説明

磁気記録媒体の表面状態判定方法および表面状態判定装置

【課題】磁気記録媒体の表面状態を、実際の使用状態と同様の感度で判定することができ、磁気記録媒体の表面における突起および窪みの有無を判定することが可能な、磁気記録媒体の表面状態判定装置を提供する。
【解決手段】表面状態判定装置1は、磁気記録媒体走行系10を制御し、磁気テープを走行させる走行系制御部31と、記録ヘッド21を制御し、磁気テープの記録トラックを磁化させる記録ヘッド制御部32aと、MRヘッド群22を制御し、磁化された記録トラックを再生させることにより再生出力を取得するMRヘッド制御部32bと、再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定部33と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の表面状態判定方法および表面状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体の記録面上に、ある大きさ以上の突起(異常突起)が存在すると再生不良の原因となるため、製品の検査時に記録面の表面状態(表面粗さ)の測定が行われている。
磁気記録媒体の表面状態の測定に関し、本願出願人は、磁気記録媒体の表面状態(表面粗さ)を、実際の使用状態と同様の感度で測定するため、磁気記録媒体の再生時に発生するサーマルアスペリティのピーク値に基づいて、記録面上に存在する突起の高さを測定する方法を提案している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−130606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁気記録媒体の再生不良は、記録面上に突起が存在する場合だけでなく、ある大きさ以上の窪みが存在する場合にも生じる。したがって、記録面上に存在する窪みの有無を判定したいという要望がある。
【0004】
本発明は、前記した事情に鑑みて創案されたものであり、磁気記録媒体の表面状態を、実際の使用状態と同様の感度で判定することができ、磁気記録媒体の表面における突起および窪みの有無を判定することが可能な、磁気記録媒体の表面状態判定方法および表面状態判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の磁気記録媒体の表面状態判定方法は、磁気記録媒体を走行させつつ、記録ヘッドを用いて、前記磁気記録媒体の記録トラックに信号を記録する記録ステップと、前記磁気記録媒体を走行させつつ、磁気抵抗効果型ヘッドを用いて、記録された前記記録トラックを再生することにより、再生出力を取得する再生ステップと、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0006】
磁気抵抗効果型ヘッドは、磁性体に磁界が加わったときに抵抗値が変化する磁気抵抗効果(magneto resistive)を利用したヘッドであり、MRヘッドとも呼ばれる。MRヘッドとしては、異方性磁気抵抗効果型ヘッド(AMR(Anisotropic Magneto Resistive)ヘッドともいう)、巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMR(Giant Magneto Resistive)ヘッドともいう)、トンネル磁気抵抗効果型ヘッド(TMR(Tunneling Magneto Resistive)ヘッドともいう)が挙げられる。
「サーマルアスペリティ(TA;Thermal Asperity)」は、磁気記録媒体の突起とMRヘッドとの衝突が原因で起こる熱の発生によりMRヘッドのMR素子の磁気抵抗が変化する現象であり、再生信号(再生出力)における短時間のスパイク性ノイズとして現れる。
また、「磁気記録媒体を走行させ」とは、各ヘッドにより磁気記録媒体に対する記録・再生・消去などが実行できるように磁気記録媒体を動かすことを意味し、磁気記録媒体が磁気ディスクである場合には、磁気ディスクを回転させることを意味する。
【0007】
記録トラックに突起および/または窪みが存在する場合には、再生不良が生じ、再生出力(再生信号の検波出力)が低下する。そして、突起が存在する場合には、突起と磁気抵抗効果型ヘッドとが接触することによりサーマルアスペリティが発生する。また、窪みが存在する場合には、サーマルアスペリティは発生しない。
このように、再生出力の低下とサーマルアスペリティの発生の有無とを組み合わせることにより、記録トラックの再生不良の原因が突起であるか窪みであるかを判定することができる。
したがって、磁気記録媒体の表面状態を、実際の使用状態と同様の感度で判定することができ、磁気記録媒体の表面における突起および窪みの有無を判定することができる。また、記録媒体を走行させて再生出力を取得するので、短時間で大面積の判定を行うことができる。
