説明

神経再生基材

【課題】特別な器具や操作を必要とすることなく、自律神経などにおける比較的細い神経線維を効率よく正しい方向へ再生させるに適した神経再生基材を提供する。
【解決手段】神経再生シート11は、短辺方向104に沿って延びる曲折部14と、内面13において曲折部14から離間された位置に短辺方向104に沿って設けられて、内面13を接着し得る粘着層31とを有する。これにより、自律神経などにおける比較的細い神経線維を、縫合によらずに簡易に神経再生シート11の間に挟み込んで再生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性材料からなる神経再生基材に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患や怪我などによりヒトの神経が損傷し、自己の回復力によって神経の損傷が治癒されないことがある。このような神経の損傷は、運動障害や臓器の機能障害となりうる。これに対し、損傷した神経を縫合する手術や、自己の他の部位から神経を採取して移植する治療が行われている。
【0003】
特許文献1には、生分解性材料からなる筒状体の内空に、糸状物を固定した組織再生器具の前駆体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、生分解性材料からなる管状体の内部に、スポンジ状のマトリックスなどにより神経再生誘導路を形成した神経再生誘導管が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−43597号公報
【特許文献2】特開2004−208808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に開示された組織再生器具や神経再生誘導管は、神経や腱などの索条の組織を再生するための基材として用いられる。しかし、神経には必ずしも索条をなしていない箇所も存在するので、そのような神経に対しては筒状体又は管状体は適さない。
【0007】
例えば、運動神経では、神経線維が束状体を形成して走向しているため、神経が断裂した場合には、神経の断裂端をそれぞれ筒状体又は管状体の両端に差し入れて縫合することができる。これに対し、自律神経では、神経線維が細く分岐し、放射状に拡がって走向している部分が存在するため、神経が断裂した場合には、放射状に拡がった複数の神経線維を束ねて筒状体又は管状体に差し入れて縫合することは極めて煩雑な操作となる。
【0008】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、特別な器具や操作を必要とすることなく、自律神経などにおける比較的細い神経線維を再生させるに適した神経再生基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生分解性材料からなり、再生すべき神経を挟み込むシートを具備する神経再生基材である。上記シートは、神経の断裂端がそれぞれ配置される第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向に沿って延びる曲折部と、当該曲折部で当該シートが折り曲げられると相対向する内面における当該曲折部から離間された位置に上記第1方向に沿って設けられており、かつ、上記相対向する内面を接着し得る第1粘着層と、を有する。
【0010】
本発明に係る神経再生基材は、神経の断裂端同士を神経の再生によってつなぎ合わせるためのものである。特に、自律神経の断裂端同士を神経の再生によってつなぎ合わせる目的に、この神経再生基材が好適に使用される。なお、本明細書においては、神経線維が単に神経と称されることがある。また、神経の断裂端は、断裂された原因が限定されるものではなく、怪我や疾病による断裂や欠損、臓器又は組織の切除に伴う断裂や欠損、神経の移植などを目的とした神経の切断などの多様な原因を広く含むものである。
【0011】
シートは、生分解性材料からなる薄平なシート形状である。シートの平面形状は特に限定されず、矩形や円形、楕円形、雲形などが採用されうるが、梱包や作業の便宜から四角形が好ましい。シートの大きさも特に限定されないが、例えば腹腔内において自律神経の再生に使用される四角形のものであれば、縦×横×厚みの各寸法が、10〜100mm×10〜100mm×0.01〜5.0mm程度のものが好適である。さらに望ましくは、第1シート及び第2シートの縦×横×厚みの各寸法が、15〜30mm×15〜30mm×0.1〜2.0mm程度のものが好適である。
【0012】
