説明

磁気記録媒体用基板およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体

【課題】本発明の目的は、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成することができる、磁気記録媒体用基板を提供することである。
【解決手段】円板状の非磁性体からなり、表面に、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を有し、上記連続的な変化の態様が少なくとも4種類存在し、それぞれの変化の態様によって得られた各テクスチャ痕自身によりクロスアングルが形成されていることにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータの外部記憶装置を始めとする各種磁気記録装置に搭載される、磁気記録媒体用基板に関する。より詳しくは、本発明の磁気記録媒体用基板は、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成できる、磁気記録媒体用基板に関する。本発明は、この基板の製造方法、およびこの基板を使用した磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の代表例としては、ガラス系基材を用いたガラス磁気記録媒体と、アルミニウム系基材を用いたアルミニウム磁気記録媒体とが挙げられる。これらの磁気記録媒体は、いずれも、特定の基板上に、磁性層および保護層等を積層して形成される。
【0003】
このように磁気記録媒体には基板が必要であり、基板表面には、通常、凹凸形状のテクスチャパターンが形成されている。
【0004】
特許文献1には、テクスチャパターンの形成例として、テクスチャパターンが、同心円状の円形テクスチャ成分と、この円形テクスチャ成分と交差する交差テクスチャ成分とにより構成されている、磁気記録媒体用基板が開示されている。
【0005】
テクスチャパターンの一般的な形成は、スピンドルに基板を固定して回転させ、基板表面にダイヤモンド等の砥粒を含む研磨スラリーを滴下しながら、ゴムローラ等によって織布または不織布からなる加工布を基板に押し付けて行う。
【0006】
特許文献1には、テクスチャパターン形成の一例として、テクスチャテープを基板の径方向に往復運動させるオシレーション動作によって交差テクスチャ成分(非周方向テクスチャ成分)を形成する工程と、テクスチャテープのオシレーション動作を固定して円形テクスチャ成分(周方向テクスチャ成分)を形成する工程とを行う例が開示されている。
【0007】
テクスチャパターンは、特許文献1に開示されているように、非周方向テクスチャ成分の形成工程と周方向テクスチャ成分の形成工程とを、別個の工程として行う手段により得ることもできるが、オシレーション動作を行いながらスピンドルを回転させて、これらの工程を一挙に行う手段により得ることもできる。
【0008】
上記いずれの形成手段においても、オシレーション振幅、およびオシレーション速度または基板の回転速度の各パラメータを適宜制御することによって、所望の形成手段が実現される。従来、これらの形成手段により、オシレーション振幅等の上記各制御パラメータは一定に制御されていたところ、このような場合には、基板上に一定の軌跡からなる1つのテクスチャ痕が形成される。当該テクスチャ痕は、それ自身によって多数の交差点を有し、結果的に、多数の交差角を形成することとなる。通常、これら多数の交差角のうち、最大角度をクロスアングルと称する。
【0009】
【特許文献1】特開平4−349218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、磁気記録媒体の高記録密度化が進むにつれて、磁気記録媒体に書き込まれるデータの最小単位である1ビットの記録媒体に占める面積は、益々小さくなってきている。このような高記録密度化に対応する1つの方策としては、記録ヘッドで読み書きを行う際の電磁変換特性を良好にすることが挙げられる。電磁変換特性の向上には、磁性層の磁化容易軸を記録方向である周方向に配向させ、周方向の残留磁化と径方向の残留磁化との比(以下、「Mrt−OR」とも称する)を高めることが有効である。また、高記録密度化に対応する別の方策としては、記録ヘッドの低浮上量化による磁気ヘッドと磁気記録媒体間のスペーシングロスを減らすことが挙げられるが、低浮上量化には浮上特性(浮上安定性)を良好にすることが必要である。この浮上特性の向上には、記録ヘッドとの接触面積を小さくすることが有効である。
【0011】
