説明

磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法

【課題】500℃という高温に加熱されても平坦度の悪化や結晶粒の粗大化を抑制することのできる磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下である。本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法は、前記した組成からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板について行う積み付け焼鈍を、2℃/分以下の昇温速度で350℃以上となるまで昇温し、350℃以上で2時間以上保持し、次いで、2℃/分以下の降温速度で冷却するという条件で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の記録媒体として使用される磁気ディスクは、非磁性の基板に磁性膜を付着させてなる。一般的にこの基板は、軽量かつ高い剛性を有し、平滑な表面であることが要求されるため、非磁性で軽量、さらに鏡面加工等により平滑な表面を容易に得ることができる等の理由からアルミニウム合金板が使用され、その表面に剛性を得るためのNi−Pめっき膜を約10μmの厚さに形成して磁気ディスク用基板としている。
従来、このようなアルミニウム合金板としては、ハードディスクドライブ用の耐衝撃性で必要となる十分な強度を有し、十分な表面平滑性が得られる等の理由からJIS H 4000に規定の5086合金(Al−Mg合金)が使用されてきた。
【0003】
また、より磁気ディスク用基板に適するアルミニウム合金板を提供するため、例えば、特許文献1には、Mgを3〜6質量%含有する磁気ディスク基板用Al合金板を焼鈍するにあたり、10℃/分以上の昇温速度で280〜550℃に至らしめ、同温度範囲内で1〜60分間保持した後冷却し、結晶粒径を25μm以下に抑制するという磁気ディスク基板用Al合金板の焼鈍方法に関する発明と、当該発明において、温度150℃までの冷却を0.5〜10℃/分の冷却速度で行うという発明が記載されている。
特許文献1に記載の発明によれば、このような構成とすることにより、微小うねりの発生が少なく、精密切削性が優れるとともに、磁気ディスクの高記録密度化にも十分対応することができると記載されている。
【0004】
また例えば、特許文献2には、Mgを3.0〜5.0質量%含有し、所定量のFe,Si,Cuを含有し、Znを0.05質量%未満として、Gaを50〜400ppm、Beを0.5〜100ppm含み、7μm以上の金属間化合物を10個/mm2以下とするNiPめっき性に優れた磁気ディスクアルミニウム合金に関する発明が記載されている。
特許文献2に記載の発明によれば、Zn含有量を規定量未満に規制し、GaおよびBeを特定の範囲とすることで、鏡面仕上げ性および耐食性が良好で、更に均一微細なNiPめっき層を形成することができると記載されている。
【0005】
また例えば、特許文献3には、Mgを1〜8質量%含有し、不純物元素としてSiおよびFeを所定量以下に規制するとともに、Gaを150ppm以下に規制するという磁気ディスク基板用アルミニウム合金に関する発明が記載されている。
特許文献3に記載の発明によれば、Gaの含有量を所定値以下に規制することによってマトリックスからの金属間化合物の脱落を抑制し、表面欠陥を生じ難くすることができると記載されている。
【0006】
さらに例えば、特許文献4には、Mgを3.0〜6.0質量%含有し、Znを0.25〜1.0質量%含有し、さらに所定量のCuおよびCrを含有し、FeおよびSiの含有量をそれぞれ0.05質量%以下に規制するとともに、結晶粒界に存在する最大幅0.02μm以上、最大長さ0.1μm以上のAl−Mg−Zn系金属間化合物の数が1mmあたり平均で1個以下であるという磁気ディスク用アルミニウム合金基板に関する発明が記載されている。また、この特許文献4には、その製造方法に関して、300〜400℃に30分間以上保持した後、350〜200℃の温度範囲が200℃/分以上の冷却速度となるように冷却する発明が記載されている。
特許文献4に記載の発明によれば、Znの含有量を特定の範囲とすることでジンケート処理後のアルミニウム合金基板表面に生じる結晶粒の分布を反映した模様(結晶粒模様)の形成を抑制し、もってNiPめっき膜表面の微小な凹凸の発生を抑制し、結果的に表面に微小なうねりが発生することなく、高平坦度および高平滑度な表面を得ることができると記載されている。
【0007】
つまり、前記した特許文献1〜4に記載の発明は、表面の微小な凹凸やうねりを抑制し、高い平滑性を得ることで高密度記録化に対応しようというものである。
ここで、最近の記録密度の向上要求は非常に強く、年々記録密度の向上がなされているが、高記録密度化のためには磁性粒子の微細化が必要となる。一般に磁性粒子の微細化とともに、記録された磁化の向きを保持する力(保磁力)が低下し、室温程度の熱エネルギーでも減磁してしまう「熱揺らぎ」と呼ばれる問題が生じる。その熱揺らぎの問題により、現行の垂直記録方式での記録密度の限界は、1Tb/inch2(テラバイト毎平方インチ)といわれている。そのため、さらなる高密度記録化を図る技術として、熱アシスト磁気記録方式が注目されている。
【0008】
熱アシスト磁気記録方式とは、磁気ディスク上の記録する微小領域をレーザー等で瞬間的に加熱しつつ、その加熱された微小領域に記録したいデータを磁気ヘッドで記録する方式をいう。かかる熱アシスト磁気記録方式によれば、既存の磁気ヘッドでは記録できないような高い保磁力を有する磁性材料であっても、加熱することによって瞬間的に保磁力を下げることができる(常温に戻ると高い保磁力を回復する)ので、熱揺らぎの問題を解消することが可能となる。したがって、この技術を使うと磁性粒子の微粒子化と安定な記録を両立できることから、超高密度記録化の実現に向けて大いに期待が寄せられている。
【0009】
