説明

磁気記録メディア用αアルミナ粉末

【課題】 容易にバインダー樹脂に分散させることのできる磁気記録メディア用αアルミナ粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、BET比表面積が10m2/g以上であり、ネック率が30%以下であることを特徴とする。このαアルミナ粉末をバインダー樹脂に分散させて磁気記録メディア用コーティング組成物を製造する。この磁気記録メディア用コーティング組成物を支持基材上に塗布して磁気記録層を形成して、磁気記録メディアを製造する。この磁気記録メディアは、表面が平滑である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録メディア用αアルミナ粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープなどの磁気記録メディアは、信号を磁気記録するための磁気記録層が支持基材上に設けられた記録メディアであって、磁気テープなどとして広く用いられている。かかる磁気記録メディアの中でも高記録密度のものとして、磁気記録層を強磁性粉末を含まない非磁性層と、強磁性粉末を含む磁性層とを含む2層以上の多層構成とし、これら非磁性層と磁性層とがこの順で支持基材上に形成された重層磁気記録メディアも広く用いられており、これら非磁性層および磁性層にαアルミナ粉末を分散したものも知られている。
【0003】
かかる非磁性層および磁性層は、例えばバインダー樹脂にαアルミナ粉末や、強磁性粉末を加え、攪拌して分散させることで、バインダー樹脂中にαアルミナ粉末が分散された磁気記録メディア用コーティング組成物を得、これを支持基材上に塗布する工程を経て形成されている〔特許文献1:特開2003−141714号公報〕。αアルミナ粉末は表面平滑性に優れた磁気記録層が容易に形成される点、より高密度で記録しうる磁性層を与える点などから、BET比表面積が例えば10m2/g以上であるような小粒子径であることが好ましく、また凝集が少なく、できるだけ小さい粒子径のままでバインダー樹脂中に分散されうることが好ましい。
【0004】
しかし、従来から知られている小粒子径で高BET比表面積のαアルミナ粉末は凝集し易いため、バインダー樹脂と攪拌しても凝集したままとなる傾向にあり、十分に分散させることが困難であるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−141714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者は、バインダー樹脂に容易に分散されうる磁気記録メディア用αアルミナ粉末を開発するべく鋭意検討した結果、従来から使用されていたαアルミナ粉末は、粒子同士が融着してネッキングしている粒子が多いのに対し、このネッキングしている粒子の割合が少ないと、凝集し難くなって、バインダー樹脂中に均一に分散し得ることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、BET比表面積が10m2/g以上であり、ネック率が30%以下であることを特徴とする磁気メディア用αアルミナ粉末を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、バインダー樹脂に均一に分散されるので、このαアルミナ粉末がバインダー樹脂に分散された磁気記録メディア用コーティング組成物は、より高密度で記録し得る磁気記録層や、表面平滑性に優れた磁気記録層を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、主結晶相がαアルミナを示すアルミナの粉末であって、例えばα相以外の相、例えばθ相を実質的に含まないものである。アルミナ焼成物の結晶相は、焼成物のX線回折(XRD)スペクトルから求めることができる。
【0010】
本発明の磁気メディア用αアルミナ粉末は、BET比表面積が10m2/g以上、好ましくは13m2/g以上70m2/g以下である。
【0011】
ネック率は30%以下であり、理想的には0%である。ここでネック率は、例えばネック率は、微粒αアルミナの透過電子顕微鏡写真に写った任意の粒子について、ネッキングして隣の粒子と繋がっている粒子の割合として求めることができる。
【0012】
かかるαアルミナ粉末は、例えばアルミニウム塩が溶解され、金属酸化物からなる種晶粒子を含み、アルミニウム塩および種晶粒子の酸化物換算の合計含有量100重量部あたりの種晶粒子の含有量X(重量部)が式(1)
X ≧ 350 / S (1)
〔式中、Sは種晶粒子のBET比表面積(m2/g)を示す。〕
を満足する水溶液に、60℃以下にて、該水溶液の水素イオン濃度がpH5を超えないように塩基を加えて該水溶液中のアルミニウム塩を加水分解して、水にアルミニウム加水分解物および種晶粒子が分散された水性混合物を得、
