説明

神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または治療するためのエクオルの使用

本発明は、被験体における神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させる方法に関する。該方法は、神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させるのに十分な量でエクオルを含む組成物を投与することを包含する。エクオルはR−エクオルとS−エクオルとのラセミ混合物であってもよい。エクオルは、R−エクオルで鏡像異性的に富化されていても、またはS−エクオルで鏡像異性的に富化されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府支援の研究または開発)
本発明は、U.S Dept.of Agriculture(USDA)により授与された助成金番号NRI 2002−00798および助成金番号NRI 2004−01811の下、政府支援により行われた。
【0002】
政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
(背景)
(1.技術分野)
本発明は、エクオル、ならびにアンドロゲンによって媒介される生理学的および病態生理学的な状態を処置および予防するための治療化合物としてのその使用に関する。詳細には、本発明は、神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または治療するためのエクオルの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
(2.背景の情報)
近年では、植物エストロゲンは、加齢性疾患(例えば、心血管疾患および骨粗しょう症)、およびホルモン依存性の癌(すなわち、乳癌および前立腺癌)に対するその潜在的な保護効果に起因して調査に関して注目が増大している。植物エストロゲンには3つの主な分類がある:1)イソフラボン(主に大豆由来)、2)リグナン(亜麻仁で大量に見出される)、および3)クメスタント(coumestants)(アルファルファのような発芽植物由来)。これらの主な3つの分類のうち、イソフラボンのヒトでの消費は、大豆を含む食品におけるその利用度および多様さに起因して最大の影響を有する。イソフラボンのうちでも、ゲニステインおよびダイゼインは最も強力なエストロゲンホルモン活性を発揮すると考えられ、したがってこれらの分子に最も注意が向けられている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。しかし、これらのイソフラボン分子は、大豆食品中でその生物学的に活性な形態では高レベルで存在することはなく、前駆体型で大量である。例えば、ゲニステインの前駆体であるゲニスチンは、分子の炭水化物部分を含むグリコシド型である。さらに、マロニルグルコシドおよびアセチルグルコシド型も見出される。これらの結合体は、腸内細菌によってGI管で代謝され、これは炭水化物成分を生物学的に活性な植物エストロゲンであるゲニステインに加水分解する。同じ代謝工程が、グリコシド型ダイゼインから変換されるアグリコンダイゼインについて生じる。次いで、ダイゼインはさらに、「エクオル産生(equol−producing)」哺乳動物においてエクオルに代謝される。その後、エクオルは、極めて高濃度で血流中において循環する。エクオルは、大豆が消費されない限りほとんどの健常な成体の尿には通常は存在しない。インビボでのエクオルの形成は、germ−Phyto−Free動物がエクオルを排泄しないという知見、ならびに腸内フローラが新生児ではまだ発達してないという事実のせいで、出生から排他的に大豆食を供給された新生または4ヶ月齢の新生児の血漿および尿ではエクオルが見いだされないという知見から証明されるとおり、腸内ミクロフローラに排他的に依存する。非特許文献4を参照のこと。
【0005】
イソフラボンのフェノール環構造によって、これらの化合物は、エストロゲン受容体(ER)に結合してエストロゲンを模倣することが可能である。ゲニステインおよびダイゼインは、ERに結合するが、それはエストラジオールに比較して低い親和性であり、ERαに対してよりもERβに対して親和性が大きい。さらに、植物エストロゲンは、身体全体を通じて種々の組織部位で天然の選択性エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)のように作用することが報告されている。いくつかの組織では、植物エストロゲンはエストロゲンアゴニストとして作用するという証拠があるが、他方ではそれらは、タモキシフェンまたはラロキシフェンの特徴に匹敵するアンタゴニスト様の特徴を示す(SERM活性が性ホルモンおよび性別依存性と考えられる)。
【0006】
科学論文の大部分がダイズまたはクローバーの天然のイゾフラボンに集中しているが、その腸内由来の代謝物の作用または影響について報告しているものもわずかにある。
【0007】
エクオル(7−ヒドロキシ−3(4’ヒドロキシフェニル)−クロマン)は、植物エストロゲンダイゼインの主要な代謝物であって、ダイズおよびダイズ食品において豊富に見出される主要なイソフラボンの1つである。しかし、エクオルは、植物エストロゲンではない。なぜなら、植物の天然の成分ではないからである。エクオルは、どの植物ベースの生成物にも天然には存在しない。むしろ、これは、非ステロイド性のイソフラボンであって、排他的に、腸内細菌代謝物の生成物である(比較的少ない個体では、約30〜400%が、ダイズイソフラボンをエクオルに変換するのに必要なミクロフローラを有する)。エクオルでの以前の研究では、エクオルがある程度弱いエストロゲン特性を有し、性ホルモン結合グロブリンに結合し、α−フェトプロテインに結合し、抗酸化活性を有することが確認されている。しかし、エクオルは、植物由来のイソフラボンのなかでも、不斉中心を有し、従って、2つの別個の鏡像異性型、すなわちR鏡像異性およびS鏡像異性体として存在するという点で特有である。本発明者らは、エクオルのS鏡像異性体が、ダイズを消費する「エクオル産生(equol−producing)」哺乳動物の尿および血漿中で見出される排他的なエクオルの形態であり、ヒト腸内細菌によって作成される唯一のエクオルの鏡像異性体であるということを示している。エクオルに関する全ての以前の研究は、エクオルのラセミ型で行われていると考えられる。一般には、2つの形態のエクオルが存在するという認識が欠如しており、個々の鏡像異性体の特異的な作用または活性に対する以前の研究というのは本発明者らの知見の前には報告されていない。R鏡像異性体およびS鏡像異性体は、立体配置的に異なり、結果としてその生物学的な活性に影響する。例えば、S鏡像異性体のエクオルのみが十分な親和性でエストロゲン受容体(ER)に結合し、これによってヒトで報告される循環エクオルレベルで結合するようになる。17βエストラジオールに比較して、ERαに対するRおよびSエクオルの鏡像異性体の相対的な結合親和性は、それぞれ210.6および49.2倍である。しかし、S−エクオル鏡像異性体は、ERβ選択性であって、ERβに比較的高い親和性を有するとみなされる。鏡像異性体S−エクオルは、17βエストラジオールの約20%でERβに結合する[エクオル、Kd=0.7nM対17β−エストラジオール、Kd=0.15nM]が、Rエクオル鏡像異性体は、約100分の1で結合する。R−エクオルは、天然には存在しないが、身体でのアンドロゲン媒介性のプロセスを調節する能力のせいでかなり重要なものである。
【0008】
前立腺は、その発生および成長に関してアンドロゲンホルモン作用に依存し、ヒトの前立腺過形成(BPH)の発達には明らかに、加齢の間の精巣のアンドロゲンの組み合わせを要する。しかし、テストステロンは、前立腺の成長を担う主要なアンドロゲンではない。主要な前立腺のアンドロゲンは、前立腺癌の現在の治療が5αリダクターゼ阻害剤による5αDHT減少に向かっていることによって証明されるとおり、5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)である。ヒトBPHでは上昇されないが、前立腺の5α−DHTのレベルは、血漿のテストステロンの減少にかかわらず、加齢でも正常なレベルで残る。テストステロンは、前立腺の間質および基底細胞において5αリダクターゼによって5α−DHTに変換される。5α−DHTは主に、前立腺の発達およびBPHの病因を担う。5αリダクターゼの阻害剤は、前立腺のサイズを20%〜30%減少させる。この腺組織における減少は、アポトーシスの誘発によって達成され、これは管萎縮によって組織学的に明らかになる。5αリダクターゼは、2つのアイソフォーム、1型および2型として存在し、前立腺は、優先的に2型のアイソフォームを発現し、肝臓および皮膚は主に1型のアイソフォームを発現している。患者は、1型ではなく、2型の5αリダクターゼにおける相違で特定されている。2型5αリダクターゼヌル変異を有するノックアウトマウスは、5αリダクターゼの欠損のあるヒトでみられる表現型と類似の表現型を示す。1型の5αリダクターゼノックアウトの雄性マウスは、生殖機能に関して表現型は正常である。5αリダクターゼまたは免疫組織化学検出についての酵素活性は、他の尿生殖器組織、例えば、精巣上体、精巣、グベマキュラム(gubemaculum)およびcorporal cavemosal組織において注目されている。
【0009】
定量的に、女性は、エストロゲンよりも大量のアンドロゲンを分泌する。主要な循環ステロイドは一般に、アンドロゲンとして分類され、これには、血清濃度の降順で、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステンジオン(A)、テストステロン(T)、および5α−DHTが挙げられるが、終わりの2つだけが、有意な程度までアンドロゲン受容体に結合する。他の3つのステロイドは、プロアンドロゲンとしてさらに優れているとみなされる。5α−DHTは主にテストステロン代謝の末端産物である。テストステロンは両方、その遊離型で循環し、アルブミンおよび性ステロイドホルモン結合グロブリン(SHBG)を含むタンパク質(そのレベルは、遊離のテストステロン濃度の重要な決定因子である)に結合する。閉経後の卵巣は、アンドロゲン分泌器官であって、テストステロンのレベルは、閉経移行期または閉経期の出現によっては直接影響されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Knight D.C.ら、Obstet Gyneco,187:897〜904、(1996)
【非特許文献2】Setchell,K.D.R.Am J Clin Nutr,129:1333S〜1346S(1998)
【非特許文献3】Kurzer,M.S.ら、Annu Rev Nutr,17:353〜381(1997)
【非特許文献4】Setchell K.D.R.ら、The Lancet 1997;350:23〜27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
いくつかの研究の取り組みは、以下のようなアンドロゲン依存性の疾患の処置のためのステロイド性の化合物の開発に集中していた:(男性型)多毛症、アンドロゲン脱毛症、良性前立腺過形成(BPH)、および前立腺癌。5α−DHTは、主にステロイド5αリダクターゼ酵素を遺伝的に欠く男性の臨床評価を主に通じて、これらの疾患の進行における原因因子とみなされている。このような研究の結果として、この酵素の阻害は、新規な抗アンドロゲン薬物の設計および合成の薬理学的ストラテジーになっている。しかし、5αリダクターゼの阻害が、5αリダクターゼ阻害剤を用いる従来の治療の報告された副作用から生じる禁忌によって証明されるとおり、この系に有害な影響を有するか否かは明らかではない。5α−DHTの阻害を標的する異なるストラテジーの開発は、アンドロゲン媒介性の状態の治療における主な進歩である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(要旨)
本発明は、被験体における神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させる方法である。本発明は、この神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させるのに十分な量でエクオルを含む組成物を投与することを包含する。
【0013】
このエクオルは、R−エクオルとS−エクオルとのラセミ混合物であってもよい。好ましくは、このエクオルは、R−エクオルで鏡像異性的に富化される。あるいは、このエクオルはS−エクオルで鏡像異性的に富化されてもよい。
【0014】
神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害は、抑うつ、不安、双極性障害、強迫性障害、多動性障害、体重増加、または肥満であってもよい。神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害は、アルツハイマー病またはパーキンソン病であってもよい。神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害は、閉経周辺期または閉経後症状であってもよい。
【0015】
組成物はさらに、賦形剤を含んでもよい。好ましくは、組成物は、錠剤、カプセル、粉末、トローチ、バッカル錠および舌下錠からなる群より選択される経口処方物中にある。組成物は、少なくとも約0.25mgのエクオルを含む経口処方物であってもよい。組成物は、食物および飲料であってもよい。組成物は、遅延性の処方物であってもまたは徐放性の処方物であってもよい。
【0016】
好ましくは、エクオルは、遊離の5α−ジヒドロテストステロンを結合し、かつアンドロゲン受容体とのその結合を阻害するのに十分な量である。好ましくは、エクオルは、遊離の5α−ジヒドロテストステロンを結合し、かつアンドロゲン受容体とのその結合を阻害するのに十分であって、エストロゲン受容体サブタイプを結合するのに十分な量である。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、被験体における肥満を軽減する方法である。該方法は、治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、被験体における抑うつを軽減する方法である。該方法は、治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する。
【0019】
さらに別の実施形態では、本発明は、被験体における不安を軽減する方法である。該方法は、治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する。
【0020】
さらなる実施形態では、本発明は、被験体における神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害の個人的な処置を提供する方法である。該方法は、患者の情緒的健康、精神的健康または内分泌の健康を評価する工程と;患者のエクオルプロデューサ状態を評価する工程と;a)投与方式、b)投与量、およびc)投与間隔からなる群より選択される、治療の最適に有益な経過を決定する工程と;を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、S−エクオルおよびR−エクオル鏡像異性体の化学構造を示す。
【図2A】図2Aは健常な成人に対するR−エクオルの経口投与後の血漿中のR−エクオルの出現/消失を示す。
【図2B】図2Bは健常なヒト成人におけるS−エクオルまたはR−エクオルの経口投与後の血漿におけるS−エクオルまたはR−エクオルの出現/消失のプロット(平均レベル)を示す(K.D.Setchellら、Am.J.Clin.Nutr.,81:1072〜1091,2005より)。
【図3】図3は、光学的二色性によって特徴づけられた純粋な鏡像異性体標準に比較して、成人の消費する大豆食品由来の尿のサンプル由来のエクオルの鏡像異性体の溶出のマスクロマトグラムを示す。
【図4】図4は、合成された食品のトリメチルシリルエーテル誘導体のGC−MS分析を示す。
【図5】図5は、ラセミ混合物由来のS−エクオルおよびR−エクオルのキラル分離のマスクロマトグラムを示す。
【図6A】図6Aは、DMSOまたはエクオルを皮下注射された無傷の(インタクトな)雄性ラットの前立腺の重量を示す。
【図6B】図6Bは、DMSOまたはエクオルを皮下注射された無傷の雄性ラットの黄体形成ホルモン(LH)を示す。
【図7】図7は、[3H]DHT+エクオルにおける(ただし[3H]DHT単独ではない)別個のピークを示す。
【図8A】図8Aは、前立腺(A)とともにインキュベートした[3H]−DHT+エクオルにおける2つの別個のピークを示しており、一方、
【図8B】図8Bは、前立腺(B)とともにインキュベートした[3H]−DHTには単一のピークしか存在しないことを示す。
【図9】図9は、[3H]−DHTに対するエクオルの特異的な結合を示す。
【図10A】図10Aは、DMSO、5α−DHT、エクオルまたは5α−DHTおよびエクオルの両方をsc注射した性腺摘出(GDX)雄性ラットにおける前立腺重量を示す。
【図10B】図10Bは、DMSO、5α−DHT、エクオルまたは5α−DHTおよびエクオルの両方をsc注射した性腺摘出(GDX)雄性ラットにおける血漿LHを示す。
【図11】図11は、DMSO、DHTP、エクオルまたはDHTPおよびエクオルの両方で処置したラットにおける血漿の5α−DHTの値を示す。
【図12】図12は、Trent:DMSO(A&E)、エクオル(B&F)、DHT(C)、またはDHTに加えてエクオル(D)のいずれかで処置したGDX(A−D)および無傷の(E&F)ラットの前立腺におけるエクオルの組織学的効果を示す。
【図13】図13は、DMSO(A)またはエクオル(B)で処置した無傷のラットの精巣上体に対するエクオルの組織学的影響を示す。
【図14】図14は、イソフラボン−リッチ(Phyto−600)または植物エストロゲンなし(Phyto−Free)食餌のいずれかを供給された雄性ラットにおける体重を示す。
【図15】図15は、Phyto−600またはPhyto−Free(植物エストロゲンなし)の食餌のいずれかを供給された雄性ラットにおける白色脂肪組織質量を示す。
【図16】図16Aおよび図16Bは、それぞれPhyto−600またはPhyto−Free食餌を供給された雄性ラットにおける食物および水の摂取を示す。
【図17】図17Aおよび図17Bは、それぞれPhyto−600またはPhyto−Free食餌を供給された雄性ラットにおける血漿のレプチンおよびインスリンの値を示す。
【図18】図18は、Phyto−600またはPhyto−Free(植物エストロゲンなし)の食餌のいずれかを供給された雄性ラット(絶食でない)由来の血清グルコース値を示す。
【図19】図19は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雄性ラットにおける甲状腺(T3)血清レベルを示す。
【図20】図20は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラットの体重を示す。
【図21】図21は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラット由来の白色脂肪組織の質量を示す。
【図22】図22は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラット由来の血中グルコース値を示す。
【図23】図23は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラット由来の血中T3値を示す。
【図24】図24は、50日齢後にPhyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラットの体重を示す。
【図25】図25は、50日齢後にPhyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラットの白色脂肪組織の質量を示す。
【図26】図26は、50日齢後にPhyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラットの血清レプチン値を示す。
【図27】図27は、50日齢後にPhyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給された雌性ラットの血清インスリン値を示す。
【図28】図28は、行動的発情期誘導レジメンの後、およびそこにおかれたPhyto−600(黒のバー)またはPhyto−Free(白のバー)食餌のいずれかを供給されたOVXラットの体重を示す。
【図29】図29は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給されたOVXラットの白色脂肪組織の質量を示す。
【図30】図30は、Phyto−600またはPhyto−Free食餌のいずれかを供給されたOVXラットの血清レプチンの値を示す。
【図31】図31は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された112日齢の雄性ラットの体重を示す。
【図32】図32は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された279日齢の雄性ラットの体重を示す。
【図33】図33は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された350日齢の雄性ラットの体重を示す。
【図34】図34は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された350日齢の雄性ラットの脂肪組織質量を示す。
【図35】図35は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された350日齢の雄性ラットにおける血中インスリン値を示す。
【図36】図36は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された350日齢の雄性ラットの血中レプチン値を示す。
【図37】図37は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された112日齢の雌性ラットの体重を示す。
【図38】図38は、AIN−76、Phyto−Free、Phyto−200、またはPhyto−600の食餌を供給された279日齢の雌性ラットの体重を示す。
【図39】図39は、Phyto−Free、またはPhyto−600の食餌を供給された145日齢の雄性のNobleラットの体重を示す。
