説明

磁性材料及びこれを用いた磁石。

【課題】 少ない希土類元素の含有量で十分な磁気特性を有しており、しかもバルク形状を有する磁石を容易に形成することができる磁性材料、及び、これを用いた磁石を提供すること。
【解決手段】 本発明の磁石は、多数の粒子2によって構成される磁性材料と、この粒子2を結合させる結合剤4とを含有する。粒子2は、Feを主成分とする主相粒子6と、この主相粒子6を覆い、少なくとも希土類元素を含みCaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層8とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料及びこれを用いた磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素を含有する希土類磁石は、高磁気特性を有する磁石として種々の用途に用いられている。例えば、下記特許文献1に記載されたような所定の組成を有するR−Fe−B系の希土類磁石が、優れた磁気特性を発揮し得るものとして知られている。
【0003】
希土類磁石においては、希少な希土類元素の使用量をできるだけ少なくしながら高い特性を得ることが望まれる。希土類元素の使用量を少なくできる希土類磁石としては、例えば、希土類元素を含む相と、希土類元素を含まない相とを組み合わせた複合型の希土類磁石が考えられる。このような複合型の希土類磁石によれば、希土類元素を含まない相を有しているため、単一の金属間化合物から構成される希土類磁石に比べて、希土類元素の量を少なくできる。
【0004】
複合型の希土類磁石としては、例えば、下記特許文献2に記載されたような、Sm(Co,Cu)の組成を有する硬磁性相と、Feからなる軟磁性相とが交互に繰り返し積層された多層膜構造を有するナノコンポジット磁石が知られている。
【特許文献1】特開2000−234151号公報
【特許文献2】特開2006−173210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のナノコンポジット磁石は、多層膜構造からなる薄膜磁石であり、広い用途に適用できるボンド磁石や焼結磁石といったバルク形状の磁石を形成することは困難であった。また、従来の単一材料から構成されるNd−Fe−B系の希土類磁石と比べると、未だ十分な磁気特性が得られるものではなかった。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、少ない希土類元素の含有量で十分な磁気特性を有しており、しかもバルク形状を有する磁石を容易に形成することができる磁性材料、及び、これを用いた磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の磁性材料は、Feを主成分とする主相粒子と、この主相粒子の周囲の少なくとも一部を被覆しており、少なくとも希土類元素を含みCaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層とを有する粒子を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の磁性材料は、Feを主成分とする主相粒子と、希土類元素を含む被覆層との複合構造を有することから、単一の材料から構成される希土類磁石と比べて希土類元素の量を少なくできる。また、主相粒子を被覆層が被覆した粒子を含むため、上記従来のような多層膜構造とした場合に比べて容易にバルク形状を有する磁石を形成することができる。さらに、本発明の磁性材料は、上記のように主相粒子が被覆層によって被覆された複合構造を有することから、希土類元素の含有量が少ないのにも関わらず、優れた磁気特性を有するものとなる。
【0009】
ここで、本発明の磁性材料が優れた磁気特性を有するのは、必ずしも明らかではないが、以下のような要因によると考えられる。すなわち、本発明の磁性材料においては、主相粒子を覆う被覆層が、CaCu型の結晶構造を有する金属間化合物によって構成されている。このCaCu型の結晶構造においては、希土類元素が密に存在する面が層状に重なった異方性構造が形成されており、しかも希土類元素が六方晶のc軸方向に連なった構成を有しているため、大きな異方性が発現されると考えられる。そのため、このような金属間化合物によって構成される被覆層は、極めて大きな異方性磁界を有するものとなる。そして、本発明の磁性材料は、このような被覆層が主相粒子を被覆した構造を有していることから、磁石を形成した場合にこれらによって構成される相間での交換結合を強く生じることができる。そのため、保磁力に影響する希土類元素(を含む金属間化合物)が少なくても、高い保磁力が得られるようになる。また、主相粒子が被覆されていることで、主相粒子同士の接近によるこれらの単磁区構造の不安定化も避けることができ、これによっても高い保磁力が維持される傾向にある。これらの要因により、本発明の磁性材料によれば、希土類元素の量が少なくても優れた磁気特性を有する磁石を形成できるものと考えられる。
