説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】 磁気記録媒体及びその製造方法に関し、記録層を構成する基材に発生する構造欠陥を簡易かつ自動的に充填修復する。
【解決手段】 記録層4を構成する基材5に発生した構造欠陥7を非磁性絶縁性材料8で充填修復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体及びその製造方法に関するものであり、特に、アルマイト垂直磁気記録媒体等のパターンドメディアにおけるパターン形成の際に発生する構造欠陥を修復するための構成に特徴のある磁気記録媒体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの外部記憶装置或いは民生用ビデオ記録装置としてハードディスク装置等が広く用いられているが、このハードディスク装置等に用いられている磁気記録媒体に対しては大容量化、高速化、低コスト化が求められている。
【0003】
この様な大容量化、高速化、低コスト化を達成するための技術目標の最重点は高密度化であるが、これまでは連続磁性膜の水平記録が主流であったものの、技術的限界にさしかかろうとしている。
【0004】
その理由の一つとしては、連続膜の結晶粒が大きいと複雑磁区を生じてノイズが大きくなり、これを避けるために結晶粒を小さくすると熱揺らぎにより、磁化が経時的に減少してエラーを生ぜしめることが挙げられる。
【0005】
また、もう一つの理由としては、記録密度を高めると相対的に記録減磁界が大きくなり、このため媒体保磁力を大きくする必要があるが、記録ヘッドの書込み能力の不足により、オーバーライト特性が確保できなくことが挙げられる。
【0006】
このため新方式として、いわゆるパターンドメディアや垂直記録方式が盛んに研究されており、この内、パターンドメディアでは、磁性膜が連続膜ではなく、ドット、バー、或いは、ピラーパターンとし、そのサイズをナノメートルスケールにすることにより、複雑磁区ではなく、単磁区構造を取らせるものである(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
一方、垂直記録方式は、水平記録方式に比べて記録減磁界が小さいことが高密度化に有利であり、さらに水平記録方式に比べて極端に記録層膜厚を薄くする必要がない点、記録磁化の熱揺らぎに対する耐性の点でも有利である。
【0008】
さらに、この様なパターンドメディアと垂直記録の両方式を取り入れた媒体として、陽極酸化アルマイトポアに磁性金属を充填して垂直磁気記録に供するタイプの磁気記録媒体が注目されている(例えば、特許文献1参照)ので、ここで図10乃至図12を参照して従来のアルマイト垂直磁気記録媒体を説明する。
【0009】
図10参照
まず、ガラス、Al、或いは、Si等の基板71上にスパッタリング法を用いてTi,Ta,Nb等の密着層72、パーマロイ等の下地軟磁性層73、Ti,Ta,Nb等の酸化停止層74、及び、Al膜75を順次成膜する。
なお、この様な成膜工程等は基板の両面に行うものであるが、ここでは、図示を簡単にするために一方の面側のみを図示する。
【0010】
次いで、例えば、硫酸、リン酸、シュウ酸等の水溶液からなる酸性電解液中でAl膜75を陽極酸化することによってAl膜75をアルマイト化して垂直方向に細長い高アスペクト比の多数のポア77を有するアルマイトポア膜76とする。
この時、酸化は酸化停止層74の表面が酸化した時点で自動的に停止する
【0011】
図11参照
この場合のポア77は、通常、図に示すようにハニカム型の六方最密格子状に自己組織化的に発生するため、リソグラフィ的手法で1ドットずつドット形成する方法に較べて安価に製造できるメリットがある。
【0012】
図12参照
次いで、下地軟磁性層73を電極として用いてCoFe、CoFeB、FePt、CoPt、CoFePt等の強磁性体78を電解メッキしてポア77を埋め込む。
この場合、酸化停止層74の表面に形成された薄い酸化膜(図示を省略)を介して流れるトンネル電流によって電解メッキされることになる。
【0013】
次いで、CMP(化学機械研磨)法、イオンミリング法、ラッピング法等を用いてアルマイト76が露出するまで研磨してメッキで荒れた表面を平坦化するとともに、強磁性体78がポア77内に隔離されて埋め込まれるようにする。
【0014】
