説明

磁性材料およびそれを用いたコイル部品

【課題】絶縁抵抗の向上および透磁率の向上を両立しうる新たな磁性材料を提供し、あわせて、そのような磁性材料をもちいたコイル部品を提供すること。
【解決手段】Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなる複数の金属粒子11と、前記金属粒子の表面に形成された酸化被膜12とを備え、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜12を介しての結合部22および酸化被膜12が存在しない部分における金属粒子11どうしの結合部21を有する粒子成形体1からなる、磁性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル・インダクタ等において主に磁心として用いることができる磁性材料およびそれを用いたコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、チョークコイル、トランス等といったコイル部品(所謂、インダクタンス部品)は、磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルとを有している。磁性材料の材質としてNi−Cu−Zn系フェライト等のフェライトが一般に用いられている。
【0003】
近年、この種のコイル部品には大電流化(定格電流の高値化を意味する)が求められており、該要求を満足するために、磁性体の材質を従前のフェライトからFe−Cr−Si合金に切り替えることが検討されている(特許文献1を参照)。Fe−Cr−Si合金やFe−Al−Si合金は、材料自体の飽和磁束密度がフェライトに比べて高い。その反面、材料自体の体積抵抗率が従前のフェライトに比べて格段に低い。
【0004】
特許文献1には、積層タイプのコイル部品における磁性体部の作製方法として、Fe−Cr−Si合金粒子群の他にガラス成分を含む磁性体ペーストにより形成された磁性体層と導体パターンを積層して窒素雰囲気中(還元性雰囲気中)で焼成した後に、該焼成物に熱硬化性樹脂を含浸させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−027354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、磁性体ペーストに含まれたガラス成分が磁性体部内に残存するため、該磁性体部内に存するガラス成分によってFe−Cr−Si合金粒子の体積率が減少し、該減少を原因として部品自体の飽和磁束密度も低下してしまう。
【0007】
また、金属磁性体を利用したインダクタとしてはバインダと混合成形した圧粉磁心が知られている。一般的な圧粉磁心では絶縁抵抗が低いため電極を直付けすることができない。
【0008】
これらのことを考慮し、本発明は、絶縁抵抗の向上および透磁率の向上を両立しうる新たな磁性材料を提供し、あわせて、そのような磁性材料を用いたコイル部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明の磁性材料は、酸化被膜が形成された金属粒子が成形されてなる粒子成形体からなる。金属粒子はFe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなり、粒子成形体は隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部および酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部を有している。ここで、「酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部」とは、隣接する金属粒子がそれらの金属部分にて直接に接触している部分のことを意味し、例えば、厳密な意味での金属結合や、金属部分どうしが直接に接触して原子の交換が見られない態様や、それらの中間的な態様をも含む概念である。厳密な意味での金属結合とは、「原子が規則的にならんでいる」等の要件を充足することを意味する。
さらに、酸化被膜は、Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)の酸化物であって、Fe元素に対する上記Mで表される金属元素のモル比が、前記金属粒子に比べて大きいことが好ましい。
さらに好ましくは、粒子成形体の断面における金属粒子の粒子数Nと、金属粒子どうしの結合部の数Bと、の比率B/Nが0.1〜0.5である。
さらに好ましくは、本発明の磁性材料はアトマイズ法で製造された複数の金属粒子を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる。
さらに好ましくは、粒子成形体は内部に空隙を有し、前記空隙の少なくとも一部に高分子樹脂が含浸されている。
本発明によれば、上述の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品もまた提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高透磁率および高絶縁抵抗を両立した磁性材料が提供され、この材料を用いてなるコイル部品は電極が直付けされていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。
【図2】本発明の磁性材料の別例にかかる微細構造を模式的に表す断面図である。
【図3】本発明の一実施例で製造した磁性材料の外観を示す側面図である。
【図4】本発明の一実施例で製造したコイル部品の一例の一部を示す透視した側面図である。
【図5】図4のコイル部品の内部構造を示す縦断面図である。
【図6】積層インダクタの外観斜視図である。
