説明

硬化性樹脂組成物、クリヤー塗料組成物及びそれを用いた複層塗膜の形成方法

【課題】 耐傷性と耐酸性を更に向上せしめた硬化膜を形成することが可能な硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂が、少なくとも一部のモノマーとして炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た水酸基含有アクリル樹脂であり、
前記硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、かつ、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対するラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%以下となるように調製されていることを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、それをバインダーとするクリヤー塗料組成物、並びにそのクリヤー塗料組成物を用いた複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の上塗り塗料に用いられるバインダーとしては、水酸基含有重合体とメラミン重合体硬化剤とを組み合わせて用いることが一般的であった。しかしながら、このようなメラミン重合体を硬化剤として用いることにより得られる硬化塗膜は、一般に耐酸性に劣り、近年問題となっている酸性雨により特に劣化され易く、外観上の不具合を生じるという問題を有していた。このようにメラミン重合体を硬化剤として用いることにより得られる塗膜が耐酸性に劣るのはメラミン重合体中のトリアジン環に起因するので、メラミン重合体を硬化剤として用いる限り耐酸性に劣る欠点は解消されなかった。
【0003】
このような欠点を解決するために、特開平2−45577号公報(特許公報1)及び特開平3−287650号公報(特許公報2)には、メラミン重合体を使用しない塗料組成物が記載されている。このような塗料組成物は、カルボン酸基とエポキシ基とを反応させることにより生じるエステル結合を架橋点とするので、耐酸性は良好であり、自動車用上塗り塗膜として十分な耐候性も有している。
【0004】
さらに、特開2003−253191号公報(特許公報3)には、ハーフエステル酸基含有アクリル共重合体と、エポキシ基含有アクリル共重合体と、カルボキシル基含有ポリエステル重合体及びカルボキシル基含有アクリル重合体からなる群より選択される少なくとも1つのカルボキシル基含有重合体とからなり、式:−(CH−(式中、nは4以上の整数を表す)で表されるソフトセグメント部を所定量有しているクリヤー塗料組成物が記載されている。このようなクリヤー塗料組成物は、耐傷性、耐酸性及び耐溶剤性の全ての性質においてバランスの良い物性を有する塗膜を形成することができるものである。
【特許文献1】特開平2−45577号公報
【特許文献2】特開平3−287650号公報
【特許文献3】特開2003−253191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術をベースとし、耐傷性(特に耐擦り傷性)と耐酸性(特に耐硫酸性)を更に向上せしめた硬化膜(例えば塗膜)を形成することが可能な硬化性樹脂組成物及びクリヤー塗料組成物、並びに耐傷性と耐酸性が非常に優れている複層塗膜を形成することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物において、前者として炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得たものを用い、更にソフトセグメント部の全量、ラクトン含有モノマー由来ソフトセグメント部の割合をそれぞれ所定量とすることにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂が、少なくとも一部のモノマーとして炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た水酸基含有アクリル樹脂であり、
前記硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、かつ、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対するラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%以下となるように調製されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の硬化性樹脂組成物においては、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが4−ヒドロキシブチルアクリレートであることが好ましい。
【0009】
また、本発明のクリヤー塗料組成物は、前記本発明の硬化性樹脂組成物をバインダーとして含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、前記本発明のクリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする方法である。
【0011】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に前記クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐傷性(特に耐擦り傷性)と耐酸性(特に耐硫酸性)を更に向上せしめた硬化膜(例えば塗膜)を形成することが可能な硬化性樹脂組成物及びクリヤー塗料組成物、並びに耐傷性と耐酸性が非常に優れている複層塗膜を形成することが可能な方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の硬化性樹脂組成物について説明する。すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化膜形成性樹脂としての水酸基含有アクリル樹脂と、硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物であって、(i)前記水酸基含有アクリル樹脂が、少なくとも一部のモノマーとして炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た水酸基含有アクリル樹脂であり、(ii)前記硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、かつ、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対するラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%以下となるように調製されていることを特徴とするものである。
