説明

神経分析システム

人から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データを生成する神経事象エクストラクタと、Sp/Ap曲線データおよび電場電位データを状態の病理データと相関させ、生物マーカーディスプレイの軸の生物マーカーデータ点を生成する相関器と、状態に対して人を事前評価する際に使用するために点を用いてディスプレイを生成するためにディスプレイデータを提供するディスプレイモジュールとを含む、神経分析システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロベスティビュログラフィ(electrovestibulography)を使用して複数の障害を示すデータを生成し、分析する神経分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の聴覚系の活性を表す、患者からの聴性誘発反応(AER)または聴性脳幹反応(BAER)を得るシステムが開発されてきた。AERは、通常は音である刺激に反応して、患者に配置された電極から得られる、電気的な脳波または神経反応である。反応の待ち時間および電極の配置に応じて、異なる種別またはタイプのAERを得ることができる。最短の待ち時間を有するAERは、内耳および聴神経によって生成され、蝸電図法(「ECOG」または「ECochG」)反応と呼ばれる。次の反応は、聴性脳幹部内の活性を反映し、聴性脳幹部反応(ABR)と呼ばれる。さらなる詳細が、Hall, James W, 「III; Handbook of Auditory Evoked Responses」Allyn and Bacon; Needham Heights, Massachusetts, 1992に記載されている。
【0003】
蝸電図法システムは、現在、蝸牛および前庭器の診断を実行するのに使用される。前庭系の場合に、耳のこの特定の部分に関する最近の分析は、ECOGの独特の変形形態であるエレクトロベスティビュログラフィ(EVestG)と呼ばれてきた。これらのシステムは、実際に患者の蝸牛の近くに記録電極を置くことを伴う、患者神経反応を作るのに使用される。音響トランスジューサ、たとえばイアホンを使用して、反応を喚起するために聴覚刺激を提供することができる。EVestGについて、患者を異なる方向に傾けて、耳音響器からであるが主に前庭器からの特定の反応を喚起することができる。EVestGのために音響刺激をも使用することは、必要ではない。ECOG信号に似ているが、主に前庭器からの神経反応を表す別個のEVestG信号を使用して、複数の状態、特にメニエール病の診断に使用できるSp/Ap比を判定することができる。図1に示されているように、通常はN1と称する反応信号の第1波が、累加電位(Sp)、活動電位(Ap)、および第2累加電位(Sp2)を判定するために調べられる。反応は、2〜3μVのオーダーにすぎず、判定および分離をむずかしくするかなりの望まれない雑音と共に受け取られる。
【0004】
Monash Universityによる国際特許出願公告第WO 2006/024102号に、ある人がメニエール病、パーキンソン病、または鬱病を有するかどうかを示すのに使用できる神経事象データを抽出するためのECOGシステムが記載されている。このシステムは、Sp/Ap比を表す生物学的マーカーと、障害の存在を示すのに使用できるTAPマーカーとを作る。
【0005】
やはりMonash Universityによる国際特許出願公告第WO 2008/144840号に、フィルタリングされたエレクトロベスティビュログラフィ反応信号に関連する時間セグメントの複数の生物マーカーを表す生物マーカーデータを生成する神経反応システムが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に中枢神経系(CNS)に関連するさまざまな神経学的障害および神経変性障害の同定を助けるために、少なくとも有用な代替物すなわち、具体的には、神経事象データおよび生物学的マーカーデータを分析でき、患者における状態または障害の存在または不在を示すために得られたデータ内の見境を明瞭に相関させることができるディスプレイまたはプロットを作ることができる、改善されたシステムを提供することが、有利であるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
人から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データを生成する神経事象エクストラクタと、
Sp/Ap曲線データおよび電場電位データを状態の病理データと相関させ、生物マーカーディスプレイの軸の生物マーカーデータ点を生成する相関器と、
前記状態に対して前記人を事前評価する際に使用するために前記点を用いてディスプレイを生成するためにディスプレイデータを提供するディスプレイモジュールと
を含む、神経分析システムが提供される。
【0008】
本発明のもう1つの態様によれば、
時間セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位(Ap)座を生成するために、人の前庭器からの反応を表す信号を処理する神経事象エクストラクタと、
それぞれSp/Ap曲線データおよびAp座の第1相関データおよび第2相関データを生成するために、人の右側および左側から得られたSp/Ap曲線データおよびAp座を平均母集団のSp/Ap曲線データおよびAp座と相関させる相関器と、
生物測定ディスプレイのそれぞれの軸について第1相関データおよび第2相関データを提示するディスプレイモジュールと
を含む、神経分析システムが提供される。
【0009】
本発明のもう1つの態様によれば、
人から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データを生成するステップと、
生物マーカーディスプレイの軸の生物マーカーデータ点を生成するために、Sp/Ap曲線データおよび電場電位データを状態の病理データと相関させるステップと、
前記状態に対して前記人を事前評価する際に使用するために前記点を用いてディスプレイを生成するステップと
を含む、コンピュータによって実行される神経分析方法が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態を、例としてのみ、添付図面を参照して、下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ECOGシステムからの一般化されたECOG反応信号の第1波に関係するSp、Ap、およびSp2の表現であり、累加電位SpおよびSp2と活動電位Apとを定義する図である。
【図2】患者に接続されたEVestGシステムの好ましい実施形態を示す概略図である。
【図3】本システムのチルトシーケンスによって作られる生EVestG信号の表現を示す図である。
【図4】神経事象エクストラクタと、本システムの分析モジュールによって実行される神経事象抽出プロセスとを示す図である。
【図5】本システムのフィルタおよびセグメンテーションコンポーネントを示すアーキテクチャ図である。
【図6】本システムによって生成されるSp/Ap曲線を示す図である。
【図7】EVestGプロットに関連するデータから得られる生物マーカーを示す概略図である。
【図8】本システムの分析モジュールによって実行される神経分析プロセスを示す図である。
