説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体

【課題】磁気記録媒体の表面を平滑にして、エラーを低減させることができる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】熱処理するベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る際、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFの外周に室温よりも高い温度に加熱したコンタクトローラ22を押し当てながら、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る。これにより、バック面写りを低減でき、エラーの発生を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体に係り、特に磁気テープなどの磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される。ここで、カレンダ処理後に行われる熱処理の工程では、熱処理するベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロール状態のまま所定温度の環境雰囲気に所定時間放置することで、ベースフィルムに熱処理が施される。
【0003】
しかし、このようにロール状態のままベースフィルムに熱処理が施されると、磁性層の表面に面の粗いバックコート層が押し付けられて変形(バック面写り)し、表面粗さ(Ra)が増加してしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解消するために、特許文献1では、ベースフィルムを巻芯に巻き取る際、表面の摩擦係数を軸方向中央部より軸方向両端部で低くしたコンタクトローラにベースフィルムをラップさせ、そのコンタクトローラでベースフィルムの外周面を押圧しながらベースフィルムを巻き取ることが提案されている。また、特許文献2では、ベースフィルムを巻芯に巻き取る際、鍔に穴の付いたタッチローラでベースフィルムの外周面を押圧しながらベースフィルムを巻き取ることが提案されている。さらに、特許文献3では、ベースフィルムを巻芯に巻き取る際、ベースフィルムに熱風を吹き付けてTg(ガラス転位温度)以上に加熱しながらベースフィルムを巻き取ることが提案されている。
【特許文献1】特開2002−348002号公報
【特許文献2】特開2002−12348号公報
【特許文献3】特開平6−295435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録密度が向上すると、それに伴い磁性層表面も高い平滑性が要求されるようになり、従来の巻取り方法では、製品の要求を満たす十分な平滑性が得られないという欠点があった。特に100GB以上の記録容量の製品では、磁気層表面に十分な平滑性が得られないと、エラーが発生しやすくなるという欠点があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、磁気記録媒体の表面を平滑にして、エラーを低減させることができる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロールの状態で熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、熱処理するベースフィルムを前記巻芯に巻き取る際、前記巻芯に巻き取られたベースフィルムの外周に室温よりも高い温度に加熱されたコンタクトローラを押し当てながら、前記ベースフィルムを前記巻芯に巻き取ることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、熱処理するベースフィルムを巻芯に巻き取る際、室温よりも高い温度に加熱したコンタクトローラを巻芯に巻き取られたベースフィルムの外周に押し当てながら、ベースフィルムが巻芯に巻き取られる。このように、熱と圧力を同時にかけてベースフィルムを巻芯に巻き取ることにより、ベースフィルムの皺が伸ばされ、バック面写りが低減される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記目的を達成するために、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記ベースフィルムの厚さが10μm以下であることを特徴する。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、厚さが10μm以下のベースフィルムを用いたときに、特に顕著な効果を得ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記目的を達成するために、請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、熱と圧力を同時にかけてベースフィルムを巻芯に巻き取り、熱処理することにより、皺やバック面写りなどのない、平滑性の高い磁気記録媒体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体によれば、磁気記録媒体の表面を平滑にして、エラーを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
上記のように磁気記録媒体としての磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造される。
【0016】
塗布工程では、原反ロールから帯状可撓性のベースフィルムを送り出し、塗布部において、一方の面に磁性層、他方の面にバックコート層を塗布形成する。磁性層及びバックコート層が形成されたベースフィルムは、巻芯に巻き取られてロール状に形成される。
【0017】
