説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】薄膜化してもコロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、ヘッドの浮上安定性に優れた保護層を備えた磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体の製造方法であって、前記炭素系保護層は、前記磁性層側に形成される下層と、前記潤滑層側に形成される上層とを備え、炭化水素系ガスを用いて化学気相成長(CVD)法で前記下層を形成し、次いで、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて前記上層を形成した後、該上層の表面を窒素化する処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブ(以下、HDDと略記する)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気記録媒体(磁気ディスク)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来の面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼ばれている)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年では、垂直磁気記録方式用の磁気記録媒体が主流となってきている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。このような垂直磁気記録媒体としては、例えば特開2002-74648号公報に開示されているような、基板上に軟磁性体からなる軟磁性下地層と、硬磁性体からなる垂直磁気記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録ディスクが知られている。
【0004】
ところで、従来の磁気ディスクは、磁気ヘッドが低浮上量化してきたことに伴い、外部衝撃や飛行の乱れによって磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に接触する可能性が高まっている。このため、磁気ヘッドが磁気記録媒体に衝突した際、磁気ディスクの耐久性を確保するために、基板上に形成された磁気記録層の上に、保護層を設けている。保護層は薄膜においても優れた耐磨耗性と耐腐食性を維持するための強度と化学的耐性が必要とされるため、低摩擦・高強度・高化学安定性を有するダイヤモンドライクカーボンが好ましく使用されている。従来の保護層は、磁気記録媒体上に、炭化水素ガスによるCVD法、またはスパッタリング法などを用いてダイヤモンドライクカーボン保護層を形成していた。従来、保護層の膜厚は5〜10nm程度必要としていた。
【0005】
さらに保護層の上には、磁気ヘッドが衝突した際に保護層及び磁気ヘッドを保護するため、潤滑層が設けられる。潤滑層としては一般的にパーフルオロポリエーテル系潤滑剤が使用されている。
【0006】
また、保護層と潤滑層との密着性を向上させるため、たとえば特許文献1には、たとえば保護層表面に窒素プラズマを曝露することにより水素を含有するカーボン保護層の表面層が窒素を含有する層とした磁気記録媒体が開示され、また特許文献2には、炭素系保護層を、磁性層側に形成され水素を含む炭素水素系保護層と、潤滑層側に形成され窒素を含み水素を含まない炭素窒素系保護層とにより構成した磁気記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−128732号公報
【特許文献2】特開2003−248917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、最近のHDDでは400Gbit/inch以上の情報記録密度が要求されるようになってきたが、限られたディスク面積を有効に利用するために、HDDの起動停止機構が従来のCSS(ContactStart and Stop)方式に代えてLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式のHDDが用いられるようになってきた。LUL方式では、HDDの停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動動作時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させ、浮上飛行させて記録再生を行なう。停止動作時には磁気ヘッドを磁気ディスク外のランプに退避させたのち、磁気ディスクの回転を停止する。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式のような磁気ヘッドとの接触摺動用領域(CSS領域)を設ける必要がなく、記録再生領域を拡大させることができ、高情報容量化にとって好ましいからである。
【0009】
このような状況の下で情報記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量を低減させることにより、スペーシングロスを限りなく低減する必要がある。1平方インチ当り400Gビット以上の情報記録密度を達成するためには、磁気ヘッドの浮上量は少なくとも5nm以下にする必要がある。LUL方式ではCSS方式と異なり、磁気ディスク面上にCSS用の凸凹形状を設ける必要が無く、磁気ディスク面上を極めて平滑化することが可能となる。よってLUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式に比べて磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ、磁気ディスク装置の高記録容量化に資することができるという利点もある。
【0010】
最近のLUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、5nm以下の超低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。とりわけ上述したように、近年、磁気ディスクは面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式に移行しており、磁気ディスクの大容量化、それに伴うフライングハイトの低下が強く要求されている。また、記録密度のさらなる向上のため磁気スペーシングを限りなく低減するためには、磁気ヘッド浮上量の低下に加えて、磁性層と磁気ヘッドの間に存在する保護層等の膜厚の低減が必要不可欠な課題である。
【0011】