生分解性材料とは、生体内において分解され得る材料であり、好ましくは分解後に吸収され得るものである。生分解性材料として、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ε−アミノカプロラクトン、コラーゲン及びキトサンなどがあげられる。これらのうち、ヒトに炎症反応が生じることがなく、架橋処理などによって生体による分解吸収速度などを制御できる観点から、コラーゲンが好ましい。
【0013】
コラーゲンとは、動物の結合組織を構成する主要なタンパク質成分であって、分子の主鎖構造が、(Gly−X−Y)、(Gly−Pro−X)及び(Gly−Pro−Hyp)で構成されるものをいう。ここで、X及びYは、グリシン、プロリン及びヒドロキシプロリン以外の天然又は非天然アミノ酸である。
【0014】
コラーゲンのタイプについては、I型、II型、III型及びIV型などがあげられる。これらのうち、取り扱いが容易な観点から、I型及びIII型のコラーゲンが好ましいが、本発明においてコラーゲンのタイプは特に限定されるものではない。また、本発明におけるコラーゲンは、熱変性コラーゲンであるゼラチンを含むが、細胞接着性の観点から熱変性されていないコラーゲンであることが好ましい。
【0015】
コラーゲンは、生体組織からの抽出、化学的ポリペプチド合成及び組み替えDNA法などにより製造される。これらのうち、製造コストの観点から、生体組織からの抽出により製造されたコラーゲンが好ましい。また、生体組織の由来として、例えば、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ネズミ、鳥類、魚類及びヒトなどがあげられる。また、生体組織としては、前述された動物やヒトの皮膚、腱、骨、軟骨及び臓器などがあげられる。なお、生体組織や由来の選択は当業者により適宜行われるものであり、本発明が本明細書に例示された生体組織由来のコラーゲンに限定されないことは言うまでもない。
【0016】
また、コラーゲンとしては、工業的な製造を容易とする観点から、溶媒に溶解できるように処理が施されたものが好ましい。このようなコラーゲンとして、例えば、酵素可溶化コラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン及び中性可溶化コラーゲンなどの可溶化コラーゲンがあげられる。これらのうち、取り扱いが容易であるとの観点から、酸可溶化コラーゲンが特に好ましい。さらに、生体内に埋植したときの安全性の観点から、抗原決定基であるテロペプチドの除去処理が施されたアテロコラーゲンが好ましい。
【0017】
本発明におけるシートとして、生体分解性材料を原料として作成されたフィルムや編織布、不織布などが用いられるが、前述されたコラーゲンの繊維材(単に「コラーゲン繊維」とも称される。)から構成されるものが好ましく、コラーゲン繊維の編織布又は不織布であることが特に好ましい。
【0018】
コラーゲン繊維を製造する方法としては、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法及び溶融紡糸法などがあげられるが、製造が容易でありかつ製造コストが安価であることから、湿式紡糸法が好適である。このようなコラーゲン繊維を得るための湿式紡糸法として、公知の紡糸方法(特開2000−93497号公報、特開2000−210376号公報及び特開2000−271207号公報など)が採用されうる。
【0019】
コラーゲン繊維からなる不織布としては、例えば、複数本のコラーゲン繊維が並行に配列された第1層に、コラーゲン繊維の配列方向を変えて複数本のコラーゲン繊維を並行に配列された第2層を積層し、この第1層と第2層との関係を同様に繰り返して複数の層を積層して相互に接着したものがあげられる。このようなコラーゲン繊維からなる不織布の製造方法として、特開2003−301362号公報に開示された方法が採用されうる。
【0020】
コラーゲン繊維からなる編織布としては、例えば織物又は編物等があげられる。織物としては、例えば、コラーゲン繊維を用いて平織、綾織などによって織られたものがあげられる。編物としては、例えば、コラーゲン繊維を用いて平編、ゴム編などによって織られたものがあげられる。
【0021】
前述されたようなコラーゲン繊維からなるシートは、コラーゲン繊維の不織布であることが好ましい。コラーゲン繊維の不織布においては、前述されたように、複数本のコラーゲン繊維が並行に配列された層が積層されているので、シートの内面において、神経の断裂端がそれぞれ配置される第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向に沿って複数本のコラーゲン繊維が並列するように積層することによって、シートの内面に配列されたコラーゲン繊維に沿って神経が再生されるからである。つまり、複数のコラーゲン繊維の間を誘導経路として第1方向に沿って再生された神経が延びる。