カレンダ工程では、複数のカレンダローラの間にベースフィルムを通すことで、各カレンダローラの間の各ニップでベースフィルムFを挟持、加熱加圧して、ベースフィルムFの表面を平滑化する。図1は、カレンダ工程で用いられるカレンダ装置10の概略構成を示す図である。同図に示すように、ロール状のベースフィルムFは、巻戻しリール12にセットされ、この巻戻しリール12からカレンダ部14に送り出される。カレンダ部14には、複数(ここでは7本)のカレンダローラ16、16、…が相接するように配置されており、ベースフィルムFは、この相接するように配置されたカレンダローラ16、16、…の間をガイドローラ18、18、…にガイドされながら走行する。そして、その走行過程で各カレンダローラ16、16、…の間のニップで挟持、加熱加圧されて、表面が平滑化される。各カレンダローラ16、16、…の間を通されたベースフィルムFは、巻取りリール20にセットされた巻芯Sに巻き取られ、ロール状に形成される。
【0018】
この際、ベースフィルムFは、コンタクトローラ22によって外周面を押圧されながら、巻芯Sに巻き取られ、ロール状に形成される。なお、このベースフィルムFの巻き取りに関しては、後に更に詳述する。
【0019】
熱処理工程では、図2に示すように、たとえばカレンダ処理後のロール状態のベースフィルムFを恒温槽30に入れ、所定温度(50℃以上)の環境雰囲気の中で所定時間放置して熱処理を行う。なお、熱処理の方法は、これに限定されるものではなく、温度を徐々に上げて熱処理するようにしてもよい。
【0020】
スリット工程では、熱処理後のロール状態のベースフィルムFをスリット部に送り出し、スリット部で所定幅で長手方向にスリットする。図3は、このスリット工程で用いられる裁断装置40の概略構成を示す図である。同図に示すように、ロール状のベースフィルムFは、巻戻しリール42にセットされ、この巻戻しリール42からスリット部44に送り出される。巻戻しリール42とスリット部44との間には、複数のガイドローラ46によってベースフィルムFの搬送路が形成されており、その搬送路の途中には、ベースフィルムFの搬送速度を調整するためのフリクションローラ48が設けられている。スリット部44は、幅広で帯状のベースフィルムFを上下一対の回転刃50、52によって所定幅の複数本のテープTに裁断し、このスリット部44で裁断されたテープTが、ガイドローラ54を介して巻取りリール56にセットされた巻芯58に巻き取られる。
【0021】
さて、上記のように、磁気テープは、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で製造されるが、カレンダ処理後にベースフィルムFが巻芯Sに巻き取られたままロール状態で熱処理されると、磁性層の表面にバックコート層が押し付けられてバック面写りが発生し、表面粗さ(Ra)が増加するという問題がある。
【0022】
そこで、本実施の形態では、このようなバック面写りを低減させるべく、熱処理するベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る際、図1に示すように、室温よりも高い温度に加熱したコンタクトローラ22を巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFの外周に所定の圧力で押し当てながら、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るようにしている。
【0023】
このように、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る際、熱と圧力を掛けながら巻芯Sに巻き取ってロール状に形成することにより、次の熱処理工程で熱処理されたベースフィルムFにバック面写り等が生じるのが抑制される。これは、熱と圧力を掛けてベースフィルムFを巻芯Sに巻き取ることにより、熱処理中に発生する面圧が低下するためと推定される。
【0024】
なお、コンタクトローラ22の構成は、巻芯Sに巻き取られたベースフィルムFに熱と圧力を加えられる構成であれば、特に限定されるものではないが、たとえばSUS(ステンレス鋼)製の管に表面にHCr鍍金した回転する外管をベアリングで保持し、芯側に赤外線ヒータを内蔵した構成のコンタクトローラを用いることができる。この場合において、外管の表面は、金属でもよいし、NBR(Nitrile-Butadiene Rubber)などのゴム製であってもよい。また、加熱手段は、他の内臓型のヒータを用いてもよいし、外管自体が発熱する誘導加熱方式でもよい。
【0025】
また、コンタクトローラ22の温度は、室温よりも高い温度であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上でベースフィルムのTg以下であることが好ましい。ベースフィルムのTgを超えて加熱すると、他の特性に影響が出るおそれがあるためである。
【0026】
また、本実施の形態では、コンタクトローラ22の設置本数を1本としているが、コンタクトローラの設置本数は、特に限定されるものではなく、複数本のコンタクトローラを用いてベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るようにしてもよい。また、他のゴム製の外周を持つローラと併用して、ベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るようにしてもよい。
【0027】
さらに、巻き取り直前に直接巻き取り中のベースフィルムFのロールに接触しない形で別の過熱ローラなどの温度を上げる手段を設け、これと併用してベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るようにしてもよいし、そのときの設置する順序も特に限定しない。
【0028】
また、本実施の形態では、カレンダ処理後のベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る際、コンタクトローラ22で熱と圧力を掛けながら巻芯Sに巻き取るようにしているが、熱処理工程の前の工程がカレンダ工程以外の工程の場合には、その工程で処理後のベースフィルムFを巻芯Sに巻き取る際、コンタクトローラ22で熱と圧力を加えながらベースフィルムFを巻芯Sに巻き取るものとする。たとえば、塗布工程後にロール状態でベースフィルムFを熱処理する場合には、塗布処理されたベースフィルムFを巻芯に巻き取る際、コンタクトローラで熱と圧力を加えながら巻芯に巻き取るようにする。
【0029】
