説明

硬化性樹脂組成物およびハードコートフィルムまたはシート

【課題】外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能な硬化性樹脂組成物、および該樹脂組成物からなるハードコート層を有するポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムを提供すること。
【解決手段】アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)と金属過塩素酸塩(C)からなり、上記成分(A)/上記成分(B)の質量比が0.5〜5.0であり、上記成分(A+B)/上記成分(C)の質量比が1〜200であり、金属過塩素酸塩を硬化触媒として含有してなることを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、並びに該硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムまたはシート(以下「フィルムまたはシート」を単に「フィルム」と略称する場合がある)に関する。さらに詳細には、外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能なポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムに関する。本発明のハードコートフィルムは、耐摩耗フィルム、滑り防止コート、研磨フィルム、グレア防止コートフィルム、建築内装用壁紙や化粧紙などに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、耐熱性、耐水性、耐汚染性、耐有機薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐蝕性、耐摩耗性、耐候性、耐湿性および密着性などに優れ、硬度の高い塗膜を形成させることのできるコーティング用組成物が求められている。従来、有機樹脂にシリル基としてケイ素原子を導入することにより、有機樹脂に硬度、耐擦傷性などの特性を付与することが行われてきた。例えば、オルガノシランの部分的縮合物とコロイダルシリカの分散液およびシリコーン変性アクリル樹脂からなる組成物(特許文献1)、あるいはオルガノシランの縮合物とジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および加水分解性シリル基含有ビニル系樹脂とからなる組成物(特許文献2)、あるいはオルガノシランの縮合物とコロイド状アルミナおよび加水分解性シリル基含有ビニル系樹脂とからなる組成物(特許文献3)などが提案されている。
【0003】
一方、近年、アルキルシリケート、あるいはその低縮合物を有機樹脂に添加して、樹脂との混合物として塗膜の耐汚染性などの表面特性を改善することを試みた組成物が、各種基材へのコーティング液などとして提案されている。しかし、これらのコーティング液は、加工時の焼き付け温度が150℃以上必要であり、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムにコーティング加工すると、フィルムが軟化変形し、安定した加工は不可能である。また、焼き付け時間も数分から数十分と長いため、フィルムにコーティング加工する場合の数十秒程度の加工時間では、コーティング加工後に巻き取る場合は十分な表面乾燥が得られず、ブロッキングしたりフィルム裏面に裏移りするなどの問題があり、充分な塗膜特性を発揮し得るものではない。また、特許文献2に記載されている組成物は、保存安定性が充分ではなく、固形分濃度を高くすると短期間でゲル化し易いという問題を有している。
【0004】
また、特許文献4に記載されている耐熱性に優れた硬化物になり得るシラン変性エポキシ樹脂を使用したコーティング剤組成物を、プラスチック用ハードコート剤として使用する提案がある。当該コーティング組成物をプラスチック基材上に塗布する場合、硬化温度は基材プラスチックの熱変形温度以下に設定する必要があるため、硬化剤としてポリアミン系エポキシ樹脂用硬化剤を用い、低温硬化させるのが好ましいとある。しかし、上記組成物は、ポットライフが極めて短く、また、直ちには表面乾燥しないため、塗布後の巻き取り作業時にフィルム同士がブロッキングしてしまい、従ってコーターでの加工は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−135465号公報
【特許文献2】特開昭64−1769号公報
【特許文献3】米国特許第4,904,721号明細書
【特許文献4】特許第3632601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能な硬化性樹脂組成物、および該樹脂組成物からなるハードコート層を有するポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)と金属過塩素酸塩(C)からなり、上記成分(A)/上記成分(B)の質量比が0.5〜5.0であり、上記成分(A+B)/上記成分(C)の質量比が1〜200であり、金属過塩素酸塩を硬化触媒として含有してなることを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
上記本発明においては、前記成分(A)が、(a)下記一般式(1)で表されるアルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランの加水分解物または縮合物と、(b)下記一般式(1)で表されるアルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランとの混合物であることが好ましい。
