説明

磁気検出素子及びその製造方法

【課題】 製造技術が確立された、つづら折り状あるいはミアンダ状の磁性薄膜による感磁部を用いながら、更に磁界検出感度を向上させ、作製の容易な磁気検出素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 磁気インピーダンス効果を有する磁性体として磁性薄膜部を備える磁気検出素子において、その磁性薄膜部は互いに略平行な磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eを導体膜20a,20b,20c,20dで繋ぎ合わせた形状のつづら折り状若しくはミアンダ状であり、検出する外部磁界を前記磁性薄膜部へ収束させるための、その磁性薄膜部と同一工程で成膜される磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jからなる磁気レンズが設けられた磁気検出素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気インピーダンス効果を利用した磁気検出素子及びその製造方法に関し、特に、高感度且つ高精度に磁界を検出する必要のある地磁気検出、非破壊検査、あるいは生体磁気検出等の使用に適した磁気検出素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気インピーダンス素子は、磁性体に数MHz以上の高周波キャリア電流を印加した場合に生ずる表皮効果の表皮深さがこの磁性体の透磁率の平方根の逆数に比例すること及びその磁性体の透磁率が外部磁界により大きく変動することに起因して、磁性体のインピーダンスが外部磁界によって変動する性質を利用した磁気センサである。
【0003】
特許文献1では、磁性層と導体層の構成において、Co系磁性材料の特定の組成範囲でインピーダンス変化が大きくなる素子が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、非磁性基板上に高透磁率磁性膜を形成して構成され、ひとつの直線が途中で複数回平行に折り返された形状で、その長手方向に対し垂直な方向となるように磁気異方性が付けられた素子が開示されている。このように複数回折り返すことで、磁性膜の総延長を長くし、高インピーダンスを確保しながら素子形状寸法の小さい磁気インピーダンス素子となる。
【0005】
更に、特許文献3で、インピーダンスブリッジの抵抗片を非磁性体にして小型化し、渦巻きコイル、薄膜コイル、磁性膜による磁気バイアス手段が開示されている。
【0006】
この磁気インピーダンス素子の製造方法は、誘電体基板にフォトレジストを塗布し露光を行い素子形状のレジストマスキングを作製して、高透磁率磁性薄膜をスパッタ装置等にて成膜する。その後、リフトオフ法にて磁性薄膜パターニングを行うことで、高透磁率磁性薄膜を形成する。次に磁場中熱処理を真空中で行い、スパッタ状態の異方性を取り除き、且つパターニングした磁性薄膜の長手方向に垂直な幅方向に異方性を付与する。更に、前記同様のフォトレジストを用いた工程によって導体膜のレジストマスキングを作製し、導体膜のパターニングを行う製法である。
【0007】
【特許文献1】特開平10−90380号公報
【特許文献2】特開2000−206217号公報
【特許文献3】特開2002−6015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来からの、つづら折り状あるいはミアンダ状の磁性薄膜素子は、その製造技術が確立されており、それを使いながら、更にセンサ素子としての磁界検出感度を向上させることが要求されている。
【0009】
そこで、本発明の課題は、つづら折り状あるいはミアンダ状の磁性薄膜による感磁部を用い、更に磁界検出感度を向上させ、作製の容易な磁気検出素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、前記課題解決のため、印加する高周波キャリア電流によって磁性体に生じる表皮効果の表皮深さが外部磁界に応じて変わることで前記磁性体のインピーダンスが変化する磁気インピーダンス効果により作動し、前記磁性体として磁性薄膜部を有する磁気検出素子において、前記磁性薄膜部は互いに略平行な直線状磁性薄膜を繋ぎ合わせた形状のつづら折り状若しくはミアンダ状であり、検出する外部磁界を前記磁性薄膜部へ収束させるための、前記磁性薄膜部と同一工程で成膜される磁性膜からなる磁気レンズが設けられたことを特徴とする磁気検出素子により、センサ素子の磁界検出感度を向上させる手法を提供する。
【0011】
また、本発明では、前記磁気検出素子の製造方法において、前記磁性薄膜部及び前記磁気レンズをスパッタ法により成膜することを特徴とする磁気検出素子の製造方法により、生産性に優れる製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、つづら折り状若しくはミアンダ状の磁性薄膜素子部に印加される外部磁界を収束させるための磁性膜を成膜することで、従来から確立された磁性薄膜素子に対し、磁気レンズの効果を得ることが出来、磁界センサとしての検出感度を向上させることが出来る。また、同一磁性薄膜工程にて磁束を収束させる膜を成膜することで、それら磁束収束効果をもたらす磁気レンズを工程を増やさずに比較的簡単に製作することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照し、本発明の実施の形態による磁気検出素子及びその製造方法、使用方法について説明する。
【0014】
(実施の形態1)
まず、従来技術と共通に用いる磁気検出素子部分を明らかにすると共に、比較例としての従来技術による磁気検出素子とその製作方法を説明する。図5は、従来技術による磁気検出素子の斜視図であり、その磁性薄膜コア(感磁部)と導体膜パターン形状を説明した図である。同図に示すように、ガラス基板30の上に、厚さ2μm、長さ1mmの感磁部となる磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eを5本並べる。この磁性材としては、たとえばCo系磁性材料を用いることが出来る。
【0015】
磁性薄膜コアのパターニング後、磁性薄膜コア幅方向より磁界を印加しながら真空中にて熱処理を施し、一軸異方性を付与する。その後、厚さ1μmの導体膜20a,20bで磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eを直接に繋ぎあわせ、互いに略平行な直線状磁性薄膜を繋ぎ合わせた形状のつづら折り状若しくはミアンダ状の磁気薄膜部を形成する。その両端部を導体膜21a,21bで電極パッド22a,22bに接続する。以上が従来技術による磁気検出素子の製作方法である。
【0016】
その電極パッド22a,22bの間に高周波プローブを接続し、ネットワークアナライザーにて10MHz〜60MHzの高周波電流を印加して、磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eの長手方向に外部磁界を(−20〜20)×103/4π(A/m)の範囲で印加してインピーダンスの変化を観察した。
