説明

磁性シートの製造方法

【課題】薄板状磁性体の当初の厚さを保ちつつ、低コストで薄板状磁性体を複数に分割すると共に、分割した磁性体間における隙間の発生を抑制する。
【解決手段】
シート基材1上に接着層2を介して薄板状磁性体3を接着して磁性シート4を作製する。シート基材1に接着された薄板状磁性体3に外力を加えて、薄板状磁性体3をシート基材1に接着された状態を維持しつつ複数に分割する。薄板状磁性体3は、例えば複数の磁性体片5に分割される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタや磁気シールド等に用いられる磁性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される携帯型電子機器の小型軽薄化等に伴って、携帯型電子機器等に対する充填方式として非接触型充電方式が注目されている。非接触型充電方式は、受電装置と給電装置の両方にコイルを設け、これらコイル間での電磁誘導を利用して充電する方式である。非接触型充電方式は電極同士を接触させないため、電極が剥き出しにならず錆びないという利点を有する。また、接触型充電方式では機器毎に異なる形状の接続プラグと充電器が使用されるが、電極を必要としない非接触型充電方式は充電器を共用化することができるという利点を有する。
【0003】
非接触型充電方式を携帯型電子機器等に適用する場合、受電装置側(充電される電子機器側)には受電効率等を高めるために共振回路が適用されている。LとCとを直列または並列に接続して構成した共振回路は、特定の共振周波数で回路に流れる電流が最大または最小となるものである。このような共振回路の先鋭度(周波数選択性)を得るための重要な特性として共振のQ値がある。Q値はQ=2πfL/Rで表され、L値の増大や損失(抵抗分R)の低減により高めることができる。
【0004】
ところで、携帯型電子機器の受電装置に共振回路を適用する場合、携帯型電子機器に内蔵するために、薄型のコイルと磁性体(磁気コア)とで構成されたインダクタが必要とされる。インダクタの磁性体には伝送周波数に応じた材料が選択されるが、数10kHz以上の周波数で多用されるフェライトは薄くすることが困難であると共に、衝撃や急速な電力投入による熱歪等により割れやすいという難点を有している。一方、金属系の磁性材料である珪素鋼板やパーマロイは材料を薄くしないと損失が大きく、Q値、L値、透磁率が共に低いという難点を有している。これらに対して、アモルファス合金や微結晶合金からなるシート状の磁性体を用いることによって、L値の向上を図ることができる。
【0005】
共振回路の特性(共振インピーダンスZ0)を向上させるためには、L値を上げる他にQ値を高める方法がある。ただし、高周波域になると金属系の磁性体は渦電流の影響により損失が増大してQ値が低下する。この対策として粉末状の磁性体を固めたダストコアが知られているが、ダストコアは磁性体の粒径により適応周波数が変化する。磁性体の粒径が小さいほど対応周波数帯が上がるものの、透磁率は低下してしまうという問題がある。一方、スイッチング電源等の電力機器は効率、ノイズ、製造コスト等の観点から、数10kHzから数100kHzの範囲で動作させている。このような周波数で優れた共振回路を得るためには、磁性体シートを分割してQ値を高める方法が有効である。
【0006】
また、磁性体シートを磁気シールド等として用いる場合においても、磁性体シートを分割することで渦電流が抑制されるために有効である。例えば、特許文献1には複数の磁性体個片を敷き置きした集合体をシート基材で保持した磁性シートが記載されている。ここでは、磁性シートをRFIDアンテナの磁性体として用いている。このように、複数の磁性体個片を敷き置きする場合、隣接する磁性体個片間にある程度の隙間の発生が避けられず、磁性体シートの特性が低下しやすい。また、磁性体個片を重ねて配置すると電気的な導通が生じて特性が低下するばかりでなく、磁性体シートの厚さも厚くなってしまう。複数の磁性体個片を敷き置きする方法は製造コストの増大も避けられない。
