説明

硬化性組成物、並びに耐擦傷性樹脂板および表示窓保護板

【課題】耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れる硬化被膜を形成することができる硬化性組成物、並びに耐擦傷性樹脂板および表示窓保護板を提供することである。
【解決手段】分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する硬化性化合物(A)と、下記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有し、かつ少なくとも一方の末端が(メタ)アクリロイルオキシ基である化合物(B)と、シリカ粒子(C)と、を含有し、前記シリカ粒子(C)の含有量が、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して10〜25重量部である硬化性組成物、およびこの硬化性組成物を硬化させてなる硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板と、この耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板とを提供する。
【化3】


[式中、R1およびR2は、明細書に記載の通りである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、並びにこの硬化性組成物を硬化させてなる硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板、およびこの耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)等の携帯型電話類が、インターネットの普及とともに、単なる音声伝達機能に加えて、文字情報や画像情報を表示する機能を持った携帯型情報端末として広く普及している。また、このような携帯型電話類とは別に、住所録等の機能にインターネット機能や電子メール機能を併せ持つPDA(Personal Digital Assistant)等も幅広く使用されている。
【0003】
これらの携帯型情報端末では、液晶やEL(エレクトロルミネッセンス)等の方式により、文字情報や画像情報を表示するようになっているが、その表示窓には、基板表面に硬化被膜を形成してなる耐擦傷性樹脂板が保護板として用いられている。
【0004】
携帯型情報端末における表示窓の保護板は、指で直接触れられることが多い。そのため、前記硬化被膜には、指紋の付着跡が目立ち難い耐指紋付着性、付着した指紋を拭き取り易い指紋拭き取り性等の性能が求められる。また、視認性を確保するため、前記硬化被膜には、光の干渉による色ムラが生じ難い耐色ムラ性等も要求される。
【0005】
特許文献1には、硬化性(メタ)アクリレート化合物と、炭素数10〜19のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含む活性エネルギー線硬化性組成物と、この活性エネルギー線硬化性組成物からなる硬化皮膜を有する積層樹脂板とが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている積層樹脂板は、耐指紋付着性および指紋拭き取り性が十分ではなかった。また、前記積層樹脂板の表面には、光の干渉による色ムラが生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−77282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れる硬化被膜を形成することができる硬化性組成物、並びに耐擦傷性樹脂板および表示窓保護板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する硬化性化合物(A)と、下記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有し、かつ少なくとも一方の末端が(メタ)アクリロイルオキシ基である化合物(B)と、シリカ粒子(C)と、を含有し、前記シリカ粒子(C)の含有量が、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して10〜25重量部であることを特徴とする硬化性組成物。
【化1】

[式中、R1は、水素原子またはメチル基を示す。R2は、炭素数10〜19の直鎖または分岐したアルキル基を示す。]
(2)前記硬化性化合物(A)が、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、を含有する前記(1)に記載の硬化性組成物。
(3)さらにアクリル系レベリング剤を含有する前記(1)または(2)に記載の硬化性組成物。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化被膜を樹脂基板の少なくとも片面に有する耐擦傷性樹脂板。
(5)前記(4)に記載の耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板。
【0010】
なお、本発明における前記「携帯型情報端末」とは、人が携行できる程度の大きさであって、文字情報や画像情報等を表示するための窓(ディスプレイ)を有するものの総称を意味しており、例えば前記で例示した携帯電話やPHS、PDA等が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れる硬化被膜を形成することができるので、この硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を携帯型情報端末の表示窓保護板として用いることにより、その表示窓を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硬化性組成物は、硬化性化合物(A)と、特定の化合物(B)と、シリカ粒子(C)とを含有する。硬化性化合物(A)は、電子線や紫外線等の活性化エネルギー線が照射されることにより硬化する性質を有し、分子中に少なくとも2個、好ましくは2〜7個、より好ましくは4〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。この硬化性化合物(A)を硬化性組成物が含有すると、形成される硬化被膜は優れた耐擦傷性および表面硬度を有するようになる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基をいい、その他、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等というときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0013】
