説明

磁性流体ダンパ

【課題】部品点数および組立工数の大幅な増加を招くことなく磁気粘性流体の使用量を削減し、流体ダンパのコスト低減を図る。
【解決手段】シリンダ1内に、作動油FLが封入される油室10と磁気粘性流体MRが封入される流体室20とを軸方向に画成する第1フリーピストン8を納め、流体室20に連通するタンク2内にガスが封入されるガス室22を画成する第2フリーピストン18を納め、油室10には油通路11,12を有するピストン4を摺動可能に配設すると共に、流体室20には流体通路21を有する電磁石ユニット17を位置固定的に配設する。ピストンロッド5の伸縮動に伴う作動油FL並びに磁気粘性流体MRの流動抵抗によって減衰力を発生させると共に、ピストンロッド5の退出および進入分の作動油FRは、第1、第2フリーピストン8,18の摺動によって補償し、磁気粘性流体ダンパは流体室20の変位に伴う流体移動によって作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンション等に用いられる流体ダンパに係り、より詳しくは作動油の流動抵抗と磁気粘性流体の流動抵抗とによって減衰力を発生する流体ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁作用を付与した磁気粘性流体の流動抵抗によって減衰力を発生する磁気粘性流体ダンパ(ショックアブソーバ)は、従来より知られている。この種の磁気粘性流体ダンパは、一般に、磁気粘性流体が封入されたシリンダ内に電磁石が組込まれたピストンを配設し、該ピストンと連結されたピストンロッドの伸縮動に伴う磁気粘性流体の流動抵抗によって減衰力を発生し、前記ピストンロッドの退出および進入分の磁気粘性流体は、モノチューブ式においてはシリンダの底部側にフリーピストンを介して画成したガス室の体積変化で、ツインチューブ式においてはシリンダとアウタチューブとの間のリザーバでそれぞれ補償する構造となっている。磁気粘性流体は、作動油中に磁性体粒子(鉄粉)を分散させてなっており、電磁石から印加される磁界強度によってその粘度が変化し、これに応じて発生する減衰力が変化する。
【0003】
ところで、磁気粘性流体は、汎用の作動油に比べてかなり高価となっており、このため、磁気粘性流体の使用量をできるだけ抑えたい要求がある。そこで、たとえば、特許文献1には、外部シリンダと内部シリンダとを二重管式に配して、両シリンダの間に形成される外側の作動室に作動油を、内部シリンダ内の作動室に磁気粘性流体をそれぞれ封入し、外側の作動室および内側の作動室に各独立にピストンおよびピストンロッドを組込むと共に、各作動室に体積補償のアキュムレータ(ガス室)を連設し、所謂オイルダンパと磁気粘性流体ダンパとを併用するようにした二重管式ショックアブソーバが記載されている。
【特許文献1】特開2002−195340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の二重管式ショックアブソーバによれば、ピストンおよびピストンロッドをはじめ、体積補償のためのガス室やシール手段など、流体ダンパとしての構成部品が二重に必要になり、部品点数および組立工数の大幅な増加による製品コストの上昇が避けられず、磁気粘性流体の使用量を削減したことによるコスト的な利点が失われる、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、部品点数および組立工数の大幅な増加を招くことなく磁気粘性流体の使用量を削減し、もって製品コストの低減に寄与する流体ダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、シリンダ内に、作動油が封入される油室と磁気粘性流体が封入される流体室とを軸方向に画成する第1仕切部材を納め、ガスが封入されるガス室を第2仕切部材を介して前記流体室に直列に連設し、前記油室には油通路を有するピストンを摺動可能に配設すると共に、前記流体室には流体通路を有する電磁石ユニットを位置固定的に配設し、前記ピストンに連結されたピストンロッドの伸縮動に伴って前記油通路、流体通路を流通する作動油並びに磁気粘性流体の流動抵抗によって減衰力を発生し、前記ピストンロッドの退出および進入分の作動油は、前記第1および第2仕切部材の変動によって補償する構成としたことを特徴とする。
【0007】
