説明

神経変性疾患の治療

配列D-Arg-L-Glu-L-Argまたは配列L-Arg-D-Glu-L-Argを有するペプチド、及びそれらの誘導体を開示する。そのようなペプチドは、神経変性疾患の治療において、並びに向知性薬として有用である。好ましいペプチドは、保護基を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリペプチドを含む化合物及びその誘導体、並びに神経変性疾患の治療における前記化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、進行性の記憶喪失、及びその後の何年もの期間にわたるその他ほとんどの認知機能の不可逆的衰退を特徴とする脳の変性疾患である。それは、特に老齢人口における重要な健康問題であり、イギリスだけでも現在およそ800,000人の人々に影響を及ぼしている。
【特許文献1】国際特許出願WO02/083729
【非特許文献1】Selkoe, Annu Rev Neurosci 17, 489-517, 1994
【非特許文献2】Kang et al, Nature 325, 733-736(1987)
【非特許文献3】Carrodeguas et al, Neuroscience 134, 1285-1300(2005)
【非特許文献4】Barnes et al, J Neurosci 18(15)5869-5880(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近まで、アルツハイマー病の治療戦略は、アセチルコリン濃度の安定化に取り組んできた。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の使用は、変性を停止または逆転させるのには適さない一時的な改善をもたらす。これらの薬剤の有効性は、NICE(英国国立臨床研究所)によって批判されており、当該疾患を特徴づける神経細胞の死滅の根底にある生化学的メカニズムのより深い理解に基づいた、より有効なアプローチに対する緊急の必要性がある。
【0004】
アルツハイマー病に罹患したヒトの脳において起こっていることが示されている2つの影響は、脳の神経細胞外におけるもつれたタンパク質の塊(プラーク)の形成と脳の細胞内における種々のタンパク質(神経原線維変化:neurofibrillary tangles)の形成である。前記細胞外タンパク質は、アミロイド前駆体タンパク質APPのアミロイドβ部分に相当するアミノ酸配列を有するポリペプチドの凝集であることが知られている。これらのタンパク質のもつれた塊は、アミロイドプラークとして知られている。前記細胞内タンパク質は、神経原線維及びタウタンパク質として知られている。しかしながら、アミロイドプラークの細胞外蓄積及び神経原線維タンパク質の細胞内蓄積のいずれかまたは両方が、アルツハイマー病及び関連するアルツハイマー型神経変性疾患の原因または兆候であるかどうかは分かっていない。
【0005】
APPファミリーは、選択的スプライシングによって生じる770、752、751、733、714、696、695、及び677個のアミノ酸残基からなる8つのアイソフォームからなる(Selkoe, Annu Rev Neurosci 17, 489-517, 1994参照)。ニューロンに存在するアイソフォームは、既知の配列中の695個のアミノ酸残基からなることが知られている[Kang et al, Nature 325, 733-736(1987)及びCarrodeguas et al, Neuroscience 134, 1285-1300(2005)を参照(それらの内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)]。ニワトリとヒトのAPP-751配列は、Carrodeguasの図1において比較されている。
【0006】
APPは、多機能性膜貫通タンパク質であり、神経の伸長を含む正常な脳組織における重要な機能を担っていることが知られている。APP合成を下方制御すること、またはその細胞外N末ドメインを抗体でブロッキングすることにより、記憶の形成に関わる分子過程の試験である幼ニワトリの試験的受動回避課題の試験用に十分に確立された動物モデル系において、長期記憶の形成が妨げられる(Mileusnic et al, 2000)。
【0007】
APPのニワトリ型は、ヒト型と同じアミノ酸残基数からなり、ヒト型に酷似しており、それらはおよそ95%相同的である。APPのアミノ酸配列360〜460は、APPのヒト型とニワトリ型で一致している(Kang et al, 1997;Carrodeguas et al, 2005;及びBarnes et al, J Neurosci 18(15)5869-5880(1998)(その内容は参照によって本明細書中に組み込まれている))。
【0008】
国際特許出願WO02/083729(その内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)は、APPの合成または機能を遮断することによって、あるいはアミロイドβを注入することによってニワトリにおいて誘発される健忘を、APPの成長促進ドメインの部分(アミノ酸残基375〜392)に対する小さなペプチドホモログの注入によって防ぐことができることを報告している。特に好ましいペプチドは、WO02/083729に示されているヒトAPP配列の残基328〜330に相同的なArg-Glu-Arg(これ以降、RER)であることが報告されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、さらに好ましいペプチドの同定に基づく。
【0010】
