磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置
【課題】比較的簡易な構成で高い感度で検出を行うことができる、磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を提供すること。
【解決手段】
損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、コンクリート体に固定される固定ベース21と、この固定ベース21に固定された振動板22と、この振動板22に固定された磁性体23と、コンクリート体における、磁性体23の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサ24とを備える。振動板22の一次固有振動数を、コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくする。
【解決手段】
損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、コンクリート体に固定される固定ベース21と、この固定ベース21に固定された振動板22と、この振動板22に固定された磁性体23と、コンクリート体における、磁性体23の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサ24とを備える。振動板22の一次固有振動数を、コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート体が地震により受けた損傷を、このコンクリート体の地震前後での固有振動数の変化に基づいて評価することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、固定部の内部に複数のばねを配置し、このばねを介して永久磁石を固定し、この永久磁石に対向する位置に磁気センサを配置して構成された加速度センサが開示されている。この加速度センサでは、複数のばねのばね定数を相互に変えることで、あるいは、各ばねを介して固定された永久磁石の質量を相互に変えることで、加速度センサの検出可能な周波数範囲を広範囲にすることができる。
【0004】
また、特許文献2には、角枠状の固定部の内側に板バネ状の可動部を設け、この可動部に重錐体と永久磁石を設け、この永久磁石からの磁界の変化を検出する加速度検出手段を当該永久磁石に対向する位置に配置して構成された加速度センサが開示されている。この加速度センサは、可動部の長さを調整するための調整部を備えており、この調整部を用いて可動部の長さを調整することで、加速度センサの検出可能な周波数範囲を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−64366号公報
【特許文献2】特開平10−319035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら特許文献1又は特許文献2に記載の加速度センサは、いずれも、加速度センサの固有振動数よりも低い範囲を検出範囲としていたので(例えば、特許文献2の図6参照)、高い感度で検出を行うことが現実的には困難であった。すなわち、建築物の固有振動数は10数Hz以下(通常5〜15Hz)であり、この固有振動数を従来の加速度センサで検出するためには、加速度センサの固有振動数を建築物の固有振動数である10数Hzよりも高くすることで、この加速度センサの固有振動数よりも低い範囲に建築物の固有振動数が入るようにする必要がある。しかしながら、加速度センサの固有振動数を10数Hzよりも高くするためには、ばねや可動部の固有振動数を高く設定する必要があり、ばねの数を増やしたり、可動部の長さを短くする必要があり、現実的とは言えなかった。また、仮にこのようにばねや可動部の固有振動数を高く設定できた場合であっても、このように固有振動数を高くする程、加速度センサの感度が低くなるため(再び、特許文献2の図6参照)、高感度での検出を行うことが困難になっていた。
【0007】
また、これら特許文献1又は特許文献2に記載の加速度センサでは、振動によって永久磁石が変位する方向に、磁気センサや加速度検出手段を設けているため、このような加速度センサをコンクリート体の地震時の損傷評価に用いた場合には不具合が生じる可能性が高かった。すなわち、検出感度を高めるためには、永久磁石と磁気センサや加速度検出手段との間隔を極力小さくすることが好ましいが、このように間隔を小さくした場合には、地震に伴う大きな振動によって永久磁石が大きく変位した場合に、この永久磁石が磁気センサや加速度検出手段に接触する可能性があった。一方、接触を回避するために永久磁石と磁気センサや加速度検出手段との間隔を大きくした場合には、検出感度が低下するという問題があった。この問題は、今回の発明の目的のような、建物の低周波固有振動数(30Hz以下、特に10Hz以下)を対象とする場合、加速度に対して変位量が大きくなるので、顕著な問題になる。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、比較的簡易な構成で高い感度で検出を行うことができる、磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、前記コンクリート体に固定される固定ベースと、前記固定ベースに固定された振動板と、前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか一方に固定された磁性体と、前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか他方における、前記磁性体の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサとを備え、前記振動板の一次固有振動数を、前記コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした。
【0010】
また、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板の一次固有振動数を、測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも小さくした。
【0011】
また、請求項3に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板の一次固有振動数を、前記最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくした。
【0012】
また、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記固定ベースに、相互に一次固有振動数が異なる2枚の振動板を相互に間隔を隔てて並設し、前記2枚の振動板の各々に、前記磁性体を固定し、前記固定ベースにおける、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体の磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に、前記磁気センサを固定した。
【0013】
また、請求項5に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に反発されるような極性及び位置に配置した。
【0014】
また、請求項6に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に吸着するような極性及び位置に配置した。
【0015】
また、請求項7に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板に固定された前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方から、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか他方に至る方向を、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方が前記振動板の振動に伴って変位する方向とは異なる方向とした。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、振動板等の一次固有振動数よりも大きな範囲の振動数において周波数解析を行うので、振動板等の固有振動数を従来よりも低く設定することができ、損傷評価装置を簡易に構成することが可能となる。また、振動板等の固有振動数を従来よりも低く設定することができるため、感度の高い範囲で周波数解析を行うことができ、高感度で損傷評価を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、損傷前のコンクリート体の固有振動数より損傷後のコンクリート体の固有振動数が低下した場合においても、このような低下後の固有振動数を所定範囲の固有振動数として予め設定し、この低下後の固有振動数における最小の固有振動数よりも、振動板等の一次固有振動数をさらに小さくしておくことで、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体に対する損傷評価を、確実に行うことが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、振動板等の一次固有振動数を、評価対象とするコンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくしたので、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体に対する損傷評価を、一層余裕を持った振動数範囲で行うことが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体の磁力の変化の合成変化分を磁気センサで検知することで、振動板が1つの場合では検出できなかった、二次固有振動数や三次固有振動数を検知することが可能となり、損傷評価を一層精密に行うことが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体を、相互に反発するような極性及び位置に配置したので、この磁性体の反発力により、2枚の振動板が相互に振動を増大させ、磁気センサ出力を大きくすることが可能となる。
【0021】
また、請求項6に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体を、相互に吸着されるような極性及び位置に配置したので、この磁性体の吸着力により、2枚の振動板が一体的に振動して振動を増大させ、磁気センサ出力を大きくすることが可能となる。
【0022】
また、請求項7に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、磁性体又は磁気センサのいずれか一方から他方に至る方向を、磁性体又は磁気センサの変位方向とは異なる方向としたので、磁性体と磁気センサの間隔を小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体又は磁気センサが地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体と磁気センサが相互に接触することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】周波数とセンサ出力の関係を概念的に示す図である。
【図2】実施の形態1に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を測定対象と共に模式的に示す縦断面図である。
【図3】振動計測ユニットの拡大図である。
【図4】変形例に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図5】損傷評価装置を試験体と共に示す図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図6】厚み約0.5mmの振動体を用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)は、長さ約50mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図、(b)は、長さ約60mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図である。
【図7】厚み約1mmの振動体を用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)は、長さ約50mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図、(b)は、長さ約60mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図である。