ここで、熱アシスト磁気記録方式に適するとされる磁性材料としてFePt系媒体がある。このFePt系媒体の成膜時には、400〜500℃程度という高温で数秒から10秒間程度の加熱処理が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−91352号公報
【特許文献2】特開平4−99143号公報
【特許文献3】特開平2−205651号公報
【特許文献4】特許第3875175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来用いられてきたJIS5086合金や特許文献1〜4に記載されている磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、通常行われる300℃以下での磁性材料のスパッタにおいては何ら問題が生じていなかったが、500℃で磁性材料のスパッタを行うと、基板が歪んで平坦度が悪化するという問題や、結晶粒が粗大化するためめっき面が粗面化するという問題があった。
なお、熱アシスト磁気記録方式では、磁気ディスク上に記録する微小領域のみが瞬間的に加熱されるだけであり、加熱時間も極めて短時間であるので下地基板となる磁気ディスク用アルミニウム合金基板への影響は殆どない。
【0012】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、500℃という高温に加熱されても平坦度の悪化や結晶粒の粗大化を抑制することのできる磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究した結果、以下のような手段とすることで前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
〔1〕本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であることを特徴とする。
【0015】
このようにすれば、Mgを所定量含有しているので磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を確保することができる。また、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であるので、磁性材料をスパッタにより成膜する際に500℃で加熱されても平坦度が悪化せず、また結晶粒の粗大化も抑制することができる。
【0016】
〔2〕本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、かつCrを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が1μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が3μm以下であることを特徴とする。
【0017】
このようにすれば、Mgを所定量含有しているので磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を確保することができる。また、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であるので、磁性材料をスパッタにより成膜する際に500℃で加熱されても平坦度が悪化せず、また結晶粒の粗大化も抑制することができる。
さらに、前記作用に加えて、Cr,MnおよびZrの群から選択される少なくとも一つを所定量含有しているので、結晶粒の粗大化をより抑制することが可能となる。
【0018】
〔3〕本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、かつCrを0.05質量%以上0.3質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下、およびZrを0.05質量%以上0.5質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、Cuを0.01質量%以上0.2質量%以下およびZnを0.01質量%以上0.4質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらに前記不可避的不純物のうちSiを0.03質量%以下、Feを0.05質量%以下に規制し、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であることを特徴とする。
【0019】
このようにすれば、Mgを所定量含有しているので磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を確保することができる。また、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であるので、磁性材料をスパッタにより成膜する際に500℃で加熱されても平坦度が悪化せず、また結晶粒の粗大化も抑制することができる。また、前記作用に加えて、Cr,MnおよびZrの群から選択される少なくとも一つを所定量含有しているので、結晶粒の粗大化をより抑制することが可能となる。
さらに、CuおよびZnの群から選択される少なくとも一つを所定量含有し、不可避的不純物のうちSiとFeを所定量以下に規制しているので、Mg−Si系金属間化合物およびAl−Fe系金属間化合物の生成を抑制することができ、めっき後のピットの生成を抑制することが可能となる。
【0020】
〔4〕前記した〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、前記平坦度の変化量が1μm以下であり、前記平均結晶粒径の変化量が3μm以下であるのが好ましい。
【0021】
このようにすれば、磁性材料をスパッタにより成膜する際に500℃で加熱しても、より平坦度の変化および平均結晶粒径の変化量が小さい磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供することができる。