【0010】
上記本発明の磁性材料においては、主相粒子は、針状の形状を有することが好ましい。主相粒子が針状の形状を有すると、これが被覆層に被覆された粒子も全体として針状形状を有するようになり、その形状に起因して軸方向に大きな異方性エネルギーを有することができる。したがって、このような粒子から構成される磁性材料は、更に優れた磁気特性を発揮することができる。一方、上述した従来技術のような多層膜の構造とした場合、このような形状に由来する異方性エネルギーを十分に利用できないため、本発明のような高磁気特性は得られなくなるものと考えられる。
【0011】
本発明はまた、上記本発明の磁性材料を用いて好適な磁石を提供する。すなわち、本発明の磁石は、Feを主成分とする主相粒子と、主相粒子の周囲の少なくとも一部を被覆しており、少なくとも希土類元素を含みCaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層とを有する粒子を含むことを特徴とする。
【0012】
このような本発明の磁石は、上記本発明と同様の複合構造を有する磁性材料によって構成されることから、容易にバルク形状を有することができ、希土類元素の含有量を少なくした場合であっても、高い磁気特性を有するものとなる。
【0013】
本発明の磁石においては、主相粒子が針状の形状を有することが好ましい。このような主相粒子を含む磁石は、上記と同様の理由により、一層優れた磁気特性を有するものとなる。
【0014】
上記本発明の磁石は、より具体的には、主相粒子及び被覆層からなる粒子を結合させる結合剤を更に含む構成を有することが好ましい。このように粒子が結合剤によって結合された構造を有するとバルク化が一層容易となり、本発明の磁石は、多様な用途に適した形状を有することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少ない希土類元素の含有量で十分な磁気特性を有しており、しかもバルク形状を有する磁石を容易に形成することができる磁性材料、及び、これを用いた磁石を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、好適な実施形態に係る磁石の断面構成を拡大して示す模式図である。図1に示すように、磁石1は、多数の粒子2と、この粒子2間を満たしてこれらを結合する結合剤4とからなる構造を有している。このように、磁石1は、多数の粒子2からなる磁性粉末(磁性材料)が、結合剤4で結合されることによって構成されている。
【0018】
粒子2は、針状の形状を有する主相粒子6と、この主相粒子6の表面を覆うように形成された被覆層8とから構成されており、全体としても針状の形状を有している。ここで、針状の形状とは、特定の一方向の軸(長軸)に沿う断面がいずれもこの長軸方向に扁平な形状となる形状であり、回転楕円体のような形状がこれに該当する。具体的には、例えば、長軸が、これとほぼ直交する方向の軸(短軸)に対して3倍以上の長さとなるような形状が挙げられる。
【0019】
粒子2における主相粒子6は、鉄(Fe)を主成分として含む磁性相である。この主相粒子6は、Feのみから構成されてもよく、Fe以外の元素を組み合わせて含んでいてもよい。主相粒子6に含まれるFe以外の元素としては、例えば、コバルト(Co)や窒素(N)が挙げられ、Coを20〜50%含む組成を有しているとより好ましい。Feに加えてCoを含有することで、粒子2の飽和磁束密度が向上する傾向にある。
【0020】
また、主相粒子6は、還元処理の際の焼結防止の目的で、アルミニウム(Al)やイットリウム(Y)を含有していてもよい。すなわち、AlやYを含むことにより、後述するような主相粒子6の形成時に行う還元処理の際に焼結が生じるのを防止することができる。主相粒子6は、必要に応じて他の金属を更に含んでいてもよく、その他、不可避的に混入する成分が含まれることもある。主相粒子6の具体的な組成としては、Fe−20%Co−3%Al−2.8%Yの組成が例示できる。
【0021】
粒子2における被覆層8は、少なくとも希土類元素を含み、CaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる磁性相である。この金属間化合物がCaCu型構造を有しているか否かは、X線回折(XRD)によって確認することができる。被覆層8を構成する金属間化合物は、希土類元素と他の金属元素とが金属結合によって結合した化合物である。