最後に、DLC(ダイアモンドライクカーボン)等の保護膜79を成膜したのち、表面に例えば、フッ素系潤滑剤を塗布或いはディッピングにより付着させて潤滑膜80を形成することによってアルマイト垂直磁気記録媒体の基本構成が完成する。
【特許文献1】特開2002−175621号公報
【非特許文献1】Proc.IEEE,Vol.85,No.4,p.652,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、最初の成膜時に基板の表面に微小なパーティクルが付着していたり、成膜後に傷が入ったりして酸化停止層に欠陥が入った場合、陽極酸化が酸化停止層で止まらずに下地軟磁性層に酸性電解液が触れてしまう場合がある。
【0016】
この場合、酸化停止層による保護が働かないため下地軟磁性層は陽極酸化に用いる酸性電解液によって容易にエッチングされ、もともとの酸化停止層にあった欠陥がサブμm以下のサイズであっても直径μm〜〜数十μmオーダの貫通欠陥が発生してしまう。
この貫通欠陥による段差の発生は最終的にディスクにした場合の平坦性を悪化させ磁気ヘッドの浮上性を落としてしまうという問題に直結する。
【0017】
この最初の成膜時に発生した微小欠陥が膜のパターニング時に拡大して磁気ヘッドの浮上性を低下させるという問題はアルマイト磁気ディスクに限らず、すべての反応性エッチングを用いてパターンニングを行うパターンドメディアに共通の問題である。
【0018】
それに加えて、強磁性体を電解メッキを用いて充填する場合はさらに大きな問題となるので、その事情を図13を参照して説明する。
図13参照
陽極酸化工程においては貫通欠陥81が発生した場合に、この貫通欠陥部において下地軟磁性層73の端部が露出することになる。
【0019】
次いで、下地軟磁性層73を電極として用いて強磁性体78を電解メッキした場合、軟磁性層73は酸化停止層74の表面に形成された酸化膜のトンネル抵抗よりもはるかに抵抗が低いため、電解メッキ時の電流はこの貫通欠陥81に集中し貫通欠陥部から強磁性体78が異常成長して非常に広範囲領域のメッキ不良を発生させてしまう。
【0020】
この異常成長が発生した近傍においては、ポア77には殆ど強磁性体78が充填されず、CMP法等で研磨したのちは、ポア77は空洞状態となるため、磁気的欠陥部となり製品として出荷できない不良品となるので製造歩留りに大きな影響を与えることになる。
【0021】
この問題を解決するためには、プロセス時のパーティクル、欠陥を減少させることが最良の手段であることはいうまでもないが、一個の点欠陥の発生がウェハ単位での不良に直結することを考えると、一個の欠陥の発生が一チップの不良に止まり他に派生しない半導体プロセス以上の条件が要求されることとなり、サブμm以下のサイズまで含めて完全無欠陥、無パーティクルを目指すのは現実的な回答ではない。
【0022】
また、Al膜75をパーティクルのサイズに対して十分に厚く、例えば、μmオーダの膜厚以上に堆積させてその表面のみをアルマイト層として使用することでもこの貫通欠陥81の発生を抑えることは可能であるが、強磁性体78と下地軟磁性層73との距離が離れてしまい書き込み特性が悪化するという問題や、Al膜75の厚膜が必要で成膜時間が延びる上に、表面荒れを起こしやすいという問題があり、製造コストや製造歩留りに大きく影響することになる。
【0023】
したがって、本発明は、記録層を構成する基材に発生する構造欠陥を簡易かつ自動的に充填修復することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
なお、図における符号2、3は、それぞれ下地軟磁性層及び酸化停止層である。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、磁気記録媒体において、記録層4を構成する基材5に発生した構造欠陥7を非磁性絶縁性材料8で充填修復したことを特徴とする。
【0025】
この様に、記録層4を構成する基材5に発生した構造欠陥7を非磁性絶縁性材料8で充填修復することによって、構造欠陥7の周囲の孔内にも確実に強磁性材料6が充填されることになるので、多少の構造欠陥7が発生した磁気記録媒体も良品として出荷することが可能になる。
【0026】
この場合の磁気記録媒体としては、反応性エッチングを用いて孔パターンニングを行うパターンドメディアも対象となるが、記録層4がアルマイトからなる基材5とアルマイトに形成された孔を充填する強磁性材料6からなるアルマイト垂直磁気記録媒体が典型的なものである。
【0027】