【図40】図40は、Phyto−Free、またはPhyto−600の食餌を供給された145日齢の雄性のNobleラット由来の白色脂肪組織質量を示す。
【図41】図41は、Phyto−Free、またはPhyto−600の食餌を供給された145日齢の雌性のNobleラットの体重を示す。
【図42】図42は、Phyto−Free、またはPhyto−600の食餌を供給された145日齢の雌性のNobleラット由来の白色脂肪組織質量を示す。
【図43】図43は、エクオル注射を受ける前のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラットのベースラインの体重を示す。
【図44】図44は、エクオルまたはビヒクルの注射を受ける前のPhyto−Free食餌に対する21日後の3つの群のラットの体重を示す。
【図45】図45は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた7日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラットの体重を示す。
【図46】図46は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた15日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラットの体重を示す。
【図47】図47は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた22日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラットの体重を示す。
【図48】図48は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた28日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラットの体重を示す。
【図49】図49は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた28日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラット由来の脂肪組織質量を示す。
【図50】図50は、エクオルまたはビヒクルの注射を受けた28日後のPhyto−Free食餌に対する3つの群のラット由来の精巣の重量を示す。
【図51】図51は、4つの異なる食餌を供給された300日齢の雄性ラットの高架式十字迷路不安関連行動(elevated−plus maze anxiety−related behavior)の回数(オープン・アームに進入)を示す。
【図52】図52は、4つの異なる食餌を供給された300日齢の雄性ラットの高架式十字迷路不安関連行動(オープン・アームにおける時間)を示す。
【図53】図53は、4つの異なる食餌を供給された330日齢の雌性ラットの高架式十字迷路不安関連行動(オープン・アームに進入)を示す。
【図54】図54は、4つの異なる食餌を供給された330日齢の雌性ラットの高架式十字迷路不安関連行動(オープン・アームの時間)を示す。
【図55】図55は、4つの異なる食餌を供給された330日齢の雄性ラットにおける血清イソフラボン値を示す。
【図56】図56は、4つの異なる食餌を供給された330日齢の雌性ラットにおける血清イソフラボン値を示す。
【図57】図57は、イソフラボンを含む食餌に密接であるという5週後の個体についてのBMIで観察された変化を示す。
【図58】図58は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の総移動距離(メートル)のグラフである。
【図59】図59は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の全平均速度(1秒あたりのメートル)のグラフである。
【図60】図60は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の総移動時間(秒)のグラフである。
【図61】図61は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の潜水の総回数のグラフである。
【図62】図62は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の総移動時間(秒)のグラフである。
【図63】図63は、Porsolt水泳試験におけるPhyto−600食餌を供給された動物に比較した、Phyto−freeの給餌をされた中年齢の雌性ラットでのエクオル注射前(A)およびエクオル注射後(B)の排泄されたボリ(boli)の総数のグラフである。
【図64】図64は、Phyto−(Free)給餌したコントロールの動物に比較したエクオル処置した成体雄性ラットにおける体重減少のグラフである(1処置群あたりn=8)。
【図65】図65は、高架式十字迷路(EPM)のオープン・アームへの進入回数のグラフである。
【図66】図66は、EPMのオープン・アームにおいて経過した時間のグラフである。
【図67】図67は、25連続日の間エクオルで処置された後の成体雄性ラットにおける脳のホルモン感受性の視床下部領域の図示である。
【図68】図68は、EPMのオープン・アームへの進入回数のグラフである。
【図69】図69は、ゲニステインまたはコントロールの動物に比較したエクオルを用いて、出生前および出生後早期の発達の間処置した雄性ラットのEPMのオープン・アームでの経過時間の別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(図面および本発明の好ましい実施形態の詳細な説明)
エクオルがエストロゲンの作用に関するという薬理学の理解における近年の進歩にかかわらず、本研究者らは、エクオルの強力な抗エンドロゲン作用が特有かつ新規であることを示しており、アンドロゲン関連状態を予防または治療するための新規なアプローチを公開する。5α−DHTを結合または隔離することによって、5α−DHT感受性の組織に対するその効果を阻害する手段が得られる。5α−DHTに特異的である公知のリガンドはないが、このような薬剤は、アンドロゲン受容体を直接標的する無差別な化合物またはアンドロゲン合成に関与する酵素を上回る別個の利点を有する。
【0023】
本発明は、エクオルが、神経精神医学的障害、例えば、抑うつ、不安;および神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、または軽度痴呆を予防および/または処置するのに用いられ得るという本発明者らによる予期せぬ発見に基づく。本発明者らはさらに、エクオルが、給餌の調節および体重管理の動機付けに影響し得るということに注目した。
【0024】
これらの知見は、健康および疾患における重要な分岐であって、アンドロゲン媒介性の病理の処置におけるエクオルの潜在的な広範かつ重要な用途を示す。特定の機構に限定されないが、エクオルは、抗アンドロゲンとして作用し得ると考えられる。エクオルの抗アンドロゲン特性は、エクオルがアンドロゲン受容体(AR)に結合しないが、5αジヒドロテストステロン(5α−DHT)には高い親和性で特異的に結合し、それによって5α−DHTをAR結合から妨げるという点で特有である。さらに、エクオルのR鏡像異性体およびS鏡像異性体は特異的に5α−DHTを結合し、ARから5α−DHTを隔離し、生理学的プロセスにおける5α−DHTの作用をインビボでブロックし得る。ラセミのエクオルは、R−エクオルおよびS−エクオルならびにR−エクオルまたはS−エクオルの単独を構成し、選択的に5α−DHTを結合する。
【0025】
哺乳動物では、2つの主要なアンドロゲン、テストステロンおよびその5α−還元代謝物である5α−DHTがある。5α−DHTは、哺乳動物の身体で最も強力なアンドロゲンとして認識されている。ARは、ヒトのX染色体に位置する単一コピーの遺伝子でコードされており、アンドロゲンの作用を特異的に媒介する。テストステロンおよび5α−DHTの両方がARに結合するが、テストステロンによってごくわずかに影響される特定の組織(すなわち、前立腺、毛包など)は5α−DHTによって大きく影響される。さらに、5α−DHTは、多数の疾患および障害に関与している。なぜなら、上述のとおり、エクオルは、5α−DHTに特異的に結合してその作用を妨げるので、アンドロゲン媒介性の病理の治療におけるエクオルの広範かつ重要な用途についての効能があるからである。詳細には、本発明者らは、エクオルが神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または処置するために用いられ得るということを発見した。
【0026】
エクオルは、ステロイド性のエストロゲンエストラジオールと類似の構造を有する。エクオルは、不斉中心を有し、それ自体が2つの別個の鏡像異性体型、R鏡像異性体およびS鏡像異性体として存在するという点でイソフラボンの中でも特有である。エクオルに対する以前の全ての研究は、エクオルのラセミ型で行われていると考えられる。2つの型のエクオルが存在するという認識は一般にはなく、個々の鏡像異性体R−エクオルおよびS−エクオルが5α−DHTに特異的に結合するという特異的な作用または活性に対する以前の研究というのは本発明者らの知見の前には報告されていない。エクオルのラセミであるR−エクオルまたはS−エクオルは、アンドロゲン受容体には結合しない。R−エクオルは、エストロゲン受容体系には結合しない。S−エクオルのみがERβに結合する(17β−エストラジオールよりも約5分の一の親和性)。従って、R−エクオルおよびS−エクオルは、SERM様の特性を有し、さらに最も強力な循環アンドロゲンである5α−DHTに選択的に結合する能力を有している。
【0027】
ダイズおよびその成分のイソフラボンで最も重要なゲニステインおよびそれより程度として劣るダイゼインは、そのエストロゲン作用に、または非ホルモン作用、例えば、酵素、成長因子もしくはサイトカインに対するその作用、またはそれらの抗酸化作用に集中していた。イソフラボンの潜在的な抗アンドロゲン作用の考察は以前には決してなく、エクオルの鏡像異性型が言及されているだけである。本発明は、エクオルの鏡像異性型の影響、詳細には、ダイゼインの天然の代謝物であるS−エクオルおよびR−エクオル(強力なアンドロゲンジヒドロテストステロン5α−DHTの作用を拮抗する)の両方の能力に取り組む。また、特定の理論で拘束されることは望まないが、エクオルは、エストロゲン受容体サブタイプを介してエストロゲン様分子として作用する正の役割を果たすと現在考えられている。このような効果によって、5α−DHTが有害な役割を果たす疾患の予防および処置に対する食餌性、栄養補給および薬理学的なアプローチの新規な可能性が切り開かれる。これには、前立腺癌、皮膚疾患、脱毛、神経精神医学的な疾患または障害、および神経変性疾患が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、S−エクオルのエストロゲン作用はまた、前立腺癌を処置または予防するのに有益であり得る。なぜなら、エクオルの併用の作用は、エストロゲン受容体レベルで、かつ抗アンドロゲンとして作用するからである。
【0028】
エクオルは5α−DHTと結合する
エクオル(7−ヒドロキシ−3(4’ヒドロキシフェニル)−クロマン)は、ダイズおよびダイズ食品で豊富に見出されるイソフラボンである、植物エストロゲンダイジン(daidzin)およびダイゼイン(daidzein)の主要な代謝物であり、重要な生物学的に活性な分子である。植物エストロゲンの豊富な食餌を供給された動物では、主要な循環イソフラボンはエクオルであり、これは、総循環イソフラボンレベルの70〜90%を占める。本発明は、エクオルの生物学的特性の新規なレベルを開示する。結合研究では、エクオルの鏡像異性体は、5α−DHTに特異的に結合するが、テストステロン、DHEAまたはエストロゲンには結合しない。そのように結合することによって、エクオルは、アンドロゲン受容体自体に直接結合することなくアンドロゲン受容体から5α−DHTを隔離する。インビボの研究では、無傷(インタクト)な雄性ラットにおけるエクオルの治療は、前立腺および精巣上体の重量を有意に減少させたが、精巣の重量は減少させなかったことが示されている。エクオル投与後の5α−DHTで処置した去勢雄性ラットでは、エクオルは、前立腺に対する5α―DHT栄養作用をブロックし、その負のフィードバックが血漿黄体形成ホルモン(LA)レベルに影響する。
【0029】
特定の理論の作用機序に拘束されることは望まないが、エクオルは、特異的に5α−DHTを結合すること、およびアンドロゲン受容体(AR)に対してそれ自体結合することなく5α−DHTがARに結合することを予防することによって抗アンドロゲンとして作用し得ると現在考えられている。ARにすでに結合している5α−DHTは、鏡像異性体のエクオルによって競合的に結合しないことも示されている。従って、本発明の一実施形態は、DHT−AR結合が生じる前に5α−DHTとエクオルとを接触させることによって、5α−DHTがARに結合することを予防する方法である。この鏡像異性体のエクオルは、インビトロまたはインビボにおいて5α−DHTと接触させられ得る。5α−DHTがインビボで接触させられる場合、エクオルは、血流へのエクオルの吸収を可能にする任意の経路で投与されてもよい。生物学的に利用可能な5α−DHTは、遊離であって、エクオルとの結合前はいかなる天然のリガンドにも結合されない。
【0030】
生殖器官、例えば、前立腺および精巣上体は、アンドロゲン制御下であることが公知である。例えば、思春期前には、循環中のアンドロゲンレベルが極めて低い場合、高レベルのダイズ由来イソフラボンを含む食餌を供給されたラットの前立腺重量は、この食餌の消費によって変更されない。しかし、思春期後には、アンドロゲンレベルが増大する場合、前立腺重量は、植物エストロゲンなしの食餌を供給された動物に比較して植物エストロゲンの豊富な食餌を供給されたラットでは有意に低下する。本明細書に示されるとおり、エクオル処置された無傷のラットは、前立腺および精巣上体の重量の有意な低下を示す(短期間の研究の間は精巣または下垂体重量における変化なし)。著しいことに、前立腺および精巣上体の値が体重に対して標準化される場合(100グラムあたり)、その比はエクオル処置とコントロールの値との間でやはり有意に異なる。エクオルはまた、テストステロンレベルを有意に変化させることなく、前立腺および精巣上体に対する5α−DHTのアンドロゲン栄養性の影響をブロックした。
【0031】
5α−DHTは、黄体形成ホルモン(LH)の循環血漿値に負のフィードバック効果を有する。エクオルは5α−DHTに結合すること、およびこのフィードバック効果を妨げることによってLHレベルを有意に増大すると考えられる。例えば、エクオルは、性腺摘出(GDX)雄性においてLHレベルに対する5α−DHTの阻害作用を完全に逆転するが、5α−DHTに加えてエクオルで処置した雄性ラットは、コントロールの値と類似のLH値を示す。これらのデータによってさらに、エクオルが、おそらく血液循環系において、5α−DHTに結合する特異的な能力を有し、LH産生または分泌を抑制するのにおいて5α−DHTのホルモン作用をブロックし得ることが示唆される。従って、本発明の実施形態は、個体の5α−DHTと鏡像異性のエクオルとの接触によって個体のLH値を調節する方法である。エクオルはエクオルの血流への吸収を可能にする任意の経路で、処置される病気の性質および個体の大きさに従って投与される量で投与されてもよい。
【0032】
エクオルの構造
エクオルは、複素環における二重結合の欠失に起因して不斉中心を有するという点でほとんどのイソフラボンとは異なる。ダイズ由来(ダイゼイン、グリシテインおよびゲニステイン)、クローバー由来(ホルモノネチンおよびビオチャニンA)、およびくず由来(ピューラリン(peurarin))の植物エストロゲンイソフラボンは、不斉中心を有さない。図1は、R−エクオルおよびS−エクオルの化学構造を示す。
【0033】
R鏡像異性体およびS鏡像異性体は立体配置的に異なり、かつこれはエクオル鏡像異性体がどのように二量体化ER複合体の腔における結合部位に適合するか、およびそれが5α−DHTにどのように結合するかに影響すると予想される。
【0034】
エクオルのうち約50%が、ヒトにおいて遊離型または未結合型で循環し、これは血漿中の遊離のダイゼイン(18.7%)またはエストラジオール(4.6%)の割合よりもかなり大きい。これは、受容体占有について、おそらくは5α−DHT結合について利用可能な未結合の画分であるので、これは、エクオルの全体的な力価を増強するのに有効に寄与する。
【0035】
エクオルを含有する組成物
本発明は、遊離の5α−DHT(ただしテストステロンでもDHEAでもない)に結合して隔離することができるエクオルの少なくとも生理学的な受容できる量を有しており、それによって個体に対する投与後にそれがアンドロゲン受容体に結合することを妨げ、それによって健康および疾患の重要な分岐を、並びにアンドロゲン媒介性病理の処置における広範かつ重要な用途を有する組成物を包含する。詳細には、エクオルを含む組成物は、神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または処置するために用いられ得る。
【0036】
好ましくは、エクオル(S−エクオル、R−エクオル、ラセミのエクオル混合物、または非ラセミのエクオル混合物であってもよい)を含有する組成物が、経口の消費のために作成される。
【0037】
好ましくは、エクオルは、本発明の方法によって疾患または障害を予防または処置するのに十分な量である。好ましくは、治療有効量のエクオルが本発明の方法で用いられる。「治療有効量」という用語は、エクオル(S−エクオル、R−エクオル、ラセミのエクオル混合物、または非ラセミのエクオル混合物)の量であって、必要または所望の予防的または治療的な応答を惹起するのに十分な量、あるいは言い換えれば、被験体に投与された場合相当の生物学的応答を誘発するのに十分な量をいう。例えば、治療有効量のエクオルは、被験体における不安または抑うつを減じ得る。
【0038】
組成物または該組成物を含有する製品は、市販のまたは施設の食品、医薬品(すなわち、薬物)および店頭販売の(OTC)医薬品(一般用医薬品)(すなわち、栄養補給食品)であってもよい。
【0039】
好ましくは、食品組成物は、1回あたり、少なくとも約0.25mgを含み、より好ましくは、食品組成物は、約1mg、好ましくは最大約200mgまでの鏡像異性体のエクオルまたはエクオル混合物を含む。食品組成物中のエクオルの他の量も考慮される。
【0040】
好ましくは、経口投与医薬は、1用量あたり、少なくとも約0.25mg、より好ましくは約1mg、好ましくは最大約200mgまでの鏡像異性体のエクオルまたはエクオル混合物を含む。医薬組成物中のエクオルの他の量も考慮される。
【0041】
好ましくは、局所適用のための製品は、少なくとも約0.1重量%、最大約10重量%のS−エクオルもしくはR−エクオル、または鏡像異性体混合物を含んでもよい。他の濃度のエクオルもエクオルを含む局所製品について考慮される。
【0042】
本発明の組成物はまた、他の化粧品および医薬品の活性成分および賦形剤を含んでもよい。このような適切な化粧品および医薬品としては、限定はしないが、抗真菌剤、ビタミン、抗炎症剤、抗菌剤、鎮痛薬、一酸化窒素シンターゼ阻害剤、防虫剤、セルフ・タンニング剤、界面活性剤、保湿剤、安定化剤、防腐剤、消毒剤、増粘剤、潤滑剤、保湿剤、キレート剤、皮膚浸透増強剤、エモリエント、芳香剤、および着色剤が挙げられる。
【0043】
鏡像異性体のエクオルはまた、グルクロニド、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グルコシド、アセチル−グルコシド、マロニル−グルコシドおよびそれらの混合物からなる群より選択される結合体とC−4’またはC−7位置で結合体化された、鏡像異性のエクオル結合体であってもよい。
【0044】
アンドロゲン関連の疾患およびそれに関連する状態の処置および/または予防のために被験体に投与するため、あるいはその素因を減少させるための、鏡像異性のエクオルまたはエクオルの混合物を含む組成物または調製物はまた、1つ以上の薬学的に受容可能なアジュバント、担体および/または賦形剤を含んでもよい。薬学的に受容可能なアジュバント、担体および/または賦形剤は、Handbook of Pharmaceutical Excipients,第二版、American Pharmaceutical Association,1994(参照によって本明細書に組み込まれる)に例えば記載されるように当該分野で周知である。
【0045】
一実施形態では、本発明の組成物は、0%より多くかつ90%未満のS−エクオルについてのEEを有する、S−エクオルおよびR−エクオルの非ラセミ混合物を含む。0%のEEを有する組成物は、2つの鏡像異性体の50:50のラセミ混合物である。この組成物は、ラセミ混合物からR−エクオルまたはS−エクオル鏡像異性体のいずれかを完全に分離および除去することによって、ラセミ混合物から直接作成され得る。この組成物はまた、エクオルの混合物(非ラセミまたはラセミ混合物のいずれか)を含む第1のエクオル成分と、S−エクオルまたはR−エクオルから本質的になる組成物を含む第2の成分とを合わせることによって作成され得る。これは、過剰のS−エクオルまたはR−エクオルを有する非ラセミ組成物を生成する。組成物中のR−エクオル成分およびS−エクオル成分についての特異的な利点または指示に依存して、S−エクオルおよびR−エクオルを、R−エクオルに対するS−エクオルの比で、好ましくは約50:50〜約99.5:1、さらに好ましくは約51:49〜約99:1、好ましくは約50:50〜約1:99.5未満、さらに好ましくは約49:51〜約1:99で含む組成物が調製され得る。
【0046】
この組成物は、錠剤、カプセル、再構成用の粉末、シロップ、食品(例えば、食品バー、ビスケット、スナック食品、当該分野で周知の他の標準的な食品)の形態で、または飲用の処方物で投与されてもよい。飲料は、香味料、緩衝液などを含んでもよい。
【0047】
経口投与に適切な組成物は、別個の単位、例えば、カプセル、カシェ剤、口内錠、トローチ剤(trouche)、錠剤、バッカル錠、舌下錠(この各々が所定の量の抽出物を含む)で存在してもよく;粉末または顆粒として;水溶液または非水溶液中の溶液または懸濁液として;あるいは水中油型または油中水型のエマルジョンとして存在してもよい。
【0048】
この組成物は代表的には、有意な量の任意の他のアンドロゲン受容体結合化合物を含まない。
【0049】
エクオルのプロデューサおよびノン・エクオルプロデューサを特定する