アミノ酸は、天然に存在するL型(大文字を使用した1文字のアミノ酸コードで示される)またはその光学異性体D型(小文字を使用して示される)で存在し得る。本発明者らは、配列rER(すなわち、D-Arg-L-Glu-L-Arg)及び誘導体のペプチドが特に生物活性を有することを見出した。さらに、配列ReR(L-Arg-D-Glu-L-Arg)のペプチドも、前記ペプチドrERより低い程度ではあるが生物活性を有すると考えられる。
【0011】
本発明の第一の実施態様によれば、配列rERを有するペプチドまたは配列ReRを有するペプチドを含む化合物が提供される。特に好ましいペプチドは、配列rERを有する。前記ペプチドは、1つ以上の保護基、好ましくはN末保護基を含んでよい。好ましい実施態様において、前記保護基はアシル基、好ましくはアセチル基(Ac-rER)である。他のアシル保護基は、式:
【化1】

[式中、Rは、直鎖または分枝鎖アルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、またはヘキシル基、置換型または非置換型シクロアルキル基、例えばメチルシクロヘキシルまたはシクロヘキシル基、置換型または非置換型の直鎖または分枝鎖アラルキル基、例えばベンジル基、あるいは置換型または非置換型の直鎖または分枝鎖アリール基、例えばフェニルまたはトリル基を示す]
を有してよい。前述の置換された基における置換基の例は、前述のアルキル基である。他の適切な保護基を使用することができる(例えば、Fmoc、Boc、Alloc)。
【0012】
Ac-rERは、構造式:
【化2】

を有する。
【0013】
他の実施態様において、前記保護基はC末保護基であってよい。
【0014】
好ましくは、当該化合物は、保護基を有してもよく、配列rERを有するトリペプチドから必須になる。あるいは、当該化合物は、配列ReRを有するトリペプチドから必須になってもよい。しかしながら、ある実施態様において、当該ペプチドは付加的アミノ酸残基を含んでよい。前記ペプチドは、好ましくは1、2、5、10、15、20、25、または30未満の付加的アミノ酸を含む。好ましい実施態様において、当該ペプチドは、WO02/083729に記載されているヒトAPPのアミノ酸残基328〜330に見られるRER配列に隣接した残基を有してもよい。特に好ましい付加的残基は、WO02/083729に記載されている残基である。例えば、当該ペプチドは、rER、rERM、及びrERMSのいずれか、または配列ReR、ReRM、及びReRMSのいずれかからなる、またはいずれかを含んでよい。あるいはまたはさらに、当該ペプチドは、付加的な非標準的アミノ酸、例えば他のD-アミノ酸または哺乳動物に天然に存在しないアミノ酸を含んでよい。当該ペプチドは、保護基を有してもよく、ヒトAPPに関連しない他のペプチド配列、例えば免疫グロブリン配列、標的配列等に接合させた配列rER(または配列ReR)を有するトリペプチドを含んでよい。当該化合物は、非ペプチド分子、例えば蛍光性、放射性、またはその他の標識に接合させた配列rER(または配列ReR)を有するトリペプチドを含んでよい。
【0015】
本発明はまた、前記ペプチドrERの誘導体または前記ペプチドReRの誘導体を含む化合物を提供する。誘導体は、塩、修飾アミノ酸、特にメチル化、アミド化、アセチル化、または他の化学基での置換によって修飾されたアミノ酸を含んでよい。好ましくは、前記修飾は、当該ペプチドの活性を損なうことなく、当該ペプチドの循環半減期を変化させるように選択される。誘導体は、例えば当該ペプチドの骨格が置換または交換された部位にペプチド模倣薬を含んでよい。ある実施態様において、前記ペプチド骨格は、例えばペプチドAc-rE-(Me)Rを与えるメチル基を含むように修飾されてよい。他の修飾は、当該ペプチドまたは誘導体の安定性を促進するように用いられてよい。本発明のペプチドまたは誘導体は、例えば検出可能な標識に接合させることによって標識化されてよい。適切な標識は、金または蛍光マーカー、酵素活性を有するマーカー等を含む。
【0016】
本発明はさらに、医薬としての使用のための、配列rERまたは配列ReR、あるいはそれらの誘導体を有するペプチドを含む化合物を提供する。また、神経変性疾患の治療のための医薬の調製における、配列rERまたは配列ReR、あるいはそれらの誘導体を有するペプチドを含む化合物の使用を提供する。好ましくは、前記疾患はアルツハイマー病である。本発明はさらに、認知機能を向上させるための医薬の調製における、配列rERまたは配列ReR、あるいはそれらの誘導体を有するペプチドを含む化合物の使用を提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病の治療のための方法、または認知機能を向上させるための方法に関する。前記方法は、配列rERまたは配列ReR、あるいはそれらの誘導体を有するペプチドを含む化合物を対象に投与する工程を含む。好ましくは、前記対象はヒトである。当該ペプチドは、任意の都合のよい方法、例えば皮下注射、静脈内投与、経口的、経皮的、経鼻的、経直腸的、非経口的、または経肺的投与によって投与されてよい。適切な投与量は、他の要因の中でもとりわけ、治療される疾患の性質及び重篤度;年齢、体重、及び対象の性別;投与の経路;並びに前記対象が受けている任意の他の治療との潜在的相互作用に依存するであろう。好ましい投与量は、対象体重の1kgあたり0.1〜100mgの活性物質、好ましくは0.5〜50mg/kg、より好ましくは1〜25mg/kgであってよい。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、配列rERまたは配列ReR、あるいはそれらの誘導体を有するペプチドを含む化合物を含む製剤を提供する。前記製剤は、製薬上許容されるキャリアを含んでよい。本発明に用いられ得るデリバリーシステムは、例えば水性及び非水性ゲル、クリーム、多重エマルジョン、マイクロエマルジョン、リポソーム、軟膏、水性及び非水性溶液、ローション、エアロゾル、炭水化物基材(hydrocarbon base)、並びに粉末を含み、且つ賦形剤、例えば安定化剤、透過促進剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、及びアミノ酸)、並びに親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィル及びポリビニルピロリドン)等を含んでよい。
