説明

磁場勾配磁場強度複合センサ

振動部材(8)と電流制御手段(6)とを備える磁場感知装置(2)が記述される。電流制御手段(6)は、振動部材(8)を貫通して設けられる少なくとも第1(10)および第2(12)の電流路に沿って交流(AC)を通すように構成され、第1の電流路(10)を通る電流の流れが、第2の電流路(12)を通る電流の流れに対して、実質的に反対方向である磁場勾配計モード動作を提供する(すなわち、磁場勾配を測定する)ように構成される。また、電流制御手段(6)は、磁力計モード動作を証明する(すなわち、磁場強度を測定する)こともできる。磁場センサ(2)は、コンパスで使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁場センサに関し、より詳細には、コンパスなどで使用するための磁場勾配磁場強度複合センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁力計とも呼ばれる、いくつかの磁場強度センサが知られている。通常、そのようなセンサは、1軸に沿った磁場強度を測定するように構成される。コンパスの適用例では、3つの磁力計を使って3つの相互に直交する軸に沿った磁場強度が測定されて、地球の磁場の方向を一意に決定することが可能になり、したがって、コンパス方位が提供され得る。
【0003】
コンパクトなMEMSベースの共振磁力計の一例が、D. K. Wickendenらにより、「MEMSベースの共振シロホンバー磁力計(MEMS based resonating Xylophone Bar Magnetometers)」、SPIE会議録、微小機械加工装置および部品IV、SPIE第3514巻、350〜358頁、1998年、という論文に記載されている。Wickendenらの装置は、その第1の共振モードの各ノードにおいて1対の電極に固定された表面微小機械加工バーを備える。使用に際し、バーの共振周波数でバーに交流(AC)が通される。磁場の存在下では、ローレンツ力がバーを共振させ、任意のそのような運動の強さが静電容量として感知されて、適用磁場の強度の指示が提供される。
【0004】
最近では、基本のMEMS共振磁力計設計の一変形例が、Zaki Izham、Michael CL Ward、Kevin M BrunsonおよびPaul C Stevensによる、「共振磁力計の開発(Development of a Resonant Magnetometer)」という表題の論文に記載されている。2003年ナノテクノロジ会議および展示会、2月23〜27日、サンフランシスコ、の会議録、第1巻、340〜343頁、ISBN0−9728422−0−9を参照されたい。Izhamらの共振磁力計は、シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハから形成され、共振磁力計をウェハ平面の軸に沿って動かす2組の両端固定懸架装置を有する振動マスを備える。振動マスの共振周波数の近くの周波数を有するAC電流が懸架装置の電流路に沿って通され、それによって、磁場の存在下でマスを共振させる。1組の電極がマスに接続されて、任意の磁場誘導運動の強さが静電容量として測定されることを可能にする。
【0005】
地球の磁場は比較的弱いため、局在磁場の存在下では、磁力計ベースの装置を含むコンパスの精度が著しく低下し得ることがよく知られている。局在磁場は、電気機器、電気ケーブル、磁性体など、多種多様な原因から生じ得る。コンパス精度を向上させるために、従来から、コンパスの周囲の、局在磁場の影響を打ち消す位置に磁石対が配置される較正措置が取られている。この技法は固定式コンパスの設置(車上や船上など)では機能するが、移動式(例えばハンドヘルド)コンパスシステムには容易に適用され得ない。
【0006】
磁場勾配センサは、しばしば磁場勾配計とも呼ばれ、やはりよく知られている。磁場勾配計は、通常、空間的に数メートル隔てられた1対の磁力計を備え、2つの磁力計によって測定される磁場強度の差を使って磁場勾配が求められる。このようにして、従来から、微小な磁場勾配が高精度で測定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述の短所の少なくとも一部を軽減する磁場センサ、特に、コンパスで使用するための磁場センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、磁場感知装置は、振動部材と電流制御手段とを備え、電流制御手段が、振動部材を貫通して設けられる少なくとも第1および第2の電流路に沿って交流(AC)を通すように構成され、電流制御手段は、第1の電流路を通る電流の流れが、第2の電流路を通る電流の流れに対して実質的に反対方向である磁場勾配計モード動作を提供するように構成されることを特徴とする。
【0009】
よって、本発明の磁場センサは、任意の適用磁場と、第1および第2の電流路に沿って通るAC電流とのローレンツ相互作用から生じる振動力の影響を受ける振動部材を備える。電流制御手段は、磁場勾配計モードで、第1の電流路を通る電流の流れの方向が、第2の電流路を通る電流の流れの方向に対して実質的に反対になるように構成される。言い換えると、(明らかに、時間と共に周期的に変化する電流の流れの方向を有する)AC電流は、第1および第2の電流路に沿って通る任意の電流が振動部材に対して反対方向に流れることになるように、第1および第2の電流路に適用される。よって、第1の電流路に通されるAC電流は、第2の電流路に通される電流と位相がずれているとみなされ得る。
【0010】
第1および第2の電流路を流れる交流が等しい振幅のものであり、第1および第2の電流路が実質的に同じ長さであると想定される場合、第1および第2の電流路における磁場強度の差は、振動部材に対して磁場勾配に関連する合成振動力を与えることになる。磁場勾配が存在しない(例えば、装置が実質的に均一な磁場にあり、または磁場が存在しないなどの)場合、装置の振動部材には、どんな合力も与えられない。よって、振動部材に対して、2つの電流路における磁場強度の差に依存する合成ローレンツ振動力が与えられる磁場センサが提供される。
【0011】
よって、本発明の装置は、コンパクトな磁場勾配計を提供する。2つの別個の電流路を有する単一の振動部材を設けることで、2つの個々の空間的に隔てられた磁力計装置を使用して可能になるはずの場合よりも、磁場勾配に対してより高い感度が提供される。代替として、本発明の装置の感度の向上を使用して、所与の感度の磁場勾配計を提供するのに必要とされる物理的サイズを縮小することもできる。
【0012】
