神経代謝性疾患のための遺伝子治療
本開示は、中枢神経系(CNS)に影響する疾患を治療するための方法および組成物に関する。これらの疾患は中枢神経系に影響するリソソーム蓄積症のごとき神経代謝性疾患、例えば、ニーマン−ピック病A型を含む。それらはまた、アルツハイマー病のごとき疾患を含む。開示される方法は、神経の軸索末端に治療用の導入遺伝子を有する高力価のAAVを含む組成物を注入することにより、AAVベクターが逆行性様式で移送され、導入遺伝子の産物が投与部位より遠位で発現されることに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の請求項は、米国法典第35編119条(e)項のもとに2005年5月2日に提出された米国仮出願第60/677057号および米国仮出願第60/685808号の優先権を主張し、それらの内容を参照により本明細書に一体化させる。
【0002】
本発明は、中枢神経系(CNS)および特に脊髄に患った疾患を治療するための組成物および方法に関する。本発明はさらにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのごときウイルスベクターを含む組成物およびその投与方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リソソーム蓄積症(LSD)として知られる代謝性疾患のグループは、40種類以上の遺伝子疾患を含み、それらの多くは多様なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関する。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素が表1に記載される。
【表1】
【表2】
*CNS関連
【0004】
LSDの顕著な特徴はリソソーム代謝産物の異常な蓄積であり、核周辺部における多数の膨張したリソソーム形成を導く。LSD治療の(肝臓特異的な酵素病の治療に対する)主な試みは、複数の別々の組織において、リソソーム蓄積の病態を逆行させることを必要とする。いくつかのLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られる欠乏した酵素の経静脈内注入により効果的に治療され得る。例えば、ゴーシェ病1型患者が内臓疾患のみにかかっていると、組み換えグルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(登録商標)、ジェンザイム社)を用いてERTに有利に反応する。しかし、CNSに罹患する代謝性疾患にかかっている患者(例、2または3型のゴーシェ病)は、補充酵素が血液脳関門(BBB)により脳に入ることを阻害されるため、静脈内のERTに反応しない。さらに、直接注射による補充酵素を脳へ導入する試みは、1つには局所的な高濃度による酵素の毒性(未発表データ)および脳における限られた実質拡散の割合のために成功していない(Pardridge,Peptide Drug Delivery to the Brain,Raven Press,1991)。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβ−ペプチド(Aβ)異化反応の減少によるAβの蓄積に特徴付けられる中枢神経(CNS)に罹患する疾患である。Aβの蓄積とともに、Aβが細胞外プラーク内に凝集し、シナプス機能障害および神経喪失を引き起こす。病態は認知症、運動障害、次いで死を招く。
【0006】
遺伝子治療は、LSDおよびアルツハイマー病を含むCNSに罹患した疾患のために現れた治療法である。このアプローチにおいて、正常な代謝経路への回復および病態の逆行が、遺伝子の正常型または改良型の遺伝子を有するベクターを罹患した細胞に伝達することによって生じる。
【0007】
CNS遺伝子治療は、分裂終了神経に効率的に感染できるウイルスベクターの発展により促進されてきた。CNSへの遺伝子送達のためのウイルスベクターの総説については、Davidsonら.(2003)Nature Rev.,4:353364を参照。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは好都合な毒性および免疫原性特性を示し、神経細胞に導入でき、CNSにおける長期発現を媒介できることから、CNS遺伝子治療に最適と考えられている(Kaplittら. (1994) Nat. Genet., 8:148154; Bartlettら. (1998) Hum. Gene Ther., 9:11811186;およびPassiniら. (2002) J. Neurosci., 22:64376446)。
【0008】
治療用導入遺伝子産物、例えば酵素は、導入した細胞付近に分泌され、次いで他の細胞により吸収されて病態を緩和しうる。このプロセスはクロスコレクション(cross−correction)として知られる(Neufeldら. (1970) Science, 169:141−146)。しかし、LSD状況下の蓄積病態のごとき病態の修復は、典型的には、注入ベクターの限られた実質拡散および分泌される導入遺伝子産物のため、注射部位の極めて近くに限定される(Taylorら. (1997) Nat. Med., 3:771774; Skorupaら. (1999) Exp. Neurol., 160:1727)。よって、複数の脳領域に罹患する神経病態は、特にヒトのごとき大きな脳において、複数の領域に分布した注入を用いた広範囲のベクター送達を必要とする。これは脳の損傷の危険性を著しく増大させる。加えて、脳のいくつかの領域は外科手術でアクセスすることが困難でありうる。それゆえ、拡散を除いたCNS内へのベクター輸送の他の様式が有益であろう。
【0009】
ウイルスが軸索の末端に投与される場合、ウイルスは内部に移行し、軸索に沿って逆行して核に輸送される。ある脳領域の神経は軸索により遠位の脳領域まで相互に連結し、それによりベクター送達に輸送系を提供する。アデノウイルス、HSV、および仮性狂犬病ウイルスの研究は、脳内の遠位構造に遺伝子に送達するこれらウイルスの輸送特性を利用してきた(Soudasら. (2001) FASEB J., 15:22832285; Breakefieldら. (1991) New Biol., 3:203218;およびdeFalcoら. (2001) Science, 291:26082613)。
【0010】
数グループは、AAV血清型2(AAV2)による脳への送達が頭蓋内の注入部位に限定されることを報告した(Kaplittら. (1994) Nat. Genet., 8:148154; Passiniら. (2002) J. Neurosci., 22:64376446; and Chamberlinら. (1998) Brain Res., 793:169175)。1つの最近の報告では、AAV2の逆行性の軸索輸送が、正常なラット脳の回路選択時に起こり得ることが示唆される(Kasparら.(2002)Mol.Ther.,5:5056)。しかし、どんな特異的なパラメーターが確認された軸索輸送を担い、十分かつ有効な軸索輸送が細胞障害の状態の疾患神経で起きているのかどうか、知られていない。実際、LSDの神経で見られる損傷が軸索の輸送を干渉するか、または妨害することさえ報告され(Walkley(1998) Brain Pathol., 8:175193で考察されている)、疾患の神経は軸索に沿ったAAVの輸送を支持しないであろうと推定される。
【0011】
それゆえ、CNSに罹患する代謝性疾患を処置するための新しい治療方法を開発することが必要とされる。
【発明の開示】
【0012】
(発明の要約)
本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)、またはCNS機能の減少のリスクに特徴付けられるもしくは関連する異常なコレステロール蓄積機能のごとき代謝性疾患を治療または予防するための方法および組成物を提供する。
【0013】
本発明は、CNS機能の減少のリスクに特徴付けられるもしくは関連するアルツハイマー病のごとき中枢神経系(CNS)に罹患する疾患を治療または予防するための方法および組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに罹患した患者の脳における領域を選択するために、最小限の侵襲で導入遺伝子を標的に送達する方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる利点は、部分的には以下の記載で説明され、部分には以下の記載から理解され、または本発明の実施によって理解されるかもしれない。
【0016】
ニーマン−ピック病A型のモデルである酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM)ノックアウトマウスに、ヒトASM遺伝子(AAV−ASM)を有するAAV2ベクターが脳の片側半球への単一頭蓋内注射によって投与された。本発明は、部分的には、疾患脳への高力価AAV−ASMの注入が、注入部位に分布する投射神経の組織分布に沿った一貫したパターンにおいて、複数の遠位部位内でのAAV−ASMの発現を生じるという知見および実施に基づく。本発明はさらに、部分的には、AAV−ASMが輸送され、ASMが発現される注入部位および遠位部位におけるリソソーム蓄積病態の広範な修復の知見および実施に基づく。
【0017】
別の態様では、本発明は、深部小脳核内への片側または代替的には両側の注入後、ASMKOマウスにおいてコレステロール蓄積の病態を補正し、機能の回復を開始する方法を提供する。
【0018】
さらに、上記記載の方法であって、導入遺伝子がAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型からなる群から選択される組み換えAAVベクターに送達される方法が提供される。実施の目的のみにおいて、組み換えベクターはマウスモデルにおける機能的なヒトASMタンパク質をコードした。
【0019】
従って、一の態様では、本発明は、哺乳類において神経代謝性疾患を治療する方法を提供する。本発明の方法によって治療される個体群は、表1に記載される疾患のごとき、特にかかる疾患がCNSに罹患する場合には、LSDにかかっている患者またはLSDに発展する危険性のある患者を含むが、それらだけに限らない。実施の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型および/または一般にNPAに関連した第二のコレステロール蓄積の病態である。
【0020】
一の態様では、開示した方法は、患っている患者のCNSに治療産物をコードする導入遺伝子を有するAAVウイルスベクターを投与し、導入遺伝子が治療レベルで投与部位から遠位のCNS内において発現されることを可能にすることを含む。加えて、該ベクターは、CNS障害を治療するのに有効である生物学的に活性な分子をコードするポリヌクレオチドを含んでよい。かかる生物学的に活性な分子は、全長タンパク質の野生型または変異型、タンパク質断片の野生型または変異型、合成ポリペプチド、抗体、およびFab’分子のごとき抗体断片を含むがそれらだけに限らないペプチドを含んでよい。生物学的に活性な分子はまた、一本鎖または二本鎖DNAポリヌクレオチドおよび一本鎖または二本鎖RNAポリヌクレオチドを含んでよい。本明細書で開示される方法の実施に用いられてよい典型的なヌクレオチド技術の総説には、Kurreck, (2003) J., Eur. J. Biochem. 270, 1628−1644 [アンチセンス技術]; Yuら., (2002) PNAS 99(9), 6047−6052 [RNA干渉技術];ならびにElbashirら., (2001) Genes Dev., 15(2):188−200 [siRNA技術]を参照。
【0021】
例示の具体例では、投与は疾患脳への高力価AAVベクター溶液の直接柔組織内注射によって行われる。その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmにおいて治療レベルで投与部位の遠位、対側または同側で発現される。
【0022】
別の態様では、本発明はまた、インビトロにおいて、組み換えAAVゲノムを疾患に冒された神経の核に送達する方法を提供する。いくつかの具体例では、神経で示される細胞病態は、表1に記載される疾患のごときリソソーム蓄積症の細胞病態である。例示の具体例では、病気はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞病態はアルツハイマー病の細胞病態である。組み換えAAVゲノムを病気に冒された神経の核に送達する方法は、病気に冒された神経の軸索末端を、組み換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含む組成物に接触させ、ウイルス粒子が取り込まれ、神経の核まで軸索に沿って細胞内部を逆行的に輸送されることを含む。組成物中のベクター濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x109tu/ml);あるいは(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x1010iu/ml)である。ある具体例では、神経が投射神経であり、および/または神経の核までの軸索末端の距離が少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmである。
【0023】
本発明は、患者の脳の深部小脳核(DCN)領域の少なくとも1つの領域に、導入遺伝子を含む組み換え向神経性ウイルスベクターを投与することにより、患者の脊髄および/または脳幹領域に送達する方法および組成物を提供する。ウイルス送達は、脊髄および/または脳幹領域において導入遺伝子の発現に好ましい条件下で行う。例示の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞の病態がアルツハイマー病の病態である。
【0024】
別の態様では、本発明は、患者の脳の運動皮質領域に導入遺伝子を含む組み換え向神経性ウイルスベクターを投与することにより、患者の脊髄に導入遺伝子を送達する方法および組成物を提供する。ウイルスベクター送達は、脊髄および/または脳幹領域において導入遺伝子の発現に好ましい条件下で行う。運動皮質領域に投与されるウイルスベクターは、細胞体領域を介して運動神経によって内部移入され、導入遺伝子が発現される。次いで、発現した導入遺伝子は、脊髄に存在する運動神経の軸索末端部分への順行性輸送を経てよい。運動皮質の特性から、脳のこの領域に投与されるウイルスベクターはまた、運動神経の軸索末端まで内部移行されてよい。ウイルスベクターはまた、運動神経の軸索に沿って逆行性移行を経て、運動神経の細胞体で発現されてよい。例示の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞の病態はアルツハイマー病の病態である。
【0025】
別の態様では、本発明は、神経代謝性疾患、例えば、CNSで発症するLSDを患っている哺乳類の神経またはグリア細胞であるCNSの標的細胞に、治療上の導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。該方法は、神経の軸索末端に治療上の導入遺伝子産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を有するAAVベクターを含む組成物を接触させ、ウイルス粒子を取り込ませ、神経の核まで神経に沿って細胞内を逆行的に移行させること;治療上の導入遺伝子産物を発現させ、神経付近で分泌させ、次いで標的細胞に治療上の導入遺伝子産物を取り込ませ、それにより標的細胞内の病態を軽減することを含む。特定の具体例では、組成物中のベクター濃度は、少なくとも(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);あるいは(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。
【0026】
本発明の方法では、治療上の導入遺伝子は生物学的に活性のある分子をコードし、CNSでのその発現は少なくとも神経病態の部分的な修復を生じる。いくつかの具体例では、治療上の導入遺伝子産物はリソソーム加水分解酵素である。例示の具体例では、リソソーム加水分解酵素はASMである。他の具体例では、治療上の導入遺伝子は金属エンドペプチダーゼ、例えば、ネプリライシンである。
【0027】
前記の一般的な記載および下記の詳細な記載の両方は例示および説明のみであり、請求される発明を限定するものではない。
【0028】
(図面の簡単な説明)
図1Aは、海馬への高力価(9.3×1012gp/ml)AAV−ASMの2μl注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。注入部位が垂直線で示される;in situ hybridizationで検出されるASMmRNAの発現は小さな円で表され;免疫組織学的染色で検出されるASMタンパク質の発現は、大きな斜線の円で表される。発現パターンは、脳の両半球における海馬および皮質領域の病態と逆の広範な領域(薄い斜線で表される)で生じた。
【0029】
図1Bは、図1Aで示される海馬内への高力価AAVの注入後のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、対側海馬(20)への海馬内回路を媒介および嗅内皮質への嗅内歯状(entorhinodentate)回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【0030】
図1Cは、マウス脳の海馬内および嗅内歯状回路の接続を示す模式図である。海馬内(10)への注入は、アンモン角領域3(CA3)および歯状回顆粒細胞層(G)に局在する細胞体の感染および送達を生じた。加えて、注入したAAVベクターのサブセットは、注入部位を神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性軸索輸送を経て、海馬(20)の対側部分のCA3領域(CA)および門部(H)、ならびに嗅内皮質(30)の同側部分のCA3領域(CA)および門部(H)に導入遺伝子を送達する。
【0031】
図2Aは、図1Aに記載される高力価AAV−ASMの海馬内注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。in situ hybridizationで検出されるASMmRNA発現は小さい円で表され;免疫組織化学的染色で検出されるASMタンパク質発現は大きい斜線の円で表される。該注入は、中隔で検出されるASMmRNAおよびタンパク質を起こした。この発現パターンは病態と逆の広範な領域で生じた(薄茶色の斜線で表される)。
【0032】
図2Bは、図1Aで表される海馬への高力価注入のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、注入部位(垂直線で表される)から中隔(40)までの中隔海馬回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【0033】
図2Cは、中隔海馬回路の接続を表す模式図である。海馬への注入は、CA3領域(11)に局在する細胞体への形質導入を生じた。加えて、AAVベクターのサブセットは、注入部位に神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性の軸索輸送を経て、内側中隔(40)に導入遺伝子を送達する。
【0034】
図3は、マウス脳の線条体(50)へのAAVの高力価注入後の黒質線条体回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAVの軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から黒質(60)まで生じる。
【0035】
図4は、ASMKOマウス脳の小脳(70)へのAAV−ASMの高力価注入後の小脳髄質(medullocerebellar)回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAV2の軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から延髄(80)まで生じる。
【0036】
図5は、同側海馬(10)におけるAAV7−ASMの高力価注入後の海馬内、黒質線条体、および嗅内歯状の回路におけるAAVの軸索輸送、ならびにを表す。同側海馬(垂直線で表される)のAAV7−ASM注入後、形質導入された細胞を、対側海馬(90)、内側中隔(40)、および嗅内皮質(100)の全体の吻尾軸に沿ってin situ hybridizationを用いて調べることで検出した。
【0037】
図6Aないし6Eは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター((A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8)の注入後の矢状小脳切片におけるヒトASM免疫陽性染色を示す。
【0038】
図7Aないし7Eは、深部小脳核から脊髄までのhASM輸送を示す。この効果は、AAV2/2−ASM、AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処理したマウスで観察された。(A)hASM 10×拡大図;(B)hASM 40×拡大図;(C)共焦点hASM;(D)共焦点ChAT;ならびに(E)共焦点hASMおよびChAT
【0039】
図8は、深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター(2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の注入後の小脳組織の均一レベルを示す(n=5/群)。同一の文字が並んでいない群は有意に異なる(p<0.0001)。
【0040】
図9AないしGは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター[(A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8]の注入後の矢状小脳切片のカルビンジン免疫陽性染色を示す。
【0041】
図10Aおよび図10Bは、(AAV−βgalを注入した)ASMKO、WT、およびAAV−ASMを処理したASMKOマウス(n=8/群)における加速およびロッキングロータロッドの成績(14週齢)を示す。同一文字が並んでいない群は有意に異なる。AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを注入されたマウスは、加速ロータロッド試験において、AAV2/1−βgalを注入されたASMKOマウスより有意(p<0.009)に長い落下するまでの待ち時間を示した。ロッキングロータロッド試験では、AAV2/1−ASMを注入されたマウスは、AAV2/1−βgalを注入されたマウスより有意に(p<0.0001)長い落下するまでの待ち時間を示した。
【0042】
図11Aおよび11Bは、ASMKO(n=8)、WT(n=8)、および両側にAAV−ASM(n=5/群)を処理したマウス(20週齢)におけるロータロッドの成績を示す。加速およびロッキングの両試験において、AAV−ASMを処理したマウスが、ASMKO AAV2/1−βgalを処理したマウスより有意(p<0.01)に良好な成績を示した。AAV2/1−ASMを注入したマウスの成績は、加速およびロッキングの両試験において野生型と区別できなかった。
【0043】
図12は、AAV1−βgalまたはhASMをコードするAAV血清型1と2を両側に注入したASMKOマウスにおける脳のスフィンゴミエリンレベル(20週齢)を示す。脳を5個の吻尾方向の切片に分けた(S1=最も吻側およびS5=最も尾側)。星印はデータ点がASMKOマウスと有意に異なることを示す(p<0.01)。
【0044】
図13Aは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脊髄領域(頸部、胸部、腰部、および仙骨部)間の接続を表す。図13Bは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脳幹領域(中脳、脳橋、および延髄)間の接続を表す。接続は矢印で表され、神経の細胞体領域から開始し、神経の軸索末端領域で終結する。例えば、DCNの3つの領域は各々、脊髄の頸部領域で終結する軸索を送り出す細胞体を有する神経である。一方、脊髄の頸部領域は、DCNの内側または中間領域のどちらかで終結する軸索を送り出す細胞体を有する。
【0045】
図14は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脳幹または上部運動神経における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【0046】
図15は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脊髄領域における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【0047】
図16は、深部小脳核(DCN)へのAAV1ベクターを発現するGFPの両側送達後のマウス脳内のGFP分布を示す。DCNに加えて、GFP陽性染色はまた、嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄でも観察された。これらの領域の全ては、DCNからの投射を受け取るか、および/またはDCNへの投射を送り出すかのどちらかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明を、より容易に理解できるように、最初に一定の用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通して記載される。
【0049】
「導入遺伝子」という用語は、細胞に導入され、適切な条件下で翻訳でき、および/または発現でき、それを導入した細胞に所望の性質を付与し、あるいは所望の治療結果をもたらすポリヌクレオチドを称す。
【0050】
ウイルス力価に関して用いられる「ゲノム粒子(gp)」、または「ゲノム等価体」という用語は、感染性または機能性とは無関係に組換えAAV DNAゲノムを含有するビリオン数を称す。特定のベクター調製におけるゲノム粒子数は、本明細書における実施例、または、例えば、Clarkら(1999) Hum. Gene Ther., 10:1031−1039; Veldwijkら(2002) Mol. Ther., 6:272−278に記載されるような手法により測定できる。
【0051】
ウイルス力価に関連して用いられる「感染単位(iu)」、「感染性粒子」、または「複製単位」という用語は、例えば、McLaughlinら(1988) J. Virol., 62:1963−1973に記載されている複製中心アッセイとしても知られている感染中心アッセイにより測定される感染性および複製能力のある組換えAAVベクター粒子数を称す。
【0052】
ウイルス力価に関連して用いられる「形質導入単位(tu)」という用語は、本明細書の実施例、または、例えば、Xiaoら(1997) Exp. Neurobiol., 144:113−124; またはFisherら(1996) J. Virol., 70:520−532 (LFU assay)に記載されているものなど、機能性アッセイにより測定される機能性導入遺伝子産物の産生をもたらす感染性組換えAAVベクター粒子数を称す。
【0053】
