説明

硬貨識別装置

【課題】組み立て作業効率を向上させることができる硬貨識別装置を提供する。
【解決手段】硬貨検出センサ31からの出力信号に基づいて搬送手段により搬送されてくる硬貨Cの検知時間を求めるとともに、当該検知時間に基づいて硬貨Cの金種を識別するようにした。前記搬送手段としては、チェーン24に設けた係合ピンGに硬貨Cを係合させることにより搬送するチェーン搬送機構を採用した。硬貨通路Wの近傍にはチェーン24の回転速度を検出するエンコーダ51を設けるようにした。制御装置61はチェーン24の回転速度と硬貨Cの検知時間との比を求め、当該比に基づいて硬貨Cの金種を識別するようにした。硬貨Cの検知時間は、硬貨検出センサ31の硬貨Cに対する相対的な移動距離をチェーン24の回転速度で除した値である。このため、チェーン24の回転速度と硬貨Cの検知時間との比は、チェーン24の回転速度成分が除去された値となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばワンマンバスの運賃箱に搭載される硬貨識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばワンマンバスの運賃箱において、投入口から投入された券類及び硬貨は、券銭分離手段により分離されるとともに、その分離された硬貨は硬貨識別装置により金種別に分離される。即ち、この硬貨識別装置においては、前記分離された硬貨は、底開式の漏斗状をなすホッパーに一旦集積される。そして、当該ホッパーに集積された硬貨は搬出機構により1枚ずつ搬出される。この搬出機構は、モータ(DCブラシモータ)の駆動により回転する回転円板によりホッパーに集積された硬貨を一枚ずつすくい上げるとともに、当該すくい上げた硬貨を硬貨通路に沿うように配設されたチェーンの係合手段に係合させることにより、当該硬貨を硬貨通路に沿って搬送する構成とされている。そして、当該硬貨通路の近傍に設けられたセンサにより、当該搬送される硬貨の種別が識別されるとともに、当該識別された硬貨は金種毎に硬貨収容部に振り分けられて収容される。硬貨収容部に金種別に収容された硬貨は、釣り銭及び両替等に利用される。硬貨収容部が満杯になった場合には、前記識別された硬貨は金庫に収容される。
【0003】
前記硬貨の種別を検出するセンサとして、本願出願人は、従来、エンコーダを採用していた。即ち、図16に示すように、枠体71における硬貨通路72の近傍には、扇形状の回転体73が軸74を中心として回転可能に配設されている。回転体73の弧に対応する側縁部には、当該弧に沿う方向へ延びる複数個のスリット75が形成されている。また、枠体71において、回転体73の弧側の側縁部に対応する部位には、フォトインタラプタ76が設けられている。フォトインタラプタ76は、互いに対向する発光素子及び受光素子を備えるとともに、それらが回転体73の弧側の側縁部を間に挟むように、且つ回転体73が回転したときにスリット75の移動軌跡上に位置するように配設されている。フォトインタラプタ76は、回転体73の回転量に応じたパルス信号を出力する。
【0004】
また、回転体73の下面(硬貨通路72側の側面)には、ローラ77が回転可能に軸支されている。図17に併せて示すように、このローラ77は、硬貨通路72内に若干進入した状態に配設されるとともに、硬貨通路72を搬送されてきた硬貨Cに係合可能とされている。そして、硬貨通路72を搬送されてきた硬貨Cによりローラ77が押圧されると、回転体73は、軸74を中心として硬貨Cの搬送方向へ回動する。硬貨Cの外径により回転体73の回転量は異なるので、フォトインタラプタ76から出力されるパルス信号も異なる。即ち、フォトインタラプタ76を通過するスリット75の個数が金種毎に異なる。このため、当該パルス信号に基づいて硬貨Cの金種を識別可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記従来の硬貨識別装置には、次のような問題があった。即ち、硬貨識別装置の組み立て作業時における回転体73及びローラ77の配置調整が非常に煩雑であった。例えば5円硬貨及び100円硬貨のように、直径の差が微少である硬貨を正確に識別するためには、ローラ77の硬貨Cに対する当接具合及び硬貨通路72内への進入度合い等が重要な要素となる。このため、ローラ77の回転体73に対する取り付け位置、及び回転体73の枠体71に対する取り付け位置、並びにローラ77の部品精度等を厳密に管理する必要があった。従って、従来、硬貨識別装置の組み立て作業時においては、1つ1つの装置について、手作業により回転体73及びローラ77の微妙な位置調整を行っていた。そして、これら回転体73及びローラ77の厳密な位置調整作業は、硬貨識別装置の組み立て作業効率の向上を阻害する一因となっていた。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、組み立て作業効率を向上させることができる硬貨識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、搬送手段により硬貨通路内を搬送されてくる硬貨の金種を識別する硬貨識別装置において、硬貨通路を搬送されてくる硬貨を検知する硬貨検出センサと、前記硬貨検出センサからの出力信号に基づいて硬貨の検知時間を求めるとともに、当該検知時間に基づいて硬貨の金種を識別する制御手段と、を備え、前記搬送手段は、モータの駆動により回転するチェーンを備えるとともに、当該チェーンに設けた係合手段に硬貨を係合させることにより搬送するチェーン搬送機構とし、前記硬貨通路の近傍には前記チェーンの回転速度を検出するチェーン速度検出センサを設け、前記制御手段は、前記チェーン速度検出センサにより検出されたチェーンの回転速度と、前記硬貨検出センサからの出力信号に基づいて求めた硬貨の検知時間との比を求め、当該比に基づいて硬貨の金種を識別するようにしたことをその要旨とする。
【0008】
