説明

神経突起伸長促進ポリペプチド

【課題】ニューログリカンCをベースにした新規な神経突起伸長促進ポリペプチド及びその用途を提供すること。
【解決手段】次のアミノ酸配列を少なくとも保持し12〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド;Asp Asp Leu Xaa Glu Glu Glu Glu Glu Glu Glu Asp(XaaはGlu残基又はAsp残基を示す。)、次のアミノ酸配列を少なくとも保持し39〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド;Cys Asp Leu Phe Pro Ser Tyr Cys His Asn Gly Gly Gln Cys Tyr Leu Val Glu Asn Ile Gly Ala Phe Cys Arg Cys Asn Thr Gln Asp Tyr Ile Trp His Lys Gly Met Arg Cys、これらのポリペプチドに他のポリペプチドが結合した融合ポリペプチド、これらのポリペプチドをコードする核酸、及びこれらのポリペプチドを有効成分とする神経突起伸展促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な神経突起伸長促進ポリペプチドに関し、詳しくは、ニューログリカンCをベースとする神経突起伸長促進ポリペプチドに関する。また本発明は、前記ポリペプチドを有効成分とする神経突起伸展促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、本明細書中で用いた略号について説明する。
CS:コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)
EGF:上皮成長因子(epidermal growth factor)
GABA:γ−アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid)
GST:グルタチオン S−トランスフェラーゼ(glutathione S-transferase)
IPTG:イソプロピルチオガラクトシド(isopropylthiogalactoside)
LB培地:ルリア-ベルターニ培地 (Luria-Bertani's medium)
MAP2:微小管関連タンパク質2(microtubule-associated protein 2)
NGC:ニューログリカンC(neuroglycan C)
PBS:リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline)
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)
tau:τタンパク質(tau protein)
TM:膜貫通
ラットNGC:ラット由来のNGC
ヒトNGC:ヒト由来のNGC
NGCは、脳に特異的なCSプロテオグリカンである。既にラット、ヒト及びマウスにおいてそのクローニングがなされており、「AAドメイン」、「EGF様ドメイン」、「膜貫通ドメイン(TMドメイン)」等のドメイン構造が見出されている(非特許文献1、2、3)。
【0003】
【非特許文献1】ワタナベ,E(Watanabe, E)ら,1995年,The Journal of Biological Chemistry,第270巻,p26876−26882
【非特許文献2】ヤスダ,Y(Yasuda, Y)ら,1998年,Neuroscience Research,第32巻,p313−322
【非特許文献3】アオノ,S(Aono, S)ら,2000年,The Journal of Biological Chemistry,第275巻,p337−342
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、NGCをベースにした新規な神経突起伸長促進ポリペプチド及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、NGCのAAドメイン及びEGFドメインの少なくとも一方を保持する部分ポリペプチドの製造に成功し、さらにこれが神経突起伸長を促進する活性を有することを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記のアミノ酸配列(配列番号1)を少なくとも保持し、かつ、12〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド(以下、「本発明ポリペプチド1」という。)を提供する。
Asp Asp Leu Xaa Glu Glu Glu Glu Glu Glu Glu Asp
(XaaはGlu残基又はAsp残基を示す。)
