説明

磁性微粒子およびその製造方法

【課題】目的物質を簡単かつ効率的に固定化できる磁性微粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体と、該集合体を被覆するゲル層とを備える磁性微粒子であって、該ゲル層に親水性基を有する磁性微粒子。前記磁性微粒子は、少なくとも下記の工程を含む製造方法により得られる。1)磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を形成する工程、2)工程1)で形成された集合体の表面に、重合性モノマーと架橋性モノマーとから架橋体を製造することで、親水性基を有するゲル層を形成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体とアルキル基を有する化合物を含む集合体と、該集合体を被覆し且つ親水性基を有するゲル層とを含む磁性微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体材料の分離・精製を目的としたマイクロサイズ磁性微粒子が知られており、カラム法に比べ簡便な方法であり、診断・抽出の自動化などに応用されている(非特許文献1および2)。
【0003】
また、細胞分離を目的としたナノサイズ磁性微粒子が知られており、ナノサイズ磁性微粒子と磁気カラムとを用いた方法も広く有用性が示されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−500492号公報
【特許文献2】特表2003−508073号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川口春馬、「磁性体含有高分子粒子の作製」、月刊バイオインダストリー、シーエムシー出版、2004年8月
【非特許文献2】小幡公道、「磁性微粒子を用いた核酸自動抽出装置」、BME、12(2)、1998年、p.15―24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、マイクロサイズ磁性微粒子は表面が硬い層でできており、デリケートな物質を回収する場合、硬い表面が悪影響を与える可能性がある。また、ナノサイズ磁性微粒子は、磁石で分離する場合に、ブラウン運動の影響を受けて磁気分離に時間を要するという欠点がある。また、マイクロサイズ磁性微粒子およびナノサイズ磁性微粒子の分離に磁気カラムを用いると、カラムのコストがかかり、経済的な負担が大きいという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従来の磁性微粒子と比較して、格段に簡便、低コストかつ効率的に目的物質を精製する磁性微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。その結果、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体の表面にゲル層が形成されている磁性微粒子は、反応性に優れ、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、糖および糖鎖を容易に固定化できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体と、該集合体を被覆するゲル層とを備える磁性微粒子であって、該ゲル層に親水性基を有する磁性微粒子。
[2] 平均粒子径が、0.9nm以上10000nm未満である前記[1]項に記載の磁性微粒子。
[3] アルキル基を有する化合物が、ベンゼン環を有さない化合物であって、鉄イオンと結合可能である前記[1]項または前記[2]項に記載の磁性微粒子。
[4] アルキル基を有する化合物が、脂肪酸である前記[3]項に記載の磁性微粒子。
[5] 脂肪酸が、オレイン酸である前記[4]項に記載の磁性微粒子。
[6] 親水性基が、エポキシ基である前記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
[7] ゲル層が、重合性モノマーと、架橋性モノマーとから得られる架橋体である前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
[8] 重合性モノマーが、メタクリル酸グリシジルおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートであり、架橋性モノマーが、ポリエチレングリコールジアクリレートである前記[7]項に記載の磁性微粒子。
[9] 自家蛍光を発しない前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
[10] 前記[1]〜[9]のいずれか1項に記載の磁性微粒子と、目的物質に対する親和性物質とからなる吸着材。
[11] 目的物質に対する親和性物質が、アビジン、プロテインAまたは抗体である前記[10]項に記載の吸着材。
[12] 少なくとも下記の工程(1)および(2)を有する前記[10]項または前記[11]項に記載の吸着材を用いた目的物質の分離方法。
(1)目的物質を含む水溶液と吸着材との混合液を調製し、目的物質と吸着材の結合体を生成させる工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により結合体を分離する工程
[13] さらに下記の工程(3)を含む前記[12]項に記載の方法。
(3)工程(2)で分離した結合体から目的物質を溶出する工程
[14] 前記[12]項または前記[13]項に記載の方法を用いる汚水処理方法。
[15] 汚水からクリプトスポリジウムおよびジアルジアを分離する前記[14]項に記載の汚水処理方法。
[16] 少なくとも下記の工程を含む磁性微粒子の製造方法。
(1)磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を形成する工程
(2)工程(1)で形成された集合体の表面に、重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを行うことで、親水性基を有するゲル層を形成する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁性微粒子は、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を被覆するゲル層を含むことから反応性に優れ、生理活性タンパク質、アミノ酸、ペプチド、糖および糖鎖を容易に固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図2】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図3】IgGの回収率と時間との関係を示す図である。
【図4】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図5】SDS−PAGEによる電気泳動の結果を示す図である。
【図6】ゲル層を持つ磁性微粒子の模式図である。
【図7】蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【図8】FITCラベル微粒子とストレプトアビジン微粒子混合液からのストレプトアビジン微粒子の分離を示す模式図である。
【図9】顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【図10】蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【図11】蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【図12】顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【図13】水道水濃縮液および河川水濃縮液からの磁気分離の結果を示す図である。
【図14】蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
[磁性微粒子]
本発明の磁性微粒子は、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体と、該集合体を被覆し且つ親水性基を有するゲル層とを備えた磁性微粒子である。
【0014】
本発明の磁性微粒子は、0.9nm以上10000nm未満の平均粒子径であることが好ましい。この範囲とすることで、良好な分散性が得られる。さらに、磁性微粒子の平均粒子径が、200nm以上5000nm未満であると、目的物質の分離効率、精製効率及び利便性が高くなるため、より好ましい。磁性微粒子の平均粒子径は、例えば、レーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製ELS−8000(商品名))を用いて測定することにより算出できる。
【0015】
本発明の磁性微粒子は、自家蛍光を発しないことが好ましい。自家蛍光を発しないことで、蛍光標識した物質と区別し易いという利点がある。
【0016】
本発明の磁性微粒子は、その形状に特に制限はなく、例えば、球状、針状および板状など各種の形状が利用できる。後述する目的物質に対する親和性物質(以下、「リガンド」ともいう。)を固定化した磁性微粒子(吸着材)から目的物質を分離する際に、捕集性と分散性のバランスがよく、操作性に優れる点から、球状、楕円体状または粒状の形状が好ましい。