このように構成した流体ダンパにおいては、オイルダンパとして用いる油室と体積補償のためのガス室との間に磁気粘性流体ダンパとして用いる流体室を配置し、磁気粘性流体ダンパは、流体通路を有する電磁石ユニットを位置固定して流体室の変位に伴う流体移動によって減衰力を発生するようにしたので、ピストンやピストンロッドなどのダンパ構成部品を二重に設ける必要がなくなり、部品点数の削減並びに組立工数の削減を図ることができる。
【0008】
本発明において、上記第1仕切部材および第2仕切部材は、それぞれフリーピストンまたはダイアフラムからなる構成とすることができる。
また、上記ガス室は、前記シリンダと別体のタンク内に設けられていても、前記シリンダの底部に設けられていてもよく、前者の場合は第2仕切部材が該タンク内に、後者の場合は、第2仕切部材が該シリンダの底部に配設される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る流体ダンパによれば、ピストンやピストンロッドなどのダンパ構成部品を二重に設ける必要がないので、部品点数の削減並びに組立工数の削減を図ることができ、高価な磁気粘性流体の使用量を削減できることと相俟って、製品コストの低減に大きく寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る流体ダンパの第1の実施形態を示したものである。同図において、1は有底のシリンダ、2は、シリンダ1の内底部に連通管(連通路)3を介して連絡するタンクである。シリンダ1内の上部側には、ピストン4が摺動可能に配設されており、ピストン4にはピストンロッド5の一端部が連結されている。ピストンロッド5の他端側は、シリンダ1の開口端部に装着したロッドガイド6を挿通してシリンダ外へ延ばされており、このロッドガイド6には、ピストンロッド5との間をシールするオイルシール7が保持されている。
【0011】
また、シリンダ1内には、上記ピストン4よりも底部側に位置して第1フリーピストン(第1仕切部材)8がシール部材9を介して摺動可能に配設されている。この第1フリーピストン8と上記ロッドガイド6との間は油室10として画成されており、該油室10には、オイルダンパに汎用の作動油FLが封入されている。ピストン4には、その上側の油室(ピストン上室)10Aと下側の油室(ピストン下室)10Bとを連通する複数の油通路11,12が形成されており、一方の油通路11にはピストン下室4Aからピストン上室4Aへの作動油FLの流通のみを許容するチェック弁13が、他方の油通路12にはピストン上室10Aからピストン下室10Bへの作動油F1の流通のみを許容するチェック弁14がそれぞれ配設されている。
【0012】
さらに、上記シリンダ1内の底部側には、ハウジング15内にコイル16を内装した電磁石ユニット17が位置固定的に配設されている。一方、上記タンク2内には、第2フリーピストン(第2仕切部材)18がシール部材19を介して摺動可能に配設されている。前記シリンダ1内の第1フリーピストン8とタンク2内の第2フリーピストン18との間は流体室20として画成されており、該流体室20には前記した磁気粘性流体MRが封入されている。電磁石ユニット17には、上側の流体室(コイル上室)20Aと下側の流体室(コイル下室)20Bとを連通する流体通路21が形成されており、磁気粘性流体MRはこの流体通路21を通ってコイル上室20Aとコイル下室20Bとの間で移動できるようになっている。
【0013】
一方、タンク2内の一端側には、前記第2フリーピストン17によってガス室22が画成されており、このガス室22には、ガス(たとえば、窒素ガス)が封入されている。
【0014】
以下、上記のように構成した流体ダンパの作用を説明する。
本流体ダンパは、自動車のサスペンションのショックアブソーバとして用いられる場合は、そのシリンダ1の底部に取付けた取付アイ23とピストンロッド5の上端部に一体に形成したボルト部(図示略)とを利用して、車軸と車体との間に介装される。そして、ピストンロッド5が伸長する伸び行程時には、ピストン上室10A内の作動油FLが他方の油通路12を通ってピストン下室10Bへ流れ、この間、油通路12を通過する際の作動油FLの流動抵抗で減衰力が発生する。一方、前記ピストンロッド5の伸長に応じて、その退出分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、ガス室22のガス圧を受けてコイル下室20Bから流体通路21を通ってコイル上室20Aへ流動する。このとき、電磁石ユニット17のコイル16に電流を印加することで流体通路21内に磁界が発生し、この磁界によって該流体通路21を流通する磁気粘性流体MRの粘度が変化し、その流動抵抗で減衰力が発生する。また、コイル上室20Aへの磁気粘性流体MRの流入に応じて第1フリーピストン8が上動し、これによってピストンロッド5の退出分の作動油FLが補償される。