【図9】パーキンソン病を有する患者の、EVestGシステムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図10】メニエール病を有する患者の、EVestGシステムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図11】統合失調症を有する患者の、EVestGシステムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図12】鬱病を有する患者の、EVestGシステムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図13】メニエール病およびパーキンソン病を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図14】パーキンソン病および統合失調症を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図15】メニエール病および統合失調症を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図16】鬱病、双極性障害、およびパーキンソン病を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図17】鬱病、双極性障害、およびメニエール病を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図18】鬱病および双極性障害を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図19】薬物投与の前後のパーキンソン病を有する患者および正常な対照患者を比較する、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図20】対照患者と、経頭蓋磁気刺激(TMS)を使用する治療の前と後との両方の鬱病および双極性障害を有する患者とを比較する、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【図21】大鬱病性障害(たとえば、鬱病)および双極性障害を有する患者の、本システムによって生成される生物マーカーディスプレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2に示されたエレクトロベスティビュログラフィ(EVestG)システム2は、チルトチェア(tilt chair)6内で不随意チルト運動を受ける患者4からの5000個を超える生物マーカー測定値を表す生物学的マーカーデータまたは生物マーカーデータを生成できる神経分析システムを提供する。生物マーカーデータは、不随意チルトによってもたらされる刺激に反応して作られるEVestG信号の信号処理分析によって生成される。
【0013】
EVestG信号は、システム2のコンピュータシステム20の増幅器回路22に電気的に接続された電極10、12、および14から得られる。第1電極10(たとえば、Bio-Logic Systems Corp社によって製造されるECochG Electrode)は、患者4の耳の鼓膜上に配置される。第2電極12は、基準点として患者の耳朶上に配置され、第3電極14は、患者の額と増幅器の共有点とに接続される。通常は試験室の周囲に配置される電気絶縁シールド18へのシールド接続16も行われる。シールド18は、増幅器22のシールドに接続される。試験室は、減音ブース(sound attenuated booth)である。このブースは、増幅器22を含むことができ、コンピュータシステム20の残りは、ブースの外部に配置され、USB接続によって増幅器22に接続される。
【0014】
図2に示されているように、患者4は、試験サイクル中に被験者の緊張を解くために患者の頭を受動的に休め、しっかりと支持することを可能にする、長方形の安楽椅子などのチェア6上に配置される。患者を傾け(チルト)、筋肉アーチファクト(muscle artefact)によってより少なく損なわれたこの刺激に対する反応を作る電気駆動チルトチェアが、具体的にはNeuro Kinetics Inc.社によって製造されてきた。不随意な頭のチルトを、患者の首の筋肉の活動を全く伴わずに頭のチルトを誘導するために、助手がチェア6を操作することによって得ることができる。その代わりに、チルトチェアを、不随意チルトシーケンスの所定の組をもたらすために、液圧コンポーネントに取り付け、これによって制御することができる。
【0015】
液圧によって作動するチェア6は、電気サーボモータの作動によって引き起こされる漂遊電界が試験ブース内で生成されることをできる限り除去されることを保証するために使用され、そのために構成される。液圧によって作動するチェアは、敏感な信号測定を損なう可能性がある首の筋肉アーチファクトまたは漂遊電界のいずれをも作らずにチルトをもたらすのに使用される。眼球アーチファクト(ocular artefact)を減らすために、患者は、試験サイクル中に目を閉じたままにするように求められもする。頭は、患者自身によって達成できる最大随意頭チルトとほぼ同一の角度まで下に傾けられる。EVestG信号またはチルト反応が、チルトシーケンスごとに得られる。チルトまたはチルトシーケンスは、上/下(患者の直立および腹臥)、前/後、同側、対側、および回転(患者の直立および腹臥)である。
【0016】
チルトは、それぞれ、図3に示された生EVestG反応信号を作る。チェア6によって実行されるチルトシーケンスは、得られるEVestG反応信号が15個の時間エポックまたは時間セグメントに分割されるようにするために制御されるが、この個数を減らしまたは増やすことができる。電極10から14で作られる神経反応は、システム2によって連続的に記録される。各チルトのEVestG神経反応信号は、複数の周波数成分を有する時間領域電圧信号である。関心を持たれている主な成分は、22500Hzまでである。具体的に言うと、Spピーク(信号対雑音比(S/N)に依存する)は、2〜3サンプル幅にすぎない。したがって、44.1kHzのサンプリングレートが、試験サイクル中に必要である。というのは、このレートが、システム2によって適切な精度を伴ってこの事象を認識し、記録するのに十分な感度を有するからである。このサンプリングレートを、44.1kHzより高くすることができ、その場合に、システム2は、より高速の信号処理コンポーネントを必要とするはずである。7つのチルトが、それぞれ患者の左耳および患者の右耳に位置決めされる2組の電極10から14を用いて実行される。これは、7つのチルトのそれぞれについて耳ごとに同時に左右のデータをもたらす。両方の耳が、すべてのチルト操縦の動的フェーズと静的フェーズとの両方で試験される。というのは、神経学的障害が、脳のいずれかの半球に存在する可能性があり、左右の耳音響器(主に前庭器)の一方または他方の類似する興奮性フェーズまたは抑制性フェーズで各側の反応の比較によってのみその存在を明らかにする場合があるからである。そのような融通性は、診断試験が、脳の各半球の間の喚起される応答の相違を認識するためのものである場合に必要であり、ここで、いくつかの神経学的障害では、機能の非対称性が発生し得る(たとえば、パーキンソン病に関して)。
【0017】