【0017】
図3は外部磁界変化に対するインピーダンス特性の交流磁気バイアス法の説明図であり、図3(a)は交流バイアス磁界印加の様子を示す説明図であり、縦軸はインピーダンスZの絶対値を表し、横軸のHexは外部磁界を表す。また、図3(b)は外部磁界に対するセンサ出力を示す図であり、縦軸のVoutはセンサ出力電圧を表す。
【0018】
交流バイアス磁界を印加する場合、図3に示すように、磁界−インピーダンス特性の磁界正側、負側両方の傾斜部分に磁気バイアスを印加する。そして、外部磁界変化によりバイアスポイントがずれ、それを負帰還磁界によりバイアスポイントの位置をもどす。そのバイアスポイントのずれ分を電圧変化として検出する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態1での磁気検出素子を示す斜視図であり、磁気レンズ効果を有する磁気検出素子の磁性薄膜と導体膜パターンの配置を説明している。図5に示す感磁部となる磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eの端部に間隔を空け,その磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eと同一工程内にてCo系の磁性膜からなる磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jを成膜し磁気レンズとする。ここで、ひとつの磁束収束部11aの形状は台形状または三角形状であり、磁性薄膜コア10aの端部に近づくにつれて、その幅が狭くなる形状である。このとき、磁性薄膜コアと磁束収束部の成膜にはスパッタ法が好適であるが、他の成膜方法を用いることも出来る。なお、図1では、従来技術による図5と共通の、磁性薄膜コア、導体膜及び電極パッドの部分を磁気検出素子部分501として破線で囲んで表示した。
【0020】
ところで、本実施の形態1での磁気検出素子の作製方法は、磁束収束部を磁性薄膜コアと同一工程内で作製する点を除いて、すでに従来技術として図5で示した磁気検出素子の作製と同様の工程を踏んで作製できるので、その作製が容易である。
【0021】
また、図4は従来の磁界−インピーダンス特性と本発明に係る磁束収束部を設けた場合の磁界−インピーダンス特性を比較し説明した図である。図4(a)は磁界−インピーダンス特性を示し、図4(b)は外部磁界に対するセンサ特性を示す。
【0022】
通常、図5に示した磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eの端部を通る磁束に対し、磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jを設けることで磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10eに磁束を収束させ、外部磁界の磁束変化を増幅する効果が現れる。結果、従来に比べ、磁界−インピーダンス特性の傾斜部分の勾配が大きくなり、外部磁界に対するセンサ素子の磁界検出感度が向上する。
【0023】
(実施の形態2)
図2は本発明の実施の形態2での磁気検出素子を示す斜視図である。同図では、磁性膜からなる磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11j及び磁気検出素子部分501をまとめて、磁気検出素子部分及び磁束収束部パターン502として表した。
【0024】
本実施の形態2では、磁気レンズを構成する磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jに隣接し、更に磁気レンズ効果を高めるために、矩形状磁性膜12a,12bを設けた。その矩形状磁性膜12a,12bは、磁束収束部11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jと同様に磁性薄膜コア10a,10b,10c,10d,10e(図1参照)と同一工程内にて製作する。矩形状磁性膜12a,12bを設けることで更に磁束の洩れを防ぎ、センサ素子の磁界検出感度が向上する。本実施の形態においても、磁性膜は磁性薄膜コア及び磁束収束部と同一の工程で成膜するので、その作製は容易である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1での磁気検出素子を示す斜視図。
【図2】本発明の実施の形態2での磁気検出素子を示す斜視図。
【図3】外部磁界変化に対するインピーダンス特性の交流磁気バイアス法の説明図であり、図3(a)は交流バイアス磁界印加の様子を示す説明図、図3(b)は外部磁界に対するセンサ出力を示す図。
【図4】本発明に係る磁束収束部を設けた場合の磁界−インピーダンス特性と従来の磁界−インピーダンス特性とを比較説明した図であり、図4(a)は磁界−インピーダンス特性の比較図、図4(b)は外部磁界に対するセンサ特性の比較図。
【図5】従来技術による磁気検出素子の斜視図。
【符号の説明】
【0026】
10a,10b,10c,10d,10e 磁性薄膜コア
11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11j 磁束収束部
12a,12b 矩形状磁性膜
20a,20b,20c,20d,21a,21b 導体膜
22a,22b 電極パッド
30 ガラス基板
501 磁気検出素子部分
502 磁気検出素子部分及び磁束収束部パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加する高周波キャリア電流によって磁性体に生じる表皮効果の表皮深さが外部磁界に応じて変わることで前記磁性体のインピーダンスが変化する磁気インピーダンス効果により作動し、前記磁性体として磁性薄膜部を有する磁気検出素子において、前記磁性薄膜部は互いに略平行な直線状磁性薄膜を繋ぎ合わせた形状のつづら折り状若しくはミアンダ状であり、検出する外部磁界を前記磁性薄膜部へ収束させるための、前記磁性薄膜部と同一工程で成膜される磁性膜からなる磁気レンズが設けられたことを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
請求項1記載の磁気検出素子の製造方法において、前記磁性薄膜部及び前記磁気レンズをスパッタ法により成膜することを特徴とする磁気検出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−178319(P2007−178319A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378364(P2005−378364)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】