説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】PIとHFIとを併用する場合にデータ処理量またはデータ処理時間を低減させることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、k空間の高周波側の領域以外の領域における磁気共鳴データを複数のコイルを用いて被検体から収集するデータ収集手段と、前記複数のコイルに対応する磁気共鳴データから得られる折り返しのある複数の画像データに対して前記複数のコイルの感度データを用いた展開処理を実行することによって折り返しのない画像データを生成する展開処理手段と、前記折り返しのない画像データをフーリエ変換して得られる前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データを用いてk空間におけるデータの複素対称性を利用したハーフフーリエ法によるデータの補填処理、位相補正処理および前記位相補正処理前後の前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データの重み付け加算処理を繰返し実行して表示用の画像データを生成するデータ処理手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、HFI (Half-Fourier Imaging)を行うことが可能な磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において、HFI法が知られている(例えば特許文献1参照)。HFI法は、k空間におけるデータの複素対称性を利用して、k空間上においてデータが収集されていない領域のデータを、収集されたk空間データに基づいて補填することによって画像化する方法である。
【0004】
また、磁気共鳴イメージングの分野において、複数のコイル要素を用いてデータを受信する高速撮像技術としてPI (parallel imaging)が知られている(例えば特許文献2参照)。PIは、複数のコイル要素を用いてエコーデータを受信し、かつ位相エンコードをスキップさせることによって画像再構成に必要な位相エンコード数を減らす撮像法である。このため、PIによれば撮像時間の大幅な短縮が可能である。具体的には、PIを行う場合には、指定されたマトリクスサイズの半分程度のサイズに対応するデータを収集すれば良いことになる。このため、撮像時間を半分程度に短縮することができる。
【0005】
PIによりエコーデータが収集される場合には、各コイル要素に対応するチャンネルごとの折り返しのある中間画像データが生成される。そして、中間画像データに対してPIの条件に基づいて折り返しを除去する展開(unfolding)処理を行うことにより、展開された最終画像データが生成される。展開処理には、各コイル要素のRF磁場(B1)感度分布データが用いられる。
【0006】
さらに、従来、複数のコイル要素を用いたPIにおいて、HFIが行われている。
【0007】
図1は、PIおよびHFIを併用する場合における従来のデータ処理の手順を示すフローチャートである。
【0008】
図1のステップS1に示すように、PIによってチャンネルごとに収集されたk空間データに基づいてk空間上において収集されていないデータを補填するHFI処理が実行される。これにより、チャンネルごとの折り返しのある中間画像データが生成される。
【0009】
HFI処理は、以下の手順で実行される。
【0010】
まず、式(1-1)および式(1-2)に示すように、コイル要素i (i=1, 2, 3, …, Nch)により収集されたk空間データK(i)に対してHomodyneフィルタを用いたフィルタ処理fhおよび低周波フィルタ(LPF: low pass filter)flを用いたフィルタ処理がそれぞれ実行され、Homodyneフィルタをかけた後のk空間データKh(i)および低周波フィルタをかけた後のk空間データKl(i)がそれぞれ生成される。
【0011】
K(i)*fh→Kh(i) (1-1)
K(i)*fl→Kl(i) (1-2)
次に、式(2-1)および式(2-2)に示すように、Homodyneフィルタをかけた後のk空間データKh(i)および低周波フィルタをかけた後のk空間データKl(i)をそれぞれ逆高速フーリエ変換(IFFT: inverse Fast Fourier Transform)することによって実空間(R空間)データとして折り返しのある中間画像データVh(i), Vl(i)が生成される。
【0012】
IFFT(Kh(i))→Vh(i) (2-1)
IFFT(Kl(i))→Vl(i) (2-2)
次に、式(3)によって位相補正処理およびデータ補填処理が実行され、位相補正およびデータ補填後のコイル要素iごとの中間画像データV(i)が生成される。
【0013】
V(i) = 2・Real part{Vh(i)*Vl(i)/|V1(i)|} (3)
さらに、式(4)に示すように中間画像データV(i)を高速フーリエ変換(FFT: Fast Fourier Transform)して得られるk空間データFFT(V(i))と中間画像データV(i)の計算に用いたk空間データK(i)とが重み付け係数αを用いて重み付け加算される。