また最近では、磁気ディスク装置は、従来のパーソナルコンピュータの記憶装置としてだけでなく、携帯電話、カーナビゲーションシステムなどのモバイル用途にも多用されるようになってきており、使用される用途の多様化により、磁気ディスクに求められる環境耐性は非常に厳しいものになってきている。したがって、これらの状況に鑑みると、従来にもまして、磁気ディスクの安定性、信頼性などの更なる向上が急務となっている。
【0012】
ところで、従来のCVD法又はスパッタリング法を用いて、単に保護層を薄膜化すると、保護層自体の摺動耐性(機械的強度)や腐食耐性等の耐久性が劣化することになる。たとえばプラズマCVD法で成膜した炭素系保護層は、ガス圧力、ガス流量、印加バイアス、投入パワーといったプロセスパラメータによって容易に膜質を変化させることができるが、コロージョン耐性と機械的強度との関係はトレードオフの関係があり、これらを同時に成立させることは従来困難な課題であった。そのため、保護層としての機能を持たせるためには、一番弱い特性が要求品質を満たすように保護層の膜厚を厚くする必要があった。しかし、保護層の膜厚を厚くすると、磁気スペーシングの低減が実現できず、よりいっそうの高記録密度化の達成が困難になる。
【0013】
特に保護層と潤滑層の密着性を高めるために保護層に対して窒素等のプラズマによる表面処理を行うと、プラズマによってイオン化した高エネルギー原子を保護層に対して撃ち込むことになるため、その撃ち込みによる保護層の強度、密度、緻密性の低下、それに伴う耐磨耗性や、コロ−ジョン耐性の劣化が問題視されていた。上記のとおり、近年、保護層の膜厚をよりいっそう薄膜化することが要求されてきており、そうなると保護層の厚みが上記表面処理による原子の撃ち込み深さ(侵入深さ)に近づいてくるため、それに伴う耐磨耗性や、コロージョン耐性はさらに悪化することになる。さらに本発明者らの検討によると、かかる保護層の膜厚が例えば4nmよりも薄膜になると、ヘッドの浮上安定性が急激に劣化してしまうことも判明した。ここで、プラズマ発生パワーを下げると原子の撃ち込み深さを小さくすることはできるが、保護層表面の窒化量が減るため、潤滑層との密着性が低下してしまう。従って、従来では、保護層と潤滑層との密着性を十分確保するためには、窒素等のプラズマによる表面処理をプラズマ発生パワーをある程度上げて実施することは必要不可欠であった。
【0014】
また、保護層と潤滑層との密着性を向上させるため、上記特許文献2などに開示されているような、従来のCVD法又はスパッタリング法を用いて、窒素を含む炭素窒素系保護層を潤滑層側に形成する方法では、上記の窒素プラズマによる表面処理のような保護層の強度、密度、緻密性の低下は回避できるものの、特に保護層の膜厚を薄膜化した場合、その保護層の表面側に窒素を含む薄膜層を形成しても、保護層表面の窒化量を十分に高めることは困難であり、そのため潤滑層との密着性が不足し、潤滑剤のピックアップ(潤滑剤がヘッド側に移着する現象)が起こり易くなってしまう。
【0015】
とくに近年、磁気ヘッドにおいては、素子内部に備えた薄膜抵抗体に通電して発熱させることで磁極先端部を熱膨張させるDynamic Flying Height(DFH)技術の導入でスペーシングの低減が急速に進んでおり、DFH素子のバックオフマージン2nm以下を満足させる媒体開発が必要となっている。このように、近年の高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量化、磁気スペーシングの低減のもとでの高耐久性、高信頼性を有する磁気記録媒体の実現が求められている。
【0016】
またさらには、面記録密度が1平方インチ当り500Gビットを超える次世代磁気記録媒体においては、データトラックやビッド間を磁気的に分離することで、隣接トラックビッド間のサイドフリンジなどの影響を低減したディスクリートトラックメディア(以下、DTRメディアと呼ぶ。)やビッドパターンドメディア(以下、BPMと呼ぶ。)が有望視されており、かかる次世代メディア用媒体として、高耐久性、高信頼性を有する磁気記録媒体の実現が求められている。
【0017】
本発明は、以上説明したような従来の種々の問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、薄膜化しても、コロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、ヘッドの浮上安定性に優れた保護層を備えた磁気記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、まず炭化水素系ガスを用いてCVD法で炭素系下層を形成し、次いで、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて炭素系上層を形成した後、該上層の表面に窒素プラズマ等による窒素化処理を施すことにより、プラズマ照射による原子の撃ち込み深さを小さく(浅く)でき、保護層全体の膜厚を薄膜化しても、その最表面層だけを窒素化して、しかも最表面層の窒素化量を高めることが可能となり、上記課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0019】
(構成1)
基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体の製造方法であって、前記炭素系保護層は、前記磁性層側に形成される下層と、前記潤滑層側に形成される上層とを備え、前記炭素系保護層は、炭化水素系ガスを用いて化学気相成長(CVD)法で前記下層を形成し、次いで、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて前記上層を形成した後、該上層の表面を窒素化する処理を施すことにより形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0020】
(構成2)
前記上層の表面を窒素化する処理は、窒素プラズマを曝露することにより行うことを特徴とする構成1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成3)
前記炭素系保護層の膜厚が4nm以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0021】
(構成4)
前記下層と前記上層の膜厚比が、9:1〜4:1の範囲であることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成5)
前記下層は、少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする構成1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0022】
(構成6)
前記下層は、途中でチャンバー内のガス圧を変更することによる少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする構成5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成7)
