説明

磁性粒子およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体

【課題】塗布型磁気記録媒体に適用可能な磁性粒子であって、高い熱的安定性と優れた記録性を兼ね備えた磁性粒子を提供すること。
【解決手段】炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことにより得られた磁性粒子。炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体。前記強磁性粉末が上記磁性粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子およびその製造方法に関するものであり、より詳しくは、磁気記録に好適な磁気特性を有するとともに塗布型磁気記録媒体に使用可能な磁性粒子およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記磁性粒子を含む塗布型磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属粉末が主に用いられてきた。強磁性金属粉末は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
近年、記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには、強磁性金属粉末の改良には限界が見え始めている。これは、強磁性金属粉末は粒子サイズを小さくしていくと熱揺らぎのため超常磁性となってしまい、磁気記録媒体に用いることができなくなるからである。
【0004】
これに対し六方晶フェライト磁性体は、結晶構造に由来する高い結晶磁気異方性を有し熱的安定性に優れるため、微細化しても磁気記録に適した優れた磁気特性を維持することができる。しかし、六方晶フェライト磁性体のように高い結晶磁気異方性を有する磁性体は、スイッチング磁界が増大するため保磁力が高く、記録に大きな外部磁場が必要となり記録性に劣る点が課題である。
【0005】
例えば特許文献1には、六方晶フェライト磁性体の記録性を改良するための手段として、置換型六方晶フェライト粉を水素気流中で還元することが提案されている。特許文献1には、置換型六方晶フェライト粉を水素気流中で還元することにより適度の保磁力を有するとともに高い飽和磁化を有する磁性粉が得られると記載されている。
【0006】
一方、非特許文献1では、非磁性無機物上に気相製膜で形成した硬磁性の磁性層に軟磁性層を交換相互作用が生じるよう積層し、スイッチング磁界を下げる試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2659957号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本応用磁気学会誌29,239-242(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HD用媒体等の金属薄膜磁気記録媒体では、通常、蒸着時の高温に耐え得るガラス基板が支持体として使用されている。これに対し近年、安価な有機物支持体を使用した汎用性に優れた塗布型磁気記録媒体が提案され、ビデオテープ、コンピューターテープ、フレキシブルディスク等として広く用いられている。そこで、これら塗布型磁気記録媒体用の磁性体として六方晶フェライト磁性体を適用するうえで、記録性の改善のために非特許文献1に記載の技術を適用し六方晶フェライト磁性体のスイッチング磁界を下げることが考えられる。しかし上記塗布型媒体において通常使用される非磁性有機物支持体は耐熱性に劣るため、気相製膜時に支持体が高温に晒される非特許文献1に記載の技術を適用することは困難である。また、本願発明者が特許文献1に記載の技術について検討したところ、高い熱的安定性に寄与する六方晶フェライトの結晶構造が還元処理後により損なわれている可能性があることが判明した。
【0010】
かかる状況下、本発明は、塗布型磁気記録媒体に適用可能な磁性粒子であって、高い熱的安定性と優れた記録性を兼ね備えた磁性粒子を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、六方晶フェライト磁性体を炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理することにより、その熱的安定性を維持しつつ保磁力を記録に適した範囲に制御することが可能となることを新たに見出した。この理由を、本願発明者は以下のように推察している。
六方晶フェライト磁性体を炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理すると、六方晶フェライト磁性体の還元に伴い炭化水素が酸化されることにより生成した炭素または炭化物(本発明において、これらをまとめて「炭素成分という」)が磁性体表面に堆積すると考えられる。これら炭素成分が磁性体表面に存在することにより、六方晶フェライト磁性体は内部までは還元されない。この結果、上記還元性雰囲気中で加熱処理した後には、六方晶フェライトをコアとし、その還元物をシェルとするコア/シェル構造が形成されると考えられる。このコア部分とシェル部分は交換結合しているのではないかと推察され、シェル部分が先に外部磁場の変化に対応しスピンの向きが変わり、これによりシェル部分と交換結合したコア部分のスピンの向きを変えることができるため、結果的に磁性粒子としてのスイッチング磁界を下げる(保磁力を下げる)ことができると考えられる。ただし粒子内部までは還元されていないため六方晶フェライトの結晶構造に起因する高い熱的安定性は維持することができる。これにより、高い熱的安定性と優れた記録性を兼ね備えた磁性粒子が得られると、本願発明者は推察している。
