説明

磁性を有する高比強度マグネシウム機能性材料

【課題】軽量化を達成すると同時に硬度及び高比強度であり、磁性が付与された新規な複合焼結固化された磁性体の提供。
【解決手段】粉状の純マグネシウム(90〜50重量%)および粉状のNi−Cu−Znフェライト(10〜50重量%)(合計100重量%)を、不活性気体の存在下、ステアリン酸と供にメカニカルアロイングし、前記純マグネシウム中に粉状の純マグネシウムが分散された磁性体混合物を得た後、純マグネシウムおよびフェライト混合物を放電プラズマ焼結することにより得られることを特徴とするマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性を有する高比強度マグネシウム機能性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属基複合材料(以下MMCとも言う)は、マトリックス金属中にセラッミクスなどの強化材を分散させ、強度や剛性などの機械的特性や耐摩耗性や熱伝導率などの機能性の向上を目指す材料である。従来の研究によれば、MMCは、機械的特性、耐摩耗性や熱伝導率などの物理的および機械的特性の向上を図ったものが多い。具体的には、SiC、Al3、AlN、TiCなどの硬質な強化材を添加することによるMMCを挙げることができる。
磁気特性などの機能性の付与を意図した発明(特許文献1 特開2006−257513号公報)である磁性アルミニウム複合磁性体の発明を挙げることができる。この発明では、「熱伝導性は、29W/km〜37.61W/km」となる。その結果、「本熱伝導性が上記範囲であると、本発明の磁性アルミニウム複合体は、マルテンサイト系ステンレス鋼と熱的接合性を同等のものとすることができる。すなわち、本発明の磁性アルミニウム複合体と鉄鋼材料等との溶接による接合を想定した場合、熱の流出がなく、入熱を効率よく母材の溶解に消費できるため、良好な溶接が可能となる。」(0027)ことを述べている。用途は溶接などの分野を意図し、物理的特性と磁気的特性の向上を意図し、容器の用いる構造材としての利用を意図しているものではない。フェライトには、ストロンチウムフェライトを用いている。
本発明者らは、純アルミニウム粉末にNi−Cu−Znフェライト粉末を添加し,メカニカルアロイング(以下MA)処理を施して得られた複合粉末を放電プラズマ焼結(以下SPS)法で固化成形することであり、この場合には、軽量,高硬度、強磁性を有するアルミニウム基複合材料の創製に成功している(非特許文献1 軽金属第59巻12号(2009)、p666〜671)。
【0003】
本発明者らは、アルミニウムとは異質の金属であるマグネシウムとフェライト磁性体の発明の必要性を考慮して、高比強度マグネシウムフェライト磁性体について研究することとした。
純マグネシウムは強度が100MPa以下と非常に低く、他の軽金属であるアルミニウム合金の強度と比べても非常に低い。しかしながら、マグネシウムの比重は約1.8で、アルミニウムの3分の2、鉄の4分の1であり、実用金属のうち最も軽量である。又、マグネシウムはその取り扱いがアルミニウムに比較して困難なことも知られている。現状において、アルミニウムに換えて純マグネシウムを用いることは、輸送機器をはじめとする各技術分野を見ても、従来皆無の状況である。軽量という点では有利な特性を有する反面、強度が低いということで、使用しにくい材料として意識されていることがわかる。
しかしながら、このような技術的な状況下にあっては、純アルミニウムとその他の成分からなる金属の材料の組み合わせの合金に対して、純アルミニウムを単純にマグネシウムに置換えてマグネシウム合金を得るということおよびその結果、好ましい結果を得ることができることが予想できることはないであろう。
【0004】
純マグネシウム問題点である強度を向上させることを意図するならば、一般的に行われる溶解・鋳造法により、合金を作製する方法を用いることが考えられる。この方法による作製方法では工程が煩雑であり、溶解させることが必要となる。又、マグネシウムを用いる場合には燃焼の危険も伴う。さらに、マグネシウムと磁性材料を複合させる場合を考えると融点差、密度差があることにより、均一な状態とすることは難しい。溶解・鋳造法により成功することは容易なことではない。又、例え、複合化ができた場合であっても、磁性材料をマグネシウム中に均一に分散させることは溶解・鋳造法による場合では困難が伴う。
【0005】