【0022】
金属間化合物に含まれる希土類元素としては、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)やツリウム(Tm)が挙げられ、Smが好ましい。また、希土類元素と組み合わせる他の金属元素としては、鉄族元素(Fe、Co又はニッケル(Ni))が挙げられ、特にコバルト(Co)が好ましい。このような金属間化合物としては、Sm−Co系の化合物が挙げられる。Smは、CaCu型構造において、c軸方向に大きな異方性を付与することができ、また、Coは、CaCu型構造を安定化できる特性を有していると考えられる。Sm−Co系の金属間化合物としては、具体的には、SmCoが好ましい。SmCoの組成を有する金属間化合物は、特に大きな異方性磁界を有する傾向にある。
【0023】
さらに、金属間化合物としては、Sm−Co系においてCoの一部がホウ素(B)に置換されたSm−Co−B系の化合物がより好ましい。このようにCoの一部がBに置換されることによって、BはCoよりも原子半径が小さいため、CaCu型構造においてc軸方向のSm同士の距離を小さくすることができ、より高い異方性磁界が得られると考えられる。Sm−Co−B系の金属間化合物としては、例えば、SmCoB、SmCo、SmCoや、SmCo11等のSmCo3N+22N−2(Nは2以上)で表される組成を有するものが挙げられる。
【0024】
さらにまた、金属間化合物としては、Sm−Co−B系の組成において、Coの一部をFeで置換したSm−Co−Fe−B系の組成を有するものが更に好ましい。このように、Coの一部をFeで置換することで、金属間化合物の異方性磁界を高めながら、キュリー温度を十分に高くすることも可能となる。キュリー温度の高い金属間化合物からなる被覆層8を有することで、磁石1は高温でも優れた磁気特性を維持できるものとなる。十分に高いTc及びHcを両立する観点からは、Sm−Co−B系の組成に対し、CoをFeで置換した割合(原子数基準)は、75%以下であると好ましく、25〜75%であるとより好ましい。
【0025】
このような構成を有する粒子2において、主相粒子6の大きさは、針状の長軸が好ましくは0.05〜3μm、より好ましくは0.1〜2μmとなる程度の大きさを有していると好ましい。また、被覆層8は、主相粒子6を均一に被覆しており、その厚さが0.01〜0.2μmであると好ましく、0.02〜0.1μmであるとより好ましい。主相粒子6及び被覆層8がこのような条件を満たしていると、これらの相間で交換相互作用が生じ易くなり、磁石1の保磁力が向上する傾向にある。
【0026】
磁石1における結合剤4は、上述した粒子2同士を結合させる成分であり、少なくとも粒子2よりも飽和磁束密度が小さい材料から構成され、非磁性(常磁性、反磁性)又は反強磁性の材料からなるとより好ましい。具体的には、結合剤4としては、希土類金属(Sm又はLa)、Mn、Zn、Cu等の金属単体、NiO、FeMn、FeAl等の合金、或いは、樹脂等からなるものを適用できる。
【0027】
これらのうち、Smは、粒子2等の構造の乱れによる異方性の低下を抑制することができ、Znは融点が低いため粒子2を分散させるのに適しており、また、Cuは展性、延性に優れることから結合剤として適している上、めっきによる形成等が容易であるといった利点も有している。さらに、NiOやFeMnは安価で容易に結合剤4として利用でき、また、樹脂は、溶融が容易で粒子2を分散しやすい等の利点を有している。結合剤4としては、所望の特性に合わせて上記の成分を適宜選択して用いることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の磁石は、上述した構造に限られず、Feを主成分とする主相粒子と、CaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層とを有する粒子を含む限り、適宜異なる構造を有していてもよい。
【0029】
例えば、主相粒子6は、Feを主成分とする単一の相であってもよいが、複数の相によって構成されていてもよい。主相粒子6が複数の相によって構成される場合、粒子中に各相が混在するように分布していてもよく、また、ある相の周囲を他の相が被覆するような構造となっていてもよい。また、磁石1中、単一の相からなる主相粒子6と、複数の相からなる主相粒子6とが混在していてもよい。
【0030】
