説明

磁性粉末の分離、回収方法

【課題】希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂とを含む樹脂結合型磁石用組成物又はこれを用いて得られた樹脂結合型磁石から磁性粉末を効率よく、かつ磁気特性の低下を招くことなく分離し、回収できる方法を提供する。
【解決手段】構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含有する磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂とを含む樹脂結合型磁石用組成物、又はそれを用いて得られる樹脂結合型磁石から磁性粉末を分離、回収する方法であって、まず、処理対象物として上記樹脂結合型磁石用組成物又は樹脂結合型磁石を選定した後、該処理対象物を予め0℃以下に冷却し、引き続き低温を維持しながら粉砕し、その後、得られた粉砕物から樹脂成分が実質的に除去された磁性粉末を分離、回収することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方などにより提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末の分離、回収方法に関し、より詳しくは、希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物又はそれを用いて得られる樹脂結合型磁石から磁性粉末を効率よく分離し、かつ磁気特性の低下を招くことなく回収できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂結合型磁石(ボンド磁石とも称される)は、焼結磁石とは異なり、成形したままでも寸法精度が良好で、加工を必要としないため、歩留りがよく、生産性に優れている。中でも希土類ボンド磁石は、優れた磁気特性を示すため、広範囲の用途に利用され、特にHD用精密モーター等に需要が急速に高まり、それにつれて生産量も飛躍的に増大している。
【0003】
この希土類ボンド磁石は、微細な希土類磁性粉末に1〜3質量%程度の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等)をバインダーとして混合した後、ホットプレス等により加熱圧縮して成形と樹脂の硬化を行うことにより一般に製造される。磁石の防錆性を高めるため、成形後に、Ni等によるメッキや樹脂等による表面処理を施す場合もある。
【0004】
希士類ボンド磁石の製造工程では、成形不良、メッキ不良、割れ、傷等が原因となり、製品として使用できない不良品(スクラップ)がある程度発生する。また、希士類ボンド磁石を使用している機器が廃棄された場合も、その磁石はスクラップとなる。希士類ボンド磁石は、高価かつ産出国が限られている希士類金属を使用しているので、希土類ボンド磁石を再生利用することが重要な課題となっている。
【0005】
希土類ボンド磁石には、樹脂バインダーとしてポリアミドのような熱可塑性樹脂を用いたものもあるが、これらは熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱すれば比較的容易に磁性粉末を分離して再利用することができる。
【0006】
ところが、前記のような磁石粉末と熱硬化性樹脂との混合物であると、熱硬化させた後は3次元網目構造に硬化していることから、熱可塑性樹脂のポリアミドを用いた希土類ボンド磁石のように溶融して再利用することはできない。エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、希土類ボンド磁石の圧縮成形に用いられるが、磁石粉末と極めて強固に接着している。
【0007】
そのため、R−Fe−B系希土類磁石のスクラップを特定以下の粒径に粉砕してから、900℃以上の温度で加熱する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これによると、樹脂が完全に分解する上、残留する炭素分も酸化されて除去され、酸化された磁石合金中の炭素量が低減でき再利用できるようになる。しかしながら、900℃を超える高温に加熱されるため、希土類磁石によっては、磁気特性が大幅に低下するという問題があった。
【0008】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた希土類ボンド磁石を、エチレングリコールなどの溶剤を含む分解液とともに分解槽に仕込み、昇温して、一定の形状を保ち機械強度を有する温度に保持して、その後、分解槽から希土類ボンド磁石を回収する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。そして、機械強度の低下した希土類ボンド磁石に力を加えて粉砕し、分級して所望の粒度の希土類磁石粉末と樹脂の混合粉末を回収する方法が記載されている。
【0009】
エポキシ樹脂をバインダーとして用いた圧縮成形希土類ボンド磁石では、圧縮成形の際に空隙ができるので、溶剤が空隙を通って希土類ボンド磁石の内部まで入り、希土類磁石粉末を結合している樹脂を比較的容易に分解することができる。
【0010】
本発明者等は、上記圧縮成形法では得られない複雑形状、薄肉形状の成形を行える樹脂結合型磁石用組成物を開発し、希土類系磁性粉末と、樹脂バインダーが有機過酸化物を含むラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主成分とし、さらにN−オキシル類化合物を配合した樹脂結合型磁石用組成物を提案した(例えば、特許文献3参照)。ここには、該樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法などの成形法により成形して樹脂結合型磁石を製造することを記載している。
【0011】