H−(R1n−Si(OR24-n・・・一般式(1)
(式中nは0〜2の整数であり、R1は、炭素数1〜8の有機基を示し、R2は、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。)
【0009】
また、上記本発明においては、前記アルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基から選ばれる基を含有すること;前記アルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランであり、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)が、それらの加水分解物または縮合物を50〜100質量%含むことが好ましい。
【0010】
また、上記本発明においては、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)の平均分子量が500〜50,000であること;前記アルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)が、エポキシ当量が100〜2,000であり、分子中にエポキシ基残基を2〜6個含むこと;および前記金属過塩素酸塩の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素およびアルミニウムの群から選ばれる金属であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を有するプラスチックフィルムからなることを特徴とする、耐ブロッキング性、耐傷性および耐熱性に優れたハードコートフィルムを提供する。
【0012】
上記本発明においては、前記プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂から選ばれる樹脂の単層または積層物であること;前記プラスチックフィルムとハードコート層との間に下塗り層が設けられていること;および前記下塗り層が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種とポリイソシアネート化合物とからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、アルキルアルコキシシラン加水分解縮合物とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂からなる硬化性樹脂組成物が、金属過塩素酸塩を硬化触媒として併用することにより、良好なポットライフと低温架橋性を有し、且つ導電性、耐摩耗性、耐汚染性および耐熱性を有するハードコートフィルムが得られることを見出した。
【0014】
上記本発明の硬化性樹脂組成物を、プラスチックフィルムに塗布し、100〜130℃にて数十秒間乾燥すれば、表面タックもなくフィルムの巻き取り操作が可能であり、その後40℃〜100℃にて0〜7日、好ましくは1〜3日熟成することにより良好な耐摩耗性、耐熱性および耐汚染性のあるハードコートフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に発明を実施するための形態を挙げて本発明を詳細にさらに説明する。
まず、本発明でいうアルキルアルコキシシランとは、ケイ素原子に直結するアルコキシ基を少なくとも2個有する化合物、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0016】
また、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジ(n−プロピル)ジメトキシシラン、ジ(n−プロピル)ジエトキシシラン、ジ(i−プロピルジメトキシ)シラン、ジ(i−プロピル)ジエトキシシラン、ジ(γ−クロロプロピル)ジメトキシシラン、ジ(γ−クロロプロピル)ジエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジ(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、ジ(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジエトキシシラン、ジ(γ−グリシドキシプロピル)ジメトキシシラン、ジ(γ−グリシドキシプロピル)ジエトキシシランなどが挙げられる。
【0017】
また、ジ(γ−メタクリルオキシプロピル)ジメトキシシラン、ジ(γ−メタクリルオキシプロピル)ジエトキシシラン、ジ(γ−メルカプトプロピル)ジメトキシシラン、ジ(γ−メルカプトプロピル)ジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルエチル)ジメトキシシラン、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルエチル)ジエトキシシランなどを挙げることができるが、好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、およびこれらの化合物を部分加水分解縮合して得られるオリゴマーのうちの少なくとも1種をいう。
【0018】