また、被覆層8も、CaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる限り、単一の相から構成される必要はなく、複数の相によって形成されていてもよい。被覆層8が複数の相によって構成される場合、当該被覆層8においては、各相がそれぞれ主相粒子6の一部ずつを被覆するように形成されていてもよく、また、一方の相が他方の相を覆うように形成された多層構造となっていてもよく、これらの構造が混在していてもよい。さらに、磁石1中、単一の相からなる被覆層8が形成された粒子2と、複数の相からなる被覆層8が形成された粒子2との両方が含まれていてもよい。
【0031】
主相又は被覆層が複数の相、特に多層構造からなる場合、主相と被覆層とが段階的に磁気的に移行するため、これらの相互作用がより強力に生じることになる。その結果、主相と被覆層とを組み合わせて有することにより、磁気特性の向上が可能となる場合もある。なお、このような複数の相が含まれる構造は、後述するような、主相用の鉄を主成分とする原料と、被覆層用の金属間化合物の原料とを混合して反応させる方法によって、特に形成され易い傾向にある。
【0032】
一例として、被覆層が複数の相からなる多層構造を有する磁石の断面構成を図2に示す。図2に示すように、この形態の磁石10は、複数の粒子12と、この粒子12間の結合剤14とから構成されている。粒子12においては、主相粒子16の周囲を被覆層18が被覆しているが、この被覆層18は、主相粒子16を覆う第1の被覆層18aと、この第1の被覆層18aを更に覆う第2の被覆層18bとの2層構造となっている。
【0033】
さらに、磁石1は、必ずしも上述した結合剤4を有していなくてもよい。また、結合剤4は、被覆層8と同じ組成のものであってもよい。この場合、結合剤4も強磁性体となることから、この結合剤4内に非磁性又は反強磁性の材料が混在するようにすることが好ましい。
【0034】
次に、上述した構成を有する磁石1の製造方法の好適な例について説明する。
【0035】
磁石1の製造においては、まず、粒子2における主相粒子6を形成するための鉄を主成分とする針状粒子を準備する。この針状粒子は、例えば、第1鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応させた後、反応後の懸濁液に空気等の酸素を含有するガスを通気して酸化反応を生じさせ、これによりゲータイト粒子粉末を生成させる。その後、このゲータイト粉末を加熱脱水した後、水素雰囲気下、高温(500℃程度)で還元することによって、鉄を主成分とする針状粒子が得られる。
【0036】
次に、鉄を主成分とする針状粒子の表面を、被覆層8を構成する金属間化合物で被覆することによって粒子2を形成させる。金属間化合物による被覆は、金属間化合物の原料を蒸着やスパッタ等のPVD法によって針状粒子の表面に堆積させる方法、針状粒子と金属間化合物の微粒子とを混合する方法、金属間化合物の原料の溶液中に針状粒子を浸漬させる方法等によって行うことができる。
【0037】
また、鉄を主成分とする針状粒子と、金属間化合物の原料とを混合し、反応させることによって、針状粒子を金属間化合物で被覆することもできる。このような方法によれば、粒子2の製造が容易となるためより好ましい。かかる方法としては、例えば、短時間の熱処理による共晶反応等を用いる方法や、金属間化合物の原料粒子として希土類水素化物を用い、真空熱処理により水素を除いて反応させる方法、或いは、金属間化合物の原料粒子として希土類酸化物を用い、Caで還元して反応させる方法等が挙げられる。
【0038】
例えば、上述したPVD法による方法において、レーザーアブレーション法により、Sm−Co−B系の金属間化合物で針状粒子を被覆する場合は、まず、Sm、Co及びBそれぞれの原料化合物等を、所望の組成が得られるように秤量する。これらを高周波溶解したものを、型に鋳込んで鋳造品とし、所望の大きさとなるように切り出し・研磨等を行った後、1100℃で60時間程度の条件で溶体化処理を行うことにより、スパッタに用いるターゲットを得る。
【0039】
次いで、このターゲットをターゲットホルダーにセットするとともに、振動機構上に配置されたサンプル容器等に、上述した針状粒子を入れ、装置内を真空に調整する。この際、針状粒子は、大気に触れないように準備することが好ましい。そして、高真空条件下、針状粒子を間欠的に振動させながら、ターゲットにレーザーを照射し、これにより生じたSm−Co−Bクラスターを針状粒子に堆積させることで、針状粒子の表面にSm−Co−B系の金属間化合物からなる層を形成する。その結果、針状粒子からなる主相粒子6、及び、この表面を覆い金属間化合物からなる被覆層8を有する粒子2を含む磁性粉末(磁性材料)が得られる。
【0040】