【0008】
また、磁気記録媒体の表面状態判定方法は、前記記録ステップおよび前記再生ステップを同時に行ってもよい。
【0009】
すなわち、未記録の記録トラックへの記録と、記録済みの記録トラックの再生とを同時に行うので、より短時間で判定を行うことができる。
【0010】
また、磁気記録媒体の表面状態判定方法は、前記磁気記録媒体を走行させつつ、消去ヘッドを用いて、再生された前記記録トラックの信号を消去する消去ステップをさらに含んでもよい。
【0011】
このようにすることで、磁気記録媒体の次工程への受け渡しが円滑に行われるようになる。
【0012】
また、磁気記録媒体の表面状態判定方法は、前記記録ステップ、前記再生ステップおよび前記消去ステップを同時に行ってもよい。
【0013】
すなわち、未記録の記録トラックへの記録と、記録済み記録トラックの再生と、再生済みの記録トラックの消去とを同時に行うので、より短時間で判定を行うことができるとともに、磁気記録媒体の次工程への受け渡しを速やかに行うことができるようになる。
【0014】
また、本発明の磁気記録媒体の表面状態判定方法は、磁気記録媒体を走行させつつ、磁気抵抗効果型ヘッドを用いて、予め信号が記録された記録トラックを再生することにより再生出力を取得する再生ステップと、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の磁気記録媒体の表面状態判定装置は、磁気記録媒体がセットされる磁気記録媒体走行系と、前記磁気記録媒体走行系を制御し、前記磁気記録媒体を走行させる走行系制御部と、記録ヘッドと、前記記録ヘッドを制御し、前記磁気記録媒体の記録トラックに信号を記録させる記録ヘッド制御部と、磁気抵抗効果型ヘッドと、前記磁気抵抗効果型ヘッドを制御し、記録された前記記録トラックを再生させることにより再生出力を取得する磁気抵抗効果型ヘッド制御部と、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
このような構成により、磁気記録媒体の表面状態を、実際の使用状態と同様の感度で判定することができ、磁気記録媒体の表面における突起および窪みの有無を判定することができる。また、記録媒体を走行させて再生出力を取得するので、短時間で大面積の判定を行うことができる。
また、未記録の記録トラックへの記録と、記録済み記録トラックの再生とを同時に行うので、より短時間で判定を行うことができる。
【0017】
また、前記表面状態判定部は、前記再生出力の低下量に基づいて、突起の高さおよび/または窪みの深さを算出する構成であってもよい。
【0018】
表面状態判定部は、予め再生出力の低下量と突起の高さおよび/または窪みの深さとの関係を記憶していて、かかる関係を用いて突起の高さおよび/または窪みの深さを算出してもよく、後記する実施形態のように、磁気記録媒体の走行速度などに基づいて突起の高さおよび/または窪みの深さを算出する構成であってもよい。
このような構成により、突起および/または窪みの大きさに関する一情報である突起高さおよび/または窪みの深さを得ることができる。
【0019】
また、前記表面状態判定部は、前記再生出力と、前記走行系駆動部による前記磁気記録媒体の走行速度と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向における長さを算出する構成であってもよい。
【0020】
このような構成により、突起および/または窪みの大きさに関する一情報である走行方向の長さを得ることができる。
【0021】
また、前記表面状態判定部は、前記再生出力と、前記走行系駆動部による前記磁気記録媒体の走行速度と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向における位置を算出する構成であってもよい。
【0022】
このような構成により、突起および/または窪みの位置に関する一情報である走行方向の位置を得ることができる。
【0023】
また、磁気記録媒体の表面状態判定装置は、前記磁気抵抗効果型ヘッドとして、一つの記録トラックに対応して、前記磁気記録媒体の走行方向に対して直交する方向に並べて配置された複数の磁気抵抗効果型ヘッドを備えており、前記表面状態判定部は、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドを介して取得された再生出力と、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドの相互位置と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向に対して直交する方向における長さを算出する構成であってもよい。
【0024】
