説明

磁性粒子内包ルテニウム触媒

【課題】 反応効率の高い、高選択性の酸化能を有するルテニウム触媒の提供を課題とする。また、本発明は、従来のルテニウム触媒よりもより簡便に回収でき、再利用しやすい触媒の提供も課題とする
【解決手段】 本発明は、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムが担持されてなるルテニウム担持組成物、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体に、ルテニウム化合物を接触させることを特徴とする前記組成物の製造方法、前記組成物を含んでなるルテニウム触媒、該触媒の存在下、酸素とアルコールとを接触させることを特徴とするケトン又はアルデヒドの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムが担持されてなる、ルテニウム担持組成物、該組成物の製造方法、該組成物からなるルテニウム触媒、該触媒を用いたケトン又はアルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムは、水素化反応、酸化反応、脱水素反応等の触媒として、有用なものの一つとして知られている。現在、そのルテニウムを用いた触媒として、ハイドロキシアパタイト等のリン酸配位子にルテニウムを配位させた触媒が知られている(特開2001-246262号)。該触媒は、繰り返し使用することができ、選択的な酸化反応に用いることができるものであるが、その一方で、反応効率が良くないという問題点を有していた。
【特許文献1】特開2001−246262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記状況に鑑み、反応効率の高い、高選択性の酸化能を有するルテニウム触媒の提供を課題とする。また、本発明は、従来のルテニウム触媒よりもより簡便に回収でき、再利用しやすい触媒の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムが担持されてなるルテニウム担持組成物、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体に、ルテニウム化合物を接触させることを特徴とする前記組成物の製造方法、前記組成物を含んでなるルテニウム触媒、該触媒の存在下、酸素とアルコールとを接触させることを特徴とするケトン又はアルデヒドの製造方法に関する。
【0005】
すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムが担持されたルテニウム担持組成物を触媒として例えばアルコール等に用いると、高効率に反応させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明のルテニウム担持組成物及びルテニウム触媒は、従来の触媒と比較して高効率な触媒作用、特に高効率な酸化反応性を有しており、これを用いれば、反応時間の短縮や少量の触媒で多量の生成物を得ることが可能となる。また、該組成物及び触媒は、それ自身が磁性体であるため、鉄等の磁化磁性体を用いることにより容易に回収することができるので、簡便な操作での回収を可能とする。更に、回収後の再利用に於いてもその触媒活性が低下しない有用なものでもある。そして、該組成物及び触媒を、アルコールの酸化反応に用いれば、そのアルコールに対応するケトン化合物、アルデヒド化合物を高効率に製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る磁性粒子としては、磁性を帯びることができる磁性体に由来するものであれば特に限定はされないが、具体的には鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム等の鉄族の遷移金属を含有する磁性体に由来するものが挙げられ、中でも鉄を含有する磁性体に由来するものが好ましい。鉄を含有する磁性体としては、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)等のフェリ磁性体が挙げられるが、中でもマグヘマイトが好ましい。該磁性粒子の粒径としては、通常1nm〜10μm以下、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜10nmである。
【0008】
本発明に係るルテニウムとしては、この分野で用いられているものであれば全て含まれるが、Ru(III)、Ru(IV)、Ru(VIII)由来のものが好ましい。Ru(III)由来の化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム等が挙げられ、Ru(IV)由来の化合物としては、酸化ルテニウム等が挙げられ、Ru(VIII)由来の化合物としては、テトラオキソルテニウム酸塩等が挙げられるが、これらの中でもRu(III)由来の化合物が好ましく、その中でも塩化ルテニウム由来のものが好ましい。
【0009】
本発明に係る、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体(以下、本発明に係る担体と略記する場合がある)としては、上記磁性粒子がその内部に存在し且つその表面にリン酸基を有するものであれば特に限定されないが、具体的にはアパタイト等のリン酸基を有する化合物の内部に磁性粒子を内包させたもの等が挙げられる。アパタイトの具体例としては、フッ素アパタイト、塩化アパタイト、ハイドロキシアパタイト、炭酸アパタイト、シリカアパタイト等が挙げられるが、中でもハイドロキシアパタイトが好ましい。ハイドロキシアパタイトの中でも、Ca10-Z(HPO4)Z(PO4)6-Z(OH)2-Z(但し、0<Z≦1,1.50≦Ca/P<1.67)で表されるものが特に好ましい。上記本発明に係る担体中の磁性粒子の量は、本発明に係る担体1g中通常1〜500mg、好ましくは10〜100mg、より好ましくは20〜100mgである。
