説明

磁気記録用磁性粉およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体

【課題】磁気記録のトリレンマを解消するための手段を見出すこと。
【解決手段】Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であることを特徴とする六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉。Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用するガラス結晶化法により前記六方晶フェライト磁性粒子を得ることを特徴とする前記磁気記録用磁性粉の製造方法。非磁性支持体上に前記記載の磁気記録用磁性粉および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶バリウムフェライト磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、高密度記録用磁気記録媒体における磁性体として好適な磁気記録用磁性粉およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、磁気記録用磁性粉を含む磁気記録媒体にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粒子は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。
【0004】
上記の通り優れた特性を有する六方晶フェライト磁性粒子については、近年様々な検討がなされている(例えば特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−232123号公報
【特許文献2】特開平6−77036号公報
【特許文献3】特公平63−53134号公報
【特許文献4】特開2010−282671号公報
【特許文献5】特開平9−115715号公報
【特許文献6】特開2002−334803号公報
【特許文献7】特開昭62−176918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、更なる高密度記録化が進行し、記録密度としては面記録密度として1Gbpsi以上、更には10Gbpsi以上が目標とされている。上記特許文献7に記載されているように磁気記録用磁性粉には微粒子化が指向されてきたが、かかる高密度記録化を実現するためには、ノイズ低減のために六方晶フェライト磁性粒子をより一層微粒子化することが求められる。
しかし六方晶フェライト磁性粒子の粒子サイズを小さくすると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、いわゆる熱揺らぎにより記録の保持性が低下してしまい、磁気エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消失する現象が無視できなくなってくる。この点について説明すると、磁化の熱的安定性に関する指標として「KuV/kT」が知られている。Kuは磁性体の異方性定数、Vは粒子体積(活性化体積)、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。磁気エネルギーKuVを熱エネルギーkTに対して大きくすることで熱揺らぎの影響を抑えることができるが、粒子体積V、即ち磁性体の粒子サイズ、は上記のとおり媒体ノイズを低減するために小さくする必要がある。上記の通り磁気エネルギーはKuとVとの積であるため、Vが小さい領域で磁化エネルギーを高めるためにはKuを大きくすればよいことになるが、Kuと異方性磁界HKはHK=2Ku/Msの関係があり、Kuを大きくするとMsが変わらなければHKも大きくなる。異方性磁界HKは磁化困難軸方向から飽和磁化させるために必要な磁場強度であり、HKが大きいと磁気ヘッドによる磁化の反転が起こりにくくなり記録(情報の書き込み)が困難となって再生出力が低下してしまう。つまり、磁性粒子のKuを高めるほど、情報の書き込みは困難となる。
以上説明したように、高密度記録化、熱的安定性、書き込み容易性の3つの特性を満たすことはきわめて困難であり、これは磁気記録のトリレンマと呼ばれ、今後更なる高密度記録化を進めるうえで大きな課題となっている。上記の通り六方晶フェライト磁性粒子については従来より様々な検討がなされているが、かかる課題を解決し得る六方晶フェライト磁性粒子は依然として見出されていない。
【0007】
そこで本発明の目的は、磁気記録のトリレンマを解消するための手段を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記トリレンマを解消するため、高密度記録化のために活性化体積Vが1200〜1800nm3と微粒子化された六方晶フェライト磁性粒子において熱的安定性と書き込み容易性を両立するための手段を見出すべく鋭意検討を重ねた。その結果、高SNRが得られる微粒子(活性化体積Vとして1200〜1800nm3)の六方晶フェライト磁性粒子のFe置換元素として2価元素のみを所定量使用することで、熱揺らぎによる減磁を抑制することが可能となることが判明した。当該手段によれば、異方性定数Kuの増加によらず熱的安定性を高めることができるため、書き込み容易性を確保しつつ高密度記録化および熱的安定性の確保が可能となる。以下、上記手段について、更に説明する。
純粋なM型六方晶フェライトはAO・6Fe23(AはBa、Sr等)で表され、磁気記録に用いる磁性体は通常Feの一部を他の元素で置換して異方性定数Kuを下げることにより、記録ヘッドでの記録適性(書き込み容易性)を確保している。AO・6Fe23においてFeは3価であり、通常のFeの置換は、2価、4価、5価、6価などの元素を組み合わせて3価となるように行われている。これは価数補償と呼ばれ、上記特許文献1〜3、5に記載の方法では、この価数補償が行われている。