【図8】実施の形態2に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図9】変形例に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図10】実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板に2つの磁性体を相互に反発するように配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計の出力の解析結果をそれぞれ示す。
【図11】他の実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板に2つの磁性体を相互に反発するように配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計の出力の解析結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明の各実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念を説明した後、〔II〕各実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念
まず、各実施の形態に共通の基本的概念について説明する。各実施の形態に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置(以下、本装置)は、コンクリート体における損傷の有無や程度を評価するための装置である。
【0026】
(コンクリート体)
本装置の評価対象であるコンクリート体とは、コンクリートを含有するあらゆる構造体を含むものであり、例えば、建築構造物の床スラブ、柱、又は壁を構成するコンクリート体を挙げることができる。
【0027】
(特徴の概要)
各実施の形態に係る本装置の特徴の一つは、概略的に、本装置に設けた振動板の一次固有振動数(振動板のたわみによって求まる一次固有振動数)を、評価対象となるコンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした点にある。図1は、周波数とセンサ出力の関係を概念的に示す図である。例えば、コンクリート体の一次固有振動数が10Hzである場合、本装置の固有振動数を10Hzよりも小さくすることで、この本装置の固有振動数よりも高い範囲にコンクリート体の一次固有振動数が入るようにし、この範囲で周波数解析を行って、コンクリート体の損傷を評価する。このように、振動系の固有振動数を低くすることで、本装置を構成することが容易になると共に、感度の高い検出範囲で検出を行うことができるので検出感度を向上させることが可能になる。なお、ここでいう本装置とは、後述する振動板と、この振動板に固定された磁性体又は磁気センサのいずれか一方とを含む、計測ユニットを意味する。
【0028】
次に、本装置の固有振動数の具体的な設定方法について説明する。まず、損傷前のコンクリート体の一次固有振動数について検討する。コンクリート体の一次固有振動数に影響を与える要素(以下、影響要素)としては、コンクリート体がRC造やSRC造のようないずれの構造であるのか、コンクリート体のスパン割、コンクリート体の厚さ、コンクリート体が大梁や小梁のようないずれの部材であるのか、あるいはコンクリート体の配置を挙げることができる。ただし、通常の建物の場合には、損傷前のコンクリート体の一次固有振動数は、約4〜約30Hz程度の範囲内にあると考えることができる(以下、この約4〜約30Hzの範囲を「損傷前評価対象範囲」と称する)。
【0029】
次に、損傷後のコンクリート体の一次固有振動数について検討する。コンクリート体の一次固有振動数は、損傷を受けることにより低下する。この低下の程度は損傷の程度に応じて異なるが、損傷が激しい場合には、本装置で評価を行うまでもなく、目視等によっても損傷の有無や程度を確認することができるので、このように目視で把握できる程度の損傷については、本装置の評価対象から除外する。一般に、床表面のみに多少の亀裂が入る軽微な損傷では、1次固有振動数には大きな変化はなく、深い亀裂が入るような損傷では、損傷前と比べて2割〜3割程度の低下がみられる。そこで、本装置では、一次固有振動数を2割〜3割低下させる程度の損傷までを評価対象とする。すなわち、本装置では、目視で確認できない場所の損傷が、軽微な損傷なのか、補修が必要な損傷なのかを評価することを目的する。つまり、損傷前評価対象範囲である約4〜約30Hzに対して2割〜3割低下した範囲である、約3〜約21Hzを評価対象範囲に含める(以下、この約3〜約21Hzの範囲を「損傷後評価対象範囲」と称する)。
【0030】
なお、コンクリート体(床スラブ)の剛性kと振動数fとの関係は、下記式(1)で表わされる。このことから、振動数が2割低下した場合には、剛性では4割低下したことになり、コンクリート体としてはかなりの損傷と考えられる。このため、2割〜3割低下させる程度の損傷までを評価することができれば、かなりの損傷を評価できることになり、実用上は十分であると考えられる。
【数1】
【0031】
これら損傷前評価対象範囲と損傷後評価対象範囲の両方を含む範囲として、約3〜約30Hzの範囲を、本装置による評価対象範囲に設定する(以下、この約3〜約30Hzの範囲を「評価対象範囲」と称する。)この評価対象範囲における固有振動数は、特許請求の範囲における「測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数」に対応する。
【0032】
このように評価対象範囲を設定した場合において、本装置の固有振動数を、評価対象範囲の中で最小の固有振動数に合わせることも考えられる。しかしながら、本装置の機械的誤差の可能性等を考慮すると、確実な評価を行うためには、本装置の固有振動数を、評価対象範囲の中で最小の固有振動数よりも、さらに余裕分だけ小さな固有振動数にすることが好ましい(以下、このような余裕分の固有振動数を「余裕振動数」と称する)。この余裕振動数の具体的な範囲は、本装置の機械的誤差を吸収できる範囲とし、例えば、約1〜約2Hzとする。したがって、評価対象範囲が約3〜約30Hzであることを考慮すると、本装置の固有振動数は、例えば、約1Hz程度に設定する。ただし、本装置の機械的誤差等を考慮する必要がなければ、余裕振動数を考慮することなく本装置の固有振動数を決定してもよい。
【0033】
〔II〕各実施の形態の具体的内容
次に、本発明に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置の各実施の形態の具体的内容について説明する。
【0034】
〔実施の形態1〕
まず、実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、損傷評価装置に振動系を1つのみ設けた形態である。
【0035】
(構成)
図2は、実施の形態1に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を測定対象と共に模式的に示す縦断面図である。この図2には、測定対象となるコンクリート体1として床スラブを想定した場合を示している。このコンクリート体1の平面略中央位置には、上面を開放した凹状の収容スペース1aが形成されている。また、コンクリート体1の上方には、このコンクリート体1の上面から数10cmの間を隔てて、フリーアクセスフロア2が配置されている。
【0036】
本装置10は、振動計測ユニット20と解析表示ユニット30を備えて構成されている。振動計測ユニット20は、コンクリート体1の振動を計測するための振動計測手段である。解析表示ユニット30は、振動計測ユニット20にて計測されたコンクリート体1の振動を解析する解析手段であると共に、この解析結果等を表示する表示手段である。
【0037】
ここでは、振動計測ユニット20が、コンクリート体1の収容スペース1aに収容されており、この振動計測ユニット20から引き出された信号線(図示省略)が、コンクリート体1とフリーアクセスフロア2の間に形成された空間部を介して引き回され、解析表示ユニット30に接続されている。図2の例では、コンクリート体1の収容スペース1aに振動計測ユニット20を埋め込み状に収容しており、これらコンクリート体1と振動計測ユニット20が一体に振動するように、これらを一体化している。ただし、必ずしもこのように一体的な埋め込み収容を行う必要はなく、振動計測ユニット20は、少なくともコンクリート体1と一体になって振動するように、コンクリート体1の表面や内部に対して、直接的に又は他の部材を介して間接的に固定されていればよい。特に図2のような構造の場合にはコンクリート体1とフリーアクセスフロア2の間に振動計測ユニット20を配置しても、この振動計測ユニット20がユーザの邪魔にならないので、コンクリート体1の上面に振動計測ユニット20を固定してもよい。また、信号線に変えて無線通信を行うようにしてもよい。
【0038】
(構成−振動計測ユニット)
図3には、振動計測ユニット20の拡大図を示す。この振動計測ユニット20は、固定ベース21、振動板22、磁性体23、及び磁気センサ24を備えて構成されている。
【0039】
固定ベース21は、振動計測ユニット20をコンクリート体1に固定するための固定手段であり、木材やアルミ材等にて形成された箱状体であって、振動板22や磁性体23を内部に収容する収容空間部を有する。特に、図2に示した収容スペース1aに振動計測ユニット20を収容して固定する場合には、コンクリート体1の振動が振動板22に感度よく伝達するように、収容スペース1aの内側形状に合致するように、固定ベース21の外側形状が決定される。なお、図3では、固定ベース21の上面が開放された状態を示しているが、当該上面は閉鎖してもよい。
【0040】
振動板22は、コンクリート体1の振動を磁性体23又は磁気センサ24に伝達する振動伝達手段である。この振動板22は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。この振動板22の具体的な形状は、上述のように設定された振動計測ユニット20の固有振動数を得ることができる限りにおいて、任意の形状とすることができる。本実施の形態では、振動板22は、平面形状を長方形状とする板状の本体部22aと、この本体部の先端(非固定側の端部)において当該本体部に対して略直交するように配置された板状の先端部22bとを、一体に備えて構成されている。また、振動板22の具体的な材質は、上述のように設定された振動計測ユニット20の固有振動数を得ることができる限りにおいて、任意の材質とすることができるが、振動板22自体の磁力変化が検出結果に影響を与えることがないように、振動板22は非磁性体で形成されることが好ましく、例えば、塩化ビニール、チタン、アルミニウム、ステンレス、リン青銅、ゴム、あるいは木材等が用いられている。
【0041】
磁性体23は、振動板22の振動を磁力変化として検知することを可能にするために磁界を発生させる磁界発生手段である。ここでは、磁性体23として永久磁石を用いている。この磁性体23は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、振動板22の先端部22bの側面に、接着剤や固定ネジにより固定されている。
【0042】
磁気センサ24は、磁性体23からの磁力の変化を検知する磁力変化検知手段である。ここでは、磁気センサ24は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁における、非振動時の磁性体23と対向する位置に、接着剤や固定ネジにより固定されている。この磁気センサ24の具体的な種類は任意であるが、例えば、モルファス磁性体にパルス電流を通電することで微小磁界を検知するMIセンサ(Magneto−Impedance Sensor)を利用することができる。このMIセンサは、数nTの感度があり、検出面積が小さく局所の磁場の変化を検出することに適しているため、本願の磁気センサ24として好適である。なお、MIセンサに対する通電は、解析表示ユニット30から信号線を介して行うことができる。あるいは、MRセンサ(強磁性体磁気抵抗素子センサ)を使用してもよい。また、このように磁気センサ24を使用することで、振動計測ユニット20がフリーアクセスフロア2で覆われることでその配置位置が不明になった場合でも、フリーアクセスフロア2の上面にコイルを当てつつ移動し、磁気センサ24からの出力が得られた箇所を見つけることで、振動計測ユニット20の配置を容易に確認することもできる。
【0043】