また、この場合の非磁性絶縁性材料8としては、光硬化性樹脂、Al2 3 、SiO2 、或いは、SiN等の化学的に安定な材料が典型的なものである。
【0028】
上述の磁気記録媒体を製造する際には、構造欠陥7が発生した記録層4を構成する基材5上に光硬化性樹脂を塗布する工程、基材5を支持する基板1の表面とは異なる方向から露光して構造欠陥7の内部の光硬化性樹脂のみを選択的に硬化させる工程、未硬化の樹脂を除去する工程を含むように工程を構成すれば良く、それによって、記録層4を構成する基材5に発生する構造欠陥7を簡易かつ自動的に充填修復することができる。
【0029】
或いは、構造欠陥7が発生した記録層4を構成する基材5上にポジ型レジストを塗布する工程、基材5を支持する基板1の表面とは異なる方向から露光して構造欠陥7の内部のポジ型レジストのみを選択的に露光する工程、ポジ型レジストを現像して構造欠陥部のみを選択的に露出させる工程、非磁性絶縁性材料8からなる充填材料をポジ型レジスト上から成膜する工程、リフトオフにより構造欠陥部にのみ充填材料を残存させる工程を含むように工程を構成すれば良い。
これらの場合の基材5としては、Alを陽極酸化処理したアルマイトが典型的なものである。
【0030】
また基板1の表面とは異なる方向から露光する場合、片側記録型の磁気記録媒体の場合には裏面から露光しても良いが、両面記録型の磁気記録媒体においては、不所望な感光を防止するために基板1の表面には露光光を当てずに基板1側面から露光する必要がある。
【0031】
また、この様な露光を行う磁気記録媒体用露光装置の構成としては、記録層4を構成する基材5を支持する基板1を回転させる基板回転機構、基板1の端部の一部を露出するとともにそれ以外の端面及び表裏面を覆う光遮蔽機構、及び、基板1の露出部において基板1の端部から紫外線を照射する紫外線照射手段を少なくとも備えるように構成すれば良く、それによって、不所望な感光を防止して構造欠陥部に充填された光硬化性樹脂或いはポジ型レジストのみを選択的に露光することができる。
【0032】
或いは、記録層4を構成する基材5を支持する基板1を遮光部材を介して複数枚積層保持する保持機構、基板1の中心部に設けられた貫通孔に挿入された紫外線照射手段、紫外線照射手段の貫通孔以外の部分における露出部を覆う遮光シール部材を少なくとも備えるように構成しても良く、それによって、複数枚の基板1を一括処理することが可能になる。
【0033】
この場合の遮光性シール部材としては、上下に対向する基板1間での貫通欠陥を介した光漏れを防止する遮光性シート部材と、上下に対向する基板1間に直接光が漏れることを防止するとともに基板1を保持するための基板1の中心部に配置されたリング状シール部材から構成することが望ましい。
【0034】
或いは、記録層4を構成する基材5を支持する基板1を遮光部材を介して複数枚隔離保持するカセット機構、カセット機構における基板1の一端部に接触して基板1に回転を与える回転機構、回転機構に対して基板1を挟んで反対側に配置されるとともに基板1の他端部に紫外線を照射する紫外線照射手段を少なくとも備えるように構成しても良く、この場合には、既存の半導体ウェハのカセット機構の一部を変更して露光装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、記録層を構成する基材に発生する構造欠陥を簡易かつ自動的に充填修復することにより、電解メッキ時のメッキ斑の発生を抑制することができ、、また表面平坦性にも優れるため歩留まりが向上しコスト削減に寄与する所が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、陽極酸化等に起因する構造欠陥が発生したアルマイト等の基材上に光硬化性樹脂或いはポジ型レジストを塗布したのち、基材を支持する透明ガラス基板等の基板の表面とは異なる方向、典型的には端部側面から露光して構造欠陥の内部の光硬化性樹脂のみを選択的に硬化させて残存させた状態或いは構造欠陥の内部のポジ型レジストを選択的に現像除去したのち非磁性絶縁性材料で充填した状態で強磁性材料を堆積させて基材に形成されたポア等の凹部を強磁性材料で埋め込むものである。
【実施例1】
【0037】