【0014】
K(i)=α*FFT(V(i))+(1-α)*K(i) (4)
そして、重み付け加算の結果が、再び中間画像データV(i)を計算するためのk空間データK(i)とされ、k空間での補填処理の精度を向上させるために式(1-1)、式(1-2)、式(2-1)、式(2-2)、式(3)および式(4)で示されるHFI処理が2〜4回程度繰返し実行される。すなわち、位相補正処理およびデータ補填処理、IFFT、重み付け加算処理が繰り返される。
【0015】
次に、ステップS2において、式(2-1)および式(2-2)で得られたチャンネルごとの中間画像データVh(i), Vl(i)に対して展開処理が実行される。すなわち、式(5-1)および式(5-2)に示すように、Nch個の中間画像データVh(i), Vl(i)をそれぞれ要素とするベクトルとして表される観測信号強度yh, ylおよび各コイル要素iの位置Nptごとの感度を表すNch×Nptの感度行列Sから各位置Nptにおける折り返しのないMR画素値xh, xlがベクトルとして求められる。
【0016】
xh=(SHS)-1SHyh (5-1)
xl=(SHS)-1SHyl (5-2)
ただし、
yh={Vh(1), Vh(2), …, Vh(Nch)}
yl={Vl(1), Vl(2), …, Vl(Nch)}
xh={Vh_unfold(1), Vh_unfold(2), …, Vh_unfold(Npt)
xl={Vl_unfold(1), Vl_unfold(2), …, Vl_unfold(Npt)}
SH:行列Sの転置共役行列
である。
【0017】
そして、MR画素値ベクトルxh, xlの要素を加算合成することによって折り返しのない画像データVh_unfold, Vl_unfoldが生成される。
【0018】
次に、ステップS3において、折り返しのない画像データVh, Vlに対して位相補正処理や歪み補正処理等の画像処理が施される。これにより、表示用の最終画像データが生成される。例えば、式(6)に示すように展開された画像データVh_unfold, Vl_unfoldの位相補正によって最終画像データVfinalが生成される。
【0019】
Vfinal = 2・Real part{Vh_unfold*Vl_unfold/|V1_unfold|} (6)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平8−299297号公報
【特許文献2】特開2004−329613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、PIとHFIとを併用する場合には、k空間での補填処理の精度を向上させるためにチャンネルごとにHFI処理を繰返し実行することが必要となる。このため、HFI処理の回数がチャンネル数×繰返し回数となり、データ処理量およびデータ処理時間が増大するという問題がある。
【0022】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、PIとHFIとを併用する場合にデータ処理量またはデータ処理時間を低減させることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、k空間の高周波側の領域以外の領域における磁気共鳴データを複数のコイルを用いて被検体から収集するデータ収集手段と、前記複数のコイルに対応する磁気共鳴データから得られる折り返しのある複数の画像データに対して前記複数のコイルの感度データを用いた展開処理を実行することによって折り返しのない画像データを生成する展開処理手段と、前記折り返しのない画像データをフーリエ変換して得られる前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データを用いてk空間におけるデータの複素対称性を利用したハーフフーリエ法によるデータの補填処理、位相補正処理および前記位相補正処理前後の前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データの重み付け加算処理を繰返し実行して表示用の画像データを生成するデータ処理手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置においては、PIとHFIとを併用する場合にデータ処理量またはデータ処理時間を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、PIおよびHFIを併用する場合における従来のデータ処理の手順を示すフローチャート。
【図2】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図3】図1に示すRFコイルの詳細構成の一例を示す図。
【図4】図3に示す被検体の体表側に設けられるコイル要素の配置例を示す図。
【図5】図3に示す被検体の背面側に設けられるコイル要素の配置例を示す図。
【図6】図3に示す被検体の体表側に設けられるコイル要素の別の配置例を示す図。
【図7】図3に示す被検体の背面側に設けられるコイル要素の別の配置例を示す図。