【0022】
〔5〕本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法は、前記した〔1〕から〔4〕のいずれか一つに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造するための製造方法であって、〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載の組成からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板について行う積み付け焼鈍を、2℃/分以下の昇温速度で350℃以上となるまで昇温し、350℃以上で2時間以上保持し、次いで、2℃/分以下の降温速度で冷却するという条件で行うことを特徴とする。
【0023】
このようにすれば、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下である本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、500℃で加熱された場合であっても、加熱前後における平坦度の悪化と結晶粒の粗大化を抑制することのできる磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供することができる。
【0025】
また、本発明によれば、500℃で加熱された場合であっても、加熱前後における平坦度の悪化と結晶粒の粗大化を抑制することのできる磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法を実施するため形態について、幾つかの具体的態様をもって詳細に説明する。
【0027】
<第1実施形態>
はじめに、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の第1実施形態について説明する。
第1実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下というものである。
【0028】
ここで、前記した「500℃で10秒間加熱された」とは、例えば、熱アシスト磁気記録方式に適する磁性材料をスパッタするときの条件を模擬したものであり、後述する製造方法、つまり、特定の条件で行われる積み付け焼鈍(矯正焼鈍)により平坦度を矯正した後の本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いて行われる加熱処理である。よって、本発明における500℃で10秒間加熱された「前後」とは、矯正焼鈍後の磁気ディスク用アルミニウム合金基板(ブランク)を用いて行われる、前記した条件の加熱処理を行う前と、行った後であることを意味する。なお、実際の製造工程では、平坦度を矯正した後のアルミニウム合金基板は、研削された後に、例えば無電解Ni−Pめっきなどの表面処理が行われ、さらに表面が研磨された後に磁性膜がスパッタされるが、スパッタ加熱時の基板の変形量は主としてブランクの製造条件(積み付け焼鈍の条件)に依存する。
【0029】
(Mg:3.5質量%以上6質量%以下)
Mgは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を得るために必要な元素である。
Mg量が3.5質量%未満であると耐力が95MPa以下となり、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要とされる耐力を得ることができない。そのため、落下時の衝撃で変形しやすくなるとともに、磁気ヘッドと基板の接触による傷も付きやすくなるため、ハードディスクドライブの耐衝撃性のスペックを満たすことができない。
その一方で、Mg量が6質量%を超えると熱間割れ感受性が高くなり、熱間圧延中に割れが生じてしまう。割れずに熱間圧延ができた場合であっても、積み付け焼鈍後の冷却中にβ相(Al3Mg2相)が析出しやすいため好ましくない。なお、β相は、めっき前処理工程の一つであるエッチング工程で優先的にエッチングを受けるため、めっき面の凹凸が大きくなり、めっき面の平坦度が悪化する。めっき面の平坦度が悪化すると、平滑化のため長時間のポリッシュが必要となり、生産性も劣るため好ましくない。
よって、Mg量は3.5質量%以上6質量%以下とする。なお、Mg量は3.8質量%以上、4質量%以上または4.5質量%以上などとすることもでき、5.5質量%以下または5質量%以下などとすることもできる。
【0030】
(残部:Alおよび不可避的不純物)
残部はAlおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、例えば、Si、Fe、Ti、BおよびVなどを挙げることができる。これらの不可避的不純物のうち、SiおよびFeは金属間化合物を形成するため含有量が少ないほど好ましいが、Siについては0.03質量%以下、Feについては0.05質量%以下であれば本発明の所望する効果に影響しない。その他のTi、BおよびVなどの不可避的不純物についてはそれぞれ、0.01質量%以下であれば本発明の所望する効果に影響しない。よって、前記した各不可避的不純物を前記した含有量程度以下であればこれらを含有することは許容される。
【0031】
(500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量:5μm以下)
500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μmを超えるということは、磁性材料のスパッタ(加熱)を500℃で行った際に、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の平坦度が大きく悪化することを意味するものであるため、熱アシスト磁気記録方式に適した基板とすることができない。
よって、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量は5μm以下とする。