これに対し本願発明者が検討したところ、炭化水素ガスを含有しない還元性雰囲気(例えば一酸化炭素含有雰囲気や上記特許文献1に記載されている水素雰囲気)では、還元処理による磁性体の保磁力低下が著しく、高記録密度に適した保磁力を有する磁性体を得ることは困難であった。これは、水素あるいは一酸化炭素は六方晶フェライト磁性体を還元すると自己は酸化され、それぞれ水、二酸化炭素となり系外に出ることから、六方晶フェライト表面に分解生成物を形成し、還元を抑制することがないためと考えている。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0012】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことにより得られた磁性粒子。
[2]230kA/m以上の保磁力を有する六方晶フェライト磁性体に対して前記加熱処理を施すことにより得られた[1]に記載の磁性粒子。
[3]炭素成分を含有する[1]または[2]に記載の磁性粒子。
[4]前記炭素成分はグラファイトである[3]に記載の磁性粒子。
[5]前記還元性雰囲気は、炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁性粒子。
[6]前記炭化水素ガスは、メタンおよびエタンからなる群から選ばれる少なくとも一種である[1]〜[5]のいずれかに記載の磁性粒子。
[7]X線回折分析によりα−Feおよび炭素成分が検出される六方晶フェライト磁性体からなる磁性粒子。
[8]X線回折分析により0.2〜1.0質量%のα−Feが検出される[7]に記載の磁性粒子。
[9]前記炭素成分はグラファイトである[7]または[8]に記載の磁性粒子。
[10]120kA/m以上230kA/m未満の保磁力を有する[1]〜[9]のいずれかに記載の磁性粒子。
[11]磁化の時間減衰の傾きが0.005(1/ln(s))以下となる熱的安定性を有する、[1]〜[10]のいずれかに記載の磁性粒子。
[12]下記減磁率Aと減磁率Bとの差(B−A)が0.0001〜0.001の範囲となる熱的安定性を有する、[1]〜[11]のいずれかに記載の磁性粒子。
減磁率A:温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準として測定される減磁率。
減磁率B:上記減磁率Aを測定した磁性粒子を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した後、上記減磁率測定と同じ方法で測定した減磁率。
[13]磁気記録用磁性粉として使用される、[1]〜[12]のいずれかに記載の磁性粒子。
[14]炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
[15]前記還元性雰囲気は、炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気である[14]に記載の磁性粒子の製造方法。
[16]前記炭化水素ガスは、メタンおよびエタンからなる群から選ばれる少なくとも一種である[14]または[15]に記載の磁性粒子の製造方法。
[17]前記六方晶フェライト磁性体として、230kA/m以上の保磁力を有する六方晶フェライト磁性体を使用する[14]〜[16]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[18]前記加熱処理により、加熱処理前の六方晶フェライト磁性体よりも低い保磁力を有する磁性粒子を得る、[14]〜[17]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[19]前記加熱処理により、120kA/m以上230kA/m未満の保磁力を有する磁性粒子を得る、[14]〜[18]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[20]前記加熱処理を、200〜400℃の範囲の温度で行う[14]〜[19]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
[21]非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が[1]〜[13]のいずれかに記載の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い熱的安定性と記録に適した保磁力を有する、塗布型磁気記録媒体に適用可能な磁性粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、
炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことにより得られた磁性粒子;および、
炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法、
に関する。前述のように、本発明によれば、六方晶フェライト磁性体に対して炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理(以下、当該処理を「還元処理」ともいう)を施すことにより、六方晶フェライト磁性体の熱的安定性を維持しつつ、その記録性を改善することができる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0015】
六方晶フェライト磁性体
炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理を施される六方晶フェライト磁性体は、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等であることができる。具体的には、マグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネートプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもあるが、本発明ではそれらも使用できる。