このように、電磁変換特性に着目した場合には、テクスチャ痕の延在方向を、できるだけ記録方向である周方向に配向させること、即ち、上記クロスアングルを小さくすることが肝要である。しかしながら、記録ヘッドの浮上特性に着目した場合には、記録ヘッドとの接触面積を小さくするために、上記クロスアングルを大きくすることが肝要である。よって、これらのクロスアングルに対して相反する両特性を双方共に高いレベルで実現可能な磁気記録媒体を形成できる、磁気記録媒体用基板の開発が望まれている。
【0012】
従って、本発明の目的は、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成することができる、磁気記録媒体用基板を提供することである。また、本発明の目的は、この基板の製造方法およびこの基板を使用した磁気記録媒体をそれぞれ提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、円板状の非磁性体からなり、表面に、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を有し、上記連続的な変化の態様が少なくとも4種類存在し、それぞれの変化の態様によって得られた各テクスチャ痕自身によりクロスアングルが形成されていることにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルが形成されている磁気記録媒体用基板に関する。本発明の磁気記録媒体用基板は、各種磁気記録装置に搭載可能な磁気記録媒体の形成に適用することができる。本発明の磁気記録媒体用基板は、上記少なくとも4種類のクロスアングルのうち、最大クロスアングルが1°以上であることが望ましい。
【0014】
本発明は、基板表面に加工布を押し付けた状態で基板を回転させるとともに、上記加工布を上記基板の径方向に往復運動させて、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を形成するにあたり、上記基板の回転速度および上記加工布の往復運動の速度の少なくとも一方を4種類以上に変化させ、それぞれの(回転)速度によって得られる各テクスチャ痕自身によりクロスアングルを形成することにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルを形成する磁気記録媒体用基板の製造方法に関する。
【0015】
本発明は、上記磁気記録媒体用基板上に、少なくとも磁性層が積層されてなる磁気記録媒体を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気記録媒体用基板は、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立できる磁気記録媒体の形成に適用することができる。このため、当該基板を用いた磁気記録媒体は、近年の高記録密度化の要請に十分に対応可能ものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。なお、以下に示す例は、単なる例示であって、当業者の通常の創作能力の範囲で適宜設計変更することができる。
【0018】
(磁気記録媒体用基板)
図1は本発明の磁気記録媒体用基板10を示す平面図であり、図1(a)はその全体図、図1(b)は図1(a)の領域12のテクスチャパターンの拡大図である。また、図2は、図1(b)のA−A’線断面模式図である。
【0019】
図1,2に示す磁気記録媒体用基板は、円板状であり、従来の磁気記録媒体用基板と同様に、アルミニウム製の基体14の表面にNi−Pのメッキ16が施されている。この基板には、図1(b)に示すように、周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が4種類形成されている。また、基材にガラス基板を用いた場合は、ガラス表面に直接周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が4種類形成されている。
【0020】
ここで、テクスチャ痕について詳述する。
即ち、本発明においてテクスチャ痕とは、磁気記録媒体用基板上に形成される凹凸模様全体を示すテクスチャパターンを構成する要素であって、その軌跡が周方向および径方向において連続的に変化する溝状の痕をいう。 図3(a)は、点Aから点A12まで連続的に延在するテクスチャ痕の軌跡を示す基板の平面図であり、基板4回転につきテクスチャ痕の径方向での往復運動が3回行われる例である。これに対し、図3(b)は、点Bから点Bまで連続的に延在するテクスチャ痕の軌跡を示す基板の平面図であり、基板2回転につきテクスチャ痕の径方向での往復運動が1回行われる例である。なお、これらの例は、その変化の度合いが一定である例である。