硬化性化合物(A)としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の分子中に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の分子中に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の分子中に4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の分子中に6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等の分子中に少なくとも7個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、分子中にX個のイソシアナト基を有する化合物と、分子中に水酸基およびY個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との反応により得られるウレタン(メタ)アクリレート化合物や、分子中にX個のハロカルボニル基を有する化合物と、分子中に水酸基およびY個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との反応により得られるエステル(メタ)アクリレート化合物を、分子中にX×Y個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の例として挙げることができる。なお、前記Yは、少なくとも2個である。
【0015】
硬化性化合物(A)は、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、を含有するのが好ましい。これにより、硬化性化合物(A)の反応性が高まるので、形成される硬化被膜の耐擦傷性および表面硬度を向上することができる。分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物との割合は、両者の合計量100重量部を基準として、通常、前者が5〜95重量部、後者が95〜5重量部であり、好ましくは、前者が30〜70重量部、後者が70〜30重量部である。
【0016】
一方、化合物(B)は、前記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有し、かつ少なくとも一方の末端が(メタ)アクリロイルオキシ基である。この化合物(B)は、指紋の主成分である脂質に対する親和性を向上させる効果を有し、それゆえ該化合物(B)を含有する硬化性組成物を硬化させてなる硬化被膜は、指紋の付着跡が目立ち難くなる。
【0017】
前記一般式(I)中、R1は、水素原子またはメチル基を示す。前記R2は、炭素数10〜19のアルキル基を示す。前記炭素数10〜19のアルキル基としては、例えばデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状および分枝状のいずれであってもよい。
【0018】
化合物(B)の具体例としては、R1がメチル基であり、R2が炭素数18のn−オクタデシル基であり、一方の末端または両末端がメタクリロイルオキシ基である化合物等が挙げられる。化合物(B)としては、1種の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を併用して用いてもよい。
【0019】
化合物(B)は、市販のものを用いることもできるが、合成により得ることもできる。化合物(B)の合成方法としては、特に限定されるものではなく、例えばメルカプト基と水酸基とを有する化合物の存在下で、炭素数10〜19の直鎖または分岐したアルキル基を有する(メタ)アクリレートを塊状重合法、溶液重合法等で重合させて重合体を得、この重合体に前記水酸基と反応する官能基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を反応させればよい。
【0020】
化合物(B)の合成方法の一例として、メルカプト基と水酸基とを有する前記化合物としてメルカプトエタノールを、水酸基と反応する官能基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する前記化合物として2−イソシアナトエチルメタクリレートをそれぞれ用いる場合を例に挙げて説明すると、まず、ステアリルメタクリレートとメルカプトエタノールをメチルイソブチルケトン等の溶剤に加え、窒素等の不活性ガス雰囲気下、100〜140℃の温度で2〜6時間かけて重合させる。このとき、各種の公知の開始剤を用いてもよい。次いで、前記溶剤中に2−イソシアナトエチルメタクリレートを加えて80〜120℃で反応させる。このとき、各種の公知の重合禁止剤を用いてもよい。そして、イソシアネート基が一定になった時点で反応を終了すると、化合物(B)が得られる。
【0021】
化合物(B)の含有量は、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して0.1〜30重量部であるのが好ましく、0.5〜15重量部であるのがより好ましく、0.5〜5重量部であるのがさらに好ましい。これにより、硬化被膜の脂質に対する親和性が適度に向上し、指紋の付着跡が目立ち難くなるとともに、付着した指紋を拭き取り易くなる。これに対し、化合物(B)の含有量があまり少ないと、化合物(B)よる効果が得られ難くなる。また、化合物(B)の含有量があまり多いと、耐擦傷性、表面硬度および指紋拭き取り性が低下する
【0022】