【0017】
[磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体]
本発明で用いられる集合体は、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む。
【0018】
[磁性体]
本明細書における「磁性体」とは、磁気応答性(磁界に対する感応性)を有する粒子を指し、磁性微粒子とした場合に磁気応答性を付与し得るものであればよい。ここで、「磁気応答性を有する」とは、外部磁界が存在するとき、磁界により磁化する、または磁石に吸着するなど、磁界に対して感応性を示すことを指す。
【0019】
磁性体としては、上記磁気応答性を示す従来公知の磁性体であれば特に制限はなく利用できる。当該磁性体としては、例えば、マグネタイト、ゲーサイト、酸化ニッケル、フェライト、コバルト鉄酸化物、バリウムフェライト、炭素鋼、タングステン鋼、KS鋼、希土類コバルト磁石およびヘマタイトの微粒子が挙げられる。
【0020】
磁性体は、例えば、多価アルコールとマグネタイトとから従来公知の方法により製造することができる。例えば、特開2005−082538号公報に、デキストランを用いた磁性微粒子の製造方法が開示されている。
【0021】
磁性体は、その形状に特に制限はなく、例えば、球状、楕円体状、粒状、板状、針状および立方体状などの多面体状が挙げられる。好適な形状に実現されやすい点から、球状、楕円体状および粒状が好ましい。
【0022】
ここで、「球状」とは、アスペクト比(あらゆる方向で測定した場合の最大長さと最小長さとの比)が1.0以上1.2以下の範囲内である形状を指す。「楕円体状」とは、アスペクト比が1.2を超えて1.5以下の範囲内である形状を指す。「粒状」とは、球状のように粒子の長さが全方向で揃っているもの、および楕円体状のように一方向の長さのみ大きいもの以外の、方向による長さの差異はあるが全体として形状に特に異方性がない形状を指す。
【0023】
磁性体の大きさに特に制限はないが、磁気分離を可能とすることから、平均粒子径が0.005〜1μmであることが好ましく、0.2〜0.5μmであることがより好ましい。この平均粒子径は、例えば、レーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製ELS−8000(商品名))を用いて測定することにより算出できる。
【0024】
[アルキル基を有する化合物]
アルキル基を有する化合物は、アルキル基を有し、ベンゼン環を有さない化合物である。アルキル基を有する化合物は、鉄イオンと結合または相互作用が可能な化合物であることが好ましく、鉄イオンと結合が可能であることがより好ましい。アルキル基を有する化合物中のアルキル基の炭素数は、4〜24が好ましく、アルキル基の炭素数が増えるにしたがって、疎水性が強くなる傾向にあることから、炭素数は、10〜20がより好ましい。
【0025】
アルキル基を有する化合物としては、例えば、脂肪酸、アルコール、シリコーンおよびフルオロアルキルが好ましく、脂肪酸及びアルコールがより好ましく、特に脂肪酸が好ましい。また、鉄イオンとしては、鉄(II)イオン(Fe2+)および鉄(III)イオン(Fe3+)が挙げられる。
【0026】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が利用できる。飽和脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルチミン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸およびリグノセリン酸が挙げられる。また、不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)−リノレン酸、(6,9,12)−リノレン酸、10−メチルオクタデカン酸、アラキドン酸が挙げられる。中でも、疎水性場を形成するという観点と、メタノールに溶けやすい点から、オレイン酸、ミリスチン酸およびステアリン酸が好ましい。
【0027】
アルコールとしては、1分子中に水酸基を少なくとも1個有するアルコールであれば特に限定されない。アルコールとしては、例えば、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールおよびリノリルアルコールが挙げられる。中でも、アルコールを構成するアルキルの炭素数が多くなるほど親水性が弱まる傾向、言い換えると、疎水性が強くなる傾向にあり、疎水性場を形成するという観点から、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコールが好ましい。
【0028】
[ゲル層]
本発明の磁性微粒子において、ゲル層は、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体上に形成され、該集合体を被覆する。ここで、「被覆」とは、集合体の外側を覆い、得られる磁性微粒子の最外殻にゲル層が形成される状態を指す。ゲル層は、集合体の外側を完全に覆っている状態が好ましいが、ゲル層と集合体とが分離しなければ、不完全に覆っている状態でもよい。
【0029】
ゲル層は、親水性基を有しており、ゲル層の表面および内部に親水性基を有することが好ましい。ゲル層の持つ親水性基に、リガンドを結合させるためには、ゲル層の表面に親水性基を有することがより好ましい。本発明の磁性微粒子は、磁性微粒子の表面がゲル層で形成されているため、フレキシビリティーを有している。そのため、目的物質と磁性微粒子に固定化されたリガンドとの反応効率が良好になるという利点を有する。
【0030】
ここで、「フレキシビリティー」とは、柔軟性、融通性のことを意味する。具体的には、「フレキシビリティーを有する」とは、材料表面に依存する立体障害を受けない状態にすることであり、リガンドと、目的物質の一種である生理活性タンパク質との相互作用(結合定数)を阻害しないことを示す。また、フレキシビリティーは、得られたゲル層中の、架橋性モノマーの含有率に依存し、重合性モノマーとの質量比が、0.01質量%以上1質量%未満が好ましく、0.1質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。
【0031】
[親水性基]
親水性基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基およびチオール基が挙げられる。磁性微粒子に調製した後に、親水性基を他の官能基に変換する観点およびリガンドのアミノ基、カルボキシル基およびチオール基との結合の観点から、エポキシ基およびカルボキシル基が好ましい。
【0032】
ゲル層は、重合性モノマーと、架橋性モノマーとから得られる架橋体である。ゲル層には、架橋性モノマーで架橋されていない重合性モノマーからなる重合体などが含まれていてもよい。ゲル層は、予め重合性モノマーからなる重合体を製造し、これを架橋性モノマーによって架橋させることで製造してもよく、重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを同時に行うことで、製造してもよい。
【0033】
本発明では、重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを同時に行うことで、製造することが好ましい。本発明では、該架橋体がゲル層であり、水等が含まれた状態だけでなく、乾燥した状態も含む。
【0034】
重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メタクリル酸グリシジル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよびN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド・塩酸塩が挙げられる。中でも、親水場を有し、調製後のその他官能基への変換やリガンドとの結合の観点から、メタクリル酸グリシジルとポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートとの共重合体が好ましい。
【0035】
架橋性モノマーとしては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびポリエチレングリコールジアクリレートが挙げられる。中でも、ゲル層を形成するという観点から、ポリエチレングリコールジアクリレートが好ましい。
【0036】
予め重合性モノマーからなる重合体を製造し、これを架橋性モノマーによって架橋させることで、ゲル層を製造する場合、重合性モノマーからなる重合体としては、少なくとも2種の重合性モノマーが共重合してなる共重合体を用いることが好ましい。2種類の重合性モノマーを用いて共重合体を製造する場合、2種類の重合性モノマーは、適宜選択すればよい。
【0037】
