説明

磁気共鳴イメージング装置及びスペクトル取得方法

【課題】差分スペクトルをとって代謝物を測定する際に、良好なスペクトルをとる磁気共鳴イメージング装置及びスペクトル取得方法を提供することを目的とする。
【解決手段】制御部30は、第1のパルスシーケンスと、第2のパルスシーケンスとを交互に複数回繰り返し、データ処理部31は、それぞれのパルスシーケンスに対してスペクトル差分s1N及びs2Nを収集し、s11−s21、s12−s22、s13−s23…のように、交互にとった2通りのパルスシーケンスに対するスペクトルの差分subNを、N回目の測定ごとにとり、差分subNを全て加算したのち高速フーリエ変換(FFT)を施して代謝物質のスペクトルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝物質のスペクトルを測定する磁気共鳴イメージング装置及びスペクトル取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気共鳴現象を利用したMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置が普及しており、生体内の各臓器の画像診断に不可欠な手法として広く利用されている。
MRI装置は、臓器や血管等を画像として捉えることが出来るだけでなく、その高磁場装置によって各種の生体内代謝物質のスペクトルを測定する磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)を可能にする。
【0003】
MRSによって測定する代謝物質は、例えば、グルタチオン(GSH:glutathione)やγ−アミノ酪酸(GABA:gamma aminobutyric acid)等の脳内代謝物質が挙げられる。
体内の代謝物質をMRSによって測定する場合、特に磁気共鳴周波数が近接する上記のような複数の代謝物質では、スペクトルが重なり合って存在しており、これら複数の代謝物質が混在するスペクトルから特定の代謝物質のみスペクトルを分離抽出するためには困難が伴う。これを克服するために、特殊なパルスシーケンスや解析ソフト等を用意する必要がある。
【0004】
MRSで用いられるパルスシーケンスには、非特許文献1に記載された、MEGA−PRESS法というパルスシーケンスがあげられる。
MEGA−PRESSは、図7に示すように、90°パルスに続いて、180°パルス、180°反転パルス、180°パルス、180°反転パルスを発するパルスシーケンスである。図7に示すように、90°パルスと1回目の180°パルスとの間の時間はτ1であり、1回目の180°パルスと2回目の180°パルスとの間はτ1+τ2であり、2回目の180°パルスが発されてからエコー信号が得られるまでの時間はτ2である。
MEGA−PRESS法では、180°反転パルスを発する第1のパルスシーケンスと、180°反転パルスを発さない第2のパルスシーケンスとが交互に実施される。
180°反転パルスは、そのパルスの周波数帯域に含まれる水や脂肪等からの信号を抑えることができ、その結果MEGA−PRESS法によればSN値の高い信号を得ることができる。
【非特許文献1】“Measurement of Reduced Glutathione(GSH) in Human Brain Using LCModel Analysis of Difference−Edited Spectra”,by Melissa Terpstra,Pierre−Gilles Henry, and Rolf Grueter, Magnetic Resonance in Medicine 50, p.19−23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまでの方法では、代謝物質が生体内に僅かしか存在しないために、スペクトルのSN値が低く、精度のよいスペクトルを得るために、スペクトルの加算平均化を行う。そのため、生体の動きや静磁場の変動、それに伴う位相の変動等によるドリフトが問題になる、という不利益があった。
また、精度のよいスペクトルを得ることが出来たとしても、その後に差分をとるために、煩雑な計算を行わなければならない、という不利益があった。
本発明は、上述した不利益を解消するために、差分スペクトルをとって代謝物を測定する際に、良好なスペクトルをとる磁気共鳴イメージング装置及びスペクトル取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的の達成するために、第1の観点の発明の磁気共鳴イメージング装置は、MEGA−PRESS法のパルスシーケンスを実施する磁気共鳴イメージング装置であって、MEGA−PRESS法の第1のパルスシーケンスとMEGA−PRESS法の第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する制御部と、前記第1および第2のパルスシーケンスにおいて、被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部と、を有し、前記制御部は、180°反転パルスを発する第1のパルスシーケンスと、180°反転パルスを発しない第2のエコー時間を有する第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御し、前記データ処理部は、前記第1のパルスシーケンスに対する第1のスペクトルと前記第2のパルスシーケンスに対する第2のスペクトルとを取得し、前記前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとの差分をとることにより前記被検体に関するスペクトルイメージを得る。
【0007】