【特許文献1】特開2006−174223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、薄板状磁性体(磁性体シート)の当初の厚さを保ちつつ、低コストで薄板状磁性体を分割することを可能にすると共に、分割した磁性体間における隙間の発生を抑制した磁性シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に係る磁性シートの製造方法は、シート基材上に接着層を介して薄板状磁性体を接着して磁性シートを形成する工程と、前記薄板状磁性体を前記シート基材に接着された状態を維持しつつ、外力により複数に分割する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様に係る磁性シートの製造方法によれば、薄板状磁性体の当初の厚さを保ちつつ、低コストで薄板状磁性体を複数に分割することができ、その上で分割した磁性体間における隙間の発生を抑制することが可能となる。従って、特性や信頼性等に優れる磁性シートを低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1および図2は本発明の一実施形態による磁性シートの製造工程を示す図である。まず、図1(a)および図2(a)に示すように、接着層2を有するシート基材1を用意し、このシート基材1上に接着層2を介して薄板状磁性体3を接着して磁性シート4を形成する。シート基材1は薄板状磁性体3の分割を阻害しない程度の可撓性と厚さを有しているものであればよく、各種の絶縁樹脂材料からなる樹脂フィルムを使用することができる。
【0011】
シート基材1には、例えば厚さが1μm以上100μm以下のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素樹脂フィルム等の樹脂フィルムが好適である。
【0012】
樹脂材質にもよるが、樹脂フィルムの厚さが100μmを超えるとシート基材1として用いた際に薄板状磁性体3の分割を阻害するおそれがある。一方、シート基材1の厚さが1μm未満であると、分割後の薄板状磁性体3の支持体としての機能が低下するおそれがある。接着層2にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ブタジエン樹脂等からなる接着剤やホットメルト等を適用することができる。
【0013】
上述したような樹脂フィルムの表面に接着剤を塗布したり、あるいは予め接着剤付きの樹脂フィルムを用いることによって、接着層2を有するシート基材1とする。このようなシート基材1上に接着層2を介して薄板状磁性体3を接着する。薄板状磁性体3としては各種の磁性体シート(フィルム)を用いることが可能であるが、アモルファス合金、微結晶合金、パーマロイ等の磁性合金を使用することが好ましい。これらの磁性合金は、いずれもロール急冷法や圧延法等で薄板化(薄帯化)することが可能であることから、シート基材1上に接着した状態で外力を加えて分割することができる。
【0014】
上記した磁性合金のうちでも、特にアモルファス合金または微結晶合金で薄板状磁性体3を形成することが好ましい。前述したように、アモルファス合金や微結晶合金からなる薄板状磁性体3によれば、それを用いたインダクタのL値の向上を図ることができる。表1に磁性材料に基づくインダクタのL値およびQ値を示す。ここでは、直径0.5mmの銅線を平板状に巻回して外径30mm、厚さ約1mmのコイルを作製し、このコイルに各種磁性材料からなるシート(30×40mm)を貼り付けて、500kHzにおけるL値とQ値を測定した。これらの値を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1から明らかなように、アモルファス合金シートや微結晶合金シートを用いた場合にはL値が30〜40%向上しているのに対し、珪素鋼板やパーマロイは渦電流損失が大きいために、L値およびQ値が共に低下している。また、フェライトは厚さを薄くすることができず、電磁波吸収シートはL値の改善効果が小さいことが分かる。Co基アモルファス1の組成はCo70Fe4.5Ni2.5Si1310、Co基アモルファス2の組成はCo68Fe4.5Cr2.5Si1510、Fe基アモルファスの組成はFe78Si148、微結晶合金の組成はFe74Nb2Cu2Si814である。
【0017】
薄板状磁性体3に適用するアモルファス合金は、Co基アモルファス合金およびFe基アモルファス合金のいずれであってもよいが、特にCo基アモルファス合金が好適である。アモルファス合金の具体例としては、
一般式:(T1-aa100-bb …(1)
(式中、TはCoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素を、MはNi、Mn、Cr、Ti、Zr、Hf、Mo、V、Nb、W、Ta、Cu、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、ReおよびSnから選ばれる少なくとも1種の元素を、XはB、Si、CおよびPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aおよびbは0≦a≦0.3、10≦b≦35at%を満足する数である)
で表される組成を有するものが挙げられる。
