説明

硼珪酸ガラス体上への反射防止層の製造方法

【課題】硼珪酸ガラス体上へリン酸含有層と同様に取扱いが容易であり、老化問題がなく、かつ製造後に水洗を要さない反射防止層のコーティング方法及びコーティング溶液を見出す。
【解決手段】硼珪酸ガラス体上への強接着性、拭取り耐久性、多孔SiO含有反射防止層の製造方法を、下記組成(酸化物としての重量%で表示)から成るコーティング対象ガラス体;
SiO 63〜76
>11〜20
Al 1〜9
アルカリ金属酸化物 3〜12
アルカリ土類金属酸化物 0〜10
ZnO 0〜2
TiO 0〜5
ZrO 0〜1
Nb 0〜1
WO 0〜1
を下記組成から成るコーティング溶液;
HCl 1.0〜6.0重量%
SiOゾル(固形含量) 0.5〜7.0重量%
水 0.5〜5重量%
易揮発性水溶性有機溶媒 85〜98重量%
で湿潤させる工程と、生成されたコーティングを乾燥及び乾熱処理する工程から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硼珪酸ガラス体上への強接着性かつ拭取り耐久性をもつ多孔SiO含有反射防止層の製造方法、すなわち硼珪酸ガラス体への強接着性かつ拭取り耐久性をもつ多孔SiO含有反射防止層のコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔SiO層が硼珪酸ガラス体へ接着し難いことは公知である。このことは、特にSiOゾルを用いて形成する層の場合に顕著である。
【0003】
接着性を改善するために、分解物によってSiO粒子が相互に、かつ基板と結合されるテトラエチルオルトシリケートをゾルへ添加することが提案されている(US 2,601,123)。しかしながら、このような溶液の調整には複雑な工程を要し、またコストもかなり高くなる。
【0004】
EP0897898B1には、SiO2ゾル及び界面活性剤を含有する完全水性のコーティング溶液を用いる方法が開示されている。この方法では、コーティング対象となる基板が、アセトン、アルコール及び水、強アルカリ洗浄液(1N−NaOH)あるいは市販の洗浄浴を用いて予め処理され、さらに該当する場合には、超音波を用いて洗浄効果を強化することが要求されている。特に洗浄工程(実施例1参照)に基因して、この方法はコストの高い方法となっている。
【0005】
EP1342702A1あるいはUS6,998,177B2には、プロセスエンジニアリングにおいて有利であり、かつアルコール含有SiOゾル硝酸安定化溶液が用いられる方法が開示されている。公知であるところの生成されるSiO粒子層の接着強度及び拭取り耐久性が劣ることの欠点はコーティング液へHPOを添加することによって解消されている。このようにして生成された反射防止層の接着強度及び拭取り耐久性は極めて良好だが、これら層は数週間で老化(エージング)して反射防止層の当初の深い青色が褪せて曇り、入射光に対する透過性及び拭取り耐久性が低下することが知られている。この褪色は水で洗浄するで逆戻りさせることが可能である。反射防止層が形成されたガラス体がその工場で製造後に水洗される場合はかかる褪色を防止することが可能であり、また実際の製造において老化問題を解消することも可能である。しかしながら、この水洗工程を設けることは望ましくない追加コストを要することを意味している。
【0006】
本発明は、上記リン酸含有層と同様に取扱いが容易であり、老化問題がなく、かつ製造後に水洗を要さないコーティング方法及びコーティング溶液を見出すことを目的とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明によれば、上記目的は、酸化物としての重量%で表わして、SiOを63〜76%、Bを>11〜20%、Alを1〜9%、アルカリ金属酸化物の1または2種以上を3〜12%、アルカリ土類金属酸化物の1または2以上を0〜10%、ZnOを0〜2%、ZrOを0〜1%、TiOを0〜5%、Nbを0〜1%、WOを0〜1%を含んで成るガラス体を溶液全体に対する重量%で表わした下記組成;
HCL 1.0〜6重量%
SiOゾル(固体分含量) 0.5〜7重量%
水 0.5〜5重量%
揮発性かつ水溶性有機溶媒 85〜98重量%