なお、磁性体23と磁気センサ24は、相互に逆の位置に配置することもでき、振動板22に磁気センサ24を固定すると共に、固定ベース21に磁性体23を固定してもよい。すなわち、固定ベース21と振動板22のいずれか一方に磁性体23を固定し、固定ベース21と振動板22のいずれか他方に磁気センサ24を固定すればよい。ただし、振動板22に磁気センサ24を固定した場合において、磁気センサ24の質量が軽すぎる場合には、振動板22の一次固有振動数が高くなり過ぎる可能性がある。この場合には、振動板22の先端に非磁性体の重りを設けてもよい。
【0044】
また、図3では固定スペースの内部に磁気センサ24を配置した例を示しているが、図4に変形例として示すように、固定スペースの外面における磁性体23に対応する位置に、磁気センサ24を配置してもよい。あるいは、この図4の磁気センサ24を、固定スペースの外面ではなく、コンクリート体1の外面に固定したり、磁力変化が可能な範囲内であればコンクリート体1にその一部又は全部を埋め込んでもよい。
【0045】
また、図3、4の例においては、磁性体23から磁気センサ24に至る方向を、磁性体23の変位方向とは異なる方向としている。つまり、非振動時における振動板22の板面方向の延長線上に磁気センサ24を配置することで、この板面方向と直交する方向(つまり、磁性体23の変位方向)には、磁気センサ24が位置しないようにしている。この配置によれば、変位量の大きい建築物の低周波領域(20Hz以下)の固有振動数であっても、磁性体23と磁気センサ24の間隔を極力小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体23が地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体23と磁気センサ24が相互に接触することを防止できる。
【0046】
(構成−解析表示ユニット)
解析表示ユニット30は、各種のプログラムやデータを記憶する記憶部、各種のデータを表示する表示部、及び各種の制御を行う制御部を備えて構成されている(これらの図示は省略する)。記憶部には、解析プログラムが記憶されており。この解析プログラムを制御部で実行することで、解析処理を実行する。この解析処理では、振動計測ユニット20から信号線を介して取得した出力を解析し、コンクリート体1の損傷を評価する。この解析処理の具体的なロジックとしては公知のロジックを適用することができる。この解析表示ユニット30は、フリーアクセスフロア2の平面最端部に配置され、フリーアクセスフロア2から露出するように設置され、あるいは、フリーアクセスフロア2を構成するパネルを取り外すことで露出するように設置されている。
【0047】
(解析処理)
このような解析処理の例について説明する。例えば、損傷前のコンクリート体1を所定強度かつ所定周波数で加振させ、その際の振動計測ユニット20からの出力をFFT解析することで固有振動数を求め、この固有振動数を記憶部に記憶させておく。その後、地震等にて損傷が発生した可能性がある場合に、当該損傷後のコンクリート体1を損傷前と同じ所定強度かつ所定周波数で加振させ、その際の振動計測ユニット20からの出力をFFT解析することで固有振動数を求め、この固有振動数を、記憶部に記憶させた損傷前の固有振動数と比較することで、固有振動数の低下量を算定する。一方、記憶部には、固有振動数の低下量と、コンクリート体1の損傷の程度との関係を、影響要素が異なるコンクリート体1毎に予め調査して、損傷程度特定テーブルとして記憶させておく。そして、上記算定した固有振動数の低下量と、評価対象となっているコンクリート体1の影響要素とに対応する損傷の程度を、損傷程度特定テーブルを参照して特定し、当該特定した損傷の程度を表示部に表示する。なお、本装置10は、損傷の前後に渡って常に図1のように設定しておいてもよいが、損傷前に設置して加振時のデータを取得した後は、一旦撤去し、損傷後に再度設置してデータを取得してもよい。
【0048】
(実験結果)
次に、実験結果について説明する。図5は、本装置10を試験体と共に示す図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。この実験では、試験体として、長さ約1250mm×幅約400mm×高さ約100mmの鉄筋入りのコンクリート体1(固有振動数fc=66.7Hz)を製作した。一方、振動計測ユニット20は、固定ベース21を、外形が約90mm(内形が約77mm)の正方形の木製箱体として形成し、その側壁外面に2軸MRセンサ(HMC1002、Honeywell社製)をビニールテープで取り付けた。振動板22は、塩化ビニールで製作し、その幅は約20mmとし、長さと厚みが異なるものを計4枚準備して1枚ずつ取り替えて使用した。具体的には、長さ約50mm×厚み約0.5mmのもの(以下、振動板22A)、長さ約60mm×厚み約0.5mmのもの(以下、振動板22B)、長さ約50mm×厚み約1mmのもの(以下、振動板22C)、長さ約60mm×厚み約1mmのもの(以下、振動板22D)を使用した。磁性体23は、直径約20mmの円盤形状の磁石を振動板22A〜22Dの先端にテープで固定した。また比較データを取得するため、圧電型加速度計40(RION社製)を試験体の上面に固定した。そして、試験体の上面を連続的に打撃することで、試験体を加振した時の振動計測ユニット20及び圧電型加速度計40の図示z方向の出力信号をFFT解析した。
【0049】
図6は、厚み約0.5mmの振動体22A、22Bを用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)には、長さ約50mmの振動板22Aを用いた場合の解析結果、(b)には、長さ約60mmの振動板22Bを用いた場合の解析結果をそれぞれ示す。図7は、厚み約1mmの振動体22C、22Dを用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)には、長さ約50mmの振動板22Cを用いた場合の解析結果、(b)には、長さ約60mmの振動板22Dを用いた場合の解析結果をそれぞれ示す。横軸は周波数、右縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)、左縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)をそれぞれ示す。
【0050】
図6に示す解析結果では、試験体の一次固有振動数と考えられる62.5Hzのピークが、長さ約50mmの振動板22Aを使用した際の出力、長さ約60mmの振動板22Bを使用した際の出力、及び圧電型加速度計40からの出力のいずれにおいても顕著に認められており、コンクリート体1の一次固有振動数を検知可能であることが確認できた。なお、62.5Hzのピークの左側に見られる最も高いピークはノイズであると考えられる。また、長さ約60mmの振動板22Bを使用した際の出力には、塩化ビニールの一次固有振動数を考えられる5.8Hzが現れており、長さ約50mmの振動板22Aを使用した際の出力には、その約ルート2倍の8.3Hzが現れている。また、試験体の周辺のファンに起因すると考えられる12.5Hzのピークは、長さ約60mmの振動板22Bの出力より長さ約50mmの振動板22Aの出力に顕著に認められ、このことから、10〜30Hzの周波数帯では、長さ約60mmの振動板22Bの出力より長さ約50mmの振動板22Aの出力の方が、圧電型加速度計40からの出力と一致している。ただし、圧電型加速度計40からの出力における6.8Hzのピークや、拳の打撃ピッチと推測される2.4Hzのピークに関しては、長さ約50mmの振動板22Aの出力より長さ約60mmの振動板22Bの出力の方が、圧電型加速度計40からの出力と一致している。これらのことから、振動板22A、22Bの厚みを約0.5mmとした場合においては、10〜30Hzの周波数帯では、長さ約50mmの振動板22Aを使用することで感度良く振動を計測でき、10Hz以下の周波数帯では、長さ約60mmの振動板22Bを使用することで感度良く振動を計測できることが分かり、さらに、振動板22、22Bの一次固有振動数よりも高い周波数帯で、試験体の振動を感度良く計測できることが確認された。
【0051】
また、図7に示す振動板22C、22Dの厚みを約1mmとした場合の解析結果では、長さ約50mmの振動板22Cの出力と、長さ約60mmの振動板22Dの出力のいずれも、圧電型加速度計40からの出力に対して、図6の場合よりも一致度が低いことが確認された。したがって、振動板22C、22Dの厚みを約1mmとした場合より、振動板22Cの厚みを約0.5mmとしてその一次固有振動数を小さくした方が、試験体の振動を感度良く計測できることが確認された。
【0052】
なお、実際の建築物におけるコンクリート体1は、試験体より長いことが多いため、その一次固有振動数も低くなって、上述の損傷前評価対象範囲に入ると考えられるため、振動板22の一次固有振動数を、上述した評価対象範囲とし、あるいは、評価対象範囲から余裕振動数だけ差し引いた範囲とすることで、実際の建築物におけるコンクリート体1の振動も計測可能であると考えられる。
【0053】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、振動板22の一次固有振動数よりも大きな範囲の振動数において周波数解析を行うので、振動板22の固有振動数を従来よりも低く設定することができ、損傷評価装置10を簡易に構成することが可能となる。また、振動板22の固有振動数を従来よりも低く設定することができるため、感度の高い範囲で周波数解析を行うことができ、高感度で損傷評価を行うことが可能となる。
【0054】
また、損傷前のコンクリート体1の固有振動数より損傷後のコンクリート体1の固有振動数が低下した場合においても、このような低下後の固有振動数を所定範囲の固有振動数として予め設定し、この低下後の固有振動数における最小の固有振動数よりも、振動板22の一次固有振動数をさらに小さくしておくことで、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体1に対する損傷評価を、確実に行うことが可能となる。
【0055】
また、振動板22の一次固有振動数を、評価対象とするコンクリート体1の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくしたので、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体1に対する損傷評価を、一層余裕を持った振動数範囲で行うことが可能となる。
【0056】
また、磁性体23から磁気センサ24に至る方向を、磁性体23の変位方向とは異なる方向としたので、磁性体23と磁気センサ24の間隔を小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体23が地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体23と磁気センサ24が相互に接触することを防止できる。
【0057】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、損傷評価装置に複数の振動系を設けた形態である。ただし、実施の形態2において特に説明なき構成及び手順については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び手順については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0058】
(構成)
図8は、実施の形態2に係る振動計測ユニット20の拡大図である。この振動計測ユニット20は、固定ベース21、2枚の振動板25A、25B、2つの磁性体26A、26B、及び磁気センサ24を備えて構成されている。
【0059】
固定ベース21は、実施の形態1の固定ベース21とほぼ同様に形成されているが、2枚の振動板25A、25Bを収容するため、実施の形態1の固定ベース21より若干大きく形成されることが好ましい。
【0060】
2枚の振動板25A、25Bは、相互に一次固有振動数が異なるものであり、相互に間隔を隔てて並設されている。より具体的には、一方の振動板25Aは、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。また、他方の振動板25Bは、振動板25Aが固定されたのと同じ側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。これら振動板25A、25Bは、いずれも平面形状を長方形状とする板状として形成されており、相互に板面を対向させるように平行状に並設されている。
【0061】
これら2枚の振動板25A、25Bの一次固有振動数を相互に変えるのは、より広い周波数帯での固有振動数の計測を可能にするためである。このように、2枚の振動板25A、25Bの一次固有振動数を相互に変えるための具体的な方法としては、振動板25A、25Bの材質を相互に変える方法、振動板25A、25Bの形状(長さ、幅、あるいは厚み)を相互に変える方法、あるいは、これらの方法を組み合わせる方法を挙げることができ、後述する磁性体の吸着又は反発の条件を満たす限り、これらいずれの方法を採用してもよい。ここでは、振動板25Aをアルミニウムにより長さ約70mmで厚み約0.5mmにて製作し、振動板25Bをチタンにより長さ約60mmで厚み約0.5mmにて製作した。