【0021】
図3(a)、(b)の各軌跡は、上記のとおり、周方向成分および径方向成分が一定の度合いで連続的に変化するテクスチャ痕の一例であり、本発明の磁気記録媒体用基板には、図3(a)、(b)に示すような、任意の形状のテクスチャ痕が少なくとも4種類形成されている(図1(b))。ただし、各テクスチャ痕において、図3(a)、(b)に示すように、それ自身による交差点が生じており、これにより交差角が形成されていることが条件である。
【0022】
上述したとおり、クロスアングルとは、このような交差角を意味するが、1つのテクスチャ痕により複数の交差角が生じている場合には、それらの交差角のうち、最大角度を意味する。例えば、図3(a)に示す例では、交差角はα、α、およびαの3種類が存在するが、この場合のクロスアングルはαである。これに対し、図3(b)に示す例では、交差角はβのみの1種類であるため、クロスアングルはβである。本発明の磁気記録媒体用基板では、このように、α、βのようなクロスアングルが少なくとも4種類存在する。
【0023】
図4は、図3(a)、(b)の軌跡を重ね合わせた2種類のテクスチャ痕が形成された例であるが、このように、複数のテクスチャ痕が形成された場合には、異なる種類のテクスチャ痕同士により生じた交差点上においても交差角、例えば図4の符号γが生じる。しかしながら、本発明においては、異なる種類のテクスチャ痕同士により生じた交差点上の交差角は各テクスチャ痕自身により生じた最大交差角であるクロスアングルより小さくなるため、このような交差角には着目せず、上記のように、各変化態様(図3(a),(b))における各テクスチャ痕自身により生じた最大交差角であるクロスアングルのみを問題とする。
【0024】
以下に、本発明の特徴的な発明特定事項である、「クロスアングルが少なくとも4種類存在する」の限定理由を説明する。
上述のように、従来、磁気記録媒体の高記録密度化の要請に対し、電磁変換特性の向上と記録ヘッドの低浮上量化とが着目されてきたが、電磁変換特性の向上にはクロスアングルを小さくする必要があるのに対し、記録ヘッドの低浮上量化にはクロスアングルを大きくする必要がある、といった矛盾があった。
【0025】
即ち、基板上のテクスチャ痕の周方向成分および径方向成分の連続的な変化態様を1種類、換言すればクロスアングルを1種類とした場合には、クロスアングルを0°から徐々に大きくすると、図5(a)、(b)に示すように、電磁変換特性は徐々に低下するが、低い回転数でも記録ヘッドが浮上することから、浮上特性は向上する。
【0026】
そこで、本発明者は、これらの2つの要素「電磁変換特性の向上」と「記録ヘッドの浮上性向上」とを、クロスアングルの制御のみによっては高レベルで両立できないと判断し、上記2つの特性の両立を図ることについて、他の要素をも含めて、鋭意、検討を重ねた。
その結果、特に、上記のように磁気記録媒体用基板に形成するテクスチャ痕の種類の数を変化させ、それを4種類以上にすると、上記2つの特性が高いレベルで両立できるとの知見を得た。
【0027】
この結果については、特に理論に拘束されるつもりはなく、現時点では、その根拠は不明であり、判明している事実は以下のとおりである。
【0028】
即ち、電磁変換特性の向上と、記録ヘッドの浮上安定化とを高いレベルで両立するため、本発明者は、パラメータとして、基板の表面粗さ(Ra)、基板上に形成されるテクスチャ痕によるクロスアングルの範囲、およびクロスアングルの種類に着目した。
【0029】
その結果、基板の表面粗さ(Ra)については、Glide height test(突起試験)で基板に記録ヘッドを接触し難くするには小さい方が好ましく、記録ヘッドの低浮上量化にも小さい方が好ましいことが判明した。具体的には、表面粗さRaは、0.5nm以下であることが好ましい。
【0030】
また、上述のとおり、クロスアングルの範囲については、電磁変換特性の向上のためにMrt−ORを高めるには小さい方が好ましく、記録ヘッドの浮上安定化を図る際に、記録ヘッドとの接触面積を小さくするには、大きい方が好ましいことが判明していた。
【0031】
さらに、クロスアングルの種類については、電磁変換特性の向上のためにMrt−ORを高めることと、記録ヘッドの浮上安定化を図るために記録ヘッドとの接触面積を小さくすることを両立させるには、各々の特性に要求されるテクスチャ痕を複合させてバランスを取るために、ある程度の種類が必要であることが判明した。
【0032】
そこで、表面粗さ(Ra)を上記範囲を満たすような比較的小さい値とすることを前提に、電磁変換特性向上と記録ヘッドの浮上安定化とを高いレベルで実現可能なクロスアングルの範囲および種類について、詳細に検討したところ、特に、基板に4種類以上のクロスアングルを有するテクスチャ痕を形成した場合に、上記双方の特性が両立可能であることが判明した。