以下にマグネシウムおよびマグネシウム合金とフェライトについての従来例を見てみると以下の通りである。
粉状又は小塊状マグネシウム合金と粉状ないし小塊状のフェライトをフェライトの割合を20〜50質量%となるように混合し、700〜800℃で焼成する(特許文献2 特開2006−7049号公報)。この発明はマグネシウム合金の切削屑を利用するものである。マグネシウムの酸素供給源としてフェライトを用いることによりマグネシウムの急峻な反応を抑制してマグネシウム合金を処理して吸着分解剤を得ることを目指している。安全な処理を意図するものであり、吸着特性および排煙脱硫用触媒特性などの機能性を期待するものである。板材などの形状である磁性材料や磁性材料による構造材としようとすることは期待していない。前記したような材料の開発は意図していない。
マトリックス金属としてマグネシウム、アルミニウム、亜鉛又はそれらの合金を用いること、多孔質プリフォームは連続気孔を持ち、空隙率が80%以上であり、空隙サイズの平均直径が0.1mm以上であること、および473K以上に予熱された多孔質プリフォームを金型内に収容し、マトリックス金属の溶湯のダイカスト鋳造法、低圧鋳造法又は重力金型鋳造法により多孔質プリフォームの空隙中に充填する(特許文献3 特開2008−266023号公報)。磁性材料や磁性材料として材料強度の向上を意図していない。
FeをFe換算で35mol%以上45mol%以下、MgをMgO換算で5mol以上10mol%以下、その他各金属をNiO、CuO、MnO、SiO換算で含むフェライト焼結体(特許文献5 特開2008−207988号公報)。各種酸化物を含む粉体として、嵩密度の高いフェライトを得ることができ、成形時のクラックの発生を防止できる。
第一磁性層(Fe又はこれを含むスピネル型又は逆スピネル型のイオン結晶構造を持つ酸化物からなる)および第二磁性層(単体で強磁性を有する金属層であるFeを含む合金)が磁気的に反平行状態で結合している磁気記録媒体であり、非磁性層(MgO)を介して組み立てられている磁気記録媒体(特許文献6 特開2008−293556号公報)。この発明では、Mgとフェライトが混ざり合って焼結体を形成しているものではない。
純マグネシウムおよびMg−Al系合金と金属酸化物(MnO2・Fe)のメカニカルアロイング(非特許文献2 軽金属、52pp.421−425(2002))について言及されている。この論文では純マグネシウムの強度を向上させるために酸化物粒子のMnOやFeを純マグネシウム中に分散させた複合粉末をメカニカルアロイング法により作製し、ホットプレスと熱間押出を組み合わせた工程数が多く、長時間かかる方法で材料を作製している。この点で本発明者らが現在取り組んでいる方法とは相違する。本論文では作製した材料の強度特性のみを評価し、磁気特性を全く意図していないため、磁気特性に関する結果は全く含まれていない。
【0006】
最初に述べたとおり、純マグネシウムは金属の中で最も軽量であるという特性に着目し、この特性を生かしつつ、有純マグネシウムがその特性として有していない磁性体とし、併せて高比強度とすることは、新しい材料を創造ということになる。また磁性体であり、軽量化が達成されており、併せて高比強度ということで、新たな用途を切り開くことも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−257513号公報
【特許文献2】特開2006−7049号公報
【特許文献3】特開2008−266023号公報)
【特許文献4】特開2008−207988号公報
【特許文献5】特開2008−293556号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】軽金属 第59巻 第12号(2009)、p666〜671)
【非特許文献2】軽金属 第52巻 第7号(2002)、 p421−425)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、軽量化を達成すると同時に硬度及び高比強度であり、磁性が付与された新規な複合焼結固化された磁性体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題について研究し、以下のことを見出して本発明を完成させた。