金種毎に外径が異なるので、硬貨検出センサによる硬貨の検知時間(即ち、通過時間)も金種毎に異なる。即ち、外径が大きな硬貨程、硬貨検出センサによる検知時間は長くなる。このため、硬貨のセンサ通過時間に基づいて金種を識別可能となる。ここで、例えばエンコーダを利用して硬貨の金種を識別することも考えられる。しかし、この場合には、硬貨径に応じて変位するローラ及びエンコーダを構成する回転体の位置調整を厳密に管理する必要がある。このため、硬貨識別装置の組み立て作業効率の低下が懸念される。これに対して、本発明において使用される硬貨検出センサの組み付け作業時における位置調整は、前記エンコーダを使用する場合と比べれば、厳密性は低い。従って、硬貨検出センサの組み付け作業効率、ひいては硬貨識別装置の組み立て作業効率が向上する。
【0009】
また、前記エンコーダを使用するようにした場合と異なり、ローラ及び回転体等が不要となるので、硬貨識別装置の小型化が図られる。特に、回転体はある程度の大きさを確保する必要があることがら、硬貨識別装置の小型化の阻害要因となっていた。ここで、本発明の硬貨識別装置は、例えばワンマンバスの運賃箱に搭載されることも考えられる。近年では、車両内における通路スペースを確保するために、運賃箱の小型化が要望されている。その一方で、運賃箱には、例えば非接触ICカードシステムが組み込まれる等、運賃箱はますます多機能化の傾向にある。このため、運賃箱の内部スペースをいかに確保するかが、重要な問題となっていた。本発明によれば、硬貨識別装置の小型化が図られることにより、運賃箱の小型化及び内部スペースの確保に繋がる。さらに、前記エンコーダを使用するようにした場合と異なり、ローラ及び回転体等が不要となるので、硬貨識別装置の構成の簡素化も図られる。
【0010】
また、チェーン搬送機構の駆動源であるモータとしては、DCブラシモータ及びステッピングモータ等の各種のモータが使用可能である。しかし、例えばDCブラシモータとステッピングモータとを比較した場合、一般に、ステッピングモータはDCブラシモータよりも高価であることが多い。このため、本発明のモータとしては、安価なDCブラシモータが採用されることが大いに想定される。ところが、本発明のモータとしてDCブラシモータを採用した場合、例えば硬貨の搬送量及びチェーン自体の回転負荷等に起因して当該DCブラシモータの回転速度(モータ電圧)が変動するおそれがある。そしてこの場合、チェーンの回転速度、即ち硬貨の搬送速度も変動する。この搬送速度の変動分だけ、硬貨検出センサによる硬貨の検知時間も変わる。その結果、硬貨の誤識別が懸念される。これに対して、本発明によれば、DCブラシモータをチェーンの駆動源として採用した場合であれ、当該モータの回転速度の変動分が除去される。即ち、硬貨検出センサによる硬貨の検知時間は、当該硬貨検出センサの硬貨に対する相対的な移動距離を、チェーンの回転速度で除した値である。このため、チェーンの回転速度と、硬貨の検知時間との比は、当該チェーンの回転速度成分が除去された値となる。従って、モータの回転速度変動の影響を受けることなく、硬貨の識別が可能となる。即ち、硬貨の識別精度が確保される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の硬貨識別装置において、前記硬貨検出センサは、硬貨通路内を搬送されてくる硬貨のうち最も小径の硬貨が検出可能となるように、且つ最も大径の硬貨の中心よりも上側において硬貨が検出可能となるように設けるようにしたことをその要旨とする。
【0012】
硬貨検出センサによる硬貨の検知時間は、当該硬貨検出センサの硬貨に対する相対的な移動距離、即ち硬貨の弦の長さを、チェーンの回転速度で除した値である。ここで、硬貨の弦の長さの差は、硬貨の直径の差よりも大きくなる。このため、硬貨の直径に中心において硬貨を検出するようにした場合に比べて、硬貨検出センサによる硬貨の検知時間を確保することが可能となる。従って、硬貨の直径の差が微少な複数金種を識別する場合であれ、硬貨の識別精度が確保される。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の硬貨識別装置において、前記制御手段には、複数種類の金種と、金種毎に予め求めたチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比との関係を示す硬貨識別判定マップを記憶した記憶手段を備え、前記制御手段は、前記硬貨通路内を搬送されてくる硬貨について求めたチェーンの回転速度と当該硬貨の検知時間との比に基づいて前記硬貨識別判定マップを参照することにより、硬貨の金種を識別するようにしたことをその要旨とする。
【0014】
この構成によれば、求められた比に基づいて硬貨識別判定マップを参照することにより、簡単に硬貨を識別することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の硬貨識別装置において、前記記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比は、寸法が厳密に管理された治具としての基準硬貨を識別処理したときの測定結果に基づいて設定するようにしたことをその要旨とする。
【0015】
この構成によれば、任意の硬貨の測定結果に基づいて、記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比を設定するようにした場合と異なり、装置間で、基準となる比の値が微妙に異なるといった事態を回避可能となる。ちなみに、任意の硬貨の測定結果に基づいて、記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比を設定するようにした場合には、任意の硬貨それぞれの寸法誤差等の影響により、装置間で基準となる比の値が微妙に異なるおそれがある。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の硬貨識別装置において、前記記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比には、基準となる比の値に対して所定の余裕範囲を持たせるようにしたことをその要旨とする。
【0017】