【0032】
なお、平坦度は、半導体レーザーによる干渉縞により測定することができる。平坦度は、例えば、NIDEK社製FT−17を用いてP−V値を測定することで得ることができる。
したがって、500℃で10秒間加熱処理する前後におけるP−V値を測定し、その差を求めれば、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量として得ることができる。
【0033】
(500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量:10μm以下)
500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μmを超えるということは、磁性材料のスパッタ(加熱)を500℃で行った際に、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の結晶粒が粗大化することを意味するものであるため、熱アシスト磁気記録方式に適した基板とすることができない。
よって、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量は10μm以下とする。
【0034】
なお、平均結晶粒径は、表面を機械研磨により鏡面加工を行った後、ホウフッ化水素酸0.5%を用いて20V、90秒間、室温で電解エッチングを行い、電解エッチングを行った基板の表面を光学顕微鏡により100倍で撮影し、組織画像を切片法で解析することで測定することができる。
したがって、500℃で10秒間加熱処理する前後における平均結晶粒径を測定し、その差を求めれば、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量として得ることができる。
【0035】
500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量と500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量は、後述する所定の条件の積み付け焼鈍を行うことで制御することができる。
【0036】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、かつCrを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下というものである。
【0037】
なお、第2実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板のMgを3.5質量%以上6質量%以下含有すること、残部がAlおよび不可避的不純物からなること、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であること、および、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であることについては、第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と重複する内容については説明を省略し、相違する事項のみ説明する。
【0038】
(Crを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有)
Cr,MnおよびZrは結晶粒粗大化抑制効果を有する。Crを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有させると、500℃で10秒間加熱された場合であっても結晶粒の粗大化をより確実に抑制することができる。そのため、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量をより確実に10μm以下とすることができ、3μm以下とすることも可能となる。Cr,MnおよびZrの全てが前記した含有量未満である場合、前記した効果を奏することができない。
よって、Crを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有することとする。
【0039】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の第3実施形態について説明する。
第3実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、かつCrを0.05質量%以上0.3質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下、およびZrを0.05質量%以上0.5質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、Cuを0.01質量%以上0.2質量%以下およびZnを0.01質量%以上0.4質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらに前記不可避的不純物のうちSiを0.03質量%以下、Feを0.05質量%以下に規制し、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下というものである。
【0040】
なお、第3実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板のMgを3.5質量%以上6質量%以下含有すること、残部がAlおよび不可避的不純物からなること、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であること、および、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下であることについては、第1実施形態と同様であり、Crを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有することについては、第2実施形態と同様である。そのため、第1実施形態および第2実施形態と重複する内容については説明を省略し、これらと相違する事項のみ説明する。