また、巻芯Sの材質は、特に限定されるものではなく、アルミ等の金属であってもよいし、FRP(Fiber Reinforced Plastics :繊維強化プラスチック)やCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)などでもよい。同様に巻芯Sの径も特に限定されるものではない。
【0030】
また、本実施の形態では、熱処理工程において、ベースフィルムを50℃以上で熱処理することとしているが、熱処理の温度や時間は特に限定されるものではない。また、熱処理の方法も本実施の形態のように恒温槽に入れる形態でもよいし、徐々に温度を上げていく形態でもよい。
【0031】
さらに、本実施の形態では、[塗布]→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]という工程で磁気テープを製造する場合を例に説明したが、本発明が適用される磁気テープの製造方法は、これに限定されるものではない。たとえば、[塗布]→<熱処理>→[カレンダ]→[熱処理]→[スリット]→<表面処理・熱処理・サーボライト>→[巻き込み]という工程で製造する場合にも同様に適用することができる(<カッコ>内は必要に応じて実施される工程)。すなわち、本発明はベースフィルムを巻芯に巻き取った状態で熱処理する工程を含む全ての磁気記録媒体の製造方法に適用することができる。
【0032】
また、ベースフィルムの種類は、特に限定されるものではなく、PEN、PET、アラミドなどが考えられる。なお、本発明の効果は、10μm厚以下のベースフィルムを用いた時に顕著に得られる。
【0033】
また、本発明に係る製造方法によって得られる磁気テープの利用分野は、特に限定されないが、たとえばコンピュータデータのバックアップなどに使用される磁気テープに使用することで効果を得ることができる。
【0034】
以下、このコンピュータデータのバックアップなどに使用される磁気テープについて説明する。この場合、磁気テープは、基本的にベースフィルムの一方の面に磁性層、他方の面にバックコート層を有する構成のものを意味し、たとえばベースフィルムと磁性層との間に更に非磁性層を設けた構成の磁気テープであってもよい。また、両面が磁性層のものであってもよい。
【0035】
ベースフィルムとしては、従来から磁気テープのベースフィルム材料として用いられているものを使用することができ、特に非磁性のものが好ましい。これらの例としては、ポリエステル類(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの混合物、エチレンテレフタレート成分とエチレンナフタレート成分を含む重合物)、ポリオレフィン類(例、ポリプロピレン)、セルロース誘導体類(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)、ポリカーボネート、ポリアミド(中でも芳香族ポリアミド、アラミド)、ポリイミド(中でも全芳香族ポリイミド)などの合成樹脂フィルムを挙げることができる。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリアミド及びアラミドが好ましい。
【0036】
ベースフィルムの厚みは、特に制限はないが、2〜8μm(更に好ましくは、3〜8μm、特に好ましくは、3〜7μm)の範囲にあることが好ましい。
【0037】
磁性層は、基本的には強磁性粉末及び結合剤から形成されている。また、磁性層には、通常、さらに潤滑剤、導電性粉末としてカーボンブラック、そして研磨剤が含有されている。
【0038】
強磁性粉末としては、たとえばγ−Fe2 3 、Fe3 4 、FeOx (x=1.33〜1.5)、CrO2 、Co含有γ−Fe2 3 、Co含有FeOx (x=1.33〜1.5)、強磁性金属粉末及び板状六方晶フェライト粉末を挙げることができる。本発明においては、強磁性粉末として、強磁性金属粉末又は板状六方晶フェライト粉末の使用が好ましい。特に好ましくは強磁性金属粉末である。
【0039】
強磁性金属粉末は、その粒子の比表面積が好ましくは30〜70m2 /gであって、X線回折法から求められる結晶子サイズは、50〜300Aである。比表面積が余り小さいと高密度記録に充分に対応できなくなり、余り大き過ぎても分散が充分に行えず、従って平滑な面の磁性層が形成できなくなるため同様に高密度記録に対応できなくなる。強磁性金属粉末は、少なくともFeを含むことが必要であり、具体的には、Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Zn−Ni又はFe−Ni−Coを主体とした金属単体あるいは合金である。またこれらの強磁性金属粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、その飽和磁化量(σs )は110emu/g以上、好ましくは120emu/g以上、170emu/g以下である。又保磁力(Hc)は、800〜3000エルステッド(Oe)(好ましくは、1500〜2500Oe)の範囲である。そして、透過型電子顕微鏡により求められる粉末の長軸長(すなわち、平均粒子径)は、0.5μm以下、好ましくは、0.01〜0.3μmで軸比(長軸長/短軸長、針状比)は、5以上、20以下、好ましくは、5〜15である。更に特性を改良するために、組成中にB、C、Al、Si、P等の非金属、もしくはその塩、酸化物が添加されることもある。通常、前記金属粉末の粒子表面は、化学的に安定化させるために酸化物の層が形成されている。
【0040】
また、板状六方晶フェライト粉末は、その比表面積は25〜65m2 /gであって、板状比(板径/板厚)が2〜15、板径は0.02〜1.0μmである。板状六方晶フェライト粉末は、強磁性金属粉末と同じ理由から、その粒子サイズが大きすぎても小さすぎても高密度記録が難しくなる。板状六方晶フェライトとしては、平板状でその平板面に垂直な方向に磁化容易軸がある強磁性体であって、具体的には、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、及びそれらのコバルト置換体等を挙げることができる。これらの中では、特にバリウムフェライトのコバルト置換体、ストロンチウムフェライトのコバルト置換体が好ましい。本発明で用いる板状六方晶フェライトには、更に必要に応じてその特性を改良するためにIn、Zn、Ge、Nb、V等の元素を添加してもよい。また、これらの板状六方晶フェライト粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、前記のような粒子サイズが必要であると同時に飽和磁化(σs )は少なくとも50emu/g以上、好ましくは53emu/g以上である。また、保磁力は、700〜2000エルステッド(Oe)の範囲であり、900〜1600Oeの範囲であることが好ましい。