エクオルは、ダイズ由来のダイゼイン、およびメトキシル化イソフラボンホルモノネチン(formononetin)のグリコシド結合体、またはクローバーで見いだされるそのグリコシド結合体の加水分解後に形成される。一旦形成されれば、エクオルは、代謝的に不活性であると考えられ、さらなる生体内変換は受けず、肝臓での第二相代謝またはわずかな程度のさらなるヒドロキシル化を省く。ダイゼインおよびゲニステインと同様に、優勢な第二相反応は、グルクロン酸化であり、硫酸化はそれより少ない程度である。尿中のエクオルの存在が、大豆食品摂取の働きであるというオリジナルの発見に従い、成体集団の約50〜70%は、未解明の理由で、大豆食品を毎日与えられた場合でもエクオルを尿に排泄しなかったことが観察された。さらに、純粋なイソフラボン化合物が投与され、それによって食品の母体の影響が除かれた場合でも、多くの人はダイゼインをエクオルに変換しないことが示されている。この現象は、これらの2つの別個の集団を述べるために「エクオルプロデューサ」または「ノン・エクオルプロデューサ」(または「プア・エクオルプロデューサ」)という人の用語をもたらしている。
【0050】
カットオフ値は、経験的に得られており、これによってこれらのカテゴリーのいずれかに個体を割り当てることが可能になる。10ng/mL未満(40nmol/L)の血漿エクオル濃度を有する人は、「ノン・エクオルプロデューサ」に分類されてもよく、レベルが10ng/mLを超えれば(40mmol/L)これは「エクオルプロデューサ」と定義する。この定義はまた、尿中のレベルに由来してもよく、エクオルプロデューサとは、1000nmol/Lより多く排泄するヒトである。エクオルの排泄は個体間で大きく変動し得るが、この反応を触媒する酵素の反応速度論における前駆体−産物の関係に一致して、エクオルを産生できるものと産生できないものとの間には大きな境界がある。結果として、尿のダイゼインとエクオルの値との間には反比例関係があり、いままでのところ有意な性差は明確になっていない。
【0051】
エクオルの鏡像異性体の調製および単離
鏡像異性のエクオルは、そのままでも、またはラセミ混合物として調製されてもよい。化学合成経路を用いて、ラセミ混合物を良好な収率で産生してもよい。代表的な合成プロセスでは、標準的な化学処理を用いて、複素環の二重結合を水素化し、C−3位置でカルボニルを除去する。代表的な出発材料は、イソフラボン、例えば、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、プエラリン、ホルモノネチンおよびビオチャニン(biochanin)Aおよびそれらのグルコシド結合体である。任意の結合体型が、加水分解によってそのアグリコンに還元される。反応に適切な溶媒としては、有機の酸、例えば、氷酢酸、低級アルコール、例えば、イソプロパノールおよびそれらの混合物が挙げられる。代表的に使用される還元触媒としては、パラジウム、例えば、チャコール上の10%Pdが挙げられる。反応は、大気温度から60℃の温度で行われ得、ここで圧力は大気圧をわずかに上回り、最大200psig(14気圧、ゲージ)で、反応時間は最大30時間以上である。
【0052】
反応終了後、触媒を除去して、濾液を蒸発させる。その粗残渣を、代表的にはシリカゲルカラムを使用するクロマトグラフィによって精製し、溶出液はC2−C4アルコール、C3−C7アルカンおよびそれらの混合物を含む。精製された残渣は、n−ヘキサンから結晶化して(±)エクオルを、代表的には少なくとも99%、代表的には少なくとも75%の収率で、純粋な産物として生成してもよい。エクオル結晶化生成物は無色で、吸湿性ではなく、空気中で安定であって、最終の濾過手順の間に分解されない。
【0053】
ラセミのエクオルからの個々のR−鏡像異性体およびS−鏡像異性体の単離のための方法
エクオルのラセミ混合物は、C4−C8アルキルおよびC2−C4アルコールを含む移動相を有するキラル相カラムを用いて2つの別個の鏡像異性体に分離され得る。キラル相カラムの代表的な例は、ダイセル化学工業株式会社から販売されている、Chiral ODカラムまたはOJカラムである。移動相の好ましい例は、70%ヘキサンおよび30%エタノールを含む。ラセミ混合物が入口へ通過する第1の時間後、その時間間隔は、カラムのタイプ、溶出剤のタイプ、溶出剤の流速、温度、およびラセミ混合物の質量に依存して、第1の流出剤が、HPLCカラムの出口から回収される。第1の溶出剤は代表的にはS−エクオルである。ラセミ混合物が入口へ通過する第2の時間後、第2の溶出剤R−エクオルが得られる。このカラムからのエクオル鏡像異性体の溶出は、260〜280nmでのUV吸収によって、または質量分析計などのさらに特異的な検出システムおよびエクオルに特異的なイオンのモニタリングによって検出されてもよい。
【0054】
S−エクオルの生物学的な生成
S−エクオルは、従来の食品技術を用いてバルクで生物学的に産生されてもよい。ダイゼインまたはダイゼインが誘導され得る別の関連のイソフラボンを含む、ベースの溶液媒体、食物または植物抽出物が提供され得る。ダイゼインまたは他のイソフラボンを、標準的な細菌または酵素のファーメンテーションプロセスによってS−エクオルに変換して、S−エクオルを含むバルク溶液、食物または植物抽出物を得てもよい。
【0055】
エクオルへのダイゼインの変換は、3つの主要な工程を包含する:1)任意のグルコシド結合基の加水分解、2)イソフラボンアグリコンのジヒドロ中間体への変換、および3)ジヒドロ中間体のエクオルへの変換。必要な3つの工程の各々についての代謝経路および酵素は、必ずしも1つの細菌に存在する必要はない。ヒトの研究に由来する逸話的な証拠によって、これらの反応を行うことに関連して作用する1つ以上の細菌が存在してもよいことが示唆され、これは、しばしばジヒドロダイゼインが、血漿および尿中に有意な量で存在し得るが、エクオルは、低いかまたはほとんど検出され得ないという事実から証明される。エクオルは、単一生物体によってダイゼインから産生され得るが、おのおのがそれ自身の代謝プロフィールを有する細菌種の混合物を用いる場合、より優れたまたは効率的な変換が達成され得ると考えられる。S−エクオルへの有効な変換のための重要な条件としては、細菌生物体または生物体の混合物の選択、培養温度、および生物体に利用可能な酸素の量が挙げられる。これらの条件は、当業者に周知である技術によって最適化され得る。この変化を達成するために用いられる生物体は、食品産業で用いられる標準的技術によって不活性化されてもよいし、または生成物中で活性な状態で残されてもよい。
【0056】
代表的には、ダイゼイン(または他の関連のイソフラボン)を中間生成物を通じてS−エクオルに変換するために1つ以上の細菌株が必要であり、これは一般に3つの主要な反応のうちの1つ以上に関与する:イソフラボングリコンのアグリコンイソフラボンへの変換;アグリコンイソフラボンのジヒドロイソフラボンへの変換;およびジヒドロイソフラボンの生成物エクオルへの変換。例えば、ウマの糞便から単離された生物体の混合培養物、または「エクオルプロデューサ」であることが知られた人の胃腸管由来の生物体の混合培養物は、それらがインビボで変換するように、グリコンダイゼインを最終産物S−エクオルに変換できる。
【0057】
グリコンをアグリコンに(例えば、ダイゼインからダイゼイン)変換し得る代表的な細菌株としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、リステリア・ウエルシュメリ(Listeria welshimeri)、「エクオル産生」哺乳動物の腸管から単離された生物体の混合培養物、バクテロイデス・フラジリス(Bacteriodes fragilis)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、Eubacteria limosum、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilous)、ラクトバチルス・デルブリッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Proprionobacterium freudenreichii)およびサッカロマイセス・ブラウディ(Sacharomyces boulardii)、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0058】
アグリコンをエクオルに(例えば、ダイゼインからS−エクオル)変換し得る代表的な細菌株としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ、以下を含む混合培養物:ビフィドバクテリウム・ラクティス、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius);ならびに「エクオル産生」哺乳動物の腸管から単離される生物体の混合培養物が挙げられる。
【0059】
グリコシドのアグリコンへの細菌変換、またはアグリコンのエクオル生成物への細菌変換に必要な時間は、細菌関連因子、詳細には、濃度、酸素の利用度、ならびにインキュベートする系の温度およびpHに依存する。ほとんどの場合、24時間内に実質的に完全な変換を達成することが可能である。
【0060】
イソフラボングリコシドのアグリコンイソフラボンへの細菌変換のためのpHの範囲は、約3〜約9である。最適のpHは主に用いられる細菌のタイプに依存し、それに応じて選択される必要がある。
【0061】
グリコシドからアグリコンへの、およびアグリコンからエクオル産物への酵素変換に必要な時間は、酵素関連因子、詳細には、この系の濃度、および温度およびpHに依存する。ほとんどの場合、24時間内に、さらに好ましくは約2時間内、最も好ましくは1時間内に実質的に完全な変換を達成することが可能である。
【0062】
バルクで産生されるS−エクオルは、S−エクオルの細菌産生の得られたバルク溶液から、結晶化、溶媒抽出、蒸留および沈澱/濾過を含む当該分野で周知の方法によって分離され得る。得られたバルク溶液は、未反応のダイゼインまたは用いられる他の関連のイソフラボン、副産物および任意の反応物を含んでもよい。このような方法は、逆相または順相の液体クロマトグラフィカラムの使用を包含し、これらはキラル相クロマトグラフィと組み合わされてもよい。
【0063】
バルク溶液または固相からのS−エクオルの除去の代表的な方法は抽出による。抽出溶液は、S−エクオルを含有する溶液または固相に加えられる。代表的には、抽出剤は、低分子量アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロプルアルコール、もしくはプロピルアルコール、または3.5〜5.5の範囲のpHを有する水溶液である。代表的には、水性アルコール法が用いられている場合、十分なアルコールを添加して、アルコール/水の比を最小40:60と最大95:5との間にさせる。さらに代表的には、この比は、少なくとも60:40であり、よりさらに代表的には、65:35〜90:10の間の比である。
【0064】
水性酸抽出法が用いられる場合、酸の水溶液は、約3.5〜約5.5に調節されたpH、より好ましくは約4.0〜約5.0のpH範囲内で調製される。十分な水を添加して、希釈液が、十分に低い粘度で、遠心分離または濾過によって液体から固体を分離することを可能にする。
【0065】
不溶性の固体物が除去されている液体を、液体を除くための従来の方法によって濃縮する。代表的に用いられる方法としては、限定されないが、好ましくは減圧下での蒸発による溶媒の除去が挙げられる。残りの液体を、少なくとも約15%の固体、そして最大約55%まで、さらに代表的には30%〜50%の固体まで濃縮する。次いでこの濃縮液を水で希釈して、固体含量を減じて、水対アルコールの比を増大する。添加された水の量は、広範に変化し得るが、最終の固体含量は6%〜15%、さらに代表的には約13%が好ましい。混合物のpHは約pH3.0と約pH6.5との間で調節し、約pH4.0〜約pH5.0の値が好ましい。代表的には、温度は約20℃〜約10℃であり、さらに代表的には約5℃〜7℃である。
【0066】
次いで固体物質を液体から、標準的な分離技術(遠心分離または濾過)によって分離して、エクオルに富んだ固体物質を得る。
【0067】
エクオルに富んだ物質は、必要に応じて、代表的には、シリカゲルカラムを使用するクロマトグラフィによって精製されてもよく、C2−C4アルコール、C3−C7アルカンおよびそれらの混合物を含む溶出剤を用いる。精製された残渣をn−ヘキサンから結晶化して、代表的には少なくとも99%で、代表的には少なくとも75%の収率で、純粋な生成物としてS−エクオルを生成してもよい。エクオル結晶化産物は無色、非吸湿性であり、空気中で安定であって、最終の濾過手順の間に分解されない。
【0068】
S−エクオル産物は、標準のエクオルのトリメチルシリル(TMS)エーテル誘導体の公開された電子イオン化スペクトルと一致する単一の純粋なピークおよび質量スペクトルとして、トリメチルシリルエーテルもしくはtert−ブチルジメチルシリルエーテル誘導体、または合成された産物のいくつかの他の適切な揮発性誘導体のGC−MS分析によって確証され得る。生成物の確証はまた、HPLCキラル相カラムを介する装置へサンプルを導入した後エレクトロスプレーイオン化を用いる直接質量分析によって達成されてもよい。
【0069】
S−エクオル、E−エクオルおよび混合物を投与することによる疾患の処置
本発明は、インビボでエクオルを生成できないという問題を克服するための、あるいはR−エクオルを、詳細には、エクオルの鏡像異性体、S−エクオルもしくはR−エクオル、またはS−エクオルおよびR−エクオルの非ラセミ混合物の送達を直接供給して、その産生のための腸内細菌の必要性またはエクオルの前駆体イソフラボンを有する大豆食品を消費する必要性を回避するための方法を個々の被験体に提供する。S−エクオルの送達はまた、「エクオルプロデューサ」における、および「ノン・エクオルプロデューサ」におけるS−エクオルのインビボ産生を補完し得る。
【0070】
エクオルの鏡像異性体または混合物でエクオルプロデューサの食餌を補完すれば、エクオルプロデューサによって産生されたS−エクオルの通常のレベルが不適切である場合、以下の理由で利点が提供され得る:1)エクオルを産生するためのイソフラボンの不十分な消費、2)前駆体イソフラボンからエクオルを作成するための腸内細菌の活性を除去する抗生物質の使用、または3)エクオル産生のレベルに影響する他の健康上の要因、例えば、短腸症候群または回腸造瘻術などの腸内ストーマの外科的構築。さらに、補充レベルのエクオルは、ヒトの健康および福祉に対する影響を向上させると考えられる。
【0071】
本発明は、アンドロゲン関連疾患およびそれに関連する状態に対する健康上の利点を有するのに十分な量で、S−エクオル、R−エクオル、ラセミのエクオル、またはエクオルの非ラセミ混合物を送達するための方法を提供する。エクオルの抗アンドロゲン活性は、身体中におよぶ多数の組織に影響し得る。詳細には、5α−DHTのアンドロゲン活性のブロックは、(A)加齢による前立腺の成長、良性前立腺過形成(BPH)、および前立腺癌、(B)女性型および男性型の禿頭、(C)顔の毛および体毛の増殖(多毛症)、皮膚の健康(座瘡、老化防止(アンチエイジング)および光老化予防)、皮膚の完全性(コラーゲンおよびエラスチンの頑健性);(D)体重増加(および減少)、脂肪組織蓄積および脂質の代謝の減少、ならびに、一般的な調節性の行動および効果、例えば、食物および水の摂取、血圧変化、甲状腺、グルコース、レプチン、インスリンおよび免疫系に対する影響;ならびに(E)アルツハイマー病および情動、精神衛生の問題、例えば、気分、抑うつ、不安および学習および記憶の処置および予防にとって、上記の脳の特徴の全てに影響する脳におけるGABA受容体の強力なモジュレータである5α−ステロイド代謝物(アンドロゲンおよびプロゲステロンをカバーする)を減少させることによって、有益であり得る。
【0072】
代表的には、エクオルを含む組成物の量は、1ミリリットルあたり少なくとも5ナノグラム(ng/mL)、さらに代表的には少なくとも10ng/mL以上、または1000nmol/Lを超えるという一過性のレベルの尿中の鏡像異性エクオルという、一過性の値の鏡像異性体エクオルを哺乳動物の血漿中で生じるのに十分な量で投与される。好ましくは、組成物は、鏡像異性エクオルの少なくとも約0.25mg、より好ましくは約1mg、さらに好ましくは少なくとも約5mg、および最大約200mgまで、さらに好ましくは最大約50mgまでの投与量で経口投与される。健康な成体に対する20mgのR−エクオル鏡像異性体の経口投与後の血漿中のR−エクオルのバイオアベイラビリティの代表的な値を、図2Aおよび図2BのR−エクオルの出現/消失のプロットで示す。
【0073】
R−エクオルおよび/またはS−エクオルを十分な量で送達する能力によって、エクオルのラセミ混合物の送達を上回るいくつかの利点が得られると考えられる。第一に、R−エクオルまたはS−エクオルの単独の力価は代表的には、ラセミ混合物の少なくとも2倍である。第二に、ヒトの身体のみがS−エクオルを産生し、従って、S−エクオルのみを含む組成物は、身体がなじんでいる成分S−エクオルを有する「天然の」製品に相当する。第三に、R−エクオル鏡像異性体は固有の特性を有するので、R鏡像異性体のみ、または実質的にR鏡像異性体のみを含む処理組成物は、有益および/または治療的な効果を生じ得る。第四に、R−エクオルの投与は、任意の内因性のS−エクオルが存在することを補助して、身体中でエストロゲン作用および抗エストロゲン作用が生じることを可能にする。
【0074】
本発明は、男性型および女性型の禿頭に関連する疾患および状態を処置および予防するための鏡像異性エクオルの使用を包含する。5α−DHTは、頭髪の脱毛原因として公知である。アンドロゲン、詳細には、主な循環のアンドロゲンであるテストステロンは、さらに強力なアンドロゲンである5α−DHTに変換され(毛包中で)、頭髪の毛包に対する5α−DHTのホルモン作用が脱毛を生じる。従って、5α−DHTのホルモン作用が、循環(血管内)および毛包内で5α−DHTに結合する本発明のエクオルにおける使用などによってブロックされ得るならば、頭髪の脱毛は、軽減されるかまたは予防され得る。
【0075】
本発明は、顔および身体の毛に関連する疾患および状態を処置および予防するために鏡像異性エクオルの使用を包含する。顔面および身体の毛は、アンドロゲンによって調節されるが、頭髪の調節とは反対である。詳細には、さらに強力なアンドロゲン5α−DHTは、顔および身体の毛を増大する。5α−DHTはまた、皮脂腺由来の皮脂(油脂)の産生を増大し、これが座瘡の増大に寄与し得る。従って、エクオルによる5α−DHTの結合は、顔面および身体の毛の、および皮脂(油脂)の分泌の減少を、ならびに座瘡の減少または予防を生じ得る。
【0076】
本発明は、皮膚の効果、皮膚の質および完全性、皮膚の老化、皮膚の光老化、ならびに皮膚の色素沈着および明化に関連する疾患および状態を処置および予防するための鏡像異性エクオルの使用を包含する。エストロゲンは、閉経期の前、特に後に、エラスチンおよびコラーゲンの含量を増大することによって皮膚の健康を改善して、皮膚の特徴または構造安定性を改善する。さらに、皮膚が座瘡または他の皮膚破壊(ひっかき、吹き出物のはじけまたは小さい切り傷など)によって損傷される場合、エストロゲンまたはエストロゲン様化合物、例えば、エクオルが存在するならば、修復機構は、より速く、皮膚の治癒は良好である。エクオル鏡像異性体混合物、および詳細にはS−エクオルは、エラスチンおよびコラーゲンの良好な刺激因子であり、また光老化に対して防御し得ると考えられる。5α−DHTのホルモン作用をエクオルがブロックすることは、皮脂腺からの皮脂産生を減少し得、これが座瘡を減少または除去し得る。S−エクオル(ただしR−エクオルではない)はエストロゲン受容体(単数または複数)(主にERβ)に結合するので、このエストロゲン様分子の防御効果は、皮膚におけるエラスチンおよびコラーゲンを刺激する。さらに、エクオルは強力な抗酸化剤であるので、エクオルは光老化を含む加齢(老化)から皮膚を防御し得る。
【0077】
本発明は、前立腺の健康状態の改善に関する疾患および状態を処置および予防するために鏡像異性エクオルの使用を包含する。テストステロンをさらに強力なアンドロゲン5α−DHTに変換することは、前立腺内の酵素5α−リダクターゼの作用の結果である。5α−DHTは良性前立腺過形成(BPH)を生じ、前立腺重量を増大し、これらの状態を処置するための前立腺切除術および放射線療法の必要性を生じ得る。最終的に、大豆食品の消費は、前立腺癌および乳癌などのホルモン依存性癌を軽減するという「健康上の利点」に起因する注意が増大している。従って、エクオルによる5α−DHTのブロックは、動物モデルで前立腺重量を減少し、おそらくBPHをブロックして前立腺癌を予防する。
【0078】
本発明は、神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または治療するのに十分な量でエクオルを投与することによって、この神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させる方法を包含する。
【0079】
しばしば加齢に伴う、神経変性障害、例えば、アルツハイマー病および小うつ病、ならびにパーキンソン病は、一般的な集団で蔓延しており、処置するには費用がかさむ。Lasker Foundationによれば、現在米国では4百万人が、アルツハイマー病を有しており、1年に一千億円を超える費用がかかっていると考えられる。65歳を超えれば毎年アルツハイマー病を発症するリスクは倍になり、85歳を超えればほぼ40パーセントの人が疾患を有する(J.M.Lynessra,ら、Ann.Inter.Med.,144:496〜504,2006;およびLephartら、Curr neurovas.Res.,1:455〜464、2004)。小うつ病は大うつ病よりも頻繁であって、より高齢者(60歳以上)の群のうちほぼ50%が小抑うつに関連する症状を示している(J.M.Lynessら,Ann.Inter.Med.,144:496〜504,2006)。
【0080】
一実施形態では、本発明は、脳の機能および精神衛生に関連する疾患および状態を処置および予防するための鏡像異性エクオルを含むエクオルの使用を包含し、この疾患および状態としては、脳の障害、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー型の痴ほう、ならびに加齢および短期および長期記憶喪失に関連する他の低下または障害された認知機能が挙げられる。脳の機構は、さらに複雑であって、どの分子および要因が、気分、抑うつ不安などを調節、影響などするかを規定する試みは困難であり得る。しかし、エストロゲン、またはイソフラボンのようなエストロゲン様分子が、アルツハイマー病などの状態で認知機能を補助し得、かつ特に閉経後の女性におけるこのような障害の発現を妨げるために補助し得るという概念を支持するいくつかのデータがある。
