説明

磁気粘性流体流動型ダンパ

【課題】 シリンダとピストンロッドとの摺動部の摩耗や流体の漏れを防き、所期の性能を長期にわたって発揮できるダンパを提供する。
【解決手段】 円筒状のシリンダ1に軸線方向に出入り自在にピストンロッド2を挿入し、ピストンロッド2に固定されたピストン3の移動によりバイパス管5の流通路25に磁気粘性流体を流通させて、流動抵抗を高め緩衝効果を得る。シリンダ1に連設するシールユニット4のピストンロッド2を貫通させるブロック18とピストンロッド2との間に、ピストンロッド2上に柔軟に展開するゴム膜21を張る。ゴム膜21は、ピストンロッド2と取付環20との隙間をピストンロッド2のストローク位置にかかわらず軸方向前後に仕切り、シリンダ1の油圧室10からピストンロッド2上への磁気粘性流体の引き込みによる漏れを遮断すると共に、ピストンロッド2とブロック18との磁気粘性流体の磁性粉を介した接触を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を充填したシリンダ内にピストンを相対移動させることより、ピストンで仕切られた油圧室間に磁気粘性流体を流通させ、流通路上の磁界により磁気粘性流体の流動抵抗を増してピストンロッドとシリンダとの伸縮動を抑制する磁気粘性流体流動型ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダの内部をピストンで軸線方向に第1及び第2の圧力室に区画し、ピストンにピストンロッドを固定してシリンダに出入り自在に挿入し、シリンダの内部に磁気粘性流体を充填したダンパがある(特許文献1参照)。シリンダの両油圧室間には、シリンダの外部においてバイパス管を連通させ、この中を流通する磁気粘性流体に電磁石により磁界を作用させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−165229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、油圧機器の摺動部には、パッキンやOリングのシール材で作動油を密封している。この作動油の密封性は、Oリングにおいては圧縮状態の反発力により、パッキンにおいては内圧より高いピーク圧が発生する接触圧力分布により維持する。これらのシール材は、摺動部において摩擦接触しながら密封性を維持するために、潤滑特性を高めて摺動面の摩耗を減らすことが必要となる。この手段として、Oリングには摺動部にグリースを塗付する等が行われ、パッキンには摺動面に適量の潤滑油膜を形成することが行われる。
しかしながら、上記従来の磁気粘性流体を用いたダンパにおいては、磁気粘性流体に磁性粉を含むため、摺動部にパッキンやOリングを用いると、潤滑油膜形成のため摺動部に流体を引き込み、その流体に含まれる磁性紛が付着して、摺動部の表面を実質的に粗くするので、パッキンやOリングの摩耗が激しくなり、密封性が損なわれ、作動油の漏れをもたらす。また、磁性紛が摺動部に浸入するのを妨げても、摺動状態によって潤滑油膜が形成されずに、パッキンやOリングの摩耗が激しくなることがある。
そこで、本発明は、摺動部のシール材としてパッキンやOリングに代えて、摺動接触する部材間にゴム膜を介在させ、摺動部材の摩耗を防ぎ、所期の性能を長期にわたって発揮できる磁気粘性流体流動型ダンパを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明においては、支持体又は被支持体の一方に内部に磁気粘性流体を充填したシリンダ1を連結し、このシリンダ1内に第1及び第2の油圧室9,10に区画するピストン3を軸線方向に移動可能に設け、このピストン3に支持体又は被支持体の他方に連結するピストンロッド2を固定してシリンダ1に出入り自在に挿入し、さらにシリンダ1の第1の油圧室9と第2の油圧室10との間を流通する磁気粘性流体の流通路の途上に、磁気粘性流体の流動抵抗を変化させるための磁石を配置することにより、支持体と被支持体との間の相対直線運動を抑制する磁気粘性流体流動型ダンパを構成する。ピストンロッド2とシリンダ1との摺動部において、弾性薄膜21の一端をピストンロッド2に他端をシリンダ1に固定し、シリンダ1に対するピストンロッド2の相対変位に応じてピストンロッド2周りに弾性薄膜21を柔軟に展開させ、ピストンロッド2とシリンダ1との間に介在して両者間の磁気粘性流体を介した接触を妨げると共に、シリンダ1の油圧室から外部への磁気粘性流体の漏れを阻止する。
