説明

磁性材料およびコイル部品

【課題】高周波領域で高い透磁率を得ることが可能で、しかもQ値の高い磁性材料、および該磁性材料からなるコア部材を備えた、通常のスピネル型酸化物材料ではQ値が低くて使用することができないような、150MHz〜250MHzの周波数領域においても、Q値の高いコイル部品を提供する。
【解決手段】組成式(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δで表される磁性材料において、前記x、y、z(モル比)が、それぞれ、0.3≦x≦0.8、0.02≦y≦0.4、−0.3≦z≦0.3を満たすようにする。
上記磁性材料からなるコア部材2を用いてコイル部品1とする。
さらに具体的には、巻芯部5と、該巻芯部5の軸方向端部に形成された鍔部6とを含むコア部材2の、前記巻芯部5の周りに巻線4が巻回された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料およびそれを用いたコイル部品に関し、詳しくは、六方晶フェライト系の磁性材料およびそれを用いて形成したコア部材を有するコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高周波化にともない、その構成部品についても高周波化への対応が求められている。
このような構成部品の中で、酸化物磁性材料からなるコア部材を備えたコイル部品においても高周波化への対応が強く求められるに至っている。
【0003】
ところで、コイル部品のコア部材を構成する材料としては、従来、磁性体や誘電体が用いられている。そして、磁性体としては、スピネル型酸化物磁性材料が広く用いられている。
しかしながら、スピネル型酸化物磁性材料の場合、周波数がある程度以上に高くなると透磁率が急激に低下するという問題点がある。特にニッケルフェライトの場合、周波数が300MHzを超えた付近から、透磁率の実部(μ’)が低下し、周波数が150MHzを超えた付近から、透磁率の虚部(μ”)が高くなり、クロスポイント周波数が600MHz程度となる。そのため、ニッケルフェライトは、高Qを必要とする場合は、150MHzを超える高周波領域で使用されるコイル部品のコア部材としては用いることができないという問題点がある。
【0004】
そこで高周波領域で使用されるコイル部品においては、コア部材として、誘電体セラミックが広く用いられている。ここで、誘電体セラミックは非磁性体であることから、コイル部品において必要なインダクタンスを得るためには、コア部材を大きくするか、コア部材の周りに配置される巻線の巻回数を多くすることが必要になる。
しかしながら、コア部材を大きくした場合、製品であるコイル部品の小型化が困難になるという問題点があり、コア部材の周りへの巻線の巻回数を多くした場合、巻線抵抗が増大してコイルのQが低下し、回路の感度が低下するなどの問題点がある。
【0005】
そこで、磁性体でありながら、高周波領域で透磁率(実部)μ’が低下しない材料が望まれるに至っており、このような要求に応える材料として、Z型六方晶フェライトが検討され、種々の提案がなされている。
【0006】
例えば、上述のような見地から、一般式Ba3Co2Fe2441で表される材料において、Baの1/3以下をSr、Ca、Pbにより置換した強磁性材料が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、酸化物換算で、Fe23を68〜73mol%、MO(MはBa、Sr、Pbの少なくとも1種)を15〜22mol%、CoOを9〜13mol%、SiO2を0.04〜1.0mol%、CaOを0.04〜1.0mol%の範囲で含有したZ型六方晶系酸化物磁性材料が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
さらに、BaO:10〜30mol%、Fe23:56〜65mol%、MeO:8〜25mpl%(但し、MeはZn、Co、Ni、Cu、Mnの少なくとも一種の二価の金属イオン)を主成分とし、前記主成分に対し、SiO2を0.05〜0.5wt%、CaOを0.05〜0.5wt%含有する軟磁性六方晶フェライトが提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、これら磁性材料はいずれも、高周波領域、特に250MHz以上の高周波領域における透磁率(実部)μ’、およびQ値(=μ’/μ”)が必ずしも十分に要望を満たしているとは言えず、さらに高周波領域での透磁率(実部)μ’の低下が少なく、高いQ値を有する磁性材料が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭33−736号公報
【特許文献2】特開平9−110432号公報
【特許文献1】特開平9−129433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、高周波領域で高い透磁率を得ることが可能で、しかもQ値の高い磁性材料、および該磁性材料からなるコア部材を備えた、通常のスピネル型酸化物材料ではQ値が低くて使用することができないような、150MHz〜250MHzの周波数領域においても、Q値の高いコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、磁性材料は、
組成式(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δで表され、前記x、y、zは、モル比を示し、それぞれ、0.3≦x≦0.8、0.02≦y≦0.4、−0.3≦z≦0.3を満たすことを特徴としている。
【0013】
