることが好ましい。硫化水素発生量の少ないリチウム電池を得ることができるからである。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
【0054】
また、本発明における電解質層は、電解液から構成される層であっても良い。電解液を用いることで、高出力なリチウム電池を得ることができる。この場合は、通常、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一方が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することになる。また、電解液は、通常、リチウム塩および有機溶媒(非水溶媒)を含有する。リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、およびLiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)等を挙げることができる。
【0055】
2.正極活物質層
次に、本発明における正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、正極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。正極活物質層に含まれる硫化物固体電解質材料の割合は、リチウム電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO、LiMnO、LiNiMn、LiVO、LiCrO、LiFePO、LiCoPO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等を挙げることができる。
【0056】
本発明における正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、正極活物質層は、結着材を含有していても良い。結着材の種類としては、例えば、フッ素含有結着材等を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0057】
3.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、負極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。負極活物質層に含まれる硫化物固体電解質材料の割合は、リチウム電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、負極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内である。
【0058】
4.その他の構成
本発明のリチウム電池は、上述した正極活物質層、電解質層および負極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、リチウム電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的なリチウム電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。また、本発明のリチウム電池が全固体電池である場合、発電要素を絶縁リングの内部に形成しても良い。
【0059】
5.リチウム電池
本発明のリチウム電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明のリチウム電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0060】
また、本発明のリチウム電池の製造方法は、上述したリチウム電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的なリチウム電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、本発明のリチウム電池が全固体電池である場合、その製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。また、本発明においては、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層をそれぞれ提供することもできる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0063】
[実施例]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と、リン(P)と、硫黄(S)とを用いた。これらの原料をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P:S=2:2:4のモル比となるように秤量し、混合し、原料組成物1gを得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、台盤回転数370rpmで100時間メカニカルミリングを行い、Li結晶相を有し、かつアモルファスライクな硫化物固体電解質材料を得た。
【0064】
[比較例]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)と、五硫化二リン(P)とを用いた。これらの原料をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P=67:33のモル比となるように秤量し、混合し、原料組成物1gを得た。次に、得られた原料組成物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(Φ10mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、台盤回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行い、ガラスサンプル(67LiS−33Pガラス、Liガラス)を得た。
【0065】
次に、得られたガラスサンプルを450℃で3時間熱処理することで、Li結晶相を有し、かつ結晶性の高い硫化物固体電解質材料を得た。なお、この合成方法は、非特許文献1に記載の方法を参考にしたものである。また、ガラスサンプルを高温で加熱したという観点からは、この合成方法は固相法の一種であると考えることもできる。
【0066】
[評価]
(X線回折測定)
実施例および比較例で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折測定を行った。その結果を図3に示す。図3に示されるように、実施例(メカニカルミリング法による合成)においても、比較例(固相法による合成)と同様に、Li結晶相を単相で有する硫化物固体電解質材料を得ることができた。また、実施例で得られた硫化物固体電解質材料は、比較例で得られた硫化物固体電解質材料に比べて、アモルファスライクであり、結晶性が低いことが確認された。なお、両者は、ともに2θ=32.5°付近に大きなメインピークを有していた。両者のメインピークを比較したものを図4に示す。図4に示されるように、両者の半値幅を比較すると、実施例では0.62°であり、比較例では0.20°であった。
【0067】
なお、比較例で作製したガラスサンプルについても、X線回折測定を行った。その結果、ハローパターンが得られ、ガラスが生成したと判断されることから、Li結晶相は形成されていなかった。
【0068】
(Liイオン伝導度測定)
実施例および比較例で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、Liイオン伝導度測定を行った。Liイオン伝導度は以下のように測定した。すなわち、硫化物固体電解質材料の粉末をペレット化し、交流インピーダンス法によって室温でのLiイオン伝導度を測定した。その結果を図5、図6および表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
図6において、比較例の交流インピーダンスプロットには、高周波側でプロットの乱れがあったが、これは低伝導性による乱れであり、測定限界であると考えられる。そのため、表1の比較例のLiイオン伝導度は、フィッティングにより求めた。また、表1に示されるように、実施例は、比較例に比べて、10倍もLiイオン伝導度が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 電解質層
10 … 発電要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li結晶相を形成可能な組成を有する原料組成物を調製する調製工程と、
前記原料組成物に、メカニカルミリング法または溶融急冷法を行い、Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料を合成する合成工程と、
を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物が、硫化リチウム(LiS)、リン(P)および硫黄(S)を含有し、前記LiS、PおよびSの割合が、モル基準で、LiS:P:S=2:1.6〜2.4:3.2〜4.8であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項3】
前記原料組成物が、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)および三硫化二リン(P)を含有し、前記LiS、PおよびPの割合が、モル基準で、LiS:P:P=2:0.4〜0.6:0.4〜0.6であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項4】
前記合成工程において、前記メカニカルミリング法を行うこと特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法により得られたことを特徴とする硫化物固体電解質材料。
【請求項6】
Li結晶相を有する硫化物固体電解質材料であって、
X線回折測定において2θ=32.5°付近に前記Li結晶相のメインピークを有し、前記メインピークの半値幅が0.5°以上であることを特徴とする硫化物固体電解質材料。
【請求項7】
室温でのLiイオン伝導度が、1.0×10−5S/cm以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項8】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有するリチウム電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項5から請求項7までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするリチウム電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−119159(P2011−119159A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276719(P2009−276719)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】