説明

硫酸ピッチ処理法

【課題】固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを的確、安全かつ処理物が最終燃焼処分ならびに燃料再利用可能な液状物とする処理方法ならびに処理装置を提供する。
【解決手段】固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチに、親油性有機物液体、弱塩基性親水性有機物液体および強塩基性水−アルコール混合溶液をこの順序で添加することにより、硫酸ピッチを中和処理しながら液体化する。上記処理を閉鎖系処理装置内で実施するとともに、発生する酸性有害ガスを無害化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤や重質油等石油製品の硫酸洗浄工程において発生する硫酸ピッチや硫酸スラッジ等、特に固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを適切に中和処理する処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤や重質油等の石油製品の硫酸洗浄工程において発生する硫酸ピッチや硫酸スラッジ等は強酸性の産業廃棄物であることから、適切に無害化処理をして廃棄する必要がある。従来は、油分を分離した後に生じた強酸性廃棄物は焼却処理をしていたが、中和処理を行わずに焼却していたため、亜硫酸ガス等の有害ガスが大量に発生し、人体に多大な危険を及ぼしていた、またこれら有害ガスを無害化処理するために大規模な設備とコストが必要であった。
【0003】
そこで、強酸性廃棄物を焼却処分する前に、前処理として消石灰等の弱塩基性化合物で中和した後、焼却するという方法がとられるようになった。しかしながら、強酸である硫酸ピッチ等の強酸性廃棄物に塩基性固形物質を添加すると、中和反応が局在化し部分的な中和熱によって、有害な酸性ガスの発生のため作業環境が著しく悪化し、人体にとって危険な状況になるという問題があった。
【0004】
また、消石灰のような弱塩基性物質では、硫酸ピッチの強酸性を中和するために30倍〜100倍の重量を加えなければならなくなり、中和を行った後も、高粘度あるいは固形化するために、焼却炉への連続投入が困難となったり、焼却炉が破損するなどの問題も生じていた。
【0005】
上記問題を解決するために、セメント系固化処理剤を用いて強酸性廃棄物をセメント原料とする方法がいくつか提案されている(例えば、特許文献1〜3)。これらの方法は、一部中和と固化を同時に行うため比較的安全な方法ではあるが、中和当量からすれば十分な中和が行われているとは言えず問題が残る。
【0006】
さらに強酸性廃棄物中の硫酸分を再利用する方法も提案されている(特許文献4)が、特殊な硫酸処理設備が必要であり、簡便な方法とは言い難い。
【特許文献1】特開平6-165999号公報
【特許文献2】特開2000-42594号公報
【特許文献3】特開2002-180067号公報
【特許文献4】特開2002-1399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
硫酸ピッチ等の強酸性廃棄物は、きわめて酸性度が高いため、処理後最終焼却処分をしたり燃料として再利用したりする場合には、液状を維持した状態で完全な中和処理を施す必要がある。しかし従来の中和処理では、先述のように処理作業そのものが危険を伴う。また先述の危険を回避するために塩基性粉末を利用した中和固化セメント原料再利用方法があるが十分な中和がなされているかは疑問である。これらを鑑み完全中和を行うために水酸化ナトリウム水溶液等強塩基性物質で中和する方法も試みたが、中和処理時の発熱が激しく亜硫酸ガスの発生が激しく危険であった。さらに中和処理後固形物が多量に残るため最終焼却処分が困難であった。さらにこれを液状とするために有機溶剤等で希釈処理を行ったが、固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチの場合には固形物の完全な溶解ができず、固体内に含有された硫酸ピッチが経時的に溶出し、しばらくした後にpH1.0程度まで戻るという現象が見られた。
【0008】
