説明

磁気浮上移動システム

【課題】損失を低減すると共に、簡易な構成で安定した高速走行を可能にする。
【解決手段】強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力によって、超電導コイル18に浮上力が発生する。車両12が移動しているときに、浮上用地上コイル30A、30Bと超電導コイル18との間の電磁気的作用によって、超電導コイル18に浮上力が発生する。このとき、強磁性体32との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、浮上用地上コイル30A、30Bとの間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きいため、超電導コイル18は安定して浮上する。強磁性体32との間の磁気吸引力によって、超電導コイル18が浮上するため、浮上用地上コイル30A、30Bに流れる誘導電流が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上移動システムに係り、特に、移動する磁場発生源の上下に、ヌルフラックス接続された地上コイルを配置した磁気浮上移動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電磁気的に物体を浮上走行させる手段が種々考案されている。例えば、超電導コイルとヌルフラックス接続されたコイルとの組合せによる誘導浮上方式が知られている(例えば、特許文献1)。この誘導浮上方式は、磁場発生源(超電導磁石)と、地上に配置した誘導電流発生用コイルとを用いて、安定して浮上走行を可能にするシステムであり、浮上及び案内に伴って一切の制御が不要であることが大きな特徴である。
【0003】
また、強磁性体と超電導コイルと超電導磁気遮蔽板とを組み合わせて、静止状態から完全非接触浮上を実現する磁気勾配浮上方式が知られている(特許文献2)。また、電磁石と強磁性体間の吸引力を利用した磁気吸引式浮上方式が知られている(非特許文献1)。また、完全浮上ではないが機械的なギャップ制御により浮上力の大半を鉄と磁石の電磁気的な吸引力で負担させる方式が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3470828号明細書
【特許文献2】特開2005−20872号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気学会編、「磁気浮上と磁気軸受」、日本、コロナ社、1993年6月30日、第94頁〜第96頁
【非特許文献2】電気学会編、「磁気浮上と磁気軸受」、日本、コロナ社、1993年6月30日、第86頁〜第89頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の誘導浮上方式では、浮上走行に伴い、地上の誘導電流発生用コイルには大きな電流が流れるので、それに伴う損失が発生してしまう、という問題がある。
【0007】
また、従来の磁気勾配浮上方式においては、本質的に安定な浮上が可能であるが、浮上案内バネが弱いため、高速走行には不向きである、という問題がある。
【0008】
また、従来の磁気吸引浮上方式では、磁気吸引力が本質的に安定系ではないため、電磁石に流す電流を正確に制御して一定の間隔を維持することが不可欠であり、装置構造が複雑となってしまう、という問題がある。また、十分な浮上力を確保するためには、強磁性体と電磁石との距離を小さくすることが必要であり、高速走行には不向きである、という問題がある。
【0009】
また、機械的にギャップを制御させる浮上方式では、ギャップ制御のための車輪とリンク機構が必要であり、高速走行には不向きである、という問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、損失を低減すると共に、簡易な構成で安定した高速走行が可能である磁気浮上移動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明に係る磁気浮上移動システムは、移動可能な磁場発生源と、前記磁場発生源の移動経路の上方及び下方に設けられ、かつ、ヌルフラックス接続された複数の地上コイルを、前記磁場発生源の移動方向に沿って複数組配置した地上コイル群と、前記磁場発生源の移動経路及び前記地上コイル群の上方に、前記磁場発生源の移動方向に沿って設けられた強磁性体と、を含む磁気浮上移動システムであって、前記強磁性体と前記磁場発生源との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、前記地上コイル群と前記磁場発生源との間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きくなるように、前記磁場発生源と前記強磁性体との上下方向の距離及び前記磁場発生源の磁場強度を設定したこことを特徴としている。
【0012】