(1)純マグネシウム粉末とNi−Cu−Znフェライト粉末の混合物を、フェライトにマグネシウムが十分に被吸着されている状態とし、メカニカルアロイングすることにより硬度が向上したフェライトをマグネシウム中に混合させて磁性混合体を予め製造し、従来困難とされていた、融点は高温であり、密度が高い磁性材料であるフェライトと、磁性材料に比較して融点は低温であり、密度が低いマグネシウムとを均一に混合した状態の磁性体混合体を得ることができ、これを前駆体として放電プラズマ焼結することにより、マグネシウムとフェライトの複合焼結固化された磁性体を得ることができる。
(2)具体的には本発明は以下の通りである。
(ア)粉状の純マグネシウム(90〜50質量%)および粉状のNi−Cu−Znフェライト(10〜50質量%)(合計100質量%)をステアリン酸の存在下にメカニカルアロイングし、前記純マグネシウム中に粉状の純マグネシウムが分散された磁性体混合物を得た後、純マグネシウムおよびフェライト混合物を放電プラズマ焼結することにより得られることを特徴とするマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体。
(イ)粉状の純マグネシウム(90〜50質量%)および粉状のNi−Cu−Znフェライト(10〜50質量%)(合計100質量%)をステアリン酸の存在下にメカニカルアロイングし、前記純マグネシウム中に粉状の純マグネシウムが分散された磁性体混合物を得た後、純マグネシウムおよびフェライト混合物を放電プラズマ焼結することを特徴とするマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粉状の純マグネシウムおよび粉状のNi−Cu−Znフェライトをメカニカルアロイングしてマグネシウム中にフェライトを混合させた硬度が向上した磁性体混合物とし、この混合物を放電プラズマ焼結することによりマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体を得ることができ、粉状の純マグネシウムおよび粉状のNi−Cu−Znフェライトのメカニカルアロイングを長く行うことにより、軽量化された高い飽和磁化および保磁力を有する磁性体を得ることができる。この合金は高比強度であり、高い磁気特性を有する。材料の分野で進められている、軽量構造が必要で、かつ、磁性を有する分野への新しい材料を提供することが可能となる。現在使用されているマグネシウム合金、鉄鋼系の磁性材料の代替材料となりえる。高周波および電磁波吸収材やそれらのシールド材等への適用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フェライトおよび純マグネシウムをメカニカルアロイングした後、焼結して得られるマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体の硬度を測定した結果を示す図である。
【図2】フェライトおよび純マグネシウムをメカニカルアロイングした後、マグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体の飽和磁化および保磁力の関係を示す図である。
【図3】放電プラズマ焼結装置を示す図である。
【図4】メカニカルアロイング処理時間の変化に伴うメカニカルアロイング粉末の硬さを示す図である。
【図5】メカニカルアロイング処理時間の変化に伴う純マグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト粉末焼結固化磁性体の飽和磁化および保持力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
マグネシウムの比重は約1.8で、アルミニウムの3分の2、鉄の4分の1と実用金属のうち最も軽量である。
本発明の原料となるマグネシウムの製造方法は、熱還元法と電解法の2つの方法により得ることができる。熱還元法は、酸化マグネシウムに還元剤を添加して減圧下で高温に加熱し製錬する方法である。電解法は、主に海水などを原料に塩化マグネシウムを得て、これを電解して精製する。熱還元法は純度がよく、電解法はコストが安い。多くは電解法で製錬されている。本発明では電解法により製造されたものを使用できる。
本発明では、粉末の純マグネシウムを用いる。純マグネシウムは前記通常の製法で製造されるマグネシウムを用いる。本発明の純マグネシウムは不可避的不純物を含むマグネシウムを用いるものである。純マグネシウム微粉末の平均粒子径は1μm以上5μm程度である。
【0014】
