説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】ECG同期法を使用することに伴う被検体の負担を軽減し、画質の低下を防止し、さらに、患者スループットの低下を防止することができる非造影MRA用の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、被検体に対して位相コントラスト法を用いた測定スキャンを行って磁気共鳴信号を収集し、収集した前記磁気共鳴信号から前記被検体の各心時相に対する血流速度を表すデータを取得する心時相推定手段と、前記データによって定められる心時相で前記被検体に対する非造影MRAイメージングを行うイメージング手段と、前記非造影イメージングによって収集された磁気共鳴信号から前記被検体の磁気共鳴画像を再構成する再構成手段と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用の磁気共鳴イメージング装置に関し、とくに、心電同期(ECG)装置自体を用いないが、実質的に心電同期トリガースキャンのもとで非造影MRA(MR Angiography)を行なうことができる磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴(MR)イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをそのラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号を用いて画像を再構成する撮像法である。この撮像法を実施する磁気共鳴イメージング装置は、いまや、必須の医用モダリティになっている。
【0003】
この磁気共鳴イメージングによる医用画像診断では、被検体の血管像を描出するMRAが重要な撮像法の一つになっている。このMRAは、その一つの分類法として、造影剤を被検体に投与して行うか否かに応じて、造影MRAか非造影MRAかに分かれる。
【0004】
造影MRAは、被検体に造影剤を投与してMRスキャンを実施する撮像法であるが、造影剤を投与するためには被検体に侵襲的な処置が必要であるので、患者の精神的かつ体力的な負担が大きい。また、検査コストも高い。さらに、患者の体質などによっては造影剤を投与できない場合もある。このため、臨床的には非造影MRAが望まれる。
【0005】
この非造影MRAの1つに、血液中の水成分を反映させる非造影MRA法がある。このカテゴリーに入る手法としては、特許文献1に見られるように、血液のT2緩和時間のボケ(Blurring)効果を利用して流速の比較的速い肺血管を描出するSPEED(Swap Phase Encode Extended Data)法や、特許文献2に見られるように、ECG同期法を用いて心臓から拍出される血液を、血流速が比較的安定した時相でスキャンするFBI(Fresh Blood Imaging)法がある。
【0006】
SPEED法やFBI法は、FSE(Fast SE)法をベースにしているため、エコー相互間で発生する被検体の動きのデータ収集に与える影響が大きく変動すると、再構成された画像上にゴーストを発生し易くなり、画質が劣化する。このため、血流速度が安定した時相でスキャンすることが重要である。特に動脈を描出する場合、血液の流速の比較的遅い時相(心周期のうちの拡張期)でスキャンする必要がある。したがって、ECG同期法の併用は不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−338409号公報
【特許文献2】特開平11−47115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の公報に見られるように、ECG同期法を必須とする非造影MRAの場合、心電同期装置の信号検出用の複数の電極を被検体に貼る必要があることから、この電極設置に伴う未解決の課題が指摘されていた。つまり、磁気共鳴イメージングの準備する操作者にとって、被検体の体表に電極を複数個、貼る作業がかなりの負担になること、被検体である患者にとっても、電極が貼られるということへの精神的負担、物理的な負担が増えことがある。さらには、この電極が検出するECG信号にスキャン用の傾斜磁場の信号が重畳することがあり、検出したECG信号の波形の乱れの原因になる恐れがあった。ECG波形の乱れが大きくなると、R波の検出が困難になることもある。これに因り、再構成される画像の画質が低下することがあるほか、セッティングやスキャンのやり直し等に因って磁気共鳴イメージングのスキャン時間が必要以上に長くなって患者スループットが低下するという状況にあった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した従来のECG同期法に拠る非造影MRAが抱える未解決の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、被検体に対して位相コントラスト法を用いた測定スキャンを行って磁気共鳴信号を収集し、収集した前記磁気共鳴信号から前記被検体の各心時相に対する血流速度を表すデータを取得する心時相推定手段と、前記データによって定められる心時相で前記被検体に対する非造影MRAイメージングを行うイメージング手段と、前記非造影イメージングによって収集された磁気共鳴信号から前記被検体の磁気共鳴画像を再構成する再構成手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置によれば、従来のECG同期法に拠る非造影MRAが抱える未解決の問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気共鳴イメージング装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】第1の実施の形態で採用した測定スキャン、準備用スキャン、及びイメージングスキャンの時系列順を説明する図。
