説明

磁気記録媒体用基板の製造装置

【課題】樹脂材料により形成されたハードディスク用の基板において表面精度を確保する。
【解決手段】可動金型と固定金型から構成される成形金型の内部に熱可塑性樹脂を射出し、前記可動金型、前記固定金型の少なくとも一方に装着されたスタンパを用いて磁気記録媒体用基板を製造する磁気記録媒体用基板の製造装置であって、スタンパ31S、32Sの表面粗さRaが1nm以下であり、可動金型31の成形面31Saより固定金型32の成形面32Saの方が離型性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンピュータ等に接続又は搭載される磁気記録装置の磁気記録媒体用基板(以下、単に「基板」という。)の材料として、一般にアルミニウム合金やガラスが用いられてきた。
【0003】
一方で、アルミニウム合金やガラスを用いる場合に必要であった研磨工程を不要とすることやコスト削減を目的として、樹脂材料を射出成形して基板を形成することも各種提案されている。
【0004】
アルミニウム合金やガラスで形成される基板と同様に、樹脂材料で形成される基板も高いレベルの表面精度(平滑性、平坦度等)が要求される。従って、従来より、樹脂材料で形成される基板において高いレベルの表面精度を確保する技術が各種提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、基板(特許文献1では非磁性基板)の一方の面の面粗さを2nm以下、他方の面の面粗さが4nm以上と設定し、基板の表面粗さを規定している。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、成形金型におけるキャビティを画成する部材の少なくとも一部に予め離型剤を成膜しており、成形金型に対する基板の離型性を高め、基板における平坦度を高く維持出来るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−110749号公報
【特許文献2】特開平11−110835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ハードディスクは記録密度の向上のために磁気記録媒体上数十nmの高さを磁気ヘッドが浮上移動するため、低い平坦度(劣悪な表面精度)を有する基板を用いると、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の所定の距離を維持することが出来ず、最悪の場合には磁気ヘッドが浮上せず、実際の読み書きを行うことが出来ない。従って、ハードディスク用の基板はDVD(デジタルバーサタイルディスク)に比較して高いレベルの表面精度が要求される。
【0009】
当該観点において検討すると、特許文献1に記載の技術では基板の粗さが規定されているが、規定された粗さの全範囲においてハードディスク用の基板の性能を十分に確保することが出来ない。
【0010】
また、成形金型は可動金型と固定金型により構成され、射出成形した基板を成形金型から取り外す場合、まず基板を固定金型から離し、その後で可動金型から離すようになっている。特許文献2に記載の技術では、成形金型に対する基板の離型性が考慮されているが、成形金型において射出成形された基板がどこから離れることになるのか考慮されておらず、ハードディスク用の基板における平坦度が十分に確保出来ない可能性がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、樹脂材料により形成されたハードディスク用の基板において表面精度を確保することが出来る磁気記録媒体用基板の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造装置は、
可動金型と固定金型から構成される成形金型の内部に熱可塑性樹脂を射出し、前記可動金型、前記固定金型の少なくとも一方に装着されたスタンパを用いて磁気記録媒体用基板を製造する磁気記録媒体用基板の製造装置であって、
前記スタンパの表面粗さRaが1nm以下であり、
前記可動金型の成形面より前記固定金型の成形面の方が離型性が高いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造装置によれば、樹脂材料により形成されたハードディスク用の基板において表面精度を確保することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】磁気記録装置の概略図である。
【図2】磁気ディスクの基板を製造する射出成形装置の一例を示す図である。
【図3】磁気ディスクの基板を製造する手順を示すフローチャート図である。
【図4】図2に示す成形金型の拡大断面図である。
【図5】図2に示す成形金型の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[磁気記録装置の概要]
図1は、磁気記録装置の概略図である。
【0016】
図1に示すように、コンピュータ等に付設される磁気記録装置1は、主に筐体CAと、磁気ディスク10と、磁気ヘッド12と、ヘッド位置決め機構14と、入出力制御部16と、クランプ部18により構成されている。
【0017】
磁気ディスク(磁気記憶媒体)10は、例えば、厚さ1.27mmであって3.5インチ規格サイズの記録用ディスクである(磁気ディスク10のサイズはこれに限るものでない)。磁気ディスク10は、樹脂材料、例えば、ポリカーボネートで成形された円盤状の基板(磁気記録媒体用基板)と、基板の一対の表層部にそれぞれ記録面として形成される磁性層及び保護層により構成されている。磁気ディスク10の各記録面には、情報が記録されるトラックが同心円上に形成されている。
【0018】