【図7】図6のS11−S11線に沿う拡大断面図である。
【図8】図6に示した部品本体の分解図である。
【図9】比較例における磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
本発明によれば、磁性材料は所定の粒子が成形されてなる粒子成形体からなる。
本発明において、磁性材料はコイル・インダクタ等の磁性部品における磁路の役割を担う物品であり、典型的にはコイルにおける磁心などの形態をとる。
【0013】
図1は本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、粒子成形体1は、微視的には、もともとは独立していた多数の金属粒子11どうしが結合してなる集合体として把握され、個々の金属粒子11はその周囲の概ね全体にわたって酸化被膜12が形成されていて、この酸化被膜12により粒子成形体1の絶縁性が確保される。隣接する金属粒子11どうしは、主として、それぞれの金属粒子11の周囲にある酸化被膜12を介した結合により、一定の形状を有する粒子成形体1を構成している。本発明によれば、部分的には、隣接する金属粒子11が、金属部分どうしで結合している(符号21)。本明細書において、金属粒子11は後述する合金材料からなる粒子のことを意味し、酸化被膜12の部分を含まないことを特に強調する場合には、「金属部分」や「コア」と表記することもある。従来の磁性材料においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものや、硬化したガラス成分のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。本発明では、有機樹脂からなるマトリクスもガラス成分からなるマトリクスも、実質的に存在しないことが好ましい。
【0014】
個々の金属粒子11は特定の軟磁性合金から主として構成される。本発明では、金属粒子11はFe−Si−M系軟磁性合金からなる。ここで、MはFeより酸化し易い金属元素であり、典型的には、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)などが挙げられ、好ましくは、CrまたはAlである。
【0015】
Fe−Si−M系軟磁性合金におけるSiの含有率は、好ましくは0.5〜7.0wt%であり、より好ましくは、2.0〜5.0wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であることに基づいている。
【0016】
上記MがCrである場合、Fe−Si−M系軟磁性合金におけるCrの含有率は、好ましくは2.0〜15wt%であり、より好ましくは、3.0〜6.0wt%である。Crの存在は、熱処理時に不働態を形成して過剰な酸化を抑制するとともに強度および絶縁抵抗を発現する点で好ましく、一方、磁気特性の向上の観点からはCrが少ないことが好ましく、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0017】
上記MがAlである場合、Fe−Si−M系軟磁性合金におけるAlの含有率は、好ましくは2.0〜15wt%であり、より好ましくは、3.0〜6.0wt%である。Alの存在は、熱処理時に不働態を形成して過剰な酸化を抑制するとともに強度および絶縁抵抗を発現するという点で好ましく、一方、磁気特性の向上の観点からはAlが少ないことが好ましく、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
なお、Fe−Si−M系軟磁性合金における各金属成分の上記好適含有率については、合金成分の全量を100wt%であるとして記述している。換言すると、上記好適含有量の計算においては酸化被膜の組成は除外している。
【0018】
Fe−Si−M系軟磁性合金において、Siおよび金属M以外の残部は不可避不純物を除いて、Feであることが好ましい。Fe、SiおよびM以外に含まれていてもよい金属としてはMn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)などが挙げられる。
【0019】
粒子成形体1における各々の金属粒子11を構成する合金の化学組成は、例えば、粒子成形体1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出することができる。
【0020】
粒子成形体1を構成する個々の金属粒子11にはその周囲に酸化被膜12が形成されている。上述の軟磁性合金からなるコア(つまり金属粒子11)とそのコアの周囲に形成された酸化被膜12とが存在すると表現することも可能である。酸化被膜12は粒子成形体1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよいし、原料粒子の段階では酸化被膜が存在しないか極めて少なく成形過程において酸化被膜を生成させてもよい。酸化被膜12の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化被膜12の存在により磁性材料全体としての絶縁性が担保される。
【0021】
酸化被膜12は金属の酸化物であればよく、好適には、酸化被膜12は、Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)の酸化物であって、Fe元素に対する上記Mで表される金属元素のモル比が、金属粒子に比べて大きい。このような構成の酸化被膜12を得るためには、磁性材料を得るための原料粒子にFeの酸化物がなるべく少なく含まれるかFeの酸化物を極力含まれないようにして、粒子成形体1を得る過程において加熱処理などにより合金の表面部分を酸化させることなどが挙げられる。このような処理により、Feよりも酸化しやすい金属Mが選択的に酸化されて、結果として、酸化被膜12におけるFeに対する金属Mのモル比が、金属粒子11におけるFeに対する金属Mのモル比よりも相対的に大きくなる。酸化被膜12においてFe元素よりもMで表される金属元素のほうが多く含まれることにより、合金粒子の過剰な酸化を抑制するという利点がある。