【0033】
さらに、上記のような条件を満たすこと、即ち、4種類以上のクロスアングルの存在下では、クロスアングルの範囲について、最大クロスアングルを1°以上とした場合には、浮上安定性向上への寄与率が大きいという理由により、上記双方の特性をさらに高いレベルで両立可能であることが判明した。最大クロスアングルが1°未満の場合は電磁変換特性の劣化はないが、浮上特性の改善も見られない。
本発明の磁気記録媒体用基板は、以上のような見地により得られたものである。
【0034】
(磁気記録媒体の製造方法)
図6(a)は、本発明の磁気記録媒体を製造するための装置20を示す側面図であり、図6(b)は、図6(a)のB−B’線断面図である。同図に示すように、磁気記録媒体用基板10は、回転スピンドル24に取り付けられており、この基板10を挟み込むように、基板10の両面にゴムローラ26が配置されている。ゴムローラ26には、織布または不織布からなる加工布(テクスチャテープ)28が巻き付けられており、テープ28が基板10の表面に連続的に押し付けられる。
【0035】
テクスチャ痕の形成に際しては、ノズル30よりダイヤモンド砥粒を含む研磨液32を放出しつつ、回転スピンドル24を回転させる。ゴムローラ26は基板10の径方向Xに往復運動することでオシレーション動作を実現することができる。
【0036】
図6に示す装置を用いて本発明の磁気記録媒体用基板を製造する場合には、基板10の表面にテクスチャテープ28を接触させた状態で、テープを径方向Xに駆動させながら、基板10を回転させる。本発明における製造方法では、この際、テープ28の径方向Xでの駆動速度または基板10の回転速度の少なくとも一方を4種類以上に変化させ、結果的に基板1回転についてのテープの径方向Xでの駆動回数を4種類以上に変化させる。このような変化態様は、連続工程により行うことができることは勿論、別工程として行うこともできる。なお、基板10とテクスチャテープ28との接触時の押し付け圧力は、テクスチャによる加工量、加工後表面粗さ等のバランスにより決定する必要があるが、0.5kgf/cm〜4kgf/cmの範囲とすることが好ましい。これにより、上述した、少なくとも4種類のテクスチャパターンを形成することができる。
【0037】
上記テクスチャパターンの形成においては、例えば、テクスチャテープ28の径方向Xでの駆動速度を一定に固定(例えば2.5Hz)し、振幅を2mmとした場合、基板10の回転速度を50rpm〜1000rpmの間の4種類(例えば100rpm、160rpm、450rpm、および600rpm)とすることで、所望の電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成することができる。
【0038】
また、上記当該形成においては、例えば、基板10の回転速度を一定に固定(例えば300rpm)した場合、テクスチャテープ28の径方向Xでの振幅を2mmとし、駆動速度を〜0Hz〜15Hzの間の4種類(例えば0Hz、1.1Hz、4.7Hz、および7.1Hz)とすることで、所望の電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成することができる。
【0039】
(磁気記録媒体)
図7は、本発明の磁気記録媒体40を示す断面図である。同図に示す磁気記録媒体は、基板42上に、下地層44、磁気記録層46、保護層48および液体潤滑層50を順次備える。
【0040】
基板42は、上述した本発明の少なくとも4種類のテクスチャ痕からなるテクスチャパターンが形成されたものであり、その材料は特に限定されるものではない。例えば、アルミニウム合金、強化ガラス、結晶化ガラス、セラミック、シリコン、ポリカーボネート、高分子樹脂などの材料を用い、これらの材料の表面に無電解メッキ法でNi−P膜からなる非磁性金属膜を形成したもの、またはガラス基板そのものなどを用いることができる。また、基板には、当該技術分野で汎用されている、0.85インチ、1.0インチ、1.89インチ、2.5インチ、3.5インチおよび5インチの、いずれの大きさのディスクを使用することもできる。
【0041】
下地層44は、特に限定されず、本技術分野で通常使用されるいかなる組成物を用いることもできる。具体的には、Cr、Cr-W、Cr-V、Cr-Mo、Cr-Si、Ni-Al、Co-Cr、Mo、W、Ptの少なくとも1種を含む組成物等を使用することができる。基板への下地層の積層は、上記各非磁性材料をスパッタリング法、めっき法などの公知の成膜法に従い成膜することによって形成することが可能である。