「治療的」、「治療的有効量」という用語およびそれらの同源語は、神経病理学、例えば、本明細書またはWalkley (1998) Brain Pathol., 8:175−193に記載されているものなどのリソソーム蓄積症と関連する細胞病態の矯正など、対象における症状の予防もしくは発症の遅延あるいは改善、または所望の生物学的結果の達成をもたらす化合物量を称す。「治療的矯正」という用語は、対象における症状の予防もしくは発症の遅延あるいは改善をもたらす程度の矯正を称す。有効量は、当業界に周知の方法、および引き続く節に記載された方法により決定できる。
【0054】
方法および組成物
ASMKOマウスは、A型およびB型のニーマン−ピック病の公認モデルである(Horinouchiら(1995) Nat. Genetics, 10:288−293; Jinら(2002) J. Clin. Invest., 109:1183−1191; およびOtterbach (1995) Cell, 81:1053−1061)。ニーマン−ピック病(NPD)は、リソソーム蓄積症として分類され、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンホスホヒドロラーゼ、EC3.1.3.12)における遺伝子欠損を特徴とする遺伝性神経代謝障害である。機能性ASMタンパク質の欠乏により、脳の至る所でニューロンおよびグリア細胞のリソソーム内にスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。これによって、A型NPDの特徴でありかつ第一の細胞表現型である神経細胞体において多数の膨張性リソソームの形成に至る。膨張性リソソームの存在は、正常な細胞機能の喪失および幼児期における罹患個体を死亡に至らしめる進行性神経変性過程と相互に関連する(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriverら, McGraw−Hill, New York, 2001, pp. 3589−3610)。第二の細胞表現型(例えば、さらなる代謝異常性)はまた、この疾患、とりわけリソソームコンパートメントにおけるコレステロールの高レベル蓄積に関連している。スフィンゴミエリンは、コテステロールに対して強力な親和力を有し、ASMKOマウスおよびヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの封鎖を生じさせる(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277−293; およびVianaら(1990) J. Med. Genet., 27:499−504)。
【0055】
本発明は、ASMKOマウスの疾患脳への高力価AAV−ASMの海馬内への注入により、注入部位を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致する様式で、注入部位から遠位にASM mRNAおよびタンパク質の発現が生じるという発見と立証に一部基づいている。注入部位での強い発現に加えて、ASM mRNAおよびタンパク質はまた、同側(注入された)海馬の外側の幾つかの遠位領域、特に対側海馬歯状回とCA3、ならびに内側隔壁と嗅内皮質において検出される。本発明はさらに、遠位部位における海馬貯蔵病態の広範な矯正、それによってより少数の注入部位による、より大容量の矯正を可能にすることの発見および立証に一部基づいている。
【0056】
したがって、一態様において、本発明は、哺乳動物における神経代謝障害を治療する方法を提供する。本発明の方法により治療を受ける集団としては、限定はしないが、表1に掲げられた疾患、特にこのような疾患がCNSに影響を及ぼす場合などの神経代謝障害、例えば、LSDに罹っているか、またはそれを発現する危険性のある患者が挙げられる。例示となる実施形態において、該疾患はニーマン−ピック病A型である。一定の実施形態において、神経代謝障害としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ−サックス病、レッシュ−ナイハン病、およびクロイツフェルト−ヤコブ病が挙げられる。しかしながら、治療的導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼを利用する本発明の方法は、アルツハイマー病およびアミロイド関連障害の治療に特に有用である。
【0057】
幾つかの実施形態において、神経代謝障害を治療する方法は、導入遺伝子産物が第一の部位に対して遠位のCNS内の第二の部位に治療的レベルで発現されるように、治療用導入遺伝子を担持する高力価AAVベクターの投与を含んでなる。幾つかの実施形態において、高力価の組成物は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。さらなる実施形態において、この投与は、疾患脳内への高力価AAVベクター液の直接的柔組織内注入により達成され、その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmの治療レベルで投与部位に対して遠位に、対側的または同側的に発現される。
【0058】
第一の部位と第二の部位との間の距離は、投与部位(第一の部位)と、当業界に公知の手法を用いて測定された、または実施例に記載された、例えば、インサイチュハイブリダイゼーションの遠位部位(第二の部位)の検出可能な形質導入の境界域との間の最小距離領域として規定される。より大きな哺乳動物のCNSにおける幾つかのニューロンは、軸策突起のため大きな距離に亘っていることがあり得る。例えば、ヒトにおいて、幾つかの軸索は、1000mm以上の距離に亘っていることがあり得る。したがって、本発明の種々の方法において、AAVは、このような距離での軸索の全長に沿って軸索輸送されて親細胞体に到達し、形質導入できる。
【0059】
CNS内へのベクター投与部位は、投与部位および標的領域が軸策接続を有する限り、神経病理学の所望の標的領域および関与する脳回路のトポロジーに基づいて選択される。この標的領域は、例えば、3−Dの定位座標を用いて規定できる。幾つかの実施形態において、投与部位は、注入されたベクター全量の少なくとも0.1、0.5、1、5、または10%が、少なくとも1、200、500、または1000mm3の標的領域において遠位に送達されるように選択される。投与部位は、脳の遠位領域に接続する突出ニューロンにより神経支配された領域に局在化できる。例えば、黒質および被蓋野は、高密度突出を尾状核および被殻(集合的に線条体として知られている)へ送り出している。黒質および腹側被蓋内のニューロンは、線条体への注入後のAAVの逆方向輸送による形質導入のために標的化できる。別の例として、海馬は、脳の他の領域から十分に規定された予測可能な軸索突出を受け入れている。他の投与部位は、例えば、脊髄、脳幹(延髄と脳橋)、中脳、小脳(小脳核を含む)、間脳(視床、視床下部)、終脳(線条体、大脳皮質、または、皮質内の後頭葉、側頭葉、頭頂葉または前頭葉)、またはそれらの組合せにおいて局在化できる。
【0060】
ヒト脳における構造確認に関しては、例えば、The Human Brain: Surface, Three−Dimensional Sectional Anatomy With MRI, and Blood Supply,第2版 Deuteronら, Springer Vela, 1999; Atlas of the Human Brain,ら編. Maiら, Academic Press; 1997; および Co−Planar Sterotaxic Atlas of the Human Brain: 3−Dimensional Proportional System: An Approach to Cerebral Imaging,ら編. Tamarackら, Thyme Medical Pub., 1988を参照されたい。ヒト脳における構造確認に関して、例えば、The Mouse Brain in Sterotaxic Coordinates,第2版, Academic Press, 2000を参照されたい。所望ならば、ヒトの脳構造は、別の哺乳動物の脳における同様の構造と相互に関連させることができる。例えば、ヒトおよびげっ歯類を含む大部分の哺乳動物は、海馬の脊椎部分または中隔ポールに突出している同側および内側嗅内皮質双方の同側部分におけるニューロンと同様の嗅内海馬突出の局所解剖学的組織を示すが、一方、腹側海馬への突出は、主に嗅内皮質の内側部分のニューロンから出ている(Principles of Neural Science,第4版,Kandelら編, McGraw−Hill, 1991; The Rat Nervous System,第2版 Paxinos, Academic Press, 1995)。さらに、嗅内皮質の層II細胞は、歯状回に突起し、それらは歯状回の分子層の外側三分の二において終結する。層III細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3に両側的に突出する。層III細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3に両側的に突出して、表皮ラクノース(lacunose)分子層内で終結する。
【0061】
第二の部位(標的)は、第一の部位(投与)に突出しているニューロンを脳および脊髄など、CNSの任意の領域を配置できる。幾つかの実施形態において、第二の部位は、黒質、延髄、または脊髄から選択されたCNSの領域にある。
【0062】
中枢神経系の特定領域、特に脳の特定領域にベクターを特異的に送達させるために、それを定位ミクロ注入により投与できる。例えば、手術日に患者は、適切に固定された定位固定フレーム基材(頭蓋骨にねじ止めされた)を有する。定位固定フレーム基材を有する脳(受託者マーキングとMRI適合性)を、高分解能MRIを用いて画像化する。次にMRI画像を、定位固定ソフトウェアを作動させているコンピュータに移す。一連の冠状、矢状および軸性画像を用いて、ベクター注入および軌道の標的部位を判定する。該ソフトウェアは、軌道を定位固定フレームに適切な3次元座標に直接翻訳する。バーホールは、入口部位上に穴があけられ、定位固定装置を所与の深部に移植された針で局在化する。次いで製薬的に許容できる担体中のベクターが注入される。次にAAVベクターが、第一次標的部位への直接注入により投与され、軸索を介して遠位標的部位に逆方向的に輸送される。さらなる投与経路、例えば、直接的可視化下の表層皮質適用、または他の非定位固定適用を用いることができる。
【0063】
投与される物質の全容量、および投与されるベクターの全粒子数は、遺伝子療法の既知の態様に基づいて当業者により決定される。治療的有効性および安全性は、適切な動物モデルにおいて試験できる。LSD類に関して、例えば、種々の十分に特性化された動物モデルには、例えば、本明細書またはWatsonら(2001) Methods Mol. Med., 76:383−403; または、Jeyakumarら(2002) Neuropath. Appl. Neurobiol., 28:343−357に記載されたものが存在する。
【0064】
実験的マウスにおいて、注入AAV液の全量は、例えば、1μlと5μlとの間である。ヒト脳などの他の哺乳動物に関して、容量および送達速度を適切に調整する。例えば、150μlの用量が、霊長類の脳に安全に注入できることが立証されている(Jansonら(2002) Hum. Gene Ther., 13:1391−1412)。治療は、1標的部位当り単回注入からなるか、または必要ならば、注入路に沿って反復することができる。複数注入部位を使用することができる。例えば、幾つかの実施形態において、最初の投与部位に加えて、導入遺伝子を担持するAAVを含んでなる組成物を、最初の投与部位に対して対側または同側であり得る別の部位に投与する。
【0065】
別の態様において、本発明は、インビボで疾患危険性ニューロンの核への逆方向軸索輸送を介して組換えAAVゲノムを送達する方法を提供する。幾つかの実施形態において、ニューロンにより示される細胞病態は、表1に掲げられるLSDなどである(例えば、Walkley (1998) Brain Pathol., 8:175−193を参照)。例示的実施形態において、該疾患は、ニーマン−ピック病A型である。組換えAAVゲノムの疾患危険性ニューロン核への送達方法は、疾患危険性ニューロンの軸索末端と、組換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含んでなる組成物とを接触させること、ウイルス粒子を形質膜陥入させ、軸索に沿って細胞内に逆方向でニューロン核へ輸送させることを含み、組成物中のAAVゲノム濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。一定の実施形態において、ニューロンは突出ニューロンであり、および/または軸索末端からニューロン核への距離は、少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmである。種々の実施形態において、AAVゲノムは、軸索長に依って変わる距離で軸索の全長に沿って輸送される。ヒトにおいて、これらの距離は、1000mm以上の大きさであり得る。
【0066】
別の態様において、本発明は、障害、例えば、表1に掲げられるLSDに罹患した哺乳動物のニューロンまたはグリア細胞であるCNSの標的細胞に、導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。該方法は、ニューロンの軸索末端と、治療用遺伝子導入産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を担持するAAVベクターを含んでなる組成物とを接触させること;ウイルス粒子を形質膜陥入させ、軸索に沿って細胞内に逆方向でニューロン核へ輸送させること;導入遺伝子産物をニューロンにより発現させ、分泌させること;および第二の細胞に導入遺伝子産物を取り込ませることを含み、それによって導入遺伝子産物は、第二の細胞における病態を軽減する。幾つかの実施形態において、組成物中のAAVベクターの濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。例えば、リソソームヒドロラーゼは、形質導入細胞により分泌させることができ、引き続きマンノース−6−ホスフェート受容体媒介飲食作用を介して別の細胞により取り込ませ、第二の細胞に形質導入してもよいし、非形質導入でもよい(Sandoら(1977) Cell, 12:619−627; Taylorら(1997) Nat. Med., 3:771−774; Mirandaら(2000) Gene Ther., 7:1768−1776; および Jinら(2002) J. Clin. Invest., 109:1183−1191)。
【0067】
本発明の方法において、ベクターが疾患危険性の脳において逆方向性軸索輸送を起こすことができる限り、任意の血清型のAAVもまた使用できる。本発明の一定の実施形態に用いられるウイルスベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8よりなる群から選択される(例えば、Gaoら(2002) PNAS, 99:11854−11859; およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003を参照)。本明細書に掲げたもの以外の他の血清型も使用できる。さらに、偽型AAVベクターもまた、本明細書に記載された方法に利用できる。偽型AAVベクターは、第二のAAV血清型のカプシドにおいて1つのAAV血清型のゲノムを含有するものであり;例えば、AAV2カプシドおよびAAV1ゲノムを含有するAAVベクターまたはAAV5カプシドおよびAAV2ゲノムを含有するAAVベクター。(Auricchioら, (2001) Hum. Mol. Genet., 10(26):3075−81)。しかしながら、AAV5は、治療用導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼ、例えば、ネプリリシンを利用する本発明の方法から特に除外し得る。
【0068】
AAVベクターは、哺乳動物にとって非病原性である一本鎖(ss)DNAパルボウイルスに由来する(Muzyscka (1992) Curr. Top. Microb. Immunol., 158:97−129にレビューされている)。簡潔に言えば、AAVベースのベクターは、 ウイルスDNA複製、パッケージングおよび組込みを開始させるために用いられる2つのフランキング145−塩基対(bp)逆方向末端反復(ITRs)を残して、除去されるウイルスゲノムの96%を占めるrepおよびcapウイルス遺伝子を有する。ヘルパーウイルスの不在下、野生型AAVは、染色体19q 13.3において優先部位特異性を有してヒト宿主細胞ゲノムに組み込まれるか、またはエピソーム的に発現を続けることができる。単一のAAV粒子は、5kbのssDNAまで収容でき、したがって、導入遺伝子および調節要素にとって一般的に十分である約4.5kbを残す。しかしながら、例えば、米国特許第6,544,785号明細書に記載されたトランス−スプライシング系は、この制限のほぼ二倍であり得る。
【0069】
例示的実施形態において、AAVは、AAV2またはAAV1である。多数の血清型の中でアデノ関連ウイルス、特にAAV2は、広範に研究されており、遺伝子療法ベクターとして特性化されている。当業者は、機能性AAVベース遺伝子療法ベクターの調製に精通している。ヒト対象への投与のために種々のAAV製造法、精製法および製剤に関する多数の文献が、広範な公表文献集団に見ることができる(例えば、Viral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003を参照)。さらに、CNSの細胞に標的化されたAAVベース遺伝子療法は、米国特許第6,180,613号明細書および米国特許第6,503,888号明細書に記載されている。
【0070】
本発明の一定の方法において、ベクターは、プロモーターに操作可能に結合した導入遺伝子を含んでなる。該導入遺伝子は、生物活性分子をコードし、CNSにおけるその発現により、神経病態の少なくとも部分的な矯正をもたらす。幾つかの実施形態において、導入遺伝子は、リソソームヒドロラーゼをコードする。例示的実施形態において、リソソームヒドロラーゼはASMである。ヒトASMのゲノムおよび機能性cDNAの配列は、公表されている(例えば、米国特許第5,773,278号明細書および米国特許第6,541,218号明細書を参照)。他のリソソームヒドロラーゼも、例えば、表1に掲げられているように、適切な疾患に使用できる。
【0071】
本発明はさらに、ヒトなどの哺乳動物におけるアルツハイマー病を治療する方法を提供する。このような方法において、導入遺伝子は、メタロエンドペプチダーゼをコードする。メタロエンドペプチダーゼは、例えば、アミロイド−ベータ分解酵素ネプリリシン(EC 3.4.24.11;配列登録番号、例えば、P08473(SWISS−PROT))、インスリン分解酵素インスリシン(EC 3.4.24.56;配列登録番号、例えば、P14735 (SWISS−PROT))またはチメットオリゴペプチダーゼ(EC 3.4.24.15;配列登録番号、例えば、P52888(SWISS−PROT))であり得る。
【0072】
真核細胞における導入遺伝子発現レベルは、主として導入遺伝子発現カセット内の転写プロモーターにより判定される。長期活性を示し、組織特異的、さらに細胞特異的であるプロモーターは、幾つかの実施形態に使用される。プロモーターの非限定例としては、限定はしないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kaplittら(1994) Nat. Genet., 8:148−154)、CMV/ヒト/β3−グロビンプロモーター(Mandelら(1998) J. Neurosci., 18:4271−4284)、GFAPプロモーター(Xuら(2001) Gene Ther., 8:1323−1332)、1.8−kbニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Kleinら(1998) Exp. Neurol., 150:183−194)、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーター(Miyazaki (1989) Gene, 79:269−277)およびβ−グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーター(Shipleyら(1991) Genetics, 10:1009−1018)が挙げられる。発現を延長させるために、他の調節要素、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルスポスト調節要素(WPRE)(Donelloら(1998) J. Virol., 72, 5085−5092)またはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位などの導入遺伝子に操作可能にさらに結合できる。
【0073】
幾つかのCNS遺伝子療法適用に関して、転写活性を制御することが必要である。このために、最後にAAVベクターによる遺伝子発現の薬理学的調節は、例えば、Habermaら(1998) Gene Ther., 5:1604−16011; およびYeら(1995) Science, 283:88−91に記載されているように、種々の調節要素および薬物応答プロモーターにより得ることができる。
【0074】
高力価AAV製剤は、例えば、米国特許第5,658,776号明細書およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003に記載された当業界に公知の技法を用いて製造できる。
【0075】
以下の実施例により、本発明の例示的実施形態が提供される。当業者は、本発明の趣旨および範囲を変更することなく実施できる多数の変更および変型を認識するであろう。このような変更および変型は、本発明の範囲内に包含される。これらの実施例は本発明を決して限定するものではない。
【実施例】
【0076】
組換えベクターの力価
AAVベクター力価は、ゲノムコピー数(1ミリリットル当りゲノム粒子)によって測定された。ゲノム粒子濃度は、以前に報告された(Clarkら(1999) Hum. Gene Ther., 10:1031−1039; Veldwijkら(2002) Mol. Ther., 6:272−278)ベクターDNAのTaqman(登録商標)PCRに基づいた。簡潔に言えば、精製AAV−ASMを、カプシド消化緩衝液(50mM Tris−HCl pH 8.0、1.0 mM EDTA、0.5% SDS、1.0 mg/mlプロテイナーゼK)により50℃で1時間処理し、ベクターDNAを放出させた。DNAサンプルに、ベクターDNA内のプロモーター領域、導入遺伝子、またはポリA配列などの特定配列にアニールするプライマーとのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実行した。次にPCR結果を、パーキンエルマー−アプライドバイオシステムス(Perkin Elmer−Applied Biosystems)(フォスターシティ、カリフォルニア州)プリズム(Prism)7700シークエンスディテクターシステム(Sequence Detector System)などにより提供される、リアルタイムタックマン(Taqman(登録商標))ソフトウェアにより定量化した。
【0077】
β−ガラクトシダーゼまたは緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)などのアッセイ可能なマーカー遺伝子を担持するベクターは、感染力アッセイを用いて滴定できる。感受性細胞(例えば、HeLa、またはCOS細胞)に、AAVを形質導入し、アッセイを実施して、β−ガラクトシダーゼベクター形質導入細胞のX−gal(5−ブロモ−4クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)の染色またはGFP形質導入細胞に対する蛍光顕微鏡などの遺伝子発現を測定する。例えば、アッセイは、以下のとおり実施される:4×104HeLa細胞を、規定の増殖培地を用いて24ウェル培養プレートの各ウェルに入れる。付着後、すなわち、約24時間後、細胞に10の感染多重度(MOI)でAdタイプ5を感染させ、パッケージベクターの一連の希釈液により形質導入し、37℃でインキュベートした。1日から3日後、広範な細胞変性効果が観察される前に、適切なアッセイを細胞に実施する(例えば、X−gal染色または蛍光顕微鏡)。β−ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子が用いられる場合、細胞を、2%パラホルムアルデヒド、0.5%グルタルアルデヒドで固定し、X−galを用いてβ−ガラクトシダーゼ活性に関して染色する。十分に分離した細胞を提供するベクター希釈液をカウントする。各陽性細胞は、ベクターの1形質導入単位(tu)を表す。
【0078】
マウス脳におけるLSD病態の矯正
10週齢ASMKOマウスは、中枢神経系において顕しいNPD病態を含有する。ホモ接合劣性変異体の同定を、PCRにより検証した。16匹の10週齢ASMKOマウスをイソフルランで麻酔にかけ、定位固定フレームに乗せて、基底頭骨を露出させるために切開し、単一のドリルホールを、各マウスの1つの半球上に作製した。2マイクロリットルの高力価(9.3×1012gp/ml)AAV2−CMV−ASM(ターゲッテド・ジェネティックス(Targeted Genetics)、シアトル、ワシントン州)を、前頂の2.0mm吻側、正中線の1.5mm右側、および軟膜表面に対して2.0mm腹側の最終定位固定座標で海馬に注入した。この海馬座標は、AAV2ベクターが歯状回のニューロンおよびアンモン角領域(CA3)のニューロン、ならびに対側海馬の突出ニューロンの軸索末端、内側中隔および嗅内皮質に露出されることを確実にする。注入は、0.2μl/分の速度で実施し、全部で1.86×1010のゲノム粒子を各脳に投与した。
【0079】
当業界に公知であり、Sleatら(2004) J. Neurosci. 24:9117−9126で再現された方法を用いてSmartrod(AccuScan)に対して運動機能に関するロータロッドを加速させ、ロッキングすることにより該マウスを試験した。図10A/Bおよび図11A/Bは、 運動機能の回復測定としてのロータロッド試験結果をグラフとして示している。
【0080】
次にマウスを、注入後(pi)5週目(N=8)または15週目(n=8)に殺処理した。8つの脳(pi5週目および15週目における各々n=4)を、ASM mRNAおよびタンパク質に関して、およびリソソーム中のコレステロールの超生理的レベルの減少に関して分析した。残りの8つの脳(pi5週目および15週目における各々n=4)を、LSD類の貯蔵病態の反転を判定するための最も直接的で正確な方法である、蓄積され、膨張したリソソームの矯正を分析するために組織病理学に関して処理した。
【0081】
強い形質導入が、pi5週目および15週目に注入(同側)海馬内で検出された。顆粒細胞層および歯状回の門部、ならびにCA3の錐体細胞層およびオリエンズ(oriens)細胞層に、AAV2ベクターが広範に形質導入された。形質導入のこの印象的なパターンは、海馬台およびアンモン角領域1(CA1)および2(CA2)などの同側海馬の他の領域に拡張した。抗ヒトASMモノクローナル抗体による免疫蛍光法により、多数の細胞中にASMタンパク質の存在を確認した。全体的なタンパク質パターンは、mRNAパターンと同様であり、一部はタンパク質のさらなる局在化分布を有した。