【0062】
2つの磁性体26A、26Bは、それぞれ基本的には実施の形態1の磁性体23と同様に形成されており、一方の磁性体26Aは振動板25Aに固定され、他方の磁性体26Bは振動板25Bに固定されている。
【0063】
ここで、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bは、相互に反発されるような極性及び位置に配置されている。すなわち、上記のように2枚の振動板25A、25Bの長さを相互に変えることによって、その先端部に固定した磁性体26A、26Bの位置を相互にずらし、磁性体26A、26Bの相互に対向する面をそれぞれ同極(ここではマイナス極)とすることで、磁性体26A、26Bが相互に反発するように配置されている。
【0064】
あるいは、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bは、相互に吸着されるような極性及び位置に配置することもできる。この場合の振動計測ユニット20の拡大図を図9に示す。ここでは、上記のように2枚の振動板25A、25Bの長さを相互に変えることによって、その先端部に固定した磁性体26A、26Bの位置を相互にずらし、磁性体26A、26Bの相互に対向する面をそれぞれ異極(ここでは、磁性体26Aをプラス極と、磁性体26Bをマイナス極)とすることで、磁性体26A、26Bが相互に吸着するように配置されている。
【0065】
磁気センサ24は、実施の形態1の磁気センサ24と同様であるが、ここでは、2つの磁性体26A、26Bの磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に固定されている。具体的には、磁気センサ24は、固定ベース21の外側面において、2つの磁性体26A、26Bの相互の中間位置に対応する位置に配置されている。
【0066】
(実験結果)
次に、実験結果について説明する。最初に、磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した実験の結果を示す。ただし、試験体や振動計測ユニット20の構成や配置については、特記ある場合を除き、図4に示した実験と同じである。ここでは、振動板25Aとして、比較的高い固有振動数のアルミニウム材(ヤング係数=約7×1010(Pa)、密度=約2.7(g/cm3)、幅=約20mm、厚さ=約0.5mm、長さ=約60mm)を使用した。この振動板25Aの一次固有振動数は、先端がたわんだ場合のたわみから計算すると、固有振動数fc=約27Hzである。また、振動板25Bとして、比較的低い固有振動数のチタン材(ヤング係数=約10.64×104(N/mm2)、密度=約4.51(g/cm3)、幅=約20mm、厚さ=約0.5mm、長さ=約70mm)を使用した。この振動板25Bの一次固有振動数は、先端がたわんだ場合のたわみから計算すると、固有振動数fc=約21Hzである。そして、これら振動板25A、25Bの各々の先端に、磁性体26A、26Bとしての磁石を、上記のように相互に反発するように配置した。
【0067】
図10は、この実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板25Aと1つの磁性体26Aのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板25Bと1つの磁性体26Bのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板25A、25Bに2つの磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計40の出力の解析結果をそれぞれ示す。図10(a)〜(c)において、横軸は周波数、縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)であり、図10(d)において、横軸は周波数、縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)である。
【0068】
これら図10(a)〜(d)から分かるように、2つの磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した場合、磁性体26A、26Bが2つになり磁力線が増えた分だけ磁気センサ24の出力が大きくなり、磁性体26A、26Bが1つの場合では検知できなかった振動(例えば、試験体の二次固有振動数であると推定される115Hzのピークや、試験体の三次固有振動数であると推定される182Hzのピーク)が検知可能になる。ただし、後述する2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した場合の実験結果に比べて、振動数は実際の振動数より若干小さくなった。これは、磁性体26A、26Bの相互間の斥力が、バネの役割を果たしたためであると考えられる。
【0069】
次に、磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した実験の結果を示す。特記なき実験条件等については、磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した実験と同じである。
【0070】
図11は、この実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板25Aと1つの磁性体26Aのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板25Bと1つの磁性体26Bのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板25A、25Bに2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計40の出力の解析結果をそれぞれ示す。図11(a)〜(c)において、横軸は周波数、縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)であり、図11(d)において、横軸は周波数、縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)である。
【0071】
これら図11(a)〜(d)から分かるように、2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した場合、これら2つの磁性体26A、26Bの引力により、2枚の振動板25A、25Bを一つのバネ定数をもつ1枚の板バネと見なすことができることに加え、磁性体26A、26Bが2つになり磁力線が増えた分だけ磁気センサの出力が大きくなり、磁性体26A、26Bが1つの場合では検知できなかった振動(例えば、試験体の二次固有振動数であると推定される125Hzのピーク)が検知可能になる。
【0072】
なお、これらの実験で使用したチタン材とアルミニウム材は、一次固有振動数が21Hzと27Hzであり相互に比較的が近かったが、例えば、塩化ビニール材(一次固有振動数=5〜10Hz)とアルミニウム材を組み合わせれば、塩化ビニール材が60Hz程度までの周波数帯、アルミニウム材が100Hz程度までの周波数帯を、それぞれ測定できるので、広い周波数帯での固有振動数計測が可能になる。
【0073】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bの磁力の変化の合成変化分を磁気センサ24で検知することで、振動板25A、25Bが1つの場合では検出できなかった、二次固有振動数や三次固有振動数を検知することが可能となり、損傷評価を一層精密に行うことが可能となる。
【0074】
また、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bを、相互に反発するような極性及び位置に配置したので、この磁性体26A、26Bの反発力により、2枚の振動板25A、25Bが相互に振動を増大させ、磁気センサ24の出力を大きくすることが可能となる。
【0075】
また、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bを、相互に吸着されるような極性及び位置に配置したので、この磁性体26A、26Bの吸着力により、2枚の振動板25A、25Bが一体的に振動して振動を増大させ、磁気センサ24の出力を大きくすることが可能となる。
【0076】
〔III〕各実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0077】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。さらに、本発明によって、上述していない課題を解決したり、上述していない効果を奏することもある。
【0078】
(振動板の数)
実施の形態2では、2枚の振動板25A、25Bを設けた例を示したが、3枚以上の振動板を設け、各々の振動板に磁性体を設けてもよい。また、実施の形態2では、2つの磁性体26A、26Bを相互に反発又は吸着させる場合を説明するため、振動板25A、25Bに磁性体26A、26Bを固定した例のみを説明したが、例えば、2枚の振動板25A、25Bのそれぞれの先端に磁気センサ24を配置すると共に、固定ベース21における磁気センサ24の近傍位置に一つの磁性体26を配置し、これら2つの磁気センサ24からの出力を合成したりその差分を解析してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 コンクリート体
1a 収容スペース
2 フリーアクセスフロア
10 損傷評価装置
20 振動計測ユニット
21 固定ベース
22、22A〜22D、25A、25B 振動板
22a 本体部
22b 先端部
23、26A、26B 磁性体
24 磁気センサ
30 解析表示ユニット
40 圧電型加速度計
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート体が地震により受けた損傷を、このコンクリート体の地震前後での固有振動数の変化に基づいて評価することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、固定部の内部に複数のばねを配置し、このばねを介して永久磁石を固定し、この永久磁石に対向する位置に磁気センサを配置して構成された加速度センサが開示されている。この加速度センサでは、複数のばねのばね定数を相互に変えることで、あるいは、各ばねを介して固定された永久磁石の質量を相互に変えることで、加速度センサの検出可能な周波数範囲を広範囲にすることができる。
【0004】
また、特許文献2には、角枠状の固定部の内側に板バネ状の可動部を設け、この可動部に重錐体と永久磁石を設け、この永久磁石からの磁界の変化を検出する加速度検出手段を当該永久磁石に対向する位置に配置して構成された加速度センサが開示されている。この加速度センサは、可動部の長さを調整するための調整部を備えており、この調整部を用いて可動部の長さを調整することで、加速度センサの検出可能な周波数範囲を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−64366号公報
【特許文献2】特開平10−319035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら特許文献1又は特許文献2に記載の加速度センサは、いずれも、加速度センサの固有振動数よりも低い範囲を検出範囲としていたので(例えば、特許文献2の図6参照)、高い感度で検出を行うことが現実的には困難であった。すなわち、建築物の固有振動数は10数Hz以下(通常5〜15Hz)であり、この固有振動数を従来の加速度センサで検出するためには、加速度センサの固有振動数を建築物の固有振動数である10数Hzよりも高くすることで、この加速度センサの固有振動数よりも低い範囲に建築物の固有振動数が入るようにする必要がある。しかしながら、加速度センサの固有振動数を10数Hzよりも高くするためには、ばねや可動部の固有振動数を高く設定する必要があり、ばねの数を増やしたり、可動部の長さを短くする必要があり、現実的とは言えなかった。また、仮にこのようにばねや可動部の固有振動数を高く設定できた場合であっても、このように固有振動数を高くする程、加速度センサの感度が低くなるため(再び、特許文献2の図6参照)、高感度での検出を行うことが困難になっていた。
【0007】