本発明ポリペプチド1は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるものが好ましい。また本発明ポリペプチド1は、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるものも好ましい。また本発明ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるものも好ましい。
【0007】
また本発明は、下記のアミノ酸配列(配列番号5)を少なくとも保持し、かつ、39〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド(以下、「本発明ポリペプチド2」という。)を提供する。
Cys Asp Leu Phe Pro Ser Tyr Cys His Asn Gly Gly Gln Cys Tyr Leu Val Glu Asn Ile Gly Ala Phe Cys Arg Cys Asn Thr Gln Asp Tyr Ile Trp His Lys Gly Met Arg Cys
本発明ポリペプチド2は、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるものが好ましい。
以下、本発明ポリペプチド1及び2を併せて「本発明ポリペプチド」という。
【0008】
また本発明は、本発明ポリペプチドに、他のポリペプチドが結合していることを特徴とする、融合ポリペプチド(以下、「本発明融合ポリペプチド」という。)を提供する。この「他のポリペプチド」はGSTであることが好ましい。
【0009】
また本発明は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドをコードする核酸(以下、「本発明核酸」という。)を提供する。
【0010】
さらに本発明は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドを有効成分とする、神経突起伸展促進剤(以下、「本発明促進剤」という。)を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明ポリペプチドは神経突起の伸展促進作用を有することから、神経突起伸展促進剤等の用途に利用することができ極めて有用である。また本発明融合ポリペプチドは、本発明ペプチドの精製等をより簡便なものとすることができ極めて有用である。また本発明核酸は、このようなポリペプチドの大量生産ツール等として利用することができ極めて有用である。また本発明促進剤は、試薬用途のみならず、神経突起の伸展、神経回路形成の促進等が望まれる疾患等に対する医薬等としても利用しうるものであり、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
<1>本発明ポリペプチド
(1)本発明ポリペプチド1
本発明ポリペプチド1は、下記のアミノ酸配列(配列番号1)を少なくとも保持し、かつ、12〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチドである。
Asp Asp Leu Xaa Glu Glu Glu Glu Glu Glu Glu Asp
(XaaはGlu残基又はAsp残基を示す。)
上記のアミノ酸配列(配列番号1)は、NGCの「AAドメイン」に相当する部分のアミノ酸配列である。そして本発明ポリペプチドは、このアミノ酸配列を少なくとも保持しており、かつ、12〜400アミノ酸残基から構成されている限りにおいて、他のアミノ酸配列を保持していてもよい。
【0013】
本発明ポリペプチド1の好ましい例示としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(2)本発明ポリペプチド2
本発明ポリペプチド2は、下記のアミノ酸配列(配列番号5)を少なくとも保持し、かつ、39〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチドである。
Cys Asp Leu Phe Pro Ser Tyr Cys His Asn Gly Gly Gln Cys Tyr Leu Val Glu Asn Ile Gly Ala Phe Cys Arg Cys Asn Thr Gln Asp Tyr Ile Trp His Lys Gly Met Arg Cys
上記のアミノ酸配列(配列番号5)は、NGCの「EGFドメイン」に相当する部分のアミノ酸配列である。そして本発明ポリペプチドは、このアミノ酸配列を少なくとも保持しており、かつ、39〜400アミノ酸残基から構成されている限りにおいて、他のアミノ酸配列を保持していてもよい。
【0014】
本発明ポリペプチド2の好ましい例示としては、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
<2>本発明融合ポリペプチド