【0018】
上記した(1)式において、T元素は磁束密度、磁歪値、鉄損等の要求される磁気特性に応じて組成比率を調整するものとする。M元素は熱安定性、耐食性、結晶化温度の制御等のために添加される元素である。M元素の添加量はaの値として0.3以下とすることが好ましい。M元素の添加量があまり多すぎると相対的にT元素量が減少することから、アモルファス磁性合金の磁気特性が低下する。M元素の添加量を示すaの値は実用的には0.01以上とすることが好ましい。aの値は0.15以下とすることがより好ましい。
【0019】
X元素はアモルファス合金を得るのに必須の元素である。特に、B(ホウ素)は磁性合金のアモルファス化に有効な元素である。Si(けい素)はアモルファス相の形成を助成したり、また結晶化温度の上昇に有効な元素である。X元素の含有量があまり多すぎると透磁率の低下や脆さが生じ、逆に少なすぎるとアモルファス化が困難になる。このようなことから、X元素の含有量は10〜35at%の範囲とすることが好ましい。X元素の含有量は15〜25at%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0020】
微結晶合金の具体例としては、
一般式:Fe100-c-d-e-f-g-hcdeSifgh …(2)
(式中、AはCuおよびAuから選ばれる少なくとも1種の元素を、DはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ni、Coおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を、EはMn、Al、Ga、Ge、In、Snおよび白金族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を、ZはC、NおよびPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、c、d、e、f、gおよびhは0.01≦c≦8at%、0.01≦d≦10at%、0≦e≦10at%、10≦f≦25at%、3≦g≦12at%、15≦f+g+h≦35at%を満足する数である)
で表される組成を有するFe基合金からなり、かつ面積比で組織の20%以上が粒径50nm以下の微結晶粒からなるものが挙げられる。
【0021】
上記した(2)式において、A元素は耐食性を高め、結晶粒の粗大化を防ぐと共に、鉄損や透磁率等の磁気特性を改善する元素である。A元素の含有量があまり少ないと結晶粒の粗大化抑制効果等を十分に得ることができず、逆にあまり多すぎると磁気特性が劣化する。従って、A元素の含有量は0.01〜8at%の範囲とすることが好ましい。D元素は結晶粒径の均一化や磁歪の低減等に有効な元素である。D元素の含有量は0.01〜10at%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
E元素は軟磁気特性や耐食性の改善に有効な元素である。E元素の含有量は10at%以下とすることが好ましい。SiおよびBは薄帯製造時における合金のアモルファス化を助成する元素である。Siの含有量は10〜25at%の範囲、Bの含有量は3〜12at%の範囲とすることが好ましい。なお、SiおよびB以外のアモルファス化助成元素としてZ元素を含んでいてもよい。その場合、Si、BおよびZ元素の合計含有量は15〜35at%の範囲とすることが好ましい。微結晶構造は、特に粒径が5〜30nmの結晶粒を合金中に面積比で50〜90%の範囲で存在させた形態とすることが好ましい。
【0023】
薄板状磁性体3として用いるアモルファス合金薄帯は、例えばロール急冷法(溶湯急冷法)により作製することができる。具体的には、所定の組成比に調整した合金素材を溶融状態から急冷することにより作製される。微結晶合金薄帯は、例えば液体急冷法によりアモルファス合金薄帯を作製した後、その結晶化温度に対して−50〜+120℃の範囲の温度で1分〜5時間の熱処埋を行い、微結晶粒を析出させる方法により得ることができる。あるいは、液体急冷法の急冷速度を制御して微結晶粒を直接析出させる方法によっても、微結晶合金薄帯を得ることができる。なお、パーマロイは溶解インゴットや焼結インゴットを用いて鍛造、圧延等により薄帯化することができる。
【0024】
アモルファス合金や微結晶合金からなる薄板状磁性体3は、分割工程前に熱処理を施しておくことが好ましい。アモルファス合金や微結晶合金は熱処理を施すことで脆くなるため、後に詳述する分割工程で外力を加えた際に、容易に割る(複数に分割する)ことができる。熱処理は薄板状磁性体3をシート基材1に接着する前に施すことが好ましい。アモルファス合金からなる薄板状磁性体3に対しては、大気雰囲気もしくは窒素やアルゴン等の雰囲気中にて300〜500℃の温度で0.1〜10時間の条件で熱処理を施すことが好ましい。微結晶合金からなる薄板状磁性体3に対しては、窒素やアルゴン等の雰囲気中にて550〜700℃の温度で0.1〜10時間の条件で熱処理を施すことが好ましい。
