説明

磁化特性測定装置

【課題】低コストに製造することができ、且つ、高精度に被測定物の磁化状態を測定することのできる磁化特性測定装置を提供する。
【解決手段】被測定物100に対して偏光子12を介して光を照射するとともに、前記被測定物100からの反射光を検光子15を介して受光することで、被測定物100の磁化状態を測定する磁化特性測定装置1である。そして、制御部30が、受光手段16により測定対象点の受光量を検出しながら回転駆動手段18を駆動させることで、この受光量が所定値となる検光子15の回転角度を被測定物100の磁化状態として検出するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定物に対して偏光子を介して光を照射するとともに、被測定物からの反射光を検光子を介して受光することで、被測定物の磁化の状態を測定する磁化特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光磁気記録媒体や磁気記録媒体を開発する上で、磁性体の磁化特性を測定することは必須である。従来、このような磁化特性の測定装置として、試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer)が用いられることがあった。このVSMは、均一磁場中においた試料を一定の周波数・振幅で振動させ、試料近辺に配置した検出コイルに誘起される起電力をロックインアンプを用いて検出することにより、試料の磁化特性を測定するように構成されている。
【0003】
また、本願発明に関連する従来技術として、次のような技術の開示があった。例えば、特許文献1には、偏光子を介して光を試料に照射し、その反射光を検光子を介して検出する測定装置において、反射光をファラデー素子に通すとともに、光検出器の出力がゼロになるようにファラデー素子の電流量を調整し、この電流量に基づいて試料の磁化状態を求める手法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、磁化状態観察装置においてコントラストを得るために偏光子や検光子を回転させる構成が開示されている。また、特許文献3〜4には、偏光状態の光を試料に照射してその反射光を検光子を介して検出することで、試料の磁化状態を測定する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−275313号公報
【特許文献2】特開平01−000477号公報
【特許文献3】特開平03−163376号公報
【特許文献4】特開2004−179593号公報
【特許文献5】特開2005−134263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したVSM装置は非常に高価なものであり、磁化特性を測定するのにもっと安価な装置が求められている。
【0006】
また、特許文献1の装置においては、ファラデー素子が高価な部品であり、それにより製造コストが高騰するという課題がある。さらに、ファラデー素子は、その光学作用を一定値のまま維持させようとすると、素子に一定の電流を流し続ける必要があり、ファラデー素子を用いて光の偏光角を一定に維持するためには、発熱の問題や消費電力増大といった課題を発生させた。
【0007】
また、特許文献3〜4の測定装置のように、磁性体を反射した光を検光子を介して光センサで受けて検出するだけでは、光量と磁化状態とが非線形の関係にあるため、光量が大きく変化する特性範囲においては磁化特性の細かな測定が可能であるが、光量があまり変化しない特性範囲であれば磁化特性を細かく測定することが困難であるという課題がある。また、詳細に光量の変化量を検出するには、光量の分解能の高い光センサを用いる必要があり、製造コストの高騰につながるという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、低コストに製造することができ、且つ、高精度に被測定物の磁化状態を測定することのできる磁化特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、被測定物に対して偏光子を介して光を照射するとともに、前記被測定物からの反射光を検光子を介して受光することで、被測定物の磁化の状態を測定する磁化特性測定装置において、前記検光子を介して反射光を検出する受光手段と、前記偏光子又は前記検光子を光軸を中心とした回転方向に回転させる回転駆動手段と、前記被測定物に対して外部磁場を印加する磁場発生手段と、前記受光手段の検出信号を入力しながら前記回転駆動手段の駆動制御を行う制御手段とを備え、前記制御手段は、前記受光手段により所定点の受光量を検出しながら前記回転駆動手段を駆動させることで、前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を前記被測定物の磁化状態として検出するように構成とした。
【0010】
好ましくは、前記制御手段は、前記磁場発生手段により印加される外部磁場の大きさを制御することが可能であるとともに、前記磁場発生手段により被測定物に印加される外部磁場を変化させながら、前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を検出していくように構成すると良い。
【0011】
さらに好ましくは、前記制御手段は、前記外部磁場の大きさを示すデータと、該外部磁場の印加時に検出された前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を示すデータとを、それぞれ対応させて出力する構成とすると良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従うと、高価な部品を使用することなく、被測定物の磁化特性を測定することが出来る。さらに、受光手段の所定点の受光量が所定値になるように検光子又は偏光子を回転させ、その回転角度により被測定物の磁化状態を求めるので、回転駆動手段の回転分解能を高めることで、被測定物の磁化が小さい状態から大きな状態まで、幅広い範囲で磁化状態の細かな測定が可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の磁化特性測定装置の構成を示すブロック図である。