本発明におけるこれらの加水分解物とは、上記のアルキルアルコキシシランに水を添加して、アルコキシ基の一部または全部をヒドロキシ基としたものである。また、アルコキシ基の加水分解に引き続き、これらが部分的に縮合反応していてもよい。まず、アルキルアルコキシシランの有する全てのアルコキシ基のモル数の0.1モル倍量以上の水を添加し、室温下で1日間以上または加熱して還流下で数時間以上の条件で充分加水分解反応を進行させる。ここでアルキルアルコキシシランは加水分解し、さらに縮合反応が進行する。この際の水の量は、アルコキシ基の0.1〜1.0モル倍量とすることが望ましく、さらに好ましくは0.2〜0.8モル量とするのが望ましい。
【0019】
上記の加水分解に用いる触媒として、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、マレイン酸、酢酸などの有機酸類、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸やその塩を適宜併用することができる。こうして得られたアルキルアルコキシランの加水分解物は、多量のOH基を有し反応性に富み高硬度の塗膜などの硬化物を得ることができる。添加水量がアルコキシ基の1.0モル倍を越えると残存水濃度が高くなることから、加水分解液がゲル化しやすく保存安定性が低下する。また、0.1モル倍未満では得られるアルキルアルコキシシランの加水分解物の微小粒子が形成されにくく、反応性官能基であるOH基の生成量も低下する。
【0020】
さらに、アルキルアルコキシシランの加水分解に際しては、溶媒および触媒の存在下で行うのが好ましく、溶媒としてはアルキルアルコキシシランのアルコキシ基と炭素数の同じアルコールを用いることが反応の制御のし易さから好ましい。通常C1〜5、好ましくはC1〜C3のアルコールを用いて行うと、得られる加水分解物の微小粒子が形成され易く、これから得られる硬化塗膜の特性が優れたものとなる。
【0021】
以上のようにして得られるアルキルアルコキシシランの加水分解物または縮合物(成分A)は、(a)下記一般式(1)で表されるアルキルアルコキシシランの加水分解物または縮合物と、(b)下記一般式(1)で表されるアルキルアルコキシシランとの混合物であることが好ましい。
H−(R1n−Si(OR24-n・・・一般式(1)
(式中nは0〜2の整数であり、R1は、炭素数1〜8の有機基を示し、R2は、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。)
【0022】
また、前記アルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基から選ばれる基を含有することが好ましく、また、前記アルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランであり、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)が、それらの加水分解物または縮合物を50〜100質量%含むことが好ましい。また、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)の平均分子量が500〜50,000であることが好ましい。
【0023】
本発明で使用するアルコール/水可溶性エポキシ樹脂とは、樹脂構造中にエーテル結合を有することによりアルコール/水と水素結合を形成し、容易に溶解分散することを特徴とする。例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0024】
アルコキシシラン加水分解縮合物とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂の硬化触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素またはアルミニウムの過塩素酸金属塩が有効である。特に、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸ベリリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ホウ素、過塩素酸過塩素酸アルミニウムが挙げられる。特に、過塩素酸リチウム、過塩素酸アルミニウムは有用である。
【0025】
さらには各種の硼素化合物、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズなどの金属アルコキシドまたは金属キレート化合物などの公知の加水分解触媒を適宜併用することができる。また、一般的なエポキシ樹脂硬化剤であるアミン化合物、ポリカルボン酸無水物、アルコール可溶性ポリアミド樹脂、イミダゾール系化合物、ポリメルカプタン系化合物を併用することも可能である。併用するアミン系硬化剤としてはジシアンジアミド、メラミン樹脂、ケチミン化合物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびそれらのチタンキレート類、ジルコニウムキレート類、アルミニウムキレート類などが挙げられる。
【0026】
ポリカルボン酸系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸が挙げられる。また、イミダゾール系硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルへキシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウム・トリメリテート、2−フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0027】