【0082】
ヒトASM mRNAおよびタンパク質はまた、両時点で同側海馬の外側の領域にも検出された。対側歯状回およびCA3、ならびに内側中隔および嗅内皮質は、インサイチュハイブリダイゼーションおよび免疫蛍光法に対して陽性であった(図1Aおよび2A)。これらの遠位部位における形質導入パターンは、注入部位を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致した(図1Bおよび2B)。これにより、AAV2が、ASMKO脳の海馬内、中隔海馬および嗅内歯状回路内の逆方向軸索輸送を起こし、ウイルスベクターが、軸索上での輸送後、核を標的化することを立証した(図1Cおよび2C)。形質導入パターンは、これら遠位部位へのAAV2輸送に関する理由として柔組織の拡散が支持されていない。このような拡散が生じた場合、注入部位と遠位部位との間の構造は、移動性ウイルスに曝露されていたであろう。しかし、これらの中間構造は、インサイチュハイブリダイゼーションに関して否定的である。例えば、AAV2に対して強力な自然的向性を有する線条体は、海馬と内側中隔との間に直接的な経路に存在しているにもかかわらず、遺伝子輸送に関して否定的である。したがって、遠位部位への遺伝子輸送は、逆方向軸索輸送により引き起こされていたに違いなく、このことは、罹患突出ニューロンが、疾患脳を通るAAV2移動のための有効なハイウェイ輸送系として機能できることを示している。
【0083】
ASMKO脳におけるコレステロール異常を反転させるASMの能力がさらに調査された。フィリピン(filipin)は、コレステロール複合体に結合するストレプトミセス属フィリピネンシス(Streptomyces filipinensis)から単離された自己蛍光分子である(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983; およびSarnaら(2001) Eur. J. Neurosci., 13:1−9)。非注入ASMKO脳は、これらのコレステロール複合体が豊富なため高レベルのフィリピン染色を有したが、一方、正常なマウス脳では、フィリピン染色が生じなかった。
【0084】
AAV2−CMV−ASMの注入により、ASMKOマウスのpi5週目および15週目に同側および対側海馬、中隔および嗅内皮質の全体を通してフィリピン染色の完全な喪失がもたらされた(図1Aおよび2A)。これは、非注入週齢マッチドASMKO対照と完全に対照的であり、高レベルのフィリピン染色が、これら前記構造に検出された。AAV2注入脳のフィリピン染色の喪失は、ASM疾患の第二の細胞表現型(例えば、代謝欠損)が矯正されたことを立証している。これは、ASMタンパク質がリソソームに標的化され、スフィンゴミエリン−コレステロール複合体と相互作用していることを強く示唆している。この相互作用により、スフィンゴミエリンからのコレステロール放出、引き続いてコレステロールの通常の生物学的経路(分解または細胞膜への転座など(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983))への進入を生じ易い。
【0085】
フィリピン染色の喪失は、全ての細胞層および海馬内、中隔海馬ならびに嗅内歯状回路のサブフィールドに見られた。コレステロール矯正領域は、ASMタンパク質パターンよりもはるかに大きく、広範囲であった。これは、AAV2の逆方向軸索輸送後、突出ニューロンが「酵素ポンプ」として機能し、ASMタンパク質を周囲組織内に分泌させた可能性を示している。意義深いことに、ASMKO罹患細胞内のコレステロール蓄積に対する治療効果を得るために必要なのは、ほんの少量のASMであり、これは免疫蛍光プロトコルの検出限界未満の量である。
【0086】
AAV2−ASMベクターの軸索輸送が、NPDの第一の細胞表現型の矯正をもたらすかどうかを評価した。1ミクロンの厚さの組織病理学的脳切片により、pi5週目でAAV2−CMV−ASMの注入脳において蓄積し、膨張したリソソーム病態の著しい減少が立証された(表2)。正常な細胞構造の部分的または完全修復をもたらす病態の反転が、海馬の同側および対側半球の全ての領域に生じた。内側中隔および嗅内皮質もまた、貯蔵病巣においてかなりの減少を示した。フィリピンデータと同様に、矯正された細胞数は、ASMタンパク質パターンよりも多く、広く行き渡っていた。病態の反転は、海馬内、中隔海馬ならびに嗅内歯状回路などの海馬に突出することが知られている領域内で明白であった。総合して、矯正容量は、対側海馬において30〜35mm3以上、同側嗅内皮質において5〜8mm3以上、対側嗅内皮質において1〜2mm3以上、および内側中隔において2〜3mm3以上であった。これは、ウイルスが単に拡散により媒介される場合、近くの構造(これらの回路に寄与しない)が矯正されたであろうから、ウイルスベクターの軸索輸送がこの治療効果を招いたことをさらに支持している(表2の「同側線条体」および「対側線条体」を参照)。
【0087】
病態の反転が、ASMに特異的であることを立証するために、ASMKOマウスのさらなる群に、レポーター遺伝子、AAV2−CMV−β−gal(pi5週目および15週目における各々n=2)を担持する対照ベクターを注入し、組織病理学に関して処理した。4つの脳の全てにおいて、細胞は、膨張性リソソームにより満たされたままであり、細胞質膨張および非組織化細胞層などの他の異常を含んだ。
表2
【表3】
++++ 実質的に全ての細胞において高レベルの病態
+++ 多くの細胞病態において、一部の細胞に矯正が見られる
++ 一部の細胞病態において、多くの細胞に矯正が見られる
+ 大部分の細胞において病態が殆ど無いか、または全く無く、実質的に細胞は全て矯正されている
【0088】
このように本発明によれば、高力価AAV2ベクターの単回注入により、ASMKO罹患海馬を神経支配する構造にASM遺伝子を移動させるのに十分である。AAV2ベクターに関して肯定的な構造数は、嗅内歯状回路にのみ軸索輸送を示した正常なラット海馬における最近の研究により立証されたものよりも多かった(Kasparら(2002) Mol. Ther., 5:50−56)。本明細書に記載された結果により、軸索輸送が、貯蔵病態に罹った突出ニューロンに生じることができ、この輸送モードが、注入部位に近位の構造および遠位の複数領域における貯蔵病態のクリアランスをもたらすことを立証している。軸索輸送が、海馬に関連するこれらの回路のみに限定されていないこともまた我々は立証している。逆方向軸策輸送が、黒質線条体(図3)および髄小脳(図4)に生じた。これは、疾患危険性ニューロンにおけるAAV2の軸索輸送が、ウイルスベクターの一般的性質であることを立証している。
【0089】
同様の試験を、1〜4×1013gp/mlの濃度でのAAV1−ASMおよび8.4×1012gp/mlの濃度でのAAV7−ASMを用いて実施した。AAV1は、検出可能な逆方向軸索輸送を示さなかったが、AAV7は、AAV2と同様の逆方向軸索輸送を受けて、遠位領域におけるLSD病態を矯正した(図5を参照)。
【0090】
小脳へのAAVの注入
ASMKOマウスを、イソフルランで麻酔にかけ、定位固定フレーム上に乗せた。前頂を参照点として配置し、小脳の深部小脳核領域への注入のためのドリル位置を決定した。配置したら、基底の頭骨を露出させるために切開を行い、単一のドリルホールを、脳表面に貫通させることなく頭骨に作製した。ハミルトンシリンジを、このホールを介して脳内に降下し、AAV2−CMV−ASMを、1秒当り0.5マイクロリットルの速度で深部小脳核に注入した。全用量が1×1010ゲノム粒子の3マイクロリットルが注入された。マウスを注入7週後に殺処理した。脳および脊髄を、ASM mRNA発現、ASMタンパク質発現、フィリピン染色、およびカルビンジン染色に関して評価した。
【0091】
フィリピンは、コレステロール複合体に結合する自己蛍光分子である。未処置ASMKOマウスは、それらの疾患の結果蓄積する豊富なコレステロール複合体のため高レベルのフィリピン染色を有した。対照的に正常なマウス脳は、フィリピン染色を生じない。
【0092】
カルビンジンは、小脳に見られ、協調運動に関与するプルキンエ細胞のマーカーである。ASMKO細胞において、プルキンエ細胞は、それらの加齢化と共に次々に死滅し、協調運動挙動の低下をもたらす。このプルキンエ細胞の喪失およびそれに関連する協調運動挙動の喪失は、正常なマウスには見られない。
【0093】
深部小脳核へのAAV2注入後、小脳は、ASM mRNA、ASMタンパク質、およびカルビンジン染色に関して陽性であった。これらの結果により、深部細胞核への注入後、小脳に形質導入するAAV2の能力を立証している。さらに、小脳への形質導入および生じたASM発現は、処置マウスにおけるカルビンジン染色の存在により証明されるようにプルキンエ細胞死を防止した。AAV−ASM処置マウスにおいて、hASMタンパク質の発現もまた、脳幹、視床、および中脳の随所に見られた。これらの領域におけるhASMタンパク質発現は、フィリピン/コレステロール染色領域のクリアランスと重なっていた。全体的に見ると、小脳においてASMタンパク質レベルと、フィリピンクリアランスおよびプルキンエ細胞の生存との間に正の相関が存在した。
【0094】
ASM mRNAおよびASMタンパク質は、小脳の外側にも検出された。特に脊髄は、インサイチュハイブリダイゼーションにより証明されるようにASM mRNA発現に陽性であった。脊髄はまた、ASM特異的免疫蛍光法により証明されたASMタンパク質に関して陽性であった。これらの結果により、深部小脳核へのAAVベクターの遠位注入後、脊髄に形質導入されたことを示している。この形質導入パターンは、深部小脳核領域を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致した。これらの結果により、AAV2ベクターは、遠位脊髄細胞により取り込まれ、発現されたことを示している。
【0095】
アルツハイマー病の処置
アルツハイマー病(AD)は、Aβカタボリズムの減少による、アミロイドβ−ペプチド(Aβ)の蓄積を特徴とする神経変性障害である。Aβが蓄積されるにつれて、細胞外プラーク内へ凝集し、シナプス機能障害およびニューロンの喪失を引き起こす。この病態は、認知症、協調喪失、および死亡に至る。
【0096】
ネプリリシンは、Aβの正常な分解における速度制限酵素である97kD膜結合亜鉛メタロエンドペプチダーゼである。ネプリリシンの導入は、凝集前にAβプールを除去することにより疾患の進行を減速させることができる。実際、ネプリリシンは、Aβのオリゴマー形体を分解し、それによってADの動物モデルに存在するプラークを除去することが示されている(Kanemitsuら(2003) Neurosci. Lett., 350:113−116)。ネプリリシンノックアウトマウスは、高レベルのAβを示す(Iwataら(2001) J. Neurosci., 24:991−998)。チオルファンおよびホスホルアミドンなどのネプリリシン阻害剤は、マウス脳におけるAβレベルを増加させる(Iwata et al. (2000) Nat. Med., 6:143−150)。さらにネプリリシンmRNAレベルの減少は、ヒト脳における高いアミロイドプラーク負荷領域に見られており、ネプリリシンとADとの間の結合をさらに立証している(Yasojimaら(2001) Neurosci. Lett., 297:97−100)。
【0097】
ADに最も罹患した脳領域は、海馬、皮質、小脳、線条体および視床である(例えば、Iwataら(2001)上記文献; Yasojimaら(2001)上記文献を参照)。これらは、AAVによる効率的な逆方向軸策輸送を示す脳領域と同じである。
【0098】
したがって、脳回路を介する我々の標的部位へのウイルスの直接注入、引き続く転座により、治療用導入遺伝子を高いプラーク負荷の領域に送達させるためにAAVを使用することができる。ネプリリシンのウイルスベクター媒介遺伝子移動は、ADのマウスモデルの処置において有効であった (Marrら(2003) J. Neurosci., 23:1992−1996; Marrら(2004) J. Mol. Neurosci., 22:5−11; Iwataら(2004) J. Neurosci., 24:991−998)。最近の報告で、AAV5−ネプリリシンは、ネプリリシン欠損マウスにおける海馬のシナプス前末端からAβを除去し、シナプスにおけるプラーク形成を減速したことが示された(Iwataら(2004)上記文献)。この報告書において、ネプリリシンは対側海馬に見られたが、これが、ウイルスの逆方向輸送に起因するのか、または発現タンパク質の順行性輸送に起因するのかは未だ不明である。
【0099】
コレステロール貯蔵病態の矯正
以下の実験では、深部小脳核内への片側注入後、ASMKOマウスにおいてhASMタンパク質を発現し、コレステロール貯蔵病態を矯正し、輸送を受け、プルキンエ細胞を救出し、機能性回復を開始させるための、ヒトASM(hASM)をコードする組換えAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型ベクターの相対的能力を評価した。導入遺伝子タンパク質の分布/発現の増大により、挙動性機能回復が改善するかどうかを評価するために、ASMKOマウスのさらなる群は、両側注入をDCNに受けた。
【0100】
66匹のオスホモ接合性(−/−)酸スフィンゴミエリナーゼノックアウト(ASMKO)マウスおよび16匹のオス野生型同腹仔対照を、ヘテロ接合体交配(+/−)から飼育した。マウスを、Galら(1975) N Engl J Med:293:632−636に記載された手法に従ってPCRにより遺伝子型化した。元の群体からのマウスを、C57/Bl6系統と戻し交配させた。 動物を12:12時間の明暗サイクル下に収容し、飼料と水を自由に与えた。全ての手法は、動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)により認可されたプロトコルの下で実施された。
【0101】
イソフルランで麻酔にかけた後、マウス(凡そ7週齢)は、以下のAAV血清型ベクター(n=8/ベクター):AAV1−CMV−βgal、AAV1−CMV−ASM、AAV2−CMV−ASM、AAV5−CMV−ASM、AAV7−CMV−ASM、およびAAV8−CMV−ASMのうちの1種を、深部小脳核(DCN)(A−P:前頂から−5.75、M−L:前頂から−1.8、D−V:硬膜から−2.6、切歯バー:0.0)内の片側に注入した。ベクターは、1脳当りの全数が1.86×1010個のゲノム粒子を0.5μl/分の速度でシリンジポンプに据え付けた10μlハミルトンシリンジにより送達された。各ベクターの最終注入容量は4μlであった。外科手術1時間前および24時間後のマウスに、麻酔のためにケトプロフェン(5mg/kg:SC)を投与した。マウス(14週齢)を、注入7週後に殺処理した。マウスの殺処理時点で、ユータゾール(euthasol)(150mg/kg;IP)を過量投与し、迅速に断頭するか(n=5/群)、または経噴門灌流した(n=3/群)。断頭マウスからの脳を迅速に取り出し、液体窒素中でスナップ凍結し、3つの断面(右大脳半球、左大脳半球、および小脳)に切断し、ホモジナイズし、ELISAによるhASMの分析にかけた。灌流マウスからの脳および脊髄を、ヒトASMタンパク質発現、フィリピン染色により検出されるコレステロール蓄積、および50μmのビブラトーン(vibratone)断片上のカルビンジン染色によるプルキンエ細胞の生存に関して処理した。
【0102】
同様のプロトコルを用いて、ASMKOマウス(凡そ7週齢)に、AAV2/1−βgal(n=8)、AAV2/1−ASM(n=5)、およびAAV2/2−ASM(n=5)を両側注入し、ロータロッド試験を受けさせた20週齢目に殺処理した。脳を液体窒素中スナップ凍結し、正中線で2等分し、次いでマウス脳マトリックス(ASIインスツルメンツ社(ASI Instruments,Inc)、ミシガン州)を用いて5つの断片(S1、S2、S3、S4、およびS5)に分けた。断片1〜4は約2mm離れており、S1は最も頭側で、S4は最も尾側であった。断片5は、小脳のみを含んだ。右半球は脳スピンゴミエリン(spingomyelin)レベルを、左半球はhASMレベルを定量化するために用いた。
【0103】
SV40ポリアデニル化配列およびハイブリッドイントロンを有するヒトサイトメガロウイルス最初期(CMV)プロモーターの制御下、完全長ヒトASM cDNAを、血清型2からのITR(AAV2 ITR)類を含有するプラスミドにクローン化した。 Jinら(2002) J Clin Invest. 109:1183−1191。AAV2型複製遺伝子に加えて、血清型特異的カプシドコード化ドメインを含有する一連のヘルパープラスミドを用いる三重トランスフェクションによりハイブリッドベクターを作製した。この方法により、各血清型特異的ビリオンへのAAV2ITRベクターのパッケージングが可能になるRabinowitz,ら(2002) J Virol. 76:791−801。このアプローチにより、AAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8を含む種々の血清型の一連のrAAV−hASMベクターを生成するためにhASM組換えゲノムを使用した。組換えAAVベクター(血清型2/1、2/2および2/5)を、イオン交換クロマトグラフィにより精製した。O’Riordan,ら(2000) J Gene Med 2: 444−54 or CsCl centrifugation (血清型2/8および2/7)Rabinowitzら(2002) J. Urrol. 76:791−801。AAV−ASMビリオン粒子(DNAアーゼ耐性粒子)の最終力価を、CMV配列のTaqMan PCRにより測定した。Clarkら(1999) Hum. Gene Therapy 10:1031−1039。
【0104】
ヒトASM抗体はヒト特異的であり、マウスASMと交差反応しない。50mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)で希釈されたモノクローナル組換えヒトASM(rhASM)抗体(2μg/ml)でコーティングされたコスター(Coster)(コーニング(Corning)、ニューヨーク州)9018プレート(100μl/ウェル)を、2〜8℃で一晩インキュベートした。過剰のコーティング抗体を除去し、遮断用希釈剤(KPL社、メリーランド州)を37℃で1時間加えた。プレートを、マイクロプレート洗浄器(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)で2サイクル洗浄した。標品、対照および標準的希釈緩衝液(PBS、0.05%ツイーン、1% HP−BSA)で希釈されたサンプルを、2つ組でピペットで入れ、37℃で1時間インキュベートした。プレートを上記のとおり洗浄した。ビオチン化組換えヒトASM(rhASM)抗体(標準希釈緩衝液中1:20Kで希釈)の100マイクロリットルを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートしてから、マイクロプレート洗浄器で除去した。次に1:10K希釈のストレプタビジン−HRP(ピアスバイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology,Inc.)、イリノイ州)を加え(100μl/well)、室温で30分間インキュベートした。プレートを上記のとおり洗浄してから、SureBlue TMB(KPL社(KPL,Inc.)、メリーランド州)と共に36〜38℃で15分間インキュベートした。反応を停止用液(KPL社(KPL,Inc.)、メリーランド州)で停止させ、次いで吸光度値を、Spectra Max 340プレートリーダー(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)を用いて450nmで読取った。データ解析は、ソフトマックス・プロ(Softmax Pro)4.3ソフトウェア(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)を用いて完了した。
【0105】
各サンプルのタンパク質濃度は、標品としてウシ血清アルブミンを用い、BCAタンパク質アッセイキット(ピアスバイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology,Inc.)、イリノイ州)を用いて測定した。
【0106】
マウスは、2%パラホルムアルデヒド、0.03%グルタルアルデヒド、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液pH 6.5中、0.002%CaCl2を含有する固定液で経噴門灌流し、続いてpH8.5の同じ固定液で灌流した。マウスの脳および脊髄を切開し、グルタルアルデヒドなしのpH8.5固定液中、4℃で一晩、後固定した。この組織を、0.1 Mリン酸カリウム緩衝液、pH 7.4中で洗浄し、3.5%寒天中に埋め込み、ビブラトームにより50μmの矢状切片に切断した。
【0107】
脳および脊髄を、50μm間隔で矢状にビラトーム切断した。切片を、ヒトASMに対する一次抗体(1:200)による免疫蛍光法用に処理した。切片を、PBS中、10%ロバ血清、0.3%トリトンX−100中で1時間インキュベートし、次いでPBS中の2%ロバ血清、0.2%トリトンX−100中、ビオチン化マウス抗ヒトASMと共に72時間インキュベートした。洗浄後、シグナルは、Tyramide Signal Amplificationキット(パーキンエルマー(PerkinElmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて増幅させた。ヒトASMタンパク質を、ニコン(Nikon)蛍光顕微鏡で可視化し、画像は、SPOTカメラおよびアドビ・フォトショップ(Adobe Photoshop)ソフトウェアで捕捉した。
【0108】
フィリピン複合体(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)を、最初に1mg/mlの貯蔵濃度用に100%メタノールで希釈した。貯蔵液は、−20℃で4週間安定である。PBSで洗浄後、切片を、PBS中、新鮮に作製された10μg/mlのフィリピン液中、暗所で3時間インキュベートした。次に切片を、PBSで3回洗浄した。コレステロール蓄積を、蛍光顕微鏡上紫外線フィルターの下で視覚化した。
【0109】
カルシウム結合タンパク質のカルビンジンに対して特異的な一次抗体を用いて脳を免疫蛍光法用に処理した。切片を、リン酸カリウム緩衝液(KPB)で洗浄してから、リン酸カリウム緩衝生理食塩水(KPBS)によりリンスした。次に切片を、KPBS中、5%ロバ血清、0.25%トリトンX−100中で3時間遮断してから、KPBS中、5%ロバ血清、0.2%トリトンX−100およびマウス抗カルビンジン(1:2500、シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ中)中でインキュベートした。4℃で72時間後、切片を、0.1%トリトンX−100を含むKPBSで3回リンスした。二次抗体、ロバ抗マウスCY3(1:333、ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ(Jackson Immunoresearch Laboratories)、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)を、KPBS+0.1%トリトンX−100に室温で90分間加えた。切片を、KPBで洗浄してから、ゲルコーティングスライド上に乗せた。カルビンジン陽性細胞を、エピ蛍光下で可視化した。小脳のプルキンエ細胞を定量化するために、4つの全断面内側小脳切片を、各動物から選択した。カルビンジン−免疫陽性プルキンエ細胞を、蛍光顕微鏡下で目視し、細胞本体を20×の倍率でカウントした。各小葉は別個にカウントされた。1小葉当り2つの別個の焦点面をカウントした。細胞を二度カウントしないことを保証するために焦点の合った細胞だけをカウントした。
【0110】
50μmのビブラトーム切片を、上記のとおりヒトASMに対して特異的な抗体を用いる免疫蛍光法用に最初に処理した。次に切片を、PBS中で洗浄し、カルビンジン用に上記に概説されたプロトコルを用いてコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT;ウサギポリクローナル、1:500、ケミクロンインターナショナル(Chemicon International)、テメキュラ、カリフォルニア州)に対して染色した。CY3二次抗体ではなく、ロバ抗ウサギFITC(1:200、ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ(Jackson Immunoresearch Laboratories)、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)を用いた。染色は最初、エピ蛍光下で可視化し、後に共焦点顕微鏡により画像を得た。
【0111】
フィリピン染色を以下のとおり定量化した。露出を合わせた画像を、SPOTデジタルカメラが装備されたニコン(Nikon)E600の広視野直立式エピ蛍光顕微鏡を用いて捕捉した。AAV2/1−β−gal群を最初に画像化し、その露出を、全ての追加画像獲得のために使用した。分析された各画像は、各々半分の脳の全長に亘る内側矢状面を表す。形態計測分析は、Metamorphソフトウェア(ユニバーサルイメージング社(Universal Imaging Corporation))を用いて実施した。AAV2/1−β−gal画像を閾値化し;確立されたら、同じ閾値を全ての画像に使用した。使用者により手動で以下の領域が選択され、別個に分析された:小脳、脳橋、延髄、中脳、大脳皮質、海馬、視床、視床下部および線条体。積分強度を、各領域において測定し、所与の動物群からの全ての測定値(n=3/群)を用いて、平均値を出した。次に処置動物におけるコレステロールの減少を、β−gal注入ノックアウトマウスと比較した積分強度の減少パーセントとして算出した。
【0112】
陽性hASM免疫染色は、深部小脳核内へのAAV−ASMの片側注入後、小脳(図6、表3)、脳橋、延髄および脊髄(図7)の随所に見られた。
表3
AAV血清型の関数として陽性hASM染色を有する領域。*は、陽性hASMが検出限界未満であったが、コレステロール病態の矯正が依然として生じたことを示す。
【表4】
【0113】
AAV2/1−ASMで処置された小脳マウス内で、最も広範な(すなわち、同じ矢状切片内の小葉間に分布)hASM発現レベルを有したが、一方、AAV2/2−ASMで処置されたマウスは、最も制限されたレベルのヒトASMタンパク質発現を有した。AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処置されたマウスにおけるヒトASMタンパク質発現は、これら2つの群の間の中間であった。矢状切片間の内側−外側分布は、血清型1および8で処置したマウスで最大であり、最小は血清型2により注入されたマウスである。血清型5および7は、血清型1と2の間の中間に内側−外側分布パターンを開始した。小脳の各層(すなわち、分子、プルキンエおよび顆粒)は、各AAV血清型により形質導入されたが;分子層への親和力増加は、全ての血清型に明白であった。プルキンエ細胞の形質導入は、血清型1および5で処置されたマウスにおいて最大であった。血清型7を注入されたマウスは、最も少数の形質導入プルキンエ細胞を有した。血清型8で処置されたマウスもまた、形質導入プルキンエ細胞を殆ど有さなかったが、血清型1、2、5および7と比較した場合、顆粒層内のASM発現が少なかった。ASMを形質導入した形質導入プルキンエ細胞は、健常な細胞構造を有するように見える。小脳組織ホモジネートにおけるELISAによるAAV媒介hASMタンパク質発現の定量分析は、我々の免疫組織化学的知見を支持している。血清型1および8を注入したマウスは、全ての他のマウスと比較した場合、有意に(p<.0001)高い小脳hASMタンパク質レベルを示した(図8)。血清型2、5、および7を注入したマウスの小脳hASMレベルは、WTレベル(すなわち、バックグラウンド)超ではなかった。予想されたように、ヒトASMは、野生型マウスに検出されず−ELISAに使用されたhASM抗体はヒト特異的である。