本発明融合ポリペプチドは、本発明ポリペプチドに、他のポリペプチドが結合していることを特徴とする融合ポリペプチドである。
【0015】
ここにいう「他のポリペプチド」はペプチドをも含む概念であり、その種類も特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。融合ポリペプチドを製造する目的としては、ポリペプチドを細胞外に分泌させたり、分離や精製を容易にしたり、検出を容易にしたり、複数のポリペプチドの活性を併有させたりすること等が例示されるが、これらに限定されるものではない。「他のタンパク質」の例示については、後述の「本発明核酸」に関する説明を参照されたいが、なかでもGSTであることが好ましい。
【0016】
本発明ポリペプチド及び本発明融合ポリペプチドは、保持すべき必須のアミノ酸配列が本発明によって特定されたことから、これに基づいて化学的に合成することも、遺伝子工学的に製造することもできる。遺伝子工学的に製造する方法の具体例については、後述の実施例1を参照されたい。
【0017】
本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドを化学的に合成する場合には、公知の化学合成法(例えば液相合成法や固相合成法等;泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦、脇 道典、「ペプチド合成の基礎と実験」1985、丸善(株)参照)によって製造することができる。
【0018】
製造された本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドは、タンパク質化学の分野において一般に知られているタンパク質の単離、精製方法によって精製することができる。具体的には、例えば抽出、再結晶、硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、向流分配等や、これらの組合せ等の処理操作が挙げられる。
【0019】
例えば、本発明融合ポリペプチドにおける「他のポリペプチド」としてGSTを用いた場合には、グルタチオンが固相化された担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって容易に精製することができる。
【0020】
本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドが合成又は製造等されたか否かは、得られたポリペプチドのアミノ酸配列(又はこれをコードする核酸の塩基配列)等を分析し、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチド(又は本発明核酸)の配列と比較することによって容易に判別することができる。
【0021】
本発明ポリペプチド及び本発明融合ポリペプチドは、後述する実施例の記載からも明らかな通り、高い神経突起伸長促進活性を示すことから、後述する本発明促進剤等の有効成分として用いることができる。
<3>本発明核酸
本発明核酸は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドをコードする核酸である。本発明核酸の種類は、DNAであってもRNAであっても良いが、その安定性の観点からはDNAであることが好ましい。
【0022】
本発明核酸は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドをコードしている限りにおいてその具体的な塩基配列は限定されない。
【0023】
例えば、本発明ポリペプチドの一例として下記のアミノ酸配列(配列番号1)からなるポリペプチドが例示される。
Asp Asp Leu Xaa Glu Glu Glu Glu Glu Glu Glu Asp
(XaaはGlu残基又はAsp残基を示す。)
そして、これをコードする核酸(DNA)としては、例えば、配列番号8における塩基番号847〜882で示される塩基配列からなるDNA及び配列番号10における塩基番号823〜858で示される塩基配列からなるDNAが例示される。
【0024】
また、本発明ポリペプチドの一例として下記のアミノ酸配列(配列番号5)からなるポリペプチドも例示することができる。
Cys Asp Leu Phe Pro Ser Tyr Cys His Asn Gly Gly Gln Cys Tyr Leu Val Glu Asn Ile Gly Ala Phe Cys Arg Cys Asn Thr Gln Asp Tyr Ile Trp His Lys Gly Met Arg Cys
そして、これをコードする核酸(DNA)としては、例えば、配列番号8における塩基番号1147〜1263で示される塩基配列からなるDNAが例示される。
【0025】