【0016】
六方晶フェライト磁性体としては、一般に硬磁性体と呼ばれる高い保磁力を有するものを用いることが好ましい。高い保磁力を有する磁性体は、結晶磁気異方性が高く熱的安定性に優れるため、高密度記録化のために微細化しても熱揺らぎによる磁気特性の低下が少ないためである。上記観点から、六方晶フェライト磁性体としては、230kA/m以上の保磁力を有するものを用いることが好ましく、235kA/m以上の保磁力を有するものを用いることがより好ましい。また、一般に入手可能な六方晶フェライト磁性体の保磁力は、通常500kA/m以下程度である。本発明によれば、上記六方晶フェライト磁性体の還元処理を炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で行うことにより、六方晶フェライト磁性体の熱的安定性を損なうことなく、その記録性を改善(保磁力を記録に適した範囲に調整)することができる。
【0017】
高い熱的安定性を得るためには、六方晶フェライト磁性体の結晶磁気異方性定数は、0.75×10-1J/cc(0.75×106erg/cc)以上であることが好ましい。より好ましくは1×10-1J/cc(1×106erg/cc)以上である。結晶磁気異方性が高い方が、磁性粒子を小さくでき、SNR等の電磁変換特性上有利である。一方、前記硬磁性相の結晶磁気異方性定数が、5×10-1J/cc(0.5×107erg/cc)を超えると、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理を施した場合においても保磁力が高く記録性に劣ることがあるため、六方晶フェライト磁性体の結晶磁気異方性定数は、5×10-1J/cc(0.5×107erg/cc)以下であることが好ましい。
【0018】
上記六方晶フェライト磁性体の飽和磁化としては、加熱処理後に得られる磁性粒子の記録性の観点から3.5×10-2〜1.0A・m2/g(35〜1000emu/g)の範囲であることが好ましく、4.0×10-2〜1.0×10-1A・m2/g(40〜100emu/g)の範囲であることがより好ましい。形状としては球形、多面体状等のいずれの形状でも構わない。また、上記六方晶フェライト磁性体の粒子サイズとしては、高密度記録の観点から板径が好ましくは5〜200nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。本発明における粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。また本発明において粒子サイズおよび粒径に関する平均値は、透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した粒子サイズの平均値とする。
【0019】
還元処理
本発明では上記六方晶フェライト磁性体に対して、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理(還元処理)を施す。上記炭化水素としては、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく特に限定されるものではない。具体例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、エチレン、アセチレン等の不飽和炭化水素を挙げることができる。取り扱いの容易性の観点からは、メタンおよびエタンが好ましい。
【0020】
先に説明したように、炭化水素ガスは六方晶フェライト磁性体の還元に伴い酸化され炭素成分を形成すると考えられる。ここで形成された炭素成分が六方晶フェライト磁性体の表面に堆積することが、六方晶フェライト磁性体が内部までは還元されず表層部のみが還元されることに寄与すると考えられる。上記炭化水素ガスによる効果は、前記還元性雰囲気中の炭化水素ガス濃度が、例えば1容量%程度であっても十分得ることができる。また、前記還元性雰囲気は100%炭化水素ガスであってもよい。なお、前記還元性雰囲気中に炭化水素ガス以外にも還元性ガス(例えば水素、一酸化炭素等)が含まれていてもよい。
また、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理を施した後、炭化水素ガス以外の還元性ガス(例えば水素、一酸化炭素等)を含有する雰囲気中で加熱処理を施すことも好ましい対応である。これは、炭化水素で還元を続けると表面に形成される炭素成分の厚みが厚くなり、粒子体積を大きくしてしまうからである。この点から、炭素成分の形成を穏やかに進行させたい場合には前記還元性雰囲気は炭化水素ガスと他のガスとの混合雰囲気であることが好ましい。ここで炭化水素ガスと共存するガスとしては、還元を穏やかに進行させる観点から、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)が好ましい。即ち、前記還元性雰囲気は、炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気であることが好ましい。
【0021】