本明細書で使用する場合の電流路という用語は、振動部材を通る導電経路を意味することに留意すべきである。通常、振動部材を通る電流路を形成する導電経路は、2つの接続点のところで(例えば、振動部材を基板に接続する物理的アンカポイントなどによって)基礎をなす基板に電気的に接続される。その場合、接続点の両端への適切な電位差の印加により、電流路に沿って電流が通され得る。電流路は、接続点を直接リンクさせるまっすぐな導電トラックとすることもでき、より複雑な導電パターンを使って電流路を画定することもできることに留意すべきである。例えば、電流路は、湾曲させることもでき、以下でより詳細に説明するように応力除去部分(stress relief portion)を通すこともできる。電流路は、振動部材内に埋め込まれた各層から、または振動部材の表面上に位置する各層から形成され得る。
【0013】
好都合には、電流制御手段は、さらに、第1の電流路を通る電流の流れが第2の電流路を通る電流の流れと実質的に同じ方向である磁力計モード動作を提供するようにも構成される。このモードでは、磁場と第1の電流路を通る電流の流れとの相互作用によって振動部材に与えられる振動力が、磁場と第2の電流路を通る電流の流れとの相互作用によって振動部材に与えられる振動力を増大させる。これは磁場強度の測定を可能にする。第1および第2の電流路の設備は、振動部材を通る総体しての電流の流れを増大させるのに使用され得る。
【0014】
代替として、有利には、電流制御手段が第1の電流路のみにACを通す磁力計動作モードも使用され得る。その場合、装置は、国際特許出願PCT/GB2004/004017号明細書に記載される種類の磁力計と同様に動作する。
【0015】
有利には、電流制御手段は、必要に応じて、装置を磁場勾配計(gradiometer)モードと磁力計モードのどちらか一方に切り換えるモードセレクタを備える。モードセレクタは、例えば、第1の電流路または第2の電流路のどちらかに沿った電流の流れの方向を反転させるクロスオーバスイッチや、他の電子または電気回路などを備え得る。
【0016】
有利には、装置は、振動部材の振れに応じて出力信号を提供する感知手段をさらに備える。感知手段は、好都合には、基板上に位置し、振動部材に応じた可変静電容量を有する少なくとも1つのセンサ電極を備え得る。言い換えると、感知手段は、静電容量ピックアップによって振動部材の運動を測定する。
【0017】
好ましくは、感知手段は、基板上に位置する複数の細長いセンサ電極を備え、振動部材は、上記複数の細長いセンサ電極と互いにかみ合わさった(interdigitated)複数の細長い電極を備える。互いにかみ合わさった電極セットは、変動部材の運動を用いて必要な静電容量変動を提供する。運動方向を決定させるために、好都合には、それぞれの細長いセンサ電極を、それに隣接する振動部材の細長い電極対の1つのより近くに位置させることができることを、当分野の技術者は理解するであろう。
【0018】
好都合には、振動部材の電極は、所定の直流(DC)分極電圧に維持される。そのような場合、振動部材の電極と基板の電極間の静電容量は直接測定され得る。
【0019】
代替として、有利には、高周波数AC分極電圧(すなわちいわゆるプローブ信号)を振動部材の電極に印加することもできる。高周波数プローブ信号の使用は、増幅電子回路の1/f雑音が静電容量ピックオフの品質に大きな影響を及ぼさないようにする。また、この周波数は、振動構造の機械的応答を十分に上回るものである。好ましくは、高周波数プローブ信号は、50KHzから数十MHzまでの範囲内にあり、より好ましくは100KHzより大きく、さらに好ましくは、おおよそ1MHz程度である。よって、高周波数静電容量ピックアップは、感知手段によって生成される出力電気信号の信号対雑音比を改善する。
【0020】
有利には、複数のセンサ電極は、2組の電極セットを形成するように電気的に接続され、2組の電極セットは、微分静電容量ピックオフを提供するように構成される。以下でより詳細に説明するように、各電極セットによって提供される運動誘導信号は、それらの位相がずれるように構成され得る。しかしながら、各電極セットによって生成される信号における駆動回路からの貫通は、常に、同相になる。したがって、信号を差し引きする(すなわち、信号差を求める)と、雑音の影響が低減され、よりきれいな運動誘導信号が提供されることになる。この微分静電容量ピックオフは、直接ピックオフを使って獲得され得るものより著しく低い雑音レベルの出力電気信号を提供する。
【0021】
有利には、振動部材に対して磁場に依存しない振動力を与えるために駆動手段も設けられる。好ましくは、磁場に依存しない振動力は、使用中、振動部材を絶えず共振させるようにするのに十分な強さを有する。よって、振動部材は、磁場に依存しない振動力と、振動部材の第1および第2の電流路を通るACと磁場との相互作用によって与えられる任意のローレンツ力との合力に関連する振幅で振動する。
【0022】
このようにして、磁場に依存する(すなわちローレンツ)振動力と、駆動手段によって適用される磁場に依存しない振動力の組み合わせによって振動部材を共振させる磁場感知装置が提供される。よって、振動部材は、適用磁場(磁力計モード)または磁場勾配(磁場勾配計モード)がない場合でも、共振状態にされる。磁場(磁力計モード)または磁場勾配(磁場勾配計モード)の適用時、振動部材の振動の振幅は、検出可能なように変化する。
【0023】
駆動手段を設けることによって振動部材を絶えず共振させるようにすることには、磁場の適用時にのみ共振状態にされる振動磁力計装置に優るいくつかの利点を提供する。まず、振動部材の共振周波数の連続測定が可能であり、適用ACの周波数を適切に選択させることができる。これは、装置が、共振特性の著しい変化を生じる多種多様な環境(様々な温度、圧力など)において使用される場合には特に有利である。これは、共振周波数の測定が、振動を開始させるのに十分な強さの磁場が適用されるときにのみ可能な、Izhamらによって記載されている種類の従来技術の磁力計と対照をなすはずである。さらに、駆動手段の使用は、通常は、より低い磁場検出閾値を有する装置を提供する。例えば、磁力計動作モードでは、小さい磁場は、静止振動部材の共振を開始させ、さらに、振動する振動部材の振幅の測定可能な変化を生み出すのに十分なローレンツ力を与えるには不十分なことがある。
【0024】