しかし、これら本発明ポリペプチドをコードするDNAが、これらの塩基配列からなるものに限定されないことは、遺伝暗号の縮重を考慮すれば容易に理解することができる。すなわち、遺伝暗号の縮重による異なった塩基配列を有する核酸も本発明核酸に包含されることは当業者であれば容易に理解されるところである。
【0026】
また「本発明核酸」には、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドをコードする塩基配列に相補的な配列からなる核酸も包含される。
【0027】
以下、本発明ポリペプチドの一例とともに、これをコードする本発明核酸を例示する。
・配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド:配列番号8における塩基番号103〜1290で示される塩基配列からなるDNA。
・配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド:配列番号8における塩基番号784〜1020で示される塩基配列からなるDNA。
・配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド:配列番号8における塩基番号784〜1290で示される塩基配列からなるDNA。
・配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド:配列番号8における塩基番号1030〜1290で示される塩基配列からなるDNA。
【0028】
本発明核酸は、例えばGenBank Accession No. U33553又はNM_006574で特定されるDNAクローンを入手し、所望の塩基配列となるように、適宜、制限酵素を用いた切断や、他のポリペプチドをコードする核酸との連結を行うことによって製造することができる。製造された本発明核酸は、PCR等によって増幅させてもよい。
【0029】
また本発明核酸を用いて、遺伝子工学的に本発明ポリペプチドを製造することもできる。本発明核酸(cDNA)を発現ベクターに組み込む。ここで用いる発現ベクターは、用いる宿主に応じて適宜選択することができる。例えば宿主細胞として真核細胞を使用する場合には真核細胞用の発現ベクターを選択し、宿主細胞として原核細胞を使用する場合には原核細胞用の発現ベクターを選択すればよい。
【0030】
また、この発現ベクターは、本発明核酸がコードするポリペプチドの単離・精製が容易となるように構築されているものが好ましい。特に、本発明融合ポリペプチドの形態で発現するように発現ベクターを構築すると、ポリペプチドの単離・精製が容易となるため好ましい。
【0031】
このような「他のタンパク質」としては、例えばシグナルペプチド(多くのタンパク質のN末端に存在し、細胞内の膜透過機構においてタンパク質の選別のために細胞内で機能している15〜30アミノ酸残基からなるペプチド:例えばOmpA、OmpT、Dsb等)、プロテインキナーゼA、プロテインA(黄色ブドウ球菌細胞壁の構成成分で分子量約42,000のタンパク質)、GST、Hisタグ(ヒスチジン残基を6〜10個並べて配した配列)、mycタグ(cMycタンパク質由来の13アミノ酸配列)、FLAGペプチド(8アミノ酸残基からなる分析用マーカー)、T7タグ(gene10タンパク質の最初の11アミノ酸残基からなる)、Sタグ(膵臓RNaseA由来の15アミノ酸残基からなる)、HSVタグ、pelB(大腸菌外膜タンパク質pelBの22アミノ酸配列)、HAタグ(ヘマグルチニン由来の10アミノ酸残基からなる)、Trxタグ(チオレドキシン配列)、CBPタグ(カルモジュリン結合ペプチド)、CBDタグ(セルロース結合ドメイン)、CBRタグ(コラーゲン結合ドメイン)、β-lac/blu(βラクタマーゼ)、β-gal(β-ガラクトシダーゼ)、luc(ルシフェラーゼ)、HP-Thio(His-patchチオレドキシン)、HSP(熱ショックペプチド)、Lnγ(ラミニンγペプチド)、Fn(フィブロネクチン部分ペプチド)、GFP(緑色蛍光ペプチド)、YFP(黄色蛍光ペプチド)、CFP(シアン蛍光ペプチド)、BFP(青色蛍光ペプチド)、DsRed、DsRed2(赤色蛍光ペプチド)、MBP(マルトース結合ペプチド)、LacZ(ラクトースオペレーター)、IgG(免疫グロブリンG)、アビジン、プロテインG等のペプチドが挙げられる。その中でも、特にGSTが好ましい。
【0032】
ここでは、宿主細胞として大腸菌を、ベクターとしてpGEX-4T1(アマシャムバイオサイエンス社製)を選択することが好ましい。このベクターにはGSTをコードする配列が保持されており、GSTが前記ポリペプチドのN末端側に結合した形でポリペプチド(前記ポリペプチドとGSTとの融合ポリペプチド)が発現されるようにcDNAの組込みを行うことがより好ましい。
【0033】