ここで、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造工程を説明するが、実際には基板の表裏両面に同じ構造を形成するものであるが、ここでも、図示を簡単にするために片面のみを図示・説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図であり、透明HD媒体基板11を保持する回転軸42を有するスピンスタンド41、回転軸42に保持された透明HD媒体基板11の一端部のみを露出するように覆う光遮蔽筐体43、及び、紫外線レーザ46からなる。
なお、光遮蔽筐体43は、例えば、遮光性底皿部材44とこの遮光性底皿部材44と周辺部において嵌合する遮光性上皿部材45とから構成される。
【0038】
図3参照
まず、通常のスパッタリング法を用いて例えば、2.5インチ径の結晶化ガラスからなる透明HD媒体基板11の表面に、厚さが、例えば、5nmのTiからなる密着層12、厚さが、例えば、100nmのパーマロイからなる下地軟磁性層13、厚さが、例えば、5nmのNbからなる酸化停止層14、及び、厚さが、例えば、100nmで純度が99.99%以上の高純度Al膜15を順次成膜する。
【0039】
これらのスパッタリング工程は、マルチターゲットのスパッタ装置またはシングルターゲットのマルチチャンバースパッタ装置を用いれば全て真空一環処理で行うことが可能であり、ロードロックへの出し入れ等にともなうスループットの低下を最低限に抑えることが可能である。
【0040】
次いで、例えば、0.3M/lの希硫酸浴16を用いて対向電極17との間に25Vの電圧を1分印加しての陽極酸化を行うことによって、高純度Al膜15を酸化するとともに60nmのピッチのポア19を有するアルマイトポア膜18を形成する。
この時、酸化停止層14の表面が酸化された時点で、陽極酸化は自動的に停止する。
【0041】
次いで、ポアサイズを調整するために、4%リン酸を用いて1分間のポアワイドニングを行うことによって、直径が20nmでアスペクト比が5のポア21を有するアルマイトポア膜20とする。
【0042】
このアルマイトポア膜20を光学顕微鏡で観察したところ、ほぼ5cm2 に一個の割合でサブμmサイズ以上の貫通欠陥22が発見された。
この貫通欠陥22は上述のように傷やパーティクル付着等の構造欠陥により軟磁性下地層13及び密着層12がエッチングされて形成されるものであり、基板全体で数個のオーダーだが、貫通欠陥一個が直径数mmのメッキ不良領域を発生させるためこれをこのままメッキ処理するとウェハ単位の不良となる。
【0043】
図4参照
次いで、全面に光ディスクの作成等に用いられる通常のフォトポリマーからなる光硬化性樹脂23をスピンコート法を用いて例えば、1μmの厚さに塗布して貫通欠陥22及びポア21を埋め込む。
【0044】
次いで、図2に示した磁気記録媒体用露光装置を用いて透明HD媒体基板11の端面から紫外線24を照射して、光反射部材が存在しない貫通欠陥22に充填された光硬化性樹脂23のみを硬化して硬化樹脂25を形成する。
なお、この露光工程においては、基板全面に点在する貫通欠陥22に充填された光硬化性樹脂23を硬化させるためと照射部が局所的に加熱されることを防止するために1000rpm程度の速度で回転させながら、200W/cm2 のエネルギー密度の紫外線24を基板端面部で0.5mmφ以下に絞り込み2分間の露光を行う。
【0045】
次いで、MEK(メチルエチルケトン)等の溶媒を用いて未硬化の光硬化性樹脂23を除去する。
【0046】
図5参照
次いで、硫酸塩系のCoメッキ浴26中で対向電極27との間に10Vの交流電圧を3分間印加して交流メッキを行うことによってCoメッキ膜28を成膜してポア21の内部を強磁性体のCo埋込層29で充填する。
この場合、貫通欠陥22が絶縁性の硬化樹脂25で充填されているためCoメッキ膜28の異常成長の発生を抑えることができ全面で均一なメッキ充填が行われた。
【0047】
次いで、CMP法によりアルマイトポア膜20が露出するまで研磨して表面を平坦化処理する。
【0048】
次いで、スパッタリング法を用いてDLC(ダイアモンドライクカーボン)からなる保護膜30を設けるとともに、ディップ法を用いてフッソ樹脂系の潤滑膜31を塗布することによってアルマイト垂直磁気記録媒体の基本構成が得られる。
【0049】
このように、本発明の実施例1においては、陽極酸化工程において発生した貫通欠陥22を硬化樹脂25で充填修復しているので、電解メッキ工程において異常成長が発生することがなく、多少の貫通欠陥22が発生した基板を製品として出荷することが可能になり、製造歩留りが向上する。
【実施例2】