前記下層は、途中で印加バイアスを変更することによる少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする構成5又は6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0023】
(構成8)
前記上層は、CVD法により形成されることを特徴とする構成1乃至7のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成9)
前記潤滑層は、1分子当たり少なくとも3個以上のヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を含有することを特徴とする構成1乃至8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0024】
(構成10)
前記磁気記録媒体は、起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載され、5nm以下のヘッド浮上量の下で使用される磁気記録媒体であることを特徴とする構成1乃至9のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成11)
記録再生素子の磁極先端部を熱膨張させるDFHヘッドを用いることを特徴とする構成10に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0025】
(構成12)
前記磁気記録媒体は、ディスクリートトラックメディア用媒体又はビッドパターンドメディア用媒体であることを特徴とする構成1乃至11のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、薄膜化しても、コロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、ヘッドの浮上安定性に優れた保護層を備えた磁気ディスク等の磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。これによって、磁気スペーシングのより一層の低減を実現でき、しかも近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとでも、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとでも高耐久性、高信頼性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係わる垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明と従来の磁気記録媒体における、窒素プラズマ発生パワーと保護層中の炭素原子(C)に対する窒素原子(N)の存在比(N/C)との関係の対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
まず、本発明により製造される磁気記録媒体、とりわけ高記録密度化に好適な垂直磁気記録媒体の概略を説明する。
図1は、本発明に係わる垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態を示す断面図である。図1に示すように、本発明に係わる上記垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態100としては、具体的には、ディスク基板1上に、基板に近い側から、例えば付着層2、軟磁性層3、シード層4、下地層5、磁気記録層(垂直磁気記録層)6、交換結合制御層7、補助記録層8、保護層9、潤滑層10などを積層したものである。
【0029】
上記ディスク基板1用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはRmaxで3nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0030】
基板1上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層3を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magneticexchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。具体的には、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成としては、例えばCoTaZr(コバルト−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZrAlCr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム−アルミニウム−クロム)またはCoFeNiTaZr(コバルト−鉄−ニッケル−タンタル−ジルコニウム)とすることができる。上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)とすることができる。
軟磁性層の膜厚は、構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜100nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。
【0031】
また、基板1と軟磁性層3との間には、付着層2を形成することが好ましい。付着層を形成することにより、基板と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。付着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。
【0032】
また、シード層4は、下地層5の配向ならびに結晶性を制御するために用いられる。媒体の全層を連続成膜する場合には特に必要のない場合もあるが、軟磁性層と下地層の相性如何によっては結晶成長性が劣化することがあるため、シード層を用いることにより、下地層の結晶成長性の劣化を防止することができる。シード層の膜厚は、下地層の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。厚すぎる場合には、信号の書き込み能力を低下させてしまう原因となる。
【0033】