【0015】
上記水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含有する本発明の硬化性樹脂組成物における硬化システムは、以下のようなものである。すなわち、加熱により多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基とが反応することにより架橋点が形成され、水酸基含有アクリル樹脂が多官能イソシアネート化合物を介して架橋されることにより硬化が進行して高い架橋密度が達成されるものである。そして、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて膜形成後に加熱硬化して成形した硬化膜において、上記ソフトセグメント部は主鎖中又は架橋結合鎖中に存在することとなる。このように主鎖中又は架橋鎖中にソフトセグメント部が存在していることによって、硬化膜に優れた耐傷性が有効に付与されることとなる。
【0016】
上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部の量は、後述する水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量中に含まれるソフトセグメント部の質量の割合を表す数値である。上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部は、一般式(1)中のnが4以上であることが必要である。上記nが3以下の場合は、ソフトセグメントとしての性質を十分に有さないためである。このように上記nは4以上の整数を表し、4〜9であることが好ましく、4又は5であることがより好ましい。上記nが4〜9であるものは、前記一般式(1)で表されるソフトセグメント部を有する単量体及び重合体の製造が容易であり、取扱性にも優れる傾向にある。また、上記nの値が相違する2種類以上のソフトセグメント部を併用しても良い。
【0017】
本発明の硬化性樹脂組成物においては、上記割合で前記ソフトセグメント部を有することによって、硬化膜の耐傷性を高水準に維持しつつその耐酸性を更に向上せしめるという効果が奏される。硬化性樹脂組成物の固形分全量中の上記ソフトセグメント部の割合が25質量%未満の場合は、ソフトセグメント部によって耐傷性が向上するという効果が十分に得られない。他方、上記ソフトセグメント部の割合が50質量%を超える場合は、十分な耐酸性及び耐溶剤性が得られないという問題がある。また、上記ソフトセグメント部の割合の下限は30質量%であることが好ましく、他方、上記ソフトセグメント部の割合の上限は45質量%であることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の硬化性樹脂組成物中の水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して、後述する水酸基含有アクリル樹脂を得る際に使用され得るラクトン含有モノマーに由来するソフトセグメント部の割合が8質量%以下であることが必要である。硬化性樹脂組成物の固形分全量中の上記ラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%を超える場合は、十分な耐酸性を有する硬化膜が得られないという問題がある。
【0019】
なお、上記ソフトセグメント部を有する水酸基含有アクリル樹脂は、その重合反応時に上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部を有する単量体を配合することによって得ることができる。したがって、上記ソフトセグメント部の水酸基含有アクリル樹脂中の含有量は、重合するために使用した単量体組成物の配合量及び単量体中に含まれるソフトセグメント部の量に基づいて理論的に計算することによって算出することができる。また、本発明の硬化性樹脂組成物中のラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の含有量は、重合するために使用したラクトン含有モノマーの配合量及びそれに含まれるソフトセグメント部の量に基づいて理論的に計算することによって算出することができる。さらに、本発明の硬化性樹脂組成物中の水酸基含有アクリル樹脂由来のソフトセグメント部の含有量並びに多官能イソシアネート化合物由来のソフトセグメント部の含有量は、それらの配合量及びそれらに含まれるソフトセグメント部の量に基づいて理論的に計算することによって算出することができる。
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物において硬化膜形成性樹脂として使用する水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基を含有するアクリル樹脂(アクリル重合体)であればよく、更にカルボキシル基、エポキシ基等を有していてもよい。そして、本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂は、少なくとも一部のモノマーとして炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た水酸基含有アクリル樹脂であることが必要である。このような炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いないと、耐傷性を高水準に維持しつつ耐酸性を更に向上するという本発明の効果が達成されない。
【0021】
このような炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、7−ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、7−メチル−8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、2−メチル−8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、9−ヒドロキシノニル(メタ)アクリレートが挙げられ、中でも入手が容易で取扱性にも優れるという観点から、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0022】