【0019】
本発明の製剤は、細胞または例えばヒトを含む対象への投与、例えば全身的、局所的、または局部的投与に適した形態をとる。適切な形態は、部分的に、例えば経口、経皮、または注入によって入れる用途及び経路に依存する。当該技術分野では他の要因も知られており、当該組成物または製剤がその効果を発揮するのを妨げる毒性及び形態等の考慮すべき事項を含む。
【0020】
本発明はまた、製薬上許容されるキャリアまたは希釈剤中に所望のペプチドまたは誘導体を含む、保存または投与のために調製された組成物を含む。治療用途のための適切なキャリアまたは希釈剤は、製薬分野において周知である。例えば、保存剤、安定化剤、色素、及び香味剤が提供され得る。これらは、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルを含む。さらに、酸化防止剤及び懸濁化剤を使用することができる。
【0021】
本発明の製剤は、従来的な非毒性の製薬的に許容されるキャリア、アジュバント、及び/または溶剤を含む用量単位製剤で投与され得る。製剤は、経口用途に適した形態、例えば錠剤、トローチ、ドロップ、水性もしくは油性懸濁物、分散性の粉末もしくは顆粒、エマルジョン、ハードもしくはソフトカプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤の形態であってよい。経口用途を意図した組成物は、製薬組成物の製造に関して当該技術分野で既知の任意の方法に従って調製されてよく、前記組成物は、製薬的に洗練された口当たりのよい調製物を提供するために、1つ以上の甘味剤、香味剤、着色剤、または保存剤を含んでよい。錠剤は、錠剤の製造に適した非毒性の製薬上許容される賦形剤と混合した活性成分を含む。
【0022】
これらの賦形剤は、不活性希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム等;造粒剤及び崩壊剤、例えばコーンスターチまたはアルギン酸;結合剤、例えばデンプン、ゼラチン、またはアカシア;並びに潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクであってよい。前記錠剤はコーティングされていなくてもよく、あるいはそれらは既知の技術によってコーティングされていてもよい。いくつかの場合には、前記コーティングは、消化管での崩壊及び吸収を遅らせ、それによってより長い期間にわたり維持された作用を提供するために、既知の技術によって調製されてよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリル等の時間遅延剤を使用することができる。
【0023】
経口用途のための製剤は、活性成分が不活性固形希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンと混合されているハードゼラチンカプセルとして、あるいは活性成分が水または油性溶媒、例えばピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合されているソフトゼラチンカプセルとして提供されてもよい。
【0024】
水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適した賦形剤と混合された活性材料を含む。前記賦形剤は、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカント・ゴム、及びアカシア・ゴムであり、分散剤または湿潤剤は、天然に存在するリン脂質、例えばレシチン、またはアルキレン酸化物と脂肪酸との縮合生成物、例えばポリオキシエチレンステアレート、またはエチレン酸化物と長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、または脂肪酸とヘキシトールから得られる部分エステルとエチレン酸化物との縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、または脂肪酸とヘキシトール無水物から得られる部分エステルとエチレン酸化物との縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートであってよい。水性懸濁物はさらに、1つ以上の保存剤、例えばエチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエート、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、及び1つ以上の甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンを含んでもよい。
【0025】
油性懸濁物は、植物性油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油、あるいは鉱油、例えば流動パラフィン中に、活性成分を懸濁することによって配合され得る。油性懸濁物は、増粘剤、例えば蜜蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコールを含んでもよい。口当たりのよい経口調製物を提供するために、甘味剤及び香味剤を添加することができる。これらの組成物は、アスコルビン酸等の酸化防止剤を添加することによって保存され得る。
【0026】