磁石1の製造においては、その後、このようにして得られた磁性粉末を、結合剤4により結合させることによってバルク状の磁石1を得る。このバルク化は、例えば、磁性粉末を構成する粒子2を結合剤4で覆った後にこれを成形する方法や、結合剤4中に粒子2を分散させた状態で成形する方法等によって実施することができる。
【0041】
例えば、結合剤4としてZnを用いる場合は、まず、Znを収容した容器を500℃程度に加熱し、Znを溶融した後、この中に上記の磁性粉末を加えて分散させる。次いで、この混合物を徐々に昇温し、さらに磁場中で成形を行いながらZnを蒸発させることによって、バルク状の磁石1を得る。なお、所望の製品形状を得るために、一旦得られた磁石1を粗粉砕した後、これを更に磁場中で成形してもよい。
【0042】
以上、説明した本実施形態の磁石1は、主相粒子6とこれを覆う被覆層8とからなる粒子2によって主に構成される。このような複合構造を有する粒子2は、被覆層8が高い磁気異方性を有するCaCu型の結晶構造を有するほか、主相粒子6と被覆層8とが交換相互作用を生じたナノコンポジット構造を有しているため、優れた磁気特性(残留磁束密度や保磁力)を発揮し得る。
【0043】
そして、磁石1は、粒子2によって構成される磁性材料が結合剤4によって結合されたものであるためバルク化が容易であるほか、この結合剤4が、非磁性又は反磁性を有しているため、粒子2による優れた磁気特性が阻害されずに十分に維持されたものとなる。したがって、このような磁石1は、単一の金属間化合物によって構成される従来の希土類磁石と比べて、希土類元素の含有量が少ないにもかかわらず、優れた磁気特性を有するものとなる。
【0044】
なお、本発明の磁性材料又は磁石は、必ずしも上述した実施形態のものに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、まず、上述の実施形態では、主相粒子6(更には粒子2)として針状の形状を有するものについてのみ説明を行ったが、本発明においては、主相粒子や粒子は必ずしも針状でなくてもよく、球状その他の形状を有していてもよい。ただし、優れた磁気異方性を得る観点からは、これらは針状を有していることが好ましい。
【0045】
また、上記では、主相粒子6の全面を被覆層8が被覆した構造の粒子2を例示したが、例えば、被覆層8は、主相粒子6の少なくとも一部を覆っていればよい。さらに、本発明の磁石は、本発明の磁性材料を含むものであればよく、磁石の形状を維持できる限り、必ずしも上述したような結合剤を含有していなくてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[比較試験1]
37.9Sm−59.4Co−2.7B(数値は重量%)の組成が得られるように、Sm、Co及びBのそれぞれの元素の原料化合物を秤量し、これらの高周波溶解を行った。得られた合金を、Arフロー中において、1100℃で72時間処理して、溶体化させた。こうして得られたサンプルについて、X線回折により相の同定を行った。得られた結果を図3に示す。図3より、得られたサンプルはほぼCaCu型の結晶構造を有するSmCoB相であることが確認された。このサンプルの磁気特性をVSMにより測定したところ、保磁力(HcJ)が3.6(kOe)であり、飽和磁化(Ms)が3.4(kG)であり、残留磁束密度(Br)が3.3(kG)であった。
【0048】
[試験1]
比較試験1と同様にして製造したSmCoBの合金に、250℃で水素を吸蔵させ、水素粉砕を行うことにより粗粉化した。得られた粗粉を窒素雰囲気中でジェットミル粉砕して、平均粒径が4μmである微粉を得た。得られた微粉に対し、100μmの球状Feを混合して混合粉を得た。なお、試験1では、SmCoB:Feが重量比で、95:5、99:1及び100:0となるようにそれぞれ変化させて各種の混合粉を得た。
【0049】
次いで、得られた各混合粉を、3Tの磁場中、50kNの条件で磁場中成形して、成形体を得た。それから、得られた各成形体に、急昇温及び短時間の焼結を施し、焼結体を得た。この際、急昇温の条件は0℃から850℃までは0.5℃/秒、850℃から焼結温度までは1℃/秒とした。また、焼結は、混合粉の成分割合が異なる各成形体について、1200℃、1250℃及び1280℃の3通りの温度条件でそれぞれ5秒間保持するようにして行った。焼結後、Ar中で室温まで30分間冷却させて、各種の希土類磁石を作製した。
【0050】
得られた各希土類磁石について、比較試験1と同様に磁気特性を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より、SmCoBにFeを混合しても(SmCoBが95%及び99%のサンプル)、Feを混合しなかった場合(SmCoBが100%のサンプル)と比べて、十分に高い磁気特性が維持されるか、またはこれを上回る磁気特性が得られることが確認された。なお、表中の「>19.5」は今回使用したVSM装置の最大印加磁場が19.5kOeであり、サンプルのHcJがそれ以上であったことを意味する。