例えば、1種類目の重合性モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メタクリル酸グリシジルまたはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド・塩酸塩を用い、2種類目の重合性モノマーとして、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルまたはポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートを用い、これらを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、重合性モノマーの混合物全体の質量に対して、2種類目の重合性モノマーの含有量は、1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。この範囲とすることで、分散性の高い微粒子が得られる。
【0038】
得られた重合性モノマーからなる重合体を、架橋性モノマーで架橋することで、架橋体を製造することができる。架橋性モノマーの混合量は、重合性モノマーからなる重合体と架橋性モノマーとの混合物に対して、0.01〜1質量%が好ましく、0.02〜0.4質量%がより好ましい。この範囲とすることで、微粒子の架橋密度による含水率を向上させることができ、微粒子へのリガンドの固定化量を向上させることができる。
【0039】
重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを同時に行うことで、ゲル層を製造する場合、少なくとも2種の重合性モノマーと、架橋性モノマーを混合し、製造することが好ましい。2種類の重合性モノマーを用いる場合、2種類の重合性モノマーは、適宜選択すればよい。
【0040】
例えば、1種類目の重合性モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシメタクリルアミド、メタクリル酸グリシジルまたはN‐(3‐アミノプロピル)メタクリルアミド・塩酸塩を用い、2種類目の重合性モノマーとして、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルまたはポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートを用い、架橋性モノマーとしては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートまたはポリエチレングリコールジアクリレートを用い、これらを組み合わせて用いることが好ましい。
【0041】
それぞれのモノマーの使用割合は、重合性モノマーと架橋性モノマーとの混合物に対して、1種類目の重合性モノマーは、89.2〜98.99質量%が好ましく、2種類目の重合性モノマーは、1〜10質量%が好ましく、架橋性モノマーは、0.01〜0.8質量%が好ましい。
【0042】
重合性モノマーの重合のために用いる重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride、過酸化ベンゾイルおよびDimethyl 2,2’−azobis(2−methylpropionate)が挙げられる。
【0043】
本発明の磁性微粒子において、磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を被覆するゲル層の厚みは、用いる重合性モノマーまたは架橋性モノマーの種類、該集合体の厚みによって適宜選択すればよく、特に制限されるものではない。
【0044】
[磁性微粒子の製造方法]
本発明の磁性微粒子は、少なくとも下記の工程を含む製造方法により得られる。
1)磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を形成する工程
2)工程1)で形成された集合体の表面に、重合性モノマーと架橋性モノマーとから架橋体を製造することで、親水性基を有するゲル層を形成する工程
工程2)において、重合性モノマーは、少なくとも2種であることが好ましく、得られる重合体も、共重合体であることが好ましい。また、ゲル層は、重合性モノマーに親水性基が含まれることから、形成されたゲル層は、親水性基を有することになり、ゲル層の表面に親水性基が存在する。
【0045】
本発明の製造方法による各条件は、用いる磁性体、アルキル基を有する化合物、重合性モノマー、架橋性モノマーの種類によって適宜選択でき、特に限定されるものではない。
【0046】
以下、具体例として、磁性体としてマグネタイト粒子を用い、アルキル基を有する化合物としてオレイン酸ナトリウムを用い、重合性モノマーとして、メタクリル酸グリシジル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)を用い、架橋性モノマーとして、ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)を用い、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを用いる場合について説明する。
【0047】
1)磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を形成する工程
この工程は、磁性体とアルキル基を有する化合物とを結合させ、集合体を形成する工程である。まず、常温(20℃)でマグネタイトを分散媒中に分散させる。分散媒に添加するマグネタイトの量は特に制限はないが、均一な分散液が得られやすいことから、2〜20mg/mlの濃度となるように添加することが好ましい。
【0048】
分散媒としては、例えば、水、並びに水に緩衝液(例えば、HEPES(HEPES:2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid)、MES(MES:2−(N−Morpholino)ethane sulfonic Acid)、リン酸、トリス、および酢酸各種緩衝液)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウムおよび硫酸マグネシウム)、界面活性剤類(例えば、トリトンX−100およびNP−40)およびアルコール類(例えば、エタノール、メタノールおよびイソプロパノール)を適宜組み合わせた水溶液が挙げられる。
【0049】
次に、マグネタイトの分散液に、オレイン酸ナトリウムを添加する。マグネタイトの分散液に対するオレイン酸ナトリウムの添加量は、1〜30質量%が好ましく、3〜5質量%がより好ましい。
【0050】
続いて、マグネタイトとオレイン酸ナトリウムの混合液を還流条件下で加熱し、マグネタイトとオレイン酸ナトリウムとを結合させて、マグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体を得る。混合液の加熱条件は、還流条件下で、70〜80℃で、6〜12時間反応させることが好ましい。
【0051】
さらに、マグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体を含有する混合液を遠心分離して余剰なオレイン酸ナトリウムを除去し、再度分散媒に分散させ、不純物を除いて、マグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体とする。
【0052】
2)工程1)で形成されたマグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体を被覆するように、重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを同時に行うことで架橋体を形成する工程
この工程は、工程1)で形成された集合体を被覆するようにゲル層を形成する工程である。まず、工程1)で得られたマグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体を分散媒に分散させた分散液に、重合性モノマーであるメタクリル酸グリシジルおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)と、架橋性モノマーであるポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)を添加する。
【0053】
それぞれのモノマーの使用割合は、メタクリル酸グリシジルを好ましくは89.2〜98.99質量%、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)を好ましくは1〜10質量%、ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)を好ましくは0.01〜0.8質量%の濃度で添加することが好ましい。
【0054】
マグネタイトおよびオレイン酸ナトリウムを含む集合体、並びに重合性モノマーと架橋性モノマーの混合液に、重合開始剤である2,2−アゾビスイソブチロニトリルを添加する。2,2−アゾビスイソブチロニトリルの添加量は、混合液に対し、0.05〜0.5質量%の濃度となるよう添加することが好ましい。
【0055】
重合開始剤を添加した後、加熱してメタクリル酸グリシジルおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)を共重合させ、同時に生成する共重合体をポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)で架橋させる。加熱条件は、70〜80℃にて6〜12時間とすることが好ましい。
【0056】
その後、室温に戻した後、磁気分離により有機溶媒で洗浄し、表面にゲル層を有する磁性微粒子が得られる。得られた磁性微粒子から有機溶媒を磁気分離により除去し、水に置換し、室温にて24〜48時間回転混合することによりゲル層を膨潤させ、乾燥する。