磁気ヘッド12は、磁気ディスク10の記録面に記録された情報を再生するとともに、記録面に情報を記録するものであり、磁気ディスク10の双方の記録面にそれぞれ対向して配設されている。
【0019】
ヘッド位置決め機構14は、磁気ディスク10のトラックに対する磁気ヘッド12の位置決め制御を行う。ヘッド位置決め機構14は、主に磁気ヘッド12を支持する弾性体からなるアーム部材と、アーム部材の基端を所定の角度範囲内で回動させるアクチュエータにより構成されている。
【0020】
入出力制御部16は、ヘッド位置決め機構14の動作制御及び磁気ヘッド12の記録再生制御を行うものである。入出力制御部16は、不図示のインタフェース回路を通じて接続されている制御部からの制御データ群、記録されるべきデータ群等が供給される。
【0021】
クランプ部18は、不図示のスピンドルモータの出力軸に連結され、磁気ディスク10の中央部を支持する。
【0022】
[射出成形装置の概要]
図2は、磁気ディスク10の基板を製造する射出成形装置の一例を示す図である。
【0023】
図2に示す射出成形装置(磁気記録媒体用基板の製造装置)2は、インラインスクリュー式射出成形装置である。射出成形装置2は、射出部20と、成形金型30と、金型駆動部40により構成されている。
【0024】
射出部20は、樹脂の溶融、計量及び射出を行うスクリュー21と、スクリュー21の計量及び射出駆動を行うスクリュー駆動部22と、スクリュー21とスクリュー駆動部22を内部に有する加熱シリンダ23と、加熱シリンダ23を加熱する加熱部24と、スクリュー21に対して樹脂を供給する樹脂供給部25と、射出口26を備えている。
【0025】
成形金型30は、分離可能な2つの部分である可動金型31と固定金型32により構成されており、可動金型31は金型駆動部40により移動することが可能である。
【0026】
可動金型31には可動側スタンパ31Sが装着されてり、固定金型32には固定側スタンパ32Sが装着されている。可動側スタンパ31Sと固定側スタンパ32Sの表面は鏡面となっている(可動側スタンパ31Sと固定側スタンパ32Sは、その表面にパターンを有するものであってもよい)。
【0027】
[磁気ディスクの基板の製造]
次に射出成形装置2を使用した磁気ディスク10の基板を製造する手順について説明する。
【0028】
図3は、磁気ディスク10の基板を製造する手順を示すフローチャート図である。図4は、図2に示す成形金型30の拡大断面図であり、成形金型30を閉じた状態を示す。図5は成形金型30の拡大断面図であり、成形金型30を開けた状態を示す。
【0029】
以下、図3のフローチャート図に従いつつ、適宜、図4、図5を参照して説明する。
【0030】
まず、成形金型30において型締めが行われる(ステップS101)。すなわち、図4に示すように、金型駆動部40(図2参照)により可動金型31が固定金型32の方向に移動し、可動金型31と固定金型32に所定の圧力が加えられる。
【0031】
そして、加熱シリンダ23(図2参照)において予め計量された溶融樹脂が、スプルー部Yとなる部位を介してゲート33からキャビティ34内に充填される。その後、充填された溶融樹脂を冷却硬化させ、磁気ディスク10の基板を成形する(ステップS102)。この冷却硬化の時間中にスクリュー駆動部22(図2参照)が動作し、次の成形に備えた樹脂の溶融と計量を行う。
【0032】
本実施形態における磁気ディスク10の基板に用いられる熱可塑性樹脂は、一般的に光磁気ディスク基板に使用されているポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン系樹脂等である。特に、高耐熱性でありかつ低吸湿性である剛直構造のポリオレフィン系樹脂、例えばノルボルネン系ポリシクロオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
図4に示すように、可動金型31には可動側スタンパ31Sが装着されており、固定金型32には固定側スタンパ32Sが装着されている。従って、キャビティ34内に充填されて成形された基板の両面は鏡面として仕上げられ、両面とも磁気ディスク10の記録面用として使用される。
【0034】
磁気ディスク10の基板が成形された後、図4に示すパンチ35を図4に示す位置から図4の右側に移動させて、スプルー部Yをキャビティ34内の基板X(図5参照。基板Xは磁気ディスク10の基板である)から切断する。更に冷却硬化させた後、金型駆動部40を駆動して可動金型31を移動させ、型開きが行われる(ステップS103)。
【0035】
図5に成形金型30が開いた状態を示すが、パンチ35の切断動作により、基板Xとスプルー部Yとは分離されている。基板Xは固定金型32から離れ、可動側スタンパ31Sに付着して可動金型31とともに移動し、スプルー部Yは固定金型32から離れ、中央金型36に付着して可動金型31とともに移動する。
【0036】
そして、図5に示す状態から、エジェクタ37が図5に示す位置から図5の右側に移動し、基板Xが可動側スタンパ31Sから離れ、基板Xの取り出しが完了する(ステップS104)。なお、スプルー部Yは不図示のキャッチ部により可動金型31から取り除かれる。
【0037】
以上の製造手順に沿って、両面が磁気ディスク10の記録面用として使用される基板Xが製造される。基板Xの製造後、基板Xの両面には磁性層及び保護層により形成され、磁気ディスク10が形成されることになる。
【0038】
磁気記録装置1では磁気ディスク10の上数十nmの高さを磁気ヘッド12が浮上移動するため、磁気ディスク10の記録面において平滑性が必要であり、そのためにも磁気ディスク10に使用される基板Xの両面も平滑性が必要である。そこで、基板Xの両面における平滑性を確保するため、基板Xの両面を成形することとなる可動側スタンパ31Sと固定側スタンパ32Sの表面粗さRa(JIS B 0601)が1nm以下となっている。