ACの磁場との相互作用によって生み出されるローレンツ力と、駆動手段によって提供される振動力とは、好ましくは、同相または異相になるように構成されることに留意すべきである。そのような場合、振動部材の振動の振幅は、適用磁場の存在下において、場合によって、磁場方向または磁場勾配の符号に応じて増大し、または減少する。また、磁場方向(磁力計モード)および磁場勾配の符号(磁場勾配計モード)は、振動の振幅が増大するか、それとも減少するかにから容易に判断され得ることも、当分野の技術者は理解するはずである。
【0025】
有利には、振動部材は、基板上に搭載され、駆動手段は、振動部材に振動力を静電気的に与えるように基板上に形成された少なくとも1つの駆動電極を備える。
【0026】
好都合には、駆動手段は、基板上に形成された複数の第1の細長い駆動電極を備え、振動部材は、複数の第2の細長い駆動電極を備え、第1の細長い駆動電極は第2の細長い駆動電極と互いにかみ合わさっている。言い換えると、静電くし形駆動構成が実装される。そのようなくし形駆動を設けることで、適用静電力の振動部材の変位に対する依存が減少し、よって、振動部材の運動における歪みが低減される。静電ベースの駆動手段が好ましいが、代替として、またはこれに加えて、熱駆動手段や圧電駆動手段も使用され得る。
【0027】
好都合には、駆動手段は、感知手段によって生成された電気信号を受け取る正のフィードバック回路を備える。よって、駆動手段は、正のフィードバックループを使って振動部材を共振させるように構成される。すなわち、感知手段によって生成された信号は、正のフィードバック回路によって適切に処理され(例えば、必要に応じて増幅され、および/または移相され)、駆動手段によって(例えば静電気的に)振動力を生成するのに使用される。これは、駆動手段がその共振周波数で振動部材に絶えず振動力を加え続けるようにする。言い換えると、駆動手段による振動部材の自己共振駆動があると言えることになる。また、装置固有の機械的雑音および駆動回路固有の電気的雑音は、装置の起動時に共振を開始させるのに十分であることが見出されていることにも留意すべきである。
【0028】
好ましくは、駆動手段は、固定された振幅の振動力を提供する。言い換えると、駆動手段は、いわゆる「定常駆動モード」で働き、振動部材に対して(例えば、静電駆動電極に対する一定振幅のAC駆動電圧の印加によって)一定の振動力を与える。磁力計モード動作時に磁場がない場合、または磁場勾配計モード動作時に磁場勾配がない場合には、合成ローレンツ力が存在せず、振動部材は、一定の振幅で振動することになる。しかしながら、合成ローレンツ力があれば、磁場強度に直接関連する量だけ振動部材の振動の振幅を変化させる。
【0029】
代替として、駆動手段は、振動部材に対して調整可能な振幅の振動力を与えるようにも構成され、振動力の振幅は、使用中、振動部材の振動の所与の振幅を維持するように調整される。言い換えると、駆動手段は、磁力計がいわゆる「定常振幅モード」で働くように、すなわち、駆動手段によって与えられる振動力が、振動部材がある一定の固定振幅で共振するようにするのに十分であるように構成され得る。磁力計モードと磁場勾配計モードとに、それぞれ、磁場または磁場勾配を適用すると、結果として、駆動手段が、振動部材共振の固定振幅を維持するために加えられる振動力の振幅を変化させることになる。この場合、駆動手段によって加えられる振動力の振幅は、適宜、磁場強度または磁場勾配の測定値を提供する。
【0030】
有利には、電流制御手段によって振動部材に通されるACの周波数は、振動部材の共振周波数と実質的に等しい。このようにして、任意の振動力の共振振幅が最大にされる。
【0031】
有利には、電流制御手段は、振動部材に通されるACを供給する電圧源を備える。振動部材の各電流路に通されるACは独立の電圧源によって提供され得るが、各電流路に沿って通されるACは単一のソースから得られることが好ましい。また、電流制御手段は、第1および第2の電流路に通されるACの振幅が制御可能であるようにも構成され得る。振動部材に適用されるACの振幅を制御すると、装置の感度を調整することが可能になる。所与の磁場強度または磁場勾配で、適用されるACを増大させると、ローレンツ振動力の振幅が増大され、それによって、振動部材の振幅に対する磁場誘導の影響が増大される。駆動手段が設けられる場合には、振動部材の共振特性が磁場誘導の影響なしで評価され得るように、適用されるACの振幅をゼロまで下げることもできる。これは、較正のために品質係数Qが測定されることを可能にする。
【0032】
有利には、電流制御手段は、感知手段によって生成された出力信号を受け取るように構成されたフィードバック回路を備える。よって、振動部材の電流路に通されるAC電流を生成するために、(適切な増幅などを含み得る)フィードバックループが設けられる。AC電流は、振動部材の振動から直接導出されるため、常にその共振周波数に等しい周波数を有する。よって、AC電流を生成する別個の振動源を設ける必要がなく、AC周波数が振動部材の共振周波数を追跡するようにするために従来技術の磁力計において使用される位相ロックループ構成は不要である。よって、結果として生じる装置は、従来技術の装置よりも簡素であり、製造費が安くつく。
【0033】
駆動手段を制御し、かつ振動部材に通されるACを生成するためにフィードバックループを設けることは、磁場に依存しない力が、磁場とACの相互作用によって生成される力に対して、適切に整相されることを保証することに留意すべきである。これは、磁場強度測定の精度をさらに向上させる。
【0034】
有利には、振動部材の第1および第2の電流路は、実質的にまっすぐな導電トラックを備え、好ましくは、第1の電流路を形成する導電トラックは、第2の電流路を形成する導電路と、実質的に平行である。さらに、振動部材を貫通する第1の電流路の長さが振動部材を貫通する第2の電流路の長さと実質的に等しければ有利である。
【0035】
有利には、振動部材を貫通する第1の電流路は、振動部材を貫通する第2の電流路から、5mmより大きく、より好ましくは10mmより大きく、より好ましくは20mmより大きく空間的に隔てられる。電流路間の間隔が大きいほど、装置が磁場勾配計モードで動作するときの磁場勾配に対する感度も大きい。よって、当分野の技術者は、必要な感度の装置を提供するのに必要とされる間隔を選択することができるはずである。
【0036】
好都合には、振動部材は、少なくとも第1および第2の柔軟な脚部分を備え、第1の脚部分は第1の電流路を画定する導電部分を備え、第2の脚部分は第2の導電路を画定する導電部分を備える。また、振動部材は、有利には、実質的に剛直なクロスビームを備え、クロスビームの第1の端部は第1の柔軟な脚部分に接続され、クロスビームの第2の端部は第2の柔軟な脚部分に接続される。好都合には、クロスビームから1つまたは複数の細長い電極が突出する。そのような電極は、静電容量ピックオフ電極を提供し、および/または駆動電極の対電極を提供するのに使用され得る。