本発明に係る磁気浮上移動システムによれば、強磁性体と磁場発生源との間の磁気吸引力によって、磁場発生源に浮上力が発生する。また、磁場発生源が移動しているときに、地上コイル群と磁場発生源との間の電磁気的作用によって、磁場発生源の移動経路の上方及び下方に設けられた地上コイルのほぼ中心に戻すバネ力が発生する。このとき、強磁性体と磁場発生源との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、前記地上コイル群と前記磁場発生源との間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きいため、磁場発生源は安定して浮上する。また、強磁性体と磁場発生源との間の磁気吸引力によって、磁場発生源に浮上力が働くため、地上コイルの浮上力分担割合が小さくなり、地上コイルに流れる誘導電流が減少する。
【0013】
このように、地上コイルに流れる誘導電流を減少させることにより損失を低減すると共に、強磁性体と磁場発生源との間の磁気吸引力、及び地上コイル群と磁場発生源との間の電磁気的作用により磁場発生源を安定して浮上させるため、簡易な構成で安定した高速走行が可能となる。
【0014】
本発明の磁気浮上移動システムは、上方及び下方に設けられた地上コイルの磁気的な中性点に前記磁場発生源が位置し、かつ、前記磁場発生源と前記強磁性体との間の磁気吸引力が、重力によって前記磁場発生源に加わる力と一致するように、磁場発生源の磁場強度を設定することができる。これによって、損失をより低減することができる。
【0015】
本発明の地上コイル群を、磁場発生源の移動経路の上方に設けられた地上コイルと下方に設けられた地上コイルとをヌルフラックス接続して1組とし、複数組配置したものとすることができる。
【0016】
本発明の地上コイル群を、磁場発生源の移動経路の上方に設けられ、かつ、移動方向と直交する方向に配列され、ヌルフラックス接続された2つの地上コイルと、磁場発生源の移動経路の下方に設けられ、かつ、移動方向と直交する方向に配列され、ヌルフラックス接続された2つの地上コイルとを各々ヌルフラックス接続して1組とし、複数組配置したものとすることができる。これによって、移動方向と直交する方向に安定して磁場発生源が移動することができる。
【0017】
上記の地上コイル群は、電流供給装置から電流が供給されるようにすることができる。これによって、地上コイル群によって磁場発生源を駆動することができる。
【0018】
また、上記の磁場発生源を、超電導磁石とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の磁気浮上移動システムによれば、地上コイルに流れる誘導電流を減少させることにより損失を低減すると共に、強磁性体と磁場発生源との間の磁気吸引力、及び地上コイル群と磁場発生源との間の電磁気的作用により磁場発生源を安定して浮上させるため、簡易な構成で安定した高速走行が可能となる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システムの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す模式図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムのコイルの配置を示す模式図である。
【図8】超電導コイルの上下方向の位置と、浮上力との関係を示すグラフである。
【図9】強磁性体の有無の各々の構成において、浮上力と消費エネルギーとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システム10は、車両12と、U字型断面を持つ軌道14とから構成されている。
【0023】
車両12の台車に相当する下部両側面から横方向に突出するように超電導磁石が設けられており、その超電導磁石は、低温容器16の中に超電導コイル18を収納して構成されている。車両12に設けられた超電動磁石は、移動可能な磁場発生源に対応している。
【0024】
また、軌道14の側壁内面から超電導コイル18の移動軌跡の上方及び下方の各々に突出し、かつ、超電導コイル18の移動軌跡に対向するように、ヌルフラックス接続された2個1組の浮上用地上コイル30A、30Bが、複数組設けられ、車両12の走行方向に沿って配列されている。上下に対向している1組の浮上用地上コイル30A、30Bは、ヌルフラックス接続されている。なお、複数組の浮上用地上コイル30A、30Bが、地上コイル群に対応している。
【0025】
また、軌道14の側壁内面から超電導コイル18の移動軌跡及び上側の浮上用地上コイル30Aの上方に突出し、かつ、超電導コイル18の移動軌跡及び上側の浮上用地上コイル30Aに対向するように、強磁性体32が、車両12の走行方向に沿った連続体として、設けられている。
【0026】