【0081】
神経精神医学的な障害が、世界中で有病率および夭折の2番目に大きい原因であるということは十分確認されている。World Health Organizationは、集団として、神経精神医学的障害は、全ての報告された疾患のうち13%を含むと見積もっている。これらの障害としては、抑うつ、不安、統合失調症(精神分裂病)、双極性障害、強迫性障害、恐慌性障害、過食症、アルコールおよび薬物の乱用、過食および肥満、ならびに注意欠陥過活動性障害(World Health Organization.world health report 2000−health systems:improving performance.Geneva:WHO 2000)が挙げられる。アメリカ人5人のうちほぼ1人が精神医学的疾患のエピソード、例えば、抑うつまたは不安を、ある所定の年に経験する(Mental Health Report of the U.S.Surgeon General,1999)。とりわけ、アルコール依存症を有するほとんどの共通の併発精神医学的診断は、しばしば、薬物乱用関連障害、例えば、抑うつおよび不安の障害である(R.Hitzemann,Alchol Res.& Health 24:149〜158,2000)。
【0082】
抑うつは、印象的な障害、または気分の障害である。症状としては、不幸感、無力感、絶望および生命活動または全ての楽しみに対する関心の喪失が挙げられる。抑うつに罹患しているほとんどの個体はまた、精神遅滞、混乱、エネルギーの喪失、および決定または集中できないことを経験する。症状は、中度または軽度から重度におよび得、しばしば不安および/または不穏を伴う(Diagnostic Criteria form DSM−IV,American Psychiatric Association,Washington,D.C.,1994)。
【0083】
抑うつは、精神疾患の「風邪(common cold)」と呼ばれている。これは蔓延した障害であって、年あたりで米国の集団におけるほぼ1800万の成人が罹患している(National Institutes of Health,Invisible Disease:Depression,Bethesda,M.D.,NIH publication 01−4591,2001)。これは、能力障害の2番目に主要な原因とみなされており、これを上回るのは心疾患だけである(C.J.Murray&A.D.Lopez(編集)The Global Burden of Disease,Harvard Univ.Press,Boston,1996)。世界中で、その罹患率は女性で21%、男性で13%である(C.B.NemeroffおよびM.J.Owens,Nature Neurosci.,5:1068〜1070,2002)。
【0084】
抑うつの原因の背景に関する研究は続いているが、神経伝達物質のシナプス濃度の減少または神経伝達物質の作用の関連機構から障害が生じると一般に考えられている。抗うつ薬は、治療の現在の方式である。不幸にも、ほとんどの抗うつ薬は、その生化学的な作用はほぼ直ちに生じるという事実にもかかわらず、臨床効果が出現するまでに代表的には数週間の投与を要する。結局のところ、抗うつ薬の副作用、禁忌および安全性に関して懸念があり得る。
【0085】
不安障害はしばしば、過度の心配、恐怖および不安によって特徴づけられ、高頻度に生じて、日課的な作業の有意な障害を生じる。症状としては、不穏、疲労、集中力欠如、興奮、筋緊張および睡眠障害を挙げることができる。一般的な集団における不安障害の生涯有病率はほぼ5〜6%である(D.J.Nuttら、Int.J.Neuropsychopharm.,5:315〜325、2002)。女性は、男性よりも頻繁に罹患し、35歳を超える女性では10%という有病率であり、不安の率は、中年およびより高齢の成人では増大する傾向であり(H.W.Wittchen,Depress.Anxiety,16:162〜171,2002)、これは抑うつでみられる傾向と同様である。
【0086】
不安の処置の現在の方法としては、ベンゾジアゼピン(例えば、ジアゼパム、バリウム(valium))などの抗不安薬を含む化合物での薬理学的処置が挙げられる。ベンゾジアゼピンは、抗不安、鎮痛催眠、抗痙攣薬および筋弛緩特性を保有する。しかし、循環の血漿レベルが抗不安の範囲を超える場合、ベンゾジアゼピンは、精神および運動の機能の障害、錯乱(混乱)および健忘を生じ得る。ベンゾジアゼピンはまた、患者によっては用量の増大および乱用にかかりやすい場合がある。長期使用からの離脱は、不安、不眠、不穏および興奮を誘発し得る(R.M.Julien,Primer of Drug Action第7版、W.H.Freeman Co.,New York,1995;ならびにM.E.LikeyおよびB.Gordon,Medicine and Mental Illness,W.H.Freeman Co.,Boston,1991)。
【0087】
気分、不安、抑うつおよび他の精神衛生状態に関して、2つの基礎的な視点がある。研究の1系統では、エストロゲンが(特に女性において)不安を調節し、不安レベルを減少するのを助けるという見解が支持される。エストラジオールおよびプロゲステロンの両方とも不安関連の行動、および精巣のアンドロゲンであるテストステロンを変化させる(Imhof J.T.ら、Behav Brain Res,56:177〜180(1993))。エクオルの抗アンドロゲン活性は、神経伝達物質を増強すること、およびシナプス密度を修復することによって脳中で作用する。特定の理論によって束縛はされないが、本発明者らは、R−エクオルおよび/またはS−エクオルが、脳において、同じ部位で、エストロゲンとして活性であり、エストロゲン応答を発揮すると考えている。
【0088】
第二系統の研究は、さらに複雑であって、5α還元ステロイド、特にプロゲステロンは、脳においてGABA受容体に結合して沈静を生じる能力を有するという見解を支持する。GABAは脳における主要な阻害性の神経伝達物質であって、その受容体は、気分/感情を制御する脳領域で豊富である。沈静を生じることによって、個体は不安の表現が少なくなる。例えば、妊娠中のほとんどの女性は、OKを感じることが報告されているが、彼女らは通常疲労感があるか、または眠い。これは、身体中において、ただし詳細には脳中において、5α−リダクターゼ酵素によって、プロゲステロンが5α−ジヒドロプロゲステロン(5α−DHP)に変換されることに起因し、この分子のさらなる代謝が、GABA受容体に結合してGABAの作用を増強し得る最も強力な「神経ステロイド」を生じる。この5α−ジヒドロプロゲステロン分子(およびその代謝物)が脳活性を減少し得るという、さらなる支持的な証拠がてんかんの女性(てんかんを従っててんかん発作を経験する)で見られ、これらの個体は、プロゲステロンの高い循環レベルに起因して妊娠中にはてんかん発作をほぼ決して経験しない。5α還元アンドロゲン様5α−DHTはまた、GABA受容体に同様の効果を有して、沈静を(男性で)生じるが、5α−DHPに比較してかなり低いレベルであるということが注目される必要がある。
【0089】
これらの2つの見解をまとめると、エストロゲンは一方では不安を減じ、これによって活性を増大する。逆に、5α−DHPの作用をブロックすることでまた、活性が増大し、従って行動試験において、不安を軽減すると解釈される。例えば、妊娠ラットにおける5α−DHPへのプロゲステロンの変換がブロックされる場合、これは、それらの自発活性レベルで有意な増大を生じる。
【0090】
エクオルに関してこれに同様の展望をとれば、エクオルは、5α−DHP(主に女性でみられる)および5α―DHT(主に男性でみられる)に結合する能力を有する。これは、GABA受容体で強力な「神経ステロイド」効果を減じて、沈静を減少し、これによって活性を増大するか、または不安を軽減する。さらに、エストロゲン受容体(単数または複数)βに対してS−エクオルが結合する能力も、活性を増大する。最終的に、本発明者らの研究であって、雄性または雌性の若齢または中齢の成体ラット用いる研究によって、食餌性の植物性エストロゲン消費(Lund T.D.ら、Brain Res,913:180〜184(2001);Lephart,E.D.ら、Neurotoxicology Tetratology,24:1〜12(2002))、またはエクオルによる注射が、高架式十字迷路試験で表される不安レベルを有意に減少させることが示されている。
【0091】
高架式十字迷路は、不安関連行動を定量して、抗不安薬を特定するために用いられる行動試験である(Pellow Sら、J.Neurosci Methods,14:149〜147(1985);Current Protocols In Neuroscience(1997)8.3.1−8.3.15,John Wiley&Sons.NY,N.Y.)。この試験は、新しい環境の探索とその嫌な特徴の回避との間の内因性の矛盾に依拠する。正常には動物は、迷路のクローズド・アームに比較して迷路のオープン・アームでは過ごす時間が短く、進入することが少ない(Imhof J.T.ら、Behav Brain Res,56:177〜180(1993)。しかし、抗不安薬、例えば、ベンゾジアゼピン(バリウム(valium))で処置された動物は、オープン・アームでさらに長時間過ごし、オープン・アームへの進入の回数は、不安関連行動の減少を反映する(Pellow S.ら、J.Neurosci Methods,14:149〜147(1985);Current Protocols In Neuroscience(1997)8.3.1−8.3.15,John Wiley&Sons.NY,N.Y.;Chopin P.ら、Psychopharm,110:409〜414(1993)。
【0092】
本発明はまた、閉経周辺期または閉経後症状を処置または予防するためのエクオル(R−鏡像異性体およびS−鏡像異性体の混合物など)の使用を包含する。これらの症状としては、とりわけ気分変動、抑うつ、不安、疲労ならびに情動性および精神の衛生状態、体重増大および肥満、ならびに多嚢胞卵巣が挙げられる。
【0093】
別の実施形態では、本発明は、抑うつ、不安および上述されるその他を含む、神経精神医学疾患を予防または処置するためのエクオルの使用の方法である。
【0094】
本発明は、体重および体脂肪形成に関連する疾患および状態を処置および予防するための鏡像異性のエクオルの使用を包含する。体重増加および肥満は、米国および世界中の開発途上国における膨大な健康上の懸念に相当する。例えば、米国では、成人のうち約55%が、国際標準では過体重であり、アメリカの大人の約23%が、肥満とみなされる;アメリカ人の子供5人に一人が過体重とみなされる。米国での肥満は、1990年代後期には国家の保健医療予算のうち合衆国政府の12%、すなわち1180億円がかかる(World Watch Institute,2000年3月4日)。
【0095】
エクオルを含む植物エストロゲンは、白色脂肪(adipose)(脂肪(fat))組織の形成を減じ、白色脂肪組織の破壊を増大する能力を有し、これによって体重を減少させる。また、植物エストロゲン分子のエストロゲン様の性質は、LDL(いわゆる、「悪玉」コレステロール)、血圧を下げて、インスリン耐性を妨げる(または言い換えれば、糖尿病状態に対する有益な影響をもたらす)。エクオルは、他の植物エストロゲンに比較してさらに強力なイソフラボン分子であるので、これはおそらく、健康上の利点を提供して、先に概説された状態を防御する。
【0096】
エクオルは、5α−DHTに結合するので、エクオルはまた、体重増大を促進する5α−DHTの作用をブロックし得る。従って、エクオル、および詳細にはS−エクオルを、抗アンドロゲンと、ただし同時に、同じ分子(エクオル)由来のエストロゲンホルモン作用と組み合わせて、さらに、体重減少(および体重管理)という健康上の利点を改善し、LDLコレステロールを減少し、血圧を減少し、糖尿病の破壊的な効果を妨げることを補助する。
【0097】
本発明は、体重の増大および肥満を妨げるまたは処置するエクオルの使用を包含する。「体重の増大」という用語は、被験体の年齢、性別および状態に依存する最適の健康値を上回る体重の任意の増大をいう。人は、その理想体重を約20%超える場合、肥満とみなされる。その理想体重は、人の身長、年齢、性別および体形を考慮する必要がある。過体重または肥満は、また、例えば、肥満度指数(ボディ・マス・インデックス)を用いて規定されてもよい。成人については、過体重および肥満の範囲は、体重および身長を用いて「肥満度指数(ボディ・マス・インデックス)」(BMI)と呼ばれる数値を計算することによって決定される。BMIは、ほとんどの人に用いられるので、体脂肪の量と相関する。約25〜29.9の間のBMIを有する成人は、過体重とみなされる。約30以上のBMIを有する成人は、肥満とみなされる。過体重または肥満になることで、多くの疾患および健康状態のリスクが増大するが、これには以下が挙げられる:高血圧、異脂肪血症(例えば、高い総コレステロール、または高レベルのトリグリセリド)、2型糖尿病、冠状動脈性心疾患、卒中、胆嚢疾患、変形性関節症、睡眠時無呼吸および呼吸問題およびいくつかの癌(子宮内膜癌、乳癌および結腸癌)(U.S.Department of Health and Human Services,Center for Disease Control(CDC)and Prevention,2006)。
【0098】
本発明は、高コレステロール(高コレステロール血症)、脂質血症、脂肪血症および異脂肪血症(脂質の障害)などの脂質障害を処置および予防するための、エクオルの、鏡像異性エクオルまたはその混合物としての使用を包含する。血漿の総コレステロール濃度は、エクオルプロデューサでは、ベースライン値に比較して7.2%(p=0.04)、およびノン・エクオルプロデューサでは3.0%(p=NS)減少したことが研究によって示されている。正常な血液コレステロール値を有する成人での有意なコレステロール低下効果を、ダイズタンパク質が有さないということは、2〜3の経験があり、おそらくこの理由は、ダイズイソフラボンの代謝に関する研究集団中の異質性、およびエクオル形成の関連性(特に、ノン・エクオルプロデューサにおける非形成)を認識できないということである。これらのデータによって、鏡像異性エクオルが有利な方式で脂質に影響するということ、およびこの効果がアンドロゲンによって媒介されるということが示唆される。エクオルを含む組成物は、血流中の脂質のレベルを低下するのに十分な量で投与される。
【0099】
本発明はさらに、血圧中の正確な変化に応答して反応性または可塑性を増大すること、血流を改善すること、および血圧を低下させることによって、低下した血管の質を改善するためのR−エクオルおよび/またはS−エクオルの使用を包含する。本発明はまた、良性前立腺癌、前立腺癌および皮膚癌を含む癌を処置および予防するためのR−エクオルおよび/またはS−エクオルの使用を包含する。
【0100】
本発明の別の実施形態は、肥大した前立腺または精巣上体を処置するためのエクオルの使用である。エクオルはまた、精巣、下垂体または体重の変化なしに、これらの病理の発達のリスクであると考えられる個体で、肥大した前立腺または精巣上体を妨げるために用いられ得る。エクオルは、血流へのエクオルの吸収を可能にする任意の経路によって投与され得る。
【0101】
DHT−アンドロゲン受容体
本発明の他の実施形態は、エクオルの使用を、アンドロゲン関連障害およびエストロゲン/アンドロゲンのバランスにおける攪乱から生じる障害における診断剤として、包含する。これらの実施形態では、エクオルは、個体に投与されて5α−DHTに結合し、それによってアンドロゲン受容体に対する5α−DHT結合を妨げる。次いで、エストロゲンのバランスにおけるこの変化を測定するか、またはアンドロゲン結合におけるこの変化を評価して、アンドロゲン関連の異常を診断するかまたはさらに解明する。
【0102】
5α−DHTに対する結合
該当の治療部分に関する5α−DHTの結合能力を評価するために、エクオルを投与して、他の治療部分より前に、またはそれとともに5α−DHTに結合させてもよい。また、アンドロゲン結合部分がアンドロゲン活性を修復する有効性、および5α−DHT結合の不在下でのエストロゲン活性のバランスを評価するために、エクオルの投与後にアンドロゲン結合部分を投与してもよい。さらに、5α−DHTからこれらの天然に存在するかまたは生体異物の5α−DHT結合部分を置き換えるために、5α−DHT結合部分の存在下でエクオルを投与してもよい。
【0103】
エクオルの投与
本明細書に記載される本発明の各々の実施形態では、エクオルの投与が経口である必要がある場合、エクオルは、「エクオル産生(equol−producing)」哺乳動物または「エクオル産生しない(non−equol producing)」哺乳動物のいずれかに対してエクオルの経口剤形を、または「エクオル産生」哺乳動物に対してダイゼイン、ダイジイン、ダイゼインを含むイソフラボン混合物もしくはダイズタンパク質調製物を供給することによって投与されてもよく、この経口剤形の投与は、血流へのエクオルの有効な吸収を生じる。エクオルの投与は、必要に応じて、経口以外の経路によって行われ得る。例えば、直腸または尿道の投与を用いて、肥大した前立腺の処置のためにエクオルを投与しても、または前立腺肥大を予防してもよいと考えられる。さらに、エクオル分子の活性なリガンド結合部位を投与のために単離して合成してもよく、これによって完全なエクオル分子なしに5α−DHT結合を得てもよいと考えられる。5α−DHT結合能を有する、エクオル分子またはそのフラグメントの用量は、投与の経路および処置される条件に依存する。本発明者らのインビボ研究に基づいて、比較的低用量のエクオルがかなり高用量の5α−DHTを拮抗することが明らかであり、これは5α−DHTと比較して血清タンパク質に対するエクオルの結合における顕著な相違によって説明され得る。後者の循環はほとんどタンパク質に結合するが、エクオルは50%が遊離である。一般には、レシピエントの体重1kgあたり少なくとも約0.2mg、好ましくは少なくとも約0.5mg/kgのエクオルというレシピエントの血流中のエクオルまたはその活性なフラグメントの濃度を生成するのに十分な用量。この用量は、有意な用量制限的な副作用を招くことなく、約10mg/kgよりも大きくまで劇的に増大され得る。経口投与は、医薬の遅延型または徐放型の放出をもたらし得るマイクロカプセル型で達成されてもよい。
【0104】
エクオルは、ローション、軟膏、泡状物(シェービングフォームを含む)、経鼻スプレー、皮膚パッチ(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,613,958号に記載のものなど)、マイクロポンプシステムを含む電気機械的デバイス(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,693,018号および米国特許第5,848,991号に記載のものなど)、および皮下インプラント(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,468,501号に記載のものなど)を含む種々の形態で局所的に、経皮的に、および皮下に投与されてもよい。
【0105】
実験
(a)「エクオル産生」成体におけるエクオル鏡像異性体の決定
「エクオルプロデューサ」であると以前に特定されている、ダイズ食品を消費する成人由来の尿サンプルを分析した。エクオルは、固相Bond Elut C18カートリッジを通じたサンプルの通過によって尿(25mL)から単離した。水でカートリッジを洗浄した後、メタノール(5mL)での溶出によってイソフラボンを回収して、メタノール相を採取して窒素流下で乾燥した。サンプルを、Helix pomatiaによる酵素的加水分解に供し、次いでBond Elut C18カートリッジで再抽出した。メタノール抽出物を採取して、窒素ガス下で乾燥させて、HPLC移動相(100μL)に再溶解した。エクオル鏡像異性体を、本明細書において上記されるようなChiralcel OJキラル相カラムを用いてHPLCによって特定した。エクオルの検出は、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を選択イオンモニタリングすることによって達成した。S−エクオルの純粋な標準の、およびダイズ食品を消費する成人由来の尿のマスクロマトグラムを図3に示す。同様の結果によって、大豆由来のイソフラボンが、ラットにおいてエクオルに変換されることが示されており、同様に、これによってイソフラボン代謝のげっ歯類モデルが確認される。
【0106】
保持指数およびマスクロマトグラムによって、これが排他的に、ヒト尿に排出されるエクオルのS−鏡像異性体であることが確認される。なぜなら、エクオルの検出可能なR−鏡像異性体は見出されないからである。同じ「エクオルプロデューサ」由来の血漿の分析によってまた、エクオルのS−鏡像異性体のみが明らかになった。
【0107】
(b)ラセミのエクオルの化学合成
ダイゼイン(200mg、0.8mmol)を、氷酢酸(20mL)およびイソプロパノール(20mL)の混合物に溶解し、10%Pdを用いて、チャコール(150mg)上で55p.s.i.g.(3.7atm、測定)で還元する。反応の終りの時点で(2時間、TLC:イソプロパノール/n−ヘキサン1/4)、触媒を濾過して除き、その濾液を蒸発させる。粗残渣を、イソプロパノールおよびn−ヘキサンの混合物(1:4v/v)を溶出剤として用いるシリカゲルカラムでのクロマトグラフィによって精製して、(±)エクオルを、n−ヘキサンから結晶化された純粋な生成物(160mg、収率:82%)として得る。生成物は無色結晶であり、吸湿性ではなく、空気中安定で、最終濾過手順の間、分解されない。この化学合成の生成物は、(±)エクオルの標準品サンプル(ラセミのエクオル)と全ての点で同一であった。図4は、標準品のエクオルのトリメチルシリル(TMS)エーテル誘導体の公開された電子イオン化スペクトルと一致する単一の純粋なピークおよび質量スペクトルとして、合成された生成物のトリメチルシリルエーテル誘導体のGC−MS分析を示す。予想される分子イオンはm/z470で、ベースピークはm/z234である。精製されたエクオル生成物は、HPLCおよび質量分析計で確認されるとおり、99%より大きい純度を有した。
【0108】
(c)光学的二色性によるS−鏡像異性体およびR−鏡像異性体の溶出順序
S−エクオルおよびR−エクオルのラセミ混合物を、1.0mL/分の流速を用い、ヘキサンに含まれる10%エタノールの最初の移動相およびヘキサンに含まれる90%エタノールまでの増大から構成される勾配溶出を用いて、Chiralcel OJ Columnでのキラルクロマトグラフィによって、表1に示されるプログラムに従って15分間にわたって分離した。
【0109】
【表1】