そこで、本発明は固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを処理することにおいて、中和反応が均一に、速やかに完結することによって、亜硫酸ガス等の有害ガスの発生を抑え、かつ最終燃焼処分および燃料再利用が可能な液体状態で均一中性可燃物を得る硫酸ピッチ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、固形物及び/又は固形物含有硫酸ピッチ100重量部に対し、親油性有機物液体(A)10〜100重量部好ましくは30〜70重量部を加え、機械的ないしは超音波による十分な撹拌を行うことによって均一なスラリー状態とした後に、塩基当量0.5〜2.0規定好ましくは0.6〜1.2規定の親水性有機物液体(B)5〜50重量部好ましくは15〜35重量部を加え、さらに撹拌後、塩基当量15.0〜19.0規定好ましくは17.0〜18.5規定の水一アルコール混合溶液(C)を中和等量加え撹拝することにより液状の処理物を得る硫酸ピッチ処理法であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを処理することにおいて、中和反応が均一に、速やかに完結することによって、亜硫酸ガス等の有害ガスの発生を抑え、かつ最終燃焼処分および燃料再利用が可能な液体状態で均一中性可燃物を得ることができる。
【0011】
上記発明のさらに好ましい態様は以下のとおりである。すなわち親油性有機物液体(A)が、軽油、A重油、バイオディーゼル油、又は廃プラスチック油化物、あるいはこれらの2種以上の混合物であること、さらにBが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、エチレングリコール、、又はグリセリン或いはこれらの2種以上の混合物であること、さらにCのアルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、エチレングリコール、又はグリセリン、あるいはこれらの2種以上の混合物であること、そしてB,Cを構成する塩基性物質がアルカリ金属ならびにアルカリ土類金属水酸化物である処理法である。さらに、これらの処理作業を安全にかつ発生する亜硫酸ガス等の酸性ガスを無害化処理して排出するために、図1に示した装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の硫酸ピッチ処理方法によれば、固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを処理することにおいて、中和反応が均一に、速やかに完結することによって、亜硫酸ガス等の有害ガスの発生を抑え、かつ最終燃焼処分および燃料再利用が可能な液体状態で均一な中性可燃物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、既述のとおり、以下の操作法を有する硫酸ピッチ処理法である。
【0014】
固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチ100重量部に対し、親油性有機物液体(A)10〜100重量部好ましくは30〜70重量部を加え、機械的ないしは超音波による十分な撹拌を行うことによって均一なスラリー状態とした後に、塩基当量0.5〜2.0規定好ましくは0.6〜1.2規定の親水性有機物液体(B)5〜50重量部好ましくは15〜35重量部を加え、さらに撹絆後、塩基当量15.0〜19.0規定好ましくは17.0〜18.5規定の水一アルコール混合溶液(C)を中和等量加え撹拝することにより液状の処理物を得る。
【0015】
まず、親油性有機物液体(A)の添加について説明する。Aは主として固形化している硫酸ピッチ中の有機物を溶出し固形物硬度を下げる役割をしており、Aの添加後に十分な撹拌を実施する必要がある。撹拌方法は、機械的撹拌(高トルクメカニカル撹拌機)あるいは超音波等を利用した撹拌(ホモジナイザー)を採用することが好ましい。
【0016】
液体Aについては、軽油、A重油、バイオディーゼル油、廃プラスチック油化物油およびこれらの2種以上の混合物であることが好ましいが、特にこれらに限定されるものではなく、低廉かつ無害で上記目的を達成できる有機物であればよい。
【0017】
また、Aの添加量については、10〜100重量部好ましくは30〜70重量部が好ましい。これ以上少ないと流動化が不完全であり、またこれ以上多いと処理物全体量が多量となり装置の大型化が必要であり費用の増加にもつながる。
【0018】
次に、親水性有機物液体(B)の添加について説明する。Bは主として油状中に含まれる酸性成分を、この後のC液による中和反応に均一に曝すことを目的としている。Aの添加後同様十分な撹拌を実施する必要がある。撹拌方法は、機械的撹拌(高トルクメカニカル撹拌機)又は超音波等を利用した撹拌(ホモジナイザー)を採用することが好ましい。液体Bについては、親水性有機溶媒でありかつ界面活性能力を有するメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンおよびこれらの2種以上の混合物であることが好ましいが、特にこれらに限定されるものではなく、低廉かつ無害で上記目的を達成できるものであればよい。
【0019】