このような構成により、突起および/または窪みの大きさに関する一情報である走行方向に対して直交する方向の長さを得ることができる。
【0025】
また、前記表面状態判定部は、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドを介して取得された再生出力と、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドの相互位置と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向に対して直交する方向における位置を算出する構成であってもよい。
【0026】
このような構成により、突起および/または窪みの大きさに関する一情報である走行方向に対して直交する方向の位置を得ることができる。
【0027】
また、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドは、走行方向から見て隣同士が一部重なるように配置されている構成であってもよい。
【0028】
このような構成により、突起および/または窪みに関するより細かい情報を得ることができる。
【0029】
また、磁気記録媒体の表面状態判定装置は、消去ヘッドと、前記消去ヘッドを制御し、再生された前記記録トラックの信号を消去させる消去ヘッド制御部と、をさらに備えている構成であってもよい。
【0030】
このような構成により、未記録の記録トラックへの記録と、記録済み記録トラックの再生と、再生済みの記録トラックの消去とを同時に行うので、より短時間で判定を行うことができるとともに、磁気記録媒体の次工程への受け渡しを速やかに行うことができるようになる。
【0031】
また、本発明の磁気記録媒体の表面状態判定装置は、記録トラックに信号が予め記録された磁気記録媒体がセットされる磁気記録媒体走行系と、前記磁気記録媒体走行系を制御し、前記磁気記録媒体を走行させる走行系制御部と、磁気抵抗効果型ヘッドと、前記磁気抵抗効果型ヘッドを制御し、記録された前記記録トラックを再生させることにより再生出力を取得する磁気抵抗効果型ヘッド制御部と、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定部と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の磁気記録媒体の表面状態判定方法および表面状態判定装置によれば、磁気記録媒体の表面状態を、実際の使用状態と同様の感度で判定することができ、磁気記録媒体の表面における突起および窪みの有無を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。同様の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。なお、以下の実施形態では、磁気記録媒体の一種である磁気テープの表面状態を判定する場合を例にとり説明する。
参照する図面において、図1(a)は、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の表面状態判定装置を示すシステム構成図であり、図1(b)は、ヘッド部を説明するための図である。図2は、図1(b)の部分拡大図である。図3は、本発明の実施形態に係る表面状態判定装置のブロック図である。図4は、磁気抵抗効果型ヘッドによる再生出力を説明するグラフである。図5は、再生出力に基づく表面状態の判定を説明するためのグラフである。図6は、判定結果の表示例を説明するための図である。なお、図4および図5のグラフにおいて、縦軸は磁気抵抗効果型ヘッドにより取得された再生出力であり、横軸は時刻tである。
【0034】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の表面状態判定装置1(以下、表面状態判定装置1と記載する)は、磁気記録媒体走行系10と、ヘッド部20と、制御装置30と、表示装置40と、を備えている。
【0035】
[磁気記録媒体走行系10]
磁気記録媒体走行系10は、磁気テープMTに対するデータの記録、再生および消去が可能なように、磁気テープMTを走行させるためのものであり、磁気テープMTが巻回される一対のリール11,11と、走行する磁気テープMTを案内する複数のガイド12,12,…(図1には4個のガイドを図示)を備えている。リール11およびガイド12は回動可能であり、一対のリール11,11が回転駆動されることにより磁気テープMTが走行する。
【0036】
[ヘッド部20]
ヘッド部20は、走行する磁気テープMTに対して、データの記録、再生および消去を行う。図1(b)に示すように、ヘッド部20は、磁気テープ走行方向の上流側から順に、記録ヘッド21と、磁気抵抗効果型ヘッド群22(以下、「MRヘッド群22」と記載する)と、消去ヘッド23と、を備えている。