また、シリンダ1におけるピストンロッド2挿入側端部に、ピストンロッド2を軸線方向に摺動自在に貫通させるシールユニット4を密着させ、このシールユニット4とピストンロッド2との摺動部において、弾性薄膜21の一端をピストンロッド2に他端をシールユニット4に固定し、シールユニット4に対するピストンロッド2の相対変位に応じてピストンロッド2周りに弾性薄膜21を柔軟に展開させ、ピストンロッド2との摺動部の相互間に介在して両者間の磁気粘性流体を介した接触を妨げると共に、シリンダ1の油圧室10から外部へのを磁気粘性流体の漏れを阻止する。
弾性薄膜21をゴムで構成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、シリンダとピストンロッドとの摺動部に弾性薄膜が介在し、シリンダから外部への磁気粘性流体の流通を阻止するため、油圧室の磁気粘性流体が摺動部において弾性薄膜で外部への漏れ自体を阻止できるし、摺動接触部材同士がゴム膜により直接の接触が阻止されると共に、両者間への磁気粘性流体の磁性粉の介在が阻止されるので、摺動接触部材の摩耗を防止でき、密封性を長期にわたって維持することができ、製品性能を維持して長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る磁気粘性流体流動型ダンパの縦断面図である。
【図2】摺動部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態について図面を参照して説明する。
図1において、本実施形態に係るダンパは、円筒状のシリンダ1と、シリンダ1に軸線方向に出入り自在に挿入されたピストンロッド2と、ピストンロッド2の一端部に固定されたピストン3と、シリンダ1におけるピストンロッド2の挿入側端部に設けられたシールユニット4と、シリンダ1の側部に設けられたバイパス管5と、シリンダ1の側部のバイパス管5の対向位置に設けられたアキュムレータ6とを備えている。シリンダ1、バイパス管5、アキュムレータ6は枠盤33に一体に固定される。この枠盤33は、シリンダ1、バイパス管5、アキュムレータ6の各一端部を嵌合可能な取付穴を備えている。結合盤32の内部には、シリンダ1、バイパス管5、アキュムレータ6を連通させる連通路34を有する。
【0009】
シリンダ1は、図示しない構造物や機械フレームなどの支持体又はダンパの支持対象となる被支持体の一方に枠盤33を介して支持部材7により連結される。シリンダ1の内部は摺動自在に気密に嵌合するピストン3によって軸線方向前後に二つの油圧室9,10に仕切られる。これら油圧室9,10には、オイル等の媒体に磁性粉を混合した磁気粘性流体が充填される。磁気粘性流体は、磁場に反応して粘度が増し、流動抵抗が大きくなる特性を有するものである。シリンダ1の一方の端蓋1aには、結合盤32の連通路34に連通する連通孔11が穿設されており、この連通孔11の内側開口には、吸油弁12が設けられている。吸油弁12は、端蓋1aに固定された係止リング14との間に介在する圧縮されたばね13により連通孔11を閉じるように端蓋1aに押し当てられる。この吸油弁12は、ピストン3の移動により油圧室9が負圧状態になると連通孔11を開いて連通路34を通じて油圧室9に磁気粘性流体を流れ込ませる。
【0010】
ピストンロッド2は、支持体又は被支持体の他方に支持部材8を介して連結される。ピストン3には、シリンダ1の油圧室9,10に通じる軸線方向の連通孔15が円周方向に複数設けられており、この連通孔15の油圧室10側開口には、吸油弁16が設けられている。吸油弁16は、ピストンロッド2の大径部端面との間に介在する圧縮されたばね17により連通孔15を閉じるようにピストン3に押し当てられる。この吸油弁16は、ピストン3の移動により油圧室10が負圧状態になると連通孔15を開いて油圧室9から油圧室10に磁気粘性流体を流れ込ませる。
【0011】