上記下地層5は、垂直磁気記録層6の結晶配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径、及び粒界偏析を好適に制御するために用いられる。下地層の材料としては、面心立方(fcc)構造あるいは六方最密充填(hcp)構造を有する単体あるいは合金が好ましく、例えばRu、Pd,Pt,Tiやそれらを含む合金が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、特にRuまたはその合金が好ましく用いられる。Ruの場合、hcp結晶構造を備えるCoPt系垂直磁気記録層の結晶軸(c軸)を垂直方向に配向するよう制御する作用が高く好適である。なお、低ガス圧プロセスと高ガス圧プロセスによる積層構造の場合、同じ材料の組合わせはもちろん、異種材料を組合わせることもできる。
【0034】
また、上記垂直磁気記録層6は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、Si,Ti,Cr,Co、またはこれらSi,Ti,Cr,Coの酸化物を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層を含むことが好適である。
具体的に上記強磁性層を構成するCo系磁性材料としては、非磁性物質である酸化ケイ素(SiO)又は酸化チタン(TiO)の少なくとも一方を含有するCoCrPt(コバルト−クロム−白金)からなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp結晶構造を成型する材料が望ましい。また、この強磁性層の膜厚は、例えば20nm以下であることが好ましい。また、この強磁性層は、単層であっても良く、複数層で構成されても良い。
【0035】
また、補助記録層8を、交換結合制御層7を介して垂直磁気記録層6の上部に設けることによって、高密度記録性と低ノイズ性に加えて、逆磁区核形成磁界Hnの向上、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性の改善といった特性を付け加えることができる。補助記録層の組成は、例えばCoCrPtBとすることができる。
【0036】
また、前記垂直磁気記録層6と前記補助記録層8との間に、交換結合制御層7を有することが好適である。交換結合制御層を設けることにより、前記垂直磁気記録層と前記補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば、Ruなどが好適に用いられる。
【0037】
上記強磁性層を含む垂直磁気記録層の形成方法としては、スパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0038】
また、上記垂直磁気記録層の上(本実施の形態では補助記録層の上)に、保護層9を設ける。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気ディスク表面を保護することができる。保護層の材料としては、炭素系保護層が好適である。
【0039】
また、上記保護層9上に、更に潤滑層10を設けることが好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気ディスク間の磨耗を抑止でき、磁気ディスクの耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばPFPE(パーフルオロポリエーテル)系化合物が好ましい。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。
【0040】
本発明は、上記構成1の発明にあるように、基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体の製造方法であって、前記炭素系保護層は、前記磁性層側に形成される下層と、前記潤滑層側に形成される上層とを備え、前記炭素系保護層は、炭化水素系ガスを用いて化学気相成長(CVD)法で前記下層を形成し、次いで、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて前記上層を形成した後、該上層の表面を窒素化する処理を施すことにより形成することを特徴とするものである。
【0041】
本発明において、炭素系保護層は、前記磁性層側に形成される下層と、前記潤滑層側に形成される上層とを備える。上記炭素系保護層のうち、磁性層側に形成される下層は、炭化水素系ガスを用いてCVD法で形成される。CVD法による成膜に使用する炭化水素系ガスとしては、例えばエチレンガスに代表される低級炭化水素系ガス(炭素数が1〜5程度)が好適に用いられる。成膜時のチャンバー内のガス圧、ガス流量、印加バイアス、投入パワー等のプロセスパラメータについては適宜設定する。これによって、下層にはCH層が形成される。
【0042】
また、上記炭素系保護層のうち、潤滑層側に形成される上層は、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて例えばCVD法で形成される。成膜時のチャンバー内のガス圧、ガス流量、印加バイアス、投入パワー等のプロセスパラメータについては適宜設定する。これによって、上層にはCHN層が形成される。この場合の炭化水素系ガスと窒素ガスの混合割合は、本発明において特に制約はないが、窒素ガスの導入量が少な過ぎると、形成されるCHN層における窒素含有量が相対的に少なくなるため、この後に行う例えば窒素プラズマによる窒素化処理において、窒素プラズマ発生パワーをある程度上げないと、潤滑層との十分な密着性が得られる程度に上層表面の窒化量を高めることが困難になる。窒素プラズマ発生パワーを上げると窒素原子の撃ち込みによる損傷深さが大きくなるという問題がある。一方、炭化水素系ガスに対する窒素ガスの導入量をあまり多くしても、形成されるCHN層における窒素含有量の増加には限界がある。したがって、上層のCHN層の成膜において、炭化水素系ガスに対する窒素ガスの混合比は、流量(sccm単位)比で、1:4〜4:1程度の範囲内とすることが好適である。
【0043】
なお、上記上層の成膜方法は、CVD法には限定されないが、下層をCVD法で形成した後、上層を同じチャンバー内で連続的に形成することができるという観点からすれば、上層についてもCVD法により形成することが好適である。
【0044】
また、本発明の炭素系保護層における上記下層と上記上層の膜厚比は、9:1〜4:1の範囲であることが好ましい。例えば上層の膜厚が上記範囲よりも相対的に薄くなると、例えば窒素プラズマによる窒素化処理において、撃ち込まれた窒素原子の多くが下層のCH層まで到達してしまい、潤滑層との密着性に寄与する保護層の上層表面の窒素量を高められないおそれがある。後述のように、本発明者らの考察によれば、上層のCHN層は、イオン化した高エネルギーの窒素原子が撃ち込まれた際の衝撃を緩和し、その結果窒素原子の撃ち込み深さが抑制されるという作用を奏するものと考えられ、上層の膜厚が薄いとこのような作用が得られ難くなる。一方、上層の膜厚が上記範囲よりも厚いと、下層のCH層の膜厚が相対的に薄くなるため、保護層としての機械的耐久性やコロージョン耐性が低下する。
【0045】