【0041】
上記の強磁性粉末の含水率は0.01〜2重量%とすることが好ましい。また結合剤の種類によって含水率を最適化することが好ましい。強磁性粉末のpHは用いる結合剤との組み合わせにより最適化することが好ましく、そのpHは通常4〜12の範囲であり、好ましくは5〜10の範囲である。強磁性粉末は、必要に応じて、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもよい。表面処理を施す際のその使用量は、通常強磁性粉末に対して、0.1〜10重量%である。表面処理を施すことにより、脂肪酸などの潤滑剤の吸着を100mg/m2 以下に抑えることができる。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、及びSrなどの無機イオンが含まれる場合があるが、その含有量は5000ppm以下であれば特性に影響を与えることはない。
【0042】
潤滑剤は、磁性層表面ににじみ出ることによって、磁性層表面と磁気ヘッド、ドライブのガイドポールとシリンダとの間の摩擦を緩和し、摺接状態を円滑に維持させるために添加される。潤滑剤としては、たとえば、脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを挙げることができる。脂肪酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、及びパルミトレイン酸等の脂肪族カルボン酸またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0043】
また、脂肪酸エステルとしては、たとえばブチルステアレート、sec −ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、オレイルオレエート、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でアシル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、そしてグリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。これらのものは、単独あるいは組み合わせて使用することができる。潤滑剤の通常の含有量は、磁性層の強磁性粉末100重量部に対して、0.2〜20重量部(好ましくは0.5〜10重量部)の範囲である。
【0044】
カーボンブラックは、磁性層の表面電気抵抗(Rs )の低減、動摩擦係数(μK 値)の低減、走行耐久性の向上、及び磁性層の平滑な表面性を確保する等の種々の目的で添加される。カーボンブラックは、その平均粒子径が3〜350nm(更に好ましくは、10〜300nm)の範囲にあることが好ましい。また、その比表面積は、5〜500m2 /g(更に好ましくは、50〜300m2 /g)であることが好ましい。DBP吸油量は、10〜1000mL/100g(更に好ましくは、50〜300mL/100g)の範囲にあることが好ましい。またpHは、2〜10、含水率は、0.1〜10%、そしてタップ密度は、0.1〜1g/ccであることが好ましい。
【0045】
カーボンブラックは、さまざまな製法で得たものが使用できる。使用できるカーボンブラックの例としては、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック及びランプブラックを挙げることができる。カ−ボンブラックの具体的な商品例としては、BLACKPEARLS2000、1300、1000、900、800、700、VULCANXC−72(以上、キャボット社製)、#35、#50、#55、#60及び#80(以上、旭カ−ボン(株)製)、#3950B、#3750B、#3250B、#2400B、#2300B、#1000、#900、#40、#30、及び#10B(以上、三菱化学(株)製)、CONDUCTEXSC、RAVEN150、50、40、15(以上、コロンビアカ−ボン社製)、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ−500およびケッチェンブラックECDJ−600(以上、ライオンアグゾ(株)製)を挙げることができる。カーボンブラックの通常の添加量は、強磁性粉末100重量部に対して0.1〜30重量部であり、好ましくは0.2〜15重量部の範囲である。
【0046】
研磨剤としては、たとえば溶融アルミナ、炭化珪素、酸化クロム(Cr2 3 )、コランダム、人造コランダム、ダイアモンド、人造ダイアモンド、ザクロ石、エメリー(主成分:コランダムと磁鉄鉱)を挙げることができる。これらの研磨剤は、モース硬度5以上(好ましくは、6以上)であり、平均粒子径が、0.05〜1μm(更に好ましくは、0.2〜0.8μm)の大きさのものが好ましい。研磨剤の添加量は通常、強磁性粉末100重量部に対して、3〜25重量部(好ましくは、3〜20重量部)の範囲である。
【0047】
磁性層の結合剤としては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。熱可塑性樹脂の例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、及びビニルエーテルを構成単位として含む重合体、あるいは共重合体を挙げることができる。共重合体としては、たとえば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−スチレン共重合体、メタアクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、メタアクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタアクリル酸エステル−スチレン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロビニルエーテル−アクリル酸エステル共重合体を挙げることができる。