本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂は、上記炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、必要に応じてそれ以外のエチレン性不飽和モノマー(上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の水酸基含有エチレン性不飽和モノマー及び/又はその他のエチレン性不飽和モノマー)とを共重合させることによって得られる。
【0023】
前記炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール、並びにこれらとラクトン類(β−プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等)との付加物等が挙げられる。また、このような水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの少なくとも一部として前記ソフトセグメント部を有するものを用いてもよく、中でも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物を用いることが特に好ましい。なお、このような水酸基含有エチレン性不飽和モノマーは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0024】
上記その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されるものではないが、先ず、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。その例として、(メタ)アクリル酸誘導体{例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸二量体、アクリル酸にε−カプロラクトンを付加させたα−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル))等};並びに不飽和二塩基酸、そのハーフエステル、ハーフアミド及びハーフチオエステル{例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、そのハーフエステル、ハーフアミド及びハーフチオエステル等}が挙げられる。更に、カルボキシル基を有するもの以外のエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリレートエステルモノマー{例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタアクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等}、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、必要によりイソシアネート基含有モノマー等を挙げることができる。なお、このようなその他のエチレン性不飽和モノマーは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0025】
前記炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、必要に応じてそれ以外のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させることにより本発明に好適な水酸基含有アクリル樹脂を得ることができるが、重合方法は特に制限されず、溶液ラジカル重合のような公知文献等に記載されている通常の方法を用いることができる。例えば、重合温度60〜160℃で2〜10時間かけて適当なラジカル重合開始剤とモノマー混合溶液とを適当な溶媒中へ滴下しながら撹拌する方法が挙げられる。ここで用い得るラジカル重合開始剤は、通常重合に際して使用するものであれば特に限定されず、アゾ系化合物(例えば、ジメチル−2,2´−アゾビスイソブチレート)、過酸化物(例えば、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)等が挙げられる。このような開始剤の量は、不飽和モノマーの総量に対して一般に0.1〜15質量%であり、好ましくは0.5〜12質量%である。また、ここで用い得る溶媒は、反応に悪影響を与えないものであれば特に限定されず、例えば、ケトン、炭化水素系溶媒(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシレン)等が挙げられる。更に、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンや、α−メチルスチレンダイマーのような連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0026】
本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂は、数平均分子量(Mn)が1000〜10000であることが好ましく、1100〜8000であることが更に好ましい。数平均分子量が前記下限未満では塗装作業性及び硬化膜との混層性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗装時の不揮発分が低くなり、作業性が悪くなる傾向にある。また、水酸基含有アクリル樹脂の数平均分子量が1200〜7000の範囲であることが、硬化膜外観の観点から特に好ましい。また、本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、50〜280mgKOH/gであることが好ましく、70〜260mgKOH/gであることが更に好ましい。水酸基価が前記上限を超えると硬化膜にした場合に耐水性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では硬化膜の硬化性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂を得る際における、上記炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの配合割合は、水酸基含有アクリル樹脂を製造するのに用いるモノマーの総量を基準にして、30〜60質量%であることが好ましい。上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの配合割合が上記下限未満の場合は、得られる硬化膜の耐傷性が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超える場合は、得られる硬化膜の耐酸性及び耐水性が低下する傾向にある。