【図3】ホスト計算機により実行されるスキャンのための処理を示す概略フローチャート。
【図4】心室内の血流速度とモニタスキャン及びデータ収集との関係を説明する図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る磁気共鳴イメージング装置で用いる心拍計測用の専用のコイルユニットを説明する斜視図。
【図6】第2の実施の形態に係る磁気共鳴イメージング装置の概略構成を示すブロック図。
【図7】第2の実施の形態における測定用スキャンとイメージングスキャンの実行タイミングを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1〜4を参照して、本発明の係る磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴信号の収集方法の第1の実施の形態を説明する。
【0015】
この第1の実施の形態における磁気共鳴イメージング(MRI)装置の概略構成を図1に示す。
【0016】
この磁気共鳴イメージング装置は、被検体Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部とを備えている。
【0017】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の軸方向(Z軸方向)に静磁場Hを発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
【0018】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はまた、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサ5の制御のもとで、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0019】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を制御することにより、物理軸である3軸(X軸,Y軸,Z軸)方向の傾斜磁場を合成して、互いに直交するスライス方向傾斜磁場G、位相エンコード方向傾斜磁場G、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Gから成る論理軸方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は静磁場Hに重畳される。
【0020】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設されるRFコイル7と、このコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。この送信器8T及び受信器8Rは、後述するシーケンサ5の制御のもとで動作する。この動作により、送信器8Tは、核磁気共鳴(NMR)を励起させるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する。受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を取り込み、これに前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリングなどの各種の信号処理を施した後、A/D変換してMR信号のデジタルデータ(原データ)を生成する。
【0021】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、入力器13、及び音声発生器16を備える。この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順(図示せず)により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、装置全体の動作を統括する機能を有する。
【0022】
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの動作を制御するとともに、受信器8Rが出力したMR信号のデジタルデータを一旦入力し、これを演算ユニット10に転送するように構成されている。ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。
【0023】
このパルスシーケンスとしては、2次元(2D)スキャンまたは3次元スキャン(3D)のものであり、またそのパルス列の形態としては、FE(グラジェントエコー)法、FFE(高速FE)法、SE(スピンエコー)法、FSE(高速SE)法、FASE(Fast Asymmetric SE)法、EPI(Echo Planar Imaging)法など各種の形態のものを、さらには、これらの手法に基づくパルス列をセグメンティド法で実施する形態をも採用できる。