所望のcDNAが組み込まれた発現ベクターを所望の宿主細胞に通常の方法で導入して培養する。培養の条件は、ベクター・宿主細胞の種類、目的等によって適宜選択することができる。所望のcDNAが導入された宿主細胞を培養し、その培養物を採取することにより、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドを製造することができる。必要に応じて、タンパク質の公知の抽出・精製方法を用いてさらに精製してもよい。
<4>本発明促進剤
本発明促進剤は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドを有効成分とする神経突起伸展促進剤である。本発明ポリペプチドや本発明融合ポリペプチドは神経突起伸展促進作用を有することから、これを本発明促進剤として応用したものである。
【0034】
本発明促進剤の有効成分である「本発明ポリペプチド」又は「本発明融合ポリペプチド」の説明については前記と同様である。前記のようにして製造された本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドをそのまま本発明促進剤として提供してもよく、また医薬や試薬等の分野においての通常用いられる方法によって製剤化して提供してもよい。
【0035】
本発明促進剤は、本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドを有効成分として含有し、かつ本発明ポリペプチド又は本発明融合ポリペプチドの神経突起伸展促進作用を実質的に害しない限りにおいて、さらに他の成分を含有していてもよい。ここにいう「他の成分」としては、医薬や試薬等の分野において通常使用されるような担体や、生理活性を有する成分等が例示される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
<実施例1> 本発明ポリペプチドの製造
ラットNGCのコアタンパク質のアミノ酸配列をベースとして、以下のポリペプチドを製造した。NGCコアタンパク質のドメイン構造と、それぞれのポリペプチドとの位置的な対応関係を図1に示す。
(1)AAドメイン部分を保持するポリペプチド(本発明ポリペプチド)
・NGCect(配列番号2)(配列番号9におけるアミノ酸番号31〜426に相当;EGFドメインも保持している)
・NGCAA(配列番号3)(配列番号9におけるアミノ酸番号258〜336に相当)
・NGCAE(配列番号4)(配列番号9におけるアミノ酸番号258〜426に相当;EGFドメインも保持している)
(2)EGFドメイン部分を保持するポリペプチド(本発明ポリペプチド)
・NGCEGF(配列番号6)(配列番号9におけるアミノ酸番号340〜426に相当)
(3)AA及びEGFドメイン部分のいずれをも保持しないペプチド
・NGCCS(配列番号7)(配列番号9におけるアミノ酸番号33〜259に相当)
これらのポリペプチドをコードする以下の塩基配列を保持するcDNA断片を、各々ベクター(pGEX-4T1;アマシャムバイオサイエンス社製)に組み込んだ。このベクターにはGSTをコードする配列が保持されており、GSTが前記ポリペプチドのN末端側に結合した形でポリペプチド(前記ポリペプチドとGSTとの融合ポリペプチド)が発現されるよう、cDNAの組込みを行った。
・NGCect:配列番号8における塩基番号103〜1290で示される塩基配列
・NGCAA:配列番号8における塩基番号784〜1020で示される塩基配列
・NGCAE:配列番号8における塩基番号784〜1290で示される塩基配列
・NGCEGF:配列番号8における塩基番号1030〜1290で示される塩基配列
・NGCCS:配列番号8における塩基番号109〜789で示される塩基配列
cDNAが組み込まれたベクターを大腸菌(BL21)に導入し、その大腸菌を、アンピシリン存在下でLB培地を用いて、600 nm の吸光度が 0.6 以上になるまで37℃で培養した。その後、IPTGを終濃度 1 mM になるように加え、30℃でさらに4時間培養することによってポリペプチドを発現させた。菌体を回収してBugBuster protein Extraction Reagent(Novagen社製)で可溶化した後、グルタチオン−セファロース4B(glutathione-Sepharose 4B;アマシャムバイオサイエンス株式会社製)カラムを用いて精製し、前記の各ポリペプチドを得た。
<実施例2> 神経突起伸長促進活性の測定
(1)NGCectを用いた試験
胎生16日目のWistarラット大脳皮質からニューロン(E16)を採取し、これをポリ−L−リジンでコートした24ウエルのプレートに播接した(1 x 104個/ウエル、1ウエル=500μl)。播種の1時間後にPBS(25μl)、GST(20μg/ml;NGCectと等モル量)又はNGCect (50μg/ml)を添加して37℃で24時間インキュベートした。その後、ショ糖を含有する3%パラホルムアルデヒド溶液を用いて一晩固定した。
【0037】
