説明

硬化性樹脂組成物及び接着剤

【課題】エポキシ化合物を含む硬化性樹脂組成物において、高い剛性が高温域で維持されるとともにガラス転移温度の高い硬化物の形成を可能にすること。
【解決手段】ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体構造が配列した4面体シート11と、金属原子を中心原子とする複数の8面体構造が配列した8面体シート12と、を有し、4面体シート11中のケイ素原子と8面体シート12中の金属原子とが酸素原子を介して結合している層状高分子1と、エポキシ化合物等とを含み、層状高分子1が、4面体シート11中のケイ素原子に結合したエポキシ含有有機基と、4面体シート11中のケイ素原子に結合したアリール基等から選ばれる有機基と、を有する1液型又は2液型の硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及びこれを用いた接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物を含む硬化性樹脂組成物の耐熱性等の物性向上を図るため、エポキシ化合物に無機系の材料を組合わせた、いわゆるハイブリッド材料に関する検討が従来からなされている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【0003】
本発明者らは、スメクタイトと類似の層状ケイ酸塩構造を含むとともにエポキシ基を導入した層状高分子を合成し、これをエポキシ化合物と組合わせた有機/無機ハイブリッド材料についてすでに報告した(非特許文献4)。
【非特許文献1】高分子論文集、2000年、57(4)、p.220
【非特許文献2】ポリマー・プレプリンツ・ジャパン(Polymer Preprints Japan)、2002年、第51巻、p.2253−2254
【非特許文献3】ポリマー(Polymer)、2001年、第42巻、p.4493
【非特許文献4】高分子論文集、2002年、第59巻、第10号、p.631−636
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エポキシ基を導入した従来の層状高分子を用いた硬化性樹脂組成物の場合、特に高温での硬化物の剛性の点で更なる改善の余地があった。硬化物の剛性を高めるためにはSiO粒子等の他の無機充填剤を硬化性樹脂組成物に加える方法が考えられるが、従来の層状高分子の場合、高粘度化のため、硬化性樹脂組成物に多量の無機充填剤を加えることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エポキシ化合物を含む硬化性樹脂組成物において、高い剛性が高温域で維持されるとともにガラス転移温度の高い硬化物の形成を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体構造が配列した4面体シートと、金属原子を中心原子とする複数の8面体構造が配列した8面体シートと、を有し、4面体シート中のケイ素原子と8面体シート中の金属原子とが酸素原子を介して結合している層状高分子と、エポキシ基を有するエポキシ化合物と、硬化剤と、を含む1液型又は2液型の硬化性樹脂組成物である。そして、硬化性樹脂組成物中の層状高分子は、4面体シート中のケイ素原子に結合した、エポキシ基を含有するエポキシ含有有機基と、4面体シート中のケイ素原子に結合した、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種の有機基と、を有している。
【0007】
上記本発明に係る硬化性樹脂組成物においては、エポキシ含有有機基に加えて、上記特定の有機基が層状高分子中に導入されている。これにより、上記本発明に係る硬化性樹脂組成物は、高い剛性が高温域で維持されるとともにガラス転移温度の高い硬化物の形成を可能にするものとなった。アリール基等の上記有機基が層状高分子の有機側鎖として存在することにより、エポキシ基を有するエポキシ含有有機基のみの場合と比較して立体化学的に構造が安定化され、層状高分子の結晶性が高められる。これにより上記のような効果が得られたものと本発明者らは推定している。
【0008】