本発明では、不可避的不純物を含むフェライト微粉末を用いる。具体的には、スピネルフェライト(スピネルフェライト型結晶構造を持つ。組成式はAFe(Aは、Mn、Co、Ni、Cu、Zn等で示される。)を用いる。これはソフトフェライトである。この中でもNi−Cu−Znフェライトを用いる。Ni−Cu−Znフェライト粉末(本発明で用いる組成は(Fe49.41(ZnO)32.09(NiO)12.71(CuO)5.79)である。市販の製品のものを使用する。
平均粒子径は1μm以上5μm程度である。
【0015】
メカニカルアロイング(以下、MAとも言う)の条件は以下の通りである。
以下の表1に本研究で用いた供試材の材料記号、配合組成、MA処理時間を示す。純マグネシウム粉末(純度:99.91%,平均粒子径:275.9μm)およびNi−Cu−Znフェライト粉末(組成:(Fe49.41(ZnO)32.09(NiO)12.71(CuO)5.79,平均粒子径:4.3μm)を以下の表1に示す組成になるように配合し、粉末の総量を10gとした。潤滑材としてステアリン酸(組成:CH(CH16COOH)を、粉末の総量の5%〜10質量%の範囲(本事例ではこの範囲中、0.75gを特定して行った。)で添加し、MA容器にアルゴン(燃焼のおそれを除くためにアルゴンを使用)を封入後、振動型ボールミルを用いて所定の時間にわたり、MA処理を行った。
【0016】
【表1】

【0017】
メカニカルアロイングによる粉末硬さは、エメリー紙で研磨した後、バフ研磨で鏡面仕上げした面を測定面とし、それぞれマイクロビッカース硬度計およびビッカース硬度計を用いて測定した。X線回折(XRD)装置を用いて化合物相の同定を行った。測定は40kV、60mAの強度でCuKα線を用いて回折速度1.66×10−2 deg/s、回折角度2θ=20°〜80°の条件で行った。
メカニカルアロイング粉末の飽和磁化[Wbm/kg]および保磁力[A/m]は,振動試料型磁力計(VSM)を用いて800kA/m、40kA/mの磁界中で測定した。SPS材は6×4×1mmに加工し測定した。アルキメデス法によってSPS材の密度を求めた。測定した密度および理論密度との比から相対密度を算出した。
【0018】
メカニカルアロイング処理時間の変化に伴うメカニカルアロイング粉末の硬さの変化を図4に示す。
メカニカルアロイング粉末の硬さは、メカニカルアロイング処理の初期段階である12MGFRから14MGFRにかけて増加した。その後、18MGFRでは一定値を示した。これは、メカニカルアロイング処理中に発生する摩擦熱による動的回復と加工ひずみの導入がバランスしたためと考えられる。
メカニカルアロイング処理時間の変化に伴うNi−Cu−Znフェライト粉末および純マグネシウムの飽和磁化および保磁力を図5に示す。メカニカルアロイング処理前のNi−Cu−Znフェライト粉末の飽和磁束密度は0.36Wb/mを示し、メカニカルアロイン処理によってその値に変化はなかった。
これは、飽和磁化が組成依存型の特性を示すためである。同様に、Mg−10質量%FR粉末の飽和磁化は、メカニカルアロイング処理による影響は認められず、Ni−Cu−Znフェライト粉末の添加量に相当した値が得られた。Ni−Cu−Znフェライト粉末の保磁力はメカニカルアロイング処理前で1.4kA/mを示し、メカニカルアロイング処理時間の増加に伴い増加する傾向を示し,メカニカルアロイング8hで11.1kA/mを示した。ここで、保磁力の値が増加するということは軟磁気特性が劣化することを意味している。保磁力は構造依存型の特性であり、粉末の結晶子が微細化されるとその値は向上する。すなわち、メカニカルアロイング処理時間の増加に伴い粉末の結晶子微細化が促進したため、保磁力は向上した。同様に、Mg−10質量%FR粉末の保磁力も、メカニカルアロイング処理時間の増加に伴い増加する傾向を示した。Ni−Cu−Znフェライト粉末よりも低い値を示した。これは、Mg−10質量%FR粉末中に存在するNi−Cu−Znフェライトの結晶子微細化が抑制されていることを示唆している。
【0019】
メカニカルアロイング粉末の硬さは、メカニカルアロイング処理4hまで効果的に硬さが増加する。その後、ほぼ一定値を示した。メカニカルアロイング粉末の飽和磁化は、メカニカルアロイング処理時間に関わらず添加量に相当した値が得られた。保磁力は、処理時間が長くなるにつれて劣化した。
【0020】