【0024】
また、演算ユニット10は、受信器8Rが出力したデジタルデータ(原データ又は生データとも呼ばれる)を、シーケンサ5を通して入力し、その内部メモリによる2次元又は3次元のk空間(フーリエ空間または周波数空間とも呼ばれる)にそのデジタルデータを配置し、このデータを1組毎に2次元または3次元のフーリエ変換に付して実空間の画像データに再構成する。また、演算ユニットは、必要に応じて、画像に関するデータの合成処理や差分演算処理も実行可能になっている。この合成処理には、画素毎に加算する処理、最大値投影(MIP)処理などが含まれる。また、上記合成処理の別の例として、フーリエ空間上で複数フレームの軸の整合をとって原データのまま1フレームの原データに合成するようにしてもよい。なお、加算処理には、単純加算処理、加算平均処理、重み付け加算処理などが含まれる。
【0025】
記憶ユニット11は、再構成された画像データのみならず、上述の合成処理や差分処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は例えば再構成画像を表示するのに使用される。また入力器13を介して、術者が希望するパラメータ情報、スキャン条件、パルスシーケンス、画像合成や差分の演算に関する情報などをホスト計算機6に入力できる。
【0026】
音声発生器16は、ホスト計算機6から指令があったときに、息止め開始および息止め終了のメッセージを音声として発することができる。
【0027】
本実施の形態では、ECG(心電図)計測装置を実際に用いて被検体からECG信号を得るという構成は採用していないが、擬似的に、心電同期に拠るイメージングスキャンを行うようになっている。このためには、被検体の心時相を推定することができる指標となる信号或いは情報を得る必要がある。このような信号或いは情報として、本発明の場合、心室内を流れる血流速度の変化(つまり、血流のスピンの位相シフト量の変化)、心臓(心室)から得られるMR信号値の変化、心室の大きさの変化などを用いる。以下の説明では、被検体の心時相を推定するための指標として、心室内を流れる血流速度の変化を用いることとする。つまり、本実施の形態では、この血流速度の周期的な変化を示すデータを用いて、擬似的に、心電同期法によるイメージングを実行できる。
【0028】
このホスト計算機6は、イメージングに際して、図2に示すように、測定スキャン、準備用スキャン、及びイメージングスキャンをこの順に行なう。イメージングスキャンには、モニタスキャンが含まれる。
【0029】
測定スキャンは、被検体の心時相の指標となる心室内の血流速度との関係を予め測定して心周期の拡張期の時期を判断するためのスキャンである。本実施の形態では、位相コントラスト法(PC)法を用いて心室の長軸に沿って血流の速度エンコードを行ない、かかる長軸上の所望のROI位置における血流速度の変化を連続して測定し、その血流速度の各心時相(すなわち心周期の各タイミング)に沿った変化を表すデータを得る。このスキャンによって得られた血流速の変化データから心周期を成す収縮期及び拡張期がどの流速値の時期であるのか判別される。この結果、拡張期の時期が一定の基準位置(例えば、変化データを示す波形が繰り返すピーク値)からの時間として特定される。
【0030】
なお、この測定スキャンは、必ずしもイメージングのときに常に実施する必要はなく、イメージングよりも前に測定できていればよい。しかしながら、本実施の形態では、かかる血流速度の変化から心時相の変化を推定するものであるため、実際の被検体の心時相を極力正確に推定する観点からも、なるべく実際のイメージングのときに直前で実施することが望ましい。
【0031】
準備用スキャンは、血流速度の周期的な変化のうちの拡張期を含む、指定した複数の時相で行う血流描出確認用のスキャンである。すなわち、かかる複数の時相で2次元スキャンを行って2次元の画像を複数枚、再構成して表示器12に表示させる。この準備用スキャンには、このスキャンを開始タイミングである時相を検出のためのPC法による血流測定のスキャンも含まれる。
【0032】
この準備スキャンを2次元スキャンで済ます理由は、このスキャンが血流の描出度合いを確認するためだけに使用することに拠る。このため、2次元で行った方がスキャン時間を短くすることができる。また、この準備用スキャンで使用するパルスシーケンスの種類は、イメージングスキャンで使用するものと同一にすることが望ましい。その方が、血流の描出具合をより実際のイメージングに近い状態で観察することができるからである。さらに、この準備用スキャンは、後述するイメージングスキャンで撮像する部位と同一部位又は同一の所望領域を含む部位に対して実行することが好ましい。
【0033】
準備用スキャンで得られた複数枚の画像は表示器12に表示され、一例として、術者の目視確認に供せられる。このため、術者は、観察対象の血流が最もコントラスト良く描出されている画像を入力器13から指定することになる。これにより、かかる指定情報はホスト計算機6に与えられるので、ホスト計算機6は、指定された画像が、血流速度の変化データのうちのどの値(すなわち、どの心時相)で収集されたものであるかを認識することができる。つまり、ホスト計算機6は、かかる準備用スキャンを通して、心周期のうちの拡張期における特定の時相を、血流速度の設定値として保持することができる。
【0034】