【図8】図2に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図9】図2に示す磁気共鳴イメージング装置によりPIおよびHFIを併用して被検体の画像データを取得する際の流れを示すフローチャート。
【図10】Homodyneフィルタをかけた後のk空間データを示す図。
【図11】低周波フィルタをかけた後のk空間データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0027】
(構成および機能)
図2は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0028】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24を備えている。
【0029】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0030】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0031】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0032】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0033】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0034】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0035】
RFコイル24は、送信器29および/または受信器30と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0036】
図3は図1に示すRFコイル24の詳細構成の一例を示す図であり、図4は図3に示す被検体Pの体表側に設けられるコイル要素24cの配置例を示す図、図5は図3に示す被検体Pの背面側に設けられるコイル要素24cの配置例を示す図である。
【0037】
図3に示すようにRFコイル24は、筒状の全身用(WB:whole-body)コイル24aとフェーズドアレイコイル24bを備えている。フェーズドアレイコイル24bは、複数のコイル要素24cを備えており、被検体Pの体表側と背面側とにそれぞれ複数のコイル要素24cが配置される。
【0038】
例えば図4に示すように被検体の体表側には、広範囲の撮影部位がカバーされるようにx方向に4列、z方向に8列の合計32個のコイル要素24cが配置される。また、図5に示すように被検体の背面側にも同様に広範囲の撮影部位がカバーされるようにx方向に4列、z方向に8列の合計32個のコイル要素24cが配置される。背面側では、被検体Pの背骨の存在を考慮した感度向上の観点から、体軸付近に他のコイル要素24cよりも小さいコイル要素24cが配置される。
【0039】
一方、受信器30は、デュプレクサ30a,アンプ30b、切換合成器30cおよび受信系回路30dを備えている。デュプレクサ30aは、送信器29、WBコイル24aおよびWBコイル24a用のアンプ30bと接続される。アンプ30bは、各コイル要素24cおよびWBコイル24aの数だけ設けられ、それぞれ個別に各コイル要素24cおよびWBコイル24aと接続される。切換合成器30cは、単一または複数個設けられ、切換合成器30cの入力側は、複数のアンプ30bを介して複数のコイル要素24またはWBコイル24aと接続される。受信系回路30dは、各コイル要素24cおよびWBコイル24aの数以下となるように所望の数だけ設けられ、切換合成器30cの出力側に設けられる。
【0040】
WBコイル24aは、RF信号の送信用のコイルとして用いることができる。また、NMR信号の受信用のコイルとして各コイル要素24cを用いることができる。さらに、WBコイル24aを受信用のコイルとして用いることもできる。
【0041】
このため、デュプレクサ30aは、送信器29から出力された送信用のRF信号をWBコイル24aに与える一方、WBコイル24aにおいて受信されたNMR信号を受信器30内のアンプ24dを経由して切換合成器30cに与えるように構成されている。また、各コイル要素24cにおいて受信されたNMR信号もそれぞれ対応するアンプ24dを経由して切換合成器30cに出力されるように構成されている。
【0042】
切換合成器30cは、コイル要素24cやWBコイル24aから受けたNMR信号の合成処理および切換を行って、対応する受信系回路30dに出力するように構成されている。換言すれば、受信系回路30dの数に合わせてコイル要素24cやWBコイル24aから受けたNMR信号の合成処理および切換が切換合成器30cにおいて行われ、所望の複数のコイル要素24cを用いて撮影部位に応じた感度分布を形成して様々な撮影部位からのNMR信号を受信できるように構成されている。
【0043】
ただし、コイル要素24cを設けずに、WBコイル24aのみでNMR信号を受信するようにしてもよい。また、切換合成器30cを設けずに、コイル要素24cやWBコイル24aにおいて受信されたNMR信号を直接受信系回路30dに出力するようにしてもよい。さらに、より多くのコイル要素24cを広範囲に亘って配置することもできる。