本発明に係る接着剤は、上記本発明に係る硬化性樹脂組成物からなる。高温での剛性が高く耐熱性に優れるため、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、接着剤として用いたときに特に有用なものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エポキシ化合物を含む硬化性樹脂組成物において、高い剛性が高温域で維持されるとともにガラス転移温度の高い硬化物の形成が可能である。本発明によれば、硬化物がガラス転移温度付近まで10GPa程度の高い弾性率を発現することも可能である。得られる硬化物のクリープ変形に対する耐性も大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る層状高分子の構造を示す模式図である。図1に示す層状高分子1は、ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体構造が配列した4面体シート11と、Mg原子を中心原子とする複数の8面体構造が配列した8面体シート12と、を有している。そして、4面体シート11中のケイ素原子と8面体シート12中のMg原子とが酸素原子を介して結合している。4面体構造中のケイ素原子は、エポキシ含有有機基、又は、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種の有機基(以下場合により「アリール基等」という。)と共有結合により直接結合している。これら有機基により層状高分子の有機側鎖部分が構成される。図1に示す構造の場合、エポキシ含有有機基として3−グリシドキシプロピル基が、アリール基等としてフェニル基がそれぞれケイ素原子に結合している。
【0012】
本実施形態に係る層状高分子は、図1に示す構造のみから構成されるものではなく、例えば、ケイ素原子が水酸基で置換されている部分、Mgが水酸基で置換されている部分等を含んでいてもよい。また、図1に示す構造においては3−グリシドキシプロピル基及びフェニル基が交互に規則的に配列しているが、3−グリシドキシプロピル基又はフェニル基がそれぞれ連続している部分が層状高分子中に存在していてもよいし、エポキシ含有有機基及びアリール基等以外の有機基がケイ素原子に結合している部分があってもよい。
【0013】
本実施形態に係る層状高分子において、上記有機側鎖部分以外の部分を構成する無機部分は、Si−O四面体シートと金属酸化物八面体シートから構成される層状ケイ酸塩と類似の構造を有している。このような構造を有する鉱物(層状ケイ酸塩)としては、パイロフィライト(AlSi10(OH))、タルク(MgSi10(OH))等が知られている。例えば、タルクについてその組成を四面体シート、八面体シート及び水酸基に分けて表記すると、(SiO4/3(MgO)(HO)1/3と表すことができる。この表記方法に倣うと、層状高分子ポリマーの組成は、例えば、下記式:
(RAm(1−A)nSiO(4−Am+An−n)/22/ZO(HO) ・・・(1)
で表すことができる。式(1)は、層状高分子において、8面体シート部分(M2/ZO)1モルに対して、4面体シート部分(RAm(1−A)nSiO(4−Am+An−n)/2)の比率がxモルであり、構造水(HO)の比率がwモルであることを意味する。
【0014】
式(1)中、Rはエポキシ含有有機基を示し、Rは置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種の有機基を示し、Aは0を超えて1未満の数値を示し、m及びnは1〜3の整数を示し、xは0.5〜2の数値を示し、Mは金属原子又はそのイオンを示し、Zは2又は3を示し、wは0〜2の数値を示す。層状高分子中の複数のR、R及びMは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0015】
のエポキシ含有有機基としては、例えば、3−グリシドキシプロピル基等のグリシドキシアルキル基や、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等の3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル基がある。グリシドキシアルキル基中のアルキル基の炭素数は1〜6であることが好ましい。
【0016】
のアリール基等は、一般に上記エポキシ含有有機基と比較して親油性が高く、これにより硬化性樹脂組成物中の他の有機成分に対する層状高分子の親和性が高められる。その結果、層状高分子の硬化性樹脂組成物への分散性が良好なものとなると考えられる。分散性が良好なため、層状高分子を含有する硬化性樹脂組成物の調製が容易であるという利点も得られる。
【0017】
置換基を有していてもよいアリール基は、典型的には置換基を有していてもよいフェニル基である。具体的には、フェニル基、o−トリル基、4−(クロロメチル)フェニル基、ペンタフルオロフェニル基及び4−ペルフルオロトリル基が挙げられる。置換基を有していてもよいシクロアルキル基の具体例としては、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0018】
式(1)中のAは、層状高分子中のR及びRの合計量に対するRの比率(モル比)を表す。本発明による効果を顕著なものとするために、Aは0.25〜0.75であることが好ましい。この場合、R:R(モル比)=1:3〜3:1となる。