【0114】
機能性ASMタンパク質の欠如は、スフィンゴミエリンのリソソーム蓄積をもたらし、引き続き、異常なコレステロール輸送などの二次的代謝欠陥をもたらす。Sarnaら Eur. J. Neurosci. 13:1873−1880およびLeventhalら(2001) J. Biol. Chem. 276:44976−4498。ASMKOマウス脳における遊離コレステロールの蓄積は、ストレプトミセス属フィリピネンシス(streptomyces filipinensis)から単離された自己蛍光分子であるフィリピンを用いて可視化される。野生型マウス脳は、フィリピンに対して陽性染色されない。全てのAAV処置マウスにおいて(AAV2/1−βgalを除いて)、フィリピン染色のクリアランス(表4)は、hASM免疫染色に陽性であった領域と重なり、各血清型のベクターが機能的な導入遺伝子産物を生成できることを示した。
【0115】
表4
ASMKOマウスの深部小脳核にヒトASMをコードする種々のAAV血清型(n=3/血清型;2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の小脳内注入後、選択された脳領域における、AAV−βgalにより処置されたASMKOマウスと比較したフィリピン(すなわち、コレステロール)クリアランスの減少パーセント。
【表5】
【0116】
(Passiniら(2003) in “Society for Neuroscience”、ニューオルリンズ、ルイジアナ州)により以前に立証されたように、フィリピンクリアランスはまた、注入部位と解剖学的に接続した領域に生じるが、hASMに対して陽性染色されなかった。MetaMorph解析により、フィリピン染色の減少が、頭側尾側軸全体の随所に生じたことを示した。小脳および脳幹において、フィリピンは、AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMにより処置されたマウスにおいて減少が最大であったが、一方、間脳および大脳皮質において、AAV2/8−ASMを注入したマウスは、全体的に最良レベルのフィリピンクリアランスを有した(表4)。それにもかかわらず、これらの結果は、コレステロール貯蔵病態を矯正するために必要なhASMのレベルはASMKOマウスCNSが最小であることを示している(すなわち、hASM免疫蛍光法の検出限界未満)。
【0117】
表5
組織学的研究では、ASMKOマウスの小脳が急速な悪化を受けることが示されている。より具体的には、プルキンエ細胞が、8週齢と20週齢との間に進行的に漸次死滅する(Sarnaら(2001) Eur. J. Neurosci. 13:1813−1880およびStewartら(2002) in “Society for Neuroscience”オーランド、フロリダ州)。カルビンジンは、広く許容されているプルキンエ細胞マーカーである。AAV−ASM処置マウスにおける陽性カルビンジン染色は、hASMのAAV媒介発現が治療的であることを示唆すると思われる。総合的に見て、我々の結果は、小脳におけるAAV媒介hASM発現が、ASMKOマウスにおけるプルキンエ細胞死を防止することを示している(表5、図9)。予想されたように、プルキンエ細胞残存は、小葉I−IIIに生じず;マウスは7週齢で注入を受け、8週齢までに、これらの細胞の大部分は既に漸次死滅していた。小葉IV/Vにおけるプルキンエ細胞残存は、血液型1で処置されたマウスにおいて最大であった。小葉VIにおける有意なプルキンエ細胞残存は、AAV処置マウスで見られなかった。小葉VIIにおいて、血液型5で処置されたマウスだけが有意なプルキンエ細胞残存を示した。小葉VIIIにおいて再度血清型5ならびに血清型2で処置されたマウスでは、有意なプルキンエ細胞残存を示した。小葉IXおよびXにおいては、プルキンエ細胞カウントにおけるWTとKOマウスとの間(またはAAV処置マウス間)に有意差はなかった。このことは、14週齢(すなわち、殺処理の週齢)においてこれら小葉のプルキンエ細胞が、ASMKOマウスにおいて依然として生存しているので予想された。全ての小葉の随所に、プルキンエ細胞残存は、血清型1、2、および5で処置されたマウスで最多であり、血清型7および8で処置されたマウスで最少であった。前小脳小葉内のプルキンエ細胞残存(カルビンジン染色に基づく)は、血清型1を注入したマウスにおいて最大であった。
【0118】
ASMKOマウスの深部小脳核にヒトASMをコードする種々のAAV血清型(n=3/血清型;2/1、2/2、2/5、2/7、および2/8)の小脳内注入後、WTおよびASMKOマウスの小脳小葉I−Xにおいてプルキンエ細胞をカウントする。太字イタリックに見える数値は、KOマウス(すなわち、AAV2/1−βgalで処置されたマウス)とは有意差があるp ≦ .01。
【表6】
【0119】
加速ロータロッド試験において、AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを片側注入したマウスは、AAV2/1−βgalを注入したASMKOマウスよりも有意に(p< .0009)長い落下待ち時間を示した(図10)。血清型AA2/1−ASMを注入したマウスは、野生型マウスとは有意差はなかった。AAV2/2−ASMおよびAAV2/5−ASMを注入したマウスは、AAV2/1−βgalを注入したASMKOマウスよりも長い落下待ち時間の傾向を示し;一方、AAV2/7−ASMを注入したマウスは、その傾向を示さなかった。ロッキングロータロッド試験に関しては、AA2/1−ASMを注入したマウスのみが、AA2/1−βgalを注入したマウスよりも有意に(p< .0001)長い落下待ち時間を示した。この場合、野生型マウスは、AA2/1−ASMを注入したマウスよりも有意に良好な成績であった(図10)。AAV2/1−ASMまたはAAV2/2−ASMのいずれかの両側注入を受けたASMKOマウスは、加速およびロッキング双方の試験に関してASMKO AAV2/1−βgal処置マウスよりも有意に(p < .001)良好な成績であった(図11)。AAV2/1−ASM両側注入マウスは、双方の試験に関する野生型マウスと同等な成績であった。
【0120】
AAV生成hASMが、ASMKO CNS内で機能的に活性であるかどうかを判定する1つの方法は、コレステロール貯蔵病態−NPA疾患の二次的代謝欠陥への影響を評価することである。全てのAAV処置マウス(AAV2/1−βgalを除いて)において、コレステロール貯蔵病態の矯正は、hASM免疫染色に陽性であった領域と重なっており、各血清型ベクターは、機能的な導入遺伝子産物を生成できることを示した。先に立証されたように、コレステロール代謝の異常矯正の矯正は、注入部位と解剖学的に接続した領域にも生じたが、hASMに陽性に染色しなかった領域にも生じ、コレステロール貯蔵病態の矯正に必要なhASMのレベルが最小であることを示した。我々のhASM組織化学的および生化学的結果と一致して、血清型1および8で処置されたマウスは、コレステロール貯蔵病態において著しい減少を示した。血清型2、5、および7で処置したマウスもまた、コレステロール貯蔵病態における減少を示したが、血清型1および8で処置したマウスと同程度の減少を示さなかった。
【0121】
コレステロール貯蔵病態の変化は例示的なものであるが、hASM酵素活性のより直接的な測定は、ニーマン−ピック病の哺乳動物の組織に蓄積された主要基質であるスフィンゴミエリンレベルの解析による。AAV血清型1および2の両側注入を受けたマウスの脳組織を、スフィンゴミエリン(SPM)レベルに関してアッセイした(SPMの検出のための組織破砕法は、hASMの検出には適合性でない)。小脳内のSPM組織含量の有意な(p<0.01)減少が、血清型1および2の双方で処置されたマウスに見られた(図12)。SPM組織含量レベルはまた、血清型1を注入したマウスにおける切片2、3、および4(各切片は、隣の切片と2mm離れている)において有意に減少したが、血清型2を注入したマウスでは減少しなかった。
【0122】
hASMをコードするAAV血清型1および2の両側小脳内注入を受けたASMKOマウスは、小脳内のスフィンゴミエリン貯蔵において有意な減少を示した。コレステロール貯蔵の蓄積により見られるように、スフィンゴミエリン貯蔵の有意な減少は、AAV1で両側に処置されたASMKOマウスの小脳の外側の領域にも生じた。
【0123】
総合的に見て、これらの結果により、酵素発現を開始し、脳における貯蔵病態を矯正し、神経変性を防止し(例えば、プルキンエ細胞死を防止することにより)、および運動機能の結果を改善するその相対的能力においてAAV1は、血清型2、5、7、および8よりも好ましいことを示されている。さらに、DCNは、CNSの随所で酵素発現を最大にする注入部位として利用できる。
【0124】
DCNへのAAVベクター注入後の導入遺伝子の発現の分布を評価するために、G93A SOD1(本明細書でSOD1マウスと称されるSOD1G93A変異マウス)に、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする組換えAAVベクターを注入した。マウスの一群には、緑色蛍光タンパク質をコードするAAV血清型1(AAV1−GFP)を注入したが、一方、別の群には、緑色蛍光タンパク質をコードするAAV血清型2(AAV2−GFP)を注入した。
【0125】
マウスは、上記と同様の方法を用いてAAV組換えベクターを有するDCNへ両側注入された。用量は、1部位につき約2.0e10gc/mlであった。マウスは、誕生約110日後に殺処理し、脳と脊髄をGFP染色に関して分析した。
【0126】
緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後、緑色蛍光タンパク質分布が、脳幹(図14を参照)および脊髄領域(図15を参照)に見られた。GFP染色は、DCNならびに嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄にも見られた。全てこれらの領域は、DCNからの投射を受け入れるか、および/またはDCNへの投射を送っている(図16を参照)。
【0127】
本明細書は、本明細書中に引用された参照文献の教示に鑑みて最も完全に解される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。他の多くの実施形態が、本発明に包含されることは当業者により容易に認識される。全ての刊行物、特許および本開示に引用された生物学的配列は、参照としてその全体が本明細書に援用されている。参照として援用されている資料が矛盾するか、または本明細書と一致しない範囲で、本明細書は、このような資料に優先するであろう。本明細書のいずれの参照文献の引用は、このような参照文献が本発明の先行技術であることを認めるものではない。
【0128】
他に指定されない限り、特許請求の範囲を含む本明細書に用いられる成分量、細胞培養、処置条件などを表す全ての数値は、全ての場合、「約」という用語により修飾されるものとして解されるべきである。したがって、相反する記載がないかぎり、数値パラメータは、近似値であり、本発明により得られることが求められる所望の性質に依って変わり得る。他に指定されない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の要素におけるあらゆる要素を指すものとして解すべきである。当業者は、慣例的な実験を用いるのみで、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認できるであろう。このような等価物は、冒頭の特許請求の範囲により包含されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1A】図1Aは、海馬への高力価(9.3×1012gp/ml)AAV−ASMの2μl注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。注入部位が垂直線で示される;in situ hybridizationで検出されるASMmRNAの発現は小さな円で表され;免疫組織学的染色で検出されるASMタンパク質の発現は、大きな斜線の円で表される。発現パターンは、脳の両半球における海馬および皮質領域の病態と逆の広範な領域(薄い斜線で表される)で生じた。
【図1B】図1Bは、図1Aで示される海馬内への高力価AAVの注入後のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、対側海馬(20)への海馬内回路を媒介および嗅内皮質への嗅内歯状(entorhinodentate)回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【図1C】図1Cは、マウス脳の海馬内および嗅内歯状回路の接続を示す模式図である。海馬内(10)への注入は、アンモン角領域3(CA3)および歯状回顆粒細胞層(G)に局在する細胞体の感染および送達を生じた。加えて、注入したAAVベクターのサブセットは、注入部位を神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性軸索輸送を経て、海馬(20)の対側部分のCA3領域(CA)および門部(H)、ならびに嗅内皮質(30)の同側部分のCA3領域(CA)および門部(H)に導入遺伝子を送達する。
【図2A】図2Aは、図1Aに記載される高力価AAV−ASMの海馬内注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。in situ hybridizationで検出されるASMmRNA発現は小さい円で表され;免疫組織化学的染色で検出されるASMタンパク質発現は大きい斜線の円で表される。該注入は、中隔で検出されるASMmRNAおよびタンパク質を起こした。この発現パターンは病態と逆の広範な領域で生じた(薄茶色の斜線で表される)。
【図2B】図2Bは、図1Aで表される海馬への高力価注入のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、注入部位(垂直線で表される)から中隔(40)までの中隔海馬回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【図2C】図2Cは、中隔海馬回路の接続を表す模式図である。海馬への注入は、CA3領域(11)に局在する細胞体への形質導入を生じた。加えて、AAVベクターのサブセットは、注入部位に神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性の軸索輸送を経て、内側中隔(40)に導入遺伝子を送達する。
【図3】図3は、マウス脳の線条体(50)へのAAVの高力価注入後の黒質線条体回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAVの軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から黒質(60)まで生じる。
【図4】図4は、ASMKOマウス脳の小脳(70)へのAAV−ASMの高力価注入後の小脳髄質(medullocerebellar)回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAV2の軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から延髄(80)まで生じる。
【図5】図5は、同側海馬(10)におけるAAV7−ASMの高力価注入後の海馬内、黒質線条体、および嗅内歯状の回路におけるAAVの軸索輸送、ならびにを表す。同側海馬(垂直線で表される)のAAV7−ASM注入後、形質導入された細胞を、対側海馬(90)、内側中隔(40)、および嗅内皮質(100)の全体の吻尾軸に沿ってin situ hybridizationを用いて調べることで検出した。
【図6】図6Aないし6Eは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター((A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8)の注入後の矢状小脳切片におけるヒトASM免疫陽性染色を示す。
【図7】図7Aないし7Eは、深部小脳核から脊髄までのhASM輸送を示す。この効果は、AAV2/2−ASM、AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処理したマウスで観察された。(A)hASM 10×拡大図;(B)hASM 40×拡大図;(C)共焦点hASM;(D)共焦点ChAT;ならびに(E)共焦点hASMおよびChAT
【図8】図8は、深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター(2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の注入後の小脳組織の均一レベルを示す(n=5/群)。同一の文字が並んでいない群は有意に異なる(p<0.0001)。
【図9】図9Aないし9Gは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター[(A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8]の注入後の矢状小脳切片のカルビンジン免疫陽性染色を示す。
【図10】図10Aおよび図10Bは、(AAV−βgalを注入した)ASMKO、WT、およびAAV−ASMを処理したASMKOマウス(n=8/群)における加速およびロッキングロータロッドの成績(14週齢)を示す。同一文字が並んでいない群は有意に異なる。AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを注入されたマウスは、加速ロータロッド試験において、AAV2/1−βgalを注入されたASMKOマウスより有意(p<0.009)に長い落下するまでの待ち時間を示した。ロッキングロータロッド試験では、AAV2/1−ASMを注入されたマウスは、AAV2/1−βgalを注入されたマウスより有意に(p<0.0001)長い落下するまで待ち時間を示した。
【図11】図11Aおよび図11Bは、ASMKO(n=8)、WT(n=8)、および両側にAAV−ASM(n=5/群)を処理したマウス(20週齢)におけるロータロッドの成績を示す。加速およびロッキングの両試験において、AAV−ASMを処理したマウスが、ASMKO AAV2/1−βgalを処理したマウスより有意(p<0.01)に良好な成績を示した。AAV2/1−ASMを注入したマウスの成績は、加速およびロッキングの両試験において野生型と区別できなかった。
【図12】図12は、AAV1−βgalまたはhASMをコードするAAV血清型1と2を両側に注入したASMKOマウスにおける脳のスフィンゴミエリンレベル(20週齢)を示す。脳を5個の吻尾方向の切片に分けた(S1=最も吻側およびS5=最も尾側)。星印はデータ点がASMKOマウスと有意に異なることを示す(p<0.01)。
【図13A】図13Aは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脊髄領域(頸部、胸部、腰部、および仙骨部)間の接続を表す。
【図13B】図13Bは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脳幹領域(中脳、脳橋、および延髄)間の接続を表す。接続は矢印で表され、神経の細胞体領域から開始し、神経の軸索末端領域で終結する。例えば、DCNの3つの領域は各々、脊髄の頸部領域で終結する軸索を送り出す細胞体を有する神経である。一方、脊髄の頸部領域は、DCNの内側または中間領域のどちらかで終結する軸索を送り出す細胞体を有する。
【図14】図14は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脳幹または上部運動神経における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【図15】図15は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脊髄領域における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【図16】図16は、深部小脳核(DCN)へのAAV1ベクターを発現するGFPの両側送達後のマウス脳内のGFP分布を示す。DCNに加えて、GFP陽性染色はまた、嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄でも観察された。これらの領域の全ては、DCNからの投射を受け取るか、および/またはDCNへの投射を送り出すかのどちらかである。
【技術分野】
【0001】
本出願の請求項は、米国法典第35編119条(e)項のもとに2005年5月2日に提出された米国仮出願第60/677057号および米国仮出願第60/685808号の優先権を主張し、それらの内容を参照により本明細書に一体化させる。
【0002】
本発明は、中枢神経系(CNS)および特に脊髄に患った疾患を治療するための組成物および方法に関する。本発明はさらにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのごときウイルスベクターを含む組成物およびその投与方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リソソーム蓄積症(LSD)として知られる代謝性疾患のグループは、40種類以上の遺伝子疾患を含み、それらの多くは多様なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関する。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素が表1に記載される。
【表1】
【表2】
*CNS関連
【0004】
LSDの顕著な特徴はリソソーム代謝産物の異常な蓄積であり、核周辺部における多数の膨張したリソソーム形成を導く。LSD治療の(肝臓特異的な酵素病の治療に対する)主な試みは、複数の別々の組織において、リソソーム蓄積の病態を逆行させることを必要とする。いくつかのLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られる欠乏した酵素の経静脈内注入により効果的に治療され得る。例えば、ゴーシェ病1型患者が内臓疾患のみにかかっていると、組み換えグルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(登録商標)、ジェンザイム社)を用いてERTに有利に反応する。しかし、CNSに罹患する代謝性疾患にかかっている患者(例、2または3型のゴーシェ病)は、補充酵素が血液脳関門(BBB)により脳に入ることを阻害されるため、静脈内のERTに反応しない。さらに、直接注射による補充酵素を脳へ導入する試みは、1つには局所的な高濃度による酵素の毒性(未発表データ)および脳における限られた実質拡散の割合のために成功していない(Pardridge,Peptide Drug Delivery to the Brain,Raven Press,1991)。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβ−ペプチド(Aβ)異化反応の減少によるAβの蓄積に特徴付けられる中枢神経(CNS)に罹患する疾患である。Aβの蓄積とともに、Aβが細胞外プラーク内に凝集し、シナプス機能障害および神経喪失を引き起こす。病態は認知症、運動障害、次いで死を招く。
【0006】
遺伝子治療は、LSDおよびアルツハイマー病を含むCNSに罹患した疾患のために現れた治療法である。このアプローチにおいて、正常な代謝経路への回復および病態の逆行が、遺伝子の正常型または改良型の遺伝子を有するベクターを罹患した細胞に伝達することによって生じる。
【0007】
CNS遺伝子治療は、分裂終了神経に効率的に感染できるウイルスベクターの発展により促進されてきた。CNSへの遺伝子送達のためのウイルスベクターの総説については、Davidsonら.(2003)Nature Rev.,4:353364を参照。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは好都合な毒性および免疫原性特性を示し、神経細胞に導入でき、CNSにおける長期発現を媒介できることから、CNS遺伝子治療に最適と考えられている(Kaplittら. (1994) Nat. Genet., 8:148154; Bartlettら. (1998) Hum. Gene Ther., 9:11811186;およびPassiniら. (2002) J. Neurosci., 22:64376446)。
【0008】
治療用導入遺伝子産物、例えば酵素は、導入した細胞付近に分泌され、次いで他の細胞により吸収されて病態を緩和しうる。このプロセスはクロスコレクション(cross−correction)として知られる(Neufeldら. (1970) Science, 169:141−146)。しかし、LSD状況下の蓄積病態のごとき病態の修復は、典型的には、注入ベクターの限られた実質拡散および分泌される導入遺伝子産物のため、注射部位の極めて近くに限定される(Taylorら. (1997) Nat. Med., 3:771774; Skorupaら. (1999) Exp. Neurol., 160:1727)。よって、複数の脳領域に罹患する神経病態は、特にヒトのごとき大きな脳において、複数の領域に分布した注入を用いた広範囲のベクター送達を必要とする。これは脳の損傷の危険性を著しく増大させる。加えて、脳のいくつかの領域は外科手術でアクセスすることが困難でありうる。それゆえ、拡散を除いたCNS内へのベクター輸送の他の様式が有益であろう。
【0009】
ウイルスが軸索の末端に投与される場合、ウイルスは内部に移行し、軸索に沿って逆行して核に輸送される。ある脳領域の神経は軸索により遠位の脳領域まで相互に連結し、それによりベクター送達に輸送系を提供する。アデノウイルス、HSV、および仮性狂犬病ウイルスの研究は、脳内の遠位構造に遺伝子に送達するこれらウイルスの輸送特性を利用してきた(Soudasら. (2001) FASEB J., 15:22832285; Breakefieldら. (1991) New Biol., 3:203218;およびdeFalcoら. (2001) Science, 291:26082613)。
【0010】