【0010】
本発明に係る担体は、リン酸基を有する化合物の内部に磁性粒子を内包させる等の方法により製造されればよく、例えば、リン酸基を有する化合物を合成する際、その系内に磁性粒子を共存させ合成することにより磁性粒子を化合物中に内包させる方法が好ましい。
【0011】
本発明に係る担体を製造する際に用いられる磁性粒子の量は、得られる本発明に係る担体中の磁性粒子の量が、上記の範囲となるように適宜選択されるが、具体的には、本発明に係る担体1g中に通常1〜500mg、好ましくは10〜100mg、より好ましくは20〜100mg添加すればよい。また、上記反応に用いられる反応溶媒としては、メタノール、エタノール、水等が挙げられるが、水が特に好ましい。反応温度は、80〜100℃、好ましくは90〜100℃であり、反応時間は、通常1〜5時間、好ましくは2〜3時間である。
具体的には例えば、ハイドロキシアパタイト中に磁性粒子を内包させる場合には、リン酸水素二アンモニウム、硝酸カルシウム及びマグネタイトを混合反応させ、乾燥、加熱することにより、本発明に係る担体を得ることができる。より詳細に説明すると、以下の如く製造される。
【0012】
即ち、例えば硝酸カルシウム4水和物とリン酸水素ニアンモニウムとをモル比で5:3となるように混合する。一方で、硝酸カルシウム1molに対して三塩化鉄0.01〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.1mol、より好ましくは0.05〜0.1mol、及び硝酸カルシウム1molに対してニ塩化鉄0.005〜0.25mol、好ましくは0.005〜0.05mol、より好ましくは0.025〜0.05molを用い、これら二塩化鉄及び三塩化鉄の混合液を塩基性にして反応させることによりマグネタイトを生成する。該マグネタイトに上記硝酸カルシウム4水和物とリン酸水素二アンモニウムの水溶液を、それぞれ添加し、80〜100℃、好ましくは90〜100℃で通常1〜5時間、好ましくは2〜3時間反応させ、必要であれば更に室温で一晩反応させる。尚、この際の溶媒としては水等が挙げられるが、塩基性であることが好ましく、pH11以上の溶媒がより好ましく、塩基性とする方法としては、例えば通常この分野でなされているような、アンモニア水等を添加する等によりなされればよい。このようにして得られた反応物を濾取、乾燥し、粉砕することにより、本発明に係る担体を得ることができる。尚、濾取、乾燥は通常この分野でなされている方法に基づいてなされればよいが、乾燥は真空乾燥により行うのが好ましく、乾燥時間は1〜20時間、好ましくは5〜10時間である。粉砕後、更に加熱(焼成)すると、マグネタイト(Fe3O4)として担持されている磁性粒子がマグヘマイト(γ-Fe2O3)となるので、より好ましい本発明に係る担体を得ることができる。尚、この際の温度は通常100〜300℃であり、好ましくは200〜300℃であり、加熱時間は通常1〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0013】
本発明のルテニウム担持組成物は、上記本発明に係る担体にルテニウムが担持されているものであればよいが、本発明に係る担体上のリン酸基とルテニウムが化学結合により結合しているものが特に好ましい。該化学結合としては、配位結合、イオン結合、共有結合等が挙げられるが、中でもイオン結合が好ましい。本発明のルテニウム担持組成物中のルテニウムの量は、ルテニウムの効果を奏する量であればよいが、通常本発明のルテニウム担持組成物1g中に0.01〜1mmol、好ましくは0.05〜0.5mmol、より好ましくは0.1〜0.5mmol担持されればよい。
【0014】
本発明のルテニウム担持組成物は、本発明に係る担体にルテニウムを担持させることにより製造されるが、具体的には例えば上記のように得た本発明に係る担体とルテニウム化合物とを接触させ、リン酸基にルテニウムを配位させることにより製造することができる。
【0015】
本発明のルテニウム担持組成物を製造する際に用いられるルテニウム化合物の量は、本発明に係る担体1gに対して通常0.01〜1mmol、好ましくは0.05〜0.5mmol、より好ましくは0.1〜0.5mmolである。また、その際の反応溶媒は水が挙げられる。また、反応温度は、通常10〜30℃、好ましくは20〜30℃であり、反応時間は通常1〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0016】
本発明のルテニウム担持組成物は、具体的には以下のようにして製造される。
【0017】
即ち、上記の如くして得られた本発明に係る担体を水に添加し、本発明に係る担体1gに対して通常0.01〜1mmol、好ましくは0.05〜0.5mmol、より好ましくは0.1〜0.5mmolのルテニウム化合物又は該化合物含有水溶液を添加し、室温で通常1〜5時間、好ましくは2〜4時間反応させ、得られた反応物を濾取、乾燥し、粉砕することにより、本発明のルテニウム担持組成物を得ることができる。尚、濾取、乾燥は通常この分野でなされている方法に基づいてなされればよいが、乾燥は真空乾燥により行うのが好ましく、乾燥時間は1〜20時間、好ましくは5〜10時間である。