【0022】
粒子成形体1における酸化被膜12の化学組成を測定する方法は以下のとおりである。まず、粒子成形体1を破断するなどしてその断面を露出させる。ついで、イオンミリング等により平滑面を出し走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、酸化被膜12部をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出する。
【0023】
酸化被膜12における金属Mの含有量は鉄1モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モルであり、より好ましくは1.0〜2.5モルであり、さらに好ましくは1.0〜1.7モルである。前記含有量が多いと過剰な酸化の抑制という点で好ましく、一方、前記含有量が少ないと金属粒子間の焼結という点で好ましい。前記含有量を多くするためには、例えば、弱酸化雰囲気での熱処理をするなどの方法が挙げられ、逆に、前記含有量を少なくするためには、例えば、強酸化雰囲気中での熱処理などの方法が挙げられる。
【0024】
粒子成形体1においては粒子どうしの結合部は主として酸化被膜12を介しての結合部22である。酸化被膜12を介しての結合部22の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。例えば、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12どうしが接触していても、隣り合う酸化被膜12との界面がSEM観察像などにおいて視認される箇所は酸化被膜12を介しての結合部22であるとはいえない。酸化被膜12を介しての結合部22の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。粒子成形体1全体にわたり、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12を介して結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。また、後述するように、部分的には、酸化被膜12を介さずに、金属粒子11どうしの結合も存在する。さらに、隣接する金属粒子11が、酸化被膜12を介する結合も、金属粒子11どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0025】
酸化被膜12を介しての結合部22を生じさせるためには、例えば、粒子成形体1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。
【0026】
本発明によれば、粒子成形体1において、酸化被膜12を介しての結合部22のみならず、金属粒子11どうしの結合部21も存在している。上述の酸化被膜12を介しての結合部22の場合と同様に、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、断面写真において、粒子表面の描く曲線に関し、比較的深い凹部が認められ、二つの粒子だった表面の曲線が交叉したと見られる箇所において隣接する金属粒子11どうしが酸化被膜を介さない結合点を有することを視認することなどにより、金属粒子11どうしの結合部21の存在を明確に判断することができる。金属粒子11どうしの結合部21の存在により透磁率の向上が図られることが本発明の主要な効果の一つである。
【0027】
金属粒子11どうしの結合部21を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化被膜が少ない粒子を用いたり、粒子成形体1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から粒子成形体1を得る際の成形密度を調節することなどが挙げられる。熱処理における温度については金属粒子11どうしが結合し、かつ、酸化物が生成しにくい程度であることが好ましく、具体的な好適温度範囲については後述する。酸素分圧については、例えば、空気中における酸素分圧でもよく、酸素分圧が低いほど酸化物が生成しにくく、結果的に金属粒子11どうしの結合が生じやすい。
【0028】
本発明の好適態様によれば、粒子成形体1において、隣接する金属粒子11間の結合部の大部分は酸化被膜12を介しての結合部22であり、部分的に、金属粒子どうしの結合部21が存在している。金属粒子どうしの結合部21が存在している度合いを以下のように定量化することができる。粒子成形体1を切断し、その断面について約3000倍に拡大したSEM観察像を取得する。SEM観察像には30〜100個の金属粒子11が写るように視野等を調節する。その観察像における金属粒子11の数Nと、金属粒子11どうしの結合部21の数Bとを数える。これらの数値の比率B/Nを金属粒子どうしの結合部21の存在の度合いの評価指標とする。前記NおよびBの数え方について、図1の態様を例に説明する。図1のような像を得た場合、金属粒子11の数Nは8であり、金属粒子11の数Nは4である。したがって、この態様の場合は、前記比率B/Nは0.5である。本発明では、前記比率B/Nが好ましくは0.1〜0.5であり、より好ましくは0.1〜0.35であり、さらに好ましくは0.1〜0.25である。B/Nが大きければ透磁率が向上し、逆にB/Nが小さければ絶縁抵抗が向上することから、透磁率と絶縁抵抗との両立を考慮して、上記好適範囲が提示される。
【0029】