この構成によれば、搬送されてくる硬貨毎の微少な直径の違い、硬貨識別センサの個別の検出特性誤差等に起因する識別精度の変動が吸収可能となる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の硬貨識別装置において、前記硬貨検出センサの近傍には、搬送されてくる硬貨を硬貨通路における硬貨が転動する面側へ付勢する第1の付勢手段を備えたことをその要旨とする。
【0018】
この構成によれば、搬送されてくる硬貨は、第1の付勢手段により硬貨通路における硬貨が転動する面の方向へ付勢されることにより、当該搬送されてくる硬貨は前記転動する面に押し付けられた状態で、硬貨検出センサにより検知される。このため、硬貨検出センサにより硬貨が検知される際に、当該硬貨が跳ねるようなことがない。このため、硬貨の識別精度が確保される。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の硬貨識別装置において、前記硬貨通路内には、搬送されてくる硬貨を当該硬貨通路の内側面側へ付勢する第2の付勢手段を備えたことをその要旨とする。
【0020】
この構成によれば、搬送途中の硬貨の転倒等が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、組み立て作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を、例えばワンマンバスの運賃箱に搭載される硬貨識別装置に具体化した一実施の形態を図1〜図15に基づいて説明する。
<運賃箱の概要>
まず、運賃箱の概要について説明する。図1に示すように、運賃箱11の筐体12の上部には、運賃としての硬貨C並びに整理券及び回数券等の券類Kが投入される投入口13が設けられている。この投入口13に投入された硬貨C及び券類Kは、当該投入口13の直下に配置された券銭分離装置14により分離される。この券銭分離装置14により分離された券類は、図示しない通路を介して図示しない金庫の券類収容室に収容される。一方、券銭分離装置14により分離された硬貨Cは硬貨識別装置15により金種(10円、50円、100円及び500円)が識別される。硬貨識別装置15により識別処理後の硬貨Cの一部は、硬貨払出装置16の硬貨収容部16aに金種別に振り分けられて収容されるとともに、残りの硬貨Cは図示しない通路を介して前記金庫の硬貨収容室に収容される。釣り銭等が必要とされる場合には、硬貨払出装置16から釣り銭の金額に応じて硬貨Cが払い出されるとともに、この払い出された硬貨Cは搬送装置(ベルトコンベヤ)17により、運賃箱11の外面に設けられた硬貨排出口18に供給される。
【0023】
<硬貨識別装置>
次に、硬貨識別装置15について詳細に説明する。
図2に示すように、硬貨識別装置15は、筐体12の内部に固定される基盤21を備えている。基盤21の表面には、モータ(DCブラシモータ)22が固定されている。また、基盤21の表面において、モータ22の上方には4つのスプロケット23a,23b,23c,23dが回転可能に支持されるとともに、当該4つのスプロケット23a〜23d間には無端状のチェーン24が巻回されている。図3に合わせて示すように、チェーン24の側面には、複数の係合ピンG(図3では、2つのみ示す。)が所定間隔毎に固定されている。
【0024】
また、図2に示すように、基盤21の表面において、モータ22の側方には円形板状の回転部材25が回転可能に支持されるとともに、当該回転部材25の下部を覆うように上部が開口した半円筒状のホッパー26が固定されている。このホッパー26には券銭分離装置14により分離された硬貨Cが供給される。そして、モータ22の出力軸22aは、図示しない歯車列等からなる伝達機構を介して4つのスプロケット23a〜23dのうちの1つ(例えばスプロケット23a)及び回転部材25に作動連結されている。即ち、モータ22の駆動力は、出力軸22a及び前記伝達機構を介してスプロケット23a及び回転部材25に伝達されるようになっている。
【0025】
また、基盤21の表面における上部には、当該基盤21の左右方向に延びる一対の突条27a,27bが形成されている。2つの突条27a,27bはチェーン24の上行部を間に挟むように上下方向に所定間隔をおいて配設されている。そして、2つの突条27a,27b間は、硬貨Cを通過可能とした硬貨通路Wとされるとともに、下側の突条27bの上面は硬貨Cを転動可能とした硬貨レールとして機能する。図4に示すように、下側の突条27bには、4つの切欠部28(図4では2つのみ図示する。)が当該突条27bの長手方向において所定間隔をおいて形成されている。
【0026】
また、図2に示すように、基盤21の表面において、下側の突条27bの下方には板材が折り曲げられることにより形成された4つの硬貨ゲート29が左右方向において所定間隔をおいて配設されている。4つの硬貨ゲート29の基端部は基盤21に対して回動可能に軸支されている。また、図4に示されるように、硬貨ゲート29の先端部は、下側の突条27bの長手方向において所定間隔をおいて形成された4つの切欠部28に進入状態で位置している。硬貨ゲート29の先端部の表面は下側の突条27bの上面に一致するとともに、当該突条27bと共に硬貨レールを構成している。
【0027】
また、図2に示すように、硬貨ゲート29の裏面における下部には、ソレノイド30が固定されるとともに、当該ソレノイド30の図示しないプランジャは硬貨ゲート29に作動連結されている。そして、図4に示されるように、ソレノイド30が励磁されたときには、前記プランジャが動作することにより硬貨ゲート29はその基端部を支点として外方へ傾動するようになっている。その結果、硬貨レール上を転動してきた硬貨Cは、切欠部28を介して基盤21の裏面側に落下可能となる。
【0028】
<硬貨検出センサ>
図5に示すように、基盤21の上側の側縁部における一端寄りには、硬貨検出センサ31が配設されている。本実施の形態において、硬貨検出センサ31としては、発光素子と受光素子とが単一のコの字状のケースに組み込まれたフォトインタラプタ(処理回路基板を含む。)が使用されている。そして、硬貨検出センサ31は、硬貨通路Wを搬送されてくる硬貨Cが、両素子の互いに対向する発光面と受光面との間を通過可能となるように配設されている。硬貨Cが硬貨検出センサ31の発光面と受光面との間を通過する際には、発光面から受光面へ向かって照射される光が当該硬貨Cにより遮られる。これにより、硬貨Cの通過が検出される。