好適には、前記データ処理部は、前記第1及び前記第2のスペクトルの差分を加算平均する。
【0008】
好適には、前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対してピーク検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分のピークに合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する。
【0009】
好適には、前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対して位相検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分の位相に合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する。
【0010】
好適には、前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対してピーク検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分のピークに合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均し、更に前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対して位相検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分の位相に合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する。
【0011】
好適には、前記データ処理部は、前記第2のパルスシーケンスからの磁気共鳴信号を位相を反転させて受信することで正負反転した第2のスペクトルを取得し、前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとを加算することでスペクトル差分を得る。
【0012】
第2の観点の発明のスペクトル取得方法は、MEGA−PRESS法のパルスシーケンスを実施する磁気共鳴イメージング装置のスペクトル取得方法であって、制御部が第1の工程と、データ処理部が被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部とを有し、MEGA−PRESS法の第1のパルスシーケンスとMEGA−PRESS法の第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する制御部が、180°反転パルスを発する第1のパルスシーケンスと、180°反転パルスを発しない第2のエコー時間を有する第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する第1の工程と、前記第1および第2のパルスシーケンスにおいて、被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部が、前記第1のパルスシーケンスに対する第1のスペクトルと前記第2のパルスシーケンスに対する第2のスペクトルとを取得し、前記前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとの差分をとることにより前記被検体に関するスペクトルイメージを得る第2の工程とを有する。
【0013】
好適には、前記第1及び前記第2のスペクトルの差分を加算平均する第3の工程を更に有する。
【発明の効果】
【0014】
差分スペクトルをとって代謝物を測定する際に、良好なスペクトルをとる磁気共鳴イメージング装置及びスペクトル取得方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、磁気共鳴診断装置1の構成を示す構成図である。
【0016】
図1に示すように、磁気共鳴診断装置1は、スキャン部2と、操作コンソール部3とを有する。
【0017】
スキャン部2について説明する。
【0018】
スキャン部2は、図1に示すように、静磁場マグネット部12と、勾配コイル部13と、RFコイル部14と、テーブル部15とを有しており、静磁場が形成された撮像空間内において、被検体SUの撮影領域を励起するように被検体SUに電磁波を照射し、その被検体SUの撮影領域において発生する磁気共鳴信号を得るスキャンを実施する。
【0019】
スキャン部2の各構成要素について、順次、説明する。
【0020】
静磁場マグネット部12は、たとえば、一対の永久磁石により構成されており、被検体SUが収容される撮像空間に静磁場を形成する。ここでは、静磁場マグネット部12は、被検体SUの体軸方向に対して垂直な方向Zに静磁場の方向が沿うように静磁場を形成する。なお、静磁場マグネット部12は、超伝導磁石により構成されていてもよい。
【0021】
勾配コイル部13は、静磁場が形成された撮像空間に勾配磁場を形成し、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号に空間位置情報を付加する。ここでは、勾配コイル部13は、x方向とy方向とz方向との3系統からなり、撮像条件に応じて、周波数エンコード方向と位相エンコード方向とスライス選択方向とのそれぞれに勾配磁場を形成する。具体的には、勾配コイル部13は、被検体SUのスライス選択方向に勾配磁場を印加し、RFコイル部14がRFパルスを送信することによって励起させる被検体SUのスライスを選択する。また、勾配コイル部13は、被検体SUの位相エンコード方向に勾配磁場を印加し、RFパルスにより励起されたスライスからの磁気共鳴信号を位相エンコードする。そして、勾配コイル部13は、被検体SUの周波数エンコード方向に勾配磁場を印加し、RFパルスにより励起されたスライスからの磁気共鳴信号を周波数エンコードする。