上記還元処理は、反応炉にガス流入口と排気口を設け、還元性雰囲気ガス気流を常時流入させつつ反応後のガスを排出して行うことが、反応効率の点から好ましい。また、還元処理による副生成物を除去するため、排気ガスをスクラバーで処理することもできる。還元処理時の加熱処理温度は、反応炉内温度として200℃以上とすることが好ましい。炭化水素ガスは、還元性ガスの中では比較的還元力の弱いガスであるが、200℃以上であれば長時間を要することなく六方晶フェライト磁性体表層部の還元を良好に進行させることができる。ただし、過度に加熱処理温度を高くすることは、微粒子の六方晶フェライト磁性体の融着を生じることから好ましくない。還元処理時の粒子の融着を抑制する観点からは、還元処理時の加熱処理温度は400℃以下であることが好ましい。なお、還元性雰囲気中に共存ガスとして酸素分圧を低くした空気または窒素が含まれる場合には、還元処理時の加熱処理温度は1000℃未満とすることが好ましい。これは、酸素分圧を低くした空気および窒素は、1000℃以上の高温では還元剤として働くため、炭化水素ガスを含む雰囲気においても六方晶フェライト磁性体の内部まで還元が進行する場合があるからである。還元処理時間は、還元性雰囲気中の炭化水素ガス濃度等に応じて、所望の磁気特性の磁性粒子が得られるように設定すればよく特に限定されるものではないが、例えば0.1〜5時間程度が好適である。上記還元処理は、上部が開口した反応容器に六方晶フェライト磁性体粉末を入れた状態で反応チャンバー内に配置して行うことができる。この場合、反応容器の底部に位置する六方晶フェライト磁性体を還元性雰囲気に接触させるために容器内の粉末を適宜攪拌することが好ましい。前記した特許第2659957号が開示するように還元剤として水素を用いた場合、還元処理後の粒子は、燃えやすく、不活性ガス中でハンドリングをしなければならず、取り扱いが難しい。これに対し、本発明によれば粒子表面に炭素成分が形成されることから急速酸化を起こすことなく扱うことができる点でも好ましい。なお、ハンドリング性をよりいっそう向上するために上記還元処理後の磁性粒子を酸化処理し、最表面に酸化物層を形成することも、好ましい対応である。酸化処理は、公知の徐酸化処理によって行うことができる。
【0022】
以上の工程により得られた本発明の磁性粒子は、還元処理前の六方晶フェライト磁性体よりも低い保磁力を示すことができる。その保磁力は、好ましくは120kA/m以上230kA/m未満の範囲である。保磁力が低すぎると、隣接記録ビットからの影響で記録を保持しづらくなり、熱的安定性が劣るからである。また、保磁力が高すぎると記録することができなくなるからである。保磁力としては、160kA/m以上230kA/m未満であることがさらに好ましい。なお、前述の通り還元処理前の六方晶フェライト磁性体の保磁力は230kA/m以上であることが好ましく、235kA/mであることがより好ましい。かかる本発明の磁性粒子は、前述の通り炭素成分を、好ましくはその表面に含むことができる。該炭素成分として、後述の実施例ではグラファイトの存在が確認された。
【0023】
なお、後述する実施例に示すように、上記還元処理による磁性粒子の飽和磁化の大きな低下は見られなかった。したがって本発明の磁性粒子の飽和磁化は、原料粒子である六方晶フェライト磁性体の飽和磁化によって調整することができ、3.5×10-2〜1.0A・m2/g(35〜1000emu/g)の範囲であることが好ましく、4.0×10-2〜1.0×10-1A・m2/g(40〜100emu/g)の範囲であることがより好ましい。上記範囲の飽和磁化を有することは、出力的に有利である。
【0024】
本発明の磁性粒子の粒径は、好ましくは5〜200nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。これは、SNR等電磁変換特性上は微粒子であることが好ましいが、小さくしていくと超常磁性を示し、記録に適さなくなるからである。なお、粒径200nm超であれば、上記還元処理を施すことなく記録再生に適した磁気特性を示す磁性粒子も存在する。したがって、本発明の磁性粒子は、そのままでは記録再生に適した粒子を得ることが困難な粒径200nm以下の粒子であることが好ましい。
【0025】
更に本発明によれば、後述の実施例で示すように、X線回折分析によりα−Feおよび炭素成分が検出される六方晶フェライト磁性体からなる磁性粒子も提供される。上記磁性粒子は、実施例で示すようにα−Feおよび炭素成分が検出されない六方晶フェライトと比べて低い保磁力を示すことができ、したがって、六方晶フェライトの結晶構造に起因する高い熱的安定性を保持しつつ、優れた記録性を発揮することができるものである。これは、六方晶フェライトに含まれるFeの中で、主に表層部に存在するFeをα化することが、保磁力調整に寄与しているからと、本発明者は推察している。記録に適した範囲に保磁力を調整する観点から、X線回折により検出されるα−Fe量は0.2〜1.0質量%であることが好ましく、0.3〜0.7質量%であることがより好ましく、0.4〜0.6質量%であることが更に好ましい。また、α−Feとともに炭素成分が検出される磁性粒子は、α化が粒子内部まで進行せず、これが保磁力を記録に適した範囲に制御することに寄与していると、本発明者は推察している。
上記磁性粒子の詳細については、前述の磁性粒子およびその製造方法の説明を参照できる。また、本発明の磁性粒子が有することが望ましい熱的安定性の詳細については、実施例に基づき後述する。
【0026】
本発明の磁性粒子は、優れた記録性と熱的安定性を兼ね備えたものであるため、磁気記録用磁性粉として好適である。また、前述の非特許文献1に記載の技術と異なり支持体上での高温処理を要することなく製造可能であるため、本発明の磁性粒子によれば、磁性粒子を結合剤および溶媒と混合し塗布液として支持体上に塗布することにより磁性層を形成することができる。したがって、本発明の磁性粒子は、塗布型磁気記録媒体への適用に好適である。即ち、本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性粉末が本発明の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体にも関する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と本発明の磁性粒子および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する重層構成の磁気記録媒体であることもでき、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する磁気記録媒体であることもできる。
【0027】