このようにして設定した血流速度の設定値は、ECG波形において基準波としての例えばR波からの特定の遅延時間に相当する量として機能する。このため、この設定値を与えることで、イメージングスキャンを拡張期における一定の心時相(すなわちデータ収集タイミング)にて開始させることができる。
【0035】
なお、この準備用スキャンは必ずしも必須ではなく、この準備スキャンを実行せずに、術者が経験値や過去の診断などから所望の値、すなわち所望の血流速度値を入力器13から指定するようにしてもよい。また、そのような指定と準備用スキャンとの何れかをその都度、選択可能にしてもよい。
【0036】
このように準備が済むと、イメージングスキャンを実行することができる。イメージングスキャンによりデータ収集(本スキャン)を行なうには、上述した拡張期における所望の一定の心時相(血流速度の設定値)を検出する必要がある。これを検出するために、データ収集に先立ってモニタスキャンが開始される。このモニタスキャンは、一定時間(例えば100msec)毎に例えば位相コントラスト(PC)法に拠るパルス列を心室長軸に沿って速度エンコードすることで実行される。これにより、一定時間毎に心室内の所望のROI部分の血流速度の値が得られる。この速度値は予め記憶している血流速度の設定値(すなわち上述のように設定したデータ収集タイミング)と比較される。この比較によって、両者が一致した又は一致したと見做す判定がなされた場合に、データ収集が開始される。このデータ収集は、3次元のパルスシーケンスを用いて実行される。
【0037】
次に、本実施の形態にかかる全体的な作用及びその効果を説明する。
【0038】
いま、図2に示すように、イメージングスキャンに先立って、測定スキャン及び準備用スキャンを実行するものとする。
【0039】
そこで、ホスト計算機6は、図3に示す概要の処理を順次行って、測定スキャン、準備用スキャン、及びイメージングスキャンを実行する。
【0040】
ホスト計算機6は、最初に、術者が測定スキャンの実行を指令しているか否かを入力器13からの入力情報に基づいて判断する(ステップS1)。かかる指令がなされた場合、シーケンサ5に所定のパルスシーケンス情報を与えて、被検体の心室に対する前述した測定スキャンを実行させる(ステップS2)。これにより、血流スピンの位相シフト量の検出を通して、例えば図4(A)に示すように心室の所望位置おける血流速度の変化データが得られる。
【0041】
次いで、ホスト計算機6は、求められた血流速度の変化曲線について、1心周期と共に大体の収縮期及び拡張期を推定する(ステップS3)。この推定のときには、血流速度データが示す流れの向きや心拍数から逆算したRR間隔を参照する。これにより、ホスト計算機6は、血流速度の変化データにおける基準時相(ここでは波形がピークを示すタイミング)と拡張期の時相とを設定し、記憶する(ステップS4)。
【0042】
次いで、ホスト計算機4は、術者が準備用スキャンの実行を指令しているか否かを入力器13からの入力情報に基づいて判断する(ステップS5)。この判断でYESとなる場合、複数回の準備用スキャンの開始の血流速度値などの準備用スキャンの実行に必要なスキャン条件を入力する(ステップS6)。このとき、術者は準備用スキャンの実行タイミングが拡張期にも含まれるように指定することが求められる。
【0043】
この後、かかるスキャン条件の下で、ホスト計算機4からシーケンサ5に準備用スキャンの実行が心室に対して指令される(ステップS7)。この準備用スキャンに伴って、指定された血流速度値の到来を知るために、前述と同様に、PC法により心室内の血流速度が検出される。この検出結果が指定血流速度値を示す度に準備用スキャンが実行される。
【0044】
そして、この1回以上の準備用スキャンにより、1枚以上の心室内の血管描出確認用の2次元画像が表示器12に表示される(ステップS8)。
【0045】
次いで、ホスト計算機6は、表示された画像の中から何れの画像を所望の画像として指定するのか、入力器13を介して与えられる操作情報を待つ(ステップS9)。このため、術者は、表示された1枚以上の画像の中から、通常、血流のコントラストが最も良い画像を所望画像として指定することになる。
【0046】
術者から所望の画像が指定されると、ホスト計算機5は、その画像の収集を指令したときの血流速度値を特定して記憶する(ステップS10)。
【0047】
なお、ステップS5の判断でNO、すなわち準備用スキャンを実行しないとするときには、術者から所望の血流速度値の入力を受け付ける(ステップS11,S12)。
【0048】
次いで、ホスト計算機6は、術者の入力器13を通した操作情報に基づいてイメージングスキャンを実行するか否かを判断しながら待機する(ステップS13)。イメージングスキャンを実行する場合、最初に、一定間隔で実行されるモニタスキャンを開始させる(ステップS14)。このモニタスキャンは前述した如く、PC法を用いて血流スピンの位相シフト量を求め、この位相シフト量を血流速度値に換算することで実行される。
【0049】
ホスト計算機6は、モニタスキャンにより検出された心室の血流速度がステップS10又はステップS11で設定又は指定した、拡張期における血流速度値になったか又はその値と見做せるか近傍値か否かを判定する(ステップS15)。この判定でNOとなるときには、再びモニタスキャンが実行される。このように、準備用スキャンを通して設定した血流速度値又は術者が指定した血流速度値が得られるまで、図4(B)に示す如く、モニタスキャンが繰り返される。
【0050】