各チルトのシーケンスは、チルトチェアの患者が頭/首をネックレスト(neck rest)に乗せて休み、t=20秒にわたって背景(BG)信号セグメント402を記録する状態で、まず20秒にわたって記録することである。このセグメント402は、チルトの発生の直前の1.5秒であるBGiセグメントを含む。その後、患者は、45°傾けられて、2から3秒後に休むようになる。これは、t=20〜25秒の開始(On)セグメント404、t=20〜30秒の開始過渡(OnT)セグメント406、およびt=30〜40秒の定常状態(SS)セグメント408を与える。耳の半規管は、頭の運動の開始を検出するように機能し、頭チルトの開始で記録される信号から約5秒(Onセグメント)を分析することによって、半規管によって生成される反応を判定するのを助ける。開始反応は、2つの追加セグメントすなわち、運動(OnA)セグメント410および運動後(OnB)セグメント412を含み、これらは、それぞれt=20〜23秒およびt=23〜25秒に発生する。OnAセグメント410を分割して、チルト後の最初の1.5秒の追加のOnAAセグメント413およびチルト後の次の1.5秒のOnBBセグメント415を提供することができる。OnAAセグメントおよびOnBBセグメントは、これらのセグメントがそれぞれ表す加速成分および減速成分の高められた分離のためにそれぞれ20〜21.5秒および21.5〜23秒になるように選択される。これらの時間は、0.6〜0.8秒という液圧チェア6の待ち時間を考慮に入れるために選択され、さらなる弁別のためにより小さいセグメント(たとえば、21.5〜22.25秒および22.25〜23秒)に副分割され得る。これらのセグメントは、主に半規管および耳石器によって作られる反応を含む。駆動された半規管反応は、約10秒後に止まり、したがって、最初の10秒は、したがって、この減衰が観察される開始過渡(OnT)と考えられる。その一方で、耳石器は、静的バランスを維持するか、安定した単一方向の運動中にバランスを維持するように機能する。したがって、定常状態(SS)セグメント408を分析して、耳石器の駆動された反応を別々に提供することができる。
【0018】
チルトのシーケンスは、t=40秒に、その後に患者を最初の位置に戻すことによって完了する。患者は、1から2秒にわたって最初の位置に戻され、作られた反応を、やはり類似する形でセグメント化することができる。チルトシーケンスの戻り部分のセグメントは、次の通りである。
(i)t=40〜45秒の上向き開始(UpOn)420、
(ii)t=40〜50秒の上向き開始過渡(UpOnT)422、
(iii)t=50〜60秒の上向き定常状態(UpSS)424、
(iv)t=40〜43秒の上向き加速(UpOnA)426、
(v)t=43〜45秒の上向き減速(UpOnB)428、
(vi)t=40〜41.5秒のupOnAA 427、および
(vii)t=41.5〜43秒のupOnBB 429。
【0019】
upOnAAセグメントは、加速成分の高められた分離のために40〜41.5秒になるように選択され、upOnBBセグメントは、減速成分の高められた分離のために41.5〜43秒になるように選択される。やはり、0.6〜0.8秒の液圧チェア待ち時間を考慮に入れるために、時間を選択することができる。
【0020】
7つのチルトシーケンスまたはチルトは、次の通りである。
(i)上/下。チェア6は、患者の頭が通常の直立位置にある状態で患者の体を垂直に加速するために移動され、その後、戻される。
(ii)上/下腹臥。チェアは、患者の頭および体が腹臥すなわち横たわった位置で患者の体を垂直に加速するために移動され、その後、戻される。
(iii)前/後。患者の体は、休んだ位置から後ろに25°から45°だけ傾けられ、その後、戻される。
(iv)同側。患者の体は、電極10と同側に25°から45°だけ移動され、その後、戻される。電極10が、左耳内にある場合には、チルトは、左向きであり、その後、チルトは、右に戻される。右耳について、チルトは、右向きである。
(v)対側。患者の体は、電極10と対側に25°から45°だけ移動され、その後、戻される。たとえば、電極10が、左耳内にある場合には、チルトは、右向きであり、その後、患者が戻される。右耳について、チルトは、左向きである。
(vi)回転。患者の体は、患者の頭が通常の直立位置にある状態で右に45°と90°との間で回転され、その後、戻される。
(vii)回転腹臥。患者の体は、患者の体が腹臥すなわち横たわった位置で、右に45°と90°との間で回転され、その後、戻される。
【0021】
すべての運動中に、頭および首は、体に対して移動しない。筋肉アーチファクトを減らすために、体全体が移動される。代替案では、被験者に仰向けに横たわらせ、被験者の体を同側方向、対側方向、垂直方向、および後方向に傾けることによって、チルトを実行することができる。これらのチルトは、特に同側チルトおよび対側チルトについて、より少ない筋肉アーチファクトを作る。
【0022】
EVestGシステム2のコンピュータシステム20は、増幅器回路22と、増幅器22のデータ出力を扱い、その後、経時的な電圧信号としての反応を、キャプチャモジュール26によって提供されるAdobe Auditionなどのコンピュータプログラムを使用して、ウェーブファイルとして格納する通信モジュール24とを含む。増幅器22は、CED 1902絶縁前増幅器回路と、CED Power 1401アナログ-ディジタル変換器(ADC)とを含む。CED 1902とCED 1401 ADCとの両方が、Cambridge Electronic Design Limited社によって製造される。CED 1401 ADCは、優秀な低周波数(1Hz未満)応答を有する。コンピュータシステム20は、さらに、分析モジュール28およびグラフィックス表示モジュール30を含む。分析モジュール28は、神経事象エクストラクタ400を提供し、他のソフトウェアモジュールと共に、図4に示されているように、エクストラクタ400の神経事象抽出プロセス(NEEP)を実行する責任を負うコンピュータプログラムコード(たとえば、MATLAB(登録商標)コード)を含む。分析モジュール28は、下で述べるように反応信号サンプルをフィルタリングするのに使用される複数の異なるフィルタをも提供する。このフィルタリングは、神経事象抽出プロセスの特徴検出コンポーネントのシステム(または白色雑音)応答の除去を含むことができる。
【0023】
グラフィックス表示モジュール30は、オペレータが神経事象抽出プロセス(NEEP)を制御できるようにするために入力コントロールを提供するため、および図6に示されたSp/Apプロットなどの神経事象データのディスプレイを生成するために、システム2のオペレータ用のユーザインターフェース32を生成する。ソフトウェアモジュール24から30のコンピュータプログラムコードは、コンピュータシステム20のメモリ(ハードディスク、RAM、および/またはROMなど)に格納され、Microsoft Windows(登録商標)またはLinux(登録商標)などのオペレーティングシステム34上で実行される。使用されるハードウェアは、増幅器回路22と、IBM Corporation社によって製造されるものなどの標準的なパーソナルコンピュータ20とを含むことができる。ECOG記録システムは、Bio-Logic Systems Corp社によって製造される。神経事象抽出プロセス(NEEP)を、モジュール24から34のソフトウェアの制御の下で実行することができるが、このプロセスのステップを、ASICおよびFPGAなどの専用ハードウェア回路によって実行でき、インターネットなどのコンピュータ通信ネットワークにまたがって分散されたコンポーネントまたはモジュールによって実行することもできることが、当業者によって理解されるであろう。たとえば、処理速度を高めるために、専用フィルタ回路を使用してフィルタを提供することができ、専用ディジタル信号プロセッサ(DSP)を使用して複数の信号処理ステップを実行することができる。
【0024】
