説明

硫化金属ナノ粒子の製造方法及び光電変換素子

【課題】従来の合成方法と比較して温和な系でかつ安価で工業的に、光学機能材料、電子デバイス等への応用が期待できる硫化金属ナノ粒子を合成する。また、硫化金属ナノ粒子を用いた新規な光電変換素子を提案する。
【解決手段】本発明の硫化金属ナノ粒子の製造方法は、前駆体金属錯体と硫黄を含むチオール化合物溶液とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化金属ナノ粒子の製造方法と、太陽電池を始めとする光電変換素子とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク物質とは異なった特異な物性から、ナノ材料が盛んに研究されている。半導体は、そのサイズがナノメートルオーダーになると、電子−正孔対(エキシトン)が狭い領域に閉じ込められる「量子閉じ込め効果」が観測されるようになる。その一例として、CdSを始めとする直接遷移型半導体ナノ粒子は、「量子ドット」と呼ばれ、粒子サイズにより発光波長及びバンドギャップが制御できることがよく知られている。また、電子線リソグラフィー等の方法を用いて、半導体超薄膜を一方向に切り刻み、線状の量子井戸構造が造られ、形状の伴った量子サイズ効果が得られることが知られている。このように、電子状態を制御できる半導体ナノ粒子は、次世代の発光材料、光学材料又はエネルギー変換材料への応用が期待されている。また、近年では、ナノ粒子は、生物組織へのマーカーとして、バイオメディカル分野で従来の有機色素に変わる製品として実用化されてもいる。
【0003】
従来のナノ粒子の作成法は、ブレイクダウン法(トップダウン法)とビルドアップ法(ボトムアップ法)とに大別される。ブレイクダウン法は、バルク物質を粉砕して微粒子とする方法であるが、粒子サイズはサブミクロンレベルが限界である。ビルドアップ法は、さらに固相法、気相法及び液相法の三種類に分類される。固相法は、製造過程に長時間を要し、粒子の凝集が著しく、サイズ制御が困難であるため、実用には不向きであり、主に気相法と液相法とが利用されている。気相法では、蒸気及び反応ガスの濃度とキャリアガス種の選択とにより、粒子サイズ、結晶構造等を制御できる上、純粋な組成のナノ粒子が得られるが、大量合成には向いていない、また、得られたナノ粒子が基板上にランダムに蓄積するため、ナノ粒子を秩序配列させてデバイスを形成することは困難である。一方、液相法は、大量生産が可能であること、またナノ粒子の自己組織化の利用によるデバイスの作成が可能となること等の利点がある(非特許文献1)。
【0004】
液相法では、希薄溶液中での合成が古くから試みられており(均一液相合成)、初期における量子ドットの研究において多大な貢献をした。また、逆ミセルを利用したナノ粒子の合成も近年盛んに研究されており、単分散ナノ粒子が比較的大量に合成できることが示されている(逆ミセル法)。このような研究の流れの中で、BawendiやAlivissatosらのグループは、高温極性溶媒中で非常に単分散な半導体ナノ粒子を合成する方法を見出した(ホットソープ法)。この方法では、粒子の表面に吸着する界面活性剤が粒子成長の制御及び凝集防止をすることで、単分散なナノ粒子を得ることができる。このホットソープ法は、逆ミセル法とは異なり、非水溶媒中で合成を行うため、酸化等の影響が少なく、また界面活性剤が表面のダングリングボンドを不活性化するため、従来のナノ粒子に比べ非常に量子効率が高いということが特徴である。
【0005】
しかし、ホットソープ法は、金属アルコキシド等の危険な原材料を用いることや、表面保護剤として用いられるTOP/TOPOが高価な上に腐食性も強いため、生産工程のスケールアップが非常に困難である(非特許文献2、3)という欠点があった。
【0006】
一方、本発明者ら及びKorgelのグループは、銅前駆体とチオール化合物とを反応させて硫化銅ナノ粒子を得ており(非特許文献4、5)、また金属前駆体とチオール化合物とを反応させて硫化金属ナノ粒子を製造する方法を提案している(特許文献6)。
【0007】
【非特許文献1】奥村喜久夫著「ナノマテリアル最前線」 化学同人 2002年
【非特許文献2】C. B. Murray et al. : J. Am. Chem. Soc 115,8706(1993)
【非特許文献3】X. Peng et al. : J. Am. Chem. Soc 119,7019(1997)
【非特許文献4】Chem. Lett. vol.33 352-353(2004)
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. Vol.125,5638(2003)
【特許文献1】特開2005−325016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、現状では実用例の数は少なく、ナノ粒子の機能発現に大きく影響するサイズ分布、化学組成、材料の純度、材料の種類、結晶構造等を十分に考慮したナノ粒子の製造そのものが技術課題である。
【0009】