【0019】
式(1)中のm及びnは、それぞれ、ケイ素原子1個に結合しているR又はRの数であり、典型的には1である。
【0020】
式(1)中のMは、層状高分子の8面体シートの中心原子としての金属原子を表す。Mは、上記Mgの他、2:1型層状ケイ酸塩構造を形成する金属であれば、特に制限されない。具体的には、Mは、Al、Mg、Fe、Li、Mn、Cu、Co、Ni、Zn、Cd及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これら金属原子はイオン化していてもよい。式(1)中のzはMの価数に対応する数値である。wは構造水として含まれる水分の比率に対応する数値であり、本実施形態の場合、通常1/3〜2程度である。
【0021】
層状高分子は、例えば、ケイ素原子に結合したRを有する有機シラン化合物及びケイ素原子に結合したRを有する有機シラン化合物を、8面体構造を形成する金属原子を含む金属化合物と反応させる方法により得ることができる。これら2種の有機シラン化合物の比率によって、得られる層状高分子におけるRとRの比率を制御することができる。上記有機シラン化合物は、R又はRと、ケイ素原子に結合したアルコキシ基、アセトキシ基等の加水分解性基を有していればよい。このような有機シラン化合物は、一般にシランカップリング剤として入手可能である。
【0022】
を有する有機シラン化合物の具体例としては、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロプル)トリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ビス(トリメトキシシロキシ)メチルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメトキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。これら有機シラン化合物は1種又は2種以上を組合わせて用いられる。
【0023】
を有する有機シラン化合物の具体例としては、Rが置換基を有していてもよいアリール基である場合、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメチルメトキシフェニルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、フェニルトリアセトキシシラン、p−トリルトリメトキシシラン、4−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルエトキシジメチルシラン及び(4−ペルフルオロトリル)トリエトキシシランが挙げられる。Rが置換基を有していてもよいシクロアルキル基である場合、シクロヘキシルトリメトキシシラン及びシクロへキシルメチルジメトキシシランが挙げられる。これら有機シラン化合物は1種又は2種以上を組合わせて用いられる。
【0024】
上記有機シラン化合物と反応させる金属化合物としては、塩化物、硝酸塩等の金属塩や金属アルコキシドが好適に用いられる。例えば、Mgを中心原子とする8面体シートを形成させる場合、塩化マグネシウム6水和物等のマグネシウム塩が用いられる。
【0025】
有機シラン化合物と金属化合物との反応は、当業者には理解されるように、アルカリ性の水溶液中で、室温で又は加熱しながら進行させることができる。
【0026】
硬化性樹脂組成物は、以上説明した層状高分子と、エポキシ基を有するエポキシ化合物と、硬化剤とを含む。1液型硬化性樹脂組成物の場合、硬化前の硬化性樹脂組成物は、層状高分子及びエポキシ化合物を含有する主剤組成物中に硬化剤が予め混合された状態で保存される。2液型硬化性樹脂組成物の場合、主剤組成物及び硬化剤は別個に保存され、硬化の際に混合される。
【0027】
エポキシ化合物は、エポキシ基を2以上有していることが好ましく、3以上有していることがより好ましい。エポキシ化合物はエポキシ樹脂として入手可能である。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリス(グリシジルフェニル)メタン、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、脂肪族アルコールのグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂を含む。
【0028】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリジジルジアミノジフェニルメタン、トリグリジジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン及びN,N−グリシジルアニリンが挙げられる。