本発明の磁性材料は、所定の合金からなる金属粒子を成形することにより製造することができる。その際に、隣接する金属粒子どうしが主として酸化被膜を介して結合し、そして、部分的に酸化被膜を介さずに結合することにより全体として所望の形状の粒子成形体を得ることができる。
【0030】
原料として用いる金属粒子(以下、原料粒子ともいう。)は、主としてFe−Si−M系軟磁性合金からなる粒子を用いる。原料粒子の合金組成は、最終的に得られる磁性材料における合金組成に反映される。よって、最終的に得ようとする磁性材料の合金組成に応じて、原料粒子の合金組成を適宜選択することができ、その好適な組成範囲は上述した磁性材料の好適な組成範囲と同じである。個々の原料粒子は酸化被膜で覆われていてもよい。換言すると、個々の原料粒子は所定の軟磁性合金からなるコアとそのコアの周囲の少なくとも一部を覆う酸化被膜とから構成されていてもよい。
【0031】
個々の原料粒子のサイズは最終的に得られる磁性材料における粒子成形体1を構成する粒子のサイズと実質的に等しくなる。原料粒子のサイズとしては、透磁率と粒内渦電流損を考慮すると、d50が好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは2〜20μmであり、d50のさらに好適な下限値は5μmである。原料粒子のd50はレーザー回折・散乱による測定装置により測定することができる。
【0032】
原料粒子は例えばアトマイズ法で製造される粒子である。上述のとおり、粒子成形体1には酸化被膜12を介しての結合部22のみならず、金属粒子11どうしの結合部21も存在する。そのため、原料粒子には酸化被膜が存在してもよいが過剰には存在しない方がよい。アトマイズ法により製造される粒子は酸化被膜が比較的に少ない点で好ましい。原料粒子における合金からなるコアと酸化被膜との比率は以下のように定量化することができる。原料粒子をXPSで分析して、Feのピーク強度に着目し、Feが金属状態として存在するピーク(706.9eV)の積分値FeMetalと、Feが酸化物の状態として存在するピークの積分値FeOxideとを求め、FeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出することにより定量化する。ここで、FeOxideの算出においては、Fe(710.9eV)、FeO(709.6eV)およびFe(710.7eV)の三種の酸化物の結合エネルギーを中心とした正規分布の重ねあわせとして実測データと一致するようにフィッティングを行う。その結果、ピーク分離された積分面積の和としてFeOxideを算出する。熱処理時に合金どうしの結合部21を生じさせやすくすることによって結果として透磁率を高める観点からは、前記値は好ましくは0.2以上である。前記値の上限値は特に限定されず、製造のしやすさなどの観点から、例えば0.6などが挙げられ、好ましくは上限値は0.3である。前記値を上昇させる手段として、還元雰囲気での熱処理に供したり、酸による表面酸化層の除去などの化学処理等に供することなどが挙げられる。還元処理としては、例えば、窒素中に又はアルゴン中に25〜35%の水素を含む雰囲気下で750〜850℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。酸化処理としては、例えば、空気中で400〜600℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。
【0033】
上述したような原料粒子は合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF20−F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlなどとして市販されているものを用いることもできる。市販品については上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)の値について考慮されていない可能性が極めて高いので、原料粒子を選別したり、上述した熱処理や化学処理などの前処理を施すことも好ましい。
【0034】
原料粒子から成形体を得る方法については特に限定なく、粒子成形体製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。以下、典型的な製造方法として原料粒子を非加熱条件下で成形した後に加熱処理に供する方法を説明する。本発明ではこの製法に限定されない。
【0035】
原料粒子を非加熱条件下で成形する際には、バインダとして有機樹脂を加えることが好ましい。有機樹脂としては熱分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニル樹脂などからなるものを用いることが、熱処理後にバインダが残りにくくなる点で好ましい。成形の際には、公知の潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤としては、有機酸塩などが挙げられ、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。潤滑剤の量は原料粒子100重量部に対して好ましくは0〜1.5重量部であり、より好ましくは0.1〜1.0重量部である。潤滑剤の量がゼロとは、潤滑剤を使用しないことを意味する。原料粒子に対して任意的にバインダ及び/又は潤滑剤を加えて攪拌した後に、所望の形状に成形する。成形の際には例えば5〜10t/cmの圧力をかけることなどが挙げられる。
【0036】
熱処理の好ましい態様について説明する。