【0048】
上記の他にポリアミド樹脂、繊維素系樹脂(セルロースアセテートブチレート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロースなど)、ポリ弗化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂なども利用することができる。
【0049】
また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物を挙げることができる。
【0050】
上記ポリイソシアネートとしては、たとえばトリレンジイソシアネート、4−4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのイソシアネート類、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、及びイソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネ−トを挙げることができる。
【0051】
上記ポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、及びポリカプロラクトンポリウレタンなどの構造を有する公知のものが使用できる。
【0052】
本発明において、磁性層の結合剤は、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、及びニトロセルロースの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂と
、ポリウレタン樹脂との組み合わせ、又は、これらに更にポリイソシアネートを組み合わせて構成することが好ましい。
【0053】
結合剤としては、より優れた分散性と得られる層の耐久性を得るために必要に応じて、−COOM、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)2 、−O−P=O(OM)2 (Mは水素原子、またはアルカリ金属塩基を表わす。)、−OH、−NR2 、−N+ R3 (Rは炭化水素基を表わす。)、エポキシ基、−SH、−CNなどから選ばれる少なくとも一つの極性基を共重合または付加反応で導入して用いることが好ましい。このような極性基は、結合剤に10-1〜10-8モル/g(更に好ましくは、10-2〜10-6モル/g)の量で導入されていることが好ましい。
【0054】
磁性層の結合剤は、強磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。
【0055】
磁気テープの磁性層を形成するための塗布液には、磁性粉末を結合剤中に良好に分散させるために、分散剤を添加することができる。また必要に応じて、可塑剤、カーボンブラック以外の導電性粒子(帯電防止剤)、防黴剤などを添加することもできる。分散剤としては、たとえば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH、Rは炭素数11〜17個のアルキル基、又はアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記の脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、及び銅フタロシアニン等を使用することができる。これらは、単独でも組み合わせて使用しても良い。分散剤は、磁性層の結合剤100重量部に対して通常0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0056】
次に、バックコート層について説明する。バックコート層は、カーボンブラックと結合剤とから形成されていることが好ましい。また、無機粉末や潤滑剤が更に添加されていることが好ましい。
【0057】
カーボンブラックは、平均粒子サイズの異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子サイズが10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。一方、粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0058】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、
PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化学(株)製)。また粗粒子状カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVENMTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。
【0059】
バックコート層において、平均粒子サイズの異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(重量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。バックコート層中のカーボンブラック(その全量)の含有量は、結合剤100重量部に対して、通常30〜110重量部の範囲であり、好ましくは、50〜90重量部の範囲である。
【0060】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。また軟質無機粉末の平均粒子サイズは、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、たとえば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、及び酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、特に、炭酸カルシウムが好ましい。バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して10〜140重量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100重量部の範囲である。