【0029】
グリシジルエステル系エポキシ樹脂としては、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリジシルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル,ジグリシジルパラオキシ安息香酸,ダイマー酸グリシジルエステル及びトリメリット酸トリグリシジルエステルが挙げられる。
【0030】
脂肪族アルコールのグリシジルエーテルとしては、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル及びグリセロールアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0031】
硬化性樹脂組成物は、以上のようなエポキシ化合物等から選ばれる1種又は2種以上を含む。硬化性樹脂組成物中のエポキシ化合物は室温で液状であることが好ましい。
【0032】
硬化剤としては、エポキシ化合物又はエポキシ樹脂の硬化剤として機能するものであれば、特に制限なく用いられる。本明細書においては、硬化剤は、エポキシ基と直接反応するアミノ基等の官能基を有するものの他、硬化促進剤又は硬化触媒として作用するものも含む。
【0033】
硬化剤としては、芳香族アミン、鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン、酸無水物、ポリアミド樹脂、イミダゾール及びその誘導体、ポリメルカプタン、ジシアンジアミド及び有機酸ヒドラジドが挙げられる。これらの中でも、層状高分子による耐熱性向上の効果を顕著なものとするため、芳香族アミンが特に好ましい。ジシアンジアミド及び有機酸ヒドラジドは1液型硬化性樹脂組成物用の潜在性硬化剤として好適に用いられる。
【0034】
芳香族アミンの具体例としては、メタキシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニゾール、2,4−トルエンジアミン、2,4−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン及びジアミノジキシリルスルホンが挙げられる。鎖状脂肪族ポリアミンの具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン及びジエチルアミノプロピルアミンが挙げられる。環状脂肪族ポリアミンの具体例としては、N−アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソフロオンジアミン及び1,3−ジアミノシクロヘキサンが挙げられる。
【0035】
酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びメチレンシクロヘキセンジカルボン酸無水物が挙げられる。
【0036】
イミダゾール誘導体としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾール及び1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテートが挙げられる。
【0037】
三級及び二級アミン(ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチルフェノール)等)を上記硬化剤と共にまたは単独で用いられる。
【0038】
以上挙げた硬化剤は、1種で又は2種以上を組合わせて硬化性樹脂組成物に用いられる。
【0039】
硬化性樹脂組成物は、無機充填剤を更に含有することが好ましい。これにより、硬化物の剛性が更に高められる。本実施形態の場合、比較的少量の層状高分子によって耐熱性向上等の性能向上効果が得られるため、硬化性樹脂組成物を過度に高粘度化させることなく無機充填剤の量を比較的多く加えることが可能である。そのため、従来の層状高分子を用いる場合よりも、容易に高い剛性を得ることができる。無機充填剤としては、例えばSiO粒子が用いられる。
【0040】
硬化性樹脂組成物中の層状高分子の比率は、エポキシ化合物の量を基準として5〜20質量%であることが好ましい。この比率が5質量%未満であると本発明による効果が得られ難くなる傾向にある。一方、20質量%を超える場合も耐熱性や剛性向上の効果が低下する傾向にある。これは、層状高分子の量が過度に多くなると、硬化性樹脂組成物における硬化剤の移動が阻害されて、硬化が十分に進行し難くなるためであると考えられる。
【0041】
硬化剤の比率は、エポキシ化合物が有するエポキシ基、及び層状高分子中のエポキシ基の量を考慮して、適切に硬化が進行するように当量比を適正化することにより、当業者であれば適宜決定することが可能である。
【0042】