前記の純マグネシウムおよびフェライト混合物をメカニカルアロイングして得られるビッカース硬度が向上させた後に、放電プラズマ焼結法を用いて焼結処理を行う。
純マグネシウムおよびフェライト混合物をメカニカルアロイングした混合物を焼結するための装置を図4に示した。
純マグネシウムおよびフェライト混合物をメカニカルアロイングした混合体1を、成形用型21内に充填し放電プラズマ焼結装置にセットした後、放電プラズマ焼結法により放電プラズマ焼結法(以下、マグネシウムとNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体、SP材とも言う)を得る。
【0021】
放電プラズマ焼結装置は、真空チャンバー20と、上下一対の加圧ラム24、25と、パルス電圧を発生させる焼結用電源32と、加圧ラム24、25を昇降駆動する油圧式の加圧駆動機構33と、これらを制御する制御部31とを有している。
【0022】
前記の純マグネシウムおよびフェライトをメカニカルアロイングした混合体1を装入した成形用型21は、真空チャンバー20内の加圧ラム24、25間にセットされる。
真空チャンバー20内を真空ポンプ22により脱気し、真空状態(減圧状)あるいは真空チャンバー20内を不活性ガス雰囲気として焼結を行う。
これによって、真空チャンバー20内の酸素、窒素、水素等と純マグネシウムおよびフェライト混合物1の被焼結物に含まれる反応性の高い成分等とが反応し、焼結体に好ましくない影響を及ぼすことを回避できる。
【0023】
制御部31は、成形用型21に設置された図示しない温度センサー(熱電対)により検出される材料温度が予め設定された昇温曲線と一致するように焼結用電源32の出力を制御する。また、制御部31は、加圧駆動機構33および真空ポンプ22の駆動を制御する。
【0024】
上下一対の第1の押圧子26、第2の押圧子27は、各々加圧ラム24および25に固定されており、加圧ラム24、25内に設けられた給電端子(図示せず)により焼結用電源32と電気的に接続されている。加圧駆動機構33の作動により、加圧ラム24、25を互いに接近する方向に移動し、これらに固定された第1の押圧子26、第2の押圧子27で微粉状の純マグネシウムおよびフェライト混合物1を圧縮する。
【0025】
微粉状の純マグネシウムおよびフェライト混合物1の圧粉体と第1の押圧子26および第2の押圧子27との間には、各々断熱材28,29を介在させることが好ましい。これにより、電流が第1の押圧子26又は2の押圧子27に集中した場合、加熱した第1の押圧子26又は第2の押圧子27から微粉状の粋マグネシウムおよびフェライト混合体の圧粉体への熱の拡散が遮断され、局所的な加熱および高温化を防止する。したがって、微粉状の純マグネシウムおよびフェライト混合体1の圧粉体の焼結時の温度が均一化され、均質で高品位な焼結体を得ることができる。
【0026】
さらに、断熱材28および29と、微粉状の粋マグネシウムおよびフェライト混合物1の圧粉体と第1の押圧子26、第2の押圧子27との間には各々カーボンシートを介在させることが好ましい。
【0027】
放電プラズマ焼結は、第1の押圧子26、第2の押圧子27を通してパルス電圧を印加し、圧縮通電系を加熱する。焼結系の温度が所定温度に達したら、かかる温度で一定時間保持し、複合体を形成する。
【0028】
焼結温度は適宜採用できる。本発明では(673〜873)Kの範囲で焼結を行った。通常、焼結温度は600〜1200K程度の範囲で行うことができる。600K以下であると十分な焼結による効果が得られないことがある。1200Kを超える場合には、焼結が進みすぎて適当でない場合がある。焼結温度はフェライト粉末を分解させないことが必要であるとの認識の下に焼結温度と処理時間を変化させた条件下に純マグネシウムおよびフェライト混合物のメカニカルアロイングした混合物を焼結して、焼結体を得たものである。
処理時間は2時間、4時間および8時間行った。圧力は40〜60MPaの範囲であれば問題なく、49MPa程度で行った。
前記メカニカルアロイング操作で得られたメカニカルアロイング粉末を、黒鉛ダイス(外径:50mm,内径:20.1mm,高さ40mm)と黒鉛パンチ(直径:20mm,高さ:20mm)に囲まれた領域1内に5gを充填し、SPS装置で固化成形した。
焼結条件は真空チャンバー内で焼結温度673K、773K、873Kまで1.67K/sで昇温後、温度を保持し圧力49MPaで1h加圧保持した。温度が473Kまで降下後、負荷を除去しSPS材を作製した.