記録ヘッド21は、磁気テープMTの記録トラック(記録バンドともいう)RTに信号(記録信号)を記録する。MRヘッド群22は、記録された記録トラックRTを再生する。消去ヘッド23は、再生された記録トラックRTの信号(記録信号)を消去する。磁気テープMTには、複数の記録トラックRTがあるが、図1(b)には、一つの記録トラックRTのみが図示されている。
記録信号は、単一の正弦波からなる信号であることが望ましい。以下、記録信号が単一の正弦波からなる場合を例にとって説明する。
【0037】
図2に示すように、MRヘッド群22は、一つの記録トラックRTに対して、5つの磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)22a,22b,22c,22d,22eを備えている。MRヘッド22a〜22eは、磁気テープMTの記録面垂直視でV字状に配列されている。MRヘッド22a〜22eは、磁気テープ走行方向から見て(x方向視で)隣同士が一部重なるように配置されている。このように配置することで、記録トラックRTの再生出力を記録トラックRTの幅方向に複数取得することができ、記録トラックRTの表面状態をより細かく判定することが可能となる。
なお、一つの記録トラックRTに設けられるMRヘッドの個数は適宜変更可能であり、一つでもよく、複数であってもよい。また、MRヘッドとしては、AMRヘッド、GMRヘッド、TMRヘッドが利用可能である。
【0038】
[制御装置30]
制御装置30は、磁気テープ走行系10を制御することにより磁気テープMTを走行させ、ヘッド部20を制御することにより磁気テープMTに対してデータの記録、再生、消去を行う。また、制御装置30は、ヘッド部20による再生結果に基づいて、磁気テープMTの表面状態を判定し、判定結果を表示装置40に出力する。図3に示すように、制御装置30は、走行系制御部31と、ヘッド部制御部32と、表面状態判定部33と、を備えている。
【0039】
走行系制御部31は、磁気記録媒体走行系10を制御し、磁気テープMTを走行させる。本実施形態では、走行系制御部31は、一対のリール11,11を回転駆動することにより磁気テープMTを走行させる。また、走行系制御部31は、磁気テープMTの走行速度vを一定に制御しており、かかる走行速度vを表面状態判定部33に出力する。
【0040】
ヘッド部制御部32は、ヘッド部20を制御するためのものであり、記録ヘッド制御部32aと、磁気抵抗効果型ヘッド制御部32b(以下、「MRヘッド制御部32b」と記載する)と、消去ヘッド制御部32cと、を備えている。
記録ヘッド制御部32aは、記録ヘッド21を制御し、磁気テープMTの記録トラックRTに信号を記録させる。
MRヘッド制御部32bは、MRヘッド群22を制御し、記録された記録トラックRTを再生させ、再生出力を取得する。取得された再生出力は、表面状態判定部33に出力される。
消去ヘッド制御部32cは、消去ヘッド23を制御し、再生された記録トラックRTの信号を消去させる。
【0041】
なお、記録トラックRTに記録される信号(記録信号)を短波長にすることにより、記録トラックRTの表面状態をより細かく判定することができる。
記録信号の波長としては、0.1〜1.0[μm]が望ましく、0.2〜0.5[μm]がより望ましい。
【0042】
表面状態判定部33は、MRヘッド制御部32bにより取得された再生出力に基づいて、磁気テープMTの表面状態(突起および窪みの有無)を判定する。ここで、再生出力に基づく表面状態の判定について説明する。再生出力は、再生信号の検波出力であり、再生信号が出ていないときに0となる。
図4(a)に示すように、MRヘッド群22による再生出力において、再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティTAが発生している領域があるときに、表面状態判定部33は、突起があると判定する。より詳しくは、表面状態判定部33は、記録ヘッドRTのうち、かかる領域に対応する部分に突起があると判定する。
また、図4(b)に示すように、MRヘッド群22による再生出力において、再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティTAが発生していない領域があるときに、表面状態判定部33は、窪みがあると判定する。より詳しくは、表面状態判定部33は、記録ヘッドRTのうち、かかる領域に対応する部分に窪みがあると判定する。
このように、突起と窪みとの判定の差異は、サーマルアスペリティTAの有無によるものであるため、以下、突起がある場合について説明し、窪みがある場合の説明を省略する。
【0043】
本実施形態において、表面状態判定部33は、位置合わせ部33aと、表面状態算出部33bと、を備えている。
【0044】