上記の構成により、図2、図3に示すように、超電導コイル18によって生じる移動磁界が浮上用地上コイル30A、30Bに作用して、車両12が浮上する。例えば、超電導コイル18の位置が下がるほど、電磁気的作用により、超電導コイル18を持ち上げる力が強くなる。このように、浮上用地上コイル30A、30Bと超電導コイル18との間で磁気的作用によるバネ系を形成している。
【0027】
また、強磁性体32によって生じる磁気吸引力が超電導コイル18に作用して、車両12が浮上する。例えば、超電導コイル18の位置が下がるほど、磁気吸引力により超電導コイル18を持ち上げる力が弱くなる。このように、強磁性体32と超電導コイル18との間で磁気吸引力による負のバネ系を形成している。
【0028】
なお、本実施の形態に係る磁気浮上移動システム10は、浮上用地上コイル30A、30Bに外部から電流を供給することによって推進力を与えるシステムとして構成されている。
【0029】
次に、第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システム10の超電導コイル18、浮上用地上コイル30A、30B、及び強磁性体32の配置について、図4の模式図を用いて説明する。
【0030】
走行方向(超電導コイル18の長手方向)に沿って配列された複数の超電導コイル18が、車両12の走行方向に沿って移動する。ヌルフラックス接続された上下2つの浮上用地上コイル30A、30Bが、走行方向に沿って複数ペア配置されている。強磁性体32が、走行方向に沿って連続する連続体として配置されている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る超電導コイル18を浮上させる原理について説明する。
【0032】
超電導磁石を代表とする磁場発生源と、上方に配置した強磁性体との間に生じる磁気吸引力を利用するだけの構成では、不安定系であり、安定した浮上特性は得られない。磁場発生源周辺に誘導電流発生用の地上コイルを更に配置することにより、走行時に安定浮上が可能となる。
【0033】
このように走行時に安定浮上するシステムを実現するためには、誘導電流発生用の地上コイルによる上下方向のばね系の安定性が、強磁性体への磁気吸引力による上下方向のばね系の不安定性に勝ることが必須条件となる。そこで、本実施の形態では、磁場発生源としての超電導コイル18と強磁性体32との間の上下方向の距離を大きくとることにより、上下方向の不安定ばね系の負のバネ定数の絶対値を小さく設定し、浮上用地上コイル30A、30Bによる上下方向の安定ばね系が勝るように設定する。
【0034】
一般的には、磁場発生源と強磁性体との距離を大きくすると、急激に磁気吸引力が低下するが、本実施の形態では、磁場発生源として強力な超電導磁石を採用することにより、強力な磁気吸引力を維持することが可能な構成とした。また、ヌルフラックス接続された浮上用地上コイル30A、30Bに電流が誘起されない状態(磁場発生源が動かない状態)においても、強磁性体32と超電導コイル18との間に強力な上下方向の磁気吸引力が発生する。
【0035】
以上のように、本実施の形態では、強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、浮上用地上コイル30A、30Bと超電導コイル18との間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きくなるように、超電導コイル18の上下方向の位置及び超電導コイル18の磁場強度が設定されている。
【0036】
また、超電導コイル18の磁場強度と車両12の重量を調整することにより、浮上状態での安定点を、浮上用地上コイル30A、30Bに誘起される電流が零となる位置(電磁気的な中性点)に設定することが可能となる。本実施の形態では、上下の浮上用地上コイル30A、30Bの磁気的な中性点において、超電導コイル18と強磁性体32との間の磁気吸引力が、車両12の重量と一致するときの超電導コイル18の起磁力を予め求めておき、予め求められた起磁力に対応する電流を、超電導コイルに供給する。これによって、車両12が標準重量であるときには、車両12の走行中に、超電導コイル18が、浮上用地上コイル30A、30Bの磁気的な中性点を中心に上下に変動することとなり、浮上用地上コイル30A、30Bに流れる電流を最小にすることができるため、損失を低減することができる。
【0037】
また、車両12の重量に応じて超電導コイル18の上下方向の位置が変化するため、車両12の停止時に、ギャップセンサによって、超電導コイル18を収納した超電導磁石と、浮上用地上コイル30A、30Bの何れか一方との距離(ギャップ)を計測し、磁場強度を調整するように、計測されたギャップに応じた起磁力に対応する電流を、超電導コイル18に供給するように制御する。
【0038】
車両12の停止時に上記のように制御することにより、車両12の重量が変化しても、車両12の走行中に浮上用地上コイル30A、30Bに流れる電流を最小にすることができるため、損失を極めて低減することができる。