【0022】
RFコイル部14は、図1に示すように、被検体SUの撮像領域を囲むように配置される。RFコイル部14は、静磁場マグネット部12によって静磁場が形成される撮像空間内において、電磁波であるRFパルスを被検体SUに送信して高周波磁場を形成し、被検体SUの撮像領域におけるプロトンのスピンを励起する。そして、RFコイル部14は、その励起された被検体SU内のプロトンから発生する電磁波を磁気共鳴信号として受信する。
【0023】
テーブル部15は、被検体SUを載置する台を有する。テーブル部15は、制御部30からの制御信号に基づいて、撮像空間の内部と外部との間を移動する。
【0024】
操作コンソール部3について説明する。
【0025】
操作コンソール部3は、図1に示すように、RF駆動部22と、勾配駆動部23と、データ収集部24と、制御部30と、データ処理部31と、操作部32と、表示部33と、記憶部34とを有する。
【0026】
操作コンソール部3の各構成要素について、順次、説明する。
【0027】
RF駆動部22は、RFコイル部14を駆動させて撮像空間内にRFパルスを送信させて高周波磁場を形成する。RF駆動部22は、制御部30からの制御信号に基づいて、ゲート変調器を用いてRF発振器からの信号を所定のタイミングおよび所定の包絡線の信号に変調した後に、そのゲート変調器により変調された信号を、RF電力増幅器によって増幅してRFコイル部14に出力し、RFパルスを送信させる。
【0028】
勾配駆動部23は、制御部30からの制御信号に基づいて、勾配パルスを勾配コイル部13に印加して駆動させ、静磁場が形成されている撮像空間内に勾配磁場を発生させる。勾配駆動部23は、3系統の勾配コイル部13に対応して3系統の駆動回路(図示なし)を有する。
【0029】
データ収集部24は、制御部30からの制御信号に基づいて、RFコイル部14が受信する受信信号(受信エコー)を収集する。ここでは、データ収集部24は、RFコイル部14が受信する受信エコーをRF駆動部22のRF発振器の出力を参照信号として位相検波器が位相検波する。その後、A/D変換器を用いて、このアナログ信号である受信エコーをデジタル信号に変換して出力する。
【0030】
制御部30は、コンピュータと、コンピュータを用いて所定のスキャンに対応する動作を各部に実行させるプログラムとを有しており、各部を制御する。
制御部30は、操作部32からの操作データが入力され、その操作部32から入力される操作データに基づいて、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに、所定のスキャンを実行させる制御信号を出力し制御を行うと共に、データ処理部31と表示部33と記憶部34とへ制御信号を出力し制御を行う。
【0031】
制御部30は、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24とのそれぞれに、所定のスキャンを実行させる制御信号を出力し制御を行う際に、例えば、図8に示すMEGA−PRESS法のパルスシーケンスを使用する。制御部30は、2つの異なるパルスシーケンスを交互に実施し、それぞれのパルスシーケンスにおいて測定を行う。
【0032】
データ処理部31は、コンピュータと、そのコンピュータに所定のデータ処理を実行させるプログラムとを有しており、データ収集部24が出力した受信エコーを逆フーリエ変換することにより、被検体内の限定された領域に存在する代謝物質、例えば、グルタチオン(GSH)やγ−アミノ酪酸(GABA)のスペクトルを取得する。
また、データ処理部31は、上述したように、制御部30に異なるパルスシーケンスを交互に実施させて測定を行い、これらの差分を算出する。
【0033】
操作部32は、キーボードやポインティングデバイスなどの操作デバイスにより構成されている。操作部32は、オペレータによって操作データが入力され、その操作データを制御部30に出力する。
【0034】
表示部33は、CRTなどの表示デバイスにより構成されており、制御部30からの制御信号に基づいて、表示画面に画像を表示する。たとえば、表示部33は、オペレータによって操作部32に操作データが入力される入力項目についての画像を表示画面に複数表示する。また、表示部33は、スペクトルのデータをデータ処理部31から受け、表示画面に表示する。
【0035】
記憶部34は、メモリにより構成されており、各種データを記憶している。記憶部34は、その記憶されたデータが必要に応じて制御部30によってアクセスされる。
【0036】
次に、本実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を説明する。
図2は、第1実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
ステップST1:
データ処理部31は、図8に示すMEGA−PRESS法のパルスシーケンスにより、データ収集対象の代謝物質のスペクトルを収集する。
ここで、制御部30は、2つの異なるパルスシーケンスを交互に繰り返す。すなわち、例えば、図8(a)に示すように、90°パルス、180°パルス、180°反転パルス、180°パルス、180°反転パルスの順に発する第1のパルスシーケンスと、図8(b)に示すように、90°パルス、180°パルス、180°パルスを発する第2のパルスシーケンスとを交互に複数回繰り返し、それぞれのパルスシーケンスに対してスペクトルを収集する。こうして収集したスペクトルを、第1のパルスシーケンスに対するスペクトルをs1N(Nは正整数であり、何回目の測定で取得したスペクトルかを表す)第2のパルスシーケンスに対するスペクトルをs2Nと表す。