【0037】
有利には、クロスビームに、1つまたは複数の追加の柔軟な脚部分が接続され得る。追加の柔軟な脚部分は、ビームにさらなる機械的支持を提供し、第1および第2の脚部分の間隔が大きいときには特に有利である。また、1つまたは複数の追加の柔軟な脚部分は、導電部分も備える。これらもまた、クロスビームに電気的に接続することができ、好ましくは、以下で説明するように、必要とされる分極電圧に保持される。
【0038】
また、クロスビームは、使用中、所与の(DC)分極電圧にも維持され得る。例えば、クロスビームは、第1および第2の脚部分の導電部分の中点と電気的に接触する導電トラックを備え得る。分極電圧(V)プラスΔVが脚部分の一方の端部に印加され、分極電圧(V)マイナスΔVが脚部分の他方の端部に印加される場合、脚部分の中点、すなわち、クロスビームは、分極電圧Vに保持されることになる。これは、脚部分の電流路を通る電流の流れの方向とは無関係に印加され、したがって、クロスビームは、装置が磁力計または磁場勾配モードで動作するときに、必要な分極電圧に保持され得る。振動部材の脚部分に必要なAC電流が流れ、他方、クロスビームが所望のDC分極電圧に保持されるように交流ΔVが印加され得ることに留意すべきである。
【0039】
振動部材は、応力除去ループなど、少なくとも1つの応力除去手段を備えることが好ましい。よって、電流路(例えば、第1または第2の電流路)は、以下で図4a〜bを参照してより詳細に説明するように、応力除去ループの1つまたは複数の導電部分を備え得る。しかしながら、応力除去手段を通る電流路は、通常、総電流路長さに比べればごくわずかであり、よって、電流路に沿った電流の流れの方向を決定するときには無視される。応力除去手段を設けることにより、懸架振動部材が基板に固定されるときに生じ得る座屈および非線形共振効果が低減される。
【0040】
有利には、装置は、微小電子機械システム(MEMS)として形成される。本明細書において、「微小電子機械システム(MEMS)」という用語は、当分野において、「マイクロシステム技術(MST)」、「マイクロロボティクス」および「マイクロ工学装置」という用語で記述されるものを含む、広範な微小電子機械センサおよびアクチュエータを包含するものである。
【0041】
好都合には、振動部材は、基板上に懸架される。振動部材および/または基板はシリコンを含むことができ、シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハおよびガラス基板上シリコン(SOG)ウェハのいずれか1つから形成され得る。好ましくは、振動部材は、基板平面に対して実質的に平行な平面の軸に沿って振動するように構成される。
【0042】
本質的には、実質的に平行に整列された2つの電流路を備え、磁場勾配計モードで動作可能な振動部材を備える磁場センサが提供され、均一な磁場の存在下において、各電流路を通る電流の流れによって生じるローレンツ力が実質的に等しく反対向きであるように、電流路の両端にAC電圧が印加される。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様の少なくとも1つの磁場感知装置を備えるコンパスが提供される。特に、そのようなコンパスは、磁力計および磁場勾配計モードで動作可能な磁場感知装置を備え得る。
【0044】
磁場強度だけが測定される知られているコンパスとは異なり、本発明のコンパスは、さらに、磁場勾配も測定することができる。この追加の測定値は、局在磁場異常でのコンパス方位を修正するのに使用され得る。よって、本発明のコンパスは、様々な磁気環境で使用することができ、正確なコンパス読み取り値を提供するために、例えば、磁石対を使って局在磁場を打ち消すなどの、現場での較正を必要としない。よって、本発明は、苛酷で変わりやすい磁気環境において使用され得る高度に多機能のコンパスを提供する。
【0045】
有利には、コンパスは、3つの磁場感知装置を備え、3つの磁場感知装置のそれぞれは、相互に直交する軸に沿った磁場測定値を獲得するように構成される。さらに、好都合には、処理手段も提供され、処理手段は、必要に応じて、各磁場感知装置を磁力計モードと磁場勾配計モードとの間で切り換え、そこから局在磁場異常が修正されたコンパス方位を求めるように構成される。
【0046】
本発明の第3の態様によれば、慣性測定ユニットは、本発明の第2の態様のコンパスを備える。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、コンパスは、磁場強度を測定する手段を備え、さらに、磁場勾配を測定する手段を備えることを特徴とする。コンパスは、さらにプロセッサを備えることができ、プロセッサは、磁場強度および磁場勾配の測定値を取り、局在磁場異常が修正されたコンパス方位を提供するように構成される。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、磁場感知装置を動作させる方法は、振動部材を備える磁場感知装置を用いるステップと、振動部材に交流(AC)を通すステップとを含み、振動部材が少なくとも第1および第2の電流路を備え、使用中に、第1および第2の電流路に沿ってACが通されることを特徴とする。有利には、方法は、第1の電流路に沿って、第2の電流路と実質的に反対方向にACを通すことを伴う。
【0049】
次に、本発明を、例にとるにすぎないが、添付の図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図1を参照すると、自己共振磁場センサ2が示されている。センサ2は、SOI基板から形成された能動領域4と、関連する制御回路6とを備える。
【0051】
能動領域4は、第1の脚10、第2の脚12、第3の脚14および第4の脚16を有する懸架共振ビーム構造8(すなわち懸架マス)を備える。第1から第4の脚10、12、14、16の各中点は、クロスビーム18によってリンクされている。クロスビーム18は、あまり大幅に質量を付加することなく高度の剛性を提供するように箱形断面として形成される。そのような箱形断面クロスビームを設けることにより、ねじれた振動モードの励起が防止される。第1から第4の脚10、12、14、16のそれぞれの両端は、アンカポイント20を介して基板に物理的に接続され、電気的に接続される。また、各脚の各アンカポイントの近傍には、物理的応力を低減するために、応力除去ループ22も形成される。
【0052】