このような樹脂結合型磁石用組成物を用いて射出成形する場合、混練時の該樹脂結合型磁石用組成物の工程外品や射出成形時のスプルー、ランナー等の製品外樹脂結合型磁石硬化物(以下、単に硬化物ともいう)が発生する。樹脂結合型磁石用組成物は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を多量に含んでいるので、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂硬化物の廃棄物に特定の分解処理液を作用させて樹脂成分を分解する方法が適用できるものと考えられる。
【0012】
熱硬化性樹脂硬化物の廃棄物を再利用する方法、例えば、ボタンの製造の際に副生する不飽和ポリエステル樹脂廃棄物を再利用する方法として、グリコールを用いて分解してグリコール類原料を得て、さらに不飽和二塩基酸および飽和二塩基酸と反応させて、不飽和ポリエステル樹脂を合成するか、グリコール類原料をジイソシアネート化合物と反応させて、ポリウレタン樹脂を合成すること(特許文献4参照)、硬化不飽和ポリエステル樹脂廃棄物を、ジカルボン酸、ジアミン等の分解用成分を用いて分解して樹脂原料を得て、これを用いて不飽和ポリエステル樹脂を再合成すること(特許文献5参照)が提案されている。
【0013】
また、不飽和ポリエステル樹脂硬化物を効率よく分解又は溶解し、分解成分と充填剤を効率よく分離できるリン酸類及び有機溶媒を必須成分として含む分解処理液(特許文献6参照)、溶媒とアルカリ金属塩、リン酸塩、アルカリ金属リン酸塩またはその水和物などの金属塩などを含む不飽和ポリエステル樹脂硬化物の処理溶液(特許文献7参照)が提案されている。
【0014】
さらには、無水マレイン酸などのグリコールの付加物を用いて、ポリエステル樹脂廃棄物を分解して再合成用の樹脂原料を得る工程と、得られた樹脂原料を縮合反応させることにより、不飽和ポリエステルを合成する工程とを有するポリエステル樹脂廃棄物の再利用方法(特許文献8参照)が提案されている。
【0015】
ところが、これら特許文献4〜8では、分解溶液の温度を150℃より高くして分解率を向上させようとすると、磁性粉の磁気特性が劣化してしまい、一方、分解温度が150℃以下であると磁性粉の磁気特性の劣化はないものの、分解率が低下してしまうため、希土類ボンド磁石から磁性粉末を再利用する手段としては採用できない。また、エポキシ樹脂などを用い圧縮成形して得られる希土類ボンド磁石とは異なり、射出成形により得られた希土類ボンド磁石の場合は、成形の際、空隙ができないので溶剤の作用効果をあまり期待することはできない。
【0016】
このような状況下、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を用いた樹脂結合型磁石用組成物、またそれを射出成形した希土類ボンド磁石であっても、熱硬化性樹脂が付着した磁性粉末から容易に磁性粉末を分離、回収できる方法の出現が切望されていた。
【特許文献1】特開2002−217052号公報
【特許文献2】特開2002−313616号公報
【特許文献3】特開2003−92209号公報
【特許文献4】特開平8−225635号公報
【特許文献5】特開平9−221565号公報
【特許文献6】特開2002−194137号公報
【特許文献7】特開2002−363338号公報
【特許文献8】特開2003−268098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂とを有する樹脂結合型磁石用組成物又は樹脂結合型磁石から磁性粉末を効率よく、かつ磁気特性の低下を招くことなく分離、回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類系磁性粉末がラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂によって結合した樹脂結合型磁石、またはその原料である樹脂結合型磁石用組成物を処理対象物として、これを予め特定温度以下に冷却することで、樹脂成分がより硬くなるだけでなく磁性粉末との間に熱膨張差が生じるので、引き続き低温を維持した状態で粉砕することにより、粉砕物から熱硬化性樹脂が剥がれやすくなるため、磁性粉末を効率よく分離でき、かつ回収された磁性粉末は、高温に晒されていないので磁気特性の低下を招くことなく再利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含有する磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂とを含む樹脂結合型磁石用組成物、又はそれを用いて得られる樹脂結合型磁石から磁性粉末を分離、回収する方法であって、まず、処理対象物として上記樹脂結合型磁石用組成物又は樹脂結合型磁石を選定した後、該処理対象物を予め0℃以下に冷却し、引き続き低温を維持しながら粉砕し、その後、得られた粉砕物から樹脂成分が実質的に除去された磁性粉末を分離、回収することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記磁性粉末が、粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含むことを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂のいずれかを含むことを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記熱硬化性樹脂が、さらに有機過酸化物を含有することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記熱硬化性樹脂が、さらにN−オキシル類化合物を含有することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記処理対象物が、−10℃以下に冷却されることを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0025】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、粉砕物の平均粒径は、磁性粉末の平均粒径よりも2μm小さいか2μm大きい範囲内にすることを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【0026】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、粉砕物を有機溶媒と接触させることにより、その中に含まれる樹脂成分が80%以上を除去することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の方法によれば、樹脂結合型磁石又はその原料である樹脂結合型磁石用組成物を特定温度以下に冷却し、引き続き低温で粉砕するため、磁性粉末を効率よく、かつ磁気特性の低下を招くことなく分離・回収でき、今まで実現できなかった磁性粉末の再利用が可能となる。