本ステップにおいてデータ処理部31は、すなわち、s11、s21、s12、s22、s13、s23…の順にスペクトルを取得する。
【0037】
ステップST2:
データ処理部31は、図3(b)の1.に示すように、s11−s21、s12−s22、s13−s23…のように、交互にとった2通りのパルスシーケンスに対するスペクトルの差分を、N回目の測定ごとにとる。
図3は、データ処理部31が行うスペクトル処理の方法を示す式を示す図である。
図3では、N回目の測定で取得したスペクトルの差分s1N−s2NをsubNと表している。
【0038】
ステップST3:
データ処理部31は、図3(b)の2.に示すように、ステップST2において算出した差分subNを全て加算したのち高速フーリエ変換(FFT)を施す。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の磁気共鳴診断装置1によれば、異なる2つのパルスシーケンスを交互に行い、それぞれのシーケンスで取得したスペクトル差分s1N及びs2Nを、図3(a)に示す従来の方法のように、同じパルスシーケンスに対するスペクトルを加算平均してから差分をとるのではなく、図3(b)に示すように、連続して取得した2つの異なるシーケンスに対するスペクトルの差分を、測定回数ごとに計算し、その後で加算平均を行っているので、s1Nを取得してからs2Nを取得するまでの時間(繰り返し時間TR(Repetition Time))が従来の方法よりも短く、被検体の動きに起因するドリフトはある程度長いスパンで起こるので、繰り返し時間TRから見ると殆ど無視でき、従って被検体の動きに起因するドリフトを抑えることができる。
【0040】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態において、ステップST2でスペクトルの差分をとるところまでは同様であり、それ以後のスペクトル処理の方法が異なる。
以下、第2実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を説明する。
図4は、第2実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0041】
ステップST11:
図2における第1実施形態のステップST1と同様に、データ処理部31は、スペクトルを収集する。
ステップST12:
図3(c)の1.に示すように、図2における第1実施形態のステップST1と同様に、データ処理部31は、スペクトルの差分subNをとる。
【0042】
ステップST13:
図3(c)の2.に示すように、データ処理部31は、ステップST12で得たそれぞれのスペクトル差分subNに対して高速フーリエ変換を施す。
ステップST14:
図3(c)の3.に示すように、データ処理部31は、ステップST13で得た各スペクトルのピークを検出する。
【0043】
ステップST15:
図3(c)の4.に示すように、データ処理部31は、ステップST14で得たFFT(sub2)以降のピークを示す周波数と、FFT(sub1)のピークを示す周波数とを合わせる。ピークを示す周波数を合わせる方法については、本発明では限定しない。
ステップST16:
図3(c)の5.に示すように、データ処理部31は、ステップST15で得た、ピークを移動させた2回目以降の測定で得たスペクトル差分と、基準とした1回目の測定で得たスペクトル差分を加算する。
【0044】
以上説明したように、第2実施形態の磁気共鳴診断装置1によれば、ステップST15に示すように、2回目以降の測定で得たスペクトル差分のピークを示す周波数を、1回目の測定で得たスペクトル差分のピークを示す周波数に合わせ、更に加算平均をとっているので、周波数ドリフトを補正することができる。
【0045】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態において、ステップST2でスペクトルの差分をとるところまでは同様であり、それ以後のスペクトル処理の方法が異なる。
以下、第3実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を説明する。
図5は、第3実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0046】
ステップST21:
図2における第1実施形態のステップST1と同様に、データ処理部31は、スペクトルを収集する。
ステップST22:
図3(d)の1.に示すように、図2における第1実施形態のステップST1と同様に、データ処理部31は、スペクトルの差分subNをとる。
【0047】
ステップST23:
図3(d)の2.に示すように、データ処理部31は、1回目の測定の差分sub1の位相を検出する。
ステップST24:
図3(d)の3.に示すように、データ処理部31は、ステップST23で得た1回目の測定で得た差分sub1の位相を基準として、2回目以降の測定で得た差分sub2以降の位相を1回目の測定で得た差分sub1の位相に合わせる。
この位相補正の方法に関しては、例えば、"Adaptive technique for high-definition MR imaging of moving structures." Ehman RL, Felmlee JP .Radiology. 1989;173(1):255-63.に記載された方法があるが、本発明ではこれを限定しない。
【0048】
ステップST25:
図3(d)の4.に示すように、データ処理部31は、ステップST24で位相補正を行った2回目以降の測定のスペクトル差分と1回目の測定で得たスペクトル差分とを加算し、高速フーリエ変換を施す。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の磁気共鳴診断装置1では、ステップST24に示したように、2回目以降の測定で得たスペクトル差分の位相を1回目の測定で得たスペクトル差分の位相に合わせて位相補正を行う。本来、本実施形態の磁気共鳴診断装置1では、スペクトルの差分をとっているために位相誤差はなくなる筈であるが、長い時間測定を行うと次第にゼロ位相がずれることがある。本実施形態の磁気共鳴診断装置1では、こうした不利益を解消することができる。
【0050】
<第4実施形態>
第4実施形態の磁気共鳴診断装置1について説明する。
第4実施形態の磁気共鳴診断装置1は、スペクトルの取得の仕方が第1実施形態と異なる。
以下、第4実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を説明する。
図6は、第4実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0051】
ステップST:31
図3(e)の1.に示すように、データ処理部31は、第2のパルスシーケンスに対するスペクトルを取得する際に、位相を反転、すなわち180度ずらして取得する。つまり、この方法で得られるスペクトルは、位相が反転していない場合と比較して正負が逆転している。ここで、図3(e)の1.では、得られるスペクトルを−s2N(Nは測定の回数を表す)と表している。
なお、第1のパルスシーケンスに対するスペクトルの取得は、第1実施形態と同様に行い、これをs1Nと表している。
【0052】
ステップST32:
データ処理部31は、図3(e)の2.に示すように、ステップST31において取得したスペクトルを、N回目に測定したスペクトルごとに加算する。第2のパルスシーケンスに対するスペクトルの符号は反転しているので、実質的には、N回目に測定したスペクトルごとに差分subNをとっていることになる。
【0053】
ステップST33:
データ処理部31は、図3(e)の3.に示すように、ステップST32において算出した差分subNを全て加算したのち高速フーリエ変換(FFT)を施す。
【0054】
以上説明したように、第4実施形態の磁気共鳴診断装置1では、異なる2つのパルスシーケンスを交互に行い、それぞれのシーケンスで取得したスペクトル差分s1N及び−s2Nを、連続し手取得した2つの異なるシーケンスに対するスペクトルを、測定回数ごとに、実質的には差分をとっているので、データ処理の結果としては第1実施形態と同様である。しかし、第4実施形態の磁気共鳴診断装置1では、第2のパルスシーケンスに対するスペクトルを位相を反転して取得しているため、当該スペクトルの正負が逆転し、第1実施形態においてスペクトルの差分計算を行うステップST2の代わりにスペクトルの加算計算を行うステップST32が実行される。このため、通常の加算平均と同じ処理でスペクトルの差分を得ることができ、データ処理部31にデータ処理を行わせるためのプログラムやソフト等に従来のものを利用することができるようになる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の磁気共鳴診断装置1によれば、異なる2つのパルスシーケンスを交互に行い、それぞれのシーケンスで取得したスペクトル差分s1N及びs2Nを、連続して取得した2つの異なるシーケンスに対するスペクトルの差分を、測定回数ごとに計算し、その後で加算平均を行っているので、s1Nを取得してからs2Nを取得するまでの時間が従来の方法よりも短く、被検体の動きに起因するドリフトを抑えることができる。
【0056】
また、2回目以降の測定で得たスペクトル差分のピークを示す周波数を、1回目の測定で得たスペクトル差分のピークを示す周波数に合わせ、更に加算平均をとるので、周波数ドリフトを補正することができる。
【0057】
また、2回目以降の測定で得たスペクトル差分の位相を1回目の測定で得たスペクトル差分の位相に合わせて位相補正を行うため、長い時間測定を行うことによって次第にゼロ位相がずれることがあるという不利益を解消することができる。
【0058】
更に、第2のパルスシーケンスに対するスペクトルを位相を反転して取得するので、当該スペクトルの正負が逆転し、差分計算の代わりに加算計算を行うことができる。このため、通常の加算平均と同じ処理でスペクトルの差分を得ることができ、データ処理部31にデータ処理を行わせるためのプログラムやソフト等に従来のものを利用することができるようになる。
【0059】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
【0060】
なお、本実施形態ではプロトンのスペクトルを測定する磁気共鳴イメージング装置について説明したが、例えば、リンや炭素を測定対象にした磁気共鳴イメージング装置にも適用可能である。
また、第2実施形態で説明した周波数補正及び第3実施形態で説明した位相補正は、同時に行ってもよいし、片方のみを実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、磁気共鳴診断装置1の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、第1実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、データ処理部31が行うスペクトル処理の方法を示す式を示す図である。
【図4】図4は、第2実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、第3実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、第4実施形態の磁気共鳴診断装置1の動作例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、MEGA−PRESS法のパルスシーケンスを説明するための図である。