【0015】
ピストンロッド5が短縮する縮み行程時には、ピストン下室10B内の作動油FLが一方の油通路11を通ってピストン上室10Aへ流れ、この間、油通路11を通過する際の作動油FLの流動抵抗で減衰力が発生する。一方、前記ピストンロッド5の短縮に応じて、その進入分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、コイル上室20Aから流体通路21を通ってコイル下室20Bへ流動する。このとき、電磁石ユニット17のコイル16に電流を印加することで流体通路21内に磁界が発生し、この磁界によって該流体通路21を流通する磁気粘性流体MRの粘度が変化し、その流動抵抗で減衰力が発生する。また、コイル下室20Bへの磁気粘性流体MRの流入に応じて第1フリーピストン8が下動すると共に、第2フリーピストン18がガス室22内のガスを圧縮させて上動し、これによってピストンロッド5の進入分の作動油FLが補償される。
【0016】
このように本流体ダンパにおいては、オイルダンパとして用いる油室10と体積補償のためのガス室22との間に磁気粘性流体ダンパとして用いる流体室20を配置し、磁気粘性流体ダンパは、流体通路21を有する電磁石ユニット17を位置固定して流体室20の変位に伴う流体移動によって減衰力を発生するようにしたので、ピストン4やピストンロッド5などのダンパ構成部品を二重に設ける必要がなくなり、部品点数の削減並びに組立工数の削減を図ることができる。
【0017】
ところで、たとえば、前記特許文献1に記載されるように磁気粘性流体ダンパとして機能するピストンをシリンダ内面に沿って摺動させる構成では、ピストンストロークが長いこともあって、ピストンの摺動部に浸入する磁気粘性流体中の磁性体粒子によってシール部材や摺動面が損傷する危険がある。しかし、本流体ダンパでは、ピストンロッド5の退出および進入分に相当する距離しか移動しない第1、第2のフリーピストン8、18に磁気粘性流体MRが接触しているだけであるので、シール部材9、19が損傷する危険性はきわめて小さく、流体ダンパとしての寿命並びに性能の保証は十分となる。
【0018】
図2は、本発明に係る流体ダンパの第2の実施形態を示したものである。なお、流体ダンパの基本構造は前記第1の実施形態と同じであるので、ここでは、同一構成要素に同一符号を付し、重複する説明を省略する。本第2の実施形態の特徴とするところは、上記第1の実施形態における第1フリーピストン8に代えて、蛇腹状のダイアフラム(第1仕切部材)30を用いた点にある。ダイアフラム30は、固定部材31を用いてシリンダ1の内面に固定されており、その位置は不動となっている。
【0019】
本第2の実施形態の作用は、上記第1の実施形態と基本的に同じであり、伸び行程時には、ピストンロッド5の退出分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、コイル下室20Bから流体通路21を通ってコイル上室20Aへ流動して減衰力が発生し、このとき、ダイアフラム30が膨出変形しかつ第2フリーピストン18が下動することで、油室20内の作動油FLが補償される。一方、縮み行程時には、ピストンロッド5の進入分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、コイル上室20Aから流体通路21を通ってコイル下室20Bへ流動して減衰力が発生し、このとき、ダイアフラム30が収縮変形しかつ第2フリーピストン18が上動することで、ピストンロッド5の進入分の作動油FLが補償される。本第2の実施形態においては特に、油室10と流体室20とを仕切る第1仕切部材が、位置固定のダイアフラム30からなっているので、磁気粘性流体MRと接触する第1仕切部材の周りから摺動部がなくなり、これによって流体ダンパとしての寿命並びに性能の保証はより一層確実となる。
【0020】