無機充填剤の比率は、層状高分子及びエポキシ化合物を含む主剤組成物(すなわち、硬化性樹脂組成物全体から硬化剤を除いた部分)の質量を基準として、50〜90質量%であることが好ましい。無機充填剤の比率が50質量%未満であると補強効果が小さくなる傾向があり、90質量%を超えると高粘度化のために硬化前の均一な混合が困難となるため、硬化不良が生じ易くなる傾向がある。
【0043】
硬化性樹脂組成物は、以上のような成分及び必要に応じて他の成分を混合し、加熱しながら混練する方法により、調製される。混練は、例えばニーダを用いて行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
合成例
(1)3−グリシドキシプロピル基及びフェニル基を有する層状高分子の合成
メタノール500mLに塩化マグネシウム6水和物(和光純薬製)50.8gを溶解し、そこに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(サイラエースS510,チッソ製)59.0g及びフェニルトリエトキシシラン(信越化学製)60.1gを加えた。その後、イオン交換水500mLに水酸化ナトリウム20gを溶解した水酸化ナトリウム水溶液(濃度:1M)を更に加え、30分間攪拌した。一晩放置後、溶液を濾過し、固形分を取り出してこれを水洗した。これをミキサーを用いて2Lのイオン交換水に1分間かけて分散した。分散後の懸濁液を凍結真空乾燥により乾燥して、微粉末状の層状高分子(以下「Ph−E−Mg層状高分子」という。)を得た。
【0046】
(2)3−グリシドキシプロピル基を有し、フェニル基を有しない層状高分子の合成
イオン交換水10Lに塩化マグネシウム6水和物1018g(5mol)を加えてこれを溶解させ、そこに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2360g(10mol)を加えてよく攪拌した。その後、水酸化ナトリウムペレット400g(10mol)をイオン交換水10Lに溶解した水酸化ナトリウム水溶液(濃度:1mol/L)を加えたところ、白色の沈殿物が生じた。そのまま2日間放置した後、フィルタプレス(日本濾過装置製)を用いて濾過を行い、沈殿物を取り出した。取り出された沈殿物に20Lのイオン交換水を加えて1時間攪拌することにより水洗を行い、その後、さらに濾過して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を凍結真空乾燥により乾燥して、層状高分子(以下「E−Mg層状高分子」という。)を得た。
【0047】
層状高分子のX線回析測定
合成したPh−E−Mg層状高分子の結晶性をX線回析測定(XRD)により行った。X線回析測定は、リガクLINT2000型X線回析装置を用い、Cu線源を使用して行った。
【0048】
図2は、Ph−E−Mg層状高分子のXRDパターンを示すグラフである。XRDパターンから、Ph−E−Mg層状高分子はスメクタイト類似型の層状構造を形成していると認められ、その層間距離は概ね15nmである。層間周期を示すピークは1つしか見られないことから、Ph−E−Mg層状高分子において、3−グリシドキシプロピル基及びフェニル基は均一に分散して存在しているものと考えられる。
【0049】
層状高分子の固体核磁気共鳴(MAS NMR)スペクトル測定
層状高分子の13C及び29SiのMAS NMRスペクトルを、AVANS400(ブルカー・バイオスピン社製)を用いて測定した。
【0050】
図3はPh−E−Mg層状高分子、図4はE−Mg層状高分子の13C MAS NMRスペクトルを示すグラフである。また、合成原料として用いた3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの13C MAS NMRスペクトルを図5に示す。図3に示されるように、Ph−E−Mg層状高分子の場合、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランにおいて見られるエポキシ基由来のシグナルととともに、「+」で示したフェニル基に由来するシグナルが認められた。一方、図4に示すように、E−Mg層状高分子の場合、合成の際に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのエーテル結合の一部が加水分解して生じる−C−OHの炭素に由来するシグナル(「*」で示す)が観察された。このシグナルはPh−E−Mg層状高分子の場合には観察されなかった。このことから、フェニル基が導入されているPh−E−Mg層状高分子は、フェニル基が導入されていないE−Mg層状高分子に比べて、エポキシ基とケイ素原子との間に位置するエーテル結合が加水分解されにくいことがわかる。
【0051】