【0025】
上述したような磁性合金からなる薄板状磁性体3の厚さは5μm以上30μm以下の範囲とすることが好ましい。薄板状磁性体3の厚さが30μmを超えると、材料作製時にアモルファス化が困難となり、部分的な結晶の発生や内部歪の増加等によって、熱処理を施したアモルファス合金や微結晶合金からなる薄板状磁性体3であっても不均一な割れが生じやすくなり、所望の形状に分割しにくくなる。一方、薄板状磁性体3の厚さは5μm未満であると材料自体の強度が弱くなることで、不均一な割れが生じやすくなる。薄板状磁性体3の厚さは10μm以上20μm以下の範囲とすることがより好ましい。
【0026】
次に、シート基材1に接着された薄板状磁性体3に外力を加えて、薄板状磁性体3をシート基材1に接着された状態を維持しつつ複数に分割する。具体的には、図1(b)および図2(b)に示すように、薄板状磁性体3に外力を加えて複数の磁性体片5に分割する。このように、薄板状磁性体3を複数の磁性体片5に分割することによって、磁性シート4を例えばインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図ることができる。また、磁性シート4を例えば磁気シールド用磁性体として用いる場合には、薄板状磁性体3の電流路を分断して渦電流損を低減することが可能となる。
【0027】
薄板状磁性体3の分割工程は、例えば磁性シート4を直接折り曲げて薄板状磁性体3を割ることにより実施される。このような方法以外にも、例えば磁性シート4を圧延ロールに通して折り曲げたり、また金型で押し割る等の方法を適用することができる。さらに、金型やロールに予め決められた凹凸パターンを設けておくことによって、薄板状磁性体3を所定形状に割る方法等も適用可能である。シート基材1や薄板状磁性体3の材質条件等によっては、一対の金型やロールの一方にゴム等の変形しやすい材料を用いてもよい。圧延ロールを用いる場合には一対のロールの周速に差を設け、単なる圧力だけではなく、せん断力を加えることも有効である。
【0028】
なお、薄板状磁性体3の分割工程における磁性体片5の飛び散りを防止するために、薄板状磁性体3上には接着剤付き保護フィルム等をカバー層として貼り付けることができる。また、接着剤付き保護フィルムは後工程時や使用時における磁性体片5の脱落等を防止するために、分割工程後に薄板状磁性体3上に貼り付けてもよい。実際の使用に際しては、シート基材1や保護フィルム等を剥がして接着層を露出させ、この接着層を利用してコイル、各種部品、機器筐体等に貼り付けることも可能である。
【0029】
上述した分割工程は低コストで薄板状磁性体3を分割することができるだけでなく、薄板状磁性体3がシート基材1に接着された状態を維持しつつ実施されるため、分割後の磁性体片5を脱落させることなく、かつ薄板状磁性体3の当初の厚さを保ちつつ、薄板状磁性体3を容易に分割することができる。従って、低コストでかつ効率よく複数に分割された薄板状磁性体3(複数の磁性体片5)を有する磁性シート4を、特性や信頼性等を低下させることなく得ることが可能となる。
【0030】
さらに、上述した分割工程によれば磁性体片5(複数に分割された薄板状磁性体3)間にほとんど物理的な空隙を生じさせることなく、薄板状磁性体3を電気的に分断することができる。具体的には、複数に分割された薄板状磁性体3の見掛け上の占有面積に対する間隙部(各磁性体片5間の隙間)の面積比を5%以下とすることができる。間隙部の面積比は3%以下とすることがより好ましい。ここで、複数に分割された薄板状磁性体3の見掛け上の占有面積とは、当初の薄板状磁性体3の面積に相当するものであり、例えば図2(b)では複数の磁性体片5の集合体の最外形に基づく面積を示すものである。
【0031】
このように、磁性体片5間の隙間の発生を極力抑える(間隙部の面積比を5%以下とする)ことによって、薄板状磁性体3の磁気特性の低下を抑制することができると共に、間隙部(空隙)に起因するノイズや磁束の漏れ等を抑制することが可能となる。例えば、従来の磁性体個片を敷き置きする方法では、例えば磁性体個片同士の重なりを防ぐために隙間の発生が避けられず、これにより間隙部(空隙)の面積比が増大する。さらに、隙間を最小限にして磁性体個片を整列させる場合には、製造コストが大幅に増加する。また、この場合でも間隙部(空隙)の面積比を十分に低減することはできない。
【0032】