【0029】
また、図6に示すように、硬貨検出センサ31は、下側の突条27bの上面を転動してくる硬貨Cのうち最も小径の硬貨Cが検出可能となるように、且つ最も大径の硬貨Cの中心よりも上側において硬貨Cが検出可能となるように設けられている。即ち、そのような硬貨Cの検出が可能となるように、当該硬貨Cに対する硬貨検出センサ31の発光面及び受光面の位置が調節されている。硬貨Cの径は金種毎に異なるので、硬貨検出センサ31による検出時間も金種毎に異なる。
【0030】
正確には、硬貨検出センサ31は、当該硬貨Cの前記発光面及び受光面に対応する部位が通過する間だけ当該硬貨Cを検出する。即ち、図7(a),(b)に示されるように、硬貨検出センサ31における前記発行面及び受光面の硬貨Cに対する相対的な移動軌跡は、下側の突条27bの上面に平行をなす直線(即ち、硬貨Cの弦)になる。そして、硬貨検出センサ31は、硬貨Cに対して、当該硬貨Cの前記発光面及び受光面に対応する部位における弦の長さL分だけ相対的に移動するまでの間だけ当該硬貨Cを検出する。硬貨Cの外径が金種毎に違う以上、硬貨Cの前記発光面及び受光面に対応する部位における弦の長さも金種毎に異なる。このため、硬貨検出センサ31から出力される検出信号(パルス信号のパルス幅)も金種毎に異なる。従って、硬貨検出センサ31からの検出信号に基づいて硬貨Cの金種を識別可能となる。
【0031】
硬貨検出センサ31から出力される検出信号は、所定のパルス幅(正確には、パルス信号の時間幅)を有するパルス信号である。例えば図8(a)に示されるように、硬貨Cの外径が大きいほどパルス幅も大きくなる。例えば10円硬貨、50円硬貨、100円硬貨及び500円硬貨の外径は、50円硬貨、100円硬貨、10円硬貨、500円硬貨の順に大きくなる。このため、10円硬貨のパルス幅をd1、50円硬貨のパルス幅をd2、100円硬貨のパルス幅をd3及び500円硬貨のパルス幅をd4としたとき、d2<d3<d1<d4の関係が成立する。ちなみに、10円硬貨、50円硬貨、100円硬貨、500円硬貨の順に硬貨検出センサ31を通過したときには、図8(b)に示されるようなパルス信号が当該硬貨検出センサ31から出力される。
【0032】
<硬貨押圧機構>
図9(a)に示すように、基盤21における硬貨検出センサ31の取り付け部位には、硬貨押圧部材41が回動可能に設けられている。硬貨押圧部材41は合成樹脂材料により一体形成されるとともに、当該硬貨押圧部材41は、四角板状の本体部42と、当該本体部42の下面における両側縁部に形成された2つの側壁43,43(図9(a)では、1つのみ図示する。)と、を備えている。
【0033】
図9(b)に示すように、本体部42には、四角形状のセンサ挿通孔44が形成されている。センサ挿通孔44の左右方向における2つの内側縁部の中央には、2つの押圧片45,45が突き合わせ状態に延出形成されている。2つの押圧片45,45は、下側の突条27bの上面に対応するように設けられている。
【0034】
また、図9(a)に示すように、2つの側壁43は、本体部42の右側の側縁部からはみ出すように延出されるとともに、当該はみ出た部位には軸受け部46,46が形成されている。2つの軸受け部46,46には、図示しない支持部材を介して基盤21に固定された軸47が挿通されている。これにより、硬貨押圧部材41は、軸47を中心として回動可能となっている。軸47には、捻りコイルばね48が装着されている。捻りコイルばね48の一端は基盤21の一部に掛止されるとともに、同じく他端は本体部42の上面に掛止されている。
【0035】
当該捻りコイルばね48の弾性力により、硬貨押圧部材41は、軸47を中心とする左回動方向(下側の突条27bの上面に近接する方向)へ常時付勢されている。当該硬貨押圧部材41の左回動は、側壁43の左端部が前記支持部材の一部に係合することにより規制される。即ち、硬貨Cが搬送されていない状態において、硬貨押圧部材41は、軸47を中心として左下に傾いた状態に保たれる。なお、硬貨押圧部材41の右側から硬貨Cが搬送されてきたとき、硬貨押圧部材41は当該硬貨Cによって内側から押圧されることにより、容易に軸47を中心とする右回動可能となるように、捻りコイルばね48の弾性力は設定されている。
【0036】
図10(a),(b)に示されるように、硬貨Cの搬送方向(左方向)への移動に伴い、硬貨押圧部材41は当該硬貨Cにより内側から押圧されることにより、捻りコイルばね48の弾性力に抗して、軸47を中心として徐々に右回動する。そして、図9(b)に併せて示すように、当該硬貨Cは、本体部42の下面及び2つの押圧片45,45の下面を摺接しながら通過する。
【0037】
また、図11(a)に示すように、基盤21には、硬貨通路Wを覆うカバー49が固定されている。図11(b)に示すように、カバー49の内面には、長尺状の板ばね50が両端をカバー49の外面側に折り曲げることにより固定されている。板ばね50は、硬貨通路W側に凸となるように緩やかに湾曲して形成されている。図11(a)に示されるように、板ばね50は、硬貨通路W内に位置するとともに、当該硬貨通路W内を搬送されてくる硬貨Cの側面に当接して当該硬貨Cを硬貨通路Wの内底面に軽く押し付け可能となるように、当該板ばね50の湾曲度合いは設定されている。
【0038】
<エンコーダ>
また、図12に示すように、モータ22の出力軸22aに作動連結されたスプロケット23a以外のスプロケット、例えばスプロケット23aの対角に位置するスプロケット23cの下方には、エンコーダ51が設けられている。エンコーダ51は、スプロケット23cと同軸周りに一体回転可能に設けられた円板状の回転体52と、当該回転体52の回転を検出するフォトインタラプタ53とを備えている。回転体52の外周縁には、複数個(本実施の形態では、16個)のスリット54が全周にわたって形成されている。フォトインタラプタ53は、その発光素子と受光素子とが回転体52の外周縁部を間に挟むように配設されている。当該フォトインタラプタ53は、回転体52の回転量に応じたパルス信号(正確には、回転体52の回転速度、即ちチェーン24の回転速度に対応した周期のパルス信号)を出力する。本実施の形態では、フォトインタラプタ53は4つのスリット54を検出する毎に1パルスを出力する。即ち、回転体52が1回転した場合には、フォトインタラプタ53は、4パルスを出力する。