上記の如き本発明のルテニウム担持組成物は、磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムを担持させることにより、従来知られているルテニウム触媒と比較して非常に高い効率で酸化反応を行うことができるものである。このような効果は本発明者らが初めて見出したものである。
【0018】
本発明のルテニウム担持触媒は、前記本発明のルテニウム担持組成物を含有するものであれば特に限定されず、特に酸化反応に有用なものとして用いることができる触媒である。
【0019】
本発明のルテニウム担持触媒を用いることで、その酸化反応により、アルコールから対応するケトン又はアルデヒド化合物を効率よく製造することができる。ここで用いられるアルコールは通常この分野で用いられるアルコール並びにヒドロキシル基を有する化合物であれば特に限定されず、本願発明のルテニウム担持触媒は、分子内の嵩高い置換基等の影響により反応性が低下したヒドロキシル基であっても酸化し、ケトン又はアルデヒドとすることができる。尚、以下このようなヒドロキシル基を「立体障害のあるヒドロキシル基」と略記する場合がある。
【0020】
該ケトン又はアルデヒド化合物の製造方法としては、自体公知の方法に準じたものが挙げられ、例えば、本発明のルテニウム担持触媒存在下で、酸素とアルコールとを接触させる方法が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
ケトン又はアルデヒド化合物の製造方法における本発明のルテニウム担持触媒の使用量としては、アルコール1molに対してルテニウム担持触媒中のルテニウムの量として通常0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、より好ましくは1〜10mmol存在させるようにすればよい。また、この際、酸素は、通常1〜10気圧、好ましくは5〜10気圧で存在させればよいが、酸素気流下で反応させるのが好ましく、その場合には、10〜100ml/min、好ましくは50〜100ml/minで酸素を流すとよい。上記反応時の溶媒としては、例えばジクロロメタン、ベンゼン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン等が挙げられるが、中でも、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン等が好ましい。その反応温度は、通常10〜100℃、好ましくは50〜100℃、より好ましくは90〜100℃であり、その反応時間は、通常1〜24時間、好ましくは1〜10時間、好ましくは1〜2時間である。本発明のケトン又はアルデヒド化合物の製造方法を用いれば、温度が低くても目的物を効率よく製造することができるが、温度を高くすることにより又は気圧を高くすることにより、更に高効率での製造が可能となる。
本発明のケトン又はアルデヒド化合物の製造方法は、具体的には、以下のようになされる。即ち、アルコールと、本発明のルテニウム担持触媒のトルエン懸濁液を、通常1〜10気圧、好ましくは5〜10気圧の酸素存在下、好ましくは通常10〜100ml/min、好ましくは50〜100ml/minの酸素気流下で、通常50〜100℃、より好ましくは90〜100℃で通常1〜3時間、好ましくは1〜2時間反応させることによりなされる。尚、ここで用いられる本発明のルテニウム担持触媒の量は、基質であるアルコールのmol数に基づいて上記本発明のルテニウム担持触媒の好ましい使用範囲から適宜選択して決定すればよい。これにより、アルコール中のヒドロキシル基は酸化され、ケトン又はアルデヒドとなる。
【0022】
本発明の触媒は、反応後洗浄することにより繰り返し再利用することができる。具体的には、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム等の磁化磁性体を用いて本発明の触媒がビーカー等の容器に残るようにして反応溶液を取り除き、その後反応で用いた反応溶媒で洗浄し、要すれば更にイオン交換水等で洗浄することにより、再利用できるようになる。このような処理を行うことにより、本発明の触媒は繰り返し使用することができ、その触媒効果は、繰り返し使用しても低下しない。
【0023】
以下に実験例、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1 ルテニウム担持組成物の合成方法
(1)マグヘマイト内包ハイドロキシアパタイト(HAP-γ-Fe2O3)の合成方法
三塩化鉄4水和物368mg(1.85mmol、和光純薬(株)製)とニ塩化鉄6水和物1000mg(3.7mmol、和光純薬(株)製)をフラスコに取り、アルゴン置換を行った。次いで、これにイオン交換水50mlを添加撹拌し、更に25%水酸化アンモニウム溶液10mlを添加し、室温で15分間反応させた(溶液1)。一方、別のフラスコにリン酸水素ニアンモニウム[(NH4)2HPO4]4.40g(33.3mmol、和光純薬(株)製)を取り、これにイオン交換水75mlを添加し、更に25%水酸化アンモニウム溶液14mlを添加して、溶液2を得た。また、さらに別のフラスコに硝酸カルシウム4水和物13.11g(55.5mmol、和光純薬(株)製)を取り、これにイオン交換水60mlを添加し、更に25%水酸化アンモニウム溶液4mlを添加して、溶液3を得た。得られた溶液2及び3を溶液1に滴下した後、90℃で23時間反応させ、更に、室温で一晩放置した。その後、目的物を濾取し、洗浄液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。次いで、一晩真空乾燥し、得られたものを粉砕し、更に、200℃で3時間焼成し、HAP-γ-Fe2O3 5.91gを得た。