このようにモニタスキャンを繰返し実行する中で、血流速度値が設定値又はその近傍値になったと判断されると、ホスト計算機6はシーケンサ5にデータ収集(本スキャン)を開始させる(ステップS16)。この結果、図4(C)に示すように、例えば3次元FASE法に基づくパルスシーケンスが開始され、心室からMR信号が収集される。このMR信号に基づき心臓、腹部、下肢などの種々の部位のMR画像が再構成される。
【0051】
以上のように、本実施の形態によれば、従来の非造影MRAが抱えるECG同期法から派生する未解決の問題を解決することができる。すなわち、ECG測定装置を実際に使用することなく、すなわちECGセンサを被検体に装着することなく、磁気共鳴信号から得られた血流スピンの位相シフト量、すなわち血流速度をECG情報の代替信号として用いる。これにより、かかる代替信号から擬似的に拡張期の心時相を的確に推定することができる。したがって、ECGセンサ(つまり電極)を装着することに伴う被検体にとっての煩わしや負担を軽減する。また、ECGセンサの取り付けに起因した画質の低下を防止し、さらに、患者スループットの低下を防止することができる非造影MRA用磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【0052】
なお、上述した第1の実施の形態において、種々の変形が可能である。例えば、被検体の心時相を推定することができる指標となる信号或いは情報として、心室内を流れる血流速度の変化(つまり、血流のスピンの位相シフト量の変化)に代えて、心臓(心室)から得られるMR信号値の変化や心室の大きさの変化などを用いることができる。かかる信号値は収縮期及び拡張期を通して周期的に変化するし、また心室の大きさも同様である。このため、その周期的な変化情報から拡張期を推定し、且つ、拡張期の所望の時相を前述と同様に設定することにより、それらMR信号値の変化や心室の大きさの変化の情報をECG信号の代替をさせることができる。
【0053】
(第2の実施の形態)
図5乃至7を参照して、本発明の磁気共鳴イメージング装置の第2の実施の形態を説明する。
【0054】
この第2の実施の形態は、心拍計測専用のコイルユニットを用い且つこのコイルユニットで収集されたMR信号の強度から心周期を推定するという特徴を有する。より具体的には、前述した第1の実施の形態に係る磁気共鳴イメージング装置の場合、測定スキャンとして、実際の撮像部位を位相コントラスト法で2次元スキャンしていたが、これに代えて、被検体の腕部(指先、手首、関節部を含む)に心拍計測専用のコイルユニットを装着し、このコイルユニットで腕部から心拍を反映せたMR信号を収集するようにしている。
【0055】
図5(A)〜(C)に、この腕部に装着する心拍計測専用のコイルユニット20の外観を示す。図5(A)に示すように、このコイルユニット20は、その全体が略楕円筒状を成す非磁性体で形成され、かつ、その軸方向に沿って2分割された第1のコイル体20A及び第2のコイル体20Bを備える。この第の1コイル体20A及び第2のコイル体20Bは、例えば被検体の手首にその両側から装着され、図示しない留め具で留められる。これにより、手首の周りに第1及び第2のコイル体20A,20Bが装着される。
【0056】
この第1及び第2のコイル体20A,20Bの夫々には、傾斜磁場コイル21及び受信用のRFコイル22が埋設されている。図5(B)には傾斜磁場コイル21のみを図示し、図5(C)はRFコイル22のみを図示しているが、両コイル体20Aそれぞれに傾斜磁場コイル21及び受信用のRFコイル22が設けることが望ましい。ただし、このコイルユニット20は、拍動に応じて流速が変化する血流からのMR信号のみを検出できれば、それで足りる。このため、傾斜磁場コイル21はその腕部の長手方向に沿った1次元の傾斜磁場を発生させれば十分である。このため、傾斜磁場コイル21は1軸についてのみ装備されている。勿論、直交3軸方向の傾斜磁場コイルを持たせてもよい。
【0057】
また、指(指先)に装着するコイルユニットは、上述したように分割構造にしなくてもよい。円筒状の固定構造にし、指を挿入することで、かかるコイルユニットを装着するようにすればよい。
【0058】
なお、心拍計測用の部位として、本実施の形態では腕部を選択している。これは被検体の心拍を比較的強く反映した血管にアクセスし易いこと、被検体にとっても、この腕部にコイルユニット20を装着することには通常、それほど負担に感じないこと等による。さらに、実際のMRAを行なう撮像部位が胸部や頭部などである場合、この撮像部位に比較的近いことから、拍動をより高精度に検知し易いこともその理由である。
【0059】
図6に、上述したコイルユニット20を用いて測定スキャンを実行する磁気共鳴イメージング装置の全体構成を示す。同図に示すように、前述した第1の実施の形態における傾斜磁場電源4、送信器8T、及び受信器8Rは、準備用スキャン及びイメージングスキャンに使用される。さらに、シーケンサ5の制御下に置かれる、別の傾斜磁場電源24、送信器25T、及び受信器25Rも併設される。この傾斜磁場電源24は、コイルユニット20の傾斜磁場コイル21に接続され、送信器25T及び受信器25Rは、コイルユニット20のRFコイル22に接続される。
【0060】