【0022】
シートの内面における第1端側及び第2端側とは、神経の断裂端が対向してそれぞれ配置される位置であり、シートの内面において対向する一対の端部付近であることが一般的である。神経の断裂端は、断裂した神経線維のうち中枢側の断裂端から、再生される神経が伸展する。中枢側の断裂端又は末梢側の断裂端のいずれを第1端側又は第2端側に位置せしめるかは、このような神経再生の特定を考慮して決定される。シートが長方形である場合には、その長方形において対向する一対の短辺又は長辺付近が第1端側及び第2端側となる。そして、第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向とは、その長方形において対向する一対の短辺又は長辺のうち、第1端側及び第2端側とならない一対の短辺又は長辺に沿った方向である。なお、本明細書において「方向」とは、相反する向きを含む。したがって、第1方向には、第1端側から第2端側への向きと、第2端側から第1端側への向きの両方が含まれる。
【0023】
前述されたようにして得られたシートは、種々の公知の物理的又は化学的架橋処理がさらに施されてもよい。この架橋処理が施される段階は特に限定されるものではない。また、二以上の架橋処理が用いられてもよく、その順序も限定されない。
【0024】
前述された架橋処理は、神経再生用基材が生体内に埋植されたときに分解・吸収される時間を未架橋のものに比べて飛躍的に遅延させることができ、また、神経再生基材の物理的強度が向上される点で有用である。つまり、神経再生基材を用いて神経が欠損した箇所が再生されるまでの期間において必要な物理的強度を維持させることが容易となる。
【0025】
前述された物理的架橋の例としては、γ線照射、紫外線照射、電子線照射、プラズマ照射、熱脱水反応による架橋処理などがあげられる。化学的架橋方法の例としては、ジアルデヒド、ポリアルデヒドなどのアルデヒド類、エポキシ類、カルボジイミド類、イソシアネート類などとの反応、タンニン処理、クロム処理などがあげられる。
【0026】
また、前述されたようにして得られたシートは、生分解性物質でコーティングが施されてもよい。コーティングに用いられる生分解性物質としては、コラーゲン、ヒアルロン酸などがあげられる。さらに、シートに各種成長因子、薬剤などが含浸されてもよい。これら成長因子や薬剤の作用によって、神経の再生を促進させることができる。
【0027】
シートには、第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向に沿って延びる曲折部が設けられている。この曲折部によって、シートが内面を対向させて二つ折りにされる。曲折部の位置は特に限定されないが、例えば、四角形のシートであれば、対向する一対の辺の中央同士を結ぶように曲折部が設けられると、二つ折りされたシートの縁が重なって、神経が挟まれる領域を広くできるので好適である。
【0028】
前述された曲折部は、シートを折り曲げ容易に癖づけしたり、2枚のシートを接着したりすることによって形成される。例えば、前述されたようにコラーゲン繊維の不織布としてシートを得るのであれば、複数本のコラーゲン繊維が並行に配列されてなる各層を積層した後に、曲折部を形成すべく折り曲げて癖づけし、その後に各層を相互に接着し、さらには必要に応じて架橋処理などを行うことにより、折り曲げ容易に癖づけされた曲折部が形成される。また、コラーゲン繊維の各相を相互に接着した後に、癖づけが行われてもよい。
【0029】
一方、前述されたようにして、コラーゲン繊維の不織布からなる2枚のシートを形成し、その2枚のシートにおける所定の縁部のみを重ねて生体用接着剤などで接着し、いわば2枚のシートを綴って1枚のシートとすることにより、綴られた縁部が曲折部となる。
【0030】
シートには、前述された曲折部でシートが折り曲げられると相対向する内面における曲折部から離間された位置に第1方向に沿って第1粘着層が設けられている。この第1粘着層は、相対向する内面を接着し得るものである。
【0031】
第1粘着層は、内面において曲折部から離間されている位置に設けられていればよいが、前述されたように、曲折部でシートを二つ折りにするとシートの縁が重なるのであれば、二つ折りの状態において曲折部と対向する位置となる縁付近に第1粘着層を設けられると、神経の再生が促進される空間を広くできるので好適である。つまり、二つ折りにされたシートが第1粘着層により内面同士が接着されて筒形状になり、その筒形状の内部空間が神経が再生される領域とされるのである。
【0032】