また、本発明のコイル部品は、請求項1に記載の磁性材料からなるコア部材を備えていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明のコイル部品においては、前記コア部材が、巻芯部と、この巻芯部の軸方向端部に形成された鍔部とを含み、前記巻芯部の周りに巻線が巻回されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁性材料は、組成式(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δで表され、x、y、zが、モル比で、それぞれ、0.3≦x≦0.8、0.02≦y≦0.4、−0.3≦z≦0.3の条件を満たすようにしているので、高周波領域で透磁率(実部)μ’が低下せず、高いQ値を有する磁性材料を提供することが可能になる。
【0016】
また、本発明のコイル部品は、上述の本発明の磁性材料からなるコア部材を備えているので、通常のスピネル型酸化物材料ではQ値が低くて使用することができないような、150MHz〜250MHzの周波数領域においても、Q値の高いコイル部品を提供することができる。
【0017】
また、本発明のコイル部品のように、コア部材が、巻芯部と、その軸方向端部に形成された鍔部とを含み、巻芯部の周りに巻線が巻回された構成とすることにより、150MHz〜250MHzの周波数領域においてもQ値の高い、巻線型のコイル部品を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の磁性材料を用いて形成したコア部材の巻芯部に巻線が巻回された構造を有するコイル部品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0020】
比表面積が2〜20m2/gの範囲にあるBaCO3、CaCO3、Co34、Fe23の原料粉末を、組成式(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δにおいて、表1に示すモル比率(フェライト組成)になるように秤量した。それから、秤量した原料粉末をボールミルで混合した後、大気中にて900〜1300℃の温度で10時間仮焼して一次仮焼粉末を得た。
【0021】
そして、これらの一次仮焼粉末をボールミルなどにより粉砕した後、大気中にて900〜1300℃の温度で10時間仮焼して二次仮焼粉末(2回仮焼工程を経た仮焼粉末)を得た。
【0022】
この二次仮焼粉末をボールミルなどにより粉砕した後、バインダーとしてPVAを添加してスプレー造粒することにより造粒体を得た。それからこの造粒体をプレス成形した後、成形体を1000〜1300℃で焼成することにより焼結体を得た。
【0023】
[各試料の透磁率、クロスポイントおよびQ値の測定]
上述のようにして得た各焼結体(試料)を、JIS規格C−2560−2の附属書に示されているように、外径が10mm、内径が6mm、厚みが2mmのリング形状に加工した。そして、このようにして得られるリング状焼結体(試料)について、透磁率μ’(実部)、μ”(虚部)と、クロスポイント周波数(μ’=μ”となる周波数)を、JIS規格C−2560−2にしたがって測定した。なお、各試料の透磁率μ’(実部)、μ”(虚部)の測定は、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンスアナライザ(型番HP4291A)を用いて行った。
【0024】
250、500MHz、および1GHzの周波数における透磁率μ’およびクロスポイント周波数(μ’=μ”となる周波数)の測定結果を表1に示す。
また、各試料の透磁率μ’(実部)、μ”(虚部)の値からQ値(=μ’/μ”)を求めた。その結果を表1に併せて示す。
【0025】
[比抵抗の測定]
造粒体をプレス成形した後、成形体を1000〜1300℃で焼成することにより得た焼結体を円板状に加工して比抵抗測定用の試料を作成した。
そして、作製した各試料の端面にIn−Ga電極を形成し、絶縁抵抗計にて絶縁抵抗を測定し、この絶縁抵抗と試料の外形寸法とから比抵抗を求めた。各試料の比抵抗の値を表1に併せて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、表1において、試料番号に*を付した試料は、本発明の要件を備えていない試料である。
【0028】
表1に示す結果から、(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δにおいて、Caの置換量(x)を増加させると、μ’、およびクロスポイント周波数は単調に増加する傾向にあり、Q値、および比抵抗は置換量が0.5モル(x=0.5)付近で極大を示す(例えば、試料番号7〜12の試料)ことが確認された。
【0029】
xが0.3未満の場合(例えば、試料番号7,8の試料)、250MHzでのμ’の値は10以上となるものの、250MHzでのQ値は15を下回る(試料番号7の試料ではQ=10、試料番号8の試料ではQ=12)結果となっており、あまり好ましくないことが確認された。
【0030】
また、Caの置換量(x)が0.8を超えると、yおよびzの値が本発明の要件を満たしていても(試料番号12の試料)、250MHzでのμ’が5となり、7を下回るため好ましくないことが確認された。
この結果から、Caの置換量(x)は0.3〜0.8の範囲とすることが好ましいことがわかる。
【0031】
また、BaとCaの合計のモル数のずれを表すyの値が0のとき、すなわち化学量論組成の場合(試料番号1〜6の試料)、xを0〜1.0まで変化させても、250MHzでのμ’が7以上、Q値が15以上を同時に満足することはできないことが確認された。
【0032】