熱処理は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。より具体的には、加熱中の酸素濃度は好ましくは1%以上であり、これにより、酸化被膜を介しての結合部22および金属粒子どうしの結合部21が両方とも生成しやすくなる。酸素濃度の上限は特に定められるものではないが、製造コスト等を考慮して空気中の酸素濃度(約21%)を挙げることができる。加熱温度については、酸化被膜12を生成して酸化被膜12を介しての結合部を生成させやすくする観点からは好ましくは600℃以上であり、酸化を適度に抑制して金属粒子どうしの結合部21の存在を維持して透磁率を高める観点からは好ましくは900℃以下である。加熱温度はより好ましくは700〜800℃である。酸化被膜12を介しての結合部22および金属粒子どうしの結合部21を両方とも生成させやすくする観点からは、加熱時間は好ましくは0.5〜3時間である。
【0037】
得られた粒子成形体1には、その内部に空隙30が存在していてもよい。図2は、本発明の磁性材料の別例にかかる微細構造を模式的に表す断面図である。図2に記載の実施形態によれば、粒子成形体1の内部に存在する空隙の少なくとも一部には高分子樹脂31が含浸されている。高分子樹脂31の含浸に際しては、例えば、液体状態の高分子樹脂や高分子樹脂の溶液などといった、高分子樹脂の液状物に粒子成形体1を浸漬して製造系の圧力を下げたり、上述の高分子樹脂の液状物を粒子成形体1に塗布して表面近傍の空隙30に染みこませるなどの手段が挙げられる。粒子成形体1の空隙30に高分子樹脂が含浸されてなることにより、強度の増加や吸湿性の抑制という利点がある。高分子樹脂としては、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの有機樹脂や、シリコーン樹脂などを特に限定なく挙げることができる。
【0038】
このようにして得られる粒子成形体1を磁性材料として種々の部品の構成要素として用いることができる。例えば、本発明の磁性材料を磁心として用いてその周囲に絶縁被覆導線を巻くことによりコイルを形成してもよい。あるいは、上述の原料粒子を含むグリーンシートを公知の方法で形成し、そこに所定パターンの導体ペーストを印刷等により形成した後に、印刷済みのグリーンシートを積層して加圧することにより成形し、次いで、上述の条件で熱処理を施すことで、本発明の磁性材料の内部にコイルを形成してなるインダクタ(コイル部品)を得ることもできる。その他、本発明の磁性材料を用いて、その内部または表面にコイルを形成することによって種々のコイル部品を得ることができる。コイル部品は表面実装タイプやスルーホール実装タイプなど各種の実装形態のものであってよく、それら実装形態のコイル部品を構成する手段を含めて、磁性材料からコイル部品を得る手段については、後述の実施例の記載を参考にすることもできるし、また、電子部品の分野における公知の製造手法を適宜取り入れることができる。
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【実施例1】
【0040】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたCr4.5wt%、Si3.5wt%、残部Feの組成をもち、平均粒径d50が10μmである市販の合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出したところ、0.25であった。
【0041】
(粒子成形体の製造)
この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cmで成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中750℃にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。得られた粒子成形体の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が36だったのに対し、熱処理後は48となった。比抵抗は2×10Ωcm、強度は7.5kgf/mmだった。粒子成形体の3000倍のSEM観察像を取得して、金属粒子11の数Nは42であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは6であり、B/N比率は0.14であることを確認した。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が1.5モル含まれていた。
【0042】
[比較例1]
原料粒子として、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.15であること以外は実施例1と同様の合金粉末を用いて、実施例1と同様の操作により粒子成形体を製造した。実施例1の場合とは異なり、比較例1においては、市販の合金粉末を乾燥させるために200℃で12時間恒温槽に保管した。熱処理前の透磁率36に対し、熱処理後も36であり、粒子成形体において透磁率の増加は生じなかった。この粒子成形体の3000倍のSEM観察像によれば、金属粒子どうしの結合部21の存在を見出すことができなかった。換言すると、この観察像において、金属粒子11の数Nは24であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは0であり、比率B/Nは0であった。図9は比較例1における粒子成形体の微細構造を模式的に表す断面図である。図9に模式的に示される粒子成形体2のように、この比較例により得られた粒子成形体においては金属粒子11どうしの結合は存在せず、酸化被膜12を介する結合のみが見出された。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が0.8モル含まれていた。
【実施例2】