【0039】
また、前述したように基板Xを成形する際は、まず基板Xが固定金型32から離れ、その後で基板Xが可動金型31から離れる手順となっており、この手順で適正に基板Xが成形金型30から離れるように、可動金型31の成形面31Saより固定金型32の成形面32Saの方が離型性が高くなっている。その結果、基板Xの平坦度(平坦度とは、基板表面の最も高い部分と最も低い部分との上下方向(表面に垂直な方向)の距離(高低差))を高精度にすることができ、磁気ディスク10用の基板として性能を確保することが出来る。
【0040】
この点について詳しく説明すると、本実施形態において、可動金型31の成形面31Saと固定金型32の成形面32Saにおける離型性は、成形面に付与する離型剤の被膜の厚さを異ならせることにより調整している。
【0041】
成形面31Saと成形面32Saには、同じ離型剤であるオプツールDSX(商品名、ダイキン工業株式会社製)が付与されている。具体的にはオプツールDSXをデムナムソルベント(商品名、ダイキン工業株式会社製)により0.1質量%に希釈し、当該液体に対して成形面31Saと成形面32Saをディッピングした後、デムナムソルベントを用いて成形面31Saと成形面32Saを濯ぎ、成形面31Saと成形面32Saに離型剤皮膜を付与する。当初、成形面31Saと成形面32SaにおいてオプツールDSX被膜の厚さは3nmとなっているが、成形面31Saの離型性を低下させるために、成形面31SaをUVオゾン洗浄し、オプツールDSX被膜の厚さを1.5nmとする。これにより、可動金型31の成形面31Saより固定金型32の成形面32Saの方が離型性が高くなっている。
【0042】
また、離型性の調整として、成形面31Saと成形面32Saに異なる離型剤を付与する方法もある。成形面32Saには前述したようにオプツールDSXをデムナムソルベントにより0.1質量%に希釈し、当該液体に成形面32Saをディッピングした後、デムナムソルベントを用いて濯ぐ。一方、成形面31SaにはノベックEGC1720(商品名、住友スリーエム株式会社製)をノベックHFE7100(商品名、住友スリーエム株式会社製)により0.1質量%に希釈し、当該液体に成形面31Saをディッピングした後、ノベックHFE7100を用いて濯ぐ。オプツールDSXはノベックEGC1720より離型性が高いため、可動金型31の成形面31Saより固定金型32の成形面32Saの方が離型性が高くなる。
【0043】
ちなみに、離型剤被膜の厚さにより離型性を調整する方法では1万回まで、離型剤自体を異ならせることにより離型性を調整する方法では8千回まで、可動金型31の成形面31Saと固定金型32の成形面32Saとの離型性の関係を維持することが出来た。
【0044】
以上説明したように、可動側スタンパ31Sと固定側スタンパ32Sの表面粗さRaを1nm以下とし、可動金型31の成形面31Saより固定金型32の成形面32Saの方が離型性が高いため、樹脂材料により形成された磁気ディスク10用の基板において、表面精度を確保すること出来る。
【0045】
本発明は当該実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。本実施形態では、可動金型31と固定金型32の双方にスタンパを装着しているが、少なくとも何れか一方にスタンパが装着されている形態であれば良い。
【符号の説明】
【0046】
1 磁気記録装置
2 射出成形装置
10 磁気ディスク
12 磁気ヘッド
14 ヘッド位置決め機構
16 入出力制御部
18 クランプ部
21 スクリュー
22 スクリュー駆動部
23 加熱シリンダ
24 加熱部
25 樹脂供給部
26 射出口
30 成形金型
31 可動金型
31S 可動側スタンパ
32 固定金型
32S 固定側スタンパ
33 ゲート
34 キャビティ
35 パンチ
36 中央金型
37 エジェクタ
40 金型駆動部
X 基板
Y スプルー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動金型と固定金型から構成される成形金型の内部に熱可塑性樹脂を射出し、前記可動金型、前記固定金型の少なくとも一方に装着されたスタンパを用いて磁気記録媒体用基板を製造する磁気記録媒体用基板の製造装置であって、
前記スタンパの表面粗さRaが1nm以下であり、
前記可動金型の成形面より前記固定金型の成形面の方が離型性が高いことを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造装置。
【請求項2】
前記可動金型の成形面に形成された離型剤被膜の厚さより前記固定金型の成形面に形成された離型剤被膜の厚さの方が厚いことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板の製造装置。
【請求項3】
前記可動金型の成形面に付与された離型剤と前記固定金型の成形面に付与された離型剤が異なることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板の製造装置。
【請求項4】
ハードディスク用基板を製造することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の磁気記録媒体用基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−23073(P2011−23073A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167605(P2009−167605)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】