固定後、ニューロンの形態を位相差顕微鏡(200倍)で観察することにより、神経突起の伸長の程度を評価した。神経突起の伸長の程度は、1ウエルあたり任意の10視野を選択して写真撮影し、(a)最も長い神経突起の長さが、ニューロンの細胞体の直径の3倍以上である細胞数の割合、及び(b)細胞体の中心から最も長い神経突起の先端までの直線距離を測定し、4ウエル分の平均値±標準偏差(S.D.)を求めることによって評価した。(a)及び(b)の概念図を図2に示す。図2中の左側(「Percentage of cells with long neurites(%)」と表示したもの)が(a)の方法の、右側(「Mean neurite length (μm)」)と表示したものが(b)の方法の概念図である。
【0038】
(a)についての結果を図3に、(b)についての結果を図4に示す。なお図中の「rNGC」はNGCectを用いた結果を示し、「**」はp<0.01で有意差があることを示す。
【0039】
図3及び図4から、NGCectが神経突起伸長促進活性を有することが示された。
(2)各種ポリペプチドを用いた試験
上記(1)のサンプルに加え、NGCEGF(27μg/ml)、NGCCS(38μg/ml)、NGCAA(26μg/ml)及びNGCAE(33μg/ml)を用いて、上記(1)と同様に試験した。上記(a)についての結果を図5に、上記(b)についての結果を図6にそれぞれ示す。なお図中の「G」、「ect」、「EGF」、「cs」、「AA」及び「AE」は、それぞれGST、NGCect、NGCEGF、NGCCS、NGCAA及びNGCAEを用いた結果を示す。また「**」はp<0.01で、「***」はp<0.001でそれぞれ有意差があることを示す。また「n.s.」は有意差がないことを示す。
図5及び図6から、NGCectのみならず、NGCEGF、NGCAA及びNGCAEにも神経突起伸長促進活性が認められた。しかし、AA及びEGFドメイン部分のいずれをも保持しない
NGCCSにおいては、この活性は認められなかった。
【0040】
この結果から、NGCにおけるAAドメイン及びEGFドメインの少なくとも一方を保持していれば、神経突起伸長促進活性を発揮することが示された。
(3)伸長した神経突起の数の解析
上記(2)において、最も長い神経突起の長さがニューロンの細胞体の直径の3倍以上であるとされた細胞について、一つの細胞体から出ている神経突起の数を測定した。測定は、1ウエルあたり任意の10視野を選択し、4ウエル分(計40視野)について行った。ヒストグラムとして表した結果を図7に示す。
【0041】
図7から、NGCEGFを作用させると1本の神経突起を持つ細胞が、NGCAAを作用させると数本の神経突起をもつ細胞が、NGCect又はNGCAEを作用させるとこれらの中間的な細胞がそれぞれ多く観察された。この結果から、NGCEGFは軸索様の神経突起を伸長させる傾向が、NGCAAは樹状突起様の神経突起を伸長させる傾向が高いことが示唆された。
(4)ポリペプチドの濃度による影響
サンプルとしてNGCEGFのみを用い、その濃度を変えて前記(2)と同様に試験した。前記(a)及び(b)についての結果をまとめて図8に示す。図8中の白丸は前記(a)についての結果を(単位:%)、黒丸は前記(b)についての結果を(単位:μm)それぞれ示す。
【0042】
その結果、前記ポリペプチドによる神経突起伸長促進活性は、濃度依存的であることが示された。
(5)GABA陽性ニューロンに対する活性
24ウエルプレートのウエルにポリ−L−リジンでコートした直径13mmのカバーガラスを沈める点以外は、前記(2)と同様に試験した。ただしサンプルはGST、NGCect、NGCEGF、NGCCS、NGCAA及びPBSとした。また、インキュベート後の細胞は3%パラホルムアルデヒド、0.1%グルタールアルデヒド及び1%ショ糖を含有するPBS溶液を用いて1時間固定し、固定後にモノクローナル抗MAP2抗体(BDバイオサイエンスファーミンジェン社製)及びポリクローナル抗GABA抗体(シグマ社製)で細胞を処理した(MAP2は樹状突起の分子マーカーであり、抗MAP2抗体によってニューロン全体が染色される)。モノクローナル抗体は、ビオチン化抗マウスIgG抗体(ベクター社製)を反応させた後、アレキサフルオル488で標識したストレプトアビジン(モレキュラープローブス社製)を用いて、またポリクローナル抗体は Cy3 で標識した抗ウサギIgG (H + L) 抗体(ジャクソンイムノリサーチラボ製)を用いて検出した。
【0043】
測定は、抗GABA抗体で染色された「GABA陽性ニューロン」(抑制性ニューロン)のみを対象として行った。胎生16日目頃の大脳皮質におけるGABA陽性ニューロンは、ニューロン全体(MAP2陽性細胞)の約10%とかなり少数なので、1ウエルで検出される全てのGABA陽性ニューロンを測定対象とし、4ウエル分の平均値±標準偏差(S.D.)を求めることによって評価した。前記(a)についての結果を図9に、前記(b)についての結果を図10にそれぞれ示す。なお図中の「ect」、「EGF」、「cs」及び「AA」は、それぞれNGCect、NGCEGF、NGCCS及びNGCAAを用いた結果を示す。また「***」はp<0.001で有意差があることを示す。また「n.s.」は有意差がないことを示す。