また、特許文献4、5開示の方法は反応条件が比較的高温(300°C)であり、より温和な条件で合成する方法が望まれていた。特許文献6においては、硫化金属ナノ結晶を無機有機ハイブリッド電気発光素子に応用できるとしているが、光電変換素子への応用については記載されていない。
【0010】
発明者らは、以前、金属−チオール錯体を熱分解することで、容易に硫化銅及び硫化亜鉛が得られることを見出した。この方法は、比較的無害な原料物質を原材料とするが、錯体の分解温度が高いため、高価な高沸点溶媒を必要とする難点をもつという問題があった。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、従来の合成方法と比較して温和な系でかつ安価で工業的に、光学機能材料、電子デバイス等への応用が期待できる硫化金属ナノ粒子を合成することを解決すべき課題としている。また、本発明は、硫化金属ナノ粒子を用いた新規な光電変換素子を提案することも解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の硫化金属ナノ粒子の製造方法は、前駆体金属錯体と硫黄を含むチオール化合物溶液(以下、「硫黄/チオール溶液」と呼ぶ。)とを混合することを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法では、硫化金属ナノ粒子を従来の合成方法と比較して温和な条件でかつ安価に合成することができる。得られる硫化金属ナノ粒子は、光電変換素子、その他の電子デバイス等への応用が期待できる。
【0014】
硫化金属ナノ粒子の製造方法に関して、詳細に説明する。まず、前駆体金属錯体の調製方法について説明する。前駆体金属錯体を調製する方法としては、特に限定はされないが、目的の金属を含有する金属塩とアミン化合物とをエーテル化合物、トルエン、ヘキサン等の溶媒中で接触させたり、アミン自体を溶媒としてアミンの中に直接金属塩を加えたりすることが好ましく行われる。
【0015】
金属塩とアミン化合物との反応で、金属−アミン錯体(前駆体金属錯体)が形成される。この金属−アミン錯体に硫黄/チオール溶液を反応させ、硫化することで、硫化金属ナノ粒子が得られる。
【0016】
金属塩としては、特に限定さないが、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、金属ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、塩酸塩、過塩素酸塩、酸化物、有機酸塩等が挙げられ、なかでも酢酸塩、アセチルアセトナート塩が好ましい。
【0017】
酢酸塩、アセチルアセトナート塩としては、酢酸銅、銅アセチルアセトナート、酢酸カドミウム、カドミウムアセチルアセトナート、酢酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、酢酸水銀、水銀アセチルアセトナート、酢酸鉛、鉛アセチルアセトナート、酢酸錫、錫アセチルアセトナート、酢酸ゲルマニウム、ゲルマニウムアセチルアセトナート、酢酸ガリウム、ガリウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、酢酸タリウム、タリウムアセチルアセトナート、酢酸チタン、チタンアセチルアセトナート、酢酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、酢酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、酢酸モリブデン、モリブデンアセチルアセトナート、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、酢酸銀、銀アセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0018】
アミン化合物としては、1級アミンあるいは2級アミン構造を有するものなら、いずれのアミン化合物でも良い。例えば、エチルアミン、プロピルアミン、1−ブチルアミン、オクチルアミン、オレイルアミン、アニリン等が挙げられるが、なかでもオクチルアミン、オレイルアミンが好ましく用いられる。アミン化合物は、「錯化剤」として機能する以外にも、「表面保護剤」として機能する。
【0019】
使用できる溶媒としては、エーテル類、アルコール類、ハロゲン化物、炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0020】
金属塩、アミン化合物及び溶媒の混合比は、特に限定されず、全体が均一な溶液になればよく、使用する金属塩と使用するアミン化合物の組み合わせで適宜選択される。
【0021】
前駆体金属錯体の調製温度及び接触時間は、特に限定されず、金属塩とアミン化合物との組み合わせにより、適宜選択できるが、通常、調製温度は−20°C〜150°Cの範囲が好ましく、接触時間は0.5分〜3時間の範囲が好ましい。
【0022】
本発明においては、硫黄とチオール化合物を混合し、硫黄/チオール溶液を調製する。硫黄はチオール化合物に溶解する際、化1の反応式(Rはアルキル基である。)の下、チオール化合物の還元能により硫化水素となり、目的とする硫化金属ナノ粒子の硫黄源となる。