これに対し本発明者らは、上記したように2価元素の単独置換によって熱揺らぎ減磁を抑制できることを見出したが、Feを2価元素のみで置換すると価数補償は考慮されていないことになる。他方、上記特許文献4、6には価数補償が行われていない六方晶フェライト磁性粒子について記載されているが、後述の実施例で示すように2価元素と5価元素で価数補償を行って置換した場合、および特許文献4に記載されているように5価元素で単独置換した場合には同様の効果は得られない。したがって、「2価元素の存在」や「価数補償していないこと」により効果が発現されるのではなく、「所定量の2価元素によるFe単独置換」により初めて、熱揺らぎ減磁の抑制が可能となるのである。この点は、本発明者らが相当数の試行錯誤を重ねた結果、新たに見出した知見である。本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であることを特徴とする六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉。
[2]前記2価元素は、Co、Zn、Ni、およびCuからなる群から選択される2価元素である[1]に記載の磁気記録用磁性粉。
[3]前記2価元素は、Znを含む[2]に記載の磁気記録用磁性粉。
[4]前記2価元素は、Znからなる[3]に記載の磁気記録用磁性粉。
[5]下記式(1)により算出される−190℃〜+25℃の範囲における保磁力変動が35.0%以下である熱的安定性を有する[1]〜[4]のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉。
保磁力変動(%)=[1−(+25℃での保磁力)/(−190℃での保磁力)]×100 …(1)
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉の製造方法であって、
Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用するガラス結晶化法により前記六方晶フェライト磁性粒子を得ることを特徴とする、前記製造方法。
[7]前記2価元素成分は、Co、Zn、Ni、およびCuからなる群から選択される2価元素の酸化物である[6]に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[8]前記2価元素成分は、Znの酸化物を含む[7]に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[9]前記2価元素成分は、Znの酸化物からなる[8]に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
[10]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末として、[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録用磁性粉を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気記録におけるトリレンマを解消することができ、これにより更なる高密度記録化を進行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】原料混合物組成の一例を示す説明図(三角相図)である。
【図2】置換元素のHc温度依存性への影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の磁気記録用磁性粉は、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であることを特徴とする六方晶フェライト磁性粒子からなるものである。
【0013】
本発明の磁気記録用磁性粉を構成する六方晶バリウムフェライト磁性粒子(以下、単に「磁性粒子」ともいう)は、高SNRを実現し得る微粒子磁性体であって、熱的安定性と記録適性の両立を可能とするものである。したがって本発明の磁気記録用磁性粉は、高密度記録用磁気記録媒体の磁性体として、好適である。
純粋なバリウムフェライトの組成式はBaO・6Fe23であり、フェライト組成を構成するBa、Fe、Oの三元素からなる。これに対し本発明の磁気記録用磁性粉を構成する磁性粒子は、フェライト組成を構成するBa、Fe、Oとともに、Fe置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有する。本発明の磁気記録用磁性粉においてFeは2価元素により単独置換されているが、ここで本発明における単独置換とは、実質的に単独と見なされる範囲であり、Fe置換元素として2価元素のみを積極的に導入する際に意図せず混入した不純物の存在までを排除するものではない。本発明によれば、所定量の2価元素の単独置換により微粒子(活性化体積Vとして1200〜1800nm3)の六方晶フェライト磁性粒子において、異方性定数Kuの増加によらず熱的安定性を高めることができる。後述の実施例で示すように、所定量の2価元素の単独置換により保磁力の熱的安定性(温度変化に対する耐性)が格段に向上することから、所定量の2価元素の単独置換が熱に対する磁気特性の安定性を高めることが熱揺らぎ減磁抑制に寄与しているのではないかと本発明者らは推察している。
以下、本発明の磁気記録用磁性粉について、更に詳細に説明する。
【0014】