図6はPh−E−Mg層状高分子、図7はE−Mg層状高分子の29Si MAS NMRスペクトルを示すグラフである。図6に示されるように、Ph−E−Mg層状高分子の場合、Si−CH−に由来するシグナル「T」とともにSi−Phに由来するシグナル「T(Ph)」が観察され、これらはほぼ同等の強度を有していた。このことから、仕込み比から想定された程度にフェニル基が導入されていることが確認された。シロキサン結合の加水分解によって生じるシラノール(Si−OH)に由来するシグナル「T」,「T」も見られたものの、その強度はE−Mg層状高分子の場合(図7)と比べて低かった。このことから、反応性の低いエトキシシリル基を有するフェニルトリエトキシシランを合成原料として用いたのにも関わらず、P−E−Mg層状高分子のほうがE−Mg層状高分子よりもシリケート層(4面体シート)の部分の重合度が高いことがわかった。
【0052】
硬化性樹脂組成物の調製とその硬化
調製例1
Ph−E−Mg層状高分子、4官能のエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(エピコート604、ジャパンエポキシレジン製、以下「604」と記す。)、及び場合によりSiO粒子(TSS−4、龍森(株)製)を表1に示す配合量(g)で混合し、80℃に加熱しながら混練して、主剤組成物を得た。ただし、実施例4及び実施例5については、まず80℃でエポキシ樹脂及びこれと等量の層状高分子を混練し、その後、表1に示す割合となるようにエポキシ樹脂及び無機充填剤を追加し、更に80℃で混練して実施例4−2及び実施例5−2の硬化性樹脂組成物を別途調製した。なお、層状高分子の熱重量減少(TG)測定をしたところ、層状高分子に含まれる無機分の比率は40.6重量%であった。この比率に基づいて、表中に示す無機分/主剤組成物の値を、計算式:
無機分/主剤混合物=[層状高分子重量×40.6/100+無機充填剤重量]/主剤組成物総重量
によって算出した。
【0053】
主剤組成物に硬化剤としての4,4’−ジアミノジフェニルメタン(和光純薬工業製、以下「DDM」と記す。)を表1に示す配合量(g)で加え、電気炉内で110℃に加熱しながら混練した。その後、主剤組成物と硬化剤の混合物からなる硬化性樹脂組成物を、105℃で2時間、150℃で3時間、そして200℃で2時間の加熱により硬化して、硬化物を形成させた。
【0054】
また、比較例として、表1に示す組成の硬化性樹脂組成物を調製し、これを上記実施例と同様の条件で硬化して、硬化物を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
調製例2
Ph−E−Mg層状高分子3.575g及びこれと同量のエピコート604をホットプレート上で約90℃に加熱して軟化させて、ヘラで十分混合した。そこに17.88gのエピコート604及び78.55gのTSS−4を加え、卓上ニーダ(PNV−01型、入江商会製)を用いて、約80℃に加熱しながら混練して、主剤組成物を得た。
【0057】
主剤組成物と、硬化剤(ジシアンジアミド又はテレフタル酸ジヒドラジド)とを、ホットプレート上で約90℃に加熱しながら混合して、1液型の硬化性樹脂組成物を得た。主剤組成物3gに対して、ジシアンジアミドは0.064g、テレフタル酸ジヒドラジドは0.1673g用いた。ジシアンジアミドの場合を実施例7、テレフタル酸ジヒドラジドの場合を実施例8とする。
【0058】
得られた硬化性樹脂組成物を、105℃で2時間、150℃で3時間、そして200℃で2時間の加熱により硬化して、硬化物を形成させた。
【0059】
硬化物の動的粘弾性測定
上記で得た硬化物から切り出した試験片について、動的粘弾性(DMA)を測定した。動的粘弾性測定装置としてアイティー計測制御製DVA−220を用い、引張モード、測定周波数:10Hz、昇温速度:4℃/min.、静/動応力比:1.5、設定歪:0.01%、温度範囲:室温〜300℃の条件でDMA測定を行った。DMA測定結果を図8〜12に示す。
【0060】
図8にSiO粒子未配合の硬化性樹脂、図9にSiOを配合した硬化性樹脂組成物のDMA測定結果を示す。図8及び9に示されるように、ガラス転移温度を示すtanδのピークの位置は、Ph−E−Mg層状高分子の配合量の増加にともなって高温側へ移動した。Ph−E−Mg層状高分子の比率が16.7質量%である実施例1の場合、層状高分子を用いていない比較例1に対して、ガラス転移温度が16℃上昇した。また、Ph−E−Mg層状高分子を用いた実施例3は、E−Mg層状高分子を用いた比較例3と比較しても貯蔵弾性率及びガラス転移温度が大きく上昇した(図9)。
【0061】
更に、図10及び11に示されるように、SiO粒子の増加にともなって、ガラス転移点及び貯蔵弾性率が上昇する傾向が認められた。特に、主剤組成物中の無機分の比率が0.8である実施例5−1の場合、層状高分子を用いていない比較例2よりも高い貯蔵弾性率を示し、200℃まで10GPa以上の貯蔵弾性率を維持した。また、実施例5−1のガラス転移温度は280℃であり、比較例2の256℃に対して24℃上昇した。