第1粘着層は、シートの内面同士を接着し得る接着性能を有する層であり、そのような接着性能を有する物質が内面に積層されたり、内面の一部を加工して接着性能を発揮させることにより形成され得る。また、第1粘着層は、曲折部により二つ折りにされたときに対向する内面の少なくとも一方に設けられていればよいが、対向する内面のいずれにも第1粘着層が設けられていてもよい。
【0033】
具体的には、第1粘着層として、生体用接着剤をシートの内面に塗布する態様があげられる。生体用接着剤とは、生体内において分解され得る材料であり、好ましくは分解後に吸収され得るものである。生体用接着剤として、例えば、血液の凝固反応を利用したフィブリンを主成分とするものがあげられる。
【0034】
シートの内面には、その第1端側及び第2端側に、神経の断裂端をそれぞれ固定するための第2粘着層又は第3粘着層が設けられていることが好ましい。
【0035】
第2粘着層及び第3粘着層は、シートの内面に神経を接着し得る接着性能を有する層であり、そのような接着性能を有する物質が内面に積層されたり、内面の一部を加工して接着性能を発揮させることにより形成され得る。また、第2粘着層及び第3粘着層は、曲折部により二つ折りにされたときに対向する内面の少なくとも一方に設けられていればよいが、対向する内面のいずれにも第2粘着層及び第3粘着層が設けられていてもよい。
【0036】
具体的には、第2粘着層及び第3粘着層として、生体用接着剤をシートの内面に塗布する態様があげられる。生体用接着剤とは、生体内において分解され得る材料であり、好ましくは分解後に吸収され得るものである。生体用接着剤として、例えば、血液の凝固反応を利用したフィブリンを主成分とするものがあげられる。
【0037】
本発明に係る神経再生基材は、医療用として使用する前に、γ線滅菌、紫外線滅菌などの公知の方法によって滅菌処理されることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、再生すべき神経を挟み込むシートに、神経の断裂端がそれぞれ配置される第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向に沿って延びる曲折部と、この曲折部でシートが折り曲げられると相対向する内面における曲折部から離間された位置に第1方向に沿って設けられて相対向する内面を接着し得る第1粘着層と、が設けられたので、自律神経などにおける比較的細い神経線維を、縫合によらずに簡易にシートの間に挟み込んで再生させることができる。
【0039】
また、シートの内面には、その第1端側及び第2端側に、神経の断裂端をそれぞれ固定するための第2粘着層又は第3粘着層が設けられたので、自律神経などにおける比較的細い神経線維を、縫合によらずに簡易にシートの内面に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0041】
[図面の説明]
図1は、本発明の実施形態にかかる神経再生シート11の外観構成を示す斜視図である。図2は、コラーゲン糸状物21の不織布を作製する方法を示す模式図である。図3は、神経再生シート11を用いて自律神経40を再生する方法を示す模式図である。図4は、変形例に係る神経再生シート11の外観構成を示す斜視図である。
【0042】
[神経再生シート11]
本実施形態に係る神経再生基材は、一枚の神経再生シート11からなる。図1に示されるように、神経再生シート11は、薄肉の長方形のシートである。神経再生シート11は、曲折部14で折り曲げられることにより、その内側に神経の断裂端を挟み込んで、神経の再生を促すものである。
【0043】
神経再生シート11は、コラーゲン糸状物21の不織布である。詳細に説明するに、湿式紡糸法によって、コラーゲン糸状物21を作製しながら巻取プレート20にコラーゲン糸状物21が巻き取られる。巻取プレート20は、神経再生シート11とほぼ同じ長方形の平板である。コラーゲン糸状物21の巻取りにおいて、図2(A)に示されるように、コラーゲン糸状物21が供給される向き101と巻取プレート20の回転軸線102とは直交している。
【0044】
巻取プレート20における長辺方向103が回転軸線102と交わるように巻取プレート20が傾斜されて、回転軸線102に対して回転されることによって、コラーゲン糸状物21が巻取プレート20の長辺方向103と直交しない角度で巻取プレート20に巻き取られる。また、巻取プレート20は、回転されながらコラーゲン糸状物21に対して回転軸線102に沿って相対的に一方向へスライドされる。このスライド速度は、コラーゲン糸状物21の配列ピッチを考慮して設定される。これにより、巻取プレート20における長辺方向103の一端側から他端側へコラーゲン糸状物21が並列して巻取プレート20に巻き取られて、一定方向へ配列されたコラーゲン糸状物21の層が作製される。