【0028】
また、本発明にかかる水酸基含有アクリル樹脂を得る際における、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとそれ以外の水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとの総量)の配合割合は5〜60質量%であることが好ましく、その他のエチレン性不飽和モノマーの配合割合は95〜40質量%であることが好ましい。上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの配合割合が上記下限未満の場合は製造安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると硬化膜にした場合の耐水性が低下する傾向にある。
【0029】
さらに、本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂における全ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して7〜30質量%であることが好ましい。全ソフトセグメント部の含有割合が前記下限未満の場合は耐傷性が十分に向上した硬化膜を得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合は十分な耐酸性を有する硬化膜を得られにくくなる傾向にある。また、本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂においては、ラクトン部(ラクトン含有モノマーを用いた場合におけるそのラクトン部分)の含有割合が水酸基含有アクリル樹脂の固形分全量に対して25質量%以下であることが好ましく、ラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の含有割合が水酸基含有アクリル樹脂の固形分全量に対して15質量%以下であることが好ましい。ラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の含有割合が前記上限を超える場合は、十分な耐酸性を有する硬化膜が得られにくくなる傾向にある。なお、このような水酸基含有アクリル樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の硬化性樹脂組成物において硬化剤として使用する多官能イソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の多官能イソシアネート化合物を挙げることができ、好適な例として、ジイソシアネート、ジイソシアネートの二量体、ジイソシアネートの三量体(好ましくはイソシアヌレート型イソシアネート(いわゆるイソシアヌレート))を挙げることができる。また、かかる多官能イソシアネート化合物はいわゆるアシンメトリー型のものであってもよい。
【0031】
上記ジイソシアネートとしては、一般に5〜24、好ましくは6〜18個の炭素原子を含んでいるものを使用することができる。このようなジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート−(1,11)、リジンエステルジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−及び1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート:IPDI)、4,4’−ジイソシアナトジシクロメタン、ω,ω’−ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、シクロヘキシル−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,5−ジメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5−トリメチル−2,4−ビス(ω−イソシアナトエチル)−ベンゼン、1,3,5−トリメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリエチル‐2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。また、2,4−ジイソシアナトトルエン及び/又は2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,4−ジイソシアナトイソプロピルベンゼンのような芳香族ジイソシアネートも用いることができる。また、上記イソシアヌレート型イソシアネートとしては上述したジイソシアネートの三量体を挙げることができる。なお、このような多官能イソシアネート化合物は、単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0032】
また、本発明において使用する多官能イソシアネート化合物は、そのうちの少なくとも一部がイソシアヌレート型イソシアネート化合物であることが好ましい。すなわち、本発明においては、上記イソシアヌレート型イソシアネート化合物を、それ以外の脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の多官能イソシアネート化合物(好適には前記ジイソシアネート)と組み合わせて混合物として使用することもできる。この場合、多官能イソシアネート化合物の全量中における上記イソシアヌレート型イソシアネート化合物の含有割合が60質量%以上であることが好ましい。この含有割合が前記下限未満の場合は、十分な耐酸性を有する硬化膜が得られにくくなる傾向にある。
【0033】