得られた水性混合物から水を留去してアルミニウム加水分解物および種晶粒子を含む粉末
混合物を得、
得られた粉末混合物を気流中で塩分解した後、焼成する方法により製造することができる。
【0013】
アルミニウム塩としては、アルミニウム以外の金属成分を含まないものが用いられ、例えば硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩、アンモニウム明礬、炭酸アンモニウムアルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム無機塩、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどのアルミニウム有機塩などが挙げられるが、好ましくはアルミニウム無機塩、さらに好ましくはアルミニウム硝酸塩である。
【0014】
アルミニウム塩が溶解した水溶液におけるアルミニウム塩の濃度は、アルミニウム換算で通常0.01mol/L以上飽和濃度以下である。この水溶液においてアルミニウム塩は完全に溶解していることが好ましく、このため、水溶液の水素イオン濃度pHは通常2以下であり、通常は0以上である。
【0015】
種晶粒子としては、、例えばアルミナ、酸化鉄、酸化クロムなどの金属酸化物からなる粒子が用いられる。かかる種晶粒子としては粒子径が通常0.01μm以上0.5μm以下程度のものが用いられ、好ましくは0.05μm以上である。BET比表面積は10m2/g以上、好ましくは12m2/g以上、150m2/g以下程度、さらに好ましくは15m2/g以上である。種晶粒子としては、結晶構造がコランダム型であるものが好ましく用いられ、また結晶水のないものが好ましく用いられる。結晶構造がコランダム型で結晶水のない種晶粒子としては、例えばαアルミナ粒子、α酸化鉄粒子、α酸化クロム粒子などが挙げられる。得られる微粒αアルミナと同じ金属成分であることから、アルミナ粒子が好ましく用いられる。
【0016】
種晶粒子の含有量は、アルミニウム塩および種晶粒子の酸化物換算の合計含有量100重量部あたりの含有量Xが前記式(1)を満足する量であり、好ましくは式(2)
X ≧ 400 / S (2)
〔式中、Sは前記と同じ意味を示す。〕
を満足する。また、Xは実用的な量であれば問題ないが、好ましくは式(3)
X ≦ 7500 / S (3)
〔式中、Sは前記と同じ意味を示す。〕
を満足する。
【0017】
アルミニウム塩の水溶液は、少なくとも焼成温度で揮発するか、消失する溶媒を含有していてもよい。かかる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールをはじめとする極性有機溶媒、四塩化炭素、ベンゼン、ヘキサンなどの非極性有機溶媒などの有機溶媒が挙げられる。
【0018】
この水溶液に塩基を加えて、水溶液中のアルミニウム塩を加水分解する。塩基としては、例えばアンモニアなどのような金属成分を含まないものが用いられる。アンモニアを用いる場合には、ガス状で吹き込んで加えてもよいが、アンモニア水溶液として加えることが好ましい。アンモニア水溶液を用いる場合、その濃度は通常アルミニウム換算で0.01mol/L以上飽和濃度以下である。加水分解するには、通常、水素イオン濃度がpH3以上となるように塩基を加えればよい。
【0019】
加水分解は、pH5以下の水素イオン濃度で行われる。pH5以下で加水分解するには、アルミニウム塩の水溶液の水素イオン濃度がpH5を超えないように塩基を加えればよく、例えば塩基の使用量を調整して、pH5以下の水素イオン濃度となる量の塩基を加えてもよいし、水素イオン計(pHメーター)を用いて水素イオン濃度を測定しながらpH5を超えないように塩基を加えてもよい。過剰に塩基を加えてpH5を超えたのでは、ネッキングしている粒子の多い微粒αアルミナが得られ易い。
【0020】
加水分解は60℃以下で行なわれ、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下の温度で行なわれ、通常はアルミニウム塩水溶液の凍結温度以上、好ましくは0℃以上の温度で行なわれる。60℃を超える温度で加水分解したのでは、得られる微粒αアルミナが、ネッキングしている粒子の多いものとなり易い。
【0021】
塩基を加えた後、60℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下、通常は凍結温度以上、好ましくは0℃以上の温度で、例えば1時間以上通常は72時間以下程度保持してもよい。
【0022】
水溶液中のアルミニウム塩を加水分解することで、水およびアルミニウム加水分解物を含む加水分解混合物を得る。アルミニウム加水分解物は通常、水に不溶であるので、かかる加水分解混合物において、アルミニウム加水分解物はゾル状もしくはゲル状となっているか、あるいは沈殿物として沈殿している。