【0023】
(化1)
S+2RSH→(RSH)2S→H2S+RSSR
【0024】
チオール化合物は、(1)炭素数3〜20のアルキル基、(2)炭素数6〜14のアリール基、(3)炭素数7〜20のアラルキル基又は(4)窒素、硫黄及び酸素から選ばれる1種以上を含む複素環基から選ばれる官能基を有し得る。チオール化合物は、硫黄の「還元剤」として機能する以外に、「表面保護剤」として機能する。
【0025】
具体的には、アルキル基を有するチオール化合物としては、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、1−ペンタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ペンタデカンチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
【0026】
アリール基を有するチオール化合物としては、チオフェノール、2−ナフタレンチオール、3−ナフタレンチオール、ジメチルベンゼンチオール、エチルベンゼンチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
【0027】
アラルキル基を有するチオール化合物としては、ベンジルチオール、2−フェニルエタンチオール、3−フェニルプロピルチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
【0028】
複素環基を有するチオール化合物としては、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
【0029】
以上挙げたチオール化合物の中で、アルキル基を有するチオール化合物が好ましく用いられ、特に好ましくは、アルキル基の炭素数が6以上のチオール化合物が用いられる。
【0030】
チオール化合物に硫黄を溶解させる方法としては、硫黄の溶解を促進するため、混合後加熱攪拌を行う。反応時間は10分〜1時間程度で、反応温度によって任意に設定できる。反応温度は、室温から200°C、好ましくは50°C〜150°Cの範囲である。
【0031】
本発明においては、上記前駆体金属錯体及び上記硫黄/チオール溶液を混合する。このとき、前駆体金属錯体と硫黄/チオール溶液との混合比は、特に限定されないが、金属と硫黄との原子比が目的とする硫化金属ナノ粒子となるように混合することが通常行われる。
【0032】
使用できる溶媒としては、エーテル類、アルコール類、ハロゲン化物、炭化水素、芳香族類(トルエンやベンゼン)、アミン類等が挙げられる。反応温度は、0°C以上、好ましくは室温以上であり、300°C以下、好ましくは200°C以下である。
【0033】
反応温度によって、粒子サイズをコントロールすることができる。また、同様に粒子の形状をコントロールすることもできる。一般的には、反応温度を高温にすると、初期過程の金属−チオール錯体の形成が早くなり、核となる量が増加するため、最終的に形成されるナノ粒子のサイズは小さくなる傾向にあるが、ZnS、PbSの場合は、むしろ反応温度が低いほど粒子サイズが小さくなる傾向にある。
【0034】
硫化金属ナノ粒子は、CdS、ZnS、HgS、PbS、SnSX(Xは1〜2)、GeS、GaS、InS、In23、TlSx(Xは1〜2)、TiS2、MnSX(Xは1〜2)、FeSX(Xは1〜2)、Fe23、NiS、CuXS(Xは1〜2)、MoS2、PdS、Ag2S、PtS2、AuS、Au2S及びAu23より選ばれる1種以上の物質であり得る。
【0035】
Cuについては、CuS、Cu2Sを個別に調整することができ、またそれらの混合物として得ることもできる。例えば、CuS、Cu95、Cu98、Cu2S等が挙げられる。
【0036】
Sn、Mn、Tlについても、SnSとSnS2、MnSとMnS2、TlSとTlS2をそれぞれ個別に調製することもでき、また混合物として、得ることもできる。
【0037】
硫化金属ナノ粒子は、球状、コイン状、フィルム状、紐状及び星状から選ばれる1種をそれぞれ個別に調整することができ、またそれらの混合物として得ることもできる。例えば、球状のナノ粒子については、初期から終了時まで、反応温度80〜150°Cで行うことで調製され得る。また、コイン状のナノ粒子については、反応温度を30°C程度とすることで調製可能である。フィルム状のナノ粒子については、酸素を含む雰囲気中で長時間(2時間以上)反応を継続することでフィルム状に成長し、調製可能である。
【0038】
本発明の光電変換素子は、上記で得られた硫化金属ナノ粒子を用いたことを特徴とする。
【0039】
本発明の光電変換素子は、上記で得られた硫化金属ナノ粒子を酸化チタンナノ粒子上に吸着した電極を用いたことを特徴とする。
【0040】
本発明の光電変換素子の具体例である太陽電池について説明する。太陽電池の例としては、例えば、図1に示す断面を有する素子を挙げることができる。
【0041】