【0039】
磁気浮上移動システム10は、車輪やリンク機構などからなる補助支持機構(図示省略)を備えており、車両12の停止時又は低速走行時には、強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力と共に、補助支持機構によって、車両12を支持する。
【0040】
次に、第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システム10の作用について説明する。
【0041】
まず、強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力により、超電導コイル18の磁束の上下の中心が浮上用地上コイル30A、30Bの上下の中性点と一致している時は、ヌルフラックス接続された浮上用地上コイル30Aと浮上用地上コイル30Bとの起電力が相殺され、浮上用地上コイル30A、30Bには誘導電流が流れない。したがって、車両12の重量が標準重量である場合には、超電導コイル18が、浮上用地上コイル30A、30Bの中性点に位置するように、超電導コイル18に電流が供給され、超電導コイル18が、浮上用地上コイル30A、30Bの中性点を中心に上下に変動するため、浮上用地上コイル30A、30Bに流れる電流が最小になる。
【0042】
また、例えば、車両12の重量が標準重量より重くなって車両12が沈み、超電導コイル18の磁束の中心が、上下の浮上用地上コイル30A、30Bの中性点より下に下がると、下部の浮上用地上コイル30Bの誘導起電力が、上部の浮上用地上コイル30Aの誘導起電力に優り、浮上用地上コイル30A、30Bに誘導電流が流れる。下部の浮上用地上コイル30Bには超電導コイル18の磁束を打ち消す極性の磁界が、また上部の浮上用地上コイル30Aにはこれと反対の磁界が発生し、超電導コイル18を持ちあげて、超電導コイル18の磁束の中心を浮上用地上コイル30A、30Bの中性点に一致させようとする浮上力が働く。
【0043】
上記のように車両12の重量が標準重量より重くなった場合、車両12の停止時に、ギャップセンサによって、上記のように車両12が沈むことによるギャップが計測されると、ギャップに応じた起磁力に対応する電流が、超電導コイル18に供給されるように制御される。これによって、強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力が大きくなり、車両12の走行時には、超電導コイル18の磁束の上下方向の中心が、浮上用地上コイル30A、30Bの上下方向の中性点を中心に上下に変動し、ヌルフラックス接続された浮上用地上コイル30Aと浮上用地上コイル30Bとの起電力が相殺されるため、浮上用地上コイル30A、30Bに流れる誘導電流が最小となる。
【0044】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る磁気浮上移動システムによれば、浮上用地上コイルに流れる誘導電流を減少させることにより損失を低減すると共に、強磁性体と超電導磁石との間の磁気吸引力、及び浮上用地上コイルと超電導磁石との間の電磁気的作用により超電導磁石を安定して浮上させるため、簡易な構成で安定した高速走行が可能となる。
【0045】
また、低速走行時には、大きな磁気吸引力によって、車両に浮上力を加えることができるため、車輪やリンク機構などの補助支持機構の構成を簡易なものとすることができる。
【0046】
また、車両が標準重量である場合に浮上用地上コイルに流れる電流が最小になるように、超電導磁石と強磁性体との上下方向の距離、及び超電導磁石の磁場強度を設定しているため、損失をより低減することができる。また、ギャップセンサによる計測結果に基づいて、浮上用地上コイルに流れる電流が最小になるように、超電導コイルに流す電流を調整することにより、重量が変化した車両に対しても、損失を極めて低減することができる。
【0047】
また、車両の高速走行時に、全浮上体質量を、強磁性体との間の磁気吸引力に合わせることができるため、浮上用地上コイルに流れる電流を零に近づけることができる。
【0048】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
第2の実施の形態では、浮上用地上コイルが4個1組となって配置されている点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0050】
第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムでは、軌道14の側壁内面から超電導コイル18の移動軌跡の上方及び下方の各々に突出し、かつ、超電導コイル18の移動軌跡に対向するように、図5、図6に示すようなヌルフラックス接続された4個1組の浮上用地上コイル230A〜230Dが、車両12の走行方向に複数組配列されて設けられている。なお、複数組の浮上用地上コイル230A〜230Dが、地上コイル群に対応している。