また、これら特許文献1又は特許文献2に記載の加速度センサでは、振動によって永久磁石が変位する方向に、磁気センサや加速度検出手段を設けているため、このような加速度センサをコンクリート体の地震時の損傷評価に用いた場合には不具合が生じる可能性が高かった。すなわち、検出感度を高めるためには、永久磁石と磁気センサや加速度検出手段との間隔を極力小さくすることが好ましいが、このように間隔を小さくした場合には、地震に伴う大きな振動によって永久磁石が大きく変位した場合に、この永久磁石が磁気センサや加速度検出手段に接触する可能性があった。一方、接触を回避するために永久磁石と磁気センサや加速度検出手段との間隔を大きくした場合には、検出感度が低下するという問題があった。この問題は、今回の発明の目的のような、建物の低周波固有振動数(30Hz以下、特に10Hz以下)を対象とする場合、加速度に対して変位量が大きくなるので、顕著な問題になる。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、比較的簡易な構成で高い感度で検出を行うことができる、磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、前記コンクリート体に固定される固定ベースと、前記固定ベースに固定された振動板と、前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか一方に固定された磁性体と、前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか他方における、前記磁性体の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサとを備え、前記振動板の一次固有振動数を、前記コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした。
【0010】
また、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板の一次固有振動数を、測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも小さくした。
【0011】
また、請求項3に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板の一次固有振動数を、前記最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくした。
【0012】
また、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記固定ベースに、相互に一次固有振動数が異なる2枚の振動板を相互に間隔を隔てて並設し、前記2枚の振動板の各々に、前記磁性体を固定し、前記固定ベースにおける、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体の磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に、前記磁気センサを固定した。
【0013】
また、請求項5に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に反発されるような極性及び位置に配置した。
【0014】
また、請求項6に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に吸着するような極性及び位置に配置した。
【0015】
また、請求項7に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置において、前記振動板に固定された前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方から、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか他方に至る方向を、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方が前記振動板の振動に伴って変位する方向とは異なる方向とした。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、振動板等の一次固有振動数よりも大きな範囲の振動数において周波数解析を行うので、振動板等の固有振動数を従来よりも低く設定することができ、損傷評価装置を簡易に構成することが可能となる。また、振動板等の固有振動数を従来よりも低く設定することができるため、感度の高い範囲で周波数解析を行うことができ、高感度で損傷評価を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、損傷前のコンクリート体の固有振動数より損傷後のコンクリート体の固有振動数が低下した場合においても、このような低下後の固有振動数を所定範囲の固有振動数として予め設定し、この低下後の固有振動数における最小の固有振動数よりも、振動板等の一次固有振動数をさらに小さくしておくことで、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体に対する損傷評価を、確実に行うことが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、振動板等の一次固有振動数を、評価対象とするコンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくしたので、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体に対する損傷評価を、一層余裕を持った振動数範囲で行うことが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体の磁力の変化の合成変化分を磁気センサで検知することで、振動板が1つの場合では検出できなかった、二次固有振動数や三次固有振動数を検知することが可能となり、損傷評価を一層精密に行うことが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体を、相互に反発するような極性及び位置に配置したので、この磁性体の反発力により、2枚の振動板が相互に振動を増大させ、磁気センサ出力を大きくすることが可能となる。
【0021】
また、請求項6に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置によれば、2枚の振動板の各々に固定した磁性体を、相互に吸着されるような極性及び位置に配置したので、この磁性体の吸着力により、2枚の振動板が一体的に振動して振動を増大させ、磁気センサ出力を大きくすることが可能となる。
【0022】
また、請求項7に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置は、磁性体又は磁気センサのいずれか一方から他方に至る方向を、磁性体又は磁気センサの変位方向とは異なる方向としたので、磁性体と磁気センサの間隔を小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体又は磁気センサが地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体と磁気センサが相互に接触することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】周波数とセンサ出力の関係を概念的に示す図である。
【図2】実施の形態1に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を測定対象と共に模式的に示す縦断面図である。
【図3】振動計測ユニットの拡大図である。
【図4】変形例に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図5】損傷評価装置を試験体と共に示す図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図6】厚み約0.5mmの振動体を用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)は、長さ約50mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図、(b)は、長さ約60mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図である。
【図7】厚み約1mmの振動体を用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)は、長さ約50mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図、(b)は、長さ約60mmの振動板を用いた場合の解析結果を示す図である。
【図8】実施の形態2に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図9】変形例に係る振動計測ユニットの拡大図である。
【図10】実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板に2つの磁性体を相互に反発するように配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計の出力の解析結果をそれぞれ示す。
【図11】他の実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板と1つの磁性体のみを配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板に2つの磁性体を相互に反発するように配置した振動計測ユニットの出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計の出力の解析結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明の各実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念を説明した後、〔II〕各実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念
まず、各実施の形態に共通の基本的概念について説明する。各実施の形態に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置(以下、本装置)は、コンクリート体における損傷の有無や程度を評価するための装置である。
【0026】
(コンクリート体)
本装置の評価対象であるコンクリート体とは、コンクリートを含有するあらゆる構造体を含むものであり、例えば、建築構造物の床スラブ、柱、又は壁を構成するコンクリート体を挙げることができる。
【0027】
(特徴の概要)
各実施の形態に係る本装置の特徴の一つは、概略的に、本装置に設けた振動板の一次固有振動数(振動板のたわみによって求まる一次固有振動数)を、評価対象となるコンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした点にある。図1は、周波数とセンサ出力の関係を概念的に示す図である。例えば、コンクリート体の一次固有振動数が10Hzである場合、本装置の固有振動数を10Hzよりも小さくすることで、この本装置の固有振動数よりも高い範囲にコンクリート体の一次固有振動数が入るようにし、この範囲で周波数解析を行って、コンクリート体の損傷を評価する。このように、振動系の固有振動数を低くすることで、本装置を構成することが容易になると共に、感度の高い検出範囲で検出を行うことができるので検出感度を向上させることが可能になる。なお、ここでいう本装置とは、後述する振動板と、この振動板に固定された磁性体又は磁気センサのいずれか一方とを含む、計測ユニットを意味する。
【0028】
次に、本装置の固有振動数の具体的な設定方法について説明する。まず、損傷前のコンクリート体の一次固有振動数について検討する。コンクリート体の一次固有振動数に影響を与える要素(以下、影響要素)としては、コンクリート体がRC造やSRC造のようないずれの構造であるのか、コンクリート体のスパン割、コンクリート体の厚さ、コンクリート体が大梁や小梁のようないずれの部材であるのか、あるいはコンクリート体の配置を挙げることができる。ただし、通常の建物の場合には、損傷前のコンクリート体の一次固有振動数は、約4〜約30Hz程度の範囲内にあると考えることができる(以下、この約4〜約30Hzの範囲を「損傷前評価対象範囲」と称する)。
【0029】