【0050】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施例2のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造工程を説明するが、ここでも、図示を簡単にするために片面のみを図示・説明する。
図6参照
まず、上記の実施例1と全く同様に、2.5インチ径の結晶化ガラスからなる透明HD媒体基板11の表面に、厚さが、例えば、5nmのTiからなる密着層12、厚さが、例えば、100nmのパーマロイからなる下地軟磁性層13、厚さが、例えば、5nmのNbからなる酸化停止層14、及び、厚さが、例えば、100nmで純度が99.99%以上の高純度Al膜を順次成膜する。
【0051】
次いで、陽極酸化を行うことによって、高純度Al膜を酸化して60nmのピッチのポアを有するアルマイトポア膜を形成したのち、4%リン酸を用いてポアワイドニングを行うことによって、直径が20nmでアスペクト比が5のポア21を有するアルマイトポア膜20とする。
【0052】
次いで、全面にポジレジスト32をスピンコート法を用いて例えば、500nmの厚さに塗布して貫通欠陥22及びポア21を埋め込む。
【0053】
次いで、図5に示した磁気記録媒体用紫外線露光装置を用いて透明HD媒体基板11の端面から紫外線24を照射して、光反射部材が存在しない貫通欠陥22に充填されたポジレジスト32のみを露光する。
なお、この場合も、基板全面の露光を均一に行うとともに照射部が局所的に加熱されることを防止するために1000rpm程度の速度で回転させながら、200W/cm2 のエネルギー密度の紫外線24を基板端面部で0.5mmφ以下に絞り込み2分間の露光を行う。
【0054】
次いで、通常のポジレジスト用現像液を用いて現像することによって露光部を除去して貫通欠陥22のみを露出させる。
【0055】
図7参照
次いで、スパッタリング法を用いて厚さが、例えば、300nmのAl2 3 膜33を堆積させて、貫通欠陥22をAl2 3 膜33で完全に埋め込む。
【0056】
次いで、通常のポジレジスト用剥離液を用いてポジレジスト32を剥離することによって、ポジレジスト32上に堆積したAl2 3 膜33をリフトオフする。
【0057】
以降は、再び、実施例1と全く同様に、電解メッキ法によってCo膜27を堆積させてポア21をCo埋込層29で埋め込んだのち、CMP法によって表面平坦化処理し、次いで、表面に保護膜30を形成したのち、フッソ樹脂系の潤滑膜31を付着することによってアルマイト垂直磁気記録媒体の基本構成が得られる。
【0058】
このように、本発明の実施例2においては、陽極酸化工程において発生した貫通欠陥22をリフトオフ法を利用して非磁性絶縁体であるAl2 3 膜で充填修復しているので、電解メッキ工程において異常成長が発生することがなく、多少の貫通欠陥22が発生した基板を製品として出荷することが可能になり、製造歩留りが向上する。
【0059】
この場合、上記の実施例1より工程数は増えるものの、光硬化性樹脂より化学的により安定で機械的強度の大きなAl2 3 等の非磁性絶縁体で貫通欠陥を充填修復することが可能になり、材料選択の自由度が高まる。
【実施例3】
【0060】
次に、図8を参照して、本発明の実施例3のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明するが、工程自体は紫外線露光工程を除いて上記実施例1或いは実施例2と全く同様であるので、磁気記録媒体用露光装置及び露光工程を説明する。
【0061】
図8参照
図8は、本発明の実施例3に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図であり、複数の透明HD媒体基板11を保持するとともに、内部に紫外線ランプ52を収容する透明管51、透明管51を支持するスタンド53、透明管51の先端部を覆う遮光性キャップ54、互いに対向する透明HD媒体基板11の間に設けられる遮光性吸光板55、透明HD媒体基板11及び遮光板55を交互に保持・遮光する遮光性Oリング56とによって構成される。
【0062】
この場合には、紫外線は透明HD媒体基板11の内部から円周方向に照射されるので、透明HD媒体基板11を回転する必要がなく、また、透明HD媒体基板11に貫通欠陥がある場合、貫通欠陥から外部に逃げ出した紫外線は遮光性吸光板55で吸収されて隣接する透明HD媒体基板11を露光することはない。
【0063】