【0051】
上下4つの浮上用地上コイル230A〜230Dは、超電導コイル18の移動軌跡の上方に設けられ、かつ、ヌルフラックス接続された2つの浮上用地上コイル230A、230Bと、下方に設けられ、かつ、ヌルフラックス接続された2つの浮上用地上コイル230C、230Dとからなり、上下対向している2つの浮上用地上コイル230A、230Cのペアをヌルフラックス接続すると共に、同じく上下対向している2つの浮上用地上コイル230B、230Dのペアをヌルフラックス接続している。
【0052】
また、図7に示すように、ヌルフラックス接続された上下4つの浮上用地上コイル230A〜230Dが、1組ずつ、走行方向(超電導コイル18の移動方向)に沿って配置されている。また、ヌルフラックス接続された2つの浮上用地上コイル230A、230Bは、案内方向(走行方向に直交する方向)に並んで配置されている。また、ヌルフラックス接続された2つの浮上用地上コイル230C、230Dは、案内方向(走行方向に直交する方向)に並んで配置されている。
【0053】
例えば、車両12が移動し、案内方向における超電導コイル18の磁束の中心が、案内方向における左右上部の浮上用地上コイル230A、230Bの中性点より右にずれると、右上部の浮上用地上コイル230Bの誘導起電力が、左上部の浮上用地上コイル230Aの誘導起電力に優り、左右上部の浮上用地上コイル230A、230Bに誘導電流が流れる。右上部の浮上用地上コイル230Bには超電導コイル18の磁束を打ち消す極性の磁界が、また左上部の浮上用地上コイル230Aにはこれと反対の磁界が発生し、超電導コイル18をずらして、案内方向における超電導コイル18の磁束の中心を、案内方向における浮上用地上コイル230A、230Bの中性点に一致させようとする力が働く。また、同様に、超電導コイル18をずらして、案内方向における超電導コイル18の磁束の中心を、案内方向における浮上用地上コイル230C、230Dの中性点に一致させようとする力が働く。
【0054】
以上のように、浮上用地上コイル230A、230Bと、浮上用地上コイル230C、230Dとの各々によって、車両12を案内させることができる。
【0055】
なお、第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムの他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
次に、解析結果について説明する。ここでは、第2の実施の形態で説明した図5、図6のような構成において、幅350mm、ピッチ675mmの超電導コイルを使用し、超電導コイルの起磁力を500kAとし、超電導コイルと強磁性体32との距離を250mmとして、走行速度毎に、超電導コイルの上下方向の位置と浮上力との関係を解析した。
【0057】
図8に示すように、各種走行速度で走行しているときには、強磁性体32との間のバネ系と浮上用地上コイル230A〜230Dとの間のバネ系とを合成したバネ系において、超電導コイル18の上下方向の位置が上がるほど、浮上力が小さくなり、一方、超電導コイル18の上下方向の位置が下がるほど、浮上力が大きくなっている。強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、浮上用地上コイル230A〜230Dと超電導コイル18との間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きくなるように構成されているため、全体として、正のバネ系が形成されていることが分かる。
【0058】
また、走行速度が速くなるほど、浮上用地上コイル230A〜230Dとの間の電磁気的作用により、浮上力が高くなっていることがわかる。
【0059】
また、超電導コイル18に発生する浮上力に応じた浮上用地上コイル230A〜230Dの消費エネルギーを解析した。なお。比較例として、強磁性体を設けていない構成に対しても解析を行った。
【0060】
図9に示すように、強磁性体を設けていない構成では、浮上力が大きくなるほど、浮上用地上コイルの消費エネルギーが高くなっている。一方、強磁性体32を設けた本実施の形態の構成では、所定の浮上力に近づくほど、浮上用地上コイル230A〜230Dの消費エネルギーが小さくなるため、超電導コイル18に浮上力を発生させる状況では、消費エネルギーの損失を抑制できることがわかる。
【0061】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る磁気浮上移動システムによれば、上下に対向する2つの浮上用地上コイルをヌルフラックス接続すると共に、案内方向に並んだ2つの浮上用地上コイルをヌルフラックス接続することにより、安定して浮上させることができると共に、安定して車両を案内することができる。
【0062】