本発明の磁気記録媒体の厚み構成については、非磁性支持体の厚みは、例えば3〜80μm、好ましくは3〜50μm、より好ましくは3〜10μmである。非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0028】
磁性層の厚みは、好ましくは10〜80nm、より好ましくは30〜80nmであり、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化することが好ましい。また、バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0029】
その他の本発明の磁気記録媒体の詳細については、磁気記録媒体に関する公知技術を適用することができる。例えば、磁気記録媒体を構成する材料および成分ならびに磁気記録媒体の作製方法の詳細については、例えば、特開2006−108282号公報段落[0030]〜[0145]および同実施例の記載、ならびに特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0039]、[0068]〜[0116]および同公報の実施例の記載を参照できる。特に、上記磁性粒子を高度に分散させ優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得るためには、特開2007−294084号公報段落[0024]〜[0029]に記載の技術を適用することが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において「部」は、質量部を示す。
【0031】
1.磁性粒子の実施例、比較例
【0032】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
下記表1記載のバリウムフェライト(以下、「BaFe」と記載する。)を反応炉内で、表2記載の還元性雰囲気ガス気流中で加熱処理した。還元処理中、反応炉のガス流入口から還元性雰囲気ガス気流を常時流入させつつ排気口から反応後のガスを排出した。還元性雰囲気ガスとして混合ガスを用いる場合には、炉にガスを供給する前に、表2記載の濃度になるよう混合調整した。反応炉としては、アルバック理工製ゴールドイメージ炉(P810C)を用い、昇温速度150℃/minで表2に示す加熱処理温度まで昇温し、該温度で表2に示す時間加熱処理を行い、その後、降温速度20℃/minで炉内を室温まで冷却し、還元処理後の磁性粒子を窒素ガス気流中で炉から取り出した(CO含有雰囲気およびH2中で還元処理を行った磁性粒子は空気に触れると粒子全体が急速酸化する場合があることから、全試料を同一条件下で取り出すこととした)。炉から取り出した磁性粒子は、上記した急速酸化を防ぐため窒素雰囲気下でアクリル容器に封入して、下記方法で評価した。
【0033】
評価方法
(1)比表面積SBET
表1記載のSBETの測定は、窒素吸着法により行った。
(2)粒子サイズ(TEM観察による平均板径、平均板厚、平均粒子体積)の評価
表1記載の粒子サイズの測定は、HITACHI製の透過型電子顕微鏡(印加電圧200kV)により行った。
(3)磁気特性
原料BaFeおよび実施例1〜3、比較例1〜3で作製した磁性粒子の磁気特性を、玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。結果を表2に示す。
(4)磁化の時間減衰の傾き、活性化体積
原料BaFeおよび実施例1〜3、比較例1で作製した磁性粒子について、超電導電磁石式振動試料型磁力計(玉川製作所製TM−VSM1450−SM型)を用いて、次の手順で、磁気記録媒体の保存時に受ける反磁界相当の反磁界400Oe(≒32kA/m)と600Oe(≒48kA/m)の磁化の時間減衰の傾き、反磁界500Oe(≒40kA/m)での活性化体積を求めた。各測定において、サンプルとしては磁性粉体0.1gを測定ホルダーに圧密したものを用いた。なお、比較例2、3で作製した磁性粒子は、下記表2に示すように保磁力が著しく低く他の磁性粒子と対等に比較することができないため測定対象から除外した。
(i)磁化の時間減衰の傾き
熱揺らぎ磁気余効の場合、磁化の時間減衰においてΔM/(lnt1−lnt2)は一定となる。磁化は磁場によっても変化することから、磁場一定にした後の磁化を時間毎に測定することによって磁化の時間減衰の傾きを求めた。
具体的には、サンプルに40kOe(≒3200kA/m)の外部磁場をかけ、直流消磁した後、磁石を電流値制御とし目標の反磁界を発生させる電流を供給し、目標の反磁界に外部磁場を漸近させた。これは、外部磁場が変動することにより安定化処理がなされ、磁化の時間減衰が見かけ小さくなることを防ぐためである。
磁場が目標値に達した時間を零とし、1分毎に磁化を25分間測定し、磁化の時間減衰の傾きΔM/(lnt1−lnt2)を求めた。結果を表2に示す。なお、表2にはΔM/(lnt1−lnt2)を40kOeの外部磁場における磁化で割り規格化した値を示す。
(ii)活性化体積
200Oe(≒16kA/m)だけ異なる反磁界H1(400Oe)とH2(600Oe)において、それぞれの反磁界で上記(i)と同様の手順で目標の反磁界に達したときから25分後の磁化を求めた。この磁化をそれぞれMBとMEとすると全磁化率Xtot=(MB−ME)/ΔH=(MB−ME)/200となる。
次に可逆磁化率Xrevは、H2から外部磁場を200Oeだけ増加させたときの磁化MFを求め、Xrev=(MF−ME)/ΔH=(MF−ME)/200により求めた。
不可逆磁化率(Xirr)はXirr=Xtot−Xrevにより求めた。
活性化体積(Vact)はVact=kT/(Ms(ΔM/Xirr(lnt1−lnt2))により求めた。ここで、k:ボルツマン定数、T:温度、Ms:サンプルの飽和磁化、である。
以上の工程により、反磁界500Oeにおける活性化体積を求めた。結果を表2に示す。
(5)炭素成分の存在の確認