数グループは、AAV血清型2(AAV2)による脳への送達が頭蓋内の注入部位に限定されることを報告した(Kaplittら. (1994) Nat. Genet., 8:148154; Passiniら. (2002) J. Neurosci., 22:64376446; and Chamberlinら. (1998) Brain Res., 793:169175)。1つの最近の報告では、AAV2の逆行性の軸索輸送が、正常なラット脳の回路選択時に起こり得ることが示唆される(Kasparら.(2002)Mol.Ther.,5:5056)。しかし、どんな特異的なパラメーターが確認された軸索輸送を担い、十分かつ有効な軸索輸送が細胞障害の状態の疾患神経で起きているのかどうか、知られていない。実際、LSDの神経で見られる損傷が軸索の輸送を干渉するか、または妨害することさえ報告され(Walkley(1998) Brain Pathol., 8:175193で考察されている)、疾患の神経は軸索に沿ったAAVの輸送を支持しないであろうと推定される。
【0011】
それゆえ、CNSに罹患する代謝性疾患を処置するための新しい治療方法を開発することが必要とされる。
【発明の開示】
【0012】
(発明の要約)
本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)、またはCNS機能の減少のリスクに特徴付けられるもしくは関連する異常なコレステロール蓄積機能のごとき代謝性疾患を治療または予防するための方法および組成物を提供する。
【0013】
本発明は、CNS機能の減少のリスクに特徴付けられるもしくは関連するアルツハイマー病のごとき中枢神経系(CNS)に罹患する疾患を治療または予防するための方法および組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに罹患した患者の脳における領域を選択するために、最小限の侵襲で導入遺伝子を標的に送達する方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる利点は、部分的には以下の記載で説明され、部分には以下の記載から理解され、または本発明の実施によって理解されるかもしれない。
【0016】
ニーマン−ピック病A型のモデルである酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM)ノックアウトマウスに、ヒトASM遺伝子(AAV−ASM)を有するAAV2ベクターが脳の片側半球への単一頭蓋内注射によって投与された。本発明は、部分的には、疾患脳への高力価AAV−ASMの注入が、注入部位に分布する投射神経の組織分布に沿った一貫したパターンにおいて、複数の遠位部位内でのAAV−ASMの発現を生じるという知見および実施に基づく。本発明はさらに、部分的には、AAV−ASMが輸送され、ASMが発現される注入部位および遠位部位におけるリソソーム蓄積病態の広範な修復の知見および実施に基づく。
【0017】
別の態様では、本発明は、深部小脳核内への片側または代替的には両側の注入後、ASMKOマウスにおいてコレステロール蓄積の病態を補正し、機能の回復を開始する方法を提供する。
【0018】
さらに、上記記載の方法であって、導入遺伝子がAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型からなる群から選択される組み換えAAVベクターに送達される方法が提供される。実施の目的のみにおいて、組み換えベクターはマウスモデルにおける機能的なヒトASMタンパク質をコードした。
【0019】
従って、一の態様では、本発明は、哺乳類において神経代謝性疾患を治療する方法を提供する。本発明の方法によって治療される個体群は、表1に記載される疾患のごとき、特にかかる疾患がCNSに罹患する場合には、LSDにかかっている患者またはLSDに発展する危険性のある患者を含むが、それらだけに限らない。実施の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型および/または一般にNPAに関連した第二のコレステロール蓄積の病態である。
【0020】
一の態様では、開示した方法は、患っている患者のCNSに治療産物をコードする導入遺伝子を有するAAVウイルスベクターを投与し、導入遺伝子が治療レベルで投与部位から遠位のCNS内において発現されることを可能にすることを含む。加えて、該ベクターは、CNS障害を治療するのに有効である生物学的に活性な分子をコードするポリヌクレオチドを含んでよい。かかる生物学的に活性な分子は、全長タンパク質の野生型または変異型、タンパク質断片の野生型または変異型、合成ポリペプチド、抗体、およびFab’分子のごとき抗体断片を含むがそれらだけに限らないペプチドを含んでよい。生物学的に活性な分子はまた、一本鎖または二本鎖DNAポリヌクレオチドおよび一本鎖または二本鎖RNAポリヌクレオチドを含んでよい。本明細書で開示される方法の実施に用いられてよい典型的なヌクレオチド技術の総説には、Kurreck, (2003) J., Eur. J. Biochem. 270, 1628−1644 [アンチセンス技術]; Yuら., (2002) PNAS 99(9), 6047−6052 [RNA干渉技術];ならびにElbashirら., (2001) Genes Dev., 15(2):188−200 [siRNA技術]を参照。
【0021】
例示の具体例では、投与は疾患脳への高力価AAVベクター溶液の直接柔組織内注射によって行われる。その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmにおいて治療レベルで投与部位の遠位、対側または同側で発現される。
【0022】
別の態様では、本発明はまた、インビトロにおいて、組み換えAAVゲノムを疾患に冒された神経の核に送達する方法を提供する。いくつかの具体例では、神経で示される細胞病態は、表1に記載される疾患のごときリソソーム蓄積症の細胞病態である。例示の具体例では、病気はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞病態はアルツハイマー病の細胞病態である。組み換えAAVゲノムを病気に冒された神経の核に送達する方法は、病気に冒された神経の軸索末端を、組み換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含む組成物に接触させ、ウイルス粒子が取り込まれ、神経の核まで軸索に沿って細胞内部を逆行的に輸送されることを含む。組成物中のベクター濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x109tu/ml);あるいは(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(x1010iu/ml)である。ある具体例では、神経が投射神経であり、および/または神経の核までの軸索末端の距離が少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmである。
【0023】
本発明は、患者の脳の深部小脳核(DCN)領域の少なくとも1つの領域に、導入遺伝子を含む組み換え向神経性ウイルスベクターを投与することにより、患者の脊髄および/または脳幹領域に送達する方法および組成物を提供する。ウイルス送達は、脊髄および/または脳幹領域において導入遺伝子の発現に好ましい条件下で行う。例示の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞の病態がアルツハイマー病の病態である。
【0024】
別の態様では、本発明は、患者の脳の運動皮質領域に導入遺伝子を含む組み換え向神経性ウイルスベクターを投与することにより、患者の脊髄に導入遺伝子を送達する方法および組成物を提供する。ウイルスベクター送達は、脊髄および/または脳幹領域において導入遺伝子の発現に好ましい条件下で行う。運動皮質領域に投与されるウイルスベクターは、細胞体領域を介して運動神経によって内部移入され、導入遺伝子が発現される。次いで、発現した導入遺伝子は、脊髄に存在する運動神経の軸索末端部分への順行性輸送を経てよい。運動皮質の特性から、脳のこの領域に投与されるウイルスベクターはまた、運動神経の軸索末端まで内部移行されてよい。ウイルスベクターはまた、運動神経の軸索に沿って逆行性移行を経て、運動神経の細胞体で発現されてよい。例示の具体例では、該疾患はニーマン−ピック病A型である。他の具体例では、示される細胞の病態はアルツハイマー病の病態である。
【0025】
別の態様では、本発明は、神経代謝性疾患、例えば、CNSで発症するLSDを患っている哺乳類の神経またはグリア細胞であるCNSの標的細胞に、治療上の導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。該方法は、神経の軸索末端に治療上の導入遺伝子産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を有するAAVベクターを含む組成物を接触させ、ウイルス粒子を取り込ませ、神経の核まで神経に沿って細胞内を逆行的に移行させること;治療上の導入遺伝子産物を発現させ、神経付近で分泌させ、次いで標的細胞に治療上の導入遺伝子産物を取り込ませ、それにより標的細胞内の病態を軽減することを含む。特定の具体例では、組成物中のベクター濃度は、少なくとも(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);あるいは(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。
【0026】
本発明の方法では、治療上の導入遺伝子は生物学的に活性のある分子をコードし、CNSでのその発現は少なくとも神経病態の部分的な修復を生じる。いくつかの具体例では、治療上の導入遺伝子産物はリソソーム加水分解酵素である。例示の具体例では、リソソーム加水分解酵素はASMである。他の具体例では、治療上の導入遺伝子は金属エンドペプチダーゼ、例えば、ネプリライシンである。
【0027】
前記の一般的な記載および下記の詳細な記載の両方は例示および説明のみであり、請求される発明を限定するものではない。
【0028】
(図面の簡単な説明)
図1Aは、海馬への高力価(9.3×1012gp/ml)AAV−ASMの2μl注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。注入部位が垂直線で示される;in situ hybridizationで検出されるASMmRNAの発現は小さな円で表され;免疫組織学的染色で検出されるASMタンパク質の発現は、大きな斜線の円で表される。発現パターンは、脳の両半球における海馬および皮質領域の病態と逆の広範な領域(薄い斜線で表される)で生じた。
【0029】
図1Bは、図1Aで示される海馬内への高力価AAVの注入後のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、対側海馬(20)への海馬内回路を媒介および嗅内皮質への嗅内歯状(entorhinodentate)回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【0030】
図1Cは、マウス脳の海馬内および嗅内歯状回路の接続を示す模式図である。海馬内(10)への注入は、アンモン角領域3(CA3)および歯状回顆粒細胞層(G)に局在する細胞体の感染および送達を生じた。加えて、注入したAAVベクターのサブセットは、注入部位を神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性軸索輸送を経て、海馬(20)の対側部分のCA3領域(CA)および門部(H)、ならびに嗅内皮質(30)の同側部分のCA3領域(CA)および門部(H)に導入遺伝子を送達する。
【0031】
図2Aは、図1Aに記載される高力価AAV−ASMの海馬内注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。in situ hybridizationで検出されるASMmRNA発現は小さい円で表され;免疫組織化学的染色で検出されるASMタンパク質発現は大きい斜線の円で表される。該注入は、中隔で検出されるASMmRNAおよびタンパク質を起こした。この発現パターンは病態と逆の広範な領域で生じた(薄茶色の斜線で表される)。
【0032】
図2Bは、図1Aで表される海馬への高力価注入のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、注入部位(垂直線で表される)から中隔(40)までの中隔海馬回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【0033】
図2Cは、中隔海馬回路の接続を表す模式図である。海馬への注入は、CA3領域(11)に局在する細胞体への形質導入を生じた。加えて、AAVベクターのサブセットは、注入部位に神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性の軸索輸送を経て、内側中隔(40)に導入遺伝子を送達する。
【0034】
図3は、マウス脳の線条体(50)へのAAVの高力価注入後の黒質線条体回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAVの軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から黒質(60)まで生じる。
【0035】
図4は、ASMKOマウス脳の小脳(70)へのAAV−ASMの高力価注入後の小脳髄質(medullocerebellar)回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAV2の軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から延髄(80)まで生じる。
【0036】
図5は、同側海馬(10)におけるAAV7−ASMの高力価注入後の海馬内、黒質線条体、および嗅内歯状の回路におけるAAVの軸索輸送、ならびにを表す。同側海馬(垂直線で表される)のAAV7−ASM注入後、形質導入された細胞を、対側海馬(90)、内側中隔(40)、および嗅内皮質(100)の全体の吻尾軸に沿ってin situ hybridizationを用いて調べることで検出した。
【0037】
図6Aないし6Eは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター((A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8)の注入後の矢状小脳切片におけるヒトASM免疫陽性染色を示す。
【0038】
図7Aないし7Eは、深部小脳核から脊髄までのhASM輸送を示す。この効果は、AAV2/2−ASM、AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処理したマウスで観察された。(A)hASM 10×拡大図;(B)hASM 40×拡大図;(C)共焦点hASM;(D)共焦点ChAT;ならびに(E)共焦点hASMおよびChAT
【0039】
図8は、深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター(2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の注入後の小脳組織の均一レベルを示す(n=5/群)。同一の文字が並んでいない群は有意に異なる(p<0.0001)。
【0040】
図9AないしGは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター[(A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8]の注入後の矢状小脳切片のカルビンジン免疫陽性染色を示す。
【0041】
図10Aおよび図10Bは、(AAV−βgalを注入した)ASMKO、WT、およびAAV−ASMを処理したASMKOマウス(n=8/群)における加速およびロッキングロータロッドの成績(14週齢)を示す。同一文字が並んでいない群は有意に異なる。AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを注入されたマウスは、加速ロータロッド試験において、AAV2/1−βgalを注入されたASMKOマウスより有意(p<0.009)に長い落下するまでの待ち時間を示した。ロッキングロータロッド試験では、AAV2/1−ASMを注入されたマウスは、AAV2/1−βgalを注入されたマウスより有意に(p<0.0001)長い落下するまでの待ち時間を示した。
【0042】
図11Aおよび11Bは、ASMKO(n=8)、WT(n=8)、および両側にAAV−ASM(n=5/群)を処理したマウス(20週齢)におけるロータロッドの成績を示す。加速およびロッキングの両試験において、AAV−ASMを処理したマウスが、ASMKO AAV2/1−βgalを処理したマウスより有意(p<0.01)に良好な成績を示した。AAV2/1−ASMを注入したマウスの成績は、加速およびロッキングの両試験において野生型と区別できなかった。
【0043】
図12は、AAV1−βgalまたはhASMをコードするAAV血清型1と2を両側に注入したASMKOマウスにおける脳のスフィンゴミエリンレベル(20週齢)を示す。脳を5個の吻尾方向の切片に分けた(S1=最も吻側およびS5=最も尾側)。星印はデータ点がASMKOマウスと有意に異なることを示す(p<0.01)。
【0044】
図13Aは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脊髄領域(頸部、胸部、腰部、および仙骨部)間の接続を表す。図13Bは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脳幹領域(中脳、脳橋、および延髄)間の接続を表す。接続は矢印で表され、神経の細胞体領域から開始し、神経の軸索末端領域で終結する。例えば、DCNの3つの領域は各々、脊髄の頸部領域で終結する軸索を送り出す細胞体を有する神経である。一方、脊髄の頸部領域は、DCNの内側または中間領域のどちらかで終結する軸索を送り出す細胞体を有する。
【0045】
図14は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脳幹または上部運動神経における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【0046】
図15は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脊髄領域における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【0047】
図16は、深部小脳核(DCN)へのAAV1ベクターを発現するGFPの両側送達後のマウス脳内のGFP分布を示す。DCNに加えて、GFP陽性染色はまた、嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄でも観察された。これらの領域の全ては、DCNからの投射を受け取るか、および/またはDCNへの投射を送り出すかのどちらかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明を、より容易に理解できるように、最初に一定の用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通して記載される。
【0049】
「導入遺伝子」という用語は、細胞に導入され、適切な条件下で翻訳でき、および/または発現でき、それを導入した細胞に所望の性質を付与し、あるいは所望の治療結果をもたらすポリヌクレオチドを称す。
【0050】
ウイルス力価に関して用いられる「ゲノム粒子(gp)」、または「ゲノム等価体」という用語は、感染性または機能性とは無関係に組換えAAV DNAゲノムを含有するビリオン数を称す。特定のベクター調製におけるゲノム粒子数は、本明細書における実施例、または、例えば、Clarkら(1999) Hum. Gene Ther., 10:1031−1039; Veldwijkら(2002) Mol. Ther., 6:272−278に記載されるような手法により測定できる。
【0051】
ウイルス力価に関連して用いられる「感染単位(iu)」、「感染性粒子」、または「複製単位」という用語は、例えば、McLaughlinら(1988) J. Virol., 62:1963−1973に記載されている複製中心アッセイとしても知られている感染中心アッセイにより測定される感染性および複製能力のある組換えAAVベクター粒子数を称す。
【0052】
ウイルス力価に関連して用いられる「形質導入単位(tu)」という用語は、本明細書の実施例、または、例えば、Xiaoら(1997) Exp. Neurobiol., 144:113−124; またはFisherら(1996) J. Virol., 70:520−532 (LFU assay)に記載されているものなど、機能性アッセイにより測定される機能性導入遺伝子産物の産生をもたらす感染性組換えAAVベクター粒子数を称す。
【0053】
「治療的」、「治療的有効量」という用語およびそれらの同源語は、神経病理学、例えば、本明細書またはWalkley (1998) Brain Pathol., 8:175−193に記載されているものなどのリソソーム蓄積症と関連する細胞病態の矯正など、対象における症状の予防もしくは発症の遅延あるいは改善、または所望の生物学的結果の達成をもたらす化合物量を称す。「治療的矯正」という用語は、対象における症状の予防もしくは発症の遅延あるいは改善をもたらす程度の矯正を称す。有効量は、当業界に周知の方法、および引き続く節に記載された方法により決定できる。
【0054】
方法および組成物
ASMKOマウスは、A型およびB型のニーマン−ピック病の公認モデルである(Horinouchiら(1995) Nat. Genetics, 10:288−293; Jinら(2002) J. Clin. Invest., 109:1183−1191; およびOtterbach (1995) Cell, 81:1053−1061)。ニーマン−ピック病(NPD)は、リソソーム蓄積症として分類され、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンホスホヒドロラーゼ、EC3.1.3.12)における遺伝子欠損を特徴とする遺伝性神経代謝障害である。機能性ASMタンパク質の欠乏により、脳の至る所でニューロンおよびグリア細胞のリソソーム内にスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。これによって、A型NPDの特徴でありかつ第一の細胞表現型である神経細胞体において多数の膨張性リソソームの形成に至る。膨張性リソソームの存在は、正常な細胞機能の喪失および幼児期における罹患個体を死亡に至らしめる進行性神経変性過程と相互に関連する(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriverら, McGraw−Hill, New York, 2001, pp. 3589−3610)。第二の細胞表現型(例えば、さらなる代謝異常性)はまた、この疾患、とりわけリソソームコンパートメントにおけるコレステロールの高レベル蓄積に関連している。スフィンゴミエリンは、コテステロールに対して強力な親和力を有し、ASMKOマウスおよびヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの封鎖を生じさせる(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277−293; およびVianaら(1990) J. Med. Genet., 27:499−504)。
【0055】
本発明は、ASMKOマウスの疾患脳への高力価AAV−ASMの海馬内への注入により、注入部位を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致する様式で、注入部位から遠位にASM mRNAおよびタンパク質の発現が生じるという発見と立証に一部基づいている。注入部位での強い発現に加えて、ASM mRNAおよびタンパク質はまた、同側(注入された)海馬の外側の幾つかの遠位領域、特に対側海馬歯状回とCA3、ならびに内側隔壁と嗅内皮質において検出される。本発明はさらに、遠位部位における海馬貯蔵病態の広範な矯正、それによってより少数の注入部位による、より大容量の矯正を可能にすることの発見および立証に一部基づいている。
【0056】
したがって、一態様において、本発明は、哺乳動物における神経代謝障害を治療する方法を提供する。本発明の方法により治療を受ける集団としては、限定はしないが、表1に掲げられた疾患、特にこのような疾患がCNSに影響を及ぼす場合などの神経代謝障害、例えば、LSDに罹っているか、またはそれを発現する危険性のある患者が挙げられる。例示となる実施形態において、該疾患はニーマン−ピック病A型である。一定の実施形態において、神経代謝障害としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、テイ−サックス病、レッシュ−ナイハン病、およびクロイツフェルト−ヤコブ病が挙げられる。しかしながら、治療的導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼを利用する本発明の方法は、アルツハイマー病およびアミロイド関連障害の治療に特に有用である。
【0057】
幾つかの実施形態において、神経代謝障害を治療する方法は、導入遺伝子産物が第一の部位に対して遠位のCNS内の第二の部位に治療的レベルで発現されるように、治療用導入遺伝子を担持する高力価AAVベクターの投与を含んでなる。幾つかの実施形態において、高力価の組成物は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。さらなる実施形態において、この投与は、疾患脳内への高力価AAVベクター液の直接的柔組織内注入により達成され、その後、導入遺伝子は、投与部位から少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmの治療レベルで投与部位に対して遠位に、対側的または同側的に発現される。
【0058】
第一の部位と第二の部位との間の距離は、投与部位(第一の部位)と、当業界に公知の手法を用いて測定された、または実施例に記載された、例えば、インサイチュハイブリダイゼーションの遠位部位(第二の部位)の検出可能な形質導入の境界域との間の最小距離領域として規定される。より大きな哺乳動物のCNSにおける幾つかのニューロンは、軸策突起のため大きな距離に亘っていることがあり得る。例えば、ヒトにおいて、幾つかの軸索は、1000mm以上の距離に亘っていることがあり得る。したがって、本発明の種々の方法において、AAVは、このような距離での軸索の全長に沿って軸索輸送されて親細胞体に到達し、形質導入できる。
【0059】
CNS内へのベクター投与部位は、投与部位および標的領域が軸策接続を有する限り、神経病理学の所望の標的領域および関与する脳回路のトポロジーに基づいて選択される。この標的領域は、例えば、3−Dの定位座標を用いて規定できる。幾つかの実施形態において、投与部位は、注入されたベクター全量の少なくとも0.1、0.5、1、5、または10%が、少なくとも1、200、500、または1000mm3の標的領域において遠位に送達されるように選択される。投与部位は、脳の遠位領域に接続する突出ニューロンにより神経支配された領域に局在化できる。例えば、黒質および被蓋野は、高密度突出を尾状核および被殻(集合的に線条体として知られている)へ送り出している。黒質および腹側被蓋内のニューロンは、線条体への注入後のAAVの逆方向輸送による形質導入のために標的化できる。別の例として、海馬は、脳の他の領域から十分に規定された予測可能な軸索突出を受け入れている。他の投与部位は、例えば、脊髄、脳幹(延髄と脳橋)、中脳、小脳(小脳核を含む)、間脳(視床、視床下部)、終脳(線条体、大脳皮質、または、皮質内の後頭葉、側頭葉、頭頂葉または前頭葉)、またはそれらの組合せにおいて局在化できる。