図5は、S−エクオルおよびR−エクオルのラセミ混合物のイオン記録(m/z241)のマスクロマトグラムを示す。
【0110】
最初に溶出する物質は、鏡像異性体−1と命名され、2番目に溶出する物質は、鏡像異性体−2と命名され、これらを別々に収集した。各々の鏡像異性体を秤量して、秤量したサンプルを1mLの分光計等級のエタノールに溶解した。各々の鏡像異性体の旋光度の測定は、ナトリウムのラインDの波長の光を用いて200℃で行った。
【0111】
鏡像異性体−1物質(正確な重量1.6mg)は、第1測定値および第2測定値、−0.023および−0.022を有し、これによって、エクオルのS−鏡像異性体と対応する、−14[−0.0225×1000/1.6]の旋光度が生じた。鏡像異性体−2物質(正確な重量1.7mg)は、第1測定値および第2測定値、+0.023および+0.023を有し、これによって、エクオルのR−鏡像異性体と対応する、+13.5[+0.023×1000/1.7]の旋光度が生じた。
【0112】
d)S−鏡像異性体およびR−鏡像異性体の受容体結合能力の決定
インビトロの結合研究を行って、エストロゲン受容体ERαおよびERβとのS−鏡像異性エクオルおよびR−鏡像異性エクオルの相対的親和性を検査した。
【0113】
ホルモン受容体タンパク質の合成:全長ラットERα発現ベクター(pcDNA−ERα;RH Price UCSF)およびERβ発現ベクター(pcDNA−ERβ;T A Brown、Pfizer,Groton,Colo.)を用いて、インビトロでホルモン受容体を合成し、ここでは、30℃で90分の反応の間、T7−RNAポリメラーゼとともにTnT結合網状赤血球溶血液系(Promega,Madison,Wis.)を用いた。翻訳反応混合物は、さらなる使用まで−80℃で保管した。
【0114】
飽和異性体:ERαおよびERβについてのS−エクオルおよびR−エクオル鏡像異性体の結合親和性を算出および確立するために、網状赤血球溶血液上清の100μLのアリコートを、最適の時間および温度でインキュベートした;室温で90分(ERβ)および4℃で18時間(ERα)、[3H]17β−エストラジオール(E2)の漸増濃度(0.01〜100nm)を用いた。これらの時間は、経験的に決定され、エストロゲンとの受容体の最適の結合に相当した。非特異的な結合を、平行管で、300倍過剰のERアゴニストジエチルスチルベステロールを用いて評価した。インキュベーション後、結合および未結合の[3H]E2を、1mLの親油性Sephadex LH−20(Sigma−Aldrich Co.,Saint Louis,Mo)カラムを通してインキュベーション反応物を通過させることによって分離した。カラムは、以前に公開されたプロトコール(Wandaら、1986;O’KeefeおよびHanda,1990)に従って、TEGMD(10mm Tris−Cl、1.5mm EDTA、10%グリセロール、25mm モリブデン酸塩、および1mmのジチオトレイトール、pH7.4)飽和Sephadexを用いて、使い捨てのピペットチップ(1mL;Labcraft,Curtin Matheson Scientific,Inc,Houston,Tex)をパッキングすることによって構築した。クロマトグラフィのために、TEGMD(100μL)を用いてカラムを再平衡し、インキュベーション反応物を各々のカラムに個々に添加して、さらに30分間カラムにてインキュベートさせた。このインキュベーション後、600μLのTEGMDを各々のカラムに添加して、貫流物を収集し、4mLのシンチレーション液を添加して、サンプルを2900 TR Packardシンチレーションカウンタ(Packard Bioscience,Meriden,Conn.)でカウントした(各5分)。
【0115】
競合結合研究を用いて、エクオルのS−エクオルおよびR−エクオルの鏡像異性体のエストロゲン特性を評価した。SおよびRがER結合について[3H]E2と競合する能力に基づいて、インビトロ翻訳されたERについての親和性は、2つの鏡像異性体について極めて異なることが示された。S−エクオル鏡像異性体は、ERβに最大の親和性を示した[Kd(nm)=0.73±0.2]が、ERαに対するその親和性は、比較すれば比較的低かった[Kd(nm)=6.41±1.01。R−エクオル鏡像異性体は、ERβ[Kd(nm)=15.4±1.31]およびERα[Kd(nm)=27.38±3.8]の両方にかなり低い親和性を保有した。参照として、17β−エストラジオールは、この系において、ERαとはKd(nm)=0.13で、ERβとはKd(rum)=0.15で結合する。
【0116】
この研究によって、S−エクオル鏡像異性体のみが、ERに十分な親和性で結合し、ヒトで報告される循環エクオル値に対する潜在的関連性を有するということが示される。17βエストラジオールと比較して、ERαについてのS−エクオルおよびR−エクオル鏡像異性体の相対的結合親和性は、それぞれ49分の1および211分の1であった。しかし、S−エクオル鏡像異性体は、ERβに比較的高い親和性を有するかなりERβ選択性であるとみられ、一方でR−エクオル鏡像異性体は、約100分の1の親和性で結合する。別のかつ関連の決定は、排他的にS−エクオルがヒト血漿でみられ、尿が2つの鏡像異性体の結合において特異性の観点で有意であるということである。
【0117】
e)R−エクオルのバイオアベイラビリティ
20mgの純粋なR−エクオルを、一晩絶食後の健常な成人に経口投与した。血液サンプルをその後24時間にわたって一定間隔で収集し、エクオルの血漿濃度は、選択イオンモニタリングによる同位体希釈ガスクロマトグラフィ−質量分析によって決定した。エクオルの急速な出現が、血漿中で観察され、ピーク濃度は8時間後に観察された。R−エクオルの終末排泄半減期は約8時間であった。エレクトロスプレーイオン化質量分析によって、血漿中に存在するエクオルがR−エクオル鏡像異性体であることが確認され(データは示さないが、要求により入手可能である)、それによって、これが安定であり、腸でラセミ化もさらなる生体内変換も受けないことが確認された。図2Aは、R−エクオルの出現/消失のプロットを示す。図2Bは、健常なヒト成人でのS−エクオルまたはR−エクオルの経口投与後の血漿中のS−エクオルおよびR−エクオルの出現/消失のプロット(平均値)を示す(K.D.Setchellら、Am J.Clin.Nutr.,81:1072〜1091,2005)。
【0118】
これらの結果によって、R−エクオルは、薬理学的調製物または栄養補給調製物として投与される場合、極めて生体利用可能性が高いことが確認される。
【実施例】
【0119】
必要に応じて、分散分析(ANOVA)に続くNewman−Keuls post hoc(事後的ノイマン−ケウルス)検定によってデータを分析した。有意差をp<0.05で設定した。GraphPad Software(GraphPad Prism 3.0,San Diego,Calif.)を用いてカーブフィッティング、科学的グラフ化および分析を完成した。
【0120】
(実施例1)
本実施例は、前立腺の大きさおよびホルモン分泌に対するエクオルのインビボの影響を示す。雄性Sprague−Dawleyラット(400〜500g)は、Charles Rivers Laboratories(Wilmington,Mass.,USA)から入手した。ラットは、2対一組みでカゴに入れ、食品および水に自由にアクセスさせながら12時間暗野12時間明野のスケジュール(07時に点灯)で飼育する。
【0121】
到着の1週後、動物にジメチルスルホキシド(DMSO)(ビヒクルコントロール)またはラセミのエクオル(0.25mg/kg)のいずれかの皮下(sc)注射を与える(4日間1日1回)。最終の注射の18時間後、動物を断頭して殺傷して、胴体の血液および前立腺を分析用に収集する。
【0122】
無傷のコントロールのオスに比較してエクオルを皮下注射した無傷のオスでは、前立腺重量の有意な減少が観察される。さらに、これらの同じ無傷のオスでの黄体形成ホルモン(LH)は、コントロール処置したオスに比較してエクオルでは有意に増大する。これらの知見を、それぞれ図6Aおよび図6Bに示す。これらの効果は、5α−DHTに比較して比較的低レベルのエクオルで観察され、これは、エクオル(約50%が遊離で循環する)および5α−DHT(血清タンパク質に最も結合される)のタンパク質結合における顕著な相違によって説明され得る。
【0123】
(実施例2)
前立腺に対するエクオルの効果に加えてラセミのエクオルは、他の組織でDHTの影響をブロックして、体重を減少させる。到着の1週後、無傷のオスにDMSO(コントロール)またはエクオル(0.5mg/kg)のいずれかの皮下注射を7日間にわたり1日1回与える。処置後、動物を秤量し、次いで断頭して殺傷し、組織を回収する(前立腺、精巣、精巣上体および下垂体)。
【0124】
5α−DHT感受性の精巣上体における有意な重量減少が、コントロールに比較してラセミのエクオル処置オスで観察される。しかし、ラセミのエクオルは、精巣重量にも下垂体重量にも影響しなかった。この比較的短い処置期間の間の体重は、ラセミのエクオルとコントロールの処置との間で有意に異なることはない。これらの結果を表2に示す。
【0125】
【表2】