次に、損傷後のコンクリート体の一次固有振動数について検討する。コンクリート体の一次固有振動数は、損傷を受けることにより低下する。この低下の程度は損傷の程度に応じて異なるが、損傷が激しい場合には、本装置で評価を行うまでもなく、目視等によっても損傷の有無や程度を確認することができるので、このように目視で把握できる程度の損傷については、本装置の評価対象から除外する。一般に、床表面のみに多少の亀裂が入る軽微な損傷では、1次固有振動数には大きな変化はなく、深い亀裂が入るような損傷では、損傷前と比べて2割〜3割程度の低下がみられる。そこで、本装置では、一次固有振動数を2割〜3割低下させる程度の損傷までを評価対象とする。すなわち、本装置では、目視で確認できない場所の損傷が、軽微な損傷なのか、補修が必要な損傷なのかを評価することを目的する。つまり、損傷前評価対象範囲である約4〜約30Hzに対して2割〜3割低下した範囲である、約3〜約21Hzを評価対象範囲に含める(以下、この約3〜約21Hzの範囲を「損傷後評価対象範囲」と称する)。
【0030】
なお、コンクリート体(床スラブ)の剛性kと振動数fとの関係は、下記式(1)で表わされる。このことから、振動数が2割低下した場合には、剛性では4割低下したことになり、コンクリート体としてはかなりの損傷と考えられる。このため、2割〜3割低下させる程度の損傷までを評価することができれば、かなりの損傷を評価できることになり、実用上は十分であると考えられる。
【数1】
【0031】
これら損傷前評価対象範囲と損傷後評価対象範囲の両方を含む範囲として、約3〜約30Hzの範囲を、本装置による評価対象範囲に設定する(以下、この約3〜約30Hzの範囲を「評価対象範囲」と称する。)この評価対象範囲における固有振動数は、特許請求の範囲における「測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数」に対応する。
【0032】
このように評価対象範囲を設定した場合において、本装置の固有振動数を、評価対象範囲の中で最小の固有振動数に合わせることも考えられる。しかしながら、本装置の機械的誤差の可能性等を考慮すると、確実な評価を行うためには、本装置の固有振動数を、評価対象範囲の中で最小の固有振動数よりも、さらに余裕分だけ小さな固有振動数にすることが好ましい(以下、このような余裕分の固有振動数を「余裕振動数」と称する)。この余裕振動数の具体的な範囲は、本装置の機械的誤差を吸収できる範囲とし、例えば、約1〜約2Hzとする。したがって、評価対象範囲が約3〜約30Hzであることを考慮すると、本装置の固有振動数は、例えば、約1Hz程度に設定する。ただし、本装置の機械的誤差等を考慮する必要がなければ、余裕振動数を考慮することなく本装置の固有振動数を決定してもよい。
【0033】
〔II〕各実施の形態の具体的内容
次に、本発明に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置の各実施の形態の具体的内容について説明する。
【0034】
〔実施の形態1〕
まず、実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、損傷評価装置に振動系を1つのみ設けた形態である。
【0035】
(構成)
図2は、実施の形態1に係る磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置を測定対象と共に模式的に示す縦断面図である。この図2には、測定対象となるコンクリート体1として床スラブを想定した場合を示している。このコンクリート体1の平面略中央位置には、上面を開放した凹状の収容スペース1aが形成されている。また、コンクリート体1の上方には、このコンクリート体1の上面から数10cmの間を隔てて、フリーアクセスフロア2が配置されている。
【0036】
本装置10は、振動計測ユニット20と解析表示ユニット30を備えて構成されている。振動計測ユニット20は、コンクリート体1の振動を計測するための振動計測手段である。解析表示ユニット30は、振動計測ユニット20にて計測されたコンクリート体1の振動を解析する解析手段であると共に、この解析結果等を表示する表示手段である。
【0037】
ここでは、振動計測ユニット20が、コンクリート体1の収容スペース1aに収容されており、この振動計測ユニット20から引き出された信号線(図示省略)が、コンクリート体1とフリーアクセスフロア2の間に形成された空間部を介して引き回され、解析表示ユニット30に接続されている。図2の例では、コンクリート体1の収容スペース1aに振動計測ユニット20を埋め込み状に収容しており、これらコンクリート体1と振動計測ユニット20が一体に振動するように、これらを一体化している。ただし、必ずしもこのように一体的な埋め込み収容を行う必要はなく、振動計測ユニット20は、少なくともコンクリート体1と一体になって振動するように、コンクリート体1の表面や内部に対して、直接的に又は他の部材を介して間接的に固定されていればよい。特に図2のような構造の場合にはコンクリート体1とフリーアクセスフロア2の間に振動計測ユニット20を配置しても、この振動計測ユニット20がユーザの邪魔にならないので、コンクリート体1の上面に振動計測ユニット20を固定してもよい。また、信号線に変えて無線通信を行うようにしてもよい。
【0038】
(構成−振動計測ユニット)
図3には、振動計測ユニット20の拡大図を示す。この振動計測ユニット20は、固定ベース21、振動板22、磁性体23、及び磁気センサ24を備えて構成されている。
【0039】
固定ベース21は、振動計測ユニット20をコンクリート体1に固定するための固定手段であり、木材やアルミ材等にて形成された箱状体であって、振動板22や磁性体23を内部に収容する収容空間部を有する。特に、図2に示した収容スペース1aに振動計測ユニット20を収容して固定する場合には、コンクリート体1の振動が振動板22に感度よく伝達するように、収容スペース1aの内側形状に合致するように、固定ベース21の外側形状が決定される。なお、図3では、固定ベース21の上面が開放された状態を示しているが、当該上面は閉鎖してもよい。
【0040】
振動板22は、コンクリート体1の振動を磁性体23又は磁気センサ24に伝達する振動伝達手段である。この振動板22は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。この振動板22の具体的な形状は、上述のように設定された振動計測ユニット20の固有振動数を得ることができる限りにおいて、任意の形状とすることができる。本実施の形態では、振動板22は、平面形状を長方形状とする板状の本体部22aと、この本体部の先端(非固定側の端部)において当該本体部に対して略直交するように配置された板状の先端部22bとを、一体に備えて構成されている。また、振動板22の具体的な材質は、上述のように設定された振動計測ユニット20の固有振動数を得ることができる限りにおいて、任意の材質とすることができるが、振動板22自体の磁力変化が検出結果に影響を与えることがないように、振動板22は非磁性体で形成されることが好ましく、例えば、塩化ビニール、チタン、アルミニウム、ステンレス、リン青銅、ゴム、あるいは木材等が用いられている。
【0041】
磁性体23は、振動板22の振動を磁力変化として検知することを可能にするために磁界を発生させる磁界発生手段である。ここでは、磁性体23として永久磁石を用いている。この磁性体23は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、振動板22の先端部22bの側面に、接着剤や固定ネジにより固定されている。
【0042】
磁気センサ24は、磁性体23からの磁力の変化を検知する磁力変化検知手段である。ここでは、磁気センサ24は、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁における、非振動時の磁性体23と対向する位置に、接着剤や固定ネジにより固定されている。この磁気センサ24の具体的な種類は任意であるが、例えば、モルファス磁性体にパルス電流を通電することで微小磁界を検知するMIセンサ(Magneto−Impedance Sensor)を利用することができる。このMIセンサは、数nTの感度があり、検出面積が小さく局所の磁場の変化を検出することに適しているため、本願の磁気センサ24として好適である。なお、MIセンサに対する通電は、解析表示ユニット30から信号線を介して行うことができる。あるいは、MRセンサ(強磁性体磁気抵抗素子センサ)を使用してもよい。また、このように磁気センサ24を使用することで、振動計測ユニット20がフリーアクセスフロア2で覆われることでその配置位置が不明になった場合でも、フリーアクセスフロア2の上面にコイルを当てつつ移動し、磁気センサ24からの出力が得られた箇所を見つけることで、振動計測ユニット20の配置を容易に確認することもできる。
【0043】
なお、磁性体23と磁気センサ24は、相互に逆の位置に配置することもでき、振動板22に磁気センサ24を固定すると共に、固定ベース21に磁性体23を固定してもよい。すなわち、固定ベース21と振動板22のいずれか一方に磁性体23を固定し、固定ベース21と振動板22のいずれか他方に磁気センサ24を固定すればよい。ただし、振動板22に磁気センサ24を固定した場合において、磁気センサ24の質量が軽すぎる場合には、振動板22の一次固有振動数が高くなり過ぎる可能性がある。この場合には、振動板22の先端に非磁性体の重りを設けてもよい。
【0044】
また、図3では固定スペースの内部に磁気センサ24を配置した例を示しているが、図4に変形例として示すように、固定スペースの外面における磁性体23に対応する位置に、磁気センサ24を配置してもよい。あるいは、この図4の磁気センサ24を、固定スペースの外面ではなく、コンクリート体1の外面に固定したり、磁力変化が可能な範囲内であればコンクリート体1にその一部又は全部を埋め込んでもよい。
【0045】
また、図3、4の例においては、磁性体23から磁気センサ24に至る方向を、磁性体23の変位方向とは異なる方向としている。つまり、非振動時における振動板22の板面方向の延長線上に磁気センサ24を配置することで、この板面方向と直交する方向(つまり、磁性体23の変位方向)には、磁気センサ24が位置しないようにしている。この配置によれば、変位量の大きい建築物の低周波領域(20Hz以下)の固有振動数であっても、磁性体23と磁気センサ24の間隔を極力小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体23が地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体23と磁気センサ24が相互に接触することを防止できる。
【0046】
(構成−解析表示ユニット)
解析表示ユニット30は、各種のプログラムやデータを記憶する記憶部、各種のデータを表示する表示部、及び各種の制御を行う制御部を備えて構成されている(これらの図示は省略する)。記憶部には、解析プログラムが記憶されており。この解析プログラムを制御部で実行することで、解析処理を実行する。この解析処理では、振動計測ユニット20から信号線を介して取得した出力を解析し、コンクリート体1の損傷を評価する。この解析処理の具体的なロジックとしては公知のロジックを適用することができる。この解析表示ユニット30は、フリーアクセスフロア2の平面最端部に配置され、フリーアクセスフロア2から露出するように設置され、あるいは、フリーアクセスフロア2を構成するパネルを取り外すことで露出するように設置されている。
【0047】
(解析処理)
このような解析処理の例について説明する。例えば、損傷前のコンクリート体1を所定強度かつ所定周波数で加振させ、その際の振動計測ユニット20からの出力をFFT解析することで固有振動数を求め、この固有振動数を記憶部に記憶させておく。その後、地震等にて損傷が発生した可能性がある場合に、当該損傷後のコンクリート体1を損傷前と同じ所定強度かつ所定周波数で加振させ、その際の振動計測ユニット20からの出力をFFT解析することで固有振動数を求め、この固有振動数を、記憶部に記憶させた損傷前の固有振動数と比較することで、固有振動数の低下量を算定する。一方、記憶部には、固有振動数の低下量と、コンクリート体1の損傷の程度との関係を、影響要素が異なるコンクリート体1毎に予め調査して、損傷程度特定テーブルとして記憶させておく。そして、上記算定した固有振動数の低下量と、評価対象となっているコンクリート体1の影響要素とに対応する損傷の程度を、損傷程度特定テーブルを参照して特定し、当該特定した損傷の程度を表示部に表示する。なお、本装置10は、損傷の前後に渡って常に図1のように設定しておいてもよいが、損傷前に設置して加振時のデータを取得した後は、一旦撤去し、損傷後に再度設置してデータを取得してもよい。
【0048】
(実験結果)