本発明により形成される炭素系保護層の膜厚(総膜厚)は、薄膜化の要請の観点から、4nm以下であることが好ましい。特に、2〜4nmの範囲であることが好ましい。保護層の膜厚が2nm未満では、保護層としての性能が低下する場合がある。
【0046】
また、保護層のうち、上記上層の膜厚は、0.2〜0.8nmの範囲であることが好ましい。上層の膜厚が上記範囲より薄いと、イオン化した高エネルギーの窒素原子が撃ち込まれた際の衝撃を緩和し、窒素原子の撃ち込み深さが抑制される作用が得られ難い。一方、上層の膜厚が上記範囲よりも厚いと、保護層全体の薄膜化の観点から相対的に下層の膜厚が薄くなるため、機械的耐久性やコロージョン耐性が低下する。
【0047】
また、保護層のうち、上記下層の膜厚は、1.6〜3.6nmの範囲であることが好ましい。下層の膜厚が上記範囲より薄いと、保護層の機械的耐久性やコロージョン耐性が低下する。一方、下層の膜厚が上記範囲より厚くなると、保護層の薄膜化の観点から好ましくない。
なお、本発明においては、保護層の膜厚(総膜厚、上層と下層の各膜厚を意味する。)は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される膜厚とする。
【0048】
上記上層の表面を窒素化する処理としては、窒素プラズマを曝露(又は照射)することにより行うことが好適である。上層に対して、窒素プラズマを曝露することにより、上層の表面層を窒素化して、潤滑層との十分な密着性が得られる程度に上層表面の窒化量を高めることができる。本発明においては、プラズマ発生パワーを25〜75Wの範囲とすることが好適である。従来は、潤滑層との十分な密着性が得られる程度に保護層表面の窒化量を高めるためには、プラズマ発生パワーを最低でも100W程度に設定する必要があったが、本発明においては、従来よりも低いパワーで潤滑層との十分な密着性が得られる程度に保護層表面の窒化量を高めることが可能である。
【0049】
また、本発明において、上記下層のCH層は、少なくとも2段階成膜により形成することがよりいっそう好ましい。この場合、途中でチャンバー内のガス圧を変更することによる少なくとも2段階成膜により形成することが好ましい。また、途中で成膜時の基板印加バイアスを変更することによる少なくとも2段階成膜により形成してもよい。また、途中でチャンバー内のガス圧とともに印加バイアスを変更することによる少なくとも2段階成膜により形成してもよい。
【0050】
本発明においては、特に、下層のCH層を、最初は高ガス圧で成膜し、途中で低ガス圧に変更する2段成膜により形成することが好ましい。このような2段成膜により、下層の磁気記録層へのダメージが少なくなるため、途中でガス圧等を変更することなく連続成膜した場合と比べると、特に良好な磁気特性、記録再生特性が得られる。この場合の高ガス圧は、4.0〜2.0Paの範囲、低ガス圧は、1.5〜0.5Paの範囲に設定することが好適である。なお、チャンバー内のガス圧を変更する際、圧力変動が収まりチャンバー内が安定するまで、基板の印加バイアスを0(零)Vにして成膜を行わない待機時間を設けるようにしてもよい。最初の高ガス圧で成膜される層(高ガス圧層)と、途中からの低ガス圧で成膜される層(低ガス圧層)との膜厚比は、概ね1:3〜1:5とすることが好適である。高ガス圧で成膜される層の膜厚が上記範囲を下回ると磁気記録層へのダメージが多大となり、また上記範囲を上回ると緻密性に優れた低ガス圧で成膜される層の膜厚が相対的に薄くなり、保護膜としての十分な機械的耐久性を確保できなくなる。
【0051】
また、上述のガス圧の変更に代えて、あるいはガス圧の変更とともに、印加バイアスを変更する場合、最初は低バイアスで成膜し、途中で高バイアスに変更する2段成膜とすることが好ましい。この場合の低バイアスは、50〜300Vの範囲、高バイアスは、300〜400Vの範囲に設定することが好適である。
【0052】
本発明における炭素系保護層の上に形成する前記潤滑層は、1分子当たり少なくとも3個以上のヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を含有することが好ましい。本発明によれば、炭素系保護層の最表面(表層)だけを窒素化して、潤滑層との密着性に寄与する保護層の潤滑層側の表層中に潤滑層との密着点(活性点)を十分に形成できる。潤滑剤の分子中にヒドロキシル基などの極性基が存在することにより、炭素系保護層と潤滑剤分子中のヒドロキシル基との相互作用により、潤滑剤の保護層への良好な密着性が得られるため、取り分け1分子当たり少なくとも3個以上のヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤が好ましく用いられる。
【0053】
以上説明したように、本発明によれば、薄膜化しても、コロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、ヘッドの浮上安定性を兼ね備えた炭素系保護層を形成することができるので、磁気スペーシングのより一層の低減を実現でき、しかも近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量(5nmあるいはそれ以下)のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとでも高耐久性、高信頼性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0054】
本発明者らは、保護層を薄膜化しても、良好なコロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、およびヘッドの浮上安定性が得られる理由についても検討した結果、以下のように推察した。
図2は、本発明と従来の磁気記録媒体における、窒素プラズマ発生パワーと保護層中の炭素原子(C)に対する窒素原子(N)の存在比(N/C)との関係の対比を示す図である。なお、図2の縦軸は、X線光電子分光(XPS)法によって測定した保護層中の炭素原子(C)に対する窒素原子(N)の存在比(N/C)を原子比で示している。
【0055】
図2によると、CVD法で形成したCH層の表面に窒素プラズマを曝露して窒化処理する従来例の場合よりも、本発明では、窒素プラズマ発生パワーに対するN/C比の増加割合(傾き)が小さくなっている。また、本発明では、プラズマ発生パワーが0(零)WのときのN/Cは、上層のCHN層中のN含有量を反映している。
【0056】
本発明者らの考察によれば、保護層に対し窒素プラズマが曝露され、イオン化した高エネルギーの窒素原子が撃ち込まれるとCHN層のN原子(CHNとして)が一部放出される。つまり、窒素プラズマが曝露されると、上層のCHN層において、CHN層中のN原子を若干エッチングしながら窒素化が進行していく。そのため上層のCHN層は、イオン化した高エネルギーの窒素原子が撃ち込まれた際の衝撃を緩和し、その結果窒素原子の撃ち込み深さ(侵入深さ)が抑制されるという作用を奏するものと考えられる。また、本発明においては、従来よりも低いプラズマ発生パワーで潤滑層との十分な密着性が得られる程度に保護層表面の窒化量を高めることが可能である。要するに、潤滑層との密着性に寄与する炭素系保護層の最表面(表層)だけを十分に窒素化することが可能であり、プラズマによる高エネルギーの窒素原子が撃ち込まれることによる損傷があっても保護層のごく表層部分(上層のCHN層)だけであるため、コロージョン耐性や機械的耐久性の劣化は起こらない。