また、Bの添加量については、5〜50重量部好ましくは15〜35重量部である。これ以下の量であると十分な上記機能を達成できず、反応が不完全となる。これ以上であると処理物量が増加する。塩基性物質は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。塩基性当量については0.5〜2.0規定好ましくは0.6〜1.2規定であり、これ以下では酸性物質の中和、抽出能が不十分であり、これ以上では不均一で激しい中和反応が生じることもあるが、これらの有機物への溶解限界でもある。
【0020】
次に、水一アルコール混合溶液(C)について説明する。Cは主として中和反応の役割を持っている。アルコールはメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンおよびこれらの2種以上の混合物であることが好ましい。また、これらの混合量については限定されるものではなく1%以上のアルコール添加量があれば可能である。しかし、アルコールが添加されないと反応が均一に行えない。また、多すぎると塩基性物質の溶解度が低下する。Cの塩基当量については15.0〜19.0規定好ましくは17.0〜18.5規定である。これ以下であると中和のために大量の水溶液が入ることになり最終焼却処分あるいは燃料としての再利用に問題が生じるとともに処理物量が大量になるという問題も生じる。
【0021】
また、これ以上となると塩基性物質が一部析出し、不均一な反応となったり、中和確認後固形の塩基性物質が溶解し逆に強塩基性廃棄物となってしまう恐れがある。添加量は、処理前のpHを測定しプロトン当量に合わせて添加すればよい。もちろん添加ご十分に撹拝することは必要である。上述した処理を行うに際して、以下図1に示したような装置を用いることが好ましい。
【0022】
この装置を用いて処理する方法について説明する。硫酸ピッチ(内容物軽量済み)入りドラム缶10を蓋つきのまま、ローター12上のアルカリ水浴(pH:10〜12)14簡易ジャッキ16を用いて固定する。密閉された反応槽18に搬入扉50(図2参照)を通して挿入し扉を閉じる。反応槽外観の操作手袋口52から手を入れ、操作窓54を見ながらドラム缶の蓋を取り外す。その後、試薬タンク20からA液を所定量いれ高粘度用撹拌機22を押し込み十分に撹拝する。この際冬季など気温が低い場合には装備のヒーター24で室温〜摂氏40度程度に加温する。これにより、 粘度を下げ溶解しやすくする。
【0023】
この操作の前に、排気ポンプ30を作動させる。反応槽の排気口32から吸引された排気はアルカリ溶液(pH14)35の入ったアルカリ性排気ガス処理槽34にバブリングされ中和処理される。さらに処理後の排気ガスは水酸化ナトリウムカラム36、活性炭カラム38、フィルター40を通じて完全無害化され排出される。アルカリ性排気ガス処理槽34には指示薬が入れてあり酸性になると取り替える。これはのぞき窓37から確認できる。
【0024】
このようにB,C液処理を行い、pHを確認した後、蓋を閉めなおして、ドラム缶を、搬入扉を通して搬出する。ただし、この装置は図1に示した規模に限定されるものではない。以上説明したような処理方法をとれば、固形物ならびに固形物含有硫酸ピッチを処理することにおいて、中和反応が均一に、速やかに完結することによって、亜硫酸ガス等の有害ガスの発生を抑え、かつ最終燃焼処分および燃料再利用が可能な液体状態で均一中性可燃物を得ることができ、さらに上述の装置を用いることによって作業者が毒性ガスにさらされることなく安全に作業できる。
【実施例1】
【0025】
以下のような方法で、固形物硫酸ピッチを中和処理した。pH0.6の固形硫酸ピッチ100kg(比重:1.35、74リットル)の入った封緘ドラム缶を、図1に示した処理装置にセットし、反応
槽内に搬入し搬入扉を閉じた。排気ポンプを作動させた後ドラム缶の蓋を、操作手袋口からの手作業で開封した。試薬タンクからA液(A重油50:バイオディーゼル油50)を40kg(比重:0.9、44リットル)投入した。10分間浸漬の為静置し、その後、撹拌羽を回転させながら静
かに硫酸ピッチ内に挿入していった。
【0026】
全体が撹拝されているのを確認後、B液(塩基当量0.62規定、水酸化ナトリウム50:水酸化カリウム50、グリセリン80:メタノール20)を20kg(比重:1.15、17.4リットル)投入した
。投入後20分間撹拝し、均一なスラリー状態を確認した後、C液(塩基当量18.0規定、水酸化ナトリウム80:水酸化カリウム20、水95:メタノール5)24kg(比重:1.48、16.2リットル)
を、撹拝しながら30分かけてゆっくりと滴下した。この際少量のガスが発生していたが、排気ポンプ出口からのガスは無臭、中性であった。滴下終了後1時間撹拝し、均一な液状であることを確認後、撹拌を止め、再度ドラム缶を封緘して反応槽外に搬出した。
【0027】
処理物は、均一な液体であり、pH6.8であった。得られた処理物を最終燃焼処分に供したところ問題なく処分可能であった。また排気ガス処理装置を具備した高塩濃度対応型ボイラーで燃料として使用したところ、問題なくボイラーは燃焼を継続した。
【実施例2】
【0028】