【0015】
この実施の形態の磁化特性測定装置1は、例えば光磁気記録媒体や磁気記録媒体などに使用される磁性体を試料100と、この試料100に外部磁場を印加しながらその磁化状態を測定することを可能とする装置である。
【0016】
この磁化特性測定装置1は、図1に示すように、光源11と、光源11の光から特定の偏光状態の光のみを通す偏光子12と、試料100に向かう光とその反射光とを分離するスプリッタ13と、光の焦点を合わせるレンズ14と、反射光のうち特定の偏光状態の光のみを通す検光子15と、検光子15を介して光を受光する受光手段としてのCCD(Charge Coupled Device)カメラ16と、検光子15を光軸を中心とした回転方向に回転駆動する回転駆動手段としての駆動機構18と、試料100に対して外部磁場を印加する磁場発生手段としての外部磁界発生装置20と、CCDカメラ16から撮像信号を入力するとともに駆動機構18の駆動制御や外部磁界発生装置20の磁界量の制御を行うコンピュータなどの制御部(制御手段)30等を備えている。
【0017】
駆動機構18は、例えばステッピングモータなどを備え、検光子15の回転角度を細かなステップで調整することが可能になっている。
【0018】
制御部30は、内部に制御プログラムを実行するCPU(中央演算処理装置)や、制御プログラムや制御データを格納した記憶装置等が搭載されるとともに、I/Oインターフェースを通じてCCDカメラ16から撮像信号を入力して試料100からの反射光の光量を認識したり、駆動機構18に駆動信号を出力して検光子15の回転角度を制御することが可能になっている。また、外部磁界発生装置20に制御信号を出力して試料100に印加される外部磁場の大きさを制御することも可能になっている。さらに、制御部30は、例えば図示略の表示装置や印字装置と接続され、各種データの出力が可能にされ、また、操作入力装置が接続されてユーザからの操作信号を入力するようになっている。
【0019】
上記のような構成によれば、光源11から光が出射されると、この光が偏光子12を通って所定の偏光状態にされて試料100に照射される。試料100の表面に磁気が発生しているとカー効果により照射された光はその偏光方向を回転して反射され、この反射された光がレンズ14と検光子15とを介してCCDカメラ16に送られて受光される。ここで、検光子15の偏光方向と反射光の偏光方向とが一致していれば透過光量が最大となってCCDカメラ16で大きな光量で検出される。一方、検光子15の偏光方向と反射光の偏光方向とが90度ずれている場合には、透過光量が最小となってCCDカメラ16に少ない光量で検出されるか或いは光量検出がゼロとされる。
【0020】
また、上記のような処理動作中に検光子15を回転させることで、試料100の測定対象点の光量が変化するようになっている。そして、この測定対象点の光量が一定値となる回転角度を検出することで、その回転角度により試料100の測定対象点の磁化状態を表わすことが可能になっている。すなわち、カー効果による試料100表面での偏光方向の回転と、検光子15の回転角度が等しくなれば、測定対象点の光量は常に等しくなるはずなので、検光子15の回転角度により試料100でのカー回転角度が求められ、それにより試料100の磁化状態が表わされることとなる。
【0021】
図2には、制御部30により実行される磁化特性測定処理のフローチャートを、図3には、磁化特性測定処理によりプロットされる被測定物の磁化特性図の一例を表した図を示す。
【0022】
記憶装置に格納される制御プログラムには、例えば、図2に示すような磁化特性測定処理のプログラムが含まれている。そして、ユーザが操作入力装置から所定の操作入力を行うことで、この磁化特性測定処理を実行させることが可能になっている。
【0023】
この処理が開始されると、先ず、ステップS1において、制御部30は外部磁界発生装置20の初期化を行う。すなわち、外部磁界発生装置20に初期値を表した制御信号を出力し、外部磁界発生装置20により発生される外部磁場の大きさを設定する(例えば、外部磁場の大きさ「0」)。そして、次に、外部磁界発生装置20へ作動信号を出力し、上記の設定に従って外部磁場を発生させる(ステップS2)。
【0024】
次いで、この状態で、CCDカメラ16からの撮像信号を入力し、これに基づき測定対象点の光量を検出する(ステップS3)。そして、この光量が予め定められた所定値の範囲内に入っているか否か判別する(ステップS4)。そして、所定値の範囲内であればステップS6に移行するが、範囲内でなければステップS5に移行する。
【0025】
その結果、所定値の範囲内になくステップS5に移行したら、駆動機構18に駆動信号を出力して検光子15の回転角度を1ステップ分変更する。そして、再び、ステップS3,S4の処理を繰り返して、測定対象点の光量検出、および、その値が所定値の範囲内に含まれるかの判別処理を行う。そして、これらステップS3〜S5の処理を繰り返すことで、検光子15が或る回転感度の状態で測定対象点の光量が所定値の範囲に含まれることとなって、続くステップS6に移行される。
【0026】
ステップS6では、その時点で試料100に印加されている外部磁場Hの大きさと、検光子15の回転角度のデータとを対応させて記憶装置の所定領域に記憶させる(ステップS6)。例えば、データテーブルとして記憶したり、このデータを特性図にプロットしたりする。
【0027】
次に、外部磁場Hの印加パターンが終了したか判別し(ステップS7)、まだ、途中であれば、予め設定された印加パターンに沿って外部磁場の大きさの設定値を変更し(ステップS8)、再び、ステップS2からの処理を繰り返す。このような繰り返しの処理により、例えば、磁場Hの大きさが「0」から「+h1」(図3参照)まで正の方向に徐々に遷移させ、次いで、そこから負の方向に「−h1」まで徐々に遷移させ、再び、「0」まで徐々に遷移させるような印加パターンで、外部磁場が変化する。さらに、これらの各時点で、ステップS3〜S5の処理により、当該外部磁場に対応して測定対象点の光量が所定値となる検光子15の回転角度が求められ、ステップS6の処理により、これらのデータが記憶(例えば特性図にプロット)されるようになっている。