この素子は、透明導電性基板1上に光吸収剤として働く硫化金属ナノ粒子を吸着させた半導体層3が配置され、半導体層3と対向電極基板2の間に電解質層4が配置され、周辺がシール材5で密封されている。なお、リード線は透明導電性基板1と対向電極基板2との導電部分に接続され、電力を取り出すことができる。
【0042】
透明導電性基板1は、通常、透明基板上に透明電極層を積層させて製造される。透明基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することである。また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0043】
また、電極の導電層を形成する透明導電膜としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されなく、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステン等の金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In23:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO2:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))等が好適なものとして用いられる。
【0044】
膜厚は、通常10nm〜10μm、好ましくは100nm〜2μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常、0.5〜500Ω/sq、好ましくは2〜50Ω/sqである。
【0045】
対向電極基板2の電極としては、通常、白金、カーボン電極等を用いることができる。対向電極基板2の材質は、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。また、金属プレート等を基板として用いることもできる。
【0046】
太陽電池において用いられる半導体層3としては、特に限定されないが、例えば、TiO2、ZnO、SnO2、Nb25からなる層等が挙げられ、なかでもTiO2、ZnOからなる層が好ましい。半導体は単結晶でも多結晶でも良い。結晶系としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型等が主に用いられるが、好ましくはアナターゼ型である。
【0047】
半導体層3の形成には公知の方法を用いることができる。半導体層3の形成方法としては、上記半導体のナノ粒子分散液、ゾル溶液等を公知の方法により基板上に塗布することで得ることができる。この場合の塗布方法としては、特に限定されず、キャスト法による薄膜状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法の他、スクリーン印刷法を初めとした各種の印刷方法を挙げることができる。
【0048】
半導体層3の厚みは、任意であるが、0.5μm以上、50μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下である。
【0049】
本発明においては、上記半導体層3の上に硫化金属ナノ粒子層を配置する。半導体層3の上に硫化金属ナノ粒子層を配置する方法としては、特に限定はされないが、硫化金属ナノ粒子を溶媒に分散させた懸濁液中に、導電性ガラス基板上に半導体層3を配置した積層物を浸漬し、吸着させることが通常行われる。好ましくは、吸着後、乾燥又は焼成する。乾燥は、通常、室温〜200°C程度で行われ、焼成は、残存するアルキル基等の炭素源を除去するため、300°C以上、好ましくは、300〜500°Cで焼成される。また焼成時間は20分〜2時間程度である。
【0050】
本発明において用いられる電解質層4としては、特に限定されず、液体系でも固体系のいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光電変換素子の作用する電位領域において、可逆的に電気化学的酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して、−1〜+2V vs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
【0051】
電解質層4のイオン伝導度は、通常、室温で1×10-7S/cm以上、好ましくは1×10-6S/cm以上、さらに好ましくは1×10-5S/cm以上であることが望ましい。
【0052】
電解質層4の厚さは、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また、3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。
【0053】
かかる電解質層4としては、上記の条件を満足すれば特に制限されるものでなく、液体系及び固体系とも、本技術分野で公知のものを使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
【実施例1】
【0055】