pH0.3の半固形(固形物と一部液状物が混在している状態。)の硫酸ピッチ100kg(比重:1.32、75.8リットル)を処理サンプルとした以外は実施例1と同様に処理操作を行なった。A,B,C各液の使用量は以下のとおりであった。
【0029】
A液:41kg、B液:21kg、C液:12kg
処理物は均一な液体であり、pH6.9であった。
【0030】
(比較例1)
実施例1の硫酸ピッチサンプルにC液を直接投入した。ゆっくりと滴下しても激しく発煙し、撹拌は充分に行なえなかった。全量滴下後1時間しても固形物が残存していた。この後、A液、B液を所定量加え、攪拌を試みたが、固形物が残存した。また搬出して、固形物部分と液体部分のpHを測定したところ、それぞれpH:1.0とpH12.0であった。
【0031】
(比較例2)
B液を投入しなかった以外は実施例1と同様に行なった。処理物は水層と有機層に分層しており、有機層はpH1.5、水層はpH14であった。さらに有機層には固形物が残存した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る方法を実施する装置の全体システム図。
【図2】その一部詳細図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物又は固形物含有硫酸ピッチ100重量部に対し、親油性有機物液体(A)10〜100重量部を加え、撹拌を行うことによって均一なスラリー状態とした後に、塩基当量0.5〜2.0規定の親水性有機物液体(B)5〜50重量部を加え、さらに撹拌後、塩基当量15.0〜19.0規定の水−アルコール混合溶液(C)を中和当量加えて撹拝することにより液状の処理物を得る硫酸ピッチ処理法。
【請求項2】
請求項1におけるAが、軽油、A重油、バイオディーゼル油、又は廃プラスチック油化物油およびこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の処理法。
【請求項3】
請求項1におけるBが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i-プロパノール、エチレングリコール、又はグリセリン、あるいはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の処理法。
【請求項4】
請求項1におけるCのアルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、あるいはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の処理法。
【請求項5】
請求項1におけるB,Cを構成する塩基性物質がアルカリ金属ならびにアルカリ土類金属水酸化物であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の処理法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の処理を、閉鎖系で実施し、かつ発生する酸性有害ガスを無害化処理することのできる硫酸ピッチ処理装置であって、ローター上に移動可能かつ硫酸ピッチが内容されたドラム缶等の容器を固定可能なアルカリ水浴を保持し、これに容器を装着可能なジャッキ類を具備し、容器搬入扉を開閉して容器搬入可能な反応槽を有し、この反応槽に該容器を固定したアルカリ水浴を移動させることが可能なローターを有し、容器搬入後は、搬入扉を閉じることで外界と遮断されることが可能な反応槽を有し、この反応槽には、透明ガラス等で内視可能な操作窓、外界から内環境に触れずに操作可能な操作手袋口、吸気口、排気口、外界から試薬を適時容器内に滴下可能な試薬タンク、上下移動可能な高粘度用撹拌機もしくは超音波撹拌機、アルカリ水浴および容器内容物を加熱可能なヒーターを具備されてあり、さらに排気口から連結された管口は内視可能なのぞき窓のついたアルカリ溶液が満たされたアルカリ性排気ガス処理槽中のアルカリ水溶液に浸漬されバブリング可能な状態になっており、この処理槽中には指示薬が含有され酸性に変化すると外界から確認することが出来内容物を交換することが可能になっており、その上部から排気管が水酸化ナトリウムカラム、活性炭カラム、フィルターを介して排気ポンプに連結されてなる装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−239631(P2006−239631A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61359(P2005−61359)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(505081700)株式会社環境システム研究所 (1)
【出願人】(505081711)
【出願人】(505082224)
【出願人】(505082235)
【Fターム(参考)】