図3は、本発明に係る流体ダンパの第3の実施形態を示したものである。なお、流体ダンパの基本構造は前記第1の実施形態と同じであるので、ここでは、同一構成要素に同一符号を付し、重複する説明を省略する。本第3の実施形態の特徴とするところは、上記第1の実施形態におけるタンク2(図1)を廃止して、シリンダ1の底部にガス室22を移設し、さらにガス室22を画成する第2仕切部材としてフリーピストン8に代えて、蛇腹状のダイアフラム32を用いた点にある。なお、ダイアフラム32は、固定部材33を用いてシリンダ1の内面に固定されており、その位置は不動となっている。
【0021】
本第3の実施形態の作用は、上記第1の実施形態と基本的に同じであり、伸び行程時には、ピストンロッド5の退出分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、コイル下室20Bから流体通路21を通ってコイル上室20Aへ流動して減衰力が発生し、このとき、第1フリーピストン8が上動しかつダイアフラム32が膨出変形することで、油室20内の作動油FLが補償される。一方、縮み行程時には、ピストンロッド5の進入分に相当する体積の磁気粘性流体MRが、コイル上室20Aから流体通路21を通ってコイル下室20Bへ流動して減衰力が発生し、このとき、第1フリーピストン8が下動しかつダイアフラム32が収縮変形することで、ピストンロッド5の進入分の作動油FLが補償される。本第3の実施形態においては特に、流体室20とガス室22を仕切る第2仕切部材が、位置固定のダイアフラム32からなっているので、磁気粘性流体MRと接触する第2仕切部材の周りから摺動部がなくなり、流体ダンパとしての寿命並びに性能の保証はより一層確実となる。また、本第3の実施形態においては、タンク2(図1)が廃止されているので、シリンダ1の周りが簡素となり、車両への搭載性が向上する。
【0022】
なお、上記第2の実施形態においては第1仕切部材をダイアフラム30から構成し、第3の実施形態においては第2仕切部材をダイアフラム32から構成したが、本発明は、第1、第2仕切部材の双方をダイアフラムから構成してもよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る流体ダンパの第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】本流体ダンパの第2の実施形態を示す断面図である。
【図3】本流体ダンパの第2の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 シリンダ
2 タンク
4 ピストン
5 ピストンロッド
8 第1フリーピストン(第1仕切部材)
10 油室
11,12 油通路
17 電磁石ユニット
18 第2フリーピストン(第2仕切部材)
20 流体室
21 流体通路
22 ガス室
30 ダイアフラム(第1仕切部材)
32 ダイアフラム(第2仕切部材)
FL 作動油
MR 磁気粘性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に、作動油が封入される油室と磁気粘性流体が封入される流体室とを軸方向に画成する第1仕切部材を納め、ガスが封入されるガス室を第2仕切部材を介して前記流体室に直列に連設し、前記油室には油通路を有するピストンを摺動可能に配設すると共に、前記流体室には流体通路を有する電磁石ユニットを位置固定的に配設し、前記ピストンに連結されたピストンロッドの伸縮動に伴って前記油通路、流体通路を流通する作動油並びに磁気粘性流体の流動抵抗によって減衰力を発生し、前記ピストンロッドの退出および進入分の作動油は、前記第1および第2仕切部材の変動によって補償することを特徴とする流体ダンパ。
【請求項2】
前記第1仕切部材および第2仕切部材が、それぞれフリーピストンまたはダイアフラムからなることを特徴とする請求項1に記載の流体ダンパ。
【請求項3】
前記ガス室が、前記シリンダと別体のタンク内に設けられており、前記第2仕切部材が該タンク内に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体ダンパ。
【請求項4】
前記ガス室が、前記シリンダの底部に設けられており、前記第2仕切部材が該シリンダの底部に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−58081(P2009−58081A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226936(P2007−226936)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】