なお、前記ソフトセグメント部は上述の多官能イソシアネート化合物中に存在していてもよく、本発明に係る多官能イソシアネート化合物における前記ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して60質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化膜形成性樹脂としての水酸基含有アクリル樹脂と、硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とを含有するものであり、水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物との配合割合は水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基の数1に対して多官能イソシアネート化合物中のイソシアネート基が0.5〜1.5の範囲内であることが好ましい。上記多官能イソシアネート化合物の配合割合が前記下限未満では十分な硬化が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると未反応のイソシアネート基が空気中の水分と反応して硬化膜のTmが上昇し耐傷性が悪くなる傾向にある。
【0035】
上記硬化性樹脂組成物は、有機スズ化合物硬化触媒を有するものであっても良い。上記有機スズ化合物触媒としては特に限定されず、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート等が挙げられる。硬化触媒の配合量は、硬化性樹脂組成物中の重合体固形分全量100質量部に対し、下限0.005質量部、上限0.05質量部であることが好ましい。
【0036】
以上説明した本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、耐傷性(特に耐擦り傷性)と耐酸性(特に耐硫酸性)が非常に優れている塗膜、被覆材、樹脂フィルム等の各種の硬化膜を得ることができる。なお、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させる方法及びその条件は特に制限されず、常法が適宜採用され、例えば100〜180℃程度の温度で加熱硬化させる方法が好適に採用される。
【0037】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、得られる硬化膜の架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上(特に好ましくは1.0×10−3〜2.5×10−3mol/cc)となるように調製されていることが好ましい。得られる硬化膜の架橋密度が上記下限未満の場合は、水シミ等に対する耐汚染性が十分に向上せず、耐傷性の維持性も低下してしまう傾向にある。
【0038】
なお、このような架橋密度は以下の方法により求めたものである。すなわち、強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック株式会社製、バイブロン)を用いて昇温時の動的弾性率(E')を求め、このE'が極小となる温度とその極小値から次式により算出する。なお、測定周波数は11Hzとする。
E'=3nRT (n:架橋密度、R:気体定数、T:絶対温度)。
【0039】
次に、本発明のクリヤー塗料組成物について説明する。すなわち、本発明のクリヤー塗料組成物は、前記本発明の硬化性樹脂組成物をバインダー成分として含有することを特徴とするものである。上記本発明のクリヤー塗料組成物中には、上記バインダー成分の他、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合しても良い。上記架橋樹脂粒子を用いる場合は、本発明のクリヤー塗料組成物の樹脂固形分に対して、下限0.01質量%、上限10質量%の割合で配合することが好ましい。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、5質量%であることがより好ましい。上記架橋樹脂粒子の添加量が10質量%を超えると得られる塗膜の外観が悪化する傾向にあり、他方、0.01質量%未満であるとレオロジーコントロール効果が得られない傾向にある。
【0040】
本発明のクリヤー塗料組成物は、スプレー塗装、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ロール塗装、流し塗装等により塗装することができる。また、本発明のクリヤー塗料組成物は、いかなる基板、例えば、木、金属、ガラス、布、プラスチック、発泡体等、特に、プラスチック及び金属表面(例えば、スチール、アルミニウム及びこれらの合金)に有利に用いることができ、特に自動車用のクリヤー塗料として好適に使用することができる。
【0041】
次に、本発明の複層塗膜の形成方法について説明する。すなわち、本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、前記本発明のクリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする方法である。
【0042】
上記被塗装物としては、種々の基材、例えば金属成型品、プラスチック成型品、発泡体等に用いることができるが、自動車用の複層塗膜を形成させる被塗装物としては、鉄、アルミニウム及びこれらの合金等の金属成型品やプラスチック成型品等を挙げることができる。カチオン電着塗装可能な金属成型品に対して適用することが好ましい。上記被塗装物は、表面が化成処理されていることが好ましい。更に、被塗装物は、電着塗膜が形成されていてもよい。上記電着塗料としては、カチオン型及びアニオン型を使用できるが、防食性の観点から、カチオン型電着塗料であることが好ましい。
【0043】
また、更に必要に応じて、中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料が用いられる。上記中塗り塗料としては特に限定されず、当業者によってよく知られている水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。
【0044】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に本発明のクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることが好ましい。また、ベース、クリヤー硬化塗膜上に第2クリヤーとして本発明のクリヤー塗料組成物を塗布し、加熱して硬化させることも可能である。
【0045】