アルコキシシラン加水分解縮合物とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂の混合割合は、アルコキシシラン加水分解縮合物100質量部に対し、エポキシ樹脂1質量部〜300質量部、好ましくは50質量部〜200質量部である。エポキシ樹脂の使用量が1質量部未満であると、フィルムに対する密着力が低下し、所定の耐摩耗性、耐水性、耐汚染性、耐有機薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐蝕性が不十分であり、一方、エポキシ樹脂の使用量が300質量部を超えると、数十秒程度の乾燥時間では表面乾燥が不十分であり、コーターによるフィルム加工においてブロッキングなどが発生する。
【0028】
硬化触媒である過塩素酸化合物は、1種単独であるいは2種以上混合して使用することができる。この組成物中の割合は、成分の原料であるアルコキシシラン加水分解縮合物100質量部に対し、0.01〜50質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。また、アルコール/水可溶性エポキシ樹脂100質量部に対し、0.01〜50質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。過塩素酸化合物の使用量が、0.01質量部未満では、アルコキシシラン加水分解縮合物成分とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂成分との共重合体の生成が不充分であり、ハードコートフィルムの硬度が低下し、一方、過塩素酸化合物の使用量が、50質量部を超えると、ハードコートフィルムの表面硬度が充分ではなく、耐汚染性や曲げ密着性に劣る。
【0029】
さらに、本発明の組成物をより速やかに硬化させるにあたっては、硬化促進剤を使用してもよく、比較的低い温度で硬化させるためには、硬化促進剤を併用する方が効果的である。かかる硬化促進剤としては、組成物中に含まれるアルコキシシラン(オルガノシランおよび/またはジオルガノシラン)の加水分解、およびシラノール同士の縮合反応、またはシラノール基とエポキシ基との付加反応を加速する効果のある無機もしくは有機化合物の中から1種以上を選ぶことができる。
【0030】
次に、本発明のハードコートフィルムに適用される基材としては、金属、セラミックス、紙、プラスチックなどが挙げられるが、好ましくはプラスチックであり、さらに好ましくはプラスチック製のフィルム、シート状の基材を挙げることができる。プラスチックの例を挙げると、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン4,6、ナイロン6などのポリアミドなどである。また、これら各種基材には、直接、本発明の組成物を塗装できるが、例えば、アクリルウレタン、エポキシ、アクリルシリコンなどを主成分とする各種プライマーを予め塗装した基材を用いてもよい。
【0031】
本発明のハードコートフィルムの作製は、本発明のアルコキシシラン加水分解縮合物とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂とを主成分とする組成物に、必要に応じて有機溶媒、硬化促進剤、増粘剤、その他の添加剤などを配合して塗布液を調製後、前記基材、好ましくはプラスチック基材、さらに好ましくはプラスチック製のフィルムやシート、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、グラビアコート、スプレー、ディッピング、バーコーター、ロールコーター、フローコーターなどの各種塗工方法により塗工することにより行われる。
【0032】
塗装膜厚は、乾燥膜厚で、通常、1回塗りで厚さ0.5〜50μm程度、好ましくは1〜30μmであり、塗装膜厚が0.5μm未満では均一塗膜が得られない場合があり、一方、塗装膜厚が50μmを超えると塗工中に十分な乾燥塗膜が得られず、ブロッキングするためフィルムの巻き取りができない。さらにはフィルムの曲げ加工性が低下する場合がある。硬化温度は、基材の耐熱性に応じて適宜設定されるが、通常、25〜250℃、好ましくは50〜150℃であり、乾燥時間は、通常、5秒〜5分、好ましくは15秒〜1分で、加熱、乾燥することにより、乾燥塗膜を形成することができ、ただちに巻き取り操作が可能である。さらには、巻き取った原反を40〜100℃、好ましくは50〜80℃の雰囲気下で1日〜7日、好ましくは2日〜4日間養生させることにより、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐汚染性および耐熱性を有するフィルムが得られる。
【0033】
本発明のハードコートフィルムは、鉛筆硬度として、通常、H〜8Hの硬度を持つものである。硬度が、H未満ではハードコートフィルムとしての耐摩耗性が劣り、一方、8Hを超えると曲げ加工時のフィルム基材との密着性に劣る。また、本発明のハードコートフィルムの透明性は微粒子の配合量により、透明、半透明、不透明の範囲で制御することができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