なお、上記の実施の形態では、案内方向に並べた浮上用地上コイルをヌルフラックス接続して、案内方向における安定性を確保する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、強磁性体の形状を選択することにより、案内方向における安定性を確保するようにしてもよい。
【0063】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
第3の実施の形態では、車両12の台車に相当する下部に、収納可能な車輪及びリンク機構を設け、停止時及び低速走行時に、車輪及びリンク機構を用いて、車両12を支持する。また、リンク機構によって、強磁性体32と超電導コイル18との間の磁気吸引力が、車両12の重量にほぼ一致するように、強磁性体32と超電導コイル18との間の距離を調整する。このように、強磁性体32と超電導コイル18との間の距離を調整することにより、車輪に加わる荷重を非常に小さくすることができる。
【0065】
また、高速走行時には、車両12の台車に相当する下部に、車輪及びリンク機構が収納され、車両が高速走行に適した状態となる。
【0066】
なお、第3の実施の形態に係る磁気浮上移動システムの他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
このように、停止時又は低速走行時に、強磁性体との間の大きな磁気吸引力によって、車両に浮上力を加えることができるため、補助支持機構を、簡易な構成とすることができる。
【0068】
なお、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、浮上用地上コイルに電流を供給して、車両に推進力を加えて駆動する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、推進用地上コイルを別途設け、推進用地上コイルにより車両を駆動するようにしてもよい。
【0069】
また、磁場発生源として、超電導磁石を用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の種類の磁場発生源を用いて構成してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 磁気浮上移動システム
12 車両
14 軌道
16 低温容器
18 超電導コイル
30A、30B 浮上用地上コイル
32 強磁性体
230A、230B、230C 浮上用地上コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な磁場発生源と、
前記磁場発生源の移動経路の上方及び下方に設けられ、かつ、ヌルフラックス接続された複数の地上コイルを、前記磁場発生源の移動方向に沿って複数組配置した地上コイル群と、
前記磁場発生源の移動経路及び前記地上コイル群の上方に、前記磁場発生源の移動方向に沿って設けられた強磁性体と、
を含む磁気浮上移動システムであって、
前記強磁性体と前記磁場発生源との間の磁気吸引力によるバネ系の負のバネ定数の絶対値より、前記地上コイル群と前記磁場発生源との間の電磁気的作用によるバネ系の正のバネ定数の絶対値の方が大きくなるように、前記磁場発生源と前記強磁性体との上下方向の距離及び前記磁場発生源の磁場強度を設定したことを特徴とする磁気浮上移動システム。
【請求項2】
上方及び下方に設けられた地上コイルの磁気的な中性点に前記磁場発生源が位置し、かつ、前記磁場発生源と前記強磁性体との間の磁気吸引力が、重力によって前記磁場発生源に加わる力と一致するように、前記磁場発生源の磁場強度を設定したことを特徴とする請求項1記載の磁気浮上移動システム。
【請求項3】
前記地上コイル群を、前記磁場発生源の移動経路の上方に設けられた地上コイルと下方に設けられた地上コイルとをヌルフラックス接続して1組とし、複数組配置したものとした請求項1又は2記載の磁気浮上移動システム。
【請求項4】
前記地上コイル群を、前記磁場発生源の移動経路の上方に設けられ、かつ、前記移動方向と直交する方向に配列され、ヌルフラックス接続された2つの地上コイルと、前記磁場発生源の移動経路の下方に設けられ、かつ、前記移動方向と直交する方向に配列され、ヌルフラックス接続された2つの地上コイルとを各々ヌルフラックス接続して1組とし、複数組配置したものとした請求項1又は2記載の磁気浮上移動システム。
【請求項5】
前記地上コイル群は、電流供給装置から電流が供給される請求項1〜請求項4の何れか1項記載の磁気浮上移動システム。
【請求項6】
前記磁場発生源を、超電導磁石とした請求項1〜請求項5の何れか1項記載の磁気浮上移動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−252413(P2010−252413A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95965(P2009−95965)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】