【0060】
ヒト脳における構造確認に関しては、例えば、The Human Brain: Surface, Three−Dimensional Sectional Anatomy With MRI, and Blood Supply,第2版 Deuteronら, Springer Vela, 1999; Atlas of the Human Brain,ら編. Maiら, Academic Press; 1997; および Co−Planar Sterotaxic Atlas of the Human Brain: 3−Dimensional Proportional System: An Approach to Cerebral Imaging,ら編. Tamarackら, Thyme Medical Pub., 1988を参照されたい。ヒト脳における構造確認に関して、例えば、The Mouse Brain in Sterotaxic Coordinates,第2版, Academic Press, 2000を参照されたい。所望ならば、ヒトの脳構造は、別の哺乳動物の脳における同様の構造と相互に関連させることができる。例えば、ヒトおよびげっ歯類を含む大部分の哺乳動物は、海馬の脊椎部分または中隔ポールに突出している同側および内側嗅内皮質双方の同側部分におけるニューロンと同様の嗅内海馬突出の局所解剖学的組織を示すが、一方、腹側海馬への突出は、主に嗅内皮質の内側部分のニューロンから出ている(Principles of Neural Science,第4版,Kandelら編, McGraw−Hill, 1991; The Rat Nervous System,第2版 Paxinos, Academic Press, 1995)。さらに、嗅内皮質の層II細胞は、歯状回に突起し、それらは歯状回の分子層の外側三分の二において終結する。層III細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3に両側的に突出する。層III細胞からの軸索は、海馬のアンモン角領域CA1およびCA3に両側的に突出して、表皮ラクノース(lacunose)分子層内で終結する。
【0061】
第二の部位(標的)は、第一の部位(投与)に突出しているニューロンを脳および脊髄など、CNSの任意の領域を配置できる。幾つかの実施形態において、第二の部位は、黒質、延髄、または脊髄から選択されたCNSの領域にある。
【0062】
中枢神経系の特定領域、特に脳の特定領域にベクターを特異的に送達させるために、それを定位ミクロ注入により投与できる。例えば、手術日に患者は、適切に固定された定位固定フレーム基材(頭蓋骨にねじ止めされた)を有する。定位固定フレーム基材を有する脳(受託者マーキングとMRI適合性)を、高分解能MRIを用いて画像化する。次にMRI画像を、定位固定ソフトウェアを作動させているコンピュータに移す。一連の冠状、矢状および軸性画像を用いて、ベクター注入および軌道の標的部位を判定する。該ソフトウェアは、軌道を定位固定フレームに適切な3次元座標に直接翻訳する。バーホールは、入口部位上に穴があけられ、定位固定装置を所与の深部に移植された針で局在化する。次いで製薬的に許容できる担体中のベクターが注入される。次にAAVベクターが、第一次標的部位への直接注入により投与され、軸索を介して遠位標的部位に逆方向的に輸送される。さらなる投与経路、例えば、直接的可視化下の表層皮質適用、または他の非定位固定適用を用いることができる。
【0063】
投与される物質の全容量、および投与されるベクターの全粒子数は、遺伝子療法の既知の態様に基づいて当業者により決定される。治療的有効性および安全性は、適切な動物モデルにおいて試験できる。LSD類に関して、例えば、種々の十分に特性化された動物モデルには、例えば、本明細書またはWatsonら(2001) Methods Mol. Med., 76:383−403; または、Jeyakumarら(2002) Neuropath. Appl. Neurobiol., 28:343−357に記載されたものが存在する。
【0064】
実験的マウスにおいて、注入AAV液の全量は、例えば、1μlと5μlとの間である。ヒト脳などの他の哺乳動物に関して、容量および送達速度を適切に調整する。例えば、150μlの用量が、霊長類の脳に安全に注入できることが立証されている(Jansonら(2002) Hum. Gene Ther., 13:1391−1412)。治療は、1標的部位当り単回注入からなるか、または必要ならば、注入路に沿って反復することができる。複数注入部位を使用することができる。例えば、幾つかの実施形態において、最初の投与部位に加えて、導入遺伝子を担持するAAVを含んでなる組成物を、最初の投与部位に対して対側または同側であり得る別の部位に投与する。
【0065】
別の態様において、本発明は、インビボで疾患危険性ニューロンの核への逆方向軸索輸送を介して組換えAAVゲノムを送達する方法を提供する。幾つかの実施形態において、ニューロンにより示される細胞病態は、表1に掲げられるLSDなどである(例えば、Walkley (1998) Brain Pathol., 8:175−193を参照)。例示的実施形態において、該疾患は、ニーマン−ピック病A型である。組換えAAVゲノムの疾患危険性ニューロン核への送達方法は、疾患危険性ニューロンの軸索末端と、組換えAAVゲノムを含むAAVウイルス粒子を含んでなる組成物とを接触させること、ウイルス粒子を形質膜陥入させ、軸索に沿って細胞内に逆方向でニューロン核へ輸送させることを含み、組成物中のAAVゲノム濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。一定の実施形態において、ニューロンは突出ニューロンであり、および/または軸索末端からニューロン核への距離は、少なくとも2、3、5、8、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mmである。種々の実施形態において、AAVゲノムは、軸索長に依って変わる距離で軸索の全長に沿って輸送される。ヒトにおいて、これらの距離は、1000mm以上の大きさであり得る。
【0066】
別の態様において、本発明は、障害、例えば、表1に掲げられるLSDに罹患した哺乳動物のニューロンまたはグリア細胞であるCNSの標的細胞に、導入遺伝子産物を送達する方法を提供する。該方法は、ニューロンの軸索末端と、治療用遺伝子導入産物をコードする遺伝子の少なくとも一部を担持するAAVベクターを含んでなる組成物とを接触させること;ウイルス粒子を形質膜陥入させ、軸索に沿って細胞内に逆方向でニューロン核へ輸送させること;導入遺伝子産物をニューロンにより発現させ、分泌させること;および第二の細胞に導入遺伝子産物を取り込ませることを含み、それによって導入遺伝子産物は、第二の細胞における病態を軽減する。幾つかの実施形態において、組成物中のAAVベクターの濃度は、少なくとも:(a)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1012gp/ml);(b)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×109tu/ml);または(c)5、6、7、8、8.4、9、9.3、10、15、20、25、または50(×1010iu/ml)である。例えば、リソソームヒドロラーゼは、形質導入細胞により分泌させることができ、引き続きマンノース−6−ホスフェート受容体媒介飲食作用を介して別の細胞により取り込ませ、第二の細胞に形質導入してもよいし、非形質導入でもよい(Sandoら(1977) Cell, 12:619−627; Taylorら(1997) Nat. Med., 3:771−774; Mirandaら(2000) Gene Ther., 7:1768−1776; および Jinら(2002) J. Clin. Invest., 109:1183−1191)。
【0067】
本発明の方法において、ベクターが疾患危険性の脳において逆方向性軸索輸送を起こすことができる限り、任意の血清型のAAVもまた使用できる。本発明の一定の実施形態に用いられるウイルスベクターの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8よりなる群から選択される(例えば、Gaoら(2002) PNAS, 99:11854−11859; およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003を参照)。本明細書に掲げたもの以外の他の血清型も使用できる。さらに、偽型AAVベクターもまた、本明細書に記載された方法に利用できる。偽型AAVベクターは、第二のAAV血清型のカプシドにおいて1つのAAV血清型のゲノムを含有するものであり;例えば、AAV2カプシドおよびAAV1ゲノムを含有するAAVベクターまたはAAV5カプシドおよびAAV2ゲノムを含有するAAVベクター。(Auricchioら, (2001) Hum. Mol. Genet., 10(26):3075−81)。しかしながら、AAV5は、治療用導入遺伝子としてメタロエンドペプチダーゼ、例えば、ネプリリシンを利用する本発明の方法から特に除外し得る。
【0068】
AAVベクターは、哺乳動物にとって非病原性である一本鎖(ss)DNAパルボウイルスに由来する(Muzyscka (1992) Curr. Top. Microb. Immunol., 158:97−129にレビューされている)。簡潔に言えば、AAVベースのベクターは、 ウイルスDNA複製、パッケージングおよび組込みを開始させるために用いられる2つのフランキング145−塩基対(bp)逆方向末端反復(ITRs)を残して、除去されるウイルスゲノムの96%を占めるrepおよびcapウイルス遺伝子を有する。ヘルパーウイルスの不在下、野生型AAVは、染色体19q 13.3において優先部位特異性を有してヒト宿主細胞ゲノムに組み込まれるか、またはエピソーム的に発現を続けることができる。単一のAAV粒子は、5kbのssDNAまで収容でき、したがって、導入遺伝子および調節要素にとって一般的に十分である約4.5kbを残す。しかしながら、例えば、米国特許第6,544,785号明細書に記載されたトランス−スプライシング系は、この制限のほぼ二倍であり得る。
【0069】
例示的実施形態において、AAVは、AAV2またはAAV1である。多数の血清型の中でアデノ関連ウイルス、特にAAV2は、広範に研究されており、遺伝子療法ベクターとして特性化されている。当業者は、機能性AAVベース遺伝子療法ベクターの調製に精通している。ヒト対象への投与のために種々のAAV製造法、精製法および製剤に関する多数の文献が、広範な公表文献集団に見ることができる(例えば、Viral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003を参照)。さらに、CNSの細胞に標的化されたAAVベース遺伝子療法は、米国特許第6,180,613号明細書および米国特許第6,503,888号明細書に記載されている。
【0070】
本発明の一定の方法において、ベクターは、プロモーターに操作可能に結合した導入遺伝子を含んでなる。該導入遺伝子は、生物活性分子をコードし、CNSにおけるその発現により、神経病態の少なくとも部分的な矯正をもたらす。幾つかの実施形態において、導入遺伝子は、リソソームヒドロラーゼをコードする。例示的実施形態において、リソソームヒドロラーゼはASMである。ヒトASMのゲノムおよび機能性cDNAの配列は、公表されている(例えば、米国特許第5,773,278号明細書および米国特許第6,541,218号明細書を参照)。他のリソソームヒドロラーゼも、例えば、表1に掲げられているように、適切な疾患に使用できる。
【0071】
本発明はさらに、ヒトなどの哺乳動物におけるアルツハイマー病を治療する方法を提供する。このような方法において、導入遺伝子は、メタロエンドペプチダーゼをコードする。メタロエンドペプチダーゼは、例えば、アミロイド−ベータ分解酵素ネプリリシン(EC 3.4.24.11;配列登録番号、例えば、P08473(SWISS−PROT))、インスリン分解酵素インスリシン(EC 3.4.24.56;配列登録番号、例えば、P14735 (SWISS−PROT))またはチメットオリゴペプチダーゼ(EC 3.4.24.15;配列登録番号、例えば、P52888(SWISS−PROT))であり得る。
【0072】
真核細胞における導入遺伝子発現レベルは、主として導入遺伝子発現カセット内の転写プロモーターにより判定される。長期活性を示し、組織特異的、さらに細胞特異的であるプロモーターは、幾つかの実施形態に使用される。プロモーターの非限定例としては、限定はしないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kaplittら(1994) Nat. Genet., 8:148−154)、CMV/ヒト/β3−グロビンプロモーター(Mandelら(1998) J. Neurosci., 18:4271−4284)、GFAPプロモーター(Xuら(2001) Gene Ther., 8:1323−1332)、1.8−kbニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Kleinら(1998) Exp. Neurol., 150:183−194)、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーター(Miyazaki (1989) Gene, 79:269−277)およびβ−グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーター(Shipleyら(1991) Genetics, 10:1009−1018)が挙げられる。発現を延長させるために、他の調節要素、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルスポスト調節要素(WPRE)(Donelloら(1998) J. Virol., 72, 5085−5092)またはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位などの導入遺伝子に操作可能にさらに結合できる。
【0073】
幾つかのCNS遺伝子療法適用に関して、転写活性を制御することが必要である。このために、最後にAAVベクターによる遺伝子発現の薬理学的調節は、例えば、Habermaら(1998) Gene Ther., 5:1604−16011; およびYeら(1995) Science, 283:88−91に記載されているように、種々の調節要素および薬物応答プロモーターにより得ることができる。
【0074】
高力価AAV製剤は、例えば、米国特許第5,658,776号明細書およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, ed. Machida, Humana Press, 2003に記載された当業界に公知の技法を用いて製造できる。
【0075】
以下の実施例により、本発明の例示的実施形態が提供される。当業者は、本発明の趣旨および範囲を変更することなく実施できる多数の変更および変型を認識するであろう。このような変更および変型は、本発明の範囲内に包含される。これらの実施例は本発明を決して限定するものではない。
【実施例】
【0076】
組換えベクターの力価
AAVベクター力価は、ゲノムコピー数(1ミリリットル当りゲノム粒子)によって測定された。ゲノム粒子濃度は、以前に報告された(Clarkら(1999) Hum. Gene Ther., 10:1031−1039; Veldwijkら(2002) Mol. Ther., 6:272−278)ベクターDNAのTaqman(登録商標)PCRに基づいた。簡潔に言えば、精製AAV−ASMを、カプシド消化緩衝液(50mM Tris−HCl pH 8.0、1.0 mM EDTA、0.5% SDS、1.0 mg/mlプロテイナーゼK)により50℃で1時間処理し、ベクターDNAを放出させた。DNAサンプルに、ベクターDNA内のプロモーター領域、導入遺伝子、またはポリA配列などの特定配列にアニールするプライマーとのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実行した。次にPCR結果を、パーキンエルマー−アプライドバイオシステムス(Perkin Elmer−Applied Biosystems)(フォスターシティ、カリフォルニア州)プリズム(Prism)7700シークエンスディテクターシステム(Sequence Detector System)などにより提供される、リアルタイムタックマン(Taqman(登録商標))ソフトウェアにより定量化した。
【0077】
β−ガラクトシダーゼまたは緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)などのアッセイ可能なマーカー遺伝子を担持するベクターは、感染力アッセイを用いて滴定できる。感受性細胞(例えば、HeLa、またはCOS細胞)に、AAVを形質導入し、アッセイを実施して、β−ガラクトシダーゼベクター形質導入細胞のX−gal(5−ブロモ−4クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)の染色またはGFP形質導入細胞に対する蛍光顕微鏡などの遺伝子発現を測定する。例えば、アッセイは、以下のとおり実施される:4×104HeLa細胞を、規定の増殖培地を用いて24ウェル培養プレートの各ウェルに入れる。付着後、すなわち、約24時間後、細胞に10の感染多重度(MOI)でAdタイプ5を感染させ、パッケージベクターの一連の希釈液により形質導入し、37℃でインキュベートした。1日から3日後、広範な細胞変性効果が観察される前に、適切なアッセイを細胞に実施する(例えば、X−gal染色または蛍光顕微鏡)。β−ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子が用いられる場合、細胞を、2%パラホルムアルデヒド、0.5%グルタルアルデヒドで固定し、X−galを用いてβ−ガラクトシダーゼ活性に関して染色する。十分に分離した細胞を提供するベクター希釈液をカウントする。各陽性細胞は、ベクターの1形質導入単位(tu)を表す。
【0078】
マウス脳におけるLSD病態の矯正
10週齢ASMKOマウスは、中枢神経系において顕しいNPD病態を含有する。ホモ接合劣性変異体の同定を、PCRにより検証した。16匹の10週齢ASMKOマウスをイソフルランで麻酔にかけ、定位固定フレームに乗せて、基底頭骨を露出させるために切開し、単一のドリルホールを、各マウスの1つの半球上に作製した。2マイクロリットルの高力価(9.3×1012gp/ml)AAV2−CMV−ASM(ターゲッテド・ジェネティックス(Targeted Genetics)、シアトル、ワシントン州)を、前頂の2.0mm吻側、正中線の1.5mm右側、および軟膜表面に対して2.0mm腹側の最終定位固定座標で海馬に注入した。この海馬座標は、AAV2ベクターが歯状回のニューロンおよびアンモン角領域(CA3)のニューロン、ならびに対側海馬の突出ニューロンの軸索末端、内側中隔および嗅内皮質に露出されることを確実にする。注入は、0.2μl/分の速度で実施し、全部で1.86×1010のゲノム粒子を各脳に投与した。
【0079】
当業界に公知であり、Sleatら(2004) J. Neurosci. 24:9117−9126で再現された方法を用いてSmartrod(AccuScan)に対して運動機能に関するロータロッドを加速させ、ロッキングすることにより該マウスを試験した。図10A/Bおよび図11A/Bは、 運動機能の回復測定としてのロータロッド試験結果をグラフとして示している。
【0080】
次にマウスを、注入後(pi)5週目(N=8)または15週目(n=8)に殺処理した。8つの脳(pi5週目および15週目における各々n=4)を、ASM mRNAおよびタンパク質に関して、およびリソソーム中のコレステロールの超生理的レベルの減少に関して分析した。残りの8つの脳(pi5週目および15週目における各々n=4)を、LSD類の貯蔵病態の反転を判定するための最も直接的で正確な方法である、蓄積され、膨張したリソソームの矯正を分析するために組織病理学に関して処理した。
【0081】
強い形質導入が、pi5週目および15週目に注入(同側)海馬内で検出された。顆粒細胞層および歯状回の門部、ならびにCA3の錐体細胞層およびオリエンズ(oriens)細胞層に、AAV2ベクターが広範に形質導入された。形質導入のこの印象的なパターンは、海馬台およびアンモン角領域1(CA1)および2(CA2)などの同側海馬の他の領域に拡張した。抗ヒトASMモノクローナル抗体による免疫蛍光法により、多数の細胞中にASMタンパク質の存在を確認した。全体的なタンパク質パターンは、mRNAパターンと同様であり、一部はタンパク質のさらなる局在化分布を有した。
【0082】
ヒトASM mRNAおよびタンパク質はまた、両時点で同側海馬の外側の領域にも検出された。対側歯状回およびCA3、ならびに内側中隔および嗅内皮質は、インサイチュハイブリダイゼーションおよび免疫蛍光法に対して陽性であった(図1Aおよび2A)。これらの遠位部位における形質導入パターンは、注入部位を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致した(図1Bおよび2B)。これにより、AAV2が、ASMKO脳の海馬内、中隔海馬および嗅内歯状回路内の逆方向軸索輸送を起こし、ウイルスベクターが、軸索上での輸送後、核を標的化することを立証した(図1Cおよび2C)。形質導入パターンは、これら遠位部位へのAAV2輸送に関する理由として柔組織の拡散が支持されていない。このような拡散が生じた場合、注入部位と遠位部位との間の構造は、移動性ウイルスに曝露されていたであろう。しかし、これらの中間構造は、インサイチュハイブリダイゼーションに関して否定的である。例えば、AAV2に対して強力な自然的向性を有する線条体は、海馬と内側中隔との間に直接的な経路に存在しているにもかかわらず、遺伝子輸送に関して否定的である。したがって、遠位部位への遺伝子輸送は、逆方向軸索輸送により引き起こされていたに違いなく、このことは、罹患突出ニューロンが、疾患脳を通るAAV2移動のための有効なハイウェイ輸送系として機能できることを示している。
【0083】
ASMKO脳におけるコレステロール異常を反転させるASMの能力がさらに調査された。フィリピン(filipin)は、コレステロール複合体に結合するストレプトミセス属フィリピネンシス(Streptomyces filipinensis)から単離された自己蛍光分子である(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983; およびSarnaら(2001) Eur. J. Neurosci., 13:1−9)。非注入ASMKO脳は、これらのコレステロール複合体が豊富なため高レベルのフィリピン染色を有したが、一方、正常なマウス脳では、フィリピン染色が生じなかった。
【0084】
AAV2−CMV−ASMの注入により、ASMKOマウスのpi5週目および15週目に同側および対側海馬、中隔および嗅内皮質の全体を通してフィリピン染色の完全な喪失がもたらされた(図1Aおよび2A)。これは、非注入週齢マッチドASMKO対照と完全に対照的であり、高レベルのフィリピン染色が、これら前記構造に検出された。AAV2注入脳のフィリピン染色の喪失は、ASM疾患の第二の細胞表現型(例えば、代謝欠損)が矯正されたことを立証している。これは、ASMタンパク質がリソソームに標的化され、スフィンゴミエリン−コレステロール複合体と相互作用していることを強く示唆している。この相互作用により、スフィンゴミエリンからのコレステロール放出、引き続いてコレステロールの通常の生物学的経路(分解または細胞膜への転座など(Leventhalら(2001) J. Biol. Chem., 276:44976−44983))への進入を生じ易い。
【0085】
フィリピン染色の喪失は、全ての細胞層および海馬内、中隔海馬ならびに嗅内歯状回路のサブフィールドに見られた。コレステロール矯正領域は、ASMタンパク質パターンよりもはるかに大きく、広範囲であった。これは、AAV2の逆方向軸索輸送後、突出ニューロンが「酵素ポンプ」として機能し、ASMタンパク質を周囲組織内に分泌させた可能性を示している。意義深いことに、ASMKO罹患細胞内のコレステロール蓄積に対する治療効果を得るために必要なのは、ほんの少量のASMであり、これは免疫蛍光プロトコルの検出限界未満の量である。
【0086】
AAV2−ASMベクターの軸索輸送が、NPDの第一の細胞表現型の矯正をもたらすかどうかを評価した。1ミクロンの厚さの組織病理学的脳切片により、pi5週目でAAV2−CMV−ASMの注入脳において蓄積し、膨張したリソソーム病態の著しい減少が立証された(表2)。正常な細胞構造の部分的または完全修復をもたらす病態の反転が、海馬の同側および対側半球の全ての領域に生じた。内側中隔および嗅内皮質もまた、貯蔵病巣においてかなりの減少を示した。フィリピンデータと同様に、矯正された細胞数は、ASMタンパク質パターンよりも多く、広く行き渡っていた。病態の反転は、海馬内、中隔海馬ならびに嗅内歯状回路などの海馬に突出することが知られている領域内で明白であった。総合して、矯正容量は、対側海馬において30〜35mm3以上、同側嗅内皮質において5〜8mm3以上、対側嗅内皮質において1〜2mm3以上、および内側中隔において2〜3mm3以上であった。これは、ウイルスが単に拡散により媒介される場合、近くの構造(これらの回路に寄与しない)が矯正されたであろうから、ウイルスベクターの軸索輸送がこの治療効果を招いたことをさらに支持している(表2の「同側線条体」および「対側線条体」を参照)。
【0087】
病態の反転が、ASMに特異的であることを立証するために、ASMKOマウスのさらなる群に、レポーター遺伝子、AAV2−CMV−β−gal(pi5週目および15週目における各々n=2)を担持する対照ベクターを注入し、組織病理学に関して処理した。4つの脳の全てにおいて、細胞は、膨張性リソソームにより満たされたままであり、細胞質膨張および非組織化細胞層などの他の異常を含んだ。
表2
【表3】
++++ 実質的に全ての細胞において高レベルの病態
+++ 多くの細胞病態において、一部の細胞に矯正が見られる
++ 一部の細胞病態において、多くの細胞に矯正が見られる
+ 大部分の細胞において病態が殆ど無いか、または全く無く、実質的に細胞は全て矯正されている
【0088】
このように本発明によれば、高力価AAV2ベクターの単回注入により、ASMKO罹患海馬を神経支配する構造にASM遺伝子を移動させるのに十分である。AAV2ベクターに関して肯定的な構造数は、嗅内歯状回路にのみ軸索輸送を示した正常なラット海馬における最近の研究により立証されたものよりも多かった(Kasparら(2002) Mol. Ther., 5:50−56)。本明細書に記載された結果により、軸索輸送が、貯蔵病態に罹った突出ニューロンに生じることができ、この輸送モードが、注入部位に近位の構造および遠位の複数領域における貯蔵病態のクリアランスをもたらすことを立証している。軸索輸送が、海馬に関連するこれらの回路のみに限定されていないこともまた我々は立証している。逆方向軸策輸送が、黒質線条体(図3)および髄小脳(図4)に生じた。これは、疾患危険性ニューロンにおけるAAV2の軸索輸送が、ウイルスベクターの一般的性質であることを立証している。
【0089】