薄板状磁性体3の分割数は特に限定されるものではなく、磁性シート4の用途や要求特性に応じて適宜に設定される。例えば、30×40mmの薄板状磁性体3を64分割した場合、磁性体片5の平均形状は3.7×5mm程度となり、256分割した場合には1.8×2.5mm程度、1024分割した場合には0.9×1.2mm程度となる。各磁性体片5の面積は0.01mm2以上25mm2以下の範囲とすることが好ましい。また、磁性体片の形状を長方形として配向させることで、特定方向に対する透磁率等の磁気特性を向上させることができる。この場合、磁性体片のアスペクト比(長辺(長さ)/短辺(幅))を2以上とすることが有効である。
【0033】
薄板状磁性体3を分割して形成する各磁性体片5の面積が25mm2を超えると薄板状磁性体3を複数に分割した効果(Q値の向上効果や渦電流損の低減効果等)を十分に得ることができないおそれがある。一方、磁性体片5の面積を0.01mm2未満とするためには分割数が多くなりすぎて、分割工程のコスト増や間隙部の面積比の増加等を招くことになる。磁性体片5の面積は0.1〜10mm2の範囲とすることがより好ましい。
【0034】
ただし、薄板状磁性体3の分割形状は全体を分割して磁性体片5とすることに限られるものではなく、薄板状磁性体3の一部を磁性体片5としてもよい。磁性体片5は薄板状磁性体3の少なくとも一部に形成することができる。例えば図3に示すように、薄板状磁性体3の縦横方向の中央付近をそれぞれ複数に分割し、薄板状磁性体3の中央部付近のみに磁性体片5を形成するようにしてもよい。なお、図3における符号6はインダクタを構成する平面型コイル(スパイラルコイル)を示している。
【0035】
すなわち、磁性シート4をインダクタ用の磁性体として用いる場合、少なくともコイル6の中央部に相当する部分(磁束が通過する部分)に小面積の磁性体片5が位置するように、薄板状磁性体3を外力で分割することができる。このような薄板状磁性体3の分割構造を有する磁性シート4であっても、インダクタのQ値向上効果を得ることができる。また、このような構造を有する磁性シート4は、インダクタ用磁性体としての磁性シート4が磁気シールド機能を兼ねる場合にも有効である。
【0036】
さらに、薄板状磁性体3は格子状に分割することに限らず、斜め方向に分割してもよいし、また格子状分割と斜め方向分割とを組合せてもよい。磁性シート4の形状は矩形のシート形状に限られるものではなく、打ち抜き加工等によって丸型やE形等の種々のシート形状に加工することができる。このように、各種形状の磁性シート4、すなわち種々の形状に分割された薄板状磁性体3を有する各種形状の磁性シート4を得ることができる。
【0037】
上述した実施形態の製造方法により得られる磁性シート4、すなわち複数に分割された薄板状磁性体3を有する磁性シート4は、例えばインダクタ用磁性体や磁気シールド用磁性体(ノイズ対策シートを含む)として用いられる。特に、100kHz以上の周波数帯で使用されるシート状磁性体(薄型磁性体)に好適である。すなわち、複数に分割された薄板状磁性体3に基づくQ値の向上効果や渦電流損の低減効果等は100kHz以上の周波数帯域でより良好に発揮される。従って、磁性シート4は100kHz以上の周波数帯で使用されるインダクタ用磁性体や磁気シールド用磁性体として好適である。
【0038】
磁性シート4の具体的な使用用途としては、例えばコイルおよび磁性体を有するインダクタとコンデンサとで構成される共振回路におけるインダクタ用磁性体が挙げられる。インダクタを構成するコイルは、スパイラルコイル等の平面型コイルであることが好ましい。このような磁性体(磁性シート4)とコイルとを有するインダクタは、非接触型充電方式の受電装置側(例えば充填される電子機器側)に設けられる共振回路等に好適に用いられる。この共振回路のインダクタを構成する磁性体(磁性シート4)は、磁気シールドとしても機能するものである。
【0039】
また、磁性シート4は非接触型充電方式の受電装置側(例えば充填される電子機器側)に設けられる磁気シールドとしても有効である。このような磁気シールド(磁性シート4)は、例えば2次電池とスパイラルコイル(二次コイル)との間、整流器とスパイラルコイルとの間、電子デバイスとスパイラルコイルとの間、スパイラルコイルと回路基板との間から選ばれる少なくとも1箇所に配置される。
【0040】
非接触型充電方式の受電装置側に磁気シールド(磁性シート4)を配置することによって、充電時にスパイラルコイルに鎖交する磁束に起因する渦電流の発生を抑制することが可能となる。従って、渦電流の発生に基づく発熱の問題やノイズの発生等を防ぐことができる。特に、携帯電話等の携帯型電子機器の高容量化に対応して大きな電力伝送、急速充電を行う場合、充電池は金属体であり、磁束によって渦電流が発生して発熱する問題がある。その際はコイルと充電池との間に磁気シートを配置することが有効である。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について説明する。
