説明

神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の予防および治療のためのラベンダー油の使用

神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の治療のためのラベンダー油の予防的および治療的使用、並びに、ラベンダー油を含んでなる経口投与の形態の薬物、ダイエット食品、配合物およびカプセルが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の治療のためのラベンダー油の予防的および治療的使用、並びに、ラベンダー油を含んでなる経口投与用薬物、ダイエット食品、製剤およびカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
易疲労性、身体の虚弱、頭痛および四肢の痛み、自律神経感覚過敏、情動不安定、記憶障害および集中力欠如、易興奮性、感情起伏および睡眠障害という症状を伴う後天的神経過敏は、神経衰弱症と呼ばれる(非特許文献1)。
繰り返し発現し、かつ、頻繁に変化する複数の身体症状の存在は、身体化障害と呼ばれる。前記症状は、身体の各部分または身体の各系に関連していることがある。
神経衰弱症および身体化障害が様々な原因で発症するのに対し、ストレスは誘発要因であることが多い。
【0003】
今日、外部の好ましからざる刺激に関連して生じ、かつ、生命維持機能を維持および刺激することを目的とする様々な生理的反応を含む身体的変化は、通常、「ストレス反応」という用語にまとめられる(非特許文献2)。しかしながら、ストレスによって活性化された生理系は、一方では防護および機能維持作用を有するが、他方では有害な結果を有することもある(非特許文献3)。例えば、ストレスは様々な病気に悪影響を与えること、および、ストレスによる慢性的な影響が病気を誘発することもあることが知られている(非特許文献4; 非特許文献5)。前述の病気に加えて、循環系、筋系および骨格の病気、並びに、免疫系疾患および心的外傷後ストレス障害を、これらのストレス関連疾患の例として挙げることができる。
【0004】
神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の治療のための現在利用可能な薬物は、各種ベンゾジアゼピン、神経弛緩薬および各種抗うつ剤のごとき抗不安薬を含んでなる。しかしながら、これらの薬物の効力は限られている。さらに、これらには深刻な副作用がある。例えば、ベンゾジアゼピンの慢性的な使用が依存症を引き起こすのに対し、神経弛緩薬は、非常に不快な、いわゆる早発性ジスキネジアまたは遅発性ジスキネジアを誘発することがある。使用される薬物次第で、抗うつ剤の使用は、口腔乾燥、震えおよび倦怠感のごとき自律神経障害、または、性感異常症に至る性機能障害を引き起こすことが多い。
【非特許文献1】Roche Lexikon、Medizin、4th edition 1998
【非特許文献2】G. A. Carrasco et al. (2003), Eur. J. Pharmacol. 463, 235−272
【非特許文献3】B. S. McEwen (1998), New Engl. J. Med. 338, 171−179
【非特許文献4】S. Sephton et al. (2003), Brain Behav. Immun. 17, 321−328
【非特許文献5】P. H. Black et al. (2002), J. Psychosom. Res. 52, 1−23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の予防および/または治療に効果的に用いられることが可能であり、かつ、実質的に副作用が無い薬物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】