【0043】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたAl5.0wt%、Si3.0wt%、残部Feの組成をもち、平均粒径d50が10μmである市販の合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出したところ、0.21であった。
【0044】
(粒子成形体の製造)
この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cmで成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中750℃にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。得られた粒子成形体の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が24だったのに対し、熱処理後は33となった。比抵抗は3×10Ωcm、強度は6.9kgf/mmだった。SEM観察像において、金属粒子11の数Nは55であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは11であり、B/N比率は0.20であった。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Al元素が2.1モル含まれていた。
【実施例3】
【0045】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたCr4.5wt%、Si6.5wt%、残部Feの組成をもち、平均粒径d50が6μmである市販の合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出したところ、0.22であった。
【0046】
(粒子成形体の製造)
この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cmで成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中750℃にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。得られた粒子成形体の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が32だったのに対し、熱処理後は37となった。比抵抗は4×10Ωcm、強度は7.8kgf/mmだった。SEM観察像において、金属粒子11の数Nは51であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは9であり、B/N比率は0.18であった。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が1.2モル含まれていた。
【実施例4】
【0047】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたCr4.5wt%、Si3.5wt%、残部Feの組成をもち、平均粒径d50が10μmである市販の合金粉末を水素雰囲気中700℃で1時間熱処理を行った合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出したところ、0.55であった。
【0048】
(粒子成形体の製造)
この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cmで成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中750℃にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。得られた粒子成形体の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が36だったのに対し、熱処理後は54となった。比抵抗は8×10Ωcm、強度は2.3kgf/mmだった。得られた粒子成形体のSEM観察像において、金属粒子11の数Nは40であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは15であり、B/N比率は0.38であった。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が1.5モル含まれていた。本例ではFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が大きく、比抵抗と強度がやや低いものの、透磁率増加の効果は得られている。
【実施例5】
【0049】
(原料粒子)
実施例1と同等の合金粉末を原料粒子として用いた。
【0050】
(粒子成形体の製造)
この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cmで成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中850℃にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。得られた粒子成形体の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が36だったのに対し、熱処理後は39となった。比抵抗は6.0×10Ωcm、強度は9.2kgf/mmだった。得られた粒子成形体のSEM観察像において、金属粒子11の数Nは44であり、金属粒子11どうしの結合部21の数Bは5であり、B/N比率は0.11であった。得られた粒子成形体における酸化被膜12の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が1.1モル含まれていた。
【実施例6】
【0051】
この実施例では、コイル部品としての巻線型チップインダクタを製造した。