【0028】
そして、上記印加パターンでの外部磁場の印加がすべて終了したら、この磁化特性測定処理を終了する。このような処理により、例えば図3に示すような、試料100についての磁化特性の特性図やそのデータを得ることができる。
【0029】
以上のように、この実施の形態の磁化特性測定装置1によれば、高価な部品を使用することなく、磁性体のカー効果を利用して、その磁化特性を測定することが出来る。さらに、試料100の測定対象点のカー回転角度を求めるのに、検光子15を介して検出した光量の増減で求めるのではなく、光量を一定に保つ検光子15の回転角度で求めるようになっているので、CCDカメラ16の光量分解能を高める必要なく、磁化の小さい範囲から磁化の大きな範囲まで、幅広い範囲で磁化状態の細かな測定が可能となる。
【0030】
また、上記の磁化特性測定処理により、制御部30が自動的に測定対象点の光量を一定に保つ検光子15の回転角度を求めることが出来るので、ユーザのスキルに依存しない一定の測定結果を得ることが出来る。また、外部磁場の大きさを一定のパターンで変化させつつ、各時点での光量を一定に保つ検光子15の回転角度を検出し、これらのデータを対応させて記憶し、且つ、ユーザに出力することが出来るので、試料100の磁化特性をすばやく且つユーザのスキルに依存することなく測定することが出来るという効果が得られる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、検光子15を回転させるように構成しているが、検光子15は固定で偏光子12を回転させるようにしても同様の作用効果を得ることが出来る。
【0032】
また、受光手段としてCCDカメラ16を例示しているが種々の光センサを用いることが出来るし、外部磁界発生装置も種々の構造のものを適用可能である。その他、実施の形態で示した細部等は発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の磁化特性測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】制御部により実行される磁化特性測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】磁化特性測定処理によりプロットされる被測定物の磁化特性図の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 磁化特性測定装置
11 光源
12 偏光子
15 検光子
16 CCDカメラ(受光手段)
18 駆動機構(回転駆動手段)
20 外部磁界発生装置
30 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に対して偏光子を介して光を照射するとともに、前記被測定物からの反射光を検光子を介して受光することで、被測定物の磁化の状態を測定する磁化特性測定装置において、
前記検光子を介して反射光を検出する受光手段と、
前記偏光子又は前記検光子を光軸を中心とした回転方向に回転させる回転駆動手段と、
前記被測定物に対して外部磁場を印加する磁場発生手段と、
前記受光手段の検出信号を入力しながら前記回転駆動手段の駆動制御を行う制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記受光手段により所定点の受光量を検出しながら前記回転駆動手段を駆動させることで、前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を前記被測定物の磁化状態として検出するように構成されていることを特徴とする磁化特性測定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記磁場発生手段により印加される外部磁場の大きさを制御することが可能であるとともに、
前記磁場発生手段により被測定物に印加される外部磁場を変化させながら、前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を検出していくことが可能にされていることを特徴とする請求項1記載の磁化特性測定装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記外部磁場の大きさを示すデータと、該外部磁場の印加時に検出された前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を示すデータとを、それぞれ対応させて出力することが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁化特性測定装置。
【請求項4】
被測定物に対して偏光子を介して光を照射するとともに、前記被測定物からの反射光を検光子を介して受光することで、被測定物の磁化の状態を測定する磁化特性測定装置において、
前記検光子を介して反射光を検出する受光手段と、
前記偏光子又は前記検光子を光軸を中心とした回転方向に回転させる回転駆動手段と、
前記被測定物に対して外部磁場を印加する磁場発生手段と、
前記受光手段の検出信号の入力と前記回転駆動手段および前記磁場発生手段の駆動制御を行う制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記磁場発生手段により被測定物に印加される外部磁場を段階的に変化させながら、前記受光手段により所定点の受光量を検出しつつ前記回転駆動手段を駆動させることで、前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を検出していくとともに、
前記外部磁場の大きさを示すデータと、該外部磁場の印加時に検出された前記受光量が所定値となる前記回転駆動手段の回転角を示すデータとを、それぞれ対応させて出力することが可能に構成されていることを特徴とする磁化特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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