【0061】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これをカーボンブラックと共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。硬質無機粉末は、その平均粒子サイズが80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0062】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、たとえばα−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr2 3 )を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、あるいは併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄又はα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して通常3〜30重量部の範囲であり、好ましくは、3〜20重量部の範囲である。
【0063】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、磁性層に記載した潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は結合剤100重量部に対して通常1〜5重量部の範囲で添加される。また、バックコート層に、磁性層に記載した分散剤を添加することもできる。分散剤の添加量は、磁性層に添加する量と同様な量とすることができる。
【0064】
バックコート層の結合剤は、前記磁性層に記載した結合剤を使用することができる。使用できる結合剤としては、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及び硬化剤としてのポリイソシアネートを挙げることができる。バックコート層の結合剤はカーボンブラック100重量部に対して、通常5〜250重量部(好ましくは、10〜200重量部)である。
【0065】
上記のように、本発明の磁気テープは、ベースフィルムと磁性層との間に非磁性層が設けられた構成のものであってもよい。すなわち、ベースフィルムの一方側の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方側の面にバックコート層を有する構成の磁気テープであってもよい。
【0066】
非磁性層は、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性の層である。この非磁性層は、その上の磁性層の電磁変換特性に影響を与えないように実質的に非磁性であることが必要であるが、磁性層の電磁変換特性に影響を与えない程度に少量の磁性粉末が含有されていても特に問題にはならない。また、通常、非磁性層には、これらの成分以外に潤滑剤が含まれている。
【0067】
非磁性層で用いられる非磁性粉末としては、たとえば、非磁性無機粉末、カーボンブラックを挙げることができる。非磁性無機粉末は、比較的硬いものが好ましく、モース硬度が5以上(更に好ましくは、6以上)のものが好ましい。非磁性無機粉末の例としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、二酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び硫酸バリウムを挙げることができる。これらは単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらのうちでは、二酸化チタン、α−アルミナ、α−酸化鉄、又は酸化クロムが好ましい。非磁性無機粉末の平均粒子径は、0.01〜1.0μm(好ましくは、0.01〜0.5μm、特に、0.02〜0.1μm)の範囲にあることが好ましい。
【0068】
カーボンブラックは、磁性層に導電性を付与して帯電を防止すると共に、非磁性層上に形成される磁性層の平滑な表面性を確保する目的で添加される。非磁性層で用いるカーボンブラックは、前記の磁性層に記載したカーボンブラックを使用することができる。但し、非磁性層で使用するカーボンブラックは、その平均粒子径が35nm以下(更に好ましくは、10〜35nm)であることが好ましい。カーボンブラックの通常添加量は、非磁性層に、全非磁性無機粉末100重量部に対して、3〜20重量部であり、好ましくは、4〜18重量部、更に好ましくは、5〜15重量部である。
【0069】
潤滑剤としては、前記の磁性層にて記載した脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを使用することができる。潤滑剤の添加量は、非磁性層の全非磁性粉末100重量部に対して、通常0.2〜20重量部の範囲である。
【0070】
非磁性層の結合剤としては、前述した磁性層にて記載した結合剤を使用することができる。結合剤は、非磁性層の非磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、非磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。なお、非磁性層においても前記の磁性層に添加することができる任意成分を添加してもよい。
【0071】
非磁性層を有する態様の磁気テープの場合に、磁性層及び非磁性層の形成方法は特に限定されないが、磁性層は、非磁性層用塗布液をベースフィルム上に塗布後、形成された塗布層(非磁性層)が湿潤状態にあるうちにこの上に磁性層用塗布液を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法を利用して形成されたものであることが好ましい。
【0072】
上記ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法としては、たとえば以下の方法を挙げることができる。
【0073】