【0029】
SPS材の硬さは、エメリー紙で研磨した後、バフ研磨で鏡面仕上げした面を測定面とし、それぞれマイクロビッカース硬度計およびビッカース硬度計を用いて測定した。X線回折(XRD)装置を用いて化合物相の同定を行った.測定は40kV,60mAの強度でCuKα線を用いて回折速度1.66×10−2 deg/s、回折角度2θ=20°〜80°の条件で行った。
SPS材の飽和磁化[Wbm/kg]および保磁力[A/m]は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて800kA/m、40kA/mの磁界中で測定した。SPS材は6×4×1mmに加工し測定した。アルキメデス法によってSPS材の密度を求めた。測定した密度および理論密度との比から相対密度を算出した。
【0030】
フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%からなる混合粉末を放電プラズマ焼結装置で固化成形したときの焼結体について、焼結温度を変化させてビッカース硬度の変化の状態を図1に示す。
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 68.0HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 96.6HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 108.2HV1
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 66.7HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 154.7HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 135.8HV1
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 66.1HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 198.0HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 175.8HV1
以上の結果、(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間、8時間メカニカルアロイングした混合物を焼結した場合の結果、773Kの場合がもっとも硬度が高い結果となっている。同じく2時間焼結した場合には、873Kの場合がもっとも硬度が高い結果となっている。
【0031】
図1に各メカニカルアロイングした混合体を固化成形したSPS材の構成相、相対密度および硬さを示す。SPS材の構成相は、焼結温度673Kでは、添加したNi−Cu−Znフェライトは存在せず、Mg、MgO、α−Feが同定された。
一方、焼結温度773K、873Kでは、Mg、MgO、α−Feに加えα−Feとステアリン酸中の炭素が結合し生成したFeCが同定された。したがって、本プロセス条件ではNi−Cu−Znフェライトを分解させずにマグネシウムと複合化することができなかった。SPS材の相対密度は、焼結温度の上昇に伴い増加する傾向を示し、焼結温度773Kでほぼ緻密化が達成されていた。12MGFR粉末を焼結温度673Kで固化成形したSPS材の硬さは、65.0HVを示し、焼結温度の上昇に伴い右肩上がりに増加した。焼結温度673Kで低い硬さを示した理由は相対密度が84.8%と緻密化できていなかったためと考えられる。一方、焼結温度773Kおよび873Kで硬さが増加した理由は、Ni−Cu−Znフェライトの固相分解によって生成した化合物(MgO、α−Fe、FeC)の分散強化と相対密度が増加しためと考えられる.14MGFRおよび18MGFR粉末から焼結温度773Kで作製したSPS材の硬さは,それぞれ,154.7HV,198.0HVを示し,焼結温度873Kでそれぞれ,135.8HV,175.8HVへと減少した.焼結温度773Kで急激に硬さが増加した理由として、MgOの生成量が増加していることに加え、FeCが生成したことに起因していると考えられる。焼結温度873Kで硬さが低下した理由は,温度が高いためにマトリックスが粒成長したためと考えられる。
【0032】
図2に各MA粉末を固化成形したSPS材の飽和磁化および保磁力を示す。焼結温度673Kで固化成形したSPS材の飽和磁化は約1.0×10−5Wbm/kgを示し、MA粉末の飽和磁化(0.65×10−5Wbm/kg)の約2倍の値を示した。これは、MA粉末では生成しなかったα−Feが生成したためと考えられる。SPS材の飽和磁化は、焼結温度の上昇に伴い右肩下がりに減少した。
これは、図4のX線回折結果で同定されたように、α−Feとステアリン酸中の炭素が結合し生成したFeCに起因していると考えられる。FeCは強磁性体であるが、α−Feよりも飽和磁化が小さいため、焼結温度の上昇に伴いFeCの生成量が増加し飽和磁化が低下したと考えられる。SPS材の保磁力も、焼結温度の上昇に伴い右肩下がりに減少した。これは、焼結温度の上昇に伴い、保磁力の高いα−Fe量が減少し、FeCが多く生成したことと、α−Feの結晶粒が粗大化したことに起因していると考えられる。
【0033】
前記の焼結した場合の飽和磁化および保磁力の測定結果は図2に示されている通りである。
【0034】
飽和磁化(Ms/×10−5Wbm/kg)について
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 1.06 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.62 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.62 Ms/×10−5Wbm/kg
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 1.00 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.75 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.58 Ms/×10−5Wbm/kg
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 0.98 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.74 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.54 Ms/×10−5Wbm/kg
【0035】
保磁力(Hc/kA/m)について
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 38 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 20 Hc/kA/m
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 37 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 19 Hc/kA/m
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合物を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 28 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 22 Hc/kA/m
【0036】
焼結温度673Kで作製したSPS材は、α−Feが生成したために、MA粉末の2倍近い飽和磁化値を示した。一方、焼結温度773Kと873Kでは,固相分解により生成したFeCの影響によりα−Fe量が減少したために、飽和磁化は減少した、SPS材の保磁力は、焼結温度の上昇に伴い減少する傾向を示した。
Ni−Cu−Znフェライトを分解させずにマグネシウムと複合化するためには、MA処理時間、焼結保持時間、焼結温度等の条件を変える必要がある。
【実施例1】
【0037】
前記純マグネシウムとNi−Cu−Znフェライトを用いて以下の実施例1および実施例2を行った。純マグネシウムおよびフェライトのメカニカルアロイングの実施例