実施例1〜3、比較例1、2で作製した磁性粒子について、X線回折装置により表面組成分析を行ったところ、実施例1〜3の磁性粒子ではCuKα線で2θ=26.5°にグラファイトに特徴的なピークが見られた。この結果から、実施例1〜3で作製した磁性粒子は、その表面にグラファイトが付着していることが確認できる。これに対し、比較例1、2で作製した磁性粒子では、上記のグラファイトに特徴的なピークは見られなかった。
(6)α−Feの存在の確認および定量
上記(5)で得たX線回折スペクトルの中で、実施例1〜3、比較例2で作製した磁性粒子のX線回折スペクトルでは、CuKα線で2θ=45°のα−Feのピークが見られた。これに対し比較例1で作製した磁性粒子のX線回折スペクトルでは、上記のα−Feのピークは見られなかった。
そこで、市販のα−Fe標準品と原料BaFe粒子を混合したサンプルを、α−Fe混合量を変えて複数作製し、これらサンプルをX線回折装置により分析してα−FeとBaFeのピーク強度の比較から検量線を作成した。得られた検量線を用いて、上記(5)で得たX線回折スペクトルのα−Feのピーク強度から、各磁性粒子に含まれるα−Fe量を定量した。なお、本発明におけるα−Fe量は、上記方法により算出される値をいうものとする。
得られた定量結果を、上記(5)の分析結果とともに表3に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
表2中、還元性ガスであるCOを含む雰囲気中で加熱処理を行った比較例2、還元性ガスである水素ガスからなる雰囲気中比で加熱処理を行った比較例3では、原料BaFeからの保磁力の低下および飽和磁化の低下が顕著である。これは、炭化水素ガスを含まない雰囲気中で還元処理を行ったため、六方晶フェライト磁性体の内部まで還元処理が進行した結果、六方晶フェライト磁性体の結晶構造が変化してしまった(壊れてしまった)からではないかと推察している。一方、不活性ガスである窒素ガスからなる雰囲気中で加熱処理を行った比較例1の磁性粒子は、原料BaFeとほぼ同等の保磁力を示している。このことから、単なる加熱処理では六方晶フェライト磁性体の保磁力を改良することはできないことがわかる。
これに対し、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気ガス気流中で加熱処理を行った実施例1〜3では、得られた磁性粒子の保磁力を記録に適した範囲に制御することができた。また、表3を参照し表2に示す結果について検討すると、X線回折分析によりα−Feおよび炭素成分(グラファイト)の両方が検出される六方晶フェライトが、記録に適した保磁力を有することが確認できる。
磁性粒子の熱的安定性については、前記した方法により測定される磁化の時間減衰の傾きは、磁性粒子の熱的安定性を示す指標である。表2に示したように実施例1〜3の磁性粒子の磁化の時間減衰の傾きが原料BaFeおよび窒素ガスからなる雰囲気中で加熱処理を行った比較例1と同等であったことから、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中での加熱処理によっても、原料BaFeの高い熱的安定性が損なわれず良好に維持されていることが確認できる。磁気記録媒体の磁性層に含まれる磁性粒子が熱的安定性に劣るものであると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、記録された信号が経時的に減衰(磁化減衰)して再生信号の信頼性が低下してしまう。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるためには、記録された信号を大きく減衰させずに保持し得る高い熱的安定性を有する磁性粒子を使用することが求められる。記録の保持性の点からは、上記方法により測定される磁化の時間減衰の傾きが0.005(1/ln(s))以下である磁性粒子が好ましく、0.003(1/ln(s))以下である磁性粒子がより好ましい。上記傾きが小さいほど記録の保持性の点から好ましいため最も好ましい下限値は0.000(1/ln(s))であるが、0.001(1/ln(s))以上であっても、通常の使用環境では実用上十分な記録の保持性を有すると言える。
表2に示す活性化体積は凝集の有無を示す指標であり、仮に凝集を生じているのであれば千の位以上で変化が現れるが、表2に示すように実施例1〜3の活性化体積は原料BaFeおよび窒素ガスからなる雰囲気中で加熱処理を行った比較例1と同等であった。この結果から、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中での加熱処理によって凝集を生じることがなかったことが確認できる。
【0038】
上記の磁化の時間減衰の傾きは、磁性粒子の熱的安定性の指標であるが、温度を上下させることで上記傾きが大きくなることがある。これは、温度を上昇させることにより磁性体内の一部のスピンが反転し、その分、減磁界が増えることによるものと考えられる。温度を上下させることで傾きが大きくなること、即ち熱的安定性が低下することは好ましくない。そこで、長期にわたり高い熱的安定性を有することを評価するために、以下の方法により実施例1〜3の磁性粒子を評価した。以下の方法で測定される減磁率の差(B−A)が好ましくは0.0001〜0.001の範囲、より好ましくは0.0001〜0.0005の範囲であれば、長期にわたり優れた熱的安定性を有し、保存時に温度変化が起こったとしても記録を良好に保持可能であると判断することができる。
測定方法
温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間(外部磁場を−600Oeにしてから20分後)の基準とし、減磁率A(decay rate A)を評価した。