【0057】
乾燥条件は、好ましくは60〜70℃にて3〜6時間、減圧乾燥する。乾燥後の磁性微粒子の含水率は、50〜90質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることが好ましい。この範囲とすることで、磁性微粒子の分散性が高くなるからである。
【0058】
上述した手順により、マグネタイトおよびオレイン酸ナトリウム複合体を含む集合体と、該集合体を被覆する、メタクリル酸グリシジル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートおよびポリエチレングリコールジアクリレートの架橋体よりなり、その表面にエポキシ基を有するゲル層とを備える本発明の磁性微粒子を製造することができる。
【0059】
[吸着材]
本発明の磁性微粒子は、リガンドを固定化することにより、目的物質を特異的に吸着できる吸着材とすることができる。
目的物質は特に限定されないが、例えば、生理活性タンパク質、アミノ酸、ペプチド、糖および糖鎖が挙げられる。
【0060】
生理活性タンパク質とは、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られるものが含まれる。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、または該アミノ酸配列の1若しくは複数を欠失、置換、または付加したもので前記生物学的活性を有するものが含まれる。
【0061】
生理活性タンパク質としては、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、成長ホルモン、インシュリンおよびプロラクチン等のタンパク質ホルモン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)およびトロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL−1およびIL−6等のサイトカイン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、幹細胞成長因子(SCF)、インスリン並びに副甲状腺ホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
目的物質には、タグ融合タンパク質が含まれる。タグ融合タンパク質とは、遺伝子工学技術などを利用して人為的に導入した標識を持つタンパク質である。タグ融合タンパク質は、例えば、目的のタンパク質分子の一部に、特定のアミノ酸配列を持つペプチド鎖、または酵素活性および/若しくは特定の物質に対する結合能を持つタンパク質を標識として導入することで、作製することができる。目的のタンパク質に当該標識を導入することで、該タンパク質の分離や検出が容易になる。
【0063】
タグ融合タンパク質のタグとしては、例えば、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)、GSTタグ、HAタグ、C−Mycタグ、V5タグ、VSV−Gタグ、HSVタグ、チオレドキシンタグ、アルカリフォスファターゼタグおよびリン酸化タンパク質タグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
アミノ酸としては、特に限定はされないが、例えば、システインおよびメチオニンが挙げられる。また、ペプチドとしては、特に限定はされないが、例えば、インスリンおよびグルタチオンが挙げられる。
【0065】
リガンドとしては、例えば、ビオチン、アビジン、グルタチオン、レクチン、抗体、N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノジ酢酸、プロテインAおよびプロテインGが挙げられる。ここで、ビオチンはイミノビオチンであってもよく、アビジンはストレプトアビジンであってもよい。
【0066】
リガンドがビオチンの場合は、アビジンとの特異的な結合を介してビオチン化された目的タンパク質と、またビオチン化された抗体を用いてそれらの抗原である種々のタンパク質と更に結合することが可能である。本発明の吸着材には、市販されているアビジン化タンパク質およびビオチン化タンパク質が利用でき、ビオチン化は、当技術分野で周知の方法に従えばよい。
【0067】
リガンドがグルタチオンの場合は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、「GST」という。)を含有するタンパク質と特異的に結合できる。このようなGST含有タンパク質の調製は当技術分野で周知の方法に従えばよい。
【0068】
リガンドとしてプロテインAまたはプロテインGを用いる場合は、目的物質としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体としては、IgGが好ましい。なお、ヒトIgGには、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のサブクラスがあり、マウスIgGには、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3のサブクラスがある。本発明では、これらを使用することがより好ましい。
【0069】
目的物質が糖鎖を有する生理活性タンパク質である場合、糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。該哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、アフリカミドリザル腎臓由細胞(COS細胞)およびヒト由来の細胞が挙げられる。
【0070】
目的物質がモノクローナル抗体である場合には、モノクローナル抗体はいかなる方法で製造されたものでもよい。モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、抗原に感作させた免疫細胞を通常の細胞融合法によってミエローマ細胞と融合させて作成したハイブリドーマから生産することができる。
【0071】
また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変されたキメラ抗体を含む。さらに、トランスジェニック動物(ある特定の遺伝子を個体レベルで付加した遺伝子操作動物のこと。)およびファージディスプレイ等によって作製されたヒト抗体も好ましい。
【0072】
リガンドは、磁性微粒子のゲル層に固定する。本発明の磁性微粒子とリガンドとの結合の例として、国際公開第01/009141号に記載されているように、ビオチンを、メタクリルやアクリル等の重合性官能基と結合させて付加重合性モノマーとし、他のモノマーと共重合することにより、本発明の磁性微粒子におけるゲル層にビオチンを結合させた吸着材が得られる。
【0073】
一方、リガンドとしての抗体にアビジンを結合させ、前記吸着材と混合することにより、アビジンとビオチンの結合を利用して、前記吸着材に抗体を結合させることができる。
なお、ビオチンの代わりにグルタチオンを用いた場合は、アビジンではなく、グルタチオンSトランスフェラーゼを用いればよい。
【0074】
また、磁性微粒子のゲル層の形成時に親水性基を持つモノマーを他のモノマーと共重合させ、当技術分野で周知の方法に従い、親水性基を介して、抗体親和性物質(例えば、メロンゲル、プロテインAおよびプロテインG)をゲル層上に結合させて吸着材を得ることができる。抗体親和性物質にリガンドとしての抗体を結合させることにより、吸着材に抗体を結合させることができる。
【0075】
また、本発明の吸着材は、微生物に対する抗体を固定することにより、汚水からの微生物除去に用いることができる。汚水中の微生物としては、例えば、クリプトスポリジウム、ジアルジア、大腸菌、サルモネラ菌,レジオネラ菌およびピロリ菌が挙げられる。
【0076】
[目的物質の分離方法]
本発明の吸着材を用いて、少なくとも下記の工程を含む方法により目的物質を分離することができる。
(1)目的物質を含む水溶液と吸着材との混合液を調製し、目的物質と吸着材の結合体を生成させる工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により結合体を分離する工程
(3)工程(2)で分離した結合体から目的物質を溶出する工程
【0077】
以下、各工程について説明する。
(1)目的物質を含む水溶液と吸着材との混合液を調製し、目的物質と吸着材の結合体を生成させる工程
この工程は、目的物質を含む試料とリガンドを固定化した磁性微粒子(吸着材)とを混合し、該リガンドと目的物質との親和性を利用して、目的物質を吸着材に結合させる工程である。
【0078】
混合操作は、適当なバッファー中で目的物質と吸着材が接触し得るならば、制限はない。例えば、目的物質を含む試料および吸着材が供されたチューブを軽く転倒攪拌または振とうさせる程度で十分であり、例えば市販のボルテックスミキサー等を用いて混合する操作が挙げられる。
【0079】
目的物質を含む試料としては、例えば、生理活性タンパク質を含むCHO細胞などの哺乳動物細胞の培養培地およびこれに部分的精製などの一定の処理を施したもの、血清、血漿、腹水、リンパ液および尿が挙げられる。
【0080】