から成る溶液で濡して反射防止層を提供する方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
HClの比率は、SiOゾルを安定化させる公知方法における酸として作用する量である。SiOゾル(シリカ・ゾル)は公知方法、例えば水性アルカリ金属珪酸塩をイオン交換材で処理するによって調製可能である。シリカ・ゾルはコロイド・非晶質SiOの水性溶液である。市販のシリカ・ゾルには通常SiOが30〜60重量%含まれている。平均粒径は5〜150nmである。
【0009】
コーティング溶液中のSiO比率は好ましくは0.5〜5.0重量%である。コーティング溶液中のSiOの粒径は5〜50nm、好ましくは8〜20nmの範囲内でなければならない。
【0010】
コーティング溶液中の水の比率は0.5〜5重量%であるが、この比率は概して、常に無水物とは限らないシリカ・ゾル、酸、及び溶媒に基因して定められる。
【0011】
コーティング溶液の残分は易揮発性な水溶性有機溶媒から成る。易揮発性とは、沸点が75〜140℃、特に75〜85℃の範囲内であることを意味する。適する水溶性溶媒とは特に極性溶媒をいう。1〜5個の炭素原子をもつ一価の低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等は特に適する極性溶媒である。さらに、3〜5個の炭素原子をもつ水溶性ケトン類、特にアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンも適する極性溶媒である。メタノール、エタノール、プロバノール、ブタノール、ジメチルケトン、あるいはこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0012】
前記コーティング溶液の調製は、一般的には、最初に溶媒部分の全量または一部を投入し、次いで酸を攪拌しながら添加し、その後にシリカ・ゾルを攪拌しながら添加し、さらに残りの溶媒があればそれを加えることによって行われる。
【0013】
ガラス体のコーティング溶液による湿潤化は、いずれか所望の方法、例えば多孔(スポンジ)ローラーを用いて塗り付ける方法、小形あるいは大形のブラシを用いて塗布する方法、注水する方法等により、好ましくはスプレーにより、特に好ましくは浸漬する方法によって達成される。浸漬中、コーティング対象ガラス体は溶液中に浸漬され(いかなる所望の速度でよいが、浴液がまき散ってはならず、また浸漬されたガラス体に気泡が付着してはならない)、一定速度で再び引き上げられる。適切な速度は1mm/s〜約100mm/sの範囲内である。生産性を高めるため、可能な限り速い引き上げ速度で実施することも試みられた。引き上げ速度は溶液の蒸発速度及び溶液の粘度、装置の特徴、溶液温度及び引き上げ領域の大気温度によって左右され、局部環境に関しては当業者であれば容易に最適化可能である。実用場面において、1〜20mm/sの引き上げ速度が有効なことが立証された。
【0014】
ガラス体を溶液で濡らした後、生成された層は、それ自体公知な方法によって乾燥及び加熱(乾熱)処理される。前記溶液の蒸発中に気泡発生が起こらないことが保証できれば、前記乾燥を前記加熱一工程で実施することも可能である。前記加熱処理は当業者に公知な慣用法により350℃(すなわちガラス転移温度Tg以下)〜750℃(すなわちガラス転移温度Tg以上)、とりわけ470〜490℃の範囲内で実施される。
【0015】
前記加熱処理に要する時間は装置の特徴によって異なり、当業者によれば容易に決定可能である。好ましくは、用いられる前記加熱処理時間はTg以下の温度で約1時間である。Tg以上の温度では、温度の上昇と共にガラス管の変形が増加するため、より短い乾熱処理時間、例えば750℃では15分とされなければならない。
【0016】
形成された層には、SiOが少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも99重量%含まれる。この層は、極めて好ましくは完全にSiOだけから構成される。
【0017】
前記層の多孔度は層容積の約10〜60%である。この範囲内において良好な反射防止特性、すなわち反射防止コーティング処理されたガラス体を通る良好な光透過性が達成される。
【0018】