同様の試験を、1〜4×1013gp/mlの濃度でのAAV1−ASMおよび8.4×1012gp/mlの濃度でのAAV7−ASMを用いて実施した。AAV1は、検出可能な逆方向軸索輸送を示さなかったが、AAV7は、AAV2と同様の逆方向軸索輸送を受けて、遠位領域におけるLSD病態を矯正した(図5を参照)。
【0090】
小脳へのAAVの注入
ASMKOマウスを、イソフルランで麻酔にかけ、定位固定フレーム上に乗せた。前頂を参照点として配置し、小脳の深部小脳核領域への注入のためのドリル位置を決定した。配置したら、基底の頭骨を露出させるために切開を行い、単一のドリルホールを、脳表面に貫通させることなく頭骨に作製した。ハミルトンシリンジを、このホールを介して脳内に降下し、AAV2−CMV−ASMを、1秒当り0.5マイクロリットルの速度で深部小脳核に注入した。全用量が1×1010ゲノム粒子の3マイクロリットルが注入された。マウスを注入7週後に殺処理した。脳および脊髄を、ASM mRNA発現、ASMタンパク質発現、フィリピン染色、およびカルビンジン染色に関して評価した。
【0091】
フィリピンは、コレステロール複合体に結合する自己蛍光分子である。未処置ASMKOマウスは、それらの疾患の結果蓄積する豊富なコレステロール複合体のため高レベルのフィリピン染色を有した。対照的に正常なマウス脳は、フィリピン染色を生じない。
【0092】
カルビンジンは、小脳に見られ、協調運動に関与するプルキンエ細胞のマーカーである。ASMKO細胞において、プルキンエ細胞は、それらの加齢化と共に次々に死滅し、協調運動挙動の低下をもたらす。このプルキンエ細胞の喪失およびそれに関連する協調運動挙動の喪失は、正常なマウスには見られない。
【0093】
深部小脳核へのAAV2注入後、小脳は、ASM mRNA、ASMタンパク質、およびカルビンジン染色に関して陽性であった。これらの結果により、深部細胞核への注入後、小脳に形質導入するAAV2の能力を立証している。さらに、小脳への形質導入および生じたASM発現は、処置マウスにおけるカルビンジン染色の存在により証明されるようにプルキンエ細胞死を防止した。AAV−ASM処置マウスにおいて、hASMタンパク質の発現もまた、脳幹、視床、および中脳の随所に見られた。これらの領域におけるhASMタンパク質発現は、フィリピン/コレステロール染色領域のクリアランスと重なっていた。全体的に見ると、小脳においてASMタンパク質レベルと、フィリピンクリアランスおよびプルキンエ細胞の生存との間に正の相関が存在した。
【0094】
ASM mRNAおよびASMタンパク質は、小脳の外側にも検出された。特に脊髄は、インサイチュハイブリダイゼーションにより証明されるようにASM mRNA発現に陽性であった。脊髄はまた、ASM特異的免疫蛍光法により証明されたASMタンパク質に関して陽性であった。これらの結果により、深部小脳核へのAAVベクターの遠位注入後、脊髄に形質導入されたことを示している。この形質導入パターンは、深部小脳核領域を神経支配する突出ニューロンの局所解剖学的組織化と一致した。これらの結果により、AAV2ベクターは、遠位脊髄細胞により取り込まれ、発現されたことを示している。
【0095】
アルツハイマー病の処置
アルツハイマー病(AD)は、Aβカタボリズムの減少による、アミロイドβ−ペプチド(Aβ)の蓄積を特徴とする神経変性障害である。Aβが蓄積されるにつれて、細胞外プラーク内へ凝集し、シナプス機能障害およびニューロンの喪失を引き起こす。この病態は、認知症、協調喪失、および死亡に至る。
【0096】
ネプリリシンは、Aβの正常な分解における速度制限酵素である97kD膜結合亜鉛メタロエンドペプチダーゼである。ネプリリシンの導入は、凝集前にAβプールを除去することにより疾患の進行を減速させることができる。実際、ネプリリシンは、Aβのオリゴマー形体を分解し、それによってADの動物モデルに存在するプラークを除去することが示されている(Kanemitsuら(2003) Neurosci. Lett., 350:113−116)。ネプリリシンノックアウトマウスは、高レベルのAβを示す(Iwataら(2001) J. Neurosci., 24:991−998)。チオルファンおよびホスホルアミドンなどのネプリリシン阻害剤は、マウス脳におけるAβレベルを増加させる(Iwata et al. (2000) Nat. Med., 6:143−150)。さらにネプリリシンmRNAレベルの減少は、ヒト脳における高いアミロイドプラーク負荷領域に見られており、ネプリリシンとADとの間の結合をさらに立証している(Yasojimaら(2001) Neurosci. Lett., 297:97−100)。
【0097】
ADに最も罹患した脳領域は、海馬、皮質、小脳、線条体および視床である(例えば、Iwataら(2001)上記文献; Yasojimaら(2001)上記文献を参照)。これらは、AAVによる効率的な逆方向軸策輸送を示す脳領域と同じである。
【0098】
したがって、脳回路を介する我々の標的部位へのウイルスの直接注入、引き続く転座により、治療用導入遺伝子を高いプラーク負荷の領域に送達させるためにAAVを使用することができる。ネプリリシンのウイルスベクター媒介遺伝子移動は、ADのマウスモデルの処置において有効であった (Marrら(2003) J. Neurosci., 23:1992−1996; Marrら(2004) J. Mol. Neurosci., 22:5−11; Iwataら(2004) J. Neurosci., 24:991−998)。最近の報告で、AAV5−ネプリリシンは、ネプリリシン欠損マウスにおける海馬のシナプス前末端からAβを除去し、シナプスにおけるプラーク形成を減速したことが示された(Iwataら(2004)上記文献)。この報告書において、ネプリリシンは対側海馬に見られたが、これが、ウイルスの逆方向輸送に起因するのか、または発現タンパク質の順行性輸送に起因するのかは未だ不明である。
【0099】
コレステロール貯蔵病態の矯正
以下の実験では、深部小脳核内への片側注入後、ASMKOマウスにおいてhASMタンパク質を発現し、コレステロール貯蔵病態を矯正し、輸送を受け、プルキンエ細胞を救出し、機能性回復を開始させるための、ヒトASM(hASM)をコードする組換えAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型ベクターの相対的能力を評価した。導入遺伝子タンパク質の分布/発現の増大により、挙動性機能回復が改善するかどうかを評価するために、ASMKOマウスのさらなる群は、両側注入をDCNに受けた。
【0100】
66匹のオスホモ接合性(−/−)酸スフィンゴミエリナーゼノックアウト(ASMKO)マウスおよび16匹のオス野生型同腹仔対照を、ヘテロ接合体交配(+/−)から飼育した。マウスを、Galら(1975) N Engl J Med:293:632−636に記載された手法に従ってPCRにより遺伝子型化した。元の群体からのマウスを、C57/Bl6系統と戻し交配させた。 動物を12:12時間の明暗サイクル下に収容し、飼料と水を自由に与えた。全ての手法は、動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)により認可されたプロトコルの下で実施された。
【0101】
イソフルランで麻酔にかけた後、マウス(凡そ7週齢)は、以下のAAV血清型ベクター(n=8/ベクター):AAV1−CMV−βgal、AAV1−CMV−ASM、AAV2−CMV−ASM、AAV5−CMV−ASM、AAV7−CMV−ASM、およびAAV8−CMV−ASMのうちの1種を、深部小脳核(DCN)(A−P:前頂から−5.75、M−L:前頂から−1.8、D−V:硬膜から−2.6、切歯バー:0.0)内の片側に注入した。ベクターは、1脳当りの全数が1.86×1010個のゲノム粒子を0.5μl/分の速度でシリンジポンプに据え付けた10μlハミルトンシリンジにより送達された。各ベクターの最終注入容量は4μlであった。外科手術1時間前および24時間後のマウスに、麻酔のためにケトプロフェン(5mg/kg:SC)を投与した。マウス(14週齢)を、注入7週後に殺処理した。マウスの殺処理時点で、ユータゾール(euthasol)(150mg/kg;IP)を過量投与し、迅速に断頭するか(n=5/群)、または経噴門灌流した(n=3/群)。断頭マウスからの脳を迅速に取り出し、液体窒素中でスナップ凍結し、3つの断面(右大脳半球、左大脳半球、および小脳)に切断し、ホモジナイズし、ELISAによるhASMの分析にかけた。灌流マウスからの脳および脊髄を、ヒトASMタンパク質発現、フィリピン染色により検出されるコレステロール蓄積、および50μmのビブラトーン(vibratone)断片上のカルビンジン染色によるプルキンエ細胞の生存に関して処理した。
【0102】
同様のプロトコルを用いて、ASMKOマウス(凡そ7週齢)に、AAV2/1−βgal(n=8)、AAV2/1−ASM(n=5)、およびAAV2/2−ASM(n=5)を両側注入し、ロータロッド試験を受けさせた20週齢目に殺処理した。脳を液体窒素中スナップ凍結し、正中線で2等分し、次いでマウス脳マトリックス(ASIインスツルメンツ社(ASI Instruments,Inc)、ミシガン州)を用いて5つの断片(S1、S2、S3、S4、およびS5)に分けた。断片1〜4は約2mm離れており、S1は最も頭側で、S4は最も尾側であった。断片5は、小脳のみを含んだ。右半球は脳スピンゴミエリン(spingomyelin)レベルを、左半球はhASMレベルを定量化するために用いた。
【0103】
SV40ポリアデニル化配列およびハイブリッドイントロンを有するヒトサイトメガロウイルス最初期(CMV)プロモーターの制御下、完全長ヒトASM cDNAを、血清型2からのITR(AAV2 ITR)類を含有するプラスミドにクローン化した。 Jinら(2002) J Clin Invest. 109:1183−1191。AAV2型複製遺伝子に加えて、血清型特異的カプシドコード化ドメインを含有する一連のヘルパープラスミドを用いる三重トランスフェクションによりハイブリッドベクターを作製した。この方法により、各血清型特異的ビリオンへのAAV2ITRベクターのパッケージングが可能になるRabinowitz,ら(2002) J Virol. 76:791−801。このアプローチにより、AAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8を含む種々の血清型の一連のrAAV−hASMベクターを生成するためにhASM組換えゲノムを使用した。組換えAAVベクター(血清型2/1、2/2および2/5)を、イオン交換クロマトグラフィにより精製した。O’Riordan,ら(2000) J Gene Med 2: 444−54 or CsCl centrifugation (血清型2/8および2/7)Rabinowitzら(2002) J. Urrol. 76:791−801。AAV−ASMビリオン粒子(DNAアーゼ耐性粒子)の最終力価を、CMV配列のTaqMan PCRにより測定した。Clarkら(1999) Hum. Gene Therapy 10:1031−1039。
【0104】
ヒトASM抗体はヒト特異的であり、マウスASMと交差反応しない。50mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)で希釈されたモノクローナル組換えヒトASM(rhASM)抗体(2μg/ml)でコーティングされたコスター(Coster)(コーニング(Corning)、ニューヨーク州)9018プレート(100μl/ウェル)を、2〜8℃で一晩インキュベートした。過剰のコーティング抗体を除去し、遮断用希釈剤(KPL社、メリーランド州)を37℃で1時間加えた。プレートを、マイクロプレート洗浄器(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)で2サイクル洗浄した。標品、対照および標準的希釈緩衝液(PBS、0.05%ツイーン、1% HP−BSA)で希釈されたサンプルを、2つ組でピペットで入れ、37℃で1時間インキュベートした。プレートを上記のとおり洗浄した。ビオチン化組換えヒトASM(rhASM)抗体(標準希釈緩衝液中1:20Kで希釈)の100マイクロリットルを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートしてから、マイクロプレート洗浄器で除去した。次に1:10K希釈のストレプタビジン−HRP(ピアスバイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology,Inc.)、イリノイ州)を加え(100μl/well)、室温で30分間インキュベートした。プレートを上記のとおり洗浄してから、SureBlue TMB(KPL社(KPL,Inc.)、メリーランド州)と共に36〜38℃で15分間インキュベートした。反応を停止用液(KPL社(KPL,Inc.)、メリーランド州)で停止させ、次いで吸光度値を、Spectra Max 340プレートリーダー(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)を用いて450nmで読取った。データ解析は、ソフトマックス・プロ(Softmax Pro)4.3ソフトウェア(モレキュラーデバイシズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州)を用いて完了した。
【0105】
各サンプルのタンパク質濃度は、標品としてウシ血清アルブミンを用い、BCAタンパク質アッセイキット(ピアスバイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology,Inc.)、イリノイ州)を用いて測定した。
【0106】
マウスは、2%パラホルムアルデヒド、0.03%グルタルアルデヒド、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液pH 6.5中、0.002%CaCl2を含有する固定液で経噴門灌流し、続いてpH8.5の同じ固定液で灌流した。マウスの脳および脊髄を切開し、グルタルアルデヒドなしのpH8.5固定液中、4℃で一晩、後固定した。この組織を、0.1 Mリン酸カリウム緩衝液、pH 7.4中で洗浄し、3.5%寒天中に埋め込み、ビブラトームにより50μmの矢状切片に切断した。
【0107】
脳および脊髄を、50μm間隔で矢状にビラトーム切断した。切片を、ヒトASMに対する一次抗体(1:200)による免疫蛍光法用に処理した。切片を、PBS中、10%ロバ血清、0.3%トリトンX−100中で1時間インキュベートし、次いでPBS中の2%ロバ血清、0.2%トリトンX−100中、ビオチン化マウス抗ヒトASMと共に72時間インキュベートした。洗浄後、シグナルは、Tyramide Signal Amplificationキット(パーキンエルマー(PerkinElmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて増幅させた。ヒトASMタンパク質を、ニコン(Nikon)蛍光顕微鏡で可視化し、画像は、SPOTカメラおよびアドビ・フォトショップ(Adobe Photoshop)ソフトウェアで捕捉した。
【0108】
フィリピン複合体(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)を、最初に1mg/mlの貯蔵濃度用に100%メタノールで希釈した。貯蔵液は、−20℃で4週間安定である。PBSで洗浄後、切片を、PBS中、新鮮に作製された10μg/mlのフィリピン液中、暗所で3時間インキュベートした。次に切片を、PBSで3回洗浄した。コレステロール蓄積を、蛍光顕微鏡上紫外線フィルターの下で視覚化した。
【0109】
カルシウム結合タンパク質のカルビンジンに対して特異的な一次抗体を用いて脳を免疫蛍光法用に処理した。切片を、リン酸カリウム緩衝液(KPB)で洗浄してから、リン酸カリウム緩衝生理食塩水(KPBS)によりリンスした。次に切片を、KPBS中、5%ロバ血清、0.25%トリトンX−100中で3時間遮断してから、KPBS中、5%ロバ血清、0.2%トリトンX−100およびマウス抗カルビンジン(1:2500、シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ中)中でインキュベートした。4℃で72時間後、切片を、0.1%トリトンX−100を含むKPBSで3回リンスした。二次抗体、ロバ抗マウスCY3(1:333、ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ(Jackson Immunoresearch Laboratories)、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)を、KPBS+0.1%トリトンX−100に室温で90分間加えた。切片を、KPBで洗浄してから、ゲルコーティングスライド上に乗せた。カルビンジン陽性細胞を、エピ蛍光下で可視化した。小脳のプルキンエ細胞を定量化するために、4つの全断面内側小脳切片を、各動物から選択した。カルビンジン−免疫陽性プルキンエ細胞を、蛍光顕微鏡下で目視し、細胞本体を20×の倍率でカウントした。各小葉は別個にカウントされた。1小葉当り2つの別個の焦点面をカウントした。細胞を二度カウントしないことを保証するために焦点の合った細胞だけをカウントした。
【0110】
50μmのビブラトーム切片を、上記のとおりヒトASMに対して特異的な抗体を用いる免疫蛍光法用に最初に処理した。次に切片を、PBS中で洗浄し、カルビンジン用に上記に概説されたプロトコルを用いてコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT;ウサギポリクローナル、1:500、ケミクロンインターナショナル(Chemicon International)、テメキュラ、カリフォルニア州)に対して染色した。CY3二次抗体ではなく、ロバ抗ウサギFITC(1:200、ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ(Jackson Immunoresearch Laboratories)、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)を用いた。染色は最初、エピ蛍光下で可視化し、後に共焦点顕微鏡により画像を得た。
【0111】
フィリピン染色を以下のとおり定量化した。露出を合わせた画像を、SPOTデジタルカメラが装備されたニコン(Nikon)E600の広視野直立式エピ蛍光顕微鏡を用いて捕捉した。AAV2/1−β−gal群を最初に画像化し、その露出を、全ての追加画像獲得のために使用した。分析された各画像は、各々半分の脳の全長に亘る内側矢状面を表す。形態計測分析は、Metamorphソフトウェア(ユニバーサルイメージング社(Universal Imaging Corporation))を用いて実施した。AAV2/1−β−gal画像を閾値化し;確立されたら、同じ閾値を全ての画像に使用した。使用者により手動で以下の領域が選択され、別個に分析された:小脳、脳橋、延髄、中脳、大脳皮質、海馬、視床、視床下部および線条体。積分強度を、各領域において測定し、所与の動物群からの全ての測定値(n=3/群)を用いて、平均値を出した。次に処置動物におけるコレステロールの減少を、β−gal注入ノックアウトマウスと比較した積分強度の減少パーセントとして算出した。
【0112】
陽性hASM免疫染色は、深部小脳核内へのAAV−ASMの片側注入後、小脳(図6、表3)、脳橋、延髄および脊髄(図7)の随所に見られた。
表3
AAV血清型の関数として陽性hASM染色を有する領域。*は、陽性hASMが検出限界未満であったが、コレステロール病態の矯正が依然として生じたことを示す。
【表4】
【0113】
AAV2/1−ASMで処置された小脳マウス内で、最も広範な(すなわち、同じ矢状切片内の小葉間に分布)hASM発現レベルを有したが、一方、AAV2/2−ASMで処置されたマウスは、最も制限されたレベルのヒトASMタンパク質発現を有した。AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処置されたマウスにおけるヒトASMタンパク質発現は、これら2つの群の間の中間であった。矢状切片間の内側−外側分布は、血清型1および8で処置したマウスで最大であり、最小は血清型2により注入されたマウスである。血清型5および7は、血清型1と2の間の中間に内側−外側分布パターンを開始した。小脳の各層(すなわち、分子、プルキンエおよび顆粒)は、各AAV血清型により形質導入されたが;分子層への親和力増加は、全ての血清型に明白であった。プルキンエ細胞の形質導入は、血清型1および5で処置されたマウスにおいて最大であった。血清型7を注入されたマウスは、最も少数の形質導入プルキンエ細胞を有した。血清型8で処置されたマウスもまた、形質導入プルキンエ細胞を殆ど有さなかったが、血清型1、2、5および7と比較した場合、顆粒層内のASM発現が少なかった。ASMを形質導入した形質導入プルキンエ細胞は、健常な細胞構造を有するように見える。小脳組織ホモジネートにおけるELISAによるAAV媒介hASMタンパク質発現の定量分析は、我々の免疫組織化学的知見を支持している。血清型1および8を注入したマウスは、全ての他のマウスと比較した場合、有意に(p<.0001)高い小脳hASMタンパク質レベルを示した(図8)。血清型2、5、および7を注入したマウスの小脳hASMレベルは、WTレベル(すなわち、バックグラウンド)超ではなかった。予想されたように、ヒトASMは、野生型マウスに検出されず−ELISAに使用されたhASM抗体はヒト特異的である。
【0114】
機能性ASMタンパク質の欠如は、スフィンゴミエリンのリソソーム蓄積をもたらし、引き続き、異常なコレステロール輸送などの二次的代謝欠陥をもたらす。Sarnaら Eur. J. Neurosci. 13:1873−1880およびLeventhalら(2001) J. Biol. Chem. 276:44976−4498。ASMKOマウス脳における遊離コレステロールの蓄積は、ストレプトミセス属フィリピネンシス(streptomyces filipinensis)から単離された自己蛍光分子であるフィリピンを用いて可視化される。野生型マウス脳は、フィリピンに対して陽性染色されない。全てのAAV処置マウスにおいて(AAV2/1−βgalを除いて)、フィリピン染色のクリアランス(表4)は、hASM免疫染色に陽性であった領域と重なり、各血清型のベクターが機能的な導入遺伝子産物を生成できることを示した。
【0115】
表4
ASMKOマウスの深部小脳核にヒトASMをコードする種々のAAV血清型(n=3/血清型;2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の小脳内注入後、選択された脳領域における、AAV−βgalにより処置されたASMKOマウスと比較したフィリピン(すなわち、コレステロール)クリアランスの減少パーセント。
【表5】
【0116】
(Passiniら(2003) in “Society for Neuroscience”、ニューオルリンズ、ルイジアナ州)により以前に立証されたように、フィリピンクリアランスはまた、注入部位と解剖学的に接続した領域に生じるが、hASMに対して陽性染色されなかった。MetaMorph解析により、フィリピン染色の減少が、頭側尾側軸全体の随所に生じたことを示した。小脳および脳幹において、フィリピンは、AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMにより処置されたマウスにおいて減少が最大であったが、一方、間脳および大脳皮質において、AAV2/8−ASMを注入したマウスは、全体的に最良レベルのフィリピンクリアランスを有した(表4)。それにもかかわらず、これらの結果は、コレステロール貯蔵病態を矯正するために必要なhASMのレベルはASMKOマウスCNSが最小であることを示している(すなわち、hASM免疫蛍光法の検出限界未満)。
【0117】
表5
組織学的研究では、ASMKOマウスの小脳が急速な悪化を受けることが示されている。より具体的には、プルキンエ細胞が、8週齢と20週齢との間に進行的に漸次死滅する(Sarnaら(2001) Eur. J. Neurosci. 13:1813−1880およびStewartら(2002) in “Society for Neuroscience”オーランド、フロリダ州)。カルビンジンは、広く許容されているプルキンエ細胞マーカーである。AAV−ASM処置マウスにおける陽性カルビンジン染色は、hASMのAAV媒介発現が治療的であることを示唆すると思われる。総合的に見て、我々の結果は、小脳におけるAAV媒介hASM発現が、ASMKOマウスにおけるプルキンエ細胞死を防止することを示している(表5、図9)。予想されたように、プルキンエ細胞残存は、小葉I−IIIに生じず;マウスは7週齢で注入を受け、8週齢までに、これらの細胞の大部分は既に漸次死滅していた。小葉IV/Vにおけるプルキンエ細胞残存は、血液型1で処置されたマウスにおいて最大であった。小葉VIにおける有意なプルキンエ細胞残存は、AAV処置マウスで見られなかった。小葉VIIにおいて、血液型5で処置されたマウスだけが有意なプルキンエ細胞残存を示した。小葉VIIIにおいて再度血清型5ならびに血清型2で処置されたマウスでは、有意なプルキンエ細胞残存を示した。小葉IXおよびXにおいては、プルキンエ細胞カウントにおけるWTとKOマウスとの間(またはAAV処置マウス間)に有意差はなかった。このことは、14週齢(すなわち、殺処理の週齢)においてこれら小葉のプルキンエ細胞が、ASMKOマウスにおいて依然として生存しているので予想された。全ての小葉の随所に、プルキンエ細胞残存は、血清型1、2、および5で処置されたマウスで最多であり、血清型7および8で処置されたマウスで最少であった。前小脳小葉内のプルキンエ細胞残存(カルビンジン染色に基づく)は、血清型1を注入したマウスにおいて最大であった。
【0118】
ASMKOマウスの深部小脳核にヒトASMをコードする種々のAAV血清型(n=3/血清型;2/1、2/2、2/5、2/7、および2/8)の小脳内注入後、WTおよびASMKOマウスの小脳小葉I−Xにおいてプルキンエ細胞をカウントする。太字イタリックに見える数値は、KOマウス(すなわち、AAV2/1−βgalで処置されたマウス)とは有意差があるp ≦ .01。
【表6】
【0119】
加速ロータロッド試験において、AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを片側注入したマウスは、AAV2/1−βgalを注入したASMKOマウスよりも有意に(p< .0009)長い落下待ち時間を示した(図10)。血清型AA2/1−ASMを注入したマウスは、野生型マウスとは有意差はなかった。AAV2/2−ASMおよびAAV2/5−ASMを注入したマウスは、AAV2/1−βgalを注入したASMKOマウスよりも長い落下待ち時間の傾向を示し;一方、AAV2/7−ASMを注入したマウスは、その傾向を示さなかった。ロッキングロータロッド試験に関しては、AA2/1−ASMを注入したマウスのみが、AA2/1−βgalを注入したマウスよりも有意に(p< .0001)長い落下待ち時間を示した。この場合、野生型マウスは、AA2/1−ASMを注入したマウスよりも有意に良好な成績であった(図10)。AAV2/1−ASMまたはAAV2/2−ASMのいずれかの両側注入を受けたASMKOマウスは、加速およびロッキング双方の試験に関してASMKO AAV2/1−βgal処置マウスよりも有意に(p < .001)良好な成績であった(図11)。AAV2/1−ASM両側注入マウスは、双方の試験に関する野生型マウスと同等な成績であった。