図3は、この実施例で製造した磁性材料の外観を示す側面図である。図4は、この実施例で製造したコイル部品の一例の一部を示す透視した側面図である。図5は、図4のコイル部品の内部構造を示す縦断面図である。図3に示す磁性材料110は、巻線型チップインダクタのコイルを巻回するための磁心として用いられるものである。ドラム型の磁心111は、回路基板等の実装面に並行に配設されコイルを巻回するための板状の巻芯部111aと、巻芯部111aの互いに対向する端部にそれぞれ配設された一対の鍔部111bを備え、外観はドラム型を呈する。コイルの端部は、鍔部111bの表面に形成された外部導体膜114に電気的に接続されている。巻芯部111aのサイズは、幅1.0mm、高さ0.36mm、長さ1.4mmにした。鍔部111bのサイズは、幅1.6mm、高さ0.6mm、厚さ0.3mmにした。
【0052】
このコイル部品としての巻線型チップインダクタ120は、上述の磁心111と図示省略した一対の板状磁心112を有する。この磁心111および板状磁心112は実施例1のものと同じ原料粒子から実施例1と同様の条件で製造した磁性材料110からなる。板状磁心112は磁心111の両鍔部111b、111b間をそれぞれ連結する。板状磁心112のサイズは長さ2.0mm、幅0.5mm、厚さ0.2mmにした。磁心111の鍔部111bの実装面には一対の外部導体膜114がそれぞれ形成されている。また、磁心111の巻芯部111aには絶縁被覆導線からなるコイル115が巻回されて巻回部115aが形成されるとともに、両端部115bが鍔部111bの実装面の外部導体膜114にそれぞれ熱圧着接合されている。外部導体膜114は、磁性材料110の表面に形成された焼付導体層114aと、この焼付導体層114a上に積層形成されたNiメッキ層114b、およびSnメッキ層114cを備える。上述した板状磁心112は、樹脂系接着剤により上記磁心111の鍔部111b、111bに接着されている。外部導体膜114は、磁性材料110の表面に形成されており、外部導体膜114に磁心の端部が接続されている。外部導体膜114は、銀にガラスを添加したペーストを、所定の温度で磁性材料110へ焼き付けて形成した。磁性材料110の表面の外部導体膜114の焼付導体膜層114aの製造に際しては、具体的には、磁性材料110からなる磁心111の鍔部111bの実装面に、金属粒子とガラスフリットとを含む焼付型の電極材料ペースト(本実施例では焼付型Agペースト)を塗布し、大気中で熱処理を行うことで、磁性材料110の表面に直接電極材を焼結固着させた。このようにしてコイル部品としての巻線型チップインダクタを製造した。
【実施例7】
【0053】
この実施例では、コイル部品としての積層インダクタを製造した。
図6は、積層インダクタの外観斜視図である。図7は、図6のS11−S11線に沿う拡大断面図である。図8は、図6に示した部品本体の分解図である。この実施例で製造した積層インダクタ210は、図6において、長さLが約3.2mmで、幅Wが約1.6mmで、高さHが約0.8mmで、全体が直方体形状を成している。この積層インダクタ210は、直方体形状の部品本体211と、該部品本体211の長さ方向の両端部に設けられた1対の外部端子214及び215とを有している。部品本体211は、図7に示したように、直方体形状の磁性体部212と、該磁性体部212によって覆われた螺旋状のコイル部213とを有しており、該コイル部213の一端は外部端子214に接続し他端は外部端子215に接続している。磁性体部212は、図8に示したように、計20層の磁性体層ML1〜ML6が一体化した構造を有し、長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmである。各磁性体層ML1〜ML6の長さは約3.2mmで、幅は約1.6mmで、厚さは約40μmである。コイル部213は、計5個のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する計4個の中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化した構造を有し、その巻き数は約3.5である。このコイル部213は、d50が5μmのAg粒子を原料とする。
【0054】
4個のコイルセグメントCS1〜CS4はコ字状を成し、1個のコイルセグメントCS5は帯状を成しており、各コイルセグメントCS1〜CS5の厚さは約20μmで、幅は約0.2mmである。最上位のコイルセグメントCS1は、外部端子214との接続に利用されるL字状の引出部分LS1を連続して有し、最下位のコイルセグメントCS5は、外部端子15との接続に利用されるL字状の引出部分LS2を連続して有している。各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通した柱状を成しており、各々の口径は約15μmである。各外部端子214及び215は、部品本体211の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に及んでおり、その厚さは約20μmである。一方の外部端子214は最上位のコイルセグメントCS1の引出部分LS1の端縁と接続し、他方の外部端子215は最下位のコイルセグメントCS5の引出部分LS2の端縁と接続している。この各外部端子214及び215は、d50が5μmのAg粒を原料とする。
【0055】