【0028】
また、得られた磁性粉末は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂と混合して、再び樹脂結合型磁石用組成物を作製でき、これを成形することで樹脂結合型磁石とすることができる。この樹脂結合型磁石は、熱変形温度(HDT法)が一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合よりも高いことや、熱可塑性樹脂を用いた場合には不可能な肉厚1mm未満の薄肉品の作製が容易にできることから、軽薄短小化が進む磁石用途、例えば、小型モーター、音響機器、OA機器等にいたる幅広い分野に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の樹脂結合型磁石用組成物又はそれを用いて得られる樹脂結合型磁石から磁性粉末を分離、回収する方法について詳細に説明する。
【0030】
1.磁性粉末
本発明に係る樹脂結合型磁石用組成物又はこれを用いて得られる樹脂結合型磁石の成分である磁性粉末は、その構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含むものであれば、特に制限されない。
【0031】
希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0032】
遷移金属元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)からなる群から選択される1種又は2種以上であって、これ以外にCr、V又はCuのいずれかを含有してもよい。
【0033】
特に好ましい希土類元素は、NdまたはSmのいずれかであり、遷移金属元素は、Fe又はCoのいずれかである。また、具体的な磁性粉末には、例えば、異方性磁場(HA)が4MA/m以上の磁性粉末である希土類−コバルト系磁性粉、希土類−鉄−ほう素系磁性粉、希土類−鉄−窒素系磁性粉の単独もしくは混合粉、またはフェライト系磁性粉との混合系などが挙げられる。
【0034】
磁性粉末の粒径は、100μm以下であることが好ましく、100μm以下の粒子を50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に90重量%以上含むことが好ましい。また、等方性よりも磁場中での成形が必至となる異方性の磁性粉の方が、配向特性の面で効果が大きい。
【0035】
また、上記磁性粉には、必要に応じて、無機燐酸または無機燐酸化合物、シラン系、チタン系、アルミニウム系の表面処理剤等を、磁性粉に対して0.1〜3.0重量%の範囲で使用し磁性粉の表面処理をすることが出来る。
【0036】
無機燐酸または無機燐酸化合物の例としては、磁性粉末表面でホパイト、フォスフォフェライト等からなる燐酸亜鉛系、ショルツァイト、フォスフォフィライト、ホパイト等からなる燐酸亜鉛カルシウム系、マンガンヒューリオライト、鉄ヒューリオライト等からなる燐酸マンガン系、ストレンナイト、ヘマタイト等からなる燐酸鉄系などの被膜を形成させるために用いる物であり、無機燐酸をはじめ種々の燐酸化合物、キレート剤、中和剤等と混合して処理剤とするのが一般的である。
【0037】
これら燐酸系表面処理剤は、単独もしくはさらに複数で使用することも可能である。燐酸または燐酸化合物の磁性粉末への表面処理は、湿式処理法や乾式処理法によってあらかじめ処理を行った後、100℃前後の加熱処理を併せて行う方がより安定した処理済磁性粉末を得ることができる。
【0038】
シラン系表面処理剤としては、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、チタン系表面処理剤として、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルフォニルチタネート等が挙げられ、さらに、アルミニウム系表面処理剤として、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が代表的なものとして挙げられる。
【0039】
また、磁性粉表面に薄いシリカ膜、または有機シリカ膜を形成することで、樹脂バインダーを混合して得られる樹脂結合型磁石用組成物の流動性や機械強度の改善に寄与する効果も確認できており、必要に応じてこれらの処理を施すこともできる。
【0040】
2.樹脂バインダー
本発明に係る樹脂結合型磁石などの製造に用いられる樹脂バインダーは、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂であれば、硬化剤の種類などは特に限定されない。
特に好適な樹脂バインダーは、(1)ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主成分とし、(2)有機過酸化物を含むものである。この樹脂バインダーには、必要により(3)N−オキシル類化合物や各種添加剤を配合することができる。また、他の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂などを配合することで(4)混合バインダーとすることもできる。
【0041】
(1)ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂
ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂は、特に限定されるものではないが、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましく、その中でも不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂であることが最も好ましい。