【0039】
なお、図2に示されるように、例えば基盤21におけるスプロケット23dに対応する部位には、硬貨識別装置15を統括的に制御する制御装置(制御基板)61が固定されている。
【0040】
<電気的構成>
次に、硬貨識別装置15の電気的構成について説明する。
図13に示すように、この制御装置61は、CPU(中央演算装置)62、ROM(読み出し専用メモリ)63及びRAM(読み出し書き込みメモリ)64を備えるとともに、それらはバスを介して相互に接続されている。そして、CPU62には、硬貨検出センサ31及びエンコーダ51、並びにモータ22及びソレノイド30がそれぞれ図示しない入出力インターフェイスを介して接続されている。
【0041】
ROM63には、CPU62が実行する硬貨識別プログラム等の各種の制御プログラム、及び硬貨Cの識別処理時に利用される硬貨識別判定マップM等の各種のデータが格納されている。RAM64は、ROM63に書き込まれた各種の制御プログラムを展開してCPU62が各種の演算処理を実行するためのデータ作業領域である。
【0042】
CPU62は硬貨識別プログラム等の各種の制御プログラムを実行する。硬貨識別プログラムは、硬貨検出センサ31からの検出信号及びエンコーダ51からの検出信号に基づいて、硬貨通路Wを搬送されてくる硬貨Cの金種を識別するためのプログラムである。具体的には、CPU62は、硬貨検出センサ31からの検出信号に基づいて、硬貨Cの検知時間T(即ち、硬貨Cのセンサ通過時間)を求める。また、CPU62は、エンコーダ51からの検出信号に基づいてエンコーダ51の1パルスのカウント時間t(本実施の形態では、4つのスリット54がフォトインタラプタ53を通過する時間)、即ちスプロケット23cの回転速度(=チェーン24の回転速度V)を求める。そして、CPU62は、前記硬貨Cの検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)を求めるとともに、硬貨識別判定マップMを参照して硬貨Cの金種を識別する。
【0043】
<硬貨識別処理方法>
硬貨Cの識別処理方法について詳述すると、前記硬貨Cの検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)は、硬貨Cの弦の長さLを直接的に反映した値となる。即ち、本実施の形態では、硬貨Cの直径の差よりも弦の長さLの差の方が大きくなることを利用して、硬貨Cの金種を識別するようにしている。以下、このことについて説明する。
【0044】
図14に示すように、硬貨Cの検知時間T(センサ通過時間)は、次式(ア)により求められる。
・T=L/V…(ア)
ここで、Lは硬貨Cの弦の長さ、Vはチェーン24の回転速度である。
【0045】
また、エンコーダ51の1パルスのカウント時間tは、次式(イ)により求められる。
・カウント時間t=P/V…(イ)
ここで、Pは回転体52が1回転したときのパルス数(本実施の形態では、4パルス)、Vはチェーン24の回転速度である。
【0046】
そして、検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)の値は、次式(ウ)で示される。
・比(T/t)=(L/V)×(V/P)=L/P(一定)…(ウ)
ここで、Lは硬貨Cの弦の長さ、Pは回転体52が1回転したときのパルス数、Vはチェーン24の回転速度である。
【0047】
前記(ウ)式において、回転体52が1回転したときのパルス数Pは一定であることから、硬貨Cの検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)の値は、硬貨Cの弦の長さLを直接的に反映した値となることが分かる。また、前記(ウ)式に示されるように、硬貨Cの検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)においては、チェーン24の速度成分(V)、即ちモータ22の回転速度成分を含んでいない。これは、モータ22の負荷変動(電圧変動)が硬貨Cの識別精度に影響しないことを意味する。従って、硬貨Cの検知時間Tとエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)を利用することにより、当該硬貨Cの金種の識別精度が高められるとともに、硬貨Cの金種の正確な識別が可能となる。
【0048】
ちなみに、モータ22として例えばDCブラシモータを使用するようにした場合には、硬貨Cの搬送量(搬送枚数)及び車両のバッテリ電圧の変動等に起因して、当該モータ22の回転速度が変動するおそれがある。そして、モータ22の回転速度が変動した場合には、チェーン24の回転速度、ひいては硬貨Cの硬貨検出センサ31による検知時間Tも変動する。その結果、硬貨Cの識別精度が低下することが懸念される。これに対して、本実施の形態の硬貨識別処理方法によれば、モータ22の回転速度変動の影響を受けないことから、硬貨Cの識別精度に対する前記懸念は解消される。
【0049】
<硬貨識別判定マップの設定方法>
次に、硬貨識別判定マップMの設定方法について説明する。
図15に示されるように、硬貨識別判定マップMは、判定基準値X(=T/t)と、硬貨Cの4つの金種(10円、50円、100円、500円)とのテーブルマップである。そして、本実施の形態では、寸法が厳密に管理された基準硬貨(治具)を使用して、判定基準値Xを求めている。即ち、前記4つの金種の基準硬貨を、それぞれ硬貨識別装置15により識別処理する。その際、CPU62により求められた前記基準硬貨の検知時間T(パルス幅)とエンコーダ51の1パルスのカウント時間tとの比(T/t)を判定基準値Xの中心値とする。次に、当該中心値を基準として、金種毎に予め設定された余裕値をプラス方向及びマイナス方向に採る。これにより、所定範囲の判定基準値Xが求められる。
【0050】
次に、硬貨識別判定マップMの設定方法について、具体的な数値を使用して詳述する。ここでは、前記余裕値は次のように設定されている。