水を加えることによる水性懸濁物の調製に適した分散性の粉末及び顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤、及び1つ以上の保存剤と混合された活性成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤、あるいは懸濁化剤は、すでに前記に挙げたものによって例示される。付加的な賦形剤、例えば甘味剤、香味剤、及び着色剤も存在してよい。
【0027】
本発明の製薬組成物は、水中油型エマルジョンの形態をとってもよい。油性相は、植物性油または鉱油、あるいはこれらの混合物であってよい。適切な乳化剤は、天然に存在するゴム、例えばアカシア・ゴムまたはトラガカント・ゴム;天然に存在するリン脂質、例えば大豆、レシチン;及び脂肪酸とヘキシトール無水物から得られるエステルまたは部分エステル、例えばソルビタンモノオレエート;並びに前記部分エステルとエチレン酸化物との縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートであってよい。エマルジョンはさらに、甘味剤及び香味剤を含んでもよい。
【0028】
シロップ及びエリキシル剤は、甘味剤、例えばグリセロール、プロプレングリコール、ソルビトール、グルコース、またはスクロースとともに配合され得る。前記配合物はさらに、粘滑剤、保存剤、香味剤、及び着色剤を含んでよい。当該製薬組成物は、無菌の注入可能な水性または油性の懸濁物の形態をとってよい。
【0029】
この懸濁物は、前述の適切な分散剤または湿潤剤、及び懸濁化剤を使用することによって、既知の技術に従って配合され得る。
【0030】
無菌の注入可能な調製物は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば溶液としての1,3-ブタンジオール中の無菌の注入可能な溶液または懸濁物であってよい。使用され得る許容される溶剤及び溶媒としては、水、リンガー溶液、等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、無菌の固定油が、溶媒または懸濁化溶媒として従来的に使用されている。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無菌性の固定油が使用され得る。さらに、オレイン酸等の脂肪酸が、注入物質の調製に用いられる。
【0031】
本発明の化合物は、例えば薬剤の直腸投与のための坐薬の形態で投与されてもよい。これらの組成物は、常温で固形であるが直腸温で液体であり、それにより直腸で融解して当該薬剤を放出するであろう適切な非刺激性の賦形剤と当該薬剤とを混合することによって調製され得る。そのような材料は、ココアバター及びポリエチレングリコールを含む。
【0032】
本発明のペプチド及び誘導体は、全体的な治療効果を増大させるために、他の治療用化合物と組み合わせて対象に投与されてもよい。兆候を治療するための複数の化合物の使用は、有利な効果を増大させ、一方で副作用の存在を減少させ得る。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、配列rERを有するペプチドに特異的に結合する抗体、または配列ReRを有するペプチドに特異的に結合する抗体が提供される。「特異的に結合する」とは、抗体が、観察され得る任意の非特異的結合より有意に高いレベルで、ペプチドに結合することを意味する。当業者であれば、rERペプチド(またはReRペプチド)に特異的な抗体は、それでも類似のエピトープを有する他の抗原に結合し得るということを理解するであろう。特異的抗体は、本発明のrERペプチド(またはReRペプチド)を含む調製物で対象哺乳動物を免疫化することによって調製され得る。本発明の抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってよい。本発明の抗体は、リコンビナント、キメラ、またはヒト化抗体を含んでよい。本発明はまた、前記抗体の免疫活性のあるフラグメント、特にF(ab)及びF(ab’)2フラグメントを提供する。
【0034】
本発明の抗体は、rERペプチドに類似した活性を有する可能性のある候補化合物を同定することを目的として、他の化合物をスクリーニングするために使用され得る。従って、本発明はまた、神経変性疾患の治療に有用な、または認知機能の向上に有用な活性を有する化合物を同定するための方法を提供する。前記方法は、候補化合物を、配列rERまたは配列ReRを有するペプチドに特異的な抗体と接触させる工程、及び前記抗体が前記化合物に結合するかどうかを測定する工程を含む。
【0035】
ここで、本発明のこれらの及び他の態様は、実施例のみを用いて、及び添付の図面を参照して説明される。
【0036】
図1 弱い記憶力に対する、記憶力増強剤としての種々のD/L型のトリペプチドの効果。トレーニングの60分前に、ニワトリに種々のD/L型のトリペプチドを頭蓋骨内(ic)注入し、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。ここで留意すべきは、Gテストはグループの差を示すため、図にエラーバーがないことである。
【0037】
図2 Aβによって誘発される健忘のニワトリにおける、記憶力に対するAc-rERの効果。トレーニングの6時間及び12時間前に、ニワトリに体重100gあたり1mgのAc-rERを2回末梢(ip)注入した(2×ip、1mg/100gr bw)。トレーニングの60分前に、Aβ1-42(2μg/脳半球)を注入した。ニワトリを24時間後にテストした。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0038】
図3 弱いトレーニング課題(WT)のトレーニングを受けたニワトリにおける、記憶力増強剤としてのAc-rERの効果。トレーニングの30分及び6時間前に、ニワトリに体重100gあたり1mgの注入物質を2回末梢(ip)注入し(2×ip、1mg/100gr bw)、24時間後にテストした。コントロール群には、Ac-RErを注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0039】