一方、硬化性組成物がシリカ粒子(C)を含有すると、光の干渉による色ムラを少なくすることができる。この理由としては、シリカ粒子(C)を含有すると、形成される硬化被膜の屈折率が、樹脂基板の屈折率に近くなることに起因すると推察される。
【0023】
シリカ粒子(C)としては、平均粒径が5nm〜10μmのものが好ましく、平均粒径が5nm〜100nmのものがより好ましい。平均粒径があまり小さいシリカ粒子は、工業的に製造することが困難であり、また平均粒径があまり大きくなると、被膜の透明性等の光学性能が低下するため好ましくない。
【0024】
また、シリカ粒子(C)として多孔質シリカ微粒子を用いてもよい。多孔質シリカは、アルコキシシランをアルカリの存在下で加水分解することにより得られる、高度に絡み合って枝分かれし、ポリマー状に生成したシリカであってもよいし、特開平7−133105号公報に記載されている方法等で製造された、表面が被覆された多孔質シリカであってもよい。
【0025】
シリカ粒子(C)の表面は、分散性を向上させ、カチオン重合性化合物との親和性を高めるために、例えば特開平7−133105号公報等に示される方法により有機ケイ素化合物で修飾されていてもよい。シリカ粒子(C)は、ゾルの形態で使用することもできる。
【0026】
シリカ粒子(C)の含有量は、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して10〜25重量部、好ましくは10〜20重量部である。シリカ粒子(C)の含有量があまり多くなると、被膜の透明性等の光学性能が低下するとともに、耐指紋付着性や指紋拭き取り性も低下する。また、シリカ粒子(C)の含有量があまり少ないと、シリカ粒子(C)による効果が得られ難くなる。
【0027】
また、硬化性組成物には、必要に応じて、導電性微粒子が含まれていてもよい。これにより、帯電防止性能や制電性能を有する硬化被膜を形成することができる。導電性微粒子としては、例えば酸化アンチモンのような金属酸化物、インジウム/スズの複合酸化物(ITO)、スズ/アンチモンの複合酸化物(ATO)、アンチモン/亜鉛の複合酸化物、リンでドープされた酸化スズ等が挙げられる。
【0028】
導電性微粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmであるのが好ましい。平均粒子径があまり小さいものは、工業的な生産が難しく、平均粒子径があまり大きいものを用いると、硬化被膜の透明性が低下するため好ましくない。
【0029】
導電性微粒子の含有量としては、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して、1〜100重量部であるのが好ましい。この含有量があまり少ないと、十分な帯電防止効果が得られず、あまり多いと、硬化被膜の耐擦傷性が低下するか、成膜性が低下するため好ましくない。
【0030】
また、硬化性組成物には、粘度や硬化被膜の厚さ等を調整するため、溶剤が含まれていてもよい。この溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブチルアルコール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)等のアルコール類;2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコキシアルコール類;ジアセトンアルコール等のケトール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
溶剤の含有量は、基板の材質、形状、塗布方法、目的とする硬化被膜の厚さ等に応じて適宜調整されるが、前記硬化性化合物(A)100重量部に対し、通常20〜10,000重量部である。
【0032】
さらに、硬化性組成物には、必要に応じて、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤等の添加剤を含有していてもよい。特に、レベリング剤を含むと、硬化被膜の平滑性や耐擦傷性を高めることができる。
【0033】
レベリング剤としては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル;アクリル系共重合物等のアクリル系レベリング剤等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル系レベリング剤が好ましい。
【0034】
レベリング剤の含有量は、前記硬化性化合物(A)100重量部に対し、通常0.01〜20重量部である。この含有量があまり少ないと、レベリング剤による効果が得られ難く、あまり多いと、硬化被膜の強度が低下するため好ましくない。
【0035】
以上説明した硬化性組成物を、樹脂基板の少なくとも片面に塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで形成された塗膜を硬化させることにより、樹脂基板の少なくとも片面に硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を得ることができる。
【0036】
樹脂基板を構成する樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂であるのがよく、その具体例としては、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)等が挙げられる。これらの中でも、メタクリル樹脂は、表面硬度が高く、高い耐擦傷性を有する硬化被膜が形成され易いので好ましい。また、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性が高く、割れ難いので好ましい。
【0037】
樹脂基板は、通常の板(シート)やフィルムのように、表面が平面のものであってもよいし、凸レンズや凹レンズ等のように、表面が曲面になっているものであってもよい。また、表面に細かな凹凸等の微細な構造が設けられていてもよい。
【0038】
樹脂基板は、必要に応じて、染料や顔料等により着色されていてもよいし、酸化防止剤や紫外線吸収剤、ゴム粒子等を含有していてもよい。樹脂基板の厚さとしては、0.1〜3.0mm程度が適当である。
【0039】