次に、実験結果について説明する。図5は、本装置10を試験体と共に示す図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。この実験では、試験体として、長さ約1250mm×幅約400mm×高さ約100mmの鉄筋入りのコンクリート体1(固有振動数fc=66.7Hz)を製作した。一方、振動計測ユニット20は、固定ベース21を、外形が約90mm(内形が約77mm)の正方形の木製箱体として形成し、その側壁外面に2軸MRセンサ(HMC1002、Honeywell社製)をビニールテープで取り付けた。振動板22は、塩化ビニールで製作し、その幅は約20mmとし、長さと厚みが異なるものを計4枚準備して1枚ずつ取り替えて使用した。具体的には、長さ約50mm×厚み約0.5mmのもの(以下、振動板22A)、長さ約60mm×厚み約0.5mmのもの(以下、振動板22B)、長さ約50mm×厚み約1mmのもの(以下、振動板22C)、長さ約60mm×厚み約1mmのもの(以下、振動板22D)を使用した。磁性体23は、直径約20mmの円盤形状の磁石を振動板22A〜22Dの先端にテープで固定した。また比較データを取得するため、圧電型加速度計40(RION社製)を試験体の上面に固定した。そして、試験体の上面を連続的に打撃することで、試験体を加振した時の振動計測ユニット20及び圧電型加速度計40の図示z方向の出力信号をFFT解析した。
【0049】
図6は、厚み約0.5mmの振動体22A、22Bを用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)には、長さ約50mmの振動板22Aを用いた場合の解析結果、(b)には、長さ約60mmの振動板22Bを用いた場合の解析結果をそれぞれ示す。図7は、厚み約1mmの振動体22C、22Dを用いた場合の解析結果を示す図であり、(a)には、長さ約50mmの振動板22Cを用いた場合の解析結果、(b)には、長さ約60mmの振動板22Dを用いた場合の解析結果をそれぞれ示す。横軸は周波数、右縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)、左縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)をそれぞれ示す。
【0050】
図6に示す解析結果では、試験体の一次固有振動数と考えられる62.5Hzのピークが、長さ約50mmの振動板22Aを使用した際の出力、長さ約60mmの振動板22Bを使用した際の出力、及び圧電型加速度計40からの出力のいずれにおいても顕著に認められており、コンクリート体1の一次固有振動数を検知可能であることが確認できた。なお、62.5Hzのピークの左側に見られる最も高いピークはノイズであると考えられる。また、長さ約60mmの振動板22Bを使用した際の出力には、塩化ビニールの一次固有振動数を考えられる5.8Hzが現れており、長さ約50mmの振動板22Aを使用した際の出力には、その約ルート2倍の8.3Hzが現れている。また、試験体の周辺のファンに起因すると考えられる12.5Hzのピークは、長さ約60mmの振動板22Bの出力より長さ約50mmの振動板22Aの出力に顕著に認められ、このことから、10〜30Hzの周波数帯では、長さ約60mmの振動板22Bの出力より長さ約50mmの振動板22Aの出力の方が、圧電型加速度計40からの出力と一致している。ただし、圧電型加速度計40からの出力における6.8Hzのピークや、拳の打撃ピッチと推測される2.4Hzのピークに関しては、長さ約50mmの振動板22Aの出力より長さ約60mmの振動板22Bの出力の方が、圧電型加速度計40からの出力と一致している。これらのことから、振動板22A、22Bの厚みを約0.5mmとした場合においては、10〜30Hzの周波数帯では、長さ約50mmの振動板22Aを使用することで感度良く振動を計測でき、10Hz以下の周波数帯では、長さ約60mmの振動板22Bを使用することで感度良く振動を計測できることが分かり、さらに、振動板22、22Bの一次固有振動数よりも高い周波数帯で、試験体の振動を感度良く計測できることが確認された。
【0051】
また、図7に示す振動板22C、22Dの厚みを約1mmとした場合の解析結果では、長さ約50mmの振動板22Cの出力と、長さ約60mmの振動板22Dの出力のいずれも、圧電型加速度計40からの出力に対して、図6の場合よりも一致度が低いことが確認された。したがって、振動板22C、22Dの厚みを約1mmとした場合より、振動板22Cの厚みを約0.5mmとしてその一次固有振動数を小さくした方が、試験体の振動を感度良く計測できることが確認された。
【0052】
なお、実際の建築物におけるコンクリート体1は、試験体より長いことが多いため、その一次固有振動数も低くなって、上述の損傷前評価対象範囲に入ると考えられるため、振動板22の一次固有振動数を、上述した評価対象範囲とし、あるいは、評価対象範囲から余裕振動数だけ差し引いた範囲とすることで、実際の建築物におけるコンクリート体1の振動も計測可能であると考えられる。
【0053】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、振動板22の一次固有振動数よりも大きな範囲の振動数において周波数解析を行うので、振動板22の固有振動数を従来よりも低く設定することができ、損傷評価装置10を簡易に構成することが可能となる。また、振動板22の固有振動数を従来よりも低く設定することができるため、感度の高い範囲で周波数解析を行うことができ、高感度で損傷評価を行うことが可能となる。
【0054】
また、損傷前のコンクリート体1の固有振動数より損傷後のコンクリート体1の固有振動数が低下した場合においても、このような低下後の固有振動数を所定範囲の固有振動数として予め設定し、この低下後の固有振動数における最小の固有振動数よりも、振動板22の一次固有振動数をさらに小さくしておくことで、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体1に対する損傷評価を、確実に行うことが可能となる。
【0055】
また、振動板22の一次固有振動数を、評価対象とするコンクリート体1の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくしたので、損傷により固有振動数が低下したコンクリート体1に対する損傷評価を、一層余裕を持った振動数範囲で行うことが可能となる。
【0056】
また、磁性体23から磁気センサ24に至る方向を、磁性体23の変位方向とは異なる方向としたので、磁性体23と磁気センサ24の間隔を小さくして検出感度を高めることができ、この場合において、磁性体23が地震の振動によって大きく変位した場合であっても、これら磁性体23と磁気センサ24が相互に接触することを防止できる。
【0057】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、損傷評価装置に複数の振動系を設けた形態である。ただし、実施の形態2において特に説明なき構成及び手順については実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成及び手順については、必要に応じて、実施の形態1で使用したものと同じ符号を付することでその説明を省略する。
【0058】
(構成)
図8は、実施の形態2に係る振動計測ユニット20の拡大図である。この振動計測ユニット20は、固定ベース21、2枚の振動板25A、25B、2つの磁性体26A、26B、及び磁気センサ24を備えて構成されている。
【0059】
固定ベース21は、実施の形態1の固定ベース21とほぼ同様に形成されているが、2枚の振動板25A、25Bを収容するため、実施の形態1の固定ベース21より若干大きく形成されることが好ましい。
【0060】
2枚の振動板25A、25Bは、相互に一次固有振動数が異なるものであり、相互に間隔を隔てて並設されている。より具体的には、一方の振動板25Aは、固定ベース21の内部の収容空間部に配置されており、この固定ベース21の鉛直方向に沿った側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。また、他方の振動板25Bは、振動板25Aが固定されたのと同じ側壁に対して略直交するように、当該側壁に対して片持ち梁状に固定されている。これら振動板25A、25Bは、いずれも平面形状を長方形状とする板状として形成されており、相互に板面を対向させるように平行状に並設されている。
【0061】
これら2枚の振動板25A、25Bの一次固有振動数を相互に変えるのは、より広い周波数帯での固有振動数の計測を可能にするためである。このように、2枚の振動板25A、25Bの一次固有振動数を相互に変えるための具体的な方法としては、振動板25A、25Bの材質を相互に変える方法、振動板25A、25Bの形状(長さ、幅、あるいは厚み)を相互に変える方法、あるいは、これらの方法を組み合わせる方法を挙げることができ、後述する磁性体の吸着又は反発の条件を満たす限り、これらいずれの方法を採用してもよい。ここでは、振動板25Aをアルミニウムにより長さ約70mmで厚み約0.5mmにて製作し、振動板25Bをチタンにより長さ約60mmで厚み約0.5mmにて製作した。
【0062】
2つの磁性体26A、26Bは、それぞれ基本的には実施の形態1の磁性体23と同様に形成されており、一方の磁性体26Aは振動板25Aに固定され、他方の磁性体26Bは振動板25Bに固定されている。
【0063】
ここで、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bは、相互に反発されるような極性及び位置に配置されている。すなわち、上記のように2枚の振動板25A、25Bの長さを相互に変えることによって、その先端部に固定した磁性体26A、26Bの位置を相互にずらし、磁性体26A、26Bの相互に対向する面をそれぞれ同極(ここではマイナス極)とすることで、磁性体26A、26Bが相互に反発するように配置されている。
【0064】
あるいは、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bは、相互に吸着されるような極性及び位置に配置することもできる。この場合の振動計測ユニット20の拡大図を図9に示す。ここでは、上記のように2枚の振動板25A、25Bの長さを相互に変えることによって、その先端部に固定した磁性体26A、26Bの位置を相互にずらし、磁性体26A、26Bの相互に対向する面をそれぞれ異極(ここでは、磁性体26Aをプラス極と、磁性体26Bをマイナス極)とすることで、磁性体26A、26Bが相互に吸着するように配置されている。
【0065】
磁気センサ24は、実施の形態1の磁気センサ24と同様であるが、ここでは、2つの磁性体26A、26Bの磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に固定されている。具体的には、磁気センサ24は、固定ベース21の外側面において、2つの磁性体26A、26Bの相互の中間位置に対応する位置に配置されている。
【0066】
(実験結果)
次に、実験結果について説明する。最初に、磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した実験の結果を示す。ただし、試験体や振動計測ユニット20の構成や配置については、特記ある場合を除き、図4に示した実験と同じである。ここでは、振動板25Aとして、比較的高い固有振動数のアルミニウム材(ヤング係数=約7×1010(Pa)、密度=約2.7(g/cm3)、幅=約20mm、厚さ=約0.5mm、長さ=約60mm)を使用した。この振動板25Aの一次固有振動数は、先端がたわんだ場合のたわみから計算すると、固有振動数fc=約27Hzである。また、振動板25Bとして、比較的低い固有振動数のチタン材(ヤング係数=約10.64×104(N/mm2)、密度=約4.51(g/cm3)、幅=約20mm、厚さ=約0.5mm、長さ=約70mm)を使用した。この振動板25Bの一次固有振動数は、先端がたわんだ場合のたわみから計算すると、固有振動数fc=約21Hzである。そして、これら振動板25A、25Bの各々の先端に、磁性体26A、26Bとしての磁石を、上記のように相互に反発するように配置した。
【0067】
図10は、この実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板25Aと1つの磁性体26Aのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板25Bと1つの磁性体26Bのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板25A、25Bに2つの磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計40の出力の解析結果をそれぞれ示す。図10(a)〜(c)において、横軸は周波数、縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)であり、図10(d)において、横軸は周波数、縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)である。