本発明の磁気記録用磁性粉を構成する六方晶フェライト磁性粒子は、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有する。Feを置換する元素としてその他価数の元素(5価元素等)が存在すると、異方性定数Kuの増加によることなく熱揺らぎ減磁を抑制することは困難であるため、本発明ではFeの置換元素として2価元素を単独使用する。かかる2価元素としては、2価の正電荷を帯び得る元素であればよく、また2価元素であれば複数種の2価元素を使用することも可能である。より一層の熱的安定性向上の観点からは、Co、Zn、Ni、およびCuからなる群から選ばれる2価元素が好ましく、出力向上の観点からはZnが好ましく、Zn単独使用がより一層好ましい。ただし2価元素による単独置換を行ったとしても、その含有量がFe含有量100原子%に対して0.5原子%未満では、2価元素単独置換による効果を得ることは困難である。他方、5.0原子%を超えると熱揺らぎ減磁の抑制は可能であるがSNR向上が困難となる。これは、2価元素が固溶しきれず析出することが原因と考えられる。したがって本発明では、Feを単独置換する2価元素の含有量は、Fe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%とする。熱的安定性およびSNRを向上する観点から、前記2価元素の含有量は1.0〜4.0原子%の範囲とすることが好ましく、1.5〜3.5原子%の範囲とすることがより好ましい。
【0015】
本発明において、六方晶フェライト磁性粒子における各元素の含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)分析等の公知の元素分析法により求めることができる。また、前記六方晶フェライト磁性粒子は後述するガラス結晶化法により得ることができるが、ガラス結晶化法では2価元素は仕込み量のほぼ100%が磁性粒子に存在するため、仕込み量から含有量を算出することもできる。
【0016】
本発明の磁気記録用磁性粉を構成する六方晶フェライト磁性粒子は、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有するものであって、その活性化体積は1200〜1800nm3の範囲である。上記活性化体積を有する微粒子磁性体であることにより、高密度記録領域においてノイズを低減し高SNRを実現することができる。これに対し活性化体積が1800nm3を超えると高密度記録された信号を高感度再生することが困難となる(SNRが低下)。他方、活性化体積が1200nm3未満の六方晶フェライト磁性粒子は作製困難であり、また作製できたとしても、上記所定量の2価元素によってFeを単独置換したとしても熱的安定性を向上することは困難であり熱揺らぎによる記録の消失が発生することが懸念される。したがって高密度記録領域において高SNRと高い熱的安定性を同時に実現する観点から、前記六方晶フェライト磁性粒子の活性化体積は、1200〜1800nm3の範囲とする。活性化体積は、磁性粒子の製造条件により制御することができる。例えば、ガラス結晶化法により製造する場合には、結晶化条件により磁性粒子の活性化体積を制御することができる。
【0017】
前記六方晶フェライト磁性粒子は、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であるものであればよく、例えばマグネトプランバイト型のバリウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト等であることができる。
【0018】
以上説明した本発明の磁気記録用磁性粉は、これを構成する六方晶フェライト磁性粒子が上記要件を満たすことで、記録適性の低下を招くKu増加によらず、熱的安定性を向上することができるため、高い熱的安定性と良好な記録適性(書き込み容易性)を両立することが可能となる。前述のように、これには所定量の2価元素の単独置換により保磁力の熱的安定性(温度変化に対する耐性)が格段に向上することが寄与していると推察される。保磁力の熱的安定性の指標としては、所定の温度範囲における保磁力変動を用いることができ、本発明によれば六方晶フェライト磁性粒子において、−190℃〜25℃の範囲における保磁力変動が35.0%以内、例えば15.0〜30.0%の範囲となる熱的安定性を実現することができる。一方、一般に保磁力の熱による変動は粒子体積の影響が大きく、活性化体積が1200〜1800nm3の六方晶フェライト磁性粒子では、2価元素による単独置換なしでは、本発明で実現可能な熱的安定性を得ることは困難である。なお上記保磁力変動は、後述の実施例に記載の方法で測定された値とする。また、保磁力Hcについては、高SNR実現の観点から、140〜320kA/mが好ましい範囲となる。本発明の磁気記録用磁性粉の飽和磁化σsは、例えば30A・m2/kg以上であることでき、40A・m2/kg以上であることが好ましい。再生信号に伴うノイズやGMR再生ヘッドの飽和を抑制する観点からは、σsは高すぎない方が良いと一般に考えられており、この点からは、例えば60A・m2/kg程度が、σsの上限となり得る。ただし、記録特性と再生出力の観点からは、σsは高いほど好ましい。したがって、上記のノイズやヘッドの飽和の発生をシステムの最適化などにより抑制したうえでより高いσsを有する磁性粒子を使用して、更なる記録特性および再生出力の向上を達成することも可能である。
【0019】
本発明の磁気記録用磁性粉は上記のものであれば、その製造方法は特に限定されるものではない。本発明の磁気記録用磁性粉の製造方法としては、ガラス結晶化法、水熱合成法、共沈法等のバリウムフェライト磁性粉末の製造方法として公知の方法を用いることができるが、上記微粒子状磁性粒子を容易に得るためには、ガラス結晶化法を用いることが好ましい。
【0020】
即ち本発明は、ガラス結晶化法による本発明の磁気記録用磁性粉の製造方法(以下、単に「磁性粉の製造方法」ともいう)にも関するものである。
本発明の磁性粉の製造方法は、Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用するガラス結晶化法により、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲である六方晶フェライト磁性粒子を得るものである。