【0041】
(Crを0.05質量%以上0.3質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下、およびZrを0.05質量%以上0.5質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有)
前記したように、Cr,MnおよびZrは結晶粒粗大化抑制効果を有する。これらの元素について下限値を規定することによって得られる効果等については既に説明しているとおりであるので、説明を省略する。
Crを0.3質量%、Mnを0.5質量%またはZrを0.5質量%を超えて添加した場合には、それぞれCr系、Mn系、Zr系の粗大な初晶が晶出し、めっき面の平坦度が悪化することがある。めっき面の平坦度が悪化すると、平滑化のため長時間のポリッシュが必要となり、生産性も劣るため好ましくない。
よって、Crを0.05質量%以上0.3質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下、およびZrを0.05質量%以上0.5質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有することとした。
なお、Cr量は0.06質量%以上または0.1質量%以上などとすることができ、0.3質量%以下などとすることができる。また、Mn量は0.3質量%以下または0.4質量%以下などとすることができる。Zr量は0.2質量%以上0.4質量%以下などとすることもできる。
【0042】
(Cuを0.01質量%以上0.2質量%以下およびZnを0.01質量%以上0.4質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有)
熱アシスト磁気記録方式では、めっき皮膜にも耐熱性が求められる。そのため、一般的に用いられているNi−Pめっきよりも耐熱性に優れたNi−Cu−PめっきやNi−Mo−Pめっき、Ni−W−Pめっきなどの適用が検討されている。いずれの場合もめっき前にはジンケート処理と呼ばれる前処理が行われる。めっき面の平滑性は、ジンケート処理によって形成されるジンケート面の平滑性の影響を受けることがよく知られている。CuおよびZnはともに、めっき面の平滑性に影響を及ぼすジンケート面を平滑化する効果がある。
【0043】
Cu量およびZn量が0.01質量%未満であると、ジンケート面を平滑化する効果を得ることができない。一方で、Cu量が0.2質量%を超えるとめっき前処理において、粒界にCuが析出して粒界部が過エッチングを受け、ピットを生じるとともに、めっき膜表面のノジュールの発生が多大となり、めっき面の平滑性を損なう。また、Zn量が0.4質量%を超えると、粒界にAl−Mg−Zn系金属間化合物が析出し、めっき前処理でピットとなり、やはりめっき面の平滑性を損なう。めっき面の平坦度が悪化すると、平滑化のため長時間のポリッシュが必要となり、生産性も劣るため好ましくない。
よって、Cuを0.01質量%以上0.2質量%以下およびZnを0.01質量%以上0.4質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するのが好ましい。
なお、Cu量は0.02質量%以上、0.04質量%以上または0.05質量%以上などとすることができ、0.12質量%以下などとすることができる。また、Zn量は0.02質量%以上とすることができ、0.2質量%以下または0.1質量%以下などとすることができる。
【0044】
(Siを0.03質量%以下、Feを0.05質量%以下に規制)
SiおよびFeは、前記したように不可避的不純物として含有されるものであり、その含有量の増加とともにそれぞれMg−Si系金属間化合物およびAl−Fe系金属間化合物の大きさおよび個数が増大し、めっき後のピットなどの原因となる。そのため、Si量およびFe量が高くなると、めっき面の平滑化のために長時間のポリッシュが必要となり、生産性が劣ることとなるので、これらの含有量は少ないほど好ましい。
なお、Si量は0.01質量%以下とすることができ、Fe量は0.02質量%以下、0.01質量%以下などとすることができる。
Si量とFe量の規制は、例えば使用地金に高純度地金を添加することで行うことができる。
【0045】
以上に説明した第1実施形態から第3実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム基板で説明した組成を有するアルミニウム合金としては、例えば、JIS H 4000に規定の5000系合金を用いることができる。より具体的には、例えば、5086合金、5083合金、5053合金、5082合金、5154合金、5182合金、5254合金、5N02合金などを用いることができる。
【0046】
また、第1実施形態から第3実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム基板で説明した500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量は、1μm以下とするのが好ましく、500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量は、3μm以下とするのが好ましい。これらの変化量が小さいほど、スパッタ等により500℃で加熱された場合であっても、加熱前後における平坦度の悪化と結晶粒の粗大化の抑制をより確実に行うことが可能となる。平坦度の変化量と平均結晶粒径の変化量の抑制は、Cr,MnおよびZrから選択される少なくとも一つを、前記した含有量で含有すると、その制御を行いやすい。
【0047】
<製造方法>
次に、前記した第1実施形態から第3実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造するための製造方法について説明する。