基板42がガラス基板そのものである場合には、磁気記録層46の配向性(Mrt−OR)を高めるために、ガラス基板上(下地層44の下)にシード層をスパッタリング法などにより成膜することが好ましい。このシード層の材料としては、Ni、P、Ta、W、Co、Ru、Al等の合金が用いられる。
【0042】
磁気記録層46は、記録層として使用できる強磁性金属を含み、具体的には、CoCrTaPt、CoCrTaPt−Cr、CoCrTaPt−SiO、CoCrTaPt−ZrO、CoCrTaPt−TiO、CoCrTaPt−Alなどを成分とする磁性材料を使用し、それらをスパッタ法などの成膜方法に従い、下地層に対して成膜することよって形成することが可能である。なお、磁気記録層を複数層用いて、多層構造の記録層とすることもできる。なお、上記下地層は必須ではなく、下地層がない場合には、磁気記録層を直接基板にスパッタ法などにより積層してもよい。
【0043】
保護層48は、磁気ヘッドの衝撃から磁気記録層を保護するとともに、外界の腐食性物質との接触から磁気記録層を保護する機能を有する。保護層は、SiOまたはカーボンからなる薄膜から形成することが可能であるが、膜が緻密であり、耐摩耗性も高いため、特にカーボンからなる薄膜を保護層とすることが好ましい。カーボン膜の例としては、水素添加アモルファスカーボンまたは窒素添加アモルファスカーボンなどが挙げられる。カーボン膜の形成には、CVD法(例えば、エチレンガスを用いたイオンビーム方式のCVD法)、またはスパッタ法(例えば、グラファイトをターゲットとする、アルゴンガス+窒素ガスによるDCマグネトロン式のスパッタ法)を適用することが可能である。
【0044】
液体潤滑層50は、溶剤によって液体潤滑剤を希釈した溶液を保護層上にディッピング法等により塗布することによって形成される。本発明において使用可能な液体潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系液体潤滑剤が挙げられる。例えば、ソルベイ社製のFomblin−Z−DOL、AM3001、およびZ−Tetraol(いずれも商品名)などの、磁気記録媒体用の潤滑剤として通常使用されるものが含まれる。このような液体潤滑剤を希釈するための溶剤は、潤滑剤と相溶性であり、均一な溶液を形成するものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、HFE7200(商品名、住友3M社)、バートレル(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)などのフルオロカーボン系溶剤が挙げられる。
【0045】
以上のようにして得られた、本発明の磁気記録媒体は、その基板に、4種類以上のクロスアングルが形成されているため、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明し、本発明の効果を実証する。
(実施例1)
ポリッシュ加工により表面粗さを0.2nmに調整したアモルファスガラス基板を用意した。この基板を図6に示す装置に取り付け、基板の表面にポリエステルおよびウレタンからなる不織布を、ゴム硬度60°の押し付け部材を介して、押し付け圧力1kgf/cmで押し付け、不織布を20mm/分の速度で送りつつ2mm幅の振幅でオシレーション動作を行い、基板を300rpmで回転させ、20秒間の研磨を行った。この際、平均粒子径0.1μmのダイヤモンド砥粒を含んだスラリーを滴下した。
【0047】
ここで、オシレーション動作は、加工時間20秒間に5秒間ずつオシレーション速度を変更して(0Hz、1.1Hz、4.7Hz、および7.1Hz)行った。即ち、テクスチャ痕の周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が4種類存在する、磁気記録媒体用基板を作製した。この際、4種類のテクスチャ痕における、各クロスアングルは、0°、1.73°、7.51°および11.6°であった。
【0048】
その後、得られた基板を洗浄し、スパッタ装置を用いて、シード層、下地層、磁性層および炭素からなる保護層を成膜し、さらに液体潤滑剤を塗布して、磁気記録媒体を作製した。
【0049】
このような磁気記録媒体に対して、電磁変換特性の指標としての信号対ノイズ比(SNR)と、浮上安定性の指標としての記録ヘッドの浮上時における媒体の回転数を測定した。SNRはある周波数で信号を書いて磁気ヘッドで読んだ時の出力(信号)と、信号を消した状態での出力(ノイズ)との比であり、記録ヘッドの浮上時回転数は、磁気ヘッドが充分浮上する回転数で磁気記録媒体を回転させ、そこに磁気ヘッドをロードし、回転数を徐々に下げて磁気ヘッドが墜落(浮上しなくなる)する状態での回転数である。磁気ヘッドの浮上状態は、磁気ヘッドもしくは磁気ヘッドが取り付けられたアームにAEセンサー等を取り付け、その信号出力により判断する(磁気ヘッドが浮上している状態では、センサーからの出力はなく、磁気ヘッドが墜落すると、その振動によりセンサーから出力が出る)。