【0042】
不飽和ポリエステル樹脂は、成形時に金型内で硬化し、かつ磁性粉末のバインダーとして働くものであれば、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されている不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。この不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、不飽和多塩基酸及び/又は飽和多塩基酸とグリコール類を分子量5000程度以下に予備的に重合させてオリゴマーやプレポリマー化させた主剤に、架橋剤を兼ねるモノマー類、反応を開始させる硬化剤、長期の保存性を確保するための重合防止剤、及びその他の添加剤等から構成される。
【0043】
不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を、また、飽和酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸等が挙げられる。
【0044】
また、グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコール、ペンタエリスリットジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0045】
また、ビニルエステル樹脂も不飽和ポリエステル樹脂と同様、成形時に金型内で硬化し、かつ磁性粉末のバインダーとして働くものであれば、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されているものを用いることができる。
【0046】
ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラックタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物であってもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0047】
さらに、上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられる不飽和一塩基酸としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸等のハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルチミン酸等の飽和一価カルボン酸や、フタル酸等の飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
上記エステル化触媒としては、具体的には、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化リチウム、塩化クロム等の無機塩;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラメチルホスフォニウムクロライド、ジエチルフェニルプロピルホスフォニウムクロライド、トリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ベンジルトリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ジベンジルエチルメチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエステル化触媒は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0049】
(2)有機過酸化物
本発明において、樹脂バインダーの熱硬化性樹脂に配合される有機過酸化物は、一般に、前記のラジカル重合反応を開始させる硬化剤として用いられるものである。
【0050】
有機過酸化物は、単独で使用できるものもあるが、種類によっては、炭化水素溶液類やフタル酸エステル類に希釈した状態、もしくは固形粉末に吸収させた状態で用いることがある。いずれにしても10時間の半減期温度が150℃以下の性質を有する過酸化物を使用するのが望ましく、さらには、同半減期温度が40〜135℃の範囲である過酸化物がより望ましい。10時間の半減期温度が150℃を超えると、磁石粉の保磁力劣化を引き起こす可能性があり好ましくない。10時間半減期温度が、40℃よりも低くなると過酸化物自体の取り扱い性が困難になるばかりでなく、射出成形に用いる金型のスプルー部において組成物が硬化してしまい、生産性に欠ける結果を招く。
【0051】
これらの有機過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるため、規定することはできないが、一般的にはラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部が添加される。0.05重量部よりも少ないと添加効果が現れず、10重量部を超えて添加すると硬化物内での架橋反応が不均一となり所望の機械的強さを得られず好ましくない。
【0052】
これらの有機過酸化物は、単独又は2種以上の混合系で用いることができるが、最終樹脂結合型磁石用組成物の可使時間(ある条件下に保存した組成物を成形体に加工してJISK7214に準拠し機械的強度を測定した場合、保存前の機械的強度に対し80%以下となる保存時間)をより長く確保するために、パーオキシケタール系、又はジアルキル系過酸化物の単独で用いることが、極めて好ましい。
【0053】
(3)N−オキシル類化合物
本発明においては、樹脂結合型磁石用組成物の保管中の可使時間をより長くさせるために、上記の組成・成分に、さらに任意成分としてN−オキシル類化合物を含有することができる。
【0054】
N−オキシル類化合物は、分子鎖末端に、次の一般式(1)、(2)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有する化合物である。