【0062】
図12には、ジシアンジアミド又はテレフタル酸ジヒドラジドを硬化剤として用いた硬化性樹脂組成物のDMA測定結果を、DDMを用いた実施例5−2の結果と共に示す。ガラス転移温度は実施例7(ジシアンジアミド)で217℃、実施例8(テレフタル酸ジヒドラジド)で241℃であり、いずれも200℃以上の高い耐熱性を示した。貯蔵弾性率はいずれも同程度であり、120℃で10GPa以上の値を示した。また、貯蔵弾性率の温度依存性は実施例7(ジシアンジアミド)及び実施例8(テレフタル酸ジヒドラジド)の場合のほうがDDMと比較して小さかった。いずれにしても、本実施例では暫定的な硬化条件を採用したため、硬化剤の配合比や硬化条件の適正化により、さらなる性能向上が見込まれる。
【0063】
硬化物の弾性率、線膨張係数及びクリープ伸量特性の評価
実施例5−1,5−2及び比較例2の硬化性樹脂組成物から得た硬化物について、弾性率、線膨張係数及びクリープ伸量を測定した。測定結果を表2に示す。弾性率は25℃で測定した。線膨張係数は、30℃〜200℃の範囲で求めた。クリープ伸量は、動的粘弾性測定装置(Pyris1、パーキンエルマー製)を用いて測定した。表2に示す温度で試験片に引張荷重を加え、その状態で10時間経過した後に初期の長さから試験片が伸びた量を、クリープ伸量として求めた。表2に示されるように、Ph−E−Mg層状高分子を用いた実施例5−1,5−2の場合、無機分としてSiO粒子のみを用いた比較例2と比較してクリープ伸量は極めて低い値を示した。
【0064】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】一実施形態に係る層状高分子の構造を示す模式図である。
【図2】Ph−E−Mg層状高分子のXRDパターンを示すグラフである。
【図3】Ph−E−Mg層状高分子の13C HD NMRスペクトルを示すグラフである。
【図4】E−Mg層状高分子の13C HD NMRスペクトルを示すグラフである。
【図5】3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの13C HD NMRスペクトルを示すグラフである。
【図6】Ph−E−Mg層状高分子の29Si HD NMRスペクトルを示すグラフである。
【図7】E−Mg層状高分子の29Si HD NMRスペクトルを示すグラフである。
【図8】DMA測定結果を示すグラフである。
【図9】DMA測定結果を示すグラフである。
【図10】DMA測定結果を示すグラフである。
【図11】DMA測定結果を示すグラフである。
【図12】DMA測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1…層状高分子、11…4面体シート、12…8面体シート。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子を中心原子とする複数の4面体構造が配列した4面体シートと、金属原子を中心原子とする複数の8面体構造が配列した8面体シートと、を有し、前記4面体シート中のケイ素原子と前記8面体シート中の金属原子とが酸素原子を介して結合している層状高分子と、
エポキシ基を有するエポキシ化合物と、
硬化剤と、を含み、
前記層状高分子が、
前記4面体シート中のケイ素原子に結合した、エポキシ基を含有するエポキシ含有有機基と、
前記4面体シート中のケイ素原子に結合した、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種の有機基と、を有する、
1液型又は2液型の硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物が3以上のエポキシ基を有する、請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填剤を含む、請求項1又は2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が芳香族アミンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物が硬化して形成される硬化物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−115299(P2008−115299A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300728(P2006−300728)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】