【0048】
500℃で加熱された場合のアルミニウム合金基板の変形の原因としては、アルミニウム合金基板の内部歪が開放されるために生じていると考えられる。そのため、積み付け焼鈍時(歪み矯正焼鈍時)に完全に内部歪みを除去する必要がある。また、昇温および降温時のアルミニウム合金基板の表面や端面と内部の温度差による熱応力の導入も極力防止するため、急速加熱や急速冷却は避ける必要がある。
【0049】
そのため、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法は、第1実施形態から第3実施形態に記載した組成からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板について行う積み付け焼鈍を、2℃/分以下の昇温速度で350℃以上となるまで昇温し、350℃以上で2時間以上保持し、次いで、2℃/分以下の降温速度で冷却するという条件で行う必要がある。
なお、かかる積み付け焼鈍は、複数枚のブランクを積重ね、その両端に厚さ20〜30mmのスペーサを設け、スプリングを用いてスペーサ同士が近接する方向に加圧された状態で焼鈍が行われる。ブランクは、スプリングを用いた加圧によってスペーサと同じ平坦度まで矯正され、また、この状態で焼鈍されることにより形状が固定され、残留応力が除去される。なお、スプリングでの加圧は、積み付け焼鈍で行われる一般的な圧力にて行うことができる。
【0050】
(昇温速度:2℃/分以下、降温速度:2℃/分以下)
特許文献1にも記載されているように、従来は、結晶粒の微細化の観点から、積み付け焼鈍時の昇温速度を10℃/分以上としたり、特許文献4に記載されているように、粒界へのAl−Mg−Zn系金属間化合物の析出防止の観点から、積み付け焼鈍時の冷却速度(降温速度)を200℃/分以上としたりしていた。しかし、発明者が鋭意研究したところ、500℃という高温でスパッタする際の平坦度の悪化を防止するためには、積み付け焼鈍の昇温中および降温中の熱歪みを防止することが重要であることが明らかになった。昇温速度が2℃/分を超える場合、および降温速度が2℃/分を超える場合のいずれにおいても、熱応力の発生により内部に歪みが残留しやすくなり、スパッタ工程での急速加熱時に平坦度の変化量が増加してしまう。そのため、昇温速度を2℃/分以下とし、降温速度を2℃/分以下とする必要がある。
なお、かかる降温速度での降温は200℃程度まで、より好ましくは150℃程度まで行えばよい。当該温度まで降温した後は降温速度の影響をほとんど受けないからである。したがって、前記した温度まで降温した後は、降温速度を2℃/分よりも速くしてもよい。
【0051】
(保持温度:350℃以上、保持時間:2時間以上)
積み付け焼鈍の保持温度が350℃未満であったり、保持時間が2時間未満であったりすると、積み付け焼鈍時に磁気ディスク用アルミニウム合金基板(ブランク)の残留歪みを完全に除去することができず、スパッタ工程での急速加熱により平坦度の変化量が増加してしまう。また、残留歪みにより結晶粒の安定性も低下し、加熱時に結晶粒が粗大化しやすくなる。ブランク内の残留歪みは積み付け焼鈍の保持温度を350℃以上とし、保持時間を2時間以上とすることで除去することが可能である。
なお、積み付け焼鈍の保持温度は350〜450℃とするのが好ましく、保持時間は2〜5時間とするのが好ましい。このようにすれば、結晶粒の異常成長の抑制を図ることができ、また、エネルギーコストの増加を抑制することができる。
【0052】
積み付け焼鈍以前に行われる溶解、鋳造、面削、均質熱処理、熱間圧延、冷間圧延、必要に応じて行われる中間焼鈍、円環形状の打ち抜きなどは、一般的な方法で行われる。なお、第1実施形態から第3実施形態で説明した組成への調整は、溶解時に使用地金に各種元素や高純度地金を添加するなどして行うことができる。
【0053】
以上、第1実施形態から第3実施形態として説明した本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法によれば、Mgを所定量含有することによって磁気ディスク用アルミニウム合金基板として必要な強度を確保し、また、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量を5μm以下とし、かつ500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下とすることによって、500℃に加熱されるスパッタ工程で急速加熱が行われても平坦度が悪化せず、また、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と、満たさない比較例とを例示して、具体的に説明する。
【0055】
表1に実施例1〜13と比較例1〜8のアルミニウム合金の組成[質量%]および製造条件(つまり、積み付け焼鈍の昇温速度[℃/分]、保持温度[℃]、保持時間[時間]および150℃までの降温速度[℃/分])を示す。
なお、比較例8は特許文献1の実施品に相当する。特許文献2〜4は、積み付け焼鈍の条件、すなわち昇温速度、保持温度、保持時間および降温速度のうちの少なくとも一つの条件が不明であったため、比較することができなかった。
また、実施例1〜13と比較例1〜8における積み付け焼鈍以前の製造工程における製造条件は一般的なものとした。
表1中の「−」は検出限界以下の含有量であることを示す。
なお、実施例1〜13と比較例1〜8の残部はAlと不可避的不純物からなるが、これらは表1中に示していない。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す組成と製造条件で製造した実施例1〜13と比較例1〜8について、耐力[MPa]、平坦度の変化量[μm]、平均結晶粒径の変化量[μm]、金属間化合物の最大サイズ[pcs/mm2]、およびジンケート表面の表面粗度[nm]を測定し、評価した。なお、耐力、平坦度の変化量、平均結晶粒径の変化量、金属間化合物の最大サイズ、およびジンケート表面の表面粗度の測定は次のようにして行った。