攪拌機、分水器、温度計および窒素吹き込み口を備えた反応装置にメチルトリメトキシシラン(東レダウコーニング(株)製 Z−6366)10kg、およびポリテトラエトキシシラン(エチルシリケート40、コルコート(株)製)50kgおよびイソプロピルアルコール30kgを室温下で混合しその後、濃塩酸1kgを水9kgで希釈したものを少しずつ投入し攪拌した。温度が徐々に上昇し30分後に40℃に達した。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下するが、さらに5時間攪拌を続けエトキシシラン加水分解物(1)を得た。
【0035】
また、アルコール可溶性エポキシ樹脂(デナコール EX421、ナガセファインケミカル(株)製)10kgをイソプロピルアルコール40kgに溶解させた溶液を調製し硬化剤(1)を得た。さらに、触媒である過塩素酸リチウムの固形分が10%になるように調整したメチルアルコール溶液5kgの触媒コーティング液(1)を得た。
【0036】
エトキシシラン加水分解物(1)20kgと硬化剤(1)10kgおよび触媒コーティング液(1)2kgをコーティング直前に混合攪拌し、グラビアコーティング機にてコートした。コーティングはコロナ処理PET(100μm)を用い、印刷速度10m/分のスピードで行い、130℃の乾燥炉中で30秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り70℃の熟成室に3日間放置しエージングを行った。
【0037】
<実施例2>
攪拌機、分水器、温度計および窒素吹き込み口を備えた反応装置にポリテトラメトキシシラン(Mシリケート56、多摩化学(株)製)30kgおよびメチルアルコール40kgを室温下で混合し、その後、酢酸1kgを水4kgで希釈したものを少しずつ投入し攪拌した。温度が徐々に上昇し20分後に50℃に達しその後5時間攪拌を続けた後メトキシシラン加水分解物(2)を得た。
【0038】
また、アルコール可溶性エポキシ樹脂(デナコール EX614B ナガセファインケミカル(株)製)5kgをメチルアルコール45kgに溶解させた溶液を調製し硬化剤(2)を得た。さらに、過塩素酸アルミニウム水溶液(50%)1kgとメタノール4kgおよびケチミン系硬化剤(JERキュア H3、ジャパンエポキシレジン(株)製)1kgを徐々に混合攪拌し触媒コーティング液(2)を得た。
【0039】
メトキシシラン加水分解物(2)20kgと硬化剤(2)20kgおよび触媒コーティング液(2)2kgをコーティング直前に混合攪拌し、グラビアコーティング機にてコートした。コーティングはコロナ処理PET(100μm)を用い、印刷速度20m/分のスピードで行い、150℃の乾燥炉中で20秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り70℃の熟成室に3日間放置しエージングを行った。
【0040】
<実施例3>
攪拌機、分水器、温度計および窒素吹き込み口を備えた反応装置にポリテトラエトキシシラン(エチルシリケート48、コルコート(株)製)30kgおよびエチルアルコール40kgを室温下で混合しその後、塩酸0.5kgを水9.5kgで希釈したものを少しずつ投入し攪拌した。温度が徐々に上昇し30分後に45℃に達し、その後5時間攪拌を続けた後エトキシシラン加水分解物(3)を得た。
【0041】
また、アルコール可溶性エポキシ樹脂(リカレジンDME100 新日本理化(株)製)10kgをエチルアルコール40kgに溶解させた溶液を調製し硬化剤(3)を得た。さらに、過塩素酸リチウムのメタノール溶液(NV50%)とイミダゾール系触媒(JERキュアP200H504、ジャパンエポキシレジン(株)製)1kgとメタノール1kgとを徐々に混合攪拌し触媒コーティング液(3)を得た。
【0042】
メトキシシラン加水分解物(3)20kgと硬化剤(3)20kgおよび触媒コーティング液(3)2kgをコーティング直前に混合攪拌し、グラビアコーティング機にてコートした。コーティングはコロナ処理PET(100μm)を用い、印刷速度20m/分のスピードで行い、150℃の乾燥炉中で20秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り70℃の熟成室に3日間放置しエージングを行った。
【0043】
<比較例1>
市販のエトキシシラン加水分解物であるHAS−1(コルコート社製)10kgとコンポセランE−102(荒川化学工業(株)製)20kgとメタノール20kgを混合攪拌した。調製した混合液をグラビアコーティング機にてコートした。コーティングはコロナ処理PET(100μm)を用い、印刷速度10m/分のスピードで行い、150℃の乾燥炉中で30秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り70℃の熟成室に3日間放置しエージングを行った。
【0044】
<比較例2>
市販のエトキシシラン加水分解物であるHAS−1(コルコート社製)10kgとJERエポキシレジン1001−B80(ジャパンエポキシレジン(株)製)10kgとメチルエチルケトン20kgを混合攪拌した。さらにポリアミドアミン系触媒(トーマイドTXA−529、富士化成工業(株)製)1kgを混合攪拌した。
【0045】
以上で得られた実施例および比較例のフィルムについて、下記の評価を行った。
(耐ブロッキング性の評価)
○:70℃にて3日間エージングしても巻き取りフィルムが全く付着
していない。
△:70℃にて3日間エージングすると巻き取りフィルムにタック感
があるが表面状態は全く問題ない。
×:70℃にて3日間エージング後に巻き取りフィルムが付着し表面
の劣化やフィルムの破断が起こる。
××:コーティング時にコート剤表面が乾燥していないためにフィルム