懸架共振ビーム構造8のクロスビーム部分18は、クロスビーム部分18の両側から直角に突出し、基板の面に位置する複数のフィンガ電極23を有する。静電容量ピックアップフィンガ電極の第1セット24および第2セット26が、基板の、懸架クロスビーム部分18の両側に形成される。装置は、懸架クロスビーム部分18のフィンガ電極23が、フィンガ電極の第1セット24および第2セット26と互いにかみ合うように構成される。電極構成は、懸架共振ビーム構造8の任意の動きが、静電容量として感知されることを可能にする。また、基板には、駆動電極対28も形成され、クロスビーム部分18によって保持される端のフィンガ電極対30の近傍に位置する。
【0053】
使用に際して、装置は、好ましくは、いわゆる「自己共振モード」で動作する。懸架共振ビーム構造8は、駆動電極対28に駆動電圧を印加する静電駆動回路32によって、静電気的に共振状態にされる。共振ビーム構造の運動は、フィンガ電極の第1セット24および第2セット26を使って、微分静電容量ピックアップによって感知される。静電容量ピックオフは、差動増幅器34に供給され、90°移相回路36(または差動回路)を介して、静電駆動回路32に向けられる。このようにして、静電気的に共振ビーム構造8を駆動するのに使用される静電容量ピックオフによって生成される信号を用いて、正の電子フィードバックループ構成が実施される。
【0054】
また、移相器36によって生成される出力信号は、クリッパ電流駆動回路38を介して、差動駆動回路40にも供給される。分極電圧源42も設けられる。差動駆動回路は、第1の脚10の一方の端部に分極電圧(V)プラスΔVを、第1の脚10の他方の端部に分極電圧(V)マイナスΔVを通すように構成される。また、差動駆動回路38の電圧出力はクロスオーバスイッチ44を介して第2の脚12の端部にも通される。分極電圧(V)は、第3の脚14の両端部と第4の脚16の両端部に直接印加される。
【0055】
電圧源回路である差動駆動構成は、第1の脚10に第1の交流(AC)を流し、第2の脚12に第2のACを流すことを可能にする。クロスオーバスイッチ44は、差動駆動電圧(すなわち、V+ΔVおよびV−ΔV)が印加される第2の脚12の端部が必要に応じて選択され得るように構成される。この構成は、クロスビーム18が、フィンガ電極23を介した低雑音静電容量ピックオフを可能にする所望の分極電圧に(すなわち、分極電圧源42によって供給される電圧に)維持されるようにする。懸架装置の抵抗の変動のために、潜在的に電流の流れに不確実性を導入する可能性のあるΔVのレベルを固定することもでき、電流の振幅を一定に保つために電流を監視し、ΔVを変動させることもできる。
【0056】
共振ビーム構造振動の振動振幅は、静電駆動力と、第1の脚10および第2の脚12を通る電流の流れによって生成されるローレンツ力との和に依存する。図1に示す構成において、静電駆動の振幅は、一定に保たれる。すなわち、磁力計は、定常駆動モードで動作する。よって、差動増幅器34の出力は、整流/フィルタ回路46を通った後、振動部材8の運動の振幅に関連する信号線48上に出力を提供する。
【0057】
磁場センサ2は、磁力計として、または磁場勾配計として動作させることができる。
【0058】
磁場勾配計モードでは、クロスオーバスイッチ44は、AC電流が、第1の脚10および第2の脚12に沿って反対方向に通されるように構成される。ACの電流の流れの方向は、明らかに、時間と共に変化することに留意すべきである。よって、反対方向に流れるAC電流の概念は、特定の時点において、第1の脚10を流れる電流の流れが、第2の脚12を流れる電流の流れに対して実質的に反対であることを意味することが、当分野の技術者には理解されるはずである。
【0059】
均一な磁場の存在下において、各電流路によって生成されるローレンツ力は、等しく、かつ反対向きになり、各ローレンツ力は打ち消し合うことになる。この場合、運動の振幅は、純粋に、加えられる静電駆動力によって定義されることになる。しかしながら、近くに磁気異常がある場合、一定の磁場勾配(すなわち、距離と共に変化する磁場強度)を有する磁場が生成される。これは、第1の脚に対して与えられるローレンツ力の強さを第2の脚に対して与えられるローレンツ力の強さと異ならせ、静電駆動力によって生成される運動の振幅を増大させ、または減少させる合成ローレンツ力が生成されることになる。言い換えると、磁場勾配は、磁場勾配に関連する共振ビーム8に対して振動力を与えさせる。
【0060】
磁力計モードでは、クロスオーバスイッチ44は、電流が第1の脚10と第2の脚12に沿って、同じ方向に通されるように構成される。この場合、共振ビーム8に与えられる振動力は、第1および第2の脚における磁場強度の強さに依存する。よって、絶対磁場強度が測定され得る。このモードでは、装置は、発明者らの国際(PCT)特許出願PCT/GB2004/004017に記載されている磁力計と類似の方式で動作する。クロスオーバスイッチ44を設けるのではなく、磁力計モードで動作するときに、第2の脚12の両端に分極電圧を印加するようにスイッチを設けることもできることに留意すべきである。その場合、第1の脚を流れる電流と、適用される磁場強度の相互作用が、共振ビームに与えられるローレンツ力を決定することになる。
【0061】
前述のように、センサは、測定される最大の磁場(磁力計モード)、または最大の磁場勾配(磁場勾配計モード)が適用されるときに装置が共振し続けるように、十分に高い静電駆動レベルが選択される定常駆動モードで動作し得る。言い換えると、適用磁場と静電駆動によって誘導される合力は、常に、懸架共振ビームをそのエンドストップに達せさせる(hit)ことなく、共振を維持するのに十分な高さである必要がある。適用磁場が共振を停止させ、またはビームをそのエンドストップに達せさせた場合でも、装置は、通常、損傷を受けることがなく、磁場強度/勾配またはAC電流が低減されたときに(再較正を必要とせずに)再度正常に動作することに留意すべきである。
【0062】
定常駆動モードで動作するのではなく、センサは、振動の振幅を一定に保つために静電駆動信号の振幅を変動させる制御ループを備えることもできる。すなわち、センサは、定常振幅モードで動作し得る。その場合、印加駆動電圧の振幅は、装置に適用される磁場強度(磁力計モード)または磁場勾配(磁場勾配計モード)の指示を提供する。
【0063】
前述の静電容量ピックオフ構成は、いわゆる変位電流検出器である。そのような構成では、分極電圧は適切なDCレベルに固定され、増幅電子回路(例えば、差動増幅器34など)は、装置の共振周波数で作動する。統合ユニットや特定用途向け集積回路で通常使用されるはずのCMOSピックオフ増幅器では、この動作周波数は、増幅器の1/f雑音内であり、よって、装置の信号対雑音比が低減される。