図4に示された神経事象抽出プロセス(NEEP)は、記録、フィルタリング、およびセグメント化プロセス440と、生物マーカー抽出プロセス450と、相関分析プロセス460とを除いて、EVestG反応について国際特許出願公告第WO 2006/024102号に記載されたものと同一である。7つのチルトのそれぞれから得られた、患者の耳ごとのEVestG反応すなわち14個の反応を表すデータが、下で述べるように記録され、その後、チルト反応ごとに3つのフィルタリングされた反応のフィルタリングされたデータすなわち42個のフィルタリングされたチルト反応のフィルタリングされた反応データを提供するために、3つの異なる形でフィルタリングされる。図5に示されているように、各チルト501、502、504、506、508、510、および511のチルト反応は、それぞれ、第1フィルタ512、第2フィルタ514、および第3フィルタ516によってフィルタリングされる。第1フィルタ512は、DC電圧レベルを表すデータを含めてすべての周波数が通過することを許容するので、フィルタリングなしを提供する。しかし、第1フィルタ512は、位相シフトを導入しないがたとえば50Hzまたは60Hzの電力線高調波を除去し、チェアの液圧作動によって導入される可能性がある液圧(比例弁)スイッチングアーチファクトをも除去する、非常に狭いノッチフィルタを含む。このノッチフィルタは、第2フィルタ514および第3フィルタ516の出力でも使用される。第2フィルタ514と第3フィルタ516との両方が、高域フィルタリングを提供する。第2フィルタ514は、5Hz高域フィルタを含み、第3フィルタ516は、120Hz高域フィルタを含む。神経事象抽出プロセス(NEEP)による処理のためにフィルタ512、514、および516によって作られた3つのフィルタリングされたチルト反応を提供することは、低周波数データによって壊される可能性がある生物学的マーカーの群が、高域フィルタリングされた反応内で質を高められるが、低周波数データが存在する時に限って存在するかその時に限って抽出され得る他のクリティカルな生物学的マーカー、たとえばメニエール病について使用されるいくつかの生物学的マーカーも使用可能であるという利益を与える。
【0025】
42個のフィルタリングされたチルト反応は、それぞれ、上で述べたようにフィルタリングされたチルト反応ごとに15個のセグメント402、404、406、408、410、412、413、415、420、422、424、426、427、428、および429を作るために、分析モジュール28のセグメンタ550によって実行されるセグメント化プロセス440によってセグメント化される。これは、630個のフィルタリングされたチルト反応セグメントを表す630組のデータを作る。セグメントは、患者の左耳から得られたデータ552と患者の右耳から得られたデータ554とを含む。記録、フィルタリング、およびセグメント化プロセス440の出力は、630個のフィルタリングされたチルト反応信号であり、この630個のフィルタリングされたチルト反応信号は、その後、図4に示された神経事象抽出プロセス(NEEP)の残りのプロセスにかけられる。これは、セグメントごとのすなわちデータの630個の組のそれぞれのSp/Apデータを作る。セグメントは、それぞれ、神経事象抽出プロセス(NEEP)によってEVestG反応として扱われる。WO 2006/024102で述べられているように、このプロセスは、各反応セグメントを複素Morletウェーブレットを使用して分解して、600Hzから12KHzまでの7つの等しい対数空間スケールにまたがって位相データを得る。スケールデータは、位相の鋭い変化がすべてのスケールにまたがって発生する座を判定するために処理される。
【0026】
しかし、大きい位相変化が、スケールにまたがるが複数のサンプル時刻に(またはサンプル時刻のわずかな変動で)同定可能である場合がある。たとえば、スケール1で、座を、たとえば時刻サンプル344で見つけることができる。スケール2について、座がサンプル345にあり、スケール3で座347にあり、スケール4で座349にあり、スケール5で座346にあり、スケール6で座345にあるなどである可能性がある。これは、同一の位相変化に関係するスケールにまたがる点の曲がった接続を表す。これを考慮するために、NEEPは、スケールサンプル時刻の間の許容可能なギャップを許容し、適用する。このギャップは、任意にセットすることができるが、通常は1サンプルから3サンプルまでである。
【0027】
これらの座が弁別された後に、Sp/Apプロット用の特性データが、導出され、アーチファクトから神経反応を選択するのに使用される。Sp/Ap曲線のデータは、スケールにまたがって判定された座の平均をとることによって判定され、EVestGプロットを、図6に示されているようにセグメントごとのデータから作ることができる。
【0028】
神経事象抽出プロセス(NEEP)は、白色雑音に起因して偶然に座を検出する可能性がある。これに対処し、抽出されるEVestG Sp/ApプロットのS/N比を改善するために、白色雑音応答を、システム2によって減算することができる。システム2は、まずシステムの記録特性と一致するようにフィルタリングされた(たとえば、10kHz低域フィルタリングおよび無(DC)フィルタリング、5Hzまたは120Hz高域フィルタリング)白色雑音を入力することと、この入力に対するEVestG Sp/Apシステム応答を記録することとによって達成され、このEVestG Sp/Apシステム応答は、帯域制限白色雑音(Band Limited White Noise)(BLWN)応答として格納される。その後、スケーリングされたBLWN応答が、NEEPによって作られたEVestG (RAEVestG)から減算される。スケーリング係数は、RAEVestGのAp点を判定することによって判断される。スケーリング係数は、0をセットされ、出力データ=RAEVestG-スケーリングされたBLWN反応が任意の時間、通常は2サンプルを超えてシフトすることによってAp点(反応プロット最小値)を見るまで、0.01ステップ単位で増分される。スケーリングされたBLWN応答を減算することが、Ap点の位置の著しい調整を引き起こした後に、スケーリング係数(scale)は、セットされ、それ以上増やされない。これは、調整されたNEEP出力EVestG=RAEVestG-scale*BLWNを与える。BLWN応答は、BLWN応答の特徴を表すために大きい電場電位が検出されるようにするために、NEEPがステップ318でしきい値を用いて白色雑音応答を処理することによって作られる。
【0029】
時々、神経事象(電場電位)が発生し、その結果、その波形がオーバーラップするようになる。これが発生する時には、診断生物マーカーが壊される可能性がある。この問題を解決するために、神経事象抽出プロセス(NEEP)は、生物マーカー完全性を失わずにそのような事象を除外することができる。これらの事象を見つけるために、Ap点の座が判定される。これらの座が、通常は66サンプル(1.5ms)である任意の個数のサンプルより近い場合には、両方の電場電位を除外することができる。NEEP処理の一部として除外判断をインまたはアウトに切り替えられるようにするために、フラグをセットしまたはリセットすることができる。
【0030】
Sp/ApまたはEVestGの曲線データがセグメントごとに作られた(350)後に、抽出プロセスは、17個の異なる生物学的マーカーを表すメトリックデータまたは生物学的マーカーデータを生成する、各セグメントに対する生物マーカー抽出プロセス(450)を呼び出すことができる。患者ごとに作られた630個の異なるセグメントがあるので、これは、各生物マーカーの630個の測定値を表す生物学的マーカーデータを生じさせる。したがって、各患者の生物マーカーデータは、10,710個の生物マーカー測定値を表す。これは、7つのチルトシーケンスにかけられた1人の患者から得られたかなりの量のデータであり、さまざまな神経学的障害および神経変性障害が存在するか否かを正確に判定するのに使用され得る。17個の生物学的マーカーは、下で定義され、図7に示される(ApはV形のEVestG曲線全体であり、Ap点はApプロットの最小点であるという定義を仮定する)。