シーケンサ5は、ホスト計算機6からのパルスシーケンス情報に基づいて、準備用スキャン及びイメージングスキャンのために、第1の実施の形態と同様に、傾斜磁場電源4、送信器8T、及び受信器8Rを制御する。その一方で、併設されている傾斜磁場電源24、送信器25T、及び受信器25Rに対して、測定用スキャンの指示を出す。このため、シーケンサ5は、両スキャンに対する共通するデバイスである。なお、設計に仕方によって、傾斜磁場電源4,24を共通の1台のユニットとして形成し、送信器8T,25Tを1台のユニットとして形成し、さらに、受信器8R,25Rを1台のユニットとして形成してもよい。
【0061】
この測定用スキャンは、一例として、前述したと同様に、フローエンコードパルスを傾斜磁場方向に掛けた位相コントラスト(PC)法で行なう。これにより、信号収集部位からの平均化されたMR信号が収集される。この収集は、フローエンコードパルスの極性を逆にして再度行ない、信号値相互の差分を演算するため、血流、とくに動脈の流れの変化を反映したMR信号が時系列で順次、収集される。この収集の結果、前述した図4(A)と同様の信号変化曲線が得られて、心周期が測定(推定)される。
【0062】
この後、第1の実施の形態と同様に、準備用スキャン及びイメージングスキャンが実行される。準備用スキャンは必ずしも必須ではないことは、第1の実施の形態と同じである。
【0063】
とくに、この第2の実施の形態では、測定用スキャンの実行タイミングはイメージングスキャンに先立つだけではなく、イメージングスキャンと交互に又は並行して実行してもよい。この概念図を図7(A)、(B)に示す。図7(A)に示すように、測定スキャンとイメージングスキャンとを交互に実行することで、測定スキャンは一定時間毎に実行され、その結果がイメージングスキャンに反映される。例えば、イメージングスキャンの最中に、心周期が早まったことが測定スキャンによって判った場合、その早まった分、イメージングスキャンのタイミングを調整するなどの処置をリアルタイムに講じることができる。このような処置は、シーケンサ5に任される。また、図7(B)のように、測定スキャンをイメージングスキャンと並行して常に実行しておいて、定期的に又はイメージングスキャンで必要とするときに、測定スキャンの結果をイメージングスキャンに反映させることができる。この場合も、測定スキャンのリアルタイム性を享受することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によっても、前述した第1の実施の形態で得られたと同様の作用効果を得ることができる。加えて、心拍計測用の専用のコイルユニット20を用いて腕部で測定スキャンを実行するので、傾斜磁場が一次元で済むなど、シーケンス処理を簡略化することができる。第1の実施の形態の場合、測定スキャンを2次元で実行していたので、その違いは大きいものがある。
【0065】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載の要旨を逸脱しない範囲で、さらに適宜に変形した実施可能なものである。
【符号の説明】
【0066】
1 磁石
2 静磁場電源
3 傾斜磁場コイルユニット(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
4 傾斜磁場電源(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
5 シーケンサ(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
6 ホスト計算機(心時相推定手段、再構成手段、第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
7 RFコイル(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
8T 送信器(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
8R 受信器(第1のスキャン手段、第2のスキャン手段、第3のスキャン手段)
10 演算ユニット(心時相推定手段、再構成手段、準備用画像生成手段)
11 記憶ユニット
12 表示器(画像指定手段)
13 入力器(画像指定手段)
20 心拍計測専用のコイルユニット
20A、20B 第1、第2のコイル体
21 傾斜磁場コイル
22 RFコイル
24 傾斜磁場電源
25T 送信器
25R 受信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して位相コントラスト法を用いた測定スキャンを行って磁気共鳴信号を収集し、収集した前記磁気共鳴信号から前記被検体の各心時相に対する血流速度を表すデータを取得する心時相推定手段と、
前記データによって定められる心時相で前記被検体に対する非造影MRAイメージングを行うイメージング手段と、
前記非造影イメージングによって収集された磁気共鳴信号から前記被検体の磁気共鳴画像を再構成する再構成手段と、
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156439(P2011−156439A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119385(P2011−119385)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2005−92783(P2005−92783)の分割
【原出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】