位置合わせ部33aは、各MRヘッド22a〜22eの再生出力の位置合わせを行い、位置合わせを行った再生出力を表面状態算出部33bに出力する。
ここで、位置合わせについて説明する、図2に示すように、各MRヘッド22a〜22eは、磁気テープMTの走行方向(x方向)に距離αずつずらして配置されている。そのため、図5(a)に示すように、x方向における同じ地点に対応するMRヘッド22a〜22eによる再生出力は、時間的にずれが生じている。したがって、MRヘッド22a〜22eの配置位置の走行方向距離αと、磁気テープMTの走行速度vとに基づいて、図5(b)に示すように、各MRヘッド22a〜22eの再生出力の位置合わせを行い、x方向における同じ地点の再生出力同士が合うようにする。
ここで、MRヘッド22a,22eが突起P(図2参照)の中心を通過する時刻をt、MRヘッド22b,22dが突起Pの中心を通過する時刻をt、MRヘッド22cが突起Pの中心を通過する時刻をtとすると、下記式(1)が成立する。
−t=t−t=α/v …式(1)
位置合わせ部33aは、式(1)の関係に基づいて、再生出力の位置合わせを行う。位置合わせが行われた再生出力は、表面状態算出部33bに出力される。
【0045】
表面状態算出部33bは、位置合わせが行われた再生出力に基づいて、磁気テープMTの表面状態を算出する。
【0046】
表面状態算出部33bは、各MRヘッド22a〜22eの再生出力に基づいて、記録トラックRTの表面状態(突起および窪みの有無)を判定する。なお、図5(b)に示すように、表面状態算出部33bは、隣り合うMRヘッドの再生出力の低下領域の走行方向の位置が重なれば、これらを一つの突起Pとみなす。
【0047】
表面状態算出部33bは、再生出力の低下領域の幅に基づいて、突起Pの走行方向の長さA(図2参照)を算出する。本実施形態では、一つの突起Pにおいて、最も大きい低下領域の幅を、突起Pのx方向の長さAとみなす。図5(b)の場合には、長さAは、式(2)により算出される。
A=v・t …式(2)
ここで、tは、一つの突起Pにおける、再生出力の低下領域の最大幅(時間幅)である。
【0048】
また、表面状態算出部33bは、再生出力の低下領域の幅に基づいて、x方向の位置を算出する。本実施形態では、最も大きい低下領域の幅の中心(時刻tに対応)を、突起Pのx方向の位置とみなす。
【0049】
また、表面状態算出部33bは、再生出力の低下量に基づいて、突起Pの高さd(窪みの場合は深さ)を算出する。本実施形態では、表面状態算出部33bは、一つの突起Pにおいて、再生出力の低下量(スペーシングロス)Lが最も大きいものに基づいて、突起Pの高さdを算出する。スペーシングロスLと突起Pの高さdとの関係は、下記式(3)により表される。
【0050】
【数1】

ここで、Tは記録信号の周期時間である。単一の正弦波からなる記録信号の波長をλ、速度をV、周期時間をTとすると、下記式(4)が成立する。
λ=V・T …式(4)
【0051】
また、表面状態算出部33bは、各MRヘッド22a〜22eの再生出力に基づいて、突起Pの走行方向に直交する方向(y方向)の長さB(図2参照)を算出する。本実施形態では、表面状態算出部33bは、MRヘッド22a〜22eのどの再生出力が低下しているかに基づいて、突起Pのy方向の長さBを算出する。図5の場合には、MRヘッド22b,22c,22dの再生出力が低下しているので、MRヘッド22bとMRヘッド22dとの幅を突起Pのy方向の長さBとみなす。
【0052】
また、表面状態算出部33bは、各MRヘッド22a〜22eの再生出力に基づいて、突起Pのy方向の位置を算出する。本実施形態では、表面状態算出部33bは、MRヘッド22a〜22eのどの再生出力が低下しているかに基づいて、突起Pのy方向の位置を算出する。図5の場合には、MRヘッド22b,22c,22dの再生出力が低下しているので、MRヘッド22bの中心位置を突起Pのy方向の位置とみなす。
【0053】
[表示装置40]
表示装置40は、制御装置30による判定結果を表示する。判定結果の表示例を、図6に示す。
【0054】
(表面状態判定方法)
本実施形態に係る表面状態判定装置1を用いた、磁気記録媒体の表面状態判定方法について説明する。
表面状態判定装置1は、記録ヘッド21を用いて記録トラックRTに信号を記録し(記録ステップ)、MRヘッド群22を用いて、記録された記録トラックRTを再生することにより再生出力を取得し(再生ステップ)、かかる再生出力に基づいて突起および窪みの有無について判定する(表面状態判定ステップ)。判定手法としては、前記したものを使用することができる。また、表面状態判定装置1は、表示装置40に判定結果を表示する(表示ステップ)。また、表面状態判定装置1は、消去ヘッド23を用いて再生された記録トラックRTの信号を消去する(消去ステップ)。表面状態判定装置1は、記録ステップ、再生ステップおよび消去ステップを同時に行うことにより、判定に要する時間を短縮することができる。また、記録トラックRTの信号を消去するので、判定後に突起および窪みがないと判定された磁気テープMTをそのまま次工程に渡すことができる。