【0023】
かくして水にアルミニウム加水分解物および種晶粒子が分散された水性混合物を得、この水性混合物から水を留去する。水性混合物から水を留去するには、通常の方法、例えば加熱による留去、凍結乾燥法、真空乾燥法などの通常の方法で留去することができる。水を留去させる際の温度は通常100℃以下である。
【0024】
かくして水性混合物から水を除去することで、アルミニウム加水分解物および種晶粒子を
含む粉末混合物を得ることができる。
【0025】
かくして得られた粉末混合物には、アルミニウム塩を塩基で加水分解したときに副生する塩が含まれているが、この塩は、粉末混合物を気流下で加熱することで塩分解する。
【0026】
塩分解は例えば、ロータリ炉、ローラーハース炉のように粉末混合物を炉内に連続的に投入しながら加熱し塩分解して、塩分解後のサンプルを連続的に取り出す連続式の焼成炉であってもよいし、管状電気炉、箱型電気炉のように回分式で粉末混合物を入れて加熱して塩分解する回分式焼成炉であってもよい。加熱は例えば、電熱、遠赤外線、マイクロ波などにより行われる。
【0027】
塩分解の温度は、アルミニウム加水分解物がα化しないような温度、例えば600℃以下が好ましい。塩分解時間は粉末混合物中の塩が分解し、粉末混合物中から塩が除去される時間であればよく、用いる混合粉末の種類、量、焼成炉の形式、焼成温度によって異なるが、例えば、10分以上24時間以下程度である。気流下で塩分解するには焼成炉内に窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを吹き込みつつ、排出口から炉内のガスを排出しながら加熱すればよい。
【0028】
粉末混合物を炉内に連続的に供給して塩分解する連続式焼成炉を用いる場合は、水蒸気などが発生するため、式(4)

〔式中、xはアルミニウム加水分解物の投入量(g/秒)を、V2は室温における大気圧換算の不活性ガスの吹込み量(m3/秒)を、Pは炉内圧力(Pa)を、Aは排出口の開口面積(m2)を、nは粉末混合物1gを塩分解したときに生ずるガスの発生量(mol/g)を、Rは気体定数(=8.31Pa・m3/mol/K)を、Tは塩分解温度(K)を、T0は室温(K)をそれぞれ示し、ρは排出口から排出されるガスの線速度(m/秒)を示す。〕
を満足するように焼成炉に不活性ガスを吹き込みながら塩分解することが好ましい。
【0029】
塩分解したのち焼成する。焼成温度はα化率の高い微粒αアルミナが容易に得られる点で600℃以上、好ましくは700℃以上であり、粒子同士のネッキングがより少ない点で1000℃以下、好ましくは950℃以下である。
【0030】
焼成は、大気中で行なわれてもよいし、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で行なわれてもよい。また雰囲気中の水蒸気分圧を低く維持しながら焼成してもよい。
【0031】
焼成は、例えば管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なうことができる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また静置式で行なってもよいし、流動式で行ってもよい。
【0032】
焼成時間はアルミニウム加水分解物がα化して高α化率の微粒αアルミナが得られるに十分な時間であればよく、用いるアルミニウム化合物の種類、量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気によって異なるが、例えば10分以上24時間以下程度である。
【0033】
得られた微粒αアルミナは、粉砕されてもよい。微粒αアルミナを粉砕するには、例えば振動ミル、ボールミル、ジェットミルなどの媒体粉砕機を用いることができる。また、得られた微粒αアルミナは分級してもよい。
【0034】
本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末をバインダー樹脂に分散させることで、バインダー樹脂中にαアルミナ粉末が分散された磁気記録メディア用コーティング組成物を得ることができる。本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、バインダー樹脂中に容易に分散させることができるので、比較的短時間の攪拌で磁気記録メディア用コーティング組成物を得ることができる。
【0035】
バインダー樹脂としては、通常の磁気記録メディア用コーティング組成物と同様に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテルなどを単量体単位とする重合体や、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂および反応型樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂などが挙げられ、好ましくは塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0036】