・余裕値(10円)=17.5
・余裕値(50円)=15
・余裕値(100円)=17.5
・余裕値(500円)=20
そして、図15に参考測定値として示されるように、金種毎の基準硬貨の検知時間Tは例えば次のようになる。
【0051】
・基準硬貨(10円)の検知時間T=200ms
・基準硬貨(50円)の検知時間T=116ms
・基準硬貨(100円)の検知時間T=170ms
・基準硬貨(500円)の検知時間T=269ms
また、金種毎の基準硬貨を処理したときのエンコーダ51の1パルスのカウント時間tは、全て同じ値(例えば0.3676)となる。
【0052】
次に、これら基準硬貨の検知時間Tと、エンコーダ51の1パルスのカウント時間tとから、それらの比(T/t)を求め、当該値を判定基準値Xの中心値とする。当該中心値は、次のようになる。
【0053】
・中心値(10円)=542.5
・中心値(50円)=315
・中心値(100円)=462.5
・中心値(500円)=730
最後にこれら基準硬貨の中心値に基づいて判定基準値Xを求める。前述したように、本実施の形態では、余裕値(10円)=17.5、余裕値(50円)=15、余裕値(100円)=17.5、余裕値(500円)=20とされていることから、当該判定基準値Xは、次のようになる。
【0054】
・判定基準値(10円)=525〜560
・判定基準値(50円)=300〜350
・判定基準値(100円)=445〜480
・判定基準値(500円)=710〜750
以上のようにして、金種毎の判定基準値Xを求める。なお、余裕値は金種が識別可能となる範囲において任意に設定可能である。このように、判定基準値Xに範囲(余裕)を持たせることにより、搬送されてくる硬貨C毎の微少な直径の違い、硬貨検出センサ31の個別の検出特性誤差等に起因する識別精度の変動が吸収可能となる。
【0055】
<硬貨識別装置の動作>
次に、前述のように構成した硬貨識別装置15の動作を説明する。
券銭分離装置14により分離された硬貨Cは、硬貨識別装置15のホッパー26に供給される。ホッパー26に集積された硬貨Cは、回転部材25の回転に伴って、一枚ずつすくい上げられることによりチェーン24の係合ピンGに係合されるとともに、当該チェーン24の回転により硬貨通路W側へ搬送される。そして硬貨通路Wへ至った硬貨Cは、硬貨検出センサ31により検知される。当該硬貨検出センサ31からの検知信号及びエンコーダ51からの検出信号に基づいてCPU62は硬貨Cの金種を識別する。そして、識別した金種に対応する硬貨ゲート29のソレノイド30に駆動信号を送る。その結果、当該硬貨ゲート29は外方へ傾動するとともに、下側の突条27bに形成された切欠部28及びその下方に形成された図示しない開口部を介して基盤21の背面側へ落下する。当該落下した硬貨Cは図2に一点鎖線で示す4つの硬貨収容筒からなる硬貨収容部16aに金種別に収容される。以後、この動作が繰り返される。
【0056】
<実施形態の効果>
従って、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)硬貨検出センサ31からの出力信号に基づいて硬貨Cの検知時間Tを求めるとともに、当該検知時間Tに基づいて硬貨Cの金種を識別するようにした。
【0057】
金種毎に外径が異なるので、硬貨検出センサ31による硬貨Cの検知時間T(即ち、通過時間)も金種毎に異なる。即ち、外径が大きな硬貨C程、硬貨検出センサ31による検知時間Tは長くなる。このため、硬貨Cのセンサ通過時間に基づいて金種を識別可能となる。
【0058】
例えばエンコーダを利用して硬貨の金種を識別することも考えられる。しかし、この場合には、硬貨径に応じて変位するローラ及びエンコーダを構成する回転体の位置調整を厳密に管理する必要がある。このため、硬貨識別装置の組み立て作業効率の低下が懸念される。これに対して、本実施の形態において使用される硬貨検出センサ31の組み付け作業時における位置調整は、前記エンコーダを使用する場合と比べれば、厳密性は低い。従って、硬貨検出センサ31の組み付け作業効率、ひいては硬貨識別装置15の組み立て作業効率が向上する。
【0059】
また、前記エンコーダを使用するようにした場合と異なり、ローラ及び回転体等が不要となるので、硬貨識別装置15の小型化が図られる。特に、回転体はある程度の大きさを確保する必要があることがら、硬貨識別装置の小型化の阻害要因となっていた。また、前記エンコーダを使用するようにした場合と異なり、ローラ及び回転体等が不要となるので、硬貨識別装置15の構成の簡素化も図られる。
【0060】
(2)本実施の形態では、硬貨識別装置15を、ワンマンバスの運賃箱11に搭載するようにした。近年では、車両内における通路スペースを確保するために、運賃箱の小型化が要望されている。その一方で、運賃箱には、例えば非接触ICカードシステムが組み込まれる等、運賃箱はますます多機能化の傾向にある。このため、運賃箱の内部スペースをいかに確保するかが、重要な問題となっていた。本実施の形態の硬貨識別装置15の小型化が図られることにより、運賃箱11の小型化及び内部スペースの確保に繋がる。
【0061】
(3)チェーン24に設けた係合ピンGに硬貨Cを係合させることにより搬送するチェーン搬送機構を備えた。また、硬貨通路Wの近傍にはチェーン24の回転速度を検出するエンコーダ51を設けるようにした。そして、制御装置61は、エンコーダ51からの検出信号に基づいて求めたチェーン24の回転速度Vと、硬貨検出センサ31からの出力信号に基づいて求めた硬貨Cの検知時間Tとの比を求め、当該比に基づいて硬貨Cの金種を識別するようにした。
【0062】