樹脂基板は、単層のものであってもよいし、多層構造のものであってもよい。多層構造の樹脂基板としては、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも片面にメタクリル樹脂層が積層されてなるものが好ましい。ポリカーボネート樹脂層の両面にメタクリル樹脂層が積層されてなる場合、メタクリル樹脂層の少なくとも一方には、ゴム粒子を含有させるのがよい。
【0040】
硬化性組成物の塗布は、例えばマイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、フローコート法、スプレーコート法等の方法により行うことができる。
【0041】
塗膜の硬化は、活性化エネルギー線を照射することにより、好適に行われる。活性化エネルギー線としては、例えば電子線、紫外線、可視光線等が挙げられ、硬化性化合物の種類に応じて適宜選択される。活性化エネルギー線として紫外線や可視光線を用いる場合には、通常、光重合開始剤が用いられる。
【0042】
光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−tert−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフェノン(BTTB)、2−(ジメチルアミノ)−1−〔4−(モルフォリニル)フェニル〕−2−(フェニルメチル)−1−ブタノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、ベンジル等が挙げられる。
【0043】
光重合開始剤は、色素増感剤と組合せて用いてもよい。色素増感剤としては、例えばキサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリン等が挙げられる。光重合開始剤と色素増感剤との組合せとしては、例えばBTTBとキサンテンとの組合せ、BTTBとチオキサンテンとの組合せ、BTTBとクマリンとの組合せ、BTTBとケトクマリンとの組合せ等が挙げられる。
【0044】
上記の光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、それぞれチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から販売されている“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、および“IRGACURE 784”、それぞれ日本化薬(株)から販売されている“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACURE BMS”、および“KAYACURE 2−EAQ”等が挙げられる。
【0045】
光重合開始剤の含有量は、前記硬化性化合物(A)100重量部に対し、通常0.1〜10重量部である。この含有量があまり少ないと、光重合開始剤を使用しない場合と比較して硬化速度が大きくならない傾向にあり、あまり多いと、必要以上に光重合開始剤を含有させることになるので、未反応の光重合開始剤が残りやすく、塗膜の表面硬度が低下する傾向にある。また、経済的にも好ましくない。
【0046】
また、活性化エネルギー線の強度や照射時間は、硬化性化合物の種類やその塗膜の厚さ等に応じて適宜調整される。活性化エネルギー線は、不活性ガス雰囲気中で照射してもよく、この不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0047】
形成される硬化被膜の厚さは、1〜10μmであるのが好ましく、2〜6μmであるのがより好ましい。この厚さがあまり小さいと、耐擦傷性が不十分となることがあり、あまり大きいと、高温高湿下に曝したときに、クラックが発生し易くなる。硬化被膜の厚さは、樹脂基板の表面に塗布する硬化性組成物の面積あたりの量や硬化性組成物に含まれる固形分の濃度を調整することにより、任意に調節することができる。
【0048】
かくして得られる本発明の耐擦傷性樹脂板は、樹脂基板の少なくとも片面に、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れる硬化被膜が形成されているので、携帯電話等に代表される携帯型情報端末の表示窓保護板として好適に用いることができる。また、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラ等のファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓保護板等、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性が要求される分野での各種部材としても使用できる。
【0049】
本発明の耐擦傷性樹脂板から、携帯型情報端末の表示窓保護板を作製するには、まず必要に応じて印刷、穴あけ等の加工を行い、必要な大きさに切断処理をする。次いで、切断処理した耐擦傷性樹脂板を携帯型情報端末の表示窓にセットする。これにより、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れる表示窓とすることができる。
【0050】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の合成例および実施例中、含有量ないし使用量を表す部は、特記ない限り重量基準である。また、各物性の測定方法および評価方法は次の通りである。
【0051】
(硬化被膜の膜厚)
膜厚測定装置〔Filmetrics社製の「F−20」〕を用いて測定した。
【0052】
(耐擦傷性樹脂板の全光線透過率(Tt)およびヘイズ)
反射率計〔(株)村上色彩技術研究所製の「HR−100」〕を用いて測定した。
【0053】
(硬化被膜の接触角)
水およびオレイン酸を使用し、それぞれについて接触角計〔協和界面科学(株)製の「CA−X」〕にて測定した。
【0054】
(耐指紋付着性)
指を硬化被膜表面に押し当てて指紋を付着させた後、ブラックボックス内に入れ、短波長蛍光灯の下で真上から硬化被膜表面の外観を目視により評価した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:指紋が目立たない。