前述のように、ガラス結晶化法では原料として仕込んだ2価元素がほぼ100%取り込まれた六方晶フェライトを得ることができるため、上記原料混合物を使用することで、Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である六方晶フェライト磁性粒子を得ることができ、結晶化条件によってその活性化体積を1200〜1800nm3の範囲に制御することができる。その詳細については後述する。
【0021】
本発明の磁性粉の製造方法では、前述のようにガラス結晶化法により六方晶バリウムフェライト磁性粒子を得る。ガラス結晶化法とは、一般に以下の工程からなるものである。
(1)六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し、溶融物を得る工程(溶融工程);
(2)溶融物を急冷し非晶質体を得る工程(非晶質化工程);
(3)非晶質体を加熱処理し、六方晶フェライト粒子を析出させる工程(結晶化工程);
(4)加熱処理物に酸処理および洗浄処理を施すことにより六方晶フェライト磁性粒子を捕集する工程(粒子捕集工程)。
ここで本発明の磁性粉の製造方法では、工程(1)において使用する原料混合物として、前述の原料混合物を使用する。その後、工程(2)、工程(3)を経て六方晶フェライト磁性粒子を結晶化したガラス成分とともに析出させることができる。その後、工程(4)において、酸処理および洗浄処理を行うことにより、Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用するガラス結晶化法により、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲である六方晶フェライト磁性粒子を捕集することができる。
以下、本発明の磁性粉の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0022】
(1)溶融工程
ガラス結晶化法において使用される原料混合物は、ガラス形成成分と六方晶フェライト形成成分を含むものである。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用することができる。なお、ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH3BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。また、B23成分以外のガラス形成成分としては、例えばSiO2成分、P25成分、GeO2成分等を挙げることができる。また、Alを酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩(水酸化物等)として添加することもできる。
【0023】
前記原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてFe23およびBaOを使用することによりバリウムフェライト磁性粒子を得ることができる。本発明の磁性粉の製造方法では、六方晶フェライト形成成分として、Fe置換成分として2価元素成分のみを含む原料混合物を使用する。2価元素成分は、2価元素の酸化物、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩(水酸化物等)を使用することができる。先に説明したようにガラス結晶化法では原料として仕込んだ2価元素がほぼ100%取り込まれた六方晶フェライトを得ることができるため、Fe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用することで、所望量の2価元素のみによりFeが置換された六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。
【0024】
ここで上記Fe置換成分とは、六方晶フェライト磁性粉末の結晶構造内でFe(三価の鉄)を置換する元素を含む成分をいう。前述のように、一般的なガラス結晶化法では、保磁力調整のためFe3+の一部を他の元素により置換することが広く行われている。この場合、置換元素の電荷の合計が置換される鉄原子の電荷と等しくなるように電荷を補償(価数補償)している。したがって従来のガラス結晶化法では、本発明のようにFeの一部を2価元素のみにより置換することは行われていなかった。これに対し本発明では、チャージバランスを考慮せずFeの一部を所定量の2価元素のみによって置換する。これにより微粒子(活性化体積Vとして1200〜1800nm3)の六方晶フェライト磁性粒子において、異方性定数Kuの増加によらず熱的安定性を高めることができるため、高い熱的安定性と良好な記録適性を両立することが可能となる。
【0025】
原料混合物の組成は、上記所定量の2価元素成分のみをFe置換成分として含む点以外、特に限定されるものではない。なお、本発明の磁性粉の製造方法では、原料混合物の組成は、AO成分(式中、AはBa、Sr、Pb等)、B23成分、Fe23成分を頂点とする、図1に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料が、優れた磁気特性を有する磁性粒子を得るうえで好ましい。なお上記の通り本発明の磁性粉の製造方法では、Fe23成分の一部を2価元素成分と置換する。
【0026】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。次いで、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、通常、1000〜1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0027】
(2)非晶質化工程