この目的は、ラベンダー油の使用によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ラベンダー(Lavendula angustifolia MILL.)は、本来、高さが約60cmの亜低木として成長する。その生育範囲は、カナリア諸島から、地中海地方を横断して、インド半島にまで及ぶ。地上部に含まれる精油(主としてモノテルペン)、並びに、葉に含まれるコーヒー酸およびそのデプシドが成分である。ラベンダーから調製される精油は、伝統的に、化粧品だけでなく、治療目的、例えばアロマテラピー(芳香療法)にも用いられている。例えば、ラベンダー油について、抗菌作用、抗真菌作用、鎮けい作用、鎮静作用および抗うつ作用が報告されている(H. M. A. Cavanagh et al. (2002), Phytother. Res. 16, 301−308)。
ドイツでは、情動不安状態、入眠障害、腹部の機能疾患、鼓腸に適応するための、および、温泉治療法のための抽出物および入浴剤であるラベンダーの花を煎じて得られた調製物についての肯定的なモノグラフが書かれている(monograph of commission E of the former German Federal Health Authority)。
【0008】
神経衰弱症、身体化障害および/または心的外傷後ストレス障害を患っている患者にラベンダー油を経口投与すると、様々な疾患関連症状に著しい改善が見られることが思いがけなく発見された。さらに、動物実験におけるラベンダー油の経口投与によって、ストレスによって生じる行動変化が著しく抑制された。従って、本発明によれば、ラベンダー油の経口摂取は、神経衰弱症、身体化障害およびストレス関連疾患の治療に用いることができる。ラベンダー油に関してそのような効果はこれまでに報告はされておらず、ラベンダー油についてこれまで知られていた薬理効果および臨床効果のせいで予測できなかった。
【0009】
ラベンダー油の効力を、神経衰弱症および/または心的外傷後ストレス障害(PTSD)および/または身体化障害を患っている患者で試験した。1日当たり80mgのラベンダー油を投与する治療を6週間続けることによって、神経衰弱症、PTSDおよび身体化障害の中核症状が改善された。患者の生活の質は、著しい改善を示した(実施例1を参照)。
ラベンダー油のストレス低減効果を、いわゆる「強制水泳ストレス」モデルによって、ラットで試験した(R. D. Porsolt et al. (1978), Eur. J. Pharmacol. 47, 379−391)。この試験でラットに実験的に引き出されたストレス反応は、ストレスによって生じる行動変化を試験するための公知の方法である。用いられる試験システムの原理には、ラットが勝手に逃げ出すことのできない水を張ったガラス製シリンダーに入れられたラットは、短時間泳いだ後に静止状態に陥ること(不動期間)に関係している。この不動状態は、置かれた状況に対する絶望感を認識したことに対する反応であると解釈される(実施例2を参照)。
ラベンダー油は、それ自体が周知である調製法、好ましくは、摘みたてのラベンダーの花を水蒸気蒸留することによって調製することができる。
ラベンダー油は、ゼラチン、セルロース誘導体またはカプセル化に適した他の材料でできたカプセルに充填された状態で、または、溶液として、好ましくは経口で投与することができる。
【0010】
カプセルを作製するには、前記油を、中鎖トリグリセリド、植物油(例えば、ヒマワリ油、大豆油、小麦の胚種油など)のごとき好適な薬学的に許容可能なアジュバントと混ぜ合わせ、カプセルに充填する。安定剤のごときさらなるアジュバントは、任意に、前記混合物に添加される。
投与量としては、1日当たり、10mg〜2g、好ましくは20〜500mg、特に好ましくは50〜100mgのラベンダー油が投与される。
【実施例】
【0011】
実施例
実施例1: 人間に対するラベンダー油の効力
神経衰弱症および/または心的外傷後ストレス障害(PTSD)および/または身体化障害を患っている患者50名を、European Pharmacopoeia, edition 4 (Lavendelol WS(登録商標) 1265)に従って、1日当たり80mgのラベンダー油を用いて、6週間治療した。下記公知の試験法、すなわち、Symptom Checklist (SCL 90), State−Trait−Anxiety Inventory (STAI; A. M. Sesti (2000), QoL Newsletter 25, 10−16), depression scale (D−S), Maslach Burnout Inventory (MBI), 36 Item Short Form Survey (SF−36), state check and sleep diaryを用いて、病状の改善を測定および記録した。さらに、患者たちを入院させて、症状を医師に検査させる(第三者評価)か、若しくは、患者たちに所定のアンケートに記入させた(自己評価)。6週間の治療の前および後の病状の変化を、Wilcoxon Signed Rank Testを用いて試験した。症状の大部分が、統計的に有意に改善された。
【0012】
1日当たり80mgのLavendelol WS(登録商標) 1265を用いた6週間の治療の後、29人(61.7%)の患者の情動不安が改善され、21人(44.7%)の患者の不安神経症が改善された(状態検査、両症状についてのエラー確率p<0.001;ここ及び以降、Wilcoxon Signed Rank Testを使用)。状態不安(4.5±10.7ポイントの改善、p=0.005)および特性不安(7.4±8.9ポイントの改善、p<0.001)の両方が緩和された。24人(51.5%)の患者に睡眠障害の改善が見られ(状態検査、エラー確率p<0.001)、睡眠日誌に記載された重要事項によって、治療段階における著しい改善が明らかになった。目覚めの頻度は、1週目において、1.9±0.7から0.2±0.6倍(p=0.004)に改善し、目覚めの時間は、35.6±28.0分から12.8±24.3分(p<0.001)減少し、睡眠時間の合計は、治療中の1週目において、379.6±59.1分から16.6±43.0分(p=0.024)伸び、そして睡眠効率は、1週目において、77.4±10.2%から3.9±8.1%(p=0.001)だけ改善した。さらに、朝の気分および朝の疲労感のわずかな改善および生産性のわずかな上昇が観察された(朝の気分:1週目において3.0±0.5、0.2±0.6ポイントの改善;朝の疲労感:1週目において3.4±0.7、0.3±0.8ポイントの改善;生産性:1週目において3.0±0.7、0.2±0.6ポイントの改善)。27名(57.4%)の患者の憂鬱感は、Lavendelol WS(登録商標) 1265を用いた6週間の治療後に改善され(状態検査、p<0.001)、そして鬱尺度(D−S)での得点が5.5±7.0ポイントだけ減少した(p<0.001)。SCL−90−Rの全サブスコアおよび、結果として、全重症度指数、総陽性症状および陽性症状苦痛指数は、6週目まで下がり続けた(0.4±0.3(GSI)の改善、14±12.4(PST)および0.4±0.4(PSDI)ポイント、前記三つのグローバルスコアについてのp<0.001)。SF−36の身体健康得点および精神衛生得点は、それぞれ、6週間の治療後に、9.8±15.7ポイントおよび20.8±22.3ポイント(両方のスコアについてp<0.001)づつ、著しく増加した。従って、調査結果は、神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の病状がラベンダー油を摂取することによって著しく改善されることを示している。
【0013】
実施例2: ラットに対するラベンダー油の効力
ラベンダー油のストレス低減効果を試験するために、ラットを、European Pharmacopoeia, edition 4(WS(登録商標) 1265)に従って、1日1回、合計9日間にわたって、異なる量ではあるがいずれも高投与量であるラベンダー油で治療した。比較のために、一部のラットを、ストレス治療に用いられる三環系抗うつ剤であるイミプラミンまたは活性成分を含有しない対照溶液のいずれかで治療した。治療の7日目に、前記ラットを、水を張ったガラス製シリンダーに15分間入れて慣れさせた。治療の最終日に、前記ラットを再び目盛り付きシリンダーに5分間入れて、静止している時間を、ストレス反応の尺度として測定した。10〜100mg/kgの投与量のラベンダー油を9日間にわたって投与することによって、静止時間が大幅に、有意に減少した。
【0014】
【表1】