【0064】
これらの1/f雑音の影響を低減するために、高周波数(1MHzなど)のプローブ信号を使って静電容量が感知され得る。この状況において、「高周波数」とは、増幅器の1/f雑音領域を十分上回り、かつ振動構造の機械的応答をも十分上回る周波数である。分極電圧源42によって生成される分極電圧が高周波数プローブ信号になり、静電容量ピックオフの出力は、適切な利得の後、復調およびフィルタリングを必要とする。そのようなシステムのフィードバックループは、前述のベースバンド実装に関して、90°移相回路36に置き換わる180°移相手段(図示せず)を備えるものとして完了される。
【0065】
本発明の磁気センサは、コンパスシステムでの使用に非常に適している。コンパスは、好ましくは、3つの相互に直交する軸に沿った磁場強度(磁力計モード)および/または磁場勾配(磁場勾配計モード)を測定するように構成された3つの磁気センサを備える。短距離では、地球の磁場は事実上均一であり、他方、局在磁気異常は点源として働き、よって、著しい磁場勾配を有する傾向にある。3つの直交する磁場勾配測定値からの磁場勾配ベクトルの決定が、磁場強度測定値と組み合わされると、磁気異常の影響を、地球の磁場の影響から分離させることが可能になるはずである。言い換えると、局在磁気異常のコンパス方位に対する影響は、本発明のセンサを使って磁場強度と磁場勾配の両方を測定することで修正され得る。
【0066】
センサをコンパスとして動作させるのに必要な品質係数(Q)を獲得するために、センサは、減圧環境でパッケージされる。Q係数は、共振挙動の強さの尺度であり、感度および帯域幅に影響を及ぼす圧力に大きく依存する。この装置の別の利点は、これが、較正のためにQを直接測定する目的にも使用され得ることである。ビーム構造に通されるAC電流が切られた場合、駆動電極28を介して静電駆動回路40によって与えられる静電力だけが、懸架共振ビーム構造8を共振させるように働くことになる。そのような場合、振動運動の振幅(または定常振幅モードで動作している場合には加えられる駆動力)はQに関連するものになる。
【0067】
また、2つ以上の同等の装置を、1つをQの測定に、1つを磁気センサとして、同時に使用するのも有利であると考えられる。また、較正は、装置の周囲のウェハ上に形成された平面コイルを含めることによっても獲得され得る。平面コイルを介して供給される知られている電流は、装置において知られている磁場および/または磁場勾配を生成することになる。
【0068】
図2a〜cを参照すると、本発明の磁力計に含めるのに適したいくつかの代替の静電容量ピックアップ構成が示されている。図2bに、図1の装置で用いられる構成を示し、図2aおよび2cに、代替の構成を示す。
【0069】
図2aには、Izhamらによって記載されている種類の、いわゆるシングルエンドピックアップ構成を示す。懸架クロスビーム80は、2組の基板フィンガ電極84および86と相互にかみ合ういくつかのフィンガ電極82を備える。y方向のクロスビーム80の運動は、構成の静電容量を変化させ、クロスビーム変位の指示を提供する。この構成の欠点は、駆動回路貫通からのビーム運動および周囲の電気回路の電気的影響のために電気信号を分離するのが難しいことである。
【0070】
図2bに示す(図1を参照して前述したものに類似した)作動ピックアップ構成は、より低いレベルの関連雑音を伴う測定を行うことを可能にする。クロスビーム8は、相互に対して側方に片寄らせた2組のフィンガ電極24、26の間に位置する。クロスビーム8の運動は、一方の組のフィンガ電極、例えば、電極24からの、他方の組の電極26によって提供される運動誘導信号と位相のずれた運動誘導信号を生成することになる。対照的に、電極24、26のそれぞれによって生成される信号に関連付けられる雑音は、明らかに、同調する。その結果、電極24および26によって生成される信号を差し引くことにより、不要なバックグラウンド雑音の大部分が取り除かれ、クロスビーム運動によって誘導される信号が付加される。差動ピックアップ構成が好ましいのはこのためである。
【0071】
図2cに、基板に形成された2組のフィンガ電極92および94のそれぞれが2つに分割されている別の差動ピックアップ構成を示す。これは、両側が対称であり、それによって、ピックアップ回路によって生成される静電力の平衡を保ち、ねじり運動を与えないようにする電極構成が提供される。
【0072】
以上では、図1に示す装置の懸架共振ビーム構造8が、基板に形成された駆動電極対28およびクロスビーム18によって保持される対応するフィンガ電極対30を使ってどのようにして静電気的に駆動され得るかを説明している。図3に、静電くし形駆動構成が用いられる別の実施形態の一部を示す。
【0073】
図3の構成において、クロスビーム18は、複数のフィンガ電極を備える電極構造230を保持する。対応する駆動電極228が基板上に形成される。基板の細長い駆動電極228は、電極構造230のフィンガ電極と互いにかみ合い、よって、静電くし形駆動を提供する。くし形駆動構成は、適用される静電力の変位依存を最小にすると共に、懸架ビーム構造18の運動における歪みも低減する。当分野の技術者は、本発明の装置で使用され得る様々な代替の駆動構成も理解するはずである。
【0074】
図1を参照して説明したように、本発明の磁気センサは、応力除去ループを組み込んだ懸架装置(すなわち、懸架共振ビーム構造8)を備える。次に図4a〜bを参照すると、共振磁力計で使用するのに適した2つの機械的応力除去構造が示されている。
【0075】
図4aに、中央のマス102を支持し、アンカポイント104で基板に固定されている共振ビーム100を示す。応力除去ループ106は、懸架装置の各端部に位置し、振動部材を貫通する電流路の一部を形成している。図4aに示す応力除去ループは、適用磁場によって誘導される力に影響を及ぼさずに応力除去を行うと同時に、懸架装置をはるかに直線的に動作させるようにもするという二重の利点を有する。
【0076】
ループの代わりに、図4bに示すように、共振ビーム100の各端部に折曲がり108を形成することもできる。各折曲がり108は、電流が各方向に流れる距離が等しくなるように構成される。これは、折曲がり108に沿って流れる電流と適用磁場との相互作用により生じるローレンツ力が相殺し合うようにする。
【0077】