(1)グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、あるいはエクストルージョン塗布装置などを用いて、ベースフィルム上にまず非磁性層を形成し、該非磁性層が湿潤状態にあるうちに、ベースフィルム加圧型エクストルージョン塗布装置により、磁性層を形成する方法(特開昭60−238179号、特公平1−46186号、及び特開平2−265672号公報参照)。
【0074】
(2)二つの塗布液用スリットを備えた単一の塗布ヘッドからなる塗布装置を用いてベースフィルム上に磁性層、及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開昭63−88080号、特開平2−17921号、及び特開平2−265672号各公報参照)。
【0075】
(3)バックアップローラ付きエクストルージョン塗布装置を用いて、ベースフィルム上に磁性層及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開平2−174965号公報参照)。非磁性層及び磁性層は同時重層塗布法を利用して形成することが好ましい。
【0076】
磁気テープのバックコート層の表面は、テープが巻かれた状態で磁性層の表面に転写される傾向にある。このためバックコート層の表面も比較的高い平滑性を有していることが好ましい。磁気テープのバックコート層の表面は、その表面粗さRa(カットオフ0.08mmの中心線平均粗さ)が、0.003〜0.060μmの範囲にあるように調整されていることが好ましい。なお、表面粗さは、通常塗膜形成後、カレンダによる表面処理工程において、用いるカレンダローラの材質、その表面性、そして圧力、速度等により、調節することができる。
【0077】
本発明の製造方法に従って製造される、ベースフィルムの一方の側に磁性層を、他方の側にバックコート層を有する単層構成の磁気テープの磁性層は、その厚みが、1.0〜3.0μm(さらに好ましくは、1.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0078】
また、この構成の磁気テープの全体の厚みは4.0〜12.0μm、さらに好ましくは、4.0〜10.0μm)の範囲にあることが好ましい。
【0079】
また、バックコート層の厚みは、0.1〜1.0μm(さらに好ましくは、0.2〜0.8μm)の範囲にあることが好ましい。
【0080】
非磁性層を有する構成の磁気テープの磁性層は、その厚みが、0.01〜1.0μm(更に好ましくは、0.05〜0.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0081】
また、非磁性層の厚みは、0.01〜3.0μm(更に好ましくは、0.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0082】
磁性層の厚みと非磁性層の厚みとの比は、1:2〜1:15(更に好ましくは、1:5〜1:12)の範囲にあることが好ましい。
【0083】
非磁性層を有する構成の磁気テープの全体の厚み及びバックコート層の厚みは、前記の単層構成の磁気テープと同じ範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下の試験によって本発明の構成による効果を説明する。
【0085】
熱処理するベースフィルムをコンタクトローラで圧力のみ加えて巻芯に巻き取った場合とコンタクトローラで熱と圧力を加えて巻き取った場合とで皺の発生状況、エラーの発生状況、磁性層のRaを検査した。
【0086】
ベースフィルムは、塗布処理後、カレンダ処理し、直径φ300mmの巻芯に巻き取ってロール状に形成した。巻き取り後、ロール状態のまま80℃、30時間の熱処理を行った。熱処理後、ロール状態のベースフィルムを室温で保管し、スリット以降の所定の工程を経て磁気テープを製作した。
【0087】
コンタクトローラは、巻芯に巻取り中のベースフィルムに直接接触させて加圧することとし、500Nで接圧した。また、加熱する場合は、表面温度を50℃として、巻き取りを行った。なお、コンタクトローラは、SUS製の管に表面にHCr鍍金した回転する外管をベアリングで保持し、芯側に赤外線ヒータを内蔵したものを使用した。
【0088】
熱処理後の原反の皺の発生状況や、AFM(Atomic Force Microscope :原子力間顕微鏡)で計測した磁性層面のRa及びS−DLT(Super Digital Liner Tape)ドライブで検出したエラーは表1のようになった。
【0089】
【表1】

表1に示すように、コンタクトローラで加圧するだけでなく、コンタクトローラで加圧、加熱しながら、ベースフィルムを巻芯に巻き取ることにより、皺の発生とバック面写りを低減でき、エラーも低減できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】カレンダ工程の説明図
【図2】熱処理工程の説明図
【図3】スリット工程で用いられる裁断装置の概略構成図
【符号の説明】
【0091】
F…ベースフィルム、S…巻芯、10…カレンダ装置、22…コンタクトローラ、30…恒温槽、40…裁断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状可撓性のベースフィルムを巻芯に巻き取ってロール状に形成し、ロールの状態で熱処理する工程を含む磁気記録媒体の製造方法において、
熱処理するベースフィルムを前記巻芯に巻き取る際、前記巻芯に巻き取られたベースフィルムの外周に室温よりも高い温度に加熱されたコンタクトローラを押し当てながら、前記ベースフィルムを前記巻芯に巻き取ることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記ベースフィルムの厚さが10μm以下であることを特徴する請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−268922(P2006−268922A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82415(P2005−82415)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】