【0015】
実施例3: カプセル
約10,000個のカプセルを調製するのに必要な800gの量のラベンダー油を、しっかりと密封された不活性容器(例えば、ステンレス鋼でできた攪拌容器)内で、1,200gの中鎖トリグリセリドと混ぜ合わせ、15分間攪拌した。得られた均質の液体混合物を、好適なカプセル充填装置を用いて、カプセル1個当たり200mgの量でゼラチンカプセルに充填した。(例えばゼラチンまたはセルロース誘導体でできた)硬質カプセル剤の場合、カプセルは、充填後、スリーブによって密封した。軟質ゼラチンでできたカプセルの場合、カプセルの充填および密封を一工程で行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の予防または治療のためのラベンダー油の使用。
【請求項2】
前記他のストレス関連疾患がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ラベンダー油は経口投与される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記ラベンダー油は、経口投与の形態としてカプセルの形態で投与される、請求項1〜3のいずれか1つに記載の使用。
【請求項5】
神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の予防または治療のための、ラベンダー油を含むことを特徴とする薬物またはダイエット食品。
【請求項6】
神経衰弱症、身体化障害および他のストレス関連疾患の予防または治療のための、ラベンダー油と薬学的に許容可能なアジュバントとを含んでなる経口投与の形態の配合物。
【請求項7】
充填材であるラベンダー油および薬学的に許容可能なアジュバントと、ゼラチンまたはセルロース誘導体でできた好適なシェルとを含んでなる経口投与の形態のカプセル。

【公表番号】特表2008−515833(P2008−515833A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535081(P2007−535081)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010732
【国際公開番号】WO2006/037629
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(500287282)ドクター.ヴィルマー シュワーベ ゲーエムベーハー ウント ツェーオー.カーゲー (7)
【Fターム(参考)】