×:指紋が目立つ。
【0055】
(指紋拭き取り性)
指を硬化被膜表面に押し当てて指紋を付着させた後、該指紋の拭き取り性をティッシュペーパー(大王製紙(株)製の「エリエール」)で評価した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:指紋を拭き取ることができる。
×:指紋を拭き取ることができない。
【0056】
(耐色ムラ性)
まず、卓上型の3波長蛍光灯の下、約20cmの距離に耐擦傷性樹脂板を硬化被膜が上方を向く状態で水平に保持した。次いで、前記3波長蛍光灯から耐擦傷性樹脂板に光を照射した。このときの硬化被膜の表面状態を、該硬化被膜表面に対し斜め45度上方から目視観察して評価した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:光の干渉模様が弱い。
×:光の干渉模様が強い。
【0057】
実施例および比較例で使用した化合物(B)は、以下のようにして合成した。
<化合物(B)の合成例>
まず、3つ口フラスコにステアリルメタクリレートを添加した。次いで、前記ステアリルメタクリレート100部に対して、連鎖移動剤としてメルカプトエタノールを1.8部、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.5部の割合で添加した。さらに溶媒としてメチルイソブチルケトンを添加し、窒素雰囲気下で120℃まで昇温し、該120℃で4時間反応させ、その後室温(23℃)まで冷却した。
【0058】
次いで、前記3つ口フラスコへ、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテルを0.04部、2−イソシアナトエチルメタクリレートを4部の割合で添加し、乾燥空気下100℃で反応させ、イソシアネート基が一定になった時点で反応を終了して冷却し、化合物(B)を得た。
【0059】
実施例および比較例で使用した硬化性組成物は、以下のようにして調製した。
<硬化性組成物の調製>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを50部、ペンタエリスリトールテトラアクリレートを50部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびペンタエリスリールテトラアクリレートの合計量100部に対して化合物(B)を1部、シリカ粒子(C)を表1に示す割合、光重合開始剤としてIRGACURE 184を7部、アクリル系レベリング剤を1部、溶媒として酢酸ブチルを300部の割合で混合し、各硬化性組成物を調製した。
【0060】
なお、シリカ粒子(C)は、平均粒径が10〜20nmの日産化学(株)製の「PMA−ST」を用いた。アクリル系レベリング剤は、ビックケミー・ジャパン社製の「BYK−394」を用いた。
【0061】
[実施例1,2および比較例1〜4]
まず、上記で得た各硬化性組成物を、厚さ2mm、大きさ100mm×60mmのメタクリル樹脂板〔住友化学(株)製の「スミペックスE」〕の片面にバーコーター法でそれぞれ塗布した後、室温で1分間乾燥し、さらに60℃で3分間乾燥して、塗膜をメタクリル樹脂板の片面に形成した。
【0062】
次いで、120Wの高圧水銀ランプを用いて0.5J/cm2の紫外線を照射することにより、塗膜を硬化させ、片面に厚さ4μmの硬化被膜を有する耐擦傷性樹脂板を得た。得られた各耐擦傷性樹脂板について、全光線透過率(Tt)、ヘイズ、接触角、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性を前記した方法に従って評価した。その結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなように、実施例1,2は、耐指紋付着性、指紋拭き取り性および耐色ムラ性に優れているのがわかる。これに対し、シリカ粒子(C)の含有量が10重量部より少ない比較例1,2は、耐色ムラ性に劣る結果を示した。また、シリカ粒子(C)の含有量が25重量部より多い比較例3,4は、ヘイズおよび指紋拭き取り性に劣る結果を示した。シリカ粒子(C)の含有量が比較例3よりも多い比較例4は、ヘイズが著しく低下するとともに、耐指紋付着性にも劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する硬化性化合物(A)と、
下記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位として有し、かつ少なくとも一方の末端が(メタ)アクリロイルオキシ基である化合物(B)と、
シリカ粒子(C)と、を含有し、
前記シリカ粒子(C)の含有量が、前記硬化性化合物(A)100重量部に対して10〜25重量部であることを特徴とする硬化性組成物。
【化2】

[式中、R1は、水素原子またはメチル基を示す。R2は、炭素数10〜19の直鎖または分岐したアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記硬化性化合物(A)が、分子中に少なくとも6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、分子中に4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と、を含有する請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
さらにアクリル系レベリング剤を含有する請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化被膜を樹脂基板の少なくとも片面に有する耐擦傷性樹脂板。
【請求項5】
請求項4に記載の耐擦傷性樹脂板からなる携帯型情報端末の表示窓保護板。

【公開番号】特開2012−46654(P2012−46654A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190646(P2010−190646)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】