これに対し、y=0.1のとき、すなわちBaとCaの合計のモル数を化学量論組成よりも少なくしたとき(試料番号7〜12の試料)、y=0のときに比べて、μ’、およびQ値が高くなることが確認された。
【0033】
また、y=0.02〜0.4の試料番号10,14〜17の試料の場合にも、y=0のときに比べて、μ’、およびQ値が高くなることが確認された。
しかし、yの値が0.5にまで大きくなると(試料番号13の試料)、逆にμ’が7未満、Q値も15未満と小さくなり、好ましくないことが確認された。
この結果から、BaとCaの合計のモル数のずれを表すyの値は、0.02〜0.4の範囲とすることが好ましいことがわかる。
【0034】
さらに、Coのモル数のずれを表すzの値は、−0.3〜0.3の範囲とするのが好ましいことが確認された。zの値がこの範囲を超えると、μ’が7未満と小さくなったり、Q値が15未満と小さくなったりするため好ましくない(試料番号18,21の試料)。
【0035】
上述のように、本発明によれば、250MHzでのμ’が7以上、Q値が15以上の磁性材料が得られる。したがって、本発明の磁性材料を用いることにより、スピネル型酸化物材料ではQ値が低く使用することができない150MHz〜250MHzの周波数領域でも、Q値の高いコイル部品を提供することが可能になる。
【0036】
また、クロスポイント周波数が1GHz以上となる磁性材料を得ることが可能であり、このような磁性材料は、1GHzまでは透磁率の虚部に比べて実部が大きいので、コイル部品として実使用の可能な磁性材料を提供することができる。すなわち、1GHzではQ値は当然それなりには低くなるが、1GHzまではコイルとして機能するので、例えばQ値がそれほど高くなくても構わないような用途にはコイルとして用いることができる。なお、上述とは逆に、クロスポイント周波数が低いと、クロスポイント周波数を超えた周波数では、透磁率の虚部が大きくなり、抵抗Rが主体の素子になってしまい、コイルとしての機能は期待できなくなる。
【0037】
また、コイル部品を構成する際、電極部の信頼性向上のために、電極を覆うように電解めっき処理を施すことが行われるが、磁性材料の比抵抗が低いと電極部から磁性材料部にメッキの伸びを生じてしまうが、本発明の磁性材料は、比抵抗が106Ωcm以上と高いため、めっきの伸びを防止することができる。
【0038】
また、比抵抗が106Ωcm以上と高いため、コイル部品を構成した場合に、渦電流損失が小さく、コイル部品のQ値を大きくすることができる。
【0039】
以上のような特徴を有する磁性材料は、具体的には、例えば、図1に示すようなコイル部品に適用することができる。
このコイル部品1は、図1に示すように、巻線型コイルであり、コア部材2と、電極部3と、巻線4とを備えている。コア部材2は、巻芯部5と、巻芯部5の軸方向の両端部に形成された二つの(一対の)鍔部6とを含む。
【0040】
巻芯部5は、例えば、軸方向に直交する断面の形状が横長の長方形であり、かつ、軸方向に平衡な方向の縦断面の形状が横長の長方形であるような直方体形状を備えている。
【0041】
また、一対の鍔部6は、互いに対称の形状を有しており、軸方向に直交する断面の形状が、同方向の巻芯部5の断面よりも寸法の大きな長方形で、軸方向に厚みの薄い略直方体形状を有している。そして、一対の鍔部6の下部の巻芯部5との境界部には、段差部7に湾曲した面から構成されるように曲面部70が形成されている。さらに、鍔部6の外周面の一つの面(図1では下面)には、電極部3が設けられている。
【0042】
そして、巻線4は、上記一対の鍔部6に挟まれた領域である巻芯部5の周囲に巻回されており、巻線4の端部である引き出し部分41が、例えば、はんだ付けなどの方法で、鍔部6の下面に配設された電極部3に接続されている。
【0043】
本発明の磁性材料を用いて上述のような巻線型コイルを作製することにより、150MHz〜250MHzの周波数領域でも、Q値の高い、巻線型コイルを提供することが可能になる。
【0044】
本発明は、さらにその他の点においても、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の磁性材料の製造工程で用いられる原料粉末の種類、製造工程における焼成条件などの具体的な条件、本発明の磁性材料をコア部材として用いたコイル部品の具体的な構造などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 コイル部品(巻線型コイル)
2 コア部材
3 電極部
4 巻線
5 巻芯部
6 鍔部
7 鍔部と巻芯部の間の段差部
41 巻線の引き出し部分
70 曲面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Ba3-x+yCax)Co2+zFe2441-δで表され、前記x、y、zは、モル比を示し、それぞれ、0.3≦x≦0.8、0.02≦y≦0.4、−0.3≦z≦0.3を満たすことを特徴とする、磁性材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性材料からなるコア部材を備えていることを特徴とする、コイル部品。
【請求項3】
前記コア部材が、巻芯部と、この巻芯部の軸方向端部に形成された鍔部とを含み、
前記巻芯部の周りに巻線が巻回されていること
を特徴とする、請求項2に記載のコイル部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−100802(P2011−100802A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253570(P2009−253570)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】