【0053】
[比較試験2]
39.5Sm−56.7Co−3.8B(数値は重量%)の組成が得られるように、Sm、Co及びBのそれぞれの元素の原料化合物を秤量して用いたこと以外は、比較試験1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについて、X線回折により相の同定を行った。得られた結果を図4に示す。図4より、得られたサンプルはほぼCaCu型派生構造を有するSmCo11相が主相であることが確認された。このサンプルの磁気特性をVSMにより測定したところ、HcJが3.1(kOe)であり、Msが2.1(kG)であり、Brが2.0(kG)であった。
【0054】
[試験2]
比較試験2と同様にして製造したSmCo11の合金を用い、試験1と同様にして、SmCo11:Feの割合が重量比でそれぞれ95:5、99:1及び100:0となるようにし、それぞれについて1200℃、1250℃及び1280℃の3通りの温度条件で焼結を行った場合の各種希土類磁石を製造した。
【0055】
得られた各希土類磁石について、比較試験1と同様に磁気特性を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2より、SmCo11にFeを混合しても(SmCo11が95%及び99%のサンプル)、Feを混合しなかった場合(SmCo11が100%のサンプル)と比べて、十分に高い磁気特性が維持されるか、これを上回る磁気特性が得られることが確認された。
【0058】
[試験3]
まず、市販の針状形状を有する酸化鉄(Fe)を準備し、これに水素フロー中で500℃、3時間の還元処理を行い、針状のFe粉を得た。そして、このFe粉を、球状Feに代えて用いたこと以外は、試験1と同様にして、SmCoBとFeとの割合、及び、焼結温度が異なる各種の希土類磁石を得た。
【0059】
得られた各希土類磁石について、比較試験1と同様に磁気特性を測定した。得られた結果を表3に示す。
【表3】

【0060】
表3より、針状のFe粉を用いた場合、SmCoBとFeの割合がどのような値であっても高いHcJが得られており、また、SmCoBとFeを混合した場合(SmCoBが95%及び99%のサンプル)は、Feを混合しなかった場合(SmCoBが100%のサンプル)と比べて、同等以上のBrが得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】好適な実施形態に係る磁石の断面構成を拡大して示す模式図である。
【図2】被覆層が複数の相からなる多層構造を有する磁石の断面構成を模式的に示す図である。
【図3】比較試験1のサンプルのX線回折の結果を示す図である。
【図4】比較試験2のサンプルのX線回折の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,10…磁石、2,12…粒子、4,14…結合剤、6,16…主相粒子、8,18…被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とする主相粒子と、前記主相粒子の周囲の少なくとも一部を被覆しており、少なくとも希土類元素を含みCaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層と、を有する粒子を含む、ことを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
前記主相粒子は、針状の形状を有する、ことを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
Feを主成分とする主相粒子と、前記主相粒子の周囲の少なくとも一部を被覆しており、少なくとも希土類元素を含みCaCu型の結晶構造を有する金属間化合物からなる被覆層と、を有する粒子を含む、ことを特徴とする磁石。
【請求項4】
前記主相粒子は、針状の形状を有する、ことを特徴とする請求項3記載の磁石。
【請求項5】
前記粒子を結合させる結合剤を更に含む、ことを特徴とする請求項3又は4記載の磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−270796(P2008−270796A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93457(P2008−93457)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】