以上のことから、本発明によれば、保護層を従来よりも薄膜化でき、しかも良好なコロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、およびヘッドの浮上安定性が得られるものと考えられる。
【0057】
また、本発明の磁気記録媒体は、特にLUL方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気記録媒体として好適である。LUL方式の導入に伴う磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、例えば5nm以下の超低浮上量においても磁気記録媒体が安定して動作することが求められるようになってきており、低浮上量のもとで高い耐久性及び信頼性を有する本発明の磁気記録媒体は好適である。
【0058】
また、近年、磁気ヘッドにおいては、素子内部に備えた薄膜抵抗体に通電して発熱させることで磁極先端部を熱膨張させるDynamic Flying Height(DFH)技術の導入でスペーシングの低減が急速に進んでおり、DFH素子のバックオフマージン2nm以下を満足させる媒体開発が必要となっている。このように、近年の高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量化、磁気スペーシングの低減のもとでの高耐久性、高信頼性を有する本発明の磁気記録媒体は好適である。
【0059】
またさらには、面記録密度が1平方インチ当り500Gビットを超える次世代磁気記録媒体においては、データトラックやビッド間を磁気的に分離することで、隣接トラックビッド間のサイドフリンジなどの影響を低減したDTRメディアやBPMが有望視されており、かかる次世代メディア用媒体として、高耐久性、高信頼性を有する本発明の磁気記録媒体は好適である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作製した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性ガラス基板を得た。ディスク直径は65mmである。このガラス基板の主表面の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.18nmという平滑な表面形状であった。なお、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従う。
【0061】
次に、枚葉式静止対向スパッタ装置を用いて、上記ガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて、順次、付着層、軟磁性層、シード層、下地第一層、下地第二層、垂直磁気記録層、交換結合制御層、補助記録層の各成膜を行った。
【0062】
以下の各材料の記述における数値は組成を示すものとする。
まず、付着層として、10nmのCr-45Ti層を成膜した。
次に、軟磁性層として、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合する2層の軟磁性層の積層膜を成膜した。すなわち、最初に1層目の軟磁性層として、25nmの92(60Co40Fe)-3Ta-5Zr層を成膜し、次に非磁性層として、0.5nmのRu層を成膜し、さらに2層目の軟磁性層として、1層目の軟磁性層と同じ、92(60Co40Fe)-3Ta-5Zr 層を25nmに成膜した。
【0063】
次に、上記軟磁性層上に、シード層として、5nmのNi5W層を成膜した。
【0064】
次に,下地層として2層のRu層を成膜した。すなわち、下地第一層として、Arガス圧0.7PaにてRuを12nm成膜し、下地第二層として、Arガス圧4.5PaにてRuを12nm成膜した。
【0065】
次に、下地層の上に、磁気記録層を成膜した。まず、垂直磁気記録層として、厚さが2nmである93(Co-20Cr-18Pt)-7Cr2O3およびその上に、厚さが9nmの87(Co-10Cr-18Pt)-5SiO2-5TiO2-3CoOを成膜した。次に、交換結合制御層として、0.3nmのRu層を成膜し、更にその上に補助記録層として、7nmのCo-18Cr-13Pt-5Bを成膜した。
【0066】
そして次に、上記補助記録層の上に、エチレンガスを用いてCVD法により、保護層を形成した。まず、エチレンガスをチャンバー内に500sccm流した状態でガス圧を3.5Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CH層を0.9nm成膜し、この時点で、エチレンガス流量を150sccmに変更してチャンバー内のガス圧を0.9Paに下げ、この状態で引き続きCH層を2.3nm成膜した。
その後、さらに同じチャンバー内に窒素ガスを導入し、エチレンガスと窒素ガスの混合ガス(流量比 C:N=250sccm:300sccm)雰囲気下でガス圧を1.5Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CHN層を0.3nm成膜した。
【0067】
続いて、形成した保護層の上層側のCHN層に対して窒素プラズマを曝露する窒化処理を行った。このとき窒素ガスをチャンバー内が6Paとなるように導入し、25Wの電力でプラズマを発生させ、2.5秒間窒素プラズマを曝露させた。
なお、上記保護層の各層の膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した。
【0068】
このようにして保護層(総膜厚3.5nm)までを形成した磁気記録媒体を洗浄した後、次に、上記保護層の上に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)系潤滑剤であるソルベイソレクシス社製のフォンブリンゼットテトラオール(商品名)をGPC法で分子量分画し、分子量分散度が1.08としたものをディップ法で塗布することにより潤滑層を1.8nm成膜した。なお、上記潤滑剤は、1分子当たり4個のヒドロキシル基を有している。
成膜後に、磁気ディスクを焼成炉内で110℃、60分間で加熱処理した。
以上のようにして、実施例1の磁気ディスクを得た。
【0069】
(実施例2)
実施例1における保護層の成膜工程において、ガス圧3.5PaにてCH層を0.9nm成膜し、引き続いてガス圧0.9PaにてCH層を1.8nm成膜した後、CHN層を0.3nm成膜して、保護層の総膜厚を3nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして保護層を形成した。