磁気記録メディア用αアルミナ粉末の使用量は、バインダー樹脂に対して通常は5質量倍〜20質量倍程度である。
【0037】
磁気記録メディアコーティング用組成物は通常、溶剤で希釈された状態で用いられる。溶剤としては、例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの有機溶剤が挙げられる。かかる溶剤の使用量は、バインダー樹脂に対して通常10質量倍〜50質量倍程度である。
【0038】
磁気記録メディア用コーティング組成物は、磁性粉末を含有していなくてもよいし、含有していてもよい。磁性粉末を含有していない磁気記録メディア用コーティング組成物を支持体上に塗布することで、磁性粉末を含有しない非磁性層を形成することができる。また、磁性粉末を含有する磁気記録メディア用コーティング組成物を支持体または非磁性層の上に塗布することで、磁性層を形成することができる。磁性粉末は、金属酸化物の粉末であってもよいが、強磁性金属の粉末、例えばαFe(α相の金属鉄)の粉末であることが好ましい。
【0039】
磁気記録メディア用コーティング組成物は、潤滑剤、帯電防止剤、界面活性剤などの添加剤を含有していてもよい。潤滑剤としては、例えばカプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸などの脂肪酸や、これらのブチルエステル、オクチルエステル、イソオクチルエステル、アミルエステルなどのような脂肪酸エステルなどが挙げられる。帯電防止剤としては、例えばカーボンブラックが挙げられる。また界面活性剤としては、アルキレンオキサイド系界面活性剤、グリセリン系界面活性剤、グリシドール系界面活性剤、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体などのノニオン系界面活性剤、環状アミン、エステルアミン、四級アンモニウム塩、ヒダントイン誘導体、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などのアニオン系界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類などの両性界面活性剤などが挙げられ、これらの界面活性剤は、帯電防止剤としても機能する。
【0040】
磁気記録メディア用コーティング組成物は、例えば有機溶剤にバインダー樹脂および本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末を混合し、攪拌する方法で製造することができる。攪拌するには、例えば有機溶剤、バインダー樹脂およびαアルミナ粉末の混合物に、分散媒体として不活性の球状物を入れ、攪拌する方法で攪拌すればよい。分散媒体は、攪拌完了後には取り除かれるものであり、例えば粒子径0.05〜5mm程度のガラスビーズなどが用いられる。
【0041】
本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、凝集させることなく容易にバインダー樹脂中に分散させることができる。磁性粉末や添加剤は、αアルミナ粉末やバインダー樹脂と共に有機溶剤に加えてもよいし、有機溶剤中でαアルミナ粉末およびバインダー樹脂を攪拌した後に加えてもよい。
【0042】
かくして本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末がバインダー樹脂に分散された磁気記録メディア用コーティング組成物が得られるが、かかる組成物を支持基材上に塗布することで、この組成物から形成された磁気記録層を支持基材上に有する磁気記録メディアを製造することができる。
【0043】
支持基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホンなどからなるフィルムが用いられる。
【0044】
支持基材上に磁性粉末を含むコーティング組成物を直接塗布して磁性層を形成してもよいし、支持基材上に先ず磁性粉末を含まないコーティング組成物を塗布して非磁性層を形成した後に、磁性粉末を含むコーティング組成物を塗布して磁性層を形成してもよい。
【0045】
組成物を塗布するには、例えばグラビア塗布法、ブレード塗布法などの通常の方法で塗布すればよい。塗布後、溶剤を揮発させることで、磁気記録層を形成することができる。
【0046】