図4 ニワトリ脳における、蛍光標識Ac-rERの分布。蛍光標識されたrERの分布の分析のために脳を切片化(sectioning)する6時間前に、蛍光-Ahx-Ahx-rERを末梢(ip)(体重100gあたり2mg)及び頭蓋骨内(ic)(8μg/脳半球)に注入した。左パネルは、ic注入後の蛍光標識rERの分布を示す。右パネルは、ip注入後の蛍光標識rERの分布を示す。ここで留意すべきは、蛍光の分布がほぼ一致していることである。
【0040】
図5 弱いトレーニングにおける、Ac-rERの効果の用量依存性。トレーニングの60分前に、ニワトリに種々の用量のAc-rERを末梢(ip)注入し、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0041】
図6 Ac-rERの安定性。トレーニングの1、2、4、6、及び12時間前に、ニワトリに体重100gあたり2mgのAc-rERを末梢(ip)注入し(2mg/100g bw)、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0042】
図7 ニワトリにおける、アニソマイシンによって誘発される健忘に対するAc-rERの効果。トレーニングの60分前に、ニワトリに8μg/脳半球のAc-rERを頭蓋骨内(ic)注入し、次いでトレーニングの直後に、アニソマイシン(125nmol/脳半球)を頭蓋骨内注入した。コントロール群には、生理食塩水を注入した。トレーニングの3時間後に、ニワトリをテストした。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0043】
図8 MK801によって誘発される健忘に対するAc-rERの効果。トレーニングの60分前に、ニワトリに8μg/脳半球のAc-rERを頭蓋骨内(ic)注入し、次いでトレーニング前に、MK801(0.020mg/100gr)を末梢(ip)注入した。コントロール群には、生理食塩水を注入した。3時間後に、ニワトリをテストした。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0044】
図9 弱いトレーニング(WT)に対する、頭蓋骨内(ic)注入されたAc-rE(Me)Rの効果。トレーニングの60分前に、ニワトリに8μg/脳半球のAc-rE(Me)Rを頭蓋骨内(ic)注入し、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【0045】
図10 弱いトレーニング(WT)に対する、末梢(ip)注入されたAc-rE(Me)Rの効果。トレーニングの6時間前に、ニワトリに体重100gあたり2mgのAc-rE(Me)Rを末梢(ip)注入し(2mg/100gr bw)、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。回避及び識別を示した各グループにおける保持力をパーセントとして算出した。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受けた。グループ間の差を、統計的有意性についてGテストによって検証した(Sokal and Rohlf, 1995)。
【実施例】
【0046】
[材料及び方法]
<動物及びトレーニング>
市販のロス・チャンキーの卵を育雛室内で培養し孵化させ、16±6時間齢になるまで飼育した。小さなアルミニウムの仕切りの中に、ニワトリを2匹一組で入れた。1時間の平衡期間の後、基本的にLossner and Rose(J. Neurochem. 41, 1357-1363(1983)、その内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)に記載されているように、ニワトリを事前トレーニング及びトレーニングさせた。事前トレーニングは、およそ5分間隔で、小さな(2mm径)の白いビーズの3回の10秒間提示を含んだ。3回の提示のうち少なくとも2回、前記ビーズをつつくのに失敗したニワトリ(5%未満)は、その後使用されなかったが、当該実験期間の間はそれらの仕切の中に入れたままにした。2つのトレーニング手法:「強い」及び「弱い」トレーニングを用いた。両方において、最後の事前トレーニング試行の5〜10分後に、苦味のあるメチルアントラニレート中に浸した4mm径のクロムビーズの10秒間提示によって、ニワトリをトレーニングした。コントロールのニワトリは、水でコーティングしたまたは乾燥したビーズをつついた。当該課題の「強い」バージョンでは、100%メチルアントラニレートを使用した。「弱い」バージョンでは、10%メチルアントラニレートを使用した。ニワトリは、20秒以内にトレーニング用またはコントロール用ビーズを自発的につついた。苦いビーズをつついたニワトリは嫌悪反応を表し、通常、その後の数時間の間、類似しているが乾燥したビーズをつつかなかった。ニワトリをトレーニングした後の種々の時点において、ニワトリに、乾燥した4mm径のクロムビーズ、その後10分後に小さな(2mm径)の白いビーズをそれぞれ20〜30秒間提示することによって、ニワトリをテストした。各ニワトリがどちらの処理を受けたかに関する実験者の盲検によって、動物をテストした。ニワトリは、クロムビーズを回避して白いビーズをつついた(識別した)場合には課題を記憶しており、両方のビーズをつついた場合には忘れていると見なされた。想起を、パーセント回避スコア(クロムビーズを回避したニワトリのパーセンテージ)として、及び識別スコア(クロムを回避して白いビーズをつついたニワトリのパーセンテージ)として算出した。識別スコアの使用により、ニワトリが実際にビーズを見て正確につつくことができ、それゆえ、クロムビーズの回避が非特定の要因、例えば視覚−運動協応、動機づけ、注意、覚醒等の欠如によるものではなく、不快な刺激に対する記憶を示した積極的行動によるものであるということが保証される。