モータとしては、DCブラシモータ及びステッピングモータ等の各種のモータがある。しかし、例えばDCブラシモータとステッピングモータとを比較した場合、一般に、ステッピングモータはDCブラシモータよりも高価であることが多い。このため、本実施の形態では、モータ22として、安価なDCブラシモータを採用している。ところが、モータ22としてDCブラシモータを採用した場合、例えば硬貨Cの搬送量及びチェーン24自体の回転負荷等に起因して当該DCブラシモータの回転速度(モータ電圧)が変動するおそれがある。そしてこの場合、チェーンの回転速度、即ち硬貨Cの搬送速度も変動する。この搬送速度の変動分だけ、硬貨検出センサ31による硬貨Cの検知時間Tも変わる。その結果、硬貨Cの誤識別が懸念される。これに対して、本実施の形態によれば、DCブラシモータをチェーンの駆動源として採用した場合であれ、当該モータ22の回転速度の変動分が除去される。即ち、硬貨検出センサ31による硬貨Cの検知時間Tは、当該硬貨検出センサ31の硬貨Cに対する相対的な移動距離を、チェーン24の回転速度で除した値である。このため、チェーン24の回転速度と、硬貨Cの検知時間Tとの比は、当該チェーン24の回転速度成分が除去された値となる。従って、モータ22の回転速度変動の影響を受けることなく、硬貨Cの識別が可能となる。従って、硬貨Cの識別精度が確保される。
【0063】
(4)硬貨検出センサ31は、硬貨通路W内を搬送されてくる硬貨Cのうち最も小径の硬貨Cが検出可能となるように、且つ最も大径の硬貨Cの中心よりも上側において硬貨Cが検出可能となるように設けるようにした。
【0064】
硬貨検出センサ31による硬貨Cの検知時間Tは、当該硬貨検出センサ31の硬貨Cに対する相対的な移動距離、即ち硬貨Cの弦の長さLを、チェーン24の回転速度で除した値である。ここで、硬貨Cの弦の長さの差は、硬貨Cの直径の差よりも大きくなる。このため、硬貨Cの直径に中心において硬貨Cを検出するようにした場合に比べて、硬貨検出センサ31による硬貨Cの検知時間Tを確保することが可能となる。従って、硬貨Cの直径の差が微少な複数金種を識別する場合であれ、硬貨Cの識別精度を確保することができる。
【0065】
(5)制御装置61には、複数種類の金種と、金種毎に予め求めたチェーン24の回転速度Vと硬貨Cの検知時間Tとの比との関係を示す硬貨識別判定マップMを記憶した記憶手段としてのROM63を備えた。そして、制御装置61は、硬貨通路W内を搬送されてくる硬貨Cについて求めたチェーン24の回転速度Vと当該硬貨Cの検知時間Tとの比に基づいて硬貨識別判定マップMを参照することにより、硬貨Cの金種を識別するようにした。
【0066】
このため、求められた比に基づいて硬貨識別判定マップMを参照することにより、簡単に硬貨Cを識別することができる。
(6)ROM63に予め記憶されるチェーン24の回転速度Vと硬貨Cの検知時間Tとの比は、寸法が厳密に管理された治具としての基準硬貨を識別処理したときの測定結果に基づいて設定するようにした。
【0067】
このため、任意の硬貨Cの測定結果に基づいて、ROM63に予め記憶されるチェーン24の回転速度Vと硬貨Cの検知時間Tとの比を設定するようにした場合と異なり、複数台の硬貨識別装置15間で、基準となる比の値が微妙に異なるといった事態を回避することができる。ちなみに、任意の硬貨Cの測定結果に基づいて、ROM63に予め記憶されるチェーン24の回転速度Vと硬貨Cの検知時間Tとの比を設定するようにした場合には、任意の硬貨Cそれぞれの寸法誤差等の影響により、複数台の硬貨識別装置15間で基準となる比の値が微妙に異なるおそれがある。
【0068】
(7)ROM63に予め記憶されるチェーン24の回転速度Vと硬貨Cの検知時間Tとの比には、基準となる比の値に対して所定の余裕範囲を持たせるようにした。
このため、搬送されてくる硬貨C毎の微少な直径の違い、硬貨検出センサ31の個別の検出特性誤差等に起因する識別精度の変動を吸収することができる。
【0069】
(8)硬貨検出センサ31の近傍には、搬送されてくる硬貨Cを硬貨通路Wにおける硬貨Cが転動する面側、即ち、下側の突条27bの上面側へ付勢する硬貨押圧部材41を設けるようにした。
【0070】
このため、搬送されてくる硬貨Cは、硬貨押圧部材41により硬貨通路Wにおける硬貨Cが転動する面側へ付勢されることにより、当該転動する面に押し付けられた状態で、硬貨検出センサ31により検知される。このため、硬貨検出センサ31により硬貨Cが検知される際に、当該硬貨Cが跳ねるようなことがない。このため、硬貨Cの識別精度を確保することができる。
【0071】
(9)硬貨通路W内には、搬送されてくる硬貨Cを当該硬貨通路Wの内側面側へ付勢する板ばね50を備えた。このため、搬送途中の硬貨の転倒等が抑制される。従って、硬貨Cを安定して搬送することができる。
【0072】
<他の実施形態>
尚、前記各実施形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、全ての金種の基準硬貨についてそれぞれ検知時間Tを測定するとともに、当該測定値(T=L/V)に対してモータ22の負荷変成分を除去する補正を行うことにより判定基準値Xを求めるようにしたが、次のようにしてもよい。即ち、特定の金種の基準硬貨のみ検知時間Tを測定し、その測定結果に基づいて全金種の判定基準値Xを一律に補正するようにしてもよい。
【0073】
・また、基準硬貨を使用するのではなく、同一金種の任意の硬貨Cを複数枚だけ測定し、当該測定結果の傾向に応じて判定基準値Xを補正するようにしてもよい。
・1円及び5円、並びに外国硬貨を識別するようにしてもよい。この場合、硬貨ゲート29及び硬貨識別判定マップM等を金種数に対応して設ける。このようにすれば、多数の金種に対応可能となる。
【0074】
・5円硬貨及び50円硬貨等の中心孔を検知するセンサ(フォトセンサ等)を別途設けるようにしてもよい。このようにすれば、硬貨Cの識別精度をより向上させることができる。
【0075】
・モータ22のモータ電流を検出する電流センサを設けるとともに、当該電流センサにより検出されたモータ電流と、硬貨Cの検知時間Tとの比に基づいて金種を識別するようにしてもよい。
【0076】
・モータ22をエンコーダ内蔵モータとした場合には、当該エンコーダからの検出信号に基づいて、モータ軸(出力軸)の回転速度を求めるとともに、当該回転速度と検知時間Tとの比を求めるようにしてもよい。当該比によっても硬貨Cの識別は可能となる。
【0077】
・金種と判定基準値Xとを1:1で対応させるようにしてもよい。即ち、判定基準値Xに余裕を持たせることなく、金種毎の中心値をそのまま判定基準値Xとする。