【0042】
(実施例1)
まず、厚さ25μmのPETフィルムの表面にアクリル系接着剤を10μmの厚さで塗布した。このPETフィルム上に接着剤層を介して厚さ18μmのCo基アモルファス合金シートを接着した。Co基アモルファス合金シートの組成はCo70Fe4.5Cr1.5Si1014であり、予め430℃×20分の条件で熱処理を施した。このような磁性シートを所定の間隔で順次折り曲げてCo基アモルファス合金シートを分割することによって、複数に分割された薄板状磁性体を有する磁性シートを作製した。
【0043】
上記したCo基アモルファス合金シートの折り曲げ間隔を調整することによって、Co基アモルファス合金シートの分割数を種々に変更した磁性シートを作製した。これら各磁性シートを平面型コイル(直径0.5mmの銅線を平板状に巻回、外径30mm、厚さ約1mm)に貼り付けて、500kHzにおけるL値とQ値を測定した。その結果を図4に示す。図4から明らかなように、磁性体シート(ここではCo基アモルファス合金シート)の分割数の増加に伴ってQ値が向上することが分かる。
【0044】
図6に分割した磁性シートの微構造の拡大写真を示す。図7は図6の要部をさらに拡大して示す拡大写真である。磁性体片の形状は個々で多少異なるものの、その境界の間隔は2〜3μmであり、ジクソーパズルのように各磁性体片が緻密に組み合わさっていることが分かる。この磁性シート(例えば磁気シールド用磁性シート)は磁性体片の間隔が10μm以下で、各磁性体片が緻密に配置された構造を有していることが分かる。
【0045】
また、Co基アモルファス合金シートを分割していない磁性シートとCo基アモルファス合金シートを16分割した磁性シートとCo基アモルファス合金シートを1024分割した磁性シートとを用意し、これらを平面型コイルに貼り付けてQ値の周波数依存性を測定した。その結果を図5に示す。図5から明らかなように、磁性体シート(ここではCo基アモルファス合金シート)の分割によるQ値の向上効果は100kHz以上の周波数帯域でより良好に発揮されることが分かる。
【0046】
(実施例2)
厚さ25μmの接着剤付きポリイミドフィルム上に熱処理済み微結晶合金シートを接着して磁性シートを作製した。微結晶合金シートの組成はFe73Cu2Nb2.5Si12.510であり、形状は20×40mmとした。この磁性シートを縦横各9回折り曲げて、微結晶合金シートを形状が略2×4mmの磁性体片(100個)に分割した。この磁性シートにおける間隙部の面積比は0.1%であった。
【0047】
同様に磁性シートを縦横各19回折り曲げて、微結晶合金シートを形状が略1×2mmの磁性体片(400個)に分割した。この磁性シートにおける間隙部の面積比は0.3%であった。これら磁性シートを用いた場合のQ値(500kHz)を実施例1と同様にして測定したところ、100個の磁性体片を有する磁性シートのQ値は13、400個の磁性体片を有する磁性シートのQ値は15であった。
【0048】
一方、従来の敷き置き法によれば、まず材料を2×4mmに切断し、熱処理時の変形を防止するために整列させた後に熱処理を行うことになる。2×4mmの磁性体個片を接着シート上に並べることになるが、小さな磁性体個片を微小な隙間を維持しつつ整列させるためには多大なコストを要する。さらに、例えば0.1mmの精度で磁性体個片を並べる装置を導入したとしても、完成寸法は21.9×41.9mmとなり、間隙部の面積比は6.4%(磁性体の占有率は93.6%)となる。
【0049】
さらに、個片形状を1×2mm(400分割)とした場合には、間隙部の面積比は12.8%(磁性体の占有率は87.2%)となり、磁気特性は低下する一方となる。従来の敷き置き法は分割型シートの作製が困難であるばかりでなく、磁性体の面積占有率が低下して実用性の低下を招くことになる。
【0050】
(実施例3)