本発明の目的物質の分離方法によれば、目的物質が生理活性タンパク質である場合、生理活性タンパク質を好ましくは10−18〜10−2mol/l、より好ましくは10−5〜10−2mol/lという高濃度で含む試料から、磁性微粒子を用いて生理活性タンパク質を精製することができる。生理活性タンパク質の濃度は、例えば、ブラッドフォード法、BCA法、280nmの吸光度の測定および電気泳動により、測定することができる。なお、吸着材と混合する生理活性タンパク質を含む試料の容量は、1ml以上が好ましく、15ml以上がより好ましい。また、50l以下が好ましく、10l以下がより好ましい。
【0081】
また、目的物質が生理活性タンパク質である場合、工程(1)に供する生理活性タンパク質を含む試料は前処理していない試料であることが好ましい。生理活性タンパク質を含む試料の前処理としては、例えば、カラム法によりタンパク質を精製する際に必要である前処理が挙げられる。該前処理としては、例えば、細胞の分離、硫安沈殿、カプリル酸沈殿、硫酸デキストラン沈殿、ポリビニルピロリドン沈殿、活性炭によるフェノールレッド除去、並びに脱塩およびバッファー交換(例えば、ゲル濾過、透析および限外ろ過)が挙げられる。細胞を分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過および限外ろ過が挙げられる。
【0082】
本発明の目的物質の分離方法によれば、生理活性タンパク質を含む試料の前処理を経なくてもよいため、生理活性タンパク質の精製に要する時間を短縮することができる。前処理に要する時間は、生理活性タンパク質の種類および量等により異なるが、通常、15〜30時間である。例えば、遠心分離により夾雑物である細胞を分離する場合、通常約30分〜1時間の所用時間である。また、生理活性タンパク質を含む試料が血清の場合、硫安沈殿および脱塩をする必要があるが、例えば、血清の量が15〜1000mlの場合、その所要時間は、通常約30分から1時間である。また、生理活性タンパク質を含む試料が培養上清の場合、フェノールレッド除去を必要に応じてする必要があるが、培養上清が15〜1000mlの場合その所要時間は、通常約1時間である。
【0083】
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により結合体を分離する工程
この工程は、工程(1)で得られた混合液から、目的物質の結合した吸着材を磁力により分離する工程である。具体的には、例えば、目的物質と吸着材との結合を適当なチューブ内で行った場合、チューブの側壁に磁石を外側から近づけることによって吸着材をチューブの側壁近傍に保持しつつ、チューブ内から上澄み部分となる液体を排出することによって、目的物質が結合した吸着材を分離することができる。
【0084】
磁性微粒子の分離に用いる磁石等の磁力は、用いる磁性微粒子の有する磁力の大きさによって異なる。磁力は、目的の磁性微粒子を磁集可能な程度の磁力を適宜使用できる。磁石の素材としては、例えば、上述した磁性微粒子の素材で構成されたものを使用することができる。例えば、ネオジム磁石(株式会社二六製作所製)等が利用できる。ネオジム磁石の磁力は、3800ガウス以上がより好ましい。
【0085】
(3)工程(2)で分離した結合体から目的物質を溶出する工程
この工程は、工程(2)で磁性分離により分離した、目的物質と吸着材の結合体から、目的物質を溶出して回収する工程である。目的物質の特性に従い、当該技術分野で周知の方法によって結合体から目的物質を分離する。
【0086】
具体的には、例えば、結合体を入れたチューブ内に適当な溶出液を加えることによって、目的物質を結合体から溶出させる。そして、溶出後、チューブの側壁に磁石を外側から近づけて磁性微粒子をチューブの側壁近傍に保持しつつ、チューブ内から上澄み部分となる液体を採取することによって、吸着材に結合していた目的物質を回収することができる。
【0087】
目的物質を溶出させる溶出液としては、目的物質とリガンドとの親和性を低下させる効果がある液体が好ましい。当該液体としては、例えば、塩酸、イミダゾール、グルタチオンおよびビオチンを含むバッファーが挙げられる。バッファーとしては、例えば、リン酸カリウムバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、トリス塩酸塩バッファー、1,4−ピペラジンジエタンスルフォン酸バッファー(以下、「PIPESバッファー」という。)、ホウ酸バッファーおよびグリシン塩酸バッファーが挙げられる。
【0088】
尚、目的物質と吸着材の結合体から目的物質を溶出させる前に結合体を洗浄し、夾雑物を除去してもよい。具体的な洗浄方法としては、例えば、0.5質量%のTween20(ユニヒェマ ヒェミー ベスローテン フエンノートシャップ社の登録商標:Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)を含むリン酸ナトリウムバッファー中に目的物質と吸着材の結合体を加え、再分散を繰り返すことで、疎水性相互作用で結合や巻き込みにより結合体中に取り込まれていた夾雑物を取り除く方法が挙げられる。
【0089】
上記工程(1)〜(3)を経ることによって、目的物質を含む試料から目的物質を精製することができる。
【0090】
また、本発明の吸着材を用いれば、少なくとも上記工程(1)および(2)を経ることによって、汚水処理することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
磁気分離とは、磁性微粒子等を磁石等の磁力によって、液体から収集することをいう。
なお、磁気分離には、株式会社二六製作所製ネオジム磁石を使用した。
精製水とは、ミリポア社製純水製造装置「Direct−QTM」によって精製された導電率18MΩcmの水であり、MillQ水と呼ばれることもある。
【0092】
実施例1
<表面にゲル層を持つ磁性微粒子の製造方法>
200ml容のフラスコに、塩化第二鉄・六水和物(1.0mol)及び塩化第一鉄・四水和物(0.5mol)混合水溶液を100ml入れ、メカニカルスターラー(LABORATORY HIGHT POWER MIXER、ASONE社製)で攪拌し、この混合溶液を50℃に昇温した後、28質量%アンモニア水溶液5.0mlを滴下し、1時間程度攪拌した。この操作で、平均粒子径が約5nmのマグネタイトが得られた。得られたマグネタイトを精製水で3回洗浄し、乾燥した後メタノールにて20mg/mlに調製した。マグネタイト分散液100mlに対し、オレイン酸ナトリウム3gを加え80℃で12時間還流操作を行った。遠心分離(10000g、30分、25℃)して過剰なオレイン酸ナトリウムを除き、再びメタノールに分散し20mg/mlに調製し、マグネタイト−オレイン酸ナトリウム複合体のメタノール溶液を得た。
【0093】
マグネタイト−オレイン酸ナトリウム複合体(磁性微粒子)のメタノール溶液100mlにメタクリル酸グリシジル25g、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)1gおよびポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)0.1gを加え、室温で2時間攪拌した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.25g加え、70℃に加熱し6時間反応させた。得られた反応混合物を室温に戻した後、磁気分離(ネオジム磁石、株式会社二六製作所製)し、メタノールで2回洗浄することで、表面にゲル層を持つ磁性微粒子のメタノール分散液を得た。前記磁性微粒子のメタノール分散液から、磁気分離(ネオジム磁石、株式会社二六製作所製)によりメタノールを除き、精製水に置換し一晩回転混合によりゲル層を膨潤させた。その後、1mlの分散液を分取し、磁気分離を行い上清を除き、水を含有する磁性微粒子の質量を測定し、乾燥(60℃、6時間、恒温・乾燥器 DKN402、ヤマト科学社製)させた後、乾燥後の磁性微粒子の質量を測定した。その結果、ゲル層を有する磁性微粒子の含水率は83質量%であった。
【0094】
得られた磁性微粒子の平均粒子径をレーザーゼータ電位計(大塚電子株式会社製ELS−8000(商品名))により測定したところ、525nmであった。
【0095】
実施例2
<ストレプトアビジン固定化磁性微粒子によるビオチン化抗体の分離>
(ストレプトアビジン固定化磁性微粒子の調製)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子1ml(20mg/ml)を磁気分離し上清を除いた。そこへ精製水1mlを添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ25mM MES buffer(pH4.75)1mlを加えて再分散させた。ストレプトアビジン(10mg/ml)を25μl添加し、3時間回転混合した。磁気分離を行い、上清を除いた後1mlの100mM TBS(TBS:Tris−Buffered Saline)を加えて1時間反応させた。磁気分離の後、上清を除去し、1mlの100mM PBS(PBS:Phosphate buffered saline、pH7.5、0.01質量%のBSAを含む)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子を得た。
【0096】
(ストレプトアビジン固定化磁性微粒子によるビオチン化抗体の分離)