良好な反射防止効果を得るために本方法によって生成された層厚は50nm〜500nmの範囲内である。この層厚に達しない場合、好ましくは加熱処理前にさらにコーティング処理を行うことができるが、それぞれの場合において、さらにコーティング処理を行う前に、1回目のコーティングを2回目のコーティング処理において溶解しない程度まで乾燥させることが必要である。層厚は好ましくは80〜160nmの範囲内とされる。
【0019】
生成される層中の孔の直径は好ましくは2〜50nmの範囲内でなければならない。何故なら、良好な反射防止効果は孔の大きさがこの範囲内にあるときに得られるからである。
【0020】
本発明方法によれば、B含量が高く、SiO含量が中程度な硼珪酸ガラス上への反射防止層の生成が可能である。
【0021】
本発明方法によれば、特に下記成分(酸化物として表した重量%);
SiO 65〜76
12〜19、好ましくは15〜19
Al 1〜<5、好ましくは1〜4.5
LiO+NaO+KO 3〜12
1または2種以上のアルカリ土類金属 0〜5
ZnO 0〜2
TiO 0.5〜5
を含有して成る硼珪酸ガラス上への反射防止層の生成が可能である。
【0022】
例えばスプレーコーティングあるいはガラス体のコーティング溶液中への浸漬によって湿潤する前に特定の洗浄工程は通常必要とされない。輸送あるいは貯蔵中にガラス体が汚れた場合のみ再度洗浄処理を行って埃を取り除かなければならない。
【0023】
本発明によるコーティングは、上記組成から成るガラス管あるいは小ガラス管の形態をとる硼珪酸ガラス体、とりわけ電球の製造、特に放電ランプの製造、さらにはディスプレイのバックグランド照明に用いられるバックライトと呼ばれる小形放電ランプの製造におけるコーティングに特に適するものである。
【0024】
前記コーティングは、外径が2.0〜5.0mmの範囲内であり、及び壁厚が0.8mmである小形管のコーティングに特に適するものである。
【0025】
本発明によれば、後処理なしでも老化耐久性であり、かつ拭取りに対して著しく耐久性な反射防止層を硼珪酸ガラス上へ生成することが可能である。
【発明を実施するための手段】
【0026】
実施例
1.コーティング溶液の調製
A)従来技術(リン酸含有)
US6,998,177B2と同様に、実施例1ではコーティング溶液は下記に従って調製される。
イソプロパノール235.8gを1N−HNOの600gと混合して10分間攪拌した。次いで85%強HPOを104g加えてさらに5分間攪拌を行った。次いでシリカゾル(Koestrosol 0830A, SiO2 30%;製造者:Chemiewerke Bad Koestriz)を640g加えて、さらに5分間攪拌を行った。この混合液をイソプロパノール2756gを用いて希釈してから1日間放置した。このようにして調製した溶液を使用に供した。
【0027】
B)従来技術(リン酸含有なし)
US6,998,177B2と同様に、実施例2において、リン酸無含有コーティング溶液を下記に従って調製した。
この実施例において用いる溶液は、リン酸が添加されないこと、及びシリカゾル649gが用いられることを除いて、方法A)に従って調製した。
【0028】
C)本発明
本発明によるコーティング溶液は下記に従って調製した。
5N−HCl216gをイソプロパノール235.8gへ加え、得られた溶液を1分間攪拌し、次いでシリカゾル(Koestrosol 0830A)187gを加えてさらに1分間攪拌を行い、この混合液にさらにイソプロパノール3361gを加えて5分間攪拌した。このようにして調製した溶液を使用に供した。
【0029】
2.コーティング処理
酸化物の重量%表示で、SiOとして73、Bとして15.6、Alとして1.2、NaOとして3.6、KOとして1.3、CaOとして0.7、MgOとして0.4及びTiOとして4.2から成る組成(ガラスNo.1)をもち、外径が5.0mm、壁厚が0.5mm、及び長さが600mmであるガラス管をそれらの長軸に沿ってコーティング溶液中に450mmの深さで浸漬した。浸漬速度は10mm/sであった。約10秒間の休止時間の後、ガラス管をコーティング溶液から、溶液Aの場合は1mm/sの速度で、また溶液B及びCの場合は3.8mm/sの速度で引き上げた。この引き上げ処理を行うことにより、ガラス上へ湿潤フィルムを形成した。このコーティング処理したガラスを加熱室中において490℃、すなわちガラスのTgより10℃低い温度で1時間加熱処理した。