上記ベース塗料としては特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系、無機系又は光輝材等の着色顔料及び体質顔料等を含んでいてもよい。上記ベース塗料の形態としては特に限定されず、水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。
【0046】
上記被塗装物に対して、上記ベース塗料を塗装する方法としては特に限定されず、スプレー塗装、回転霧化式塗装等を挙げることができ、外観向上の観点から、これらの方法を用いた多ステージ塗装、又は、これらを組み合わせた塗装方法であることが好ましい。
【0047】
本発明の複層塗膜の形成方法における上記ベース塗料による塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限が10μm、上限が20μmの範囲内であることが好ましい。また、本発明の複層塗膜の形成方法において、上記ベース塗料が水性のものである場合、良好な仕上がり塗膜を得るために、上記クリヤー塗料組成物を塗装する前に、ベース未硬化塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが望ましい。
【0048】
本発明の複層塗膜の形成方法において本発明のクリヤー塗料組成物を塗装する方法としては、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。
【0049】
本発明の複層塗膜の形成方法における上記クリヤー塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限が30μm、上限が45μmの範囲内であることが好ましい。また、上記の方法によって形成されたベースの未硬化塗膜及びクリヤーの未硬化塗膜は、同時に加熱されて硬化されることが好ましく、それによって複層塗膜が形成される。上記加熱温度は、下限が100℃、上限が180℃の範囲内で行うことが好ましい。また、下限が120℃、上限が160℃であることがより好ましい。加熱硬化時間は、硬化温度等によって変化するが、上記加熱硬化温度で行う場合は、10〜30分であることが適当である。
【0050】
このようにして得られた複層塗膜の膜厚は、下限が40μm、上限が65μmの範囲内であることが好ましい。上記本発明の複層塗膜の形成方法によって得られた複層塗膜は、耐傷性(特に耐擦り傷性)と耐酸性(特に耐硫酸性)が非常に優れている。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例中でおいて単に「%」と記載した場合は、「質量%」を指すものとする。
【0052】
(合成例1)水酸基含有アクリル樹脂aの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた2Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート358.0g及びキシレン90.0gを加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、滴下ロートを用いてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100.0g、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート100.0g、スチレン68.9g、アクリル酸−n−ブチル312.0g、メタクリル酸−2−エチルヘキシル182.1g、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル437.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、50.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル樹脂aを得た。
【0053】
合成した水酸基含有アクリル樹脂aについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=3900、Mw=9700であった。また、水酸基価は170mgKOH/g、計算Tgは−35℃、樹脂固形分は62.8%、ラクトン部含有率は0%であった。更に、水酸基含有アクリル樹脂aにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して16.93%であり、ラクトン含有モノマー由来ソフトセグメント部の含有率は0%であった。上記の水酸基含有アクリル樹脂aの組成及び諸物性を表1に示す。
【0054】
(合成例2〜6)水酸基含有アクリル樹脂b〜fの合成
表1に示すモノマー成分、溶媒及び重合開始剤を用い、それらの配合量を表1に示すようにした以外は合成例1と同様にして、水酸基含有アクリル樹脂b〜fをそれぞれ合成した。なお、プラクセルFM−2としては2−ヒドロキシエチルメタクリレートとε−カプロラクトンの1:2付加物(ダイセル工業社製)、プラクセルFM−5としては2−ヒドロキシエチルメタクリレートとε−カプロラクトンの1:5付加物(ダイセル工業社製)を用いた。
【0055】
合成した水酸基含有アクリル樹脂b〜fの分子量(Mn)、分子量(Mw)、水酸基価、計算Tg、樹脂固形分、ラクトン部含有率、樹脂固形分中の全ソフトセグメント部含有率、ラクトン含有モノマー由来ソフトセグメント部含有率及びラクトンフリーモノマー由来ソフトセグメント部含有率はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例1〜5及び比較例1)
表2に示した配合に従い、各成分を混合し、ディスパーで攪拌することによって実施例1〜5及び比較例1のクリヤー塗料組成物を得た。上記クリヤー塗料組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/3−エトキシプロピオン酸エチル=1/2(質量比)からなるシンナーによってNo.4フォードカップで25秒/20℃となるようにそれぞれ希釈した。なお、ビュレット型イソシアネート硬化剤としては、住化バイエルウレタン(株)社製スミジュールN−75を用いた。
【0058】