この実施例3においては、透明HD媒体基板11の回転機構が不要になるので、磁気記録媒体用露光装置の機械的構成が簡素化され、また、複数枚の透明HD媒体基板11をバッチ式に露光することができるので、製造コストを低減することが可能になる。
【実施例4】
【0064】
次に、図9を参照して、本発明の実施例4のアルマイト垂直磁気記録媒体の製造方法を説明するが、工程自体は紫外線露光工程を除いて上記実施例1或いは実施例2と全く同様であるので、磁気記録媒体用露光装置及び露光工程を説明する。
【0065】
図9参照
図9は、本発明の実施例4に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図であり、複数の透明HD媒体基板11をスリットで保持する基板カセット61、透明HD媒体基板11の一端部と接して透明HD媒体基板11に回転を与えるローラ62、透明HD媒体基板11の他端部に紫外線を照射する紫外線ランプ63によって構成される。
【0066】
この場合には、互いに対向する透明HD媒体基板11の間に入り込んだ紫外線による不所望な露光を防止するために、予め透明HD媒体基板11に塗布したら光硬化性樹脂或いはポジレジストの表面に黒色パラフィン等からなる遮光膜34を塗布する。
【0067】
この実施例4においては、半導体ウェハ用の基板カセットを設計変更して転用することが可能になるので、磁気記録媒体用露光装置の開発コストを低減することが可能になり、ひいては、アルマイト垂直磁気記録媒体の低コスト化が可能になる。
【0068】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載した条件・構成に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、各実施例においては2.5インチ磁気ディスクを例に説明しているが、2.5インチに限られるものではなく、3.5インチ、1.8インチ、1インチ等の各種のサイズの磁気ディスクに適用されることは言うまでもない。
【0069】
また、上記の各実施例においては、透明HD媒体基板として結晶化ガラスを用いているが、結晶化ガラスに限られるものではなく、サファイア等の透明で硬質な材料であれば良いものである。
【0070】
また、上記の各実施例においては、密着層としてTiを用いているが、Tiに限られるものではなく、Ta或いはNb等を用いても良いものである。
【0071】
また、上記の各実施例においては、下地軟磁性層としてパーマロイを用いているが、パーマロイに限られるものではなく、他の公知の軟磁性体を用いても良いものである。
【0072】
また、上記の各実施例においては、酸化停止層としてNbを用いているが、Nbに限られるものではなく、Ti或いはTa等を用いても良いものである。
【0073】
また、上記の各実施例においては、埋込強磁性体としてCoを用いているが、Coに限られるものではなく、CoFe、CoFeB、FePt、CoPt、CoFePt等の強磁性体を用いても良いものである。
【0074】
また、上記の各実施例においては、両面タイプの磁気ディスクを前提にしているため、紫外線を基板の端面から照射しているが、片面タイプの磁気ディスクの場合には背面から紫外線を照射しても良いものである。
【0075】
また、上記の実施例2においては、貫通欠陥をAl2 3 膜で充填修復しているが、Al2 3 に限られるものではなく、SiO2 或いはSiN等のAl2 3 と同様に化学的に安定で且つ機械的強度の大きな材料を用いても良いものである。
【0076】
また、上記の実施例3においては、基板を遮光・保持するためにOリングを用いているがOリングに限られるものではなく、角リング等の他のリング状部材を用いても良いものである。
【0077】
また、上記の実施例3においては、互いの対向する基板の表面からの露光を防止するために遮光性吸光板を用いているが、光硬化性樹脂やポジレジストを厚く塗布した場合、或いは、実施例4のように光硬化性樹脂やポジレジスト上に遮光膜を設けた場合には遮光性吸光板は必要としないものである。
【0078】
また、上記の各実施例においては、陽極酸化工程においてハニカム型の六方最密格子状に自己組織化的に発生するため工程は簡単に説明しているが、ポアをより再現性良く自己組織化するためには、2段階陽極酸化法或いはインプリント法を用いれば良い。
【0079】
例えば、2段階陽極酸化法においては、Al膜を厚く成膜しておき、まず、第1の陽極酸化工程でランダムにポアを発生させ、このポアは底部ではハニカム型の六方最密格子状に自然に収斂していくので、表面部を除去し、この状態で第2の陽極酸化を行うことによってハニカム型の六方最密格子状に自己組織化されたポアがさらに深くエッチングされることになる。