【0030】
比較のため、(酸化物の重量%表示で)SiOとして81、Bとして13、Alとして2、NaOとして3.5及びKOとして0.5の組成から成る硼珪酸ガラスから成るガラス管(ガラスNo.2)へコーティングを行った。このガラス管の外径は3.0mmであり、壁厚は0.7mmであった。
【0031】
3.拭取り試験
DIN58196に従った拭取り試験は平面ガラスサンプルにしか適さないため、この試験方法をコーティングされたガラス管に適するように変更した。
拭取り体としては綿布を用いた。綿布をガラス管の軸に沿ってコーティング面上を出来るだけ一定の接触圧をかけて前後へ動かして20回以内の回数拭取りを行った。コーティング層を完全に除去するに至るまでの拭取り回数をコーティング層の拭取り耐久性の尺度とした。>20は、20回の拭取り後もコーティング層が猶損なわれていないことを示す。
まず、直径5mmのガラス管の同一サンプルに対して、コーティングの乾熱処理後直ちに拭取り試験を実施し、5日のサイクルで最終となる20日目まで毎回拭取り位置を変えて試験を繰り返した。
【0032】
4.老化試験
さらに、コーティング処理されたガラス管を通気の良い場所に3週間保管した。実施例2の場合には目に見える曇りが生じ、実施例1では目に見える曇りと反射防止層の褪色が認められた。また実施例4及び5では結晶様の白華現象が認められた。しかし、本発明によってコーティングされたガラス体では、褪色、曇り、白華のいずれも全く認められなかった(実施例3)。
【0033】
5.結果
試験結果の要約を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明によって提供される方法の優越性はこれら実施例から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成物(酸化物としての重量%で表示)を含むコーティング対象ガラス体;
SiO 63〜76
>11〜20
Al 1〜9
アルカリ金属酸化物 3〜12
アルカリ土類金属酸化物 0〜10
ZnO 0〜2
TiO 0〜5
ZrO 0〜1
Nb 0〜1
WO 0〜1
を下記組成物を含むコーティング溶液;
HCl 1.0〜6.0重量%
SiOゾル(固形含量) 0.5〜7.0重量%
水 0.5〜5重量%
易揮発性水溶性有機溶媒 85〜98重量%
で湿潤させる工程と、
前記コーティングを乾燥及び加熱処理する工程から成ることを特徴とする硼珪酸ガラス体上への、強接着性、拭取り耐久性、多孔SiO含有反射防止層の製造方法。
【請求項2】
前記コーティングされるガラス体に下記組成物(酸化物としての重量%で表示)が含まれることを特徴とする請求項1項記載の方法;
SiO 65〜76
12〜19
Al 1〜<5
アルカリ金属酸化物 3〜12
アルカリ土類金属酸化物 0〜5
ZnO 0〜2
TiO 0.5〜5
【請求項3】
下記組成から成るコーティング溶液を用いることを特徴とする請求項1項または2項記載の方法;
HCl 1.0〜6.0重量%
SiOゾル(固形含量) 0.5〜7.0重量%
水 0.5〜5.0重量%
メタノール及び又はエタノール及び又はプロパノール及び又は
ブタノール及び又はジメチルケトン及び又は
メチルエチルケトン 85〜98重量%
【請求項4】
コーティングされるガラス体がコーティング溶液中に浸漬されることによって湿潤されることを特徴とする請求項1〜3の少なくとも1項記載の方法。
【請求項5】
前記浸漬液からの取出しが1〜100mm/s、とりわけ20mm/sの速度で行われることを特徴とする請求項4項記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜6の少なくとも1項記載の方法によってコーティングされたガラス体の放電ランプ、特に小形放電ランプのランプ球製造のための使用。

【公開番号】特開2009−179550(P2009−179550A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9640(P2009−9640)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】