その後、上記減磁率Aを測定した磁性粒子を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度(320K)で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した。その後、上記と同様、温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させた後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準とし、減磁率B(decay rate B)を評価した。
得られた結果を、表4に示す。表4に示すように、実施例1〜3で得られた磁性粒子は、減磁率の差(B−A)が上記好ましい範囲内であったことから、長期にわたり優れた熱的安定性を有することが確認できる。
【0039】
【表4】

【0040】
以上の評価結果から、炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で加熱処理を施すことによって得られた磁性粒子は熱的安定性に優れ、しかも加熱処理前の六方晶フェライト磁性体と同等の微粒子であるため、高密度記録に好適であることが確認できる。また、X線回折分析によりα−Feおよび炭素成分(グラファイト)の両方が検出される六方晶フェライトが、記録に適した保磁力を有し、しかも熱的安定性にも優れることも確認できる。
【0041】
2.磁気記録媒体の実施例、比較例
【0042】
[実施例4、5]
(1)磁性層塗布液処方
表5記載の磁性粒子 100部
ポリウレタン樹脂 15部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=400eq/ton
α−Al23(粒子サイズ0.15μm) 4部
板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 0.5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径:60nm) 0.5部
カーボンブラック(粒子サイズ 20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0043】
(2)非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.15μm
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 15部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂 22部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=200eq/ton
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0044】
(3)バックコ−ト層塗布液処方
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.05部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0045】
(4)各層形成用塗布液の調製
上記処方の磁性層塗布液、非磁性層塗布液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで240分間混練した後、ビ−ズミルで分散した(磁性層塗布液は1440分、非磁性層塗布液は720分、バックコート層塗布液は720時間)。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)をそれぞれ4部加え、更に20分間撹拌混合したあと、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過した。その後、磁性層塗布液に対して、日立ハイテク製 冷却遠心分離機 himac CR−21Dで回転数10000rpnmとして30分間、遠心分離処理を行い、凝集物を除去する分級処理を行った。
【0046】
(5)磁気テープの作製
得られた非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように、厚さ5μmのPEN支持体(WYKO社製HD2000で測定した平均表面粗さRa=1.5nm)上に塗布した後、100℃で乾燥させて非磁性層を形成した。非磁性層を形成した支持体原反に70℃24時間の熱処理を施した後、上記分級処理後の磁性層塗布液を、乾燥後に20nmの厚さとなるように非磁性層上にウェットオンドライ塗布した後、100℃で乾燥させた。磁性層を設けた面と反対の支持体表面に、バックコート層塗布液を塗布、乾燥させて厚さ0.5μmのバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm、温度100℃で表面平滑化処理を行った後、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0047】
[比較例3]
磁性粒子として、上記1.(磁性粒子の実施例、比較例)で用いた原料BaFeを使用した点を除き、実施例4、5と同様の方法で磁気テープを得た。
【0048】
(6)磁気テープの評価
(6−1)保磁力
玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。
(6−2)電磁変換特性(ORC、SNR)
ドラムテスター(相対速度5m/sec)を用いて、以下の方法で電磁変換特性の測定を行った。
1)ORC
Bs=1.6T Gap長0.2μmのライトヘッドを用い、線記録密度275kFCIの信号を記録し、GMRヘッド(Tw幅 3μm、sh−sh=0.18μm)で再生した。このとき、記録電流を変えながら、出力が最大になる電流を最適記録電流(ORC)とした。
2)SNR
上記1)記載の条件下、上記1)で求めた最適記録電流で信号を記録再生し275kFCIの出力と0〜2×275kFCIの積分ノイズの比を測定した。
【0049】
以上の結果を、表5に示す。表5に示すSNRは、比較例3の磁気テープの測定値を基準とした相対値で表した。