・硬貨Cの検知時間Tに基づいてのみ金種を識別するようにしてもよい。金種毎に硬貨Cの直径が異なることから、硬貨検出センサ31による検知時間Tも異なる。このようにしても、硬貨Cの識別は可能となる。なお、この場合、モータ22として、車両のバッテリ電圧等の影響を受けにくいステッピングモータ等を採用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施の形態における運賃箱の概略構成図。
【図2】同じく硬貨識別装置の概略構成を示す斜視図。
【図3】同じくチェーン搬送機構の概略構成を示す斜視図。
【図4】同じく硬貨通路の切欠部を示す斜視図。
【図5】同じく硬貨検出センサの取り付け部位を示す硬貨識別装置の要部斜視図。
【図6】同じく硬貨検出センサの取り付け位置を示す硬貨通路の要部を拡大した正面図。
【図7】同じく(a),(b)は、硬貨検出センサと硬貨との位置関係を示す硬貨通路の要部を拡大した正面図。
【図8】同じく(a)は、金種毎の硬貨検出センサの検出信号を示す波形図、(b)は、複数種類の金種が連続して検出されたときの硬貨検出センサの検出信号を示す波形図。
【図9】同じく(a)は、硬貨押圧部材の取り付け状態を示す硬貨識別装置の要部斜視図、(b)は硬貨押圧部材の平面図。
【図10】同じく(a)は、硬貨が通過する前の硬貨押圧部材の側断面図、(b)は、硬貨が通過している途中の硬貨押圧部材の側断面図。
【図11】同じく(a)は、板ばねと硬貨通路内の硬貨との位置関係を示す硬貨識別装置の要部を拡大した側断面図、(b)は、板ばねのカバーに対する取り付け状態を示す斜視図。
【図12】同じくエンコーダの取り付け状態を示す要部斜視図。
【図13】同じく硬貨識別装置の電気的な構成を示す回路ブロック図。
【図14】同じく硬貨識別処理を説明するための硬貨検出センサの検出信号を示す波形図。
【図15】同じく硬貨識別判定マップを示す一覧表。
【図16】従来の硬貨検出センサの構成を示す要部を拡大した斜視図。
【図17】従来の硬貨検出動作を示す硬貨検出センサの平面図。
【符号の説明】
【0079】
11…運賃箱、15…硬貨識別装置、22…モータ、
24…搬送手段及びチェーン搬送機構を構成するチェーン、31…硬貨検出センサ、
41…硬貨押圧部材(第1の付勢手段)、50…板ばね(第2の付勢手段)、
51…エンコーダ(チェーン速度検出センサ)、61…制御装置(制御手段)、
63…ROM(記憶手段)、C…硬貨、M…硬貨識別判定マップ、
G…搬送手段及びチェーン搬送機構を構成する係合ピン(係合手段)、T…硬貨の検知時間、V…チェーンの回転速度、W…硬貨通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送手段により硬貨通路内を搬送されてくる硬貨の金種を識別する硬貨識別装置において、
硬貨通路を搬送されてくる硬貨を検知する硬貨検出センサと、
前記硬貨検出センサからの出力信号に基づいて硬貨の検知時間を求めるとともに、当該検知時間に基づいて硬貨の金種を識別する制御手段と、を備え、
前記搬送手段は、モータの駆動により回転するチェーンを備えるとともに、当該チェーンに設けた係合手段に硬貨を係合させることにより搬送するチェーン搬送機構とし、
前記硬貨通路の近傍には前記チェーンの回転速度を検出するチェーン速度検出センサを設け、
前記制御手段は、前記チェーン速度検出センサにより検出されたチェーンの回転速度と、前記硬貨検出センサからの出力信号に基づいて求めた硬貨の検知時間との比を求め、当該比に基づいて硬貨の金種を識別するようにした硬貨識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の硬貨識別装置において、
前記硬貨検出センサは、硬貨通路内を搬送されてくる硬貨のうち最も小径の硬貨が検出可能となるように、且つ最も大径の硬貨の中心よりも上側において硬貨が検出可能となるように設けるようにした硬貨識別装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硬貨識別装置において、
前記制御手段には、複数種類の金種と、金種毎に予め求めたチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比との関係を示す硬貨識別判定マップを記憶した記憶手段を備え、
前記制御手段は、前記硬貨通路内を搬送されてくる硬貨について求めたチェーンの回転速度と当該硬貨の検知時間との比に基づいて前記硬貨識別判定マップを参照することにより、硬貨の金種を識別するようにした硬貨識別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の硬貨識別装置において、
前記記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比は、寸法が厳密に管理された治具としての基準硬貨を識別処理したときの測定結果に基づいて設定するようにした硬貨識別装置。
【請求項5】
請求項4に記載の硬貨識別装置において、
前記記憶手段に予め記憶されるチェーンの回転速度と硬貨の検知時間との比には、基準となる比の値に対して所定の余裕範囲を持たせるようにした硬貨識別装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の硬貨識別装置において、
前記硬貨検出センサの近傍には、搬送されてくる硬貨を硬貨通路における硬貨が転動する面側へ付勢する第1の付勢手段を備えた硬貨識別装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の硬貨識別装置において、
前記硬貨通路内には、搬送されてくる硬貨を当該硬貨通路の内側面側へ付勢する第2の付勢手段を備えた硬貨識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−183762(P2007−183762A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−898(P2006−898)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000144544)レシップ株式会社 (179)
【Fターム(参考)】