【0044】
図6は、図3に示す被検体Pの体表側に設けられるコイル要素24cの別の配置例を示す図、図7は図3に示す被検体Pの背面側に設けられるコイル要素24cの別の配置例を示す図である。
【0045】
図6および図7に示すようにさらに多くのコイル要素24cを被検体Pの周囲に配置することができる。図6に示す例では、x方向に4列、z方向に4列の16要素のコイル要素24cで構成されるコイルユニット24dがz方向に3つ配置されているため合計48要素のコイル要素24cが被検体Pの体表側に設けられることとなる。また、図7に示す例では、x方向に4列、z方向に8列の32要素のコイル要素24cで構成されるコイルユニット24eが背骨側に、図示しない2要素のコイル要素24cを備えたコイルユニット24fが顎付近に、図示しない12要素のコイル要素24cを備えたコイルユニット24gが頭部にそれぞれは位置されるため、合計46要素のコイル要素24cが被検体Pの背面側に設けられることとなる。そして、図6およびう図7に示すように被検体Pの体表側および背面側に表面個オイル24cを配置すれば、合計94要素のコイル要素24cが被検体の周囲に配置されることとなる。各コイル要素24cは、図示しないコイルポートを経由してそれぞれ専用のアンプ30bと接続される。
【0046】
そして、コイル要素24cを多数被検体Pの周囲に配置することによって、コイルや被検体Pの位置を移動させることなく複数の撮影部位からのデータを受信することが可能な全身用のフェーズドアレイコイル24bを形成することが可能となる。WBコイル24aもコイルや被検体Pの位置を移動させることなく複数の撮影部位からのデータを受信することが可能であるが、全身用のフェーズドアレイコイル24bを受信用のコイルとして用いれば、より撮影部位に適した感度およびより良好なSNR (signal to noise ratio)でデータを受信することが可能となる。
【0047】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0048】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0049】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0050】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0051】
図8は、図2に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0052】
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、HFI処理部43、再構成処理部44、展開処理部45および画像処理部46として機能する。
【0053】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてPIおよびHFI用の撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。PI用の撮像条件としては、データの収集に用いるコイル要素24cの数や各コイル要素24cと撮像部位を関連付けた情報などがある。HFI用のパルスシーケンスとしてはFASE (fast asymmetric spin echo又はfast advanced spin echo)シーケンスなどがある。
【0054】
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からのスキャン開始指示情報に基づいて、シーケンスコントローラ31にパルスシーケンスを含む撮像条件を与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。
【0055】
HFI処理部43は、k空間データベース42から取得したk空間データ並びに展開処理部45および再構成処理部44から取得した画像データを用いてHFIにおいて最終画像データを生成するために必要となる処理(HFI処理)を実行する機能を有する。HFI処理には、k空間データに対するフィルタ処理、データのないk空間領域にデータを補填する処理、画像データに対する位相補正処理、k空間データの重み付け加算処理などがある。このため、HFI処理部43には、展開処理部45および再構成処理部44から取得した画像データにFFT処理またはフーリエ変換(FT: Fourier Transform)処理を行ってk空間データに変換する機能も備えられる。
【0056】
再構成処理部44は、HFI処理部43から取得したk空間データにIFFT処理または逆フーリエ変換(IFT: inverse Fourier Transform)処理を行って実空間データである画像データを再構成する機能を有する。
【0057】
展開処理部45は、再構成処理部44から取得した折り返しのある中間画像データに対して展開処理を施すことによって折り返しのない画像データを生成する機能を有する。そのために、展開処理部45には、展開処理に必要な各コイル要素24cの感度分布データが保存される。