【0068】
これら図10(a)〜(d)から分かるように、2つの磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した場合、磁性体26A、26Bが2つになり磁力線が増えた分だけ磁気センサ24の出力が大きくなり、磁性体26A、26Bが1つの場合では検知できなかった振動(例えば、試験体の二次固有振動数であると推定される115Hzのピークや、試験体の三次固有振動数であると推定される182Hzのピーク)が検知可能になる。ただし、後述する2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した場合の実験結果に比べて、振動数は実際の振動数より若干小さくなった。これは、磁性体26A、26Bの相互間の斥力が、バネの役割を果たしたためであると考えられる。
【0069】
次に、磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した実験の結果を示す。特記なき実験条件等については、磁性体26A、26Bを相互に反発するように配置した実験と同じである。
【0070】
図11は、この実験における出力の解析結果を示す図であり、(a)には、1枚の振動板25Aと1つの磁性体26Aのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(b)には、1枚の振動板25Bと1つの磁性体26Bのみを配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(c)には、2枚の振動板25A、25Bに2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した振動計測ユニット20の出力の解析結果、(d)には、比較例としての圧電型加速度計40の出力の解析結果をそれぞれ示す。図11(a)〜(c)において、横軸は周波数、縦軸は磁場強度(T/Hz1/2)であり、図11(d)において、横軸は周波数、縦軸は加速度(Gal/Hz1/2)である。
【0071】
これら図11(a)〜(d)から分かるように、2つの磁性体26A、26Bを相互に吸着するように配置した場合、これら2つの磁性体26A、26Bの引力により、2枚の振動板25A、25Bを一つのバネ定数をもつ1枚の板バネと見なすことができることに加え、磁性体26A、26Bが2つになり磁力線が増えた分だけ磁気センサの出力が大きくなり、磁性体26A、26Bが1つの場合では検知できなかった振動(例えば、試験体の二次固有振動数であると推定される125Hzのピーク)が検知可能になる。
【0072】
なお、これらの実験で使用したチタン材とアルミニウム材は、一次固有振動数が21Hzと27Hzであり相互に比較的が近かったが、例えば、塩化ビニール材(一次固有振動数=5〜10Hz)とアルミニウム材を組み合わせれば、塩化ビニール材が60Hz程度までの周波数帯、アルミニウム材が100Hz程度までの周波数帯を、それぞれ測定できるので、広い周波数帯での固有振動数計測が可能になる。
【0073】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加えて、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bの磁力の変化の合成変化分を磁気センサ24で検知することで、振動板25A、25Bが1つの場合では検出できなかった、二次固有振動数や三次固有振動数を検知することが可能となり、損傷評価を一層精密に行うことが可能となる。
【0074】
また、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bを、相互に反発するような極性及び位置に配置したので、この磁性体26A、26Bの反発力により、2枚の振動板25A、25Bが相互に振動を増大させ、磁気センサ24の出力を大きくすることが可能となる。
【0075】
また、2枚の振動板25A、25Bの各々に固定した磁性体26A、26Bを、相互に吸着されるような極性及び位置に配置したので、この磁性体26A、26Bの吸着力により、2枚の振動板25A、25Bが一体的に振動して振動を増大させ、磁気センサ24の出力を大きくすることが可能となる。
【0076】
〔III〕各実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0077】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。さらに、本発明によって、上述していない課題を解決したり、上述していない効果を奏することもある。
【0078】
(振動板の数)
実施の形態2では、2枚の振動板25A、25Bを設けた例を示したが、3枚以上の振動板を設け、各々の振動板に磁性体を設けてもよい。また、実施の形態2では、2つの磁性体26A、26Bを相互に反発又は吸着させる場合を説明するため、振動板25A、25Bに磁性体26A、26Bを固定した例のみを説明したが、例えば、2枚の振動板25A、25Bのそれぞれの先端に磁気センサ24を配置すると共に、固定ベース21における磁気センサ24の近傍位置に一つの磁性体26を配置し、これら2つの磁気センサ24からの出力を合成したりその差分を解析してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 コンクリート体
1a 収容スペース
2 フリーアクセスフロア
10 損傷評価装置
20 振動計測ユニット
21 固定ベース
22、22A〜22D、25A、25B 振動板
22a 本体部
22b 先端部
23、26A、26B 磁性体
24 磁気センサ
30 解析表示ユニット
40 圧電型加速度計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、
前記コンクリート体に固定される固定ベースと、
前記固定ベースに固定された振動板と、
前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか一方に固定された磁性体と、
前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか他方における、前記磁性体の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサとを備え、
前記振動板の一次固有振動数を、前記コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした、
磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項2】
前記振動板の一次固有振動数を、測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも小さくした、
請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項3】
前記振動板の一次固有振動数を、前記最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくした、
請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項4】
前記固定ベースに、相互に一次固有振動数が異なる2枚の振動板を相互に間隔を隔てて並設し、
前記2枚の振動板の各々に、前記磁性体を固定し、
前記固定ベースにおける、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体の磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に、前記磁気センサを固定した、
請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項5】
前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に反発されるような極性及び位置に配置した、
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項6】
前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に吸着するような極性及び位置に配置した、
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項7】
前記振動板に固定された前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方から、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか他方に至る方向を、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方が前記振動板の振動に伴って変位する方向とは異なる方向とした、
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項1】
損傷評価対象となるコンクリート体に固定される損傷評価装置であって、
前記コンクリート体に固定される固定ベースと、
前記固定ベースに固定された振動板と、
前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか一方に固定された磁性体と、
前記固定ベースまたは前記コンクリート体と、前記振動板との、いずれか他方における、前記磁性体の磁力の変化を検知可能な位置に固定された磁気センサとを備え、
前記振動板の一次固有振動数を、前記コンクリート体の一次固有振動数よりも小さくした、
磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項2】
前記振動板の一次固有振動数を、測定対象として設定された前記コンクリート体の所定範囲の固有振動数における最小の固有振動数よりも小さくした、
請求項1に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項3】
前記振動板の一次固有振動数を、前記最小の固有振動数よりも、所定の余裕振動数分だけ小さくした、
請求項2に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項4】
前記固定ベースに、相互に一次固有振動数が異なる2枚の振動板を相互に間隔を隔てて並設し、
前記2枚の振動板の各々に、前記磁性体を固定し、
前記固定ベースにおける、前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体の磁力の変化の合成変化分を検知可能な位置に、前記磁気センサを固定した、
請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項5】
前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に反発されるような極性及び位置に配置した、
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項6】
前記2枚の振動板の各々に固定した前記磁性体を、相互に吸着するような極性及び位置に配置した、
請求項4に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【請求項7】
前記振動板に固定された前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方から、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか他方に至る方向を、前記磁性体又は前記磁気センサのいずれか一方が前記振動板の振動に伴って変位する方向とは異なる方向とした、
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気センサを用いたコンクリート体の損傷評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−191272(P2011−191272A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59795(P2010−59795)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(303023533)株式会社フォレステック (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(303023533)株式会社フォレステック (1)
【Fターム(参考)】
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