MEMS装置ではこれまで様々な応力除去手段が使用されているが、標準的な折曲がり懸架装置の使用は適さないはずである。というのは、両方向(すなわち、折曲がりの上りと下り)に流れる電流によってローレンツ力を打ち消し合うはずだからである。よって、図4a〜bに示す種類の応力除去手段の形成は、磁力計装置一般、特に、Izhamらの装置に伴ういくつかの問題を解決する。第1に、基板中の応力がビームを座屈させ、装置を故障させることがある。応力は、パッケージと装置の間の熱の不整合によって、また、SOIの製造時からの残存応力によっても生じ得る。応力除去手段は、この座屈が生じるのを防止する。第2に、両端固定ビームの剛性は振幅と線形関係にはなく、したがって、共振周波数を、振動の振幅と共に変化させる。応力除去ループまたは折曲がりを設けることにより、この非線形性が低減される。
【0078】
図5a〜eを参照すると、本発明による装置の製造が示されている。
【0079】
図5aに、機械的シリコン層120、犠牲酸化物層122およびハンドルウェハ124を含むSOI基板を示す。図5bに示すように、シリコン層120上に酸化物層124が蒸着され、マスクを画定するようにエッチングされる。図5cを参照すると、機械シリコン層120が、マスク酸化物層126を介して犠牲酸化物層122までどのようにしてエッチングされるかが示されている。次いで、図5eに見られる低オーム導体を形成するように金属層128で全体が被覆される前に、図5dに示すように犠牲酸化物の一部を取り除くことによって機械シリコン層120に形成された懸架構造が遊離される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の磁場センサを示す図である。
【図2a】図1に示す種類のMEMS磁力計で用いられ得るいくつかの電極構成を示す図である。
【図2b】図1に示す種類のMEMS磁力計で用いられ得るいくつかの電極構成を示す図である。
【図2c】図1に示す種類のMEMS磁力計で用いられ得るいくつかの電極構成を示す図である。
【図3】図1に示す種類のMEMS磁力計で用いられ得る静電くし形駆動構成を示す図である。
【図4a】磁力計性能を改善するためのループビームの使用を示す図である。
【図4b】磁力計性能を改善するための折曲がりビームの使用を示す図である。
【図5a】本発明の装置がSOIプロセスを使ってどのようにして製造され得るか示す図である。
【図5b】本発明の装置がSOIプロセスを使ってどのようにして製造され得るか示す図である。
【図5c】本発明の装置がSOIプロセスを使ってどのようにして製造され得るか示す図である。
【図5d】本発明の装置がSOIプロセスを使ってどのようにして製造され得るか示す図である。
【図5e】本発明の装置がSOIプロセスを使ってどのようにして製造され得るか示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部材と電流制御手段とを備え、電流制御手段が、振動部材を貫通して設けられた少なくとも第1および第2の電流路に沿って交流(AC)を通すように構成されている磁場感知装置であって、電流制御手段が、第1の電流路を通る電流の流れが、第2の電流路を通る電流の流れに対して実質的に反対方向である磁場勾配計モード動作を提供するように構成されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
電流制御手段が、さらに、第1の電流路を通る電流の流れが、第2の電流路を通る電流の流れと実質的に同じ方向である磁力計モード動作を提供するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
電流制御手段が、さらに、ACが第1の電流路だけに通される磁力計モード動作を提供するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
電流制御手段が、必要に応じて磁場勾配計モードと磁力計モードのどちらか一方に切り換わるモードセレクタを備える、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
振動部材の振れに応じて出力信号を提供する感知手段をさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
感知手段が、基板上に位置し、振動部材に応じた可変静電容量を有する少なくとも1つのセンサ電極を備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
感知手段が、基板上に位置する複数の細長いセンサ電極を備え、振動部材が、前記複数の細長いセンサ電極と互いにかみ合わさった複数の細長い電極を備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
振動部材の電極が、所定の直流(DC)分極電圧に維持される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
高周波数AC分極電圧が振動部材の電極に印加される、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記複数のセンサ電極が、電気的に2組の電極セットを形成するように接続され、2組の電極セットは、微分静電容量ピックオフを提供するように構成されている、請求項7から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
振動部材に磁場に依存しない振動力を与えるために駆動手段がさらに設けられている、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
振動部材が基板上に搭載され、駆動手段が、振動部材に振動力を静電気的に与えるために基板上に形成された少なくとも1つの駆動電極を備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
駆動手段が、基板上に形成された複数の第1の細長い駆動電極を備え、振動部材が複数の第2の細長い駆動電極を備え、第1の細長い駆動電極が、第2の細長い駆動電極と互いにかみ合わさっている、請求項12に記載の磁力計。
【請求項14】
駆動手段が、感知手段によって生成される出力信号を受け取る正のフィードバック回路を備える、請求項5に従属する請求項11から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
駆動手段が固定振幅の振動力を提供する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