この点以外は実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、実施例2の磁気ディスクを得た。
【0070】
(実施例3)
実施例1における保護層の成膜工程において、ガス圧3.5PaにてCH層を0.9nm成膜し、引き続いてガス圧0.9PaにてCH層を1.9nm成膜した後、CHN層を0.7nm成膜して、保護層の総膜厚を3.5nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして保護層を形成した。
この点以外は実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、実施例3の磁気ディスクを得た。
【0071】
(実施例4)
保護層の成膜を次のように行った。まず、エチレンガスをチャンバー内に500sccm流した状態でガス圧を3.5Paとし、基板には−300Vのバイアスを印加した状態で、CH層を0.9nm成膜した時点で、エチレンガス流量を150sccmに変更してチャンバー内のガス圧を0.9Paに下げ、バイアスを−400Vに変更して、引き続きCH層を2.8nm成膜した。
その後、実施例1と同様、同じチャンバー内に窒素ガスを導入し、エチレンガスと窒素ガスの混合ガス(流量比 C:N=250sccm:300sccm)雰囲気下でガス圧を1.5Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CHN層を0.3nm成膜した。
【0072】
続いて、実施例1と同様、形成した保護層の上層側のCHN層に対して窒素プラズマを曝露する窒化処理を行った。このとき窒素ガスをチャンバー内が6Paとなるように導入し、25Wの電力でプラズマを発生させ、2.5秒間窒素プラズマを曝露させた。
以上のようにして保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、実施例4の磁気ディスクを得た。
【0073】
(実施例5)
実施例1における潤滑層の成膜工程において、パーフルオロポリエーテル(PFPE)系潤滑剤としてソルベイソレクシス社製のフォンブリンゼットドール(商品名)をGPC法で分子量分画し、分子量分散度が1.08としたものをディップ法で塗布することにより潤滑層を1.8nm成膜したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑層を形成した。なお、上記潤滑剤は、1分子当たり2個のヒドロキシル基を有している。
この点以外は実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、実施例5の磁気ディスクを得た。
【0074】
(実施例6)
実施例1と同様にして、枚葉式静止対向スパッタ装置を用いて、前記ガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて、順次、付着層、軟磁性層、シード層、下地第一層、下地第二層、垂直磁気記録層、交換結合制御層、補助記録層の各成膜を行った。そして次に、上記補助記録層の上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて、水素化ダイヤモンドライクカーボンからなる保護層を形成した。保護層の膜厚は4nmとした。
【0075】
次に、このようにして作製した垂直磁気記録媒体を用いて、120nmトラックピッチのDTRメディアを製造した。
まず、上記垂直磁気記録媒体上に石英モールドを用いたUVナノインプリント法によりDTRのパターニングを行った。次に誘導結合型プラズマ反応性エッチング法(ICP-RIE)によるレジスト残膜と保護層(DLC)の除去を行った。更にイオンビームエッチング法(IBE)を用いて磁気記録層(垂直磁気記録層、交換結合制御層、補助記録層)のエッチングを行った。その後、SiO2やNiAlなどの非磁性材料ターゲットを用いたRF-スパッタリング法を用いて、磁気記録層のエッチング後に生じた溝を埋め込んだ。そして再度IBEを用いて平坦化をした後、その表面に、実施例1と同じ炭素系保護層と潤滑層を形成して、120nmトラックピッチのDTRメディア(実施例6の磁気ディスク)を製造した。
【0076】
(比較例1)
エチレンガスを用いてCVD法により、保護層を形成した。すなわち、エチレンガスをチャンバー内に導入してガス圧を2Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CH層を3.5nm成膜した。
続いて、形成した保護層(CH層)に対して窒素プラズマを曝露する窒化処理を行った。このとき窒素ガスをチャンバー内が6Paとなるように導入し、100Wの電力でプラズマを発生させ、2.5秒間窒素プラズマを曝露させた。
以上のようにして保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、比較例1の磁気ディスクを得た。
【0077】
(比較例2)
エチレンガスを用いてCVD法により、保護層を形成した。まず、エチレンガスをチャンバー内に導入してガス圧を3.5Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CH層を0.9nm成膜した後、エチレンガス流量を変更してチャンバー内のガス圧を0.9Paに下げ、この状態で引き続きCH層を2.6nm成膜した。
続いて、形成した保護層(CH層)に対して窒素プラズマを曝露する窒化処理を行った。このとき窒素ガスをチャンバー内が6Paとなるように導入し、75Wの電力でプラズマを発生させ、2.5秒間窒素プラズマを曝露させた。
以上のようにして保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、比較例2の磁気ディスクを得た。
【0078】
(比較例3)
エチレンガスを用いてCVD法により、保護層を形成した。まず、エチレンガスをチャンバー内に導入しガス圧を2Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CH層を3.2nm成膜した時点で、チャンバー内に窒素ガスを導入し、エチレンガスと窒素ガスの混合ガス(流量比 C:N=420sccm:350sccm)雰囲気下でガス圧を3.0Paとし、基板には−400Vのバイアスを印加した状態で、CHN層を0.3nm成膜した。
以上のようにして保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製し、比較例3の磁気ディスクを得た。
【0079】
次に、以下の試験方法により、実施例および比較例の各磁気ディスクの評価を行った。
[コロージョン耐性(金属イオン耐溶出性)評価]