(実施例3)
成体の雄性Sprague−Dawleyラットを、3群に無作為に割り当てて、DMSO、エクオルのラセミ混合物(0.250mg/kg/日)、R−エクオル(0.250mg/kg/日)、またはS−エクオル(0.250mg/kg/日)のいずれかを毎日注射する。各々の注射の総容積は0.3ccであって、ラットの首の襟首にsc投与する。連続7日の処置の後、ラットを殺傷して、注射期間の体重増加を決定する。R−エクオルを注射したラットは、表3に示されるように、コントロールのラットに比較して体重増大が有意に少ない。
【0126】
【表3】

精巣および脳下垂体の重量は、処置によって有意に変化しない(データ示さず)。エクオル実験からの体重のわずかな低下(ほぼ10%)は、Phyto−Freeの食餌(極めて低レベルの植物エストロゲンを含む食餌)対Phyto−600食餌(600ppmのイソフラボンを含む植物エストロゲン豊富な食餌)を給餌された動物の間でみられたものと極めて類似している。ラセミのエクオルの注射(約36%)での白色脂肪組織の有意な減少はまた、食餌処置研究由来のデータセットでみられたものに匹敵する。これらの知見によって、R−エクオルは、体重を調節して、白色脂肪の蓄積を有意に低下することが示唆される。
【0127】
(実施例4)
本実施例は、5α−DHTに対するエクオル結合を示す。ARについてのエクオルの結合親和性を決定および確立するために行った最初の結合競合研究では、本発明者らは、[3H]DHTのみかけの結合がエクオルの不在下よりもエクオルの存在下で大きいということを繰り返し観察した。ARがインキュベーション試験管から除かれた([3H]DHTおよびエクオルのみが残っている)プロトコールでのわずかな改変によって、[3H]DHT反応複合体を含む溶出剤への[3H]DHTの溶出が生じた。
【0128】
この現象をさらに検討するため、30cm長のSephadex LH−20カラムを用いて、溶出ピークを特定し、エクオルに対する[3H]DHTの結合を確認する。図7に示されるとおり、[3H]DHTのピークは、[3H]DHT+エクオルのカラムインキュベートが加えられる場合、5〜9mLの間の溶出画分中で明らかである。このピークは、このカラムに[3H]DHTだけを加えるときは存在しない。さらに、5α−DHTまたは5α−DHT+エクオルを、前立腺の上清とインキュベートし、次いで30cmのカラムを通過させるとき(図8A)、2つの別個の結合ピークが特定可能である。[3H]DHTの最初のピークは、それが前立腺中のARに対して結合したことを示す。これは、4〜5mlの溶出画分で見出される。さらに、エクオルに対する[3H]DHTの結合と一致して後ろのピークがある(5〜9ml)。しかし、[3H]DHTを、エクオルの導入前に前立腺上清と36時間(平衡まで)インキュベートさせるとき、[3H]DHTの結合は明らかでない(図8B)。[3H]DHTおよび[3H]DHT+エクオル(36時間後にエクオルを添加)の両方とも、4〜5mlの溶出中で単一のピークを示し、このことは、エクオルがARについて5α−DHTと競合せず、受容体に既に結合している[3H]DHTにも結合しないことを示唆している。さらに、5α−DHTに対するエクオルの結合は、特異的であるらしいことが注目されるべきである。なぜなら、同様の競合および結合の研究は、[3H]E2、[3H]T、[3H]DHEA、[3H]CORTおよび[3H]プロゲステロンを用いて行われており、エクオルに対する結合の出現がないからである(データ示さず)。[H]DHTに対するエクオル結合の飽和分析によって、1.32±0.4nMで算出したみかけのKdが示される(図9)。
【0129】
(実施例5)
本実施例では、前立腺の大きさに対する5α−DHTの効果を調節することに加えて、エクオルがインビボで5α−DHTに結合し、LH分泌に対する負の効果をブロックすることが示される。5α−DHTの長時間作用性のアナログであるDHTプロピオン酸塩(DHTP)で処置したGDXのオスは、ビヒクル処置したGDXコントロールラットに比較して前立腺重量の有意な増大を示す。エクオルでの同時処置(DHTP+エクオル)は、DHTPの効果をブロックするが、エクオルは、図10Aに示されるとおり前立腺に対して単独では効果を有さない。エクオルはまた、LHに対する5α−DHTの負のフィードバック効果をブロックする。GDXオスでは、LHは、DMSOでの処置に比較してDHTP処置によって有意に減少する。5α−DHTと組み合わせたエクオルでの処置によって、LH分泌に対するDHTPの負のフィードバック効果がブロックされる。エクオル単独では、LHレベルに影響を有さない(図10Bに示される)。
【0130】
(実施例6)
本実施例は、アンドロゲン感受性の組織に対するラセミのエクオルの効果を示す。到着の1週後、イソフルラン麻酔下で動物を性腺摘出(GDX)して、7日間回復させる。回復後、動物を以下の群に割り当てる1)DMSO、2)DHTP(2mg/1kg)、3)ラセミのエクオル(0.25mg/kg)、または4)DHTPおよびラセミのエクオルの両方。注射は、4日間毎日皮下に与える。動物を断頭して殺傷し、胴体の血液および組織を分析用に収集する。血漿の5α−DHTを測定する(図11に示す)。
【0131】
予想どおり、DHTP(GDX+DHTP、GDX+エクオル+DHTPの群)で処置した動物においては血漿5α−DHTの有意な上昇があった。血漿の5α−DHTはさらに上昇したが、エクオルでの同時処置によって、有意ではなかった。前立腺、精巣および精巣上体を含む組織を動物から取り出し、脂肪および結合組織を取り除いて、秤量し、4%パラホルムアルデヒド中での浸漬によって固定し、次いで、クリオスタットで15μmに切り出す。組織切片を、23℃に予備加熱した充填スライド(Superfrost Plus,Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)に装填し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して、上昇(漸増)アルコールで脱水して、キシレンで浄化する。組織学的切片を図12および13に示す。H&E染色前立腺は、GDXおよび処置の両方に起因する変化を反映する。コントロール、エクオルおよびDHTPに加えてエクオル処置した群の前立腺は、同様の組織学を示す(図12A、12B、12D)。これらの動物では、前立腺は、ごく小さい萎縮性の腺(腺の管腔の容積が小さい)によって特徴付けられる。DHTP処置動物では(図12)、腺は、細胞増殖の兆候を示す。管腔の大きさは、GDX動物に比較して増大する;上皮組織は、長い円柱型のものである(図12C)。無傷のコントロールの動物に比較して(図12E)、エクオル処置オスの前立腺は、退縮を示し、さらに狭い空間の萎縮性の腺から構成される(図12F)。コントロールのオスに比較して、エクオル処置した無傷のオスの表皮の組織学は、縮んだ管腔によって証明されるとおり全体的に小さい導管を示す(図13)。
【0132】
(実施例7)
Long−Evans雄性ラットを、食餌1gあたり600μgのイソフラボン、すなわち600ppmのイソフラボンを含む植物エストロゲン豊富な食餌(本明細書において、以下、「Phyto−600」食餌と称する)、または極めて低レベルのイソフラボンを含む食餌(本明細書において、以下、「Phyto−Free」食餌と称する;約10ppmのイソフラボンを含む)のいずれかで飼育する(受胎からサンプル収集の時間まで生涯)。
【0133】
図14に示されるとおり、Phyto−600食餌を供給された雄性Long−Evansラットは、Phyto−Free食餌を供給された動物に比較して33、55または75日齢で有意に低い体重を示す脂肪組織(腹骨盤腔において腎臓の直下から精巣のすぐ上を切り開く)を、55日齢または75日齢のオスで測定する。両方の年齢で、白色脂肪組織は、Phyto−600給餌動物に比較してPhyto−Free給餌オスでは有意に大きい(図15)。Phyto−600給餌オスの体重の低下は、約10〜15%で、わずかであるが、同じ動物からの白色脂肪組織の減少は、Phyto−Free給餌オスに比較して約50〜60%であることが注目されるべきである。ダイズ給餌動物の体重に比較した白色脂肪組織における、このより大きい減少はまた、ダイズベースの食餌を消費するヒトで見られる一般的特徴である(D.B.Allisonら、Eur J Clin Nutr,2003,57:514〜522)。この特定の結果は、年齢、性別、ラットの株または雌性ラットがその卵巣(ヒトでの閉経後状態を刺激する)を除去されているか否かにかかわらず、これらのデータセットに存在する種々の実験を通じて繰り返しみられる。
【0134】
食物および水を測定して、これらのパラメータが、身体および脂肪組織重量に影響し得るか否かを決定する場合、Phyto−600給餌オスは、Phyto−Free給餌動物に比較してわずかだが有意に高い食物(図16A)および水(図16B)の摂取を示す。従って、身体および脂肪組織重量の減少は、食餌の処置の間の食物/水の摂取での変化では説明できない。
【0135】
レプチンは、脂肪組織によって生成されるので(D.A.Sandovalら、J Diabets Complications,2003,17:108〜113)、血清レプチン値をインスリン値とともに測定して、これらの代謝ホルモン中の変化を決定する。図17Aに示されるとおり、レプチン値は33日、55日または75日齢で、Phyto600給餌オス(これらの同じ動物から脂肪組織重量でみられる減少と対応して)では、Phyto−Free給餌のオスに比較して有意に低下する。またインスリン値は、2型糖尿病に関連するインスリン耐性に対して防御するという利点と一致して、Phyto−Free給餌のオスに対してPhyto600給餌オスでは有意に低下する(V.Jayagopalら、Diabetes Care,2002,25:1709〜1714)。
【0136】
Phyto600給餌対Phyto−Free給餌のオスおよびメスのラット(75日齢)で循環イソフラボン値が異なることを示すために、本発明者らの研究室で以前に行ったとおりGC/MSによって、血清イソフラボン値を決定する(K.D.R.Setchell,Am J Clin Nutr 129:1333S〜1346S,1998;およびK.D.R.Setchellら、J Nutr 132:3577〜3584,2002の方法を参照のこと)。異なる分類のイソフラボンについての各々の場合、Phyto−600給餌オスは、Phyto−Free給餌の値に比較して有意に高いイソフラボン値を示す(表4に示す)。さらに重要なことに、Phyto−600給餌のラットのエクオル値は、総植物エストロゲン値の約78%を占める。
【0137】
【表4−1】