各ニワトリはトレーニングを受け、1回だけテストを受け、グループ間の差を、統計的有意性についてSokal and Rohlf(biometry:the Principles and Practice of Statistics in Biological Research(2nd edition)、W H Freeman, New York(1981))(それらの内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)によって記載されたGテストによって検証した。記憶形成を評価するために用いられたこの特定のトレーニング課題の有効性は、Andrew(Neural and Behavioural Plasticity: the Use of the Domestic Chick as a Model, Oxford University Press, Oxford, UK(1991))(その内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)によって、幅広く議論されている。
【0047】
当該課題の強いバージョンでトレーニングを受けたニワトリは、少なくとも48時間の間回避を想起することが認められ、80%超が24時間の時点でのテストの際に回避かつ識別することが通常認められた。従って、健忘性の、すなわち、ニワトリに記憶をとどめさせない薬剤が投与された場合、テストの際に、クロムビーズを回避するよりもむしろつつくことによって忘れていることが示されるであろう。一方、ニワトリは当該課題の「弱い」バージョンをほんの数時間だけ、合計で約6〜8時間記憶し、24時間の時点での保持力は、通常約20〜30%まで低下していることが通常認められた。従って、学習経験は長期記憶にゆだねられていない。従って、記憶力増強薬である薬剤をテストすることができる。弱い学習課題でトレーニングを受けたニワトリに投与された記憶力増強剤は、24時間の時点における保持力の増大−クロムビーズの回避の増加をもたらす。すなわち、前記記憶力増強剤は、より短期からより長期の記憶への移行を可能にすることによって、弱い学習が強い学習に変化するのを助ける。
【0048】
<ペプチド注入>
1.頭蓋骨内(ic)注入:APP由来ペプチドの両側頭蓋骨内注入(2μl中8μg/脳半球)を、トレーニングの前または後の種々の時間に、記憶形成に必要であることが知られている特定の脳領域(中間腹側上位線条体)に、3mmの穿通を可能にするプラスチック製の鞘を備えた5μgハミルトンシリンジを用いて脳内注入した。注入の完了後、ニードルを5秒間所定位置に保持した。正確な配置を、Davis et al(Physiol. Behav. 22, 177-184(1979)、その内容は参照によって本明細書中に組み込まれている)によって記載された、特別に設計された頭部ホルダーを用いることによって確実にし、死後にルーチン的に視覚的にモニターした。
【0049】
2.末梢(ip)注入:試験ペプチドまたは他の物質を、トレーニングプロトコールの前または後のいずれかの種々の時間に、1ml皮下注射シリンジを用いて腹腔内に投与した(0.2ml/ニワトリ)。注入の完了後、ニードルを3秒間所定位置に保持した。前述のトレーニング後の種々の時点において、ニワトリをテストした。注入後のニワトリの全般的行動を観察し、任意の可能性のある非特異的または注入に対する副作用を検出した。
【0050】
<ペプチド材料>
投与されたポリペプチドは、当該技術分野において周知である方法で従来的ペプチド合成器を用いて合成された。合成されたポリペプチドをRP-HPLCを使用することによって精製し、精製度をマススペクトロメトリー(MALDI-TOF)によってさらに調べた。両技術とも、当該技術分野において周知である。合成後のポリペプチドを、凍結乾燥状態でアルゴン下にて保存した。アルゴンは、特にシステイン、メチオニン、及びトリプトファンの酸化を防ぐ。
【0051】
[実験結果]
国際特許出願WO02/083729は、多数のAPP由来ペプチドを開示している。特に、小ペプチドRERは、向知性薬及びアミロイドβによって誘発される健忘に対する保護剤として有効であることが示されている。本出願人は、可能性のある治療剤としてより良好に作用し得るペプチドのより安定な形態を検討したいと考えた。
【0052】
ペプチドを安定化するための標準的方法は、分子をN末端保護することである。これは、アシル化によって達成される。Ac-RERは、向知性薬として及びアミロイドβに対する保護に有効であった。
【0053】
次いで、本出願人は、当該ペプチドのd-異性体の生物活性を検討することにした。D-異性体はしばしば毒性があり、通常、天然に存在するL型と同様の生物活性を示さない。本出願人は、以下のD/L型:D-R-L-E-L-R(rER)、L-R-D-E-L-R(ReR)、L-R-L-E-D-R(REr)、及びD-R-D-E-D-R(rer)を合成した。rERの1つのみ及びそのアシル化型Ac-rERが、RERと同程度の生物活性を示し、向知性薬として有効であり、アミロイドβによって誘発される健忘に対して保護した。当該ペプチドのReR形態は、より低い生物活性を示したが、ペプチドなしまたは当該ペプチドのその他の形態と比較して改善した効果をもたらした。
【0054】
図1は、弱い嫌悪学習課題のトレーニングを受けたニワトリにおける記憶保持に対する、当該トリペプチドの種々のD/L型の効果を示す。トレーニングの60分前に、ニワトリに種々のD/L型のトリペプチドを頭蓋骨内(ic)注入し、24時間後にテストした。コントロール群には、生理食塩水を注入した。当該データは、Ac-D/L/L(Ac-rER)がAc-L/L/L(Ac-RER)で処理されたニワトリで観察されたレベルまで、記憶保持を向上させ、一方、Ac-L/D/L(Ac-ReR)は有意ではあるが、より低い効果を示したことを示している。その他すべての形態は、生物活性が低い。