シールユニット4は、シリンダ1におけるピストンロッド2の挿入側蓋体1bに軸線を一致させて結合され、シリンダ1と共にピストンロッド2に貫通される円柱状のブロック18と、ブロック18から軸方向へ延びる環状鍔部18aの端縁に結合する端蓋19とを備えている。ピストンロッド2を貫通させるブロック18の挿通孔には、ピストンロッド2との間に隙間を形成する大径部18bを有する。挿通孔の内側開口部には、大径部18bに連続する内径を有する取付環20を介してピストンロッド2との間にゴム膜21が固定される。図2に示すように、ゴム膜21の内側端はピストンロッド2の構成杆2a,2bの一方2bの先端面とこれに嵌合固定される固定カップ22との間に挟み込まれて固定され、外側端部は取付環20のシリンダ1側の端面の環状溝20aに嵌め込まれ、取付環20とブロック18との突き合わせにより挟み込まれて固定される。ゴム膜21は、ピストンロッド2と取付環20との隙間をピストンロッド2のストローク位置にかかわらずピストンロッド上に柔軟に展開すると共に、軸方向前後に仕切り、油圧室10からピストンロッド2上への磁気粘性流体の引き込みによる漏れを遮断する。また、ゴム膜21は、ピストンロッド2とブロック18及び取付環20との磁気粘性流体の磁性粉を介した接触を阻止する。
【0012】
バイパス管5は、シリンダ1の側部に軸線方向を同じに並設される。このバイパス管5は円筒状ケース23の中心線上を磁性材で構成された軸棒24が貫通し、軸棒24周りに流通路25をおいて環状の電磁石26が軸方向に互いに隙間なく複数並べて固定されている。軸棒24の側面には電磁石26に対向して環状磁極24aが軸方向にほぼ等間隔で突出している。電磁石26は、鉄心26aの周りにコイル26bが巻かれた状態で埋め込まれて構成され、鉄心26a及び磁極23aとの間で磁束が通じ、流通路25に鉄心26aの半径方向の磁界を形成する。電磁石26のリード線26cは、バイパス管5の一端の引出し口27から引き出されて図示しない電源部に接続される。流通路25は枠盤33の連通路34及び油圧室10に連通し、磁気粘性流体を流通させる。
【0013】
アキュムレータ6は、軸方向前後に端蓋を有する円筒状のケース28の内部に内蓋29が軸線方向へ摺動自在に気密に嵌合し、磁気粘性流体が収容される液室6aが形成されている。内蓋29は、ケース28の一端蓋28cとの間に介在する圧縮された二重ばね30によって液室6aを狭める方向に押し込んでおり、液室6aの磁気粘性流体に内圧をかけ、温度変化などにより磁気粘性流体に過不足が生じた場合に、内圧により体積増減分を内蓋29の変位により液室6aが伸縮して吸収する。内蓋29とケース28の内周壁との間には、ゴム膜31が設けられている。ゴム膜31の内側端は内蓋29の先端面とこれに嵌合固定される固定カップ32に挟み込まれて固定され、外側端部は軸線方向に互いに接続される円筒状構成材27a,27bの一方の端面の環状溝27dに嵌め込まれ、外側端部は円筒状構成材27aと27bとの突き合わせにより挟み込まれて固定される。ゴム膜31は、内蓋29とケース28との隙間を内蓋29のストローク位置にかかわらず、内蓋29上に柔軟に展開すると共に、軸方向前後に仕切り、液室6aから内蓋29上への磁気粘性流体の引き込みによる漏れを遮断する。
【0014】
このダンパは、支持体と被支持体とが相対的に変位すると、ピストンロッド2がシリンダ1内に押し込まれ、あるいはそれから引き出され、ピストン3が移動する。ピストン3の移動により油圧室9,10の容積が変動して、その内部の磁気粘性流体がバイパス管5を通じて流動する。このとき、バイパス管5内の流通路25で磁気粘性流体の流れが絞られると共に、電磁石26によって形成される磁界が作用して磁気粘性流体の粘度が増し、流動抵抗が増大して、ピストン3の移動を妨げるので、支持体の運動を抑制する。吸油弁12,16は、ピストン3が移動したときの油圧室9,10の容積変動の相違による磁気粘性流体の出入り量の差分を吸収する。
【0015】
ピストンロッド2がシリンダ1から引き出される方向(図中右方向)に移動すると、シールユニット4において、ブロック18又は取付環20とピストンロッド2との間にゴム膜21が介在することにより、油圧室10からシールユニット4内への磁気粘性流体の引き込みが遮断され、磁気粘性流体の外部への漏れを阻止する。また、ピストンロッド2上にゴム膜21が柔軟に展開してピストンロッド2とシールユニット4との間に介在するので、ブロック18又は取付環19とピストンロッド2との直接の接触が阻止され、しかもこれら相互間への磁気粘性流体の磁性粉の進入が阻止されるので、摩耗を防止でき、密封性を長期にわたって維持する。この作用は、アキュムレータ6における内蓋29とケース28の相互間の摺動動作についてもゴム膜31によって同様に行われる。