【0138】
【表4−2】

他の代謝性ホルモンが食餌処理によって、または年齢によって変化されるか否かを決定するために、血清グルコースおよび甲状腺(T3)のレベルをアッセイする。グルコース値は、年齢および血液サンプルの供給源とは独立して、Phyto−Free給餌の値に比較してPhyto600給餌のオスではわずかに(ただし有意に)高い[動脈(ART)または静脈(TRUNK)のいずれか](図18に示す)。しかし、T3値を定量するとき、Phyto−Free給餌動物に比較してPhyto−600食餌を供給された80または110日齢の雄性Long−EvansラットでのT3血清値は有意に増大している(図19に示す)。甲状腺のレベルが、その甲状腺医薬を減少させたかまたは、その食餌中のダイズベースの食物の消費で甲状腺処置を完全にやめた個体の事例証拠と一致して、ダイズ消費で甲状腺レベルが増強されるということが、これから示唆される。これはまた、ダイズ食品の消費後のヒトにおけるT3値の同様の増大という報告とも一致している(Watanabe,Sら、Biofactors 2000:12(14):23341)。
【0139】
(実施例8)
この実験では、雌性Long−EvansラットをPhyto−600食餌、またはPhyto−Free食餌のいずれかで飼育する(受胎からサンプル収集の時間まで生涯)。図20に示されるとおり、Phyto−600食餌を供給されたラットは、Phyto−Free食餌を供給された動物に比較して、80日齢で有意に低い体重を示し、これは、Phyto−600給餌動物における体重の約12%減少に相当する。
【0140】
以前に雄性Long−EvansのPhyto−600給餌ラットで示されたとおり、Phyto−600食事を給餌されたメスはまた、Phyto−Free食事を給餌されたメスに比較して脂肪組織重量の有意な減少を示した(約68%まで)(図21に示す)。
【0141】
雄性ラットでの結果と同様に、血清グルコース値は、Phyto−Free食餌処置群での動物に比較してPhyto−600給餌の雌性ラットでは80または110日齢でわずかに(ただし有意に)高い(図22に示される)。しかし、T3値は、110日齢のPhyto−Phyto−Free給餌動物に比較してPhyto−Phyto−600食餌を供給されたメスでは有意に高い(図23に示す)。メスで生じるT3およびグルコースの値は、同じ食餌処置にさらされた雄性ラットで得られた値と極めて類似であり、従って、両方の性について同様の健康上の利点を示唆する。100日齢で収集したサンプルは、雌性Long−Evansラットで同様の結果を生じる(すなわち、Phyto−600食餌対Phyto−Free食餌の消費で体重および脂肪組織重量の有意な減少)(データ示さず)。
【0142】
(実施例9)
成体雌性ラットを、50〜215日齢でPhyto−600またはPhyto−Free食餌処置においた。50日齢前は、ほぼPhyto−200ppmのイソフラボンを含む食餌で、または動物の供給業者によって用いられるのと同様の食餌で飼育してもよい。215日齢では、Phyto−600給餌メスは、Phyto−Free給餌されたメスよりも有意に軽く、これは、体重で約7%の低下に相当する(図24に示す)。215日齢のPhyto−600給餌メスでの白色脂肪組織は、Phyto−Free食事を給餌されたメスの白色脂肪組織に比較して約30%まで有意に減少される(図25に示す)。対応して、Phyto−600給餌のメスでの血清レプチンの値は、Phyto−Free給餌の値よりも有意に低かった(図26に示す)。インスリン値は、Phyto−Free給餌のメスに対してPhyto−600給餌において、前に示されるのと同様の程度まで減少したが、統計学的に有意差には達しなかった(図27に示す)。
【0143】
(実施例10)
本実施例は、成体の卵巣摘出(OVX)ラットに対するPhyto−600またはPhyto−Free食餌の効果を示す。OVXラットは、閉経後ヒト女性の十分に確立された動物モデルである。さらに、OVXは、ラットにおける発情行動を刺激するエストロゲンおよびプロゲステロンの皮下注射を可能にして、Phyto−600またはPhyto−Free食餌の効果を決定する。成体の卵巣摘出ラットに、50日齢まで約200ppmのイソフラボンの植物エストロゲン(「Phyto−200」)を給餌する(全ての動物は、約40日齢で卵巣摘出する)。この雌性ラットを、50日齢で年齢および体重をマッチさせ、94日齢まで2つの食餌処置とする:Phyto−600(黒のバー)またはPhyto−Free(白のバー)。ベースラインの体重を、50日齢で量り、その後、その動物を食餌処置におき、再度、58日(食餌処置の8日目)、92日齢(エストラジオールの注射前)、および94日齢(プロゲステロンの注射前、および94日齢で6時間後(発情行動の化学的誘導後)に量る(図28に示す)。
【0144】
8日間食餌を消費した後、Phyto−600給餌ラットは、Phyto−Free給餌に比較してわずかだが有意な体重の減少を示す(約7%)。体重のこの減少は、エストロゲンおよびプロゲステロン(ステロイド)注射による発情行動の化学的誘導の前および間に維持される。
【0145】
白色脂肪組織を、発情行動の化学的誘導後に94日齢で測定して、Phyto−600給餌OVXラットは、実施例9および10の知見と一致して、Phyto−Free給餌PVXラットに比較してほぼ50%少ない白色脂肪組織質量を有する(図29に示す)。
【0146】
Phyto−600給餌OVXラットにおける血清レプチン値は、Phyto−Free給餌ラットに比較してほぼ30%まで減少し(図30に示す)、これは白色脂肪組織質量の減少を反映している。
【0147】
(実施例11)
雄性および雌性のLong−Evansラットは、50日齢で供給業者から購入する。全ての動物をPhyto−200食餌で飼育する(受胎から50日齢まで)。50日齢で雄性および雌性のラットを、4つの食餌処置群のうちの1つに無作為に割り当てる:1)約5ppm未満のイソフラボンを含むAIN−76食餌、2)Phyto−Free、3)Phyto−200、または4)Phyto−600食餌(前の実施例に記載される)。AIN−76食餌は、極めて低濃度のイソフラボンを含み、その処方物は他の3つの食餌と比較して全く異なる。例えば、スクロース含量は、極めて高く(総食餌処方物のほぼ50%に達する)、ラットが通常の植物ベースの成分の食餌と同じように消費を楽しむことができない濃い白色の堅さを有する(すなわち、Phyto−Free食餌は、コーンおよびコムギを、極めて低レベルのイソフラボンを含むその処方物中で用いる);Phyto−200またはPhyto−600食餌は、その処方物中に変動する量のダイズ粉を用いる。雄性ラットを、350日齢(ヒトでの中年に相当する)まで、その割り当てた食餌で飼育する。雌性ラットを、279日齢(ヒトの中年に達する)までこの食餌で飼育する。食物および水の摂取を測定して、体重変化に対するこれらのパラメータの潜在的な影響を決定する。いずれの場合にも、これらの要因は、イソフラボン含有食餌(すなわち、Phyto−200およびPhyto−600食餌;データ示さず)の消費での体重の減少には寄与しない。
【0148】
雄性(オス)
112日齢(約62日間の食餌)で、体重を記録する(図31に示す)。Phyto−Free食餌を供給されたオスは、最大の体重を有し、Phyto−600給餌のオスは最低であったが、AS−76およびPhyto−200食餌でのオスは、これらの2つの群の値の間におさまる。Phyto−600給餌された体重は、Phyto−Free給餌されたオスよりも約14%まで有意に低い。
【0149】
対応して、279日齢および350日齢の雄性ラットは、112日齢で観察されたプロフィールと類似のプロフィールを有する(それぞれ、図32および33に示す)。Phyto−Free食餌を供給されたオスは、最重量の体重を示し、Phyto−600食餌を供給されたオスは、最低の体重を示したが、AS−76およびPhyto−200食餌でのオスは、これらの2つの群の値の間におさまる。
【0150】
AIN−76給餌されたオスまたはPhyto−Phyto−Free給餌されたオスは、350日齢で測定して、最高の白色脂肪組織重量を示す。Phyto−200食餌でのオスは、AIN−76またはPhyto−Phyto−Free給餌ラットに比較して白色脂肪組織重量の19%の有意でない減少を示す。Phyto−600食餌を供給されたオスのラットは、AIN−76またはPhyto−Phyto−Free給餌ラットに比較して、有意に低い脂肪組織質量、約40%の減少を有する(図34に示す)。
【0151】
血清インスリンおよびレプチンのレベルは、それぞれ図35および36に示される、食餌処置におけるイソフラボンの漸増濃度の関数として有意に低下する。例えば、Phyto−200またはPhyto−600食餌を供給されたオスは、AIB−76給餌オスに比較してインスリン値が有意に低下する。また、Phyto−600給餌オスは、Phyto−Free給餌オスに比較してインスリン値の約50%の低下を示し、血清レプチンプロフィールは、インスリンの結果と同様のパターンを示し、ここでPhyto−200またはPhyto−600給餌オスは、AIN−76またはPhyto−Free給餌オスのいずれかに比較して血清インスリン値の有意な低下を有する。Phyto−600給餌オスのインスリン値は、Phyto−200給餌オスに比較して46%低い。しかし、これらの2つの食餌群の間の相違は、有意差には達しない(p<0.065)。
【0152】
雌性(メス)
雌性ラットにおける体重に対する4つの食餌処置の影響を決定するために、体重を112日齢および279日齢で測定する。112日齢では、Phyto−FreeおよびPhyto−200食餌を供給されたメスは、最高の体重であって、Phyto−600給餌されたメスは最低であったが、AIN−76食餌群は、図37に示される、他の3群の値の間におさまる。Phyto−600給餌群の体重は、Phyto−Free給餌およびPhyto−200給餌雌性に比較して、約10%有意に低い。
【0153】
279日齢で、雌性ラットは、食餌処置によって影響されるような体重の変化について年齢のマッチしたオスのプロフィールと類似のプロフィールを有する(図38に示す)。Phyto−600食餌を供給されたメスは、AIN−76またはPhyto−Free給餌群に比較して最低の体重を示す。Phyto−600給餌メスでの体重におけるこの有意な減少は、試験された食餌処置群の間でほぼ15%である。
【0154】
(実施例12)
Nobleラットを用いて、近交系のラットが、非近交系のラット(例えば、イソフラボン豊富な食餌を与えた場合のLong−Evans動物)のものと類似の体重および脂肪性組織の変化を有するか否かを決定した。近親交配に起因して、Nobleラットは、より脆弱な動物である。例えば、妊娠は、出産まで同腹仔を常に担持するわけではなく、同腹仔は高頻度に小さい。Nobleラットは、20年を超えて用いられている。なぜなら、それらは、特に生殖器官のホルモン依存性器官において、加齢とともに自然に腫瘍を発生するからである。従って、癌の研究の領域でNobleラットは広範に研究されている(例えば、R.L.Noble、「Prostate carcinoma of the Nb rat in relation to hormones」Int Rev Exp Pathol,1982,23:113〜159)。
【0155】
雄性および雌性のNobleラットに、受胎から145日齢までPhyto−FreeまたはPhyto−600食餌のいずれかを供給する。Phyto−600食餌を供給された雄性NobleラットはPhyto−Free食餌を供給された年齢のマッチしたオスに比較して145日齢で体重が有意に低い(図39に示す)。Long−Evansラットで以前に観察されたとおり、体重の有意な減少は、Phyto−Free給餌オスに比較して約8%というわずかだが一貫した低下を示す。さらに、白色脂肪組織量は、Phyto−Free給餌に比較してPhyto−600給餌オスでは有意に低い(図40に示す)。
【0156】
Phyto−600食餌を供給された雌性Nobleラットは、Phyto−Free給餌されたメスに比較して体重の6%の減少がある(図41に示す)。白色脂肪組織量は、Phyto−600食餌を供給された雌性Nobleラットで顕著に低下した(図42に示す)。Phyto−600食餌群は、Phyto−Free給餌ラットに比較して脂肪組織が61%減少している。白色脂肪組織における低下は、Long−Evansラットでみられた低下と同様である。
【0157】
(実施例13)
Phyto−Free食餌期間の開始前に、雄性Long−Evansラットに、前の実施例に記載のとおりPhyto−200食餌を供給する。このラットを、約52日齢までPhyto−Free食餌を含む食餌で飼い、無作為に3つの群に割り当てる。全てのラットについてのPhyto−Free食餌での14日後および21日後のベースラインの体重は同様である(それぞれ図43および図44に示す)。73日齢で開始して、ラットに毎日皮下注射の、0.1ccビヒクル(ピーナツオイル)、ビククル中のエクオルの1ミリグラムのラセミ混合物(0.83mg/体重1kg/1日)、またはビククル中のエクオルの5ミリグラムのラセミ混合物(4.2mg/体重1kg/1日)を3日ごとに1回与える。
【0158】
80日齢および88日齢では、コントロールに比較して両方のエクオル注射群でわずかな体重の減少および平均の体重の増大があるが、これらの値は、コントロールとは有意に異なることはない(それぞれ図45および46に示す)。
【0159】
動物が95日齢および10日齢になるまでに、体重はわずかに低下して、低下はエクオル処理群では5〜9%におよぶ(図47および48に示す)。しかし、95日齢および101日齢の両方でエクオル注射動物における平均の体重増大は、コントロール値に比較して有意に低下する。体重の相違は有意ではなく、脂肪組織の蓄積は、エクオル処置群では顕著に低い。エクオルを注射された101日齢のラットにおける脂肪組織重量は、コントロールに比較して約33%低下している(図49に示す)。
【0160】
エクオル注射が雄性生殖器官に有害な影響を有するか否かを決定するために、精巣重量を、これらの動物で定量する。エクオル注射では精巣重量における有意な変化があり、精巣重量は、図50に示される、注射処置群の間で本質的に同じである。
【0161】
(実施例14)
50日齢のLong−Evansのオスおよびメスを個々にカゴに入れ、10時間暗野、14時間明野のスケジュールで飼育する(1400〜0400が点灯)。動物を食餌群に無作為に割り当て、4つの食餌処置群の1つに自由にアクセスさせる:1)AIN−76、2)Phyto−Free、3)Phyto−200、または4)Phyto−600の食餌。ラットを中年(オスではほぼ300日齢、メスではほぼ330日齢)までこの食餌で維持し、このとき動物を高架式十字迷路で試験し、不安関連行動を定量する。その後、血清の植物エストロゲン値を、Coward Lら、J Agric Food Chem、41:1961〜1967に記載の方法に従ってGC/MSによって定量する。不安の行動パターンを性別による食餌処置群の循環イソフラボンレベルの血清プロフィールに比較する。
【0162】
オスでは、不安関連行動の用量依存性の発現があって、最高濃度のイソフラボンを給餌された動物が最低の不安パラメータを示す。対照的に、AIN−76を給餌された動物は、最高レベルの不安を示す(図51に示される)。オープン・アームで費やされる時間の割合を分析する場合、同様のパターンがオープン・アームへの進入回数のパターンに対してみられる。とりわけ、Phyto−600給餌オスは、オープン・アーム中で経過する時間の最高が割合を示し、一方、オープン・アーム中で経過する時間の最低の割合を示すのは、AIN−76食餌を供給された動物であり、Phyto−freeおよびPhyto−200の値は、用量依存性の様式でこれらの最大応答の間におさまっている(図52に示す)。
【0163】
高架式十字迷路での試験前に、メスを12連続日膣スミアでモニタリングして、発情周期の影響を最小限にする周期はないことを確証する。雌性ラットは、雄性ラットで観察されるのと同様の不安関連行動のパターンを有する。しかし、食餌性イソフラボンの影響は、オスでみられる影響ほど堅固ではない。オープン・アームに入る回数(図53)および経過する時間(図54)の最高の割合は、Phyto−600給餌メスでみられ、ここでは進入の最低の割合がAIN−76給餌メスでみられるまで、減少するという階段状パターンである。
【0164】
挙動試験が完了するとき、血清植物エストロゲン値を決定して、不安関連の行動のパターンと比較する。オス(図55)およびメス(図56)の両方で、循環イソフラボン値は、不安関連の挙動の発現に対応しており、循環イソフラボン分子と不安との間の関連を示す。これらのデータは、食餌のイソフラボン含量が不安に有意な影響を有し得ることを示す。
【0165】
(実施例15)
成体雄性Sprague−Dawleyラットに、DMSO、ラセミのエクオル(0.250mg/Kg/日)、R−エクオル(0.250mg/Kg/日)、またはS−エクオル(0.250mg/Kg/日)のいずれかの毎日の注射を、総容積0.3ccのDMSO中で、皮下注射によって与える。処置の7連続日の終りに、不安関連行動を定量するために、動物を高架式十字迷路中で試験する。下の表5に示すとおり、ラセミのエクオルまたはR−エクオルを注射したオスは、コントロールのラットに比較して不安のレベルで有意な減少を示す。
【0166】
【表5】