(2)ルテニウムを担持したマグヘマイト内包ハイドロキシアパタイト(RuHAP-γ-Fe2O3)の合成方法
上記(1)で得られたHAP-γ-Fe2O3 5.91gおよびイオン交換水500mlをフラスコ内で撹拌した後、塩化ルテニウムn水和物141mg (Ruとして0.591mmol、NE. Chemcat 製)を添加し、室温で3時間反応させた。次いで、目的物を濾取し、洗浄液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。更に、一晩真空乾燥した後、粉砕してRuHAP-γ-Fe2O3 5.36gを得た。
【0025】
実施例2 RuHAP-γ-Fe2O3によるベンジルアルコールの酸化反応
RuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.005mmol;基質であるベンジルアルコールに対して0.5mol%使用。以下、このような場合、0.5mol%のRuHAP-γ-Fe2O3と記載する)のトルエン懸濁液5mlに、酸素気流下(1気圧、50ml/min)、ベンジルアルコール1mmol (108mg、和光純薬(株)製)を加え90℃で1時間撹拌反応させた。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、生成物であるベンズアルデヒドを収率98%で得た。また、本反応の触媒回転効率(TOF)は196であった。尚、TOFは、以下の式より求めた。
TOF = 生成物のモル数(mol) / [ (ルテニウムのモル数(mol) × 反応時間(hr) )
【0026】
実施例3 RuHAP-γ-Fe2O3の再利用によるベンジルアルコールの酸化反応
実施例2で用いたRuHAP-γ-Fe2O3を磁石を用いて回収した後、イオン交換水で洗浄し、再度実施例2と同様の方法によりベンジルアルコールの酸化反応を行った。その結果、収率は97%、TOFは194であり、1回目の酸化反応とほぼ同じ結果をもたらした。即ち、該結果より、本願発明のルテニウム担持触媒は、再利用によってもその効果が低下しないことが分かる。
【0027】
実施例4−13 RuHAP-γ-Fe2O3による各種アルコールの酸化反応
実施例2のベンジルアルコールを表1記載の基質(1mmol)に変え、また、反応時間を表1記載の時間に変更して、各種アルコールの酸化反応を行った。但し、0.5mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.005mmol)のトルエン懸濁液の代わりに、実施例4,8,12及び13においては、1 mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.01mmol) のトルエン懸濁液を用い、実施例9及び10においては、1 mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.01mmol) のα,α,α-トリフルオロトルエン(TFT)懸濁液を用いた。
得られた生成物の収率及びTOFを実施例2と同様に測定した結果を表1に併せて示す。
【0028】
比較例1 RuHAPによるベンジルアルコールの酸化反応
(1) RuHAPの調製
2.67×10-2M の塩化ルテニウム水溶液75ml およびハイドロキシアパタイト 1gをフラスコに入れ、25℃で24時間反応させた。次いで、目的物を濾取し、洗浄液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した後、70℃で7時間、真空乾燥し、RuHAP 971mgを得た。
(2)TOFの測定
実施例2のRuHAP-γ-Fe2O3 の代わりにRuHAPを用いてベンジルアルコールの酸化反応を行った。即ち、16.9mol%のRuHAP(ルテニウム量として0.338mmol)のトルエン懸濁液に、酸素雰囲気下(1気圧)、ベンジルアルコール1mmol (108mg、和光純薬(株)製)を加え80℃で1時間撹拌反応させた。TOFを実施例2で記載した式により求めた。その結果TOFは2であった。
【0029】
比較例2−7 RuHAPによる各種アルコールの酸化反応
実施例5、6、8、11,12,及び13のRuHAP-γ-Fe2O3の代わりにRuHAPを用い、各種アルコールの酸化反応を行った。即ち、アルコールの種類を代えた以外は比較例1と同様の方法により、各種アルコール(1mmol)を酸化反応に付し、そのTOFを求めた。その結果を併せて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から明らかなように、RuHAP-γ-Fe2O3を触媒として用いたアルコールの酸化反応は、多くが収率90%以上、悪くても80%以上であり、高収率で酸化反応が行えることが分かる。また、TOFも、RuHAPと比較して、5〜130倍も向上しており、RuHAP-γ-Fe2O3が非常に高い触媒活性を有していることが分かる。
【0032】
実施例14 立体障害のあるヒドロキシル基を有するアルコールの酸化反応
1mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.01mmol) のトルエン (5ml) 懸濁液に、酸素気流下(1気圧、50ml/min)、3,5-ジベンジルオキシベンジルアルコール 1mmol(320mg、和光純薬(株)製)を加え90℃で5時間撹拌し、反応させた。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、生成物である3,5-ジベンジルオキシベンズアルデヒドの収率は99%以上であった。
【0033】

【0034】
実施例15 立体障害のあるヒドロキシル基を有するアルコールの酸化反応2
2.5mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.025mmol)のトルエン (5ml) 懸濁液に、酸素気流下(1気圧、50ml/min)、コレスタノール1mmol (389mg、和光純薬(株)製)を加え90℃で24時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、生成物であるコレスタノンの収率は99%以上であった。

【0035】
上記実施例14及び15の結果より、本発明のルテニウム担持触媒は、立体障害のあるヒドロキシル基であっても、ほぼ100%の高い収率で酸化することができることが分かる。
【0036】
実施例16−20 室温でのアルコールの酸化反応
1〜4mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.01~0.04mmol) のトルエン懸濁液5mlに、酸素気流下(1気圧、50ml/min)、表2記載の各種アルコール1mmolを加え室温で24時間撹拌し反応させた。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、目的生成物の収率を求めた。
【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果より、本願発明のルテニウム担持触媒を用いれば、高温時の酸化反応に比較して、触媒濃度を上げて長時間反応させる必要があるものの、室温であっても高い収率でアルコールの酸化反応を行うことが出来ることが分かる。
【0039】
実施例21−27 高気圧下でのアルコールの酸化反応
0.5mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.005mmol) のトルエン懸濁液5mlに、表3記載の各種アルコール基質(1mmol)を加え、酸素加圧下(5気圧)、90℃で0.5〜3時間撹拌し、反応させた。但し、0.5mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.005mmol) のトルエン懸濁液の代わりに、実施例22, 26及び27においては、1 mol%のRuHAP-γ-Fe2O3 (ルテニウム量として0.01mmol) を用い、反応液をガスクロマトグラフィーで分析して得た収率、及びTOFを表3に併せて示す。また、参考として、1気圧で酸素を流し、反応時間を代えた以外は同条件で反応を行っている実施例2,4〜8及び13の収率及びTOFを参考として併せて示す。
【0040】
【表3】

【0041】
この結果より、5気圧の酸素気流下での反応は、1気圧の酸素気流下での反応と比較して、約2倍程度高効率に反応が進行することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体にルテニウムが担持されてなる、ルテニウム担持組成物。
【請求項2】
磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体が、磁性粒子を内包するアパタイトである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体が、ハイドロキシアパタイト中に磁性粒子が内包されているものである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体が、リン酸水素アンモニウム、硝酸カルシウム及びマグネタイトを反応させ、乾燥、加熱したものである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
磁性粒子が、マグヘマイトである、請求項1〜4の何れかに記載の組成物。
【請求項6】
磁性粒子を内包し且つリン酸基を有する担体に、ルテニウム化合物を接触させることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の組成物を含んでなる、ルテニウム触媒。
【請求項8】
アルコールの酸化反応用である請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の触媒の存在下、酸素とアルコールとを接触させることを特徴とするケトン又はアルデヒド化合物の製造方法。


【公開番号】特開2008−62215(P2008−62215A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245578(P2006−245578)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会(2006)講演予稿集CD−ROM」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集2」に発表
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】