(i)Ap前上昇または低下。Apの直前の基準線を超える/下回る上昇または低下。
(ii)Ap後上昇または低下。Apの直後の基準線を超える/下回る上昇または低下。
(iii)Ap大きさ。Ap点での電圧の大きさ。
(iv)Spノッチ点(座)。Apの下向きの腕が逆転する/遅くなる/停止する時刻。通常はAp開始の約0.3ms後。
(v)開始点(座)。Apの始まりの時刻。
(vi)基準線幅。基準線レベルでのApの幅。
(vii)Spピーク。Spノッチ点の後でAp最下点に向かうApの下向きの連続の前の短い上昇の先端。
(viii)Sp幅。SpノッチからApの次の下向きの腕までの幅(時間)。
(ix)Sp大きさ。Spノッチ点を超えるSpピークの高さ。
(x)TAP (内部)。Spノッチの後のApの下向きの腕から水平にApの上向きの腕までの測定されたSpノッチレベルでのApの幅(時間)。
(xi)TAP (ノッチ)。Spノッチから水平にApの上向きの腕までの測定されたSpノッチレベルでのApの幅(時間)。
(xii)Na角。垂直からその腕までで測定されたAp最下点とSpノッチの高さとの間のAPの下向きの腕の角度。
(xiii)K角。垂直からその腕までで測定されたAp最下点とSpノッチの高さとの間のAPの上向きの腕の角度。
(xiv)Na+K角。12番目の生物マーカー値と13番目の生物マーカー値との和。
(xv)Sp/Ap比。Spノッチから基準線までの垂直距離をAp点から基準線までの垂直距離で除算したもの。
(xvi)スパイクレート(Spike Rate)。検出され、Apプロットを形成するのに使用された電場電位の個数。
(xvii)DCシフト。基準線レベルから測定された異なるApプロットの間の垂直シフト。
【0031】
42個のフィルタリングされたチルト反応信号のそれぞれの追加の2つの生物マーカーが、反応信号ごとにBGiセグメントからOnAAセグメントおよびOnBBセグメント内で得られたデータを減算することによって得られる。これは、
(a)BGi - OnAA反応データおよび(b)BGi - OnBB反応データ
を作る。これは、それぞれのチルト反応信号のそれぞれの動的応答を表す84個の追加の生物マーカーを作る。
【0032】
分析モジュール28は、図8に示された相関分析コンポーネント800を含み、相関分析コンポーネント800は、グラフィックス表示モジュール30によって生成される状態診断生物マーカーディスプレイの軸ごとに表示点データを生成するために相関分析プロセス460を実行する。コンポーネント800は、生物マーカーディスプレイの1つの軸のプロット点データを生成するためにEVestG曲線データを処理し、生物マーカーディスプレイのもう1つの軸のプロット点データを生成するために時間反応データを処理する。生物マーカーディスプレイの例が、図9に示され、他のディスプレイが、下で述べる図10から21に示されている。ディスプレイに示された各点は、患者または試験対象を表す。ディスプレイ内の患者の点の位置は、CNS状態の存在または不在、あるいはその状態に関する特定の治療または薬剤投与計画に対する患者による相対的な反応を示す。
【0033】
ディスプレイの水平軸について、使用される生物マーカーデータは、BGi (直接背景t=18.5〜20秒)チルトフェーズ/セグメントおよびonBB (チルトの減速フェーズt=21.5〜23秒)チルトフェーズ/セグメントのEVestG曲線データである。3つすべてのフィルタのデータを使用するのではなく、この2つのセグメントのDCフィルタのデータが、使用される。DCデータは、反応の最低周波数成分すなわち、より長い時間枠にわたって発生し、より多くの皮質入力および時間枠を反映する成分のすべてを含む。BGiセグメントは、チルトの前の即座の状態を反映し、背景レベルに低周波数(長い時間枠)変動があるので、使用される。onBBセグメントは、背景と比較して大きい反応の変化を示すので使用される。コンポーネント800は、次の信号処理ステップを実行する。
(1)基準線を超えるAp点までの反応の範囲を判定するために、onBBおよびBGi Sp/Apプロットの最大値および最小値が、Sp/Apプロットのデータ時間サンプル範囲305:441および441:537を処理することによって判定され、ここで、サンプル441は、前上昇および低下から後上昇および低下までの範囲全体をカバーするためにAp点(図6に示されているように点265に対応する)に対応する。各Sp/Apプロットは、881個の時間サンプル点を含む。より大きい範囲(onBBまたはBGi)に基づいて、プロットは、この範囲によって除算することによって正規化される。データ値内の最大範囲は、100% (通常、onBBプロットの範囲はBGiプロットの範囲より大きい)と考えられ、したがって、これは、正常と考えられ、他の範囲は、これによってスケーリングされる。
(2)正規化されたBGiプロットおよび正規化されたonBBプロットが、BGi-onBBプロットを表すデータを生成するために減算される。
(3)患者(年齢および性別をマッチングされた母集団)群ごとに、平均BGi-onBBプロットが、同側チルトシーケンスおよび対側チルトシーケンスについて生成され、右データ、左データ、および右+左反応データが、群の各メンバから得られる。これは、母集団群ごとに6つの平均プロットを作る(すなわち、左、右、および右+左データごとに2チルト)。各母集団は、対照群または、その群が有することがわかっている病理または状態、すなわちパーキンソン病(PD)、統合失調症、鬱病、メニエール病などを表す群のいずれかを表す。母集団あたり6つのプロットを、前もって得ることができ、これらのプロットは、患者または被験者「X」の相関測定データを得るのに使用される。
(4)被験者Xの6つの正規化されたBGi-onBBプロット反応(881個すべての時間サンプル点)が、対照群または病理に関するそれぞれの6つの平均プロットと比較される。反応は、同側チルトおよび対側チルトについて左データ、右データ、および右+左データから得られる。これらのチルトは、休息またはお互いからの最大の反応の差を生成するので使用される。特に前庭器の半規管からの、同側は、興奮性である傾向があり、対側は、抑制性である傾向がある。各比較は、相関関数を使用して相関測定値を生成する。この相関関数は、2つの比較されるプロットの点を使用して、測定値として相関係数Rを生成する。複数の異なる相関関数を、係数Rを提供するために使用することができる。たとえば、
【0034】
【数1】

【0035】
であり、ここで、
【0036】
【数2】

【0037】
および
【0038】
【数3】

【0039】
は、それぞれ、各比較されるプロットXおよびYの点xおよびyのサンプル平均である。
(5)得られた6つの係数は、被験者Xおよび対照母集団または病理母集団を用いる比較を表す相関データを提供するために一緒に合計される。対照または病理の相関データの値は、生物測定ディスプレイの散布図上の被験者Xの水平プロット点データを形成するために減算される。たとえば、パーキンソン病(PD)対対照の点(散布図の水平座標)を得るために
RX:Control(tot)=RX:Control(right)+RX:Control(left)+RX:Control(L&R);
対照母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
RX:PD(tot)=RX:PD(right)+RX:PD(left)+RX:PD(L&R);