【図8】図8は、第1および第2のパルスシーケンスを説明するための図である。
【符号の説明】
【0062】
1…磁気共鳴診断装置、2…スキャン部、3…操作コンソール部、12…静磁場マグネット部、13…勾配コイル部、14…コイル部、15…テーブル部、22…駆動部、23…勾配駆動部、24…データ収集部、30…制御部、31…データ処理部、32…操作部、33…表示部、34…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEGA−PRESS法のパルスシーケンスを実施する磁気共鳴イメージング装置であって、
MEGA−PRESS法の第1のパルスシーケンスとMEGA−PRESS法の第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する制御部と、
前記第1および第2のパルスシーケンスにおいて、被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部と、
を有し、
前記制御部は、180°反転パルスを発する第1のパルスシーケンスと、180°反転パルスを発しない第2のエコー時間を有する第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御し、
前記データ処理部は、前記第1のパルスシーケンスに対する第1のスペクトルと前記第2のパルスシーケンスに対する第2のスペクトルとを取得し、前記前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとの差分をとることにより前記被検体に関するスペクトルイメージを得る
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ処理部は、前記第1及び前記第2のスペクトルの差分を加算平均する
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対してピーク検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分のピークに合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対して位相検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分の位相に合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対してピーク検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分のピークに合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均し、
更に前記データ処理部は、複数回収集した前記前記第1および前記第2のスペクトルの差分に対して位相検出を行い、2回目以降に収集したスペクトル差分を1回目に収集したスペクトル差分の位相に合わせた後、全てのスペクトル差分を加算平均する
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記第2のパルスシーケンスからの磁気共鳴信号を位相を反転させて受信することで正負反転した第2のスペクトルを取得し、前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとを加算することでスペクトル差分を得る
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
MEGA−PRESS法のパルスシーケンスを実施する磁気共鳴イメージング装置のスペクトル取得方法であって、
制御部が第1の工程と、
データ処理部が被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部と
を有し、
MEGA−PRESS法の第1のパルスシーケンスとMEGA−PRESS法の第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する制御部が、180°反転パルスを発する第1のパルスシーケンスと、180°反転パルスを発しない第2のエコー時間を有する第2のパルスシーケンスとを交互に実施するように制御する第1の工程と、
前記第1および第2のパルスシーケンスにおいて、被検体の特定領域内に存在する特定の原子が励起されて発する電磁波として収集された磁気共鳴信号を処理し、スペクトルを取得するデータ処理部が、前記第1のパルスシーケンスに対する第1のスペクトルと前記第2のパルスシーケンスに対する第2のスペクトルとを取得し、前記前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとの差分をとることにより前記被検体に関するスペクトルイメージを得る第2の工程と
を有するスペクトル取得方法。
【請求項8】
前記第1及び前記第2のスペクトルの差分を加算平均する第3の工程
を更に有する請求項7に記載のスペクトル取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−159928(P2007−159928A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362256(P2005−362256)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】