【0055】
【化1】

【0056】
(式中、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を表す)
【0057】
【化2】

【0058】
(式中、X、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、R12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を表す)。
【0059】
N−オキシル類化合物の添加量は、その種類によって効果が大きく異なるため画一的に規定はできないが、一般的にはラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。添加量が0.01重量部より少ない場合は、十分な可使時間を確保できない場合がある。一方、10重量部より多い場合は、成形体の密度の低下や表面の荒れを生じるため望ましくない。
【0060】
これらのN−オキシル類化合物は、単独もしくは2種以上の混合系で用いることもできるが、組成物の可使時間をより長く確保するためには、これらの安定剤の中でも、アルキルラジカルとの反応性を有し、かつアルキルラジカルとの反応後、さらに、パーオキシラジカルとの反応性を有すること、又はパーオキシラジカルとの反応性を有し、かつパーオキシラジカルとの反応後、さらに、アルキルラジカルとの反応性を有することが好ましい。
【0061】
上記N−オキシル類化合物は、含まれるニトロキシラジカルが従来希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末に起因されるレドックス反応によって過酸化物が分解して発生するパーオキシラジカルおよびスチレン等の二重結合が分解して発生するアルキルラジカルを以下のように補足できることから可使時間が延びるものと考えられる。それは、前記ニトロキシラジカルが前記アルキルラジカルと反応し、次にこの際発生した物質がさらに前記パーオキシラジカルと反応し、元のニトロキシラジカルに再生される反応サイクルを作り出すことでスチレンモノマーや不飽和ポリエステル樹脂の重合反応を抑制し、結果的に可使時間を延ばしているものと考えられるからである。
【0062】
(4)混合バインダー
上記樹脂バインダーには、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂や異なる分子量、性状のものを1種または2種以上組み合わせて混合し、混合バインダーとすることができる。
【0063】
ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を原料としたノボラック型やビスフェノール型のビニルエステル樹脂類、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の各反応性樹脂類が挙げられる。
【0064】
混合バインダーを構成する各成分の性状は、例えば常温で液状、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉との均一混合性や成形性から考えると、液状であることが望ましい。
これらのラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主とする最終混合バインダーの粘度は、JIS K7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定されるが、測定温度は、成形温度(成形時のシリンダー温度)にあわせた恒温漕内で測定される。そのときの測定値(動的粘度という)が100mPa・s〜5000mPa・sであるものを用いるのが望ましいが、中でも300mPa・s〜3000mPa・sのものが好ましい。この動的粘度が、100mPa・s未満であると、射出成形時に磁性粉とバインダーの分離現象が生じるため成形できない。また、5000mPa・s超であると著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き射出成形が困難になる。
【0065】
3.樹脂結合型磁石用組成物
本発明に係る樹脂結合型磁石用組成物は、前述の必須成分である磁性粉末と樹脂バインダーに、さらに必要に応じて他の添加剤を配合することにより調製される。
【0066】
ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂バインダーの添加量は、各構成成分を含めた状態で、磁性粉末100重量部に対して、5重量部以上50重量部未満の割合で添加されるが、好ましくは7〜15重量部、さらに、10〜13重量部がより好ましい。樹脂バインダーの添加量が磁性粉末100重量部に対して5重量部よりも少ない場合は、成形時の流動性の低下を招いて、本発明の効果を得ることができない。また、50重量部以上の場合は、磁性粉末の割合が低下し所望の磁気特性が得られない。
【0067】
尚、併用してもよい添加剤としては、例えば、成形性の改善を目的とした、例えばパラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等脂肪酸アミド類、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物を1種もしくは2種以上添加することができる。
【0068】
これらの有機添加物以外にも、必要に応じ、無機充填剤や顔料等を添加しても良い。無機充填剤としては、例えば、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体、ストロンチウムフェライト系、バリウムフェライト系等のフェライト類磁性粉、鉄等の軟磁性粉、タングステン等の密度調整用高比重金属粉、三酸化アンチモン等の難燃剤、酸化チタン等の顔料等が挙げられる。その配合量は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
【0069】
その際、各成分の混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いることにより実施される。