【0055】
図2は、Aβによって誘発される健忘のニワトリにおける、記憶力に対するAc-rERの効果を示す。トレーニングの6時間及び12時間前に、ニワトリに体重100gあたり1mgのAc-rERを2回末梢(ip)注入した。トレーニングの60分前に、Aβ1-42を頭蓋骨内(ic)注入した。Aβ1-42は、βアミロイドプラークを形成するAPPのドメインであり、Carrodeguas et al(2005)により詳細に記載されている。当該データは、トレーニングの6時間または12時間前のいずれかに注入されたAc-rERが、認知機能を回復させ、さもなければAβ注入の結果であろう記憶喪失を防ぐことを示している。このことは、Ac-rERがAβによって誘発される記憶喪失に対して保護し、それゆえ、老化の間及びアルツハイマー病を含む神経変性疾患において生じる認知障害の治療に有効であり得ることを裏付けている。
【0056】
図3は、弱いトレーニング課題(WT)のトレーニングを受けたニワトリにおける、記憶力増強剤としてのAc-rERの効果を示す。トレーニングの30分及び6時間前に、ニワトリに体重100gあたり1mgの注入物質を2回末梢(ip)注入した。コントロール群には、Ac-RErを注入した。当該結果は、弱いトレーニング課題の能力が、Ac-rERを与えられた動物において有意に向上することを示している。
【0057】
可能性のある治療的用途の観点から重要なことには、これらの結果は、Ac-rERが末梢注入された場合に有効であるということである。これは、Ac-rERが血液脳関門を通過し、且つRERが結合するのと同様の部位に結合し得る能力によるものであることを証明するために、本出願人は、蛍光標識したAc-rERを末梢(ip)及び頭蓋骨内(ic)注入し、6時間後に蛍光分析のために薄片を切った。図4は、これらの2つの経路の注入後のAc-rERの結合を比較している。Ac-rERはトレーニングの12時間前まで注入され得るように、Ac-RERよりも安定であり、保護されていないL型の最大3時間(WO02/083729に記載されているように)とは対照的に、向知性薬及び神経保護剤として作用し得る(図2及び3)。
【0058】
図5は、弱い嫌悪学習課題のトレーニングを受けたニワトリにおける種々の用量のAc-rERの効果を示す。当該データは、体重100gあたり1mgという低い用量が、弱いトレーニング課題のトレーニングを受けたニワトリにおいて記憶力を増強させるのに十分であることを示している。
【0059】
図6は、弱いトレーニング課題のトレーニングを受けたニワトリに投与した場合の、Ac-rERの効果の持続性を示す。当該ペプチドは、体重100gあたり1〜2mgの単回注入がトレーニングの12時間前と同程度に与えられた場合に有効である。当該データはまた、当該ペプチドが、トレーニングの2〜6時間前、好ましくは4時間前に投与された場合に最も有効であることを示唆している。
【0060】
本出願人はまた、一般的なタンパク質合成阻害剤(アニソマイシン;図7)及びNMDA受容体阻害剤(MK801;図8)(両方とも周知の健忘薬である)によって誘発される健忘の回復または保護における、Ac-rERの有効性を検討した。本出願人の知る限りでは、これらの物質の健忘性作用を回復させるのに利用可能な既知の薬剤はない。トレーニングの直後に、アニソマイシンを頭蓋骨内(ic)注入し、トレーニングの20分前に、MK801を末梢(ip)注入し、一方、図7及び8において記載されている実験において、トレーニングの30分前に、Ac-rERを頭蓋骨内注入した。当該結果により、Ac-rERは、これらの薬剤のいずれかが健忘を誘発するのを防ぐことが示されている。
【0061】
最後に、本出願人はさらに、弱いトレーニングにおけるAc-rE(Me)Rの有効性を検討した。当該ペプチド骨格内の水素結合のN-メチル基での置換は、D/L型トリペプチドの安定性をさらに向上させるであろう。図4に記載されたように、トレーニングの6時間前に、Ac-rE(Me)Rを頭蓋骨内(ic)または末梢(ip)注入し、24時間後にニワトリをテストした。図9(頭蓋骨内投与)及び図10(末梢投与)は、2つの経路の注入後のAc-rERの効果を比較しており、Ac-rERのメチル化アナログであるAc-rE(Me)Rは、たとえAc-r-E-(Me)R中に水素結合が存在しない場合でも許容されること、及びこの分子は両方の実験条件において記憶力を増強させることを示している。
【0062】
[結論]
これらの結果は、Ac-rER及びAc-ReRが、正常な動物における認知及び学習を向上させ、並びに誘発される健忘を防ぐのに有益な効果を提供することを示している。Aβによって誘発される健忘に対するAc-rERの作用は、当該ペプチドが老化及び神経変性に伴う認知障害を低減するのに有効であり、それゆえ、アルツハイマー病の治療のための治療剤として有効であろうことを示唆している。元のRERペプチドの既知の活性から、あらかじめrERの驚くべき向上した効果を予測すること、並びに不活性ペプチドと比較して活性のあるペプチドの形態の発見が、神経細胞膜上のある分子の推定上の受容体部位に結合するのに必要な前記分子の立体配置に関する貴重な情報を提供するということを予測するのは無理である。
【0063】
前述の事項は、例示的目的のみのためのものであり、本明細書において開示された薬剤に対し、本発明の範囲から離れることなく種々の修飾がなされ得ることは理解されるであろう。特に、rERまたはReR配列を含むより長いペプチド及びペプチド類似物を使用することができる。rERまたはReRペプチドにさらなる修飾をして、例えば安定性または生体利用性を向上させることができる。そのような修飾の一つは、当該ペプチド骨格へのメチル基の取込みである。当該ペプチドは、好ましくはヒトAPPタンパク質由来の、また好ましくはRERモチーフに隣接したAPPタンパク質の領域由来の付加的アミノ酸残基を含んでよい。あるいはまたはさらに、他のタンパク質由来のアミノ酸残基を含んでもよく、非ペプチド分子を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】弱い記憶力に対する、記憶力増強剤としての種々のD/L型のトリペプチドの効果。