【0058】
画像処理部46は、HFI処理部43から取得した展開処理およびHFI処理後の画像データに歪み補正処理等の必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0059】
(動作および作用)
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0060】
図9は、図2に示す磁気共鳴イメージング装置20によりPIおよびHFIを併用して被検体Pの画像データを取得する際の流れを示すフローチャートである。
【0061】
まずステップS10において、撮像条件設定部40において、PIおよびHFI用の撮像条件が設定される。
【0062】
次にステップS11において、設定された撮像条件に従ってデータ収集が行われる。
【0063】
すなわち、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0064】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にスキャン開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮像条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0065】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0066】
尚、NMR信号は、複数のコイル要素24cによって受信される。このため、k空間データはコイル要素24cに対応するチャンネルごとに得られる。
【0067】
次にステップS12において、チャンネルごとにHFI処理の一部であるフィルタ処理が1回実行される。すなわち、HFI処理部43は、k空間データベース42からチャンネルごとのk空間データを取得してチャンネルごとにフィルタ処理を実行する。
【0068】
具体的には、HFI処理部43は、式(7-1)、式(7-2)、式(7-3)に示すように、各コイル要素24cに対応するチャンネルi (i=1, 2, 3, …, Nch)ごとのk空間データK(i)に対してHomodyneフィルタを用いたフィルタ処理fh、低周波フィルタを用いたフィルタ処理flおよび0詰めフィルタを用いたフィルタ処理fzをそれぞれ実行し、Homodyneフィルタをかけた後のk空間データKh(i)、低周波フィルタをかけた後のk空間データKl(i)および0詰めフィルタをかけた後のk空間データKz(i)を取得する。
【0069】
K(i)*fh→Kh(i) (7-1)
K(i)*fl→Kl(i) (7-2)
K(i)*fz→Kz(i) (7-3)
図10は、Homodyneフィルタをかけた後のk空間データKh(i)を示す図であり、図11は、低周波フィルタをかけた後のk空間データKl(i)を示す図である。
【0070】
図10(A)および図11において、縦軸はk空間の位相エンコード方向Kpを示し、横軸はk空間のリードアウト方向Krを示す。
【0071】
k空間データK(i)に対してHomodyneフィルタfhを掛けると、図10(A)に示すように、一方の極側、例えば負側の高周波領域のデータがないk空間データKh(i)が得られる。Homodyneフィルタ処理後のk空間データKh(i)の信号強度Sのプロファイルは、図10(B)に示すようにデータの境界部分において滑らかに変化するカーブとなる。一方、k空間データK(i)に対して低周波フィルタflを掛けると、図11に示すように、低周波領域におけるk空間データKl(i)が抽出される。尚、0詰めフィルタfzは、ノイズ領域や無信号領域のように所定の閾値以下の信号値を0とするフィルタである。
【0072】
次にステップS13において、再構成処理部44は、式(8-1)、式(8-2)、式(8-3)に示すように、チャンネルiごとの各フィルタ処理後におけるk空間データKh(i), Kl(i), Kz(i)にIFFT処理を施す。これにより、折返しのある中間画像データVh(i), Vl(i), Vz(i)が実空間データとして得られる。
【0073】
IFFT(Kh(i))→Vh(i) (8-1)
IFFT(Kl(i))→Vl(i) (8-2)
IFFT(Kz(i))→Vz(i) (8-3)
次にステップS14において、展開処理部45は、チャンネルiごとの各フィルタ処理に対応する中間画像データVh(i), Vl(i), Vz(i)を用いて展開処理を実行する。すなわち、式(9-1)、式(9-2)、式(9-3)に示すように、Nch個の中間画像データVh(i), Vl(i), Vz(i)をそれぞれ要素とするベクトルとして表される観測信号強度yh, yl, yzおよび各コイル要素iの位置Nptごとの感度を表すNch×Nptの感度行列Sから各位置Nptにおける折り返しのないMR画素値xh, xl, xzがベクトルとして求められる。
【0074】
xh=(SHS)-1SHyh (9-1)
xl=(SHS)-1SHyl (9-2)
xz=(SHS)-1SHyz (9-2)
ただし、
yh={Vh(1), Vh(2), …, Vh(Nch)}