PD母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
水平点=RX:Control-PD(tot)=RX:Control(tot)-RX:PD(tot)
水平点が正である場合には、これは、対照母集団とのXの関連の測定値を提供する。水平点が負である場合には、これは、PDとのXの関連の測定値を提供する。
【0040】
図8を参照すると、相関分析コンポーネント800は、上で説明したステップ(1)および(2)を含むSp/Ap (EVestG)プロットに対する正規化プロセス802と、上で説明したステップ(3)および(4)を含む相関プロセス804と、ステップ(5)および生物マーカーディスプレイのx軸のプロットを生成するために係数を格納し、処理することを含む係数プロセス806とを実行する。
【0041】
もう1つの軸、たとえば生物測定ディスプレイの垂直軸またはy軸について、生物マーカーデータは、ステップ330でNEEPによって判定された各抽出された電場電位(すなわち、Ap座)の記録された時刻から生成される。所与のセグメントについて、300個を超える検出されたAp点がある場合がある。120Hzフィルタ516から得られた信号を使用して(望まれないDCアーチファクトを除去するために)、電場電位(Ap)時刻が、BGi (直接背景t=18.5〜20秒)チルトフェーズセグメントおよびonBB (チルトの減速フェーズt=21.5〜23秒)チルトフェーズセグメントのインターバルヒストグラム(interval histogram)を生成するのに使用される。判定されるインターバルは、セグメント内の隣接するAp座の間の時間差である。相関プロセス460は、チルトフェーズセグメントごとにヒストグラムを生成するのに25個の時間ビン(<0.5ms、0.5〜0.6ms、0.6〜0.71ms、0.71〜0.8ms、0.8〜1ms、1〜1.2ms、1.2〜1.4ms、1.4〜1.62ms、1.62〜2ms、2〜2.3ms、2.3〜2.8ms、2.8〜3.3ms、3.3〜5ms、5〜6ms、7.1ms、7.1〜8ms、8〜10ms、10〜12ms、12〜14ms、14〜16.2ms、16.2〜20ms、20〜23ms、23〜28ms、28〜33ms、33〜50ms)を使用する。信号処理ステップは、次を含む。
(6)インターバルヒストグラムが、生成され、それぞれが、セグメント反応内の電場電位インターバル(Ap点)の個数のパーセンテージを表すために正規化される、すなわち、最終的なAp点の総数は100%である。
(7)正規化されたBGiヒストグラムおよび正規化されたonBBヒストグラムが、25個の点を有するBGi-onBBヒストグラムを与えるために減算される。
(8)平均BGi-onBBインターバルヒストグラムが、年齢および性別をマッチングされた母集団群ごとに同側および対側の右、左、および右+左(または左-右)について作成される。やはり、各母集団は、対照群またはその群が有することがわかっている病理もしくは状態すなわちパーキンソン病(PD)、統合失調症、鬱病、メニエール病などを表す群のいずれかを表す。これらの母集団あたり6つのヒストグラムを、前もって得ることができ、これらのヒストグラムは、患者または被験者「X」の相関測定データを得るのに使用される。
(9)被験者Xの6つのBGi-onBBインターバルヒストグラム(ヒストグラムごとに25個の点の値を有する)が、それぞれ、対照群または病理の6つの平均インターバルヒストグラムと比較される。これらのインターバルヒストグラムは、同側チルトおよび対側チルトの左データ、右データ、および右+左データから得られる。各比較は、相関関数を使用して相関測定値を生成する。この相関関数は、2つの比較されるヒストグラムの点を使用して測定値として相関係数Rを生成する。複数の異なる相関関数を使用して、係数Rを提供することができる。たとえば、
【0042】
【数4】

【0043】
であり、ここで、
【0044】
【数5】

【0045】
および
【0046】
【数6】

【0047】
は、それぞれ、各比較されるヒストグラムXおよびYの点xおよびyのサンプル平均である。
(10)得られた6つの係数は、被験者Xおよび対照母集団または病理母集団を用いる比較を表す相関データを提供するために一緒に合計される。対照および病理の相関データの値は、生物測定ディスプレイの散布図上の被験者Xの垂直プロット点データを形成するために減算される。たとえば、PD対対照の点(散布図の垂直座標)を得るために
RX:Control(tot)=RX:Control(right)+RX:Control(left)+RX:Control(L&R);
対照母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
RX:PD(tot)=RX:PD(right)+RX:PD(left)+RX:PD(L&R);
PD母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
垂直点=RX:Control-PD(tot)=RX:Control(tot)-RX:PD(tot)
垂直点の値が正である場合には、これは、対照母集団とのXの関連の測定値を提供する。垂直点が負である場合には、これは、PDとのXの関連の測定値を提供する。
【0048】
図8を参照すると、相関分析コンポーネント800は、上で説明したステップ(6)および(7)を含む、これらのセグメントに対するEVestG反応のOnBBインターバルヒストグラムおよびBGiインターバルヒストグラムに対して正規化プロセス808を実行する。上で説明したステップ(8)および(9)を含む相関プロセス810が、インターバルヒストグラムを使用して被験者Xの相関係数を得るために実行され、ステップ(10)を含む係数プロセス812は、生物マーカーディスプレイのy軸の点を生成するために係数を格納し、処理することを含む。
【0049】
相関コンポーネント800を、患者の間の分離および弁別をさらに改善するために相関分析プロセス460を使用して、ディスプレイの第3軸、たとえばz軸の生物マーカーを得るのに使用することもできる。この軸について、スペクトル密度プロットまたは分光写真が、onBB反応、BGi反応、またはBGi-onBB反応のうちの1つまたは組合せのSp/Apプロットにまたがって適用される32個の512点高速フーリエ変換(FFT)を使用して生成される。信号処理ステップは、次を含む。
(11)総ビンサイズが合計100%になるようにするために、各分光写真を正規化する。
(12)正規化されたBGiおよびonBBの分光写真を、BGi-onBB分光写真を提供するために減算する。
(13)平均BGi分光写真、平均onBB分光写真、および平均BGi-onBB分光写真を、年齢および性別をマッチングされた母集団群ごとに同側および対側の右、左、および右+左の反応について作成する。やはり、各母集団は、対照群またはその群が有することがわかっている病理もしくは状態すなわちパーキンソン病(PD)、統合失調症、鬱病、メニエール病などを表す群のいずれかを表す。これらの母集団あたり18個の分光写真を、前もって得ることができ、これらの分光写真は、患者または被験者「X」の相関測定データを得るのに使用される。
(14)被験者Xの6つのBGi-onBB分光写真が、それぞれ対照群または病理の6つの平均BGi-OnBB分光写真と比較される。これらの分光写真は、同側チルトおよび対側チルトの左データ、右データ、および右+左データから得られる。各比較は、相関関数を使用して相関測定値を生成する。この相関関数は、2つの比較される分光写真の点を使用して測定値として相関係数Rを生成する。複数の異なる相関関数を使用して、係数Rを提供することができる。たとえば、