【0045】
次いで、図2(B)に示されるように、巻取プレート20における長辺方向103と回転軸線102との傾斜角度が変更されて、巻取プレート20が回転軸線102に対して回転される。これにより、コラーゲン糸状物21が巻取プレート20の長辺方向103と直交しない角度であって、先に巻き取られたコラーゲン糸状物21の配列方向とは異なる方向となって巻取プレート20に巻き取られる。また、巻取プレート20は、回転されながらコラーゲン糸状物21に対して回転軸線102に沿って相対的に一方向へスライドされる。これにより、巻取プレート20における長辺方向103の他端側から一端側へコラーゲン糸状物21が並列して巻取プレート20に巻き取られて、先に巻き取られたコラーゲン糸状物21に次のコラーゲン糸状物21の層が積層される。
【0046】
前述されたように、巻取プレート20における長辺方向103と回転軸線102との傾斜角度がコラーゲン糸状物21が積層される毎に変更されて、巻取プレート20にコラーゲン糸状物21が巻き取られる。そして、最後に、図2(C)に示されるように、巻取プレート20における長辺方向103と回転軸線102とが平行にされて、巻取プレート20が回転軸線102に対して回転される。これにより、コラーゲン糸状物21が巻取プレート20の長辺方向103と直交する方向(短辺方向)に沿って巻取プレート20に巻き取られる。なお、巻取プレート20は、回転されながらコラーゲン糸状物21に対して回転軸線102に沿って相対的に一方向へスライドされる。これにより、巻取プレート20における長辺方向103と直交する方向へ配列されたコラーゲン糸状物21の層が巻取プレート20の最も外側に積層される。このコラーゲン糸状物21が本発明におけるコラーゲン繊維に相当する。
【0047】
前述されたように巻取プレート20に巻き取られたコラーゲン糸状物21の巻取物を乾燥した後、巻取プレート20の周縁に沿って裁断すると、2枚のコラーゲン不織布が得られる。この2枚のコラーゲン不織布において、巻取プレート20の最も外側にある面が神経再生シート11の内面13となる。2枚のコラーゲン不織布は、必要に応じて所望のサイズの長方形にそれぞれ裁断される。これにより、2枚分の神経再生シート11としての2枚のコラーゲン不織布が得られる。なお、本実施形態では2枚のコラーゲン不織布が作製される手法が説明されているが、本発明に係る神経再生基材が2枚を一組として作製されるものに限定されないことは言うまでもない。
【0048】
得られたコラーゲン不織布は、後述される曲折部14に沿って一度折り曲げられてから熱脱水架橋反応され、さらにコラーゲン水溶液を含浸させて再び熱脱水架橋反応を行い、膜状の神経再生シート11が得られる。
【0049】
前述されたように、巻取プレート20の最も外側に積層されたコラーゲン糸状物21は、巻取プレート20における長辺方向103と直交する方向(短辺方向)に沿っているので、神経再生シート11の内面側の内面13において、神経再生シート11の短辺方向104に沿ってコラーゲン糸状物21が配列されている。また、このコラーゲン糸状物21は、神経再生シート11の長辺15,16に渡って延出されている。
【0050】
[曲折部14]
神経再生シート11には、長辺15,16に渡って短辺方向104に沿った曲折部14が設けられている。曲折部14によって、神経再生シート11が内面13を対向させて二つ折りにされる。曲折部14は、各長辺15,16における長辺方向105の中央同士を結ぶ直線に沿って形成されている。短辺方向104が本発明における第1方向に相当する。
【0051】
前述されたように曲折部14は、コラーゲン糸状物21からコラーゲン不織布が作製される際に、曲折部14を形成すべくコラーゲン不織布を折り曲げて癖づけし、その後に各層を熱脱水架橋などによって相互に接着することによって、折り曲げ容易に形成されている。
【0052】
[粘着層31〜33]
神経再生シート11の内面13には、3つの粘着層31,32,33が形成されている。
【0053】
粘着層31は、神経再生シート11の内面13同士を接着し得る接着性能を有する層であり、内面13においてフィブリン糊が塗布されることにより形成される。粘着層31は、神経再生シート11の内面13における一方の短辺17付近において短辺方向104に沿って設けられている。粘着層31は、短辺方向104を長手方向とする細長な領域として、その長手方向の両端が長辺15,16付近まで延出されている。粘着層31と曲折部14とは、長辺方向105へ離間されて並んでいる。そして、粘着層31と曲折部14との間には、いずれの粘着層31〜33も存在しない。この粘着層31が、本発明における第1粘着層に相当する。