次いで、上記工程で得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分により非晶質化(ガラス化)した非晶質体である。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0028】
(3)結晶化工程
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この工程により、六方晶バリウムフェライト磁性粒子および結晶化したガラス成分を析出させることができる。析出させる六方晶バリウムフェライト磁性粒子の粒子サイズは、結晶化温度および結晶化のための加熱時間により制御可能である。なお、後述する粉砕処理や塗布液中での分散処理では、六方晶バリウムフェライト磁性粒子の粒子サイズは変化しない。したがって、本発明では最終的に1200〜1800nm3の活性化体積を有する六方晶バリウムフェライト磁性粒子が得られるように、結晶化温度および加熱時間を決定することが好ましい。結晶化温度は、原料組成にもよるが、600℃以上750℃以下とすることが好ましく、結晶化のための加熱時間(上記結晶化温度での保持時間)は、例えば0.1〜24時間であり、好ましくは0.15〜8時間である。また、上記結晶化温度までの昇温速度は、例えば0.2〜10℃/分程度が好適である。
【0029】
(4)粒子捕集工程
上記結晶化工程において加熱処理を施された加熱処理物中には、六方晶バリウムフェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分が析出している。そこで、加熱処理物に酸処理を施すと、粒子を取り囲んでいた、結晶化したガラス成分が溶解除去されるため六方晶バリウムフェライト磁性粒子を採取することができる。
【0030】
上記酸処理の前には、酸処理の効率を高めるために粉砕処理を行うことが好ましい。粗粉砕は乾式、湿式のいずれの方法で行ってもよいが均一な粉砕を可能とする観点から湿式粉砕を行うことが好ましい。粉砕処理条件は、公知の方法にしたがって設定することができ、また後述の実施例も参照できる。粒子捕集のための酸処理は、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる方法により行うことができ、後述の実施例も参照できる。その後、必要に応じて水洗、乾燥等の後処理を施すことで、Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であることを特徴とする六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。
【0031】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性粉末として、本発明の磁気記録用磁性粉を含むものである。先に説明したように、本発明の磁気記録用磁性粉によれば、高密度記録化、熱的安定性、書き込み容易性の3つの特性を実現することができ、トリレンマを解消し更なる高密度記録化を進行させることができる。
以下、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0032】
磁性層
磁性層に使用される強磁性粉末およびその製造方法の詳細は、前述の通りである。前記磁性層は、前記磁性粉とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0033】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを、所望の性質に応じて適量、市販品または公知の方法により製造されたものの中から適宜選択して使用することができる。カーボンブラックについては、特開2010−24113号公報段落[0033]も参照できる。
【0034】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0035】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0036】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0037】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0038】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0039】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0040】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0041】
以上説明した本発明の磁気記録媒体は、本発明の六方晶バリウムフェライト磁性粒子を含むことにより高記録密度領域において高SNRおよび高再生出力を実現することができるため、優れた電磁変換特性が求められる高密度記録用磁気記録媒体として好適である。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下に記載の「部」、「%」は、特に示さない限り「質量部」、「質量%」を示す。
【0043】
1.磁気記録用磁性粉(六方晶フェライト磁性粒子)の作製
BaOを35.2mol%、B23を29.4mol%、Fe23を35.4mol%となる原料組成を基準とし、2価元素および5価元素の酸化物を、Feの一部を置換する成分として使用し、SiO2とAl23はB23の一部を置換する成分として使用し、原料総量を2kgとして表1の組成になるように原料処方を決定した。
決定した原料処方となるよう各成分を秤量しミキサーにて混合し原料混合物を得た。得られた原料混合物を、容量1Lの白金ルツボで溶解し、1380℃で攪拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し融液を約6g/secで棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質A〜Nを作製した。