【0120】
AAV生成hASMが、ASMKO CNS内で機能的に活性であるかどうかを判定する1つの方法は、コレステロール貯蔵病態−NPA疾患の二次的代謝欠陥への影響を評価することである。全てのAAV処置マウス(AAV2/1−βgalを除いて)において、コレステロール貯蔵病態の矯正は、hASM免疫染色に陽性であった領域と重なっており、各血清型ベクターは、機能的な導入遺伝子産物を生成できることを示した。先に立証されたように、コレステロール代謝の異常矯正の矯正は、注入部位と解剖学的に接続した領域にも生じたが、hASMに陽性に染色しなかった領域にも生じ、コレステロール貯蔵病態の矯正に必要なhASMのレベルが最小であることを示した。我々のhASM組織化学的および生化学的結果と一致して、血清型1および8で処置されたマウスは、コレステロール貯蔵病態において著しい減少を示した。血清型2、5、および7で処置したマウスもまた、コレステロール貯蔵病態における減少を示したが、血清型1および8で処置したマウスと同程度の減少を示さなかった。
【0121】
コレステロール貯蔵病態の変化は例示的なものであるが、hASM酵素活性のより直接的な測定は、ニーマン−ピック病の哺乳動物の組織に蓄積された主要基質であるスフィンゴミエリンレベルの解析による。AAV血清型1および2の両側注入を受けたマウスの脳組織を、スフィンゴミエリン(SPM)レベルに関してアッセイした(SPMの検出のための組織破砕法は、hASMの検出には適合性でない)。小脳内のSPM組織含量の有意な(p<0.01)減少が、血清型1および2の双方で処置されたマウスに見られた(図12)。SPM組織含量レベルはまた、血清型1を注入したマウスにおける切片2、3、および4(各切片は、隣の切片と2mm離れている)において有意に減少したが、血清型2を注入したマウスでは減少しなかった。
【0122】
hASMをコードするAAV血清型1および2の両側小脳内注入を受けたASMKOマウスは、小脳内のスフィンゴミエリン貯蔵において有意な減少を示した。コレステロール貯蔵の蓄積により見られるように、スフィンゴミエリン貯蔵の有意な減少は、AAV1で両側に処置されたASMKOマウスの小脳の外側の領域にも生じた。
【0123】
総合的に見て、これらの結果により、酵素発現を開始し、脳における貯蔵病態を矯正し、神経変性を防止し(例えば、プルキンエ細胞死を防止することにより)、および運動機能の結果を改善するその相対的能力においてAAV1は、血清型2、5、7、および8よりも好ましいことを示されている。さらに、DCNは、CNSの随所で酵素発現を最大にする注入部位として利用できる。
【0124】
DCNへのAAVベクター注入後の導入遺伝子の発現の分布を評価するために、G93A SOD1(本明細書でSOD1マウスと称されるSOD1G93A変異マウス)に、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする組換えAAVベクターを注入した。マウスの一群には、緑色蛍光タンパク質をコードするAAV血清型1(AAV1−GFP)を注入したが、一方、別の群には、緑色蛍光タンパク質をコードするAAV血清型2(AAV2−GFP)を注入した。
【0125】
マウスは、上記と同様の方法を用いてAAV組換えベクターを有するDCNへ両側注入された。用量は、1部位につき約2.0e10gc/mlであった。マウスは、誕生約110日後に殺処理し、脳と脊髄をGFP染色に関して分析した。
【0126】
緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後、緑色蛍光タンパク質分布が、脳幹(図14を参照)および脊髄領域(図15を参照)に見られた。GFP染色は、DCNならびに嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄にも見られた。全てこれらの領域は、DCNからの投射を受け入れるか、および/またはDCNへの投射を送っている(図16を参照)。
【0127】
本明細書は、本明細書中に引用された参照文献の教示に鑑みて最も完全に解される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。他の多くの実施形態が、本発明に包含されることは当業者により容易に認識される。全ての刊行物、特許および本開示に引用された生物学的配列は、参照としてその全体が本明細書に援用されている。参照として援用されている資料が矛盾するか、または本明細書と一致しない範囲で、本明細書は、このような資料に優先するであろう。本明細書のいずれの参照文献の引用は、このような参照文献が本発明の先行技術であることを認めるものではない。
【0128】
他に指定されない限り、特許請求の範囲を含む本明細書に用いられる成分量、細胞培養、処置条件などを表す全ての数値は、全ての場合、「約」という用語により修飾されるものとして解されるべきである。したがって、相反する記載がないかぎり、数値パラメータは、近似値であり、本発明により得られることが求められる所望の性質に依って変わり得る。他に指定されない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の要素におけるあらゆる要素を指すものとして解すべきである。当業者は、慣例的な実験を用いるのみで、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認できるであろう。このような等価物は、冒頭の特許請求の範囲により包含されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1A】図1Aは、海馬への高力価(9.3×1012gp/ml)AAV−ASMの2μl注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。注入部位が垂直線で示される;in situ hybridizationで検出されるASMmRNAの発現は小さな円で表され;免疫組織学的染色で検出されるASMタンパク質の発現は、大きな斜線の円で表される。発現パターンは、脳の両半球における海馬および皮質領域の病態と逆の広範な領域(薄い斜線で表される)で生じた。
【図1B】図1Bは、図1Aで示される海馬内への高力価AAVの注入後のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、対側海馬(20)への海馬内回路を媒介および嗅内皮質への嗅内歯状(entorhinodentate)回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【図1C】図1Cは、マウス脳の海馬内および嗅内歯状回路の接続を示す模式図である。海馬内(10)への注入は、アンモン角領域3(CA3)および歯状回顆粒細胞層(G)に局在する細胞体の感染および送達を生じた。加えて、注入したAAVベクターのサブセットは、注入部位を神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性軸索輸送を経て、海馬(20)の対側部分のCA3領域(CA)および門部(H)、ならびに嗅内皮質(30)の同側部分のCA3領域(CA)および門部(H)に導入遺伝子を送達する。
【図2A】図2Aは、図1Aに記載される高力価AAV−ASMの海馬内注入後の5または15週齢のASMKOマウス脳の横断面の図を表す。in situ hybridizationで検出されるASMmRNA発現は小さい円で表され;免疫組織化学的染色で検出されるASMタンパク質発現は大きい斜線の円で表される。該注入は、中隔で検出されるASMmRNAおよびタンパク質を起こした。この発現パターンは病態と逆の広範な領域で生じた(薄茶色の斜線で表される)。
【図2B】図2Bは、図1Aで表される海馬への高力価注入のマウス脳の遠位領域へのAAVの軸索輸送を表す。海馬(10)への注入は、注入部位(垂直線で表される)から中隔(40)までの中隔海馬回路を媒介するウイルスベクターの軸索輸送を生じた。
【図2C】図2Cは、中隔海馬回路の接続を表す模式図である。海馬への注入は、CA3領域(11)に局在する細胞体への形質導入を生じた。加えて、AAVベクターのサブセットは、注入部位に神経分布する投射神経の軸索末端に感染し、逆行性の軸索輸送を経て、内側中隔(40)に導入遺伝子を送達する。
【図3】図3は、マウス脳の線条体(50)へのAAVの高力価注入後の黒質線条体回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAVの軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から黒質(60)まで生じる。
【図4】図4は、ASMKOマウス脳の小脳(70)へのAAV−ASMの高力価注入後の小脳髄質(medullocerebellar)回路におけるAAVの軸索輸送を表す。AAV2の軸索輸送は、注入部位(垂直線で表される)から延髄(80)まで生じる。
【図5】図5は、同側海馬(10)におけるAAV7−ASMの高力価注入後の海馬内、黒質線条体、および嗅内歯状の回路におけるAAVの軸索輸送、ならびにを表す。同側海馬(垂直線で表される)のAAV7−ASM注入後、形質導入された細胞を、対側海馬(90)、内側中隔(40)、および嗅内皮質(100)の全体の吻尾軸に沿ってin situ hybridizationを用いて調べることで検出した。
【図6】図6Aないし6Eは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター((A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8)の注入後の矢状小脳切片におけるヒトASM免疫陽性染色を示す。
【図7】図7Aないし7Eは、深部小脳核から脊髄までのhASM輸送を示す。この効果は、AAV2/2−ASM、AAV2/5−ASM、AAV2/7−ASMおよびAAV2/8−ASMで処理したマウスで観察された。(A)hASM 10×拡大図;(B)hASM 40×拡大図;(C)共焦点hASM;(D)共焦点ChAT;ならびに(E)共焦点hASMおよびChAT
【図8】図8は、深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター(2/1、2/2、2/5、2/7および2/8)の注入後の小脳組織の均一レベルを示す(n=5/群)。同一の文字が並んでいない群は有意に異なる(p<0.0001)。
【図9】図9Aないし9Gは、ASMKOマウスの深部小脳核へのヒトASMをコードする異なるAAV血清型ベクター[(A)2/1、(B)2/2、(C)2/5、(D)2/7および(E)2/8]の注入後の矢状小脳切片のカルビンジン免疫陽性染色を示す。
【図10】図10Aおよび図10Bは、(AAV−βgalを注入した)ASMKO、WT、およびAAV−ASMを処理したASMKOマウス(n=8/群)における加速およびロッキングロータロッドの成績(14週齢)を示す。同一文字が並んでいない群は有意に異なる。AAV2/1−ASMおよびAAV2/8−ASMを注入されたマウスは、加速ロータロッド試験において、AAV2/1−βgalを注入されたASMKOマウスより有意(p<0.009)に長い落下するまでの待ち時間を示した。ロッキングロータロッド試験では、AAV2/1−ASMを注入されたマウスは、AAV2/1−βgalを注入されたマウスより有意に(p<0.0001)長い落下するまで待ち時間を示した。
【図11】図11Aおよび図11Bは、ASMKO(n=8)、WT(n=8)、および両側にAAV−ASM(n=5/群)を処理したマウス(20週齢)におけるロータロッドの成績を示す。加速およびロッキングの両試験において、AAV−ASMを処理したマウスが、ASMKO AAV2/1−βgalを処理したマウスより有意(p<0.01)に良好な成績を示した。AAV2/1−ASMを注入したマウスの成績は、加速およびロッキングの両試験において野生型と区別できなかった。
【図12】図12は、AAV1−βgalまたはhASMをコードするAAV血清型1と2を両側に注入したASMKOマウスにおける脳のスフィンゴミエリンレベル(20週齢)を示す。脳を5個の吻尾方向の切片に分けた(S1=最も吻側およびS5=最も尾側)。星印はデータ点がASMKOマウスと有意に異なることを示す(p<0.01)。
【図13A】図13Aは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脊髄領域(頸部、胸部、腰部、および仙骨部)間の接続を表す。
【図13B】図13Bは、深部小脳核領域(内側、中間部、および外側)および脳幹領域(中脳、脳橋、および延髄)間の接続を表す。接続は矢印で表され、神経の細胞体領域から開始し、神経の軸索末端領域で終結する。例えば、DCNの3つの領域は各々、脊髄の頸部領域で終結する軸索を送り出す細胞体を有する神経である。一方、脊髄の頸部領域は、DCNの内側または中間領域のどちらかで終結する軸索を送り出す細胞体を有する。
【図14】図14は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脳幹または上部運動神経における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【図15】図15は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAVのDCN送達後の脊髄領域における緑色蛍光タンパク質の分布を表す。
【図16】図16は、深部小脳核(DCN)へのAAV1ベクターを発現するGFPの両側送達後のマウス脳内のGFP分布を示す。DCNに加えて、GFP陽性染色はまた、嗅球、大脳皮質、視床、脳幹、小脳皮質および脊髄でも観察された。これらの領域の全ては、DCNからの投射を受け取るか、および/またはDCNへの投射を送り出すかのどちらかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入されるAAVベクターが中枢神経系の遠位部位に局在する細胞を透過し、コードされた生物学的に活性な分子が翻訳される条件下において、生物学的に活性な分子をコードするAAVベクターを含む組成物を哺乳類の疾患にかかっている中枢神経系部位に投与することを含む方法。
【請求項2】
次いで、翻訳された生物学的に活性な分子が発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳類がリソソーム蓄積症または異常なコレステロール代謝である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リソソーム蓄積症がニーマン−ピック病A型である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳類がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
遠位部位が投与部位に対して対側である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
投与部位が脊髄、脳幹、海馬、線条体、延髄、脳橋、中脳、小脳、視床、視床下部、大脳皮質、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、および前頭葉からなる群から選択されるCNS領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
投与部位が海馬内であり、遠位部位が対側の歯状回、対側のCA3、内側隔壁、および嗅内皮質からなる群から選択される脳の領域内である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
投与部位が線条体および小脳からなる群から選択される脳の領域内であり、遠位部位が黒質および延髄からなる群から選択される脳の領域内である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
投与部位が小脳の深部小脳核内である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項13】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
AAVベクターがAAV1またはAAV2/1である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
AAVベクターがAAV1またはAAV2/1である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項16】
AAVベクターAAV1またはAAV2/1である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
哺乳類のCNS内の第2部位への組成物の投与をさらに含む方法であって、組成物が生物学的に活性な分子の産物をコードするポリヌクレオチドを含むAAVベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
第2の投与部位が第1の投与部位の対側である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
生物学的に活性な分子がリソソーム加水分解酵素である、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
リソソーム加水分解酵素が表1に記載されるリソソーム加水分解酵素のうちのいずれか1つである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
リソソーム加水分解酵素が酸スフィンゴミエリナーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
投与部位が深部小脳核内であり、遠位部位が脊髄である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
投与部位および遠位部位の間の距離が少なくとも2mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
組成物中のAAVベクター濃度が少なくとも5×1012gp/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
注入されるAAVベクターが中枢神経系の遠位部位に局在する細胞を透過し、コードされた金属エンドペプチダーゼが発現される条件下において、金属エンドペプチダーゼをコードするAAVベクターを含む組成物をアルツハイマー病にかかっている哺乳類の中枢神経系部位に投与することを含む方法。
【請求項26】
金属エンドペプチダーゼがネプリライシン、インスリジン、およびチメット(thimet)オリゴペプチダーゼからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
AAVベクターがAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8からなる群から選択される、請求項1または25に記載の方法。
【請求項28】
投与部位と遠位部位の間の距離が少なくとも2mmである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
組成物中のAAVベクター濃度が少なくとも5×1012gp/mlである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
AAVベクターがAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
AAVが組み換えAAVベクターである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
組み換えAAVベクターがAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型ベクターからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項1】
注入されるAAVベクターが中枢神経系の遠位部位に局在する細胞を透過し、コードされた生物学的に活性な分子が翻訳される条件下において、生物学的に活性な分子をコードするAAVベクターを含む組成物を哺乳類の疾患にかかっている中枢神経系部位に投与することを含む方法。
【請求項2】
次いで、翻訳された生物学的に活性な分子が発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳類がリソソーム蓄積症または異常なコレステロール代謝である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リソソーム蓄積症がニーマン−ピック病A型である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳類がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
遠位部位が投与部位に対して対側である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
投与部位が脊髄、脳幹、海馬、線条体、延髄、脳橋、中脳、小脳、視床、視床下部、大脳皮質、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、および前頭葉からなる群から選択されるCNS領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
投与部位が海馬内であり、遠位部位が対側の歯状回、対側のCA3、内側隔壁、および嗅内皮質からなる群から選択される脳の領域内である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
投与部位が線条体および小脳からなる群から選択される脳の領域内であり、遠位部位が黒質および延髄からなる群から選択される脳の領域内である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
投与部位が小脳の深部小脳核内である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項13】
AAVベクターがAAV血清型1キャプシドを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
AAVベクターがAAV1またはAAV2/1である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
AAVベクターがAAV1またはAAV2/1である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項16】
AAVベクターAAV1またはAAV2/1である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
哺乳類のCNS内の第2部位への組成物の投与をさらに含む方法であって、組成物が生物学的に活性な分子の産物をコードするポリヌクレオチドを含むAAVベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
第2の投与部位が第1の投与部位の対側である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
生物学的に活性な分子がリソソーム加水分解酵素である、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
リソソーム加水分解酵素が表1に記載されるリソソーム加水分解酵素のうちのいずれか1つである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
リソソーム加水分解酵素が酸スフィンゴミエリナーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
投与部位が深部小脳核内であり、遠位部位が脊髄である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
投与部位および遠位部位の間の距離が少なくとも2mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
組成物中のAAVベクター濃度が少なくとも5×1012gp/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
注入されるAAVベクターが中枢神経系の遠位部位に局在する細胞を透過し、コードされた金属エンドペプチダーゼが発現される条件下において、金属エンドペプチダーゼをコードするAAVベクターを含む組成物をアルツハイマー病にかかっている哺乳類の中枢神経系部位に投与することを含む方法。
【請求項26】
金属エンドペプチダーゼがネプリライシン、インスリジン、およびチメット(thimet)オリゴペプチダーゼからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
AAVベクターがAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8からなる群から選択される、請求項1または25に記載の方法。
【請求項28】
投与部位と遠位部位の間の距離が少なくとも2mmである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
組成物中のAAVベクター濃度が少なくとも5×1012gp/mlである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
AAVベクターがAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、およびAAV8からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
AAVが組み換えAAVベクターである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
組み換えAAVベクターがAAV2/1、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/7およびAAV2/8血清型ベクターからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2008−540445(P2008−540445A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510224(P2008−510224)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/017242
【国際公開番号】WO2006/119458
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(593119583)ジェンザイム・コーポレイション (17)
【氏名又は名称原語表記】Genzyme Corporation
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/017242
【国際公開番号】WO2006/119458
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(593119583)ジェンザイム・コーポレイション (17)
【氏名又は名称原語表記】Genzyme Corporation
【Fターム(参考)】
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