yl={Vl(1), Vl(2), …, Vl(Nch)}
yz={Vz(1), Vz(2), …, Vz(Nch)}
xh={Vh_unfold(1), Vh_unfold(2), …, Vh_unfold(Npt)
xl={Vl_unfold(1), Vl_unfold(2), …, Vl_unfold(Npt)}
xz={Vz_unfold(1), Vz_unfold(2), …, Vz_unfold(Npt)}
SH:行列Sの転置共役行列
である。
【0075】
つまり、HFI処理のフィルタ処理を1回行った後に、折り返しのある中間画像データを再構成し、チャンネルiごとの中間画像データの展開処理が実行される。
【0076】
さらに、展開処理部45は、展開処理されたMR画素値ベクトルxh, xlの要素である各位置における画素値を加算合成することによって折り返しのない画像データVh_unfold, Vl_unfold, Vz_unfoldを生成する。
【0077】
次にステップS15において、FFT処理およびIFFT処理を含むHFI処理が繰返し実行される。すなわち、HFI処理部43は、展開された画像データVh_unfold, Vl_unfoldを用いて式(10)により位相補正処理およびデータ補填処理を行う。これにより位相補正およびデータ補填後の画像データV_unfoldが得られる。
【0078】
V_unfold = 2・Real part{Vh_unfold*Vl_unfold/|V1_unfold|} (10)
さらに、k空間におけるデータ補填処理の精度を向上させるために、k空間データのフィルタ処理、フィルタ処理後のk空間データのIFFT処理、画像データに基づく位相補正およびデータ補填処理並びにk空間データの重み付け加算処理を含むHFI処理が繰返し実行される。そのために、式(11-1)または式(11-2)により、展開された画像データV_unfoldまたは0詰めフィルタfzに対応する展開された画像データVz_unfoldからHFI処理用のk空間データK_unfoldが作成される。
【0079】
K_unfold = FFT(V_unfold) (11-1)
K_unfold = FFT(Vz_unfold) (11-2)
つまり、HFI処理部43は、展開された画像データV_unfoldまたは0詰めフィルタfzに対応する展開された画像データVz_unfoldをFFTしてk空間データに戻す。そして、式(12-1)〜式(12-6)で示すようなHFI処理が1〜4回程度繰り返される。
【0080】
K_unfold*fh→Kh_unfold (12-1)
K_unfold*fl→Kl_unfold (12-2)
IFFT(Kh_unfold)→Vh_unfold (12-3)
IFFT(Kl_unfold)→Vl_unfold (12-4)
V_unfold = 2・Real part{Vh_unfold*Vl_unfold/|V1_unfold|} (12-5)
K_unfold=α*FFT(V_unfold)+(1-α)*K_unfold (0<α<1) (12-6)
すなわち、HFI処理部43は、k空間データK_unfoldのフィルタ処理を行い、再構成処理部44は、フィルタ処理後のk空間データKh_unfold, Kl_unfoldをIFFTして画像データVh_unfold, Vl_unfoldを再構成する。次に、HFI処理部43は、画像データVh_unfold, Vl_unfoldを用いて位相補正処理およびデータ補填処理を実行する。これにより、位相補正およびデータ補填後の画像データV_unfoldが得られる。次に、HFI処理部43は、画像データV_unfoldをFFTして得られるk空間データと画像データV_unfoldの元データとなったk空間データK_unfoldとを重み付け加算し、重み付け加算後のk空間データを次のHFI処理用のk空間データK_unfoldとする。
【0081】
尚、重み付け加算に用いられる重み係数αは、例えば0.5など必要な精度に応じた値に設定される。重み係数αは、例えば試験またはシミュレーションによって予め適切な値に決定することができる。或いは、HFIの繰返し回数とともに重み係数αをデータ処理条件として入力装置33の操作によって可変設定できるようにすることもできる。
【0082】
そして、所望の回数のHFI処理が行われると、式(13)に示すように位相補正およびデータ補填後の画像データV_unfoldが最終画像データVfinalとされる。
【0083】
Vfinal = V_unfold (13)
次にステップS16において、画像処理部46は、HFI処理部43から取得した展開処理およびHFI処理後の最終画像データVfinalに歪み補正処理等の必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる。これによりユーザは、表示装置34に表示された最終画像データを介して診断を行うことが可能となる。
【0084】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、PIとHFIを併用するイメージングにおいて、HFI処理の一部をPIの展開処理後に行うことによって、データ処理量およびデータ処理時間を低減させるようにしたものである。