【0058】
(1)耐力
耐力は、製造した実施例1〜13と比較例1〜8を用いて、JIS Z 2201 5号に基づいた引張試験により測定した。
耐力は、95MPaを超えるものを良(○)、95MPa以下のものを不良(×)とした。
【0059】
(2)平坦度の変化量
平坦度の変化量は、NIDEK社製FT−17を用いて、500℃でのスパッタを想定した加熱処理を行う前後におけるP−V値の差より求めた。
加熱処理は、アルバック理工社製の赤外線ランプ加熱装置(RTP−6型)を使用し、昇温速度600℃/分で昇温し、500℃で10秒間加熱するという条件で行った。
ブランクの平坦度の変化量は、1μm以下のものを優(◎)、1μmを超え5μm以下のものを良(○)、5μmを超えるものを不良(×)とした。
【0060】
(3)平均結晶粒径の変化量
平均結晶粒径は、基板の表面を機械研磨後、ホウフッ化水素酸0.5%を用いて20V、90秒間、室温で電解エッチングを行い、電解エッチングを行った基板の表面を光学顕微鏡により100倍で撮影し、組織画像を切片法で解析することで測定した。
平均結晶粒径の変化量は、前記した加熱処理前後の基板について前記した手法で平均結晶粒径の測定を行い、その差より求めた。
平均結晶粒径の変化量は、3μm以下のものを優(◎)、3μmを超え10μm以下のものを良(○)、10μmを超えるものを不良(×)とした。
【0061】
(4)金属間化合物の最大サイズ
金属間化合物の最大サイズの測定は、基板(ブランク)表面をダイヤモンドバイトで切削して鏡面とし、この面を走査型電子顕微鏡(SEM)のCOMPO像(倍率1000倍)で20視野観察した画像を2値化し、マトリックスより白く写る粒子(Al−Fe系金属間化合物、Al−Fe−Mn系金属間化合物、Al−Fe−Cr系金属間化合物など)もしくは黒く写る粒子(Mg−Si系金属間化合物)をカウントすることによりその最大長さを測定した。1000倍で20視野分析した際の最大サイズが5μm以下のものを◎、10μm以下のものを○、10μmを超えるものを△とした。
【0062】
(5)ジンケート表面の表面粗度
ジンケート表面の表面粗度の測定は次のようにして行った。
表1に示す条件で積み付け焼鈍を行って平坦度を矯正した基板(ブランク)をPVA砥石による研削加工によりブランクの表面を片面10μm研削して鏡面加工することでGRサブストレートを作製した。
次いで、このようにして作製したGRサブストレートをめっき前処理液(上村工業社製UAD−68)に浸漬し、70℃、5分間の脱脂を行った。
その後、めっき前処理液(上村工業製AD−101F)で68℃、2分間の酸エッチングを行い、30%硝酸でデスマット処理を行った。
デスマットを行ったGRサブストレートに、ジンケート処理液(上村工業製AD−301F−3X)を用いて20℃、30秒間のジンケート処理を行い、一旦、30%硝酸でZnを溶解させた後に、再度、20℃、15秒間のジンケート処理を行った。
前記処理後の表面(ジンケート表面)をVecco社製WYKO NT−3300を用いて、対物レンズ×10、FOV×1、VSIモードで表面を測定し、粗度(Ra)を求めた。粗度が10nm以下のものを◎、粗度が20nm以下のものを○、20nmを超えるものを△とした。
【0063】
実施例1〜13と比較例1〜8の耐力、平坦度の変化量、平均結晶粒径の変化量、金属間化合物の最大サイズ、およびジンケート表面の表面粗度についての評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すように、実施例1〜13は本発明の要件を満たすので、いずれも良好な評価結果となった。なお、本発明の要件を満たす実施例1〜13であっても金属間化合物の最大サイズやジンケート表面の表面粗度が大きくなったものがあった(△)が、これらはめっき厚を厚くすることや、めっきの研磨量を増やすことで◎や○のものと同等とすることができた。つまり、生産性の点で不利ではあるが、性能の点では実用に耐えるものである。
【0066】
これに対し、比較例1〜8は本発明の要件を満たさないものであるため、耐力、平坦度の変化量、平均結晶粒径の変化量、金属間化合物の最大サイズ、およびジンケート表面の表面粗度のうちのいずれかにおいて良好でない評価結果となった。具体的には次のようになった。
【0067】
比較例1は、積み付け焼鈍の保持温度が低いため、ブランク内の残留応力を完全に除去することができなかった。そのため、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が大きかった。
【0068】
比較例2は、積み付け焼鈍の保持温度が低いため、ブランク内の残留応力を完全に除去することができなかった。そのため、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量と平均結晶粒径の変化量が大きかった。
【0069】
比較例3は、積み付け焼鈍時の昇温速度および降温速度が2℃/分を超えていたので熱応力が生じ、残留応力のため500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が大きかった。
【0070】
比較例4は、積み付け焼鈍の保持時間が短いため、ブランク内の残留応力を完全に除去することができなかった。そのため、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量と平均結晶粒径の変化量が大きかった。
【0071】
比較例5は、積み付け焼鈍温度が規定を下回るため残留歪みが存在し、また、Cr,MnおよびZrのいずれもが検出限界以下の含有量であるため、500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量と平均結晶粒径の変化量が大きかった。
【0072】
比較例6は、Mg量が下限を外れるため、耐力が不足した。