【0050】
【数7】

【0051】
であり、ここで、
【0052】
【数8】

【0053】
および
【0054】
【数9】

【0055】
は、それぞれ、各比較される分光写真XおよびYの点xおよびyのサンプル平均である。
(15)得られた係数は、被験者Xおよび対照母集団または病理母集団を用いる比較を表す相関データを提供するために一緒に合計される。対照および病理の相関データの値は、生物測定ディスプレイの散布図上の被験者Xの垂直プロット点データを形成するために減算される。
たとえば、PD対対照の点(散布図のz座標)を得るために
RX:Control(tot)=RX:Control(right)+RX:Control(left)+RX:Control(L&R);
対照母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
RX:PD(tot)=RX:PD(right)+RX:PD(left)+RX:PD(L&R);
PD母集団との類似性の測定値を表すXの相関データ
Z点=RX:Control-PD(tot)=RX:Control(tot)-RX:PD(tot)
Z点の値が正である場合には、これは、対照母集団とのXの関連の測定値を提供する。Z点が負である場合には、これは、PDとのXの関連の測定値を提供する。
【0056】
たとえば鬱病分離または統合失調症分離に使用できるもう1つの生物マーカーが、Apプロットの片側の100〜150サンプルの領域およびその組合せでのある患者のSp/Apプロットの平均である。
【0057】
図9から21に、水平軸および垂直軸に表示点データを使用してグラフィックス表示モジュール30および分析モジュール28によって生成される生物測定ディスプレイを示す。これらのプロットは、対照群および病理群の被験者のそれぞれを平均反応と相関させることによって得られた。たとえば、図9は、対照群のメンバとパーキンソン病を示すことが既知の病理群のメンバとの間の分離を示す。図10は、対照群のメンバとメニエール病を有することが既知の群のメンバとの間の分離を示す。図11は、年齢および性別をマッチングされた対照群のメンバと統合失調症を示すことが既知の母集団のメンバとの間の分離を示す。図12は、年齢および性別をマッチングされた対照群のメンバと鬱病を示すことが既知の群のメンバとの間の分離を示す。図13は、メニエール病を示すことが既知の群の被験者とパーキンソン病を示すことが既知の群の被験者との間の分離を示す。図14は、統合失調症を示すことが既知の群とパーキンソン病を示すことが既知の群との間の分離を示す生物測定ディスプレイを示す。図15は、メニエール病を示すことが既知の群と統合失調症を示すことが既知の群との間の分離を示す生物測定ディスプレイを示す。図16は、鬱病を示すことが既知の群とパーキンソン病を示すことが既知の群と双極性障害を示すことが既知の4人の患者との間の分離を示す。図17は、鬱病を示すことが既知の群とメニエール病を示すことが既知の群と双極性障害を示すことが既知の4人の患者との間の分離を示す。図17は、メニエール病を有することが既知の、前庭神経の切断を含む右耳前庭神経切断術によって治療された患者について行われた4回の記録セッションから得られた4つの点をも示す。図18は、鬱病を示すことが既知の群と統合失調症を示すことが既知の群との間の分離を示す。
【0058】
図19は、年齢および性別をマッチングされた対照群のメンバと、薬物投与の前のパーキンソン病を示すことが既知の群のメンバと、エルドーパ投与によって治療された後の同一の群のメンバとについて得られた表示点の生物測定ディスプレイを示す。薬物投与の効果を、薬物投与された群が対照群に向かって移動することから知ることができる。
【0059】
図20は、年齢および性別をマッチングされた対照群のメンバと、治療の前の鬱病を示すことが既知の群のメンバと、治療の後の双極性障害を示すことが既知の群のメンバと、経頭蓋磁気刺激(TMS)を使用して治療された後の同一の2つの群のメンバとについて得られた表示点の生物測定ディスプレイを示す。TMS治療の効果を、治療された群が対照群に向かって移動することから知ることができる。
【0060】
図21は、大鬱病性障害(たとえば、鬱病)を示すことが既知の群と双極性障害を示すことが既知の群との間の分離を示す。
【0061】
本神経分析システムによる生物測定ディスプレイの生成は、侵襲性の技法を用いることなく、ある範囲のCNS障害またはCNS状態を示す被験者の間で区別し、薬物投与の効果を区別するためにディスプレイを作ることができるので、特に有利である。
【0062】
添付図面を参照して本明細書のこの前で説明した本発明の範囲から逸脱しない多数の修正形態が、当業者に明白であろう。
【符号の説明】
【0063】
2 エレクトロベスティビュログラフィ(EVestG)システム
4 患者
6 チルトチェア(tilt chairチルトチェア)
10 電極
12 電極
14 電極
16 シールド接続
18 電気絶縁シールド
20 コンピュータシステム
22 増幅器回路
24 通信モジュール
26 キャプチャモジュール
28 分析モジュール
30 グラフィックス表示モジュール
32 ユーザインターフェース
34 オペレーティングシステム
400 神経事象エクストラクタ
402 背景(BG)信号セグメント
404 開始(On)セグメント
406 開始過渡(OnT)セグメント
408 定常状態(SS)セグメント
410 運動(OnA)セグメント
412 運動後(OnB)セグメント
413 OnAAセグメント
415 OnBBセグメント
420 上向き開始(UpOn)
422 上向き開始過渡(UpOnT)
424 上向き定常状態(UpSS)
426 上向き加速(UpOnA)
427 upOnAA
428 上向き減速(UpOnB)
429 upOnBB
440 記録、フィルタリング、およびセグメント化プロセス
450 生物マーカー抽出プロセス
460 相関分析プロセス
501 チルト
502 チルト
504 チルト
506 チルト
508 チルト
510 チルト
511 チルト
512 第1フィルタ
514 第2フィルタ
516 第3フィルタ
550 セグメンタ
552 患者の左耳から得られたデータ
554 患者の右耳から得られたデータ
800 相関分析コンポーネント
802 正規化プロセス
804 相関プロセス
806 係数プロセス
808 正規化プロセス
810 相関プロセス
812 係数プロセス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データを生成する神経事象エクストラクタと、
前記Sp/Ap曲線データおよび前記電場電位データを状態の病理データと相関させ、生物マーカーディスプレイの軸の生物マーカーデータ点を生成する相関器と、
前記状態に対して前記人を事前評価する際に使用するために前記点を用いて前記ディスプレイを生成するためにディスプレイデータを提供するディスプレイモジュールと
を具備する、ことを特徴とする神経分析システム。
【請求項2】
前記状態の前記病理データは、前記状態を示すことが既知の母集団から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データである、ことを特徴とする請求項1に記載の神経分析システム。
【請求項3】
前記軸のうちの一方は、患者の前記Sp/Ap曲線データと前記母集団の前記Sp/Ap曲線データとの間の相関を表し、他方の軸は、前記患者の前記電場電位データと前記母集団の前記電場電位データとの間の相関を表す、ことを特徴とする請求項2に記載の神経分析システム。
【請求項4】