積層インダクタ210の製造に際しては、ドクターブレードを塗工機として用いて、予め用意した磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルム(図示省略)の表面に塗工し、これを熱風乾燥機を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、磁性体層ML1〜ML6(図8を参照)に対応し、且つ、多数個取りに適合したサイズの第1〜第6シートをそれぞれ作製した。磁性体ペーストとしては、実施例1で用いた原料粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%である。続いて、打ち抜き加工機を用いて、磁性体層ML1に対応する第1シートに穿孔を行い、中継セグメントIS1に対応する貫通孔を所定配列で形成した。同様に、磁性体層ML2〜ML4に対応する第2〜第4シートそれぞれに、中継セグメントIS2〜IS4に対応する貫通孔を所定配列で形成した。
【0056】
続いて、スクリーン印刷機を用いて、予め用意した導体ペーストを磁性体層ML1に対応する第1シートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、コイルセグメントCS1に対応する第1印刷層を所定配列で作製した。同様に、磁性体層ML2〜ML5に対応する第2〜第5シートそれぞれの表面に、コイルセグメントCS2〜CS5に対応する第2〜第5印刷層を所定配列で作製した。導体ペーストの組成は、Ag原料が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%である。磁性体層ML1〜ML4に対応する第1〜第4シートそれぞれに形成した所定配列の貫通孔は、所定配列の第1〜第4印刷層それぞれの端部に重なる位置に存するため、第1〜第4印刷層を印刷する際に導体ペーストの一部が各貫通孔に充填されて、中継セグメントIS1〜IS4に対応する第1〜第4充填部が形成される。
【0057】
続いて、吸着搬送機とプレス機(何れも図示省略)を用いて、印刷層及び充填部が設けられた第1〜第4シート(磁性体層ML1〜ML4に対応)と、印刷層のみが設けられた第5シート(磁性体層ML5に対応)と、印刷層及び充填部が設けられていない第6シート(磁性体層ML6に対応)を、図8に示した順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製した。続いて、ダイシング機を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して、加熱処理前チップ(加熱処理前の磁性体部及びコイル部を含む)を作製した。続いて、焼成炉等を用いて、大気の雰囲気下で加熱処理前チップを多数個一括で加熱処理した。この加熱処理は脱バインダプロセスと酸化物膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは約300℃、約1hrの条件で実行され、酸化物膜形成プロセスは約750℃、約2hrの条件で実行した。続いて、ディップ塗布機を用いて、上述の導体ペーストを部品本体211の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉を用いて、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行い、該焼付け処理によって溶剤及びバインダの消失とAg粒子群の焼結を行って、外部端子214及び215を作製した。このようにしてコイル部品としての積層インダクタを製造した。
【符号の説明】
【0058】
1、2:粒子成形体、11:金属粒子、12:酸化被膜、21:金属粒子どうしの結合部、22:酸化被膜を介しての結合部、30:空隙、31:高分子樹脂、110:磁性材料、111、112:磁心、114:外部導体膜、115:コイル、210:積層インダクタ、211:部品本体、212:磁性体部、213:コイル部、214、215:外部端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなる複数の金属粒子と、前記金属粒子の表面に形成された酸化被膜とを備え、
隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部および酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部を有する粒子成形体からなる、
磁性材料。
【請求項2】
前記酸化被膜は、Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)の酸化物であって、Fe元素に対する上記Mで表される金属元素のモル比が、前記金属粒子に比べて大きい、請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
前記粒子成形体の断面における金属粒子の粒子数Nと、金属粒子どうしの結合部の数Bと、の比率B/Nが0.1〜0.5である請求項1又は2記載の磁性材料。
【請求項4】
アトマイズ法で製造された複数の金属粒子を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる請求項1〜3のいずれかに記載の磁性材料。
【請求項5】
粒子成形体は内部に空隙を有し、前記空隙の少なくとも一部に高分子樹脂が含浸されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の磁性材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−238828(P2012−238828A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222093(P2011−222093)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【特許番号】特許第4906972号(P4906972)
【特許公報発行日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】