【0054】
粘着層32,33は、神経再生シート11の内面13と神経の断裂端とを接着し得る接着性能を有する層であり、内面13においてフィブリン糊が塗布されることにより形成されている。
【0055】
粘着層32,33は、神経再生シート11の内面13において各々が長辺方向105に沿って設けられている。各粘着層32,33は、長辺方向105を長手方向とする細長な領域として、その長手方向の両端のうち一方が粘着層31付近まで延出され、他方が曲折部14付近まで延出されている。換言すれば、各粘着層32,33は、粘着層31と曲折部14とに渡って設けられている。粘着層33及び粘着層34は、それぞれが長辺15又は長辺16付近に配置されている。この長辺15,16付近が再生すべき神経の断裂端が配置される位置であり、本発明における第1端側及び第2端側にそれぞれ相当する。この粘着層32,33が、本発明における第2粘着層及び第3粘着層にそれぞれ相当する。
【0056】
[神経再生シート11の使用方法]
以下、神経再生シート11の使用方法として、自律神経40の断裂端41,42同士をつなぎ合わせる方法が説明される。
【0057】
まず、図3(A)に示されるように、神経再生シート11が自律神経40の断裂端41,42に対応させて配置される。このとき、神経再生シート11は、その内面13側における各長辺15,16付近であって、短辺17と曲折部14との間に断裂端41,42がそれぞれ配置されて、断裂端41,42が神経再生シート11の短辺方向104へ離間された状態とされる。各長辺15,16付近には粘着層32,33がそれぞれ形成されているので、粘着層32,33によって断裂端41,42が内面13に接着される。その際、各断裂端41,42における神経の先端が各粘着層32,33より内面13における中央側へ位置される。
【0058】
つづいて、図3(B)に示されるように、自律神経40の断裂端41,42を神経再生シート11によって挟み込むように、曲折部14によって神経再生シート11が二つ折りにされて重ね合わされる。これにより、神経再生シート11の内面13同士が対向され、短辺17,18が重なり合う。神経再生シート11の内面13には、短辺17に沿って粘着層31が形成されているので、短辺17,18付近において二つ折りにされた神経再生シート11が挟み込むように押圧されることにより、二つ折りにされた神経再生シート11が短辺17,18付近において接着される。これにより、神経再生シート11の内面13側へ周辺組織などが進入することが防止される。
【0059】
前述された状態で放置されると、自律神経40の断裂端41,42から神経が再生して、断裂端41,42間の神経が回復する。前述されたように、神経再生シート11の内面13には、短辺方向104に沿ってコラーゲン糸状物21が配列されているので、そのコラーゲン糸状物21に沿って断裂端41,42から再生された神経が延びる。つまり、複数のコラーゲン糸状物21の間を誘導経路として再生された神経が延びる。
【0060】
[本実施形態の作用効果]
前述されたように、神経再生シート11は、短辺方向104に沿って延びる曲折部14と、内面13において曲折部14から長辺方向105へ離間された位置に短辺方向104に沿って設けられた粘着層31と、を有するので、自律神経40における比較的細い神経線維を、縫合によらずに簡易に神経再生シート11の間に挟み込んで再生させることができる。
【0061】
また、神経再生シート11の内面13には、その長辺15,16付近に、自律神経40の断裂端41,42をそれぞれ固定するための粘着層32,33が設けられているので、自律神経40における比較的細い神経線維を、縫合によらずに簡易に神経再生シート11の内面13に固定することができる。
【0062】
また、長方形の神経再生シート11における一対の長辺15,16の中央同士を結ぶように曲折部14が設けられているので、二つ折りされた神経再生シート11の一対の短辺17,18が重なって、自律神経40が挟まれる領域が広いという利点がある。
【0063】
また、神経再生シート11が二つ折りされた状態において曲折部14と対向する短辺17付近に粘着層31を設けられているので、自律神経40の再生が促進される空間が広いという利点がある。
【0064】
[変形例]
以下、前述された実施形態の変形例が説明される。変形例では、前述された実施形態に係る神経再生シート11における曲折部14の構成が異なる。したがって、以下には曲折部19についての詳細な説明がなされ、粘着層31〜33などの同様の構成については詳細な説明が省略される。なお、図4において前述の実施形態と同じ参照符号が付された部分は同じ構成を示すものである。
【0065】