得られた非晶質体300gを電気炉に仕込み、表2に示す結晶化温度まで3.5℃/minで昇温した後、該結晶化温度で表2に示す時間(表2中、「結晶化時間」)保持して六方晶バリウムフェライト磁性粒子を析出(結晶化)させた。次いで六方晶バリウムフェライト磁性粒子を含む結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、2000mlのガラス瓶に1mmφZrビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った後、分散液をビーズと分離させ3Lステンレスビーカーに入れた。分散液を100℃で3時間処理した後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、乾燥させて磁性粒子(No.1〜18)を得た。得られた磁性粒子についてはX線回折分析を行い、六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることを確認した。
【0044】
2.磁気記録媒体(磁気テープ)の作製
【0045】
2−1.磁性層塗布液処方
六方晶バリウムフェライト磁性粒子(表3に記載):100部
ポリウレタン樹脂:12部
質量平均分子量 10000
スルホン酸官能基含有量 0.5meq/g
ダイアモンド微粒子(平均粒径50nm):2部
カーボンブラック(旭カーボン社製#55、粒子サイズ0.015μm):0.5部
ステアリン酸:0.5部
ブチルステアレート:2部
メチルエチルケトン:180部
シクロヘキサノン:100部
【0046】
2−2.非磁性層塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄:100部
平均一次粒子径 0.09μm
BET法による比表面積 50m/g
pH 7
DBP吸油量27〜38g/100g
表面処理剤Al 8質量%
カーボンブラック(コロンビアンカーボン社製コンダクテックスSC−U):25部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104):13部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200):5部
フェニルホスホン酸:3.5部
ブチルステアレート:1部
ステアリン酸:2部
メチルエチルケトン:205部
シクロヘキサノン:135部
【0047】
2−3.磁気テープの作製
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をニ−ダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65%充填する量を入れた横型サンドミルにポンプで通液し、2000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)分散させた。得られた分散液にポリイソシアネートを非磁性層の塗布液には6.5部、さらにメチルエチルケトン7部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層塗布液を、厚さ5μmのポリエチレンナフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層の厚さが70nmになるように逐次重層塗布を行い、乾燥後7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmにて処理を行った。1/4インチ巾にスリットし表面研磨処理を施して磁気テープ(No.1〜5)を得た。
【0048】
3.磁性粒子および磁気テープの評価
以下の方法で、磁性粒子および磁気テープの評価を行った。各評価は23℃±1℃の環境で測定した。
(1)磁気特性(Hc、σs)
表1に示すNo.1〜18の磁性粒子の磁気特性を、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定した。
(2)出力、ノイズ、SNR
表3に示すNo.1〜18の磁気テープの再生出力、ノイズ、SNRを、記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッドをドラムテスターに取り付けて、トラック密度16KTPI、線記録密度400Kbpi(面記録密度6.4Gbpsi)の信号を記録した後に測定した。
(3)減磁
表3に示すNo.1〜18の磁気テープを振動試料型磁束計(東英工業社製)で1194kA/m(15kOe)で飽和磁化し、磁界の極性を変えて500Oeの反転磁界を加えて、0秒後の磁化量と60秒後の磁化量から次式で減磁を算出した。
減磁(%)=1−(60秒後の磁化量/0秒後の磁化量)×100
(4)活性化体積V、異方性定数Ku、KuV/kT
振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いてHc測定部の磁場スイープ速度を3分と30分で測定し、以下の熱揺らぎによるHcと磁化反転体積の関係式から活性化体積Vと異方性定数Kuを計算し、得られた値からKuV/kTを算出した。
Hc=2Ku/Ms{1−[(KuT/kV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
【0049】
以上説明した磁性粒子の原料処方の詳細を表1に、磁性粒子作製時の結晶化温度および作製した磁性粒子の評価結果を表2に、作製した磁気テープの詳細を表3に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すように実施例の磁気テープでは減磁が小さくSNRが良好であることから、活性化体積が1200〜1800nm3と微粒子磁性体を使用した高密度記録領域において高い熱的安定性(低減磁)を得ることができたことが確認できる。表2に示す磁性体のKuV/kTの値から、この熱的安定性は書き込み容易性を低下させるKuの増大によらず達成されたことも示された。