保護層のコロージョン耐性を評価するため、磁気ディスクの表面に3%の硝酸100μLを各8点滴下し、約1時間室温で放置した後、当該8点を回収し、これら液滴の半径を測定して、これを1mLに定容する。これらの液滴をICP(誘導結合プラズマ:Inductively Coupled Plasma)質量分析装置で金属成分を定量し、溶液濃度と滴下面積から磁気ディスク表面1m当たりのCo溶出量を算出した。溶出したCo量が少ないほど、保護層のコロージョン耐性が優れていると言える。
【0080】
[機械的耐久性評価]
保護層の機械的耐久性を評価するためにピンオンテストを行った。ピンオンテストは、91.8rpmで回転させた磁気ディスク上の半径26mmの位置に30gの荷重で棒の先に固定させた直径2mmのAl2O3-TiC製ボールを押し付けることで摺動させ、保護層が破断するまでのパスカウントを測定することにより行った。パスカウントが高いほど保護層の機械的耐久性が優れていると言える。この試験では、400カウント以上の耐久性があれば合格と言える。
【0081】
[潤滑層密着性評価]
保護層と潤滑層の密着性評価は以下の試験により行った。
予め、磁気ディスクの潤滑層膜厚をFTIR(フーリエ変換型赤外分光光度計)法で測定する。次に、磁気ディスクを溶媒(ディップ法に用いた溶媒)に1分間浸漬させる。溶媒に浸漬させることで、付着力の弱い潤滑層部分は溶媒に分散溶解してしまうが、付着力の強い部分は保護層上に残留することができる。磁気ディスクを溶媒から引き上げ、再び、FTIR法で潤滑層膜厚を測定する。溶媒浸漬前の潤滑層膜厚に対する、溶媒浸漬後の潤滑層膜厚の比率を潤滑層密着率(ボンデッド率)と呼ぶ。ボンデッド率が高ければ高いほど、保護層に対する潤滑層の付着性能(密着性)が高いと言える。
【0082】
[ヘッド浮上安定性評価]
ヘッド浮上安定性を評価するために、磁気ディスクと、DFH素子を備えた磁気記録ヘッドとを磁気ディスク装置に搭載し、磁気記録ヘッドの浮上時の浮上量を5nmとし、磁気ディスク装置内の環境を温度70℃、相対湿度80%の高温高湿環境下として、磁気記録ヘッドを磁気ディスク面上の特定半径位置での連続14日間浮上走行させる定位置浮上試験を行った。この試験では、7日以上の連続走行に耐久すればヘッド浮上安定性は合格と言える。
以上の評価結果を纏めて下記表1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の結果から明らかなように、本発明実施例による磁気ディスクでは、保護層の膜厚を4nm以下に薄膜化しても、コロージョン耐性、機械的耐久性、潤滑層との密着性、ヘッドの浮上安定性を兼ね備えた炭素系保護層を形成できることが確認できた。
【0085】
一方、CVD法で形成したCH保護層表面に窒素プラズマを曝露することにより窒素を含有させた比較例1、2の磁気ディスクでは、窒素原子撃ち込みによる損傷深さが深く、保護層の膜厚を4nm以下に薄膜化すると、とくにコロージョン耐性、機械的耐久性、ヘッドの浮上安定性が劣化してしまう。また、保護層を、CVD法で形成した、磁性層側のCH層と、潤滑層側のCHN層の積層構造とした比較例3の磁気ディスクでは、コロージョン耐性や機械的耐久性の劣化は殆ど起こらないものの、保護層の膜厚を薄膜化した場合、その保護層の潤滑層側に窒素を含む薄膜層を形成しても、保護層表面の窒化量を十分に高めることができず、そのため潤滑層との密着性が不足し、潤滑剤のピックアップなどが原因でヘッドの浮上安定性が劣化してしまう。これら比較例の磁気ディスクではいずれも、これらの劣化分を補うためには保護層膜厚をより厚くしなければならず、保護層の薄膜化を実現できない。
【符号の説明】
【0086】
1 ディスク基板
2 付着層
3 軟磁性層
4 シード層
5 下地層
6 垂直磁気記録層
7 交換結合制御層
8 補助記録層
9 保護層
10 潤滑層
100 垂直磁気記録媒体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体の製造方法であって、
前記炭素系保護層は、前記磁性層側に形成される下層と、前記潤滑層側に形成される上層とを備え、
前記炭素系保護層は、炭化水素系ガスを用いて化学気相成長(CVD)法で前記下層を形成し、次いで、炭化水素系ガスと窒素ガスの混合ガスを用いて前記上層を形成した後、該上層の表面を窒素化する処理を施すことにより形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記上層の表面を窒素化する処理は、窒素プラズマを曝露することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記炭素系保護層の膜厚が4nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記下層と前記上層の膜厚比が、9:1〜4:1の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記下層は、少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記下層は、途中でチャンバー内のガス圧を変更することによる少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記下層は、途中で印加バイアスを変更することによる少なくとも2段階成膜により形成することを特徴とする請求項5又は6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記上層は、CVD法により形成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記潤滑層は、1分子当たり少なくとも3個以上のヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記磁気記録媒体は、起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載され、5nm以下のヘッド浮上量の下で使用される磁気記録媒体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
記録再生素子の磁極先端部を熱膨張させるDFHヘッドを用いることを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記磁気記録媒体は、ディスクリートトラックメディア用媒体又はビッドパターンドメディア用媒体であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−14178(P2011−14178A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154722(P2009−154722)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】