【0044】
その結果、NGCect及びNGCEGFはGABA陽性ニューロンに対しても神経突起伸長促進活性を発揮したが、NGCAAについてはこの活性を検出できなかった。
(6)伸長した神経突起の性質
サンプルとしてNGCectを用い、抗GABA抗体に代えてポリクローナル抗tau抗体(シグマ社製)を用いた以外は、上記(5)と同様に試験した。tauは軸索の分子マーカーである。
【0045】
その結果、長い神経突起は、抗tau抗体を用いると非常に強く染色されたが、抗MAP2抗体を用いるとそれほど強く染色されなかった。この結果から、長い神経突起は、軸索の又はこれに極めて近い特性を有していることが示唆された。
【0046】
また、NGCect、NGCAA、NGCAE及びNGCEGFは、いずれも配列番号11に示されるヒトNGCのアミノ酸配列の一部と完全に同一であるか、又は極めて近似しているため、ヒトに対しても同様の効果を奏することが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明ポリペプチドや本発明融合ポリペプチドは、神経突起伸展促進剤等の有効成分として利用することができる。本発明核酸は、このようなポリペプチドの大量生産ツール等として利用することができる。また本発明促進剤は、試薬用途のみならず、神経突起の伸展、神経回路形成の促進等が望まれる疾患等に対する医薬等としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】NGCコアタンパク質のドメイン構造と、製造したポリペプチド(部分ポリペプチド)との位置的な対応関係を示す図である。
【図2】神経突起伸長促進活性の評価(測定方法)の概念図である。
【図3】最も長い神経突起の長さが、ニューロンの細胞体の直径の3倍以上である細胞数の割合を示す図である。
【図4】細胞体の中心から最も長い神経突起の先端までの直線距離の測定結果を示す図である。
【図5】最も長い神経突起の長さが、ニューロンの細胞体の直径の3倍以上である細胞数の割合を示す図である。
【図6】細胞体の中心から最も長い神経突起の先端までの直線距離の測定結果を示す図である。
【図7】一つの細胞体から出ている神経突起の数の測定結果を示す図である。
【図8】ポリペプチドの濃度による影響を示す図である。
【図9】最も長い神経突起の長さが、ニューロンの細胞体の直径の3倍以上である細胞数の割合を示す図である。
【図10】細胞体の中心から最も長い神経突起の先端までの直線距離の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸配列(配列番号1)を少なくとも保持し、かつ、12〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド。
Asp Asp Leu Xaa Glu Glu Glu Glu Glu Glu Glu Asp
(XaaはGlu残基又はAsp残基を示す。)
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号3に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
下記のアミノ酸配列(配列番号5)を少なくとも保持し、かつ、39〜400アミノ酸残基からなることを特徴とするポリペプチド。
Cys Asp Leu Phe Pro Ser Tyr Cys His Asn Gly Gly Gln Cys Tyr Leu Val Glu Asn Ile Gly Ala Phe Cys Arg Cys Asn Thr Gln Asp Tyr Ile Trp His Lys Gly Met Arg Cys
【請求項6】
配列番号6に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドに、他のポリペプチドが結合していることを特徴とする、融合ポリペプチド。
【請求項8】
他のポリペプチドが、グルタチオン−S−トランスフェラーゼである、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドを有効成分とする、神経突起伸展促進剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−42684(P2006−42684A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228693(P2004−228693)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】