これに対し比較例の結果から、2価元素のみによりFeを置換しなければ熱的安定性を向上できないこと(媒体No.1、No.15)、Feを置換する2価元素量が少なすぎても熱的安定性を向上できないこと(媒体No.2、No.7)、多すぎるとSNRの低下を招くこと(媒体No.11)、活性化体積が1800nm3を超える粗大粒子ではSNR向上は達成できないこと(媒体No.3、6)が確認できる。
【0054】
図2は、表2に示す実施例および比較例の中で、
・磁性体No.2(2価元素および5価元素によるFe置換の比較例:Zn2原子%、Nb1原子%によりFe置換)、
・磁性体No.15(5価元素によるFe置換の比較例:Nb3原子%によりFe置換)、
・磁性体No.5(実施例:Zn3原子%によりFe置換)、
・磁性体No.14(実施例:Co3原子%によりFe置換)、
・磁性体No.16(実施例:Ni3原子%によりFe置換)、
・磁性体No.17(実施例:Cu3原子%によりFe置換)、
について、以下の測定方法で−190℃〜+25℃におけるHcの温度依存性を評価した結果を示すグラフである。
測定方法
各磁性体をアルミニウムセルに詰め、セル近傍にセットした熱電対で磁性体温度を測定しつつ、前記磁気特性(Hc、σs)の測定方法と同じ装置および磁場強度で−190℃〜+25℃の温度域でHcを測定した。測定中、振動試料型磁束計の振動試料棒全体を石英管に納めてロータリーポンプで真空引きしつつ液体窒素を満たしたデュアー瓶に浸し、温度制御は石英管に取り付けた電熱ヒーターに電流を流すことで行った。
図2に示す結果から、下記式(1)により各磁性体の−190℃〜+25℃の範囲における保磁力変動を求めた。結果を下記表4に示す。
保磁力変動(%)=[1−(+25℃での保磁力)/(−190℃での保磁力)]×100 …(1)
【0055】
【表4】

【0056】
表1に示すように、実施例の磁性体では保磁力変動が35.0%以内の熱的安定性が得られ、比較例の磁性体と比べてHcの温度依存性が格段に小さく、熱に対して磁気特性がきわめて安定であることが確認できる。本発明者らは、この特性が熱揺らぎ減磁抑制に影響している可能性があると考えている。
【0057】
以上説明した結果から、本発明によれば、高密度記録化、熱的安定性、書き込み容易性の3つの特性を満たす磁気記録媒体が得られることが示された。即ち本発明によれば、磁気記録のトリレンマを解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、優れた記録再生特性を発揮する高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feの置換元素として2価元素のみをFe含有量100原子%に対して0.5〜5.0原子%含有し、かつ活性化体積が1200〜1800nm3の範囲であることを特徴とする六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録用磁性粉。
【請求項2】
前記2価元素は、Co、Zn、Ni、およびCuからなる群から選択される2価元素である請求項1に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項3】
前記2価元素は、Znを含む請求項2に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項4】
前記2価元素は、Znからなる請求項3に記載の磁気記録用磁性粉。
【請求項5】
下記式(1)により算出される−190℃〜+25℃の範囲における保磁力変動が35.0%以下である熱的安定性を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉。
保磁力変動(%)=[1−(+25℃での保磁力)/(−190℃での保磁力)]×100 …(1)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法であって、
Fe置換成分として2価元素成分のみを含み、かつFe含有量100原子%に対する2価元素含有量が0.5〜5.0原子%である原料混合物を使用するガラス結晶化法により前記六方晶フェライト磁性粒子を得ることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項7】
前記2価元素成分は、Co、Zn、Ni、およびCuからなる群から選択される2価元素の酸化物である請求項6に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項8】
前記2価元素成分は、Znの酸化物を含む請求項7に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項9】
前記2価元素成分は、Znの酸化物からなる請求項8に記載の磁気記録用磁性粉の製造方法。
【請求項10】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末として、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録用磁性粉を含むことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−204726(P2012−204726A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69496(P2011−69496)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】