本発明の磁気記録メディア用αアルミナ粉末は、バインダー樹脂に短時間で分散させることができるので、高い密度で情報を記録するための磁気記録メディアに好適に使用される。かかる高記録密度の磁気記録メディアとしては、例えばDVCPRO、HDCAM、βカム、デジタルβカムなどの放送局用磁気テープ、DDS−2、DDS−3、DDS−4、D8、DLT、S−DLT、LTO、DTF、SD1、IBM3590などのコンピューターのデータバックアップに用いられるデータストレージ用磁気テープなどのような重層磁気記録メディアなどが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0048】
なお、各実施例で得た微粒αアルミナおよび磁気記録メディアは以下の方法で評価した。
(1)BET比表面積(m2/g):
窒素吸着法により求めた。
(2)結晶相:
試料をX線回折装置(商品名「Rint−2100」、理学電機製)粉末X線回折装置を用いて得た微粒αアルミナの回折スペクトルから、2θ=25.6°の位置に現れるアルミナα相(012面)のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相、η相、χ相、κ相、θ相およびδ相のピーク高さ(I46)とから、式(1)
α化率= I25.6 / (I25.6 + I46 )×100(%)(1)
により算出した。
(3)ネック率:
微粒αアルミナの透過電子顕微鏡写真に写った任意の粒子20個以上について、ネッキングして隣の粒子と繋がっている粒子の割合として求めた。
(4)一次粒子径:
微粒αアルミナの透過電子顕微鏡写真に写った任意の粒子20個以上について、個々の一次粒子の定方向最大径を測定し、測定値の数平均値として求めた。
(5)中心粒子径:
レーザー回折散乱式流度分布測定装置〔日機装(株)製、「マイクロトラックHRA」〕にて測定した。
(6)平滑度:
JIS Z8741に従って入射角45°、反射角45°で光沢値として求めた。光沢値が大きいほど、平滑であることを示す。
(7)粉砕度
種晶(αアルミナ)の粉砕度は、そのα相(116)面のX線回折ピークの半価幅(H(116))と、粉砕前の種晶(αアルミナ)のα相(116)面のX線回折ピークの半価幅(
0(116))とから、式(5)
粉砕度 = H(116) / H0(116)・・・(5)
により求めた。
【0049】
実施例1
〔種晶スラリ〕
アルミニウムイソプロポキシドを加水分解して得られた水酸化アルミニウムを仮焼して、主結晶相がθ相であり、α相を3重量%含む中間アルミナを得、この中間アルミナをジェットミルにて粉砕して、嵩密度0.21g/cm3の粉末を得た。
炉内が露点−15℃〔水蒸気分圧165Pa)の乾燥空気で満たされた雰囲気炉に上記で得た粉末を連続的に投入しながら、平均滞留時間3時間で連続的に取り出して、最高温度1170℃にて焼成して、BET比表面積14m2/gのαアルミナ粒子を得た。
このαアルミナ粒子100質量部あたり1質量部の粉砕助剤(プロピレングリコール)を加え、粉砕媒体として直径15mmのアルミナビーズを加えて振動ミルにて12時間粉砕して、BET比表面積17.3m2/g、粉砕度1.104、粒子径約0.1μmのαアルミナ粒子を得た。
【0050】
このαアルミナ粒子(粒子径は約0.1μm)750gを硝酸アルミニウム水溶液(pH=2)3000gに添加し分散させた後、ダイノーミル〔アシザワファインテック(株)製〕にてアルミナビーズ(直径φ0.65mm)を用いて1時間分散処理をすることで、種晶スラリーを得た。
【0051】
得られた種晶スラリを、遠心分離機にて4000rpmで40分で分級処理をし、上澄み液を採取することで固形分濃度が1.4質量%の種晶スラリを得た。
【0052】
〔アルミニウム加水分解物の製造〕
硝酸アルミニウム水和物〔Al(NO3)3・9H2O〕(関西触媒化学製、特級、粉末状)937.8g(2.5モル)を純水932.85gと上記で得た種晶スラリー1017.8g(αアルミナ粒子14.2gを含む)を添加し、室温(約25℃)で撹拌しながらマイクロロータリーポンプを用いて25%アンモニア水〔和光純薬工業製、特級〕392.5g(アンモニア98.1g)を約32g/分の供給速度で添加した。添加終了時には、加水分解生成物が析出したスラリーとなっており、そのpHは3.8であった。室温(約25℃)でこのスラリーを数十分間放置した。この水性混合物はゼリー化した。これを60℃の恒温槽で1日間乾燥し、アルミナ製乳鉢を用いて粉砕し、粉末状の混合物を得た。この混合物には、金属成分の酸化物換算で100質量部当たり10質量部の種晶粒子が含まれている。
【0053】
〔塩分解〕
温度(T0)が25℃の実験室内で、SUS304L製で開口面積(A)38.5cm2の排出口を備えた長さ225cm、内径212cmで内容積79.4Lのロータリーキルン(高砂工業製)を使用し、投入口から上記で得た粉末混合物を20g/分で投入しながら取出口から塩分解後の混合物を連続的に取り出して塩分解を行った。ロータリーキルン内は予め窒素ガスで置換して用いた。取出口における炉内温度は390℃であった。炉内圧力(P)は大気圧(0.1MPa)で使用し、窒素ガスの吹込み量(V2)は25℃換算で10L/分(1.67×10-43/秒)とした。キルンの回転速度は2回転/分とした。