【0080】
また、インプリント法の場合には、Al膜の表面にハニカム型の六方最密格子状の凹部を予めフォトリソグラフィー工程を用いて形成しておき、この状態で陽極酸化することによってこの凹部が深くエッチングされることになる。
【0081】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 記録層4を構成する基材5に発生した構造欠陥7を非磁性絶縁性材料8で充填修復したことを特徴とする磁気記録媒体。
(付記2) 記録層4が、アルマイトからなる基材5とアルマイトに形成された孔を充填する強磁性材料6からなることを特徴とする付記1記載の磁気記録媒体。
(付記3) 上記非磁性絶縁性材料8が、光硬化性樹脂、Al2 3 、SiO2 、或いは、SiNのいずれかであることを特徴とする付記1または2に記載の磁気記録媒体。
(付記4) 構造欠陥7が発生した記録層4を構成する基材5上に光硬化性樹脂を塗布する工程、前記基材5を支持する基板1の表面とは異なる方向から露光して前記構造欠陥7の内部の光硬化性樹脂のみを選択的に硬化させる工程、未硬化の樹脂を除去する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(付記5) 構造欠陥7が発生した記録層4を構成する基材5上にポジ型レジストを塗布する工程、前記基材5を支持する基板1の表面とは異なる方向から露光して前記構造欠陥7の内部のポジ型レジストのみを選択的に露光する工程、前記ポジ型レジストを現像して前記構造欠陥部のみを選択的に露出させる工程、非磁性絶縁性材料8からなる充填材料を前記ポジ型レジスト上から成膜する工程、リフトオフにより前記構造欠陥部にのみ前記充填材料剤を残存させる工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(付記6) 上記基材5が多孔質アルマイトであることを特徴とする付記4または5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記7) 上記基板1の表面とは異なる方向から露光する工程が、前記基板1の表面には露光光を当てずに基板1側面から露光する工程であることを特徴とする付記4乃至6のいずれか1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記8) 記録層4を構成する基材5を支持する基板1を回転させる基板回転機構、前記基板1の端部の一部を露出するとともにそれ以外の端面及び表裏面を覆う光遮蔽機構、及び、前記基板1の露出部において基板1の端部から紫外線を照射する紫外線照射手段を少なくとも備えたことを特徴とする磁気記録媒体用露光装置。
(付記9) 記録層4を構成する基材5を支持する基板1を遮光部材を介して複数枚積層保持する保持機構、前記基板1の中心部に設けられた貫通孔に挿入された紫外線照射手段、前記紫外線照射手段の前記貫通孔以外の部分における露出部を覆う遮光部材を少なくとも備えたことを特徴とする磁気記録媒体用露光装置。
(付記10) 上記遮光性シール材が、上記基板1の主面間を全面に渡って遮光する遮光性シート部材と、前記基板1の中心部に配置されたリング状シール部材からなることを特徴とする付記9記載の磁気記録媒体用露光装置。
(付記11) 記録層4を構成する基材5を支持する基板1を遮光部材を介して複数枚隔離保持するカセット機構、前記カセット機構における基板1の一端部の接触して基板1に回転を与える回転機構、前記回転機構に対して基板1を挟んで反対側に配置されるとともに前記基板1の他端部に紫外線を照射する紫外線照射手段を少なくとも備えたことを特徴とする磁気記録媒体用露光装置。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の活用例としては、アルマイト垂直磁気記録媒体の欠陥修復法が典型的なものであるが、アルマイト垂直磁気記録媒体に限られるものではなく、同じようにエッチング処理を用いてパターニングを行うその他のパターンドメディアの欠陥修復法としても適用されることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図である。