次に、リン酸亜鉛処理した150×300×0.8mmのダル鋼板に、パワートップU−50(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼付けた塗板に、No.4フォードカップで25秒/20℃となるように、予め希釈されたオルガP−2(日本ペイント社製メラミン硬化型ポリエステル樹脂系グレー中塗り塗料)を、乾燥膜厚が35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間焼き付けた後冷却して、中塗り基板を得た。上記中塗り基板上に、スーパーラックM−260ブラック(日本ペイント社製水性ベース塗料)を、室温25℃、湿度85%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるようにスプレー塗装した後、80℃で3分間のプレヒートを行った。プレヒート後、塗装板を室温まで放冷し、第1クリヤーとしてスーパーラックO−170(日本ペイント社製アクリル系メラミン硬化型クリヤ塗料)を乾燥膜厚30μmになるように塗装し、140℃で25分間加熱硬化した。上記第1クリヤー基板を#2000水研ペーパーで研磨した後、希釈した上記各クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚35μmとなるようにスプレー塗装した後、乾燥炉にて140℃で25分間加熱して、基板上に複層塗膜を形成した。
【0059】
実施例1〜5及び比較例1で得られたクリヤー塗料組成物の固形分全量中における各種ソフトセグメント部の含有率(ラクトン含有モノマー由来ソフトセグメント部含有率、ラクトンフリーモノマー由来ソフトセグメント部含有率、水酸基含有アクリル樹脂由来の全ソフトセグメント部含有率、イソシアネート硬化剤由来のソフトセグメント部含有率、全ソフトセグメント部の含有率(質量%))は、表2に示す通りである。
【0060】
<耐酸性試験>
実施例1〜5及び比較例1のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜について、以下の評価方法によって40%硫酸水溶液による耐酸性の評価を行った。
【0061】
すなわち、先ず、イオン交換水と試薬特級の硫酸により40%硫酸水溶液を作製した。次に、上記硫酸水溶液を、実施例1〜5及び比較例1のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜上に0.6mlずつ滴下し、加熱オーブン中に80℃で30分保持した後、水洗した。その後、複層塗膜上のスポット跡を目視観察し、以下の基準に基づいて評価した。得られた結果を表2に示す。
○:スポット部に塗膜のハガレは認められないもの。
△:スポット部の塗膜の一部にハガレが認められたもの。
×:スポット部の塗膜が完全にハガレているもの。
【0062】
<耐擦り傷性試験>
実施例1〜5及び比較例1のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜について、以下の評価方法によって耐擦り傷性の評価を行った。
【0063】
すなわち、先ず、ミニ洗車機の台上に、試験用ダスト(7種類混合、粒度27〜31μm)15g及び水100gからなる試験用ダスト組成物を広げた後、水を流さずにミニ洗車機を回転(45rpm)、一往復させて、洗車機ブラシにダストを付着させた。その後、台上に塗板(70mm×150mm)を固定し、塗板上に鋳物砂約5gをふりかけた後、水を流さずにミニ洗車機を回転(96rpm)させて3往復させた。試験後、水洗及び乾燥を行った。塗板の20°光沢を測定し、この20°光沢の試験前の20°光沢に対する割合である光沢保持率(初期20°GR(%))を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜は、耐傷性(耐擦り傷性)と耐酸性(耐硫酸性)が非常に優れていたのに対し、比較例のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜は特に耐酸性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、耐傷性(特に耐擦り傷性)と耐酸性(特に耐硫酸性)を更に向上せしめた硬化膜(例えば塗膜)を形成することが可能な硬化性樹脂組成物を得ることが可能となる。したがって、本発明の硬化性樹脂組成物をバインダーとして含有する本発明のクリヤー塗料組成物によって、耐傷性と耐酸性が非常に優れているクリヤー塗膜を形成することが可能となる。そして、本発明のクリヤー塗料組成物を用いた本発明の複層塗膜の形成方法によれば、耐傷性と耐酸性が非常に優れている自動車用複層塗膜を効率良くかつ確実に形成することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有アクリル樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含有する硬化性樹脂組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂が、少なくとも一部のモノマーとして炭素数4〜9のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて得た水酸基含有アクリル樹脂であり、
前記硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、かつ、前記水酸基含有アクリル樹脂及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対するラクトン含有モノマー由来のソフトセグメント部の割合が8質量%以下となるように調製されていることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、4−ヒドロキシブチルアクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物をバインダーとして含有することを特徴とするクリヤー塗料組成物。
【請求項4】
被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、請求項3に記載のクリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に前記クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることを特徴とする請求項4に記載の複層塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2006−176632(P2006−176632A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370975(P2004−370975)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】