【0070】
このようにして得られた樹脂結合型磁石用組成物の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状、あるいはこれらの混合物の形であるが、取り扱い易さの点で、ペレット状或いは塊状が望ましい。
【0071】
4.樹脂結合型磁石
本発明において、樹脂結合型磁石は、上記樹脂結合型磁石用組成物を、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂の溶融温度で加熱溶融した後、所望の形状に成形して得られるものである。その際、成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されているトランスファー成形法、射出成形法などが採用される。
【0072】
エポキシ樹脂をはじめ、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂などの熱硬化性樹脂を用いて樹脂結合型磁石を得る場合には、これまで圧縮成形法等が採られてきたが、圧縮成形法で得られるのは円筒形、円盤状などをはじめとして一般に単純な形状の物しか得られていない。
【0073】
これに対して、樹脂バインダーとして、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主成分とし有機過酸化物を含み、さらに必要によりN−オキシル類化合物を配合した樹脂結合型磁石用組成物を用いれば、射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、またはトランスファー成形法から選ばれる少なくとも1種の成形法によって、上記圧縮成形法では得られない複雑形状、薄肉形状の成形品を製造できる。
【0074】
上記樹脂結合型磁石用組成物を用いて射出成形を行う場合、混練時の該樹脂結合型磁石用組成物の工程外品や射出成形時のスプルー、ランナー等の製品外樹脂結合型磁石硬化物が発生する。本発明によれば、次に詳述する低温粉砕によって、これら工程外品や製品外樹脂結合型磁石硬化物からも磁性粉末を分離しリサイクルすることが可能となる。
【0075】
5.低温粉砕
本発明において、リサイクル処理の対象になるのは、樹脂結合型磁石用組成物又はそれを成形した樹脂結合型磁石(処理対象物ともいう)であり、工程外品や射出成形時のスプルー、ランナー等の製品外樹脂結合型磁石硬化物も含まれ、かかる工程外品には、硬化前の比較的柔軟性があるものも含まれる。
【0076】
樹脂結合型磁石又はその原料である樹脂結合型磁石用組成物の工程外品や射出成形時のスプルー、ランナー等の製品外樹脂結合型磁石硬化物は、粉砕前に0℃以下、特に−10℃以下の低温にする必要がある。その方法は特に限定されないが、例えば、冷凍機、液体窒素等を用いて冷却する方法がある。0℃以下での保持時間は、処理対象物の種類や冷却条件などによって異なるが、例えば、0.02〜2時間、特に0.1〜1時間であることが好ましい。0.02時間よりも短いと磁性粉末の分離効率が低下し、2時間よりも長いと冷却コストの面で好ましくない。
【0077】
上記処理対象物を予め0℃以下の温度にするのは、熱硬化性樹脂が低温となるほど硬くなることや、硬化物を構成している材料の熱膨張係数(熱硬化性樹脂:2〜4×10−5/℃、磁性粉末:約1.3×10−5/℃)に違いがあり、これらの条件が重なることで粉砕時に磁性粉末に付着した熱硬化性樹脂が剥がれ分離しやすくなると考えられるためである。
【0078】
上記処理対象物の冷却温度が0℃より高いと、熱硬化性樹脂が硬くならず、このため磁性粉末表面から樹脂成分が剥がれにくいため、磁性粉末の分離率は低くなる。そればかりか、温度が高くなるほど、磁気特性も劣化するため好ましくない。
【0079】
上記冷却条件におかれた処理対象物は、次いで粉砕機によって略磁性粉末の大きさになるまで粉砕する。上記と同様な理由により、粉砕時も0℃以下に冷却されていることが必要であり、そのためには、外部から処理対象物を冷却あるいは冷凍できる粉砕装置を用いて粉砕するか、通常の粉砕装置を用いて、−196℃の液体窒素等を被粉砕物にかける等の操作を行いながら粉砕することが望ましい。
【0080】
粉砕手段は、たとえば、衝撃式粉砕機(ハンマー式またはチェーン式)、せん断式粉砕機、切断式粉砕機、圧縮式粉砕機(ロール式、コンベアー式またはスクリュー式、ボールミル、ロッドミル)等である。粉砕機は、単独機種でもよく、2機種以上を用いて行うこともできる。
【0081】
粉砕条件は、粉砕物の平均粒径が磁性粉末の平均粒径よりも2μm小さいか2μm大きい範囲内、特に平均粒径の差が1μm以内となるようすることが望ましい。このような粉砕条件を選択することで、熱硬化性樹脂からの分離率が向上するのみならず、回収された磁性粉末を用いて磁気特性が良好で、かつ機械強度に優れた成形体を得ることができる。粉砕物と磁性粉末との平均粒径の差が2μmを超えると、分離率が低下するか、磁性粉末自身が粉砕されすぎて磁気特性が悪化する。
【0082】
粉砕された上記組成物や硬化物の粉末は、磁性粉末に付着している樹脂成分(熱硬化性樹脂)を分離する必要がある。そのために使用する装置としては、磁気分離装置、静電気分離装置、比重選別装置、浮遊選別装置、遠心分離装置、沈降分離装置、集じん装置等があるが、これらの装置は、単独機種を用いてもよく、2機種以上用いても行うこともできる。
【0083】
例えば、遠心分離装置を用いて、磁性粉末を分離するには、上記粉砕粉末をメチルアルコールやイソプロピルアルコール等の有機溶媒と接触させればよい。接触させる方法には様々な方法があり特に限定されないが、通常は粉砕粉末を有機溶媒と混合し、樹脂成分が実質的に除去されるまで攪拌する。これら有機溶媒の温度は、特に限定されず、必ずしも低温とする必要はない。ただし、150℃よりも高いと磁気特性が低下するので好ましくない。分離に要する時間は、有機溶媒の種類や温度にもよるが、例えば5〜240分、特に10〜120分とすることが好ましい。
【0084】