が付着し巻き取ることができない。
【0046】
(耐傷性の評価)
○:コート剤表面をスチールウールにて200gの荷重をかけ10往
復ラビングする。ラビング表面に全く傷がつかない。
△:上記条件でラビングした表面にわずかな(5本〜10本程度)の
傷がつく。
×:上記条件でラビングした表面に多数の傷がつき白い条痕が残る。
【0047】
(耐熱性の評価)
○:コート剤表面にアルミ箔を載せ、200℃のヒートバーで5秒間
、1kg/cm2の荷重で圧着する。その後アルミ箔を剥がして
も全く付着しない。
△:上記条件でヒートバーを圧着し、アルミ箔を剥がすとわずかにタ
ックがあるが、表面状態に変化はない。
×:上記条件でヒートバーを圧着し、その後アルミ箔を剥がしても強
く付着し、表面状態が劣化している。
【0048】
(鉛筆硬度試験)
塗料の一般的な鉛筆硬度試験方法であるJIS K−5400にしたがって、PETコーティング面の鉛筆硬度を評価した。
【0049】

【0050】
実施例1〜3はいずれも短時間でコーティングできる性能を有しており、エージング後は耐傷性、耐熱性を十分有しており、PETフィルム面上での鉛筆硬度は良好な結果を有している。比較例1〜2は短時間のコーティングでは十分な乾燥性を有しておらず、巻き取り後の表面タックが残っているためにブロッキングを起こしている。そのためコーティング方式ではハードコート剤の性能は発揮できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能な硬化性樹脂組成物、及び該樹脂組成物からなるハードコート層を有するポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)と金属過塩素酸塩(C)からなり、上記成分(A)/上記成分(B)の質量比が0.5〜5.0であり、上記成分(A+B)/上記成分(C)の質量比が1〜200であり、金属過塩素酸塩を硬化触媒として含有してなることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(A)が、(a)下記一般式(1)で表されるアルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランの加水分解物または縮合物と、(b)下記一般式(1)で表されるアルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランとの混合物である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
H−(R1n−Si(OR24-n・・・一般式(1)
(式中nは0〜2の整数であり、R1は、炭素数1〜8の有機基を示し、R2は、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。)
【請求項3】
前記アルコキシシランまたはアルキルアルコキシシランが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基から選ばれる基を含有する請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランであり、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)が、それらの加水分解物または縮合物を50〜100質量%含む請求項1〜3の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)の平均分子量が500〜50,000である請求項1〜4の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)が、エポキシ当量が100〜2,000であり、分子中にエポキシ基残基を2〜6個含む請求項1〜5の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属過塩素酸塩の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素およびアルミニウムの群から選ばれる金属である請求項1〜6の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を有するプラスチックフィルムまたはシートからなることを特徴とする、耐ブロッキング性、耐傷性および耐熱性に優れたハードコートフィルムまたはシート。
【請求項9】
前記プラスチックフィルムまたはシートが、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂から選ばれる樹脂の単層または積層物である請求項8に記載のハードコートフィルムまたはシート。
【請求項10】
前記プラスチックフィルムまたはシートとハードコート層との間に下塗り層が設けられている請求項8または9に記載のハードコートフィルムまたはシート。
【請求項11】
前記下塗り層が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種とポリイソシアネート化合物とからなる請求項8〜10の何れか1項に記載のハードコートフィルムまたはシート。

【公開番号】特開2011−6613(P2011−6613A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152801(P2009−152801)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】