【0055】
なお、記録トラックRTに予め信号が記録された磁気テープMTを用意することができる場合には、表面状態判定装置1の記録ヘッド21および記録ヘッド制御部32aを省略し、記録ステップを行わない構成とすることができる。
また、消去ヘッド23および消去ヘッド制御部32cを省略し、消去ステップを行わない構成としてもよい。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
例えば、最も簡単な構成として、突起と窪みの有無のみを判定する構成であってもよい。この場合には、記録信号として、単一の正弦波からなる信号以外の信号を使用してもよい。
また、判定結果の出力装置は、表示装置40に限定されず、スピーカに出力して音声により判定結果を通知する構成や、プリンタに出力して紙媒体に印刷して判定結果を通知する構成であってもよい。
また、突起および/または窪みの数が所定数を超えた場合、または、所定の大きさ(突起の高さおよび/または窪みの深さ、あるいは長さ)を超えた突起および/または窪みが存在する場合に、当該磁気記録媒体が製品として不適であると判定する判定手段(または判定ステップ)を備える構成であってもよい
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の表面状態判定装置を示すシステム構成図であり、(b)は、ヘッド部を説明するための図である。
【図2】図1(b)の部分拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る表面状態判定装置のブロック図である。
【図4】磁気抵抗効果型ヘッドによる再生出力を説明するグラフである。
【図5】再生出力に基づく表面状態の判定を説明するためのグラフである。
【図6】判定結果の表示例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 磁気記録媒体の表面状態判定装置
10 磁気記録媒体走行系
20 ヘッド部
21 記録ヘッド
22 磁気抵抗効果型ヘッド群
22a〜22e 磁気抵抗効果型ヘッド
23 消去ヘッド
30 制御装置
31 走行系制御部
32 ヘッド部制御部
32a 記録ヘッド制御部
32b 磁気抵抗効果型ヘッド制御部
32c 消去ヘッド制御部
33 表面状態判定部
40 表示装置
MT 磁気テープ(磁気記録媒体)
RT 記録トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体を走行させつつ、記録ヘッドを用いて、前記磁気記録媒体の記録トラックに信号を記録する記録ステップと、
前記磁気記録媒体を走行させつつ、磁気抵抗効果型ヘッドを用いて、記録された前記記録トラックを再生することにより、再生出力を取得する再生ステップと、
前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定ステップと、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の表面状態判定方法。
【請求項2】
前記記録ステップおよび前記再生ステップを同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の表面状態判定方法。
【請求項3】
前記磁気記録媒体を走行させつつ、消去ヘッドを用いて、再生された前記記録トラックの信号を消去する消去ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の表面状態判定方法。
【請求項4】
前記記録ステップ、前記再生ステップおよび前記消去ステップを同時に行うことを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の表面状態判定方法。
【請求項5】
磁気記録媒体を走行させつつ、磁気抵抗効果型ヘッドを用いて、予め信号が記録された記録トラックを再生することにより再生出力を取得する再生ステップと、
前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定ステップと、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の表面状態判定方法。
【請求項6】
磁気記録媒体がセットされる磁気記録媒体走行系と、
前記磁気記録媒体走行系を制御し、前記磁気記録媒体を走行させる走行系制御部と、
記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを制御し、前記磁気記録媒体の記録トラックに信号を記録させる記録ヘッド制御部と、