ストレプトアビジン固定化磁性微粒子100μlに対してビオチン化IgG(ROCKLAND社製、Anti−IgG(Fc)、Rabbit、Goat−Poly、Biotin)10μgを添加し5分間回転混合した。その後15μlを分取し、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の略。)による電気泳動のTotalサンプルとした。2分間磁気分離し、上清から15μlを分取し、SDS−PAGEによる電気泳動の上清(sup)サンプルとした。上清を除去し、1mlの100mM PBS(pH7.5、0.01質量%のBSAを含む)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、上清を除去後15μlの100mM PBSを添加し、SDS−PAGEによる電気泳動の残渣(ppt)サンプルとした。
【0097】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図1に示す。図1に示したように、Totalサンプルに存在するIgGに由来するバンドがsupサンプルでは消失し、磁性微粒子側(pptサンプル)に結合していることがわかった。
この結果から、本発明によるストレプトアビジン固定化磁性微粒子により、効率的にビオチン化IgGを回収できることがわかった。
【0098】
実施例3
<プロテインA固定化磁性微粒子による抗体の精製>
(プロテインA固定化磁性微粒子の調製)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子1ml(20mg/ml)を磁気分離し、上清を除いた。そこへ精製水1mlを添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ1mlの25mM MES bufferを加え再分散した。25μlのプロテインA(10mg/ml)を添加し、3時間回転混合した。磁気分離を行い、上清を除いた後、1mlの100mM TBS(pH7.5)を加えて1時間反応させた。磁気分離の後、上清を除去し、1mlの100mM PBS(pH7.5)を加え、磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をもう一度行い、プロテインA固定化磁性微粒子を得た。
【0099】
(プロテインA固定化磁性微粒子を用いたウサギおよびヒト血清からのIgGの分離)
プロテインA固定化磁性微粒子100μlに対してウサギおよびヒト血清10μlを添加し5分間、MTR−103(AS ONE社製)によって回転混合させた。上清を除去し、1mlの100mM PBSを加えて再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し再分散させた。磁気分離の後、上清を除去し、90μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH3.0)加え3分間振とう混合することでIgGを溶出させた(1回目)。磁気分離の後、上清を分離し、分離した上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル1とした。
【0100】
再び90μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH3.0)加え、3分間振とう混合して、IgGを溶出させた(2回目)。分離した上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル1とした。磁気分離の後、上清を分離し、上清に対して10μlの10×PBSを添加し、溶出サンプル2とした。
【0101】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図2に示す。図2に示すように、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子を用いて、ウサギ血清およびヒト血清のいずれからでもIgGを分離・溶出できることがわかった。
【0102】
実施例4
<プロテインA固定化磁性微粒子及びプロテインG固定化磁性微粒子と従来製品との比較>
(IgGの分離)
実施例3と同様に、プロテインA固定化磁性微粒子及びプロテインG固定化磁性微粒子を調製した。200μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社製)を含む100μlの100mM PBSに、各3mgのプロテインA固定化磁性微粒子及びプロテインG固定化磁性微粒子を添加し25℃で15分間、MTR−103(AS ONE社製)によって回転混合させた。2分間磁気分離の後、上清を除去して200μlの100mM PBS−T(0.05質量%のTween20を含むPBS溶液)を加え、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し再分散させた。さらに2回洗浄操作を行い、上清を除去した。45μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH2.7)を加え、ピペットにより混合した。ボルテックスを5分間行い、磁気分離の後に上清を回収した。さらに再度抽出操作を行い、得られた2回分の上清を混合し、8μlの1N NaOHを加え中和した。中和した各上清をSDS−PAGEによる電気泳動を行った。
【0103】
電気泳動の結果はCS Analyzer(ATTO社製)により解析した。なお、検量線は、IgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbitを用いて作成した。また、Dynabeads ProteinAおよびG(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。
【0104】
電気泳動の結果、プロテインA固定化磁性微粒子は、158.4μgのIgGを分離し、Dynabeads ProteinAは、36.8μgのIgGを分離した。また、プロテインG固定化磁性微粒子は、97.4μgのIgGを分離し、Dynabeads ProteinGは、27.3μgのIgGを分離した。
【0105】
上記の結果から、Dynabeads ProteinGを用いた場合に対して、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子では、最大4.3倍、プロテインG固定化磁性微粒子では、3.6倍のIgGを分離できることが分かった。
【0106】
(希薄溶液からのIgGの分離)
プロテインA固定化磁性微粒子を実施例3と同様に調製した。1mgのプロテインA固定化磁性微粒子を50μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社製)を含む50mlの希薄溶液に添加し30分間回転混合させた。磁気分離の後、上清を除去し1mlの100mM PBSを加えて磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離操作を行い、上清を除去し、磁性微粒子を再分散させた。磁気分離の後、上清を除去し、磁性微粒子をSDS−PAGEによる電気泳動で分析した。
【0107】
電気泳動の結果をCS Analyzer(ATTO社製)により解析した。なお、検量線の作成はIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbitを用いて行った。また、Dynabeads ProteinA(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。
【0108】
その結果、プロテインA固定化磁性微粒子により25μgのIgGが分離できた。一方、Dynabeads ProteinAにより6μgのIgGが分離できた。この結果から、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子はDynabeads ProteinAと比較して、希薄溶液から約4倍のIgGを分離できることがわかった。
【0109】
(磁性微粒子とIgGの反応速度の比較)
プロテインA固定化磁性微粒子を実施例3と同様に調製した。10mgのプロテインA固定化磁性微粒子を25μgのIgG Fraction of Anti−Streptavidin Rabbit(ROCKLAND社)を含む500μlのPBS溶液に添加し、0.5、1、5、10、20、30分の反応の後に磁気分離を行い、上清を15μl分取し、電気泳動を行った。
【0110】
電気泳動の結果は、CS Analyzer(ATTO社製)により解析した。また、Dynabeads ProteinA(Invitorogen社製)についても同様の操作を行った。プロテインG固定化磁性微粒子についても同様に比較を行った。その結果を図3に示す。
【0111】
図3の上図に示すように、プロテインA固定化磁性微粒子は、約0.5分でほぼ100%のIgGを分離した。一方、Dynabeads ProteinAは、30分で85%のIgGを分離した。また、図3の下図に示すように、プロテインG固定化微粒子は、0.5分でほぼ100%のIgGを分離した。一方、Dynabeads ProteinGは、30分で27%のIgGを分離した。これらの結果から、本発明によるプロテインA固定化磁性微粒子およびプロテインG固定化磁性微粒子は、Dynabeads ProteinAおよびDynabeads ProteinGと比較して、IgGとの反応速度が速いことがわかった。
