説明

磁気シールド構造

【課題】構造物の部材の厚さを増加することがなく、対候性、対腐食性などに特別な防護対策を施す必要がない磁気シールド構造を提供する。
【解決手段】間隔を置いて配置した磁気シールド材と、磁気シールド材の間を電気的、磁気的に接続する磁気回路構成材と、コンクリートより構成する。磁気回路構成材は複数の溝を備えた鋼板で構成する。磁気シールド材は、磁気回路構成材の溝内に敷設してあり、コンクリートは磁気回路構成材の溝内の磁気シールド材を埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路周囲に発生する磁場を低減するシールド構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電車線や高圧送電線、電気室、受変電施設などの電力施設から磁場が発生している。
これらの磁場は精密機械や人体に影響を及ぼす場合がある。
そこで上記のような電力施設に接近して磁場の影響を受ける施設では、その低減を図ることが行われている。
そのような磁場の低減のために、例えば天井面、床面、壁面を方向性珪素鋼板で覆うような工法が開発されている。(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−172290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記したような従来の構成では次のような問題点がある。
<1> 本来の構造物の内側の表面や、支持壁に磁気シールド材を取り付ける構造であるから、床や壁、天井の厚みが増加して内部空間の利用範囲が制限される。
<2> 磁気シールド構造の厚さが、利用する側の空間に影響を与えると、他の部材寸法や取り合いの寸法や位置まで変更してしまい、実際の採用が困難となる場合があった。
<3> 例えば床スラブ面に磁気シールド材を積層して敷設する場合に、磁気シールド材の厚さ分だけスラブ厚が増加する。そのため、設計条件の厳しい物件では、磁気シールド対策を実施するためだけに、設計図面を修正せざるを得なくなり、計画全体に影響する場合があった。
<4> 磁気シールド材が構造物の外部に露出している場合に、珪素鋼板などの磁気シールド材は、その表面に空気中の湿気や水分によって錆が生じる恐れがあり、その劣化や剥離を防止するために、特別な防護対策を施す必要がある。
<5> 特に防錆処理は費用が高額であり、磁気シールド材の材料費を上回ることもあり、磁気シールド材に対して高価な防錆対策を行わざるを得なかった。
<6> 磁気シールド材を構造物に取り付けるために、ボルト用の穴あけ、その他の固定作業が必要であり、手数を要する。
【0005】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、磁気シールド材を構造物のコンクリートの内部に埋設することによって、構造物の部材の厚さを増加することがなく、対候性、対腐食性などに特別な防護対策を施す必要がない磁気シールド構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の磁気シールド構造は、送電線、電気室などの電力施設から発生する磁場の影響を受ける位置に設置する磁気シールド構造であって、間隔を置いて配置した磁気シールド材と、磁気シールド材の間を電気的、磁気的に接続する磁気回路構成材と、コンクリートより構成し、磁気回路構成材は複数の溝を備えた鋼板で構成し、磁気シールド材は、磁気回路構成材の溝内に敷設してあり、コンクリートは磁気回路構成材の溝内の磁気シールド材を埋設するように構成した磁気シールド構造を特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明の実施をするための最良の形態について説明する。
【0008】
<1>背景。
本発明は送電線、電気室などの電力施設から発生する磁場の影響を受ける位置に設置する磁気シールド構造である。
本発明の磁気シールド構造の実施例として、電車の軌道上に設置する建築物、特に医療器械や精密機械を設置する建築物に使用した場合について説明する。
ただし本発明の磁気シールド構造は建築物に限定されるものではなく、後述するように複数の溝を形成した磁気回路構成材と磁気シールド材との組み合わせが可能であれば他の用途にも使用することができる。
【0009】
<2>磁気回路構成材2。
本発明では、磁気シールド材1を設置するための基礎部材として磁気回路構成材2を使用する。
磁気回路構成材2は、後述する磁気シールド材1の間を電気的、磁気的に接続することが可能な鋼材で形成し、一定の距離を介した複数の溝21aを形成したものである。
このような磁気回路構成材2を、建築物、その他の構造物の床、あるいは天井、壁に使用する。
磁気回路構成材2の一例として、折り返し鋼板21を床に使用した場合について説明する。
折り返し鋼板21とは、鋼板を繰り返し折り返して形成した建築用の資材であり、デッキプレートと称して市販している。
この折り返し鋼板21の折り返し部分の断面は台形状であり、台形を繰り返し反転させた断面形状の鋼板である。
したがって、折り返し鋼板21には1スパンおきに長い平面状の溝21a部と、同様に長い平面状の峰部とが形成される。
ここで「溝21a」とは磁気回路構成材2である折り返し鋼板21を床材として水平に設置して上から見た場合に、下方へへこんだ溝21aのことであるが、本明細書では折り返し鋼板21を天井部に敷設した場合には上向きにへこんだ部分も「溝21a」と称する。
【0010】
<3>磁気シールド材1
本発明の磁気シールド構造では、磁気回路構成材2である折り返し鋼板21の溝21aの内部に磁気シールド材1を敷設する。
この磁気シールド材1としては、ひろく市販している材料を使用することができる。
特に、透磁率が高く保磁力が小さいものがよく、例えば、珪素鋼板、パーマロイなど、磁性材の磁気シールド材1を使用できる。
本発明に使用する磁気シールド材1は、基本的には長い面状の直方体の板である。
その場合に、磁気シールド材1の幅は溝21aの幅とほぼ同一か、それよりも狭い幅の板体を採用する。
しかしその他に棒状の材料や面状(格子状や網状も含む)の材料を使用することができる。
棒状の磁気シールド材1は、例えば、所定の部材幅の珪素鋼板を重ね合わせて使用する。
なお、棒状の磁気シールド材1とは、部材幅が長さに比して狭く長いものであり、柱状、帯状を含み、その断面形状は、長方形、正方形、三角形、多角形、楕円、円などがある。