【0050】
(実施例2)
加工時間20秒間に約3.3秒間ずつオシレーション速度を変更して(0Hz、0,52Hz、1.1Hz、2.35Hz、4.7Hz、および7.1Hz)、オシレーション動作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、磁気記録媒体用基板を作製した。これにより、テクスチャ痕の周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が6種類存在する、磁気記録媒体用基板が得られた。この際、6種類のテクスチャ痕における、各クロスアングルは、0°、0.83°、1.73°、3.75°、7.51°および11,6°であった。この基板を用い、実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製し、SNRと記録ヘッドの浮上時回転数を測定した。
【0051】
(比較例1)
加工時間20秒間全てにわたり単一のオシレーション速度(0Hz)を用い、オシレーション動作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、磁気記録媒体用基板を作製した。これにより、テクスチャ痕の周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が1種類存在する、磁気記録媒体用基板が得られた。この際、1種類のテクスチャ痕における、クロスアングルは、0°であった。この基板を用い、実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製し、SNRと記録ヘッドの浮上時回転数を測定した。
【0052】
(比較例2)
加工時間20秒間全てにわたり単一のオシレーション速度(7.1Hz)を用い、オシレーション動作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、磁気記録媒体用基板を作製した。これにより、テクスチャ痕の周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が1種類存在する、磁気記録媒体用基板が得られた。この際、1種類のテクスチャ痕における、クロスアングルは、11.6°であった。この基板を用い、実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製し、SNRと記録ヘッドの浮上時回転数を測定した。
【0053】
(比較例3)
加工時間20秒間に約10秒間ずつオシレーション速度を変更して(0Hzおよび7.1Hz)、オシレーション動作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、磁気記録媒体用基板を作製した。これにより、テクスチャ痕の周方向成分および径方向成分が連続的に変化するテクスチャ痕が2種類存在する、磁気記録媒体用基板が得られた。この際、2種類のテクスチャ痕における、クロスアングルは、0°および11.6°であった。この基板を用い、実施例1と同様の方法で磁気記録媒体を作製し、SNRと記録ヘッドの浮上時回転数を測定した
【0054】
以上のような、実施例1,2および比較例1〜3の、SNRと記録ヘッドの浮上時回転数の測定結果を図8に示す。本発明の範囲内(クロスアングルが少なくとも4種類存在する場合)である実施例1,2については、電磁変換特性が高く、しかも、低浮上量化を安定して実現できることが判る。このため、これらの例では、高記録密度化が高いレベルで実現される。
【0055】
これに対し、本発明の範囲を逸脱する(クロスアングルが少なくとも4種類未満)である、各比較例においては、電磁変換特性および浮上特性の少なくとも一方が劣り、これらが高いレベルで両立されていないことが判る。具体的には、比較例1(クロスアングル1種類で0°)は、電磁変換特性に優れるものの、浮上特性が劣る。比較例2(クロスアングル1種類で11.6°)は、浮上特性に優れるものの、電磁変換特性が劣る。比較例3(クロスアングル2種類で0°と11.6°)は、電磁変換特性および浮上特性のいずれも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、磁気記録媒体用基板上に、少なくとも4種類のクロスアングルを形成することにより、電磁変換特性と記録ヘッドの浮上特性とを高いレベルで両立可能な磁気記録媒体を形成することができる、磁気記録媒体用基板を提供することができる。よって、本発明は、近年、高記録密度化が高いレベルで要請されている磁気記録媒体の形成に適用可能である点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の磁気記録媒体用基板10を示す平面図であり、(a)はその全体図、図1(b)は(a)の領域12のテクスチャパターンの拡大図である。