また、比較例7は、Mg量が上限を外れるため、熱間圧延中に熱間割れが生じ、圧延板を製造することができなかった。そのため、耐力、平坦度の変化量および平均結晶粒径の変化量について評価結果を得ることができなかった。
【0073】
比較例8は、積み付け焼鈍時の昇温速度および降温速度が2℃/分を超えており、また、積み付け焼鈍の保持時間が短いため、残留応力を完全に除去することができなかった。そのため500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量と平均結晶粒径の変化量が大きかった。
【0074】
熱アシスト磁気記録方式用のブランク(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)に行われるスパッタ温度は、400〜500℃の間で様々な条件となることが予想される。
そこで、赤外線ランプ加熱装置(RTP−6型)による加熱温度および加熱時間を表3のように変更して実施例1、3と比較例1、2を加熱し、これらの平坦度の変化量および平均結晶粒径の変化量を評価した。なお、平坦度の変化量および平均結晶粒径の変化量の測定方法並びにその評価基準は前記と同様とした。
【0075】
【表3】

【0076】
表3に示す実施例1、3はともに良好な評価結果を得ることができた。なお、実施例3はCr,MnおよびZrの群から選択される少なくとも一つを所定の含有量で含有していなかったので、平均結晶粒径の変化量が実施例1と比較してやや大きかった。よって、500℃でスパッタする場合は、Cr,MnおよびZrの群から選択される少なくとも一つを含有する実施例1の方が好ましいことがわかった。
【0077】
これに対し、表3に示す比較例1は、400℃×5秒間の加熱では、比較的温和な加熱条件であったため平坦度の変化量および平均結晶粒径の変化量は良好な評価結果となったが、500℃×5秒間の加熱を行うと、平均結晶粒径の変化量は少なく良好であったものの、平坦度の変化量が大きくなり、良好でない評価結果となった。
また、表3に示す比較例2は、400℃×5秒間の加熱および500℃×5秒間の加熱のいずれも、平坦度の変化量および平均結晶粒径の変化量が大きくなり、良好でない評価結果となった。
【0078】
以上、発明を実施するための形態および実施例を通じて本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板およびその製造方法について詳細に説明した。しかし、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されて解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、
残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ
500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下である
ことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項2】
Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、
かつCrを0.05質量%以上、Mnを0.05質量%以上、およびZrを0.05質量%以上の群から選択される少なくとも一つを含有し、
残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ
500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下である
ことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項3】
Mgを3.5質量%以上6質量%以下含有し、
かつCrを0.05質量%以上0.3質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下、およびZrを0.05質量%以上0.5質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有するとともに、
Cuを0.01質量%以上0.2質量%以下およびZnを0.01質量%以上0.4質量%以下の群から選択される少なくとも一つを含有し、
残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらに
前記不可避的不純物のうちSiを0.03質量%以下、Feを0.05質量%以下に規制し、
500℃で10秒間加熱された前後における平坦度の変化量が5μm以下であり、かつ
500℃で10秒間加熱された前後における平均結晶粒径の変化量が10μm以下である
ことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項4】
前記平坦度の変化量が1μm以下であり、
前記平均結晶粒径の変化量が3μm以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造するための製造方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の組成からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板について行う積み付け焼鈍を、
2℃/分以下の昇温速度で350℃以上となるまで昇温し、350℃以上で2時間以上保持し、次いで、2℃/分以下の降温速度で冷却するという条件で行う
ことを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−99179(P2012−99179A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246251(P2010−246251)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】