【0085】
(効果)
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、最初のフィルタ処理を除くHFI処理の回数をk空間におけるデータ補填処理の精度を向上させるための繰返し回数にすることができる。これに対して、従来は、HFI処理の回数がチャンネル数×繰返し回数であった。従って、磁気共鳴イメージング装置20によれば、HFI処理の回数を減らすことにより、データ処理量およびデータ処理時間を低減させることができる。または、データ処理量およびデータ処理時間を同程度にしつつ、HFI処理の繰返し回数を増やしてデータ補填精度を向上させることができる。
【0086】
(変形例)
上述した例では、位相補正処理およびデータ補填処理を画像データに対して行う場合について説明したが、k空間データに対して位相補正処理およびデータ補填処理を行ってもよい。k空間データに対して位相補正処理およびデータ補填処理を行えば、処理が簡易となる。一方、画像データに対して位相補正処理およびデータ補填処理を行えば、精度を向上させることができる。
【0087】
k空間データに対して位相補正処理およびデータ補填処理を行う場合には、以下の流れでデータ処理が実行される。すなわち、各コイル要素24cに対応するチャンネルiごとに収集された高周波領域を除く部分のk空間データk0part(i)が収集される。次にk空間におけるデータの複素対称性を利用した従来のハーフフーリエ法で、k空間データ収集されなかった領域におけるk空間データが補填される。これによりk空間全体のk空間データk0(i)が得られる。
【0088】
次に、k空間データk0(i)の位相補正処理が実行され、位相補正後のk空間データk0(i)_corのIFFTにより折り返しのある中間画像データV0(i)が再構成される。そして、中間画像データV0(i)の展開処理および加算合成処理によって折り返しのない画像データV0_unfoldが作成される。
【0089】
次に展開後の画像データV0_unfoldをFFTして抽出した高周波領域を除く部分のk空間データk0part_unfoldを初期データとして、データ補填処理、位相補正処理、位相補正処理後の高周波領域を除く部分のk空間データとデータ補填前のk空間データとの重み付け加算処理を含むHFI処理を繰返すことにより、データ補填精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0090】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
24a WBコイル
24b フェーズドアレイコイル
24c コイル要素
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 撮像条件設定部
41 シーケンスコントローラ制御部
42 k空間データベース
43 HFI処理部
44 再構成処理部
45 展開処理部
46 画像処理部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
k空間の高周波側の領域以外の領域における磁気共鳴データを複数のコイルを用いて被検体から収集するデータ収集手段と、
前記複数のコイルに対応する磁気共鳴データから得られる折り返しのある複数の画像データに対して前記複数のコイルの感度データを用いた展開処理を実行することによって折り返しのない画像データを生成する展開処理手段と、
前記折り返しのない画像データをフーリエ変換して得られる前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データを用いてk空間におけるデータの複素対称性を利用したハーフフーリエ法によるデータの補填処理、位相補正処理および前記位相補正処理前後の前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データの重み付け加算処理を繰返し実行して表示用の画像データを生成するデータ処理手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ処理手段は、前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データを逆フーリエ変換して得られる画像データに対して前記データの補填処理および前記位相補正処理を実行するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ処理手段は、前記高周波側の領域以外の領域におけるk空間データに対して前記データの補填処理および前記位相補正処理を実行するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−87783(P2011−87783A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244148(P2009−244148)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】