前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントは、刺激に反応して右耳および左耳から得られたデータを含む、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の神経分析システム。
【請求項5】
前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントは、同側チルトおよび対側チルトについて得られる、ことを特徴とする請求項4に記載の神経分析システム。
【請求項6】
前記Sp/Ap曲線データについて、前記セグメントはDCフィルタリングされる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の神経分析システム。
【請求項7】
前記電場電位データについて、前記セグメントは、DCアーチファクトを除去するために高域フィルタリングされる、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の神経分析システム。
【請求項8】
前記相関器は、前記状態に関する前記病理データとの類似性の測定値を表す前記人の相関係数データと、対照母集団から得られた神経事象エクストラクタデータとの類似性の測定値を表す前記人の相関データとを生成し、前記点は、前記病理データに関連する前記相関データと前記対照母集団に関連する前記相関データとの間の差を表す、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の神経分析システム。
【請求項9】
前記状態は、パーキンソン病、統合失調症、鬱病、メニエール病、または双極性障害などの中枢神経系状態である、ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の神経分析システム。
【請求項10】
前記神経事象エクストラクタは、前記人から得られた前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントの分光写真を生成し、前記相関器は、前記分光写真を、前記状態を示すことが既知の母集団から得られた分光写真と相関させ、前記ディスプレイの別の軸の生物マーカーデータ点を生成する、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の神経分析システム。
【請求項11】
時間セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位(Ap)座を生成するために、人の前庭器からの反応を表す信号を処理する神経事象エクストラクタと、
それぞれ前記Sp/Ap曲線データおよび前記Ap座の第1相関データおよび第2相関データを生成するために、人の右側および左側から得られた前記Sp/Ap曲線データおよび前記Ap座を平均母集団のSp/Ap曲線データおよびAp座と相関させる相関器と、
生物測定ディスプレイのそれぞれの軸について前記第1相関データおよび前記第2相関データを提示するディスプレイモジュールと
を具備する、ことを特徴とする神経分析システム。
【請求項12】
前記神経事象エクストラクタは、前記時間セグメントの分光写真をさらに生成し、前記相関器は、第3相関データを生成するために、前記人の右側および左側から得られた前記分光写真を平均母集団分光写真と相関させ、前記ディスプレイモジュールは、前記生物測定ディスプレイの別のそれぞれの軸について前記第3相関データを提示する、ことを特徴とする請求項11に記載の神経分析システム。
【請求項13】
人から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データを生成するステップと、
生物マーカーディスプレイの軸の生物マーカーデータ点を生成するために、前記Sp/Ap曲線データおよび前記電場電位データを状態の病理データと相関させるステップと、
前記状態に対して前記人を事前評価する際に使用するために前記点を用いて前記ディスプレイを生成するステップと
を有する、ことを特徴とするコンピュータによって実行される神経分析方法。
【請求項14】
前記状態の前記病理データは、前記状態を示すことが既知の母集団から得られた背景セグメントおよび初期反応セグメントのSp/Ap曲線データおよび電場電位データである、ことを特徴とする請求項13に記載の神経分析方法。
【請求項15】
前記軸のうちの一方は、患者の前記Sp/Ap曲線データと前記母集団の前記Sp/Ap曲線データとの間の相関を表し、他方の軸は、前記患者の前記電場電位データと前記母集団の前記電場電位データとの間の相関を表す、ことを特徴とする請求項14に記載の神経分析方法。
【請求項16】
前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントは、刺激に反応して右耳および左耳から得られたデータを含む、ことを特徴とする請求項13、14または15に記載の神経分析方法。
【請求項17】
前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントは、同側チルトおよび対側チルトについて得られる、ことを特徴とする請求項16に記載の神経分析方法。
【請求項18】
前記Sp/Ap曲線データについて、前記セグメントはDCフィルタリングされる、ことを特徴とする請求項13から17のいずれか一項に記載の神経分析方法。
【請求項19】
前記電場電位データについて、前記セグメントは、DCアーチファクトを除去するために高域フィルタリングされる、ことを特徴とする請求項13から18のいずれか一項に記載の神経分析方法。
【請求項20】
前記相関させるステップは、前記状態に関する前記病理データとの類似性の測定値を表す前記人の相関係数データと、対照母集団から得られた神経事象エクストラクタデータとの類似性の測定値を表す前記人の相関データとを生成するステップを含み、前記点は、前記病理データに関連する前記相関データと前記対照母集団に関連する前記相関データとの間の差を表す、ことを特徴とする請求項13から19のいずれか一項に記載の神経分析方法。
【請求項21】
前記状態は、パーキンソン病、統合失調症、鬱病、メニエール病、または双極性障害などの中枢神経系状態である、ことを特徴とする請求項13から20のいずれか一項に記載の神経分析方法。
【請求項22】
前記人から得られた前記背景セグメントおよび前記初期反応セグメントの分光写真を生成するステップと、前記ディスプレイの別の軸の生物マーカーデータ点を生成するために、前記分光写真を、前記状態を示すことが既知の母集団から得られた分光写真と相関させるステップとを含む、ことを特徴とする請求項13から21のいずれか一項に記載の神経分析方法。
【請求項23】
請求項13から22のいずれか一項に記載の方法を実行する際に使用されるコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ可読ストレージ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公表番号】特表2012−530560(P2012−530560A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516437(P2012−516437)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000795
【国際公開番号】WO2010/148452
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511312735)モナシュ ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】