【図2】Aβによって誘発される健忘のニワトリにおける、記憶力に対するAc-rERの効果。
【図3】弱いトレーニング課題(WT)のトレーニングを受けたニワトリにおける、記憶力増強剤としてのAc-rERの効果。
【図4】ニワトリ脳における、蛍光標識Ac-rERの分布。当該トリペプチドを末梢(ip)及び頭蓋骨内(ic)に注入した。
【図5】弱いトレーニングにおける、Ac-rERの効果の用量依存性。
【図6】Ac-rERの安定性。
【図7】ニワトリにおける、アニソマイシンによって誘発される健忘に対するAc-rERの効果。
【図8】MK801によって誘発される健忘に対するAc-rERの効果。
【図9】弱いトレーニング(WT)に対する、頭蓋骨内(ic)注入されたAc-rE(Me)Rの効果。
【図10】弱いトレーニング(WT)に対する、末梢(ip)注入されたAc-rE(Me)Rの効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列rER(D-Arg-L-Glu-L-Arg)または配列ReR(L-Arg-D-Glu-Arg)を有するペプチドを含む化合物を対象に投与する工程を含む、健常な対象における認知機能を向上させるための方法。
【請求項2】
配列rER(D-Arg-L-Glu-L-Arg)または配列ReR(L-Arg-D-Glu-Arg)を有するペプチドを含む化合物を対象に投与する工程を含む、健常な対象における記憶力を増強させるための方法。
【請求項3】
記憶障害の治療のための医薬の調製における、配列rERまたは配列ReRを有するペプチドを含む化合物の使用。
【請求項4】
前記記憶障害が健忘である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
候補化合物を、配列rERを有するペプチドに特異的な抗体または配列ReRを有するペプチドに特異的な抗体と接触させる工程、及び前記抗体が前記化合物に結合するかどうかを測定する工程を含む、記憶障害の治療に有用な、または認知機能の向上に有用な活性を有する化合物の同定方法。
【請求項6】
前記ペプチドが配列rERを有する、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の方法、あるいは請求項3または4に記載の使用。
【請求項7】
前記ペプチドが1つ以上の保護基を含む、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の方法、あるいは請求項3または4に記載の使用。
【請求項8】
前記保護基がN末端保護基である、請求項7に記載の方法または使用。
【請求項9】
前記保護基がアシル基である、請求項7または8に記載の方法または使用。
【請求項10】
前記保護基がアセチル基である、請求項9に記載の方法または使用。
【請求項11】
前記ペプチドがAc-rERである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項12】
前記ペプチドが構造式:
【化1】

を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項13】
前記ペプチドが、保護基を有してもよく、配列rERを有するトリペプチドから必須になる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項14】
前記ペプチドが付加的アミノ酸残基を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項15】
前記ペプチドがヒトAPPのアミノ酸残基328〜330に見られるRER配列に隣接した残基を含む、請求項14に記載の方法または使用。
【請求項16】
前記ペプチドがrER、rERM、及びrERMSのいずれかからなる、またはいずれかを含む、請求項14または15に記載の方法または使用。
【請求項17】
前記ペプチドが付加的な非標準的アミノ酸を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項18】
前記ペプチドが、保護基を有してもよく、ヒトAPPに関連しない他のペプチド配列に接合させた配列rERを有するトリペプチドを含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項19】
前記ペプチドが非ペプチド分子に接合されている、請求項1から12または13から16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項20】
前記ペプチドの骨格が置換または交換されている、請求項1から10または13から19のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項21】
前記ペプチドの骨格がメチル基を含む、請求項20に記載の方法または使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−517376(P2009−517376A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541834(P2008−541834)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050414
【国際公開番号】WO2007/060486
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(508155952)ザ・オープン・ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】