微粉状(直径1mm程度)純マグネシウムおよびフェライトを、フェライトを10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%として2時間、同じくフェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%として4時間、およびフェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%として8時間メカニカルアロイを行って、各生成物を得た。
硬度については結果を図3に示した。メカニカルアロイングを行う場合の硬度は4時間の場合が効果的であることがわかる。
飽和磁化及び保持力の結果は図4に示した。飽和磁化に関しては、添加量に応じた値が得られる。また、保持力に関しては、劣化が起こる。
以上をまとめると、メカニカルアロイングは硬度の観点から判断すればよく、4時間の程度行う事が有効である。
【実施例2】
【0038】
前記生成物を前記放電プラズマ焼結機内で焼結を行った。
焼結温度を673K、773Kおよび873Kの条下に範囲で放電プラズマ焼結を行った。
混合粉末を放電プラズマ焼結装置で固化成形したときの焼結体について、焼結時間を変化させてビッカース硬度の変化の状態は図1に示す。
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合体を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 68.0HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 96.6HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 108.2HV1
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合体を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 66.7HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 154.7HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 135.8HV1
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合体を焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合のビッカース硬度 66.1HV1
773Kで焼結した場合のビッカース硬度 198.0HV1
873Kで焼結した場合のビッカース硬度 175.8HV1
以上の結果、(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間、8時間メカニカルアロイした混合体を焼結した場合の結果、773Kの場合がもっとも硬度が高い結果となっている。同じく2時間焼結した場合には、873Kの場合がもっとも硬度が高い結果となっている。
硬度という点から見れば、773Kを採用することが有効である。時間は8h又は6hである。
【0039】
前記の焼結した場合の飽和磁化および保磁力の測定結果は図2に示されている通りである。
【0040】
飽和磁化(Ms/×10−5Wbm/kg)について
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合体を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 1.06 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.62 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.62 Ms/×10−5Wbm/kg
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合体を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 1.00 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.75 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.58 Ms/×10−5Wbm/kg
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合体を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の飽和磁化 0.98 Ms/×10−5Wbm/kg
773Kで焼結した場合の飽和磁化 0.74 Ms/×10−5Wbm/kg
873Kで焼結した場合の飽和磁化 0.54 Ms/×10−5Wbm/kg
【0041】
保磁力(Hc/kA/m)について
(a)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を2時間メカニカルアロイした混合物を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 38 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 20 Hc/kA/m
(b)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を4時間メカニカルアロイした混合物を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 37 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 19 Hc/kA/m
(c)フェライトとして10(質量)%と純マグネシウム90(質量)%を8時間メカニカルアロイした混合物を放電プラズマ焼結した場合の結果
673Kで焼結した場合の保磁力 28 Hc/kA/m
773Kで焼結した場合の保磁力 30 Hc/kA/m
873Kで焼結した場合の保磁力 22 Hc/kA/m
焼結温度は673Kで2時間の焼結時間のときの飽和磁化及び保持力がよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のマグネシウムおよびフェライト焼結固化磁性体を機能材として用いて種々の新しい部材および装置を開発することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:微粉純マグネシウムおよびフェライト混合物のメカニカルアロイング生成物
20:真空チャンバー
21:成形用型
22:真空ポンプ
24:加圧ラム
25:加圧ラム
26:第1の押圧子
27:第2の押圧子
28:断熱材
29:断熱材
31:制御部
32:焼結用電源
33:加圧駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の純マグネシウム(90〜50質量%)および粉状のNi−Cu−Znフェライト(10〜50質量%)(合計100質量%)を、不活性気体の存在下、ステアリン酸と供にメカニカルアロイングし、前記純マグネシウム中に粉状の純マグネシウムが分散された磁性体混合物を得た後、純マグネシウムおよびフェライト混合物を放電プラズマ焼結することにより得られることを特徴とするマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体。
【請求項2】
粉状の純マグネシウム(90〜50質量%)および粉状のNi−Cu−Znフェライト(10〜50質量%)(合計100質量%)を、不活性気体の存在下、ステアリン酸と供にメカニカルアロイングし、前記純マグネシウム中に粉状の純マグネシウムが分散された磁性体混合物を得た後、純マグネシウムおよびフェライト混合物を放電プラズマ焼結することを特徴とするマグネシウムおよびNi−Cu−Znフェライト焼結固化磁性体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−243776(P2011−243776A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115126(P2010−115126)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】