【図2】図1(b)のA−A’線断面模式図である。
【図3】(a)、(b)はいずれも、オシレーション速度を一定にした場合のテクスチャ痕の軌跡の例を示す、磁気記録媒体用基板の平面図である。
【図4】図3(a)、(b)の軌跡を重ね合わせた2種類のテクスチャ痕が形成された、磁気記録媒体用基板の平面図である。
【図5】クロスアングルを1種類とした場合の、(a)は電磁変換特性とクロスアングルとの関係を示すグラフであり、(b)は浮上特性とクロスアングルとの関係を示すグラフである。
【図6】(a)は、本発明の磁気記録媒体を製造するための装置20を示す側面図であり、(b)は、(a)のB−B’線断面図である。
【図7】本発明の磁気記録媒体40を示す断面図である。
【図8】クロスアングルの数を変化させた場合の、(a)は電磁変換特性とクロスアングルとの関係を示すグラフであり、(b)は浮上特性とクロスアングルとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 磁気記録媒体用基板
12 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の非磁性体からなり、表面に、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を有する磁気記録媒体用基板において、前記連続的な変化の態様が少なくとも4種類存在し、それぞれの変化の態様によって得られた各テクスチャ痕自身によりクロスアングルが形成されていることにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルが形成されていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
前記少なくとも4種類のクロスアングルのうち、最大クロスアングルが1°以上であることを特徴とする、請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
基板表面に加工布を押し付けた状態で基板を回転させるとともに、前記加工布を前記基板の径方向に往復運動させて、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を形成する磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記基板の回転速度を4種類以上に変化させ、それぞれの回転速度によって得られる各テクスチャ痕自身によりクロスアングルを形成することにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルを形成することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項4】
基板表面に加工布を押し付けた状態で基板を回転させるとともに、前記加工布を前記基板の径方向に往復運動させて、周方向成分および径方向成分が連続的に変化する複数のテクスチャ痕を形成する磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記加工布の往復運動の速度を4種類以上に変化させ、それぞれの速度によって得られる各テクスチャ痕自身によりクロスアングルを形成することにより、全体として基板上に少なくとも4種類のクロスアングルを形成することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも4種類のクロスアングルのうち、最大クロスアングルが1°以上であることを特徴とする、請求項3または4に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の磁気記録媒体用基板上に、少なくとも磁性層が積層されてなることを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−84390(P2008−84390A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261133(P2006−261133)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】