図4に示されるように、変形例では、上記曲折部14に代えて曲折部19が神経再生シート11に形成されている。この曲折部19は、コラーゲン不織布からなる2枚のシートの縁のみを重ねて接着したものである。
【0066】
前述されたようにして、コラーゲン不織布を得た後、1枚のコラーゲン不織布が、巻取プレート20の長辺方向103における中央に対応する位置で2等分に切断される。そして、切断されたコラーゲン不織布が熱脱水架橋反応され、さらにコラーゲン水溶液を含浸させて再び熱脱水架橋反応が行われて、2枚のシートとされる。この2枚のシートを互いの内面13が対向するように重ねされ、その状態で縁のみがフィブリン糊により接着されて1枚の神経再生シート11とされる。つまり、2枚のシートが縁で綴じられて1枚の神経再生シート11とされる。この1枚の神経再生シート11における接着部分が曲折部19となる。
【0067】
図4に示されるように、曲折部19は、神経再生シート11の短辺方向104に沿って延出されている。1枚の神経再生シート11として綴じられた2枚のシートは、曲折部19において鋭角をなすようにそれぞれ延出されているので、曲折部19で二つ折りにされやすい状態を維持する。そして、神経再生シート11の使用に際しては、綴じられた2枚のシートの内面13が一平面をなすように開かれて、その間に自律神経40の断裂端41,42が配置される。このような神経再生シート11によっても、前述と同様の作用効果が奏される。
【0068】
なお、前述された実施形態及び変形例においては、粘着層31〜33が神経再生シート11の内面13において曲折部14,19より短辺17側にのみ設けられているが、粘着層31〜33は、例えば、曲折部14,19より短辺18側にのみ設けられていても、短辺17,18側のいずれにも同様に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる神経再生シート11の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、コラーゲン糸状物21の不織布を作製する方法を示す模式図である。
【図3】図3は、神経再生シート11を用いて自律神経40を再生する方法を示す模式図である。
【図4】図4は、変形例にかかる神経再生シート11の外観構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
11・・・神経再生シート(神経再生基材)
13・・・内面
14,19・・・曲折部
15,16・・・短辺(第1端側、第2端側)
21・・・コラーゲン糸状物(コラーゲン繊維)
31・・・粘着層(第1粘着層)
32,33・・・粘着層(第2粘着層、第3粘着層)
40・・・自律神経
41,42・・・断裂端
104・・・短辺方向(第1方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性材料からなり、再生すべき神経を挟み込むシートを具備する神経再生基材であって、
上記シートは、
神経の断裂端がそれぞれ配置される第1端側と第2端側とを結ぶ第1方向に沿って延びる曲折部と、
当該曲折部で当該シートが折り曲げられると相対向する内面における当該曲折部から離間された位置に上記第1方向に沿って設けられており、かつ、上記相対向する内面を接着し得る第1粘着層と、を有する神経再生基材。
【請求項2】
上記内面における上記第1端側及び上記第2端側に、神経の断裂端をそれぞれ固定するための第2粘着層又は第3粘着層が設けられた請求項1に記載の神経再生基材。
【請求項3】
上記シートは、フィルム、編織布又は不織布である請求項1又は2に記載の神経再生基材。
【請求項4】
上記シートは、コラーゲン繊維から構成されるものである請求項1から3のいずれかに記載の神経再生基材。
【請求項5】
上記シートは、1枚の編織布又は不織布であり、
上記曲折部が、編織布又は不織布が折り曲げ容易に癖づけされたものである請求項3又は4に記載の神経再生基材。
【請求項6】
上記シートは、少なくとも2枚の編織布又は不織布が上記曲折部において接着されたものである請求項3又は4に記載の神経再生基材。
【請求項7】
上記粘着層が、生体用接着剤からなる請求項1から6のいずれかに記載の神経再生基材。
【請求項8】
上記生体用接着剤がフィブリンである請求項7に記載の神経再生基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115410(P2010−115410A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292064(P2008−292064)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】