磁気抵抗効果型ヘッドと、
前記磁気抵抗効果型ヘッドを制御し、記録された前記記録トラックを再生させることにより再生出力を取得する磁気抵抗効果型ヘッド制御部と、
前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定部と、
を備えていることを特徴とする磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項7】
前記表面状態判定部は、前記再生出力の低下量に基づいて、突起の高さおよび/または窪みの深さを算出することを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項8】
前記表面状態判定部は、前記再生出力と、前記走行系駆動部による前記磁気記録媒体の走行速度と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向における長さを算出することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項9】
前記表面状態判定部は、前記再生出力と、前記走行系駆動部による前記磁気記録媒体の走行速度と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向における位置を算出することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項10】
前記磁気抵抗効果型ヘッドとして、一つの記録トラックに対応して、前記磁気記録媒体の走行方向に対して直交する方向に並べて配置された複数の磁気抵抗効果型ヘッドを備えており、
前記表面状態判定部は、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドを介して取得された再生出力と、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドの相互位置と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向に対して直交する方向における長さを算出することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項11】
前記表面状態判定部は、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドを介して取得された再生出力と、前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドの相互位置と、に基づいて、突起および/または窪みの走行方向に対して直交する方向における位置を算出することを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項12】
前記複数の磁気抵抗効果型ヘッドは、走行方向から見て隣同士が一部重なるように配置されていることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項13】
消去ヘッドと、
前記消去ヘッドを制御し、再生された前記記録トラックの信号を消去させる消去ヘッド制御部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項6から請求項12のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の表面状態判定装置。
【請求項14】
記録トラックに信号が予め記録された磁気記録媒体がセットされる磁気記録媒体走行系と、
前記磁気記録媒体走行系を制御し、前記磁気記録媒体を走行させる走行系制御部と、
磁気抵抗効果型ヘッドと、
前記磁気抵抗効果型ヘッドを制御し、記録された前記記録トラックを再生させることにより再生出力を取得する磁気抵抗効果型ヘッド制御部と、
前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生している領域があるときに、突起があると判定し、前記再生出力において、当該再生出力が低下し、かつ、サーマルアスペリティが発生していない領域があるときに、窪みがあると判定する表面状態判定部と、
を備えていることを特徴とする磁気記録媒体の表面状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−149268(P2007−149268A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344632(P2005−344632)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】