【0112】
実施例5
<ハイブリドーマ培養上清50mlからのプロテインA固定化磁性微粒子によるIgG2aの分離>
(処理1)
50mlのハイブリドーマ培養上清を300ml容積の三角フラスコに分注し、10質量% Tween20を250μl加えた(最終濃度:0.05質量%)。そこへ、実施例3と同様に調製した4mlのプロテインA固定化磁性微粒子(10mg/ml)を加え、室温で1時間、泡立たぬ程度に振とう機(90回/分、MS−1 Minishaker、IKA社製)によりインキュベートした。
【0113】
(処理2)
50ml遠心チューブ2本に均等に移し、磁気分離を室温にて10分間行った。上清を三角フラスコに戻し、再度4mlのプロテインA固定化磁性微粒子を加え、1時間同様にインキュベートした。
【0114】
(洗浄操作)
処理1で磁気分離した磁性微粒子に3mlのPBS−T(Tween20を0.05質量%含むPBS)を加え、十分に分散させた後、2mlのマイクロチューブに2本に移した。空になった遠心チューブに再度1mlのPBS−Tを加え、壁面を洗い、上記の2mlマイクロチューブへ0.5mlのPBS−Tを加えた。磁気分離装置(マグナスタント−8、マグナビート株式会社製)にセットし、氷水中で5〜10分間静置し磁気分離した。上清を除去し、再びPBS−Tを添加して磁性微粒子を分散させ、5〜10分間磁気分離を行い、上清を除去した。洗浄操作を再び行い、上清を除去した。
【0115】
(抽出操作)
各チューブに450μlの100mM グリシン塩酸バッファー(pH2.7)加え、十分に混合させた。マクロチューブをフロートへ指し、氷水中に装着し、ソニケーター(S30H Elmasonic、Elma社製)に浮かべ、超音波洗浄を行った。超音波洗浄は、10秒間行った後、10秒間休止し、これを洗浄操作のサイクルとし、これを5分間繰り返した。磁気分離操作の後、上清を分離し、新しいマイクロチューブに移し、80μlの1M NaOHを加え中和し、精製IgG2aを得た。抽出操作をさらにもう一度行った。再度(処理2)プロテインA固定化磁性微粒子を加え分離操作を行ったものは、同様に洗浄・抽出操作を行った。
【0116】
15μlの各サンプルをSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図4に示す。
【0117】
図4に示すように、上清の洗浄液には、IgGに由来するバンドはなく溶出液にのみIgGに由来するバンドが見られた。この結果から、本発明による磁性微粒子を用いた操作により、IgGを特異的に精製することができることがわかった。また、回収率は93%であり、所要時間は約4時間であった。
【0118】
実施例6
<AB−NTA固定化磁性微粒子によるHis−プロテインAの回収>(AB−NTAの固定化)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子10ml(20mg/ml)を磁気分離し上清を除いた。そこへ10mlの精製水を添加し、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ10mlの100mM ホウ酸バッファー(pH8.5)を加えて磁性微粒子を再分散させた。100mgのAB−NTA free acid(DOJIDO社製)を添加し、12時間回転混合した。磁気分離の後、上清を除去し、10mlの精製水を加えて磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をさらに3回行い、AB−NTA固定化磁性微粒子を得た。
【0119】
(ニッケルとの複合体の形成)
10mlのAB−NTA固定化磁性微粒子を磁気分離の後、上清を除去し、10mlの1M濃度硫酸ニッケル溶液に懸濁し、6時間撹拌した。その後、磁気分離を行い、上清を除去し、10mlの精製水を加えて磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をさらに3回行い、PBS(pH7.5)中に再懸濁しNi−NTA磁性微粒子を保存した。
【0120】
(His−プロテインAの回収)
His−tagをN−末端に有するRecombinant−ProteinA(フナコシ社製)100μgを含む10μlのGoat血清に、1mgのNi−NTA磁性微粒子を添加した。5分間の反応の後、上清を除去した。そこへTween20を0.1質量%含むPBSを1ml添加して、Ni−NTA磁性微粒子を再分散させた。同様にTween20を0.1質量%含むPBS1mlで5回洗浄操作を行った。磁気分離の後、上清を除去し、50μlの500mM イミダゾールPBS溶液を添加して溶出操作を行った。15μlの上清を分取しSDS−PAGEによる電気泳動で分析した結果を図5に示す。
【0121】
図5に示すように、溶出液にRecombinant−ProteinAに由来するバンドがみられた。この結果から、本発明によるNi−NTA磁性微粒子により、Hisタグを有するタンパク質を特異的に分離できることがわかった。
【0122】
実施例7
<自家蛍光の有無の評価>
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子を、蛍光顕微鏡(アーク光源全反射蛍光顕微鏡システム IX71−ARCEVA、オリンパス社製)を用いて、明視野および暗視野により観察した。Dynabeads anti−Cryptosporidium(ベリタス社製)についても同様に観察した。その結果を図7に示す。
【0123】
図7に示すように、Dynabeadsは暗視野において自家蛍光が観察されるのに対して、ゲル層を有する磁性微粒子には自家蛍光は観察されなかった。この結果から、本発明による磁性微粒子は自家蛍光を発しないことがわかった。
【0124】
実施例8
<抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子による、FITCラベル微粒子とストレプトアビジン微粒子の混合液からのストレプトアビジン微粒子の分離>
(抗ストレプトアビジン抗体の磁性微粒子への固定化)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子1ml(20mg/ml)を磁気分離し、上清を除いた。そこへ精製水1mlを添加し、再分散した。再び磁気分離後、上清を除き、そこへ25mM MES buffer(MES:2−(N−Morpholino)ethanesulfonic Acid、pH4.75)1mlを加え再分散した。抗ストレプトアビジン抗体(10mg/mL、Anti−Streptavidin、Rabbit、ROCKLAND社製)を25μl添加し、3時間回転混合した。その後、磁気分離を行い、上清を除いた後、1mlの100mM TBSを加え1時間反応させた。磁気分離の後、上清を除去し、1mlの100mM PBS(pH7.5、0.01質量%のBSAを含む)を加え、再分散を行った。同様の操作をもう一度行い、抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子を得た。
【0125】
(FITCラベル微粒子とストレプトアビジン微粒子混合液からのストレプトアビジン微粒子の分離(図8))
FITCラベル微粒子(Micro particles based on melamine resin、carboxylate−modified、FITC−marked、Fluka社製、10μm、2.5質量%)(以下、「FITC微粒子」ともいう)とストレプトアビジン微粒子(Streptavidin Microspheres、6.0μm、polysciences社製、1.36質量%)とを1:10(容量比)で混合した混合液100μlに対して、50μlの抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子を添加し、15分間回転混合した。その後、磁気分離を行い、上清を除去後1mlのPBSに磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離を行い、上清を除去後、1mlのPBSに磁性微粒子を再分散させた。同様の操作をさらに2回行った。その後、蛍光顕微鏡および顕微鏡(IX71、オリンパス社製)により観察した。図9に顕微鏡による観察結果を示す。図9に示すように、本発明による磁性微粒子により磁気分離する前のFITC微粒子は総数の約20%であったが、磁気分離後は約1.4%になった。
【0126】
(磁性微粒子に対するFITC微粒子の非特異的吸着の確認)
実施例1と同様に調製したゲル層を持つ磁性微粒子50μlを100μlのFITC微粒子に添加し、15分間回転混合した。その後、磁気分離を行い、上清を除去後、1mlのPBSに磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離を行い、上清を除去後、1mlのPBSに磁性微粒子を再分散した。同様の操作をさらに2回行った。その後、蛍光顕微鏡により観察した。その結果を図10に示す。図10に示すように、本発明の磁性微粒子による非特異的な吸着はほぼないことがわかった。
【0127】
これらの結果から、目的物質に対する特異的な抗体を本発明の磁性微粒子に固定化することで、目的物質を特異的に分離することができることがわかった。
【0128】
実施例9