酢酸鉛(444mg)とオレイルアミン(4.8ml)とをトルエン中に混合し、アルゴン雰囲気下、数分間攪拌した後、100°Cまで昇温した。次に、硫黄(32mg)をド゛デカンチオール(6.2ml)に溶解した後、この溶液を酢酸鉛及びオレイルアミンの溶液に添加した。100°Cで30分間攪拌した後、冷却し、続いて遠心分離機にて目的の硫化鉛ナノ粒子を得た。
【0056】
硫化鉛ナノ粒子の平均粒径は7nmであった。また、得られた硫化鉛ナノ粒子をヘキサン中に分散させ、吸収スペクトルを測定した(図2)。
【0057】
得られた硫化鉛ナノ粒子の分散液に酸化チタンナノ粒子を積層した導電性ガラス基板を、浸漬したところ、硫化鉛ナノ粒子が酸化チタンナノ粒子の層に吸着した。この基板を光電変換層とし、対極に白金層を形成した導電性ガラスを用い、2枚の基板を対向し、周辺をシーリングし、基板間に、ヨウ素レドックスを行う電解液を注入して、太陽電池を作製した。
【0058】
実施例1の太陽電池について、分光感度測定を実施したところ、900nmで0.5%の光電変換効率を得た。
【実施例2】
【0059】
酢酸銅(79mg)とオレイルアミン(1.9ml)とをジオクチルエーテル(20ml)中に混合し、アルゴン雰囲気下で数分間攪拌した後、100°Cまで昇温した。
【0060】
次に、硫黄(13mg)をドデカンチオール(2.5ml)に溶解した後、この溶液を酢酸銅とオレイルアミンとの溶液に添加した。100°Cで30分間攪拌した後、冷却し、続いて遠心分離機にて目的の硫化銅ナノ粒子を得た。
【0061】
硫化銅ナノ粒子の平均粒径は5nmであった。また、得られた硫化銅ナノ粒子をヘキサン中に分散させ、吸収スペクトルを測定した(図3)。
【0062】
得られた硫化銅ナノ粒子の分散液に酸化チタンナノ粒子を積層した導電性ガラス基板を、浸漬したところ、硫化銅ナノ粒子が酸化チタンナノ粒子の層に吸着した。この基板を光電変換層とし、対極に白金層を形成した導電性ガラスを用い、2枚の基板を対向し、周辺をシーリングし、基板間に、ヨウ素レドックスを行う電解液を注入して、太陽電池を作製した。
【0063】
実施例2の太陽電池について、分光感度測定を実施したところ、950nmで0.3%の光電変換効率を得た。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は太陽電池等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】太陽電池の断面の例である。
【図2】硫化鉛の吸収スペクトル図である。
【図3】硫化銅の吸収スペクトル図である。
【符号の説明】
【0066】
1…透明導電性基板
2…対向電極基板
3…硫化金属ナノ粒子を含浸した半導体層
4…電解質層
5…シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体金属錯体と、硫黄を含むチオール化合物溶液とを混合することを特徴とする硫化金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の前駆体金属錯体は、金属塩とアミン化合物とから調製される硫化金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のチオール化合物は、炭素数3〜20のアルキル基、
炭素数6〜14のアリール基、
炭素数7〜20のアラルキル基、
又は窒素、硫黄及び酸素から選ばれる1種以上を含む複素環基
から選ばれる官能基を有する硫化金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記硫化金属ナノ粒子は、CdS、ZnS、HgS、PbS、SnSX(Xは1〜2)、GeS、GaS、InS、In23、TlSx(Xは1〜2)、TiS2、MnSX(Xは1〜2)、FeSX(Xは1〜2)、Fe23、NiS、CuXS(Xは1〜2)、MoS2、PdS、Ag2S、PtS2、AuS、Au2S及びAu23より選ばれる1種以上の物質である請求項1乃至3のいずれか1項記載の硫化金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記硫化金属ナノ粒子は、球状、コイン状、フィルム状、紐状及び星状から選ばれる1種又はこれらの混合物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の硫化金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5記載の硫化金属ナノ粒子を用いたことを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
請求項1乃至5記載の硫化金属ナノ粒子を酸化チタンナノ粒子上に吸着した電極を用いたことを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−56511(P2008−56511A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232972(P2006−232972)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】