なお、本実施形態においては、シリンダ1に隣接してシールユニット4を設け、シールユニット4とピストンロッド2との摺動部にゴム膜21を設けたが、この構成に代えて、シールユニット4を省略し、シリンダ1とピストンロッド2との摺動部にゴム膜21を設けても、摺動部への磁気粘性流体の進入を阻止する同様な作用を行う。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、摺動部のシール材のパッキン・Oリングを使用することなく、摺動部材の摩耗を防ぎ、所期の性能を長期にわたって発揮できる磁気粘性流体流動型ダンパに有効である。
【符号の説明】
【0017】
1 シリンダ
2 ピストンロッド
2a 構成杆
2b 構成杆
2c 接続部
3 ピストン
4 シールユニット
5 バイパス管
6 アキュムレータ
6a 液室
9 油圧室
10 油圧室
18 ブロック
18b 大径部
20 取付環
20a 環状溝
21 ゴム膜
24a 環状磁極
25 流通路
26 電磁石
26a 鉄心
28 ケース
28d 環状溝
29 内蓋
31 ゴム膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体又は被支持体の一方に連結され、内部に磁気粘性流体が充填されるシリンダと、
このシリンダ内を第1及び第2の油圧室に区画し、シリンダ内を軸線方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに固定されて前記シリンダに出入り自在に挿入され、支持体又は被支持体の他方に連結されるピストンロッドと、
前記シリンダの第1の油圧室と第2の油圧室との間を流通する前記磁気粘性流体の流通路の途上に磁気粘性流体の流動抵抗を変化させるための磁界を形成する磁石とを具備する磁気粘性流体流動型ダンパにおいて、
前記ピストンロッドとシリンダとの摺動部には、一端をピストンロッドに他端をシリンダに固定され、シリンダに対するピストンロッドの相対変位に応じてピストンロッド周りに柔軟に展開され、ピストンロッドとシリンダとの間に介在して両者間の磁気粘性流体を介した接触を妨げると共に、シリンダの油圧室から外部への磁気粘性流体の漏れを阻止する弾性薄膜を備えていることを特徴とする磁気粘性流体流動型ダンパ。
【請求項2】
支持体又は被支持体の一方に連結され、内部に磁気粘性流体が充填されるシリンダと、
このシリンダ内を第1及び第2の油圧室に区画し、シリンダ内を軸線方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに固定されて前記シリンダに出入り自在に挿入され、支持体又は被支持体の他方に連結されるピストンロッドと、
前記シリンダの第1の油圧室と第2の油圧室との間を流通する前記磁気粘性流体の流通路の途上に磁気粘性流体の流動抵抗を変化させるための磁界を形成する磁石とを具備する磁気粘性流体流動型ダンパにおいて、
前記シリンダにおけるピストンロッド挿入側端部にはピストンロッドを軸線方向に摺動自在に貫通させるシールユニットが密着され、
このシールユニットには、ピストンロッドとの間に設けられ、シールユニットに対するピストンロッドの相対変位に応じてピストンロッド上に柔軟に展開され、ピストンロッドとの間に介在して両者間の磁気粘性流体を介した接触を妨げると共に、シリンダの油圧室から外部への磁気粘性流体の漏れを阻止する弾性薄膜を備えていることを特徴とする磁気粘性流体流動型ダンパ。
【請求項3】
前記弾性薄膜がゴム製であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気粘性流体流動型ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−169447(P2011−169447A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36021(P2010−36021)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】