【0050】
【表5】

【0051】
先に表2および表4に示したように、実施例2、3の磁性粒子は高い熱的安定性を有するものであった。これら磁性粒子を用いて作製された実施例4、5の磁気テープは、表5に示すように、原料BaFeを用いて作製された比較例3の磁気テープと比べて、より少ない記録電流で高いSNRを示すものであった。
【0052】
以上の結果から、本発明によれば、高い熱的安定性と優れた記録性を兼ね備えた磁性粒子を提供できること、および、かかる磁性粒子を用いることにより高い信頼性と優れた記録性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供できること、が示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の磁性粒子は安価な塗布型磁気記録媒体用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことにより得られた磁性粒子。
【請求項2】
230kA/m以上の保磁力を有する六方晶フェライト磁性体に対して前記加熱処理を施すことにより得られた請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項3】
炭素成分を含有する請求項1または2に記載の磁性粒子。
【請求項4】
前記炭素成分はグラファイトである請求項3に記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記還元性雰囲気は、炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項6】
前記炭化水素ガスは、メタンおよびエタンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項7】
X線回折分析によりα−Feおよび炭素成分が検出される六方晶フェライト磁性体からなる磁性粒子。
【請求項8】
X線回折分析により0.2〜1.0質量%のα−Feが検出される請求項7に記載の磁性粒子。
【請求項9】
前記炭素成分はグラファイトである請求項7または8に記載の磁性粒子。
【請求項10】
120kA/m以上230kA/m未満の保磁力を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項11】
磁化の時間減衰の傾きが0.005(1/ln(s))以下となる熱的安定性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項12】
下記減磁率Aと減磁率Bとの差(B−A)が0.0001〜0.001の範囲となる熱的安定性を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁性粒子。
減磁率A:温度300Kで外部磁場40,000Oe(≒3184kA/m)で磁化を飽和させ、その後、外部磁場を−600Oe(≒−48kA/m)にし、減磁界が600Oe(≒48kA/m)になった時を時間の基準として測定される減磁率。
減磁率B:上記減磁率Aを測定した磁性粒子を昇温速度5℃/分で320Kまで昇温し、該温度で10分間保持した後、降温速度5℃/分で300Kまで降温した後、上記減磁率測定と同じ方法で測定した減磁率。
【請求項13】
磁気記録用磁性粉として使用される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁性粒子。
【請求項14】
炭化水素ガスを含有する還元性雰囲気中で六方晶フェライト磁性体に加熱処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
【請求項15】
前記還元性雰囲気は、炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気である請求項14に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項16】
前記炭化水素ガスは、メタンおよびエタンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項14または15に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項17】
前記六方晶フェライト磁性体として、230kA/m以上の保磁力を有する六方晶フェライト磁性体を使用する請求項14〜16のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項18】
前記加熱処理により、加熱処理前の六方晶フェライト磁性体よりも低い保磁力を有する磁性粒子を得る、請求項14〜17のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項19】
前記加熱処理により、120kA/m以上230kA/m未満の保磁力を有する磁性粒子を得る、請求項14〜18のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項20】
前記加熱処理を、200〜400℃の範囲の温度で行う請求項14〜19のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項21】
非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が請求項1〜13のいずれか1項に記載の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2012−160486(P2012−160486A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9861(P2011−9861)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】