【図3】本発明の実施例1のアルマイト垂直磁気記録媒体の途中までの製造工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1のアルマイト垂直磁気記録媒体の図3以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例1のアルマイト垂直磁気記録媒体の図4以降の製造工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例2のアルマイト垂直磁気記録媒体の途中までの製造工程の説明図である。
【図7】本発明の実施例2のアルマイト垂直磁気記録媒体の図6以降の製造工程の説明図である。
【図8】本発明の実施例3に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例4に用いる磁気記録媒体用露光装置の概念的構成図である。
【図10】従来のアルマイト垂直磁気記録媒体の途中までの製造工程の説明図である。
【図11】アルマイトポア膜の概略的平面図である。
【図12】従来のアルマイト垂直磁気記録媒体の図10以降の製造工程の説明図である。
【図13】貫通欠陥が発生した場合の問題点の説明図である。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 下地軟磁性層
3 酸化停止層
4 記録層
5 基材
6 強磁性材料
7 構造欠陥
8 非磁性絶縁性材料
11 透明HD媒体基板
12 密着層
13 下地軟磁性層
14 酸化停止層
15 高純度Al膜
16 希硫酸浴
17 対向電極
18 アルマイトポア膜
19 ポア
20 アルマイトポア膜
21 ポア
22 貫通欠陥
23 光硬化性樹脂
24 紫外線
25 硬化樹脂
26 Coメッキ浴
27 対向電極
28 Coメッキ膜
29 Co埋込層
30 保護膜
31 潤滑膜
32 ポジレジスト
33 Al2 3
34 遮光膜
41 スピンスタンド
42 回転軸
43 光遮蔽筐体
44 遮光性底皿部材
45 遮光性上皿部材
46 紫外線レーザ
51 透明管
52 紫外線ランプ
53 スタンド
54 遮光性キャップ
55 遮光性吸光板
56 遮光性Oリング
61 基板カセット
62 ローラ
63 紫外線ランプ
71 基板
72 密着層
73 下地軟磁性層
74 酸化停止層
75 Al膜
76 アルマイトポア膜
77 ポア
78 強磁性体
79 保護膜
80 潤滑膜
81 貫通欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録層を構成する基材に発生した構造欠陥を非磁性絶縁性材料で充填修復したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
記録層が、アルマイトからなる基材とアルマイトに形成された孔を充填する強磁性材料からなることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
構造欠陥が発生した記録層を構成する基材上に光硬化性樹脂を塗布する工程、前記基材を支持する基板の表面とは異なる方向から露光して前記構造欠陥の内部の光硬化性樹脂のみを選択的に硬化させる工程、未硬化の樹脂を除去する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
構造欠陥が発生した記録層を構成する基材上にポジ型レジストを塗布する工程、前記基材を支持する基板の表面とは異なる方向から露光して前記構造欠陥の内部のポジ型レジストのみを選択的に露光する工程、前記ポジ型レジストを現像して前記構造欠陥部のみを選択的に露出させる工程、非磁性絶縁性材料からなる充填材料を前記ポジ型レジスト上から成膜する工程、リフトオフにより前記構造欠陥部にのみ前記充填材料剤を残存させる工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
上記基板の表面とは異なる方向から露光する工程が、前記基板の表面には露光光を当てずに基板側面から露光する工程であることを特徴とする請求項3または4に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−190414(P2006−190414A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2562(P2005−2562)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】