駆動手段が、振動部材に調整可能な振幅の振動力を与えるように構成され、駆動手段によって加えられる振動力の振幅が、使用中に、振動部材の振動の所与の振幅を維持するように調整される、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
電流制御手段によって振動部材に通されるACの周波数が、実質的に、振動部材の共振周波数に等しい、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
電流制御手段が、振動部材に通されるACを供給する電圧源を備える、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
電流制御手段が、感知手段によって生成される出力信号を受け取るように構成されているフィードバック回路を備える、請求項5に従属する請求項18に記載の装置。
【請求項20】
振動部材の第1および第2の電流路が、実質的にまっすぐな導電トラックを備える、請求項1から19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
第1の電流路を形成する導電トラックが、第2の電流路を形成する導電路に対して実質的に平行である、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
振動部材を貫通する第1の電流路の長さが、振動部材を貫通する第2の電流路の長さと実質的に等しい、請求項1から21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
振動部材を貫通する第1の電流路が、振動部材を貫通する第2の電流路から、5mmより大きく空間的に隔てられている、請求項1から22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
振動部材が、少なくとも第1および第2の柔軟な脚部分を備え、第1の脚部分が第1の電流路を画定する導電部分を備え、第2の脚部分が第2の電流路を画定する導電部分を備える、請求項1から23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
振動部材が実質的に剛直なクロスビームを備え、クロスビームの第1の端部が第1の柔軟な脚部分に接続され、クロスビームの第2の端部が第2の柔軟な脚部分に接続されている、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
1つまたは複数の追加の柔軟な脚部分がクロスビームに接続されている、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
1つまたは複数の細長い電極がクロスビームから突出する、請求項25または26に記載の装置。
【請求項28】
クロスビームが、使用中、所与の分極電圧に維持される、請求項25から27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
振動部材が、少なくとも1つの応力除去手段を備える、請求項1から28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
少なくとも1つの応力除去手段が、応力除去ループを備える、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
微小電子機械システム(MEMS)として形成された、請求項1から30のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
振動部材が基板上に懸架されている、請求項1から31のいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
振動部材が、基板の面に実質的に平行な面の軸に沿って振動するように構成されている、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
基板および振動部材が、シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハとガラス基板上シリコン(SOG)ウェハのいずれか1つから形成されている、請求項32または33に記載の装置。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項に記載の少なくとも1つの磁場感知装置を備えるコンパス。
【請求項36】
請求項4または請求項4に直接的または間接的に従属する請求項5から34のいずれか一項に記載の少なくとも1つの磁場感知装置を備えるコンパス。
【請求項37】
3つの磁場感知装置を備え、3つの磁場感知装置のそれぞれが、相互に直交する軸に沿った磁場測定値を獲得するように構成されている、請求項36に記載のコンパス。
【請求項38】
処理手段をさらに備え、処理手段が、必要に応じて各磁場感知装置を磁力計モードと磁場勾配計モードとの間で切り換え、そこから、任意の局在磁場異常が修正されたコンパス方位を求めるように構成されている、請求項37に記載のコンパス。
【請求項39】
請求項35から38のいずれか一項に記載のコンパスを備える慣性測定ユニット。
【請求項40】
コンパスが、磁場勾配を測定する手段をさらに備えることを特徴とする磁場強度を測定する手段を備える、コンパス。
【請求項41】
プロセッサをさらに備え、プロセッサが、磁場強度および磁場勾配の測定値を取り、局在磁場異常が修正されたコンパス方位を提供するように構成されている、請求項40に記載のコンパス。
【請求項42】
振動部材を備える磁場感知装置を採用するステップと、振動部材に交流(AC)を通すステップとを含む、磁場感知装置を動作させる方法であって、振動部材が、少なくとも第1および第2の電流路を備え、使用中に、少なくとも第1および第2の電流路に沿ってACが通されることを特徴とする、方法。
【請求項43】
ACが、第1の電流路に沿って、第2の電流路に対して実質的に反対方向に通される、請求項42に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【公表番号】特表2007−517209(P2007−517209A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546299(P2006−546299)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005267
【国際公開番号】WO2005/062064
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】