磁気シールド材1の幅は、折り返し鋼板21の溝21aの幅とほぼ等しく、あるいはそれよりも狭く形成する。
磁気シールド構造の長さは、溝21aに連続して敷設すればよいから、特に限定されるものではない。
【0011】
<4>磁気シールド材1の設置。
上記の磁気シールド材1を、磁気回路構成材2である折り返し鋼板21の溝21aの内部に位置させる。
ひとつの溝21aと隣接する溝21aは一定の間隔を置いているが、両者の間は磁気回路構成材2によって電気的、磁気的に接続している。
そして磁気シールド材1の幅は、上記したように折り返し鋼板21の溝21aの幅とほぼ同一か、それよりも狭い幅で構成してあるから、簡単な作業によって、電気的、磁気的に接続している各溝21aの内部に敷設、設置することができる。
溝21aの内部に収納するから、折り返し鋼板21で構成する床の厚さが増加することがなく、設計寸法に影響せず、床上の空間を制約することがない。
また溝21aの内部に収納する状態であるから、構造物の外部へ取り付ける場合のように、ボルト用の穴あけ作業などが不要であり、剥離の可能性もない。
なお、図3に示すように、折り返し鋼板21の溝21aの底部だけでなく、それとは離れた位置に磁気シールド材1を配置することもできる。
その場合に網筋を使用し、その網筋に磁気シールド材1を取り付けて配置することもできる。
【0012】
<5>コンクリート3などの打設。
磁気シールド材1を収納した状態の溝21aを含めて、折り返し鋼板21の上にはコンクリート3、モルタルなどを打設する。
すると、溝21a内の磁気シールド材1はコンクリート3などにその周囲を包囲されて外気から遮断される。
したがって磁気シールド材1が劣化することがなく、長期間にわたってメンテナンスフリーで高い耐久性を期待することができる。
従来は珪素鋼板などの磁気シールド材1では防錆処理の工程が必要であったがそのような費用を要する工程が不要となり経済的な施工を行うことができる。
また、磁気シールド材1を折り返し鋼板21の溝21aの底部に敷設すれば、磁気シールド材1の存在が構造上の耐力やコンクリート3のひび割れといった耐久性の問題に影響を与えることない。
なお、図3のように折り返し鋼板21の溝21aの底部に敷設した磁気シールド材1とは別の位置に磁気シールド材1や網筋を配置する場合には、それらはコンクリート3の表面近くに位置することになる。
【0013】
<6>磁気シールド材1の配置方向。
磁気シールド材1として方向性珪素鋼材などの方向性磁気シールド材1を用いる場合には、軽減したい磁場の磁力線と平行になるように磁気シールド材1を敷設することによって、より高い磁気シールド効果を得ることができる。
すなわち折り返し鋼板21の溝21aの方向を軽減したい磁場の磁力線と平行になるように配置し、その内部に磁気シールド材1を配置することになる。
その実施例を図3に示すが、磁気シールド材1の敷設方向、すなわち折り返し鋼板21の溝21aの方向は、電車の電力線の延長方向と直交する方向に配置してある。
【0014】
<7> シールドの効果。
本発明の磁気シールド材1は上記したように間隔を置いて配置してある。
しかし磁気シールド材1を間隔を置いて配置しても、全面シールドと実質上で同等のシールド効果が得られ、かつ磁気シールド材1が大幅に節約できることは公知である。(特開平9−273366号公報。特開平10−46958号公報。特開2000−45650公報。特開2000−214381号公報。特開2002−164686号公報など)
したがって本発明の場合にも、具体的な設計の段階で、磁気シールド材1間の間隔や磁気シールド材1の幅、厚さなどを決定すれば全面シールドした場合と実質上同等のシールド効果が得られ、かつ磁気シールド材1が大幅に節約することができる。
さらに本発明の構造では、単に磁気シールド材1の間に間隔を介在させるだけではなく、隣接する磁気シールド材1の間を磁気回路構成材2によって電気的、磁気的に接続しているので、そのシールド効果はより大きいということができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の磁気シールド構造の実施例の説明図。
【図2】磁気シールド材を磁気回路構成材の溝の底部に設置し、コンクリートを打設した状態の断面図。
【図3】他の実施例の断面図。
【図4】鉄道の軌道の上の建築物に利用した場合の説明図。
【符号の説明】
【0016】
1:磁気シールド材
2:磁気回路構成材
21:折り返し鋼板
21a:溝
3:コンクリート
4:網筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線、電気室などの電力施設から発生する磁場の影響を受ける位置に設置する磁気シールド構造であって、
間隔を置いて配置した磁気シールド材と、
磁気シールド材の間を電気的、磁気的に接続する磁気回路構成材と、
コンクリートより構成し、
磁気回路構成材は複数の溝を備えた鋼板で構成し、
磁気シールド材は、磁気回路構成材の溝内に敷設してあり、
コンクリートは磁気回路構成材の溝内の磁気シールド材を埋設するように構成した、
磁気シールド構造。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気シールド構造において、
磁気回路構成材は、
多数の溝を並行して形成した折り返し鋼板である、
磁気シールド構造。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の磁気シールド構造において、
磁気シールド材として方向性磁気シールド材を用い、
この磁気シールド材は、
軽減したい磁場の磁力線と平行になるように敷設して構成した、
磁気シールド構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁気シールド構造において、
磁気シールド材は、
折り返し鋼板の溝幅とほぼ等しい幅を備えた直方体である、
磁気シールド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144420(P2008−144420A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331006(P2006−331006)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】