<微粒子分離における市販の磁性微粒子との比較>
市販の磁性微粒子(Dynabeads MyOne Carboylic acid、invitorogen社製)(以下、「ゲル層がない磁性微粒子」ともいう)と、実施例8に調製したゲル層を有する抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子とを比較した。実施例8と同様の方法で、FITC微粒子およびストレプトアビジン微粒子の混合液に磁性微粒子を添加した後に磁気分離操作を行い、1回目の磁気分離後の上清側を上清(sup)サンプルとし、磁性微粒子側を残渣(ppt)サンプルとした。蛍光顕微鏡により観察した結果を図11に示す。
【0129】
図11に示すように、ゲル層がない磁性微粒子では効率的に分離することができなかったが、ゲル層を有する抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子ではSup側にはほぼFITC微粒子が、ppt側にはストレプトアビジン微粒子が分離され効率的に微粒子が分離されているのがわかった。
【0130】
また、各5μlのゲル層がない磁性微粒子およびゲル層を有する磁性微粒子を5μlのストレプトアビジン微粒子を混合した混合液を顕微鏡で観察した。その結果を図12に示す。
【0131】
図12に示すように、ゲル層を有する抗ストレプトアビジン抗体固定化磁性微粒子とストレプトアビジン微粒子が共存する場合は、ストレプトアビジン微粒子の判別が容易であった。一方、ゲル層がない磁性微粒子とストレプトアビジン微粒子が共存する場合は、ストレプトアビジン微粒子の判別が困難であった。
【0132】
これらの結果から、本発明のゲル層を有する磁性微粒子は、市販のゲル層のない磁性微粒子と比較して、より特異的に目的物質を分離することができることがわかった。
【0133】
実施例10
<水道水濃縮液および河川水濃縮液からの磁気分離>
各1mlの水道水濃縮液(10lの水道水を10mlに濃縮した。)および河川水濃縮液[10lの河川水(採取場所:千葉県養老川、試験時期:2008年9月〜10月)]を10mlに濃縮した。)を2mlのバイアルに分注し、実施例1と同様に調製したゲル層を有する磁性微粒子100μlを添加した。その後、磁気分離のために、ネオジム磁石(NE001Φ8×3、丸型、株式会社二水製作所製)をバイアルの側面にあて、1分間静置した。その磁気分離挙動を確認した。その結果を図13に示す。
【0134】
図13に示すように、本発明によるゲル層を有する磁性微粒子によれば、水道水濃縮液および河川水濃縮液のいずれにおいても巻き込みがほとんどなく磁気分離できることがわかった。
【0135】
実施例11
<ジアルジアおよびクリプトスポリジウムの分離>
実施例10と同様に調製した河川水濃縮液1mlに不活化したジアルジアとクリプトスポリジウムとを各100個添加した懸濁液を調製した。懸濁液1mlに対して、10μlのビオチン化クリプトスポリジウム抗体(A400BIOT−R−20X:Crypt−a−Glo、Waterborne社製)20μlを添加し30分間回転混合し反応させた。その後、実施例2と同様に調製したストレプトアビジン固定化磁性微粒子50μlを添加し、15分振倒混合し反応させた。2分間磁気分離を行い、上清を回収し、上清(sup)サンプルとした。分離した磁性微粒子に1mlのPBSを加えて、磁性微粒子を再分散させた。再び磁気分離を行い上清を除去した。200μlのPBSを添加し、磁性微粒子を再分散させて、残渣(ppt)サンプルとした。Supおよびpptサンプルを、EasyStainTM(和光純薬工業)を用いて染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。その結果を図14に示す。
【0136】
図14に示すように、sup側にはジアルジアのみが、ppt側にはクリプトスポリジウムのみが観察できた。また、本発明の磁性微粒子は、微粒子組成にスチレンを含まないため自家蛍光がなく、磁性微粒子からの分離操作なしに蛍光測定ができた。これらの結果から、本発明による磁性微粒子によれば、公定法で用いられている磁性微粒子でも困難であった河川水からでもクリプトスポリジウムを分離できることがわかった。
【0137】
実施例12
<架橋性モノマーの影響>
(プロテインA固定化磁性微粒子の調製)
表1に示すように、マグネタイト−オレイン酸ナトリウム複合体(磁性微粒子)のメタノール溶液100mlに、メタクリル酸グリシジル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(数平均分子量2080)、ポリエチレングリコールジアクリレート(数平均分子量575)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを表1の配合量で仕込み、実施例1と同様に処理し、表面にゲル層を持つ磁性微粒子を調製した。得られたゲル層を持つ磁性微粒子を実施例3と同様に処理し、プロテインA固定化磁性微粒子を調製した。
【0138】
【表1】

【0139】
得られたプロテインA固定化磁性微粒子の粒径、含水率、エポキシ基濃度およびプロテインAの固定化量を測定した。その結果を、表2に示す。
【0140】
【表2】

【0141】
表2に示すように、ほぼ同等のエポキシ基を有しているにかかわらず、プロテインAの固定化量は、架橋性モノマーの量が少ない磁性微粒子(No.1〜3)の方が、架橋性モノマーの量が多い磁性微粒子(No.4および5)と比較して多かった。これは、架橋密度による含水率がプロテインAの固定化に大きく影響していると考えられる。
【0142】
(IgGの分離)
実施例4と同様にして、プロテインA固定化磁性微粒子によりIgGを磁気分離し、SDS−PAGE電気泳動によりIgG回収量を調べた。その結果を表3に示す。なお、表3において、IgG回収量(mg/mg)は、プロテインA固定化磁性微粒子1mg当りの回収されたIgGの量を示す。
【0143】
【表3】

【0144】
表3に示すように、プロテインA固定化磁性微粒子によるIgGの回収量は、プロテインAの固定化量に依存していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体と、該集合体を被覆するゲル層とを備える磁性微粒子であって、該ゲル層に親水性基を有する磁性微粒子。
【請求項2】
平均粒子径が、0.9nm以上10000nm未満である請求項1に記載の磁性微粒子。
【請求項3】
アルキル基を有する化合物が、ベンゼン環を有さない化合物であって、鉄イオンと結合可能である請求項1または請求項2に記載の磁性微粒子。
【請求項4】
アルキル基を有する化合物が、脂肪酸である請求項3に記載の磁性微粒子。
【請求項5】
脂肪酸が、オレイン酸である請求項4に記載の磁性微粒子。
【請求項6】
親水性基が、エポキシ基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
【請求項7】
ゲル層が、重合性モノマーと、架橋性モノマーとから得られる架橋体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
【請求項8】
重合性モノマーが、メタクリル酸グリシジルおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートであり、架橋性モノマーが、ポリエチレングリコールジアクリレートである請求項7に記載の磁性微粒子。
【請求項9】
自家蛍光を発しない請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁性微粒子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁性微粒子と、目的物質に対する親和性物質とからなる吸着材。
【請求項11】
目的物質に対する親和性物質が、アビジン、プロテインAまたは抗体である請求項10に記載の吸着材。
【請求項12】
少なくとも下記の工程(1)および(2)を有する請求項10または請求項11に記載の吸着材を用いた目的物質の分離方法。
(1)目的物質を含む水溶液と吸着材との混合液を調製し、目的物質と吸着材の結合体を生成させる工程
(2)工程(1)で得られた混合液から磁力により結合体を分離する工程
【請求項13】
さらに下記の工程(3)を含む請求項12に記載の方法。
(3)工程(2)で分離した結合体から目的物質を溶出する工程
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法を用いる汚水処理方法。
【請求項15】
汚水からクリプトスポリジウムおよびジアルジアを分離する請求項14に記載の汚水処理方法。
【請求項16】
少なくとも下記の工程を含む磁性微粒子の製造方法。
(1)磁性体およびアルキル基を有する化合物を含む集合体を形成する工程
(2)工程(1)で形成された集合体の表面に、重合性モノマーと架橋性モノマーとを混合し、重合と架橋とを行うことで、親水性基を有するゲル層を形成する工程。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−142301(P2011−142301A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230735(P2010−230735)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】