*=コントロール値に対する不安関連パラメータ(すなわち、迷路時間の中心領域またはオープン・アーム中で経過する時間またはオープン・アーム進入の回数)の有意な低下
**=コントロール値に対する不安関連行動(すなわち、オープン・アーム進入の回数)の有意な低下
n=8(1群あたりの動物)。
【0167】
これらの知見は、異なる濃度のイソフラボンを含む4つの異なる処置を利用して得られた知見と一致しており、エクオルは、不安、ならびに他の神経学的状態、例えば、広範な健康上の利点について明白な能力を有する気分および抑うつを調節するのにおいて主要な因子であることを示す。
【0168】
(実施例16)
高コレステロール血症を有する29例の成体に、5週間毎日33mgの総イソフラボンを含む食餌を供給する。図57は、イソフラボンを含む食餌に厳密に隣接している5週後の29例の個体の各々についてのBMIで観察された変化を示す。この期間にわたるBMI中の平均の低下は小さいが、それにもかかわらず有意である(p=0.01)。これらの結果によって、植物エストロゲン豊富な食餌は、ヒトでのウエイトコントロールに影響し得ることが示唆される。この研究は、ウエイトコントロールを担う成分またはその機序を特定しなかった。平均のベースラインのBMI(n=29)は26.6±0.8であり、平均のBMI(n=29)は5週で26.2±0.7である。
【0169】
本発明の種々の実施形態を詳細に記載してきたが、本発明のさらなる改変および適合が当業者に生じることが明らかである。このような改変および適合は、本発明の趣旨および範囲内であることが明らかに理解されるべきである。
【0170】
(実施例17)
エクオルは中年齢の雌性ラットで抑うつおよび体重を低下させる。
【0171】
イソフラボンは、心血管およびホルモン依存性の疾患に有益な影響を有することが示されているが、脳および行動特に抑うつおよび絶望などの行動に対する影響についてはほとんど知られていない。この研究では、中年齢のLong−Evans雌性ラットをこの文脈で試験した。
【0172】
げっ歯類における年齢に関連する形態学的および生理学的変化は、以下の年齢範囲を用いてヒトに等価である:中年齢のラット(10〜12ヶ月の年齢)は、45〜55歳までのヒトにほぼ相当するが、高齢のラット(21〜23ヶ月齢)は、ほぼヒトの65〜75歳齢に相当する(D.Mileusnicら、Neurobiol.Aging,20:19〜35,1999)。さらに、中年齢のラット(12ヶ月齢)は、約55歳齢の閉経後の女性の年齢に相当する。米国における閉経の平均年齢は、ほぼ51歳齢である(National Institutes of Health,USA)。
【0173】
この研究での全ての雌性ラットを、発情周期の特徴のホルモンパターンについて検査した。この研究の全ての動物は、この加齢動物モデルを用いる科学的報告と一致して循環はしない(C.R.Anzaloneら、Biol.Reprod,64:1056〜1062,2001)。
【0174】
雌性ラットを、植物エストロゲン豊富(Phyto−600)または植物エストロゲンなし(Phyto−free)の食餌のいずれかに暴露した(受胎の時から)。
【0175】
12ヶ月齢で、標準的な前臨床試験であるPorsolt強制水泳試験(抑うつの、および抗うつ剤の作用の神経生物学を検討するためヒトに対して適用)を用いて動物を分析した(R.D.Porsolt,M.PichonおよびM.Jalfre,Nature 266:730〜732,1997;およびM.A.Geyer&A.Markou,in Psychopharmacology:The Fourth Generation of Progress,NY,Raven Press,第787〜798頁、1995)。
【0176】
試験は、ラットが活発に泳ぐように強制するように設計する。経時的に、いくつかの動物は不動になり得、これは行動上の絶望の状態とみなされる。動物が不動である総時間は、絶望または抑うつの指数である。他のパラメータとしては以下が挙げられる:a)移動の総距離、b)移動総時間(不動指数の反対)、c)逃避行動を示す動物の潜水企図の回数、およびd)情動的なレベルの指標である試験の間に排出された排便またはボリの数(C.S.Hall,J.Comp.Psych.,18:385〜403,1934)、試験中のボリ数の増大は、情動的行動の強調を示す。これらのパラメータの全てを、この研究で記録し、AnyMaze(登録商標)コンピュータソフトウェアによって定量し、Porsolt強制水泳試験の総時間は、480秒または8分であった。
【0177】
従って、総移動距離、移動時間ならびに不動および排出されるボリの数についての減少を伴う、潜水のレベルの増大を示す動物は、低レベルの絶望または抑うつを示す。上記パラメータに反対する行動を示す動物は、絶望または抑うつのレベルの増大を示す。
【0178】
動物を2回試験した。
【0179】
試験1は、図58〜69に示され、「エクオル注射前」と表示される、食餌暴露のみを比較した。
【0180】
試験の第二段階では、Phyto−free給餌メスに、8日間にわたってエクオルを注射し(皮下投与によって、5mg/kgまたは2.5mg/kgで)、一方、Phyto−600給餌メスには、ジメチルスルホキシド(DMSO)ビヒクルコントロール注射を与えた。(DMSOは、皮膚および他の膜を通じて、それらを損傷することなく深く浸透する能力、および循環中に化合物を担持する能力に起因して医薬において用いられている)。
【0181】
試験2は、図58〜69において示され、「エクオル注射後」と表示される、エクオル処置後の抑うつ行動を評価した。
【0182】
第1のPorsolt試験では−表示A:Phyto−600給餌メスでは、以下が有意に大きいことが示された:a)移動距離(m)、(図58Aを参照のこと);b)全体の平均速度(m/秒)、(図59Aを参照のこと);c)総移動時間(秒)、図60Aを参照のこと;およびd)Phyto−freeのメスに比較した潜水回数(図61Aを参照のこと)。逆に、Phyto−freeのメスでは、Phyto−600メスに比較して以下が有意に大きいことが示された:a)総移動時間(秒)(図62Aを参照のこと)、およびb)排泄ボリ(図63Aを参照のこと)。
【0183】
8日間のエクオル処置の後、Phyto−freeのメスは、上記で試験された全てのパラメータについてPhyto−600メスによって示されるものと同様の値を示した。例えば、a)総移動距離が増大されコントロールの値と同様であった(図58Bを参照のこと);b)平均速度の増大もコントロールと同様であった(図59Bを参照のこと);c)ともなって、総移動時間の増大(図60Bを参照のこと)(エクオル注射前値と比較してエクオル注射後のPhyto−freeラットで有意に増大した総移動時間(**を参照のこと));d)潜水の回数は、有意に低下して、コントロールのレベルに匹敵した(図61Bを参照のこと)。さらに、総移動時間は、有意に減少してコントロールと同様であった(図62Bを参照のこと)。最終的に、図63Bに図示されるとおり、ボリの数は、エクオル処置後に減少して、これはコントロールの値のものと本質的に同じであった。
【0184】
また、8日のエクオル処置の終りの平均体重低下(グラム数)によって、エクオルはコントロールに比較して有意に体重を減少させたことが明らかになり(表6を参照のこと)、これは、8日の処置間隔後のコントロールを超える体重の2.6倍の減少に相当している。
【0185】
(表6.エクオルで処置された中年齢の雌性Long−Evansラットにおける体重減少)
【0186】
【表6】

*=エクオル処置した中年齢の雌性ラット対コントロールにおける体重の有意な減少値(SEM=平均の標準誤差)。
【0187】
これらのデータによって、エクオルに対する暴露(短期暴露を含む)は、中年齢の雌性ラットにおいて有益な抗うつ効果を有することが示唆される。Phyto−600給餌動物でみられる正の抗不安パラメータは、イソフラボン(ダイズ)富化された食餌(次に、これらのラットにおいてエクオルに変換される)を消費することに起因すると考えられる。ラットがダイズ富化食餌(すなわち、Phyto−600食餌)を供給された場合非常に高レベルのエクオルを生成するということ、および循環するイソフラボン/イソフラボン代謝物のレベルのほとんど(全体の70〜90%)が、エクオルによって示されるということは十分確証されている。注目すべきは、エクオルが、Phyto−free食餌を供給された中年齢の雌性ラットに(短期間)投与された場合、全てのPorsolt試験抑うつパラメータ(図58〜63のBに示す)は、逆転されて、Phy−600群と同様であった。これらのデータセットは、Phyto−600およびPhyto−free動物が、それ自体コントロール(エクオル注射前および後)として役立つという事実によって強化される。従って、この研究の結果によって、エクオル単独が、抑うつ様の行動を有意に軽減するという正の効果の全てまたは少なくともほとんどを占めるということが示される。エクオルの使用は、それ自体で、潜在的な食物、栄養および薬学的適用によって気分、絶望および抑うつ関連行動を防ぐのにかなりの見込みがある。
【0188】
(実施例18)
成体雄性ラットにおいてエクオルは不安関連の行動および体重を低下するが、ホルモン感受性の脳領域は変化させない
視床下部の構造、例えば、雌雄二形的核(SDN)および前腹側周核(anterioventroperiventicular nucleus)(AVPV)は、ラットにおいて出生時およびその後の出生後の発達の間のステロイドホルモンの影響に感受性である生殖機能/調節性行動に関与する重要な領域である。SDNおよびAVPVの構造が、成体ラットにおけるイソフラボン影響に感受性であることが以前に示されており、一般には多くの報告が、植物エストロゲンが神経保護的であることを実証している(E.D.Lephartら、J.Steroid Biochem.Mol.Biol.,85:299〜309,2003;E.D.Lephartら、Curr.Neurovas.Res.,1:455〜464,2004;およびL.Bu&E.D.Lephart,Neurosci.Lett.,385:153〜157,2005)。しかし、げっ歯類(および多くの他の動物モデル)中の主なイソフラボン代謝物であるエクオルは、脳研究において検査されている。
【0189】
本研究では、不安関連行動を、エクオルに暴露された成体Long−Evans雄性ラットにおけるホルモンレベルとともに検査した。ヒトでの精神医学的障害についての公知のかつ受容された動物の行動試験、例えば、高架式十字迷路(EPM)をこの目的に用いた(P.Willner,in Behavioral Models in Psychopharmacology:Theoretical,Industrial and Clinical Perspectives,New York,Cambridge Univ.Press,1991;M.A.Geyer&A.Markou,in Psychopharmacology:The Fourth Generation of Progress,NY,Raven Press,787〜798,1995;およびR.Hitzemann,Alcohol&Res.Health,24:149〜158,2000)。
【0190】
EPM試験は、新規な環境の探索と、その嫌悪的な特徴の回避との間の固有の葛藤に依拠する。代表的には、動物は、迷路のクローズド・アーム(安全な環境)に比較してオープン・アーム(新しい環境)でわずかな時間を過ごし、かつそこへの進入は少ない。例えば、抗不安剤または薬物は、迷路のオープン・アームに入る回数および経過する総時間を増大する。
【0191】
50日齢の雄性ラットに植物エストロゲンの少ない食餌を与え(10ppmのイソフラボン)、215日齢までこの食餌のままとした。150日齢で、ラットの年齢および体重をマッチさせ、次いでコントロールまたはエクオル処置群に分けた。190日で開始して、雄性ラットには毎日皮下(0.1cc)注射のコントロールのビヒクル(DMSO)またはエクオル(2.5mg/Kg)を25連続日与えた。
【0192】
処置の15日後、動物をEPMで試験し、ここでは3分間ビデオテープに撮って、AnyMaze(登録商標)コンピュータソフトウェアを介して、オープン・アームへの進入の回数およびオープン・アーム上で経過する総時間の割合について後で記録した。
【0193】
215日齢で、動物を屠殺して、体重/前立腺重量、血清ホルモンおよびイソフラボンの値を決定し、それとともに、ホルモンに感受性である視床下部領域の容積を決定する。
【0194】
コントロール値に比較したエクオル処理雄性ラットにおける血清テストステロン、黄体形成ホルモン(LH)または17β−エストラジオール値の変化をともなう、前立腺重量および5α−DHTにおける有意な減少が、米国特許公開番号2005/0245492A1(その内容がその全体が参照によって組み込まれる)において以前に報告された。
【0195】
脳を、標準的な染色を介して処理して、処置によって形態学的なSDNおよびAVPVのパラメータについてBioquant(登録商標)を介して分析した。エクオル処置動物における血清エクオル値は、植物エストロゲン豊富なダイズ食餌を消費するのと等価であった。
【0196】
図64に示されるとおり、体重はコントロールの動物に比較してエクオル処置オスでは有意に減少された。EPMでは、エクオル処置動物は、コントロールの値に比較して有意に低い不安関連行動を示した(すなわち、迷路のオープン・アームへの進入回数およびオープン・アームで経過する時間がコントロールに対して有意に大きかった)(それぞれ、図65および図66を参照のこと)。
【0197】
25日連続のエクオルに対する暴露ではSDNまたはAVPVの容積的形態計測的パラメータにおいて有意な変化は見られなかった(図67および表7を参照のこと)。
【0198】
これらの結果によって、エクオルは、成体期の間のげっ歯類においてホルモン感受性の視床下部容積を変化させないということが示唆されており、これは、本発明者らの研究室で以前に報告された等価な暴露間隔の間の食餌経路を介するダイズ(植物エストロゲン)の消費とは反対である。このことはさらに、エクオルが、安全かつ非毒性の薬剤であり得、脳/行動の障害および男性/女性の健康問題に取り組む潜在的な神経の適用を有するということを示唆する。最終的に、これらのデータによって、栄養食品、栄養補助食品、または薬剤適用中のエクオルの存在が、ウエイトコントロールにおける有効な処置であって、不安を調節または軽減するということが示唆される。
【0199】
(表7:エクオルで処置した雄性ラットの視床下部構造−雌雄二形的核(SDN)および前腹側周核(AVPV)の形態学的容積(mm×10−3で表現))
【0200】
【表7】

局所の脳容積は、mm×10−3で表した。処置群の間にSDNまたはAVPVにおいて有意な差はなかった(1群あたりn=4)。
【0201】
(実施例19)
エクオルは、成体として試験された雄性ラット子孫における閉経前および閉経後早期の処置を介した不安レベルの減少においてゲニステインに比較して強力である。
【0202】
近年では、イソフラボンは、癌(乳癌および前立腺癌)、心血管疾患、骨粗鬆症および閉経期に関連する症状に関して有益な健康上の利点を有すると報告されている。しかし、脳に対するイソフラボンの影響、特に不安などの行動についてはわずかな情報しか知られていない。この研究では、ゲニステインおよびエクオル(イソフラボン代謝物)の長期効果を、EPMにおいて成体として試験された雄性の子孫における不安関連の行動に影響する能力について検査した。
【0203】
妊娠Long−Evansラットを、妊娠の14日〜20日、および出生後2〜25日の授乳の間、毎日皮下注射を介して処置し、ここでは1)コントロール−DMSOビヒクル、または2)ゲネステイン(3mg/日で)、または3)エクオル(処置群に応じて3mg/日で)であった。全ての動物にこれらの研究を通じて植物エストロゲンの低い食餌を供給した(10ppmイソフラボン)。処置群の中で誕生の直前に母体の体重に有意な相違が無かった。出生時、体重は、コントロールに比較してゲニステイン処置およびエクオル処置動物においてわずかに高かった(ただし有意ではない)。母親のおよび雄性の子孫のゲニステインおよびエクオルのレベル(出生後25日で)は、投与される処置のレベルに並行していた。
【0204】
約90日齢の雄性子孫を、EPM中での処置(コントロール、ゲニステインおよびエクオル)によって試験し、ここでは3分間ビデオテープに撮って、前に記載されたとおり、オープン・アームへの進入の回数およびオープン・アーム上で経過する総時間の割合について後で記録した。図68に図示されるとおり、エクオル処置オスは、コントロールに比較してオープン・アームへの有意に大きい進入を示した。しかし、オープン・アームへの進入は、ゲニステインとコントロール群との間で有意に異なることはなかった。特に、図69に示されるとおり、エクオル処置オスは、ゲニステイン処置動物またはコントロールに比較してオープン・アーム中で有意に大きい時間を示した。また、ゲニステイン処置オスは、コントロールに比較して有意に大きいオープン・アーム時間間隔を示した。エクオルの時間間隔は、ゲニステイン値よりも2倍大きく、かつゲニステイン値はコントロールよりも約9倍大きかった。
【0205】
これらのデータによって、以下が示唆される:1)エクオルは、ゲニステインに比較してさらに強力な抗不安剤である、そして2)イソフラボン代謝物であるエクオルは、出生前に処置された成体として試験された子孫の不安関連行動に対して、長期影響を有する。この実験の知見によって、ゲニステインではなく循環のエクオルの値におそらく起因している抑うつ関連行動を軽減するための上記の実施例17でみられるエクオルの正の効果が確証される。この研究の結果は、種々の投与経路により食品、栄養および不安の医薬品調節に適用を有する。
【0206】
従って、前述の詳細な説明は、限定ではなく例示とみなされることを意図しており、これは本発明の趣旨および範囲を規定することを意図する、全ての等価物を含む、以下の特許請求の範囲であることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させる方法であって:
該神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害を予防または寛解させるのに十分な量でエクオルを含む組成物を投与すること
を包含する方法。
【請求項2】
前記エクオルがR−エクオルとS−エクオルとのラセミ混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エクオルがR−エクオルで鏡像異性的に富化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エクオルがS−エクオルで鏡像異性的に富化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害が、抑うつ、不安、双極性障害、強迫性障害、多動性障害、恐慌性障害、体重増加、肥満または過食症である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害が、アルツハイマー病またはパーキンソン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、錠剤、カプセル、粉末、トローチ、バッカル錠および舌下錠からなる群より選択される経口処方物中にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が少なくとも約0.25mgのエクオルを含む経口処方物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が食物および飲料からなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が遅延性または徐放性の処方物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害が、閉経周辺期または閉経後症状である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記閉経周辺期または閉経後症状が、抑うつ、不安、疲労、体重増加、肥満および多嚢胞卵巣疾患である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エクオルが、遊離5α−ジヒドロテストステロンと結合し、そしてアンドロゲン受容体との結合を阻害するのに十分な量である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記エクオルが、遊離5α−ジヒドロテストステロンと結合し、アンドロゲン受容体との結合を阻害し、そしてエストロゲン受容体サブタイプと結合するのに十分な量である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する、被験体における肥満を軽減する方法。
【請求項17】
治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する、被験体における抑うつを軽減する方法。
【請求項18】
治療有効量のエクオルを含む組成物を投与することを包含する、被験体における不安を軽減する方法。
【請求項19】
被験体における神経精神医学的または神経変性的な疾患または障害の個人的な処置を提供する方法であって:
患者の情動、精神または内分泌の健康状態を評価する工程と;
患者のエクオルプロデューサ状態を評価する工程と;
a)投与方式、b)投与量、およびc)投与間隔からなる群より選択される、治療の最適に有益な経過を決定する工程と
を包含する方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図12D】
image rotate

【図12E】
image rotate

【図12F】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate

【図53】
image rotate

【図54】
image rotate

【図55】
image rotate

【図56】
image rotate

【図57】
image rotate

【図58】
image rotate

【図59】
image rotate

【図60】
image rotate

【図61】
image rotate

【図62】
image rotate

【図63】
image rotate

【図64】
image rotate

【図65】
image rotate

【図66】
image rotate

【図67】
image rotate

【図68】
image rotate

【図69】
image rotate


【公表番号】特表2010−501485(P2010−501485A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524589(P2009−524589)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/032387
【国際公開番号】WO2008/020853
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【出願人】(592246587)コロラド ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (17)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】