前記特許文献4をもとに、エチレングリコールとNaOHを含む樹脂結合型磁石分解溶液を作製し、樹脂結合型磁石硬化物を投入し、分解溶液の温度に対して、分解後に得られた上記磁性粉末の磁気特性、特に保磁力について調べた結果を図1に示す。エチレングリコール6ml、NaOH50mgの分解溶液を20℃から200℃まで変化させて、サマリウム−鉄−窒素磁性粉と有機過酸化物を含むラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を用いた樹脂結合型磁石硬化物2gを投入し、分解溶液の溶液温度に対して、分解後に得られた上記磁性粉末の磁気特性、特に保磁力について調べた。
【0085】
図1から、分解溶液の溶液温度が高くなるに従って磁性粉の磁気特性が徐々に低下するが、溶液温度が150℃より高くなると劣化の度合いが大きく、再利用できないことがわかる。なお、分解溶液を150℃より高くすることで分解率が向上するが、分解温度が20℃以下であると磁性粉の磁気特性の劣化はないが、分解率が低下してしまい実用的ではないことを確認している。
【0086】
上記粉砕、分離方法によって得られる磁性粉末は、磁性粉末が80%以上の割合で含まれた粉末である。粉砕条件、分離条件を選択することで、磁性粉末の含有量を85%以上、特に90%以上とすることができる。
【0087】
また、粉砕物からの熱硬化性樹脂の分離率は、80%以上、特に85%以上とすることができる。熱硬化性樹脂の分離率が80%未満であると、得られた磁性粉末の磁気特性が低下し、それを配合した樹脂結合型磁石用組成物の品質が悪化するので好ましくない。
【0088】
上記のようにして得られた磁性粉末を用いれば、磁気特性が良好で、かつ機械強度に優れた樹脂結合型磁石の成形体を得ることができる。この樹脂結合型磁石は、熱変形温度(HDT法)が170℃以上であり、一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合の100〜150℃に比較して高く、熱可塑性樹脂を用いた場合には不可能な肉厚1mm未満の薄肉品を容易に作製できる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
1.材料・成分
(1)磁性粉末 100重量部
・磁粉:Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製 SmFeN合金粉末)、異方性磁場:16.9MA/m、100μm以下の粒径含有率99重量%
(2)有機シランモノマー 0.5重量部(対磁性粉末)
・有機シランモノマー :デシルトリメトキシシラン、(商品名:信越シリコーンKBM3103C)
(3)熱硬化性樹脂(ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂)11重量部(対磁性粉末)
・不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)(商品名:ポリセット2212、日立化成工業(株)製)、25℃における粘度:500mPa・s
(4)硬化剤 0.1重量部(対UP樹脂)
・硬化剤:ジアルキルパーオキサイド系過酸化物[2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペロキシヘキシン−3)](商品名:カヤヘキサYD、化薬アグゾ(株)製)、10時間の半減期を得るための分解温度133℃
(5)N−オキシル類化合物 0.05〜0.5重量部(対UP樹脂)
・化合物:2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル(商品名:アデカスタブ LA−7RD、旭電化(株)製)
【0091】
2.成形品の製造方法及び評価方法
次に各成形品の製造方法、評価方法は、以下の通り実施した。
(1)有機シランモノマーでの表面処理
それぞれの磁性粉100重量部に対して、10重量部のIPA等のアルコール系有機溶媒に表面処理用燐酸化合物(85%のオルト燐酸水溶液)を燐酸添加量が0.16mol/kgとなるように溶解した後、当該処理溶液と磁性粉とをプラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、20℃)し、−760mmHg、120℃の真空オーブン中で24時間乾燥させ、ここで得られた処理済み粉を更にメカノフュージョン(ホソカワミクロン(株)製)にて有機シランモノマーの表面処理を行い、処理済磁性粉を得た。
【0092】
(2)樹脂結合型磁石用組成物の混合及び作製
あらかじめ所定の比率になるよう計量混合しておいた熱硬化性樹脂、硬化剤、N−オキシル類化合物等をそれぞれの磁性粉全量に加え(各重量部)、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、最終組成物を得た。なお、粉砕し樹脂成分を分離した磁性粉末も上記方法にて組成物を得た。
【0093】
(3)射出成形方法
これらのコンパウンドを、インラインスクリュー式またはプランジャー式磁場発生装置付射出成形機にて磁気特性評価用としてφ10mm×7mmの円柱状を、機械強度測定用として長さ15mm×幅8mm×高さ2mmの板状の樹脂結合型磁石をシリンダー温度20℃、金型温度150℃にて1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場中で成形し、得られたこれらの磁石成形品を後述の方法にてそれぞれ評価した。なお、粉砕し樹脂成分を分離した磁性粉末も上記方法にて成形した。
【0094】
(4)各評価方法
・粒度分布測定
磁性粉末および粉砕物の粒度は、Sympatec社製HELOS and RODOS を用い測定した。なお、混合前の磁性粉末の平均粒径は、3.5μmであった。
・磁気特性評価
上記射出成形条件にて得られた樹脂結合型磁石試料の磁気特性を、チオフィー型自記磁束計(東英工業製)にて常温で測定した。
尚、配向度はSMM法、即ち {(成形後の樹脂結合型磁石の磁化)/(磁性粉100%でのVSMにて測定した磁化×成形後の樹脂結合型磁石の磁性粉体積率)×100}で表した。配向度は、90%以上あれば成形品としての磁気特性が十分である。
・機械強さ