【0054】
〔焼成〕
塩分解後の混合物をアルミナ製るつぼに入れ、箱型電気炉を用いて920℃で3時間焼成を行って微粒αアルミナを得た。得られたαアルミナのBET比表面積は18.5、ネック率が8%で、α化率が99%のαアルミナを得た。得られたαアルミナを3.3L振動ミルにφ15mmのアルミナビーズを充填させ12分間粉砕をすることで、αアルミナを得た。
【0055】
〔磁気記録メディア用コーティング組成物の製造〕
上記で得たαアルミナ粉末30質量部、塩化ビニル樹脂〔日本ゼオン(株)製、「MR110」〕2.4質量部、メチルエチルケトン40.6質量部およびシクロヘキサノン27質量部をバッチ式サンドグラインダーに投入し、直径0.65mmのジルコニアビーズを分散媒体として、回転数2000rpmで攪拌して分散させた。攪拌開始から2時間経過後、ガラスビーズが含まれないように内容物を取り出して、磁気記録メディア用コーティング組成物とした。この組成物に含まれる粒状物〔αアルミナ粉末の凝集物〕の中心粒子径は0.36μmであった。
【0056】
〔コーティング〕
上記で得た磁気記録メディア用コーティング組成物を厚さ14μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にドクターブレード(厚さ45μm)を用いて塗布し、乾燥して塗膜を形成した。この塗膜の光沢値は58%であった。
【0057】
実施例2
〔磁気記録メディア用コーティング組成物の製造〕
攪拌時間を6時間とする以外は実施例1と同様に操作して、磁気記録メディア用コーティング組成物を得た。この組成物に含まれる粒状物の中心粒子径は0.31μmであった。
【0058】
〔コーティング〕
実施例1で得た組成物に代えて上記で得た組成物を用いる以外は実施例1と同様に操作して塗膜を形成したところ、この塗膜の光沢値は62%であった。
【0059】
比較例1
〔磁気記録メディア用コーティング組成物の製造〕
実施例1で得たαアルミナ粉末に代えて、市販のαアルミナ粉末〔住友化学工業(株)製、「HIT−80」、BET比表面積20m2/g、焼結体の相対密度は56%〕30質量部を用いる以外は実施例1と同様に操作して6時間攪拌して、磁気記録メディア用コーティング組成物を得た。この組成物に含まれる粒状物の中心粒子径は0.39μmであった。
【0060】
〔コーティング〕
実施例1で得た磁気記録メディア用コーティング組成物に代えて上記で得た組成物を用いる以外は、実施例1と同様に操作して形成された塗膜の光沢値は26%であった。
【0061】
比較例2
〔磁気記録メディア用コーティング組成物の製造〕
実施例1で得た微細アルミナ粉末に代えて、市販のαアルミナ粉末〔住友化学工業社製、「HIT−50」、BET比表面積8.5m2/g、焼結体の相対密度は61%〕30質量部を用いる以外は実施例1と同様に操作して6時間攪拌して、磁気記録メディア用コーティング組成物を得た。この組成物に含まれる粒状物の中心粒子径は0.32μmであった。
【0062】
〔コーティング〕
実施例1で得た磁気記録メディア用コーティング組成物に代えて上記で得た組成物を用いる以外は、実施例1と同様に操作して形成された塗膜の光沢値は48%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が10m2/g以上であり、ネック率が30%以下であることを特徴とする磁気メディア用αアルミナ粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録メディア用αアルミナ粉末をバインダー樹脂に分散させること
を特徴とする磁気記録メディア用コーティング組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気記録メディア用αアルミナ粉末がバインダー樹脂に分散されてなる
磁気記録メディア用コーティング組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気記録メディア用コーティング組成物を支持基材上に塗布して磁気
記録層を形成することを特徴とする磁気記録メディアの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気記録メディア用コーティング組成物から形成された磁気記録層を
支持基材上に有する磁気記録メディア。

【公開番号】特開2006−73119(P2006−73119A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256679(P2004−256679)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】