実施例1と同様にして、厚さ25μmのPETフィルム上に接着剤層を介して、厚さが18μmで平面形状が30×40mmのCo基アモルファス合金シートを接着した。このCo基アモルファス合金シートの中央付近を幅2.5mmで縦横各3回折り曲げて分割した。このようにして、図3に示したようにCo基アモルファス合金シートの中央部付近のみに、形状が略2.5×2.5mmの磁性体片を形成した。この磁性シートを用いた場合のQ値を実施例1と同様にして測定した。その結果を表2に示す。なお、表2にはCo基アモルファス合金シートを分割していない場合(比較例)のQ値を併せて示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2から明らかなように、磁性体シート(ここではCo基アモルファス合金シート)の中央付近、すなわちコイルの中央部に相当する部分のみに磁性体片を形成した場合でも、100kHz以上の周波数帯(特に200kHz以上)におけるQ値を向上させることができる。このように、磁性シートをインダクタ用磁性体として用いる場合には、コイルの中央部に相当する部分のみに磁性体片を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態による磁性シートの製造工程を示す平面図である。
【図2】図1に示す磁性シートの製造工程を断面で示す図である。
【図3】本発明の実施形態の製造工程における薄板状磁性体の分割構造の変形例を示す断面図である。
【図4】薄板状磁性体(磁性体シート)の分割数を変化させた場合のL値およびQ値の測定例を示す図である。
【図5】薄板状磁性体(磁性体シート)を分割した場合のQ値の周波数依存性の測定例を示す図である。
【図6】実施例1による磁性シートの分割部の微構造を拡大して示す写真である。
【図7】図6の要部をさらに拡大して示す写真である。
【符号の説明】
【0054】
1…シート基材、2…接着層、3…薄板状磁性体、4…磁性シート、5…磁性体片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材上に接着層を介して薄板状磁性体を接着して磁性シートを形成する工程と、
前記薄板状磁性体を前記シート基材に接着された状態を維持しつつ、外力により複数に分割する工程と
を具備することを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁性シートの製造方法において、
前記薄板状磁性体の少なくとも一部が0.01mm2以上25mm2以下の面積を有する磁性体片となるように、前記薄板状磁性体を複数に分割することを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の磁性シートの製造方法において、
前記薄板状磁性体はアモルファス合金または微結晶合金からなることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の磁性シートの製造方法において、
前記アモルファス合金または微結晶合金からなる前記薄板状磁性体に対して、前記分割工程前に熱処理を施す工程を具備することを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の磁性シートの製造方法において、
前記薄板状磁性体は5μm以上30μm以下の範囲の厚さを有することを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の磁性シートの製造方法において、
前記複数に分割された薄板状磁性体の見掛け上の占有面積に対する間隙部の面積比が5%以下であることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の磁性シートの製造方法において、
前記磁性シートは100kHz以上の周波数帯で使用されることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の磁性シートの製造方法において、
前記磁性シートはインダクタ用磁性体または磁気シールド用磁性体であることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の磁性シートの製造方法において、
前記インダクタ用磁性体としての磁性シートは、コイルおよび磁性体を有するインダクタとコンデンサとで構成される共振回路に用いられることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の磁性シートの製造方法において、
前記インダクタ用磁性体としての磁性シートは、少なくとも前記コイルの中央部に相当する部分に0.01mm2以上25mm2以下の面積を有する磁性体片が位置するように分割されていることを特徴とする磁性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−112830(P2008−112830A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294251(P2006−294251)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】