上記成形条件にて、別途長さ15mm×幅8mm×高さ2mmの試験片を成形し、得られたこれらの磁石成形品の曲げ強度を、島津製作所(株)製オートグラフを用いて、ヘッドスピード2mm/分とし、常温下で求めた。該曲げ強度は、80MPa以上あれば成形品として機械的強度が十分であることが知られている。
・樹脂成分量測定
樹脂の成分量は、Thermo Finnigan社製FLASH EA 1112型元素分析装置を用い炭素分析測定を行い求め、分離率は、次式により求めた。
【0095】
【数1】

【0096】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
各成分を表1、2に示す所定の割合で用い、上述の手順・方法にて樹脂結合型磁石用組成物および磁石を製造し、性能を評価した。その後、製造した樹脂結合型磁石の硬化物を下記の条件で粉砕し、樹脂の分離率を評価するとともに再生樹脂結合型磁石用組成物を製造し、射出成形して得られた磁石を評価した。その結果を表1、2に示す。
樹脂結合型磁石の硬化物の粉砕は、日本分析工業製凍結粉砕装置JFC−300にて行った。実施例における低温化は、硬化物を−196℃の液体窒素中あるいは−10℃の冷凍庫に入れて行い、その後、粉砕中は粉砕装置内に−196℃の液体窒素を入れ、0℃以下に保持した状態にて粉砕を5〜10min行った。
一方、比較例では、硬化物を冷却せずに常温20℃、又は恒温槽50℃として、粉砕を5〜30min行った。磁性粉末と熱硬化性樹脂成分の分離は、上記方法にて粉砕された試料をあらかじめビーカーに入れておいたメチルアルコール中に試料を入れ、マグネチックスターラーにて常温で60min攪拌して行った。分離後、上澄み液は廃棄処理し、残存した粉砕物をアセトンにて洗浄し再利用粉末とした。
【0097】
(実施例5、比較例5)
硬化していない樹脂結合型磁石用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして同じ条件で低温粉砕した。粉砕物の平均粒径は3.8μm、樹脂成分の分離率は89%であった。また、これを用いて再生樹脂結合型磁石用組成物を製造し、射出成形して実施例1と同様な性能を有する磁石を得ることができた。
硬化していない樹脂結合型磁石用組成物を用いた以外は、比較例1と同様にして同じ条件で粉砕しようとしたが(比較例5)、上記樹脂結合型磁石用組成物は、粘土状であり粉砕することができなかった。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
[評価]
上記の結果、表1(実施例)から、粉砕用硬化物(処理対象物)の温度を−10℃以下として粉砕することで、樹脂成分の分離率が向上することが分かる。得られた磁性粉末を再び樹脂結合型磁石化したところ、初期と同等の特性が得られており再利用が可能であることを示している。
一方、表2(比較例)から、粉砕用硬化物(処理対象物)の温度を20℃以上として粉砕すると、樹脂成分の分離率は、低下することが分かる。得られた磁性粉末を樹脂バインダーと混合し、再び樹脂結合型磁石化したところ磁気特性については、初期値に比較して大きく特性が劣化していることから磁性粉末を再利用できないことを示している。
硬化していない樹脂結合型磁石用組成物を処理対象物として用いた場合も同様であり、それは、実施例5、比較例5によって理解される。したがって、熱硬化性樹脂結合型磁石用組成物および樹脂結合型磁石硬化物から磁性粉末を再利用するためには処理対象物を予め特定温度以下に冷却し、引き続き低温を維持した状態で粉砕する方法が有効であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】分解溶液中での磁性粉末の加熱温度と磁気特性の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含有する磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂とを含む樹脂結合型磁石用組成物、又はそれを用いて得られる樹脂結合型磁石から磁性粉末を分離、回収する方法であって、
まず、処理対象物として上記樹脂結合型磁石用組成物又は樹脂結合型磁石を選定した後、該処理対象物を予め0℃以下に冷却し、引き続き低温を維持しながら粉砕し、その後、得られた粉砕物から樹脂成分が実質的に除去された磁性粉末を分離、回収することを特徴とする磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項2】
前記磁性粉末が、粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂のいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、さらに有機過酸化物を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、さらにN−オキシル類化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項6】
前記処理対象物が、−10℃以下に冷却されることを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項7】
粉砕物の平均粒径は、磁性粉末の平均粒径よりも2μm小さいか又は2μm大きい範囲内にすることを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。
【請求項8】
粉砕物を有機溶媒と接触させることにより、その中に含まれる樹脂成分の少なくとも80%を除去することを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末の分離、回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−128170(P2006−128170A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310675(P2004−310675)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】